(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088174
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法、推定プログラム、及び学習モデル生成装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20230619BHJP
G06N 3/02 20060101ALI20230619BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230619BHJP
G06N 3/044 20230101ALI20230619BHJP
A61B 5/117 20160101ALI20230619BHJP
【FI】
A61B5/11 230
G06N3/02
G06N20/00
G06N3/04 145
A61B5/117 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202870
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 創
(72)【発明者】
【氏名】若尾 泰通
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA07
4C038VB11
4C038VB12
4C038VB14
4C038VB31
(57)【要約】
【課題】特殊な検出装置を用いることなく、導電性を有する柔軟材料を備えた対象物の電気特性を利用して、対象物に刺激を与える付与側の状態を推定する。
【解決手段】推定装置(1)は、導電性を有し、かつ与えられた刺激の変化に応じて電気特性が変化する柔軟材料(22)を備えた衣類(2)の柔軟材料に予め定められた複数の検出点(75)の間の電気特性を検出する検出部と、前記柔軟材料に刺激を与えた際の時系列の電気特性と、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記動作状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、前記検出部で検出された時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報を推定する推定部(5)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有し、かつ与えられた刺激の変化に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた衣類の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出する検出部と、
前記柔軟材料に刺激を与えた際の時系列の電気特性と、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記動作状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、前記検出部で検出された時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報を推定する推定部と、
を含む推定装置。
【請求項2】
前記電気特性は、体積抵抗であり、
前記動作状態は、前記衣類の着用者の動作に伴い発生する圧力刺激であり、
前記学習モデルは、検出された電気特性に対応する前記衣類の着用者の動作に伴い発生する圧力刺激を示す情報を前記動作状態情報として出力するように学習される
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記推定した前記衣類の着用者の動作状態と予め定められた動作とを比較して適合性を判定する請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記推定部によって推定された前記動作状態を出力する出力部を更に含む請求項1から請求項3の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記衣類は、繊維状及び網目状の少なくとも一方の骨格を有する構造、又は内部に微小な空気泡が複数散在する構造のウレタン材の少なくとも一部に導電性が付与された材料を含む
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項6】
前記学習モデルは、前記柔軟材料をリザーバとして当該リザーバを用いたリザーバコンピューティングによるネットワークを用いて学習させることで生成されたモデルを含む
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の推定装置。
【請求項7】
コンピュータが
導電性を有し、かつ与えられた刺激の変化に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた衣類の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出し、
前記柔軟材料に刺激を与えた際の時系列の電気特性と、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記動作状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、検出した時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報を推定する
推定方法。
【請求項8】
コンピュータに
導電性を有し、かつ与えられた刺激の変化に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた衣類の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出し、
前記柔軟材料に刺激を与えた際の時系列の電気特性と、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記動作状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、検出した時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報を推定する
処理を実行させるための推定プログラム。
【請求項9】
導電性を有し、かつ与えられた刺激の変化に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた衣類の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出する検出部からの前記電気特性と、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報と、を取得する取得部と、
前記取得部の取得結果に基づいて、前記柔軟材料に圧力を与えた際の時系列の電気特性を入力とし、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報を出力する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を含む学習モデル生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、推定装置、推定方法、推定プログラム、及び学習モデル生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、物体に生じる形状変化を検出し、当該検出結果を用いて物体に変形を与える人や物の状態を推定することが行われている。物体に生じる形状変化を検出する側面では、物体の変形を阻害せずに変形を検出することは困難である。また、金属変形等の剛体の検出に用いられる歪センサは物品に利用困難なため、物体の変形を検出するためには、特殊な検出装置が要求される。例えば、カメラによる物体の変位と振動を測定して、変形画像を取得し、変形量を抽出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、シート状の感圧センサを用いて、車椅子、クッション、ベッド等にかかる圧力分布を測定する技術も知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】https://www.nitta.co.jp/product/sensor/bpms/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、物体等の対象物に生じる形状変化を検出する側面では、カメラ及び画像解析手法を用いて対象物の変位等の変形量を検出する場合、カメラ及び画像解析等を含むシステムは、大規模なものとなり、装置の大型化を招くので好ましくはない。また、カメラを用いた光学手法ではカメラに撮像されない隠れた部分の計測は出来ない。従って、物体の変形を検出するのには改善の余地がある。
【0006】
本開示は、特殊な検出装置を用いることなく、導電性を有する柔軟材料を備えた対象物の電気特性を利用して、対象物に刺激を与える付与側の状態を推定可能な推定装置、推定方法、推定プログラム、及び学習モデル生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1態様は、
導電性を有し、かつ与えられた刺激の変化に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた衣類の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出する検出部と、
前記柔軟材料に刺激を与えた際の時系列の電気特性と、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記動作状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、前記検出部で検出された時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報を推定する推定部と、
を含む推定装置である。
【0008】
第2態様は、第1態様の推定装置において、
前記電気特性は、体積抵抗であり、
前記動作状態は、前記衣類の着用者の動作に伴い発生する圧力刺激であり、
前記学習モデルは、検出された電気特性に対応する前記衣類の着用者の動作に伴い発生する圧力刺激を示す情報を前記動作状態情報として出力するように学習される。
【0009】
第3態様は、第2態様の推定装置において、
前記推定部は、前記推定した前記衣類の着用者の動作状態と予め定められた動作とを比較して適合性を判定する。
【0010】
第4態様は、第1態様から第3態様の何れか1態様の推定装置において、
前記推定部によって推定された前記動作状態を出力する出力部を更に含む。
【0011】
第5態様は、第1態様から第4態様の何れか1態様の推定装置において、
前記衣類は、繊維状及び網目状の少なくとも一方の骨格を有する構造、又は内部に微小な空気泡が複数散在する構造のウレタン材の少なくとも一部に導電性が付与された材料を含む。
【0012】
第6態様は、第1態様から第5態様の何れか1態様の推定装置において、
前記学習モデルは、前記柔軟材料をリザーバとして当該リザーバを用いたリザーバコンピューティングによるネットワークを用いて学習させることで生成されたモデルを含む。
【0013】
第7態様は、
コンピュータが
導電性を有し、かつ与えられた刺激の変化に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた衣類の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出し、
前記柔軟材料に刺激を与えた際の時系列の電気特性と、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記動作状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、検出した時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報を推定する
推定方法である。
【0014】
第8態様は、
コンピュータに
導電性を有し、かつ与えられた刺激の変化に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた衣類の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出し、
前記柔軟材料に刺激を与えた際の時系列の電気特性と、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報とを学習用データとして用いて、前記時系列の電気特性を入力とし、前記動作状態情報を出力するように学習された学習モデルに対して、検出した時系列の電気特性を入力し、入力した時系列の電気特性に対応する前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報を推定する
処理を実行させるための推定プログラムである。
【0015】
第9態様は、
導電性を有し、かつ与えられた刺激の変化に応じて電気特性が変化する柔軟材料を備えた衣類の前記柔軟材料に予め定められた複数の検出点の間の電気特性を検出する検出部からの前記電気特性と、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報と、を取得する取得部と、
前記取得部の取得結果に基づいて、前記柔軟材料に圧力を与えた際の時系列の電気特性を入力とし、前記柔軟材料に刺激を与える前記衣類の着用者の動作状態を示す動作状態情報を出力する学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
を含む学習モデル生成装置である。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、特殊な検出装置を用いることなく、導電性を有する柔軟材料を備えた対象物の電気特性を利用して、付与側の状態を推定することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る推定装置の構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係る導電性ウレタンの配置を示す図である。
【
図3】実施形態に係る学習モデル生成装置の概念構成を示す図である。
【
図4】実施形態に係る学習処理部の機能構成を示す図である。
【
図5】実施形態に係る学習処理部の他の機能構成を示す図である。
【
図6】実施形態に係る推定装置の電気的な構成を示す図である。
【
図7】実施形態に係る推定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】実施形態に係る衣類の具体例を説明するための説明図である。
【
図9】実施形態に係る学習データ収集処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】実施形態に係る学習処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】実施形態に係る推定処理の流れの具体例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本開示の技術を実現する実施形態を詳細に説明する。なお、作用、機能が同じ働きを担う構成要素及び処理には、全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明を適宜省略する場合がある。また、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
なお、本開示において人物とは、対象物に対して物理量により刺激を与えることが可能な人体及び物体の少なくとも一方を含む概念である。以下の説明では、人体及び物体の少なくとも一方を区別することなく、ヒトとモノとを含む概念として人物と総称して説明する。すなわち、人体及び物体のそれぞれの単体、及び人体と物体を組み合わせた組合せ体を総称して人物と称する。
【0020】
まず、
図1から
図7を参照して、本開示の技術を適用する導電性が付与された柔軟材料、及び当該柔軟材料を用いて、柔軟材料に対する付与側の状態を推定する状態推定処理を説明する。
【0021】
<柔軟材料>
本開示において「柔軟材料」とは、少なくとも一部が撓み等のように変形可能な材料を含む概念であり、ゴム材料等の柔らかい弾性体、繊維状及び網目状の少なくとも一方の骨格を有する構造体、及び内部に微小な空気泡が複数散在する構造体を含む。これらの構造体の一例には、ウレタン材などの高分子材料が挙げられる。また、本開示では、導電性が付与された柔軟材料を用いる。「導電性が付与された柔軟材料」とは、導電性を有する材料を含む概念であり、導電性を付与するために導電材を柔軟材料に付与した材料、及び柔軟材料が導電性を有する材料を含む。導電性を付与する柔軟材料はウレタン材などの高分子材料が好適である。以下の説明では、導電性が付与された柔軟材料の一例として、ウレタン材の全部または一部に導電材料を配合及び浸潤(含浸ともいう)等により形成させた部材を、「導電性ウレタン」と称して説明する。導電性ウレタンは、導電材料を配合と浸潤(含浸)との何れかの方法で形成可能であり、導電材料の配合又は浸潤(含浸)で形成可能で、また導電材料の配合と浸潤(含浸)とを組み合わせて形成可能である。例えば、浸潤(含浸)による導電性ウレタンが、配合による導電性ウレタンより導電性が高い場合には、浸潤(含浸)により導電性ウレタンを形成することが好ましい。
【0022】
導電性ウレタンは、与えられた物理量に応じて電気特性が変化する機能を有する。電気特性が変化する機能を生じさせる物理量の一例には、撓み等のように構造を変形させる圧力による刺激(以下、圧力刺激という。)を示す圧力値による刺激値が挙げられる。なお、圧力刺激は、所定部位への圧力及び所定範囲の圧力の分布による圧力付与を含む。また、当該物理量の他例には、含水率及び水分付与等によって素材の性質を変化(変質)させる刺激(以下、素材刺激という。)を示す水分量等の刺激値が挙げられる。導電性ウレタンは、与えられた物理量に応じて電気特性が変化する。この電気特性を表す物理量の一例には、電気抵抗値が挙げられる。また、他例には、電圧値、又は電流値が挙げられる。
【0023】
導電性ウレタンは、所定の体積を有する柔軟材料に導電性を与えることで、与えられた物理量に応じた電気特性(すなわち電気抵抗値の変化)が現れ、その電気抵抗値は、導電性ウレタンの体積抵抗値と捉えることが可能である。導電性ウレタンは、電気経路が複雑に連携し、例えば、変形に応じて電気経路が伸縮したり膨縮したりする。また、電気経路が一時的に切断される挙動、及び以前と異なる接続が生じる挙動を示す場合もある。従って、導電性ウレタンは、所定距離を隔てた位置(例えば電極が配置された検出点の位置)の間では、与えられた物理量による刺激(圧力刺激及び素材刺激)の大きさや分布に応じた変形や変質で異なる電気特性を有する挙動を示す。このため、導電性ウレタンに与えられた物理量による刺激の大きさや分布に応じて電気特性が変化する。
【0024】
なお、導電性ウレタンを用いることで、変形及び変質についての対象箇所に電極等の検出点を設ける必要はない。導電性ウレタンに物理量による刺激が与えられる箇所を挟む任意の少なくとも2箇所に電極等の検出点を設ければよい(例えば
図1)。
【0025】
また、導電性ウレタンの電気特性の検出精度を向上するため、2個の検出点より多くの検出点を用いてもよい。また、本開示の導電性ウレタンは、
図1に示す導電性ウレタン22を1導電性ウレタン片とし、複数の導電性ウレタン片を配列してなる導電性ウレタン群で形成してもよい。この場合、複数の導電性ウレタン片毎に電気特性を検出してもよいし、複数の導電性ウレタン片の電気特性を合成して検出してもよい。複数の導電性ウレタン片毎に電気特性を検出する場合、配置部位毎(例えば検出セット#1~#n)に電気抵抗値等の電気特性を検出できる。また、他例としては、導電性ウレタン22上における検出範囲を分割して分割した検出範囲毎に検出点を設けて検出範囲毎に電気特性を検出してもよい。
【0026】
<推定装置>
次に、導電性ウレタンを用いて、当該導電性ウレタンに対する付与側の状態を推定する推定装置の一例を説明する。
【0027】
図1に、付与側の状態を推定する推定処理を実行可能な推定装置1の構成の一例を示す。推定装置1は、推定部5を備え、導電性ウレタン22における電気特性が入力されるように対象物2に接続されている。推定装置1では、対象物2に含まれる導電性ウレタン22に対する付与側の状態が推定される。推定装置1は、後述する処理を実行する実行装置としてのCPUを備えたコンピュータによって実現可能である。
【0028】
上述した導電性ウレタンの変形及び変質は、導電性ウレタンに対して時系列に与えられた物理量で生じる。この時系列に与えられる物理量は、付与側の状態に依存する。従って、時系列に変化する導電性ウレタンの電気特性は、導電性ウレタンに与えられた物理量の付与側の状態に対応する。例えば、導電性ウレタンを変形させる圧力刺激または導電性ウレタンを変質させる素材刺激が与えられる場合、時系列に変化する導電性ウレタンの電気特性は、圧力刺激の位置及び分布、並びに大きさを示す付与側の状態に対応する。よって、時系列に変化する導電性ウレタンの電気特性から導電性ウレタンに対する付与側の状態を推定することが可能である。
【0029】
推定装置1では、後述する推定処理によって、学習済みの学習モデル51を用いて、未知の付与側の状態を推定し、出力する。これにより、特殊な装置や大型の装置を用いたり対象物に含まれる導電性ウレタン22の変形及び変質を直接計測することなく、対象物2に対する付与側の状態を同定することが可能となる。学習モデル51は、対象物2に対する付与側の状態と、対象物2の電気特性(すなわち、対象物2に配置された導電性ウレタン22の電気抵抗値等の電気特性)とを入力として学習される。学習モデル51の学習については後述する。
【0030】
なお、導電性ウレタン22は、柔軟性を有する部材21に配置して対象物2を構成することが可能である(
図2)。導電性ウレタン22が配置された部材21により構成される対象物2は、電気特性検出部76を含む。導電性ウレタン22は、部材21の少なくとも一部に配置すればよく、内部に配置してもよいし外部に配置してもよい。また、導電性ウレタンは、導電性ウレタンへの付与側の状態を推定可能に配置すればよく、例えば、人物に直接的又は間接的、或いはその両方で接触可能に配置すればよい。
【0031】
図2に、対象物2における導電性ウレタン22の配置例を示す。対象物2のA-A断面を対象物断面2-1として示すように、導電性ウレタン22は、部材21の内部を全て満たすように形成しても良い。また、対象物断面2-2に示すように、導電性ウレタン22は、部材21の内部における一方側(表面側)に形成しても良く、対象物断面2-3に示すように、部材21の内部における他方側(裏面側)に導電性ウレタン22を形成しても良い。さらに、対象物断面2-4に示すように、部材21の内部の一部に導電性ウレタン22を形成しても良い。また、対象物断面2-5に示すように、導電性ウレタン22は、部材21の表面側の外側に分離して配置しても良く、対象物断面2-6に示すように、他方側(裏面側)の外部に配置しても良い。導電性ウレタン22を部材21の外部に配置する場合、導電性ウレタン22と部材21とを積層するのみでもよく、導電性ウレタン22と部材21とを接着等により一体化してもよい。なお、導電性ウレタン22を部材21の外部に配置する場合であっても、導電性ウレタン22が導電性を有するウレタン部材であるため、部材21の柔軟性は阻害されない。
【0032】
図1に示すように、導電性ウレタン22は、距離を隔てて配置された少なくとも2個の検出点75からの信号によって、導電性ウレタン22の電気特性(すなわち、電気抵抗値である体積抵抗値)を検出する。
図1の例では、導電性ウレタン22上で対角位置に配置された2個の検出点75からの信号により電気特性(時系列の電気抵抗値)を検出する検出セット#1が示されている。なお、検出点75の個数及び配置は、
図1に示す位置に限定されるものではなく、導電性ウレタン22の電気特性を検出可能な位置であれば3個以上の個数でもよく何れの位置でもよい。なお、導電性ウレタン22の電気特性は、電気特性(例えば、電気抵抗値である体積抵抗値)を検出する電気特性検出部76を検出点75に接続し、その出力を用いればよい。
【0033】
本実施形態では、センサとして導電性ウレタン22を用いるため、例えば、人物が介在する場合に従来のセンサに比べて人物に与える違和感が極めて少ない。このため、計測中に人物に関する付与側の状態を害することが無く、計測と付与側の状態推定を同時に行うことが可能となる。これは計測と付与側の状態推定を別個に行っていた従来のセンサに比べて利点となり、とりわけ時系列変化を追う長時間の計測評価による推定においては、そのメリットは大きい。
【0034】
推定部5は、対象物2に接続され、導電性ウレタン22の変形及び変質の少なくとも一方に応じて変化する電気特性に基づき、学習モデル51を用いて、付与側の状態を推定する機能部である。具体的には、推定部5には、導電性ウレタン22における電気抵抗の大きさ(電気抵抗値等)を表す時系列の入力データ4が入力される。入力データ4は、対象物2に対する付与側の状態、例えば対象物2に接触した人物の姿勢や動き等の人物の挙動に関する状態を示す状態データ3に対応する。例えば、人物が対象物2に接触する際、姿勢等の所定の状態で接触し、当該状態に対応して、対象物2を構成する導電性ウレタン22には刺激(圧力刺激及び素材刺激の少なくとも一方)が物理量として与えられ、導電性ウレタン22の電気特性が変化する。従って、入力データ4により示される時系列に変化する導電性ウレタン22の電気特性は、対象物2、すなわち、導電性ウレタン22に対する付与側の状態に対応するものとなる。また、推定部5は、学習済みの学習モデル51を用いた推定結果として、時系列に変化する導電性ウレタン22の電気特性に対応する付与側の状態を表す出力データ6を出力する。
【0035】
学習モデル51は、物理量として与えられる刺激(圧力刺激及び素材刺激)により変化する導電性ウレタン22の電気抵抗(入力データ4)から、付与側の状態を表す出力データ6を導出する学習を済ませたモデルである。学習モデル51は、例えば、学習済みのニューラルネットワークを規定するモデルであり、ニューラルネットワークを構成するノード(ニューロン)同士の間の結合の重み(強度)の情報の集合として表現される。
【0036】
<学習処理>
次に、学習モデル51を生成する学習処理について説明する。
図3に、学習モデル51を生成する学習モデル生成装置の概念構成を示す。学習モデル生成装置は、学習処理部52を備えている。学習モデル生成装置は、図示しないCPUを備えたコンピュータを含んで構成可能であり、CPUにより実行される学習データ収集処理及び学習モデル生成処理によって学習処理部52として実行されて学習モデル51を生成する。
【0037】
<学習データ収集処理>
学習処理部52は、学習データ収集処理において、付与側の状態を表す状態データ3をラベルとして導電性ウレタン22における電気特性(例えば電気抵抗値)を時系列に測定した大量の入力データ4を学習データとして収集する。従って、学習データは、電気特性を示す入力データ4と、その入力データ4に対応する付与側の状態を示す状態データ3と、のセットを大量に含む。
【0038】
具体的には、学習データ収集処理では、対象物2における状態(すなわち、導電性ウレタン22に対する付与側の状態)が形成された際の付与側の状態に応じた刺激(圧力刺激及び素材刺激)により変化する電気特性(例えば電気抵抗値)を時系列に取得する。次に、取得した時系列の電気特性(入力データ4)に状態データ3をラベルとして付与し、状態データ3と入力データ4とのセットが予め定めた所定数、又は予め定めた所定時間に達するまで処理を繰り返す。これらの付与側の状態を示す状態データ3と、付与側の状態毎に取得した時系列の導電性ウレタン22の電気特性(入力データ4)とのセットが学習データとなる。なお、学習データにおける状態データ3は、後述する学習処理において推定結果が正解である付与側の状態を示す出力データ6として扱われるように図示しないメモリに記憶される。
【0039】
なお、学習データは、導電性ウレタン22の電気抵抗値(入力データ4)の各々に測定時刻を示す情報を付与することで時系列情報を対応付けてもよい。この場合、付与側の状態として定まる期間について、導電性ウレタン22における時系列な電気抵抗値のセットに測定時刻を示す情報を付与して時系列情報を対応付けてもよい。
【0040】
上述した学習データの一例を次に表で示す。表1は、導電性ウレタン22に対する付与側の状態に関する学習データとして、時系列の電気抵抗値データ(r)と付与側の状態を示す状態データ(R)とを対応付けたデータセットの一例である。
【0041】
【0042】
なお、導電性ウレタン22で検出される電気特性(時系列の電気抵抗値データによる時間特性)は、導電性ウレタン22に対する付与側の状態に関する特徴パターンとして捉えることが可能である。すなわち、導電性ウレタン22に対する付与側の状態によって、導電性ウレタン22に対して異なる刺激が時系列に与えられる。従って、所定の時間内における時系列の電気特性は、付与側の状態に対して特徴的な電気特性として表れると考えられる。よって、導電性ウレタン22で検出される電気特性(時系列の電気抵抗値データによる時間特性)に示されるパターン(例えば電気特性における時系列の電気抵抗値の分布形状)は、付与側の状態に対応し、後述する学習処理において有効に機能する。
【0043】
<学習モデル生成処理>
次に、学習モデル生成処理について説明する。
図3に示す学習モデル生成装置は、学習処理部52における学習モデル生成処理によって、上述した学習データを用いて学習モデル51を生成する。
【0044】
図4は、学習処理部52の機能構成、すなわち学習処理部52で実行される学習モデル生成処理に関して、図示しないCPUの機能構成を示す図である。学習処理部52の図示しないCPUは、生成器54及び演算器56の機能部として動作する。生成器54は、入力である時系列に取得された電気抵抗値の前後関係を考慮して出力を生成する機能を有する。
【0045】
学習処理部52は、学習用データとして、上述した入力データ4(例えば、電気抵抗値)と、導電性ウレタン22に刺激を与えた付与側の状態を示す状態データ3である出力データ6とのセットを図示しないメモリに多数保持している。
【0046】
生成器54は、入力層540、中間層542、および出力層544を含んで、公知のニューラルネットワーク(NN:Neural Network)を構成する。ニューラルネットワーク自体は公知の技術であるため詳細な説明は省略するが、中間層542は、ノード間結合およびフィードバック結合を有するノード群(ニューロン群)を多数含む。その中間層542には、入力層540からのデータが入力され、中間層542の演算結果のデータは、出力層544へ出力される。
【0047】
生成器54は、入力された入力データ4(例えば、電気抵抗値)から付与側の状態を表すデータ又は付与側の状態に近いデータとしての生成出力データ6Aを生成するニューラルネットワークである。生成出力データ6Aは、入力データ4から導電性ウレタン22に刺激が与えられた付与側の状態を推定したデータである。生成器54は、時系列に入力された入力データ4から、付与側の状態に近い状態を示す生成出力データを生成する。生成器54は、多数の入力データ4を用いて学習することで、対象物2すなわち導電性ウレタン22に刺激が与えられた人物等の付与側の状態に近い生成出力データ6Aを生成できるようになる。他の側面では、時系列に入力された入力データ4である電気特性をパターンとして捉え、当該パターンを学習することで、対象物2すなわち導電性ウレタン22に刺激が与えられた人物等の付与側の状態に近い生成出力データ6Aを生成できるようになる。
【0048】
演算器56は、生成出力データ6Aと、学習データの出力データ6とを比較し、その比較結果の誤差を演算する演算器である。学習処理部52は、生成出力データ6A、および学習データの出力データ6を演算器56に入力する。これに応じて、演算器56は、生成出力データ6Aと、学習データの出力データ6との誤差を演算し、その演算結果を示す信号を出力する。
【0049】
学習処理部52は、演算器56で演算された誤差に基づいて、ノード間の結合の重みパラメータをチューニングする、生成器54の学習を行う。具体的には、生成器54における入力層540と中間層542とのノード間の結合の重みパラメータ、中間層542内のノード間の結合の重みパラメータ、および中間層542と出力層544とのノード間の結合の重みパラメータの各々を例えば勾配降下法や誤差逆伝播法等の手法を用いて、生成器54にフィードバックする。すなわち、学習データの出力データ6を目標として、生成出力データ6Aと学習データの出力データ6との誤差を最小化するように全てのノード間の結合を最適化する。
【0050】
なお、生成器54は、時系列入力の前後関係を考慮して出力を生成する機能を有する再帰型ニューラルネットワークを用いてもよく、他の手法を用いてもよい。
【0051】
学習処理部52は、学習モデル生成処理によって、上述した学習データを用いて学習モデル51を生成する。学習モデル51は、学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合として表現され、図示しないメモリに記憶される。
【0052】
具体的には、学習処理部52は、次の手順により学習モデル生成処理を実行する。第1学習処理では、時系列に測定した結果の学習データである、付与側の状態を示す情報をラベルとした入力データ4(電気特性)を取得する。第2学習処理では、時系列に測定した結果の学習データを用いて学習モデル51を生成する。すなわち、上記のようにして多数の学習データを用いて学習した学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合を得る。そして、第3学習処理では、学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合として表現されるデータを学習モデル51として記憶する。
【0053】
そして、上記推定装置1では、学習済みの生成器54(すなわち、学習結果のノード間の結合の重みパラメータの情報の集合として表現されるデータ)を学習モデル51として用いる。十分に学習した学習モデル51を用いれば、対象物2、すなわち導電性ウレタン22の時系列の電気特性(例えば、時系列に変化する電気抵抗値の特性)から付与側の状態を同定することも不可能ではない。
【0054】
<PRC>
ところで、導電性ウレタン22は、上述したように電気経路が複雑に連携し、電気経路の伸縮、膨縮、一時的な切断、及び新たな接続等の変化(変形)、並びに素材の性質の変化(変質)に応じた挙動を示す。結果的に、導電性ウレタン22は、与えられた刺激(例えば圧力刺激)に応じて異なる電気特性を有する挙動を示す。このことは、導電性ウレタン22を、導電性ウレタン22の変形に関するデータを貯留するリザーバとして扱うことが可能である。すなわち、推定装置1は、物理的なリザーバコンピューティング(PRC:Physical Reservoir Computing)と呼ばれるネットワークモデル(以下、PRCNという。)に、導電性ウレタン22を適用することが可能である。PRCおよびPRCN自体は公知の技術であるため、詳細な説明を省略するが、PRC、及びPRCNは、導電性ウレタン22の変形や変質に関する情報の推定に好適である。
【0055】
図5に、PRCNを適用した学習処理部52の機能構成の一例を示す。PRCNを適用した学習処理部52は、入力リザーバ層541と、推定層545とを含む。入力リザーバ層541は、対象物2に含まれる導電性ウレタン22が対応する。すなわち、PRCNを適用した学習処理部52では、導電性ウレタン22を含む対象物2を、導電性ウレタン22を含む対象物2の変形及び変質に関するデータを貯留するリザーバとして扱って学習する。導電性ウレタン22は、多様な刺激の各々に応じた電気特性(電気抵抗値)となり、電気抵抗値を入力する入力層として機能し、また、導電性ウレタン22の変形及び変質に関するデータを貯留するリザーバ層として機能する。導電性ウレタン22は、人物等の付与側の状態により与えられた刺激に応じて異なる電気特性(入力データ4)を出力するので、推定層545で、与えられた導電性ウレタン22の電気抵抗値から未知の付与側の状態を推定することが可能である。従って、PRCNを適用した学習処理部52における学習処理では、推定層545を学習すればよい。
【0056】
<推定装置の構成>
次に、上述した推定装置1の具体的な構成の一例についてさらに説明する。
図6に、推定装置1の電気的な構成の一例を示す。
図6に示す推定装置1は、上述した各種機能を実現する処理を実行する実行装置としてのコンピュータを含んで構成したものである。上述の推定装置1は、コンピュータに上述の各機能を表すプログラムを実行させることにより実現可能である。
【0057】
推定装置1として機能するコンピュータは、コンピュータ本体100を備えている。コンピュータ本体100は、CPU102、揮発性メモリ等のRAM104、ROM106、ハードディスク装置(HDD)等の補助記憶装置108、及び入出力インターフェース(I/O)110を備えている。これらのCPU102、RAM104、ROM106、補助記憶装置108、及び入出力I/O110は、相互にデータ及びコマンドを授受可能にバス112を介して接続された構成である。また、入出力I/O110には、外部装置と通信するための通信部114、ディスプレイやキーボード等の操作表示部116、及び検出部118が接続されている。検出部118は、導電性ウレタン22を含む対象物2から、入力データ4(時系列の電気抵抗値等の電気特性)を取得する機能を有する。すなわち、検出部118は、導電性ウレタン22が配置された対象物2を含み、かつ導電性ウレタン22における検出点75に接続された電気特性検出部76から入力データ4を取得することが可能である。なお検出部118は通信部114を介して接続してもよい。
【0058】
補助記憶装置108には、コンピュータ本体100を本開示の推定装置の一例として推定装置1として機能させるための制御プログラム108Pが記憶される。CPU102は、制御プログラム108Pを補助記憶装置108から読み出してRAM104に展開して処理を実行する。これにより、制御プログラム108Pを実行したコンピュータ本体100は、推定装置1として動作する。
【0059】
なお、補助記憶装置108には、学習モデル51を含む学習モデル108M、及び各種データを含むデータ108Dが記憶される。制御プログラム108Pは、CD-ROM等の記録媒体により提供するようにしても良い。
【0060】
<推定処理>
次に、コンピュータにより実現された推定装置1における推定処理についてさらに説明する。
図7に、コンピュータ本体100で実行される制御プログラム108Pによる推定処理の流れの一例を示す。
図7に示す推定処理は、コンピュータ本体100に電源投入されると、CPU102により実行される。CPU102は、制御プログラム108Pを補助記憶装置108から読み出し、RAM104に展開して処理を実行する。
【0061】
まず、CPU102は、補助記憶装置108の学習モデル108Mから学習モデル51を読み出し、RAM104に展開することで、学習モデル51を取得する(ステップS200)。具体的には、学習モデル51として表現された重みパラメータによるノード間の結合となるネットワークモデル(
図4、
図5参照)を、RAM104に展開することによって、重みパラメータによるノード間の結合が実現された学習モデル51が構築される。
【0062】
次に、CPU102は、導電性ウレタン22に与えられた刺激による付与側の状態を推定する対象となる未知の入力データ4(電気特性)を、検出部118を介して時系列に取得する(ステップS202)。次に、CPU102は、学習モデル51を用いて、取得済みの入力データ4に対応する出力データ6(未知の付与側の状態)を推定する(ステップS204)。そして、CPU102は、推定結果の出力データ6(付与側の状態)を、通信部114を介して出力し(ステップS206)、本処理ルーチンを終了する。
【0063】
このように、推定装置1によれば、導電性ウレタン22の電気抵抗値から未知の付与側の状態を推定可能である。具体的には、推定装置1では、付与側の状態により導電性ウレタン22に与えられた刺激に応じて変化する入力データ4(電気特性)から、人物等の付与側の状態を推定することが可能となる。すなわち、特殊な装置や大型の装置を用いたり柔軟部材の変形を直接計測することなく、人物等の付与側の状態を推定することが可能となる。
【0064】
<動作状態の推定>
このような導電性ウレタン22を衣類Cに適用すれば、衣類Cの着用者の動作に応じて衣類Cの部分的な圧縮といった圧力刺激が生じる。そのため、推定装置1によって、導電性ウレタン22の時系列の電気抵抗値から衣類Cの着用者の動作が推定可能となる。ここで、「衣類Cの着用者の動作」は、衣類Cの着用者が手を上げる、手を曲げる、足を上げる、足を曲げる、歩く、走る、立ち上がる、座る、ジャンプする等を含む。また、かかる「衣類Cの着用者の動作」は、予め定められた複数の動作の組み合わせで動作することを含む。
【0065】
図8は、導電性ウレタン22を衣類Cに適用した一例を示す図である。すなわち、刺激が与えられる対象物2は衣類Cということになる。
【0066】
図8に示す例では、人物は導電性ウレタン22を含む衣類C(上着UとズボンD)を着用した着用者が動作をする。衣類Cに導電性ウレタン22が含まれるとは、導電性ウレタン22と衣類Cを構成する部材21(この場合、綿や化学繊維)との配置例が、
図2に示したような導電性ウレタン22と部材21の配置例の何れかを満たすことをいう。
【0067】
そして、
図8に示すように、電気特性検出部76を衣類Cに付け、無線を利用すれば、衣類Cの着用者の動作を妨げることなく、通信部114経由で電気特性検出部76と推定装置1を接続することが可能である。なお、状況に応じて電気特性検出部76と推定装置1を有線で接続してもよい。
【0068】
図8に示す例では、上着UとズボンDとにそれぞれ電気特性検出部76が取り付けられている。上着Uに取り付けられた電気特性検出部76は、上着Uに含まれる導電性ウレタン22の電気抵抗値を検出し、ズボンDに取り付けられた電気特性検出部76は、ズボンDに含まれる導電性ウレタン22の電気抵抗値を検出する。
【0069】
なお、本実施形態における衣類Cは、
図8に示すような上着UやズボンD等の他、人物が着用するものであればその種類に制限はなく、例えば、下着、スカート、靴下、手袋等、着用者の全身や上半身、下半身やその一部の何れかを覆う物を含む。
【0070】
このように、衣類Cの着用者の動作によって、衣類Cの動作状態に影響を与えることから、衣類Cの動作状態は、衣類Cの着用者の動作状態を示す動作状態情報の一例である。
【0071】
次に、衣類Cの着用者の動作を推定するための学習モデル51を生成する学習処理について説明する。
【0072】
図3に示した学習モデル生成装置の学習処理部52は、学習データ収集処理において、衣類Cの着用者の動作を表す状態データ3をラベルとする導電性ウレタン22における電気抵抗値を時系列に測定した大量の入力データ4を学習データとして収集する。
【0073】
具体的には、学習データ収集処理では、衣類Cの着用者の動作により変化する衣類Cに含まれる導電性ウレタン22の電気特性(例えば、電気抵抗値)を衣類Cに取り付けられた電気特性検出部76から時系列に取得する。次に、取得した時系列の電気特性である入力データ4に状態データ3をラベルとして付与し、状態データ3と入力データ4とを組み合わせた複数の学習データを準備する。
【0074】
また、学習データは、衣類Cの着用者に動作を指示し、そのときの電気抵抗値を検出して収集する(表2参照)。
【0075】
かかる学習データの動作をする衣類Cの着用者は、未知の入力データ4(電気特性)の動作をした着用者と同一の者である場合を含む。また、かかる衣類Cの着用者に指示される動作は、例えば、左手を水平に上げた後右手を上に上げる等の、予め定められた複数の動作の組み合わせを含む。
【0076】
以降では、衣類Cに含まれる導電性ウレタン22の電気特性の一例として電気抵抗値を用いた説明を行うが、導電性ウレタン22の電気特性として電流値又は電圧値を用いてもよいことは前述した通りである。
【0077】
表2は、衣類Cの着用者の動作の推定に用いる学習データとして、衣類Cから得られた時系列の電気抵抗値データ、すなわち、入力データ4と、衣類Cの着用者の動作状態を示す状態データ3(R1~Rk)とを対応付けたデータセットの一例である。
【0078】
【0079】
ここで、動作状態情報は、例えば、衣類Cの着用者が、左手を上げる(R1)、左手を曲げる(R2)、右足を上げる(R3)、右足を曲げる、歩く、走る、立ち上がる、座る、ジャンプするなどの情報である。ここで、衣類Cの上着U(例えば、r111,r112,r113,・・・,r11n)とズボンD(例えば、r121,r122,r123,・・・,r12n)とのそれぞれから電気抵抗値データを取得して、各動作状態に対応付けている。なお、電気特性検出部76を付ける衣類Cが増えると各動作状態に対応付けられる電気抵抗値データも増え、電気特性検出部76を付ける衣類Cが減ると各動作状態に対応付けられる電気抵抗値データが減る。
【0080】
衣類Cの着用者に、左手を上げる(R1)という指示を与えることで、学習データを収集する。また、より詳しく、手を下に下げた状態で10度肘を曲げた場合、20度肘を曲げた場合、手を水平に上げた状態で10度肘を曲げた場合、20度肘を曲げた場合、など様々な動きを学習データとして収集することで衣類Cの着用者の動作を細かく推定することが可能となる。これにより、衣類Cの着用者のモーションキャプチャ機能を実現することが可能となる。
【0081】
また、衣類Cの着用者の動作状態は、複数の動作の組み合わせであってもよい。すなわち、予め定められた複数の動作の組み合わせを衣類Cの着用者に動作させ、学習データを収集することを含む。例えば、予め定められた複数の動作の組み合わせは、左手を水平に上げた後右手を上に上げるなどである。
【0082】
なお、動作状態情報は、上述したものに限定されず、衣類Cの着用者が行うことができる動作であればよい。
【0083】
学習処理部52は、図示しないCPUを含むコンピュータを含んで構成可能であり、学習データ収集処理及び学習処理を実行する。
【0084】
図9は、学習処理部52で行われる学習データ収集処理の流れの一例を示す図である。
【0085】
学習処理部52は、ステップS100で、衣類Cを着用した着用者に、動作を指示し、ステップS102で、動作状態に応じた圧力刺激により変化する電気抵抗値を時系列に取得する。次のステップS104では、取得した時系列の電気抵抗値に動きを伴う動作状態をラベルとして付与して、記憶する(表2参照)。学習処理部52は、これら動作状態、及び導電性ウレタン22の電気抵抗値のセットが予め定めた所定数、又は予め定めた所定時間に達するまで(ステップS106で、肯定判断されるまで否定判断し)、上記処理を繰り返す。これにより、学習処理部52は、動作状態毎に、導電性ウレタン22における電気抵抗値を時系列に取得し、記憶することが可能となり、記憶された動作状態毎の時系列な導電性ウレタン22の電気抵抗値のセットが学習データとなる。
【0086】
学習モデル51は、学習処理部52の学習処理により生成される。学習モデル51は、学習処理部52による学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合として表現される。
【0087】
図10は、学習処理部52で行われる学習処理の流れの一例を示す図である。
【0088】
学習処理部52は、ステップS110で、表2に示した複数の学習データの中から、何れか1つの学習データを選択する。そして、選択した学習データから時系列の入力データ4を取得する。学習処理部52は、ステップS112で、時系列に測定した結果の学習データを用いて学習モデル51を生成する。すなわち、上記のようにして多数の学習データを用いて学習した学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合を得る。そして、ステップS114で、学習結果のノード間の結合の重みパラメータ(重み又は強度)の情報の集合として表現されるデータを学習モデル51として記憶する。
【0089】
なお、生成器54は、時系列入力の前後関係を考慮して出力を生成する機能を有する再帰型ニューラルネットワークを用いてもよく、他の手法を用いてもよい。
【0090】
そして、上記推定装置1では、以上に例示した手法により生成した学習済みの生成器54(すなわち、学習結果のノード間の結合の重みパラメータの情報の集合として表現されるデータ)を学習モデル51として用いる。十分に学習した学習モデル51を用いれば、手袋G、すなわち導電性ウレタン22における時系列な電気抵抗値から動作状態を同定することも不可能ではない。
【0091】
なお、学習処理部52による処理は、例えば、推定装置1とは異なる外部の学習モデル生成装置(図示省略)によって実行される。推定装置1は、推定部5を含む。動作状態を示す情報である出力データ6は、本開示の動作状態情報の一例である。
【0092】
次に、本実施形態にかかる学習モデル51を用いた動作状態の推定処理について説明する。
【0093】
図11に、コンピュータ本体100で実行される制御プログラム108Pによる動作状態の推定処理の流れの一例を示す。
図11に示す推定処理は、コンピュータ本体100に電源投入されると、CPU102により実行される。
【0094】
まず、ステップS200では、補助記憶装置108の学習モデル108Mから上述した動作状態推定用に学習済みの学習モデル51を読み出し、RAM104に展開することで、学習モデル51を取得して学習モデル51を構築する。
【0095】
次に、ステップS202で、衣類Cの着用者の動作状態を推定する対象となる未知の入力データ4(電気特性)を、検出部118を介して時系列に取得する。かかる未知の入力データ4(電気特性)は、例えば、モーションキャプチャを行う人物が衣類Cを着用して動作をした場合の入力データ4(電気特性)である。ここで、未知の入力データ(電気特性)は、推定処理の実行期間中に衣類Cからリアルタイムで得られた入力データ(電気特性)であってもよいし、又、推定処理を実行する前に予め得ていた入力データ(電気特性)であってもよい。
【0096】
次に、ステップS204では、ステップS200で取得した学習モデル51を用いて、ステップS202において取得した入力データ4(電気特性)に対応する出力データ6(動作状態)を推定する。
【0097】
次のステップS206では、推定結果の出力データ6(動作状態)を、補助記憶装置108に出力又は出力部の一例である通信部114を介して出力して、本処理ルーチンを終了する。ここで、通信部114を介してパーソナルコンピュータなどの端末装置に出力される推定結果は、モーションキャプチャされたデータを含んでもよい。
【0098】
上述した
図11に示す推定処理は、本開示の推定方法で実行される処理の一例である。
【0099】
以上説明したように、本開示によれば、衣類Cの着用者が動作する未知の電気特性から、衣類Cの着用者の動きを推定することが可能となる。
【0100】
かかる衣類Cの着用者の動きを推定することが可能となることから、推定装置1によって、例えば、モーションキャプチャ機能を実現することが可能となる。衣類Cの着用者が様々な動き、例えば、腕を曲げる動作や足を曲げる動作をした場合に、その動きを推定して、当該動きをデータ化することが可能となる。
【0101】
また、衣類Cの着用者の動作状態の推定は、上述したモーションキャプチャ機能などに限らず、その他、例えば、生体認証による本人確認にも適用することが可能である。
【0102】
生体認証による本人確認に適用した場合について説明する。
生体認証による本人確認に適用した場合は、本人確認を行う者の学習データを収集して学習し、学習モデル51を生成する。例えば、人によって、左手を上げる(状態データ3:R1)という動作でも上げ方が異なることが知られている。すなわち、同じ、左手を上げる(状態データ3:R1)という動作を指示した場合であっても、肘の曲げ具合や上げる角度などの上げ方が異なり、生体認証による本人確認を行う者の動作の癖を学習することで、生体認証による本人確認を可能にする。
【0103】
具体的には、生体認証による本人確認は、例えば、入口などで、本人が予め定められた動作と同じ動作をした者にのみ通過することが可能なセキュリティがかけられている場合に、セキュリティがかけられている入口から入ることを希望する者や管理者が、予め動作、例えば「左手を上げる」、を定めておく。また、入口から入ることを希望する者の当該「左手を上げる」という動作を収集し、学習モデル51を生成しておく。そして、入口に来た者が、入口で予め定めた動作と同じ動作を行う。衣類Cから得られた未知の電気特性から推定された着用者の動作状態が、予め定めた動作、「左手を上げる」と適合するか否かと、動作をした者が本人であるか否かと、の適合性の判定をし、適合したと判定した場合は入口を開け、適合しない場合は入口を開けないなどの生体認証による本人確認をすることが可能となる。
【0104】
また、生体認証による本人確認に適用する場合は、上述した
図11のステップS206において、推定結果の出力データ6(動作状態)を、補助記憶装置108に出力又は出力部の一例である通信部114を介してスマートフォンなどの端末装置に出力する際に、本人確認の結果を出力してもよい。
【0105】
また、生体認証による本人確認に用いられる予め定められた動作は、複数の動作の組み合わせである場合を含む。すなわち、予め定められた動作が複数の動作の組み合わせである場合は、たまたま一致してしまうなどの不都合を防止することができ、生体認証による本人確認の精度を向上させることができる。
【0106】
ここまで、モーションキャプチャ機能や、生体認証による本人確認について説明したが、その他、例えば、手話などのジェスチャの推定に利用してもよい。
【0107】
手話の推定に利用する場合は、衣類Cとして、腕を覆う上着Uと手を覆う手袋とを少なくとも着用した着用者の学習データを収集する。そして、収集した学習データを学習する。学習データに衣類Cの着用者が手話を行った未知の入力データ4(電気特性)を入力し、通信部114を介してスマートフォンなどの携帯端末装置に推定結果を出力する。スマートフォンなどの携帯端末装置に出力される推定結果は、手話を言葉にしたデータ、例えば、手話で「こんにちは」を表現した場合は、「こんにちは」というテキストデータを含む。
【0108】
上述したように、本開示では、柔軟部材の一例として導電性ウレタンを適用した場合を説明したが、柔軟部材は導電性ウレタンに限定されないことは勿論である。
【0109】
また、本開示の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
【0110】
また、上記実施形態では、推定処理及び学習処理を、フローチャートを用いた処理によるソフトウエア構成によって実現した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば各処理をハードウエア構成により実現する形態としてもよい。
【0111】
また、推定装置の一部、例えば学習モデル等のニューラルネットワークを、ハードウエア回路として構成してもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 推定装置
2 対象物
3 状態データ
4 入力データ
5 推定部
6 出力データ
6A 生成出力データ
22 導電性ウレタン
51 学習モデル
52 学習処理部
54 生成器
56 演算器
75 検出点
76 電気特性検出部
C 衣類
U 上着
D ズボン