(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088175
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】生タイヤ製造方法、及び、生タイヤ製造装置
(51)【国際特許分類】
B29D 30/60 20060101AFI20230619BHJP
B29D 30/72 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
B29D30/60
B29D30/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202871
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 一三
【テーマコード(参考)】
4F215
【Fターム(参考)】
4F215AH20
4F215AR02
4F215VA02
4F215VC02
4F215VK02
4F215VK34
4F215VP11
(57)【要約】
【課題】エア溜りを低減することが可能な生タイヤ製造方法、及び、生タイヤ製造装置、を得る。
【解決手段】生タイヤ製造方法は、成形ドラム上でテキスタイルトリート32を周方向に巻き付け、巻付方向の両端部34A、34Bを重ね互いに接合させて接合部38を形成し、テキスタイルトリート32上に、接合部38を構成する両端部のうち径方向外側に位置する端部の段差36を乗り上げる方向でリボン46を巻付けてテキスタイルトリート32に積層する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形ドラム上で帯状体を周方向に巻き付け、巻付方向の両端部を重ねて互いに接合させて接合部を形成し、
前記帯状体上に、前記接合部を構成する前記両端部のうち径方向外側に位置する端部の段差を乗り上げる方向でリボンを巻付けて前記帯状体に積層する、
生タイヤ製造方法。
【請求項2】
前記成形ドラムの軸方向に沿った前記リボンの幅は15mm以上24mm以下である、請求項1に記載の生タイヤ製造方法。
【請求項3】
前記帯状体に対し前記リボンを、前記成形ドラムの軸方向の隣り合う前記リボンで前記リボンの幅の10%以上70%以下で前記リボンの幅方向の端部どうしを重ねて巻付ける、請求項1又は請求項2に記載の生タイヤ製造方法。
【請求項4】
前記成形ドラムの径方向に沿った前記リボンの厚みは1.0mm以上1.8mm以下である、請求項1~請求項3の何れか一項に記載の生タイヤ製造方法。
【請求項5】
前記成形ドラムの径方向に沿った前記段差の高さは1.0mm以上6.0mm以下である、請求項1~請求項4の何れか一項に記載の生タイヤ製造方法。
【請求項6】
前記成形ドラムの径方向に沿った押付圧を0.4MPa以上0.6MPa以下として前記帯状体に前記リボンを積層する、請求項1~請求項5の何れか一項に記載の生タイヤ製造方法。
【請求項7】
前記段差を乗り上げる方向に向けて重なり部分を押圧し前記帯状体を前記両端部で接合する、請求項1~請求項6の何れか一項に記載の生タイヤ製造方法。
【請求項8】
成形ドラムと、
前記成形ドラム上で帯状体を周方向に巻き付け、巻付方向の両端部を重ねて互いに接合させて接合部を形成する帯状体巻付装置と、
前記帯状体巻付装置によって前記成形ドラム上に巻き付けられた前記帯状体上に、前記接合部を構成する前記両端部のうち径方向外側に位置する端部の段差を乗り上げる方向でリボンを巻付けて前記帯状体に積層するリボン巻付装置と、
を有する生タイヤ製造装置。
【請求項9】
前記帯状体巻付装置は、前記段差を乗り上げる方向に向けて重なり部分を押圧し前記帯状体を前記両端部で接合する、請求項8に記載の生タイヤ製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示する技術は、生タイヤ製造方法、及び、生タイヤ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、リボン状ストリップをタイヤの円周方向に延在させて螺旋状に巻回してなる螺旋巻回構造体にて形成した少なくとも一層のスパイラルベルト層を備えた自動二輪車用空気入りタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気入りタイヤ、特に自動二輪車用空気入りタイヤでは、タイヤ幅方向の中央が外周側に向けて凸になるよう湾曲した形状とされる。すなわち、タイヤ中心軸を含む断面でみると、トレッド面が径方向外側に膨らむ形状に湾曲している。
【0005】
このような形状の空気入りタイヤの生タイヤを製造するにあたって、環状のケース(成形ドラム)上に帯状体(テキスタイルトリートと称されることがある)を周方向に外周に巻き付け、さらに巻き付けられた帯状体上にリボンを巻き付けて積層することがある。
【0006】
上記したようにタイヤ断面が湾曲形状であると、帯状体の巻付方法の両端部を突き合わせて接合することは難しい。このため、帯状体の巻付方法の両端部を重ね合わせて接合する構造が採られる。しかし、帯状体の巻付方法の両端部を重ね合わせると、接合部には段差が生じる。
【0007】
巻き付けられた帯状体上にリボンを巻き付けて積層する際に、上記の段差が生じていると、この段差によって帯状体とリボンの間に隙間、いわゆるエア溜りが生じるおそれがある。
【0008】
本願の目的は、エア溜りを低減することが可能な生タイヤ製造方法、及び、生タイヤ製造装置、を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一態様の生タイヤ製造方法では、成形ドラム上で帯状体を周方向に巻き付け、巻付方向の両端部を重ねて互いに接合させて接合部を形成し、前記帯状体上に、前記接合部を構成する前記両端部のうち径方向外側に位置する端部の段差を乗り上げる方向でリボンを巻付けて前記帯状体に積層する。
【0010】
この生タイヤ製造方法では、帯状体の巻付方向の両端部が重ねられ互いに接合されて接合部が形成される。したがって、帯状体の巻付方向の両端部を突き合わせて接合する構成と比較して強く接合できる。たとえば、タイヤ幅方向の中央が外周側に向けて凸になるよう湾曲した形状のタイヤであっても、帯状体の巻付方向の両端部を確実に接合できる。
【0011】
また、この生タイヤ製造方法では、成形ドラム上に巻付けられた帯状体上に、リボンを巻付けて積層する。この際、帯状体の接合部には、接合部を構成する両端部のうち径方向外側に位置する端部に段差が生じている。リボンを、段差を乗り上げる方向で巻付けるので、この逆方向、すなわち、段差を乗り下げる方向でリボンを巻付ける構成と比較して、段差にリボンが入り込みやすい。すなわち、段差によるエア溜りを低減することが可能である。
【0012】
第二態様では、前記成形ドラムの軸方向に沿った前記リボンの幅は15mm以上24mm以下である。
【0013】
リボンを帯状体上に積層する場合には、幅方向の中央部分を押圧する場合が多い。リボンの幅が24mm以下であることで、24mm超の場合と比較して、幅方向の両端部分、すなわち幅方向中央の押圧部分から離れた領域を少なくして、リボンを帯状体上に強く押圧できる面積を確保できる。これにより、隙間に確実にリボンを入り込ませることができる。
【0014】
また、リボンの幅が15mm以上であることで、15mm未満の場合と比較して、1回の巻付けあたりで巻付面積を広く確保できる。これにより、帯状体の外周をリボンで覆う場合の周回数を少なくし生産性を向上できる。
【0015】
第三態様では、前記帯状体に対し前記リボンを、前記成形ドラムの軸方向の隣り合う前記リボンで前記リボンの幅の10%以上70%以下で前記リボンの幅方向の端部どうしを重ねて巻付ける。
【0016】
リボンの重なり部分が幅の10%以上であることで、10%未満の場合と比較して、リボンの幅方向の重なり部分を広く確保できる。リボンの重なり部分が多くなるので、帯状体の段差に確実に入り込ませることができる。また、リボンの重なり部分が幅の70%以下であることで、70%超の場合と比較して、1回の巻付けで過度の重なりが生じないので、周回数を少なくし生産性を向上できる。
【0017】
第四態様では、前記成形ドラムの径方向に沿った前記リボンの厚みは1.0mm以上1.8mm以下である。
【0018】
リボンの厚みが1.0mm以上であることで、1.0mm未満の場合と比較して、隙間に入り込ませるのに十分な厚み、すなわち生ゴムの量を確保できる。また、リボンの厚みが1.8mm以下であることで、1.8mm超の場合と比較して、リボンの外周側に生じるリボン自体の重なり部分の段差が小さくなる。
【0019】
第五態様では、前記成形ドラムの径方向に沿った前記段差の高さは1.0mm以上6.0mm以下である。
【0020】
段差の高さが6.0mm以下であることで、6.0mm超の場合と比較して、段差が小さくなるので、段差によるエア溜りを小さくできる。また、この段差は、実質的に帯状体の厚みで形成されるので、段差の高さが1.0mm以上の構成は、実質的に帯状体の厚みも厚く確保されている。そして、帯状体の厚みが厚い場合であっても、段差によるエア溜りを低減できる。
【0021】
第六態様では、前記成形ドラムの径方向に沿った押付圧を0.4MPa以上0.6MPa以下として前記帯状体に前記リボンを積層する。
【0022】
リボンに対する押付圧が0.4MPa以上であることで、0.4MPa未満の場合と比較して、リボンを隙間に確実に入り込ませることができる。また、リボンに対する押付圧が0.6MPa以下であることで、0.6MPa超の場合と比較して、リボンへの過度の押付を抑制してリボンの変形を防止できる。
【0023】
第七態様では、前記段差を乗り上げる方向に向けて重なり部分を押圧し前記帯状体を前記両端部で接合する。
【0024】
重なりの段差を乗り上げる方向に向けて重なり部分を押圧するので、段差の面が、タイヤ径方向外側に向くように傾斜するように段差が形成される。これにより、段差にリボンが入り込みやすい段差の形状を形成できる。
【0025】
第八態様の生タイヤ製造装置では、成形ドラムと、前記成形ドラム上で帯状体を周方向に巻き付け、巻付方向の両端部を重ねて互いに接合させて接合部を形成する帯状体巻付装置と、前記帯状体巻付装置によって前記成形ドラム上に巻き付けられた前記帯状体上に、前記接合部を構成する前記両端部のうち径方向外側に位置する端部の段差を乗り上げる方向でリボンを巻付けて前記帯状体に積層するリボン巻付装置と、を有する。
【0026】
この生タイヤ製造装置では、帯状体巻付装置により、成形ドラム上で帯状体を周方向に巻き付ける。この際、帯状体巻付装置は、巻付方向の両端部を重ねて互いに接合させて接合部を形成する。したがって、帯状体の巻付方向の両端部を突き合わせて接合する構成と比較して強く接合できる。たとえば、タイヤ幅方向の中央が外周側に向けて凸になるよう湾曲した形状のタイヤであっても、帯状体の巻付方向の両端部を確実に接合できる。
【0027】
そして、リボン巻付装置により、帯状体上にリボンを巻付ける。帯状体の接合部には、接合部を構成する両端部のうち径方向外側に位置する端部に段差が生じている。リボン巻付装置は、段差を乗り上げる方向でリボンを巻付けるので、この逆方向、すなわち、段差を乗り下げる方向でリボンを巻付ける構成と比較して、段差にリボンが入り込みやすい。すなわち、段差によるエア溜りを低減することが可能である。
【0028】
第九態様では、前記帯状体巻付装置は、前記帯状体を前記両端部で接合する際に、前記段差を乗り上げる方向に向けて重なり部分を押圧する。
【0029】
帯状体巻付装置は、重なりの段差を乗り上げる方向に向けて重なり部分を押圧するので、段差の面が、タイヤ径方向外側に向くように傾斜するように段差が形成される。これにより、段差にリボンが入り込みやすい段差の形状を形成できる。
【発明の効果】
【0030】
本願では、エア溜りを低減することが可能な生タイヤ製造方法、及び、生タイヤ製造装置、が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は第一実施形態の生タイヤ製造装置を示す概略図である。
【
図2】
図2は第一実施形態の生タイヤ製造装置によって製造される生タイヤを示す断面図である。
【
図3】
図3は第一実施形態の生タイヤ製造装置によって構成されたテキスタイルトリートの接合部を拡大して示す概略断面図である。
【
図4】
図4は第一実施形態の生タイヤ製造装置のリボン巻付装置を部分的に拡大して示す概略図である。
【
図5】
図5は第一実施形態の生タイヤ製造装置によって構成されたリボンの巻付部分を拡大して示す概略断面図である。
【
図6】
図6は第一実施形態の生タイヤ製造装置によって構成されたリボンの重ね合わせ部分を拡大して示す概略断面図である。
【
図7】
図7は第一比較例の生タイヤ製造装置によって構成されたリボンの巻付部分を拡大して示す概略断面図である。
【
図8】
図8は第二実施形態の生タイヤ製造装置によって構成されたテキスタイルトリートの接合部を拡大して示す概略断面図である。
【
図9】
図9は第二比較例の生タイヤ製造装置によって構成されたテキスタイルトリートの接合部を拡大して示す概略断面図である。
【
図10】
図10は本願の開示の技術に係るリボン巻付装置の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本願の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0033】
図1には、第一実施形態の生タイヤ製造装置22が示されている。また、
図2には、生タイヤ製造装置22によって製造される生タイヤ12が示されている。この生タイヤ12は、自動二輪車用空気入りタイヤの製造過程で得られる生タイヤであり、タイヤ中心軸を含む断面で見て、タイヤ幅方向(矢印W1方向)中央が外側に向けて(矢印S1方向に)凸になるよう湾曲した形状である。
【0034】
図1に示すように、第一実施形態の生タイヤ製造装置22は、テキスタイルトリート巻付装置24及びリボン巻付装置26を有している。テキスタイルトリート巻付装置24は、帯状態巻付装置の一例である。
【0035】
テキスタイルトリート巻付装置24では、生タイヤ12の製造に用いる成形ドラム28(
図1右側に示すリボン巻付装置26を参照)が、図示しない回転駆動装置によって、一定方向に回転するようになっている。この成形ドラム28を、回転中心軸を含む断面で見ると、成形ドラム28の外周部分は、生タイヤ12(
図2参照)に対応して、幅方向中央が外側に向けて凸になるよう湾曲している。なお、成形ドラム28の軸方向は、タイヤ幅方向(矢印W1方向)と一致している。
【0036】
成形ドラム28上には、図示しない供給装置により、テキスタイルトリート32が供給され、巻付ローラ30によって、周方向に巻き付けられる。テキスタイルトリート32は帯状態の一例である。巻付ローラ30の幅は、テキスタイルトリート32の幅よりも広い。
【0037】
テキスタイルトリート32は、たとえば、成形ドラム28の外周面に沿った方向に伸びる長尺状の部材であり、長手方向に引張されながら成形ドラム28上に巻き付けられる。この場合、テキスタイルトリート32の長さは、成形ドラム32の外周面の長さより短くてよいが、成形ドラム28の外周面の長さよりも巻付方向に長いテキスタイルトリート32であってもよい。そして、
図3に示すように、巻付方向の両端部(始端部34Aと終端部34B)で重ね合わせられる。重ね合わせ部分は、さらに次工程において、押圧ローラ31により押圧されて接合され、接合部38が形成される。接合部38ではテキスタイルトリート32が、成形ドラム28の内周側に位置する下層トリート32Lと、外周側に位置する上層トリート32Uを有する二層になっている。また、終端部34Bは、テキスタイルトリート32における段差36となっている。
【0038】
なお、第一実施形態では、押圧ローラ31による重ね合わせ部分の押圧方向は、テキスタイルトリート32の厚み方向(矢印T1方向)の成分が多い。したがって、押圧ローラ31によって重ね合わせ部分を押圧した後の状態で、終端部34Bは下層トリート32Lに対し、略垂直に立ち上がっている。また、
図1に示す例では、押圧ローラ31の幅はテキスタイルトリート32の幅よりも狭いが、この場合は、押圧ローラ31を成形ドラム28の幅方向に移動させつつ重ね合わせ部分を押圧することで、幅方向の全体にわたって重ね合わせ部分を接合して接合部38を形成できる。
【0039】
このように、テキスタイルトリート32が巻き付けられた成形ドラム28は、次に、
図1に示すようにリボン巻付装置26に送られる。
【0040】
リボン巻付装置26は、押出機40、保持ローラ42、延伸ローラ44を有している。また、リボン巻付装置26においても、成形ドラム28は、図示しない回転駆動装置によって、一定方向(矢印R2方向)に回転するようになっている。
【0041】
押出機40は、後述するリボン46を構成する生ゴム48を押出口金50から押し出す。保持ローラ42は、成形ドラム28に対し一定間隔をあけて配置されている。そして、保持ローラ42は、成形ドラム28と反対方向に、図示しない回転駆動装置で回転するようになっている。
【0042】
押出口金50から押し出された生ゴム48は、保持ローラ42と延伸ローラ44との間で所定の幅及び厚みに延伸されて帯状のリボン46とされる。このリボン46は、保持ローラ42と成形ドラム28との間に送られる。そして、リボン46は、保持ローラ42によって保持されつつ、成形ドラム28の矢印R2方向の回転に伴ってテキスタイルトリート32上に周方向に巻付けられる。なお、延伸ローラ44がない構成であってもよい。
【0043】
ここで、成形ドラム28は矢印R2方向に回転しており、リボン46の巻付方向は、リボン46が段差36に乗り上げる方向(矢印M1方向)である。この「段差36を乗り上げる方向」、とは、下層トリート32Lから上層トリート32Uへリボン46が順に積層される方向でもある。
【0044】
リボン46の幅W2(
図6参照)は生タイヤ12の幅よりも狭いが、リボン46は長手方向、すなわち押出口金50からの押出方向には連続している。リボン巻付装置26では、リボン46は、タイヤ幅方向における巻付位置を所定速度で移動されつつ、テキスタイルトリート32上で螺旋状に複数回巻き付けて積層される。このようにして、リボン46は、テキスタイルトリート32の外周側を覆うことが可能である。なお、このリボン46の幅W2は、リボン46の長手方向と直交する方向の長さである。また、この幅W2は、成形ドラム28の軸方向に沿ったリボン46の長さであり、押出方向と直交する方向の長さでもある。
【0045】
次に、第一実施形態の作用を説明する。
【0046】
第一実施形態の生タイヤ製造装置22では、テキスタイルトリート巻付装置24によって成形ドラム28上にテキスタイルトリート32が巻き付けられる。
【0047】
このようにテキスタイルトリート32が巻き付けられた状態で、テキスタイルトリート32の重ね合わせ部分は、押圧ローラ31により押圧されて接合(ステッチング)され、
図3に示すように接合部38が形成される。したがって、たとえばテキスタイルトリート32の始端部34A及び終端部34Bを重ねることなく単に突き合わせて接合した構造と比較して、強く接合することが可能である。特に、第一実施形態のような自動二輪車用空気入りタイヤの生タイヤでは、
図2に示すようにタイヤ外周面がタイヤ幅方向に湾曲しているので、テキスタイルトリート32の両端部(始端部34A及び終端部34B)を突き合わせて接合することは難しい場合が多い。これに対し、テキスタイルトリート32を両端部で重ね合わせるようにすれば、テキスタイルトリート32を始端部34A及び終端部34Bで強く接合できる。
【0048】
テキスタイルトリート32をこのように重ね合わせて接合部38を形成すると、テキスタイルトリート32には、終端部34Bにおいて、
図3に示すように段差36が生じる。
【0049】
リボン巻付装置26では、
図4及び
図5に示すように、テキスタイルトリート32上に、リボン46を巻付ける。成形ドラム28は矢印R2方向に回転しており、リボン46は、段差36を乗り上げる方向(矢印M1方向)でテキスタイルトリート32に巻き付けられる。これにより、リボン46を構成している生ゴムの一部が、テキスタイルトリート32との間に生じている隙間Gに入り込み、この隙間Gが小さくなる。
【0050】
ここで、
図7には、第一比較例の生タイヤ製造装置における段差36とリボン46の巻付方向との関係が示されている。
【0051】
第一比較例では、成形ドラム28の回転方向(矢印R2で示す方向)が、
図5に示す第一実施形態の場合と逆であり、リボン46の巻付方向(矢印M2方向)が、段差36を乗り下げる方向である。すなわちリボン46は、上層トリート32Uから下層トリート32Lへ順に積層される方向に巻き付けられる。したがって、隙間Gにおいて、リボン46には段差36から離れる方向の力が作用し、隙間Gが大きくなる。このように隙間Gが大きくなることで、段差36によるエア溜りも大きくなる。
【0052】
これに対し、第一実施形態では、リボン46の巻付方向が、
図5に矢印M1で示すように、段差36を乗り上げる方向である。したがって、隙間Gの部分のリボン46には、段差36に近づく方向の力が作用し、隙間Gが生じる部分にリボン46の生ゴムが入り込む結果、隙間Gが小さくなる。第一実施形態ではこのように隙間Gが小さくなるので、比較例の場合よりも、段差36によるエア溜りも小さくなる。
【0053】
特に、第一実施形態では、リボン巻付装置26における成形ドラム28の回転方向(矢印R2方向)が設定されれば、リボン46の巻付方向としては、成形ドラム28の回転方向の反対方向として容易に決定できる。
【0054】
次に、第二実施形態について説明する。第二実施形態において、第一実施形態と同様の要素、部材等については同一符号を付して、詳細な説明を省略する。また、第二実施形態の生タイヤ製造装置の全体的構成は第一実施形態と同様であるので、図示を省略する。
【0055】
第二実施形態では、テキスタイルトリート巻付装置の構成が第一実施形態と異なる。具体的には、第二実施形態では、
図8に部分的に示すように、第一実施形態と比較して、押圧ローラ31による押圧方向(テキスタイルトリート32の重ね合わせ部分を押圧する方向)として、段差36を乗り上げる方向(矢印M1方向)の成分をより大きく持つようになっている。
【0056】
たとえば、接合部38を接合する際には成形ドラム28を
図1に示す矢印R1方向に回転させつつ押圧ローラ31で接合部38を押圧する。この場合に、成形ドラム28の回転速度として十分な回転速度を有するようにすれば、相対的に押圧ローラ31は矢印M1方向の押圧成分をより多く持つことになる。また、図示しないバネ等により、押圧ローラ31の中心軸を矢印M1方向に付勢するようにしてもよい。これらにより、押圧ローラ31の押圧方向に矢印M1方向の成分を持たせることが可能である。
【0057】
第二実施形態では、これにより、段差36を形成している面、すなわち終端部34Bが、タイヤ径方向外側に向くように傾斜する。
【0058】
ここで、
図9には、第二比較例のテキスタイルトリート巻付装置によって接合されたテキスタイルトリート32の接合部が示されている。
【0059】
第二比較例では、押圧ローラ31による押圧方向が、段差36を乗り下げる方向(矢印M2方向)の成分をより大きく持つようになっている。したがって、段差36を形成している面、すなわち終端部34Bが、タイヤ径方向内側に向くように傾斜する。換言すれば、終端部34Bの傾斜角θが鋭角になる。このため、リボン巻付装置26(
図1参照)によってリボン46を巻付ける場合に、リボン46を構成している生ゴムが隙間G(
図5参照)に入り込みにくい。
【0060】
これに対し、第二実施形態では、
図8に示すように、テキスタイルトリート32の終端部34Bの傾斜角θが鈍角になる。このため、リボン巻付装置26(
図1参照)によってリボン46を巻付ける場合に、リボン46を構成している生ゴムが隙間G(
図5参照)に入り込みやすくなり、エア溜りがより小さくなっている構造を実現することが可能である。
【0061】
なお、本願の開示の技術において、種類の異なるリボン46をテキスタイルトリート32上に巻き付けることがある。たとえば、
図2に示す生タイヤ12はこのように種類の異なるリボン46が巻き付けられた一例である。具体的には、タイヤ幅方向中心部12Mから図面左側のショルダー部12Lまでの部分と、図面右側のショルダー部12Rとで、リボン46の巻付方向が異なっている。
【0062】
このような生タイヤ12を製造する場合、
図10に示す変形例のように、リボン巻付装置26において、追加の押出機60が、成形ドラム28の径方向で押出機40の反対側に配置されることがある。対向する押出機60から送られるリボン46をテキスタイルトリート32に巻き付ける際は、成形ドラム28は矢印R3方向に回転される。したがって、リボン46は、テキスタイルトリート32に対し段差36を乗り下げる方向(
図3に示す上層トリート32Uから下層トリート32Lへ向かう方向)でテキスタイルトリート32に巻き付けられる。
【0063】
このように、リボン46の巻付方向として、段差36を乗り上げる方向と乗り下げる方向とが併存する場合は、たとえば、最終的に得られる自動二輪車用空気入りタイヤの使用状態を考慮して、リボン46の適切な巻付方向を設定すればよい。一例として、自動二輪車用空気入りタイヤでは、タイヤ幅方向中心部分は、直線走行時、すなわち高速での走行時に接地する部分である。したがって、タイヤ幅方向中心部分において、段差36を乗り上げる方向にリボン46が巻き付けられるように、巻付方向(成形ドラム28の回転方向)を設定すればよい。
【0064】
本願の開示の技術において、段差36の高さ、リボン46の幅W2、厚みT2、オーバーラップ率及びリボン46への押付圧は、一例として表1に掲げる範囲とすることが可能である。なお、ここで言うオーバーラップ率とは、
図6に示すように、タイヤ中心線を含む断面で見て、リボン46の幅W2に対し重なっている部分W3の長さの割合である。また、リボン46への押付圧とは、リボン46からテキスタイルトリート32の重なり部分に作用する、成形ドラム28の径方向に沿った圧力である。
【0065】
【0066】
たとえば、リボン46を保持ローラ42によってテキスタイルトリート32上に積層する場合、保持ローラ42の外周面は円筒状であるのに対し、成形ドラム28の外周面は外周側に凸に湾曲している。したがって、リボン46の幅が太いとリボン46の幅方向両側部分を押圧によりテキスタイルトリート32に接触させることが難しくなる。リボン46の幅を24mm以下とすることで、24mm超の場合と比較して、リボン46の幅方向両端部分、すなわち幅方向中央の押圧部分から遠い領域を少なくして、リボン46をテキスタイルトリート32上に強く押圧できる面積を確保できる。これにより、隙間Gに確実にリボン46の生ゴムを入り込ませることができる。
【0067】
また、リボン46の幅W2を15mm以上とすることで、15mm未満の場合と比較して、1回の巻付けあたりで巻付面積を広く確保できる。これにより、テキスタイルトリート32の外周をリボン46で覆う場合の周回数を少なくし、生産性を向上できる。
【0068】
また、オーバーラップ率、すなわちリボン46の幅方向での重なり部分の比率を幅W2の10%以上とすることで、10%未満の場合と比較して、リボン46の幅方向の重なり部分を広くなる。リボン46の重なり部分が多いので、隙間Gに確実に入り込ませるために十分な量の生ゴムをリボン46において確保できる。また、リボン46のオーバーラップ率を70%以下とすることで、70%超の場合と比較して、1回の巻付けで過度に重なり部分が生じないので、リボン46の周回数を少なくし、生産性を向上できる。なお、ここでいう「重なり部分」とは、成形ドラム28の幅方向で隣り合うリボン46(たとえば幅方向でn番目のリボン46と(n+1)番目のリボン46)とで、これら2つのリボン46の幅方向での端部どうしが重なっている部分である。
【0069】
リボン46の厚みT2としては、1.0mm以上とすることで、1.0mm未満の場合と比較して、隙間Gに入り込ませるのに十分なリボン46の厚み、すなわち生ゴム48の量を確保できる。また、リボン46の厚みを1.8mm以下とすることで、1.8mm超の場合と比較して、リボン46の外周側に生じるリボン46自体の重なり部分の段差が小さくなる。
【0070】
段差36の高さとしては、6.0mm以下とすることで、6.0mm超の場合と比較して、段差が小さくなる。これにより、段差36による生じるエア溜りを小さくできる。また、この段差36は、実質的にテキスタイルトリート32の厚みで形成される。したがって、段差36の高さが1.0mm以上の構成は、実質的にテキスタイルトリート32の厚みも厚く確保されている構成である。そして、テキスタイルトリート32の厚みをこのように厚くした構成であっても、本願の開示の技術では、段差36によるエア溜りを低減できる。
【0071】
保持ローラ42によるリボン46への押付圧(リボン46をテキスタイルトリート32に押し付ける圧力)としては、0.4MPa以上とすることで、0.4MPa未満の場合と比較して、リボン46を隙間Gに確実に入り込ませることができる。また、リボン46への押付圧を0.6MPa以下とすることで、0.6MPa超の場合と比較して、リボン46に対する過度の押付を抑制してリボン46の変形を防止できる。ただし、保持ローラ42によるリボン46への押付圧は、0.4MPa以上0.6MPa以下が好ましいが、この範囲に限定されるものではない。要するに、リボン46を隙間Gに確実に入り込ませることが可能であればよく、たとえば、押付圧が0.4MPa未満であってもよい。また、リボン46を隙間Gに確実に入り込ませるために、0.6MPa超の押付圧とする場合もあり得る。
【0072】
上記した段差36の高さ、及びリボン46に関する各数値は、それぞれの範囲内において、適宜に組み合わせ可能である。たとえば、段差36の高さが6mmの場合であっても、リボン46の厚みが1.0mm以上であれば、隙間Gに入り込ませるのに十分なリボン46の厚みを確保可能である。また、段差36の高さが1mmの場合で、且つリボン46の厚みが1.8mm以上の場合であっても、リボン46の外周側に生じるリボン46自体の重なり部分の段差は、生タイヤ12として許容できる範囲内に留めることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
12…生タイヤ、22…生タイヤ製造装置、24…テキスタイルトリート巻付装置、26…リボン巻付装置、28…成形ドラム、30…巻付ローラ、31…押圧ローラ、32…テキスタイルトリート、32L…下層トリート、32U…上層トリート、34A…始端部、34B…終端部、36…段差、38…接合部、46…リボン、48…生ゴム