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特開2023-88183リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法
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  • 特開-リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法 図1
  • 特開-リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法 図2
  • 特開-リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088183
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20230619BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230619BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20230619BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20230619BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
C01B32/21
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202881
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳穂
(72)【発明者】
【氏名】山本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】干川 康人
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA02
4G146AA19
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC07B
4G146AC22B
4G146AC30B
4G146AD02
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA18
4G146BA22
4G146BC34B
4G146CB01
4G146CB10
4G146CB11
4G146CB23
4G146CB33
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA17
5H050CB08
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA01
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA29
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】初期効率が高く且つ充放電レート特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材を提供すること。
【解決手段】高速気流により黒鉛粒子同士を衝突させる表面衝突処理を行うことにより、該黒鉛粒子の表面に溝状の凹部を形成させて、表面衝突処理後の黒鉛粒子を得る表面衝突処理工程と、該表面衝突処理後の黒鉛粒子と、非晶質炭素材原料と、を混合し、該表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面を、該非晶質炭素材原料で被覆し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、該非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を、800~1200℃で焼成する焼成工程と、を有し、式(1):表面粗度増加率C(%)=((表面粗度R-表面粗度R)/表面粗度R)×100(1)で算出される表面粗度増加率Cが、1.0%以上であること、P/C比が0.012~0.078であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速気流により黒鉛粒子同士を衝突させる表面衝突処理を行うことにより、該黒鉛粒子の表面に溝状の凹部を形成させて、表面衝突処理後の黒鉛粒子を得る表面衝突処理工程と、
該表面衝突処理後の黒鉛粒子と、非晶質炭素材原料と、を混合し、該表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面を、該非晶質炭素材原料で被覆し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
該非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を、800~1200℃で焼成する焼成工程と、
を有し、
該表面衝突処理工程において、下記式(1):
表面粗度増加率C(%)=((表面粗度R-表面粗度R)/表面粗度R)×100 (1)
(式中、表面粗度Rは、表面衝突処理前の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBA(m/g)に対する表面衝突処理前の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAA(m/g)の比(SAA/SBA)である。表面粗度Rは、表面衝突処理後の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBB(m/g)に対する表面衝突処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m/g)の比(SAB/SBB)である。)
で算出される表面粗度増加率Cが、1.0%以上であること、
該被覆工程において、非晶質炭素材原料の混合量が、表面粗度増加率C(%)に対する表面衝突処理後の黒鉛粒子の混合量1.00kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)の比(P/C)が0.012~0.078となる量であること、
を特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項2】
前記表面衝突処理前のBET法で求められる黒鉛粒子の比表面積SAA(m/g)に対する前記表面衝突処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m/g)の比(SAB/SAA)が、1.01~1.56であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項3】
前記表面衝突処理工程において、高圧の気体を噴射ノズルより噴出させることによって生じるジェット気流により、前記黒鉛粒子を加速させ、加速させた黒鉛粒子同士を衝突させることにより、前記表面衝突処理を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項4】
前記表面衝突処理工程において、対向する2つの羽を高速で回転させることによって生じる高速気流により、前記黒鉛粒子を加速させ、加速させた黒鉛粒子同士を衝突させることにより、前記表面衝突処理を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項5】
前記表面衝突処理工程において、内壁面に形成された溝を有する円筒状のライナーの内側で、該ライナーの内側に回転可能に設置され、外周面に形成された溝を有する円柱状のローターを回転させることによって生じる高速渦流中で、前記黒鉛粒子同士を衝突させることにより、前記表面衝突処理を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項6】
前記非晶質炭素材原料が、コールタールピッチ、石油ピッチ、タール、重質油及びフェノール樹脂からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項7】
前記表面衝突処理工程において、前記表面衝突処理前の黒鉛粒子の平均粒子径(D50)が5.0~30.0μmであることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、パソコン等の多くの機器に搭載され、高容量で、高電圧、小型軽量である点から多様な分野で利用されるようになっている。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池は、車載用途の需要が急激に高まっており、車載用に求められる特性としては、高容量で、高寿命かつ高入出力であり、かつこれらの特性のバランスに優れていることが求められている。このため、エネルギー密度が高くかつ膨張収縮が小さい負極材が必要とされ、これらの特性を満たす負極材として黒鉛粒子製のものが広く利用されるようになっている。
【0004】
そして、このような黒鉛粒子を用いるリチウムイオン二次電池用負極材の性能向上を目的として、黒鉛粒子を複合化した種々の複合粒子が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、人造黒鉛からなる芯材と、非粉体状の非晶質炭素材料及び粉体状の導電性炭素材料を含み前記芯材を被覆する被覆層とを有する複合黒鉛粒子であって、前記芯材の質量に対する前記非粉体状の非晶質炭素材料の質量の割合が0.2~3.8質量%であり、前記芯材の質量に対する前記粉体状の導電性炭素材料の質量の割合が0.3~5.0質量%である複合黒鉛粒子が開示されている。特許文献2によれば、リチウムイオン二次電池の入出力特性が向上させることができることが記載されている。
【0006】
そして、近年、リチウムイオン二次電池用負極材には、充放電容量が高いこと、初期効率が高いこと、充放電効率が高いこと、充放電レート特性に優れること等の種々の性能が要求される。
【0007】
これらの性能のうち、充放電レート特性は、リチウムイオン二次電池の急速充放電を実現するために重要な性能である。負極材の充放電レート特性を向上させるための技術としては、例えば、特許文献2には、黒鉛粒子の表面に複数の硬質粒子が埋設されており、前記硬質粒子は、前記黒鉛粒子よりも粒径が小さく且つ硬質であり、更に、前記硬質粒子の埋設された前記黒鉛粒子の表面が非晶質炭素層によって被覆されているリチウムイオン二次電池用負極材が開示されている。特許文献2では、硬質粒子及び黒鉛粒子を摩砕装置に入れて混合し、それらの粒子に、衝撃力、せん断力等を付与する処理が行なわれることにより、特許文献2のリチウムイオン二次電池用負極材では、硬質粒子の一部が黒鉛粒子に埋設され、そのことにより、黒鉛粒子の表面に、リチウムイオンが黒鉛粒子へ出入り可能な亀裂が形成されており、このことにより、特許文献2では、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電レート特性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2018/110263号
【特許文献2】特開2018-49769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電レート特性の向上への要求は増々高まっており、特許文献2のリチウムイオン二次電池用負極材よりも、更に充放電レート特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材が求められている。
【0010】
また、リチウムイオン二次電池用負極材には、初期の充電容量が放電容量より大きくなる、すなわち、初期効率が低くなると、SEI膜の生成で消費されるリチウムイオン量が増大し、電池性能が低下するため、初期効率が高いことも要求されている。一方、充放電レート特性を高めるにはリチウムイオンが負極材活物質に入る反応の抵抗を下げる必要がある。リチウムイオンの反応抵抗はリチウムイオンの反応サイトを増やすことで低下するため、活物質の表面積を増やせば反応サイトが増え、反応抵抗は低下する。しかし、活物質の表面積を増やすとSEI膜の生成量も増えるため、初期効率が低下する。
【0011】
つまり、高い初期効率と低い反応抵抗は負極材活物質の表面積に対してトレードオフの関係であるため、その相反した関係から外れた材料、すなわち、初期効率が高く且つ反応抵抗が低い材料が必要となる。
【0012】
従って、本発明の目的は、初期効率が高く且つ反応抵抗が低いリチウムイオン二次電池用負極材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記技術背景の下、本発明者は、鋭意検討重ねたところ、(1)黒鉛粒子の表面を非晶質炭素で被覆する前に、高速気流により黒鉛粒子同士を衝突させて、黒鉛粒子の黒鉛層の一部を剥離させ、黒鉛粒子表面に溝状の凹部を形成させる表面衝突処理を行なうことにより、黒鉛表面に隙間が形成されて、Liイオンが黒鉛活物質内部にアクセスし易くできること、そのため、(2)表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面を、非晶質炭素材原料で被覆し、次いで、焼成し、非晶質炭素材原料を炭化して得られるリチウム二次電池用負極材は、初期効率が高く、且つ、リチウムイオン伝導性が高められて、負極の抵抗が低減されるので、優れた充放電レート特性を有すること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明(1)は、高速気流により黒鉛粒子同士を衝突させる表面衝突処理を行うことにより、該黒鉛粒子の表面に溝状の凹部を形成させて、表面衝突処理後の黒鉛粒子を得る表面衝突処理工程と、
該表面衝突処理後の黒鉛粒子と、非晶質炭素材原料と、を混合し、該表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面を、該非晶質炭素材原料で被覆し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
該非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を、800~1200℃で焼成する焼成工程と、
を有し、
該表面衝突処理工程において、下記式(1):
表面粗度増加率C(%)=((表面粗度R-表面粗度R)/表面粗度R)×100 (1)
(式中、表面粗度Rは、表面衝突処理前の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBA(m/g)に対する表面衝突処理前の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAA(m/g)の比(SAA/SBA)である。表面粗度Rは、表面衝突処理後の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBB(m/g)に対する表面衝突処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m/g)の比(SAB/SBB)である。)
で算出される表面粗度増加率Cが、1.0%以上であること、
該被覆工程において、非晶質炭素材原料の混合量が、表面粗度増加率C(%)に対する表面衝突処理後の黒鉛粒子の混合量1.00kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)の比(P/C)が0.012~0.078となる量であること、
を特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(2)は、前記表面衝突処理前のBET法で求められる黒鉛粒子の比表面積SAA(m/g)に対する表面衝突処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m/g)の比(SAB/SAA)が、1.01~1.56であることを特徴とする(1)のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(3)は、前記表面衝突処理工程において、高圧の気体を噴射ノズルより噴出させることによって生じるジェット気流により、前記黒鉛粒子を加速させ、加速させた黒鉛粒子同士を衝突させることにより、前記表面衝突処理を行うことを特徴とする(1)又は(2)のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(4)は、前記表面衝突処理工程において、対向する2つの羽を高速で回転させることによって生じる高速気流により、前記黒鉛粒子を加速させ、加速させた黒鉛粒子同士を衝突させることにより、前記表面衝突処理を行うことを特徴とする(1)又は(2)のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(5)は、前記表面衝突処理工程において、内壁面に形成された溝を有する円筒状のライナーの内側で、該ライナーの内側に回転可能に設置され、外周面に形成された溝を有する円柱状のローターを回転させることによって生じる高速渦流中で、前記黒鉛粒子同士を衝突させることにより、前記表面衝突処理を行うことを特徴とする(1)又は(2)のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明(6)は、前記非晶質炭素材原料が、コールタールピッチ、石油ピッチ、タール、重質油及びフェノール樹脂からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)乃至(5)いずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(7)は、前記表面衝突処理工程において、前記表面衝突処理前の黒鉛粒子の平均粒子径(D50)が5.0~30.0μmであることを特徴とする(1)乃至(6)いずれかのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、初期効率が高く且つ反応抵抗が低いリチウムイオン二次電池用負極材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1の表面衝突処理した後の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
図2】実施例1で得られたリチウムイオン二次電池用負極材の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
図3】実施例1に用いた表面衝突処理する前の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、高速気流により黒鉛粒子同士を衝突させる表面衝突処理を行うことにより、該黒鉛粒子の表面に溝状の凹部を形成させて、表面衝突処理後の黒鉛粒子を得る表面衝突処理工程と、
該表面衝突処理後の黒鉛粒子と、非晶質炭素材原料と、を混合し、該表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面を、該非晶質炭素材原料で被覆し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
該非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を、800~1200℃で焼成する焼成工程と、
を有し、
該表面衝突処理工程において、下記式(1):
表面粗度増加率C(%)=((表面粗度R-表面粗度R)/表面粗度R)×100 (1)
(式中、表面粗度Rは、表面衝突処理前の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBA(m/g)に対する表面衝突処理前の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAA(m/g)の比(SAA/SBA)である。表面粗度Rは、表面衝突処理後の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBB(m/g)に対する表面衝突処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m/g)の比(SAB/SBB)である。)
で算出される表面粗度増加率Cが、1.0%以上であること、
該被覆工程において、非晶質炭素材原料の混合量が、表面粗度増加率C(%)に対する表面衝突処理後の黒鉛粒子の混合量1.00kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)の比(P/C)が0.012~0.078となる量であること、
を特徴とする。
【0024】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材について、図1図3を用いて説明する。図1は、表面衝突処理した後の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)であり、また、図2は、表面衝突処理した黒鉛粒子を、ピッチで被覆し、次いで、焼成して得られるリチウムイオン二次電池用負極材の走査型電子顕微鏡写真(SEM)であり、また、図3は、表面衝突処理する前の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【0025】
図1中の黒鉛粒子は、高速気流により黒鉛粒子同士を衝突させて、表面衝突処理を行なった後の黒鉛粒子である。図3の表面衝突処理を行う前の黒鉛粒子と対比すると、図1の表面衝突処理した後の黒鉛粒子の表面の溝状の凹部が、表面衝突処理前に比べ、増加していることがわかる。そして、図2中のリチウムイオン二次電池用負極材は、図1中の表面衝突処理後の黒鉛粒子と非晶質炭素材原料であるピッチを混合することにより、表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面を、ピッチで被覆し、次いで、焼成して得られたものである。図2中のリチウムイオン二次電池用負極材には、表面衝突処理を行い形成された溝状の凹部に由来する溝状の凹部が存在している。図1図2の対比でわかるように、ピッチによる黒鉛粒子の表面の被覆では、表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面に形成された溝状の凹部は、ピッチにより完全に埋められるのではなく、溝状に凹んでいる部分が残存する程度に、溝状の凹部の表面がピッチで被覆される。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、表面衝突処理工程と、被覆工程と、焼成工程と、を有する。
【0027】
表面衝突処理工程は、高速気流により黒鉛粒子同士を衝突させる表面衝突処理を行うことにより、黒鉛粒子の表面に溝状の凹部を形成させて、表面衝突処理後の黒鉛粒子を得る工程である。
【0028】
表面衝突処理工程において、表面衝突処理前の黒鉛粒子は、球状化された黒鉛であり、扁平状の黒鉛が球状に凝集したものである。黒鉛粒子は、天然黒鉛であっても、人造黒鉛であってもよい。
【0029】
表面衝突処理工程において、表面衝突処理前の黒鉛粒子の平均粒子径(D50)は、好ましくは5.0~30.0μmである。黒鉛粒子の平均粒子径(D50)が5.0~30.0μmであることにより、反応比表面積が増加することにより反応抵抗が下がり、加えて、黒鉛粒子内のリチウムイオンの移動速度も速くなる。黒鉛粒子の平均粒子径(D50)は、初回充電時の不可逆容量増大の抑制が可能となる点で、より好ましくは7.0μm以上であり、また、更に高速充放電性能が向上する点で、より好ましくは25.0μm以下、更に、高速充放電性能が向上する点で、特に好ましくは20.0μm以下である。
【0030】
なお、本発明において、黒鉛粒子の平均粒子径(D50)は、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて得られる粒度分布における体積換算の積算50%の粒子径(D50)を指す。レーザー回折粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所社製、LA-960)を用い、蒸留水100質量部に対し、10質量部の両性界面活性剤を添加した水溶液に対し、測定対象の黒鉛粒子を超音波で分散させ、分散させた黒鉛粒子を、レーザー回折粒度分布測定装置内の測定セルにフローし、光源として半導体レーザー(650nm)を照射して、散乱光をリング状検出器で検出、解析することで、黒鉛粒子の粒度分布を得、得られた粒度分布より、体積換算の積算50%の粒子径(D50)を平均粒子径として求める。
【0031】
表面衝突処理前の黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)は、0.3360nm以下である。黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)が、0.3360nm以下であることにより、可逆容量が十分に大きくなる。黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)は、更に可逆容量が大きくなる点で、好ましくは0.3358nm以下である。
【0032】
なお、本発明において、平均格子面間隔d(002)は、X線回折装置((株)リガク製UltimaIV)を用い、Cu-Kα線をNiフィルターで単色化したX線を使用して、高純度シリコンを標準物質として粉末X線回折法で測定を行い、得られた炭素(002)面の回折ピークの強度と半値幅より、日本学術振興会第117委員会によって定められた学振法に従って求めた値である。
【0033】
表面衝突処理前の黒鉛粒子のBET法による比表面積は、好ましくは1.0~9.0m/gである。表面衝突処理前の黒鉛粒子のBET比表面積が、1.0m/g以上であることにより黒鉛粒子表面のリチウムイオン反応サイトが増え、反応抵抗が低くなり、また、9.0m/g以下であることにより黒鉛粒子の内部の密度が増え、リチウム金属の内部析出が抑制され、初期効率が高くなる。
【0034】
表面衝突処理前の黒鉛粒子のタップ密度は、好ましくは0.5~1.2g/cmである。黒鉛粒子のタップ密度が、0.5g/cm以上であることにより、電極膜内に黒鉛粒子が充填され易くなり、また、1.2g/cm以下であることにより、急速充電向けの低密度電極でも負極材活物質粒子間の導電パスが形成し易くなる。
【0035】
表面衝突処理工程では、高速気流により、言い換えると、高速気流を発生させる装置を用いて、黒鉛粒子同士を衝突させて、表面衝突処理を行なうことにより、黒鉛粒子の黒鉛層の一部が剥離し、黒鉛粒子の表面に溝状の凹部が形成される。
【0036】
表面衝突処理工程において、表面衝突処理に用いる装置及び処理条件は、高速気流により黒鉛粒子同士を衝突させて、黒鉛粒子の黒鉛層の一部を剥離させ、黒鉛粒子表面に溝状の凹部を形成させ、表面粗度増加率Cが所定の範囲にある黒鉛粒子を得ることができるものであれば、特に制限されない。そして、処理条件を選択することにより、黒鉛粒子の表面粗度増加率Cを、1.0%以上、好ましくは1.0~9.0%、特に好ましくは3.0~7.0%に調節することができる装置が適宜選択される。
【0037】
表面衝突処理工程において、表面衝突処理を行う方法としては、高圧の圧搾気体、高圧蒸気、高圧ガス等の高圧の気体を噴射ノズルより噴出させることによって生じるジェット気流により、黒鉛粒子を加速させ、加速させた黒鉛粒子同士を衝突させる方法が挙げられる。このような方法に用いられる装置としては、ホソカワミクロン社製のミクロンジェット(登録商標)T型 MJT、栗本鐵工所社製のKJ25等のジェットミルが挙げられる。
【0038】
また、表面衝突処理工程において、表面衝突処理を行う方法としては、対向する2つの羽を高速で回転させることによって生じる高速気流により、黒鉛粒子を加速させ、加速させた黒鉛粒子同士を衝突させる方法が挙げられる。このような方法に用いられる装置としては、月島マシンセールス社製の150S、静岡プラント社製の250BMS等のサイクロンミルが挙げられる。
【0039】
また、表面衝突処理工程において、表面衝突処理を行う方法としては、内壁面に形成された溝を有する円筒状のライナーの内側で、ライナーの内側に回転可能に設置され、外周面に形成された溝を有する円柱状のローターを回転させることによって生じる高速渦流中で、黒鉛粒子同士を衝突させる方法が挙げられる。ライナーには、回転軸方向に延びる溝が形成されており、また、ローターには、回転軸方向に延びる溝が形成されている。ライナーの内壁面とローターの外周面との間には、処理対象が移動できる隙間がある。このような方法に用いられる装置としては、日清エンジニアリング社製のスーパーローター、日清エンジニアリング社製のブレードミル、アーステクニカ社製のKTM0等が挙げられる。
【0040】
表面衝突処理工程における処理条件の一例として、例えば、スーパーローター(日清エンジニアリング社製)を用いて表面衝突処理を行う場合、処理長20cm/回の装置で、回転数8000~15000ppmで、1~4回処理する条件が挙げられる。
【0041】
表面衝突処理工程では、表面衝突処理前の黒鉛粒子に対する表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面粗度増加率Cが、1.0%以上、好ましくは1.0~9.0%、特に好ましくは3.0~7.0%となるまで、高速気流により黒鉛粒子同士を衝突させる表面衝突処理を行なう。表面粗度増加率C(%)は、下記(1):
表面粗度増加率C(%)=((表面粗度R-表面粗度R)/表面粗度R)×100 (1)
で算出される値である。
【0042】
式(1)中、表面粗度Rは、表面衝突処理前の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBA(m/g)に対する表面衝突処理前の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAA(m/g)の比(SAA/SBA)である。表面粗度Rは、表面衝突処理後の黒鉛粒子の真球換算の比表面積SBB(m/g)に対する表面衝突処理後の黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積SAB(m/g)の比(SAB/SBB)である。
【0043】
なお、本発明において、黒鉛粒子のBET法で求められる比表面積(SAA、SAB)とは、全自動表面積測定装置((マイクロトラックベル社製BELSORP-miniX)を用い、窒素吸着等温線における相対圧0.05~0.2の範囲におけるBET多点法により算出される値を意味する。
【0044】
また、本発明において、黒鉛粒子の真球換算の比表面積(SBA、SBB)は、以下のようにして求められる。
先ず、蒸留水100質量部に対し、10質量部の両性界面活性剤を添加した水溶液に対し、測定対象の黒鉛粒子を超音波で分散させ、分散させた黒鉛粒子を、レーザー回折粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所社製、LA-960)内の測定セルにフローし、光源として半導体レーザー(650nm)を照射して、散乱光をリング状検出器で検出、解析することで、97区分に分けた黒鉛粒子の粒度分布を得る。
次いで、得られた粒度分布において、以下の計算式により、真球換算の比表面積を算出する。
第n区分目の真球相当粒子径をy(μm)とする。ただし、yは、「Log y=0.0589n-8.0011(1≦n≦97、nは整数)」を満たす。
次いで、各n区分における真球粒子の存在頻度をf、黒鉛粒子の密度をd(=2.2×10-6g/m)とすると、粉末1g当たりの第n区分の直径yの真球の体積の合計T(m/g)は、「T=1×f×(1/d)」で表される。ここで、第n区分の直径yの球の体積V(m)は、「V=(4π(y/2))/3」であるので、粉末1g当たり第n区分の直径yの球の個数はT/Vで表される。よって、粉末1g当たりの第n区分の直径yの真球の表面積の合計S(m/g)は、「S=4π(y/2)×(T/V)=6f/(dy)」となる。
粉末1gにおける真球換算の表面積は、Sの全ての区分(n=97)における面積の合計であるので、真球換算の比表面積(m/g)は、「真球換算の比表面積=Σ6f/(dy)(n→97)」によって算出される。
【0045】
表面衝突処理工程において、黒鉛粒子に付与する衝突エネルギーが強過ぎると、黒鉛粒子の粒子表面の黒鉛層の一部の剥離による溝状の凹部の形成よりも、粒子の粉砕が優先するため、表面粗度増加率Cが大きくなり難い。また、表面衝突処理工程において、黒鉛粒子に付与する衝突エネルギーが弱過ぎると、黒鉛粒子の粒子表面の黒鉛層の一部の剥離による溝状の凹部の形成が不十分となるため、表面粗度増加率Cが大きくなり難い。そこで、表面衝突処理工程では、表面衝突処理を行なう装置及び処理条件を選択することにより、黒鉛粒子に付与する衝突エネルギーを調節して、黒鉛粒子の表面粗度増加率Cを、1.0%以上、好ましくは1.0~9.0%、特に好ましくは3.0~7.0%にする。
【0046】
そして、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法では、表面衝突処理工程における表面粗度増加率Cを、1.0%以上、好ましくは1.0~9.0%、特に好ましくは3.0~7.0%とすることにより、黒鉛表面に適度な隙間を形成させることができ、Liイオンが黒鉛活物質内部にアクセスし易くできるので、リチウムイオン二次電池用負極材の初期効率を高くすることができ、且つ、リチウムイオン伝導性を高め、負極の抵抗を低減させることができるので、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電レート特性を高くすることができる。
【0047】
被覆工程は、表面衝突処理後の黒鉛粒子と、非晶質炭素材原料と、を混合して、表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面を、該非晶質炭素材原料で被覆することにより、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る工程である。
【0048】
被覆工程に係る非晶質炭素材原料は、被覆工程で、表面衝突処理後の黒鉛粒子と混合されることにより、表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面を被覆し、且つ、焼成工程で焼成されることにより、炭化し、非晶質の炭素材となるものであれば、特に制限されず、コールタールピッチ、石油ピッチ、タール、重質油、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0049】
被覆工程において、非晶質炭素材原料の混合量は、「表面粗度増加率C(%)」に対する「表面衝突処理後の黒鉛粒子の混合量1.00kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)」の比(P/C)が0.012~0.078となる量、好ましくは0.012~0.060となる量である。「表面粗度増加率C(%)」に対する「表面衝突処理後の黒鉛粒子の混合量1.00kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)」の比(P/C)を、上記範囲とすることにより、表面衝突処理工程を行うことによって黒鉛粒子の表面に形成された溝状の凹部が、非晶質炭素材原料により完全に埋められることなく、溝状に凹んでいる部分が残存する程度に、黒鉛粒子の表面が非晶質炭素材原料で被覆されるので、リチウムイオン二次電池用負極材の初期効率を高くすることができ、且つ、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電特性を高くすることができる。一方、「表面粗度増加率C(%)」に対する「表面衝突処理後の黒鉛粒子の混合量1.00kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P(kg)」の比(P/C)が、上記範囲未満だと、非晶質炭素材の被覆量が不十分となるため、リチウムイオン二次電池用負極材の初期効率が低くなり、また、上記範囲を超えると、表面衝突処理工程を行うことによって黒鉛粒子表面に形成された溝状の凹部が、非晶質炭素材で埋められてしまうため、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電レート特性が低くなる。
【0050】
被覆工程において、表面衝突処理後の黒鉛粒子と非晶質炭素材原料を混合する方法としては、特に制限されず、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、捏合機等の加熱混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0051】
被覆工程において、表面衝突処理後の黒鉛粒子と非晶質炭素材原料を混合するときの混合温度は、常温で固体の非晶質炭素材原料の場合は、軟化点温度以上であり、常温で液体の非晶質炭素材原料の場合は、特に限定されないが、樹脂を用いる場合は通常硬化温度以下である。混合時間は、好ましくは10~30分間である。
【0052】
そして、被覆工程を行なうことにより、表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面が非晶質炭素材原料で被覆された、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得る。
【0053】
焼成工程は、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を焼成することにより、黒鉛粒子に被覆されている非晶質炭素材原料を炭化し、非晶質炭素材に変換する工程である。
【0054】
焼成工程において、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子の焼成温度は、800~1300℃である。焼成温度が上記範囲にあることにより、非晶質炭素層の結晶性がほどよく高まり、且つ、SEI膜形成を抑制し易い界面になり易くなる。一方、焼成温度が、上記範囲未満だと、非晶質炭素層の導電性が低下し、負極性能が低くなり、また、焼成温度が、上記範囲を超えると、結晶性が増加することでSEI膜形成の抑制効果が低くなる。また、焼成工程において、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子の焼成時間は、適宜選択される。焼成温度は、非晶質炭素層の結晶性を高め、且つ、SEI膜形成を抑制し易い界面にすることができる点で、900~1200℃が好ましく、非晶質炭素層表面のリチウムイオンの反応を最適化できる点で、1000~1100℃が特に好ましい。
【0055】
非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を、焼成するときの雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気である。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法では、焼成工程を行い得られる焼成物に、必要に応じて、粉砕処理、分級処理を施してもよい。
【0057】
このように、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより、リチウムイオン二次電池用負極材を得ることができる。
【0058】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の粒子表面には、溝状の凹部が存在している。そのため、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の表面粗度Rは、好ましくは4.0~36、特に好ましくは20~32である。表面粗度Rは、リチウムイオン二次電池用負極材の真球換算の比表面積SBC(m/g)に対するリチウムイオン二次電池用負極材のBET法で求められる比表面積SAC(m/g)の比(SAC/SBC)である。リチウムイオン二次電池用負極材の表面粗度Rが上記範囲にあることにより、リチウムイオン二次電池用負極材の初期効率が高くなり、且つ、リチウムイオン二次電池用負極材の充放電レート特性が高くなる。また、リチウムイオン二次電池用負極材の表面粗度Rが上記範囲にあることにより、SEI(Solid Electrolyte Interphase)の耐久性が高くなる。
【0059】
なお、本発明において、SEI(Solid Electrolyte Interphase)とは、黒鉛活物質に対しての初回のリチウムイオン充電反応において、黒鉛活物質と溶媒の界面で溶媒和したリチウムイオンが分解して形成する活物質表面を覆う固体膜を指し、活物質表面との反応によって形成するSEI膜の質によって、長期保存性や高温保存性を左右する。
【0060】
リチウムイオン二次電池用負極材上に形成されるSEIの耐久性は、以下のような方法で測定される。先ず、測定対象の負極材粒子90.2重量%に対し、N-メチル-2ピロリドンに溶解した有機系結着材ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で9.8質量%加えて撹拌混合し、負極合材ペーストを調製する。次いで、得られた負極合材ペーストを厚さ20μmの銅箔(集電体)上にドクターブレード法で塗布した後、乾燥機で90℃で90分間、更に真空中で130℃で11時間加熱して溶媒を完全に揮発させ、目付量が2.0±0.2mg/cmである電極シートを得る。次いで、得られた電極シートを適当なサイズに切り出し、分解可能な形態の2極セルの作用極として配置する。次いで、以下の作業をアルゴンで満たしたグローブボックス内で行う。対極にはリチウム金属を配置し、セルの内部をSEI形成用の電解液で満たす。この電解液はエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積比1:1で混合した溶媒に1mol/dmのリチウム塩LiClOを溶解し、3質量%のビニレンカーボネート(VC)を添加したものである。組んだセルに対し、サイクリックボルタンメトリー(CV)を0-3V(vs Li/Li)の範囲、0.1mV/秒の掃引速度で3サイクル測定し、負極材表面にSEI膜を形成させる。その後、グローブボックス内でセルを分解し、電極を1,2-ジメトキシエタン(DME)で洗浄した後、共挿入の開始電位測定用の電解液(溶媒DMEに1mol/dmのリチウム塩LiCFSOを溶解したもので満たす。セルに対し、OCV(Open Circuit Voltage)から0V(vs Li/Li)の範囲、0.1mV/秒の掃引速度で電位を直線的に変化させ、還元電流が流れ始めた点を、SEI存在下における共挿入開始電位(Vs)とする。これと、SEIを形成させずに同一の測定を行った際の共挿入開始電位(Vo)との差(Vo-Vs)を共挿入の過電圧と定義する。共挿入の過電圧が大きいほど、黒鉛と電解液の過剰な反応を防ぐ能力が大きいということになり、耐久性のあるSEI膜が形成していると言える。
【0061】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材のBET法による比表面積は、好ましくは1.5~6.5m/g、特に好ましくは2.0~5.0m/gである。リチウムイオン二次電池用負極材のBET法による比表面積が、2.0m/g以上であることによりリチウムイオンの反応サイトが増え、反応抵抗が低くなり、また、5.0m/g以下であることにより初期効率の大幅な低下が抑制される。
【0062】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径(D50)は、好ましくは5~30μm、特に好ましくは7~15μmである。リチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径が、7μm以上であることにより、重さ当たりの表面積があまり大きくならず、初期効率の低下が抑制され、また、15μm以下であることにより、重さ当たりのリチウムイオン反応サイトが少なくならず、反応抵抗が小さくなる。なお、本発明において、リチウムイオン二次電池用負極材の平均粒子径(D50)は、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて得られる粒度分布における体積換算の積算50%の粒子径(D50)を指す。
【0063】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の平均格子面間隔d(002)は、0.3380nm以下である。リチウムイオン二次電池用負極材の平均格子面間隔d(002)が、0.3380nm以下であることにより、黒鉛化度が十分に高くなり、高い充放電容量が得られる。リチウムイオン二次電池用負極材の平均格子面間隔d(002)は、黒鉛の理論容量に近い充放電容量となる負極材とするために、好ましくは0.3360nm以下である。
【0064】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の初期放電容量は、好ましくは350mAh/g以上である。リチウムイオン二次電池用負極材の初期容量が、350mAh/g以上であることにより、電池を組んだ際に十分なエネルギー密度を確保することが可能となる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を行うことにより得られるリチウムイオン二次電池用負極材の初期容量は、更に十分なエネルギー密度の確保が可能となる点で、特に好ましくは355mAh/g以上である。
【0065】
本発明において、タップ密度は、25mlメスシリンダーに測定対象粒子粉末5gを投入し、タッピング式粉体減少度測定器(筒井理化学器械社製)を用いてギャップ10mmにて1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値と、メスシリンダーに投入した測定対象粒子粉末の質量から、下記式(3)により算出した値を意味する。
【0066】
タップ密度(g/cm)=メスシリンダーに投入した粉末の質量(g)/1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値(cm) (3)
【0067】
なお、本発明において、極板密度は、以下の方法で測定した値を意味する。
【0068】
(1)電極シートの作製
黒鉛粒子球状凝集体90.2重量%に対し、N-メチル-2ピロリドンに溶解した有機系結着材ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で9.8重量%加えて攪拌混合し、負極合材ペーストを調製する。
得られた負極合材ペーストを厚さ20μmの銅箔(集電体)上にドクターブレード法で塗布した後、常圧下90℃で90分間、更に真空下130℃で11時間加熱して溶媒を完全に揮発させ、目付量が3.5±0.2mg/cmである電極シートを得る。
なお、ここで目付量とは、電極シートの単位面積当たりの黒鉛粒子球状凝集体の重量を意味する。
【0069】
(2)極板密度の測定
上記電極シートを幅6cmの短冊状に切り出し、極板密度が1.3g/cmとなるようロールプレスによる圧延を行う。プレスした電極シートは縦2.8cm、横5.5cmに切断する。極板密度は各重量A(g)と中心部分の厚みB(cm)から、下記式(4)により算出して確認した。
【0070】
極板密度(g/cm)={(A(g)-銅箔重量(g))×負極合材層中の黒鉛粒子球状凝集体の重量割合(0.902)}/{(B(cm)-銅箔厚み(cm))×電極面積(cm)} (4)
【実施例0071】
(実施例1)
<表面衝突処理工程>
平均粒子径(D50)10.8μmの球形化天然黒鉛粒子(平均格子面間隔d(002):0.3340nm、BET法による比表面積:7.04m/g、タップ密度:0.74g/cm)を、処理装置(日清エンジニアリング社製のスーパーローターSR-15)に投入し、ローター回転数12,000rpm、風量1m/分の処理条件で高速渦流中での黒鉛粒子の表面衝突処理を行なった。このとき、処理装置中を黒鉛粒子が通過するローターの長さ(ローター処理長)は20cm/回であり、黒鉛粒子を処理装置に1回通過させて表面衝突処理を1回行った。次いで、表面衝突処理後の黒鉛粒子の表面粗度R及び表面衝突処理後の表面衝突処理による表面粗度増加率Cを求めた。その結果を表1に示す。また、表面衝突処理前の黒鉛粒子の表面粗度Rを表1に併記する。また、表面衝突処理後の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を図1に示す。なお、図3には、表面衝突処理前の黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM)に示す。
【0072】
<被覆処理>
上記で得た表面衝突処理後の黒鉛粒子1.00kg及びコールタールピッチ(JFEケミカル株式会社製PKQL、軟化点70℃)0.098kgを、混合機(三井鉱山社製ヘンシェルミキサー)に投入し、130℃で10分間混合し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得た。このときの「表面粗度増加率C(%)」に対する「表面衝突処理後の黒鉛粒子の混合量1.00kg当たりの非晶質炭素材原料の混合量P」の比(P/C)は、表1に示す通りであった。
【0073】
<焼成工程>
得られた非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成した。次いで、得られた焼成粉を粉砕(装置名:スーパーローター、日清エンジニアリング社製)し、分級(装置名:篩分級、目開き45μm)し、篩下分を、リチウムイオン二次電池用負極材として製造した。
得られたリチウムイオン二次電池用負極材の分析及び性能評価を行なった。その結果を表1に示す。また、リチウムイオン二次電池用負極材の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を図2に示す。
【0074】
(分析方法)
・SEM分析装置及び条件
分析装置:日本電子社製JSM7900F
加速電圧2-5kvで加速した電子線を試料に当て二次電子像を観察した。
・レーザー回折粒度分布測定装置及び分析条件
分析装置:堀場製作所社製:LA-960
光源:半導体レーザー(650nm)
蒸留水100質量部に対し、10質量%の両性界面活性剤を添加した水溶液に対し、粉末を超音波で分散させた。分散させた粉末を装置内の測定セルにフローし、レーザーを照射する。散乱光をリング状検出器で検出、解析することで粒度分布を得る。
・比表面積(SA)測定
分析装置:マイクロトラックベル社製:BelSorp mini X
黒鉛粉末100mgをガラスセルに封入し、150℃6時間の真空加熱乾燥を行った後、全自動表面積測定装置(BelSorp mini X)に取り付け、液体窒素温度(-196℃)での相対圧0.05~0.2の範囲における窒素分子の吸着量測定の値からBET多点法によりSA値を算出した。
【0075】
(評価方法)
(ラミネート電池の作製及び充放電測定)
前記の作用極、対極を使用し、評価用電池として、正極(Li金属)、セパレータ(ポリプロピレン)、負極(試験負極材)を順に積層し、更に、Niタブを取り付けた後、積層物をアルミラミネートして、ラミネート電池を不活性雰囲気下で組み立てた。電解液は1 mol/dmのリチウム塩LiPFを溶解したエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)1:1混合溶液を使用した。充電は電流密度0 .2mA/cm、終止電圧5mV で定電流充電を終えた後、下限電流0.02mA/cmとなるまで定電位保持する。放電は電流密度0.2mA/cmにて終止電圧1.5Vまで定電流放電を行い、3サイクル終了後の放電容量を可逆容量とした。初期効率は、1サイクル目の放電容量を1サイクル目の充電容量で除した値(%)である。5Cの充電容量は、3サイクル後の完放電の状態から、12分間で満充電させたときの充電容量である。
(ラミネート電池のIV抵抗測定)
3サイクル終了後、可逆放電容量の50%まで0.1C充電を行い(SOC50%充電)、5時間休止状態で待つ。その後0.2Cのレートで10秒間充電し、10分間休止状態で待ち、その後0.2Cのレートで10秒間放電し、0.1秒間の電流-電圧値を計測する。その後10分間休止状態で待った後、0.5C、1.0C、1.5C、2.0Cの各レートで同様の充放電を行う。10秒間の充電(Li挿入)における各レートでの開始前と0.1秒間の電位変化を計測する。5点のレートにおける電位変化の値を縦軸として電流-電圧(I-V)プロットから直線式を作り、その傾きの絶対値からIV抵抗値を算出した。
【0076】
(比較例1)
表面衝突処理後の黒鉛粒子1.00kgに混合するコールタールピッチ量を、0.098kgとすることに代えて、0.150kgとすること以外は実施例1と同じ手順で実施した。
【0077】
(実施例2)
表面衝突処理工程において球形化天然黒鉛を処理装置に、1回通過させて表面衝突処理を1回行ったことに代えて、2回通過させて表面衝突処理を2回行ったこと以外は実施例1と同様に行った。
【0078】
(実施例3)
表面衝突処理工程において、球形化天然黒鉛を処理装置に、1回通過させて表面衝突処理を1回行ったことに代えて、2回通過させて表面衝突処理を2回行ったこと、及び表面衝突処理後の黒鉛粒子1.00kgに混合するコールタールピッチ量を、0.098kgとすることに代えて、0.150kgとすること以外は実施例1と同様に行った。
【0079】
(実施例4)
表面衝突処理工程において球形化天然黒鉛を処理装置に、1回通過させて表面衝突処理を1回行ったことに代えて、3回通過させて表面衝突処理を3回行ったこと以外は実施例1と同様に行った。
【0080】
(実施例5)
表面衝突処理工程において球形化天然黒鉛を処理装置に、1回通過させて表面衝突処理を1回行ったことに代えて、3回通過させて表面衝突処理を3回行ったこと、及び表面衝突処理後の黒鉛粒子1.00kgに混合するコールタールピッチ量を、0.098kgとすることに代えて、0.150kgとすること以外は実施例1と同様に行った。
【0081】
(比較例2)
表面衝突処理工程において球形化天然黒鉛を処理装置に、1回通過させて表面衝突処理を1回行ったことに代えて、4回通過させて表面衝突処理を4回行ったこと以外は実施例1と同様に行った。
【0082】
(実施例6)
表面衝突処理工程において球形化天然黒鉛を処理装置に、1回通過させて表面衝突処理を1回行ったことに代えて、4回通過させて表面衝突処理を4回行ったこと、及び表面衝突処理後の黒鉛粒子1.00kgに混合するコールタールピッチ量を、0.098kgとすることに代えて、0.150kgとすること以外は実施例1と同様に行った。
【0083】
(比較例3)
平均粒子径(D50)10.8μmの球形化天然黒鉛粒子(平均格子面間隔d(002):0.3340nm、BET法による比表面積:7.04m/g、タップ密度:0.74g/cm)を1.00kgと、コールタールピッチ(JFEケミカル株式会社製PKQL、軟化点70℃)0.098kgを、混合機(三井鉱山社製ヘンシェルミキサー)に投入し、130℃で10分間混合し、非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を得た。
次いで、得られた非晶質炭素材原料被覆黒鉛粒子を窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成した。次いで、得られた焼成粉を粉砕(装置名:スーパーローター、日清エンジニアリング社製)し、分級(装置名:篩分級、目開き45μm) し、篩下分を、リチウムイオン二次電池用負極材として製造した。
つまり、比較例3では、球形化天然黒鉛粒子の表面衝突処理工程を行わないで負極材を作製した。
【0084】
(比較例4)
黒鉛粒子1.00kgに混合するコールタールピッチ量を、0.098kgとすることに代えて、0.150kgとすること以外は比較例3と同様に行った。
つまり、比較例4では、球形化天然黒鉛粒子の表面衝突処理工程を行わないで負極材を作製した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、初期効率が高く反応抵抗が低いことで充放電レート特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供することができる。
図1
図2
図3