(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088210
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】製品性能の推定モデルの生成方法及び生成装置、製品性能の推定装置及び推定方法、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/27 20200101AFI20230619BHJP
【FI】
G06F30/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021202912
(22)【出願日】2021-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 直也
(72)【発明者】
【氏名】古渡 直哉
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA05
5B146DC03
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】製品の性能評価の推定精度を向上できる製品性能の推定モデルの生成方法を提供する。
【解決手段】 製品の仕様データと製品の性能評価値とをそれぞれが含んでいる複数の個別製品データを取得する。前記性能評価値の合否判定の基準値である合格基準値とは異なる値を前記性能評価値として有している個別製品データを、回帰用教師データとして、前記複数の個別製品データから抽出する。推定対象製品の前記性能評価値を推定するための回帰モデルを、前記回帰用教師データを利用して生成する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データと、製品の性能評価値とをそれぞれが含んでいる複数の個別製品データを取得する製品データ取得工程と、
前記性能評価値の合否判定の基準値である合格基準値とは異なる値を前記性能評価値として有している個別製品データを、回帰用教師データとして、前記複数の個別製品データから抽出する回帰用教師データ取得工程と、
推定対象製品の前記性能評価値を推定するための回帰モデルを、前記回帰用教師データを利用して生成する回帰モデル生成工程と
を含む製品性能の推定モデルの生成方法。
【請求項2】
前記性能評価値が前記合格基準値を達成しているか否かを示す判定結果と、前記仕様データとを含んでいる判定用教師データを、前記複数の個別製品データから取得する判定用教師データ取得工程と、
前記推定対象製品の性能評価値が前記合格基準値を達成するか否かの判定結果を推定するための判定モデルを、前記判定用教師データを利用して生成する判定モデル生成工程と、をさらに含む
請求項1に記載される製品性能の推定モデルの生成方法。
【請求項3】
前記回帰用教師データ取得工程において、前記合格基準値に達していない値を前記性能評価値として有している個別製品データを、前記回帰用教師データとして抽出する
請求項1に記載される製品性能の推定モデルの生成方法。
【請求項4】
前記判定モデルによって推定される判定結果と、前記回帰モデルによって推定される性能評価値とが整合するか否かを判定する整合判定工程をさらに含む
請求項1に記載される製品性能の推定モデルの生成方法。
【請求項5】
前記判定用教師データ取得工程において、前記個別製品データが含んでいる前記性能評価値が前記合格基準値を満たすか否かを判定し、その結果を前記判定結果データとして生成し、前記判定結果データと前記仕様データとを前記判定用教師データとする
請求項1に記載される推定モデルの生成方法。
【請求項6】
前記合格基準値は、前記仕様データに応じて定められており、
前記判定用教師データ取得工程において、前記仕様データに対応する合格基準値を前記性能評価値が満たすか否かを判定し、その結果を前記判定結果データとして生成する
請求項1に記載される推定モデルの生成方法。
【請求項7】
製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データと、製品の性能評価値とをそれぞれが含んでいる複数の個別製品データを取得する製品データ取得手段と、
前記性能評価値の合否判定の基準値である合格基準値とは異なる値を前記性能評価値として有している個別製品データを、回帰用教師データとして、前記複数の個別製品データから抽出する回帰用教師データ取得手段と、
推定対象製品の前記性能評価値を推定するための回帰モデルを、前記回帰用教師データを利用して生成する回帰モデル生成手段と
を含む製品性能の推定モデルの生成装置。
【請求項8】
製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データと、製品の性能評価値とをそれぞれが含んでいる複数の個別製品データを取得する製品データ取得手段、
前記性能評価値の合否判定の基準値である合格基準値とは異なる値を前記性能評価値として有している個別製品データを、回帰用教師データとして、前記複数の個別製品データから抽出する回帰用教師データ取得手段、及び
推定対象製品の前記性能評価値を推定するための回帰モデルを、前記回帰用教師データを利用して生成する回帰モデル生成手段
としてコンピュータを機能させるプログラム。
【請求項9】
推定対象製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データに基づいて、前記推定対象製品の性能評価値が合格基準値を達成するか否かの判定結果を推定する判定モデルと、前記推定対象製品の前記仕様データに基づいて前記推定対象製品の前記性能評価値を推定するための回帰モデルとが格納されている記憶手段と、
前記推定対象製品の仕様データを取得するデータ取得手段と、
前記推定対象製品の仕様データを前記判定モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値が前記合格基準値を達成するか否かを推定する第1推定手段と、
前記推定対象製品の前記性能評価値が前記合格基準値を達成しない場合に、前記推定対象製品の仕様データを前記回帰モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値を推定する第2推定手段と
を含む製品性能の推定装置。
【請求項10】
前記判定モデルによって推定される判定結果と、前記回帰モデルによって推定される性能評価値とが整合するか否かを判定する整合判定手段をさらに備える
請求項9に記載される製品性能の推定装置。
【請求項11】
前記回帰モデルは、前記合格基準値とは異なる値を前記性能評価値として有している個別製品データを教師データとして利用して生成されたモデルである
請求項9に記載される製品性能の推定装置。
【請求項12】
推定対象製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データを判定モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値が合格基準値を達成するか否かの判定結果を推定する第1推定工程と、
前記推定対象製品の前記性能評価値が前記合格基準値を達成しない場合に、前記推定対象製品の前記仕様データを回帰モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値を推定する第2推定工程と
を含む製品性能の推定方法。
【請求項13】
推定対象製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データを判定モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値が合格基準値を達成するか否かの判定結果を推定する第1推定手段、
前記推定対象製品の前記性能評価値が前記合格基準値を達成しない場合に、前記推定対象製品の前記仕様データを回帰モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値を推定する第2推定手段
としてコンピュータを機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製品性能の推定モデルの生成方法及び生成装置、製品性能の推定装置及び推定方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの設計開発においては、タイヤの寸法や、部材の種類、及び材料などタイヤの仕様を設計し、その設計した仕様から得られるタイヤの性能(例えば、耐久性や強度など)が予測される。そして、予測された性能が要求レベルを満たすか否かが評価される。下記特許文献1には、機械学習モデルを用いて、複数のゴム材料、及び充填材などから、タイヤの性能(物理値)を推定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タイヤの性能試験のなかには、性能評価値が合格基準に達した時点で、性能評価値の測定を終えるものがある。このような試験の例として、耐久性試験をあげることができる。耐久性試験の一例では、タイヤに負荷がかけられ、クラックやセパレーションなどの損傷がタイヤに発生するまでの時間が、耐久性を表す性能評価値として測定される。測定時間が合格基準(例えば、3000分)に達する前に(例えば、2500分の時点で)タイヤに損傷が認められた場合、2500分がこのタイヤの性能評価値として記録される。一方、合格基準である3000分まで損傷が発生しなかった場合、3000分が経過した時点で測定が終わり、3000分がこのタイヤの性能評価値として記録される。このように測定された性能評価値は、タイヤの仕様データと対応づけて記録される。
【0005】
タイヤの性能評価値を推定する回帰モデルを、このようなデータを利用して生成すると、推定される性能評価値が合格基準の値に引きずられてしまい、十分な推定精度が得られない。例えば本来であれば合格基準である3000分より低い性能評価値が推定値として出力されるべきタイヤ仕様であるにも関わらず、3000分という合格基準を満たす性能評価値が推定値として出力され易くなる。このような課題は、タイヤ以外の製品設計においても生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示で提案する製品性能の推定モデルの生成方法は、製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データと、製品の性能評価値とをそれぞれが含んでいる複数の個別製品データを取得する製品データ取得工程と、前記性能評価値の合否判定の基準値である合格基準値とは異なる値を前記性能評価値として有している個別製品データを、回帰用教師データとして、前記複数の個別製品データから抽出する回帰用教師データ取得工程と、推定対象製品の前記性能評価値を推定するための回帰モデルを、前記回帰用教師データを利用して生成する回帰モデル生成工程とを含む。この方法では、合格基準値とは異なる値を性能評価値として有している個別製品データだけを利用して回帰モデルを生成できるので、高い推定精度を有する回帰モデルを実現できる。
【0007】
(2)(1)の生成方法は、前記性能評価値が前記合格基準値を達成しているか否かを示す判定結果と、前記仕様データとを含んでいる判定用教師データを、前記複数の個別製品データから取得する判定用教師データ取得工程と、前記推定対象製品の性能評価値が前記合格基準値を達成するか否かの判定結果を推定するための判定モデルを、前記判定用教師データを利用して生成する判定モデル生成工程とをさらに含んでもよい。この判定モデルを利用すると、製品性能の推定時に、性能評価値が合格基準値を達成しないと推定された製品について、回帰モデルによる性能評価値の推定が実行できるようになる。
【0008】
(3)(1)の前記回帰用教師データ取得工程において、前記合格基準値に達していない値を前記性能評価値として有している個別製品データを、前記回帰用教師データとして抽出してよい。
【0009】
(4)(1)の推定モデルの生成方法は、前記判定モデルによって推定される判定結果と、前記回帰モデルによって推定される性能評価値とが整合するか否かを判定する整合判定工程をさらに含んでもよい。これによると、製品性能推定精度をさらに向上できる。
【0010】
(5)(1)の前記判定用教師データ取得工程において、前記個別製品データが含んでいる前記性能評価値が前記合格基準値を満たすか否かを判定し、その結果を前記判定結果データとして生成し、前記判定結果データと前記仕様データとを前記判定用教師データとしてよい。
【0011】
(6)(1)の推定モデルの生成方法において、前記合格基準値は、前記仕様データに応じて定められている。前記判定用教師データ取得工程において、前記仕様データに対応する合格基準値を前記性能評価値が満たすか否かを判定し、その結果を前記判定結果データとして生成してよい。
【0012】
(7)本開示で提案する製品性能の推定モデルの生成装置は、製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データと、製品の性能評価値とをそれぞれが含んでいる複数の個別製品データを取得する製品データ取得手段と、前記性能評価値の合否判定の基準値である合格基準値とは異なる値を前記性能評価値として有している個別製品データを、回帰用教師データとして、前記複数の個別製品データから抽出する回帰用教師データ取得手段と、推定対象製品の前記性能評価値を推定するための回帰モデルを、前記回帰用教師データを利用して生成する回帰モデル生成手段とを含む。
【0013】
(8)本開示で提案するプログラムは、製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データと、製品の性能評価値とをそれぞれが含んでいる複数の個別製品データを取得する製品データ取得手段、前記性能評価値の合否判定の基準値である合格基準値とは異なる値を前記性能評価値として有している個別製品データを、回帰用教師データとして、前記複数の個別製品データから抽出する回帰用教師データ取得手段、及び、推定対象製品の前記性能評価値を推定するための回帰モデルを、前記回帰用教師データを利用して生成する回帰モデル生成手段としてコンピュータを機能させる。
【0014】
(9)本開示で提案する製品性能の推定装置は、推定対象製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データに基づいて、前記推定対象製品の性能評価値が合格基準値を達成するか否かの判定結果を推定する判定モデルと、前記推定対象製品の前記仕様データに基づいて前記推定対象製品の前記性能評価値を推定するための回帰モデルとが格納されている記憶手段を含む。また、前記推定装置は、前記推定対象製品の仕様データを取得するデータ取得手段と、前記推定対象製品の仕様データを前記判定モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値が前記合格基準値を達成するか否かを推定する第1推定手段と、前記推定対象製品の前記性能評価値が前記合格基準値を達成しない場合に、前記推定対象製品の仕様データを前記回帰モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値を推定する第2推定手段とを含む。この推定装置では、性能評価値が合格基準値を達成しないとの判定結果が推定された仕様データについて、回帰モデルによる性能評価値の推定が実行される。そのため、回帰モデルの生成過程においては、合格基準値に達していない性能評価値を有する製品データだけを教師データとして利用することが許容される。言い換えれば、回帰モデルの生成過程でそのような製品データだけが利用されていても、性能評価値について高い推定精度を確保できる。
【0015】
(10)(9)の製品性能の推定装置は、前記判定モデルによって推定される判定結果と、前記回帰モデルによって推定される性能評価値とが整合するか否かを判定する整合判定手段をさらに備えてもよい。これによると、製品性能の推定精度をさらに向上できる。
【0016】
(11)(9)の製品性能の推定装置において、前記回帰モデルは、前記合格基準値とは異なる値を前記性能評価値として有している個別製品データを教師データとして利用して生成されたモデルであってよい。
【0017】
(12)本開示で提案する製品性能の推定方法は、推定対象製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データを判定モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値が合格基準値を達成するか否かの判定結果を推定する第1推定工程と、前記推定対象製品の前記性能評価値が前記合格基準値を達成しない場合に、前記推定対象製品の前記仕様データを回帰モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値を推定する第2推定工程とを含む。
【0018】
(13)本開示で提案するプログラムは、推定対象製品の構造、材料、及び製法のうちの少なくとも1つを表す仕様データを判定モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値が合格基準値を達成するか否かの判定結果を推定する第1推定手段、前記推定対象製品の前記性能評価値が前記合格基準値を達成しない場合に、前記推定対象製品の前記仕様データを回帰モデルに入力し、前記推定対象製品の性能評価値を推定する第2推定手段としてコンピュータを機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示で提案するタイヤ性能の推定装置及び推定モデルの生成装置として機能するタイヤの設計支援システムのハードウェアを示すブロック図である。
【
図2】設計支援システムが有している機能を示すブロック図である。
【
図3】記憶装置に格納されている個別タイヤデータの例を示す図である。
【
図4】判定モデルの生成に利用される個別タイヤデータ(判定用教師データ)の例を示す図である。
【
図5A】記憶装置に格納されている個別タイヤデータの別の例を示す図である。
【
図5B】
図5Aの個別タイヤデータを加工してられたデータの例を示す図である。
【
図6】学習部が実行する処理の例を示すフロー図である。
【
図7】推定部が実行する処理の例を示すフロー図である。
【
図8A】記憶装置に格納されている個別タイヤデータのさらに別の例を示す図である。
【
図8B】
図8Aで示す個別タイヤデータから得られる、判定モデルの生成に利用されるデータ(判定用教師データ)の例を示す図である。
【
図9】学習部を構成する前処理部が実行する処理の例を示すフロー図である。
【
図10A】記憶装置に格納されている個別タイヤデータのさらに別の例を示す図である。
【
図10B】
図10Aで示す個別タイヤデータから得られる、判定モデルの生成に利用されるデータ(判定用教師データ)の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示で提案する製品性能の推定モデルの生成方法及び生成装置、製品性能の推定装置及び推定方法について説明する。本開示では、製品の一例として、主にタイヤを用いて説明する。すなわち、タイヤ性能の推定モデルの生成方法及び生成装置、タイヤ性能の推定装置及び推定方法を中心にして説明する。
【0021】
図1は本開示で提案するタイヤ性能の推定装置及び推定モデルの生成装置として機能するタイヤの設計支援システム1のハードウェアを示すブロック図である。
【0022】
図1で示すように、設計支援システム1は、処理装置11、記憶装置12、表示装置13、及び入力装置14を有している。
【0023】
処理装置11は、例えばCentral Processing Unit(CPU)や、Graphics Processing Unit(GPU)などを含み、記憶装置12に格納されているプログラムに従って動作する。処理装置11としては、Field Programmable Gate Array(FPGA)が利用されてもよい。記憶装置12は、例えばRead Only Memory(ROM)や、Random Access Memory(RAM)、Hard Disk Drive(HDD)、Solid State Drive(SSD)などを含み、処理装置11で実行されるプログラムや、推定モデルを生成するためのタイヤデータなどが格納されている。処理装置11及び記憶装置12としては、1又は複数のパーソナルコンピュータやサーバーコンピュータなどを利用できる。
【0024】
表示装置13は、例えば液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイなどであり、記憶装置12に格納されているデータや、推定モデルの出力結果などを表示する。
【0025】
入力装置14は、例えばキーボードやマウスなどといったユーザインタフェースであって、作業者の操作入力を受け付けて、その内容を示す信号を処理装置11に入力する。
【0026】
図2は、設計支援システム1が有している機能を示すブロック図である。
図2で示すように、設計支援システム1は、学習部20と、推定部30と、推定モデル群40とを有している。学習部20と推定部30は、処理装置11が記憶装置12に格納されているプログラムを実行することによって実現される。
【0027】
推定モデル群40は、タイヤ(性能が未知のタイヤ)の仕様から、そのタイヤの性能を推定するための複数の推定モデルを含んでいる。具体的には、タイヤの性能評価値が合格基準値を満たすか否かを推定する判定モデル41と、タイヤの性能評価値を推定するための回帰モデル42とを推定モデル群40は含んでいる。性能評価値とは、タイヤ性能を表す数値であり、例えば、タイヤの耐久性を表す数値(例えば、距離や、時間)や、タイヤの強度を表す数値である。合格基準値とは、性能評価値の合否判定の基準値である。性能評価値が合格基準値に達している場合、例えば性能評価値が合格基準値以上である場合に、合格と認められる。これとは異なり、性能評価の項目によっては、性能評価値が合格基準値以下である場合に、合格と認められてもよい。タイヤの仕様とは、例えば、タイヤの寸法や、部材の種類、材料、それらの性質(例えば硬さ)、製法などを含む。
【0028】
学習部20は、記憶装置12に格納されている複数のタイヤデータを、推定モデル群40を構成する判定モデル41と回帰モデル42とに学習させる。
【0029】
推定部30は、性能を推定しようとするタイヤ(推定対象タイヤ)の仕様データを、判定モデル41に入力し、推定対象タイヤの性能評価値が合格基準値を満たすか否かを推定する。また、推定部30は、推定対象タイヤの仕様データを回帰モデル42に入力し、このタイヤの性能評価値を推定する。
【0030】
以下では、最初に学習部20を説明し、その後に推定部30について説明する。
【0031】
[タイヤデータ]
図3は、推定モデル41・42の生成に利用される個別タイヤデータの例を示す図である。この図において、各行が1つの個別タイヤデータである。個別タイヤデータは、製造された各タイヤについてのデータである。各個別タイヤデータは、仕様データと、性能評価値とを有している。各個別タイヤデータは、タイヤの性能評価値の測定条件を含んでもよい。
【0032】
図3の例において、仕様データは、その項目として、タイヤ幅や、トレッド幅、タイヤ外径、タイヤ断面高さ(セクションハイト)などを有している。仕様データの項目は、これに限られず、例えば、リム幅や、リム径、トレッドの種類、ベルトの数、ベルトの硬さ、ゴムの材料、製法(温度などの製造条件)などを含んでもよい。
【0033】
図3の例において、各個別タイヤデータは、性能評価値として、耐久時間を有している。耐久時間は、例えば、タイヤに負荷をかけている状態で、タイヤにクラックやセパレーションなどの損傷が発生するまでの時間である。このような損傷が発生するまでの時間の測定は、例えば、合格基準値である合格基準時間に達した時点で終了される。
【0034】
図3で示す例では、ID:1~3のタイヤについて、合格基準時間は3000である。「ID:1」のタイヤと「ID:2」のタイヤについては、測定時間が3000に達した時点においてクラック等の損傷が認められないため、耐久時間として3000が個別タイヤデータに記録されている。一方、「ID:3」のタイヤについては、測定時間が2520に達した時点において損傷が発生したため、耐久時間として2520が記録されている。
【0035】
このような合格基準時間(合格基準値)は、全てのタイヤについて共通でなくてもよい。例えば、合格基準時間は、タイヤの種類や、寸法によって異なっていてよい。
図3で示す例では、ID:11~13のタイヤについての合格基準時間は4500である。そして、「ID:11」のタイヤと「ID:12」のタイヤの試験では、「ID:1」及び「ID:2」のタイヤと同様、測定時間が4500に達した時点においてクラック等の損傷が認められなかったため、その時点で測定が終わり、耐久時間(性能評価値)として4500が記録されている。一方、「ID:13」のタイヤについては、測定時間が3850に達した時点において損傷が発生したため、耐久時間として3850が記録されている。
【0036】
各個別タイヤデータは、性能評価値(
図3の例において耐久時間)の測定条件を含んでもよい。
図3で示すように、測定条件は、例えば、測定中にタイヤに作用させている負荷であってよい。
【0037】
本願発明者は、タイヤの設計開発において、タイヤの寸法や、部材の種類、材料、製造条件などの設計仕様から得られるタイヤの性能を、機械学習モデルを利用して推定することを検討している。
図3の例で言えば、タイヤ幅や、トレッド幅などの仕様データに基づいて、耐久時間(性能評価値)を推定することを検討している。ところが、
図3で例示したように、タイヤの性能評価項目の中には、合格基準値に達することが判明した時点で測定が終わり、合格基準値が性能評価値として個別タイヤデータに記録される項目がある。そのため、記憶装置12に格納されている複数の個別タイヤデータの全てを利用して、性能評価値を推定するための回帰モデルを生成すると、回帰モデルから得られる推定値が合格基準値に引きずられ、十分な推定精度が得られない。
図3の例で言うと、推定される耐久時間が、合格基準時間である3000や4500に引きずられる。
【0038】
そこで、学習部20は、合格基準値とは異なる値を性能評価値として有しているタイヤの個別タイヤデータを、回帰モデル42を生成するための教師データ(回帰用教師データ)として、
図3で示す個別タイヤデータから抽出する。また、学習部20は、性能評価値が合格基準値を達成するか否かの判定結果と、仕様データとを含む判定用教師データを、
図3で示す個別タイヤデータから取得又は生成する。学習部20は、これら2種類の教師データをそれぞれ利用して、回帰モデル42と判定モデル41とを生成する。
【0039】
[学習部]
学習部20は、
図2で示すように、その機能として、前処理部21と、判定モデル生成部22と、回帰モデル生成部23と、整合判定部24とを有している。
【0040】
[前処理部]
記憶装置12に格納されているオリジナルの個別タイヤデータ(例えば
図3で例示するデータ)が、教師データとして適していない場合に、前処理部21は、オリジナルの個別タイヤデータを加工したり、個別タイヤデータの一部を抽出したりして、教師データ(判定用教師データ及び回帰用教師データ)を取得する。
【0041】
判定モデル41は、タイヤの仕様データに基づいて、そのタイヤの性能評価値が合格基準値を達成するか否かを推定するモデルである。したがって、判定モデル41に学習させる教師データは、性能評価値が合格基準値を達成しているか否かの判定結果を必要とする。オリジナルの個別タイヤデータがこの判定結果を含んでいない場合に、前処理部21は、この判定結果を含む個別タイヤデータを生成する。
【0042】
図3及び
図4を参照して、前処理部21のこの処理について説明する。
図4は、
図3の個別タイヤデータから前処理部21が生成するデータの例を示す図である。上述したように、
図3の例において、「ID:1」のタイヤと「ID:2」のタイヤは合格基準時間(合格基準値)まで損傷を生じていないので、この2つのタイヤの耐久時間(性能評価値)として合格基準時間(3000)が記録されている。一方、「ID:3」のタイヤの耐久時間は合格基準時間を達していない。そこで、前処理部21は、
図4で示すように、耐久時間が合格基準時間を達成しているか否かの判定結果(具体的には、合格/不合格)を各個別タイヤデータに付加し、これを判定用教師データとする。より具体的には、前処理部21は、個別タイヤデータのそれぞれについて、耐久時間と合格基準時間(3000)とを比較し、耐久時間が合格基準時間以上であれば、判定結果として「合格」を付加し、耐久時間が合格基準時間未満であれば、判定結果として「不合格」を付加する。
【0043】
上述したように、合格基準時間(合格基準値)は全タイヤについて一律でなくてもよい。例えば、タイヤの仕様(寸法や、部材の種類、材料、及び製法など)によって合格基準時間は異なっていてよい。
図3の例では、タイヤの断面高さが120未満のタイヤ(ID:1~3)について合格基準時間は3000であるのに対して、タイヤの断面高さが120以上のタイヤ(ID:11~13)について合格基準時間は4500である。このように、タイヤの仕様によって合格基準時間が異なっている場合、前処理部21は仕様データに対応する合格基準時間(合格基準値)とタイヤの耐久時間(性能評価値)とを比較し、その判定結果(合格/不合格)を個別タイヤデータに付加する。
【0044】
このような処理を行うために、仕様データと合格基準時間(合格基準値)とを対応づけるテーブルが記憶装置12に予め格納されていてよい。前処理部21は、テーブルを参照し、各個別タイヤデータの仕様データ(例えば、タイヤの断面高さ)に応じた基準時間(3000又は4500)を読み出してよい。そして、前処理部21は、その合格基準時間(合格基準値)と耐久時間(性能評価値)とを比較してよい。
【0045】
このテーブルにおいて、合格基準時間(合格基準値)が対応づけられる仕様データの項目数は、1つに限られず、2つ以上であってもよい。
図3の例で言えば、タイヤの断面高さとタイヤ幅とに、合格基準時間が対応づけられていてもよい。この場合、前処理部21はテーブルを参照し、個別タイヤデータに含まれるタイヤの断面高さとタイヤ幅とに対応する合格基準時間を読み出し、その合格基準時間と各タイヤの耐久時間とを比較してよい。
【0046】
なお、合否判定結果は予め個別タイヤデータに含まれていてもよい。例えば、
図4で例示する合否判定結果が、
図3で示すオリジナルの個別タイヤデータに含まれていてもよい。この場合、合否判定結果を付与する上述した前処理部21の処理は、省略されてよい。
【0047】
図5Aは、個別タイヤデータの別の例を示す図である。この図で示すように、個別タイヤデータは、性能評価値として、走行ステップの回数(試験回数)と、最後ステップの走行時間(又は走行距離)とを含んでもよい。このような試験は、例えば、所定の時間間隔で複数回実行されたり、或いは、所定の走行距離間隔で複数回実行されてもよい。
図5Aの例においては、ステップ(走行)が所定の時間間隔(例えば10分間隔)で複数回実行され、その回数が性能評価値の一つの項目として記録されている。また、個別タイヤデータは、最後のステップにおける走行時間(又は走行距離)を含んでよい。
図5Aにおいては、「ID:1」のタイヤについては、最後の走行ステップの開始から9分まで試験が実行され、「ID:2」と「ID:3」のタイヤについては、最後の走行ステップの開始から8分、7分までそれぞれ試験が実行されたことが示されている。
【0048】
このように単位が異なる複数の数値が性能評価値として記録されている場合、これらの数値をそのまま利用して回帰モデル42を生成するのは困難である。そこで、前処理部21は、走行ステップの回数(試験の回数)と、最後のステップにおける走行時間(又は走行距離)とに基づいて、回帰モデル42の生成に利用可能な性能評価値(連続値)を算出してもよい。
図5Bは、前処理部21のこの処理によって生成される個別タイヤデータの例を示している。この図では、前処理部21は、ステップの回数と、最後のステップにおける走行時間とに基づいて、総走行時間(具体的には、ステップの回数×10+最後のステップにおける走行時間)を算出している。
【0049】
[判定モデル生成部]
判定モデル生成部22は、性能評価値が合格基準値を達成しているか否かの合否判定結果(合格/不合格)を有する個別タイヤデータ(判定用教師データ)を取得する(判定用教師データ取得工程)。前処理部21が、オリジナルの個別タイヤデータに判定結果を付加した場合には、判定モデル生成部22は、前処理部21によって生成された個別タイヤデータを取得する。判定結果がオリジナルの個別タイヤデータに含まれている場合、判定モデル生成部22は、そのオリジナルの個別タイヤデータを取得してよい。
【0050】
判定モデル生成部22は、取得した個別タイヤデータを教師データとして利用して、判定モデル41を生成する。このとき、判定結果(合格/不合格)は正解ラベルとして利用される。また、仕様データは、説明変数として利用される。判定モデル41としては、例えば、決定木や、SVM(サポートベクターマシーン)、ニューラルネットワークなどの機械学習モデルが利用されてよい。
【0051】
[回帰モデル生成部]
回帰モデル生成部23は、合格基準値とは異なる値を性能評価値として有している複数の個別タイヤデータ(回帰用教師データ)を、オリジナルの個別タイヤデータから抽出する(回帰用教師データ取得工程)。例えば、回帰モデル生成部23は、合格基準値に達していない値を性能評価値として有している個別タイヤデータを、回帰用教師データとして抽出する。
図3の例で言うと、回帰モデル生成部23は、合格基準時間に達していない耐久時間を有している「ID:3」のタイヤと「ID:13」のタイヤの個別タイヤデータを抽出する。
【0052】
回帰モデル生成部23は、このようにして抽出した個別タイヤデータを利用して回帰モデル42を生成する。回帰モデル42としては、例えば、ニューラルネットワークや、ランダムフォレストなどの機械学習モデルが利用されてよい。このとき、回帰モデル生成部23は、性能評価値を目的変数として機械学習モデルに入力し、仕様データを説明変数として同機械学習モデルに入力する。
【0053】
なお、
図5Aで示すように、単位が異なる複数の数値が性能評価値として記録されている場合、回帰モデル生成部23は、前処理部21によって算出された性能評価値を含む個別タイヤデータを利用して回帰モデル42を生成してよい。
【0054】
[整合判定部]
整合判定部24は、判定モデル41によって推定された判定結果と、判定モデル42によって推定された性能評価値とが整合するか否かを判定する。例えば、整合判定部24は、記憶装置12に格納されている複数の個別タイヤデータ(又は前処理部21の処理によって判定結果が付加された個別タイヤデータ)のうち、判定モデル41の生成に使用されていない個別タイヤデータの仕様データを判定モデル41に入力する。そして、判定モデル41からの出力として、合否判定結果(合格/不合格)を得る。また、整合判定部24は、同じ仕様データを回帰モデル42にも入力し、回帰モデル42からの出力として性能評価値を得る。そして、整合判定部24は、取得した性能評価値と合格基準値とを比較し、その比較結果が、判定モデル41の出力である合否判定結果と整合するか否かを判定する。
【0055】
例えば、判定モデル41から得た判定結果が「不合格」であり、回帰モデル42から得た性能評価値が合格基準値に達していない場合、整合判定部24は、2つのモデル41・42による推定は整合していると判断する。これに対し、判定モデル41から得た判定結果が「不合格」(又は、「合格」)であり、回帰モデル42から得た性能評価値が合格基準値に達している場合(又は、達していない場合)、整合判定部24は、2つのモデル41・42による推定は整合してないと判断する。
【0056】
整合判定部24は、その結果(整合/不整合)を表示装置13に表示してもよい。表示装置13に2つのモデル41・42の推定結果が整合しない旨が表示装置13に表示された場合、作業者は、判定モデル41について、判定モデル41を規定する新たなハイパーパラメータを設定してよい。同様に、作業者は、回帰モデル42について、回帰モデル42を規定する新たなハイパーパラメータを設定してよい。言い換えれば、学習部20は入力装置14を通して新たなハイパーパラメータを受け付けてよい。
【0057】
他の例として、2つのモデル41・42による推定結果が整合しない場合、上述したモデル生成部22・23が、回帰モデル42及び/又は判定モデル41を再生成してもよい。例えば、モデル生成部22・23が、予め規定されたアルゴリズムに従って、ハイパーパラメータを変更してもよい。そして、判定モデル生成部22は、上述と同様、前処理部21が生成した個別タイヤデータを教師データとして利用して、新たな判定モデル41を生成してよい。また、回帰モデル生成部24は、記憶装置12に格納されている個別タイヤデータを利用して回帰モデル41を生成してよい。
【0058】
[フロー]
図6は学習部20が実行する処理の流れの例を示すフロー図である。
【0059】
学習部20は、記憶装置12に格納されている
図3で例示した個別タイヤデータを取得する(S101)。学習部20は、推定モデル(回帰モデル42及び判定モデル41)で推定しようとする性能評価項目の指定を受け付ける(S102)。作業者は、入力装置14を通して、性能評価項目を指定できてよい。
【0060】
作業者によって指定された性能評価項目についての合否判定結果を、S101で取得した個別タイヤデータが含んでいるか否かを判定する(S103)。個別タイヤデータが判定結果を含んでいない場合、前処理部21は各個別タイヤデータに合否判定結果を付加する(S104)。具体的には、前処理部21は、性能評価項目に対応づけられた合格基準値と、個別タイヤデータ中の性能評価値とを比較する。
図3で例示したように性能評価値として耐久時間が指定された場合、前処理部21は、各個別タイヤデータの耐久時間と合格基準時間(3000又は4500)とを比較する。そして、前処理部21は、比較結果に応じた「合格」と「不合格」のいずれか一方を合否判定結果として各個別タイヤデータに付加する。
【0061】
次に、判定モデル生成部22は、合否判定結果と仕様データとを含む複数の個別タイヤデータを教師データとして利用して、判定モデル41を生成(学習)する(S105)。
【0062】
回帰モデル生成部23は、合格基準値とは異なる値を性能評価値として有している複数の個別タイヤデータ(回帰用教師データ)を、S101で取得した複数の個別タイヤデータから抽出する(S106)。
図3の例で言えば、回帰モデル生成部23は、合格基準値(合格基準時間)に達していない値を性能評価値(耐久時間)として有している個別タイヤデータを抽出する。回帰モデル生成部23は、S106で抽出した回帰用教師データを利用して、回帰モデル42を生成する(S107)。
【0063】
整合判定部24は、S105で生成された判定モデル41によって推定される判定結果(合格/不合格)と、S107で生成された判定モデル42によって推定される性能評価値とが整合するか否かを判定する(S108)。2つのモデル41・42による推定が整合しない場合、学習部20は判定モデル41と回帰モデル42のうち少なくとも一方のハイパーパラメータを変更する(S109)。S109において、学習部20は、作業者からの指示に従って、ハイパーパラメータを変更してよい。すなわち、作業者は、入力装置14を通して、ハイパーパラメータの変更を学習部20に入力できてよい。そして、学習部20の処理はS105に戻り、判定モデル生成部22と回帰モデル生成部23が判定モデル41と回帰モデル42とをそれぞれ再生成する。
【0064】
[推定部]
推定部30は、推定対象タイヤの仕様データを学習済みの判定モデル41に入力し、推定対象タイヤの性能評価値が合格基準値を達成するか否かを推定する。また、推定対象タイヤの性能評価値が合格基準値を達成しないとの判定結果が判定モデル41から出力された場合に、推定部30は、推定対象タイヤの仕様データを回帰モデル42に入力し、推定対象タイヤの性能評価値を推定する。
【0065】
上述したように、回帰モデル42は、合格基準値とは異なる性能評価値を有するタイヤデータを教師データとして利用して、生成されている。より具体的には、回帰モデル42は、合格基準値に達していない性能評価値を有するタイヤデータを教師データとして利用して、生成されている。一方、推定部30では、性能評価値が合格基準値を達成しないとの判定結果が示された仕様データについて、回帰モデル42による性能評価値の推定が実行される。つまり、回帰モデル42の学習と回帰モデル42による推定の双方において、合格基準に達していない性能評価を示す仕様データが利用される。そのため、推定部30では、性能評価値について高い推定精度を確保できる。
【0066】
図7は、推定部30が実行する処理の流れの例を示すフロー図である。
【0067】
推定部30は、推定対象タイヤの仕様データを取得する(S201)。推定対象タイヤの仕様データは、作業者が設計したタイヤの仕様のデータであり、例えば記憶装置12に格納されている。推定部30は、ネットワークを介してこの仕様データを取得してもよい。
【0068】
推定部30は、学習済みの判定モデル41に仕様データを入力し、その出力として、性能評価値(例えば、耐久時間)が合格基準値(例えば、合格基準時間)を達成するか否かの合否判定結果を推定する(S202)。推定部30は、推定された判定結果が「合格」であるか否かを判定する(S203)。推定された判定結果が「合格」である場合、推定部30は、その結果を表示装置13に表示する(S204)。
【0069】
一方、推定された判定結果が「不合格」である場合、推定部30は、学習済みの回帰モデル42に仕様データを入力し、その出力として、性能評価値(例えば、耐久時間)を推定する(S205)。
【0070】
そして、推定部30は、S202で推定された判定結果(不合格)と、S205で推定された性能評価値とが整合するか否かを判定する(S206)。具体的には、推定部30は、S205で取得した性能評価値と合格基準値とを比較し、その比較結果が、判定モデル41の出力である判定結果(具体的には「不合格」)と整合するか否かを判定する。回帰モデル42から得た性能評価値が合格基準値に達していない場合、推定部30は、2つのモデル41・42による推定は整合していると判断する。これに対し、S202において判定モデル41から得た判定結果が「不合格」であるにも関わらず、回帰モデル42から得た性能評価値が合格基準値に達している場合、推定部30は、2つのモデル41・42による推定は整合してないと判断する。
図3を参照しながら説明したように、仕様データに応じた複数の合格基準値(例えば、合格基準時間として3000及び4500)が規定されている場合、推定部30はS201で取得した仕様データに応じた合格基準値とS205で推定した性能評価値とを比較する。
【0071】
最後に、推定部30は、S202で推定された判定結果(不合格)と、S205で推定された性能評価値と、S206の判定結果(整合/不整合)とを表示装置13に表示する。
【0072】
[タイヤデータの別の例]
図3及び
図4の個別タイヤデータを参照しながら説明した例において、前処理部21は、性能評価値と合格基準値とを比較し、その比較結果に応じた判定結果(合格/不合格)を個別タイヤデータに付加していた。前処理部21の処理は、これに限られない。例えば、前処理部21は、個別タイヤデータに含まれる試験結果に基づいて、合否判定結果を個別タイヤデータに付加してよい。このような試験結果として、例えば、棒の刺し込みによる強度試験をあげることができる。この強度試験では、タイヤに棒の先端を押し当て、棒の押し力を合格基準値に達するまで徐々に増大させ、タイヤに損傷が生じるか否かがテストされる。
【0073】
図8Aの個別タイヤデータにおいて、強度試験(1回目)、強度試験(2回目)、強度試験(3回目)の値(「OK」及び「NG」)は、このような棒刺し込み試験の結果である。「OK」は損傷が認められなかったことを示し、「NG」は損傷が発生したことを示している。
【0074】
個別タイヤデータがこのような試験結果を含む場合、前処理部21は、これら複数の試験結果に基づいて、合否判定結果を個別タイヤデータに付与してよい。
図8Bは、前処理部21の処理によって合否判定結果が付加された個別タイヤデータの例を示している。
【0075】
図8Aの例において、「ID:1」及び「ID:11」のタイヤは、1回目から3回目の全ての強度試験において、損傷が発生していない。そのため、前処理部21は、
図8Bで示すように、これらのタイヤのデータに対して、「合格」を合否判定結果として付加する。一方、「ID:2」及び「ID:12」のタイヤは、3回目の試験において損傷が発生したため、前処理部21は、
図8Bで示すように、これらのタイヤのデータに対して「不合格」を付加する。
【0076】
強度試験(3回目)の右側の列にある「測定刺し込み力」は、例えば、タイヤへの棒の刺し込み力である。刺し込み力は性能評価値の一例である。
図8Aの個別タイヤデータにおいて、測定刺し込み力の「100」は合格基準値である。「ID:1」及び「ID:11」のデータについて、「測定刺し込み力」として「100」が記録されている。これは、棒の刺し込み力が合格基準値である「100」まで達しても、タイヤに損傷が生じなかったことを意味している。一方、「ID:2」及び「ID:12」のデータについては、「測定刺し込み力」として「80」が記録されている。これは、2回目の強度試験において、棒の刺し込み力が合格基準値である「100」に達する前の「80」であるときに、タイヤに損傷が生じたことを意味する。
【0077】
図8A及び
図8Bで示す例では、複数の試験結果(1回目から3回目の試験結果)のなかに、1つでも「NG」がある場合に、前処理部21は、その個別タイヤデータに「不合格」を付加していた。これとは異なり、前処理部21は、全試験回数における「OK」の回数の割合が所定値よりも低い場合に、「不合格」を個別タイヤデータに付加してもよい。
【0078】
図8Bで例示する個別タイヤデータが前処理部21によって生成された場合、モデル生成部22・23は、例えば次のような処理を実行する。
【0079】
この場合に判定モデル生成部22が実行する処理は、
図4で例示する個別タイヤデータを利用する判定モデル生成部22の処理と、同じであってよい。すなわち、判定モデル生成部22は、前処理部21によって判定結果(合格/不合格)が付加された個別タイヤデータを教師データとして利用して、判定モデル41を生成してよい。
【0080】
回帰モデル生成部23は、合格基準値に達していない値を性能評価値として有している個別タイヤデータを、回帰用教師データとして抽出する。
図8Bの例で言うと、回帰モデル生成部23は、合否判定結果として「不合格」が付加されたタイヤデータ(「ID:2」のタイヤと「ID:12」のタイヤ)を、
図8Bで例示する複数の個別タイヤデータから抽出する。そして、回帰モデル生成部23は、このようにして抽出した個別タイヤデータを利用して、性能評価値(損傷が発生する刺し込み力)を推定するための回帰モデル42を生成する。このとき、回帰モデル生成部23は、性能評価値(測定刺し込み力)を目的変数として機械学習モデルに入力し、仕様データを説明変数として同機械学習モデルに入力する。機械学習モデルとしては、例えば、ニューラルネットワークや、ランダムフォレストなどが利用されてよい。
【0081】
[前処理部の変形例]
なお、性能評価の項目には、複数の種類が存在し得る。
図3、及び
図8Aを参照しながら説明したように、例えば、以下の3つの種類が存在し得る。
(第1の種類)全てのタイヤデータについて同じ合格基準値が適用される評価項目である。
(第2の種類)タイヤの仕様データに応じた複数の合格基準値が適用される項目である。
図3及び
図4で示した例では、耐久時間についての合格基準値(合格基準時間)として「3000」及び「4500」の2つが規定されている。これら複数の合格基準値は、仕様データの1つであるタイヤの断面高さに応じて規定されている。
(第3の種類)複数の試験結果や複数の仕様データなど複数の因子に基づいて、個別タイヤデータに合否判定結果を付加する項目である。
図8A及び
図8Bで示した例では、強度試験(1回目)、強度試験(2回目)、強度試験(3回目)の値(「OK」及び「NG」)に基づいて、合否判定結果が付加されている。
【0082】
前処理部21は、自動で判定結果(合格/不合格)を付加してよい。
図9は、このような前処理部21の処理の例を示すフロー図である。記憶装置12には、性能評価項目と、その項目の種類を示す番号(1~3)とを対応づけるマップが格納されていてよい。
【0083】
図9で示すように、前処理部21は、推定モデル(判定モデル41及び回帰モデル42)を生成しようとする性能評価項目の指定を受け付ける(S301)。作業者は、例えば入力装置14を通して、推定したい性能評価項目として「耐久時間」や「棒の刺し込み力」を指定できる。
【0084】
次に、前処理部21は、例えば、指定された性能評価項目が第1の種類(全データに同じ合格基準値が適用できる項目)に該当するか否かを判定する(S302)。ここで、指定された性能評価項目が第1の種類に該当する場合、前処理部21は、各個別タイヤデータの性能評価値と合格基準値とを比較し、その比較結果を合否判定結果として各個別タイヤデータに付加する(S303)。
【0085】
S302の判断において、指定された性能評価項目が第1の種類に該当しない場合、前処理部21は、性能評価項目が第2の種類に該当するか否かを判定する(S304)。すなわち、前処理部21は、性能評価項目の合格基準値として仕様データに応じて異なる複数の基準値(
図3の例で言えば、3000と4500)があるか否かを判定する。性能評価項目が第2の種類に該当する場合、前処理部21は、仕様データに応じた合格基準値と性能評価値とを比較し、その比較結果を合否判定結果として各個別タイヤデータに付加する(S305)。
図3の例で言えば、タイヤの断面高さが120未満のタイヤ(IDが1~3のタイヤ)について、合格基準値:3000と性能評価値とを比較し、タイヤの断面高さが120以上のタイヤ(IDが11~13のタイヤ)については、合格基準値:4500と性能評価値とを比較する。
【0086】
S306の判断において、指定された性能評価項目が第2の種類に該当しない場合、前処理部21は、性能評価項目が第3の種類に該当するか否かを判定する(S306)。すなわち、前処理部21は、
図8A及び
図8Bを参照しながら説明したように、指定された性能評価項目が、複数の試験結果(又は複数の仕様データ)に基づいて合格/不合格が決まる項目であるか否かを判定する。S306の判定において、性能評価項目が第3の種類に該当すると認められる場合、前処理部21は、複数の試験結果に基づいて、各個別タイヤデータに合否判定結果を付加する(S307)。例えば、上述したように、1つの試験結果として「NG」があった場合、前処理部21はそのタイヤのデータに「不合格」を付加する。指定された性能評価項目が第3の種類にも該当しない場合、前処理部21はその旨を表示装置13に表示して、その処理を終了してもよい。
【0087】
[タイヤ仕様の探索]
設計支援システム1は、その機能として、上述した学習部20及び推定部30に加えて、作業者が望む特性を充足するタイヤの仕様データを探索する探索部を有してもよい。探索部のこの処理は、例えば、次のように実行され得る。
【0088】
探索部は、最初に予め規定された仕様データ、或いは作業者が設定した仕様データを推定部30に提供する。推定部30は、探索部から取得した仕様データを推定モデル(判定モデル41及び/又は回帰モデル42)に入力し、その出力として、合否判定結果及び/又は性能評価値を算出し、それらを探索部に提供する。探索部は、算出された合否判定結果及び/又は性能評価値が、作業者が設定した目標に近づくように、新たな仕様データを生成し、これを推定部30に提供してよい。設計支援システム1は、探索部の処理と推定部30の処理とを繰り返し実行することで、作業者が設定した目標に近しい性能を実現する仕様データを探索する。
【0089】
推定部30は、探索部から取得された仕様データに基づいて、複数の性能を推定してもよい。すなわち、推定部30は、耐久時間や刺し込み力など、複数の性能を推定してよい。推定部30は、探索部から取得した仕様データに基づいて、これら複数の性能を推定し、その推定値を探索部に提供してよい。そして、探索部は、これら複数の性能の全体が、作業者が設定した目標に近づくように、新たな仕様データを生成し、これを推定部30に提供してよい。設計支援システム1は、探索部の処理と推定部30との処理を繰り返し実行することで、複数の性能について作業者が設定した目標に近しい値を実現する仕様データを探索してよい。このような探索は、いわゆる遺伝的アルゴリズムや、勾配法によって実現され得る。
【0090】
[まとめ]
上述した推定モデルの生成方法においては、性能評価値の合否判定の基準値である合格基準値とは異なる値を性能評価値として有している個別タイヤデータが、回帰用教師データとして、複数の個別タイヤデータから抽出される。より具体的には、合格基準値に達していない性能評価値を有している個別タイヤデータが、回帰用教師データとして、複数の個別タイヤデータから抽出される。そして、推定対象タイヤの性能評価値を推定するための回帰モデルは、この回帰用教師データを利用して生成される。この生成方法では、合格基準値とは異なる値を性能評価値として有している個別タイヤデータを利用して回帰モデルを生成するので、高い推定精度を有する回帰モデルを実現できる。
【0091】
また、上述した推定モデルの生成方法においては、性能評価値が合格基準値を達成しているか否かを示す判定結果と、前記仕様データとを含んでいる判定用教師データが、複数の個別タイヤデータから取得される。推定対象タイヤの性能評価値が合格基準値を達成するか否かを推定するための判定モデルが、判定用教師データを利用して生成される。この判定モデルを利用すると、タイヤ性能の推定時に、性能評価値が合格基準値を達成しないタイヤについて、回帰モデルによる性能評価値の推定を実行できるようになる。
【0092】
また、上述した推定部30は、推定対象タイヤの仕様データを判定モデル41に入力し、推定対象タイヤの性能評価値が合格基準値を達成するか否かを推定する手段(S202)を有している。また、推定部30は、推定対象タイヤの性能評価値が合格基準値を達成しない場合に、推定対象タイヤの仕様データを回帰モデル42に入力し、推定対象タイヤの性能評価値を推定する手段(S205)を有している。このように、推定部30では、性能評価値が合格基準値を達成しないとの判定結果が推定された仕様データについて、回帰モデル42による性能評価値の推定が実行される。そのため、回帰モデル42の生成過程において、合格基準値に達していない性能評価値を有するタイヤデータだけを教師データとして利用することが許容される。言い換えれば、回帰モデル42の生成過程でそのようなタイヤデータだけが利用されていても、推定時には、性能評価値が合格基準値を達成しないと推定された仕様データが回帰モデル42に入力されるので、性能評価値について高い推定精度を確保できる。
【0093】
[変形例]
なお、本開示で提案する製品性能の推定モデルの生成方法及び生成装置、並びに製品性能の推定装置、及び推定方法は、上述した例に限られない。
【0094】
例えば、本開示では、製品の例としてタイヤが用いられていた。しかしながら、本開示で提案する方法等は、タイヤ以外の製品について適用されてよい。
【0095】
例えば、本開示で提案する方法等は、貴重品を保管するためのキーボックスに適用されてよい。この場合、個別製品データは、キーボックスの仕様データとして、壁部の構造や、壁部の材料、組み立て方法などを含む。キーボックスには、例えば強度試験がなされる。すなわち、キーボックスに対してかける荷重を、予め規定した上限値(例えば、3トン)まで徐々に増大する。荷重が上限値に達しても、キーボックスが破損しなければ、個別製品データの1つの項目である試験結果(
図8A参照)として「OK」を付与し、性能評価値(
図8A参照)として荷重の上限値(例えば、3トン)を付与する。一方、荷重が上限値に達する前にキーボックスが破損した場合には、試験結果として「NG」を付与し、性能評価値として、破損が生じたときの荷重を付与する。
【0096】
図8A及び
図8Bを参照しながら説明した例と同様、このような試験は複数回実行されてよい。前処理部21は、試験結果として「OK」が付与されている個別製品データに合否判定結果として「合格」を付与し、試験結果として「NG」が付与されている個別製品データに合否判定結果として「不合格」を付与する。判別モデル生成部22は、「合格」と「不合格」とを目的変数とし、構造や材料などの仕様データを説明変数として判別モデルを生成する。回帰モデル生成部23は、合否判定結果として「不合格」が付与された個別製品データを、回帰用教師データとして抽出する。そして、回帰モデル生成部23は、性能評価値である荷重を目的変数とし、構造や材料などの仕様データを説明変数として回帰モデルを生成する。
【0097】
他の例として、本開示で提案する方法等は、複数の出力端子を有するスイッチング電源回路に適用されてよい。この場合、個別製品データは、電源回路の仕様データとして、例えば、電線の材料や長さ、出力端子の個数などを含む。電源回路には、例えば通電耐久試験がなされる。例えば、電源回路の複数の出力端子から所定の電流(規定負荷電流)を出力し、所定の合格基準時間(合格基準値)に亘って電源故障が起きないかどうかを判定する。合格基準時間に亘って電源故障が生じなければ、個別製品データの項目の1つである性能評価値として、合格基準時間を付与する。一方、合格基準時間に達する前に電源故障が認められた場合には、性能評価値として、その電源故障が認められた時間を付与する。
【0098】
スイッチング電源回路の性能を評価するための判別モデル及び回帰モデルの生成は、例えば、次のようになされる。前処理部21は、性能評価値として合格基準時間以上の値が付与されている個別製品データに、合否判定結果として「合格」を付与する。また、前処理部21は、性能評価値として合格基準時間より小さい値が付与されている個別製品データに、合否判定結果として「不合格」を付与する。判別モデル生成部22は、「合格」と「不合格」とを目的変数とし、電線の材料や長さなどの仕様データを説明変数として判別モデルを生成する。回帰モデル生成部23は、合否判定結果として「不合格」が付与された個別製品データを、回帰用教師データとして抽出する。そして、回帰モデル生成部23は、性能評価値である荷重を目的変数とし、電線の材料や長さなど仕様データを説明変数として回帰モデルを生成する。
【0099】
以上の説明では、合格基準値に達していない性能評価値を有するタイヤデータを利用して回帰モデル42が生成されていた。しかしながら、合格基準値を超えて性能評価値が測定されている項目については、合格基準値を超えている性能評価値を有するタイヤデータだけを利用して、回帰モデルを生成してもよい。このように生成された回帰モデルに、性能評価値が合格基準値に達すると推定された仕様データが入力されて、この仕様データについての性能評価値が推定されてもよい。
【0100】
また、さらに他の例では、合格基準値に達していない性能評価値(合格基準値よりも低い性能評価値)を有するタイヤデータを利用して回帰モデル42を生成し、このモデル42とは別に、合格基準値を超えている性能評価値を有するタイヤデータだけを利用して、回帰モデルを生成してもよい。
【0101】
このような項目の例として、棒の刺し込みによる強度試験をあげることができる。この強度試験には、合格基準値である棒の差し込み力の上限だけでなく、タイヤ高さ(タイヤ外径からリム径を引いた値の1/2)の上限も存在する。タイヤ高さが小さいタイヤに棒の刺し込み試験を行うと、刺し込み力が上限(合格基準値)に到達する前に棒の先端がリムに接触することがある。その場合、棒の先端がリムに接触した時点が刺し込み力の上限となる。この強度試験において、棒の刺し込み力が上限(合格基準値)に達する前に、棒がリムに接触した場合、そのタイヤは合格基準を満たしていると判断できる。すなわち、個別タイヤデータに、合否判定結果として「合格」を付与する。また、棒がリムに接触した時点での棒の刺し込み力を、性能評価値とする。
【0102】
図10Aは、このような強度試験によって得られる個別タイヤデータの例である。
図10Bは、前処理部21が、
図10Aの個別タイヤデータを参照して、合格判定結果を付与したデータの例を示す図である。
【0103】
図10Aの個別タイヤデータにおいて、強度試験の値は「OK」、「NG」、及び「M」を含んでいる。
図8Aで示した例と同様、「OK」は損傷が生じなかったことを示し、「NG」は損傷が発生したことを示している。また、
図10Aのデータにおいて、「M」は、棒の刺し込み力が上限(合格基準値)に到達する前に、棒がリムに接触したことを示している。試験装置では、棒の刺し込み力に加えて、棒の位置が測定されていてよい。棒の刺し込み力を増大しても、棒の位置に変化が生じない場合に、棒の先端がリムに接触していると認められ、その場合に試験結果として「M」が付与される。
図10Aにおいて、強度試験の右側の列にある「測定刺し込み力」は、タイヤへの棒の刺し込み力であり、性能評価値として利用される。棒の先端がリムに接触した場合には、その時点での刺し込み力が性能評価値として記録されている。
【0104】
図10Aの個別タイヤデータにおいて、測定刺し込み力の「100」は合格基準値である。
図10Aの「ID:12」のデータについて、試験結果として「M」が記録され、「測定刺し込み力」として「80」が記録されている。これは、棒の刺し込み力が合格基準値に達する前の「80」であるときに、棒がリムに接触したことを意味する。前処理部21は、
図10Bで示すように「ID:12」のデータに合否判定結果として「合格」を付与する。
【0105】
前処理部21は、「ID:1」、「ID:2」及び「ID:11」のデータについては、上述した
図8A及び
図8Bの例と同様の処理を行ってよい。すなわち、「ID:1」及び「ID:2」のデータについて、試験結果として「OK」が記録されている。
図10Bで示すように、前処理部21は、これらのデータに合否判定結果として「合格」を付与する。また、
図10Aにおいては、「ID:11」のデータについて、試験結果として「NG」が記録されている。前処理部21は、
図10Bで示すように、「ID:11」のデータに合否判定結果として「不合格」を付与する。
【0106】
図10Bの個別タイヤデータが記憶装置12に格納されている場合、判別モデル生成部22は、合格判定結果である「合格」及び「不合格」を目的変数とし、仕様データを説明変数として利用して判別モデル41を生成する。回帰モデル生成部23は、個別タイヤデータから「不合格」が付与されているデータを抽出し、このデータを回帰用教師データして回帰モデル42を生成する。また、回帰モデル生成部23は、試験結果として「M」が付与されているデータ(合格判定結果は「合格」)を抽出する。そして、そのデータを回帰用教師データして、別の回帰モデルを生成する。すなわち、回帰モデル生成部23は、「測定刺し込み力」を目的変数とし、仕様データを説明変数として利用して、別の回帰モデルを生成する。この回帰モデルを利用すれば、棒の先端がリムに接するのに要する刺し込み力が、性能評価値として精度良く推定できる。
【符号の説明】
【0107】
11:処理装置、12:記憶装置、13:表示装置、14:入力装置、20:学習部、21:前処理部、22:判定モデル生成部、23 回帰モデル生成部、24 整合判定部、40 推定モデル群、41 判定モデル、42 回帰モデル。