(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088275
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】発光素子および発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/40 20100101AFI20230619BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20230619BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
H01L33/40
H01L33/32
H01L21/28 B
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182025
(22)【出願日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2021202835
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 浩明
(72)【発明者】
【氏名】面家 英樹
【テーマコード(参考)】
4M104
5F241
【Fターム(参考)】
4M104AA04
4M104BB04
4M104BB05
4M104BB06
4M104BB07
4M104BB13
4M104BB36
4M104CC01
4M104DD08
4M104DD34
4M104DD37
4M104DD79
4M104DD83
4M104FF03
4M104FF13
4M104GG04
4M104HH15
5F241AA24
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA13
5F241CA40
5F241CA83
5F241CA87
5F241CA92
5F241CA98
5F241CB11
5F241FF11
(57)【要約】
【課題】熱処理による電気特性の悪化が抑制された発光素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】III族窒化物半導体からなり、n層11、発光層12、p層13が順に積層された発光素子であって、n層11は、Al組成比が60%以上でSi濃度が5×10
18/cm
3以上5×10
19/cm
3以下であり、p層13は、Al組成比が60%未満でMg濃度が1×10
19/cm
3以上である発光素子の製造方法において、p層13上に接し、p電極16を形成するp電極形成工程と、n層11上に接し、厚さ5nm以上15nm以下のVからなるV層と、V層上に接するAlからなるAl層と、を有したn電極17を形成するn電極形成工程と、500℃以上650℃以下の範囲内の任意の温度で熱処理を行う熱処理工程と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体からなり、n層、発光層、p層が順に積層された発光素子であって、前記n層は、Al組成比が60%以上でSi濃度が5×1018/cm3以上5×1019/cm3以下であり、前記p層は、Al組成比が60%未満でMg濃度が1×1019/cm3以上である発光素子の製造方法において、
前記p層上に接し、p電極を形成するp電極形成工程と、
前記n層上に接し、厚さ5nm以上15nm以下のVまたはVを主成分とする金属であるV層と、前記V層上に接するAlまたはAlを主成分とする金属であるAl層と、を有したn電極を形成するn電極形成工程と、
500℃以上650℃以下の範囲内の任意の温度で熱処理を行う熱処理工程と、
を有する、
発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程において、前記V層は前記Al層に拡散して消失し、前記n電極の構造は、前記n層上に接し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなる第1層と、前記第1層上に接し、Alを主としてVを含む金属からなる第2層と、に変化する、請求項1に記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記p電極は透明導電性材料であり、
前記熱処理工程は、酸素を含む雰囲気で行う、請求項1または請求項2に記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理工程は、窒素と、酸素との混合ガスであって酸素濃度が0.1体積%以上1体積%以下の範囲の雰囲気で行う、請求項3に記載の発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記n電極形成工程における前記V層の成膜速度を0.71nm/s以下とする、請求項1または請求項2に記載の発光素子の製造方法。
【請求項6】
III族窒化物半導体からなり、n層、発光層、p層が順に積層された発光素子の製造方法において、
前記n層上に接し、厚さ5nm以上15nm以下のVまたはVを主成分とする金属であるV層と、前記V層上に接するAlまたはAlを主成分とする金属であるAl層と、を有したn電極を形成するn電極形成工程と、
500℃以上650℃以下の範囲内の任意の温度で熱処理を行う熱処理工程と、
を有し、
前記n電極形成工程における前記V層の成膜速度を0.71nm/s以下とし、
前記熱処理工程において、前記V層は前記Al層に拡散して消失し、前記n電極の構造は、前記n層上に接し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなる第1層と、前記第1層上に接し、Alを主としてVを含む金属からなる第2層と、に変化する、
発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記p層上に接し、透明導電性材料からなるp電極を形成するp電極形成工程を有し、
前記熱処理工程は、酸素を含む雰囲気で行う、請求項6に記載の発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理工程は、1分以上10分以下の範囲内の任意の時間だけ行う、請求項1または請求項6に記載の発光素子の製造方法。
【請求項9】
III族窒化物半導体からなるn層、発光層、p層が順に積層された発光素子であって、前記n層は、Al組成比が60%以上でSi濃度が5×1018/cm3以上5×1019/cm3以下であり、前記p層は、Al組成比が60%未満でMg濃度が1×1019/cm3以上である発光素子において、
前記p層上に接して位置するp電極と、
前記n層上に接して位置し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなり、厚さが1nm以上3nm以下である第1層と、前記第1層上に接して位置し、Alを主としVを含む金属からなり、厚さが50nm以上500nm以下である第2層と、を有したn電極と、
を有する発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体からなる発光素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線LEDを殺菌や消毒に使用することが注目されており、紫外線LEDの高効率化に向けた研究、開発が盛んに行われている。
【0003】
III族窒化物半導体からなるUVCの紫外発光素子では、n型のIII族窒化物半導体に接触するnコンタクト電極にTi/Al系を用いることが主流となっている。ここで、「/」は積層であることを示し、A/BはA、Bの順に積層した構造であることを示している。以下、材料の説明において同様とする。
【0004】
Ti/Al系材料では、800~1000℃の温度でアロイしてTiをIII族窒化物半導体中に拡散させることでコンタクト抵抗の低減を図っている。
【0005】
Ti/Al系以外の材料としては、V/Al系材料が知られている。特許文献1には、n-GaN上にV/Alを形成することが記載されており、500~600℃でアロイすることによりコンタクト抵抗を低減できることが記載されている。
【0006】
非特許文献1には、GaN/AlGaN上にV/Alを形成した例が示されており、V/Alのコンタクト抵抗低減のメカニズムについて考察されている。V/Alでは、AlGaN中のNとV/Al中のAlが結合してAlNxを形成し、AlGaNに窒素空孔が生じてn型化するためにコンタクト抵抗が低減すると考察されている。Vは、AlGaN中のNとV/Al中のAlとの反応速度を制御しているものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】矢船 憲成、“窒化物半導体へテロ接合への低抵抗オーミック接触の形成と電界効果トランジスタへの応用”、福井大学 学位論文、2016年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
Ti/Alでは、Tiを拡散させる必要があるためアロイ温度が800~1000℃と高いという問題があった。アロイ温度が高いと、p-GaNとITOからなるp電極とのコンタクト抵抗が上昇し、順方向電圧Vfが高くなってしまう。また、アロイ温度とTi膜厚の最適な範囲が狭いという問題もあった。
【0010】
また、V/Alを用いた場合であっても、成長条件によってはコンタクト抵抗が高くなってしまうことがあった。
【0011】
そこで本発明の目的は、熱処理による電気特性の悪化が抑制された発光素子の製造方法を提供することである。また、n電極のコンタクト抵抗を低減することができる発光素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、
III族窒化物半導体からなり、n層、発光層、p層が順に積層された発光素子であって、前記n層は、Al組成比が60%以上でSi濃度が5×1018/cm3以上5×1019/cm3以下であり、前記p層は、Al組成比が60%未満でMg濃度が1×1019/cm3以上である発光素子の製造方法において、
前記p層上に接し、p電極を形成するp電極形成工程と、
前記n層上に接し、厚さ5nm以上15nm以下のVまたはVを主成分とする金属であるからなるV層と、前記V層上に接するAlまたはAlを主成分とする金属であるAl層と、を有したn電極を形成するn電極形成工程と、
500℃以上650℃以下の範囲内の任意の温度で熱処理を行う熱処理工程と、
を有する、
発光素子の製造方法にある。
【0013】
本発明の他の態様は、
III族窒化物半導体からなり、n層、発光層、p層が順に積層された発光素子の製造方法において、
前記n層上に接し、厚さ5nm以上15nm以下のVまたはVを主成分とする金属であるV層と、前記V層上に接するAlまたはAlを主成分とする金属であるAl層と、を有したn電極を形成するn電極形成工程と、
500℃以上650℃以下の範囲内の任意の温度で熱処理を行う熱処理工程と、
を有し、
前記n電極形成工程における前記V層の成膜速度を0.71nm/s以下とし、
前記熱処理工程において、前記V層は前記Al層に拡散して消失し、前記n電極の構造は、前記n層上に接し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなる第1層と、前記第1層上に接し、Alを主としてVを含む金属からなる第2層と、に変化する、
発光素子の製造方法にある。
【0014】
本発明の他の態様は、
III族窒化物半導体からなるn層、発光層、p層が順に積層された発光素子であって、前記n層は、Al組成比が60%以上でSi濃度が5×1018/cm3以上5×1019/cm3以下であり、前記p層は、Al組成比が60%未満でMg濃度が1×1019/cm3以上である発光素子において、
前記p層上に接して位置するp電極と、
前記n層上に接して位置し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなり、厚さが1nm以上3nm以下である第1層と、前記第1層上に接して位置し、Alを主としVを含む金属からなり、厚さが50nm以上500nm以下である第2層と、を有したn電極と、
を有する発光素子にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、熱処理による電気特性の悪化を抑制することができる。また、本発明の他の態様によれば、n電極のコンタクト抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】熱処理前後でのn電極の層構成の変化を模式的に示した図。
【
図5】n電極17のコンタクト抵抗率と熱処理温度の関係を示したグラフ。
【
図12】V層の成膜速度とnコンタクト抵抗率との関係を示したグラフ。
【
図13】V層の成膜速度とRqとの関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発光素子の製造方法の1つは、III族窒化物半導体からなり、n層、発光層、p層が順に積層された発光素子であって、n層は、Al組成比が60%以上でSi濃度が5×1018/cm3以上5×1019/cm3以下であり、p層は、Al組成比が60%未満でMg濃度が1×1019/cm3以上である発光素子の製造方法である。また、p層上に接し、p電極を形成するp電極形成工程と、n層上に接し、厚さ5nm以上15nm以下のVまたはVを主成分とする金属であるV層と、V層上に接するAlまたはAlを主成分とする金属であるAl層と、を有したn電極を形成するn電極形成工程と、500℃以上650℃以下の範囲内の任意の温度で熱処理を行う熱処理工程と、を有する。
【0018】
熱処理工程において、V層はAl層に拡散して消失し、n電極の構造は、n層上に接し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなる第1層と、第1層上に接し、Alを主としてVを含む金属からなる第2層と、に変化していてもよい。
【0019】
p電極は透明導電性材料であってもよく、熱処理工程は、酸素を含む雰囲気で行ってもよい。これにより、透明導電性材料であるp電極のアロイとn電極のアロイとを兼ねることができる。熱処理工程は、窒素と、酸素との混合ガスであって酸素濃度が0.1体積%以上1体積%以下の範囲の雰囲気で行ってもよい。p電極形成工程は、p電極の形成後に焼成する工程を含んでもよい。
【0020】
n電極形成工程におけるV層の成膜速度を0.71nm/s以下としてもよい。n電極のコンタクト抵抗を安定して下げることができる。
【0021】
発光素子の製造方法の他の1つは、III族窒化物半導体からなり、n層、発光層、p層が順に積層された発光素子の製造方法である。n層上に接し、厚さ5nm以上15nm以下のVまたはVを主成分とする金属であるV層と、V層上に接するAlまたはAlを主成分とする金属であるAl層と、を有したn電極を形成するn電極形成工程と、500℃以上650℃以下の範囲内の任意の温度で熱処理を行う熱処理工程と、を有する。n電極形成工程におけるV層の成膜速度を0.71nm/s以下とし、熱処理工程において、V層はAl層に拡散して消失し、n電極の構造は、n層上に接し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなる第1層と、第1層上に接し、Alを主としてVを含む金属からなる第2層と、に変化する。
【0022】
p層上に接し、透明導電性材料からなるp電極を形成するp電極形成工程を有し、熱処理工程は、酸素を含む雰囲気で行ってもよい。p電極を形成後に焼成してもよい。
【0023】
熱処理工程は、1分以上10分以下の範囲内の任意の時間だけ行ってもよい。
【0024】
発光素子は、III族窒化物半導体からなるn層、発光層、p層が順に積層された発光素子である。n層は、Al組成比が60%以上でSi濃度が5×1018/cm3以上5×1019/cm3以下であり、p層は、Al組成比が60%未満でMg濃度が1×1019/cm3以上である。p層上に接して位置するp電極と、n層上に接して位置し、AlNxまたは前記n層よりもAl組成の高いAlyGa1-yNxからなり、厚さが1nm以上3nm以下である第1層と、第1層上に接して位置し、Alを主としVを含む金属からなり、厚さが50nm以上500nm以下である第2層と、を有したn電極と、を有する。
【0025】
第2層におけるVの濃度は5mol%以上10mol%以下であってもよい。第2層の上にTi、TiN、Ni、Pt、Auのうち少なくとも1種から成る第3層を有していてもよい。第3層の厚さは、20nm以上1000nm以下であってもよい。p電極は、ITOまたはIZOであってもよい。
【0026】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図を参照に説明する。
【0027】
図1は、実施形態の発光素子の構成を示した図である。発光波長は、たとえば200~280nmである。
図1のように、実施例1の発光素子は、基板10と、n層11と、発光層12と、p層13と、電子ブロック層14と、p電極16と、n電極17と、を有している。
【0028】
(基板10の構成)
基板10は、c面を主面とするサファイアからなる基板である。サファイア以外にも、発光波長に対して透過率が高く、III族窒化物半導体を成長させることができる材料であれば任意の材料を用いてよい。
【0029】
(n層11の構成)
n層11は、基板10上にバッファ層(図示しない)を介して位置している。n層11は、Al組成比が60%以上のn―AlGaNからなる。ここでIII族窒化物半導体のAl組成比は、III族金属に対するAlのモル比(%)である。つまり、III族窒化物半導体を一般式AlxGayInzN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z=1)で表したとき、Al組成比はx×100(%)である。n型不純物はSiであり、Si濃度が5×1018~5×1019/cm3である。n層11は複数の層で構成されていてもよい。その場合、n層11の最上層(n電極17と接する層)のAl組成比が60%以上であればよい。
【0030】
n層11のAl組成比は、65~90%がより好ましく、さらに好ましくは70~85%である。n層11のSi濃度は、8×1018~3×1019/cm3がより好ましく、さらに好ましくは、1×1019~2×1019/cm3である。
【0031】
(発光層12の構成)
発光層12は、n層11上に位置している。発光層12は、井戸層と障壁層が交互に繰り返し積層されたMQW構造である。繰り返し数はたとえば2~5である。井戸層はAlGaNからなり、そのAl組成比は所望の発光波長に応じて設定される。障壁層は、井戸層よりもAl組成比の大きなAlGaNである。井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きなAlGaInNでもよい。また、発光層12はSQW構造でもよい。
【0032】
(電子ブロック層14の構成)
電子ブロック層14は、発光層12上に位置している。電子ブロック層14は、発光層12の障壁層よりもAl組成比の高いp-AlGaNからなる。電子ブロック層14によって、n電極17から注入した電子が発光層12を超えてp層13側に拡散してしまうのを抑制している。
【0033】
(p層13の構成)
p層13は、電子ブロック層14上に位置している。p層13は、p-AlGaN/p-GaNからなる。p型不純物はMgである。Mg濃度は、1×1019/cm3以上である。p層13は単層でもよい。p電極16と接する層が、Al組成比60%未満のAlGaNであればよい。
【0034】
p層13表面の一部領域には、n層11に達する深さの溝22が形成されている。溝22の底面にはn層11が露出している。
【0035】
(p電極16の構成)
p電極16は、p層13上に位置している。p電極16は、ITOからなる。ITO以外にも、IZOなどの透明導電性材料を用いることができる。また、Ni/Al、Ni/Au、Rh、Ru、Pt、Pdなどの透明導電性材料以外の材料を用いることもできる。
【0036】
(n電極17の構成)
n電極17は、溝22の底面に露出するn層11上に位置している。
図2は、n電極17の構成を拡大して示した図である。
図2のように、n電極17は、n層11に接して位置する第1層17Aと、第1層17A上に接して位置する第2層17Bと、第2層17B上に接して位置する第3層17Cと、を有する構造である。
【0037】
第1層17Aは、AlNxからなり、厚さは1~3nmである。xは、たとえば0.4~0.7である。またxは、厚さ方向にn層11から離れるにつれて減少していてもよい。この場合はxの厚さ方向の平均が0.4~0.7である。また、n層11側からのGaの拡散がある場合もあり、その場合には第1層17Aは、n層11よりもAl組成比が高いAlyGa1-yNx(0.4≦x≦0.7)である。n層11のAl組成比がaであれば、a<y≦1である。yはたとえば0.7以上である。またこの場合も、xは厚さ方向にn層11から離れるにつれて減少していてもよく、yは厚さ方向にn層11から離れるにつれて増加していてもよい。
【0038】
第2層17Bは、Alを主としVとTiを含む金属からなり、厚さは50~500nmである。第2層17BにおいてAl、V、Tiの比率は、たとえばAlが50~85mol%、Vが5~20mol%、Tiが10~30mol%である。第3層17Cは、Tiからなり、厚さは20~100nmである。このようなn電極17の構造は、V/Al/Tiを500~650℃でアロイした結果得られた構造である。詳細は後述する。
【0039】
上記構造のn電極17では、n層11に対するコンタクト抵抗が低減されている。たとえば、n層11に対するn電極17のコンタクト抵抗率は4×10-4Ω・cm2以下である。その理由は、第1に、AlNxからなる第1層17Aがn層11に対する良好なコンタクト層として機能しているためと考えられる。また、第2に、n層11表面に窒素空孔が生じ、n型化するためコンタクト抵抗が低下していると考えられる。
【0040】
なお、第3層17Cは、アロイ時にn電極17中のAlが蒸発してしまうのを抑制するカバーとして設けるものである。Ti以外にもTiN、Ni、Pt、Auなどを用いることができる。
【0041】
(製造方法について)
次に、実施形態の発光素子の製造方法について、図を参照に説明する。
【0042】
まず、サファイアからなる基板10を用意する。そして、基板10上にバッファ層を介してMOCVD法によってn層11、発光層12、電子ブロック層14、p層13を順に積層する(
図3(a)参照)。
【0043】
次に、p層13の所定領域をn層11に達するまでドライエッチングして溝22を形成する(
図3(b)参照)
【0044】
次に、p層13上の所定領域にスパッタや蒸着によってITOからなるp電極16を形成する(
図3(c)参照)。そして、ITOを焼成し結晶化する熱処理を行う。その熱処理は、窒素雰囲気で500~600℃、1~10分間である。なお、焼成の熱処理は省略してもよい。
【0045】
次に、溝22の底面に露出するn層11上に、スパッタや蒸着によってV/Al/Tiからなるn電極17を形成する(
図3(d)参照)。V層の厚さは、5~15nm、Al層の厚さは50~500nm、Ti層の厚さは20~100nmである。V層は、VまたはVを主成分とする金属である。Al層は、AlまたはAlを主成分とする金属である。Ti層は、TiまたはTiを主成分とする金属である。
【0046】
次に、酸素を含む雰囲気で、温度500~650℃、1~10分間の熱処理を行う。酸素を含む雰囲気は、たとえば窒素などの不活性ガスに酸素を混合した雰囲気であり、酸素濃度はたとえば0.1~1体積%である。熱処理は減圧下で行うことが好ましく、たとえば1×102~1×104Paである。また、熱処理温度は550~650℃がより好ましい。
【0047】
この熱処理は、p電極16のアロイとn電極17のアロイとを兼ねており、p層13に対するp電極16のコンタクト抵抗と、n層11に対するn電極17のコンタクト抵抗とを同時に低減することができる。
【0048】
n電極17の材料として一般的に用いられているTi/Alでは、アロイ温度が800~1000℃と高温であるため、n電極17の形成とアロイ後に、p電極16の形成と焼成、アロイを行う必要があった。また、n電極17の形成後にp電極16の焼成を行うと、n電極17の表面にp電極16からの飛来物が付着する問題があった。
【0049】
そこで本実施形態では、n電極17としてV/Al/Tiを用いることでアロイ温度を低減し、n電極17のアロイとp電極16のアロイを共通化して同時に行うことで熱処理回数を減らしている。熱処理温度の低温化と熱処理回数減少の結果、発光素子の電気特性の劣化を抑制できる。また、p電極16の焼成後にn電極17を形成しているため、n電極17の表面にp電極16からの飛来物が付着しない。
【0050】
この熱処理によって、n電極17の構造は次のように変化する。n電極17であるV/Al/TiのうちVはAl中に拡散していき、n層11やTiには拡散しない。この拡散の結果、V層は消失する。また、V/Al/Ti中のAlは、n層11中のNと反応し、n層11とAl層の界面にはAlNxが形成される。Vは、AlとNの反応を促進する触媒のような作用をしていると考えられる。この熱処理の結果、n電極17の構造は、n層11に接して位置し、AlNxからなる第1層17Aと、第1層17A上に接して位置し、Alを主としVとTiを含む金属からなる第2層17Bと、第2層17B上に接して位置し、Tiからなる第3層17Cとの3層構造に変化する。
【0051】
n電極17がこのような構造に変化することにより、n層11に対するn電極17のコンタクト抵抗が低減する。その理由はすでに述べたとおりである。すなわち、第1に、AlNxからなる第1層17Aがn層11に対して良好なコンタクト層として機能していると考えられること、第2に、AlNxの形成によりn層11に窒素空孔が生じたことでn層11のn型化がより促進したと考えられることである。
【0052】
V層の厚さが5~15nmの範囲であれば、n層11に対するn電極17のコンタクト抵抗は低減できるが、5nm未満や15nmよりも厚いとコンタクト抵抗は十分に低減できない。V層が5nm未満ではコンタクト抵抗が高い理由は、V層が薄すぎるとAlとNの反応を促進する作用が十分に発揮されず、AlNxの形成が不十分となるためと考えられる。また、V層が15nmよりも厚いとコンタクト抵抗が高い理由は、V層が厚いとV層が拡散しきらず残存し、n層11との界面にAlNxが形成されるのを阻害するためと考えられる。
【0053】
同様にV層が残存しないように、V層の成膜速度は、0.71nm/s以下とするのがよい。その理由について
図4を参照に説明する。
図4は、n電極17の熱処理前後でのn電極17の層構成の変化を模式的に示した図であり、
図4(a)はV層の成膜速度が0.71nm/sより速い場合、
図4(b)はV層の成膜速度が0.71nm/s以下の場合である。
【0054】
V層の成膜速度が0.71nm/sより速いと、Vのクラスターが生じてV層表面に多数の凸部が生じる可能性がある(
図4(a)参照)。凸部が高いと熱処理後に凸部が拡散せずに残存してしまう可能性があり、コンタクト抵抗が高くなってしまう。そこでV層の成膜速度を0.71nm/s以下とすれば、V層を平坦に製膜することができる(
図4(b)参照)。V層が薄く均一であれば、熱処理後にV層が残らず均一なAlN
xが得られるため、n電極17のコンタクト抵抗を安定して低減することができる。V層のより好ましい成膜速度は0.38nm/s以下である。V層の成膜速度の下限は特に限定せず、0より大きければよい。ただし、成膜速度が遅すぎると形成に時間がかかるため、0.1nm/s以上とすることが好ましい。
【0055】
また、V層表面のRq(二乗平均平方根高さ)が0.83以下となるようにV層を形成することが好ましい。Rqが0.83以下であれば、V層は十分に平坦であり、上記のようにコンタクト抵抗を低減できる。より好ましいV層表面のRqは0.4以下である。
【0056】
また、この熱処理によって、p層13に対するp電極16のコンタクト抵抗は、n電極17の材料としてTi/Alを用いた場合よりも低減することができる。熱処理温度が500~650℃と低減されたため、p層13中の窒素空孔形成が抑制されたと考えられる。p電極16のコンタクト抵抗の低減により、実施形態の発光素子では順方向電圧Vfを低減することができる。
【0057】
また、実施形態の発光素子では、光出力Poの向上を図ることができる。これは、熱処理温度が低減された結果、p層13のMgの発光層12への拡散が抑制されたためと考えられる。Mgの拡散長は、たとえば10nm以下である。
【0058】
以上、実施形態の発光素子では、順方向電圧Vfの低減や光出力Poの向上を図ることができる。また、n電極17表面にp電極16からの飛来物が付着しないようにすることができる。
【0059】
なお、実施形態では、n電極17形成後の熱処理について酸素を含む雰囲気で行っているが、これはp電極16としてITO、IZOなどの透明導電性酸化物を用いているためである。したがって、p電極16としてNi/Alなど透明導電性酸化物以外の材料を用いる場合には、酸素を含まない不活性ガス雰囲気で熱処理を行ってもよい。不活性ガスは窒素などである。
【0060】
また、実施形態ではp電極16のアロイとn電極17のアロイを同時に行っているが、個別に行うことも可能である。
【0061】
(各種実験結果)
次に、実施形態の発光素子に関する各種実験結果について説明する。
【0062】
(実験1)
上記実施形態の製造方法により発光素子を作製した(以下、実施例の発光素子とする)。各層の構成は次の通りである。
【0063】
n層11は、Al組成比60%、厚さ1.0μm、Si濃度2.7×1019/cm3である。
【0064】
発光層12は、障壁層、井戸層、障壁層、井戸層、ラスト障壁層を順に積層したMQW構造で、井戸層はAl組成比40%、厚さ2.5nm、障壁層はAl組成比50%、厚さ11nm、Si濃度は4.5×1018/cm3、ラスト障壁層はAl組成比50%、厚さ5.5nm、Si濃度は2.5×1018/cm3である。
【0065】
電子ブロック層14は、Al組成比85%、厚さ25nm、Mg濃度は1.0×1020/cm3である。
【0066】
p層13は、p-AlGaNからなるクラッド層とp-GaNからなるコンタクト層を順に積層した構造で、クラッド層は、Al組成比60%、厚さ50nm、Mg濃度は5.0×1019/cm3、コンタクト層は、厚さ18nm、Mg濃度は1.0×1020/cm3である。
【0067】
n電極17のV層の厚さは10nmまたは20nm、Al層は150nm、Ti層は50nmとした。
【0068】
また、比較として、実施例とは電極の形成順と熱処理、およびn電極17のV層の厚さが異なり、それ以外は実施例と同様の発光素子を作製した(以下、比較例の発光素子とする)。比較例では、p電極16形成の前にn電極17を形成して窒素雰囲気で800℃のアロイを行い、その後にp電極16を形成して窒素雰囲気で550℃の焼成、酸素を含む雰囲気で570℃のアロイを行った。n電極17のV層は20nmとした。
【0069】
図5は、実施例の発光素子におけるn電極17のコンタクト抵抗率と熱処理温度との関係を示したグラフである。n電極17のV層の厚さは10nm、20nmの2種とし、熱処理雰囲気は窒素雰囲気と酸素を含む雰囲気の2種とした。グラフの縦軸は、比較例1のコンタクト抵抗率を1とした相対値である。
【0070】
図5のように、V層が20nmでは熱処理温度が800℃で比較例と同等のコンタクト抵抗率となったが、800℃より低いと比較例よりも高いコンタクト抵抗率であった。
【0071】
一方、V層が10nmの場合、熱処理温度が550~650℃のあたりで比較例と同等のコンタクト抵抗率となった。また、熱処理温度570℃では、熱処理の雰囲気を窒素雰囲気から酸素を含む雰囲気に変更してもコンタクト抵抗率は変化しなかった。この結果、p電極16として透明導電性材料以外の材料を用いる場合には、酸素を含まない雰囲気で熱処理してもよいことが分かった。
【0072】
この結果から、p電極16のアロイと同等の熱処理条件でn電極17のコンタクト抵抗を比較例のコンタクト抵抗と同等とするためには、V層の厚さを5~15nmとし、熱処理温度を550~650℃とすればよいことがわかった。なお、p電極16の材料によっては、500~650℃でもよい可能性がある。
【0073】
(実験2)
実施例でn電極17のV層を10nm、熱処理温度を570℃とした場合において、比較例と光出力Poと順方向電圧Vfを比較した。
図6は、実施例、比較例の発光素子のIf-Vf特性を示したグラフであり、
図7は、If-Po特性を示したグラフである。
図6の光出力Poは、比較例の発光素子の350mAにおける光出力Poを1とする相対値である。
図7のように、実施例の発光素子は、比較例の発光素子に対して光出力Poが21.6%向上(350mAにおける)していた。また、
図6のように、実施例の発光素子は、比較例の発光素子に対して順方向電圧Vfが0.25V低下(350mAにおける)していた。
【0074】
(実験3)
実施例と比較例の発光素子について、SIMS分析によってp層13からn層11にかけてのMgとHの濃度分布を測定した。そして、MgとHの拡散長を評価した。拡散長は、p層13から発光層12への原子の拡散量を評価する指標であり、p層13と発光層12の界面から発光層12側に向かう深さであって濃度が測定限界となるまでの長さとする。測定限界は1×1017/cm3である。実施例は、比較例に比べてMgの拡散長が8.3nm短く、Hの拡散長が12.8nm短かった。この結果、実施例は熱処理温度が低減されているためMgやHの拡散が抑制されていることがわかった。実施例の発光素子が比較例に比べて光出力Poが向上しているのは、熱処理温度の低減によりMgやHの拡散が抑制されている結果と考えられる。
【0075】
(実験4)
実施例と比較例の発光素子について、p電極16のコンタクト抵抗を計算した。その結果、実施例は比較例に比べて、p電極16のコンタクト抵抗が0.24V低かった。これは、実験2における順方向電圧Vfの差0.25Vとほぼ一致していた。この結果から、実施例の発光素子が比較例に比べて順方向電圧Vfが低下しているのは、熱処理温度の低減によりp層13中の窒素空孔の形成が抑制され、p電極16のコンタクト抵抗が低減されたためであると考えられる。また、
図6のように、実施例の発光素子は低電流でのリークが比較例よりも抑制されており、窒素空孔の形成抑制の挙動と一致している。
【0076】
(実験5)
実施例においてp層13のクラッド層を、厚さ50nm、Mg濃度5.0×1019/cm3のp-GaNと、厚さ400nm、Mg濃度2.0×1019/cm3のp-GaNを順に積層した構造に置き換えたところ、実施例と同様に比較例よりも光出力Poが向上し、順方向電圧Vfが低下した。したがって、実施例の効果は、p電極16が接する層がAlGaNであってもGaNであってもかわらないことがわかった。
【0077】
(実験6)
実施例の発光素子について、n層11とn電極17の界面の断面TEM像を撮影し、EDSにより元素マッピングを得た。
図8(a)はTEM像、(b)は元素マッピングである。
図9(a)、(b)は界面をより拡大したTEM像、元素マッピングである。
【0078】
図9(b)のように、n層11とn電極17の界面にはVが存在していないことがわかった。一方、
図8(b)のように、Al層中には5~10mol%程度Vが存在していることがわかった。このことから、n電極17のV/Al/Ti中のV層は、熱処理によるAl層中へのVの拡散によって消失していることがわかった。また、n層11とn電極17の界面にはNとAlが存在していることから、AlNxからなる層が形成されていることがわかった。これは、n層11を構成するAlGaN中のNと、n電極17のV/Al/Ti中のAlとが反応したものと考えられる。
【0079】
このように、n電極17の構造は、熱処理によってV/Al/Tiから、AlNxからなる第1層17Aと、Alを主としVとTiを含む金属からなる第2層17Bと、Tiからなる第3層17Cとの3層構造に変化していることがわかった。
【0080】
Vは、AlとNの反応を促進する触媒のような機能を果たしていると考えられる。n層11とn電極17の界面からV層が消失してAlN
xからなる層が形成されたことにより、n層11に対して良好なコンタクトが取れるようになったと推察される。また、
図8(b)から、Vは、n層11やTi層までは拡散していないことがわかる。Vが拡散しすぎずAl層に広く留まることでVのAlとNの反応を促進する機能が効率的に発揮されたものと考えられる。
【0081】
(実験7)
実施例の発光素子においてn電極17のV層の厚さを20nmに変更し、実験6と同様にTEM像、元素マッピングを取得した。
図10(a)はTEM像、(b)は元素マッピングである。
図11(a)、(b)は界面をより拡大したTEM像、元素マッピングである。
図10(b)、
図11(b)のように、n層11とn電極17の界面にV層が残存していた。この結果、V層が厚いとコンタクト抵抗を十分に低減できない原因は、熱処理でV層が拡散しきれず残存し、AlN
xの形成を阻害するためであると考えられる。
【0082】
(実験8)
実施例の発光素子の製造において、n電極17のV層の成膜速度を変化させ、nコンタクト抵抗率を測定した。表1は、V層の各成膜速度におけるnコンタクト抵抗率を示した表である。また、
図12は、V層の成膜速度(Å/sec)とnコンタクト抵抗率との関係を示したグラフである。表1と
図12のnコンタクト抵抗率は成膜速度を3Å/secとした場合のnコンタクト抵抗率で規格化した値である。
【0083】
【0084】
表1、
図12のように、成膜速度が1.2~3.8Å/secではnコンタクト抵抗率はほぼ1で一定であるが、成膜速度が7.1Å/secではnコンタクト抵抗率が1.22となり、やや上昇が見られた。ただし十分に許容範囲内のnコンタクト抵抗率である。また、成膜速度が9.1Å/secになるとnコンタクト抵抗率は2.21となり、大きく上昇した。この結果から、V層の成膜速度は7.1Å/sec以下が好ましく、より好ましくは3.8Å/secであることが分かった。
【0085】
(実験9)
サファイア基板上に10nmのV層を形成し、V層の成膜速度を変えてV層表面を観察した。
図13は、V層の成膜速度(Å/sec)とRq(nm)との関係を示したグラフである。Rqは試料の2μm角で算出した。また、
図14は、V層表面のAFM像を示した図である。
図14(a)はV層の成膜速度7.1Å/secの場合、(b)はV層の成膜速度2.8Å/secの場合、(c)はV層の成膜速度1.2Å/secの場合である。
【0086】
図13、14のように、V層の成膜速度が速いほどV層表面が荒くなり、凸部の数や高さが大きくなることが分かった。また、
図12と
図13、14の比較から、V層の成膜速度が速くなるとV層の厚さのばらつきが大きくなり、そのばらつきがV/Alのコンタクト抵抗が高くなる要因であることが分かった。また、
図12と
図13の比較から、Rqは0.83以下が好ましいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の発光素子は、殺菌、消毒などに用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
10:基板
11:n層
12:発光層
13:p層
14:電子ブロック層
16:p電極
17:n電極