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特開2023-88305構造色可変シート及びその製造方法、構造色固定シート及びその製造方法、加飾成形品及びその製造方法、樹脂組成物、構造色可変シート材料、並びに加飾成形用材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088305
(43)【公開日】2023-06-26
(54)【発明の名称】構造色可変シート及びその製造方法、構造色固定シート及びその製造方法、加飾成形品及びその製造方法、樹脂組成物、構造色可変シート材料、並びに加飾成形用材料
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/34 20060101AFI20230619BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
B29C43/34
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198107
(22)【出願日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2021202733
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀井 千尋
(72)【発明者】
【氏名】柏原 圭子
(72)【発明者】
【氏名】北村 賢次
(72)【発明者】
【氏名】白木 啓之
【テーマコード(参考)】
4F204
4J002
【Fターム(参考)】
4F204AA39
4F204AB16
4F204AF01
4F204AG05
4F204FA01
4F204FB01
4F204FN11
4F204FN15
4J002BG022
4J002BG041
4J002BG051
4J002CD011
4J002CD051
4J002DJ016
4J002EL136
4J002FA082
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD146
4J002GC00
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】形状を変化させることにより異なる構造色を発現させることができ、かつその形状及び異なる構造色を維持可能な構造色可変シートの製造方法を提供する。
【解決手段】構造色可変シート1の製造方法は、準備工程と、未硬化シート作製工程と、半硬化シート作製工程と、を含む。準備工程では、頻度別遠心沈降法で測定される粒度分布から算出される平均粒子径が50nm以上500nm以下であり、かつ粒度分布から算出される変動係数が20%以下である粒子4と、硬化性成分5と、を配合することによって、粒子4が均一に分散された樹脂組成物を準備する。未硬化シート作製工程では、樹脂組成物をシート状に加工し、未硬化シート7を作製する。半硬化シート作製工程では、未硬化シート7に熱エネルギー及び/又は光エネルギーを付与して、未硬化シート7を半硬化させることによって、構造色可変シート1である半硬化シート1を作製する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頻度別遠心沈降法で測定される粒度分布から算出される平均粒子径が50nm以上500nm以下であり、かつ前記粒度分布から算出される変動係数が20%以下である粒子と、硬化性成分と、を配合することによって、前記粒子が均一に分散された樹脂組成物を準備する準備工程と、
前記樹脂組成物をシート状に加工し、未硬化シートを作製する未硬化シート作製工程と、
前記未硬化シートに熱エネルギー及び/又は光エネルギーを付与して、前記未硬化シートを半硬化させることによって、構造色可変シートである半硬化シートを作製する半硬化シート作製工程と、を含む、
構造色可変シートの製造方法。
【請求項2】
前記半硬化シート作製工程において、下記式(1)で定義される硬化度(P)が50%以上85%以下となるように、前記未硬化シートを半硬化させる、
請求項1に記載の構造色可変シートの製造方法。
【数1】
上記式(1)において、Nhp(J/g)は前記未硬化シートの発熱量、Php(J/g)は前記半硬化シートの発熱量であり、発熱量は、温度範囲が25℃から300℃、昇温速度が5℃/min、窒素雰囲気下における示差走査熱量測定(DSC)によって算出される。
【請求項3】
凹凸面を有するプレスを用い、請求項1又は2に記載の方法により製造された構造色可変シートに前記プレスの前記凹凸面を重ねて加圧し、前記凹凸面を前記構造色可変シートに転写した状態で、前記構造色可変シートを加熱して硬化させる、
構造色固定シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法により製造された構造色可変シートを成形品の表面に配置し、凹凸面を有するプレスを用い、前記構造色可変シートの前記成形品と反対側の面に前記プレスの前記凹凸面を重ねて加圧し、前記凹凸面を前記構造色可変シートに転写した状態で、前記構造色可変シートを加熱して硬化させる、
加飾成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法により製造された構造色固定シートを成形品の表面に貼り付ける、
加飾成形品の製造方法。
【請求項6】
樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物は、頻度別遠心沈降法で測定される粒度分布から算出される平均粒子径が50nm以上500nm以下であり、かつ前記粒度分布から算出される変動係数が20%以下である粒子と、硬化性成分と、を含有し、
前記粒子が、前記樹脂組成物中において均一に分散しており、
前記硬化性成分中の全塩素濃度が、硬化性成分全量に対して、1.0質量%以下である、
樹脂組成物。
【請求項7】
半硬化シートを備え、
前記半硬化シートが、請求項6に記載の樹脂組成物の半硬化物を含む、
構造色可変シート。
【請求項8】
請求項7に記載の構造色可変シートと、前記構造色可変シートに貼着され、剥離可能な離型シートと、を備える、
構造色可変シート材料。
【請求項9】
硬化シートを備え、
前記硬化シートが、請求項6に記載の樹脂組成物の硬化物を含み、
前記硬化シートが、凹部と凸部とを有する凹凸面を含み、
前記凹凸面の凹凸差の平均値が300μm以下であり、
前記凹部が、前記凸部よりも短波長側の色を発現する、
構造色固定シート。
【請求項10】
成形品と、前記成形品と一体化された半硬化樹脂層と、を備え、
前記半硬化樹脂層が、請求項7に記載の構造色可変シートで形成されている、
加飾成形用材料。
【請求項11】
前記半硬化樹脂層が、凹部と凸部とを有する凹凸面を含み、
前記凹凸面の凹凸差の平均値が300μm以下であり、
前記凹部が、前記凸部よりも短波長側の色を発現する、
請求項10に記載の加飾成形用材料。
【請求項12】
成形品と、前記成形品と一体化された硬化樹脂層と、を備え、
前記硬化樹脂層が、請求項9に記載の構造色固定シートで形成されている、
加飾成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に構造色可変シート及びその製造方法、構造色固定シート及びその製造方法、加飾成形品及びその製造方法、樹脂組成物、構造色可変シート材料、並びに加飾成形用材料に関する。より詳細には構造色を発現する構造色可変シート及びその製造方法、構造色固定シート及びその製造方法、加飾成形品及びその製造方法、樹脂組成物、構造色可変シート材料、並びに加飾成形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
フィラーなどの微細な粒子を含有する樹脂組成物において、微細な粒子を規則的に配列させると、構造色を発現する場合があると知られている。構造色を発現する材料は、構造色材料と呼ばれている。
【0003】
構造色材料の一例として、特許文献1では、エポキシ樹脂中に、酸化ケイ素からなるコロイド粒子の多結晶体を含有したエポキシ樹脂組成物が開示されている。このエポキシ樹脂組成物から樹脂フィルムを作製すると、耐熱性が高く、青色を主とする有色効果を示すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-228003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、適度に柔軟性を有する構造色材料は、変形した部分のみ構造色が変化する。
例えば、一部分に圧力を加え、構造色材料を変形させると、変形した部分のみ構造色が変化する。構造色材料が変形した状態において、変形した部分では、変化した構造色を発現し続ける。また、元の形状に戻ると、変形していた部分の構造色は元の構造色の色に戻る。
【0006】
このような現象は、構造色材料が変形することに伴って、微細な粒子の規則的な配列が変化するため生じる。同様の組成の樹脂組成物であれば、微細な粒子同士の距離が短いほど短波長側の色を発現し、長いほど長波長側の色を発現する。
【0007】
しかしながら、特許文献1の発明は、樹脂組成物の硬化物であり、構造色を変化させるために必要な柔軟性を十分に有しないことが示唆される。また、構造色の変化、及び変形した状態を維持する方法に関して記載はない。
【0008】
本開示の目的は、形状を変化させることにより異なる構造色を発現させることができ、かつその形状及び異なる構造色を維持可能な構造色可変シート及びその製造方法、構造色固定シート及びその製造方法、加飾成形品及びその製造方法、樹脂組成物、構造色可変シート材料、並びに加飾成形用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る構造色可変シートの製造方法は、準備工程と、未硬化シート作製工程と、半硬化シート作製工程と、を含む。前記準備工程では、頻度別遠心沈降法で測定される粒度分布から算出される平均粒子径が50nm以上500nm以下であり、かつ前記粒度分布から算出される変動係数が20%以下である粒子と、硬化性成分と、を配合することによって、前記粒子が均一に分散された樹脂組成物を準備する。前記未硬化シート作製工程では、前記樹脂組成物をシート状に加工し、未硬化シートを作製する。前記半硬化シート作製工程では、前記未硬化シートに熱エネルギー及び/又は光エネルギーを付与して、前記未硬化シートを半硬化させることによって、構造色可変シートである半硬化シートを作製する。
【0010】
本開示の一態様に係る構造色固定シートの製造方法は、凹凸面を有するプレスを用い、前記構造色可変シートに前記プレスの前記凹凸面を重ねて加圧し、前記凹凸面を前記構造色可変シートに転写した状態で、前記構造色可変シートを加熱して硬化させる。
【0011】
本開示の一態様に係る加飾成形品の製造方法は、前記構造色可変シートを成形品の表面に配置し、凹凸面を有するプレスを用い、前記構造色可変シートの前記成形品と反対側の面に前記プレスの前記凹凸面を重ねて加圧し、前記凹凸面を前記構造色可変シートに転写した状態で、前記構造色可変シートを加熱して硬化させる。
【0012】
本開示の一態様に係る加飾成形品の製造方法は、前記構造色固定シートを成形品の表面に貼り付ける。
【0013】
本開示の一態様に係る樹脂組成物は、頻度別遠心沈降法で測定される粒度分布から算出される平均粒子径が50nm以上500nm以下であり、かつ前記粒度分布から算出される変動係数が20%以下である粒子と、硬化性成分と、を含有する。前記粒子が、前記樹脂組成物中において均一に分散している。前記硬化性成分中の全塩素濃度が、硬化性成分全量に対して、1.0質量%以下である。
【0014】
本開示の一態様に係る構造色可変シートは、半硬化シートを備える。前記半硬化シートが、前記樹脂組成物の半硬化物を含む。
【0015】
本開示の一態様に係る構造色可変シート材料は、前記構造色可変シートと、前記構造色可変シートに貼着され、剥離可能な離型シートと、を備える。
【0016】
本開示の一態様に係る構造色固定シートは、硬化シートを備える。前記硬化シートが、前記樹脂組成物の硬化物を含む。前記硬化シートが、凹部と凸部とを有する凹凸面を含む。前記凹凸面の凹凸差の平均値が300μm以下である。前記凹部が、前記凸部よりも短波長側の色を発現する。
【0017】
本開示の一態様に係る加飾成形用材料は、成形品と、前記成形品と一体化された半硬化樹脂層と、を備える。前記半硬化樹脂層が、前記構造色可変シートで形成されている。
【0018】
本開示の一態様に係る加飾成形品は、成形品と、前記成形品と一体化された硬化樹脂層と、を備える。前記硬化樹脂層が、前記構造色固定シートで形成されている。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、形状を変化させることにより異なる構造色を発現させることができ、かつその形状及び異なる構造色を維持可能な構造色可変シート、構造色固定シート、及び加飾成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1Aは、本実施形態に係る樹脂組成物(未硬化シート)の一例を示す概略断面図である。図1Bは、本実施形態に係る構造色可変シート(半硬化シート)及び構造色可変シート材料の一例を示す概略断面図である。
図2図2A図2Dは、本実施形態に係る構造色固定シート(硬化シート)の製造方法の一例を示す概略断面図である。図2Dには、本実施形態に係る構造色固定シートの一例が図示されている。
図3図3A図3Dは、本実施形態に係る加飾成形品の製造方法の一例を示す概略断面図である。図3A及び図3Bには、本実施形態に係る加飾成形用材料の一例が図示されている。図3Dには、本実施形態に係る加飾成形品の一例が図示されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.概要
まず本実施形態に係る構造色可変シート1、構造色固定シート2、及び加飾成形品3の概要について、図面を参照して説明する。各図は模式的な図であり、各図における各構成要素の大きさ及び厚さのそれぞれの比は必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。各図における各方向を示す矢印は、構造色可変シート1、構造色固定シート2、及び加飾成形品3の使用時の方向を規定する趣旨ではなく、説明を理解しやすくするために表記しているに過ぎず、実体を伴わない。なお、X軸、Y軸及びZ軸は相互に直交している。以下では、Z軸に沿って視ることをXY平面視という。
【0022】
[1]構造色可変シート
本実施形態に係る構造色可変シート1は、力を作用させることにより、力を作用させる前の構造色を、所望の構造色に変化させることができるシートである。ここで、構造色とは、色素が無くても、光の波長程度の微細構造によって発色する現象をいう。
【0023】
本実施形態では、構造色可変シート1に、粒度分布の狭い粒子4(ナノ粒子)を含有させることにより、構造色を発現させている。ここで、「構造色可変シート1」における「可変」とは、粒子4間の距離を変えることができることを意味する。すなわち、構造色可変シート1に力が作用すると、粒子4間の距離が変化し、これにより構造色が変化する。例えば、図2Aは、力が作用する前の構造色可変シート1の模式的な断面図を示し、図2Bは、力が作用した後の構造色可変シート1の模式的な断面図を示す。小さな圧力が作用した箇所に比べて、大きな圧力が作用した箇所での、粒子4間の距離が短くなりやすい。つまり、大きな圧力が作用した箇所では、より短波長側の色に発色しやすい。このようにして、構造色可変シート1の所望の場所の構造色を、所望の構造色に変化させることができる。なお、構造色可変シート1に作用させる力の大きさ及び向きは特に限定されない。
【0024】
上記のように、構造色可変シート1は、力が作用すると変形する。すなわち、構造色可変シート1は、硬化状態ではなく、半硬化状態(Bステージ)のシート(半硬化シート1)である。構造色可変シート1を製造するにあたっては、粒子4の他に硬化性成分5も使用する。硬化性成分5は、分散媒(バインダ)として機能し得る。硬化性成分5は、構造色可変シート1において半硬化樹脂層51を形成している(図1B参照)。つまり、半硬化樹脂層51は、硬化性成分5の硬化反応が途中まで進み、硬化状態(Cステージ)には至っていない状態の層である。
【0025】
図1Bに示すように、構造色可変シート1(半硬化樹脂層51)は、Z軸方向に厚さを有し、X軸方向及びY軸方向に延びるシート状をなす。以下、Z軸方向を厚さ方向という場合がある。XY平面視での構造色可変シート1の形状は、特に限定されない。
【0026】
構造色可変シート1は、第1面11と、第2面12と、を有する。図1Bでは、第1面11は、Z軸正の向きを向く面である。第2面12は、第1面11の反対側の面である。つまり、第2面12は、Z軸負の向きを向く面である。構造色可変シート1の厚さL1は、Z軸方向における第1面11と第2面12との間の距離に等しい。
【0027】
図1Bでは、第2面12は、離型シート10に貼着されている。このように、構造色可変シート1と、離型シート10と、を備えるものを、本実施形態では特に、構造色可変シート材料100と呼ぶ。離型シート10は、構造色可変シート1から必要に応じて剥離可能である。離型シート10も、Z軸方向に厚さを有し、X軸方向及びY軸方向に延びるシート状をなす。XY平面視での離型シート10の形状は、特に限定されないが、例えば、XY平面視での構造色可変シート1の形状と同じである。
【0028】
構造色可変シート材料100は、離型シート10を備えているので、構造色可変シート1の取扱い性が向上する。
【0029】
[2]構造色固定シート
本実施形態に係る構造色固定シート2は、構造色可変シート1を硬化させたシートである。すなわち、構造色固定シート2は、半硬化状態ではなく、硬化状態(Cステージ)のシート(硬化シート2)である。つまり、硬化シート2は、樹脂組成物(X)の硬化物を含む。構造色固定シート2は、見る方向によって色が変わる。
【0030】
上記のように、構造色可変シート1を硬化状態(Cステージ)にすると、構造色が固定化されて、構造色固定シート2が得られる。ここで、「構造色固定シート2」における「固定」とは、粒子4間の距離が固定されることを意味する。すなわち、半硬化樹脂層51が硬化樹脂層52に変化し、これにより粒子4の位置が固定化される。これを利用して、構造色可変シート1に力を作用させた状態で、構造色可変シート1を硬化状態にすると、力を取り除いた後も、所望の構造色を維持することができる(図2D参照)。つまり、所望の構造色が固定化される。ただし、「構造色が固定化される」とは、粒子4間の距離が固定されることを意味する。
【0031】
なお、構造色可変シート1に例えばZ軸方向に力を作用させて構造色固定シート2を製造する場合、構造色固定シート2の厚さL2は、構造色可変シート1の厚さL1よりも薄くなり得る。構造色固定シート2は、構造色が固定化されているが、シート状をなしているため、湾曲させたり、屈曲させたりすることができる。したがって、このような変形によっても、構造色は変化し得る。
【0032】
[3]加飾成形品
本実施形態に係る加飾成形品3は、構造色可変シート1及び構造色固定シート2の用途の1つである。すなわち、加飾成形品3は、構造色可変シート1又は構造色固定シート2を用いて製造された成形品である。このように、構造色可変シート1及び構造色固定シート2は、成形品30に装飾的要素を追加するのに用いられる。
【0033】
加飾成形品3の製造方法としては、構造色可変シート1を用いる方法(図3A図3D参照)と、構造色固定シート2を用いる方法と、が挙げられる(詳細については後述)。なお、構造色可変シート1及び構造色固定シート2の用途は、加飾成形品3に限定されない。
【0034】
2.詳細
[1]構造色可変シートの製造方法
本実施形態に係る構造色可変シート1の製造方法は、準備工程と、未硬化シート作製工程と、半硬化シート作製工程と、を含む。以下、各工程について順に説明する。
【0035】
<準備工程>
準備工程では、樹脂組成物を準備する。樹脂組成物は、粒子4と、硬化性成分5と、を含有する。樹脂組成物は、粒子4と、硬化性成分5と、を配合し、粒子4を均一に分散させることによって得られる。粒子4を均一に分散させるにあたっては、超音波ホモジナイザー等の各種撹拌機、及び分散機を用いることができる。
【0036】
なお、以下の説明において、樹脂組成物、粒子4及び硬化性成分5を、それぞれ樹脂組成物(X)、粒子(A)及び硬化性成分(B)という場合がある。上述のように、樹脂組成物(X)は、粒子(A)と、硬化性成分(B)と、を含有するが、ヒュームドシリカ(C)、色材(D)及び添加剤(E)の少なくともいずれかを更に含有してもよい。以下、各成分について説明する。
【0037】
≪粒子(A)≫
粒子(A)の頻度別遠心沈降法(以下、DCS法、ともいう。DCS:Differential Centrifugal Sedimentation)で測定される粒度分布から算出される平均粒子径が50nm以上500nm以下、好ましくは70nm以上350nm以下、より好ましくは100nm以上250nm以下であり、かつ粒度分布から算出される変動係数が20%以下である。このため、樹脂組成物(X)の硬化物に構造色を付与しうる。本実施形態では、粒子(A)は、樹脂組成物(X)中でコロイド粒子として振る舞う。ここで、「コロイド粒子」とは、分散媒中に分散している微細な粒子のことであり、「分散媒」とは、硬化性成分(B)のことである。
【0038】
粒子(A)の平均粒子径は、ディスク遠心式粒子径分布測定装置(CPS instruments 社製の CPS disc centrifuge model DC24000)を用いて、DCS法により、粒子(A)の粒度分布を測定することにより得られる。
【0039】
粒子(A)の最大粒子径は、250nm以下であることが好ましい。なお、粒子(A)の最大粒子径は、CPSにより頻度別遠心沈降法(すなわちDCS法)で測定され、算出される。
【0040】
粒子(A)の形状は、特に限定されないが、例えば、球状、棒状、板状、針状、繊維状、及び膜状からなる群から選択される少なくとも一種であってよい。中でも、粒子(A)の形状は、略球状であることが好ましい。なお、「略球状」とは、真球のような厳密な球体の形状に限られず、およそ球状と認められる形状を含む。例えば、略球状には、楕円形状、表面に凹凸を有するもの等の形状も含まれる。
【0041】
粒子(A)の具体的な成分の例は、シリカ、アクリル微粒子、及びシリカ-PMMAコアシェル粒子からなる群から選択される少なくとも一種を含む。中でも、粒子(A)は、シリカであることが好ましい。粒子(A)は、略球状のシリカを含むことがより好ましい。粒子(A)は、球状シリカと溶融シリカとのうち少なくとも一方を含むことが好ましい。なお、本実施形態の効果を阻害しない限りにおいて、粒子(A)は、上記以外の成分を含んでもよい。
【0042】
粒子(A)は、略球状のシリカを含むことが更に好ましい。この場合、樹脂組成物(X)の発色性を特に向上させやすい。
【0043】
上述のように、粒子(A)の、粒度分布から算出される変動係数(C.V.:Coefficient of Variation)は、20%以下、好ましくは10%以下である。この場合、樹脂組成物(X)中の粒子(A)間の各々の粒子間距離に差を生じさせにくい。そのため、樹脂組成物(X)から作製される構造色可変シート1及び構造色固定シート2の構造色の違いをより明確にすることができる。
【0044】
粒子(A)は、平均粒子径の異なる複数の粒子群を含有してもよい。この場合においては、平均粒子径の異なる複数の粒子群各々の平均粒子径の加重平均による平均粒子径において、粒子(A)の粒度分布から算出される変動係数が10%であることが好ましい。
【0045】
樹脂組成物(X)の固形分全量に対する粒子(A)の体積割合は、以下に示す割合のいずれか一つを満たすことが好ましい。
【0046】
すなわち、粒子(A)の平均粒子径が115nm以上160nm以下である場合において、粒子(A)の体積割合は、樹脂組成物(X)の固形分全量に対して、23体積%以上29体積%以下であることが好ましい。
【0047】
粒子(A)の平均粒子径が160nm超190nm未満である場合において、粒子(A)の体積割合は、樹脂組成物(X)の固形分全量に対して、23体積%以上34体積%以下であることが好ましい。
【0048】
粒子(A)の平均粒子径が190nm以上230nm以下である場合において、粒子(A)の体積割合は、樹脂組成物(X)の固形分全量に対して、29体積%以上34体積%以下であることが好ましい。
【0049】
上記のいずれか一つを満たす場合、樹脂組成物(X)をシート状に成形して、未硬化シート7、半硬化シート1及び硬化シート2を作製すると、これらに更に高い発色性を付与することができる。なお、「樹脂組成物(X)の固形分全量」とは、樹脂組成物(X)中の溶剤等の揮発成分を除いた成分の合計量をいう。粒子(A)が平均粒子径の異なる複数の粒子群を含む場合、「平均粒子径」は、各々の粒子群の平均粒子径の加重平均により算出される平均粒子径をいう。
【0050】
上述のように、粒子(A)は、平均粒子径の異なる少なくとも2種の粒子群を含有してもよい。この場合において、平均粒子径の最も小さい粒子群(A1)の平均粒子径d1と、平均粒子径の最も大きい粒子群(A2)の平均粒子径d2とが、下記式(2)の関係を満たすことが好ましい。
【0051】
【数1】
【0052】
上記式(2)の関係式を満たせば、粒子(A)が平均粒子径の異なる複数の粒子群を含有する場合であっても、樹脂組成物(X)中において、粒子(A)をより良好に分散させることができ、かつ粒子(A)間の粒子間距離も適度に維持することができる。このため、樹脂組成物(X)から作製される半硬化シート1及び硬化シート2の発色の色調をコントロールしやすい。
【0053】
上記式(2)に示されるとおり、平均粒子径d2は、平均粒子径d1よりも大きい。平均粒子径の最も小さい粒子群(A1)の平均粒子径d1が、例えば、100nm以上170nm以下である場合、平均粒子径の最も大きい粒子群(A2)の平均粒子径d2は、例えば101nm以上204nm以下であることが好ましい。
【0054】
上記式(2)に示されるとおり、平均粒子径d1と平均粒子径d2とは、d1<d2との関係を満たし、すなわち、平均粒子径d2は平均粒子径d1よりも大きい。そのため、例えば、平均粒子径d1が100nmである場合には、平均粒子径d2は、101nm以上120nm以下であり、また平均粒子径d1が170nmである場合には、平均粒子径d2は、171.7nm以上204nm以下である。平均粒子径の最も小さい粒子群(A1)の平均粒子径d1が、例えば、70nm以上150nm以下である場合には、平均粒子径の最も大きい粒子群(A2)の平均粒子径d2は、例えば、71nm以上180nm以下であることが更に好ましい。
【0055】
粒子(A)が平均粒子径の異なる複数の粒子群を含む場合、粒子(A)の最大粒子径は、70nm以上350nm以下であることが好ましい。
【0056】
≪硬化性成分(B)≫
硬化性成分(B)は、樹脂組成物(X)に硬化性を付与しうる。硬化性成分(B)は、硬化性を有する樹脂成分であれば、特に限定されない。
【0057】
硬化性成分(B)は、硬化性樹脂(B1)及び硬化剤(B2)を含むことが好ましい。この場合、樹脂組成物(X)を良好に硬化させることができる。
【0058】
硬化性樹脂(B1)は、例えば熱により硬化する成分であってもよく、光により硬化する成分であってもよく、又は熱と光との両方により硬化する成分であってもよい。すなわち、硬化性樹脂(B1)は、光硬化性樹脂(B11)と熱硬化性樹脂(B12)とのうち、少なくとも一方を含む。
【0059】
硬化性樹脂(B1)の具体的な例としては、以下のような成分を挙げることができる。なお、本明細書において、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを(メタ)アクリロイルと表す場合がある。また、アクリレート及び/又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと表す場合がある。また、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す場合がある。
【0060】
光硬化性樹脂(B11)としては、特に限定されないが、例えば、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物、及び一分子中に不飽和結合を2個以上有する多官能の化合物が挙げられる。
【0061】
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物として、具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート;並びにジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びε―カプロラクトン変性ペンタエリストールヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0062】
また、一分子中に不飽和結合を2個以上有する多官能の化合物として、具体的には、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びε―カプロラクトン変性ペンタエリストールヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0063】
硬化性樹脂(B1)が光硬化性樹脂(B11)を含有する場合、硬化剤(B2)は酸無水物を含有することが好ましい。この場合、樹脂組成物(X)中で粒子(A)がコロイド状態で分散する際の配列に影響を与えにくくでき、そのための樹脂組成物(X)から作製される半硬化シート1及び硬化シート2の発色性の低下を生じにくくできる。酸無水物は、多塩基酸無水物を含み、具体的には、テトラヒドロメチル無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸及び4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0064】
熱硬化性樹脂(B12)としては、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、熱硬化型ポリフェニレンエーテル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含む。エポキシ樹脂の例は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む。なお、熱硬化性樹脂(B12)が含みうる成分は、前記には限られない。
【0065】
硬化剤(B2)は、硬化性成分(B)において、硬化性樹脂(B1)に対して反応性を有する成分である。すなわち、硬化剤(B2)は、硬化性樹脂(B1)と反応することで、樹脂組成物(X)を硬化させることができる。
【0066】
硬化剤(B2)としては、例えば酸無水物、及び架橋剤からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0067】
硬化性樹脂(B1)が熱硬化性樹脂(B12)を含有する場合、硬化剤(B2)は、ジアミン系硬化剤、2官能以上のフェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ジシアンジアミド、及び低分子量ポリフェニレンエーテル化合物からなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0068】
なお、ここでいう「エポキシ樹脂」は、熱硬化性を有していてもよく、光硬化性を有していてもよい。
【0069】
硬化性成分(B)中の全塩素濃度は、硬化性成分(B)全量に対して、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0質量%である。硬化性成分(B)中の全塩素濃度が硬化性成分(B)全量に対して1.0質量%以下であれば、樹脂組成物(X)において、粒子(A)の分散時の配列を阻害しにくくでき、粒子(A)がコロイド粒子としての状態を維持しやすく、かつ規則性を有して配列しやすい。これにより、樹脂組成物(X)を膜状に成形しても、樹脂組成物(X)の半硬化シート1及び硬化シート2が、構造色を生じやすくできるため、高い発色性を有する。
【0070】
硬化性成分(B)中の全塩素濃度の低減には、例えば、硬化性成分(B)に含まれうるエポキシ樹脂の分子蒸留によりエポキシ樹脂を高純度化すること、及び/又は例えば過酸化物を用いる酸化法により、硬化性成分(B)を合成するための原料をエポキシ化しグリシジル基を有するエポキシ樹脂を合成することで、塩素原子を含む化合物、塩素分子などを生じないように合成することが挙げられる。
【0071】
本実施形態では、硬化性成分(B)は、分子中に塩素原子を有する有機化合物を含むエポキシ樹脂を含有してもよい。具体的には、硬化性成分(B)は、分子中に塩素原子を有する有機化合物を不純物として含んでもよい。上述したとおり、樹脂組成物(X)には不純物が含まれることがある。不純物には、例えば硬化性樹脂(B1)の一例であるエポキシ樹脂の製造時において副生する、分子中に塩素原子を有する有機化合物が含まれる。このため、硬化性成分(B)中の全塩素濃度は、分子中に塩素原子を有する有機化合物の有無に起因して左右されうる。樹脂組成物(X)における硬化性成分(B)中に含まれる分子中に塩素原子を有する有機化合物の、硬化性成分(B)全量に対する質量割合は、1.0質量%以下であることが好ましい。
【0072】
「分子中に塩素原子を有する有機化合物」とは、炭化水素骨格の末端に少なくとも塩素原子を有する化合物であり、分子中に塩素原子を有する有機化合物には、例えば適宜のエポキシ樹脂と、エピクロロヒドリンとを反応させてグリシジルエーテルを製造するにあたって副生する、エピクロロヒドリン残基に由来する化合物が含まれる。分子中に塩素原子を有する有機化合物は、例えば塩素原子、ヒドロキシル基、及びエーテル結合を有する。
【0073】
硬化性成分(B)は、本実施形態の効果を阻害しない限りにおいて、重合開始剤、硬化促進剤等といった樹脂組成物(X)の硬化に関与する適宜の成分を含有してもよい。重合開始剤としては、光重合開始剤及び/又は熱重合開始剤が挙げられる。光重合開始剤としては、例えばジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、α-ヒドロキシアセトフェノン、トリアリールスルホニウム・特殊リン系アニオン塩、トリアリールスルホニウム・PF6塩のプロピレンカーボネート溶液等からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。硬化促進剤としては、例えばイミダゾール系化合物、第三級アミン系化合物、有機ホスフィン化合物、及び金属石鹸等からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、非ハロゲン系難燃剤等が挙げられる。
【0074】
≪フュームドシリカ(C)≫
樹脂組成物(X)がフュームドシリカ(C)を含有すると、樹脂組成物(X)の粘度を良好な粘度に調整しやすい。これにより、樹脂組成物(X)から未硬化シート7、半硬化シート1、及び硬化シート2を作製するにあたり、樹脂組成物(X)の成形性を向上させることができる。
【0075】
フュームドシリカ(C)は、乾式法で作製され、式(-(SiO)-)で表されるシリカである。フュームドシリカ(C)の具体的な市販品の例は、アエロジル(登録商標)(日本アエロジル株式会社製の品番RY200)等を挙げることができる。
【0076】
フュームドシリカ(C)の平均一次粒子径は、好ましくは8nm以上50nm以下、より好ましくは8nm以上20nm以下、さらに好ましく10nm以上15nm以下である。この場合、樹脂組成物(X)を膜状に成形するにあたり、より成形性を高めることができる。フュームドシリカ(C)の平均一次粒子径は、遠心沈降分析法により測定される平均径である。なお、フュームドシリカ(C)は、上述のとおり、粒子状であってよいが、粒子(A)とは区別される。
【0077】
樹脂組成物(X)の固形分全量に対するフュームドシリカ(C)の質量割合は、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以上2質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。この場合、更に成形性を高めながら、硬化性を維持することができ、かつ半硬化シート1及び硬化シート2に高い発色性を付与することができる。
【0078】
≪色材(D)≫
樹脂組成物(X)が色材(D)を含有すると、樹脂組成物(X)から作製される半硬化シート1及び硬化シート2の色彩を変化させることができる。
【0079】
色材(D)は、例えば顔料と染料とのうちの少なくとも一方又は両方の着色剤を含む。色材(D)の具体的な例としては、カーボンブラック、七酸化四チタン、酸化亜鉛(ZnO)、黄鉛(PbCrO)、コバルトイエロー(K[Co(NO])、鉛丹(Pb)、べんがら(Fe)、及びクロムグリーン(Cr)からなる群から選択される少なくとも一種の成分を挙げることができる。中でも、色材(D)は、Ti(七酸化四チタン)、及びカーボンブラックからなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。この場合、樹脂組成物(X)から作製される半硬化シート1及び硬化シート2の発色を、樹脂組成物(X)を塗布する成形品30の色に影響を受けにくくすることができる(図3A図3D参照)。
【0080】
また、樹脂組成物(X)を離型シート10上に塗布することで半硬化シート1及び硬化シート2を作製した後に、離型シート10から半硬化シート1及び硬化シート2を容易に剥離することができる。このため、半硬化シート1及び硬化シート2のハンドリング性を向上させることができる。
【0081】
≪添加剤(E)≫
添加剤(E)としては、例えば、表面改質剤、無機充填材、難燃剤からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。表面改質剤の例としては、界面活性剤、フッ素含有物等を挙げることができる。なお、界面活性剤には、フッ素含有化合物が含まれることがある。無機充填材の例としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、タルク、クレー、マイカ、及びモリブデン化合物等が挙げられる。
【0082】
≪樹脂組成物(X)≫
上述のように、樹脂組成物(X)中において、粒子(A)は、均一に分散している。換言すれば、樹脂組成物(X)中において、粒子(A)は、偏在していない。樹脂組成物(X)は、微細かつ粒子径分布がシャープな粒子(A)を含有するため、粒子(A)が規則正しく配列することによって、構造色を発することが可能である。
【0083】
硬化性成分(B)中の全塩素濃度は、硬化性成分(B)全量に対して1質量%以下であることが好ましい。
【0084】
樹脂組成物(X)は、シート状に加工することで、未硬化シート7を作製でき(図1A参照)、未硬化シート7を半硬化させることにより、半硬化シート1(構造色可変シート1)を作製でき、半硬化シート1を硬化させることにより、硬化シート2(構造色固定シート2)を作製できる。
【0085】
樹脂組成物(X)の25℃における粘度は、0.5Pa・s以上20Pa・s以下であることが好ましい。この場合、樹脂組成物(X)を用いて形成される未硬化シート7及び半硬化シート1の成形性を確保することができる。その結果、最終的に得られる硬化シート2の発色性を高く維持することができる。
【0086】
本実施形態では、樹脂組成物(X)から作製される半硬化シート1及び硬化シート2を変形させることで、大きく変形した第一の部位と、より変形の度合いの小さい第二の部位とで異なる構造色を発現させ、それによって高い意匠性を得ることができる。
【0087】
樹脂組成物(X)自体が構造色を発色していてもよいし、樹脂組成物(X)から作製される、未硬化シート7が構造色を発色していてもよいし、樹脂組成物(X)の乾燥物が構造色を発色していてもよい。この場合、硬化後は硬化前と比較し、粒子(A)の粒子間距離が短くなり、粒子(A)の濃度(密度)が高くなる。この変化により、硬化後は、より入射光を反射しやすくなり、より可視光領域における短波長側の色を発色する。
【0088】
樹脂組成物(X)を調製するにあたっては、適宜の溶剤を配合してもよい。溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メチルエチルケトン及び水等が挙げられる。
【0089】
<未硬化シート作製工程>
未硬化シート作製工程では、樹脂組成物(X)をシート状に加工し、未硬化シート7を作製する。すなわち、図1Aに示すように、離型シート10に樹脂組成物(X)を塗布し、硬化度(P)が50%未満である未硬化シート7を作製する。なお、硬化度(P)については後述する。
【0090】
離型シート10の材質は特に限定されないが、具体的な例として、ポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethylene terephthalate)及びポリエチレンナフタレート(PEN:Polyethylene naphthalate)等が挙げられる。
【0091】
離型シート10に樹脂組成物(X)を塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、バーコーター法、コンマダイレクト法、ダイコーター法、及びグラビアコーター法等が挙げられる。
【0092】
未硬化シート7の厚さL7は、樹脂組成物(X)の塗布方法によって調整可能である。未硬化シート7の厚さL7は、特に限定されないが、好ましくは150μm以上400μm以下、より好ましくは150μm以上300μm以下、さらに好ましくは150μm以上250μm以下である。
【0093】
樹脂組成物(X)を離型シート10に塗布した後、必要に応じて、未硬化シート7の硬化度(P)が50%未満となる範囲で樹脂組成物(X)を乾燥する処理を行ってもよい。乾燥方法としては、特に限定はされないが、例えば、空気雰囲気下において、80℃で2時間の熱処理を行う方法が挙げられる。
【0094】
<半硬化シート作製工程>
半硬化シート作製工程では、未硬化シート7に熱エネルギー及び/又は光エネルギーを付与して、未硬化シート7を半硬化させることによって、構造色可変シート1である半硬化シート1を作製する(図1B参照)。半硬化シート1は、樹脂組成物(X)の半硬化物を含んでいる。
【0095】
好ましくは、半硬化シート作製工程において、下記式(1)で定義される硬化度(P)が50%以上85%以下となるように、未硬化シート7を半硬化させる。
【0096】
【数2】
【0097】
上記式(1)において、Nhp(J/g)は未硬化シート7の発熱量、Php(J/g)は半硬化シート1の発熱量であり、発熱量は、温度範囲が25℃から300℃、昇温速度が5℃/min、窒素雰囲気下における示差走査熱量測定(DSC)によって算出される。
【0098】
上述のように、未硬化シート7の硬化は、熱エネルギー及び/又は光エネルギーを付与することにより進行する。熱エネルギーを付与する場合には、処理温度が75℃以上170℃以下であり、処理時間が1h以上5h以下で処理することが好ましい。これによって、硬化度(P)が50%以上85%以下である半硬化シート1を得やすくなる。
【0099】
複数の処理温度で未硬化シート7を硬化させる場合には、下記式(3)により得られる熱履歴が成り立つ条件とすることが好ましい。
【0100】
【数3】
【0101】
上記式(3)において、Tは熱処理の処理温度(℃)(ただし、75≦T≦170)、tは処理時間(h)(ただし、0.00<t≦5.00、好ましくは2.00≦t≦5.00)、nは処理温度数(熱処理を行った異なる温度条件の数)である。
【0102】
構造色可変シート1である半硬化シート1は、樹脂組成物(X)から作製されるため、構造色を発現する。半硬化シート1は、樹脂組成物(X)及び未硬化シート7よりも高い発色性を有する。
【0103】
半硬化シート1の硬化度(P)が、50%以上85%以下の範囲内であると、半硬化シート1における樹脂組成物(X)の未硬化物又は半硬化物の含有率が適切であるために、半硬化シート1は、適度な柔軟性を有し得る。したがって、例えば、加圧等により半硬化シート1の厚さL1等を場所によって変化させやすく、これにより構造色を変化させやすくなる。
【0104】
半硬化シート1の厚さL1は、好ましくは50μm以上350μm以下、より好ましくは100μm以上250μm以下、さらに好ましくは100μm以上200μm以下である。半硬化シート1の厚さL1が50μm以上350μm以下であると、熱処理による硬化反応が十分に進行しやすく、最終的に得られる硬化シート2の強度も高くなりやすい。そのため、離型シート10から硬化シート2を剥がす際にも、硬化シート2が破損しにくく、貼り付け性の悪化も防ぐことができる。
【0105】
[2]構造色固定シートの製造方法
本実施形態に係る構造色固定シート2は、構造色可変シート1と、凹凸面9を有するプレス8と、を用いて製造することができる。すなわち、図2A及び図2Bに示すように、構造色可変シート1にプレス8の凹凸面9を重ねてZ軸方向に加圧する。
【0106】
ここで、凹凸面9は、少なくとも1つ以上の凹部91と、少なくとも1つ以上の凸部92と、を有する。凹部91の深さ(凸部92の高さ)はL9である。凹部91の深さL9は、構造色可変シート1に十分な模様が付与され、プレス8の凸部92が構造色可変シート1を貫通しない範囲であれば、特に限定されないが、好ましくは20μm以上300μm以下、より好ましくは50μm以上250μm以下である。なお、本実施形態では、複数の凹部91の深さL9が同じであるが、同じでなくてもよい。
【0107】
構造色可変シート1を加圧する際の圧力は、構造色可変シート1に十分な模様が付く範囲の圧力であれば、特に限定されないが、好ましくは3MPa以上10MPa以下である。
【0108】
構造色可変シート1をプレス8で加圧することで、構造色可変シート1に凹凸面9が転写される。すなわち、構造色可変シート1の表面に凹凸面20が形成される。凹凸面20は、少なくとも1つ以上の凹部21と、少なくとも1つ以上の凸部22と、を有する。
【0109】
凹部21は、Z軸負の向きに窪んでおり、底面210を有する。底面210は、Z軸正の向きを向く面である。XY平面視での凹部21の形状は、特に限定されない。
【0110】
一方、凸部22は、Z軸正の向きに突出しており、頂面220を有する。頂面220は、Z軸正の向きを向く面である。XY平面視での凸部22の形状は、特に限定されない。
【0111】
凹部21の深さ(凸部22の高さ)はL20である。L20は、凹凸面20の凹凸差である。すなわち、凹凸差L20は、Z軸方向における凹部21の底面210と凸部22の頂面220との間の距離に等しい。凹凸差L20の平均値は、好ましくは300μm以下である。凹凸差L20は、XY平面視での場所によらずに一定でもよいし(図2D及び図3D参照)、XY平面視での場所によって異なっていてもよい。
【0112】
構造色可変シート1の凹部21は、プレス8の凸部92によって形成される。凹部21が存在する箇所の構造色可変シート1の厚さは、加圧される前の厚さL1に比べて薄くなっている。そのため、この部分における粒子4間の距離は、加圧される前に比べて短くなっている。
【0113】
一方、構造色可変シート1の凸部22は、プレス8の凹部91によって形成される。凸部22が存在する箇所の構造色可変シート1の厚さL2は、加圧される前の厚さL1とほぼ同じ又は加圧される前の厚さL1よりも薄い。そのため、この部分における粒子4間の距離は、加圧される前とほぼ同じ又は短くなる。
【0114】
そして、上記のように、プレス8の凹凸面9を構造色可変シート1に転写した状態で、構造色可変シート1を加熱して硬化させる。これにより、構造色固定シート2が得られる。
【0115】
構造色固定シート2の硬化度(Q)は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上である。硬化度(Q)は、下記式(4)で表される。硬化度(Q)が90%以上であることで、プレス8の凹凸面9により形成された構造色の変化が十分に維持され、時間が経過しても模様が保たれる。さらに構造色固定シート2自体の強度が高まる。
【0116】
【数4】
【0117】
上記式(4)において、Nhp(J/g)は未硬化シート7の発熱量、Hhp(J/g)は硬化シート2の発熱量であり、発熱量は、温度範囲が25℃から300℃、昇温速度が5℃/min、窒素雰囲気下における示差走査熱量測定(DSC)によって算出される。
【0118】
処理温度は、好ましくは70℃以上200℃以下である。処理時間は、好ましくは0.25h以上3h以下である。
【0119】
構造色可変シート1は、構造色を変化させるために必要な柔軟性を有するため、プレス8で構造色可変シート1を加圧することによって、構造色可変シート1の表面に、プレス8の凹凸面9が転写される。
【0120】
例えば、構造色可変シート1の表面から、プレス8の凸部92の厚さL9と同じ深さの凹部21が構造色可変シート1に形成される。この箇所は、プレス8の凸部92で加圧された場所(高圧縮部13)であり、加圧される前の厚さL1とほぼ同じ又は加圧される前の厚さL1よりも薄い厚さL2を有する箇所に比べて、構造色が大きく変化する。ここで、離型シート10が柔軟性を有する場合、離型シート10のZ軸正の向きを向く面は、高圧縮部13によってZ軸負の向きに押し込まれる。これにより、離型シート10には陥没部10aが形成される。陥没部10aには、高圧縮部13の一部である突出部2aが嵌まり込んでいる。突出部2aのZ軸方向の長さは、凹凸差L20よりも短い。なお、プレス8の凹部91で加圧された場所は、低圧縮部14である。
【0121】
このように、構造色可変シート1の所定の箇所の構造色が変化した状態で、熱エネルギーを加え、構造色可変シート1の硬化を進行させ、構造色固定シート2を作製する。得られた構造色固定シート2は、硬化がほぼ完了しており、プレス8の加圧により生じた形状変化及びそれによって生じた厚さ及び構造色の変化が維持され、元の構造色に戻らず、プレス8の凹凸面9に起因する模様が構造色固定シート2の表面に形成される。
【0122】
構造色固定シート2における模様のつき方は、プレス8の凸部92で加圧された場所(高圧縮部23)と、プレス8の凹部91で加圧された場所(低圧縮部24)とで異なる(図2D及び図3D参照)。構造色可変シート1の高圧縮部13及び低圧縮部14が、硬化することにより、構造色固定シート2の高圧縮部23及び低圧縮部24となる。
【0123】
高圧縮部23は、低圧縮部24よりも圧縮されているため、粒子4が密集し、粒子4同士の間隔が短くなる。そのため、凹部21が、凸部22よりも短波長側の色を発現する。
具体的には、低圧縮部24(厚さ方向から見て凸部22の頂面220)に比べて、高圧縮部23(厚さ方向から見て凹部21の底面210)が発現する構造色の色は、比較的短波長側の色となる。換言すれば、XY平面視で、凸部22の頂面220に比べて、凹部21の底面210が発現する構造色の色は、比較的短波長側の色となる。
【0124】
一方、低圧縮部24における粒子4の密度は、高圧縮部23における粒子4の密度よりも低い。すなわち、高圧縮部23に比べて、低圧縮部24における粒子4同士の間隔は長くなる。そのため、凸部22が、凹部21よりも長波長側の色を発現する。具体的には、高圧縮部23(厚さ方向から見て凹部21の底面210)に比べて、低圧縮部24(厚さ方向から見て凸部22の頂面220)が発現する構造色の色は、比較的長波長側の色となる。換言すれば、XY平面視で、凹部21の底面210に比べて、凸部22の頂面220が発現する構造色の色は、比較的長波長側の色となる。
【0125】
構造色固定シート2は、高圧縮部23と低圧縮部24とで発現する構造色の色が異なることによって、高い意匠性を有する。この模様は、構造色固定シート2の全体に付与されていてもよいし、一部にのみ付与されていてもよく、一つの構造色固定シート2が複数の模様を有してもよい。
【0126】
構造色固定シート2に付与される模様は、プレス8の凹凸面9の形状により決定される。模様については、特に限定されないが、例えば、シボ加工を行うことにより付与されるシボ型等が挙げられる。シボ加工により付与される模様は、特に限定されないが、例えば、幾何学模様、皮革調、及び木目調等が挙げられる。
【0127】
プレス8の凹部91の深さ(凸部92の高さ)L9、及び加圧する際の圧力を調節することにより、加圧前の構造色より長波長側の色であれば、任意の色に変化させることができる。
【0128】
構造色固定シート2の厚さL2は、好ましくは70μm以上150μm以下である。
【0129】
構造色固定シート2における凹凸面20を装飾的要素として用いることができる。なお、構造色固定シート2の凹凸面20の反対側の面に突出部2aが形成される場合には、突出部2aを装飾的要素として用いてもよい。
【0130】
[3]加飾成形品の製造方法
[3.1]構造色可変シートを使用する場合
本実施形態では、構造色可変シート1と成形品30とを一体成形することにより、加飾成形品3を製造する。
【0131】
すなわち、まず図3Aに示すように、構造色可変シート1を成形品30の表面31に配置する。そして、上述の凹凸面9を有するプレス8を用いる。
【0132】
次に図3Bに示すように、構造色可変シート1の成形品30と反対側の面にプレス8の凹凸面9を重ねてZ軸方向に加圧する。本実施形態では、成形品30が柔軟性を有しない場合を想定しているが、もし成形品30が柔軟性を有する場合、図2B図2Dの場合と同様に、成形品30には陥没部10aが形成され、陥没部10aには突出部2aが嵌まり込むこともあり得る。なお、加圧条件は、上述のとおりである。
【0133】
ここで、図3A及び図3Bには、加飾成形用材料300が図示されている。加飾成形用材料300は、加飾成形品3の材料として用いられる。図3A及び図3Bに示す加飾成形用材料300は、成形品30と、半硬化樹脂層51と、を備える。半硬化樹脂層51は、成形品30と一体化されている。半硬化樹脂層51は、構造色可変シート1で形成されている。特に図3Bでは、半硬化樹脂層51が、凹部21と凸部22とを有する凹凸面20を含んでいる。凹凸面20の凹凸差の平均値は、好ましくは300μm以下である。凹部21は、凸部22よりも短波長側の色を発現する。なお、図3Aでは、半硬化樹脂層51は、凹凸面20を含んでいない。
【0134】
次に図3Cに示すように、凹凸面9を構造色可変シート1に転写した状態で、構造色可変シート1を加熱して硬化させる。これにより、半硬化樹脂層51は、硬化樹脂層52となり、構造色可変シート1は、構造色固定シート2となって、成形品30と一体化される。なお、加熱条件及び硬化度(Q)は、上述のとおりである。
【0135】
そして、図3Dに示すように、プレス8を構造色固定シート2から離間させることによって、加飾成形品3を得ることができる。加飾成形品3は、成形品30と、硬化樹脂層52と、を備える。硬化樹脂層52は、成形品30と一体化されている。硬化樹脂層52は、構造色固定シート2で形成されている。
【0136】
[3.2]構造色固定シートを使用する場合
本実施形態では、図2A図2Dに示すように、構造色可変シート1から構造色固定シート2を作製しておく。そして、構造色固定シート2を離型シート10から剥離した後、構造色固定シート2を成形品30の表面に貼り付ける。なお、貼り付け手段は、接着等が挙げられるが、特に限定されない。
【実施例0137】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できれば設計に応じて種々の変更が可能である。
【0138】
〔工程(1)〕樹脂組成物の調製
まず、表1の組成の欄に示す成分を用意した。これらの成分を加えて混合することで、混合液を調製し、この混合液を、室温(約25℃)で、超音波ホモジナイザーで30分程度撹拌することにより、「粒子」を混合液中で分散させ、撹拌終了後1時間静置させた。これにより、樹脂組成物1~3を調製した。
【0139】
なお、表1中の組成の欄に示す成分の詳細は、次の通りである。表1中、各成分の数値は、質量部である。ただし、「体積」に示す値は、「組成物に含有される固形分」全量に対する「粒子」合計の体積割合(vol%)である。
【0140】
(硬化性成分(B))
・硬化性成分b1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製品名EPICLON 850-S。エポキシ当量183-193g/eq.。25℃粘度11~15Pa・s。塩素濃度0.15%。屈折率1.55。)
・硬化性成分b2:トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製品名デナコールEX-321L。エポキシ当量130g/eq.。25℃粘度300mPa・s。塩素濃度0.3%。屈折率1.47。)
・硬化性成分b3:テトラヒドロメチル無水フタル酸とテトラヒドロ無水フタル酸との混合物(光酸発生剤。新日本理化株式会社製MH-700。酸無水物当量164g/eq.。25℃粘度約60mPa・s。塩素濃度1%以下。屈折率1.473。)。
【0141】
(添加剤)
・表面改質剤:含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー(DIC株式会社製品名メガファックF-556。)。
【0142】
(粒子(A))
・粒子a1:富士化学株式会社製品名Sibol-135(平均粒子径135nm、C.V.値10%以下)。
【0143】
・粒子a2:富士化学株式会社製品名Sibol-150(平均粒子径150nm、C.V.値10%以下)。
【0144】
・粒子a3:富士化学株式会社製品名Sibol-170(平均粒子径170nm、C.V.値10%以下)。
【0145】
各粒子の平均粒子径は、ディスク遠心式粒子径分布測定装置CPS instruments社製のCPS disc centrifugemodel DC24000)を用いて、DCS(頻度別遠心沈降法)法により、回転数20,000rpmで測定されたものである。
【0146】
(フュームドシリカ)
・アエロジル(登録商標):日本アエロジル株式会社製品名アエロジルRY200(組成:SiO 99.8%以上/Al 0.01%以下/TiO 0.01%以下。平均粒子径12nm。)。
【0147】
(色材)
・カーボンブラック:三菱ケミカル株式会社品番#3030B(黒色。粒子径55nm。)
・導電性酸化チタン:Ti(堺化学工業株式会社製品名ENETIA(登録商標)。紺色。平均粒子径100-140nm。)。
【0148】
【表1】
【0149】
〔工程(2)〕未硬化シートの作製
工程(1)で調製した樹脂組成物を、支持基材(TN-100、厚さ100μm)上に塗布することで、支持基材上に樹脂組成物の塗膜を作製し、支持基材に重なる未硬化シート(厚さ約200μm)を得た。続いて、加熱炉において表2の乾燥温度及び乾燥時間にて乾燥させた。
【0150】
〔工程(3)〕構造色可変シート(半硬化シート)の作製
工程(2)で作製した未硬化シートを、加熱炉において表2の熱処理条件にて熱エネルギーを付与し、表2の硬化度(P)の半硬化シートを得た。
【0151】
〔工程(4)〕構造色固定シート(硬化シート)の作製
工程(3)で作製した半硬化シートを、シボ状の凹凸面(凹凸差:70μm以上200μm以下)を有するプレスを用いて加圧するとともに、表2の条件にて熱エネルギーを付与し、表2の硬化度(Q)の硬化シートを得た。
【0152】
〔評価〕
[1]膜厚
構造色可変シート(半硬化シート)の面内5か所の膜厚をデジタルマイクロメーターで測定し、その平均値を算出した。
【0153】
[2]型押し前のタック性
型押し前の構造色可変シート(半硬化シート)に対し、試験者の素手により指紋を押し当てて、半硬化シートの表面に指紋が残存するか否かについて、目視により確認し、以下の基準で、タック性を評価した。
【0154】
A:指紋を押し当てても、半硬化シート表面に指紋が残存しない
B:指紋を押し当てると、半硬化シート表面に僅かに指紋が残存する
C:指紋を押し当てると、半硬化シート表面に明確に指紋の残存が見られる。
【0155】
なお、「型押し前」とは、プレスで加圧される前という意味である。
【0156】
[3]型押し後の凸部抜け割合
型押し後の構造色固定シート(硬化シート)を観察し、シボ状の凸部が抜けている個数を計測した。より詳細には、「シボ状の凸部が抜けている個数」とは、プレスの凸部によって、構造色固定シートに貫通孔が形成された場合の、その貫通孔の個数を意味する。プレスの凸部の総数に対する計測した個数の割合を算出した。
【0157】
なお、「型押し後」とは、プレスで加圧された後という意味である。
【0158】
[4]型押し後の色変化
型押し後の構造色固定シート(硬化シート)を観察し、凹部の底面(図2Dの底面210)と凸部の頂面(図2Dの頂面220)とを比較することにより、構造色の変化を目視により確認した。
【0159】
A:凸部の頂面に比べ、凹部の底面が明確に短波長側に変化
B:凸部の頂面に比べ、凹部の底面が僅かに短波長側に変化
C:凹部の底面と凸部の頂面との間で変化なし
【0160】
【表2】
【符号の説明】
【0161】
1 構造色可変シート(半硬化シート)
2 構造色固定シート(硬化シート)
3 加飾成形品
30 成形品
31 表面
4 粒子
5 硬化性成分
8 プレス
9 凹凸面
図1
図2
図3