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特開2023-88420分析計、危険物探知装置、及び選択画面インターフェース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088420
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】分析計、危険物探知装置、及び選択画面インターフェース
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/16 20060101AFI20230620BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230620BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
H01J49/16 800
G01N27/62 G
H01J49/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203104
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 華子
(72)【発明者】
【氏名】熊野 峻
(72)【発明者】
【氏名】永野 久志
(72)【発明者】
【氏名】野尻 辰夫
【テーマコード(参考)】
2G041
5C038
【Fターム(参考)】
2G041AA05
2G041AA07
2G041CA01
2G041DA07
2G041DA10
2G041EA02
2G041FA30
2G041JA17
5C038HH02
5C038HH21
5C038HH26
(57)【要約】
【課題】イオン化に用いる電極が劣化した場合には安定した放電ができなかった。
【解決手段】電極12a,12b間の放電を利用して試料をイオン化するイオン化部10と、イオン化した試料を検出して分析する検出部13と、放電を停止した状態から放電を開始する際に、電極12a又は12bに流れる電流もしくは電極12a又は12bにかかる電圧、又は、放電の開始により検出部13で得られる質量スペクトルによって放電状態を監視し、放電状態の監視結果に基づいて、電極12a,12bによって放電を発生させるために必要な放電電圧を調整する制御部14と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間の放電を利用して試料をイオン化するイオン化部と、
イオン化した前記試料を検出して分析する検出部と、
放電を停止した状態から前記放電を開始する際に、前記電極に流れる電流もしくは前記電極にかかる電圧、又は、前記放電の開始により前記検出部で得られる質量スペクトルによって放電状態を監視し、前記放電状態の監視結果に基づいて、前記電極によって前記放電を発生させるために必要な放電電圧を調整する制御部と、を備える
分析計。
【請求項2】
前記制御部は、前記放電状態を監視し、前記イオン化が不安定な状態になったと判断した場合に、前記放電電圧の調整を行う
請求項1に記載の分析計。
【請求項3】
前記イオン化部は、イオンを生成するイオン化室に配置されて放電を発生させる針電極と、対向電極と、を備え、
前記制御部は、前記針電極に流れる電流の最大値が予め設定した正常範囲から外れた場合に、前記イオン化が不安定な状態になったと判断して異常を出力し、前記放電電圧の調整を行う
請求項2に記載の分析計。
【請求項4】
前記制御部は、前記質量スペクトルによって放電状態を監視する際に、監視対象範囲内の質量のイオン強度を足し合わせたカウント値が閾値以下と判断されたことに基づいて、前記イオン化が不安定な状態になったことを判断し、前記イオン化が不安定な状態になった回数が閾値以上である場合に、異常を出力し、前記放電電圧の調整を行う
請求項2に記載の分析計。
【請求項5】
前記制御部は、前記監視対象範囲内の質量のイオン強度を足し合わせた前記カウント値が閾値以下と判断された回数である閾値以下回数が設定回数以上である場合、又は、前記カウント値が閾値以下であると連続して判断された回数である連続閾値以下回数が設定連続回数以上である場合に、前記イオン化が不安定な状態になったと判断する
請求項4に記載の分析計。
【請求項6】
検査対象から試料を収集する機構と、
電極間の放電を利用して前記試料をイオン化するイオン化部と、
イオン化した前記試料を検出して分析する検出部と、
放電を停止した状態から前記放電を開始する際に、前記電極に流れる電流もしくは前記電極にかかる電圧、又は、前記放電の開始により前記検出部で得られる質量スペクトルによって放電状態を監視し、前記放電状態の監視結果に基づいて、前記電極によって前記放電を発生させるために必要な放電電圧を調整する制御部と、を備える
危険物探知装置。
【請求項7】
電極間の放電を利用してイオン化した試料を検出して危険物を探知する危険物探知装置に用いられる選択画面インターフェースであって、
前記電極を選択するためのボタンを表示した領域と、
選択された前記ボタンに対応する電極の交換状況及び次回交換時期を表示する領域と、を有する
選択画面インターフェース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象に付着した物質を分析する分析計、危険物探知装置、及び選択画面インターフェースに関する。
【背景技術】
【0002】
世界的にテロリズムの脅威が増しており、発電所のような重要設備において爆発物等の危険物によるテロリズム対策の需要が拡大している。それに伴い、危険物探知装置の需要が高まってきている。多くのトレース型危険物探知装置では、内部に物質を分析する分析装置を有しており、危険物探知装置の健全性を保つために定期的な消耗品の交換が必要となる。そのため、消耗品の長寿命化によるランニングコスト低減が求められている。
【0003】
例えば、質量分析技術を利用した分析装置を有するトレース型危険物探知装置の場合、検査対象から採取した微粒子をイオン化し、イオン化した微粒子の分子量からその物質が危険物かそうでないかを判別している。イオン化は、コロナ放電等により行われる。
【0004】
特許文献1には、「検査対象に付着する検出対象物質のガス及び/又は微粒子を送気部からの気流で剥離させ、剥離した試料を吸引口より吸引し、微粒子捕集部で濃縮して捕集し、イオン源部で試料のイオンを生成し、質量分析部で質量分析する」危険物探知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-223482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、放電を行う電極は、時間経過により表面に絶縁性の酸化被膜が形成される。この電極に形成された酸化被膜が原因で、放電が不安定になることがある。酸化被膜の形成速度は電極の設置環境により異なり、最悪の場合には放電できずに分析ができなくなる。この現象を防止するためには、酸化被膜を形成させないことが重要だが、微粒子を採取し危険物を探知する装置の特性上、完全に防止することは難しい。そのため、酸化被膜が形成された場合であっても、放電を安定させるための手法が必要である。
【0007】
特許文献1では、放電を利用してイオンを生成すると考えられるが、酸化被膜が形成された場合の現象と対策について言及していない。そのため、特許文献1に開示された危険物探知装置も、一般的な危険物探知装置と同様に、イオン化の際に放電が生じる電極の酸化被膜生成により電極の寿命が短くなると考えられる。また、電極の表面に酸化被膜が形成されて放電が不安定になることから、電極のメンテナンスが必要となる。その結果、ランニングコストが増大する。
【0008】
上記の状況から、イオン化に用いる電極が劣化した場合であっても、安定した放電を実現する手法が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の分析計は、電極間の放電を利用して試料をイオン化するイオン化部と、イオン化した試料を検出して分析する検出部と、放電を停止した状態から放電を開始する際に、電極に流れる電流もしくは電極にかかる電圧、又は、放電の開始により検出部で得られる質量スペクトルによって放電状態を監視し、放電状態の監視結果に基づいて、電極によって放電を発生させるために必要な放電電圧を調整する制御部と、を備える。
【0010】
また、本発明の一態様の危険物探知装置は、検査対象から試料を収集する機構と、電極間の放電を利用して試料をイオン化するイオン化部と、イオン化した試料を検出して分析する検出部と、放電を停止した状態から放電を開始する際に、電極に流れる電流もしくは電極にかかる電圧、又は、放電の開始により検出部で得られる質量スペクトルによって放電状態を監視し、放電状態の監視結果に基づいて、電極によって放電を発生させるために必要な放電電圧を調整する制御部と、を備える。
【0011】
また、本発明の一態様の選択画面インターフェースは、電極間の放電を利用してイオン化した試料を検出して危険物を探知する危険物探知装置に用いられる選択画面インターフェースであって、電極を選択するためのボタンを表示した領域と、選択されたボタンに対応する電極の交換状況及び次回交換時期を表示した領域と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の少なくとも一態様によれば、分析部においてイオン化に用いる電極を監視して放電電圧を調整するので、電極が劣化した場合であっても、安定した放電を実現することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施形態に係るコロナ放電を行うイオン化部を備えた危険物探知装置の制御系の構成例を示す図である。
図2】危険物探知装置の分析部が備える制御系のハードウェアの構成例を示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る電圧調整モード時の制御部による処理の概要を示すフローチャートである。
図4】本発明の第1の実施形態に係る制御部が電圧調整機能を実行時の処理の手順例を示すフローチャートである。
図5】本発明の第2の実施形態に係る制御部が針電流監視機能を実行時の処理の手順例を示すフローチャートである。
図6】本発明の第2の実施形態に係る針電流監視結果に基づいて針電極電圧(放電電圧)を調整し、針電流(放電電流)を制御したことを示すグラフである。
図7】本発明の第3の実施形態に係る制御部がスペクトル監視機能を実行時の処理の手順例を示すフローチャートである。
図8】本発明の第3の実施形態に係るスペクトル監視結果に基づいて針電極電圧(放電電圧)を調整し、対象イオンのイオン強度を制御したことを示すグラフである。
図9】本発明の第4の実施形態に係る針電流監視機能又はスペクトル監視機能を用いて算出できる、交換時期及び予想コストを表示する交換情報画面の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照して説明する。本発明を実施するための形態の例として、危険物探知装置の概略構成例と、針電流監視機能及びスペクトル監視機能と、電圧調整機能との総合的な関係の例とを説明する。なお、ここで説明する装置構成や処理動作の内容は本発明の具体化の一例であり、それと既知の技術との組み合わせや置換による変形例も本発明の範囲に含まれる。本明細書及び添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0015】
<第1の実施形態>
[危険物探知装置の制御系]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るコロナ放電を行うイオン化部を備えた危険物探知装置の制御系の構成例を示す図である。図1に示す危険物探知装置1は、カード挿入部2、認証部3、送気部4、吸引口5、捕集部6、分析部7(分析計の一例)、及び出力部8を備える。図1に示した危険物探知装置1は、その全体構成の概略を表したものであり、分析部7を始めとして個々の構成は開示した例に限定されない。
【0016】
カード挿入部2は、利用者が建築物や施設に設置されたゲート(図示略)を通過する際に使用するスマートカード(以下「カードC」と称する)等の検査対象を挿入する部分である。本発明では、カード挿入部2より挿入されたカードCの表面に付着している微粒子及び/又はガスを検査対象物質としている。以下では、微粒子及び/又はガスを単に「微粒子」と記載する。本実施形態では、これらの微粒子を試料として分析する。認証部3は、読取り面に載置された又は上方にあるカードCの認証を行い、認証が成功したらゲートを開き、認証に失敗したらゲートを閉じる制御を行う。
【0017】
本実施形態では、検査対象をカードC(スマートカード等)としているが、検査対象はカードホルダやカバン、衣服、手指などでもよい。
【0018】
送気部4は、カード挿入部2から挿入されたカードCに対して圧縮された空気を吹き付け、カードC表面に付着している微粒子を剥離する。剥離された微粒子は、吸引口5に吸入される。吸引口5は、微粒子の通り道の周囲を囲むように形成された形状の部材である。捕集部6は、カードCから剥離して吸引口5に吸引された微粒子を捕集する。捕集部6には、例えばサイクロン型濃縮部が用いられる。捕集部6は、捕集した微粒子を重さ毎に分離し、捕集部6の下部にあるフィルタで微粒子を濃縮し、検出感度を上げる部分である。そして、捕集部6は、例えば、濃縮された微粒子を布(又は紙)の加熱により気化させ、気化された微粒子(ガス)を分析部7が有するイオン化室11に導入する。捕集部6に、インパクタを用いてもよい。
【0019】
分析部7は、イオン化部10、検出部13、制御部14、判定部15、及び質量DB16を備える。イオン化部10は、イオン化室11と高電圧部12とで構成される。分析部7は、捕集された微粒子の成分を分析し、分析結果を出力部8に送信する。
【0020】
ここで、分析部7の構成について詳細に説明する。分析部7が有するイオン化室11には、針電極11a及び対向電極11bが設けられている。イオン化室11において、針電極11aと対向電極11bとの間にコロナ放電を発生させ、針電極11aの近くに存在する微粒子をイオン化させる。高電圧部12は、針電極11aと対向電極11bの双方に直流電圧を印加し、針電極11aと対向電極11bとの間に高電圧を生じさせることで、コロナ放電を発生させる。対向電極11bに針電極11aとは異なる直流電圧を印加することで、対向電極11bからさらに奥に形成されている細孔を通じて、検出部13に対向電極11bと逆極性のイオンを引き込むことができる。
【0021】
そして、検出部13は、例えば質量分析技術を用いて、イオン化室11で生成されたイオンを検出し、検出したイオンの情報から捕集した微粒子の質量(成分)を分析する。判定部15は、検出部13で分析した結果(例えば、質量スペクトル)を、質量データベース(質量DB16)内の様々な物質の分子量が登録されたライブラリと比較し、検出対象物質(本実施形態では危険物)に由来する質量スペクトルの有無を判定する。
【0022】
判定部15の危険物の有無についての判定結果は、制御部14に通知される。制御部14は、判定部15の判定結果を出力部8に送信し、判定結果が出力部8に出力される。例えば、出力部8は、後述する図2の表示装置24、又は、警告音若しくは音声を放音するスピーカ(図示略)である。
【0023】
制御部14は、分析部7の動作を制御する。また、制御部14が、危険物探知装置1全体を統括的に制御するようにしてもよい。後述するように、本発明では、制御部14が後述する針電流監視機能(図5参照)又はスペクトル監視機能(図7参照)の結果に応じて、針電極11aにかける放電電圧を調整する電圧調整機能を使用する。そして、高電圧部12が制御部14の制御の下で、針電極11aにかける電圧を制御することにより、コロナ放電を発生させる針電極11aの劣化具合に合わせた放電電圧を出力することができる。
【0024】
制御部14は、針電極11aに流れる電流(以下「針電流」と略称する)の値に基づいて、高電圧部12から針電極11a及び対向電極11bに印加する電圧を調整する。
【0025】
測定部17は、針電極11aに電圧を印加したときに針電極11aに流れる電流(針電流)を測定し、測定した電流値を制御部14に送信するように構成されている。例えば、測定部17は電流計である。測定部17は、対向電極11bに電圧を印加したときに流れる電流(以下「対向電流」と呼ぶ)も測定し、測定した電流値を制御部14に送信する構成としてもよい。なお、本実施形態では、測定部17が針電流を測定する構成としたが、測定部17が針電極11aにかかる電圧を測定する構成としてもよい。電流及び電圧から相互に値を変換することができる。
【0026】
なお、本実施形態では、コロナ放電を例にしてイオン化方法を説明したが、コロナ放電に限定せず、グロー放電、バリア放電等も適用できる。
【0027】
また、本実施形態では、危険物探知装置1で危険物を探知するために分析部7を用いたが、分析部7は危険物以外の目的とする物質を探知することに利用できることは勿論である。すなわち、分析部7を、危険物探知装置1以外の装置に搭載する構成も考えられる。
【0028】
[分析部が備えるハードウェア構成]
次に、危険物探知装置1の分析部7が備える制御系のハードウェアの構成について図2を参照して説明する。
【0029】
図2は、危険物探知装置1の分析部7が備える制御系のハードウェアの構成例を示す図である。図示する計算機20は、いわゆるコンピュータとして用いられるハードウェアである。計算機20には、パーソナルコンピュータ又はマイクロコンピュータ等を用いることができる。計算機20は、CPU(Central Processing Unit)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、表示装置24、入力装置25、不揮発性ストレージ26、及び入出力インターフェース27を備える。計算機20内の各部は、システムバスを介して相互にデータの送受信が可能に接続されている。
【0030】
CPU21は、本実施形態に係る分析部7の各機能を実現するソフトウェアのプログラムをROM22から読み出し、該プログラムをRAM23に展開して実行する。CPU21が該プログラムを実行することにより、制御部14及び判定部15が実現される。
【0031】
ROM22は、不揮発性メモリ(記録媒体)の一例として用いられる。ROM22には、OS(Operating System)、各種のパラメータ、分析部7を機能させるためのプログラム等が記録される。RAM23には、CPU21の演算処理の過程で発生した変数やパラメータ等が一時的に書き込まれる。演算処理装置としてCPU21に代えて、MPU(Micro Processing Unit)等の他のプロセッサを用いてもよい。
【0032】
表示装置24は、液晶ディスプレイなどのモニタであり、GUI画面やCPU21で行われた処理の結果等を表示する。入力装置25は、ユーザの操作に応じた入力信号を生成してCPU21へ出力する。入力装置25には、例えば、マウス、キーボードなどが用いられ、ユーザは入力装置25を操作して情報や指示を入力することが可能である。表示装置24と入力装置25とは、タッチパネルとして一体に構成されてもよい。
【0033】
不揮発性ストレージ26は、記録媒体の一例であり、プログラムが使用するデータやプログラムを実行して得られたデータなどを保存することが可能である。例えば、不揮発性ストレージ26には、質量データベース16の情報が保存される。また、不揮発性ストレージ26に、OS(Operating System)や、CPU21が実行するプログラムを記録してもよい。不揮発性ストレージ26としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気や光を利用するディスク装置、又は半導体メモリカード等が用いられる。
【0034】
入出力インターフェース27は、危険物探知装置1が備える不図示の制御系(例えば、認証部3の認証結果に応じた処理を実行する制御系)との間で各種のデータや制御信号を送受信することが可能に構成されている。
【0035】
[電圧調整モード]
図3は、本発明の第1の実施形態に係る電圧調整モード時の制御部14による処理の概要を示すフローチャートである。CPU21がROM22に記録されたプログラムを実行することにより本フローチャートの処理が行われる。後述する針電流監視機能(図5参照)又はスペクトル監視機能(図7参照)において異常が検知された場合に、電圧調整モードに遷移する。
【0036】
電圧調整モードが開始されると(S1)、制御部14は、針電流監視機能(図5参照)又はスペクトル監視機能(図7参照)から放電異常の通知があるかどうかを判定し(S2)、放電異常の通知がない場合には(S2のNO)、ステップS4の処理に進む。一方、放電異常の通知がある場合には(S2のYES)、制御部14は、電圧調整機能(図4参照)を実行する(S3)。次いで、制御部14は、電圧調整機能を実行後、その結果に基づいて放電電圧設定値を決定、更新し(S4)、電圧調整モードにおける処理を終了する(S5)。決定した放電電圧設定値は、RAM23又は不揮発性ストレージ26に記憶する。制御部14は、分析を実施する通常モードに復帰後、更新した放電電圧設定値に基づいて高電圧部12から放電電圧を出力し、コロナ放電すなわちイオン化を安定させる。
【0037】
ただし、危険物探知装置1が予め設定した条件を満たすことにより待機モード(図示略)にある場合に、針電流監視機能(図5参照)又はスペクトル監視機能(図7参照)による監視の結果異常が発生していたら、電圧調整モードに移行して電圧調整を実行する構成としてもよい。待機モードでは、例えば、利用者の入退室時のカード受け入れ機能や認証機能等、一部の機能が制限されることを想定している。ただし、電圧調整モードにおいてこれらの機能制限を排除するものではない。
【0038】
[電圧調整機能]
次に、分析部7の電圧調整機能の詳細について図4を参照して説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態に係る制御部14が電圧調整機能を実行時の処理の手順例を示すフローチャートである。CPU21がROM22に記録されたプログラムを実行することにより本フローチャートの処理が行われる。
【0039】
図4に示す電圧調整機能は、図1に示した電圧調整モード中に起動する。制御部14は、針電流監視機能(図5参照)又はスペクトル監視機能(図7参照)の結果から、電圧調整機能を実行するか判断して電圧調整指令を生成し、電圧調整指令をトリガーに電圧調整機能の実行を開始する(S11)。
【0040】
次いで、制御部14は、針電流監視機能の結果から針電極11aの抵抗値の当たりをつけて、電圧調整モードに遷移する直前の電圧を用いて、電圧印加した場合に針電極11aに生じる電流の範囲(下限値と上限値)を決定する(S12)。初回は、初期設定値の電圧を針電極11aに印加する。2回目以降は、例えば、前回印加電圧に決定した値を使用する。例えば、針電極11aの抵抗値は、高電圧部12から針電極11aに印加した電圧と、このとき測定部17で測定された針電極11aに流れる電流の値(針電極電流値)とから計算できる。
【0041】
次いで、制御部14は、高電圧部12により針電極11aに対し指定電圧を印加する(S13)。制御部14は、針電極11aに電圧を数秒間印加し、測定部17で所定時間(例えば数ms)ごとに針電極11aに流れる電流を計測し平均値(針電極電流平均値)を算出する。
【0042】
次いで、制御部14は、ステップS13で算出した針電極電流平均値が、ステップS12で決定した正常範囲内(下限値以上かつ上限値以下)であるかあるかどうかを判定する(S14)。針電極電流平均値が正常範囲内にある場合(S14のYES)、制御部14は、ステップS13で印加した電圧をコロナ放電時に針電極11aに印加する電圧(放電電圧)として決定し(S19)、電圧調整を終了する(S20)。ステップS20の処理後、図3のステップS4の処理に進む。
【0043】
一方、制御部14は、電極電流平均値が正常範囲内ではない場合(S14のNO)、針電極電流平均値が下限値よりも小さいかどうかを判定する(S15)。そして、制御部14は、針電極電流平均値が下限値よりも小さい場合(S15のYES)、印加電圧を所定ステップ値だけ上昇させて更新し(S16)、針電極電流平均値が下限値以上である場合には(S15のNO)、印加電圧を所定ステップ値だけ下降させて更新する(S17)。そして、制御部14は、針電極電流の平均値を再度計算(更新)する。
【0044】
次いで、制御部14は、再計算した針電極電流平均値が、ステップS12で決定した正常範囲内(下限値以上かつ上限値以下)であるかどうかを再度判定する(S18)。再計算した針電極電流平均値が正常範囲内である場合(S18のYES)、制御部14は、ステップS19の処理に進む。
【0045】
一方、再計算した針電極電流平均値が正常範囲内ではない場合(S18のNO)、制御部14は、ステップS12に戻って印加電圧を変更して電流の範囲(上限値と下限値)を再度決定する。そして、ステップS13及びS14の処理を実行し、さらに必要に応じてステップS15~S18の処理を適宜実行する。
【0046】
本実施形態では、無限ループ防止のため、ステップS16及びS17における電圧調整を数回(例えば、4回)実施しても針電極電流平均値が正常範囲に達しない場合(S18のNO)には、制御部14は強制的に電圧調整終了(S20)に遷移する。そして、制御部14は、出力部8に針電極交換メッセージを出力する。ここで、針電極電流平均値の正常範囲の幅は狭いほど、最適な放電電圧の設定につながるが、針電極11aに印加する電圧を再調整する確率が上がるので、運用状況を考察して検討することが望ましい。
【0047】
以上のとおり、検査対象から試料を収集する機構(例えば、送気部4、吸気口20、捕集部6)と、電極(針電極11a、対向電極11b)間の放電を利用して試料をイオン化するイオン化部と、イオン化した試料を検出して分析する検出部と、放電を停止した状態から放電を開始する際に、電極に流れる電流もしくは電極にかかる電圧、又は、放電の開始により検出部で得られる質量スペクトルによって放電状態を監視し、放電状態の監視結果に基づいて、電極によって放電を発生させるために必要な放電電圧を調整する制御部と、を備えて構成されている。
【0048】
また、本実施形態に係る危険物探知装置1(分析部7)では、制御部は、電極間の放電状態を監視し、イオン化が不安定な状態になったと判断した場合に、放電電圧の調整を行うように構成されている。
【0049】
上記構成のように構成された第1の実施形態に係る危険物探知装置1(分析部7)は、分析部7においてイオン化に用いる電極(針電極11a又は対向電極11b)を監視して放電電圧を調整するので、電極が劣化した場合であっても、安定した放電を実現することができる。それにより、例えば、電極に酸化被膜が形成された状態でも、放電を継続し、消耗品である電極の使用可能時間を延長することができる。
【0050】
<第2の実施形態>
第2の実施形態として、分析部7の針電流監視機能の詳細について図5を参照して説明する。針電流監視機能及び後述するスペクトル監視機能では、イオン化部10による放電を停止した状態から放電を開始する際に、針電流(又は針電圧)及び質量スペクトルで放電状態を監視する。
【0051】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る制御部14が針電流監視機能を実行時の処理の手順例を示すフローチャートである。CPU21がROM22に記録されたプログラムを実行することにより本フローチャートの処理が行われる。
【0052】
まず、危険物探知装置1が分析可能状態であるときに、制御部14が針電流監視指令を出し、針電流監視機能の実行を開始する(S31)。次いで、制御部14は、高電圧部12により所定の電圧を針電極11aに印加して、測定部17により所定周期で針電流を取得し、RAM23(図2参照)に記録されている取得回数をインクリメントする(S32)。すなわち、取得回数の値を1だけ増やす。針電極11aに印加する電圧の値は予め決定しておく。
【0053】
次いで、制御部14は、取得した針電流が現時点の最大値を超えたかどうかを判定し(S33)、取得した針電流が現時点の最大値を超えた場合(S33のYES)、針電流の最大値を更新してRAM23に記憶する(S34)。取得した針電流が現時点の最大値以下の場合(S33のNO)、ステップS35の判定処理に進む。
【0054】
次いで、ステップS34の処理後、又はステップS33でNO判定の場合、制御部14は、設定した回数まで針電流の取得を繰り返す。すなわち、制御部14は、針電流の取得回数が設定した回数に達したかどうかを判定し(S35)、取得回数が設定した回数に達した場合(S35のYES)、ステップS36の判定処理に進む。一方、取得回数が設定した回数に達していない場合(S35のNO)、ステップS32~S35の処理を繰り返す。
【0055】
次いで、制御部14は、ステップS33でYES判定の場合、針電流最大値が正常範囲外かどうかを判定する。すなわち、制御部14は、針電流最大値が予め設定した電流値下限より小さい、又は、針電流最大値が予め設定した電流値上限よりも大きいかどうかを判定する(S36)。ここで、針電流最大値が正常範囲外ではない場合、すなわち針電流最大値が正常範囲内にある場合には(S36のNO)、制御部14は、針電流の取得回数をリセットし(S38)、針電流監視終了(S39)に遷移する。
【0056】
一方、針電流最大値が正常範囲外である場合は(S36のYES)、制御部14は、針電極11aが異常であること(警告)を出力部8に通知する。また、制御部14は、電圧調整モードへ移行し電圧調整機能(図4参照)を実行する(S37)。電圧調整モードではなく待機モードでもよい。針電流最大値の正常範囲(上限値、下限値)は、使用する針電極11aに依存する。ステップS37の処理後、制御部14は、針電流の取得回数をリセットし(S38)、針電流監視終了(S39)に遷移する。
【0057】
このような針電流監視機能により、針電極11aが劣化したこと、すなわち針電極11aの異常を検出することができ、適切にコロナ放電が実施されるよう電圧調整機能を実施することができる。また、出力部8への異常通知を確認して(例えば、カードの検査要求がないときに)即座に針電極11aを交換できるので、危険物探知装置1の可用性が向上する。例えば、カードの検査要求があり危険物探知装置1を使用したいが、針電極11aの異常によって使用できないという事態を避けられる。
【0058】
さらにまた、異常通知を受けて(例えば、カードの検査要求がないときに)針電極11aを即座に交換できるので、イオン化が不安定な状態で危険物探知装置1の使用を継続することを避けることができ、危険物探知装置1の信頼性が向上する。対向電極11bを監視対象とした場合にも、針電極11aの場合と同様の作用効果が得られる。
【0059】
ここで、針電流監視結果に基づいて針電極電圧(放電電圧)を調整し、針電流(放電電流)を制御した例について、図6を参照して説明する。針電極電圧を調整することで、針電極11aと対向電極11bとの間の電圧、すなわち放電電圧を調整することができる。
【0060】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る針電流監視結果に基づいて針電極電圧(放電電圧)を調整し、針電流(放電電流)を制御したことを示すグラフである。図6において、横軸は放電を開始してから経過した時刻[sec]を示し、左側の縦軸は針電流[μA]、右側の縦軸は針電極11aへの印加電圧(針電極電圧)[V]を表す。
【0061】
グラフ中の薄い実線(領域)は針電流、濃い実線は針電流の最大値、及び破線は針電極11aへの印加電圧を示す。図6には、針電極電圧として、負極性の電圧が印加されている例が示されている。針電極11aに負極性の電圧を印加し、対向電極11bに正極性の電圧を印加した場合、針電極11aは負イオンを発生させるための電極となる。
【0062】
図6に示すように、針電流の最大値の変化に合わせて、電圧調整機能によって針電極11aに印加する電圧(針電極電圧)を調整することで、針電流の最大値が制御されていることがわかる。例えば、図6では、時刻0~400secにかけて-3400Vの針電極電圧をかけていたが、針電流の最大値は30μAから15μAに低下している。既述のとおり、放電を行う電極は、時間経過とともに表面に絶縁性の酸化被膜が形成され、放電の能力が低下する。
【0063】
そこで、400sec過ぎの時点で針電極電圧を-3700Vに上げることで、針電流の最大値が約38μAまで上昇している。同様に、時刻が1250secと2000secの時点でそれぞれ針電極電圧の大きさを大きくすることで、針電流の最大値が上昇している。逆に、時刻が2900secから針電流が大きくなり過ぎている(約51μA)ため、時刻が3000secのときに針電極電圧を-3900Vから-3600Vに下げることで、針電流を-3460Vまで低下させている。
【0064】
また、制御部14は、放電電圧の正負を切り替えたときにも、針電極11aに流れる正電流と負電流の値を測定し最適な針電流(放電電流)の値を出力する。放電電圧の正負を切り替えることで、負イオン化しやすい特性を持つ物質、及び正イオン化しやすい特性を持つ物質の両方を測定することができる。また、制御部14は、放電電流が異常値になった場合、針電極11aの電流値を制御し放電電流が正常範囲となるように修正することができる。
【0065】
以上のとおり、第2の実施形態に係る危険物探知装置1(分析部7)では、イオン化部は、イオンを生成するイオン化室に配置されて放電を発生させる針電極と、対向電極と、を備える。そして、制御部は、針電極に流れる電流の最大値が予め設定した正常範囲から外れた場合に、イオン化が不安定な状態になったと判断して異常を出力し、放電電圧の調整を行うように構成されている。
【0066】
<第3の実施形態>
第3の実施形態として、分析部7のスペクトル監視機能の詳細について図7を参照して説明する。
【0067】
図7は、本発明の第3の実施形態に係る制御部14がスペクトル監視機能を実行時の処理の手順例を示すフローチャートである。CPU21がROM22に記録されたプログラムを実行することにより本フローチャートの処理が行われる。
【0068】
まず、危険物探知装置1が分析可能状態であるときに、制御部14がスペクトル監視指令を出し、スペクトル監視機能の実行を開始する(S41)。次いで、制御部14は、カードCを受け入れていない状態でイオン化部10によりコロナ放電を実施し、検出部13で計測された質量スペクトルから監視対象範囲内の質量(具体的には質量電荷比(m/z値))のイオン強度を足し合わせる。針電極11aに印加する電圧の値は予め決定しておく。そして、制御部14は、監視対象範囲内の質量のイオン強度を足し合わせた値(カウント値)の時間平均値(以下、「カウント値平均値」と称する)を計算し、引数に入れる(S42)。すなわち、制御部14は、カウント値平均値を次のステップS43で使用する判定式「C_AVG≦閾値?」の“C_AVG”に代入する。
【0069】
次いで、制御部14は、カウント値平均値C_AVGが、予め設定した閾値以下であるかどうかを判定する(S43)。ここで、カウント値平均値C_AVGが閾値以下である場合は(S43のYES)、制御部14は、カウント値平均値C_AVGが閾値以下であると判断された回数(閾値以下回数)と、カウント値平均値C_AVGが閾値以下であると連続して判断された回数(連続閾値以下回数)とをそれぞれインクリメントする(S44)。すなわち、閾値以下回数と、連続閾値以下回数のそれぞれの値を1だけ増やす。カウント値平均値が閾値以下である場合、生成されたイオンの量が少ないと推測される。
【0070】
一方、カウント値平均値C_AVGが閾値よりも大きい場合には(S43のNO)、制御部14は、連続閾値以下回数をリセットする(S45)。
【0071】
ステップS44又はS45の処理後、制御部14は、カウント値平均値C_AVGが閾値以下となった回数(閾値以下回数)が設定した回数以上であるかどうかを判定する(S46)。閾値以下回数が設定回数以上となった場合は(S46のYES)、制御部14は、イオン化部10におけるイオン化が不安定であると判断し(S47)、ステップS50の処理に進む。
【0072】
一方、閾値以下回数が設定回数未満である場合は(S46のNO)、制御部14は、連続閾値以下回数が設定した連続回数以上であるかどうかを判定する(S48)。ここで、制御部14は、連続閾値以下回数が設定連続回数以上となった場合も(S48のYES)、イオン化部10におけるイオン化が不安定であると判断する(S49)。制御部14は、連続閾値以下回数が設定連続回数未満である場合は(S48のNO)、ステップS51の判定処理に進む。
【0073】
そして、制御部14は、ステップS47又はS49の処理後、イオン化不安定と判断した回数を表す不安定監視回数をインクリメントする(S50)。すなわち、不安定監視回数の値を1だけ増やす。
【0074】
次いで、制御部14は、不安定監視回数が設定した回数以上かどうかを判定し(S51)、不安定監視回数が設定回数未満である場合には(S51のNO)、スペクトル監視終了(S53)に遷移する。
【0075】
一方、不安定監視回数が設定回数以上になった場合(S51のYES)、制御部14は、針電極11aが異常であること(警告)を出力部8に通知する。また、制御部14は、電圧調整モードへ移行し電圧調整機能(図4参照)を実行する(S52)。電圧調整モードではなく待機モードでもよい。そして、制御部14は、ステップS52の処理後、スペクトル監視終了(S53)に遷移する。
【0076】
異常判定に用いる回数閾値(設定回数、設定連続回数)が低いほど、高電圧部12において精度の高い放電電圧を出力することができ、針電極11aの劣化抑制につながる。しかし、異常判定に用いる回数閾値を低くすればするほど、危険物探知装置1が容易に電圧調整モード(又は待機モード)に遷移してしまうため、可用性は下がる。そのため、異常判定に用いる回数閾値は、運用状況を見て適宜設定する必要がある。
【0077】
このようなスペクトル監視機能により、第2の実施形態における針電流監視機能と同様の効果が得られる。さらに、スペクトル監視機能では、電極の電流を測定する測定部17を不要とし、分析部7の構成を簡略にすることができる。また、対向電極11bを監視対象とした場合にも、針電極11aの場合と同様の作用効果が得られる。
【0078】
ここで、スペクトル監視結果に基づいて針電極電圧(放電電圧)を調整し、イオン強度(放電)を制御した例について、図8を参照して説明する。
【0079】
図8は、本発明の第3の実施形態に係るスペクトル監視結果に基づいて針電極電圧(放電電圧)を調整し、対象イオンのイオン強度を制御したことを示すグラフである。本実施形態では、異なるm/z値を持つ2つのイオンについて針電極電圧を調整した例を、図8A及び図8Bに示している。図8Aはm/z値が“91”のイオンについてのグラフ、図8Bはm/z値が“288”のイオンについてのグラフである。
【0080】
図8A及び図8Bにおいて、横軸は時間[sec]を示し、左側の縦軸は正規化したイオン強度[a.u.]、右側の縦軸は針電極11aへの印加電圧(針電極電圧)[V]を表す。グラフ中の薄い実線(領域)はイオン強度、濃い実線はイオン強度の平均値、及び破線は針電極電圧を示す。なお、図8Aには、針電極電圧として正極性の電圧が印加された例、図8Bには、針電極電圧として負極性の電圧が印加された例が示されている。
【0081】
図8A及び図8Bに示すように、イオン強度(の平均値)の変化に合わせて、電圧調整機能によって針電極11aに印加する電圧(針電極電圧)を調整することで、イオン強度(の平均値)が制御されていることがわかる。
【0082】
例えば、図8Aでは、時刻0~1250secにかけて3700Vの針電極電圧をかけていたが、時刻700sec過ぎからイオン強度の平均値が41000から28000に低下している。そこで、1250secの時点で針電極電圧を4100Vに上げることで、イオン強度の平均値が同レベルまで上昇している。
【0083】
また、図8Bでは、時刻0secから時刻3000secに達する間に3回、段階的に針電極電圧が引き上げられている。針電極電圧は、最初は-3400Vから始まって時刻400secで-3700に変更され、次に時刻1250secで-3800V、次に時刻2000secで-3900に変更されている。これにより、時刻0~3000secの間において、イオン強度の平均値をほぼ一定に維持する制御が可能となっている。
【0084】
以上のとおり、第3の実施形態に係る危険物探知装置1(分析部7)では、制御部は、質量スペクトルによって放電状態を監視する際に、監視対象範囲内の質量のイオン強度を足し合わせたカウント値が閾値以下と判断されたことに基づいて、イオン化が不安定な状態になったことを判断し、イオン化が不安定な状態になった回数が閾値以上である場合に、異常を出力し、放電電圧の調整を行うように構成されている。
【0085】
また、本実施形態に係る危険物探知装置1(分析部7)では、制御部は、監視対象範囲内の質量のイオン強度を足し合わせた上記カウント値が閾値以下と判断された回数である閾値以下回数が設定回数以上である場合、又は、当該カウント値が閾値以下であると連続して判断された回数である連続閾値以下回数が設定連続回数以上である場合に、イオン化が不安定な状態になったと判断するように構成されている。
【0086】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態として、針電流監視機能又はスペクトル監視機能を用いて算出できる、交換時期及び予想コストを表示する交換情報画面について、図9を参照して説明する。
【0087】
図9は、本発明の第4の実施形態に係る針電流監視機能又はスペクトル監視機能を用いて算出できる、交換時期及び予想コストを表示する交換情報画面の例を示す図である。図9に示す交換情報画面90は、次回交換推奨日91を表示する領域、交換平均間隔92を表示する領域、次年度予想コスト93を表示する領域を有する。また、交換情報画面90は、針電極選択ボタン94、及び対向電極選択ボタン95が表示されている。
【0088】
次回交換推奨日91は、針電流監視機能又はスペクトル監視機能を用いて、過去の各電極(針電極11a、対向電極11b)の交換履歴と電圧調整機能の実行頻度とから算出される、推奨する次回の交換時期(例えば、年:月:日)である。上記のとおり、監視対象を対向電極11bとすることで、針電流監視機能を対向電極11bの劣化監視にも利用できる。
【0089】
交換平均間隔92は、各電極の過去の交換履歴から算出される、交換間隔の平均値(例えば、Yか月ごとにY回交換するなど)である。
次年度予想コスト93は、各電極の今年度(及び過年度)の交換履歴に基づく次年度の電極交換計画と、実際の交換費用とから予想される、次年度の交換メンテナンスにかかるコストである。
【0090】
針電極選択ボタン94は、針電極11aについて交換履歴や今後の交換時期、予想コスト等の情報を表示させるためのボタン(アイコン)である。ユーザが入力装置25により針電極選択ボタン94を押下することで、交換情報画面90に針電極11aの交換情報が表示される。
対向電極選択ボタン95は、対向電極11bについて交換履歴や今後の交換時期、予想コスト等の情報を表示させるためのボタン(アイコン)である。ユーザが入力装置25により対向電極選択ボタン95を押下することで、交換情報画面90に対向電極11bの交換情報が表示される。
【0091】
ユーザは、この交換情報画面90を参考にして、針電極11a(及び対向電極11b)の適切な交換時期を知り、予防保全に努めることができる。事前に交換時期を知ることで、新しい電極の準備、保守員の手配、及び交換作業を円滑に行うことができるため、危険物探知装置1の可用性が向上する。
【0092】
以上のとおり、第4の実施形態に係る危険物探知装置1(分析部7)は、電極(針電極11a、対向電極11b)を選択するためのボタンを表示した領域と、選択されたボタンに対応する電極の交換状況(交換平均間隔92)及び次回交換時期(次回交換推奨日91)を表示した領域と、を有する選択画面インターフェース(交換情報画面90)を備える。
【0093】
<変形例>
さらに、本発明は上述した第1~第4の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。例えば、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために危険物探知装置(分析部)の構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成要素に置き換えることが可能である。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成要素を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成要素の追加又は置換、削除をすることも可能である。
【0094】
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。ハードウェアとして、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの広義のプロセッサデバイスを用いてもよい。
【0095】
また、図4図5及び図7に示した時系列的な処理を記述するフローチャートにおいて、処理結果に影響を及ぼさない範囲で、複数の処理を並列的に実行したり、処理順序を変更したりしてもよい。
【0096】
また、図1に示した危険物探知装置1では、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成要素が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1…危険物探知装置、2…カード挿入部、 3…認証部、 4…掃気部、 5…吸引口、 6…捕集部、 7…分析部、 8…出力部、 10…イオン化部、 11…イオン化室、 11a…針電極、 11b…対向電極、 12…高電圧部、 13…検出部(質量分析部)、 14…制御部、 15…判定部、 16…質量DB、 17…測定部、 20…計算機、 90…交換情報画面、 91…次回交換推奨日、 92…交換平均間隔、 93…次年度予想コスト、 94…針電極選択ボタン、 95…対向電極選択ボタン、 C…カード(検査対象)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9