IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構の特許一覧

<>
  • 特開-共振周波数調整装置 図1
  • 特開-共振周波数調整装置 図2
  • 特開-共振周波数調整装置 図3
  • 特開-共振周波数調整装置 図4
  • 特開-共振周波数調整装置 図5
  • 特開-共振周波数調整装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088425
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】共振周波数調整装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 9/00 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
H05H9/00 D ZAA
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203122
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(74)【代理人】
【識別番号】100199842
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】山中 将
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA04
2G085BA05
2G085BD02
2G085BE02
2G085BE03
2G085BE05
2G085CA03
2G085CA13
2G085EA02
2G085EA07
(57)【要約】
【課題】 簡易な構造の共振周波数調整装置の提供
【解決手段】 荷電粒子を加速するための超伝導加速空洞の共振周波数を調整する共振周波数調整装置であって、低温流体、及び、超伝導加速空洞を収容し、超伝導加速空洞を低温流体に浸漬するための容器と、直動アクチュエータと、を有し、容器は、その両端部において超伝導加速空洞と一体として構成され、長手方向に沿って伸縮する伸縮部と、伸縮部を跨いで、かつ、伸縮部とは異なる位置において、長手方向に沿って互いに対向するように、容器の基体から張り出して配置された少なくとも一対のフランジと、を有し、直動アクチュエータは、フランジの一方に、基体と接触しないように固定され、直動アクチュエータの作動軸の進退動作により、対向する他方のフランジを長手方向に沿って変位させる、共振周波数調整装置。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速するための超伝導加速空洞の共振周波数を調整する共振周波数調整装置であって、
低温流体、及び、前記超伝導加速空洞を収容し、前記超伝導加速空洞を前記低温流体に浸漬するための容器と、
直動アクチュエータと、を有し、
前記容器は、その両端部において前記超伝導加速空洞と一体として構成され、
長手方向に沿って伸縮する伸縮部と、
前記伸縮部を跨いで、かつ、前記伸縮部とは異なる位置において、前記長手方向に沿って互いに対向するように、前記容器の基体から張り出して配置された少なくとも一対のフランジと、を有し、
前記直動アクチュエータは、前記フランジの一方に、前記基体と接触しないように固定され、
前記直動アクチュエータの作動軸の進退動作により、対向する他方の前記フランジを前記長手方向に沿って変位させる、共振周波数調整装置。
【請求項2】
前記直動アクチュエータが、断熱材を介して前記フランジに固定される、請求項1に記載の共振周波数調整装置。
【請求項3】
前記伸縮部がベローズを含む、請求項1又は2に記載の共振周波数調整装置。
【請求項4】
前記伸縮部の伸縮動作をガイドするガイド軸を有し、
前記ガイド軸は、長軸が前記長手方向と略同一となるように、一対の前記フランジによって支持される、請求項1~3のいずれか1項に記載の共振周波数調整装置。
【請求項5】
前記ガイド軸は、一対の前記フランジによって、前記長手方向に沿って摺動可能に支持される、請求項4に記載の共振周波数調整装置。
【請求項6】
前記ガイド軸と、前記直動アクチュエータとが、前記容器の中心軸に対して略回転対称な位置にそれぞれ配置される、請求項4に記載の共振周波数調整装置。
【請求項7】
複数の前記直動アクチュエータを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の共振周波数調整装置。
【請求項8】
複数の前記直動アクチュエータが、前記中心軸に対して回転対称な位置にそれぞれ配置される、請求項6に記載の共振周波数調整装置。
【請求項9】
前記直動アクチュエータが、波動歯車装置を含む回転運動部と、前記回転運動部から伝達される回転運動を直動運動に変換して出力する直動部とを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の共振周波数調整装置。
【請求項10】
前記直動部は、ナットと、送りねじとを含み、
前記波動歯車装置は、環状の剛性内歯歯車と、この内側に配置された環状の可撓性外歯歯車と、この内側にはめ込まれた波動発生器とを含み、
前記ナットは、前記剛性内歯歯車、又は、前記可撓性外歯歯車に固定され、前記ナットの回転を前記送りねじの直動運動に変換する、請求項9に記載の共振周波数調整装置。
【請求項11】
前記ナットが、前記可撓性外歯歯車に固定される、請求項10に記載の共振周波数調整装置。
【請求項12】
前記共振周波数調整装置が収容される真空容器と前記直動アクチュエータとの間を熱的に接触させるための、熱伝導部材を更に有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の共振周波数調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子を加速するための超伝導加速空洞の共振周波数を調整する共振周波数調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波共振を利用して荷電粒子を加速する加速空洞では、使用する高周波電力の周波数と、空洞の形状によって決定される空洞共振周波数とを一致させるように設計され、使用される。
しかし、製造上の誤差、温度変化による空洞の形状変化、及び、加速器の運転条件等によって、高周波電力周波数と空洞共振周波数との間にずれが発生する場合がある。
【0003】
特に、低温流体(一般に液体ヘリウム)によって、空洞材料の超伝導臨界温度以下に保持した状態で用いられる超伝導加速空洞においては、運転中に、冷却による収縮等に起因して「ずれ」が発生する場合があり、これを補正する必要がある。
【0004】
図1は、一般的な超伝導加速空洞の模式図である。超伝導加速空洞10は、中空の円筒状であり、その中途に、椀型部材の開口同士をつなぎ合わせた形状の空洞(セル)11が9個、直列に繋ぎ合わされている。超伝導状態で使用するために、材質はニオブであることが多い。
両端にはそれぞれ、荷電粒子の導入/導出のためのポート12、及び、ポート13が配置され、両端側には、カプラ14、15が配置されている。
【0005】
このような超伝導加速空洞10を、例えば、共振周波数1.3GHz、~4K(ケルビン)の運転条件で運転する場合、共振周波数の補正のために、運転中に、長手方向に数ミリメートル程度の調整(一般的に、伸長)が必要になる場合がある。この場合、一形態として、必要な応力は0.1~100kN程度であることがある。
【0006】
このような周波数のずれを調整するための装置として、超伝導加速空洞に共振周波数調整装置(「周波数チューナー」と呼ばれることもある)が取り付けられる。共振周波数調整装置は、超伝導加速空洞を弾性変形させ、共振周波数を調整する。
特許文献1、及び、特許文献2には、加速空洞の周波数調整に関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6445267号明細書
【特許文献2】米国特許第6657515号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
超伝導加速空洞の周波数調整は、加速器の運転前に実施されるものと、運転中に実施されるものとがある。運転前に実施される周波数調整は、設計的なもので、例えば、空洞の内表面を研磨したり、空洞を塑性変形させたりして行われる。
【0009】
一方、運転中に実施される共振周波数調整は、その調整の範囲が運転前のものと比較して狭く、一般に、空洞に対して、変位が数マイクロメール程度の微動、又は、変位が数ミリメートル程度の粗動を与え、空洞を弾性変形させて行われることが多い。上述のとおり、この際、共振周波数調整装置(チューナー)が使用される。
【0010】
ところで、超伝導加速空洞は、構成材料(例えばニオブ)の超伝導臨界温度以下に保持される必要があるため、一般に低温流体(液体ヘリウム)を満たした容器(一般に、「ヘリウムタンク」と呼ばれる)内に収容される。更に、上記容器は、複数の断熱シールドで囲まれ、その全体が真空容器に収容され、「クライオモジュール」と呼ばれる一体型の大型設備として加速器に組み込まれる。
したがって、一旦、加速器の運転が開始されると、クライオモジュールから共振周波数調整装置を取り出したり、交換したりすることは難しく、共振周波数調整装置には、極低温、かつ、真空下という特殊な環境における、高い信頼性が求められる。
また、上述のとおり、超伝導加速空洞は、何重にも容器、断熱シールドで覆われており、組み立て作業にも困難を伴う。したがって、共振周波数調整装置は、取り付けが容易で、コンパクトであることが好ましい。
【0011】
この点において、特許文献1、及び、特許文献2に記載された共振周波数調整装置は、機構が複雑で信頼性が十分とは言えず、また、取り付けも容易ではなかった。そこで、本発明は、簡易な構造の共振周波数調整装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決することができることを見出した。
【0013】
[1] 荷電粒子を加速するための超伝導加速空洞の共振周波数を調整する共振周波数調整装置であって、低温流体、及び、上記超伝導加速空洞を収容し、上記超伝導加速空洞を上記低温流体に浸漬するための容器と、直動アクチュエータと、を有し、上記容器は、その両端部において上記超伝導加速空洞と一体として構成され、長手方向に沿って伸縮する伸縮部と、上記伸縮部を跨いで、かつ、上記伸縮部とは異なる位置において、上記長手方向に沿って互いに対向するように、上記容器の基体から張り出して配置された少なくとも一対のフランジと、を有し、上記直動アクチュエータは、上記フランジの一方に、上記基体と接触しないように固定され、上記直動アクチュエータの作動軸の進退動作により、対向する他方の上記フランジを上記長手方向に沿って変位させる、共振周波数調整装置。
[2] 上記直動アクチュエータが、断熱材を介して上記フランジに固定される、[1]に記載の共振周波数調整装置。
[3] 上記伸縮部がベローズを含む、[1]又は[2]に記載の共振周波数調整装置。
[4] 上記伸縮部の伸縮動作をガイドするガイド軸を有し、上記ガイド軸は、長軸が上記長手方向と略同一となるように、一対の上記フランジによって支持される、[1]~[3]のいずれかに記載の共振周波数調整装置。
[5] 上記ガイド軸は、一対の上記フランジによって、上記長手方向に沿って摺動可能に支持される、[4]に記載の共振周波数調整装置。
[6] 上記ガイド軸と、上記直動アクチュエータとが、上記容器の中心軸に対して略回転対称な位置にそれぞれ配置される、[4]に記載の共振周波数調整装置。
[7] 複数の上記直動アクチュエータを有する、[1]~[6]のいずれかに記載の共振周波数調整装置。
[8] 複数の上記直動アクチュエータが、上記中心軸に対して回転対称な位置にそれぞれ配置される、[6]に記載の共振周波数調整装置。
[9] 上記直動アクチュエータが、波動歯車装置を含む回転運動部と、上記回転運動部から伝達される回転運動を直動運動に変換して出力する直動部とを含む、[1]~[8]のいずれかに記載の共振周波数調整装置。
[10] 上記直動部は、ナットと、送りねじとを含み、上記波動歯車装置は、環状の剛性内歯歯車と、この内側に配置された環状の可撓性外歯歯車と、この内側にはめ込まれた波動発生器とを含み、上記ナットは、上記剛性内歯歯車、又は、上記可撓性外歯歯車に固定され、上記ナットの回転を上記送りねじの直動運動に変換する、[8]に記載の共振周波数調整装置。
[11] 上記ナットが、上記可撓性外歯歯車に固定される、[10]に記載の共振周波数調整装置。
[12] 上記共振周波数調整装置が収容される真空容器と上記直動アクチュエータとの間を熱的に接触させるための、熱伝導部材を更に有する、[1]~[11]のいずれかに記載の共振周波数調整装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易な構造の共振周波数調整装置を提供できる。
【0015】
本発明の共振周波数調整装置は、構造が簡易であり、更に、所定の位置に設置された直動アクチュエータの作動軸の進退方向と、超伝導加速空洞の伸縮方向とが、ほぼ揃っているため、機械的に「噛む」等の故障が発生しにくく、交換・メインテナンスが困難な環境下でも長期間、安定して動作できる。
【0016】
また、直動アクチュエータが断熱材を介してフランジに固定されている場合、直動アクチュエータの発熱が低温流体の容器により伝わりにくく、(真空下で用いられるために、空気による熱伝導もほぼないため)超伝導加速空洞の運転温度に与える影響がより少ない。
【0017】
また、直動アクチュエータに加えてガイド軸を含むガイド機構を有する場合、よりスムーズに容器を伸縮させることができるため、結果として、よりスムーズに超伝導加速空洞を伸縮させ、共振周波数の調整ができる。
【0018】
また、ガイド軸と直動アクチュエータとが回転対称な位置に配置されているとよりバランスに優れ、共振周波数調整装置が直動アクチュエータを1つだけ有している場合でもよりスムーズに共振周波数の調整ができる。
【0019】
また、共振周波数調整装置が複数の直動アクチュエータを有する場合、より大きな力でより安定的に共振周波数の調整ができる。また、これらが回転対称な位置に配置される場合、より安定的に共振周波数の調整ができる。
【0020】
直動アクチュエータが波動歯車装置を含む場合、減速比を大きくしやすく、より小型であっても十分な力を得ることができるため、直動アクチュエータをより小型化できる。このため、より狭いスペースにも設置することができるため、医療機関等に設置される小型加速器にも適用できる。
【0021】
波動歯車装置の出力部から得られる回転運動をナットによって直動運動に変換することで、より簡易な構造で直動アクチュエータが実現できる。
【0022】
真空容器と直動アクチュエータとを熱的に接触させるための熱伝導部材(例えば、リボン上の金属板等)を有する場合、真空下で使用されるために放熱が困難になりやすい直動アクチュエータをより冷却しやすくなる。また、直動アクチュエータの発熱を低温流体の容器により伝えにくくできるため、加速器をより安定的に運転できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一般的な超伝導加速空洞の模式図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る共振周波数調整装置の説明図である。
図3】直動アクチュエータ23の一実施形態の説明図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る共振周波数調整装置の説明図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る共振周波数調整装置の説明図である。
図6】本発明の第3実施形態に係る共振周波数調整装置の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0025】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化した一例であって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、及び、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なる場合があり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なることがある。
【0026】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る共振周波数調整装置について、図面を参照しながら説明する。図2は、本発明の第1実施形態に係る共振周波数調整装置の説明図である。図2中(A)は、上記共振周波数調整装置の模式図であり、(B)は、上記共振周波数調整装置の容器内に収容された超伝導加速空洞を示す模式図であり、(C)は、共振周波数調整装置の断面模式図である。
【0027】
共振周波数調整装置20は、低温流体、及び、超伝導加速空洞10を収容し、超伝導加速空洞10を低温流体に浸漬するための円筒状の容器21と、直動アクチュエータ23とを有する。
なお、図2中、容器21は円筒状であるが、上記に制限されず、他の形状であってもよい。容器21は、例えば、(多)角筒状等であってもよい。
【0028】
図2において、超伝導加速空洞10は、3つのセル11が直列に連結したものである。しかし、本実施形態に係る共振周波数調整装置を適用できる超伝導加速空洞は、上記に制限されず、図1に示されるような、セル11を9個有しているものであってもよい。超伝導加速空洞10が有するセル11の数は特に制限されず、一形態として、1個~20個が好ましい。なお、図2においては、カプラ14、15、及び、これに接続される導波管等の図示は省略されている。
【0029】
超伝導加速空洞10と、容器21との間の空間CVには低温流体が満たされる。低温流体の種類としては特に制限されず、超伝導加速空洞10の材質に応じた超伝導臨界温度以下を考慮して適宜選択される。一形態として、ニオブ製の超伝導加速空洞10を用いる場合、低温流体は液体ヘリウムであることが好ましい。
なお、本明細書において、低温とは、-150℃以下と意味し、-183℃以下が好ましい。また、本明細書において極低温とは、「低温」よりも更に低い温度領域を意味し、一形態として、0.01~4Kが好ましい。上記低温流体は、極低温流体であることが好ましい。
【0030】
超伝導加速空洞10は、その両端(符号「TE」「BE」)において、容器21と一体として構成されている。一般に、容器21は、超伝導加速空洞10の材質と熱膨張率が近いことが好ましく、材質としては、チタニウム(Ti)又はその合金が用いられることが多い。一形態として、超伝導加速空洞10と容器21とは、端部TE、及び、BEにおいて溶接され、一体化されている。
【0031】
超伝導加速空洞10と容器21とがその両端で一体とされているため、これらは連動して変形する。すなわち、温度、及び/又は、測定条件の影響により超伝導加速空洞10が変形(伸縮)する場合、容器21も連動して伸縮し、逆に、容器21が伸縮する場合、超伝導加速空洞10も伸縮する。
【0032】
容器21は、円筒状の基体28を有しており、その胴部に、周方向にわたって基体28と一体とされたベローズ22が配置されており、容器21の長手方向に変形可能になっている。
ベローズ22が伸縮すると、容器21は長手方向に伸縮し、結果として、超伝導加速空洞10をこれに追従して伸縮させることができる。
なお、本実施形態において、容器21は、単式のベローズ22を有しているが、容器21が有する伸縮部は上記に制限されず、複数のベローズからなる複式のベローズであってもよいし、その他の公知の伸縮機構を用いることもできる。
【0033】
更に、容器21は、上記ベローズ22を跨いで、かつ、ベローズ22とは異なる位置において、容器21の長手方向に沿って互いに対向するように、基体28から張り出して配置された一対のフランジ25を有する。
【0034】
なお、図2において、一対のフランジ25を構成するフランジ25a、及び、フランジ25bは、いずれも円盤状で同一の形状である。しかし、本実施形態に係る共振周波数調整装置において、容器21が有する一対のフランジ25は、ベローズ22を跨いで、かつ、ベローズ22とは異なる位置において、容器21の長手方向に沿って互いに対向するように、容器21の基体28から張り出して配置されていれば、形状は特に制限されない。
例えば、共振周波数調整装置20において、フランジ25a及び25bは、基体28の周方向の全体にわたって設けられているが、周方向の一部に突起状に設けられたものであってもよい。
【0035】
図2に戻り、フランジ25aには、直動アクチュエータ23が固定されている。一方、フランジ25aに対して、ベローズ22を跨いで反対側には、容器21の長手方向に沿って対向するように、フランジ25bが配置されている。直動アクチュエータ23の作動軸である、送りねじ24を前進させると、フランジ25bが容器21の軸方向に沿って押され、ベローズ22が伸長する。容器21と超伝導加速空洞10は、端部TE、及び、端部BEにおいて一体として構成されているため、ベローズ22(すなわち容器21)の伸長に追従して、伸長する。
【0036】
なお、このときの伸長(変位)量としては特に制限されず、共振周波数に応じて適宜調整されればよいが、上述のとおり、共振周波数が1.3GHz、9個のセルで構成される超伝導加速空洞の場合、一形態として、20mm以下が好ましい。下限は特に制限されないが、一形態として、0.01mm以上が好ましい。
この変位量は、超伝導加速空洞10の弾性変形可能な範囲であることが好ましい。変位量が弾性変形可能な範囲であると、送りねじ24を後退させるだけで、弾性力により超伝導加速空洞10を収縮させることができるため、共振周波数の調整がより容易になる。
【0037】
共振周波数調整装置20は、直動アクチュエータ23を駆動するだけで、容器21を伸縮させることができる。容器21は両端において超伝導加速空洞10と一体とされているため、上記によって、超伝導加速空洞10を伸縮させ、所望の共振周波数に調整することができる。
【0038】
共振周波数調整装置20は、直動アクチュエータ23の作動軸の移動方向と、超伝導加速空洞の伸縮方向とが、ほぼ揃っているため、機械的に「噛む」等の故障が発生しにくい。駆動軸と伸縮方向とがほぼ直交しているような従来技術と比較すると、より優れた信頼性を有する。これは、クライオモジュールの一部として加速器に組み込まれ、容易にメインテナンス等が行えないという特殊な環境下で稼働する共振周波数調整装置20にとって、より有利な特徴の一つである。
【0039】
また、メインテナンスが必要になった場合であっても、共振周波数調整装置20は、部品点数の少ない簡易な構造であり、多くの場合、直動アクチュエータ23を交換するだけで十分な場合が多い。特に、共用施設である大型加速器、及び、医療施設等に設置される加速器に共振周波数調整装置を組み込む場合、メインテナンスに要する時間(ダウンタイム)を短くすることも求められる。共振周波数調整装置20は、ダウンタイムをより短縮化することができる。
【0040】
また、共振周波数調整装置20において、直動アクチュエータ23は、フランジ25aに固定されているが、反対側のフランジ25bに固定されていてもよい。本発明の共振周波数調整装置においては、直動アクチュエータ23を一対のフランジのどちらに固定するかは任意であり、配置の自由度が高い。
共振周波数調整装置を医療機関等に設置される小型の加速器に組み込もうとする場合、クライオモジュール内における、共振周波数調整装置を配置すべきスペースが狭小となったり、形状に制限があったりする場合も多い。このような場合においても、本実施形態に係る共振周波数調整装置は、部品配置の自由度が高いため、より容易に組み込むことができる。
【0041】
次に、直動アクチュエータ23の構成について説明する。
図3は、直動アクチュエータ23の一実施形態の説明図である。直動アクチュエータ23は、モータ(図示せず)、及び、このモータの回転運動を所定の減速比で減速して出力する波動歯車装置30を含む回転運動部と、上記回転運動部からの回転運動を直動運動に変換して出力する直動部50とを含む。
【0042】
このうち、回転運動部を構成する波動歯車装置30は、環状の剛性内歯歯車31と、この内側に配置された環状の可撓性外歯歯車32と、この内側に嵌め込まれた波動発生器33とを有し、波動発生器33は可撓性外歯歯車32を半径方向に撓めて部分的に剛性内歯歯車31に噛み合わせると共に、噛み合わせ位置を円周方向に移動させることにより、剛性内歯歯車31と可撓性外歯歯車32との間に歯数差に応じた相対回転を発生させるようになっている。
【0043】
剛性内歯歯車31は、一点鎖線で示す締結ボルト41によってフランジ25aに固定されている。
この内側に配置されているカップ形状の可撓性外歯歯車32は、円筒状の胴部34と、この胴部34の一端を封鎖している環状のダイヤフラム35と、胴部34の他方の開口端の外周面に形成された外歯37とを備えた構成となっている。この可撓性外歯歯車32は、玉軸受36により回転可能に支持され、後述する直動部側の部材である出力軸等に連結される。
【0044】
波動発生器33は、モータ軸42に同軸状態に固定されている円筒状ハブ39と、この円筒状ハブ39の外周面に同軸状態で取り付けられた楕円形輪郭のプラグ38と、このプラグ38の外周面に装着された玉軸受44とを備えている。玉軸受44の内外輪は可撓性のものであり、その外輪はプラグ38によって楕円形に撓められている。
【0045】
波動発生器33は、カップ形状の可撓性外歯歯車32における外歯37が形成されている円筒状の胴部34の開口端側の部位に嵌め込まれている。円筒状の胴部34の外歯37が形成されている部位は波動発生器33によって楕円形に撓められており、その楕円形の長軸方向の両端に位置する外歯37の部分が円環状の剛性内歯歯車31の内歯40の部分に噛み合っている。
【0046】
波動歯車装置30において、剛性内歯歯車31の歯数は可撓性外歯歯車32の歯数より2n(nは正の整数)枚だけ多く、通常は2枚だけ多い。モータ(図示せず)を駆動してモータ軸42を回転すると、波動歯車装置30の回転入力部材である波動発生器33が回転する。波動発生器33が回転すると、剛性内歯歯車31、可撓性外歯歯車32の噛み合い位置が円周方向に移動し、両歯車間に相対回転が発生する。
本実施形態においては、剛性内歯歯車31が固定されているので、負荷側に連結されている減速回転出力部材である可撓性外歯歯車32が歯数差に応じた減速比で減速回転して負荷側の部材を回転駆動する。
【0047】
次に、直動部50は、作動軸である送りねじ24と、回転運動部から伝達される回転運動を直動運動に変換するためのナット46と、回り止め49と、スペーサ43とを含んで構成される。
【0048】
まず、スペーサ43は、可撓性外歯歯車32の胴部34のダイヤフラム35の前面側に固定されている。スペーサ43には、出力軸である送りねじ24と略同軸の孔が設けられており、進退動作する送りねじ24を収容できるよう構成されている。
なお、共振周波数調整装置は上記スペーサ43を有していなくてもよい。また、スペーサ43の幅(厚み)は、送りねじ24の長さ、すなわち、必要とする前後動作のストロークに応じて定めればよい。
【0049】
スペーサ43の前面には、ナット46が、一点鎖線で示す締結ボルト47によって固定されている。波動歯車装置30の回転運動がスペーサ43を介してナット46に伝達されると、ナット46の回転が送りねじ24の進退動作(直動)に変換される。
送りねじ24は、中心軸48に沿って前後に摺動する回り止め49により回転が抑制されているため、ナット46の回転により、中心軸48に沿って前後に移動(進退動作)する。
【0050】
なお、上記直動アクチュエータ23においては、ナット46が可撓性外歯歯車32側に締結ボルトにより固定されているが、ナット46は、剛性内歯歯車31側に固定されていてもよい。その場合、可撓性外歯歯車32は、フランジ25aに固定される。
【0051】
共振周波数調整装置20は、減速比を大きくしやすい波動歯車装置30を含む直動アクチュエータ23を有しているため、超伝導加速空洞10は、コンパクトな構造でもより大きな力を得ることができる。
【0052】
図2に戻り、フランジ25aには、直動アクチュエータ23が基体28と接触しないように固定されている。超伝導加速空洞10は、低温流体によって常に冷却されており、直動アクチュエータ23を基体28から張り出したフランジ25aに、基体28と非接触の状態で固定することで、直動アクチュエータ23から基体28への熱の移動を抑制することができる。
共振周波数調整装置20は、上述の通り真空容器内に収容されて使用されるために、直動アクチュエータ23と基体28とを接触しないようにすることで、熱の移動を効果的に抑制することができる。
【0053】
また、すでに説明したとおり、共振周波数調整装置20において、直動アクチュエータ23は、フランジ25aに固定されているが、直動アクチュエータ23の固定位置は上記に制限されず、フランジ25bに固定されていてもよい。この場合、送りねじ24によって、フランジ25aが押される形態となる。また、容器21におけるベローズ22についても、基体28の側面の任意の箇所に設けることができる。
【0054】
また、容器21は、伸縮部(1つ又は複数のベローズ22等からなる)を複数有していてもよい。容器21が伸縮部を複数有する場合、一対のフランジ25、及び、直動アクチュエータ23は、各伸縮部にそれぞれ配置されていてもよい。
【0055】
図2において、容器21は、直動アクチュエータ23と180度回転対称(2回対称、(360/2)度対称)の位置に、ガイド機構を有する。ガイド機構は、一対のフランジ25によって前後に摺動可能に支持されたガイド軸26を含んで構成される。
【0056】
具体的には、一対のフランジ25は、ベローズ22の伸縮動作をガイドするガイド軸26を受け入れ可能な貫通孔を有しており、ガイド軸26をその貫通孔で支持し、容器21の長手方向に摺動可能にしている。このガイド軸26の長軸は、容器21の長手方向と略同一となるように配置されている。
なお、共振周波数調整装置20において、ガイド軸26は一対のフランジ25のいずれにも固定されていないが、ガイド機構の形態としては、ガイド軸26が容器21の軸方向に沿って摺動できれば、上記に制限されず、ガイド軸26が一対のフランジ25のいずれか一方(フランジ25a又は25b)に固定されていてもよい。
【0057】
図2において、共振周波数調整装置20は、ガイド機構を1つ有しているが、本発明の共振周波数調整装置は、ガイド機構を2個以上有していてもよい。その場合、1つ又は複数の直動アクチュエータ、及び、複数のガイド機構のそれぞれが、略回転対称の位置に配置されていることが好ましい。例えば、直動アクチュエータと、ガイド機構との合計として4つ配置されている場合、これらの配置位置は、4回対称(360/4度対称)であることが好ましい。
【0058】
なお、図2において、共振周波数調整装置20は、円筒状の容器21を有しているが、すでに説明したとおり、共振周波数調整装置20が有する容器の形状は円筒状に制限されない。例えば、共振周波数調整装置20が角筒状の容器を有している場合、1つ又は複数の直動アクチュエータと、1つ又は複数のガイド機構との配置は、上記と同様、略回転対称であることが好ましい。この点では、容器21も長手方向の中心軸に対して略回転対称であることが好ましい。
【0059】
また、共振周波数調整装置20が複数の直動アクチュエータを有する場合、それぞれが独立して変位を調整してもよいし、同期して変位を調整してもよい。なかでも、より安定的に変位を調整できる観点では、同期して変位を調整することが好ましい。
【0060】
共振周波数調整装置20は、上記ガイド機構を有しているため、直動アクチュエータ23の駆動による容器21のゆがみが抑制され、スムーズに伸長することができる。
【0061】
共振周波数調整装置20は、簡易な構造であるため、故障も少なく、極低温、真空下という特殊な環境下でも安定した動作を実現できる。また、波動歯車装置を用いた直動アクチュエータを有するため、小型でもより大きな力を得ることができ、超伝導加速空洞10の「粗動」にも対応できる。また、小型、かつ、部品配置の自由度が高いため、小型の加速器用にもより導入しやすい。
【0062】
[第2実施形態]
図4は、本発明の第2実施形態に係る共振周波数調整装置の説明図である。共振周波数調整装置60は、第1実施形態に係る共振周波数調整装置20が有するガイド機構に代えて、2つ目の直動アクチュエータ61を有する。なお、直動アクチュエータ61(及び、送りねじ62)については、直動アクチュエータ23(及び、送りねじ24)と同様の形態が挙げられ、好適形態も同様であるため、説明を省略する。
【0063】
本実施形態に係る共振周波数調整装置60は容器21の中心軸に対して回転対称な位置に2つの直動アクチュエータ23、61を有するため、より安定的に、容器21(及び、超伝導加速空洞10)を伸縮させることができる。
【0064】
なお、共振周波数調整装置60は、直動アクチュエータを2つ有しているが、本発明の実施形態に係る共振周波数調整装置としては上記に制限されず、直動アクチュエータを3つ以上有していてもよい。なお、直動アクチュエータをn個有する場合、その配置は、容器21の中心軸に対して、(360/n)度対称の位置にそれぞれ配置されることが好ましい。
【0065】
また、共振周波数調整装置60においては、いずれもフランジ25aに直動アクチュエータ23、及び、63がそれぞれ配置されている。しかし、本発明の実施形態に係る共振周波数調整装置における、複数の直動アクチュエータの配置は上記に制限されず、容器21の中心軸に沿って互い違いに配置されていてもよい。すなわち、フランジ25aとフランジ25bとに直動アクチュエータ23と、直動アクチュエータ61とがそれぞれ配置されていてもよく、クライオモジュール組み立てに際してのレイアウト制限等に応じて適宜調整できる。
【0066】
なお、共振周波数調整装置60は、直動アクチュエータ23、及び、60を有しているが、3つ以上の直動アクチュエータを有していてもよい。これらの直動アクチュエータは、それぞれが独立して変位を調整してもよいし、同期して変位を調整してもよい。なかでも、より安定的に変位を調整できる観点では、同期して変位を調整することが好ましい。
【0067】
[第3実施形態]
図5は、本発明の第3実施形態に係る共振周波数調整装置の説明図である。共振周波数調整装置70は、第1実施形態に係る共振周波数調整装置20において、直動アクチュエータがフランジに直接固定されていたところ、それらの間に断熱材71が配置されている点が異なる。
【0068】
すでに説明したとおり、共振周波数調整装置70は、図示しない真空容器内に収容されて、全体としてクライオモジュールと呼ばれる一体の装置を構成する。したがって、稼働時には、共振周波数調整装置70の周囲は真空・極低温状態である。
【0069】
共振周波数調整装置70は、直動アクチュエータ23とフランジ25aとの間に断熱材71を配置して、それらの間の熱の移動を制限することで、直動アクチュエータ23から発生する熱による、超伝導加速空洞10の温度調整に与える影響をより小さくすることができる。
【0070】
断熱材71は、フランジと直動アクチュエータ23との間に配置されていればよく、例えば、直動アクチュエータ23のモータのハウジングと、フランジとの間に配置されていてもよい。
なお、断熱材71の材質としては、極低温環境において使用できるものであれば特に制限されず、ポリウレタンフォーム、ポリ塩化ビニルフォーム、及び、発泡ポリイミド等、並びに、ガラスエポキシ等の公知の材料が使用できる。
【0071】
図6は、本実施形態に係る共振周波数調整装置の変形例の説明図である。共振周波数調整装置80は、上記第3実施形態に係る共振周波数調整装置70と比較して、自身(共振周波数調整装置80)が収容される筒状の真空容器82と直動アクチュエータとの間を熱的に接触させるための、熱伝導部材81を更に有する点が異なる。
【0072】
共振周波数調整装置80は、筒状の真空容器82に収容され、低温流体の導入用の導入管83と、低温流体の排出管84(排気管)とを有している。また、共振周波数調整装置80は、熱伝導部材81を有する。熱伝導部材81は、リボン状の部材であり、真空容器82と直動アクチュエータ23とが熱的に接触するように配置されている。共振周波数調整装置80は、熱伝導部材81を有するため、真空下においても十分に放熱が可能であり、より安定的に動作可能である。
【0073】
熱伝導部材81の材質としては特に制限されないが、一形態として金属が好ましい。金属としては、例えば、銅、及び、アルミニウム等が挙げられる。極低温領域における熱伝導率がより高くなりやすい観点では、高純度の金属を用いることが好ましく、一形態として、残留抵抗比(RRR)が100以上であることが好ましい。
【符号の説明】
【0074】
10 :超伝導加速空洞、11:セル、12、13:ポート、14、15:カプラ、20:共振周波数調整装置、21:容器、22:ベローズ、23:直動アクチュエータ、24:送りねじ、25:一対のフランジ、25a、25b:フランジ、26:ガイド軸、28:基体、30:波動歯車装置、31:剛性内歯歯車、32:可撓性外歯歯車、33:波動発生器、34:胴部、35:ダイヤフラム、36:玉軸受、37:外歯、38:プラグ、39:円筒状ハブ、40:内歯、41:締結ボルト、42:モータ軸、43:スペーサ、44:玉軸受、46:ナット、47:締結ボルト、48:中心軸、49:回り止め、50:直動部、60:共振周波数調整装置、61:直動アクチュエータ、62:送りねじ、70:共振周波数調整装置、71:断熱材、80:共振周波数調整装置、81:熱伝導部材、82:真空容器、83:導入管、84:排出管
図1
図2
図3
図4
図5
図6