(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088479
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】転倒評価システム、転倒評価方法及び作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20230620BHJP
E02F 9/24 20060101ALI20230620BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
E02F9/20 Q
E02F9/24 B
E02F9/26 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203231
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 智揮
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB01
2D003BA07
2D003BB05
2D003BB09
2D003BB10
2D003FA02
2D015GA03
2D015GB03
(57)【要約】
【課題】旋回動作と転倒方向との関係に鑑みて作業機械の転倒の可能性を評価する。
【解決手段】評価対象辺決定部は、作業機械の支持多角形の複数の辺のうち、作業機械の回転軸としたときに転倒可能性が高い評価対象辺を決定する。エネルギー算出部は、評価対象辺を回転軸とする場合における作業機械が転倒するために必要なエネルギー量を算出する。評価部は、算出されたエネルギー量に基づいて、作業機械の転倒の可能性を評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を有する作業機械の転倒評価システムであって、
プロセッサを備え、
前記プロセッサは、
前記作業機械の支持多角形の辺のうち、前記作業機械の回転軸としたときに転倒可能性が高い評価対象辺を決定する評価対象辺決定部と、
前記評価対象辺を回転軸とする場合における前記作業機械が転倒するために必要なエネルギー量を算出するエネルギー算出部と、
算出された前記エネルギー量に基づいて、前記作業機械の転倒の可能性を評価する評価部と
を備える転倒評価システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記作業機械の重心位置を算出する重心位置計算部をさらに備え、
前記評価対象辺決定部は、前記作業機械の重心位置に基づいて前記評価対象辺を決定し、
前記エネルギー算出部は、前記作業機械の重心位置に基づいて前記作業機械が転倒するために必要なエネルギー量を算出する
請求項1に記載の転倒評価システム。
【請求項3】
前記評価対象辺決定部は、前記作業機械の重心位置を水平面に投影した点である重心投影位置と前記支持多角形を前記水平面に投影した多角形である投影多角形の各辺との間の距離に基づいて前記評価対象辺を決定する、
請求項1又は2に記載の転倒評価システム。
【請求項4】
前記評価対象辺決定部は、前記作業機械の重心位置を通り前記作業機械の上下方向に伸びる直線と前記支持多角形の各辺との間の距離及び前記作業機械の傾斜に係る傾斜係数に基づいて前記評価対象辺を決定する、
請求項1又は2に記載の転倒評価システム。
【請求項5】
前記評価対象辺決定部は、前記作業機械の傾斜に係る傾斜係数に基づいて前記評価対象辺を決定する、
請求項1又は2に記載の転倒評価システム。
【請求項6】
前記評価部は、接地点に係る凸包によって表される前記支持多角形の前記辺から前記凸包の複数の頂点までの距離のうち最も長いものに基づいて、前記作業機械の転倒の可能性を評価する
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の転倒評価システム。
【請求項7】
前記支持多角形は長方形であって、
前記評価部は、前記辺それぞれの前記エネルギー量及び前記辺に直交する辺の長さに基づいて、前記作業機械の転倒の可能性を評価する
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の転倒評価システム。
【請求項8】
前記評価部は、接地点に係る凸包によって表される前記支持多角形の前記辺それぞれに対する前記エネルギー量を前記辺から前記凸包の複数の頂点までの距離のうち最も長いもので除算した正規化値と閾値とを比較することで、前記作業機械の転倒の可能性を評価する
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の転倒評価システム。
【請求項9】
表示装置を備え、
前記プロセッサは、出力部をさらに備え、
前記出力部は、前記評価部による前記転倒の可能性の評価結果に基づいて前記作業機械の転倒リスクを示す標示を生成し、前記表示装置へ出力する
請求項1から請求項8の何れか1項に記載の転倒評価システム。
【請求項10】
前記標示には、前記作業機械の外観を表すアイコンと、前記アイコンの周囲を囲うように設けられた複数のインジケータマークとが含まれ、
前記出力部は、前記複数のインジケータマークのうち、前記評価部によって前記作業機械の転倒の可能性が高いと判定された辺に対応する位置に設けられたものの態様を、他のインジケータマークの態様と異ならせる
請求項9に記載の転倒評価システム。
【請求項11】
前記プロセッサは、
前記転倒の可能性の評価結果が、転倒の可能性が高いことを示す場合に、前記作業機械の動作を制限させる制限部
を備える請求項1から請求項10の何れか1項に記載の転倒評価システム。
【請求項12】
作業機を有する作業機械の支持多角形の複数の辺のうち、前記作業機械の回転軸としたときに転倒可能性が高い評価対象辺を決定する評価対象辺決定ステップと、
前記評価対象辺を回転軸とする場合における前記作業機械が転倒するために必要なエネルギー量を算出するステップと、
算出された前記エネルギー量に基づいて、前記作業機械の転倒の可能性を評価するステップと
を備える転倒評価方法。
【請求項13】
作業機械であって、
走行体と、
前記走行体に回動可能に支持される旋回体と
前記旋回体に取付けられた作業機と、
プロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
前記作業機械の重心位置を算出する重心位置計算部と、
前記走行体の支持多角形の複数の辺のうち、前記作業機械の回転軸としたときに転倒可能性が高い評価対象辺を決定する評価対象辺決定部と、
前記作業機械の重心位置に基づいて前記評価対象辺を回転軸とする場合における前記作業機械が転倒するために必要なエネルギー量を算出するエネルギー算出部と、
算出された前記エネルギー量に基づいて、前記作業機械の転倒の可能性を評価する評価部と
を備える作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、転倒評価システム、転倒評価方法及び作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、作業機械のZMP(Zero Moment Point)を算出し、転倒の可能性に関する情報をオペレータに通知する技術が開示されている。ZMPとは、ピッチ軸及びロール軸方向のモーメントがゼロになる点である。作業機械と接地点を凹にならないように結んだ支持多角形の辺上あるいはその内側にZMPが存在する場合に、作業機械は安定して接地していることがわかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される演算方法は、作業機械自身の慣性力によって機体の浮き上がりが生じた場合に、転倒可能性が高いと判断する可能性がある。そのため、ZMPに代えて、エネルギー安定余裕を用いて転倒可能性を評価する手法が用いられることがある。エネルギー安定余裕とは、ある姿勢状態において転倒するまでに必要なエネルギーをいう。
【0005】
ところで、作業機械は、作業状態によって支持多角形が変化する場合がある。例えば、油圧ショベルにおいては、下部走行体に対して上部旋回体が旋回するため、旋回に伴って支持多角形に対する重心の位置が変化する。
【0006】
本開示の目的は、旋回動作と転倒方向との関係に鑑みて作業機械の転倒の可能性を評価することができる転倒評価システム、転倒評価方法及び掘削機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、転倒評価システムは、作業機を有する作業機械の転倒評価システムであって、プロセッサを備え、前記プロセッサは、前記作業機械の支持多角形の辺のうち、前記作業機械の回転軸としたときに転倒可能性が高い評価対象辺を決定する評価対象辺決定部と、前記評価対象辺を回転軸とする場合における前記作業機械が転倒するために必要なエネルギー量を算出するエネルギー算出部と、算出された前記エネルギー量に基づいて、前記作業機械の転倒の可能性を評価する評価部とを備える。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、転倒評価方法は、作業機を有する作業機械の支持多角形の複数の辺のうち、前記作業機械の回転軸としたときに転倒可能性が高い評価対象辺を決定する評価対象辺決定ステップと、前記評価対象辺を回転軸とする場合における前記作業機械が転倒するために必要なエネルギー量を算出するステップと、算出された前記エネルギー量に基づいて、前記作業機械の転倒の可能性を評価するステップとを備える。
【0009】
本発明の第3の態様によれば、作業機械は、走行体と、前記走行体に回動可能に支持される旋回体と、前記旋回体に取付けられた作業機と、プロセッサと、を備え、前記プロセッサは、前記作業機械の重心位置を算出する重心位置計算部と、前記走行体の支持多角形の複数の辺のうち、前記作業機械の回転軸としたときに転倒可能性が高い評価対象辺を決定する評価対象辺決定部と、前記作業機械の重心位置に基づいて前記評価対象辺を回転軸とする場合における前記作業機械が転倒するために必要なエネルギー量を算出するエネルギー算出部と、算出された前記エネルギー量に基づいて、前記作業機械の転倒の可能性を評価する評価部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
上記態様によれば、旋回動作と転倒方向との関係に鑑みて作業機械の転倒の可能性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る作業機械の構成を示す概略図である。
【
図2】第1の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係る支持長方形の例を示す概略図である。
【
図4】投影位置及び重心投影位置の例を示す図である。
【
図5】エネルギー安定余裕を説明するための図である。
【
図6】エネルギー安定余裕と、重心の位置との関係を示す図である。
【
図7】第1の実施形態に係る転倒リスクの標示の例を示す図である。
【
図8】第1の実施形態に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図9】第2の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〈第1の実施形態〉
《作業機械100の構成》
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係る作業機械の構成を示す概略図である。第1の実施形態に係る作業機械は、例えば油圧ショベルである。作業機械100は、走行体110、旋回体130、作業機150、運転室170、制御装置190を備える。
【0013】
走行体110は、作業機械100を走行可能に支持する。走行体110は、例えば左右1対の無限軌道である。1対の無限軌道は、進行方向に伸びる直線に対して平行に、かつ線対象に設けられる。したがって、第1の実施形態に係る走行体110の接地点に係る凸包によって表される支持多角形は長方形となる。凸包とは、特定の点をすべて包含する最小の凸多角形をいう。特定の点とは、例えば履帯と地面とが接する点である。以下、走行体110の接地点に係る凸包である長方形を支持長方形Rという。
【0014】
旋回体130は、走行体110に旋回中心回りに旋回可能に支持される。
作業機150は、旋回体130の前部に上下方向に駆動可能に支持される。作業機150は、油圧により駆動する。作業機150は、ブーム151、アーム152、およびバケット153を備える。ブーム151の基端部は、旋回体130に回動可能に取り付けられる。アーム152の基端部は、ブーム151の先端部に回動可能に取り付けられる。バケット153の基端部は、アーム152の先端部に回動可能に取り付けられる。ここで、旋回体130のうち作業機150が取り付けられる部分を前部という。また、旋回体130について、前部を基準に、反対側の部分を後部、左側の部分を左部、右側の部分を右部という。
【0015】
運転室170は、旋回体130の前部に設けられる。運転室170内には、オペレータが作業機械100を操作するための操作装置、および、オペレータに転倒リスクを報知するための警報装置が設けられる。第1の実施形態に係る警報装置は、スピーカ及び表示装置によって転倒リスクを報知する。
【0016】
制御装置190は、オペレータによる操作装置の操作に基づいて、走行体110、旋回体130、および作業機150を制御する。制御装置190は、例えば運転室170の内部に設けられる。
【0017】
作業機械100は、作業機械100の作業状態を検出するための複数のセンサを備える。具体的には、作業機械100は、傾斜検出器101、旋回角センサ102、ブーム角センサ103、アーム角センサ104、バケット角センサ105、ペイロードメータ106を備える。
【0018】
傾斜検出器101は、旋回体130の加速度および角速度を計測し、計測結果に基づいて旋回体130の水平面に対する傾き(例えば、ロール角およびピッチ角)を検出する。傾斜検出器101は、例えば運転室170の下方に設置される。傾斜検出器101の例としては、IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)が挙げられる。
【0019】
旋回角センサ102は、旋回体130の旋回中心に設けられ、走行体110と旋回体130の旋回角度を検出する。旋回角センサ102の計測値は、走行体110と旋回体130の方向が一致しているときにゼロを示す。
【0020】
ブーム角センサ103は、旋回体130に対するブーム151の回転角であるブーム角を検出する。ブーム角センサ103は、ブーム151に取り付けられたIMUであってよい。この場合、ブーム角センサ103は、ブーム151の水平面に対する傾きと傾斜検出器101が計測した旋回体の傾きとに基づいて、ブーム角を検出する。ブーム角センサ103の計測値は、ブーム151の基端と先端とを通る直線の方向が旋回体130の前後方向と一致するときにゼロを示す。なお、他の実施形態係るブーム角センサ103は、ブームシリンダに取り付けられたストロークセンサであってもよい。また他の実施形態に係るブーム角センサ103は、旋回体130とブーム151とを接続するピンに設けられた角度センサであってもよい。
【0021】
アーム角センサ104は、ブーム151に対するアーム152の回転角であるアーム角を検出する。アーム角センサ104は、アーム152に取り付けられたIMUであってよい。この場合、アーム角センサ104は、アーム152の水平面に対する傾きとブーム角センサ103が計測したブーム角とに基づいて、アーム角を検出する。アーム角センサ104の計測値は、アーム152の基端と先端とを通る直線の方向がブーム151の基端と先端とを通る直線の方向と一致するときにゼロを示す。なお、他の実施形態に係るアーム角センサ104は、アームシリンダにストロークセンサを取付けて角度算出を行ってもよい。アーム角センサ104は、ブーム151とアーム152とを接続するピンに設けられた回転センサであってもよい。
【0022】
バケット角センサ105は、アーム152に対するバケット153の回転角であるバケット角を検出する。バケット153を駆動させるためのバケットシリンダに設けられたストロークセンサであってよい。この場合、バケット角センサ105は、バケットシリンダのストローク量に基づいてバケット角を検出する。バケット角センサ105の計測値は、バケット153の基端と刃先とを通る直線の方向がアーム152の基端と先端とを通る直線の方向と一致するときにゼロを示す。なお、他の実施形態に係るバケット角センサ105は、アーム152とバケット153とを接続するピンに設けられた角度センサであってもよい。また、他の実施形態に係るバケット角センサ105は、バケット153に取付けられたIMUであってもよい。
【0023】
ペイロードメータ106は、バケット153に保持された積荷の重量を計測する。ペイロードメータ106は、例えばブーム151のシリンダのボトム圧を計測し、積荷の重量に換算する。また例えば、ペイロードメータ106は、ロードセルであってもよい。
【0024】
《制御装置190の構成》
図2は、第1の実施形態に係る制御装置190の構成を示す概略ブロック図である。
制御装置190は、プロセッサ210、メインメモリ230、ストレージ250、インタフェース270を備えるコンピュータである。
【0025】
ストレージ250は、一時的でない有形の記憶媒体である。ストレージ250の例としては、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ250は、制御装置190のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース270または通信回線を介して制御装置190に接続される外部メディアであってもよい。ストレージ250は、作業機械100を制御するためのプログラムを記憶する。
【0026】
プログラムは、制御装置190に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージ250に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、制御装置190は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0027】
ストレージ250には、走行体110、旋回体130、ブーム151、アーム152及びバケット153の寸法及び重心位置を表すジオメトリデータ、並びに走行体110、旋回体130、ブーム151、アーム152及びバケット153の重量が記録される。ジオメトリデータは、所定の座標系における物体の位置を表すデータである。第1の実施形態に係る座標系は、ワールド座標系とローカル座標系とが存在する。ワールド座標系は、鉛直方向に伸びるZw軸と、Zw軸に直交するXw軸及びYw軸で表される直交座標系である。ローカル座標系は、ある物体の基準点を原点とする直交座標系である。
【0028】
走行体110のジオメトリデータは、ローカル座標系である走行体座標系における走行体110の重心位置(xtb_com、ytb_com、ztb_com)、並びに無限軌道の長さL、幅w及び高さhを示す。走行体座標系は、走行体110の旋回中心を基準として前後方向に伸びるXtb軸、左右方向に伸びるYtb軸、上下方向に伸びるZtb軸から構成される座標系である。
【0029】
図3は、第1の実施形態に係る支持長方形Rの例を示す概略図である。走行体座標系における支持長方形Rの4辺である第1辺E
R1、第2辺E
R2、第3辺E
R3、及び第4辺E
R4の座標は順番に以下の式で表される。
【数1】
【0030】
式(1)において、α及びβは各辺の長さ方向の位置を示す変数である。
【0031】
旋回体130のジオメトリデータは、ローカル座標系である旋回体座標系における旋回体130のブーム151を支持するピンの位置(xbm、ybm、zbm)、走行体座標系の原点の位置(xtb、ytb、ztb)及び旋回体130の重心位置(xsb_com、ysb_com、zsb_com)を示す。旋回体座標系は、旋回体130の旋回中心を基準として前後方向に伸びるXsb軸、左右方向に伸びるYsb軸、上下方向に伸びるZsb軸から構成される座標系である。
【0032】
ブーム151のジオメトリデータは、ローカル座標系であるブーム座標系におけるアーム152を支持するピンの位置(xam、yam、zam)及びブーム151の重心位置(xbm_com、ybm_com、zbm_com)を示す。ブーム座標系は、ブーム151と旋回体130とを接続するピンの位置を基準として、長手方向に伸びるXbm軸、ピンが伸びる方向に伸びるYbm軸、Xbm軸とYbm軸に直交するZbm軸から構成される座標系である。
【0033】
アーム152のジオメトリデータは、ローカル座標系であるアーム座標系におけるバケット153を支持するピンの位置(xbk、ybk、zbk)及びアーム152の重心位置(xam_com、yam_com、zam_com)を示す。アーム座標系は、アーム152とブーム151とを接続するピンの位置を基準として、長手方向に伸びるXam軸、ピンが伸びる方向に伸びるYam軸、Xam軸とYam軸に直交するZam軸から構成される座標系である。
【0034】
バケット153のジオメトリデータは、ローカル座標系であるバケット座標系におけるバケット153の刃先位置(xed、yed、zed)、バケット153の重心位置(xbk_com、ybk_com、zbk_com)、及び積荷の重心位置(xpl_com、ypl_com、zpl_com)を示す。バケット座標系は、バケット153とアーム152とを接続するピンの位置を基準として、刃先の方向に伸びるXbk軸、ピンが伸びる方向に伸びるYbk軸、Xbk軸とYbk軸に直交するZbk軸から構成される座標系である。
【0035】
《ソフトウェア構成》
プロセッサ210は、プログラムを実行することで、取得部211、位置特定部212、重心計算部213、評価対象辺決定部214、エネルギー計算部215、正規化部216、評価部217、出力部218として機能する。
【0036】
取得部211は、傾斜検出器101、旋回角センサ102、ブーム角センサ103、アーム角センサ104、バケット角センサ105及びペイロードメータ106から、それぞれ計測値を取得する。
【0037】
位置特定部212は、取得部211が取得した各種計測値とストレージ250に記録されたジオメトリデータとに基づいて、作業機械100のパーツ別の重心位置を特定する。具体的には、位置特定部212は、以下の手順で、走行体110、旋回体130、ブーム151、アーム152、バケット153及び積荷のワールド座標系における重心位置を特定する。
【0038】
位置特定部212は、取得部211が取得したピッチ角θp及びロール角θrの計測値に基づいて、下記式(2)により、旋回体座標系からワールド座標系へ変換するための旋回体-ワールド変換行列Tsb
wを生成する。旋回体-ワールド変換行列Tsb
wは、Ysb軸回りにピッチ角θpだけ回転させる回転行列と、Xsb軸回りにロール角θrだけ回転させる回転行列との積によって表される。
【0039】
【0040】
位置特定部212は、取得部211が取得した走行体110と旋回体130の旋回角度θsの計測値と、旋回体130のジオメトリデータとに基づいて、下記式(3)により、走行体座標系から旋回体座標系へ変換するための走行体-旋回体変換行列Ttb
sbを生成する。走行体-旋回体変換行列Ttb
sbは、Ztb軸回りにピッチ角θpだけ回転させ、かつ旋回体座標系の原点と走行体座標系の原点の偏差(xtb、ytb、ztb)だけ平行移動させる行列である。また、位置特定部212は、旋回体-ワールド変換行列Tsb
wと走行体-旋回体変換行列Ttb
sbの積を求めることで、走行体座標系からワールド座標系へ変換するための走行体-ワールド変換行列Ttb
wを生成する。
【0041】
【0042】
位置特定部212は、取得部211が取得したブーム角θbmの計測値と、旋回体130のジオメトリデータとに基づいて、下記式(4)により、ブーム座標系から旋回体座標系へ変換するためのブーム-旋回体変換行列Tbm
sbを生成する。ブーム-旋回体変換行列Tbm
sbは、Ybm軸回りにブーム角θbmだけ回転させ、かつ旋回体座標系の原点とブーム座標系の原点の偏差(xbm、ybm、zbm)だけ平行移動させる行列である。また、位置特定部212は、旋回体-ワールド変換行列Tsb
wとブーム-旋回体変換行列Tbm
sbの積を求めることで、ブーム座標系からワールド座標系へ変換するためのブーム-ワールド変換行列Tbm
wを生成する。
【0043】
【0044】
位置特定部212は、取得部211が取得したアーム角θamの計測値と、ブーム151のジオメトリデータとに基づいて、下記式(5)により、アーム座標系からブーム座標系へ変換するためのアーム-ブーム変換行列Tam
bmを生成する。アーム-ブーム変換行列Tam
bmは、Yam軸回りにアーム角θamだけ回転させ、かつブーム座標系の原点とアーム座標系の原点の偏差(xam、yam、zam)だけ平行移動させる行列である。また、位置特定部212は、ブーム-ワールド変換行列Tbm
wとアーム-ブーム変換行列Tam
bmの積を求めることで、アーム座標系からワールド座標系へ変換するためのアーム-ワールド変換行列Tam
wを生成する。
【0045】
【0046】
位置特定部212は、取得部211が取得したバケット角θbkの計測値と、アーム152のジオメトリデータとに基づいて、下記式(6)により、バケット座標系からアーム座標系へ変換するためのバケット-アーム変換行列Tbk
amを生成する。バケット-アーム変換行列Tbk
amは、Ybk軸回りにバケット角θbkだけ回転させ、かつアーム座標系の原点とバケット座標系の原点の偏差(xbk、ybk、zbk)だけ平行移動させる行列である。また、位置特定部212は、アーム-ワールド変換行列Tam
wとバケット-アーム変換行列Tbk
amの積を求めることで、バケット座標系からワールド座標系へ変換するためのバケット-ワールド変換行列Tbk
wを生成する。
【0047】
【0048】
位置特定部212は、走行体110のジオメトリデータが示す走行体110の重心の相対位置(xtb_com、ytb_com、ztb_com)を、走行体-ワールド変換行列Ttb
wを用いて絶対位置Ttb_com
wに変換する。位置特定部212は、旋回体130のジオメトリデータが示す旋回体130の重心の相対位置(xsb_com、ysb_com、zsb_com)を、旋回体-ワールド変換行列Tsb
wを用いて絶対位置Tsb_com
wに変換する。位置特定部212は、ブーム151のジオメトリデータが示すブーム151の重心の相対位置(xbm_com、ybm_com、zbm_com)を、ブーム-ワールド変換行列Tbm
wを用いて絶対位置Tbm_com
wに変換する。位置特定部212は、アーム152のジオメトリデータが示すアーム152の重心の相対位置(xam_com、yam_com、zam_com)を、アーム-ワールド変換行列Tam
wを用いて絶対位置Tam_com
wに変換する。位置特定部212は、バケット153のジオメトリデータが示すバケット153の重心の相対位置(xbk_com、ybk_com、zbk_com)を、バケット-ワールド変換行列Tbk
wを用いて絶対位置Tbk_com
wに変換する。位置特定部212は、バケット153のジオメトリデータが示す積荷の重心の相対位置(xpl_com、ypl_com、zpl_com)を、バケット-ワールド変換行列Tbk
wを用いて絶対位置Tpl_com
wに変換する。
【0049】
重心計算部213は、位置特定部212が特定したパーツ別の重心位置とパーツ別の重さに基づいて、作業機械100全体の重心位置を算出する。具体的には、重心計算部213は、既知の走行体110の重量mtb、旋回体130の重量msb、ブーム151の重量mbm、アーム152の重量mam及びバケット153の重量mbkと、ペイロードメータ106の計測値mplに基づいて、以下の式(7)によりアフィン行列Tcom
w´を求め、アフィン行列Tcom
w´から作業機械100全体の重心位置Tcom
wを算出する。
【0050】
【0051】
式(7)の計算により、重心計算部213は、以下の式(7)に示すような4×4のアフィン行列Tcom
w´を得る。
【0052】
【0053】
重心計算部213は、得られたアフィン行列Tcom
w´の並進成分を抽出することで、すなわちアフィン行列Tcom
w´の回転成分を単位行列に置き換えることで、式(9)に示すように作業機械100全体の重心位置Tcom
wを算出する。
【0054】
【0055】
評価対象辺決定部214は、走行体110の接地点を包含する支持長方形Rの各辺ER1―ER4のうち、回転軸としたときに転倒可能性の高い辺(評価対象辺)を決定する。評価対象辺決定部214は、走行体座標系における支持長方形Rの各辺ER1―ER4と重心位置Tcom
wを走行体座標系に投影した点との間の距離及び傾斜係数に基づいて評価対象辺を決定する。つまり、評価対象辺決定部214は、重心位置Tcom
wを通り走行体110の上下方向に伸びる直線と支持長方形Rの各辺ER1―ER4との距離、及び傾斜係数に基づいて評価対象辺を決定する。傾斜係数は、走行体110の水平面に対する傾きに係る値であって、例えば予め実験により設定される値である。例えば、回転軸としたときにより転倒可能性の高い辺の傾斜係数は小さい値が設定される。より具体的には、傾斜係数は、例えばワールド座標系において支持長方形Rの第3辺ER3のz座標より第1辺ER1のz座標が小さく、作業機械100がx軸の負方向に傾斜しているとき、第1辺ER1が第3辺ER3に対して坂下に位置し第1辺ER1を回転軸とする方が第3辺ER3を回転軸とするよりも転倒可能性が高いため、第1辺ER1の傾斜係数は第3辺ER3の傾斜係数よりも小さい値に設定される。
【0056】
評価対象辺決定部214は、支持長方形Rの各辺ER1―ER4に対して重心位置Tcom
wを走行体座標系に投影した点との間の距離と傾斜係数との積が最も小さい辺を評価対象辺と決定する。
【0057】
評価対象辺決定部214は、走行体-ワールド変換行列Ttb
wを用いて走行体座標系における支持長方形Rの各辺ER1―ER4の座標を絶対位置TRec
wに変換してもよい。また、評価対象辺決定部214は絶対位置TRec
wのz座標をゼロにして投影位置TRecPro
wに変換してもよい。投影位置TRecPro
wは、支持長方形Rを水平面に投影した投影四角形Pのワールド座標系における座標を示す。評価対象辺決定部214は、作業機械100全体の重心位置Tcom
wのzcomをゼロにして重心投影位置TcomPro
wに変換してもよい。重心投影位置TcomPro
wは、作業機械100全体の重心を水平面に投影した点である。
【0058】
図4は、投影位置T
RecPro
w及び重心投影位置T
comPro
wの例を示す図である。
図4に示すように、投影四角形Pは、必ずしも長方形ではなく、ピッチ角およびロール角に応じて平行四辺形となる。評価対象辺決定部214は、投影四角形Pの各辺E
R1―E
R4のうち、対応する投影位置T
RecPro
wの辺が重心投影位置T
comPro
wに最も近い辺を評価対象辺と決定してもよい。
【0059】
評価対象辺決定部214は、投影四角形Pの各辺ER1―ER4のうち、対応する投影位置TRecPro
wの辺と重心投影位置TcomPro
wとの間の距離と傾斜係数との積が最も小さい辺を評価対象辺と決定してもよい。評価対象辺決定部214は、傾斜係数を考慮することで、より実態に即して評価対象辺を決定することができる。
【0060】
評価対象辺決定部214は、傾斜係数のみに基づいて評価対象辺を決定してもよい。例えば、評価対象辺決定部214は、支持長方形Rの各辺ER1―ER4に対して傾斜係数が最も小さい辺を評価対象辺と決定してもよい。
【0061】
エネルギー計算部215は、重心計算部213が算出した重心位置に基づいて、評価対象辺決定部214により決定された評価対象辺を回転軸としたときの作業機械100が転倒するために必要なエネルギー量であるエネルギー安定余裕を算出する。エネルギー安定余裕は、式(10)によって表される量である。
図5は、エネルギー安定余裕を説明するための図である。
【0062】
【0063】
すなわち、エネルギー安定余裕は、作業機械100の重心の高さzcom
wと作業機械100の重心が回転軸の直上に位置するときの重心の高さzr_com
wとの差Qと、作業機械100の重量Mと、重力加速度gを乗算することで得られる。
【0064】
回転軸をXax軸、鉛直方向に伸びる軸をZax軸、Xax軸及びZax軸に直交する軸をYax軸とする回転軸座標系を考える場合に、回転軸座標系からワールド座標系へ変換するための回転軸-ワールド変換行列Tax1
w~Tax4
wは、走行体110の無限軌道の長さL、無限軌道の高さh及び無限軌道の幅wを用いて、式(11)のように表される。
【0065】
【0066】
エネルギー計算部215は、式(11)で得られる回転軸-ワールド変換行列Tax
wに基づいて、地表の回転軸ax回りの傾斜角θgnd
axを算出する。また、エネルギー計算部215は、回転軸-ワールド変換行列Tax
wの逆行列と、作業機械100全体の重心位置Tcom
wとの積により、回転軸座標系における作業機械100の重心の相対位置Tcom
axを算出する。エネルギー計算部215は、式(12)に示すように重心の相対位置Tcom
axのZax軸並進成分zcom
axとYax軸並進成分ycom
axとに基づいて、回転軸から見た重心の仰角θcom
axを算出する。
【0067】
【数12】
なお、式(11)におけるatan2(x,y)は、直交座標系における位置(x,y)の偏角を求める関数である。
【0068】
エネルギー計算部215は、式(13)に示すように、傾斜角θgnd
axと重心の仰角θcom
axとに基づいて、作業機械100全体の重心が回転軸の直上に位置するために必要な回転角θsup
axを算出する。
【0069】
【0070】
エネルギー計算部215は、式(14)に示すように、重心の相対位置Tcom
axと回転角θsup
axと回転軸-ワールド変換行列Tax
wとに基づいて、作業機械100を回転角θsup
axだけ回転させたときの作業機械100全体の重心の絶対位置Tr_com
wを算出する。
【0071】
【0072】
エネルギー計算部215は、回転後の重心の絶対位置Tr_com
wのZw軸並進成分zr_com
wと、回転前の重心の絶対位置Tcom
wのZw軸並進成分zcom
wの差Qを、エネルギー安定余裕として算出する。なお、ここで得られるエネルギー安定余裕は、エネルギーを長さの単位に正規化したものと等しい。なお、式(8)に示すように、回転後の重心の絶対位置Tr_com
wと、回転前の重心の絶対位置Tcom
wのZw軸並進成分の差Qに、作業機械100の重量と重力加速度を乗算すると、正規化されないエネルギー安定余裕が得られる。したがって、回転後の重心の絶対位置Tr_com
wと、回転前の重心の絶対位置Tcom
wのZw軸並進成分の差Qを算出することは、エネルギー安定余裕を算出することと等価である。
【0073】
正規化部216は、エネルギー計算部215が算出したエネルギー安定余裕を、回転軸に係る辺に直交する他の辺の長さで除算することで、正規化余裕(正規化値)を求める。正規化余裕は無次元量であり、作業機械100が回転軸回りの回転に対し最も安定している状態との近似度を示す。例えば、正規化部216は、無限軌道の側端回り(回転軸ax2又はax4回り)に回転するときのエネルギー安定余裕を、無限軌道の幅wで除算することで、正規化余裕を求める。また例えば、正規化部216は、一対の無限軌道の前端又は後端を結ぶ直線回り(回転軸ax1又はax3回り)に回転するときのエネルギー安定余裕を、無限軌道の長さLで除算することで、正規化余裕を求める。
【0074】
図6は、エネルギー安定余裕と、重心の位置との関係を示す図である。
図6に示すように、式(8)で演算されるエネルギー安定余裕は、重心の位置が低いほど高く、また回転軸と重心との距離が遠いほど高くなる。つまり、ある回転軸について作業機械100がとるエネルギー安定余裕は、重心が支持長方形R上かつ回転軸から最も遠い点に位置するときに最大となる。したがって、エネルギー計算部215が算出したエネルギー安定余裕を、回転軸に係る辺に直交する他の辺の長さで除算することで、エネルギー安定余裕を無次元化することができる。
【0075】
評価部217は、正規化部216が算出した正規化余裕に基づいて作業機械100の転倒リスクを評価する。具体的には、評価部217は、回転軸とする評価対象辺に対する正規化余裕の大きさが閾値を超えるか否かを判定する。閾値としては、注意閾値thc、警告閾値thwが挙げられる。ただし、注意閾値thcは、警告閾値thwより大きい。また各閾値は0より大きく1より小さい。
【0076】
出力部218は、評価部217の評価結果に基づいて警報装置の表示装置に表示させる作業機械の転倒リスクを示す標示を生成する。
図7は、第1の実施形態に係る転倒リスクの標示の例を示す図である。転倒リスクの標示には、走行体110のアイコンI1、旋回体130のアイコンI2、及び複数のインジケータマークI3が表示される。旋回体130のアイコンI2は、常に正面(前方)を上方向に向けて表示される。走行体110のアイコンI1は、旋回角度θ
sに応じて傾斜して表示される。複数のインジケータマークI3は、旋回体130のアイコンI2を囲うように表示される。
図7に示す例では、転倒リスクの標示には12個のインジケータマークI3が、アイコンI2を中心とする円上に、等間隔に並べられている。インジケータマークI3は、色を変化させることで、インジケータマークI3が表す方向の転倒リスクの高さを示す。例えば、インジケータマークI3は、転倒リスクが注意レベルである場合に黄色くなり、転倒リスクが警告レベルである場合に赤くなる。
【0077】
出力部218は、評価部217の評価結果を警報装置へ出力する。出力部218は、生成した作業機械の転倒リスクを示す標示を警報装置へ出力する。また出力部218は、少なくとも1つの回転軸についての正規化余裕が警告閾値を一定時間以上下回る場合に、警報装置に警報音の発報指示を出力する。
【0078】
《制御装置190の動作》
図8は、第1の実施形態に係る制御装置190の動作を示すフローチャートである。
制御装置190が起動し、プログラムを実行すると、一定時間ごとに以下の処理を実行する。
取得部211は、傾斜検出器101、旋回角センサ102、ブーム角センサ103、アーム角センサ104、バケット角センサ105及びペイロードメータ106から、それぞれ計測値を取得する(ステップS1)。位置特定部212は、ステップS1で取得した各種計測値とストレージ250に記録されたジオメトリデータとに基づいて、走行体110、旋回体130、ブーム151、アーム152、バケット153及び積荷の重心の絶対位置を特定する(ステップS2)。
【0079】
重心計算部213は、ステップS2で特定したパーツ別の重心の絶対位置とストレージ250に記録されたパーツ別の重さに基づいて、作業機械100全体の重心の絶対位置Tcom
wを算出する(ステップS3)。評価対象辺決定部214は、ステップS3で算出した重心位置と走行体座標系における支持長方形Rの各辺ER1―ER4の位置に基づいて、評価対象辺を決定する(ステップS4)。具体的には、評価対象辺決定部214は、重心位置Tcom
wを通り走行体110の上下方向に伸びる直線と支持長方形Rの各辺ER1―ER4との距離、及び傾斜係数に基づいて支持長方形Rの各辺ER1―ER4から評価対象辺を決定する。エネルギー計算部215は、ステップS3で算出した重心位置に基づいて、ステップS4で算出した評価対象辺における作業機械100が転倒するために必要なエネルギー量であるエネルギー安定余裕に相当する高さQを算出する(ステップS5)。
【0080】
正規化部216は、ステップS4で算出した高さQを、回転軸に係る辺に直交する他の辺の長さで除算することで、無次元の正規化余裕を求める(ステップS6)。評価部217は、ステップS5で算出した各辺の正規化余裕のそれぞれと、注意閾値thc及び警告閾値thwとを比較する(ステップS7)。
【0081】
出力部218は、ステップS1で取得した旋回角センサ102の計測値に基づいて、転倒リスクの標示の走行体110のアイコンI1の角度を決定する(ステップS8)。また出力部218は、ステップS6の比較結果に基づいて各インジケータマークI3の色を決定する(ステップS9)。具体的には、回転軸となる辺に対向するインジケータマークI3およびその両隣のインジケータマークI3の色を、当該回転軸に係る正規化余裕の比較結果に応じた色に決定する。
【0082】
出力部218は、生成した転倒リスクの標示の表示指示を警報装置に出力する(ステップS10)。また出力部218は、ステップS6の比較結果に基づいて、少なくとも1つの回転軸についての正規化余裕が警告閾値thwを一定時間以上下回ったか否かを判定する(ステップS11)。出力部218は、少なくとも1つの回転軸についての正規化余裕が警告閾値thwを一定時間以上下回った場合(ステップS11:YES)、警報装置に警報音の発報指示を出力する(ステップS12)。
【0083】
《作用・効果》
このように、第1の実施形態に係る制御装置190は、作業機械100の接地点に係る凸包によって表される支持長方形Rの各辺ER1―ER4から回転軸としたときに転倒可能性が高い評価対象辺を決定し評価対象辺を回転軸とする場合における作業機械100のエネルギー安定余裕と、支持長方形Rの辺の長さに基づいて、作業機械100の転倒の可能性を評価する。これにより、制御装置190は、旋回動作に伴って転倒の可能性がある各転倒方向について、転倒の可能性を評価することができる。
【0084】
なお、他の実施形態に係る制御装置190は、作業機械100の接地点に係る凸包が長方形でない場合にも、回転軸から凸包の複数の頂点までの距離のうち最も長いものを用いることで、第1の実施形態と同様に転倒の可能性を評価することができる。
【0085】
また、第1の実施形態に係る制御装置190は、エネルギー安定余裕を支持長方形Rの辺の長さで除算することで、正規化余裕を算出する。これにより、制御装置190は、各辺の転倒の可能性を、同一の閾値(注意閾値、警告閾値)によって評価することができる。正規化余裕は、無次元量であるため、制御装置190は、作業機械100の個体差によらずに同一の閾値を用いて評価することができる。なお、他の実施形態に係る制御装置190は、支持長方形Rの辺の長さを乗算した閾値を用いることで、正規化されていないエネルギー安定余裕を評価してもよい。
【0086】
〈第2の実施形態〉
図9は、第2の実施形態に係る制御装置190の構成を示す概略ブロック図である。
第2の実施形態に係る制御装置190は、第1の実施形態の出力部218に代えて、制限部219を備えるものである。また、第2の実施形態に係る評価部217は、転倒リスクの標示を生成しなくてよい。
【0087】
制限部219は、評価部217の評価結果に基づいて、走行体110、旋回体130及び作業機150の動作を制限する。例えば、制限部219は、正規化余裕が一定時間以上警告閾値thwを下回った場合に、走行体110、旋回体130及び作業機150を停止させる。これにより、制御装置190は、作業機械100の動作に伴う転倒の可能性を低減することができる。
【0088】
なお、他の実施形態に係る制限部219は、走行体110、旋回体130及び作業機150の停止に代えて、動作速度を低下させることによって、動作を制限してもよい。また他の実施形態に係る制限部219は、走行体110、旋回体130及び作業機150の何れか1つ又は2つの動作を制限するものであってもよい。この場合、制限されない可動部の操作によって作業機械100の転倒の可能性が低くなるように姿勢を変えることで正規化余裕が警告閾値thw以上となると、制限部219は動作の制限を解除する。
【0089】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
【0090】
上述した実施形態に係る制御装置190は、単独のコンピュータによって構成されるものであってもよいし、制御装置190の構成を複数のコンピュータに分けて配置し、複数のコンピュータが互いに協働することで制御装置190として機能するものであってもよい。このとき、制御装置190を構成する一部のコンピュータが作業機械100の内部に搭載され、他のコンピュータが作業機械100の外部に設けられてもよい。
【0091】
上述した実施形態に係る作業機械100は、警報装置としてスピーカ及び表示装置を備えるが、他の実施形態においては、これに限られず、スピーカ及び表示装置のいずれか一方のみを有していてもよい。また警報装置は、スピーカ及び表示装置に限られない。例えば、他の実施形態に係る警報装置は、操作装置に設けられたアクチュエータであってよい。アクチュエータは、オペレータによる操作装置の操作に対して反力を付与することでオペレータに警告するものであってよい。またアクチュエータは、操作装置に振動を発生させることでオペレータに警告するものであってよい。
【0092】
上述した実施形態に係る作業機械100は、油圧ショベルであるが、これに限られない。例えば、他の実施形態に係る作業機械100は、ホイルローダーなど、無限軌道ではなくタイヤを備えるものであってもよい。また他の実施形態に係る作業機械100は、走行機能を有しないものであってもよい。また、他の実施形態においては、支持多角形が長方形でなくてもよい。また、他の実施形態に係る作業機械100は、バケット153に代えて、グラップラ、ブレーカ、クラッシャなどの他のアタッチメントを備えるものであってもよい。
【符号の説明】
【0093】
100…作業機械 101…傾斜検出器 102…旋回角センサ 103…ブーム角センサ 104…アーム角センサ 105…バケット角センサ 106…ペイロードメータ 110…走行体 130…旋回体 150…作業機 151…ブーム 152…アーム 153…バケット 170…運転室 190…制御装置 210…プロセッサ 211…取得部 212…位置特定部 213…重心計算部 214…評価対象辺決定部 215…エネルギー計算部 216…正規化部 217…評価部 218…出力部 219…制限部 230…メインメモリ 250…ストレージ 270…インタフェース