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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088490
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】技工作業用模型
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/34 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
A61C13/34 Z
A61C13/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203258
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 朝
(72)【発明者】
【氏名】井上 智之
(57)【要約】
【課題】
口腔内スキャンデータからCAD/CAM法によって加工された歯科技工物の寸法調整や審美性付与に用いる作業模型を提供することを目的とする。また、光造形法によって造形される作業模型と比較して造形精度が同等で安価な作業模型を提供することを目的とする。
【解決手段】
歯型模型が光硬化性樹脂と光造形法によって造形され、歯型模型が組み込まれるソケットを有する歯列模型が熱可塑性樹脂と熱溶解積層法によって造形されることを特徴とする作業模型を用いる。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の口腔内スキャンデータに基づき、CAD/CAM装置により作製した歯科技工物を配置し、
前記歯科技工物の調整を行うために用いる技工作業用模型であって、
歯列模型と歯型模型を備え、
前記歯列模型は歯列部および基台部を有し、
前記歯型模型には前記歯科技工物が配置され、
前記歯列模型が熱可塑性樹脂の熱溶解積層造形物であり、
前記歯型模型が光硬化性樹脂の光造形物であることを特徴とする技工作業用模型。
【請求項2】
前記歯列模型には前記歯型模型を装着するためのソケットを備えることを特徴とする、
請求項1に記載の技工作業用模型。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がポリ乳酸、ABS樹脂、PET樹脂、PETG樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ASA樹脂、TPU樹脂から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の技工作業用模型。
【請求項4】
前記歯型模型が、単独歯の形状であることを特徴とする、請求項1に記載の技工作業用模型。
【請求項5】
患者の口腔内スキャンデータに基づき、CAD/CAM装置により作製した歯科技工物を配置し、
前記歯科技工物の調整を行うために用いる技工作業用模型の製造方法であって、
口腔内スキャナーにより歯列の三次元形状データを取得する工程と、
前記三次元形状データに基づき技工作業用模型の形状データを作成する工程と、
前記技工作業用模型の形状データから造形データを作成する工程と、
前記造形データに基づき光造形法または熱溶解積層法のうちどちらか一種以上の方法により技工作業用模型を作製する工程を含むことを特徴とする、技工作業用模型の製造方法。
【請求項6】
患者の口腔内スキャンデータに基づき、CAD/CAM装置により作製した歯科技工物を配置し、
前記歯科技工物の調整を行うために用いる技工作業用模型の製造方法であって、
口腔内スキャナーにより歯列の三次元形状データを取得する工程と、
前記三次元形状データに基づき技工作業用模型の形状データを作成する工程と、
前記技工作業用模型の形状データから歯列模型の造形データおよび歯型模型の造形データを作成する工程と、
前記歯列模型の造形データに基づき熱可塑性樹脂を用いた熱溶解積層法により歯列模型を作製する工程と、
前記歯型模型の造形データに基づき光硬化性樹脂を用いた光造形法により歯型模型を作製する工程を含むことを特徴とする、技工作業用模型の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科補綴に関する。さらに詳しくは、歯科領域におけるCAD/CAM法によって加工された歯科技工物の調整あるいは審美性付与に用いる作業模型に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、歯科医師が患者の口腔内形状を印象採得し、得られた印象に石膏などの模型材を注入して歯科技工物の製作に用いる作業模型が製作されている。そして、この作業模型上で患者固有の形状や色調に調和した歯科技工物が製作されている。
【0003】
近年、歯科領域において口腔内スキャナーやCAD/CAM技術が普及しつつあり、フルデジタルワークフローで一部の歯科技工物が製造できるようになった。つまり、上述したような印象採得から作業模型製作の工程をデジタル化して一部の歯科技工物が工業的な手法で製造できるようになった。しかしながら、前記フルデジタルワークフローには工程ごとに実物との誤差やばらつきが生じており、加工された歯科技工物を口腔内で寸法調整する必要が生じるという問題がある。また、歯科技工物の形状と色調を患者の口腔内に調和させるためには、歯科技工物が人の目に触れる領域をカットバックして手作業で歯冠修復材料を用いて形状と色調を患者の口腔内に調和させる必要があるが、フルデジタルワークフローでは作業模型がないため、手作業で歯冠修復材料で成形することができないという問題がある。
【0004】
前述した問題に対して、光造形法によって作業模型を造形して、加工された歯科技工物の寸法を調整したり歯冠修復材料で患者固有の形状や色調を調和させることが行われている。しかしながら、光造形法による作業模型は細部再現性が高いものの、ポストキュアによって重合収縮による反りや寸法変化が生じることに加えて材料コストが高いという問題がある。
【0005】
一方で、熱溶解積層法によって熱可塑性樹脂で付加製造する方法が存在する。この方法は、細部再現性が低く、印刷ノズル直径以下の大きさの形状は再現できないものの、造形後に常温で反りや寸法変化が生じないことに加えて、材料コストが光造形法用光硬化性樹脂と比較して各段に低いことが特徴である。近年、この付加製造方法は3Dプリンタの性能向上、スライサーソフトウェアの機能向上などの技術の進歩があり、造形精度が光造形法と同等になりつつある。
【0006】
特許文献1では、熱可塑性及び水溶性のPVA樹脂を用い、熱溶解積層法が適用された3Dプリンタによって作業模型を造形し、作業模型上に歯冠修復物が成形され、模型を水で溶かすことによって成形された歯冠修復物を取り出す歯冠修復物の作製方法が開示されている。熱溶解積層法で支台歯などの歯型を含む作業模型を造形すると、上述したように細部再現性が低いため、支台歯のマージンラインや隅角のエッジ形状が再現されないという欠点がある。この欠点は、歯冠修復物の支台歯に対するマージンの適合性やセメントスペースなど歯科技工物の要求品質に悪影響を及ぼす可能性がある。加えて、特許文献1の方法では、レジン系歯冠修復物は作製できるが、支台歯に陶材を築盛し、作業模型から離型して焼成する工程が必要なセラミックス系歯冠修復物の作製はできないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-195584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、口腔内スキャンデータからCAD/CAM法によって加工された歯科技工物の調整に用いる作業模型を提供することを目的とする。具体的には、口腔内スキャンデータに基づきCAD/CAM法によって加工された歯科技工物の寸法調整や審美性付与等に用いる際の技工作業用模型であって、造形精度や長期間の寸法安定性およびコストに優れている技工作業用模型を提供することを目的とする。また、光造形物である作業用模型と比較し、造形精度が遜色なく、長期寸法安定性、コストに優れることを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、樹脂製作業模型を提供し、歯科領域におけるCAD/CAM法によって加工された歯科技工物の寸法調整や歯冠修復材料を用いて歯科技工物の審美性を向上させることを目的とする。
本発明における歯科技工物とは、クラウン、ブリッジ、インレー、インプラント等の歯科技工物や、プレート、ワイヤー等の矯正装置、ブラケット位置決め治具(インダイレクトボンディングコア)あるいはリテーナー、スプリント、マウスピース等の保定装置を含むものである。
本発明は、患者の口腔内スキャンデータに基づき、CAD/CAM装置により作製した歯科技工物を配置し、前記歯科技工物の調整を行うために用いる技工作業用模型であって、樹脂で作製されていることを特徴とする技工作業用模型である。
また、本発明は患者の口腔内スキャンデータに基づき、CAD/CAM装置により作製した歯科技工物を配置し、前記歯科技工物の調整を行うために用いる技工作業用模型の製造方法であって、口腔内スキャナーにより歯列の三次元形状データを取得する工程と、前記三次元形状データに基づき技工作業用模型の形状データを作成する工程と、前記技工作業用模型の形状データから造形データを作成する工程と、前記造形データに基づき光造形法または熱溶解積層法のうちどちらか一種以上の方法により技工作業用模型を作製する工程を含むことを特徴とする、技工作業用模型の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の作業模型は、樹脂製の作業模型であり、石膏模型のない場合における歯科技工物の製造の際に、歯科技工物の寸法調整や審美性付与等に用いる際の技工作業用模型であって、造形精度や長期間の寸法安定性およびコストに優れている技工作業用模型を提供することを目的とする。また、光造形物である作業用模型と比較し、造形精度が遜色なく、長期寸法安定性、コストに優れることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】光造形によって造形された円柱
図2】熱溶解積層法によって造形された円柱
図3】円柱の測定部位
図4】光造形によって造形された単純化下顎歯列モデル
図5】熱溶解積層法によって造形された単純化下顎歯列モデル
図6】単純化下顎歯列モデルの寸法測定部位
図7】単純化下顎歯列モデルの反り量測定部位
図8】実施例における設計した歯型模型
図9】実施例における設計した歯列模型
図10】実施例における歯型模型
図11】実施例における歯列模型
図12】実施例における完成した技工作業用模型
図13】超硬質石膏の作業模型にジルコニアコーピングブリッジを装着した画像
図14】光造形物の作業模型にジルコニアコーピングブリッジを装着した画像
図15】熱溶解積層法による造形物の作業模型にジルコニアコーピングブリッジを装着した画像
図16】光造形物と熱溶解積層法による造形物を組み合わせた作業模型にジルコニアコーピングブリッジを装着した画像
図17】超硬質石膏の作業模型における43番の拡大画像
図18】超硬質石膏の作業模型における45番の拡大画像
図19】超硬質石膏の作業模型における47番の拡大画像
図20】光造形物の作業模型における43番の拡大画像
図21】光造形物の作業模型における45番の拡大画像
図22】光造形物の作業模型における47番の拡大画像
図23】熱溶解積層法による造形物の作業模型における43番の拡大画像
図24】熱溶解積層法による造形物の作業模型における45番の拡大画像
図25】熱溶解積層法による造形物の作業模型における47番の拡大画像
図26】光造形物と熱溶解積層法による造形物を組み合わせた作業模型における43番の拡大画像
図27】光造形物と熱溶解積層法による造形物を組み合わせた作業模型における45番の拡大画像
図28】光造形物と熱溶解積層法による造形物を組み合わせた作業模型における47番の拡大画像
図29】実施例における細部再現性確認用の造形モデル
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の作業模型は、口腔内スキャンデータの三次元形状データと3Dプリンタ技術を利用して製造される樹脂製作業模型である。より詳しくは、患者の口腔内スキャンデータに基づき、CAD/CAM装置により作製した歯科技工物を配置し、前記歯科技工物の調整を行うために用いる技工作業用模型であって、歯列模型と歯型模型を備え、前記歯列模型は歯列部および基台部を有し、前記歯型模型には前記歯科技工物が配置され、前記歯列模型が熱可塑性樹脂の熱溶解積層造形物であり、前記歯型模型が光硬化性樹脂の光造形物であることを特徴とする技工作業用模型である。技工作業を行う際、歯列模型の全体形状を確認しながら、歯科技工物の調整を行うことができる。また、口腔内スキャナーを使用して石膏模型がない場合、納品用模型として本発明の作業模型を使用することも可能であり、作製した技工物と作業模型をセットで納品することもできる。
【0013】
本発明における技工作業用模型は、患者の口腔内を模した形状である。歯型模型は主に歯科技工物を配置する部位であり、本発明の作業模型を歯科用補綴装置の調整に使用する場合は支台歯、窩洞形成歯あるいは歯冠形状が想定される。また、矯正材料または保定材料等の調整等に使用する場合は、矯正材料または保定材料等が接する歯冠形状等が想定される。
【0014】
歯列模型と歯型模型を組み合わせる構成は任意であり、歯列模型に歯型模型をはめ込む方式であっても、接着材で接着しても、歯列模型上に歯型模型を静置しても構わないが、歯列模型には前記歯型模型を装着するためのソケットを備えることが加工した補綴装置の模型に対する適合性を1歯ずつ確認できるため好ましい。また、歯列模型に歯型模型を装着するためのソケットを備える場合、ソケットの形状は任意であるが、歯型模型の位置に誤差が生じないようにするため、四角形等の多角形形状が好ましく使用できる。
【0015】
本発明における熱溶解積層造形に用いられる熱可塑性樹脂はポリ乳酸、ABS樹脂、PET樹脂、PETG樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ASA樹脂、TPU樹脂から選ばれることが好ましく、コスト面、造形物の反りが少なく精度が高い点、造形がしやすい点より特に好ましくはポリ乳酸である。
【0016】
本発明における作業用模型において、歯科技工物の調整を行う際、歯科技工物は歯型模型に配置される。歯型模型は複数歯の形状であっても単独歯の形状であっても構わないが、光造形物の重合収縮率の点から単独歯の形状であることが好ましい。
【0017】
本発明の樹脂製作業模型は、歯列模型と歯型模型を備える作業用模型である。歯列模型には歯型模型組み込まれるソケットを有することが好ましい。歯型とは、歯列模型の内、支台歯、窩洞形成歯あるいは歯冠のことをいう。ソケットとは、歯型模型を組み込む穴のことをいう。前記樹脂製作業模型は、歯型固着式模型、分割復位式模型、歯型可撤式模型あるいは副歯型式模型であっても良い。
【0018】
本発明の作業模型に使用される光硬化性樹脂は、フィラー、染料、顔料などが混合されていても良い。
【0019】
本発明の作業模型に使用される熱硬化性樹脂は、好ましくはポリ乳酸、ABS樹脂、PET樹脂、PETG樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ASA樹脂、TPU樹脂のいずれかが用いられるが、ペレット状やフィラメント形状に成形可能な熱可塑性樹脂を使用しても良い。また、前記熱可塑性樹脂は、フィラー、染料、顔料、セルロースナノファイバーなどが混錬されていても良い。
【0020】
本発明の作業模型は、口腔内スキャナーによる三次元口腔内形状データを取得する工程と、該三次元口腔内形状データから作業模型データを作成する工程と、該作業模型データから造形用データを作成する工程と、該造形用データから作業模型を造形する工程によって製造される作業模型である。三次元口腔内形状データから作業模型データを作成する工程は、3DCADを用いて作成される。作業模型データから造形用データを作成する工程は、スライサーソフトウェアを用いて作成される。造形用データから作業模型を造形する工程は、好ましくは光造形法と熱溶解積層法を併用するのが望ましい。そして、造形に用いる3Dプリンタは、SLA方式、DLP方式、LCD方式、FDM方式、FFF方式あるいはMEX方式のものを使用しても良い。
【実施例0021】
(光造形法と熱溶解積層法における細部再現性の比較)
造形方式の違いによる細部再現性を評価することを目的として、図29のような寸法の異なる立方体の形状データを作成した。立方体の寸法は、0.10mm、0.20mm、0.30mm、0.40mm、0.50mm、1.00mmとした。該立方体群の形状データから造形用データを作成して、光造形法と熱溶解積層法で造形した。造形結果を表1に示す。造形ができたものを〇、造形ができなかったものは×と表記した。
ここで、造形できるとは、3Dプリンターで形状データの形がプラットフォーム上に成形でき、目視で形状が確認できた状態を指す。また、造形できないとは、3Dプリンターで形状データがプラットフォーム上に成形できずに、目視で形状が確認できなかった状態を指す。光造形法は0.20mmの立方体まで造形できたが、熱溶解積層法は0.40mmの立方体までしか造形できなかった。この実験結果から、光造形法の方が熱溶解積層法よりも細部再現性が高いといえる。
【0022】
【表1】
【0023】
(円柱の造形)
汎用3D CADソフトウェア(Rhinoceros 3D,Robert McNeel & Associates,アメリカ)で直径20mm高さ20mmの円柱を設計して円柱形状のSTLデータを出力した。そして、円柱のSTLデータを使用してスライサーソフトウェアで造形用データを作成し、光硬化性樹脂(ディーマプリントストーン,クルツァー,ドイツ)をセットしたDLP方式の3Dプリンタ(カーラプリント4.0,クルツァー)とPLAフィラメント(PolyLitePLA,Polymaker,中国)をセットした熱溶解積層方式の3Dプリンタでそれぞれ造形した。光造形サンプルはエタノール洗浄してポストキュアを行った。光造形によって造形された円柱を図1に示す。熱溶解積層法によって造形された円柱を図2に示す。
【0024】
(各円柱造形物の寸法変化および寸法誤差の比較)
前記造形された2種類のサンプルの寸法を、造形直後、ポストキュア後、造形から1日経過後、造形から2日経過後のタイミングにデジタルノギス(ABSOLUTE AOS DIGIMATIC,ミツトヨ,日本)で測定した。そして、寸法変化量と設計値からの寸法誤差を算出した。円柱の寸法測定部位を図3に示す。DLP方式の3Dプリンタで造形した円柱サンプルの寸法変化量を表2に示す。熱溶解積層法によって造形された円柱サンプルの寸法変化量を表3に示す。DLP方式の3Dプリンタで造形した円柱サンプルの寸法誤差を表4に示す。熱溶解積層法によって造形された円柱サンプルの寸法誤差を表5に示す。DLP方式の3Dプリンタによる造形物は、造形から1日経過後まで寸法変化することが確認された。また、寸法安定後の寸法誤差は、XY方向に-0.06mm、Z方向に‐0.15mmであることが確認された。熱溶解積層法の3Dプリンタによる造形物は、寸法変化が常温では生じないこと及び寸法誤差が0.00mmであることが確認された。本形状においては、熱溶解積層法の方が光造形法よりも寸法安定性及び寸法誤差が良いことが確認された。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
【表5】
【0029】
(単純形状化した下顎歯列モデルの造形)
汎用3D CADソフトウェア(Rhinoceros 3D)で単純形状化した下顎歯列モデルを設計してSTLデータを出力した。そして、単純形状化した下顎歯列モデルのSTLデータをスライサーソフトウェアで造形用データを作成し、光硬化性樹脂(ディーマプリントストーン,クルツァー,ドイツ)をセットしたDLP方式の3Dプリンタ(カーラプリント4.0,クルツァー)とPLAフィラメント(PolyLite PLA,Polymaker,中国)をセットした熱溶解積層方式の3Dプリンタでそれぞれ造形した。光造形サンプルはエタノール洗浄してポストキュアを行った。光造形によって造形された単純形状化した下顎歯列モデルを図4に示す。熱溶解積層法によって造形された単純形状化した下顎歯列モデルを図5に示す。
【0030】
(各単純形状化した下顎歯列モデル造形物の寸法変化および寸法誤差の比較)
前記造形された2種類のサンプルの寸法を、造形直後、ポストキュア後、造形から1日経過後、造形から2日経過後のタイミングにデジタルノギス(ABSOLUTE AOS DIGIMATIC,ミツトヨ,日本)で測定した。そして、寸法変化量と設計値(測定部位A 67.00mm、測定部位B 50.98mm)からの寸法誤差を算出した。単純形状化した下顎歯列モデルの寸法測定部位を図6に示す。DLP方式の3Dプリンタで造形した単純形状化した下顎歯列モデルサンプルの寸法変化量を表6に示す。熱溶解積層法によって造形された単純形状化した下顎歯列モデルサンプルの寸法変化量を表7に示す。DLP方式の3Dプリンタで造形した単純形状化した下顎歯列モデルサンプルの寸法誤差を表8に示す。熱溶解積層法によって造形された単純形状化した下顎歯列モデルサンプルの寸法誤差を表9に示す。DLP方式の3Dプリンタによる造形物は、造形から1日経過後まで寸法変化することが確認された。また、寸法安定後の寸法誤差は、測定部位Aで-0.14mm、測定部位Bで‐0.08mmであることが確認された。熱溶解積層法の3Dプリンタによる造形物は、寸法変化が常温では生じないこと及び寸法誤差が測定部位Aで-0.05mm、測定部位Bで0.07mmであることが確認された。本形状においても、熱溶解積層法の方が光造形法よりも寸法安定性及び寸法誤差が良いことが確認された。
【0031】
【表6】
【0032】
【表7】
【0033】
【表8】
【0034】
【表9】
【0035】
(各単純形状化した下顎歯列モデル造形物の二次元的な反り量の比較)
前記造形された2種類のサンプルの反り量を、造形直後、ポストキュア後、造形から1日経過後、造形から2日経過後のタイミングにデジタルノギス(ABSOLUTE AOS DIGIMATIC,ミツトヨ)で測定した。二次元的な反り量の測定部位および方法を図15に示す。具体的には、単純形状化した下顎歯列モデルの両側臼歯部に相当するブロックに500gの荷重をかけて、図7の測定部位をデジタルノギス(ABSOLUTE AOS DIGIMATIC,ミツトヨ)で測定した。DLP方式の3Dプリンタで造形した単純形状化した下顎歯列モデルサンプルの反り量を表10に示す。熱溶解積層法によって造形された単純形状化した下顎歯列モデルサンプルの反り量を表11に示す。DLP方式の3Dプリンタによる造形物は、造形から1日経過後まで反り量が増大することが確認された。また、寸法安定後の反り量は、0.15mmであることが確認された。熱溶解積層法の3Dプリンタによる造形物は、寸法変化が常温では生じないこと及び反り量が0.03mmであることが確認された。本形状においては、熱溶解積層法の方が光造形法よりも反り量が少ないことが確認された。
【0036】
【表10】
【0037】
【表11】
【0038】
(歯型可撤式模型の設計)
技工用デスクトップスキャナー(D2000,3Shape,デンマーク)で、下顎における43番、45番及び47番がクラウンの支台歯形成がなされており、44番、46番が欠損した超硬質石膏製の歯列模型をスキャニングした。そして、得られた三次元形状データを歯科用3D CAD(Dental Designer 2020,3Shape)で歯型可撤式模型を設計した。本設計において、クラウン支台歯を歯型模型とした。設計データをSTLデータとして出力した。設計した歯型模型の斜視図を図8に示す。設計した歯型模型が組み込まれるソケットを有する歯列模型の斜視図を図9に示す。
【0039】
(歯型可撤式模型における歯型模型の造形)
前記歯型模型のSTLデータを使用してスライサーソフトウェアで造形用データを作成し、光硬化性樹脂(ディーマプリントストーン,クルツァー,ドイツ)をセットしたDLP方式の3Dプリンタ(カーラプリント4.0,クルツァー)で造形した。該光造形サンプルはエタノール洗浄してポストキュアを行った。完成した歯型模型を図10に示す。
【0040】
(歯型可撤式模型における歯型模型が組み込まれるソケットを有する歯列模型の造形)
歯型模型が組み込まれるソケットを有する歯列模型のSTLデータを使用してスライサーソフトウェアで造形用データを作成し、PLAフィラメント(PolyLitePLA,Polymaker,中国)をセットした熱溶解積層方式の3Dプリンタで造形した。完成した歯型模型が組み込まれるソケットを有する歯列模型を図11に示す。
【0041】
(歯型可撤式模型の製作)
光造形法によって造形された歯型模型を、歯型模型が組み込まれるソケットを有する歯列模型のソケットに組み込むことで歯型可撤式模型が完成された。完成した歯型可撤式模型を図12に示す。細部再現性が求められる支台歯形状に対して光造形法を採用した。また、歯型模型が組み込まれるソケットを有する歯列模型は、寸法安定性、寸法誤差の少なさ、反りによる変形の少なさ、材料コストの観点から熱溶解積層法を採用した。この組み合わせによって、設計データに対して形状再現性が高い作業模型が製造でき、光造形法のみの作業模型と比較して材料コストの安い作業模型が提供可能になると考えられる。
【0042】
(各製造方法によって得られた作業模型に対するジルコニアコーピングブリッジの適合感の比較観察及びマージン間隙量の定量評価)
技工用デスクトップスキャナー(D2000,3Shape,デンマーク)で、下顎における43番、45番及び47番がクラウンの支台歯形成がなされており、44番、46番が欠損した超硬質石膏製の歯列模型をスキャニングした。そして、得られた三次元形状データを歯科用3D CAD(Dental Designer 2020,3Shape)でコーピングブリッジを設計した。コーピングブリッジのSTLデータを出力して、CAM(GO2dental ver.6.04 ,GO2cam International,フランス)で加工用データを作成した。そして歯科用ミリングマシン(DWX-51D,DGシェイプ,日本)に歯科切削加工用セラミックス(松風ディスクZRルーセントスープラ,松風,日本)及び歯科用ミリングバー3本(松風CAD/CAMミリングバーBE-2.0-4-DLC,BE-1.0-4-DLC,BE-0.6-4-DLC,松風)をセットして該加工用データを使用して切削加工した。得られた加工品は、コネクターカット後、ジルコニア焼結炉(オストロマット664i,DEKEMA,ドイツ)で加工品を焼結した。焼結された加工品は、アルミナサンドブラスト処理で一層表面処理した。次に、上述と同じ方法で、光造形法による歯型固着式模型、熱溶解積層法による歯型固着式模型、光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型を造形した。そして、超硬質石膏製の歯列模型、光造形法による造形物、熱溶解積層法による造形物、光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型造形物に前記ジルコニアコーピングブリッジを装着して適合感を観察した。超硬質石膏製の歯列模型にジルコニアコーピングブリッジを装着した画像を図13に示す。光造形法による造形物にジルコニアコーピングブリッジを装着した画像を図14に示す。熱溶解積層法による造形物にジルコニアコーピングブリッジを装着した画像を図15に示す。光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型造形物にジルコニアコーピングブリッジを装着した画像を図16に示す。超硬質石膏製の歯列模型、光造形法による造形物及び光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型造形物に対するジルコニアコーピングブリッジの適合感は、支台歯のマージン部の間隙が少なく良好な適合感であることが確認できた。熱溶解積層法による造形物に対するジルコニアコーピングブリッジの適合感は、支台歯マージン部の間隙が多く不適合であった。
【0043】
加えて、各製造方法によって得られた作業模型にジルコニアコーピングブリッジを装着した状態でデジタルマイクロスコープ(Dino capture 2.0,アンモ社,台湾)を使用してジルコニアコーピングブリッジと支台歯である下顎右側犬歯(以下43番)、下顎右側第二小臼歯(以下45番)、下顎右側第二大臼歯(以下47番)におけるマージンの間隙を40倍拡大撮影した。超硬質石膏製の歯列模型における43番の拡大画像を図17に示す。超硬質石膏製の歯列模型における45番の拡大画像を図18に示す。超硬質石膏製の歯列模型における47番の拡大画像を図19に示す。光造形法による造形物における43番の拡大画像を図20に示す。光造形法による造形物における45番の拡大画像を図21に示す。光造形法による造形物における47番の拡大画像を図22に示す。熱溶解積層法による造形物における43番の拡大画像を図23に示す。熱溶解積層法による造形物における45番の拡大画像を図24に示す。熱溶解積層法による造形物における47番の拡大画像を図25に示す。光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型造形物における43番の拡大画像を図26に示す。光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型造形物における45番の拡大画像を図27に示す。光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型造形物における47番の拡大画像を図28に示す。そして、該拡大画像におけるマージン間隙量を測定した。
マージン間隙量は、拡大画像上でコーピングブリッジの辺縁と支台歯マージンの2点をアノテーションし、2点間距離を算出した。マージン間隙量の測定結果を表12に示す。表12より、基準である超硬質石膏製の歯列模型と比較して、光造形法による造形物及び光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型のマージン間隙量が同等であることが確認された。熱溶解積層法による造形物は、基準である超硬質石膏製の歯列模型よりも約2.00倍のマージン間隙量であることが確認された。マージン間隙量の一般的な目安として、実用上は、120.00μm以下が好ましく、120μm以上なら実用上二次う蝕を誘発するリスクが高くなるため問題になる場合がある。本実験においては、超硬質石膏製の歯列模型が形状データ取得のための被計測物であるため、該歯列模型を基準として比較評価した。
【0044】
【表12】
【0045】
これらの結果から、光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型造形物は、マスターモデルである超硬質石膏製の歯列模型と同等の形状を有していると考えられる。従って、光造形法による光造形物及び光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型造形物は、CAD/CAMによって加工された歯科技工物の寸法調整や、歯冠修復材料で成形することによる審美性付与の用途に使用できる品質であると考えられる。さらに、光造形法と熱溶解積層法を組み合わせた歯型可撤式模型造形物は、支台歯以外が熱可塑性樹脂で占めているため、光造形物単体と比較して大幅な材料コスト削減が可能になると考えられる。以上のことから、本発明は、歯科技工物の寸法調整や審美性付与に必要な寸法精度を有し、かつ材料コストを光造形法単体よりも大幅に下げることが可能であり、歯科臨床において有用である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
発明に係る作業模型は、CAD/CAM法によって加工された歯科技工物の寸法調整や審美性向上に用いることができるようになり、歯科領域における歯科技工物の品質向上及び均一化に有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 歯型模型
2 歯列模型
3 歯列部
4 基台部
5 ソケット


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