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特開2023-88495YAG質焼結体、および半導体製造装置用部材
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  • 特開-YAG質焼結体、および半導体製造装置用部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088495
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】YAG質焼結体、および半導体製造装置用部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/44 20060101AFI20230620BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20230620BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20230620BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C04B35/44
H01L21/31 C
H01L21/302 101G
C23C16/44 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203268
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】土田 淳
【テーマコード(参考)】
4K030
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
4K030EA04
4K030KA08
4K030KA46
4K030LA15
5F004BB18
5F004BB29
5F004BD04
5F004DA17
5F045AA08
5F045BB15
5F045DP03
5F045EB03
5F045EC05
5F045EF11
(57)【要約】
【課題】耐プラズマ性に優れ、大型化への対応が可能であり、半導体製造装置用の部材としても適用できるYAG質焼結体を提供する。
【解決手段】YAG質焼結体であって、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)を主成分とし、ZrO換算で酸化ジルコニウムを0.3wt%以上1.0wt%以下含み、イットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムを除く金属元素の含有量が1000ppm以下であり、相対密度が98%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
YAG質焼結体であって、
イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)を主成分とし、
ZrO換算で酸化ジルコニウムを0.3wt%以上1.0wt%以下含み、
イットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムを除く金属元素の含有量が1000ppm以下であり、
相対密度が98%以上であることを特徴とするYAG質焼結体。
【請求項2】
前記YAG質焼結体は、セリウムの含有量が5ppm未満であることを特徴とする請求項1に記載のYAG質焼結体。
【請求項3】
前記YAG質焼結体は、断面のSEM画像において確認される前記酸化ジルコニウムの面積割合が0.1%以上5.0%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のYAG質焼結体。
【請求項4】
前記YAG質焼結体は、断面のSEM画像において確認される前記酸化ジルコニウムの最大粒子径が10μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のYAG質焼結体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のYAG質焼結体からなることを特徴とする半導体製造装置用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、YAG質焼結体、およびそれを用いた半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造装置において、基板の表面に化学気相成長法(CVD法)で薄膜を形成する際や、エッチングによって薄膜に微細加工を行う際などには、基板を収容する反応容器内にプラズマガスを導入する。そのため反応容器やプラズマガスを反応容器内に導入するためのガスノズルといった部材は、プラズマ化されたフッ化物ガスなどのハロゲンガスに対する耐性(耐プラズマ性)が良好であることが必要である。
【0003】
特許文献1には、ハロゲン系腐食性ガスに曝される表面を気孔率3%以下のイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:YAl12)焼結体により形成するとともに、その表面の中心線平均粗さ(Ra)を1μm以下とすることにより、フッ素系や塩素系などのハロゲン系腐食ガスによる腐食を少なくすること目的とする耐プラズマ部材が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、耐食性を維持しながら耐熱衝撃特性を向上させ、熱衝撃時に発生するクラックの進展を抑制することを目的として、腐食性ガスやプラズマに曝される部位がイットリアとアルミナの化合物を主成分とし、副成分としてジルコニアを500~50000ppm含み、表面粗さ(Ra)が1.5~10μmの粗面部を備えた、半導体製造装置の製造工程に用いられる真空容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-236871号公報
【特許文献2】特許第4544700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなYAG焼結体は、耐プラズマ性に優れる材料であるが、曲げ強度や破壊靭性といった機械的強度が高くないといった問題がある。このような材料を腐食性ガスに曝される部材として使用すると、経時的に表面の腐食が進んだ際に発生するクラックの進展等により粒子の脱粒が起こり得る。このような粒子がパーティクルとしてウエハ等の被処理物に付着すると、その部分は汚染源となり、製品の品質に影響を及ぼすことになる。また、半導体製造装置に使用される部材の寸法は大型化してきているが、このような部材を大型化することは困難であった。
【0007】
また、特許文献2ではジルコニアに安定化剤としてセリアを含んでいる。イットリアとアルミナの化合物がYAGであったとき、セリア含有によりYAGの一部が蛍光体化してしまい、焼結体に色ムラが発生する。このような色ムラは製品としての品質に影響するため好ましくない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐プラズマ性に優れ、大型化への対応が可能であり、半導体製造装置用の部材としても適用できるYAG質焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のYAG質焼結体は、YAG質焼結体であって、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)を主成分とし、ZrO換算で酸化ジルコニウムを0.3wt%以上1.0wt%以下含み、イットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムを除く金属元素の含有量が1000ppm以下であり、相対密度が98%以上であることを特徴としている。
【0010】
これにより、焼結体の耐プラズマ性を確保しながら、YAG単体の焼結体と比較して機械的強度を向上することができる。その結果、腐食性ガスに曝される部材として使用した場合に、経時的に表面の腐食が進んだ際に発生するクラックの進展を抑制することができることから、脱粒によるパーティクル発生リスクを低減することができる。また、機械的強度が確保されていることから、部材の大型化への対応も可能となる。
【0011】
(2)また、本発明のYAG質焼結体は、セリウムの含有量が5ppm未満であることを特徴としている。
【0012】
これにより、YAG質焼結体が蛍光セラミックスとなることを抑制でき、色ムラの発生が抑えられた均質なYAG質焼結体とすることができる。
【0013】
(3)また、本発明のYAG質焼結体は、断面のSEM画像において確認される前記酸化ジルコニウムの面積割合が0.1%以上5.0%以下であることを特徴としている。
【0014】
このように、YAG質焼結体の断面に酸化ジルコニウムが所定の面積割合で存在していることにより、腐食性ガスに曝される部材として使用した場合に、YAG質焼結体の耐プラズマ性を維持しつつ、経時的に表面の腐食が進んだ際に発生するクラックの進展を効果的に抑制することができるため、脱粒によるパーティクル発生リスクをより低減することができる。
【0015】
(4)また、本発明のYAG質焼結体は、断面のSEM画像において確認される前記酸化ジルコニウムの最大粒子径が10μm以下であることを特徴としている。
【0016】
このように、YAG質焼結体中に存在する酸化ジルコニウムの最大粒子径を10μm以下とすることで、酸化ジルコニウムの偏在を抑制することができ、耐プラズマ性を確保しながら焼結体としての強度特性を向上させることができる。
【0017】
(5)また、本発明の半導体製造装置用部材は、上記(1)から(4)のいずれかに記載のYAG質焼結体からなることを特徴としている。
【0018】
このように、YAG質焼結体からなる半導体製造装置用部材とすることで、半導体製造装置用部材の耐プラズマ性を確保しながら、YAG単体の焼結体からなる半導体製造装置用部材と比較して機械的強度を向上することができる。その結果、腐食性ガスに曝される部材として使用した場合に、脱粒によるパーティクル発生リスクを低減することができ、また、機械的強度が確保されていることから、部材の大型化への対応も可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、焼結体の耐プラズマ性を確保しながら、YAG単体の焼結体と比較して機械的強度を向上することができる。その結果、腐食性ガスに曝される部材として使用した場合に、経時的に表面の腐食が進んだ際に発生するクラックの進展を抑制することができることから、脱粒によるパーティクル発生リスクを低減することができる。また、機械的強度が確保されていることから、部材の大型化への対応も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る半導体製造装置用部材の使用例を示す模式的な断面図である。
図2】(a)~(d)、それぞれ実施例1から実施例3のYAG質焼結体、および比較例2の焼結体の断面のSEM画像である。
図3】実施例および比較例の各試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について説明する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0022】
[YAG質焼結体の構成]
(実施形態)
本発明のYAG質焼結体は、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(以下、YAGという)を主成分とし、ZrO換算でジルコニウムを0.3wt%以上1.0wt%以下含む。YAGを主成分とするとは、焼結体中にYAG(YAl12)が95.0wt%以上99.0wt%未満含まれることをいう。YAG以外の成分として例えば、YAM、YAP、Y、AlなどのYとAlの複合酸化物やYやAlの酸化物が含まれていてもよい。YAG質焼結体は、YAGおよびZrO換算の合計量が98.0wt%以上であることが好ましく、99.0wt%以上であることがより好ましく、99.9wt%以上であることがさらに好ましい。
【0023】
このように、YAG焼結体に所定量の酸化ジルコニウムを含むことで、焼結体の耐プラズマ性を確保しながら、YAG単体の焼結体と比較して機械的強度を向上することができる。その結果、腐食性ガスに曝される部材として使用した場合に、経時的に表面の腐食が進んだ際に発生するクラックの進展を抑制することができることから、脱粒によるパーティクル発生リスクを低減することができる。また、機械的強度が確保されていることから、部材の大型化への対応も可能となる。なお、本明細書において、大型化とは、例えば、φ500mmまたは□500mm、厚み30mm相当以上の部材のことをいう。
【0024】
YAG質焼結体が経時的に表面の腐食が進んだ際に発生するクラックの進展等を抑制することができる理由は、YAGと比較して破壊靭性といった機械的強度が高い材料である酸化ジルコニウムが焼結体中に存在していることにより、発生したクラックの進展を酸化ジルコニウムの部分で止めることができるためと考えられる。
【0025】
YAG質焼結体は、イットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムを除く金属元素の含有量が1000ppm以下である。このように、イットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムを除く金属元素の含有量の合計を1000ppm以下とすることで、耐プラズマ性を十分に確保することができる。イットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムを除く金属元素としては、例えば、Si、Ca、Na、Mg、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、およびP等が挙げられる。なお、本発明における金属元素には、Si、P等の半金属元素も含まれる。
【0026】
これらの微量金属は、YAG質焼結体の主に粒界層に凝縮されやすく、プラズマ環境における腐食がYAGや酸化ジルコニウムより進みやすい。微量金属成分の腐食が先に進行すると、粒界部分の腐食により粒子の脱粒が生じてしまい耐プラズマ性が悪化する。このことから、イットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムを除く金属元素の含有量は、できるだけ少ないほうが好ましい。そのため、イットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムを除く金属の含有量は、500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましい。イットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムを除く金属元素の含有量の下限は、できるだけ小さいことが好ましい。しかし、原料粉末や製造工程で不可避に含まれる不純物は存在しうるため、例えば、1ppm以上とすることができる。なお、微量金属の含有量を上記範囲とするためには、原料粉末や製造工程から不純物が混入しないように管理する必要がある。
【0027】
YAG質焼結体におけるイットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムの酸化物換算の含有量、およびYAG質焼結体に含まれるイットリウム、アルミニウムおよびジルコニウムを除く金属元素の含有量は、グロー放電質量分析法(GD-MS)によって測定することができる。
【0028】
YAG質焼結体は、相対密度が98%以上である。このように、相対密度が十分に高いので、耐プラズマ性を高くでき、焼結体としての強度に優れ、大型の部材としても好適に使用することができる。YAGは、同様に耐プラズマ性部材として使用されるAlなどと比較すると緻密性が低く、このような面でも部材の大型化への対応が困難であるが、YAG焼結体中に所定範囲の酸化ジルコニウムを含むことで、YAGに対する焼結助剤としての効果により緻密性が向上する。相対密度が98%以上であることから、焼結体としての強度を高めることができるため、大型の半導体製造装置用の部材としても適用が可能である。
【0029】
YAG質焼結体の相対密度は(焼結体密度/理論密度)×100(%)で表すことができる。理論密度はYAG単体の密度(4.55g/cm)のことであり、焼結体密度はYAG質焼結体の密度をアルキメデス法により測定したものである。
【0030】
YAG質焼結体は、セリウムの含有量が5ppm未満であることが好ましい。これにより、YAG質焼結体が蛍光セラミックスとなることを抑制でき、色ムラの発生が抑えられた均質なYAG質焼結体とすることができる。セリウムを一定量以上含むと、YAG質焼結体の一部が蛍光セラミックスとなり色ムラが発生する。色ムラはYAG質焼結体としての特性には大きく影響はしないが、品質管理の面で好ましいものではない。YAG質焼結体は、セリウムの含有量が3ppm以下であることがより好ましく、1ppm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
YAG質焼結体は、断面のSEM画像において確認される酸化ジルコニウムの面積割合が0.1%以上5.0%以下であることが好ましい。このように、YAG質焼結体の断面に酸化ジルコニウムが所定の面積割合で存在していることにより、腐食性ガスに曝される部材として使用した場合に、YAG質焼結体の耐プラズマ性を維持しつつ、経時的に表面の腐食が進んだ際に発生するクラックの進展を効果的に抑制することができるため、脱粒によるパーティクル発生リスクをより低減することができる。
【0032】
YAG質焼結体の断面のSEM画像の酸化ジルコニウムの面積割合は、YAG質焼結体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で2000倍の倍率で撮影し、撮影した画像を画像解析ソフトWinROOF(三谷商事株式会社製)を使用して2値化する等の画像処理を行うことで算出することができる。SEM画像中の所定の色調の領域が酸化ジルコニウムからなることを確認するためには、同一断面をEDS分析し、当該領域のZr、Oのピークを確認する。なお、断面のSEM画像において確認される酸化ジルコニウムの面積割合が0.1%以上5.0%以下であるとは、測定点として無作為に5視野観察した各視野で求めた面積割合が、それぞれ0.1%以上5.0%以下であることとする。
【0033】
YAG質焼結体は、断面のSEM画像において確認される酸化ジルコニウムの最大粒子径が10μm以下であることが好ましい。このように、YAG質焼結体中に存在する酸化ジルコニウムの最大粒子径を10μm以下とすることで、酸化ジルコニウムの偏在を抑制することができ、耐プラズマ性を確保しながら焼結体としての強度特性を向上させることができる。10μmを超える粒子が存在する場合、局所的に耐プラズマ性の低い箇所が露出する虞が生じ、耐プラズマ性の低下の原因となる場合がある。また、10μmを超える粒子が増加した場合、酸化ジルコニウム粒子の分散状態が悪化する虞が増大し、強度が不十分となる場合がある。
【0034】
YAG質焼結体の断面の酸化ジルコニウムの粒子径は、YAG質焼結体の断面を研磨し、研磨面のサーマルエッチングを行った後、サーマルエッチング後の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で2000倍の倍率で撮影し、撮影した画像を画像解析ソフトWinROOFを使用して解析することで、その視野における最大粒子径を測定することができる。なお、測定点としては無作為に5視野観察し、全ての視野の中での最大値を最大粒子径とすればよい。
【0035】
本発明のYAG質焼結体は、耐プラズマ性に優れ、大型化への対応が可能であり、半導体製造装置用の部材としても適用できる。
【0036】
[半導体製造装置用部材の構成]
次に、本発明の半導体製造装置用部材の説明をする。図1は、本発明の実施形態に係る半導体製造装置用部材の使用例を示す模式的な断面図である。本発明の半導体製造装置用部材は、例えば、半導体製造工程または液晶製造工程において、半導体ウエハやガラス基板などの基板Wに薄膜を形成するための成膜装置、または、基板Wに微細加工を施すためのエッチング装置などのプラズマ装置100に用いられるガスノズル10や反応容器20を構成する容器本体21や蓋部材22として好適に使用することができる。
【0037】
例えば、成膜装置においては、腐食性ガスを含む原料ガスをガスノズル10を用いて反応容器20内に導入し、この原料ガスをプラズマ化させるプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法により、基板W上に薄膜を形成することがある。また、エッチング装置においては、原料ガスとしてハロゲン系腐食性ガスをガスノズル10を用いて反応容器20内に導入し、この腐食性ガスをプラズマ化してエッチングガスとすることにより、基板Wに微細加工を施すことがある。
【0038】
ガスノズル10には、図示しないガス供給部から腐食性ガスなどのガスが供給されるガス供給口11、反応容器20内にガスを排出するガス排出口12、およびガス供給口11とガス排出口12とを連通するノズル孔13とを有している。
【0039】
本発明の実施形態に係る半導体製造装置用部材は、腐食性ガスまたは腐食性薬品に曝される部分を有する部材であり、ここでは、ガスノズル10のうち腐食性ガスに曝される部分、例えば、ノズル孔13を含む部分、反応容器20内に露出する部分のうちの少なくとも一部を構成する部材である。ただし、半導体製造装置用部材は、ガスノズル10の全体を構成するものであってもよい。また、耐食性部材は、例えば、反応容器20を構成する容器本体21または蓋部22であってもよいし、その一部であってもよい。
【0040】
本発明のYAG質焼結体からなる半導体製造装置用部材とすることで、半導体製造装置用部材の耐プラズマ性を確保しながら、YAG単体の焼結体からなる半導体製造装置用部材と比較して機械的強度を向上することができる。その結果、腐食性ガスに曝される部材として使用した場合に、脱粒によるパーティクル発生リスクを低減することができ、また、機械的強度が確保されていることから、部材の大型化への対応も可能となる。
【0041】
[YAG質焼結体の製造方法]
次に、本発明のYAG質焼結体の製造方法を説明する。本発明のYAG質焼結体は、例えば、鋳込み成型法やCIP成型法により成形体を形成し、焼成することで焼結体を得る従前の製造方法により作製することができる。
【0042】
まず、YAG質焼結体の原料粉末として、酸化イットリウム粉末、酸化アルミニウム粉末および酸化ジルコニウム粉末を準備する。各粉末の純度は、99.9%以上であることが好ましく、99.99%以上であることがより好ましい。また、各粉末の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0043】
次に、焼結後のYAG質焼結体における酸化物換算で所定の組成割合になるように、酸化イットリウム粉末および酸化アルミニウム粉末を秤量する。所定の組成割合とは、焼成後のYAG質焼結体における酸化物(Y)換算でYが37.5mоl%、酸化物(Al)換算でAlが62.5mоl%の組成である。なお、1.0mоl%程度ずれることは許容されるが、できるだけ所定の組成割合に近いことが好ましい。所定の組成割合は、酸化イットリウム粉末と酸化アルミニウム粉末との重量比でいうと、約57:43である。次に、焼結後のYAG質焼結体においてZrO換算でジルコニウムが内割で0.3wt%以上1.0wt%以下の範囲の所定の値となるように、酸化ジルコニウム粉末を秤量する。
【0044】
次に、原料粉末を混合する。各粉末を、例えば、バインダー(PVAなど)とともにポットに投入し、ボールミルによる湿式混合により粉砕および混合し、原料スラリーを作成する。原料スラリーの作製には、イオン交換水や分散剤を用いてもよい。ボールミルは、例えば、樹脂ボールを用いることができる。混合時間は、例えば、20時間とすることができる。
【0045】
次に、混合工程で得られたスラリーを乾燥および造粒する。スラリーから造粒粉末を得る方法としては、例えば、スラリーを湯煎しつつ乾燥させることによりスラリー中から溶媒を除去して粉体を得て、得られた粉体を篩に通す方法を挙げることができる。また、スプレードライヤーを使用することもできる。
【0046】
次に、造粒工程で得られた造粒粉末を成形して成形体を形成する。成形方法は、成形型に得られた造粒粉末を投入し、プレス成形する方法等を用いることができる。プレス成形方法としては、一軸プレス成形、冷間等方圧プレス(CIP)、ホットプレス等公知の方法で成形することができる。また、成形圧力は、プレス成形の場合、例えば、98MPaとすることができる。
【0047】
次に、成形体を焼成する。焼成は、成形体を酸化性雰囲気または真空雰囲気中で、1600℃以上2000℃以下の温度で焼成することで、YAG質焼結体を得ることができる。焼成時間は、1時間以上20時間以下であることが好ましい。なお、必要に応じて焼成工程の前に脱脂工程を追加してもよい。また、YAG質焼結体を、熱間静水圧プレス(HIP)を用いて加圧し、緻密化する工程を設けてもよい。
【0048】
このような工程により、耐プラズマ性に優れ、大型化への対応が可能であり、半導体製造装置用の部材としても適用できるYAG質焼結体を製造することができる。
【0049】
[実施例および比較例]
(実施例1)
酸化イットリウム原料粉(純度99.9%、平均粒子径1μm)と酸化アルミニウム粉末(純度99.99%、平均粒子径0.5μm)との重量比が57:43となるように、酸化イットリウム原料粉および酸化アルミニウム粉末を秤量した。また、焼結後のYAG質焼結体中に含まれる酸化ジルコニウムがZrO換算、内割で0.3wt%となるように酸化ジルコニウム原料粉(純度99.9%、平均粒子径0.1μm)を秤量した。
【0050】
次に秤量した原料粉にバインダーとしてPVA系バインダーを外割で2.0wt%、分散剤として水溶性アクリル系分散剤を外割で0.3wt%、適量のイオン交換水とともにポットに投入し、樹脂ボールを用いたボールミルによる湿式混合により原料スラリーを形成した。
【0051】
次に、この原料スラリーをスプレードライヤーにて乾燥および造粒し、造粒粉を成形型に投入し、冷間等方圧加圧法(CIP)にて成形体を形成した。次に、形成した成形体を1700℃の温度、大気雰囲気中で10時間焼成することで、実施例1のYAG質焼結体を作製した。
【0052】
(実施例2)
焼結後のYAG質焼結体中に含まれる酸化ジルコニウムがZrO換算、内割で0.5wt%となるように秤量したことを除き、実施例1と同様の条件で実施例2のYAG質焼結体を作製した。
【0053】
(実施例3)
焼結後のYAG質焼結体中に含まれる酸化ジルコニウムがZrO換算、内割で1.0wt%となるように秤量したことを除き、実施例1と同様の条件で実施例3のYAG質焼結体を作製した。
【0054】
(比較例1)
酸化ジルコニウムを添加しなかったことを除き、実施例1と同様の条件で比較例1のYAG焼結体を作製した。
【0055】
(比較例2)
焼結後の焼結体中に含まれる酸化ジルコニウムがZrO換算、内割で3.0wt%となるように秤量したことを除き、実施例1と同様の条件で比較例2の焼結体を作製した。
【0056】
[評価方法]
(耐プラズマ性試験)
実施例・比較例それぞれの焼結体の試験片を準備し、片面を鏡面研磨加工し、その一部をポリイミドテープでマスクした後、プラズマエッチング装置内に試験片を載置し、エッチングガスとしてNF、プラズマ照射時間として4時間、高周波出力2000Wの条件でのRIEエッチング装置内に試験片を載置し、プラズマ処理前後における腐食深さを確認した。このときの腐食深さが0.8μm以下のものを優れるものとして(○)合格と評価した。それより大きいものは不良(×)として不合格と評価した。
【0057】
(機械的強度試験)
実施例、比較例それぞれの焼結体の試験片を準備し、破壊靭性の評価を行った。破壊靭性の測定方法としては、JIS R1607 ファインセラミックスの室温破壊靭性試験方法により測定した。測定は各試験片ごとに5点測定し、比較例1の破壊靭性値の1.3MPa/m0.5をしきい値として、この値を超えたものを(○)と評価した。
【0058】
(酸化ジルコニウムおよび微量な金属元素の含有量)
各試験片の焼結体中における酸化ジルコニウムおよび微量な金属元素の含有量を、グロー放電質量分析法(GD-MS)により測定した。
【0059】
(断面のSEM画像における酸化ジルコニウムの面積割合)
図2(a)から(d)は、それぞれ実勢例1から実施例3のYAG質焼結体および比較例2の焼結体の断面のSEM画像である。EDS分析により、SEM画像中の白色の点が酸化ジルコニウムであることが確かめられた。そして、各試料のSEM画像を画像解析ソフトWinROOFを用いて解析することで、断面のSEM画像における酸化ジルコニウムの面積割合を算出した。測定点として無作為に5視野観察し、各視野でそれぞれ面積割合を算出した。図3の表の数値は、算出された面積割合の数値の最小値と最大値を示している。なお、EDS分析により、実施例、比較例の焼結体の主成分がYAGであり、それ以外の酸化イットリウム、酸化アルミニウムおよびそれらの複合酸化物の割合は、いずれも1wt%以下であることも確かめられた。
【0060】
(断面のSEM画像における酸化ジルコニウムの最大粒子径)
各試料の焼結体を切断し、断面を研磨し、研磨面のサーマルエッチングを行った後、走査型電子顕微鏡(SEM)で画像を撮影した。撮影した画像を画像解析ソフトWinROOFを使用してその視野における最大粒子径を測定した。測定点としては無作為に5視野観察し、全ての視野の中での最大値を最大粒子径とした。
【0061】
(相対密度)
各試料の焼結体のかさ密度をアルキメデス法で測定して、理論密度から相対密度を算出した。
【0062】
[評価結果]
図3は、実施例および比較例の各試験結果を示す表である。図3に示す通り、本発明のYAG質焼結体は、耐プラズマ性が、酸化ジルコニウムが添加されていない比較例1のYAG焼結体と同程度に優れていた。これは、酸化ジルコニウムの添加により焼結体の相対密度が向上したことや、ZrOがクラックの進展を抑制し、粒子の脱粒が抑制されたことによるものと考えられる。また、本発明のYAG質焼結体は、比較例1のYAG焼結体と比較して機械的強度が高かった。相対密度も高く、機械的強度が高いことから、大型部材への適用性を高めることができる。
【0063】
一方で、酸化ジルコニウムを含まない比較例1のYAG焼結体は、耐プラズマ性に対して優れた評価結果であったが、実施例と同条件での焼成では相対密度を高めることができなかった。また機械的強度が低いことから大型部材への適用が困難である。
【0064】
また、酸化ジルコニウムの含有量が本発明の範囲を超える比較例2の焼結体では、耐プラズマ性が実施例のYAG質焼結体より低かった。これはYAGより耐プラズマ性の低い酸化ジルコニウムが存在過多となってしまい、耐プラズマ性の低下が起こってしまったためと考えられる。
【0065】
なお、実施例のYAG質焼結体、比較例1のYAG焼結体、比較例2の焼結体のいずれの試料からも、セリウムは検出されず、色ムラも発生しなかった。
【0066】
また、実施例1と同様組成のYAG質焼結体に対し、本発明の範囲外となる量のセリウムを意図的に添加したYAG質焼結体を作製したところ、YAG質焼結体の表面及び内部に目視で確認できる色ムラがあった。
【0067】
以上の結果によって、本発明のYAG質焼結体は、耐プラズマ性に優れ、大型化への対応が可能であり、半導体製造装置用の部材としても適用できるYAG質焼結体であることが確認された。
【0068】
なお、本発明は、上記の実施態様に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 ガスノズル
11 ガス供給口
12 ガス排出口
13 ノズル孔
20 反応容器
21 容器本体
22 蓋部
100 プラズマ装置
W 基板
図1
図2
図3