(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088505
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】シャッターおよび乗り物
(51)【国際特許分類】
B60K 11/04 20060101AFI20230620BHJP
B60R 19/52 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
B60K11/04 J
B60R19/52 M
B60K11/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203286
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粟野 利宏
【テーマコード(参考)】
3D038
【Fターム(参考)】
3D038AA06
3D038AB01
3D038AC01
3D038AC11
3D038AC17
(57)【要約】
【課題】製造が容易であり、かつ使用時の信頼性も高い構成により、ブレードを加温できるシャッターを提供すること。
【解決手段】樹脂製の母体と、前記母体の外側表面に配置された伝熱性部位とを含む、複数のブレードと、前記複数のブレードを回動可能に保持するフレームと、を有し、前記複数のブレードの回動により、開状態と閉状態とを切り替えるシャッター。前記複数のブレードは、前記閉状態にブレード同士が接触することにより、ヒータからの熱をブレード間で伝導させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の母体と、前記母体の外側表面に配置された伝熱性部位とを含む、複数のブレードと、
前記複数のブレードを回動可能に保持するフレームと、を有し、
前記複数のブレードの回動により、開状態と閉状態とを切り替えるシャッターであって、
前記複数のブレードは、前記閉状態にブレード同士が接触することにより、ヒータからの熱をブレード間で伝導させる、
シャッター。
【請求項2】
前記複数のブレードは、他のブレードと接触する端部の裏側表面に、前記伝熱性部位を有する、請求項1に記載のシャッター。
【請求項3】
前記フレームは、ヒータからの熱を前記ブレードに伝導させる熱伝導体を有し、
前記ブレードは、前記閉状態に前記フレームの前記熱伝導体に接触して、ヒータからの熱を前記ブレードの前記伝熱性部位に伝導させる、
請求項1または2に記載のシャッター。
【請求項4】
前記フレームは、前記ブレードと接触して前記ブレードの回動を規制するストッパに前記熱伝導体を有し、
前記ブレードは、前記閉状態に前記ストッパが有する前記熱伝導体に接触して、ヒータからの熱を前記ブレードの前記伝熱性部位に伝導させる、
請求項3に記載のシャッター。
【請求項5】
前記フレームは、前記ブレードの回動軸と平行に配置された平行枠と、
前記平行枠に配置されたヒータと、を備え、
前記ブレードは、前記ヒータからの熱を、前記ブレードの回動軸と直交する方向に伝導させる、
請求項1~4のいずれか1項に記載のシャッター。
【請求項6】
前記伝熱性部位は、金属または炭素繊維を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のシャッター。
【請求項7】
前記伝熱性部位は、マトリクス樹脂と、前記マトリクス樹脂中に保持された、一方向に配向して配列した複数の炭素繊維と、を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のシャッター。
【請求項8】
前記複数の炭素繊維は、前記ブレードの回動軸と直交する方向に配向された、請求項7に記載のシャッター。
【請求項9】
前記マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂である、請求項7または8に記載のシャッター。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のシャッターを有する、乗り物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャッターおよび乗り物に関する。
【背景技術】
【0002】
平行に配列された複数のブレードを有し、これら複数のブレードが同期して回動することにより、開状態と閉状態とが切り替わるシャッターが知られている。このようなシャッターとして、自動車の前面に配置されるグリルシャッターなどが知られている。グリルシャッターは、開状態では走行風を車体内部に取り入れてエンジンなどを冷却し、閉状態では走行風の空気抵抗よる燃費低下を抑制する。
【0003】
このようなシャッターには、冬にブレードで凍結した氷により、開閉制御が困難になるという問題が知られている。
【0004】
上記問題を解決する方法として、特許文献1には、ブレードの端部の、回動軸に沿った全範囲に導電性のゴム部材からなるカバーを被せ、両端側(回動軸方向の両端)からカバーに通電してカバーを発熱させる構成が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、ブレードを導電性材料から形成し、このブレードに通電することでブレードを発熱させる構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-276712号公報
【特許文献2】特表2019-517420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のような、ブレードの端部にカバーを被せる構成では、両端側(回動軸方向の両端)においてカバーをブレードよりも外側に突き出させて、ブレードを保持するフレームに設けた通電基板にカバーを接触させる必要がある。しかし、このような構成では、わずかな寸法のずれなどにより通電基板とカバーとの接触ができなくなってしまう。これを防ぐためには、製造時に、ブレード、カバーおよびフレームの形状を高精度で加工する必要がある。また、使用に伴うずれやカバーまたはフレームの摩耗などにより通電基板とカバーとの接触ができなくなる可能性もあるなど、使用時の安定性に乏しかった。
【0008】
また、特許文献2では、ブレードに通電するための構成が特定されていない。回動するブレードに通電することは通常、困難であり、やはり使用時の信頼性が担保されていなかった。
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、製造が容易であり、かつ使用時の信頼性も高い構成により、ブレードを加温できるシャッター、および当該シャッターを有する乗り物を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に関するシャッターは、樹脂製の母体と、前記母体の外側表面に配置された伝熱性部位とを含む、複数のブレードと、前記複数のブレードを回動可能に保持するフレームと、を有し、前記複数のブレードの回動により、開状態と閉状態とを切り替えるシャッターである。前記複数のブレードは、前記閉状態にブレード同士が接触することにより、ヒータからの熱をブレード間で伝導させる。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の他の実施形態に関する乗り物は、前記シャッターを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造が容易であり、かつ使用時の信頼性も高い構成により、ブレードを加温できるシャッター、および当該シャッターを有する乗り物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1Aは、本発明の一実施形態に関するシャッターの、シャッターを開いたときの例示的な構成を示す斜視図であり、
図1Bは、本発明の一実施形態に関するシャッターの、シャッターを閉じたときの例示的な構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すシャッターの閉状態における状態を示す模式的な正面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す線分A-Aにおけるシャッターの模式的な断面図である。
【
図4】
図4Aは、凍結の抑制および融解の促進をするためのブレードの構成を示す模式的な断面図であり、
図4Bは、凍結の抑制および融解の促進をするためのフレームの構成を示す模式的な断面図である。
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、本発明の一実施形態このように関するシャッターの開状態と閉状態とを切り替える様子を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1Aおよび
図1Bは、本発明の一実施形態に関するシャッターの例示的な構成を示す斜視図である。
図1Aは、シャッターを開いた様子を示す斜視図であり、
図1Bは、シャッターを閉じた様子を示す斜視図である。
図1Aおよび
図1Bでは、手前側が車外となる方向であり、手前側から奥側に向けて、風などを通過させる構成である。
【0015】
なお、以下の説明では、理解を容易にするため、
図1Aおよび
図1Bにおける矢印Xとは反対側方向(手前側方向)を外側方向、矢印X方向(奥側方向)を裏側方向とし、Y方向を左右方向、Z方向を上下方向と表記する。
【0016】
シャッター100は、複数のブレード110と、ブレード110を回動可能に保持するフレーム120と、を有する。
【0017】
ブレード110は、回動軸112と、それぞれの回動軸112に対して2枚ずつ設けられた平板状の羽114aおよび羽114bと、を有し、回動軸112の回動により、2枚の羽114aおよび羽114bが回動軸112を中心として回転対称に回動する。
【0018】
フレーム120は、複数枚のブレード110を、枠内の平面上に互いに平行に配置して保持する。具体的には、フレーム120は、略長方形の枠体であり、複数のブレード110が有する回動軸112の両端を左右の枠体によりそれぞれ保持して、ブレード110を枠内に上下方向に配列させる。なお、
図1Aおよび
図1Bでは、フレーム120の中央部に設けられたリンク121を挟んで左右それぞれに、5枚ずつのブレード110を上下に配列させて配置している。
【0019】
フレーム120にはモーター122が取り付けられており、それぞれの回動軸112にモーター122の回転を伝達することにより、回動軸112を回動させて羽114aおよび羽114bを回動させる。この回動軸112ならびに羽114aおよび羽114bの回動により、羽114aおよび羽114bが上記仮想平面に対して所定の角度をなし、ブレード110間に隙間が生じる状態(開状態)と、羽114aおよび羽114bが上記仮想平面に対して平行となり、ブレード110間の隙間がなくなる状態(閉状態)と、が切り替わる。
【0020】
図2は、
図1に示すシャッターの閉状態における状態を示す模式的な正面図であり、
図3は、
図2に示す線分A-Aにおけるシャッター100の模式的な断面図である。
【0021】
それぞれのブレード110が有する2枚の羽114aおよび羽114bは、上方側の羽114aがフレーム120の外側方向よりに、下方側の羽114bがフレーム120の裏側方向よりになるように、位置をずらして配置されている。そして、閉状態では、あるブレード110の上方側の羽114aの外側表面のうちの一部分が、隣り合うブレード110の下方側の羽114bの裏側表面と接触する。このように、隣り合うブレード110の羽114aおよび羽114bが部分的に重なり合い、閉状態で互いに接触するように複数のブレード110を配置することで、ブレード110間の隙間をより生じにくくすることができる。
【0022】
また、フレーム120の上側の枠体には、一番上に配置されたブレード110の上方側の羽114aに接触してブレード110の回動を規制するストッパ124aが設けられている。ストッパ124aは、シャッター100が開状態から閉状態に切り替えられたときに、裏側方向から移動してきた上方側の羽114aを、その裏側表面で受け止める。フレーム120の下側の枠体には、一番下に配置されたブレード110の下方側の羽114bに接触してブレード110の回動を規制するストッパ124bが設けられている。ストッパ124bは、シャッター100が開状態から閉状態に切り替えられたときに、外側方向から移動してきた下方側の羽114bを、その外側表面で受け止める。これにより、ストッパ124aおよびストッパ124bは、開状態から閉状態に切り替えるときのブレード110の行き過ぎた回動を抑制する。
【0023】
シャッター100は、たとえば自動車、トラックおよびバスなどの乗り物の前面に備え付けられて走行中に外気をエンジンルームに取り入れるグリルシャッターである。シャッター100は、開状態では、シャッター100の前方(外側)から後方(裏側)に向けて(
図1Aおよび
図1B中の矢印X方向に)、外気を流通させる。これにより、エンジンルームに外気を取り入れ、エンジンなどを冷却することができる。一方で、シャッター100を開状態のままにすると、取り入れた外気が空気抵抗となって燃費が低下するので、冷却が不要なときには、シャッター100を閉状態にする。閉状態では、隣り合うブレード110の羽114aおよび羽114b同士が接触して隙間をなくし、外気を遮蔽する。
【0024】
ところで、このようなシャッターには、冬季などの外気温が低いときに、羽114aおよび羽114bの表面で水分が凍結することがある。そして、閉状態に隣り合う羽114aおよび羽114bが接触した状態で上記凍結が生じると、氷によって羽114aおよび羽114bが貼りついて回動しにくくなり、シャッター100の開閉が困難になることがある。
【0025】
そこで、シャッター100は、ヒータからの熱によって羽114aおよび羽114bの表面を加熱して凍結を防ぎ、また凍結が生じたときには氷の融解を促進する構成を有する。
【0026】
図4Aは、凍結の抑制および融解の促進をするためのブレード110の構成を示す模式的な断面図であり、
図4Bは、凍結の抑制および融解の促進をするためのフレーム120の構成を示す模式的な断面図である。なお、
図4Aおよび
図4Bは、
図3と同様の(つまり
図2に示す線分A-Aにおける)断面図である。
【0027】
図4Aに示すように、ブレード110は、その外側表面に伝熱性部位116を有する。伝熱性部位116は、上方の羽114aの上端から、回動軸112の表面を通って下方の羽114bの下端まで、途切れなく連続的に形成されている。そして、伝熱性部位116は、ブレード110の下端部を回り込んで、下方の羽114bの裏側表面まで延在する。なお、伝熱性部位116は、下方の羽114bの裏側表面の全体に形成されてもよいが、閉状態に隣り合うブレード110の上方の羽114aと接触する部位のみに部分的に形成されればよい。
【0028】
図4Bに示すように、フレーム120は、上下の枠体(ブレード110を挟んで回動軸112と平行に配置された平行枠)にそれぞれ配置されたヒータ126aおよびヒータ126bと、ヒータ126aおよびヒータ126bからの熱を伝導させる熱伝導体128aおよび熱伝導体128aと、を有する。熱伝導体128aは、上側の枠体の表面に沿って配置され、ヒータ126aからの熱を、ストッパ124aの裏側表面に伝導する。熱伝導体128bは、下側の枠体の表面に沿って配置され、ヒータ126bからの熱を、ストッパ124bの外側表面に伝導する。つまり、熱伝導体128aおよび熱伝導体128bはそれぞれ、ヒータ126aおよびヒータ126bからの熱を、ストッパ124aおよびストッパ124bの、ブレード110の羽114aおよび羽114bと接触する表面に伝導する。
【0029】
図5Aおよび
図5Bは、このようなブレード110およびフレーム120を有するシャッター100の開状態と閉状態とを切り替える様子を示す模式的な断面図である。なお、
図5Aおよび
図5Bは、
図3と同様の(つまり
図2に示す線分A-Aにおける)断面図である。
【0030】
図5Aに示す開状態では、ブレード110同士が接触していない。また、一番上に配置されたブレード110はストッパ124aに接触しておらず、一番下に配置されたブレード110はストッパ124bに接触していない。そのため、ヒータ126aおよびヒータ126bからの熱はブレード110に伝導されず、またブレード110間での熱の伝導も生じない。
【0031】
一方で、
図5Bに示す閉状態では、ブレード110同士が接触しており、それぞれのブレード110の伝熱性部位116は、隣り合うブレードの伝熱性部位116と接触している。また、一番上に配置されたブレード110はストッパ124aの熱伝導体128aに接触しており、一番下に配置されたブレード110はストッパ124bの熱伝導体128bに接触している。そのため、ヒータ126aおよびヒータ126bからの熱は熱伝導体128aおよび熱伝導体128bを介してストッパ124aおよびストッパ124bからブレード110に伝導し、さらに隣り合うブレード間で当該熱が伝導する。
【0032】
このように、シャッター100は、閉状態にブレード110同士が接触し、これによりヒータ126aおよびヒータ126bからの熱をブレード110間で伝導させ、それぞれのブレード110の羽114aおよび羽114bの表面を加熱する。上記加熱により、羽114aおよび羽114bの表面における凍結の発生を抑制することができ、また凍結が生じたときには氷の融解を促進することができる。
【0033】
上記構成では、閉状態に隣り合うブレード110の羽114aおよび羽114bが接触しているときに、ブレード間で熱を伝導させる。そのため、ブレード110への熱の伝導をより安定して行うことができる。
【0034】
また、閉状態にブレード110と接触するストッパ124aおよびストッパ124bを上下の枠体に設け、ストッパ124aおよびストッパ124bからブレード110に熱を伝導することで、フレーム120(ヒータ126aおよび126b)からブレード110への伝熱も、より確実に行うことができる。
【0035】
本実施形態では、ブレード110が有する羽114aおよび羽114bの、外側表面に伝熱性部位116が形成されている。羽114aおよび羽114bの外側表面は、シャッター100の外側を向いた、外側表面である。外気の影響を受けやすく、冷却による凍結が生じやすい外側表面に伝熱性部位116を形成して外側表面を加熱することで、凍結の抑制および融解の促進をより効率的に行うことができる。ただし、シャッター100の内側を向いた、裏側表面にも伝熱性部位116を形成し、羽114aおよび羽114bの内部を介して伝熱性部位116からの熱を外側表面に伝導させてもよい。
【0036】
また、本実施形態では、隣り合うブレード110同士が部分的に重なり合うように配置して、端部において一方のブレード110の外側表面と他方のブレード110の裏側表面とが接触する構成としている。これにより、ブレード間での伝熱をより確実に行うことができる。また、ブレード110の外側表面のみならず、上記端部において接触する他方のブレード110の裏側表面にも伝熱性部位116を形成することで、ブレード110間での伝熱をさらに確実に行うことができる。
【0037】
また、本実施形態では、隣り合うブレードが接触すればよいので、製造が容易であるし、かつ摩耗等による信頼性の低下も生じにくい。
【0038】
本実施形態において、ブレード110は、樹脂製の母体(回動軸112ならびに羽114aおよび羽114bの母体)と、その表面に形成された伝熱性部位116と、を有する。
【0039】
母体を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などが含まれる。熱硬化性樹脂の例には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびジアリルテレフタレート樹脂などが含まれる。また、母体を構成する樹脂は、ガラス繊維、炭素繊維およびアラミド繊維などの強化繊維を含んでいても良い。これらの中でも、母体を構成する樹脂としては、母体の強度を向上させる観点から、ガラス繊維を含む熱可塑性樹脂が好ましく、ガラス繊維を含むポリオレフィンがより好ましい。
【0040】
伝熱性部位116は、母体よりも熱伝導性が高ければよい。たとえば、伝熱性部位116は、0.1W/m・K以上500W/m・K以下、好ましくは1.0W/m・K以上500W/m・K以下、より好ましくは3.0W/m・K以上500W/m・K以下の熱伝導率を有すればよい。伝熱性部位116は、たとえばアルミ、鉄、チタン、および銅などの金属部材、ならびに炭素繊維などから形成することができる。これらのうち、軽量であることから、炭素繊維が好ましい。
【0041】
伝熱性部位116は、アルミ、鉄、チタン、および銅などの金属部材、ならびに炭素繊維を、樹脂で被覆した構造であることが好ましい。樹脂で被覆することにより、放熱による伝熱性部位116の冷却を樹脂により抑制できる。例えば、複数の金属部材又は炭素繊維を一方向に配向させ、樹脂で被覆した部材を伝熱性部位116として好適に用いることができる。
【0042】
上記炭素繊維は、一方向に配向した複数の炭素繊維がマトリクス樹脂中に保持されて保護された構成とすることができる。一方向に配向した炭素繊維は、配向した方向への熱伝導性が高い。また、マトリクス樹脂は熱伝導性が炭素繊維に比べて低い。そのため、上記炭素繊維を、ブレード110の、閉状態において他のブレード110と接触する一方の端部から、閉状態においてさらに他のブレード110と接触する他方の端部へと向かう方向(つまり、ブレード110の回動軸112直交する方向)に配向させることで、ブレード110間の熱伝導性をより高めると共に、放熱による伝熱性部位116の冷却をマトリクス樹脂により抑制することができる。
【0043】
なお、伝熱性部位116は、上記一方向に配向した炭素繊維の層が複数個積層された構成であってもよい。このとき、上記複数の層のうちに、炭素繊維の配向方向が異なる層を含ませることで、伝熱性部位116の強度を高めて、羽114aおよび羽114bの剛性を高めることができる。たとえばシャッター100を自動車のグリルシャッターとして使用するとき、閉状態において羽114aおよび羽114bが走行風によってたわみ、ブレード110間に隙間ができて風が自動車のエンジンルーム内に入ってしまって、燃費が低下してしまうことがある。これに対し、羽114aおよび羽114bの剛性を高めて走行風によるたわみを抑制することで、自動車の燃費をより高めることも可能である。ただし、炭素繊維の配向方向が異なる層は、伝熱性部位116において、ブレード110から他のブレード110へと向かう方向とは異なる方向にも熱を伝導してしまうため、ブレード110間の熱伝導性を低下することもある。そのため、要求される熱伝導性と剛性とのバランスを考慮して、各層の配向方向を決定すればよい。伝熱性をより高める観点からは、伝熱性部位116は、上記複数の層のうちすべての層において、炭素繊維が同じ方向(ブレード110の回動軸112直交する方向)に配向していることが好ましい。
【0044】
なお、羽114aおよび羽114bの剛性を高める観点からは、伝熱性部位116とは別に、炭素繊維の配向方向が伝熱性部位116とは異なる樹脂-炭素繊維複合層を設けてもよい。この樹脂-炭素繊維複合層を、ヒータから複数のブレード110を介する伝熱経路に接続しない(つまり、伝熱性部位116とは接触しない)位置に配置すれば、炭素繊維の配向方向が異なることによる伝熱性の低下は生じない。この樹脂-炭素繊維複合層を、炭素繊維の配向方向が異なる複数の層の積層体とすることで、羽114aおよび羽114bの剛性をより高めることができる。
【0045】
カーボンファイバーは、ピッチ系およびPAN系などのいかなる炭素繊維であってもよいが、伝熱性をより高める観点からは、ピッチ系の炭素繊維が好ましい。
【0046】
伝熱性を十分に高める観点からは、炭素繊維は、平均直径が1μm以上20μm以下であることが好ましく、4μm以上10μm以下であることがより好ましい。なお、それぞれの炭素繊維は、ブレード110の表面における端部から端部まで切断部位なしに到達する長さを有することが好ましい。
【0047】
炭素繊維は、サイジング剤によりサイジング処理されていてもよい。
【0048】
サイジング剤は特に限定されないが、変性ポリオレフィンが好ましく、カルボン酸金属塩を含む変性ポリオレフィンより好ましい。上記変性ポリオレフィンは、たとえば、未変性ポリオレフィンの重合体鎖に、カルボン酸基、カルボン酸無水物基またはカルボン酸エステル基をグラフト導入し、かつ上記官能基と金属カチオンとの間で塩を形成させたものである。
【0049】
上記未変性ポリオレフィンは、エチレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上であるエチレン系重合体、またはプロピレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上であるプロピレン系重合体であることが好ましい。上記エチレン系重合体の例には、エチレン単独重合体、およびエチレンと炭素原子数3以上10以下のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。上記プロピレン系重合体の例には、プロピレン単独重合体、およびプロピレンとエチレンまたは炭素原子数4以上10以下のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。上記未変性ポリオレフィンは、ホモポリプロピレン、ホモポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、またはエチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体であることが好ましい。
【0050】
また、炭素繊維は、集束されて繊維束となっているものを開繊して用いてもよい。このとき収束された炭素繊維束あたりの単糸数は、100本以上100,000本以下であることが好ましく、1,000本以上50,000本以下であることがより好ましい。
【0051】
伝熱性部位116の全質量に対する、炭素繊維の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上65質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。
【0052】
伝熱性部位116の全体積に対する、炭素繊維の含有量は、10体積%以上70体積%以下であることが好ましく、15体積%以上60体積%以下であることがより好ましく、20体積%以上60体積%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
炭素繊維を保持するマトリクス樹脂の材料は、特に限定されない、マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。また、マトリクス樹脂は、結晶性樹脂であってもよいし、非結晶性樹脂であってもよい。
【0054】
熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などが含まれる。
【0055】
熱硬化性樹脂の例には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびジアリルテレフタレート樹脂などが含まれる。
【0056】
これらのうち、成形サイクルの短い射出成型により製造できるため製造コストが小さくなりやすいため、熱可塑性樹脂が好ましい。また、熱可塑性樹脂のうち、ポリアミド樹脂およびポリオレフィン樹脂が好ましく、湿度可変の環境における安定性を高める観点からは、ポリオレフィン樹脂がより好ましく、ポリプロピレン樹脂がさらに好ましい。
【0057】
マトリクス樹脂は、添加剤を含む樹脂組成物であってもよい。添加剤の例には、公知の充填材(無機充填材、有機充填材)、顔料、染料、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、酸化防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、および軟化剤などが含まれる。たとえば、レーザーの照射によってマトリクス樹脂を融解させて母体に接着させて、伝熱性部位116を形成するときは、マトリクス樹脂は、照射する波長のレーザーを吸収する色素を含有する樹脂組成物であることが好ましい。上記色素は、300nm以上3000nm以下のいずれかの波長の光を吸収する色素であればよく、カーボンブラックであることが好ましい。
【0058】
また、マトリクス樹脂は、上記以外の樹脂や、上記炭素繊維よりも短い長さの短繊維などの他の成分を含んでいてもよい。
【0059】
伝熱性部位116の全質量に対する、マトリクス樹脂の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、25質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、35質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以上65質量%以下であることが特に好ましい。
【0060】
上述した、炭素繊維がマトリクス樹脂に保持された伝熱性部位116は、一方向に配向して配列された複数の強化繊維と、上記強化繊維に含浸されたマトリクス樹脂と、を有する薄膜状の繊維強化樹脂(単に「UDシート」ともいう。)を用いて製造することができる。たとえば、レーザーの照射によってマトリクス樹脂を融解させて、UDシートを母体に融着させてもよいし、接着剤でUDシートを母体に貼り付けてもよいし、あるいはボルトなどでUDシートを母体に固定してもよい。また、UDシートを配置した金型中に母体の材料となる樹脂を射出して、インサート成形により伝熱性部位116を有するブレード110を製造してもよい。インサート成形によりブレード110を製造するときは、マトリクス樹脂は熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0061】
なお、上述の実施形態は本発明の一例を示すものであり、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において、他の種々多様な各実施形態も可能であることは言うまでもない。
【0062】
たとえば、上述の実施形態ではフレームの上下枠のそれぞれにヒータを配置していたが、上下のうち一方のみにヒータを配置してもよい。また、上下枠のそれぞれに複数のヒータを配置して、複数箇所から熱を伝導させてもよい。また、ヒータは左右枠などの別の位置に配置されていてもよいし、あるいはシャッターの外部にヒータを配置してもよい。
【0063】
また、上述の実施形態ではフレームのストッパからブレードに熱を伝導していたが、別の部材をブレードに接触させて、あるいは非接触で、ブレードに熱を伝導させてもよい。
【0064】
また、上述の実施形態では伝熱性部位がマトリクス樹脂に保持された炭素繊維である構成について詳しく説明したが、伝熱性部位は平板状の金属部材や、金属繊維などの伝熱性の繊維がマトリクス樹脂に保持された構成であってもよい。また、上述の実施形態では、ブレードが、熱伝導性が低い母体と熱伝導性が高い伝熱性部位とを有していたが、熱伝導性が高い材料により母体を形成して、あるブレードの母体から他のブレードの母体へと熱を伝導させる構成であってもよい。
【0065】
また、上述の実施形態ではシャッターが自動車のグリルシャッターである例を説明したが、シャッターの用途はこれに限定されず、家屋の窓(ブラインド)や、農業用ハウスへの外光の入射量を調整するための調光部材などであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に関するシャッターは、凍結による開閉動作の阻害を生じにくくし、また凍結時にも早急に氷を融解させて動作を回復させることができる。そのため、本発明は、寒冷地や、使用中に冷却される用途におけるシャッターの利用およびさらなる開発を促進し、各種分野の発展に寄与すると期待される。
【符号の説明】
【0067】
100 シャッター
110 ブレード
112 回動軸
114a、114b 羽
116 伝熱性部位
120 フレーム
121 リンク
122 モーター
124a、124b ストッパ
126a、126b ヒータ
128a、128b 熱伝導体