(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008853
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】バイオセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/327 20060101AFI20230112BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
G01N27/327 353Z
G01N27/416 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100264
(22)【出願日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2021111534
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 勝久
(57)【要約】
【課題】気泡残りを抑えることができる。
【解決手段】検体に含まれる測定対象成分を測定するためのバイオセンサであって、測定領域が形成された上面を有する基板と、一部が切り抜かれた切抜部を有し、測定領域が切抜部の内側に位置するように上面の上に積層するスペーサと、一部が切り抜かれた空気孔を有し、切抜部を覆ってスペーサの上に積層するカバーとを備え、基板、スペーサ、およびカバーによって検体が供給される供給口を有するとともに空気孔に連通する検体の流路が形成されている。流路の側壁は切抜部によって構成されており、流路の下流端を形成する切抜部の下流縁部、および、下流縁部から連続するスペーサの一部である露出部が、空気孔の上面視において空気孔内に突出している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定領域が形成された上面を有する基板と、
一部が切り抜かれた切抜部を有し、前記測定領域が前記切抜部の内側に位置するように前記上面の上に積層するスペーサと、
一部が切り抜かれた空気孔を有し、前記切抜部を覆って前記スペーサの上に積層するカバーと、を備え、
前記基板、前記スペーサ、および前記カバーによって検体が供給される供給口を有するとともに前記空気孔に連通する前記検体の流路が形成されており、前記流路の側壁は前記切抜部によって構成されており、
前記流路の下流端を形成する前記切抜部の下流縁部、および、前記下流縁部から連続する前記スペーサの一部である露出部が、前記空気孔の上面視において前記空気孔内に突出している、
検体に含まれる測定対象成分を測定するためのバイオセンサ。
【請求項2】
前記基板面上において、前記空気孔の前記検体の供給方向における寸法が、前記供給方向と直角方向における寸法よりも大きい、請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記空気孔は、前記検体の供給方向における寸法が、前記供給方向と直角方向における寸法よりも大きい長円形の形状である、請求項2に記載のバイオセンサ。
【請求項4】
前記空気孔は、前記検体の供給方向を含む水平面において前記供給方向と垂直な方向において、前記流路の中央に位置するように形成されている、請求項2に記載のバイオセンサ。
【請求項5】
前記露出部の表面は表面改質されており、
前記露出部の表面の接触角は、当該表面改質していない前記スペーサの部分の接触角より大きい、請求項1から4のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項6】
前記空気孔は、レーザ光の照射により形成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載のバイオセンサ。
【請求項7】
前記空気孔は、レーザ光の照射により形成されている、請求項5に記載のバイオセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、供給口から供給された検体を測定領域に供給するための流路と、検体によって押し出される流路に充填する空気を排出するための空気孔とを備える。従来、流路に面する空気孔が反対面よりも大きく形成されたバイオセンサがある(例えば、特許文献1参照)。また、検体の流路に面する空気孔の縁の高さが反対面よりも低く形成されたバイオセンサがある(例えば、特許文献2参照)。また、空気孔周辺の流路の上面が撥水性であり、流路の下流側の端部が空気孔と連通するバイオセンサがある(例えば、特許文献3参照)。また、流路の途中に複数の空気孔が設けられたセンサストリップがある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-249491号公報
【特許文献2】特表2005-274252号公報
【特許文献3】特開2013-257310号公報
【特許文献4】特許第4555686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バイオセンサは一辺が数mm~数十mm程度の大きさであり、その空気孔の一辺(円形の場合は直径)は数十μm~数千μmであるため、検体の流路に対する空気孔の加工精度の正確性には限界がある。このため、バイオセンサの製造時において、空気孔の位置ずれを考慮する必要がある。特許文献1、2に示された従来技術では、空気孔が流路の下流端から少し上流位置に形成されており、空気孔の位置ずれの影響は少ない。しかしながら、この形状では、空気孔の下流側における流路に気泡が残りやすい問題がある。特許文献3に示された従来技術では、流路の下流端に空気孔の下流側端部に一致して形成されている。この形状では、空気孔が流路の上流側にずれて形成された場合に、空気孔の下流側に気泡が残りやすい問題がある。加えて、空気孔が形成されていない下流端の部分に気泡が残りやすい傾向にあった。さらに、特許文献4に示す従来技術では、空気孔の位置ずれの影響は少ないものの、複数の空気孔を流路の中流に備えるため、各空気孔の下流側や空気孔の間に気泡がより残りやすい問題がある。
【0005】
気泡は液体中を移動しやすい性質があるため、検体が流路に充填された状態で、流路中に気泡が残っていると、気泡が検体中を移動することがあり、これに連れて、流路中に充填された検体の位置が相対的に移動することがある。特に、空気孔近くに気泡が残った場合には、空気孔から気泡が排出されやすく、加えて、気泡が勢いよく移動するため検体の移動量も大きくなる。このような現象が発生した場合、測定領域に存在する試薬と反応した測定対象成分が測定領域の外に(測定領域から下流側に)移動してしまうことがある。また、対象成分の測定時に気泡の移動が発生した場合、測定領域で測定対象となっている測定対象成分が変わってしまうことがある。これらの結果、検体中の測定対象物の測定値にばらつきが生じる虞があるため、バイオセンサの流路中には気泡が残らないような形状が求められていた。
【0006】
本発明は、流路中に気泡が残り難いバイオセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、検体に含まれる測定対象成分を測定するためのバイオセンサである。このバイオセンサは、測定領域が形成された上面を有する基板と、一部が切り抜かれた切抜部を有し、測定領域が切抜部の内側に位置するように上面の上に積層するスペーサと、一部が切り抜かれた空気孔を有し、切抜部を覆ってスペーサの上に積層するカバーとを備え、基板、スペーサ、およびカバーによって検体が供給される供給口を有するとともに空気孔に連通する検体の流路が形成されている。流路の側壁は切抜部によって構成されており、流路の下流端を形成する切抜部の下流縁部、および、下流縁部から連続するスペーサの一部である露出部が、空気孔の上面視において空気孔内に突出している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、気泡残りを抑えることができる好適なバイオセンサを提供できるに至った。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係るバイオセンサの構成例を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るバイオセンサの一部の構成例を示す平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す実施形態に係るバイオセンサの一部をA-A線で切断した場合の断面図である。
【
図4】
図4は、実験1で評価した空気孔の形状及び位置のパターンを示す図である。
【
図5】
図5は、円形の場合と長円形の場合との空気孔の形状の詳細説明図である。
【
図6】
図6は、実験3で評価した気泡残りが無い場合と、流路中に残った気泡によって検体が移動した場合のヘマトクリット測定に係る応答信号のタイムコースを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態では、検体に含まれる測定対象成分を測定するためのバイオセンサについて説明する。このバイオセンサは、以下を特徴とする。すなわち、測定領域が形成された上面を有する基板と、一部が切り抜かれた切抜部を有し、測定領域が切抜部の内側に位置するように上面の上に積層するスペーサと、一部が切り抜かれた空気孔を有し、切抜部を覆ってスペーサの上に積層するカバーと、を備える。基板、スペーサ、およびカバーによって検体が供給される供給口を有するとともに空気孔に連通する検体の流路が形成されており、流路の側壁は切抜部によって構成されており、流路の下流端を形成する切抜部の下流縁部、および、下流縁部から連続するスペーサの一部である露出部が、空気孔の上面視において空気孔内に突出している。
【0011】
上記した構成を有するバイオセンサによれば、下流縁部および露出部が空気孔の上面視において空気孔内に突出していることで、流路内の空気を空気孔から好適に逃がすことができる。これによって、気泡残りを抑えることができる。また、バイオセンサでは、基板面上において、空気孔の検体の供給方向における寸法が、供給方向と直角方向における寸法よりも大きくてもよい。換言すれば、バイオセンサでは、空気孔の検体の供給方向における寸法が供給方向に水平方向に垂直な方向(供給方向を含む平面において供給方向に直交する方向)における寸法よりも大きくてもよい。例えば、検体の供給方向に長い長方形又は長円形を含む形に形成される。これによって、空気孔の形状が円形或いは正方形である場合に比べて、空気孔の位置が製造時の誤差(ロット間差)によって、検体の供給方向に多少ずれても、切抜部の縁部と重なる状態とすることができる。このため、気泡残りを抑えることができる好適なバイオセンサを容易に形成可能となる。
【0012】
検体は、例えば生物学的な試料である。生物学的な試料は、例えば、血液、間質液、尿などの液体試料を含む。測定対象成分は、グルコース(血糖)、ラクテート(乳酸)、または血球(ヘマトクリット)の割合(ヘマトクリット値)などを含む。
【0013】
バイオセンサは、以下の構成を採用し得る。すなわち、露出部の表面は表面改質されており、露出部の表面の接触角は、当該表面改質していないスペーサの部分の接触角より大きい。一例として、空気孔は、スペーサの上に重ねられたカバーにレーザ光を照射することによって形成されており、空気孔の形成時にカバーを貫通するレーザ光が当たることで変形したスペーサの部分の接触角は、レーザ光によって変形していないスペーサの部分の接触角より大きい。レーザ光が当たった部分はレーザ光の熱で変形し、疎水性が大きい凹凸を形成する。これによって、スペーサの、レーザ光が当たった部分の接触角はレーザ光が当たっていない部分の接触角より大きくなるため、流路内の検体が流路の下流端を形成する切抜部の検体の供給方向の縁部である下流縁部で停まり、空気孔からあふれ出ることが抑えられる。別の一例として、基板に積層する前に予め、露出部の表面を含むエリアの接触角が大きくなるように表面改質したスペーサを用いて製造したバイオセンサを用いても良い。
【0014】
以下、図面を参照して、実施形態におけるバイオセンサについて説明する。以下に説明する実施形態の構成は例示であり、本発明は実施形態の構成に限定されない。
【0015】
以下の実施形態では、分析用具であるバイオセンサの一例として、検体として血液(全血)を用い、測定対象成分として血液中のグルコース値の測定を行い、さらに血液中のヘマトクリット値を測定し、ヘマトクリット値でグルコース値を補正可能なバイオセンサについて説明する。
【0016】
<バイオセンサの構成>
図1、
図2及び
図3は、実施形態に係るバイオセンサの構成例を示す。
図1は、バイオセンサの分解斜視図を示す。
図2は、バイオセンサの一部を示す平面図であり、流路の構成を示す。
図3は、
図2に示すバイオセンサをそのA-A線で切断した場合の断面を示す。なお、
図3では、電極層2及び試薬20の図示は省略している。
【0017】
図1において、バイオセンサ10は、長さ方向(X方向)と、幅方向(Y方向)と、高さ方向(Z方向)とを有する。長さ方向(X方向)が検体の供給方向であり、幅方向(Y方向)は検体の供給方向に対して水平方向に垂直な方向(検体の供給方向を含む水平面において、検体の供給方向と直交する方向)であり、高さ方向(Z方向)が積層方向であるともいえる。バイオセンサ10は、電極層2を有する絶縁性の基板1と、スペーサ3と、カバー5とをZ方向に積層して接着することにより形成される。
【0018】
基板1は、長さ方向と幅方向とを有し、長さ方向において一端1aと他端1bとを有する平面長方形の平板状に形成されている。基板1は、電極層2が形成された上面1Aと、上面1Aの反対側にある下面1Bとを有する。
【0019】
基板1は、例えば合成樹脂(プラスチック)を用いて形成される。合成樹脂として、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリレート(PMMA)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ガラスエポキシのような各種の樹脂を適用することができる。但し、基板1には、合成樹脂以外の絶縁性材料を適用可能である。絶縁性材料は、合成樹脂の他、紙、ガラス、セラミック、生分解性材料などを含む。本実施形態では、基板1は、ポリエチレンテレフタレート(PET)によって形成されている。
【0020】
本発明のバイオセンサには、検体に含まれる測定対象成分を測定する領域である測定領域が形成されており、本実施形態のバイオセンサにおいて、基板1の上面1Aに、電極層2が形成された測定領域を備えている。本実施形態において、電極層2は、電極2a~2eを含む。
図2は、バイオセンサ10の一部を示す図として、スペーサ3及びカバー5が積層された基板1の一端1a側の部分の状態を示している。電極2aは、ヘマトクリット測定用の作用極である。電極2bは、ヘマトクリット測定用の対極である。電極2cは、グルコース測定用の作用極である。電極2dは、グルコース測定用の対極である。電極2eは、検体検知極である。本発明のバイオセンサでは、流路に露出した電極2a~2eが形成された領域が測定領域となる。但し、電極の数及び種類は、上記した例に制限されない。
【0021】
電極層2は、例えば、金(Au),白金(Pt),銀(Ag),パラジウム,ルテニウム、ニッケルのような金属材料およびその合金、或いはカーボンのような炭素材料を用いて形成される。本実施形態では、金属材料としてのニッケルバナジウム合金を物理蒸着(PVD,例えばスパッタリング)、或いは化学蒸着(CVD)によって基板1の上面1Aに成膜することによって、所望の厚さを有する金属層として形成し、レーザ光で所定の電極パターンを描くことにより、電極2a~2eが形成されている。但し、上記した例に制限されず、例えば、電極材料をスクリーン印刷で基板1上に印刷することで形成してもよい。
【0022】
スペーサ3は、切抜部4を有するU字状の形状を有し、後述する検体の流路9の形成に使用される。カバー5は、スペーサ3の上に重ねられる。このため、カバー5は、スペーサ3の平面形状に合わせた矩形状を有する。なお、スペーサ3、カバー5は一体形成されていても、されていなくてもよい。本実施形態では、スペーサ3は、接触角(疎水性)がカバー5より低いアクリル樹脂(PMMA)によって形成されており、カバー5は、親水フィルムによって形成されている。
【0023】
電極層2が形成された基板1、スペーサ3、及びカバー5の積層により、基板1の一端1a側(長さ方向の一端側)には、スペーサ3の切抜部4によって形成された供給口9aを有する空間が形成される。すなわち、切抜部4によって露出する(スペーサ3で被覆されない)上面1Aによる底面と、スペーサ3の厚みによる側壁(切抜部4の内面により形成される側壁)と、カバー5の下面による天井面(上壁)で囲まれた空間が形成される。この空間が検体の流路9として使用される。流路9はX方向が3.7mm、Y方向が1.8mmとなる。供給口9aは流路に検体を供給する開口として使用され、言い換えるとバイオセンサに検体を供給する検体供給口として使用される。なお、供給口9aは
図1に例示したようなバイオセンサの長さ方向の側面に形成されることに限定されず、例えば、バイオセンサの幅方向の側面や、基板1やカバー5に供給口9aのための開口である切抜きが形成され、高さ方向から流路9に検体を供給できる形状であってもよい。
【0024】
流路9の側壁をなす切抜部4の縁部は、
図2に示すように、長さ方向であるX方向に延びる幅方向縁部3bと、幅方向であるY方向に延び、流路の下流端を構成する下流縁部3aと、幅方向縁部3bと下流縁部3aとを接続する接続縁部3cとからなる。下流縁部3a、幅方向縁部3bおよび接続縁部3cによって、電極層2の流路9に露出する部分と、電極層2のスペーサ3により被覆される部分とが隔てられ、流路9の側壁を構成している。なお、接続縁部3cは省略され、幅方向縁部3bと下流縁部3aとが直接に接続されていてもよい。また、接続縁部3cは流路の下流端の一部であるとも言える。
【0025】
カバー5には、カバー5を貫通し、流路9に通じる空気孔7が形成されている。空気孔7の側壁はZ方向に沿って形成されており、空気孔7の上側の開口と、下側の開口とはほぼ同じ面積を有している。バイオセンサ10の高さ方向(Z方向)である基板1、スペー
サ3、カバー5が積層されている方向(積層方向)の逆方向から見た場合、すなわちバイオセンサ10の平面視において、空気孔7内には、流路9の下流端を形成する切抜部4の下流縁部3a、および、下流縁部3aから連続するスペーサ3の一部が突出している。言い換えると、空気孔7又はカバー5を真上からみた場合(空気孔7又はカバー5を上面視(平面視)した場合)において、空気孔7によって、流路9の下流端を形成する切抜部4の下流縁部3a、および、下流縁部3aから連続するスペーサ3の上面(露出部6と称する)が露出し、空気孔7によって外部に晒されている。空気孔7の下側の開口(流路9と連通する部分)の一部が、露出部6に該当するスペーサ3の一部によって塞がれているとも言える。また、空気孔7は、切抜部4の下流縁部3aと積層方向視で重なっている(交わっている)とも言える。
【0026】
空気孔7の形状は、一例として、幅方向であるY方向の寸法よりも、長さ方向であるX方向の寸法が長い形状に形成される。例えば、
図5に示すような、X方向が0.5mm、Y方向が0.2mm、約0.09mm
2の面積の長円形に形成される。
図5では、積層方向視で空気孔7によってスペーサ3が被覆されておらず、流路9の上面が露出する流路連通部分と、積層方向視で下流縁部3aから連続するスペーサ3の一部が空気孔7内に突出し、露出部6が露出している突出部分との割合や、それぞれの部分の面積は特に限定されず、流路9への検体導入時に流路9内に充填されていた空気を空気孔7から排出されやすく、流路9内に気泡が残りにくい条件が設定される。本実施形態のバイオセンサでは、
図5で示した長円形の空気孔7の流路連通部分と突出部分とを3:2で分けるように、下流縁部3aと重なる位置としている。ただし、空気孔7の形状は
図5で示した長円形の形状以外にも、円形や、三角形または矩形などの多角形、その他、切抜部の下流縁部、および、下流縁部から連続する露出部が、空気孔の上面視において空気孔7内に突出できるような形状であれば、どのような形状であってもよい。また、空気孔7は1つだけではなく、複数形成されていてもよい。また、空気孔7は、検体の供給方向(すなわちX方向)を含む水平面において検体の供給方向と垂直な方向(Y方向)において、流路9の中央に位置するように形成されている。
【0027】
図2に示すように、流路9内において、電極層2(電極2a~2e)の一部が露出している。電極2cおよび電極2d(グルコース測定用の作用極および対極)上には試薬20が載置して設けられる(固定化される)。一方、ヘマトクリット測定用の電極対(電極2a、2b)上には、試薬が設けられていない。ただし、試薬が設けられていてもよい。電極2eは検体が流路9に導入されたことを検知するために用いられる。
【0028】
試薬20は、酵素を含む。試薬20はさらにメディエータを含んでもよい。酵素は試料の種別や測定対象成分に応じて適宜選択される。測定対象成分が血液や間質液中のグルコースである場合、グルコースオキシダーゼ(GOD)やグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)が適用される。メディエータは、例えば、フェリシアン化物、p-ベンゾキノン、p-ベンゾキノン誘導体、フェナジンメトサルフェート、メチレンブルー、フェロセン、フェロセン誘導体、ルテニウム錯体等である。これらの中で、ルテニウム錯体がより好ましい。
【0029】
また、基板1の他端1b側に位置する電極層2(電極2a~2e)の端部は、スペーサ3及びカバー5によって被覆されずに露出する。電極2a~2eの端部は、バイオセンサ10がグルコース濃度及びヘマトクリット値を測定する測定装置に装着された場合に、測定装置内の回路と電気的に接続される。
【0030】
バイオセンサ10は、バイオセンサ10が測定装置に装着された装着状態で使用される。測定を開始する場合、まず、この装着状態で供給口9aに検体(血液)を接触させる。すると、流路9の毛管力によって、検体は流路9内に引き込まれ、基板1の他端1b側へ
流れ、流路9内を満たす。このとき、流路9内に充填されていた空気は検体に押し出されることによって空気孔7から排出される。流路9内を満たす検体は電極2a~2eと接触するとともに、電極2c、2d上に載置されている試薬20と接触して試薬20を溶解する。測定装置では、検体が流路9内に導入されたことにより、電極2eとその他のいずれかの電極(2a~2d)との間で導通することを電気的な信号によって検知し、測定を開始する。
【0031】
例えば、まず、測定装置は、ヘマトクリット測定用の電極対である電極2aと電極2bとの間にDC電圧(第1の電圧)を印加し、第1の電圧印加に対する応答信号を応答電流値として測定する。測定装置は、第1の電圧印加に対する応答電流値からヘマトクリット値を算出する。次に、測定装置は、グルコース測定用の電極対である電極2cと電極2dの間に、DC電圧(第2の電圧)を印加し、第2の電圧印加に対する応答信号を応答電流値として測定する。測定装置は、第2の電圧印加に対する応答電流値からグルコース濃度に換算する。さらに、グルコース濃度の換算値を、ヘマトクリット値で補正する。なお、グルコース濃度の補正は、ヘマトクリット値の代わりに、第1の電圧印加に対する応答電流値を用いてもよい。
【0032】
なお、このようなグルコース濃度の測定方法は一例であって、本発明のバイオセンサにおいて、血液中のグルコース濃度のような検体に含まれる測定対象成分を測定するための測定方法や、その測定方法を実施するための測定領域の形状、または試薬の種類および設置方法は多様な形態をとり得る。例えば、電極を用いた電極法に限らず、測定対象成分と試薬との反応を検出する比色法を測定方法とするバイオセンサであってもよい。比色法の場合は、流路中の試薬が載置された領域が測定領域となり、反応による色調変化を検出することによって測定される。比色法を測定方法とするバイオセンサでは、基板1上に試薬が載置されていればよく、電極層2は形成されていなくてもよい。比色法においても測定領域に空気が残存すると、色調変化の検出値に影響するため、本発明のバイオセンサは有用である。
【0033】
<バイオセンサの製造方法>
バイオセンサ10は、一例として、以下のような製造方法により製造される。最初に、片面(上面)に金属膜が形成された樹脂シート(基板シート)を用意する。次に、レーザ光の照射装置を用いて、基板シートの金属層にレーザ光を照射し、その部分の金属膜を除去することにより、m行×n列分(m及びnは1以上の整数)の電極層2の電極パターンを描く。その後、電極2cおよび電極2d(グルコース測定用の作用極および対極)上に試薬20を載置して形成する。
【0034】
次に、基板シートの上面に、一部が切り抜かれた切抜部を複数有するスペーサ3となる材料をそれぞれの測定領域が、対応するそれぞれの切抜部4の内側に位置するように積層し、さらに、切抜部4を覆ってスペーサ3の上にカバー5となる材料を積層する。これによって、側壁は切抜部4によって構成されるとともに、検体が供給される供給口9aを有する流路9がそれぞれのバイオセンサ内に形成される。このとき、スペーサ3の材料としてPMMAを用いると、PMMAの粘着質により、基板シートとカバー5の材料とが接着される。このとき、スペーサ3とカバー5とを予め積層したものを基板シートの上面に接着してもよい。
【0035】
次に、基板シート上の各バイオセンサに関して、レーザ照射装置を用いてレーザ光を照射し、カバー5を貫通する空気孔7を形成する。このとき、空気孔7は、流路9に連通するとともに、流路9の下流端を形成する切抜部4の下流縁部3a、および、下流縁部3aから連続するスペーサ3の一部である露出部6が積層方向視で突出するように、カバー5の一部をレーザ光によって貫通して、切り抜いて形成される。また、レーザ照射装置(レ
ーザ光)をバイオセンサの長さ方向に沿って、各バイオセンサに相対的に移動することによって、長さ方向(X方向)における寸法が幅方向(Y方向)における寸法よりも大きい空気孔7を形成する。これによって、電極層上にスペーサ3及びカバー5が重ねられた状態での平面視において、長さ方向における寸法が幅方向における寸法よりも大きく、幅方向に延びた切抜部の縁部と重なるように空気孔7が形成される。
【0036】
レーザ光の照射は、レーザ光がカバー5の材料を貫通し、その下にあるスペーサ3、すなわち露出部6の表面に当てるようにして、レーザ光が当たった露出部6の表面部分をレーザ光の熱によって変形し、疎水性を向上させる凹凸を形成するように行うのが好ましい。変形による疎水性の向上により、レーザ光による表面改質によって変形した部分の接触角は、レーザ光によって変形していない部分の接触角より大きくなる。なお、接触角は検体である水とスペーサ3とを接触させて測定される。
【0037】
例えば、スペーサ3が粘着剤として使用されるPMMAにより形成されている場合の、レーザ光による表面改質によって変形した部分の接触角が、レーザ光によって変形していない部分の接触角より大きくなる原理について説明する。すなわち、スペーサ3がレーザ光の熱によりガラス転移温度を超えて溶解し、過冷却される。これによって、レーザ光によって変形したスペーサ3の部分の分子の並びが不均一(アモルファス)になり、物性(一般的には強度が挙げられる)が変化する。レーザ光によって変形した部分は、結果的に疎水性が増した構造で硬化したため、接触角が高くなった。疎水性の凹凸が形成(疎水性の壁が形成)されたとも言える。なお、PMMAのガラス転移温度は90度(概ね50度から150度)である。なお、レーザ光によるスペーサ3の材料の変形は、スペーサ3の材料がPMMAである場合に限定されず、PMMA以外の材料で、変形により疎水性が高まる凹凸を形成可能な材料であればよい。
【0038】
その後、基板シートの裁断によって、m×n個のバイオセンサの個片を切り出すことで、
図1~
図3を用いて説明した構成を有するバイオセンサ10が形成される。流路9の供給口9aは、スペーサ3の材料を基板シートの上面に積層した時点で形成されていても、個片の切り出し時に形成されてもよい。
【0039】
なお、空気孔7は、カバー5を貫通するレーザ光によって形成する方法に限定されず、たとえば、プレス加工による打ち抜きなどの物理的手段であってもよい。また、基板シートの上面にスペーサ3とカバー5をそれぞれ積層した後に空気孔7を形成する方法に限定されず、予めカバー5に空気孔7を任意の手段で形成しておき、空気孔7を流路9に連通するとともに、下流縁部3aおよび露出部6が積層方向視で空気孔7内に突出するように位置調整してカバー5を積層するようにしてもよい。その場合、スペーサ3の空気孔7から露出する部分に予め疎水性の表面改質処理を行なっていてもよい。
【実施例0040】
<実験1>
バイオセンサ10の効果を確認するため、以下のような実験(実験1)を行った。実験用のバイオセンサ10として、空気孔の形状と位置とが夫々異なる複数のバイオセンサを用意した。
図4は、空気孔の形状と空気孔の位置のパターンを示す図であり、
図5は、後述の標準の位置における空気孔の形状と下流縁部3aとの相対的な位置を拡大して示す図である。
【0041】
図5に示すように、空気孔の形状として、比較例である円形(
図5の左側)と、実施例である長円形(
図5の右側)とを用意した。円形は、レーザ照射装置をバイオセンサに対して移動せずに照射することによって空気孔を形成したものであり、長円形は、レーザ照射装置をバイオセンサの長さ方向(X方向)に沿って、各バイオセンサに相対的に0.3
mm移動することによって空気孔を形成したものである。円形は、直径0.2mmであり、長円形は、長さ方向(X方向)における寸法が幅方向(Y方向)より長く、長径が0.5mmで短径が0.2mmである。なお、レーザ照射装置によって空気孔を形成するとともに、露出部にもレーザが照射されるため、露出部は疎水性に表面改質されている。
【0042】
また、空気孔に関しては、長さ方向(X方向)において、基板1の一端1a(供給口9a)側と反対側である基板1の他端1b側で下流縁部3aと接する状態を標準の位置と定めた。
【0043】
図4に示すように、X方向において、標準の位置から他端1b側へずれるのを負のズレとし、一端1a側へずれるのを正のズレとした。Y方向のズレはなしとした。空気孔の負又は正の方向へのズレの大きさと、流路9内の気泡残りの状態との関係を以下の表1に示す。
【0044】
【0045】
円形の空気孔の場合、実験1における標準の位置では気泡が低い割合で残り、そこから負のズレとした場合には、-0.05mmでは、気泡が残らない結果となり、-0.1mmよりずれると空気孔が機能しない(形成しない)ため加工不良となり、正のズレとした場合には、0.05mm~0.10mmの範囲では気泡残り割合が低く、0.15mmでは気泡残り割合が高い結果となった。これに対し、長円形の空気孔の場合、標準の位置では気泡が低い割合で残り、そこから負のズレとした場合で評価した-0.05mm~-0.35mmでは、いずれも気泡が残らない結果となり、正のズレとした場合には、0.05mmでは気泡残り割合が低く、0.10mm~0.15mmでは気泡残り割合が高い結果となった。これによって、空気孔が機能する条件下で、下流縁部3aと重なる(交わる)状態、すなわち、積層方向視おいて、流路9の下流端を形成する切抜部4の下流縁部3a、および、下流縁部3aから連続するスペーサ3の一部が突出している状態であれば、流路9中に気泡残りを抑えることができることがわかった。空気孔が機能するとは、流路内に充填されていた空気を検体に押し出して排出する空気孔の機能である。空気孔が機能する条件下とは、空気孔から流路が露出する面積、言い換えると、平面視において、基板1の上面1Aが空気孔から露出する面積が、流路内に充填されていた空気を空気孔から押し出す程度に十分な大きさを有していることを指す。加えて、長円形の空気孔は、円形の空気孔に比べてX方向における位置のズレを許容する範囲が広いことがわかる。すなわち、長円形の空気孔にすることによって、空気孔の形成時の加工精度が緩和される。
【0046】
<実験2>
カバー5を貫通するレーザ光の照射により空気孔7を形成するとともに、このレーザ光の照射による表面改質によって変形したスペーサ3の部分に水を滴下して形成した接触角と、レーザ光による変形のない(無加工の)をスペーサ3の部分に水を滴下して形成した接触角を測定した。無加工のスペーサの部分の場合、接触角は85.96°であり、レーザ照射による変形したスペーサの場合、接触角は92.7°であった。従って、レーザ照
射による変形で接触角が大きくなり、空気孔7に向かって移動する検体をはじき、空気孔7から検体があふれるのを抑えることができることがわかる。スペーサ3が空気孔7に突出している露出部6を形成するだけでなく、さらに露出部6が疎水性である場合には、露出部6は、空気孔7から検体があふれるのを抑えることができる。
【0047】
<実験3>
図6は、ヘマトクリット測定時における第1の電圧の印加に対する応答電流値の時間的変化を示すグラフである。
図6におけるグラフAは、流路9に気泡残りが無い場合(正常な場合)における測定結果を示し、グラフBは、流路9に流路中に残った気泡が0.25sec付近で移動した場合の測定結果を示す。
【0048】
図6に示すように、正常な場合にはグラフAのように応答電流値は、一定の関数式に則って滑らかに単調減少するのに対し、流路9に流路中に残った気泡が移動すると、グラフBのように応答電流値が、単調減少した関数ではなく、不規則な形状となった。
図6の場合には、0.25sec付近までは単調減少したが、気泡の移動が開始した0.25sec付近から0.5sec付近までは応答電流値の変化量が少ない形となり、さらに0.6sec付近から再び単調減少となった。このような現象は、気泡が移動することにより、ヘマトクリット測定時にヘマトクリット測定用の電極2a、2b間に存在する検体(血液)が移動するために発生する。すなわち、気泡の移動によって流路中の検体は全体的に下流側に移動するとともに、液体であるため、検体に揺らぎ(波)が発生する。これによって、気泡の移動の前と後で、測定領域である電極上に存在し、測定対象となっていた検体が変化することによる影響と、気泡移動中および直後の検体の揺らぎ(波)による電気的な影響(印加電圧への影響および応答電流値取得の影響)が発生することによって生じる。ヘマトクリット乃至第1の電圧の印加に対する応答電流値は、グルコース濃度の補正に使用されるため、グラフBのような気泡残りは、ヘマトクリット及びグルコース濃度の測定精度に影響を与える。このような傾向はグルコース電極対を用いてグルコースを測定する場合でも同様に発生し得る。実施形態に係るバイオセンサ10では気泡残りを抑えることができたため、測定中に検体が移動することがなく、ヘマトクリット値及びグルコース濃度のような測定対象成分の測定精度に影響を与えるおそれが少ない。実施形態で説明した構成は適宜組み合わせることができる。