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  • 特開-発酵組成物、及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088538
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】発酵組成物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/12 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
A23C9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203339
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】594197388
【氏名又は名称】小岩井乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】仲野 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】久保 晴菜
(72)【発明者】
【氏名】桑平 秀夫
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC30
4B001AC31
4B001AC99
4B001BC14
4B001EC01
4B001EC02
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、乳酸菌等の生菌を一定濃度(cfu/mL)以上で含有し、かつ、pHが中性域である発酵組成物であって、製造後の冷蔵保存中の「酸味、酸臭の増大」、「pHの低下」及び/又は「乳酸菌等の生菌濃度(cfu/mL)の低下」が抑制された発酵組成物、及びその製造方法等を提供することにある。
【解決手段】本発明は、(a)1×10cfu/mL以上の、乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌、(b)乳原料及び/又は乳原料の発酵物、及び、(c)ラクトコッカス属細菌の死菌体を含有し、pHが6.0~7.4である発酵組成物、及び、その製造方法等に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1×10cfu/mL以上の、乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌、(b)乳原料及び/又は乳原料の発酵物、及び、(c)ラクトコッカス属細菌の死菌体を含有し、pHが6.0~7.4である発酵組成物。
【請求項2】
(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む製造方法により製造された、pHが6.0~7.4の発酵組成物。
【請求項3】
ラクトコッカス属細菌の死菌体の含有濃度が、1×10~1×1010個/gである請求項1又は2に記載の発酵組成物。
【請求項4】
発酵組成物がpH調整剤をさらに含有するか、又は、発酵組成物製造用乳原料がpH調整剤が添加された乳原料である、請求項1~3のいずれかに記載の発酵組成物。
【請求項5】
乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌が、ラクトコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の生菌である、請求項1~4のいずれかに記載の発酵組成物。
【請求項6】
冷蔵保存前の発酵組成物のpHと、冷蔵保存14日後の発酵組成物のpHの差が1未満である、請求項1~5のいずれかに記載の発酵組成物。
【請求項7】
発酵組成物の製造方法において、
(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む
ことを特徴とする、
発酵組成物の製造後の冷蔵保存中の、酸味、酸臭の増大、pHの低下及び/又は前記生菌の含有濃度(cfu/mL)の低下が抑制された、pHが6.0~7.4の発酵組成物の製造方法。
【請求項8】
発酵組成物の製造方法において、
(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む
ことを特徴とする、
pHが6.0~7.4の発酵組成物において、発酵組成物の製造後の冷蔵保存中の、酸味、酸臭の増大、pHの低下及び/又は前記生菌の含有濃度(cfu/mL)の低下を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌(以下、「ビフィズス菌」とも表示する。また、以下、乳酸菌とビフィズス菌をまとめて「乳酸菌等」とも表示する。)の生菌を一定濃度(cfu/mL)以上で含有し、かつ、pHが中性域である発酵組成物であって、製造後の冷蔵保存中の「酸味、酸臭の増大」、「pHの低下」及び/又は「乳酸菌等の生菌濃度(cfu/mL)の低下」が抑制された発酵組成物、及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
乳原料を乳酸菌等で発酵して得られる発酵乳等の発酵組成物は、タンパク質やカルシウムを多く含む栄養食品というだけでなく、乳酸菌等、それらの代謝物を含むために様々な生理効果が期待されており、近年ますます注目されている。かかる生理効果として、免疫力の向上、アレルギー疾患の改善、自律神経機能の改善、生活習慣病の予防・改善などの効果が知られている。また、特定の機能性効果に優れた乳酸菌等も広く研究されており、そのような優れた乳酸菌等を、発酵乳や乳酸菌飲料等の飲食品で積極的に摂取することを求める消費者の志向が近年、より一層高まっている。
【0003】
発酵乳や乳酸菌飲料等の発酵組成物はいずれも乳等を乳酸菌等の生菌で発酵させて製造される。しかし、かかる発酵組成物において、製品の製造直後(例えば乳原料を発酵した後、それを冷却した直後)は酸味がさほど強くないものの、製品製造後の冷蔵保存中(例えば流通過程での冷蔵保存など)に乳酸菌生菌が乳酸や酢酸をさらに生成することにより、pHが低下していくと共に、酸味や酸臭が増し、保存終期には酸味や酸臭が過度の状態になって風味が劣化するという問題(いわゆる、「冷蔵保存中の後酸生成あるいは後酸性化(post-acidification)」の問題)があった(特許文献1や特許文献2参照)。
かかる後酸生成を改善するための方法として、例えば特許文献1には、ヨーグルトの製造工程において、発酵終了後に氷温帯で熟成を行なうことにより、その後に起こる後酸生成を抑制もしくは減少させる方法が開示されており、特許文献2には、ラクトースを減少させた乳を原料として用いるなどして、発酵乳製品の後酸性化を抑制する方法が開示されている。しかし、これらの方法にも簡便性等の課題があった。
【0004】
ところで、乳酸菌等の死菌体を用いた技術として、特許文献3には、乳酸菌等の死菌体を容器詰コーヒー飲料に配合することによって、コーヒーのコク(飲みごたえ)を向上させる方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、発酵組成物のpHを中性域とし、かつ、ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加すると、発酵組成物製品の製造後の冷蔵保存中の「酸味、酸臭の増大」、「pHの低下」及び/又は「乳酸菌等の生菌濃度(cfu/mL)の低下」が抑制されることはこれまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-259802号公報
【特許文献2】特表2017-522012号公報
【特許文献3】特開2019-122316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、乳酸菌等の生菌を一定濃度(cfu/mL)以上で含有し、かつ、pHが中性域である発酵組成物であって、製造後の冷蔵保存中の「酸味、酸臭の増大」、「pHの低下」及び/又は「乳酸菌等の生菌濃度(cfu/mL)の低下」が抑制された発酵組成物、及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、本発明の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、
(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む製造方法によって、pHが6.0~7.4の発酵組成物を製造することにより(好ましくはさらに、発酵組成物製造用乳原料のpHをpH調整剤を用いて調整することにより)、本発明の課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)(a)1×10cfu/mL以上の、乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌、(b)乳原料及び/又は乳原料の発酵物、及び、(c)ラクトコッカス属細菌の死菌体を含有し、pHが6.0~7.4である発酵組成物;
(2)(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む製造方法により製造された、pHが6.0~7.4の発酵組成物;
(3)ラクトコッカス属細菌の死菌体の含有濃度が、1×10~1×1010個/gである上記(1)又は(2)に記載の発酵組成物;
(4)発酵組成物がpH調整剤をさらに含有するか、又は、発酵組成物製造用乳原料がpH調整剤が添加された乳原料である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の発酵組成物;
(5)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌が、ラクトコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の生菌である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の発酵組成物;
(6)冷蔵保存前の発酵組成物のpHと、冷蔵保存14日後の発酵組成物のpHの差が1未満である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の発酵組成物;
(7)発酵組成物の製造方法において、
(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む
ことを特徴とする、
発酵組成物の製造後の冷蔵保存中の、酸味、酸臭の増大、pHの低下及び/又は前記生菌の含有濃度(cfu/mL)の低下が抑制された、pHが6.0~7.4の発酵組成物の製造方法;や、
(8)発酵組成物の製造方法において、
(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む
ことを特徴とする、
pHが6.0~7.4の発酵組成物において、発酵組成物の製造後の冷蔵保存中の、酸味、酸臭の増大、pHの低下及び/又は前記生菌の含有濃度(cfu/mL)の低下を抑制する方法;
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乳酸菌等の生菌を一定濃度(cfu/mL)以上で含有し、かつ、pHが中性域である発酵組成物であって、製造後の冷蔵保存中の「酸味、酸臭の増大」、「pHの低下」及び/又は「乳酸菌等の生菌濃度(cfu/mL)の低下」が抑制された発酵組成物、及びその製造方法等を提供することことができる。
なお、かかる本発明によれば、健康面から多量の乳酸菌の生菌を摂取することを希望するものの、酸味や酸臭を好まない消費者に訴求する新たな発酵組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805株と、該株と同等の株(該株に由来する株及び該株が由来する株)との間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
[1](a)1×10cfu/mL以上の、乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌、(b)乳原料及び/又は乳原料の発酵物、及び、(c)ラクトコッカス属細菌の死菌体を含有し、pHが6.0~7.4である発酵組成物;
[2](A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む製造方法により製造された、pHが6.0~7.4の発酵組成物;
(上記[1]の発酵組成物と、[2]の発酵組成物を併せて、以下「本発明の発酵組成物」とも表示する。);
[3]発酵組成物の製造方法において、
(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む
ことを特徴とする、
発酵組成物の製造後の冷蔵保存中の、酸味、酸臭の増大、pHの低下及び/又は前記生菌の含有濃度(cfu/mL)の低下が抑制された、pHが6.0~7.4の発酵組成物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも表示する。);
[4]発酵組成物の製造方法において、
(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む
ことを特徴とする、
pHが6.0~7.4の発酵組成物において、発酵組成物の製造後の冷蔵保存中の、酸味、酸臭の増大、pHの低下及び/又は前記生菌の含有濃度(cfu/mL)の低下を抑制する方法(以下、「本発明の抑制方法」とも表示する。);
などの実施態様を含んでいる。
【0013】
(乳原料)
本明細書における「乳原料」は、特に明記しない限り、本発明における「乳原料」、「発酵物調製用乳原料」及び「発酵組成物製造用乳原料」を包含する概念である。本明細書における「発酵物調製用乳原料」とは、本明細書における「発酵物」を調製するために用いられる「乳原料」を意味し、本明細書における「発酵組成物製造用乳原料」とは、本明細書における「発酵組成物」を調製するために用いられる「乳原料」を意味する。
【0014】
本明細書における「乳原料」には、典型的には、乳等省令に定義される「乳」、すなわち、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分(すなわち8%以上)を含むものが挙げられるが、乳成分を含む組成物である限り特に制限されない。本明細書における「乳成分」としては、乳等省令に定義される「乳」由来の乳脂肪、及び、該「乳」由来の無脂乳固形分(例えば、該「乳」由来のタンパク質及び/又は該「乳」由来の糖)からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0015】
本明細書における「乳原料」は、乳、乳製品等を用いて調製することができる。「乳原料」として、乳及び/又は乳製品を用いる場合は、より具体的には、牛乳、水牛乳、羊乳、山羊乳、馬乳、濃縮乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、クリーム、バター、バターミルク、練乳、乳糖、乳タンパク質濃縮物、ホエイタンパク質濃縮物、及び、水からなる群から選択される1種又は2種以上を用いて調製することができる。
【0016】
本明細書における「乳原料」としては、乳成分の固形分の濃度が例えば1~18重量%、好ましくは2~16重量%、より好ましくは4~12重量%であるものが挙げられ、及び/又は、無脂乳固形分の濃度が例えば1~18重量%、好ましくは2~16重量%、より好ましくは2~14重量%、さらに好ましくは4~12重量%、6~10重量%若しくは7~9重量%であるものが挙げられ、及び/又は、乳脂肪分の濃度が例えば0~8重量%、好ましくは0.1~7重量%、より好ましくは0.5~4重量%又は1~3重量%であるものが挙げられる。
【0017】
(乳原料の発酵物)
本明細書における「乳原料の発酵物」とは、発酵物調製用乳原料を乳酸菌等で発酵したものを意味する。かかる「乳原料の発酵物」には、例えば、乳酸菌等の生菌濃度が1×10cfu/mL以上、好ましくは1×10~1×1010cfu/mLである、乳原料の発酵物が好適に挙げられる。
かかる「乳原料の発酵物」は、乳酸菌等の生菌濃度が1×10cfu/mL以上、好ましくは1×10~1×1010cfu/mLとなるまで、乳酸菌等の生菌で発酵物調製用乳原料を発酵させることにより製造することができる。
なお、本明細書における「乳原料の発酵物」には、便宜上、かかる乳原料の発酵物から、遠心分離等によって、乳酸菌等のみを単離したものも含まれる。
【0018】
(ラクトコッカス属細菌の死菌体)
本発明においてはラクトコッカス属細菌の死菌体を用いる。ラクトコッカス属細菌は、乳酸菌に分類される細菌である。ラクトコッカス属細菌の死菌体としては、ラクトコッカス属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の死菌体が挙げられ、好ましくは、ラクトコッカス・ラクティスからなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の死菌体が挙げられ、より好ましくは、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)(以下、単に「ラクトコッカス・ラクティス」とも表示する)、ラクトコッカス・ラクティス・バイオバリアント・ダイアセチラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis biovar diacetylactis)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、ラクトコッカス・ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis)、ラクトコッカス・ピシウム(Lactococcu spiscium)、ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス・ガルビエアエ(Lactococcus garvieae)、及び、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエ(Lactococcus lactis subsp. hordniae)からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の死菌体が挙げられ、さらに好ましくは、ラクトコッカス・ラクティスの死菌体が挙げられ、より好ましくは、ラクトコッカス・ラクティスJCM5805、ラクトコッカス・ラクティスJCM20101、ラクトコッカス・ラクティスNBRC12007、及び、ラクトコッカス・ラクティスNRIC1150からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の死菌体が挙げられ、特に好ましくは、ラクトコッカス・ラクティスJCM5805の死菌体が挙げられる。
【0019】
本明細書において挙げられている死菌体の菌株について、本発明の効果を有している限り、該菌株と同等の菌株も、該菌株に含まれる。ここで、同等の菌株とは、上記の菌株から由来している菌株または上記の菌株が由来する菌株若しくはその菌株の子孫菌株をいう。同等の菌株は他の菌株保存機関に保存されている場合もある。図1に、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805に由来する菌株、及び、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805が由来する菌株を示す。図1に記載のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805の同等の菌株も、本発明の効果を有している限り、本発明の死菌体として用いることができる。本明細書において、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスJCM5805(ラクトコッカス・ラクティスJCM5805)という場合、これらの同等の菌株も含む。
【0020】
本明細書における「ラクトコッカス属細菌の死菌体」は、ラクトコッカス属細菌の死菌体である限り特に制限されず、乾燥物であっても、非乾燥物であってもよいが、死菌体の保存安定性の観点から乾燥物であることが好ましく、例えば乾燥粉末が好適に挙げられる。
【0021】
ラクトコッカス属細菌の死菌体の調製方法は特に制限されず、例えば、ラクトコッカス属細菌を培養した培地を殺菌してから、ろ過、遠心分離等により菌体を集菌する方法や、ラクトコッカス属細菌を培養した培地から、ろ過、遠心分離等により菌体を集菌してから、殺菌する方法などを挙げることができ、必要に応じてさらに乾燥処理や破砕処理を行うことができる。
なお、殺菌の手段は特に制限されず、加熱のみならず、紫外線やγ線照射など、菌を死滅させる常套手段を用いることができる。
【0022】
本発明において、ラクトコッカス属細菌の死菌体は、発酵組成物を製造する際のいずれの工程で添加してもよい。例えば、本発明における発酵組成物を、上記工程Bを含む製造方法で製造する場合は、発酵物調製用乳原料の発酵工程前に、死菌体を発酵物調製用乳原料に添加してもよいし、発酵物調製用乳原料の発酵工程中に、死菌体を発酵物調製用乳原料に添加してもよいし、発酵物調製用乳原料の発酵工程の終了後に、死菌体を発酵組成物に添加してもよいが、発酵物調製用乳原料の発酵工程前に、死菌体を発酵物調製用乳原料に添加することや、発酵物調製用乳原料の発酵工程中に、乳酸菌の死菌体を発酵物調製用乳原料に添加することが好ましい。また、本発明における発酵組成物を、上記工程Aを含む製造方法で製造する場合は、ラクトコッカス属細菌の死菌体を発酵物調製用乳原料に添加してもよいし、発酵組成物製造用乳原料に添加してもよいが、発酵組成物製造用乳原料に添加することが好ましい。
【0023】
本発明におけるラクトコッカス属細菌の死菌体の使用量としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、発酵組成物当たりに含まれる乳酸菌の死菌体の個数(個/g)の単位で、例えば1×10~1×1010個/g、好ましくは5×10~1×1010個/gが挙げられる。
発酵組成物中のラクトコッカス属細菌の死菌体の個数は、直接鏡検法、粒子電気的検知帯法、PCR法にて計測することができる。
【0024】
(pH)
本発明における発酵組成物のpHとしては、6.0~7.4が挙げられ、好ましくは6.4~7.4が挙げられる。本明細書において、発酵組成物のpHの測定時について特に言及がない場合は、製造直後の発酵組成物のpHを意味する。発酵組成物のpHは、公知の方法にしたがって、例えばpHメーターなどを用いて20℃にて測定することができる。
【0025】
(pH調整剤)
本発明における「発酵組成物」は、pH調整剤を含んでいなくてもよいが、本発明の効果をより多く得る観点から、pH調整剤を含んでいることが好ましい。pH調整剤としては、食品衛生法上使用が可能であって、かつ、pHを調整し得る物である限り特に制限されないが、クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)、クエン酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、L-アスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸のナトリウム又はカリウム塩;や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基;や、その他食品衛生法上使用可能なpH調整剤が挙げられ、中でも、クエン酸三ナトリウムが好ましく挙げられる。pH調整剤は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
pH調整剤を含む場合のpH調整剤の含有濃度は特に制限されず、調整するpHに応じて適宜調整することができるが、例えば、発酵組成物全量に対するpH調整剤の濃度として、例えば0.01~3重量%、0.1~2重量%などが挙げられる。
【0027】
(乳酸菌等の生菌)
本明細書における「乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌」としては、乳酸菌と、ビフィドバクテリウム属細菌とからなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌である限り特に制限されないが、好ましくは、ラクトコッカス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上(好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上)の細菌の生菌が挙げられ、より好ましくは、1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のラクトコッカス属細菌と、1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のストレプトコッカス属細菌の生菌;や、
1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のラクトコッカス属細菌と、1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のラクトバシラス属細菌の生菌;や、
1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のストレプトコッカス属細菌と、1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のラクトバシラス属細菌の生菌;や、
1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のラクトコッカス属細菌の生菌;や、
1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のストレプトコッカス属細菌の生菌;や、
1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のラクトバシラス属細菌の生菌;が挙げられ、さらに好ましくは、1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のラクトコッカス属細菌の生菌;や、1種又は2種以上(好ましくは1種又は2種)のストレプトコッカス属細菌の生菌;が挙げられる。
【0028】
本発明における生菌の、より具体的な好ましい態様として、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・バイオバリアント・ダイアセチラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリス、ラクトコッカス・ラフィノラクティス、ラクトコッカス・ピシウム、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ガルビエアエ、及び、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエ、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィラス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)、ラクトバシラス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバシラス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバシラス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバシラス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノーサス(Lactobacillus casei subsp. rhamnosus)、ラクトバシラス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム(Bifidobacterium longum subsp. longum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティス(Bifidobacterium longum subsp. infantis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブスピーシーズ・アニマリス(Bifidobacterium animalis subsp. animalis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブスピーシーズ・ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アンギュラータム(Bifidobacterium angulatum)、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(Bifidobacterium catenulatum)、及び、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)からなる群から選択される1種又は2種以上(好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上)の細菌の生菌が挙げられ、
好ましくは、ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・バイオバリアント・ダイアセチラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリス、ラクトコッカス・ラフィノラクティス、ラクトコッカス・ピシウム、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ガルビエアエ、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエ、及び、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィラスからなる群から選択される1種又は2種以上(好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上)の細菌の生菌;や、
ラクトコッカス・ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・バイオバリアント・ダイアセチラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリス、ラクトコッカス・ラフィノラクティス、ラクトコッカス・ピシウム、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ガルビエアエ、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ホールドニアエ、ラクトバシラス・アシドフィラス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・デルブルッキー、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・パラカゼイ、ラクトバシラス・ガセリ、ラクトバシラス・ヘルベティカス、ラクトバシラス・ジョンソニ、ラクトバシラス・プランタラム、ラクトバシラス・ブレビス、ラクトバシラス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノーサス、ラクトバシラス・ペントーサス、及び、ラクトバシラス・ファーメンタムからなる群から選択される1種又は2種以上(好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上)の細菌の生菌;や、
ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィラス、ラクトバシラス・アシドフィラス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・デルブルッキー、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・パラカゼイ、ラクトバシラス・ガセリ、ラクトバシラス・ヘルベティカス、ラクトバシラス・ジョンソニ、ラクトバシラス・プランタラム、ラクトバシラス・ブレビス、ラクトバシラス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノーサス、ラクトバシラス・ペントーサス、ラクトバシラス・ファーメンタムからなる群から選択される1種又は2種以上(好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上)の細菌の生菌;
が挙げられる。
【0029】
(乳酸菌やビフィズス菌の至適生育温度による分類)
発酵組成物の製造に用いられる乳酸菌やビフィズス菌は、至適生育温度の違いによっても分類される。一般に、至適生育温度が約25~30℃の乳酸菌等は中温菌と呼ばれ、至適生育温度が37~45℃の乳酸菌等は高温菌と呼ばれる。
高温菌としては、例えば、ラクトバシラス・アシドフィラス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・デルブルッキー、ラクトバシラス・ガセリ、ラクトバシラス・ヘルベティカス、ラクトバシラス・ジョンソニ、ラクトバシラス・ブレビス、ラクトバシラス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノーサス、ラクトバシラス・ペントーサス、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィラス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムが挙げられ、中温菌としては、例えば、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・パラカゼイ、ラクトバシラス・プランタラム、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・バイオバリアント・ダイアセチラクティス、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・クレモリスが挙げられる。
なお、本発明に用いる乳酸菌等として、上記の高温菌及び中温菌の群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を用いることや、上記の高温菌の群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を用いることや、上記の中温菌の群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を用いることも挙げられ、中でも、上記の高温菌の群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を用いることが好ましく挙げられる。
【0030】
(乳酸菌等の入手法など)
本発明に用いる乳酸菌等の生菌の菌株や、乳酸菌の死菌体の菌株は、American type culture collection(米国)等の寄託機関などから入手することができる。また、本発明に用いる乳酸菌等の生菌として、市販のスターターカルチャーを用いてもよい。
【0031】
本発明における発酵組成物中の、乳酸菌等の生菌濃度としては、1×10cfu/mL以上である限り特に制限されず、例えば1×10~1×10cfu/mLや、1×10~5×10cfu/mLが好ましく挙げられる。
乳酸菌等の生菌濃度は、発酵組成物中の乳酸菌等の生菌数を、混釈平板培養法等により測定することができる。より具体的には、発酵物の乳酸菌生菌数は、乳等省令別表の二、乳等の成分規格並びに製造、調理及び保存の方法の基準の部、(七)乳等の成分規格の試験法、(3)発酵乳及び乳酸菌飲料、3乳酸菌数の測定法、に記載される測定法にしたがって測定することができる。
【0032】
本発明における発酵組成物中の、乳酸菌等の生菌濃度の調整方法は特に制限されず、発酵組成物の製造方法が工程Aを含んでいる場合は、例えば、発酵物中の乳酸菌等の濃度を調整する方法や、添加する発酵物の添加量を調整する方法が挙げられ、発酵組成物の製造方法が工程Bを含んでいる場合は、例えば、乳酸菌等の生菌の添加量を調整する方法や、発酵させる時間等の発酵条件を調整する方法が挙げられる。
【0033】
(発酵組成物)
本明細書における「発酵組成物」とは、製造工程のいずれかに、(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程Aを含むものであるか、又は、(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程Bを含むものであり、かつ、pHが6.0~7.4、好ましくは6.4~7.4であるものを意味する。
本明細書における「発酵組成物」には、例えば、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(以下、「乳等省令」という。)で定義される「発酵乳」、「乳製品乳酸菌飲料」、「乳酸菌飲料」、「乳等を主要原料とする食品」、等を包含するがこれらに限定されない。例えば、乳等省令で定義される「発酵乳」とは、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳;や、クリーム、バター、チーズ、練乳などの乳製品;や、乳等を主要原料とする食品;などの乳等を、乳酸菌または酵母で発酵させ、固形状(ハードタイプ)、糊状(ソフトタイプ)または液状(ドリンクタイプ)にしたもの、または、これらを凍結したものをいうが、本明細書における「発酵組成物」は、このような乳等省令で定義される発酵乳に限定されない。また、本明細書における「乳等を主要原料とする食品」には、製造工程のいずれかに、上記工程(B)又は(A)を含むものであり、かつ、pHが6.0~7.4である限り、乳等省令に規定される「乳等を主要原料とする食品」等に限られず、「乳」及び/又は「クリーム、バター、チーズ、練乳、粉乳、発酵乳等の乳製品」を主要原料とする食品も含まれる。かかる「乳等を主要原料とする食品」として、サワークリーム等が挙げられる。
【0034】
乳等省令における発酵乳などの定義や成分規格は以下のとおりである。
乳等省令において、発酵乳とは「乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの」と定義されている。その成分規格は「無脂乳固形分8%以上、乳酸菌数又は酵母数(1ml当たり)1,000万以上、大腸菌群陰性」とされている。なお、本明細書において乳酸菌数又はビフィズス菌数の単位は、CFU(colony forming unit;コロニー形成単位)で表される。
また、乳等省令において、乳製品乳酸菌飲料とは「乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料(発酵乳を除く。)」と定義されている。その成分規格は「無脂乳固形分3%以上、乳酸菌数又は酵母数(1mL当たり)1,000万以上、大腸菌群陰性」とされている。
また、乳等省令において、乳等を主要原料とする食品の乳酸菌飲料とは「乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料(発酵乳を除く。)」と定義されている。その成分規格は「無脂乳固形分3%未満、乳酸菌数又は酵母数(1mL当たり)100万以上、大腸菌群陰性」とされている。
【0035】
本発明における「発酵組成物」は、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、甘味料、食物繊維、ビタミン、ミネラル、香料等を含有させてもよい。上記の安定剤としては特に限定されず、例えば、カラギーナン、キサンタンガム等が挙げられる。また、上記の甘味料としては特に限定されず、例えば、糖類、糖アルコール類、高甘味度甘味料等が挙げられ、これらの甘味料を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
なお、本発明における「発酵組成物」が安定剤を含んでいる場合、かかる安定剤は発酵組成物全量に対して0.01~0.5重量%や、0.1~0.3重量%であることが挙げられる。また、本発明における「発酵組成物」は、寒天やゼラチンを含んでいてもよく、寒天、ゼラチンの合計配合量(乾燥重量)は、発酵組成物全量に対して0.1~1重量%や0.2~0.5重量%であることが挙げられる。
【0036】
本発明における「発酵組成物」には、無脂乳固形分の濃度が例えば1~18重量%、好ましくは2~16重量%、より好ましくは2~14重量%、さらに好ましくは4~12重量%、6~10重量%若しくは7~9重量%であり、及び/又は、乳脂肪分の濃度が例えば0~8重量%、好ましくは0.1~7重量%、より好ましくは0.5~4重量%又は1~3重量%であるものが好適に含まれる。
【0037】
本発明における発酵組成物は、容器詰めされていることが好ましい。
「容器詰めされた」とは、容器(内)に充填され密封されたことをいう。容器は、発酵乳等の製造において一般的に用いられる容器が好ましく挙げられ、例えば、プラスチック製、ガラス製及び紙製等の容器が挙げられる。
【0038】
(本発明の発酵組成物の製造方法)
本発明の製造方法としては、発酵組成物の製造方法において、
(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む製造方法であって、製造される発酵組成物のpHが6.0~7.4、好ましくは6.4~7.4である、製造方法である限り特に制限されない。
【0039】
上記工程Aとしては、乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程Aである限り特に制限されない。
発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物の添加量としては、特に制限されないが、発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を発酵組成物製造用乳原料に添加した場合に、かかる発酵組成物製造用乳原料中の乳酸菌等の生菌濃度が例えば1×10cfu/mL以上、好ましくは1×10~1×10cfu/mLや、1×10~5×10cfu/mLとなるような添加量が好ましく挙げられる。
【0040】
本発明の製造方法が工程Aを含む場合、工程Aの後に、発酵組成物製造用乳原料を発酵させる工程を含んでいなくてもよいし、含んでいてもよい。なお、発酵組成物製造後の冷蔵保存中に発酵が徐々に進行する場合があるが、そのような発酵は、本明細書でいう発酵させる工程には含めない。
工程Aの後に発酵組成物製造用乳原料を発酵させる工程を含んでいる場合、発酵組成物のpHが6未満にならないような、比較的短い時間で発酵させることができる。
また、本発明の製造方法が工程Aを含む場合、発酵物を添加することに加えて、乳酸菌等の生菌を別途、発酵物調製用乳原料に添加してもよい。
【0041】
上記工程Bとしては、乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程Bである限り特に制限されない。
乳酸菌等の生菌の添加量としては特に制限されず、適宜調整することができる。
発酵温度や発酵時間は、用いる乳酸菌等の至適生育温度や増殖速度、あるいは、目的とする発酵組成物の種類や商品設計などに応じて、当業者であれば適宜設定することができる。発酵時間としては、特に制限されないが、発酵組成物のpHが6.0~7.4、好ましくは6.4~7.4となるような発酵時間が挙げられる。かかる発酵時間として、例えば1~10時間、1~6時間などが挙げられる
【0042】
上記工程Aや工程Bにおける発酵組成物製造用乳原料としては、本明細書における乳原料である限り特に制限されないが、本発明の効果をより多く得る観点から、さらにpH調整剤を含んでいることが好ましい。
発酵組成物製造用乳原料がpH調整剤を含む場合の、pH調整剤の含有濃度は特に制限されず、調整するpHに応じて適宜調整することができるが、例えば、発酵組成物全量に対するpH調整剤の濃度として、例えば0.01~3重量%、0.1~2重量%などが挙げられる。
発酵組成物製造用乳原料のpHは特に制限されないが、7~8.5が好ましく挙げられる。
【0043】
上記工程Cとしては、ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程Cである限り特に制限されない。
前述したように、ラクトコッカス属細菌の死菌体は、発酵組成物を製造する際のいずれの工程で添加してもよく、例えば、乳原料の発酵工程前に、死菌体を乳原料に添加してもよいし、乳原料の発酵工程中に、死菌体を乳原料に添加してもよいし、乳原料の発酵工程の終了後に、死菌体を発酵組成物に添加してもよいが、乳原料の発酵工程前に、死菌体を乳原料に添加することや、乳原料の発酵工程中に、乳酸菌の死菌体を乳原料に添加することが好ましい。
なお、ラクトコッカス属細菌の死菌体は、ラクトコッカス属細菌の死菌体のみを乳原料に添加してもよいし、ラクトコッカス属細菌の死菌体を他の原材料と共に乳原料に添加してもよい。また、本明細書において、ラクトコッカス属細菌の死菌体を乳原料に添加することには、便宜上、乳原料をラクトコッカス属細菌の死菌体に添加することも含まれる。また、ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加した後は混合することが好ましい。また、本発明において、ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する際、添加対象となる乳原料、発酵中の乳原料又は発酵後の発酵組成物はあらかじめ殺菌処理しておくことが好ましい。
【0044】
(その他の任意工程)
本発明の製造方法は、工程A及び工程C、又は、工程B又は工程Cを含んでいることの他に、任意の工程を含んでいてもよい。かかる任意工程としては、発酵組成物又は発酵物調製用乳原料などを容器に充填する工程が挙げられる。
本発明の製造方法が、工程B(発酵させる工程)を含んでいる場合、例えば、容器に発酵物調製用乳原料(又は、さらに乳酸菌等の生菌)を容器に充填してから発酵させる方法や、(いわゆる後発酵タイプ)、発酵組成物製造用乳原料を乳酸菌等で発酵させ、生じたカードを砕いて、これを容器に充填する方法(いわゆる前発酵タイプ)が挙げられる。
一方、本発明の製造方法が、工程Aを含んでいる場合、例えば、発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物と、発酵組成物製造用乳原料とを、同時又は逐次に容器に充填する方法や、発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を添加した発酵組成物製造用乳原料を容器に充填する方法が挙げられる。
【0045】
なお、本発明の製造方法において、発酵組成物はpHが6.0~7.4、好ましくは6.4~7.4となるように製造される。発酵組成物のpHがかかる範囲内となる要因としては特に制限されるものではないが、本発明の製造方法が工程A、工程Bのいずれを含む場合であっても、一般的な発酵乳などと比較して発酵の進行の程度が低いこと、所定量のpH調整剤が使用されること、及び、ラクトコッカス属細菌の死菌体が添加されることからなる群から選択される1つ又は2つ以上の要因が考えられる。
【0046】
(本発明の抑制方法)
本発明の抑制方法としては、発酵組成物の製造方法において、
(A)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌によって発酵物調製用乳原料を発酵させた発酵物を、発酵組成物製造用乳原料に添加する工程A;又は、
(B)乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌を発酵組成物製造用乳原料に添加して発酵させる工程B;
を含み、かつ、
(C)ラクトコッカス属細菌の死菌体を添加する工程C;を含む
ことを特徴とする、
pHが6.0~7.4の発酵組成物において、発酵組成物の製造後の冷蔵保存中の、酸味、酸臭の増大、pHの低下及び/又は前記生菌の含有濃度(cfu/mL)の低下を抑制する方法である限り特に制限されず、その他の任意工程をさらに含んでいてもよい。
【0047】
上記工程A~工程Cや、その他の任意工程等について、本発明の製造方法について説明したものと同様である。
【0048】
(酸味、酸臭の増大が抑制された発酵組成物)
本発明の発酵組成物は、発酵組成物の製造後の冷蔵保存中の酸味、酸臭の増大が抑制された発酵組成物であることが好ましい。本明細書において、「酸味、酸臭の増大が抑制された」発酵組成物とは、乳酸菌の死菌体を添加しないこと、及び/又は、pH調整剤(好ましくは有機酸のナトリウム又はカリウム塩、及び、塩基から選択される1種又は2種以上のpH調整剤)を添加しないこと(好ましくは、発酵組成物製造用乳原料のpHを7以上に調整しないこと)以外は、同種の乳原料を用いて同じ製造方法で製造した発酵組成物(以下、「本発明におけるコントロール発酵組成物」とも表示する)と比較して、酸味、酸臭の増大が抑制された発酵組成物を意味する。
【0049】
ある発酵組成物の製造後の冷蔵保存中の酸味、酸臭の増大の程度や、かかる酸味、酸臭の増大の程度が本発明におけるコントロール発酵組成物と比較してどのようであるか(例えば、抑制されているかどうか)は、訓練されたパネルであれば、容易かつ明確に決定することができる。評価の基準や、パネル間の評価のまとめ方は、一般的な方法を用いることができる。発酵組成物における酸味、酸臭の増大の程度を評価するパネルの人数は1名であってもよいが、客観性がより高い評価を得る観点から、パネルの人数の下限を、例えば3名以上、好ましくは5名以上とすることができ、また、評価試験をより簡便に実施する観点から、パネルの人数の上限を、例えば7名以下とすることができる。パネルが2名以上の場合の発酵組成物における酸味、酸臭の増大の程度の評価は、その発酵組成物における酸味、酸臭の増大の程度についてのパネル全員の評価の平均を採用してもよい。
【0050】
(pHの低下が抑制された発酵組成物)
本発明の発酵組成物は、発酵組成物の製造後の冷蔵保存中のpHの低下が抑制された発酵組成物であることが好ましい。本明細書において、「pHの低下が抑制された」発酵組成物とは、上記の「本発明におけるコントロール発酵組成物」と比較して、pHの低下が抑制された発酵組成物を意味する。
【0051】
本発明における、pHの低下が抑制された発酵組成物として、より具体的には、製造直後であって、冷蔵保存前の発酵組成物のpHと比較した、冷蔵保存14日後の発酵組成物のpHの低下の程度が1以下、好ましくは0.6以下である発酵組成物が好ましく挙げられる。
【0052】
(乳酸菌等の生菌の含有濃度の低下が抑制された発酵組成物)
本発明の発酵組成物は、発酵組成物の製造後の冷蔵保存中の、乳酸菌等の生菌の含有濃度の低下が抑制された発酵組成物であることが好ましい。本明細書において、「乳酸菌等の生菌の含有濃度の低下が抑制された」発酵組成物とは、上記の「本発明におけるコントロール発酵組成物」と比較して、乳酸菌等の生菌の含有濃度の低下が抑制された発酵組成物を意味する。
【0053】
本発明における、乳酸菌等の生菌の含有濃度の低下が抑制された発酵組成物として、より具体的には、冷蔵保存14日後の発酵組成物中の、乳酸菌及びビフィドバクテリウム属細菌からなる群から選択される1種又は2種以上の細菌の生菌の含有濃度(cfu/mL)が、冷蔵保存前の発酵組成物中の前記細菌の生菌の含有濃度(cfu/mL)に対して、0.2倍以上、好ましくは0.2~30倍や、0.2~25倍である発酵組成物が好ましく挙げられる。
【0054】
(冷蔵保存)
本明細書における「冷蔵保存」としては、例えば1~10℃、好ましくは4~10℃や、10℃が挙げられる。
【0055】
以下に、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0056】
[試験1:比較例1]冷蔵保存中のpH及び乳酸菌生菌濃度の変化の確認
発酵組成物の冷蔵保存中のpH及び乳酸菌生菌濃度の変化を調べるために、以下の試験を行った。
【0057】
(方法)
基質である牛乳(発酵物調製用乳原料)にラクトコッカス属乳酸菌生菌を添加した後、30℃にて、前述の生菌濃度が10の9乗オーダーの菌濃度(cfu/mL)になるまで発酵を行って、発酵物を調製した。なお、本願実施例のすべての試験において、発酵物の乳酸菌数は、乳等省令別表の二、乳等の成分規格並びに製造、調理及び保存の方法の基準の部、(七)乳等の成分規格の試験法、(3)発酵乳及び乳酸菌飲料、3乳酸菌数の測定法、に記載される測定法にしたがって測定した。
【0058】
次いで、基質である牛乳(発酵組成物製造用乳原料)に、前述の発酵物(ラクトコッカス属乳酸菌生菌を10の9乗オーダーの菌濃度(cfu/mL)で含む発酵物)を3重量%又は7重量%添加及び混合して各発酵組成物サンプルを調製した。その後、各発酵組成物サンプルを10℃条件下で冷蔵保存した。「冷蔵保存前」、「冷蔵保存開始から14日後」、及び、「冷蔵保存開始から28日後」の各発酵組成物サンプルについて、pH測定、及び、ラクトコッカス属乳酸菌生菌濃度の測定を行った。また、各発酵組成物サンプルについて、7名のパネルが酸味、酸臭の官能評価を行い、その平均的な評価をその発酵組成物サンプルについての総合コメントとした。これらの結果を以下の表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(結果)
表1から分かるように、いずれの発酵組成物サンプルにおいても、冷蔵保存中にpHが低下し、冷蔵保存14日後には冷蔵保存前と比較してpHが1.3以上低下した。また、冷蔵保存14日後には酸味、酸臭が確認され、冷蔵保存28日後には酸味、酸臭がさらに強くなった。なお、いずれのサンプルにおいても、冷蔵保存前のラクトコッカス属乳酸菌生菌濃度より高い生菌濃度が、冷蔵保存14日後及び28日後のいずれの時点でも維持されていた。
【0061】
[試験2:比較例2]pHが酸性域の発酵組成物の冷蔵保存中の乳酸菌生菌濃度の変化の確認
pHが酸性域の発酵組成物を冷蔵保存した場合の、乳酸菌生菌濃度の変化を確認するために、以下の試験を行った。
【0062】
(方法)
基質である牛乳(発酵組成物製造用乳原料)に、ラクトコッカス属乳酸菌生菌を添加して、10の9乗のオーダーの菌濃度(cfu/mL)になるまで30℃で発酵させ、pH4.3の発酵組成物サンプルを調製した。かかる発酵組成物サンプルを10℃条件下で冷蔵保存した。「冷蔵保存前」、「冷蔵保存開始から14日後」、及び、「冷蔵保存開始から28日後」において、発酵組成物サンプル中のラクトコッカス属乳酸菌生菌濃度の測定を行った。その結果を以下の表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
(結果)
表2の結果から、pHが酸性域の発酵組成物サンプルを冷蔵保存すると、乳酸菌生菌濃度が低下することが示された。
【0065】
[試験3:実施例1]冷蔵保存中のpH及び乳酸菌生菌濃度の変化への、乳酸菌死菌体及びpH調整剤の添加による影響の確認
発酵組成物に乳酸菌死菌体やpH調整剤を添加すると、発酵組成物の冷蔵保存中のpH及び乳酸菌生菌濃度の変化に対してどのような影響がでるかを調べるために、以下の試験を行った。
【0066】
(方法)
基質である牛乳(発酵物調製用乳原料)にラクトコッカス属乳酸菌生菌を添加した後、30℃にて、前述の生菌濃度が10の9乗オーダーの菌濃度(cfu/mL)になるまで発酵を行って、発酵物を調製した。
次いで、基質である牛乳(発酵組成物製造用乳原料)に、ラクトコッカス属乳酸菌死菌体を1×10個/g添加し、及び、pH調整剤であるクエン酸三ナトリウムを1重量%添加してpH調整した上で、前述の発酵物(ラクトコッカス属乳酸菌生菌を10の9乗オーダーの菌濃度(cfu/mL)で含む発酵物)を0.5重量%、1.0重量%又は1.5重量%添加及び混合して各発酵組成物サンプルを調製した後、10℃条件下で冷蔵保存した。「冷蔵保存前」、及び、「冷蔵保存開始から14日後」の各発酵組成物サンプルについて、pH測定、及び、ラクトコッカス属乳酸菌生菌濃度の測定を行った。また、各発酵組成物サンプルについて、7名のパネルが酸味、酸臭の官能評価を行い、その平均的な評価をその発酵組成物サンプルについての総合コメントとした。これらの結果を以下の表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
(結果)
表3から分かるように、いずれの発酵組成物サンプルにおいても、冷蔵保存中にpHがやや低下したものの、pHは6.4以上の中性域に維持された。すなわち、冷蔵保存14日後のpHは、冷蔵保存前と比較して0.6以下の低下にとどまった。また、冷蔵保存14日後の発酵組成物サンプルにおいて、酸味、酸臭は感じられないか、あるいは、きわめてかすかに感じられるかどうかという程度であった。また、いずれの発酵組成物サンプルにおいても、冷蔵保存前のラクトコッカス属乳酸菌生菌濃度より高い生菌濃度が、冷蔵保存14日後の時点でも維持されていた。
これらのことから、ラクトコッカス属乳酸菌死菌体やpH調整剤を添加すると、冷蔵保存中の「pHの低下」及び「酸味、酸臭の増大」が抑制されることが示された。
【0069】
[試験4:実施例2]他の種の乳酸菌を用いた場合の効果の確認
ラクトコッカス属乳酸菌以外の種の乳酸菌生菌を用いた場合であっても、ラクトコッカス属乳酸菌死菌体を添加することによる、冷蔵保存中の「pHの低下」及び「酸味、酸臭の増大」に対する抑制効果が得られるかを確認するために以下の試験を行った。
【0070】
基質である牛乳(発酵物調製用乳原料)にストレプトコッカス属乳酸菌生菌を添加した後、40℃にて、前述の生菌濃度が10の8乗オーダーの菌濃度(cfu/mL)になるまで発酵を行って、発酵物を調製した。
次いで、基質である牛乳(発酵組成物製造用乳原料)に、ラクトコッカス属乳酸菌死菌体を1×10個/g添加し、次いで、前述の発酵物(ストレプトコッカス属乳酸菌生菌を10の8乗オーダーの菌濃度(cfu/mL)で含む発酵物)を3重量%、6重量%、9重量%添加及び混合して各発酵組成物サンプルを調製した後、10℃条件下で冷蔵保存した。「冷蔵保存前」、「冷蔵保存開始から14日後」、及び、「冷蔵保存開始から28日後」の各サンプルについて、pH測定、及び、ストレプトコッカス属乳酸菌生菌濃度の測定を行った。また、各発酵組成物サンプルについて、7名のパネルが酸味、酸臭の官能評価を行い、その平均的な評価をその発酵組成物サンプルについての総合コメントとした。これらの結果を以下の表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
(結果)
表4から分かるように、いずれの発酵組成物サンプルにおいても、冷蔵保存中において、pHは6.5以上の中性域に維持された。また、冷蔵保存14日後、28日後のいずれの発酵組成物サンプルにおいても、酸味、酸臭は感じられなかった。また、いずれの発酵組成物サンプルにおいても、冷蔵保存前のストレプトコッカス属乳酸菌生菌濃度より高い生菌濃度が、冷蔵保存14日後及び28日後の時点でも維持されていた。
これらのことから、ラクトコッカス属乳酸菌以外の種の乳酸菌生菌を用いた場合であっても、ラクトコッカス属乳酸菌死菌体を添加すると、冷蔵保存中の「pHの低下」及び「酸味、酸臭の増大」が抑制されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、乳酸菌等の生菌を一定濃度以上で含有し、かつ、pHが中性域である発酵組成物であって、製造後の冷蔵保存中の「酸味、酸臭の増大」、「pHの低下」及び/又は「乳酸菌等の生菌濃度(cfu/mL)の低下」が抑制された発酵組成物、及びその製造方法等を提供することことができる。
図1