(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088546
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】鋼管杭の接手構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/24 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
E02D5/24 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203350
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】595067442
【氏名又は名称】システム計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】久保 豊
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA19
2D041CB01
2D041CB06
2D041DB02
2D041DB13
(57)【要約】
【課題】連結作業が容易な鋼管杭の接手構造を提案する。
【解決手段】この発明の接手構造は、第1鋼管杭の端部に接続された第1接手と、第2鋼管杭の端部に接続された第2接手と、ピンとを備え、第1接手と第2接手とを前記ピンで連結するものであって、
第1接手と第2接手には両者を嵌合したとき、両者を貫通するピン孔が備えられ、
ピンは
ピン孔へ挿入されるピン本体と、
ピン本体の先端部に設けられた可撓部であって、無負荷状態でピン孔より大径となりピン孔の内周側開口部の周縁に係合し、ピン本体をピン孔へ挿入する際には縮径する可撓部と、
ピン本体の他端部に形成された突起であって、ピン孔の外周側開口部周縁に係合する突起と、を備えてなる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鋼管杭の端部に接続された第1接手と、第2鋼管杭の端部に接続された第2接手と、ピンとを備え、前記第1接手と前記第2接手とを前記ピンで連結する鋼管杭の接手構造であって、
前記第1接手と前記第2接手には両者を嵌合したとき、両者を貫通するピン孔が備えられ、
前記ピンは
前記ピン孔へ挿入されるピン本体と、
前記ピン本体の先端部に設けられた可撓部であって、無負荷状態で前記ピン孔より大径となり前記ピン孔の内周側開口部の周縁に係合し、前記ピン本体を前記ピン孔へ挿入する際には縮径する可撓部と、
前記ピン本体の他端部に設けられた突起であって、前記ピン孔の外周側開口部周縁に係合する突起と、
を備えてなる、鋼管杭の接手構造。
【請求項2】
前記ピン本体において前記突起から前記先端部までの距離は、前記ピン孔より長く、前記ピン本体を該ピン孔へ挿入したとき前記先端部が前記ピン孔より突出し、
前記可撓部は可撓性を有する鋼材からなり、前記先端部へ固定される固定部と、該固定部から外周外方へ膨出する可撓部本体であって前記ピン孔の内周側開口部周縁に係合する係合部を備える可撓部本体と、を備える請求項1に記載の接手構造
【請求項3】
前記ピン本体の先端部の周縁には凹部が設けられ、前記可撓部本体の先端が前記係合部となって、前記該凹部に収納された状態で前記ピン孔の内周側開口部周縁に係合する、請求項2に記載の接手構造。
【請求項4】
前記凹部は、前記ピン本体の軸方向の深さにおいて、前記ピン本体を前記ピン孔に挿入した状態で前記ピン孔に達し、その半径方向の深さにおいて、前ピン本体が前記ピン孔を通過する際に前記凹部に対向する前記係合部の最外郭部分が収納される、請求項3に記載の接手構造。
【請求項5】
前記可撓部はМ字形の線状若しくは薄板状の部材であり、前記ピン本体の先端部から立ち上がった状態でМ字の中央部分が前記先端部の中央に固定され、無負荷状態において、М字の両端が前記係合部として前記凹部に収納されつつ、その下端部は前記凹部から外周方向へ表出して前記ピン孔の内周側開口部周縁に係合する、請求項4に記載の接手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼管杭の接手構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
建築土木工事用の鋼管杭は地盤の状態に応じて継ぎ足されて所望の深さまで打ち込まれる。
鋼管杭を連結する方策として種々提案されているが、その一態様として、下側の鋼管杭の上端と上側の鋼管杭の下端にそれぞれ接手を接続し、両者をピンで連結する構造がある(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-161662号公報
【特許文献2】特開2014-031717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の接手構造で使用されるピンはボルトの構造を持ち、嵌合された接手の内周面に溶接された固定板にこのボルトを螺合することで、上下の鋼管杭の接手を連結する(
図1、特許文献1の
図2を引用)。
このようにボルトをピンとして用いる場合、当該ボルトの螺合部分に十分なトルクが求められるので、太いボルト軸が要求されてコストが嵩み、また締め付け作業にも手間がかかる。
特許文献2の接手構造ではピンの中に細いボルトを貫通させているので(
図2、特許文献2の
図1を引用)、ピンの打ち込みとボルトの打ち込みの2工程が必要となり連結作業に手間がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明はかかる課題を解決すべくなされたものであり、その第1局面は次のように規定される。即ち、
第1鋼管杭の端部に接続された第1接手と、第2鋼管杭の端部に接続された第2接手と、ピンとを備え、前記第1接手と前記第2接手とを前記ピンで連結する鋼管杭の接手構造であって、
前記第1接手と前記第2接手には両者を嵌合したとき、両者を貫通するピン孔が備えられ、
前記ピンは
前記ピン孔へ挿入されるピン本体と、
前記ピン本体の先端部に設けられた可撓部であって、無負荷状態で前記ピン孔より大径となり前記ピン孔の内周側開口部の周縁に係合し、前記ピン本体を前記ピン孔へ挿入する際には縮径する可撓部と、
前記ピン本体の他端部に形成された突起であって、前記ピン孔の外周側開口部周縁に係合する突起と、
を備えてなる、鋼管杭の接手構造。
【0006】
このように規定される第1局面の接手構造によれば、ピン本体の先端部に設けられた可撓部がピン孔の内周側開口部周縁に係合し、ピン本体の他端部に設けられた突起がピン孔の外周側開口部周縁に係合するので、嵌合された第1接手と第2接手とが連結される。ここに、可撓部に弾性反発力を持たせることにより、両者の連結はより強固となる。
ピン本体をピン孔へ挿入する際に可撓部は縮径するので、当該挿入作業の妨げとならない。換言すれば、第1接手と第2接手との接手嵌合体の外周側からピンをピン孔へ挿入する作業は、ピン本体の先端部をピン孔に向けた状態でピン本体の他端部をハンマー等で叩きこめばよい。よって、ピンを用いて接手嵌合体を連結する作業が簡素化される。ピン本体の他端部に設けられた突起がピン孔の外周側開口部周縁に係合するので、ピン本体が過剰に叩き込まれて接手嵌合体の内周側へ抜け落ちることが防止される。また、突起が外周側開口部周縁に係合してピン本体の他端部の位置が固定されることで、可撓部の位置も固定され、もって、ピン孔の内周側開口部周縁に対する可撓部の係合が安定する。
【0007】
この発明の第2局面は次のように規定される。即ち、
第1局面に規定の接手構造において、前記ピン本体において前記突起から前記先端部までの距離は、前記ピン孔より長く、前記ピン本体を該ピン孔へ挿入した状態で前記先端部が前記ピン孔より突出し、
前記可撓部は可撓性を有する鋼材からなり、前記先端部へ固定される固定部と、該固定部に連結される可撓部本体であって、前記先端部より外周外方へ突出して前記ピン孔の内周側開口部周縁に係合する係合部を備える可撓部本体と、を備える。
【0008】
このように規定される第2局面の接手構造によれば、ピン本体の先端部をピン孔の内周側開口から突出させることで、先端部に取り付けられた可撓部の係合部がピン孔から開放される。これにより、内周側開口の周縁に係合部が確実に係合する。
他方、ピン本体の先端部をピン孔から突出させないと、可撓部本体の係合部とピン孔の内周側開口部との係合が不安定になる。係合部がピン孔から完全に抜け出せていないおそれがあるからである。
【0009】
この発明の第3局面は次のように規定される。即ち、
第2局面に規定の接手構造において、前記ピン本体の先端部の周縁には凹部が設けられ、前記可撓部本体の前記係合部は、前記該凹部に収納された状態で前記ピン孔の内周側開口部周縁に係合する。
このように規定される接手構造によれば、ピン本体の先端部の周縁に形成された凹部に可撓部本体の係合部が収納された状態でピン孔の内周側開口部周縁に係合する。
【0010】
接手嵌合体の内周面からのピン本体先端部を突出させているので、その先端に取付けられた可撓部の係合部をピン孔の内周側開口部周縁に係合させるためには、突出長さに応じて可撓部の係合部にかえし(ピン本体先端部よりその元側に延びる部分)が必要となる。このかえし部分はピンの挿入時の抵抗となる。
ここで先端部に凹部を設けてこれに係合部を収納することで、ピンの挿入時の抵抗を低減できる。
また、凹部を設けてそこに係合部を収納することで、ピン孔の内周側開口部周縁に対する係合部の位置を当該開口により近づけることができる。換言すれば、係合部とピン本体の側面との距離を小さくできる。これにより、ピンの挿入時おける可撓部の縮径量を小さくでき、この点においてもピンの挿入時の抵抗を低減できる。
【0011】
この発明の第4局面は次のように規定される。即ち、
第3局面に規定の接手構造において、前記凹部は、前記ピン本体の軸方向の深さにおいて、前記ピン本体を前記ピン孔に挿入した状態で前記ピン孔に達し、その半径方向の深さにおいて、前記ピン本体が前記ピン孔を通過する際に前記凹部に対向する前記係合部の最外郭部分が収納される。
このように規定される第4局面の接手構造によれば、凹部を、ピン本体の軸方向の深さにおいて、ピン孔まで達するものとしたので、ピン孔の内周側開口部周縁の近傍へ係合部を確実に係合できる。凹部を、先端部の半径方向の深さにおいて十分深くして、ピン本体がピン孔を通過する際に係合部の全部が凹部に収納されるようにした。これにより、ピン孔へピンを打ち込むときの抵抗がより低減される。
【0012】
この発明の第5局面は次のように規定される。即ち、
第4局面の接手構造において、前記可撓部はМ字形の線状若しくは薄板状の部材であり、前記ピン本体の先端部から立ち上がった状態でМ字の中央部分が前記先端部の中央に固定され、無負荷状態において、М字の両端が前記係合部として前記凹部に収納されつつ、その下端部は前記凹部から外周方向へ表出して前記ピン孔の内周側開口部周縁に係合する。
このように規定される第5局面の接手構造によれば、可撓部の構造を簡素化ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は従来の他の接手構造を示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は本発明の一実施形態の鋼管杭の連結構造を示す断面図である。
【
図4】
図4は実施形態のピンを示し、
図4(A)は正面図、(B)は右側面図、(C)は左側面図、(D)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図3~5を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図3は本発明の一実施形態の接手構造1を示した断面図である。同図において、符号3と符号5は鋼管杭である。上側の第1鋼管杭3には第1接手10が溶接され、下側の第2鋼管杭5には第2接手20が溶接されている。この例では、第1鋼管杭3と第2鋼管杭5に同径のものを採用しているが、異径とすることもできる。
【0015】
第1接手10は接手基部11、外側リング部13及び内側リング部15を備える。接手基部11は第1接手10、外側リング部13及び内側リング部15より厚く、その上面の中央に第1鋼管杭3の下端が開口を介して溶接される。その下面の外側縁に外側リング部13が、その下面の内側縁に内側リング部15がそれぞれ開口を介して溶接される。外側リング部13にはピン孔17が穿設され、内側リング部15にはピン孔18が穿設されている。
【0016】
第2接手20の下縁は第2鋼管杭5の上端へ開口を介して溶接される。第2接手20にはピン孔21が穿設されている。
第2鋼管杭5の上端部分へピン孔21を直接穿設して、これを第1接手10へ挿入することもできる。この場合、第2鋼管杭5の上端部分が第2接手となる。換言すれば、第2接手が第2鋼管杭に一体的に接続される場合もある。
第2接手20を第1接手10の外側リング部13と内側リング部15との間に挿入することで、第1接手10と第2接手20との接手嵌合体が構成され、このとき3つのピン孔17、21、18が連通する。
【0017】
かかるピン孔17、21、18へピン30が挿入される。
ピン30はピン本体31、可撓部40及び突起50を備える。
ピン本体31はピン孔の径より僅かに小さい径の円柱状の部材であり、その先端部33に可撓部40を備え、その他端部35の周縁に突起50を備える。
可撓部40は、
図4に示すとおり、線状のばね鋼をM字状に屈曲させた部材からなり、M字の中央部分(固定部41)の下縁がピン本体31の先端部33の中央部分に溶接される。
【0018】
固定部41から一対の可撓部本体43がピン本体31の軸方向先端側へ立ちあがり、外方へ屈曲される。各可撓部本体43の先端(係合部45)はピン本体31の先端部33より外周外方へ突出している。換言すれば、無負荷状態で可撓部40は先端部33より大径となる。
先端部33の周縁において係合部45に対向する位置には凹部37が設けられている。この凹部37に、無負荷状態の係合部45の一部内周側が収納された状態となる。係合部45の下端は凹部37から外周外方へ突出し、もって、ピン孔18の内周側開口部周縁に係合する(
図5参照)。係合部45の下端はまた凹部37に収納されることで、先端部33よりピン本体31の元側(他端部35側)に位置する。
【0019】
凹部37は、ピン本体31の軸方方向において、U1の深さを持つ。この深さU1は、ピン孔18よりピン本体31が突出する長さ(突出量L)より大きいものとする。可撓部本体43の係合部45に続く部分をかかる凹部37へ収納させることで、係合部45の位置をピン孔18の開口部周縁に可及的に近づけることができる。
凹部37は、ピン本体31の先端部33の半径方向において、U2の深さを持つ。この深さU2は、ピン30をピン孔へ打ち込むとき、係合部45の外周(最外郭部分)が凹部37に収納される深さとする。これにより、ピン30の打ち込み抵抗が小さくなる。
【0020】
ピン本体31の他端部35の周縁には一対の突起37が形成されている。この突起37と係合部45との距離を第1接手10の厚さと同じとすることで、ピン30により第1接手10と第2接手20との接手嵌合体をガタツクことなく強固に連結できる。
この例では、
図4(C)に示すように、側面視で凹部37から90度変移した位置に突起50を設けているが、突起の位置や数は特に限定されるものではない。
【0021】
この接手構造の施工方法は次のようになる。
第1鋼管杭3の下端に予め第1接手10が溶接され、第2鋼管杭5の上端に予め第2接手20が溶接されているものとする。
第2鋼管杭5を地盤に埋入させた後、その第2接手20へ第1鋼管杭3の第1接手10を嵌合する。各接手のピン孔17、21、18を貫通状態として、外周側からピン30を打ち込む。
【0022】
ピン本体31の先端部33に固定された可撓部40はМ字型であるため、その先端側から抵抗なく、ピン孔17へ挿入できる。ピン孔17へ挿入後は、ピン孔17の周縁に干渉して縮径し、係合部45が凹部37内へ収納されるので、ピン30を打ち込む際の抵抗とならない。
ピン孔18からピン本体31の先端部33が突出した状態で、係合部45はピン孔18の周面との干渉から開放されて拡径し、ピン孔18の開口部周縁に係合する。
【0023】
以上の説明では、М字形の可撓部を例にとり説明してきたがこれに限定されるものではない。
可撓性を有する鋼材でその一部がピン本体の先端部に固定され、その一部がピン本体の先端部より外周外方へ突出して、接手のピン孔の内周側開口部周縁に係合し、かつピンの挿入時に縮径して挿入抵抗を低減できるものであれば、任意に設計できる。
【0024】
接手の構造も、
図3の例に限定されるものではない。例えば、第1鋼管杭と第2鋼管杭のそれぞれに1つのリング状の接手を溶接し、それらを嵌合させる構造でもよい。
以上のように本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 接手構造
3 第1鋼管杭
5 第2鋼管杭
10 第1接手
20 第2接手
17、18、21 ピン孔
30 ピン
31 ピン本体
33 先端部
35 他端部
37 凹部
40 可撓部
41 固定部
43 可撓部本体
45 係合部
50 突起