(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088565
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】アルコール感調整剤およびアルコール飲料
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20230620BHJP
【FI】
C12G3/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203377
(22)【出願日】2021-12-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】504432529
【氏名又は名称】日本フレーバー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143100
【弁理士】
【氏名又は名称】座間 正信
(72)【発明者】
【氏名】原田 悠平
(72)【発明者】
【氏名】下村 健太
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LG03
4B115LH11
4B115LP02
(57)【要約】
【課題】アルコール感を抑制するアルコール感調整剤およびアルコール飲料を提供する。
【解決手段】
アルコール感調整剤は、スルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンの少なくとも一方を含有する。また、アルコール感調整剤を含有したアルコール飲料は、前記アルコール飲料中にスルフロールを0.005~500ppmまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンを0.175~100ppm含有する。アルコール感調整剤およびアルコール飲料によれば、アルコール感を抑制し、アルコール飲料の飲みやすさを改善できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンの少なくとも一方を含有することを特徴とするアルコール飲料のアルコール感調整剤。
【請求項2】
請求項1に記載のアルコール感調整剤を含有したアルコール飲料であって、
前記アルコール飲料中にスルフロールを0.005~500ppmまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンを0.175~100ppm含有することを特徴とするアルコール飲料。
【請求項3】
請求項2に記載のアルコール飲料において、
前記アルコール飲料中のエタノール濃度が2~12.5体積%であることを特徴とするアルコール飲料。
【請求項4】
請求項2に記載のアルコール飲料において、
前記アルコール飲料中のエタノール濃度が4.5~5.5体積%であり、
前記スルフロールの含有量が0.01~1.0ppmまたは前記ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.25~2.5ppmであることを特徴とするアルコール飲料。
【請求項5】
請求項2に記載のアルコール飲料において、
前記アルコール飲料中のエタノール濃度が6.5~7.5体積%であり、
前記スルフロールの含有量が0.015~1.5ppmまたは前記ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.3~3.0ppmであることを特徴とするアルコール飲料。
【請求項6】
請求項2に記載のアルコール飲料において、
前記アルコール飲料中のエタノール濃度が8.5~9.5体積%であり、
前記スルフロールの含有量が0.02~2.0ppmまたは前記ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.35~3.5ppmであることを特徴とするアルコール飲料。
【請求項7】
請求項2に記載のアルコール飲料において、
前記アルコール飲料中のエタノール濃度が11.5~12.5体積%であり、
前記スルフロールの含有量が0.025~2.5ppmまたは前記ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.5~5ppmであることを特徴とするアルコール飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール感調整剤およびアルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年嗜好の多様化から、アルコール含有量が低いアルコール飲料からアルコール含有量の高いアルコール飲料まで様々な商品が流通している。特に缶チューハイやカクテルではアルコール含有量が2~3体積%の低アルコール飲料から7~12体積%のストロング系アルコール飲料まで幅広く市場で販売されている。
【0003】
一般的にアルコール飲料に含まれるエタノールは、アルコール感、つまりアルコール臭や苦み、辛味、灼熱感といった不快な香味を有する。アルコール感は、エタノール濃度が高いほど影響が大きくなる傾向があるが、低濃度のアルコール飲料でもある程度のアルコール感を感じる場合がある。そこで、アルコール感を抑制するべくアルコール飲料に植物の成分や果汁類、食品添加物などを添加することが試みられている。
【0004】
例えば、アルコール飲料中に果皮もしくは花、またはハーブの抽出物を含有させる方法(特許文献1)や、βーシクロシトラールを含油させる方法(特許文献2)、1,3ージヒドロキシアセトンを含有させる方法(特許文献3)などが知られている。
【0005】
特許文献1に記載の発明は、エタノール濃度が6~12体積%である高アルコール飲料の調合過程において、アルコール飲料中に果皮もしくは花、或いはハーブの抽出物を、0.0001~1w/v%の範囲で含有させることにより、高アルコール飲料の本来の香味を保持しつつ、高アルコール含有によるアルコール感を抑制する方法である。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明は、βーシクロシトラールを有効成分として配合させることによりアルコール飲料のバーニング感、つまり灼熱感を抑制する方法である。
【0007】
さらに、特許文献3に記載の発明は、1,3ージヒドロキシアセトン、あるいは1,3ージヒドロキシアセトンと酢酸及び/又はアセトインを有効成分として含有させることにより、アルコール飲料のエタノールに由来する不快なアルコール臭、苦味、辛味、刺激を低減し、アルコール感が抑制する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015ー192667号公報
【特許文献2】特開2020ー14410号公報
【特許文献3】特許5911647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、植物から溶媒抽出を行う必要があるため手間と時間がかかり、かつ高コストである。また、十分なアルコール感の抑制を行うには大量の抽出物を使用する必要があり香味が損なわれるという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の発明は、βーシクロシトラールの含有量を増やせばアルコール感は抑制されるが、アルコール感を抑制する効果は高くない。また、βーシクロシトラールの含有量を増やしすぎるとかえってアルコール感の抑制が阻害されるという問題を有する。
【0011】
さらに、特許文献3に記載の発明は、アルコール感の抑制のために1,3ージヒドロキシアセトンを大量に含有させる必要があり、かつアルコール感を抑制する効果は高くない。
【0012】
本発明は、前記の不具合を解消するためになされたものであって、スルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンの少なくとも一方を含有させることにより、アルコール感を抑制し、アルコール飲料の飲みやすさを改善するアルコール感調整剤およびアルコール飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るアルコール感調整剤は、スルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンの少なくとも一方を含有することを特徴とする。
【0014】
また、前記アルコール感調整剤を含有した本発明に係わるアルコール飲料は、前記アルコール飲料中にスルフロールを0.005~500ppmまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンを0.175~100ppm含有することを特徴とする。
【0015】
前記アルコール飲料において、前記アルコール飲料中のエタノール濃度が2~12.5体積%であることを特徴とする。
【0016】
前記アルコール飲料において、前記アルコール飲料中のエタノール濃度が4.5~5.5体積%であり、前記スルフロールの含有量が0.01~1.0ppmまたは前記ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.25~2.5ppmであることを特徴とする。
【0017】
前記アルコール飲料において、前記アルコール飲料中のエタノール濃度が6.5~7.5体積%であり、前記スルフロールの含有量が0.015~1.5ppmまたは前記ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.3~3.0ppmであることを特徴とする。
【0018】
前記アルコール飲料において、前記アルコール飲料中のエタノール濃度が8.5~9.5体積%であり、前記スルフロールの含有量が0.02~2.0ppmまたは前記ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.35~3.5ppmであることを特徴とする。
【0019】
前記アルコール飲料において、前記アルコール飲料中のエタノール濃度が11.5~12.5体積%であり、前記スルフロールの含有量が0.025~2.5ppmまたは前記ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.5~5ppmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るアルコール感調整剤およびアルコール飲料によれば、スルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンの少なくとも一方をアルコール飲料に含有させることにより、アルコール飲料のアルコール感を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において、アルコール感とは、アルコール飲料を摂取する際に感じられる不快な灼熱感や苦みいう。また、灼熱感とは、アルコール飲料を飲用した際に感じられる焼けるような刺激感をいう。さらに、苦みとはアルコール飲料に含まれるエタノールに起因する苦い味をいう。
【0022】
アルコール感はエタノール濃度が7体積%以上の高濃度アルコール飲料を摂取すると特に灼熱感や苦みを強く感じるが、エタノール濃度が2~3体積%の低濃度アルコール飲料を摂取した際にも感じる場合がある。
【0023】
[アルコール感調整剤]
本実施形態に係わるアルコール感調整剤は、スルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンの少なくとも一方を含有する。
【0024】
ここで、スルフロールは、体系名が2ー(4ーメチルー2ーチアゾリル)エタノール、分子式がC6H9NOSの芳香族アルコール類である。スルフロールは、室温で粘性のある液体であり、水、アルコールと良く混和する。また、スルフロールは、一般的に香料として用いられる。
【0025】
また、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンは、体系名が3,5-ジヒドロキシ-4-(3-ヒドロキシ-4-メトキシヒドロシンナモイル)フェニル2-O-(6-デオキシ-α-L-マンノピラノシル)-β-D-グルコピラノシド、分子式がC28H36O15の芳香族化合物である。ネオヘスペリジンジヒドロカルコンは、エタノール水溶液に対する溶解性が高く、容易にエタノール水溶液に溶解させることができる。また、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンは、着香の用途としての食品添加物として認められている。
【0026】
[アルコール感調整剤の調製方法]
アルコール感調整剤は、スルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンのみ、あるいは必要に応じてスルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンと香料等の成分を含めた混合物に各種の溶媒を添加し、均一に混和することによって調製することができる。その際に、スルフロールとネオヘスペリジンジヒドロカルコンは単独で用いても良いし、併用することもできる。
【0027】
アルコール感調整剤に含まれるスルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンの量は特に限定されない。しかし、アルコール感調整剤とアルコール飲料との調合を効率よく行うために、アルコール感調整剤中のスルフロールの量は、0.01重量%~1重量%が好ましい。また、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの量は、0.05重量%~5重量%が好ましい。なお、アルコール飲料中のスルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンを高濃度で調合する場合には、スルフロール原液またはネオヘスペリジンジヒドロカルコンをそのまま用いることができる。
【0028】
アルコール感調整剤の調製に使用される溶媒は、特に限定されるものではないが、水、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコールなどを単独又は混合して使用することができる。これらの中でも、水、エタノール又は水とエタノールの混合溶媒が好ましい。水とエタノールの混合溶媒を用いる場合には、エタノール30~95体積%が好ましい。
【0029】
アルコール感調整剤の形態としては特に制限されず、例えば粉末状、顆粒状、錠剤状の固体物や、液体状や乳液状などの形態とすることができるが、液体状とすることが好ましい。
【0030】
このようにして調製したアルコール感調整剤を用いることにより、アルコール感調整剤とアルコール飲料との調合を効率よく行うことができ、アルコール飲料中のスルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンの濃度を容易に調製することができる。
【0031】
[アルコール飲料]
本発明に係るアルコール飲料とは、飲料にエタノールが含まれる飲料であり、エタノール濃度が2~12.5体積%の範囲のアルコール飲料が好ましく、エタノール濃度が5~9体積%の範囲のアルコール飲料がさらに好ましい。
【0032】
さらに本発明に係るアルコールとは特に制限は無く、醸造酒、蒸留酒、混成酒といった酒類に適用できる。具体的には、ビール、日本酒、ワイン等の醸造酒、焼酎、泡盛、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、テキーラ、ジン、スピリッツ等の蒸留酒、上記酒類に糖類や果実を漬け込んだ果実酒、それら酒類にさらに果汁、フレーバー、炭酸ガス等を混合したカクテル、フィズ、酎ハイ、ビール風味のアルコール飲料などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。その中で本発明に係わるアルコール感調整剤の対象としては焼酎などの蒸留酒が好ましい。
【0033】
[アルコール飲料の調合方法]
本発明に係るアルコール飲料の調合方法は、水とエタノールを混合させて、所定のエタノール濃度に調合した後、アルコール感調整剤を添加して、アルコール飲料中にスルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンの少なくとも一方を含有させる。
【0034】
スルフロールのアルコール飲料中の含有量は0.005~500ppmが好ましく、また、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンのアルコール飲料中の含有量は0.175~100ppmが好ましいが、より好ましい含有量はエタノール濃度に依存する。
【0035】
エタノール濃度が2~3体積%の場合は、アルコール飲料中のスルフロールの含有量は0.005~0.05ppmが好ましい。0.005ppm未満ではアルコール感の抑制する効果が低く、0.05ppmより多い場合はアルコール感を抑制する効果は緩やかとなる。また、アルコール飲料中のネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量は0.175~0.5ppmが好ましい。0.175ppm未満ではアルコール感の抑制する効果が低く、0.5ppmより多い場合はアルコール感を抑制する効果が緩やかとなる。
【0036】
エタノール濃度が4.5~5.5体積%の場合は、アルコール飲料中のスルフロールの含有量は0.01~300ppmが好ましく、0.01~1.0ppmがより好ましい。0.01ppm未満ではアルコール感の抑制する効果が低く、1ppmより多い場合ではアルコール感を抑制する効果は緩やかとなり、300ppmより多い場合ではスルフロールの香味が強くなりすぎるため好ましくない。また、アルコール飲料中のネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量は0.25~80ppmが好ましく、0.25~2.5ppmがより好ましい。0.25ppm未満ではアルコール感を抑制する効果が低く、2.5ppmより多い場合ではアルコール感を抑制する効果は緩やかとなり、80ppmより多い場合ではネオヘスペリジンジヒドロカルコンの香味が強くなりすぎるため好ましくない。
【0037】
エタノール濃度が6.5~7.5体積%の場合は、アルコール飲料中のスルフロールの含有量は0.01~400ppmが好ましく、0.015~1.5ppmがより好ましい。0.01ppm未満ではアルコール感を抑制する効果が低く、1.5ppmより多い場合ではアルコール感を抑制する効果は緩やかとなり、400ppmより多い場合ではスルフロールの香味が強くなりすぎるため好ましくない。また、アルコール飲料中のネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量は0.3~90ppmが好ましく、0.3~3.0ppmがより好ましい。0.3ppm未満ではアルコール感を抑制する効果が低く、3.0ppmより多い場合ではアルコール感を抑制する効果は緩やかとなり、90ppmより多い場合ではネオヘスペリジンジヒドロカルコンの香味が強くなりすぎるため好ましくない。
【0038】
エタノール濃度が8.5~9.5体積%の場合は、アルコール飲料中のスルフロールの含有量は0.015~500ppmが好ましく、0.02~2.0ppmがより好ましい。0.015ppm未満ではアルコール感を抑制する効果が低く、2.0ppmより多い場合ではアルコール感を抑制する効果は緩やかとなり、500ppmより多い場合ではスルフロールの香味が強くなりすぎるため好ましくない。また、アルコール飲料中のネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量は0.35~100ppmが好ましく、0.35~3.5ppmがより好ましい。0.35ppm未満ではアルコール感を抑制する効果が低く、3.5ppmより多い場合ではアルコール感を抑制する効果は緩やかとなり、100ppmより多い場合ではネオヘスペリジンジヒドロカルコンの香味が強くなりすぎるため好ましくない。
【0039】
エタノール濃度が11.5~12.5体積%の場合は、アルコール飲料中のスルフロールの含有量は0.025~500ppmが好ましく、0.025~2.5ppmがより好ましい。0.025ppm未満ではアルコール感を抑制する効果が低く、2.5ppmより多い場合ではアルコール感を抑制する効果は緩やかとなり、500ppmより多い場合ではスルフロールの香味が強くなりすぎるため好ましくない。また、アルコール飲料中のネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量は0.5~100ppmが好ましく、0.5~5.0ppmがより好ましい。0.5ppm未満ではアルコール感を抑制する効果が低く、5.0ppmより多い場合ではアルコール感を抑制する効果は緩やかとなり、100ppmより多い場合ではネオヘスペリジンジヒドロカルコンの香味が強くなりすぎるため好ましくない。
【0040】
このようにして調合したアルコール飲料中には、スルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンの少なくとも一方を含有しており、アルコールを摂取する際の不快な灼熱感や苦みを抑制し、アルコール飲料をより美味しく感じさせることができる。
【実施例0041】
以下、実施例によってアルコール感調整剤を含有させたアルコール飲料の官能評価を行い、アルコール感調整剤がアルコール感をどの程度抑制するか評価したが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【0042】
アルコール感を抑制するについての実験は、スルフロールまたはネオヘスペリジンジヒドロカルコンを用いてアルコール感調整剤を調製し、アルコール飲料にアルコール感調整剤を加えて調合した後、複数の評価者によりアルコール感を抑制する度を官能試験することで、アルコール感調整剤を加えていないアルコール飲料と比較した。
【0043】
〔アルコール感調整剤の調製〕
95体積%エタノール水溶液にスフロールを添加し攪拌、溶解させてスルフロールの濃度が0.01重量%、1重量%となるアルコール感調整剤を調製した。また、アルコール飲料中のスルフロールの含有量が高い場合にはスルフロール原液をアルコール感調整剤として用いた。さらに、95体積%エタノール水溶液にネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加し攪拌、溶解させてネオヘスペリジンジヒドロカルコン濃度が0.05重量%、0.5重量%、5重量%となるアルコール感調整剤を調製した。
【0044】
〔比較例用のアルコール感調整剤の調製〕
比較例として、特許文献2および3に記載されたβーシクロシトラールおよび1,3-ジヒドロキシアセトンを用いたアルコール感調整剤を調製し、官能評価を行った。比較例用のアルコール感調整剤の調製として、95体積%エタノール水溶液にβーシクロシトラールを0.01重量%、0.05重量%になる量を、また1,3-ジヒドロキシアセトンを1重量%になる量を添加し、攪拌、溶解させ、それぞれβーシクロシトラールを用いたアルコール感調整剤及び1,3ージヒドロキシアセトンを用いたアルコール感調整剤を調製した。
【0045】
〔アルコール飲料の調合〕
イオン交換水と95体積%のエタノールを混合させて、エタノール濃度が2体積%、3体積%、5体積%、7体積%、9体積%、12体積%となるようにアルコール飲料を調合した。
【0046】
〔官能評価〕
アルコール飲料にアルコール感調整剤を所定量含有後、4名の熟練したパネラーでアルコール感についての官能評価を行った。官能評価の点数は1~9点で評価した。具体的には、「強烈に灼熱感、苦みを感じる」を9点、「非常に強い灼熱感、苦みを感じる」を8点、「強い灼熱感、苦みを感じる」を7点、「やや強い灼熱感、苦みを感じる」を6点、「灼熱感、苦みを感じる」を5点、「少し灼熱感、苦みを感じる」を4点、「僅かに灼熱感、苦みを感じる」を3点、「極僅かに灼熱感、苦みを感じる」を2点、「灼熱感、苦みを感じない」を1点とした。点数はパネラーの平均点を結果として示し、どの程度アルコール感を抑制しているか評価を行った。
【0047】
〔コントロールの評価〕
コントロールとは、アルコール飲料中にアルコール調整剤を含まないで官能評価を行ったものである。具体的には、エタノール濃度が2~12体積%のアルコール飲料にアルコール感調整剤を加えずに4名のパネラーで灼熱感と苦みに関する官能評価をおこない、1~9の点数をつけて平均点を算出した。コントロールと、アルコール感調整剤を加えたアルコール飲料との官能評価の結果を比較することで、アルコール感調整剤の効果を知ることができる。評価結果は表1の通りであった。
【0048】
【0049】
以下、実施例1~20について、エタノールの濃度が2体積%、3体積%、5体積%、7体積%、9体積%、12体積%であるアルコール飲料に対して、スルフロールの含有量を変化させて、官能評価を行なった。
【0050】
(実施例1)
エタノール濃度が2体積%のアルコール飲料100mLにスルフロールの濃度が0.01重量%のアルコール感調整剤を5μL添加し攪拌、混合させて、スルフロールの含有量が0.005ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
(実施例2)
エタノール濃度が3体積%のアルコール飲料100mLにスルフロールの含有量が0.01重量%のアルコール感調整剤を7.5μL添加し攪拌、混合させて、スルフロールの含有量が0.0075ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表3に示す。
【0053】
【0054】
(実施例3~6)
エタノール濃度が5体積%のアルコール飲料100mLにスルフロールの含有量が0.01~1重量%のアルコール感調整剤またはスルフロール原液を添加し攪拌、混合させて、スルフロールの含有量が0.01~300ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表4に示す。
【0055】
【0056】
(実施例7~12)
エタノール濃度が7体積%のアルコール飲料100mLにスルフロールの含有量が0.01~1重量%のアルコール感調整剤またはスルフロール原液を添加し攪拌、混合させて、スルフロールの含有量が0.01~400ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表5に示す。
【0057】
【0058】
(実施例13~18)
エタノール濃度が9体積%のアルコール飲料100mLにスルフロールの含有量が0.01~1重量%のアルコール感調整剤またはスルフロール原液を添加し攪拌、混合させて、スルフロールの含有量が0.015~500ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表6に示す。
【0059】
【0060】
(実施例19~20)
エタノール濃度が12体積%のアルコール飲料100mLにスルフロールの含有量が0.01重量%のアルコール感調整剤またはスルフロール原液を添加し攪拌、混合させて、スルフロールの含有量が0.025ppmと500ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表7に示す。
【0061】
【0062】
表2~7に示す通り、アルコール感調整剤を加えた実施例1~20のアルコール飲料の官能評価結果は、全てアルコール感調整剤を加えていないコントロールと比較して官能評価の点数が低く、アルコールを摂取した際の灼熱感や苦みを効果的に抑えることができた。特に、エタノール濃度7体積%のアルコール飲料にスルフロールを0.015ppm含有させた場合にはコントロールに対して灼熱感の点数が1点も減少した。また、エタノール濃度9体積%のアルコール飲料にスルフロールを0.025ppm含有させた場合にはコントロールに対して灼熱感で点数が1.5点も減少するなど大きな効果を示した。
【0063】
以下、実施例21~36について、エタノールの濃度が2体積%、3体積%、5体積%、7体積%、9体積%、12体積%であるアルコール飲料に対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量を変化させて、官能評価を行なった。
【0064】
(実施例21)
エタノール濃度が2体積%のアルコール飲料100mLにネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.05重量%のアルコール感調整剤を35μL添加し攪拌、混合させて、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.175ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表8に示す。
【0065】
【0066】
(実施例22)
エタノール濃度が3体積%のアルコール飲料100mLにネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.05重量%のアルコール感調整剤を35μL添加し攪拌、混合させて、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.175ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表9に示す。
【0067】
【0068】
(実施例23~26)
エタノール濃度が5体積%のアルコール飲料100mLにネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.05~5重量%のアルコール感調整剤を50~160μL添加し攪拌、混合させて、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.25~80ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表10に示す。
【0069】
【0070】
(実施例27~30)
エタノール濃度が7体積%のアルコール飲料100mLにネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.05~5重量%のアルコール感調整剤を60~180μL添加し攪拌、混合させて、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.3~90ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表11に示す。
【0071】
【0072】
(実施例31~34)
エタノール濃度が9体積%のアルコール飲料100mLにネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.05~5重量%のアルコール感調整剤を70~200μL添加し攪拌、混合させて、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.35~100ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表12に示す。
【0073】
【0074】
(実施例35~36)
エタノール濃度が12体積%のアルコール飲料100mLにネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.05~5重量%のアルコール感調整剤を100~200μL添加し攪拌、混合させて、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの含有量が0.5~100ppmのアルコール飲料を調合した。その後、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表13に示す。
【0075】
【0076】
表8~13に示すとおり、アルコール感調整剤を加えた実施例21~36のアルコール飲料の官能試験結果は、全てアルコール感調整剤を加えていないコントロールの点数以下であり、アルコールを摂取した際の灼熱感や苦みを効果的に抑えることができた。特に、エタノール濃度が7体積%のアルコール飲料にネオヘスペリジンジヒドロカルコンを0.3ppm含有させた場合にはコントロールに対して灼熱感の点数が1点以上減少した。また、エタノール濃度9体積%のアルコール飲料にネオヘスペリジンジヒドロカルコンを0.35ppm含有させた場合にはコントロールに対して灼熱感の点数が1.5点も減少するなど大きな効果を示した。
【0077】
以下、比較例1~4について、エタノールの濃度が7体積%、9体積%であるアルコール飲料に対して、βーシクロシトラールの含有量を変化させて、官能評価を行なった。比較例は先行特許文献2に記載されたβーシクロシトラールとの比較を行い、その効果を見たものである。
【0078】
(比較例1~2)
βーシクロシトラールの濃度が0.01重量%、0.05重量%になるように添加、調製したアルコール感調整剤を、エタノール濃度7体積%のアルコール飲料100mLに混合して、βーシクロシトラールの含有量が0.015ppm、0.3ppmになるように調合した後に、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表14に示す。
【0079】
【0080】
(比較例3~4)
βーシクロシトラールの濃度が0.01重量%、0.05重量%になるように添加、調製したアルコール感調整剤を、エタノール濃度7体積%のアルコール飲料100mLに混合して、βーシクロシトラールの含有量が0.025ppm、0.35ppmになるように調合した後に、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表15に示す。
【0081】
【0082】
以下、比較例5~6について、エタノールの濃度が7体積%、9体積%であるアルコール飲料に対して、1,3-ジヒドロキシアセトンの含有量を変化させて、官能評価を行なった。比較例は先行特許文献3に記載された1,3-ジヒドロキシアセトンの比較を行い、その効果を見たものである。
【0083】
(比較例5)
1,3-ジヒドロキシアセトンの濃度が1重量%になるように添加、調製したアルコール感調整剤を、エタノール濃度7体積%のアルコール飲料100mLに混合して、βーシクロシトラールの含有量が1ppmになるように調合した後に、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表16に示す。
【0084】
【0085】
(比較例6)
1,3-ジヒドロキシアセトンの濃度が1重量%になるように添加、調製したアルコール感調整剤を、エタノール濃度9体積%のアルコール飲料100mLに混合して、βーシクロシトラールの含有量が1ppmになるように調合した後に、4名のパネラーにより官能評価を行なった。結果を表17に示す。
【0086】
【0087】
表14に示す通り、エタノール濃度が7体積%のアルコール飲料にβーシクロシトラールを0.015ppm含有させた場合はコントロールよりも灼熱感、苦みともに点数が減少した。しかし、βーシクロシトラールを0.30ppm含有させると0.015ppm含有させた場合よりも点数が上昇し、アルコール感が抑制されない。また、スルフロールを0.015ppm含有させた場合やネオヘスペリジンジヒドロカルコンを0.3ppm含有させた場合よりも官能評価の点数が高く、アルコール感を抑制する効果が低い。
【0088】
また、表15に示す通り、エタノール濃度が9体積%のアルコール飲料にβーシクロシトラールを0.025ppm含有させた場合はコントロールよりも灼熱感、苦みともに点数が減少した。しかし、βーシクロシトラールを0.35ppm含有させると官能評価の点数はコントロールの点数と同じとなりアルコール感が抑制されない。また、スルフロールを0.025ppm含有させた場合やネオヘスペリジンジヒドロカルコンを0.35ppm含有させた場合よりも官能評価の点数は高く、アルコール感を抑制する効果が低い。
【0089】
さらに、表16に示す通り、エタノール濃度が7体積%のアルコール飲料に1,3ージヒドロキシアセトンを1ppm含有させた場合はコントロールよりも灼熱感、苦みともに点数が減少した。しかし、スルフロールを0.015ppm含有させた場合やネオヘスペリジンジヒドロカルコンを0.3ppm含有させた場合よりも官能評価の点数が高く、アルコール感を抑制する効果が低い。
【0090】
そして、表17に示す通り、エタノール濃度が9体積%のアルコール飲料に1,3ージヒドロキシアセトンを1ppm含有させた場合はコントロールよりも灼熱感、苦みともに点数が減少した。しかし、スルフロールを0.02ppm含有させた場合やネオヘスペリジンジヒドロカルコンを0.35ppm含有させた場合よりも官能評価の点数が高く、アルコール感を抑制する効果が低い。