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特開2023-88586多層ポリエステルシート及びそれを用いた包装用容器
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  • 特開-多層ポリエステルシート及びそれを用いた包装用容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088586
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】多層ポリエステルシート及びそれを用いた包装用容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20230620BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
B32B27/36
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203410
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 信之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 考道
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AC07
3E086AC22
3E086AD05
3E086AD06
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA35
3E086BB22
3E086BB41
3E086BB51
3E086BB85
3E086CA01
3E086CA28
3E086DA08
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AL01B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100GB15
4F100JA04A
4F100JA05A
4F100JA06
4F100JJ03
4F100JK10
4F100JL12
4F100JL12A
4F100JN01
4F100YY00
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】 透明性、耐熱性、耐衝撃性を維持しヒートシール性に優れた多層ポリエステルシート及びそれを用いた包装用容器を提供すること
【解決手段】 ポリエステル系樹脂を主成分とする基材層(B層)の少なくとも片面に共重合ポリエステル樹脂を主成分とする表面層(A層)が積層されたヒートシール性のある多層ポリエステルシートであって、下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とする多層ポリエステルシート。
(1)スキン表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定されるガラス転移温度が76℃以下である。
(2) 表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定される昇温結晶化温度が110℃以上140℃以下である。
(3) 表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が200℃以上245℃以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂を主成分とする基材層(B層)の少なくとも片面に共重合ポリエステル樹脂を主成分とする表面層(A層)が積層されたヒートシール性のある多層ポリエステルシートであって、下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とする多層ポリエステルシート。
(1)表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定されるガラス転移温度が76℃以下である。
(2)表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定される昇温結晶化温度が110℃以上140℃以下である。
(3)表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が200℃以上245℃以下である。
【請求項2】
前記多層ポリエステルシートの表面層(A層)の全ポリエステル樹脂成分中においてグリコール成分の合計量100モル%中にジエチレングリコール由来の構造ユニットを5モル%以上40モル%以下含有している。
【請求項3】
前記多層ポリエステルシートの表面層(A層)の全ポリエステル樹脂成分中において非晶質成分となりうるモノマー成分由来の構成ユニットを0モル%以上5モル%以下含有している。
【請求項4】
前記多層ポリエステルシートのヘイズが5%以下である。
【請求項5】
前記多層ポリエステルシートの極限粘度が0.50dl/g以上0.85dl/g以下である。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載の多層ポリエステルシートを用い、熱盤成形、真空成形、圧空成形または真空圧空成形から選択される熱成形により賦形して得た包装用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性、耐衝撃性を維持しヒートシール性に優れた多層ポリエステルシート及びそれを用いた包装用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品および工業製品に代表される流通物品の多くに、包装体が用いられている。包装体の中には、プラスチックフィルムやシートを成形した容器がある。このようなプラスチック製の容器には、プラスチックからなるシーラントフィルムが蓋材として使用されることが多い。この場合、内容物が容器に充填された後、容器のフランジ部に蓋材がヒートシールによって接着されて包装体が完成し、内容物の保護、漏洩防止といった機能が備わる。容器としては、透明性や光沢感といった外観の美麗さだけでなく、リサイクルできる素材であることを考慮して、ポリエチレンテレフタレート(PET)をはじめとするポリエステル系素材からなるものが幅広く使用されている。容器がポリエステル系素材である場合、その蓋材も同系統のポリエステル系素材からなることが多い。これは、異素材同士のヒートシールが成立しにくいという技術的な問題による。
従来のシーラントとしては、シール性能やコストといった観点から、ポリプロピレンやポリエチレンといったポリオレフィン系素材からなるシーラントが蓋材として、広く使用されてきたが、ポリオレフィン系シーラントは、内容物の成分(油脂や香気成分等の有機化合物)を吸着・透過しやすいといった欠点を有している。一方、ポリエステル系シーラントは、下記の方法によりポリエステル系の容器と接着しやすいだけでなく、内容物の成分を吸着・透過させにくいという特徴を有することから蓋材として使用されるケースが増えてきている。一般にポリエステルシートは、ヒートシール性に乏しく、それらを熱成形した容器もヒートシールできないなどの不具合を生じる。ヒートシール性を向上させるためには、ポリエステルシートに共重合ポリエステルを共押出もしくは積層(ラミネート)させる方法がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、芳香族ポリエステルと共重合ポリエステルとを共押出した多層ポリエステルシートが開示されている。
かかる技術によれば、共押出する共重合ポリエステルとしては、テレフタル酸成分の一部をイソフタル酸や2,6-ナフタレンジカルボン酸を使用し、グリコール成分の一部に1,4-シクロヘキサンジメタノールを共重合し、共重合ポリエステルの結晶融解熱および極限粘度を一定の範囲に制御することで、ヒートシール性と耐衝撃性、透明性を有するポリエステルシートが得られるというものである。
【0004】
しかしながら、共重合ポリエステルのような非晶性ポリエステル樹脂は、非晶質で融点を持たず低温で溶着するという性質を持っている。非晶性ポリエステル樹脂の場合、ガラス転移温度(Tg)以上ではペレット同士がブロッキングするためTg 以下の温度でしか乾燥することが出来ない。そのため成形前の乾燥工程に長い時間が必要であり、通常70 ℃で12 時間以上乾燥してから成形するのが一般的であり、手間となる。また、ベント付き混錬押出機を用いて積層シートを得る場合、原料乾燥が不十分で原料中に水分が含まれると内包された水分によって加水分解され、粘度低下を起こす懸念がある。得られた積層シートの極限粘度が低い場合、熱成形後の最終製品としての機械的強度が十分でなく、特に耐衝撃性や耐熱性の低下などに影響する。また、非晶性ポリエステル樹脂は自己粘着性が高く、押出機スクリュー溝表面に堆積固着し易いためハンドリング上の不具合が生じる懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3229463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点を改善し、透明性、耐熱性、耐衝撃性を維持しヒートシール性に優れた多層ポリエステルシート及びそれを用いた包装用容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決してなる本発明は以下の構成よりなる。
1.ポリエステル系樹脂を主成分とする基材層(B層)の少なくとも片面に共重合ポリエステル樹脂を主成分とする表面層(A層)が積層されたヒートシール性のある多層ポリエステルシートであって、下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とする多層ポリエステルシート。
(1)表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定されるガラス転移温度が76℃以下である。
(2)表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定される昇温結晶化温度が110℃以上140℃以下である。
(3)表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が200℃以上245℃以下である。
【0008】
2.前記多層ポリエステルシートの表面層(A層)の全ポリエステル樹脂成分中においてグリコール成分の合計量100モル%中にジエチレングリコール由来の構造ユニットを5モル%以上40モル%以下含有している。
【0009】
3.前記多層ポリエステルシートの表面層(A層)の全ポリエステル樹脂成分中において非晶質成分となりうるモノマー成分由来の構成ユニットを0モル%以上5モル%以下含有している。
【0010】
4.前記多層ポリエステルシートのヘイズが5%以下である。
【0011】
5.前記多層ポリエステルシートの極限粘度が0.50dl/g以上0.85dl/g以下である。
【0012】
6.前記1.~5.の何れかに記載の多層ポリエステルシートを用い、熱盤成形、真空成形、圧空成形または真空圧空成形から選択される熱成形により賦形して得た包装用容器。
【発明の効果】
【0013】
本発明に使用される共重合ポリエステル樹脂は、結晶性を有する原料であるため100℃~120℃、4時間で原料乾燥が可能であり、加水分解による粘度低下を起こしにくく、ハンドリング性に優れており、該共重合ポリエステル樹脂を用いることで、透明性、耐熱性、耐衝撃性を維持しヒートシール性に優れた多層ポリエステルシート及びそれを用いた包装用容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の多層ポリエステルシートの作製例を示し、(a)は三層構造の多層シートの断面図、(b)は二層構造の多層シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、ポリエステル系樹脂を主成分とする基材層(B層)の少なくとも片面に共重合ポリエステル樹脂を主成分とする表面層(A層)が積層されたヒートシール性のある多層ポリエステルシートであって、下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とする多層ポリエステルシートである。
(1) スキン表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定されるガラス転移温度が76℃以下である。
(2) 表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定される昇温結晶化温度が110℃以上140℃以下である。
(3) 表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が200℃以上245℃以下である。
【0016】
[共重合ポリエステル樹脂]
本発明における多層ポリエステルシートは下記の共重合ポリエステル樹脂(以下、ポリエステル原料と称する場合がある)を用いることが好ましい。表面層(A層)に共重合ポリエステル樹脂を用いることで、優れたヒートシール性と透明性、耐熱性、耐衝撃性を有した多層ポリエステルシートを得ることが可能となる。
【0017】
本発明における共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分の合計量100mol%中にジエチレングリコール由来の構成ユニットを5mol%以上40mol%以下含有することが好ましい。後述するようにジエチレングリコール由来の構成ユニットはフィルムを製造する際に異物を発生する原因となるので、フィルムの品位を考慮する場合にはできるだけ使用しないのが一般的であったが、本発明における共重合ポリエステル樹脂は樹脂温度250℃でも溶融粘度が低い為、通常のポリエステル樹脂より低い温度で押出しが可能である。したがって、グリコール成分の合計量100mol%中にジエチレングリコール由来の構成ユニットを5mol%以上40mol%以下とジエチレングリコールを多く含有しているにも関わらず、厚さ350μmのシート状とした際に異物や欠点を少なくすることが可能である。
【0018】
ポリエステルシートのヒートシール性を向上させるための手法の一つに、例えばエチレンテレフタレートを主たる構成成分とするシート中で非晶成分となりうるユニットを構成するモノマー成分(以下、単に非晶成分と称する場合がある)量を増やすという手段がある。しかし、特許文献1に記されているような非晶成分として使用される1,4-シクロヘキサンジメタノールやオペンチルグリコールは価格が高い問題がある。そこで、本発明者らはより安価なジエチレングリコール(以下、単に「DEG」とも表す。)に着目した。
【0019】
ポリエステルシート中のジエチレングルコール含有量が多くなると、耐熱性が悪くなり、溶融押出しで異物の吐出が増える為これまで積極的に使用されていなかった。しかし本発明者らは、共重合ポリエステル樹脂の構成ユニットとしてジエチレングリコールを表面層(A層)に所定量使用すると、シート表面のTgが低下し、ポリエステルシートのヒートシール性が向上し、透明性、耐熱性、耐衝撃性を維持できることを見出した。
【0020】
本発明における多層ポリエステルシートの製造用に用いられる共重合ポリエステル樹脂は、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とすることが好ましい。ここで、主たる構成成分とするとは、全構成成分中の50モル%以上となることをさす。エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。
【0021】
本発明の共重合ポリエステル樹脂を構成するテレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。本発明においては、テレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分は含有しないことが好ましい。
【0022】
ここで、上記の「非晶質成分となり得る」の用語の解釈について詳細に説明する。
【0023】
本発明において、「非晶性ポリマー」とは、具体的にはDSC(示差走査熱量分析装置)における測定で融解による吸熱ピークを有さない場合を指す。非晶性ポリマーは実質的に結晶化が進行しておらず、結晶状態をとりえないか、結晶化しても結晶化度が極めて低いものである。
【0024】
また、本発明において「結晶性ポリマー」とは上記の「非晶性ポリマー」ではないもの、即ち、DSC示差走査熱量分析装置における測定で融解による吸熱ピークを有する場合を指す。結晶性ポリマーは、ポリマーが昇温すると結晶化されうる、結晶化可能な性質を有する、あるいは既に結晶化しているものである。
【0025】
一般的には、モノマーユニットが多数結合した状態であるポリマーについて、ポリマーの立体規則性が低い、ポリマーの対象性が悪い、ポリマーの側鎖が大きい、ポリマーの枝分かれが多い、ポリマー同士の分子間凝集力が小さい、などの諸条件を有する場合、非晶性ポリマーとなる。しかし存在状態によっては、結晶化が十分に進行し、結晶性ポリマーとなる場合がある。例えば、側鎖が大きいポリマーであっても、ポリマーが単一のモノマーユニットから構成される場合、結晶化が十分に進行し、結晶性となり得る。そのため、同一のモノマーユニットであっても、ポリマーが結晶性になる場合もあれば、非晶性になる場合もあるため、本発明では「非晶質成分となり得るモノマー由来のユニット」という表現を用いた。
【0026】
ここで、本発明においてモノマーユニットとは、1つの多価アルコール分子および1つの多価カルボン酸分子から誘導されるポリマーを構成する繰り返し単位のことである。
【0027】
テレフタル酸とエチレングリコールからなるモノマーユニット(エチレンテレフタレートユニット)がポリマーを構成する主たるモノマーユニットである場合、その他のモノマーユニットとしては、イソフタル酸とエチレングリコールからなるモノマーユニット、テレフタル酸とネオペンチルグリコールからなるモノマーユニット、テレフタル酸と1.4-シクロヘキサンジメタノールからなるモノマーユニット、イソフタル酸とブタンジオールからなるモノマーユニット等が挙げられる。本発明においては、前記のその他のモノマーユニットは含有しないことが好ましい。
【0028】
ポリエステル樹脂を構成するエチレンテレフタレートユニット以外のジオール成分としては、1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。本発明の共重合ポリエステルを構成するエチレンテレフタレートユニット以外のジオール成分としては、ジエチレングリコールを用いる。
【0029】
本発明における多層ポリエステルシートの製造に用いられる共重合ポリエステル樹脂は、ジエチレングリコール由来の構成ユニットを含む必要がある。ジエチレングリコール由来の構成ユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、5モル%以上が好ましく、7モル%以上がより好ましく、9モル%以上がさらに好ましい。ジエチレングリコール由来の構成ユニットの上限は40モル%以下であることが好ましく、38モル%以下がより好ましく、36モル%以下であることがさらに好ましい。ジエチレングリコール由来の構成ユニットを5モル%以上含有する場合、ポリエステルのガラス転移温度を低下させて、ポリエステルシートのヒートシール性を向上させると共に、透明性、耐熱性、耐衝撃性を維持できるため好ましい。
一方、ジエチレングリコール成分が40モル%より多く含有する場合、樹脂が軟化して溶融押出し後の冷却固化工程で、冷却ロールへの粘着が生じやすくなり、生産性が悪化してしまうため好ましくない。
【0030】
なお前述のモノマー成分のうち、非晶質成分となり得るモノマーとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6--ナフタレンジカルボン酸、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることもできる。共重合ポリエステル中の該非晶質成分となり得るモノマーの含有量は0モル%以上5モル%以下の量であることが好ましく、含有しないこと(すなわち0モル%)がより好ましい。
【0031】
また、共重合ポリエステル樹脂は、ジエチレングリコール由来の構成ユニット量を上記範囲にすることにより、ガラス転移温度(Tg)を所定範囲内に調整した共重合ポリエステル樹脂が得られる。
【0032】
またポリエステル中でのジエチレングリコールは、共重合する方が好ましい。共重合することにより原料偏析の懸念が無くなり、シート原料組成の変動によるシート物性の変化を防ぐことが可能である。さらに共重合することでヒートシール性、耐衝撃性の点で好ましい。
【0033】
本発明における共重合ポリエステル樹脂の極限粘度は0.56dl/g以上0.87dl/g以下であることが好ましい。この範囲の極限粘度として、後述の溶融押し出し条件と組み合せることで多層ポリエステルシートの極限粘度を0.50dl/g以上0.85dl/g以下に調整することが可能となる。共重合ポリエステル樹脂の極限粘度が0.87dl/gを超えると押出機からの樹脂が吐出しにくくなって生産性が低下することがあり、あまり好ましくない。共重合ポリエステル樹脂の極限粘度が0.50dl/g未満だと、耐衝撃性が低下するので好ましくない。また熱成形後の製品としての機械的強度、熱成形の点から0.50dl/g以上が好ましい。
【0034】
また、共重合ポリエステル樹脂は、ジエチレングリコール由来の構成ユニット量を上記範囲にすることにより、ガラス転移温度(Tg)を55~76℃に調整した共重合ポリエステル樹脂が得られる。Tgが55℃より低いと、夏場等の倉庫等での常温保管時に、原料樹脂の分子が動くことで物性が変わるので、55℃以上が好ましく、58℃以上がより好ましい。
【0035】
本発明における多層ポリエステルシートを形成する樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0036】
本発明における多層ポリエステルシートを形成する樹脂の中には、無機粒子、有機粒子、及びこれらの混合物からなる粒子からなる群から選択される少なくとも1種の粒子を含有することが好ましい。
【0037】
使用する無機粒子としては、例えば、シリカ(酸化珪素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、アルミナ、シリカ-アルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウムからなる粒子が挙げられる。 有機粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレンからなる粒子を挙げることができる。中でもシリカ(酸化珪素)、炭酸カルシウム、又はアルミナ(酸化アルミニウム)からなる粒子、若しくはポリメタクリレート、ポリメチルアクリレート、又はその誘導体からなる粒子が好ましく、シリカ(酸化珪素)、又は炭酸カルシウムからなる粒子がより好ましく、中でもシリカ(酸化珪素)がヘイズを低減する点で特に好ましい。
【0038】
多層ポリエステルシートを形成する樹脂の中に上記粒子を配合する方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うのも好ましい。
【0039】
[多層ポリエステルシートの製造方法]
本発明の多層ポリエステルシートは、一般的に、ポリエステル樹脂等の樹脂をシート状に成形して得られる。通常、原料となる樹脂はチップやペレットと呼ばれる粒状の形状であり、このような樹脂をシート状に成形する場合、余計な水分を除去するために原料となる樹脂を乾燥させる工程が設けられ、原料乾燥あるいは熱風乾燥によって、水分率が100ppm未満となるように乾燥する。
【0040】
本発明の多層ポリエステルシートに用いられる原料樹脂の乾燥後の水分率は、100ppm以下であることが好ましい。乾燥後の樹脂の水分率が100ppm以下であることは、樹脂成形体を製造するのに十分な水準まで樹脂が乾燥したことを意味する。乾燥後の樹脂の水分率が100ppmを超える場合、樹脂の水分率が高く、樹脂成形体としたときに樹脂の加水分解が進んで機械強度が低下することがある他、製膜性が悪化することもある。乾燥後の樹脂の水分率の下限に特に制限はないが、乾燥時間効率を考慮した実現可能性の観点から下限は30ppmとなる。なお、原料樹脂の水分率は質量基準で算出するものとする。
【0041】
本発明の多層ポリエステルシートは、一般的な共押出し法による多層シート製造装置を用いて製造することができる。例えば基材層(B層)及び基材層(B層)を構成する上記の共重合ポリエステル樹脂をホッパーに備えた押出機に供給及び混合し、各押出機により溶融押し出しされた樹脂を多層ダイで一体シート化することで、A層/B層構成の2層又は、A層/B層/A層構成の3層構造の多層シートを得ることができる(図1参照)。
【0042】
本発明の多層ポリエステルシートは、表裏両面を有する基材層と(B層)、該基材層(B層)の少なくとも片面に設けられた表面層(A層)とを有してなるものである。
【0043】
本発明の多層ポリエステルシートの基材層(B層)は、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂を主成分として構成される。基材層(B層)で用いるポリエステル系樹脂は、非晶ポリエチレンテレフタレート(APET、Aは非晶質(Amorphous)の意味)であることが好ましい。一般的なAPETの融点は260℃前後である。本発明のポリエステル系樹脂を構成するテレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。本発明においては、テレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分は含有しないことが好ましい。
【0044】
本発明の多層ポリエステルシートの基材層(B層)の厚みは100μm~1mmであることが好ましい。より好ましくは200μm~800μmである。基材層(B層)の厚みが100μmを下回ると、多層ポリエステルシートを熱成形した後に得られる容器の肉厚が薄くなりすぎて、容器の剛性や強度の面で必要な性能確保が難しくなる。基材層(B層)の厚みが1mmを超えると熱成形での賦形性を悪化させる恐れがある。
【0045】
本発明の多層ポリエステルシートの表面層(A層)は、上記の共重合ポリエステル樹脂を主成分として構成される。表面層(A層)で用いる共重合ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の構成ユニットとしてジエチレングリコールを使用し、ジエチレングリコール由来の構成ユニット量が上記範囲であることが好ましい。
【0046】
本発明の多層ポリエステルシートの表面層(A層)の厚みは、10~100μmであることが好ましい。より好ましくは15μm~60μmである。表面層(A層)の厚みが10μmを下回ると、ヒートシール性や耐衝撃性の面で必要な性能確保が難しくなる。表面層(A層)の厚みが100μmを超えるとヒートシール性は向上するが、耐熱性や機械強度が低下してしまうため好ましくない。
【0047】
本発明の多層ポリエステルシートは、シート表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等をすることも可能である。
【0048】
本発明の多層ポリエステルシートは、公知の熱成形手法(例えば熱盤成形、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、レバースドロー成形またはこれらを組み合わせた成形方法)を用いて、包装用容器の形態に賦形することができる。
【0049】
[本発明の多層ポリエステルシート及び容器の特性]
ポリエステル系樹脂を主成分とする基材層(B層)の少なくとも片面に共重合ポリエステル樹脂を主成分とする表面層(A層)が積層されたヒートシール性のある多層ポリエステルシートであって、前記表面層(A層)が下記要件(1)~(3)を全て満たすのが好ましい。それぞれについて詳細に説明する。
(1)表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定されるガラス転移温度が76℃以下である。
(2)表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定される昇温結晶化温度が110℃以上140℃以下である
(3)表面層(A層)の示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が200℃以上245℃以下である。
【0050】
(1)ガラス転移温度(Tg)
本発明の多層ポリエステルシートの表面層(A層)のガラス転移温度は、76℃以下であることが好ましく、より好ましくは74℃以下である。表面層(A層)のガラス転移温度が高い場合、多層ポリエステルシートのヒートシール性が悪くなるため好ましくない。
【0051】
(2)昇温結晶化温度(Tc1)
本発明の多層ポリエステルシートの表面層(A層)を示差走査熱量計(DSC)で測定した時に得られる昇温結晶化温度は、110℃以上140℃以下であることが好ましく、より好ましくは115℃以上135℃以下である。
表面層(A層)の昇温結晶化温度が110℃より低い場合、より低温で結晶化が起きやすい状態となるため成形時の加熱により結晶化が促進されることで透明性が悪くなるため好ましくない。表面層(A層)の昇温結晶化温度が140℃より高くなるということは、ポリエステル樹脂の構成ユニットとしてジエチレングリコールの含有量が少なくなることとなり、ヒートシール性が低下してしまうため好ましくない。
【0052】
(3)融点(Tm)
本発明の多層ポリエステルシートの表面層(A層)を示差走査熱量計(DSC)で測定した時に得られる融点は、200℃以上245℃以下であることが好ましく、より好ましくは202℃以上242℃以下である。なお、融点の詳細な測定方法は後述の実施例で記載するが、融解ピークが2つ以上観察される場合は、最も低温側にあらわれるピークを融点とする。表面層(A層)の融点が200℃未満であると、ヒートシール性は向上するが、耐熱性や機械強度が低下してしまうため好ましくない。表面層(A層)の融点が245℃を超える場合、表面層(A層)の融解が起きにくくなり、ヒートシール性が低下してしまうため好ましくない。
【0053】
本発明の多層ポリエステルシートのヘイズは、シートや最終製品の透明性(ヘイズ)の観点から5%以下が好ましく、より好ましく3%以下が好ましい。
【0054】
本発明の多層ポリエステルシートとイージーオープンフィルムを用いて、ヒートシールさせた際の剥離強度(ヒートシール性)は、10N/15mm以上が好ましい。この剥離強度が10N/15mm未満であると、シール部分が容易に剥離されるため、包装体として用いることができない。
【実施例0055】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。なお、ポリエステル原料および多層ポリエステルシートの評価方法を以下に示す。
【0056】
A.ポリエステル原料の評価方法は下記の通りである。
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査熱量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DSC6220型)を用いて、樹脂試料5mgを窒素雰囲気下にて280℃まで溶融し、5分間保持した後、液体窒素にて急冷し、室温より昇温速度20℃/分の条件にて昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0057】
[ジエチレングリコールの含有量]
樹脂試料5mgを重クロロホルムとトリフルオロ酢酸の混合溶液(体積比9/1)0.7mlに溶解し、1H-NMR(varian製、UNITY50)を使用してジエチレングリコールユニットの存在量を算出し、そのモル%を求めた。
【0058】
[極限粘度(IV)]
樹脂試料0.2gをフェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン(60/40(重量比))の混合溶媒50ml中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。単位はdl/g。
【0059】
[水分率]
カールフィッシャー水分測定装置(三菱化学社製CA-200)を用いて、カールフィッシャー法により樹脂の水分量(ppm)を測定した。なお、試薬は“アクアミクロン”(登録商標)AX/CXUを用い、樹脂の水分率は質量基準で算出した。
【0060】
B.多層ポリエステルシートの評価方法は下記の通りである。なお、以下に示す、表面層の、昇温結晶化温度(Tc1)、融点、がラス転移温度(Tg)、極限粘度(IV)を求める際、シートの表層から表面層のみをフェザー刃で削り取ってサンプリングした。なお、削った後のシートサンプルは、電子走査顕微鏡(SEM)により断面を観察し、表面層以外の層が削られていないかを確認した。
【0061】
[シート厚み]
JIS K7130-1999 A法に準拠し、ダイアルゲージを用いて測定した。
【0062】
[シート製膜性]
得られた多層ポリエステルシートの外観評価を〇、×で評価した。汚れや異物がなく、製膜性が良好であれば、〇とした。汚れや異物があったり、製膜性が良好と言えなければ、×とした。
【0063】
[ガラス転移温度(Tg)(表面層)]
示差走査熱量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DSC6220型)を用いて、シートの表層からサンプリングした樹脂試料5mgを窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/minで25℃から320℃まで溶融し、液体窒素にて300℃/minで急冷し、室温で3分間保持した後、昇温速度10℃/minで25℃から320℃まで昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。ガラス転移温度以下のベースラインの延長線と遷移部における最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0064】
[昇温結晶化温度(Tc1)(表面層)]
示差走査熱量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DSC6220型)を用いて、シートの表層からサンプリングした樹脂試料5mgを窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/minで25℃から320℃まで溶融し、液体窒素にて300℃/minで急冷し、室温で3分間保持した後、昇温速度10℃/minで25℃から320℃まで昇温し、得られた昇温結晶化の発熱曲線のピークトップ温度を昇温結晶化温度(Tc1)とした。
【0065】
[融点(Tm)(表面層)]
示差走査熱量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DSC6220型)を用いて、シートの表層からサンプリングした樹脂試料5mgを窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/minで25℃から320℃まで溶融し、液体窒素にて300℃/minで急冷し、室温で3分間保持した後、昇温速度10℃/minで25℃から320℃まで昇温し、あらわれる吸熱ピークの極小値を示す温度を融点とした。ここでの吸熱ピークとは、160~280℃の温度帯にあらわれるものを指す。また、融点が160~280℃の温度帯において2つ以上あらわれる場合、最も低温側のものを融点とした。
【0066】
[ヘイズ]
JIS-K7136に準拠し、得られたシートから長手方向5cm××幅方向5cmの面積に切り出し、日本電色工業株式会社製のヘイズメーター(NDH5000)を用いて、ヘイズを測定した。測定は、3回行い、その平均値を求めた。
[極限粘度(IV)(シート)]
多層ポリエステルシート0.2gをフェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン(60/40(重量比))の混合溶媒50ml中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。単位はdl/g。
【0067】
[ヒートシール性]
多層ポリエステルシートとイージーオープンフィルム(三井化学東セロ社製(商品名)ABF65C)を用いて、ヒーター温度120℃~160℃、時間1.0秒、圧力0.5MPaでヒートシールさせ剥離強度を測定した。接着サンプルは、シール幅が15mmとなるように切り出した。剥離強度は、万能引張試験機「DSS-100」(島津製作所製)を用いて引張速度200mm/分で測定した。剥離強度は、15mmあたりの強度(N/15mm)で示す。ヒートシール性の評価は、目標値10N/15mm以上とし、目標値以上の場合を〇、目標値未満の場合を×とした。
【0068】
[衝撃強度]
測定定装置として、株式会社安田精機製作所製の181フィルムインパクトテスターを使用し、多層ポリエステルシートの衝撃強度を測定した。具体的には、得られたシートから長手方向5cm×幅方向5cmの面積に切り出し試験サンプルを準備し、予め測定環境温度で24時間放置後に測定を行った。
【0069】
C.容器の評価方法は下記の通りである。多層ポリエステルシートを熱成形して標準的なサイズの透明容器(縦125mm×幅125mm×高さ35mm、フランジ部幅5mm)を作製した。
【0070】
[耐熱性(容器)]
測定装置として、エスペック株式会社製のPHH-202Mを使用し、容器の耐熱性を測定した。得られた容器を試験温度50℃~70℃に設定したパーフェクトオーブン(恒温器)中に1時間静置する。そして、加熱前後の容器の寸法変化および変形の有無から〇、×で評価した。容器の寸法変化および変形がない場合を〇とし、容器の寸法変化および変形がある場合を×とした。
[ヒートシール性(容器)]
イージーオープンフィルム(三井化学東セロ社製(商品名)ABF65C)を長手方向13.5cm×幅方向13.5cmのサイズに切り出し、エーシングパック工業株式会社製のハンドシーラーを用いて、容器にヒートシールして包装容器を作製した。ヒートシール条件は、ヒーター温度140℃~160℃、時間1.0秒、圧力0.5MPaでヒートシールさせ剥離強度を測定した。剥離強度は、万能引張試験機「DSS-100」(島津製作所製)を用いて引張速度200mm/分で測定した。剥離強度は、15mmあたりの強度(N/15mm)で示す。ヒートシール性の評価は、目標値10N/15mm以上とし、目標値以上の場合を〇、目標値未満の場合を×とした。
【0071】
<ポリエステル原料の調製>
テレフタル酸(TPA)および以下に記載の各グリコール成分を用いて、エステル交換を経て重縮合を行う公知の方法により、原料A~Hを得た。次いで以下に記載の各原料乾燥条件により水分率が100ppm未満となるように乾燥した。
原料A:ジエチレングリコール22モル%とエチレングリコール78モル%とテレフタル酸とからなるポリエステル。110℃で4時間減圧乾燥(1Torr)。極限粘度0.68dl/g ガラス転移温度67℃ 水分率82ppm
原料B:ジエチレングリコール40モル%とエチレングリコール60モル%とテレフタル酸とからなるポリエステル。110℃で4時間減圧乾燥(1Torr)。極限粘度0.661dl/g ガラス転移温度62℃ 水分率88ppm
原料C:ジエチレングリコール60モル%とエチレングリコール40モル%とテレフタル酸とからなるポリエステル。110℃で4時間減圧乾燥(1Torr)。極限粘度0.651dl/g ガラス転移温度58℃ 水分率90ppm
【0072】
原料D:ジエチレングリコール14モル%とエチレングリコール86モル%とテレフタル酸とからなるポリエステル。110℃で4時間減圧乾燥(1Torr)。極限粘度0.71dl/g ガラス転移温度69℃ 水分率78ppm
原料E:ジエチレングリコール3モル%とエチレングリコール97モル%とテレフタル酸とからなるポリエステル。110℃で4時間減圧乾燥(1Torr)。極限粘度0.731dl/g ガラス転移温度73℃ 水分率75ppm
原料F:ジエチレングリコール1モル%とエチレングリコール69モル%と1,4-シクロヘキサンジメタノール30モル%とテレフタル酸とからなるポリエステル。70℃で48時間減圧乾燥(1Torr)。極限粘度0.73dl/g ガラス転移温度80℃ 水分率92ppm
原料G:エチレングリコール100モル%と テレフタル酸とからなるポリエステル。極限粘度0.75dl/g ガラス転移温度83℃ 水分率72ppm
原料H:エチレングリコール100モル%と テレフタル酸とからなるポリエステル。110℃で4時間減圧乾燥(1Torr)。極限粘度0.75dl/g ガラス転移温度83℃ 水分率74ppm
【0073】
なお、上記ポリエステル原料Hの製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア310)をポリエステルに対して7000ppmの割合で添加した。なお、表中のEGはエチレングリコール、DEGはジエチレングルコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノールである。なお、各ポリエステルは、適宜チップ状にした。
【0074】
実施例、比較例で使用したポリエステル原料の組成、原料の乾燥条件、実施例、比較例におけるシートの樹脂組成と製造条件を、それぞれ表1、表2に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
[実施例1]
3台の押出し機を用いて3層構成の多層ポリエステルシートを製膜した。基材層(B層)はポリエステル原料Gを100.0質量%、表面層(A層)はポリエステル原料Aを94.0質量%、ポリエステル原料Hを6.0質量%とした。それぞれの原料樹脂を乾燥後、第1、第3の押出機より表面層(A層)形成混合樹脂を260℃の樹脂温度で溶融押出しし、第2の押出機により基材層(B層)形成混合樹脂を280℃の樹脂温度にて溶融し、キャススティングドラムに接触する側から表面層(A層)/基材層(B層)/表面層(A層)の順番に、Tダイ内にて層厚比が5/90/5になるように合流積層し、T字の口金から吐出させ、表面温度が25℃のキャスティングドラムにて冷却固化させ、未延伸のポリエチレンテレフタレートシートをロール状に巻き取ることによって、厚さ350μmの多層ポリエステルシートを所定の長さにわたって連続的に製造した。
多層ポリエステルシートの原料組成および製膜条件、得られたシートの物性及び評価結果を表2に示す。シートの評価はチルロールに接触した側の表面層(A層)で行った。
【0077】
実施例2
原料Aを原料Bに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ350μmの多層ポリエステルシートを製造した。多層ポリエステルシートの原料組成および製膜条件、得られたシートの物性及び評価結果を表2に示す。シートの評価はチルロールに接触した側の表面層(A層)で行った。
【0078】
実施例3
原料Aを原料Dに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ350μmの多層ポリエステルシートを製造した。多層ポリエステルシートの原料組成および製膜条件、得られたシートの物性及び評価結果を表2に示す。シートの評価はチルロールに接触した側の表面層(A層)で行った。
【0079】
実施例4
表面層(A層)/基材層(B層)/表面層(A層)の層厚比を10/80/10に変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ350μmの多層ポリエステルシートを製造した。多層ポリエステルシートの原料組成および製膜条件、得られたシートの物性及び評価結果を表2に示す。シートの評価はチルロールに接触した側の表面層(A層)で行った。
【0080】
実施例5
多層ポリエステルシートの厚さを400μmに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ350μmの多層ポリエステルシートを製造した。多層ポリエステルシートの原料組成および製膜条件、得られたシートの物性及び評価結果を表2に示す。シートの評価はチルロールに接触した側の表面層(A層)で行った。
【0081】
比較例1
原料Aを原料Cに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ350μmの多層ポリエステルシートを製造した。多層ポリエステルシートの原料組成および製膜条件、得られたシートの物性及び評価結果を表2に示す。シートの評価はチルロールに接触した側の表面層(A層)で行った。
【0082】
比較例2
原料Aを原料Gに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ350μmの多層ポリエステルシートを製造した。多層ポリエステルシートの原料組成および製膜条件、得られたシートの物性及び評価結果を表2に示す。シートの評価はチルロールに接触した側の表面層(A層)で行った。
【0083】
比較例3
原料Aを原料Eに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ350μmの多層ポリエステルシートを製造した。多層ポリエステルシートの原料組成および製膜条件、得られたシートの物性及び評価結果を表2に示す。シートの評価はチルロールに接触した側の表面層(A層)で行った。
【0084】
参考例1
原料Aを原料Fに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ350μmの多層ポリエステルシートを製造した。多層ポリエステルシートの原料組成および製膜条件、得られたシートの物性及び評価結果を表2に示す。シートの評価はチルロールに接触した側の表面層(A層)で行った。
【0085】
参考例2
基材層(B層)の原料Gをポリエステル原料Aを94.0質量%、ポリエステル樹脂原料Hを6.0質量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ350μmの多層ポリエステルシートを製造した。多層ポリエステルシートの原料組成および製膜条件、得られたシートの物性及び評価結果を表2に示す。シートの評価はチルロールに接触した側の表面層(A層)で行った。
【0086】
【表2A】
【0087】
【表2B】
【0088】
実施例1~5のシートは、表2の結果のように、表面層(A層)のガラス転移温度、昇温結晶化温度、融点が規定の範囲内となるため、透明性、耐熱性、耐衝撃性を維持しヒートシール性に優れた多層ポリエステルシート及びそれを用いた包装用容器であった。
【0089】
比較例1は、得られたシートの表面層(A層)のガラス転移温度、昇温結晶化温度が規定の範囲内であるものの、融点が低いため、耐熱性が不良であった。また、ポリエステルシート中のジエチレングリコール含有量が多く、汚れや異物が生じ易くなるため、シート製膜性が低下して安定してシートを採取することができず工業的に連続生産されるシートとしては劣るものであった。
【0090】
比較例2は、得られたシートの表面層(A層)のガラス転移温度が規定の範囲内であるものの、表面層の昇温結晶化温度および融点が規定の範囲から外れており、ヒートシール性評価が不良であった。
【0091】
比較例3は、得られたシートの表面層(A層)のガラス転移温度が規定の範囲内であるものの、表面層の昇温結晶化温度および融点が規定の範囲から外れており、ヒートシール性評価が不良であった。
【0092】
参考例1は、非晶性ポリエステル樹脂を用いているため、得られたシートの表面層(A層)のガラス転移温度が規定の範囲内であり、表面層(A層)の昇温結晶化温度および融点のピークがあらわれなかったが実施例1~5と同等の物性を有する良好なシートを得ることができるものの、成形前の乾燥工程に長い時間が必要であり、包装用容器を作製するための多層ポリエステルシートとしては劣るものであった。
【0093】
参考例2は、得られたシートの表面層(A層)のガラス転移温度、表面層(A層)の昇温結晶化温度および融点のピークが規定の範囲内であり、実施例1~5と同等の物性を有する良好なシートを得ることができるものの、包装用容器としては耐熱性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に使用される共重合ポリエステル樹脂は、結晶性を有する原料であるため100℃~120℃、4時間で原料乾燥が可能であり、加水分解による粘度低下を起こしにくく、ハンドリング性に優れており、該共重合ポリエステル樹脂を用いることで、透明性、耐熱性、耐衝撃性を維持しヒートシール性に優れた多層ポリエステルシート及びそれを用いた包装用容器を提供することが可能となった。
食品用の包装用容器の分野において広く適用できることから、産業界に大きく寄与することが期待される。
図1