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特開2023-88640燃料電池セパレータ及び燃料電池セパレータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088640
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】燃料電池セパレータ及び燃料電池セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20230620BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20230620BHJP
   H01M 8/0215 20160101ALI20230620BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230620BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/0215
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203496
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】平松 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】織田 容征
(72)【発明者】
【氏名】宮本 典孝
(72)【発明者】
【氏名】柳本 博
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD05
5H126DD14
5H126DD18
5H126EE03
5H126EE43
5H126GG02
5H126GG12
5H126HH01
5H126JJ01
5H126JJ02
5H126JJ10
(57)【要約】
【課題】接触対象との接触抵抗の低抵抗化を安定的に図ることができる燃料電池セパレータを得る。
【解決手段】金属基材20の表面上及び裏面上に一対のATO膜21Aが設けられる。一対のATO膜21Aのうち、上方のATO膜21Aの上面上に一方の貴金属粒子群22Gが設けられ、下方のATO膜21Aの下面上に他方の貴金属粒子群22Gが設けられる。一対の貴金属粒子群22Gはそれぞれ複数の貴金属粒子22を含んでおり、複数の貴金属粒子それぞれの構成材料は金またはプラチナである。複数の貴金属粒子22はそれぞれ粒子状を呈しており、複数の貴金属粒子22のうち少なくとも一部が離散して設けられる。金属基材20、一対のATO膜21A及び一対の貴金属粒子群22Gを含んで燃料電池セパレータ2が構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、
前記金属基材上に設けられる導電性酸化物膜と、
前記導電性酸化物膜上に設けられる貴金属粒子群とを備え、
前記貴金属粒子群は複数の貴金属粒子を含み、
前記複数の貴金属粒子のうち少なくとも一部が離散して設けられ、
前記複数の貴金属粒子それぞれの構成材料は金またはプラチナである、
燃料電池セパレータ。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池セパレータであって、
前記導電性酸化物膜はアンチモンドープ酸化スズ膜である、
燃料電池セパレータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池セパレータであって、
前記複数の貴金属粒子の平均直径は10nm以下である、
燃料電池セパレータ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうち、いずれか1項に記載の燃料電池セパレータであって、
前記貴金属粒子群は、前記導電性酸化物膜における粒子形成面上に形成され、
前記粒子形成面内における前記複数の貴金属粒子の占有面積割合は30%以下である、
燃料電池セパレータ。
【請求項5】
燃料電池セパレータの製造方法であって、
(a) 金属基材と前記金属基材上に設けられる導電性酸化物膜と含む中間構造体を準備するステップと、
(b) 加熱室内で前記中間構造体を加熱するステップと、
(c) 原料ミストを含むミスト空間内に、前記ステップ(b)の実行後の前記中間構造体を配置するステップとを備え、
前記ミスト空間は、前記加熱室と異なる粒子形成室内に確保され、
前記原料ミストは、金またはプラチナの貴金属を含む原料溶液を霧化することにより得られ、
前記ステップ(c)の実行後において、前記導電性酸化物膜の粒子形成面上に複数の貴金属粒子を含む貴金属粒子群が形成される、
燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の燃料電池セパレータの製造方法であって、
前記ステップ(c)の実行時間であるミスト接触時間は、前記粒子形成面内における前記複数の貴金属粒子の占有面積割合が30%以下になるように設定される、
燃料電池セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池の発電部に接触する燃料電池セパレータ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極で貼り合せ一体化させた膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)に対し、水素ガスなどの流路としての役割を持つセパレータで挟み込んだものを一つのセルとし、それらを複数個重ね合わせたスタックとして構成される。
【0003】
図12は燃料電池60のセル構造を分解して示す説明図である。図12にXYZ直交座標系を記している。同図に示す燃料電池60が一単位のセルとなり、燃料電池60はMEA5及びMEA5の両側に設けられる燃料電池セパレータ15及び16を主要構成要素として含んでいる。
【0004】
発電部となるMEA5は高分子電解質膜10、負極触媒層11、正極触媒層12、ガス拡散層13及びガス拡散層14を主要構成要素として含んでいる。高分子電解質膜10の一方主面(-X方向側の主面)上にカソード電極となる負極触媒層11が設けられ、高分子電解質膜10の他方主面(+X方向側の主面)上にアノード電極となる正極触媒層12が設けられる。
【0005】
なお、燃料電池60の完成段階では、高分子電解質膜10,負極触媒層11間及び高分子電解質膜10,正極触媒層12間はそれぞれ密着しており、図12で示す電解質膜・触媒層間B1及びB2は存在しない。
【0006】
さらに、負極触媒層11の一方主面上にガス拡散層13が設けられ、正極触媒層12の他方主面上にガス拡散層14が設けられる。なお、ガス拡散層は、「GDL:Gas Diffusion Layer)」とも呼ばれている。
【0007】
そして、ガス拡散層13の一方主面上に燃料電池セパレータ15が設けられる。この際、燃料電池セパレータ15は、凸部15t(+X方向に突出した部分)の表面がガス拡散層13の一方主面に接触する態様で設けられる。同様に、ガス拡散層14の他方主面上に燃料電池セパレータ16が設けられる。この際、燃料電池セパレータ16は、凸部16t(-X方向に突出した部分)の表面が燃料電池セパレータ16の他方主面に接触する態様で設けられる。
【0008】
拡散層・セペレータ間B3は燃料電池セパレータ15の凸部15tとガス拡散層13との間を示している。拡散層・セペレータ間B4は燃料電池セパレータ16の凸部16tとガス拡散層14との間を示している。したがって、燃料電池60の完成段階では、拡散層・セペレータ間B3及びB4は存在しない。
【0009】
一方、燃料電池60の完成段階においても、燃料電池セパレータ15の凹部15vとガス拡散層13との間にはセパレータ流路SP15が存在し、燃料電池セパレータ16の凹部16vとガス拡散層14との間にはセパレータ流路SP16が存在している。セパレータ流路SP15及びSP16は水素ガスや加熱された酸溶液などの流路となる。
【0010】
このような構造の燃料電池60において、MEA5内の両側に設けられるガス拡散層対13及び14はそれぞれ燃料ガスもしくは酸化剤ガスを提供するとともに電気化学反応によって生じた電気を集電するための層である。
【0011】
したがって、燃料電池60の発電効率を安定化させるためには、互いに接触するガス拡散層13,燃料電池セパレータ15(の凸部15t)間及びガス拡散層14,燃料電池セパレータ16(の凸部16t)間それぞれの電気的接触抵抗を低く、さらには、燃料電池60による発電プロセスを経た後であっても、低い接触抵抗を維持することが求められる(第1の要求)。
【0012】
また、燃料電池60の発電中におけるセパレータ対15及び16は、加熱された酸溶液中で電圧が印加された環境に晒される。このため、セパレータ対15及び16は、酸に対して高い耐食性を有することが求められる(第2の要求)。
【0013】
これら第1及び第2の要求に対応すべく、従来、燃料電池セパレータに様々な改良がなされている。以下、説明の都合上、「燃料電池セパレータ」を「セパレータ」と簡略化したり、「ガス拡散層」を「GDL」と英文略語表現したりする場合がある。
【0014】
上述した第1及び第2の要求に対応した従来の燃料電池セパレータとして、例えば、特許文献1に開示された燃料電池セパレータがある。この燃料電池セパレータは、セパレータの耐食性確保及び、GDLとの低い接触抵抗を実現することを目的に、セパレータの表面に対して、アンチモンドープ酸化スズ膜(ATO膜)を形成している。
【0015】
また、セパレータ表面に貴金属を形成して接触抵抗の低減化を図った先行技術文献として、特許文献2~特許文献6がある。
【0016】
特許文献2では、スパッタリング法等を用い、Au(金)、Pt(プラチナ)等の貴金属と、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)等の非貴金属との合金をセパレータ用の基材の表面成膜する方法を提案している。
【0017】
特許文献3に開示の技術は、セパレータ用の基材(金属薄板)の表面に貴金属膜を成膜している。貴金属膜は、平均厚さ10nm以下で、凸部が15nm以上の厚さとなるように設けられる。
【0018】
特許文献4では、セパレータ用のアルミ基材上にNi(ニッケル)めっきを処し、さらに、その上にAuのめっきを行う技術が提案されている。
【0019】
特許文献5では、金属セパレータ(金属基材)の凸部に、例えばインクジェット方を用いてドット状のAu粒子を凸部の面積率を12%以上にして成膜する技術が提案されている。
【0020】
特許文献6では、チタンで形成される金属基材上にチタン酸化物層を備え、さらにその上に導電性粒子(サイズ1~100nm)からなる導電性皮膜を含んだセパレータ構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2019-192437号公報
【特許文献2】特開2010-182593号公報
【特許文献3】特開2011-29008号公報
【特許文献4】特開2013-105629号公報
【特許文献5】特開2014-139884号公報
【特許文献6】特開2012-190816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、上述した従来の燃料電池セパレータは、上述した第1及び第2の要求を満足させる点において不十分であった。以下、この点を説明する。
【0023】
特許文献1で開示された従来のセパレータに含まれるATO単層では、第1の要求の低い接触抵抗を得るには十分ではなかった。すなわち、酸化スズ膜単層を表面に被覆させた従来のセパレータでは、GDLとの接触抵抗を低減することは困難であった。
【0024】
特許文献5で開示されたセパレータを実現する際、セパレータ用の基材の全面に貴金属を塗布すれば処理費用が高額になってしまう。
【0025】
一方、貴金属を基材の全面に形成しない場合、例えば、貴金属を基板の表面上に点在させる貴金属一部形成構造を考える。
【0026】
図13は特許文献5で開示された従来のセパレータの問題点を示す説明図である。同図(a)で示す燃料電池セパレータ82は、貴金属一部形成構造を採用し、金属基材20の表面の一部にのみ貴金属粒子25を形成している。
【0027】
同図(a)で示す貴金属一部形成構造の燃料電池セパレータ82は、装置完成直後の初期接触抵抗を比較的低く設定することができる。しかしながら、燃料電池セパレータ82は、燃料電池の発電中に厳しい環境下にさらされる。この環境下では、貴金属以外の金属が腐食液に接する可能性が高く、接触抵抗が増大してしまうことになる。
【0028】
なぜなら、図13(b)に示すように、貴金属が形成されていない金属基材20の表面に酸化層28が形成されてしまうからである。酸化層28は長時間の間に金属基材20と貴金属粒子25との界面に至り、最終的に、図13(c)で示すように、金属基材20と貴金属粒子25との間が酸化層28によって分離されてしまう。このように、燃料電池セパレータ82の使用期間中における腐食度合が比較的大きい場合、貴金属粒子25が燃料電池セパレータ82から脱落する場合もある。
【0029】
図13(c)のように、金属基材20の表面のほぼ全面に酸化層28が形成された後の燃料電池セパレータ82の接触抵抗は高くなってしまう。このように、貴金属一部形成構造を採用した従来の燃料電池セパレータ82は、接触抵抗の低抵抗化を安定的に維持することができない。
【0030】
したがって、図13で示したような現象が想定される厳しい環境下での腐食を抑制しようとすると、AuやPtをセパレータ用の基材の全面に設けることが不可欠となり、その費用も大きいものになり実用的でなくなる。
【0031】
特許文献6で開示された燃料電池セパレータは、セパレータ用の基材にチタンを用いる場合はチタン酸化物を、セパレータ用の基材にステンレス鋼を用いる場合には不導体膜層を中間層にしている。そして、中間層上にAuやPtの導電性皮膜をめっきやスパッタで設け、基材、中間層及び導電性被膜を含むセパレータ構造を実現している。
【0032】
しかしながら、中間層となるチタン酸化物層やステンレス不導体膜は、燃料電池に要求される厳しい環境下における耐食性は不十分であった。
【0033】
また、特許文献6の明細書の段落[0027]では、導電性皮膜は、Au、Ag(銀)、Cu(銅)、Pt、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)等で形成されているとしているが、Au、Pt以外の金属を設けると、その金属を起点に腐食してしまうのが実情である。
【0034】
従来の燃料電池セパレータは以上のように構成されており、比較的安価な構造で、接触対象との接触抵抗の低抵抗化を安定的に維持することができていないという問題点があった。
【0035】
本開示は上記問題点を解決するためになされたもので、比較的安価な構造で、接触対象との接触抵抗の低抵抗化を安定的に図ることができる燃料電池セパレータ及びその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本開示に係る燃料電池セパレータは、金属基材と、前記金属基材上に設けられる導電性酸化物膜と、前記導電性酸化物膜上に設けられる貴金属粒子群とを備え、前記貴金属粒子群は複数の貴金属粒子を含み、前記複数の貴金属粒子のうち少なくとも一部が離散して設けられ、前記複数の貴金属粒子それぞれの構成材料は金またはプラチナである。
【発明の効果】
【0037】
本開示の燃料電池セパレータは金属基材、導電性酸化物膜及び貴金属粒子群の三層構造のセパレータ基本構造を有するため、導電性酸化物膜を下地層とした貴金属粒子群と接触対象との接触抵抗の低抵抗化を安定的に図ることができる。
【0038】
さらに、本開示の燃料電池セパレータは、複数の貴金属粒子のうち少なくとも一部を離散して設けることにより、金またはプラチナである貴金属の使用量を抑制することができるため、比較的安価に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本開示の基本技術となるセパレータ基本構造を示す断面図である。
図2】本実施の形態である燃料電池セパレータの構造を示す断面図である。
図3】本実施の形態の燃料電池セパレータの製造方法の処理手順を示すフローチャートである。
図4】本実施の形態で用いるミストCVD装置の構成を模式的に示す説明図である。
図5】Au粒子面積割合及び平均粒子サイズに伴う接触抵抗向上度合を表形式で示す説明図である。
図6】加熱温度とAu平均粒子サイズとの関係を示すグラフである。
図7】加熱温度とAu平均面積割合との関係を示すグラフである。
図8】本実施の形態の燃料電池セパレータの種々の状態における接触対象との接触抵抗を表形式で示す説明図である。
図9図8で示した接触抵抗を棒グラフ形式で示す説明図である。
図10】従来の燃料電池セパレータの種々の状態における接触対象との接触抵抗を表形式で示す説明図である。
図11図10で示した接触抵抗を棒グラフ形式で示す説明図である。
図12】燃料電池の基本構造を分解して示す説明図である。
図13】従来のセパレータの問題点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
<実施の形態>
(基本構造)
図1は本開示の基本技術となるセパレータ基本構造2Rを示す断面図である。同図に示すように、セパレータ基本構造2Rは、金属基材20、導電性酸化物膜21及び貴金属粒子群22Gを主要構成要素として含んでいる。
【0041】
同図に示すように、金属基材20の表面上に導電性酸化物膜21が設けられる。導電性酸化物膜21の表面が粒子形成面となる。導電性酸化物膜21の表面上に貴金属粒子群22Gが設けられる。
【0042】
貴金属粒子群22Gは各々が微粒子状の複数の貴金属粒子22を含んでおり、複数の貴金属粒子22のうち、少なくとも一部は互いに離散して設けられる。すなわち、複数の貴金属粒子22間の少なくとも一部に、貴金属粒子22が存在しない隙間が設けられる。なお、複数の貴金属粒子それぞれの構成材料は金(Au)またはプラチナ(Pt)である。
【0043】
セパレータ基本構造2Rの貴金属粒子群22G側が接触対象との接触面となる。すなわち、導電性酸化物膜21を下地層とした貴金属粒子群22Gが接触面となる。接触対象として、例えば、図12で示した燃料電池60における燃料部となるMEA5の両側面に存在するガス拡散層対13及び14が考えられる。
【0044】
また、導電性酸化物膜21として、インジウムやアンチモン等の第三元素を添加して導電率を向上させた酸化スズ膜を用いている。インジウム添加した酸化スズ膜はITO(Indium Tin Oxide)膜となり、アンチモン添加した酸化スズ膜がATO(Antimony Tin Oxide)膜となる。このように、導電性酸化物膜21として、例えば、ATO膜(アンチモンドープ酸化スズ膜)やITO膜が用いられる。
【0045】
(実構造)
図2は本開示の実施の形態1である燃料電池セパレータ2の構造を示す断面図である。図2にXYZ直交座標系を記している。同図に示す燃料電池セパレータ2は、例えば、図12で示した燃料電池60に用いられる燃料電池セパレータ15及び16の1つとして用いられる。
【0046】
同図に示すように、図2で示す燃料電池セパレータ2は、金属基材20、一対のATO膜21A及び一対の貴金属粒子群22Gを主要構成要素として含んでいる。
【0047】
同図に示すように、金属基材20はX方向において凹凸を有し、Z方向に延在した構造を呈している。金属基材20の膜厚はほぼ均一になっている。金属基材20の+X方向側の表面上に上方のATO(アンチモンドープ酸化スズ膜)膜21Aが設けられ、金属基材20の-X方向側の裏面上に下方のATO膜21Aが設けられる。
【0048】
このように、金属基材20の両面に一対のATO膜21Aが設けられる。金属基材20及び一対のATO膜21Aを含む構造が中間構造体30となる。中間構造体30において、上方のATO膜21Aの上面及び下方のATO膜21Aの下面がそれぞれ粒子形成面となる。
【0049】
上方のATO膜21Aの上面上に貴金属粒子群22Gが設けられ、下方のATO膜21Aの下面上に貴金属粒子群22Gが設けられる。以下、上方のATO膜21Aと上方のATO膜21Aの上面上に設けられる貴金属粒子群22Gとの組合せを「上方貴金属形成部」として、下方のATO膜21Aと下方のATO膜21Aの下面上に設けられる貴金属粒子群22Gとの組合せを「下方貴金属形成部」と称する場合がある。
【0050】
一対の貴金属粒子群22Gはそれぞれ複数の貴金属粒子22を含んでおり、複数の貴金属粒子それぞれの構成材料は金またはプラチナである。
【0051】
したがって、上方のATO膜21Aの粒子形成面となる上面上に、各々が粒子状(略球状)の複数の貴金属粒子22が設けられる。複数の貴金属粒子22のうち少なくとも一部は互いに離散した状態で上方のATO膜21Aの上面に付着している。したがって、上方貴金属形成部における複数の貴金属粒子22間の少なくとも一部に隙間が存在する。
【0052】
同様に、下方のATO膜21Aの粒子形成面となる下面上に、各々が粒子状の複数の貴金属粒子22が設けられる。複数の貴金属粒子22のうち少なくとも一部は互いに離散した状態で下方のATO膜21Aの下面に付着している。したがって、下方貴金属形成部における複数の貴金属粒子22間の少なくとも一部に隙間が存在する。
【0053】
なお、上方貴金属形成部及び下方貴金属形成部それぞれにおいて、複数の貴金属粒子22は全て離散した状態が理想状態となる。
【0054】
このように、複数の貴金属粒子22が付着する態様で、中間構造体30の両面に一対の貴金属粒子群22G(一対の複数の貴金属粒子22)が設けられる。
【0055】
そして、上方貴金属形成部におけるATO膜21Aを下地層とした貴金属粒子群22Gまたは下方貴金属形成部におけるATO膜21Aを下地層とした貴金属粒子群22Gが、接触対象との接触面となる。
【0056】
上方のATO膜21Aの粒子形成面(上面)内における複数の貴金属粒子22の占有面積割合は30%以下に設定されている。すなわち、上方のATO膜21Aの上面の面積に対する複数の貴金属粒子22の占有面積割合は30%以下に設定されている。
【0057】
同様に、下方のATO膜21Aの粒子形成面(下面)内における複数の貴金属粒子22の占有面積割合は30%以下に設定されている。すなわち、下方のATO膜21Aの下面の面積に対する複数の貴金属粒子22の占有面積割合は30%以下に設定されている。
【0058】
また、上方貴金属形成部における複数の貴金属粒子22の平均直径(平均粒径)は10nm以下に設定されている。同様に、下方貴金属形成部における複数の貴金属粒子22の平均直径は10nm以下に設定されている。
【0059】
このように、本実施の形態の燃料電池セパレータ2は、金属基材20の表面及び裏面それぞれに、図1で示したセパレータ基本構造2Rを有している。
【0060】
加えて、本実施の形態の燃料電池セパレータ2において、上方貴金属形成部及び下方貴金属形成部それぞれの複数の貴金属粒子22には、{占有面積割合を30%以下にする}という占有面積条件と、{平均直径を10nm以下にする}という平均直径条件とが課されている。
【0061】
なお、接触対象との接触が上方貴金属形成部で行われる場合、下方貴金属形成部の複数の貴金属粒子22は上記占有面積条件及び上記平均直径条件を満足する必要はない。同様に、接触対象との接触が下方貴金属形成部で行われる場合、上方貴金属形成部の複数の貴金属粒子22は上記占有面積条件及び上記平均直径条件を満足する必要はない。
【0062】
(製造方法)
以下、本実施の形態の燃料電池セパレータ2の製造方法について説明する。図3は燃料電池セパレータ2の製造方法の処理手順を示すフローチャートである。以下、同図を参照して、燃料電池セパレータ2の製造方法を説明する。
【0063】
まず、ステップS1において、金属基材20と金属基材20の表面上及び裏面上それぞれに設けられる一対のATO膜21Aとを含む中間構造体30(図2参照)を準備する。すなわち、中間構造体30は、一対の貴金属粒子群22Gが形成される前の中間構造となる。なお、金属基材20としては後述するSUS304基材やTi基材等が考えられる。
【0064】
中間構造体30の製造は、既存方法によって行われる。例えば、ミストCVD法を用いて、金属基材20の両面に一対のATO膜21Aを形成しても良い。具体的には、SnCl(塩化スズ)を原料とした原料溶液に超音波を印加して原料ミストを生成し、加熱された金属基材20の表面及び裏面に原料ミストを噴射し、金属基材20の両面にATO膜21Aを形成することができる。
【0065】
図4は、燃料電池セパレータ2を形成するために本実施の形態で用いるミストCVD装置7の構成を模式的に示す説明図である。同図にXYZ直交座標系を記している。以下で述べるステップS2及びS3は、図4で示すミストCVD装置7を用いて実行される。
【0066】
ミストCVD装置7は、加熱室40、粒子形成室50、搬送経路45及び搬送経路46を主要構成要素として含んでいる。
【0067】
加熱室40は内部の一方側面(図中-X側の側面)及び他方方側面(図中+X側の側面)に一対のランプ載置台41を設け、一対のランプ載置台41はそれぞれ複数の赤外光ランプ42を載置している。一対の複数の赤外光ランプ42は赤外線照射方向がX方向そって互いに対向するように設けられているため、一対のランプ載置台41によって挟まる加熱室40内の空間が加熱空間40sとなる。
【0068】
したがって、一対のランプ載置台41それぞれに設けられる複数の赤外光ランプ42の赤外線照射よって、加熱室40内の加熱空間40sを加熱することができる。
【0069】
加熱室40の上方の開口部に搬送経路45が設けられ、搬送経路45の下方の開口部に搬送経路46が設けられ、加熱室40の下方において搬送経路46を介して粒子形成室50が設けられる。
【0070】
粒子形成室50の底面に複数の超音波振動子38(図4では2個の超音波振動子38)が設けられ、下方に原料溶液36を収容している。原料溶液36は金またはプラチナの貴金属を含む溶液である。粒子形成室50内において、原料溶液36の上方の空間がミスト空間50sとなる。
【0071】
複数の超音波振動子38による超音波振動処理の実行によって粒子形成室50内の原料溶液36に超音波が印加されることにより、原料溶液36が霧化され原料ミストMTが生成される。生成された原料ミストMTはミスト空間50s内に溜まる。例えば、中間構造体30を粒子形成室50内に搬送する搬送時以外は、粒子形成室50の上部の開口部または搬送経路46を閉鎖状態にする等により、ミスト空間50s内に原料ミストMTを確実に溜めることができる。なお、閉鎖状態にする方法として例えばエアカーテン等が考えられる。
【0072】
中間構造体30は接続リング43rを介して連結される保持部材43によって吊り下げた状態で保持される。保持部材43は±Z方向に沿った昇降動作が可能である。
【0073】
このような構成のミストCVD装置7を用いて、図3で示すステップS2が実行される。ステップS2において、加熱室40の上方から、下方に向かう搬送方向D2に沿って保持部材43を降下させ、搬送経路45を介して加熱室40の加熱空間40s内に中間構造体30を配置することにより、中間構造体30を加熱することができる。したがって、中間構造体30の上面及び裏面、すなわち、上方のATO膜21Aの上面及び下方のATO膜21Aの下面がそれぞれ、複数の赤外光ランプ42によって加熱される。
【0074】
ステップS3において、ステップS2の加熱処理が実行された後の中間構造体30を、搬送方向D2に沿って保持部材43をさらに下降させ、搬送経路46を介して原料ミストMTを含むミスト空間50s内に中間構造体30を配置する。
【0075】
上方のATO膜21Aの上面及び下方のATO膜21Aの下面はステップS2の加熱処理の直後である。このため、原料溶液36が金(Au)を含む場合、ミストCVD法における化学反応{2AuCl→2Au+3Cl}を生じさせることができる。
【0076】
すると、ミスト空間50s内において、上方のATO膜21Aの上面上及び下方のATO膜21Aの下面上それぞれに、上述した化学反応によってミスト化されたAu原子を含む原料ミストMTが接触する。その結果、複数のAu粒子が複数の貴金属粒子22として、上方のATO膜21Aの上面上及び下方のATO膜21Aの下面上それぞれに付着する。
【0077】
このように、上方のATO膜21Aの上面上及び下方のATO膜21Aの下面上それぞれに貴金属粒子群22Gが形成される。貴金属粒子群22GはATO膜21Aの粒子形成面上に付着した複数の貴金属粒子22を含んでいる。複数の貴金属粒子22はそれぞれ粒子状を呈しており、複数の貴金属粒子22のうち少なくとも一部が離散して設けられる。
【0078】
なお、ステップS3の実行時間であるミスト接触時間は、一対のATO膜21Aそれぞれの粒子形成面内における複数の貴金属粒子22の占有面積割合が30%以下になり、かつ、複数の貴金属粒子22の平均直径が10nm以下なるように、1秒未満程度の十分短い時間に設定される。
【0079】
このように、ステップS1~S3を実行することにより、図2で示した構造の燃料電池セパレータ2を製造することができる。この燃料電池セパレータ2は、上述した占有面積条件及び平均直径条件を満足している。
【0080】
なお、ステップS2における加熱処理での中間構造体30の加熱温度や、ステップS3の実行時間であるミスト接触時間等により、複数の貴金属粒子22それぞれの粒子直径及び、粒子形成面内における占有面積割合を調整することができる。
【0081】
さらに、原料溶液36の濃度を比較的低くしたり、ミスト接触時間を比較的短くしたりすることにより、複数の貴金属粒子22の全てを互いに離散した状態でATO膜21Aの粒子形成面上に付着させることができる。
【0082】
また、ステップS2及びS3の1回の実行では、上記占有面積割合及び上記平均直径が不十分であると判断した場合、ステップS2及びS3の処理を複数回繰り返しても良い。具体的には、1回目のステップS3の実行後、保持部材43を+Z方向に上昇させ、未完成状態の燃料電池セパレータ2を再び、加熱室40内に配置し2回目のステップS2を実行し、ステップS2の実行後、ステップS3を再び実行することにより、2回目のS2及びS3を実行することができる。
【0083】
同様に3回目以降のステップS2及びS3を実行することもできる。このように、加熱室40、粒子形成室50内に中間構造体30または未完成状態の燃料電池セパレータ2を複数回配置し、ステップS2及びS3を複数回実行するようにしても良い。
【0084】
(実験結果)
図5はAu平均面積割合及び平均粒子サイズに伴う接触抵抗向上度合を表形式で示す説明図である。なお、「Au平均面積割合(%)」は粒子形成面の面積に対する貴金属粒子22であるAu粒子の占める面積の割合(%)を意味する。例えば、上方のATO膜21Aの上面全体が粒子形成面となる場合、上方のATO膜21Aの上面全体の面積が「粒子形成面の面積」となる。
【0085】
そして、「平均粒子サイズ(nm)」は、粒子形成面に設けられる複数の貴金属粒子22の平均直径(nm)を意味する。また、接触抵抗向上度合(mΩcm)は、Au粒子の形成前後における抵抗減少度合(mΩcm)を示している。具体的には、Au粒子の形成前の構造は図2で示す中間構造体30となっており、Au粒子の形成後の構造は図2で示す燃料電池セパレータ2となっており、貴金属粒子22としてAu粒子が形成されている。
【0086】
同図に示すように、ステップS3の実行時間であるミスト接触時間等を調整することにより、条件1ではAu平均面積割合を「30%」、平均粒子サイズを「5.8nm」に設定し、条件2ではAu平均面積割合を「22%」、平均粒子サイズを「9.3nm」に設定し、条件3ではAu平均面積割合を「93%」、平均粒子サイズを「24.7nm」に設定している。
【0087】
図5に示すように、条件1では接触抵抗向上度合は6(mΩcm)となっている。すなわち、条件1では、1cm当たり6mΩの低抵抗化が図られている。同様に、条件2の接触抵抗向上度合は5.7(mΩcm)であり、条件3の接触抵抗向上度合は4(mΩcm)となっている。
【0088】
図5で示す実験結果から、条件1及び条件2は、条件3と比較して、Au平均面積割合がかなり少ない。すなわち、条件1及び条件2は、条件3と比較してAu粒子の粒子形成面における付着量が少ないにも関わらず、接触抵抗向上度合は条件3を上回っていることがわかる。したがって、必要最小限のAu粒子量で接触抵抗向上度合を比較的大きく得ることを重視する場合、Au平均面積割合は30(%)以下で、かつ、平均粒子サイズが10(nm)であることが最適条件となることが推測される。
【0089】
図6は加熱温度とAu平均粒子サイズとの関係を示すグラフである。同図において、横軸が加熱温度(℃)であり、縦軸がAu平均粒子サイズ(nm)である。なお、加熱温度はステップS2の加熱処理実行時における加熱空間40s内の温度(℃)を示しており、Au平均粒子サイズは、貴金属粒子22をAu粒子とした場合における複数の貴金属粒子22の平均直径(nm)を示している。
【0090】
同図において、粒子サイズ変化L1は、ステップS2の実行時間であるミスト接触時間を0.1(sec)にした場合の変化を示しており、粒子サイズ変化L2はミスト接触時間を0.5(sec)にした場合の変化を示している。
【0091】
同図の粒子サイズ変化L2に示すように、ミスト接触時間を0.5秒にすると、加熱温度が430(℃)を上回る場合、Au平均粒子サイズが10nmを上回ってしまう。一方、粒子サイズ変化L1に示すように、ミスト接触時間を0.1秒にすると、350~450(℃)の加熱温度範囲において、Au平均粒子サイズを7nm以下に抑えている。
【0092】
図7は加熱温度とAu平均面積割合との関係を示すグラフである。同図において、横軸が加熱温度(℃)であり、縦軸がAu平均面積割合(%)である。なお、Au平均面積割合は、貴金属粒子22をAu粒子とした場合における複数の貴金属粒子22の形成面積の粒子形成面の面積に対する割合(%)を示している。
【0093】
同図において、面積割合変化L3はミスト接触時間を0.1(sec)にした場合の変化を示しており、面積割合変化L4はミスト接触時間を0.5(sec)にした場合の変化を示している。
【0094】
同図の面積割合変化L4に示すように、ミスト接触時間を0.5秒にすると、加熱温度が400(℃)を下回る場合、Au平均面積割合が30%を上回ってしまう。一方、面積割合変化L3に示すように、ミスト接触時間を0.1秒にすると、350~450(℃)の加熱温度範囲において、Au平均面積割合を30%未満に抑えている。
【0095】
したがって、図6及び図7で示す実験結果から、ステップS2における加熱温度範囲を{350~450℃}とした場合、加熱温度範囲内において、Au平均面積割合を30%以下にし、かつ、Au平均粒子サイズを10nm以下にするために、ミスト接触時間は0.1秒以下に設定する必要があることが推測できる。
【0096】
図8は実施の形態の燃料電池セパレータ2の種々の状態における接触対象との接触抵抗を表形式で示す説明図である。図9図8で示した接触抵抗を棒グラフ形式で示す説明図である。接触対象として、具体的には、図12で示した燃料電池60におけるガス拡散層対13及び14が考えられる。なお、図8及び図9それぞれで示す抵抗値の単位は全てmΩcmである。
【0097】
また、図8及び図9で示す実験結果は、図4で示したミストCVD装置7の動作仕様を以下のように設定している。動作仕様は、超音波振動子38の数を「2個」とし、各超音波振動子38の超音波周波数を「1.6MHZ」とし、原料溶液36となるAuCl溶液の濃度を「0.003mol/L」となっている。
【0098】
図8及び図9において、SUS304基材及びTi基材はそれぞれ金属基材20の具体的構造を示している。SUS304基材は一般的な金属基材に不導体膜が予め形成されており、Ti基材の場合は一般的な金属基材にtiOのチタン酸化膜が予め形成されている。
【0099】
図8及び図9で示す「蒸着前」は、貴金属粒子群22Gを形成する前の構造を示している。「蒸着後」は、貴金属粒子群22Gを形成した後の構造を示している。すなわち、「蒸着後」は、燃料電池セパレータ2の全体構造を示している。
【0100】
「蒸着前」の欄において、「金属基材のみ」は、導電性酸化物膜21(ATO膜21A)を形成前の金属基材20の構造のみを示している。さらに、「蒸着前」の欄において、「ATO成膜後」は、金属基材20及びATO膜21Aを含む中間構造体30の構造を示している。SnClを原料とした原料溶液36に超音波を印加して原料ミストMTを得る既存のミストCVD法を用いて、金属基材20上にATO膜21Aを形成することができる。
【0101】
以下、「蒸着後」の燃料電池セパレータ2について詳述する。AuClを原料とした原料溶液36に超音波振動子38から超音波を印加して原料溶液36を霧化(ミスト化)し原料ミストMTを得る。その後、ミスト空間50s内に原料ミストMTが滞留した状態で中間構造体30を配置することにより、ATO膜21Aの粒子形成面上に貴金属粒子群22Gを形成することができる(図3のステップS3)。
【0102】
すなわち、ミストCVD装置7を用いたミストCVD法を用いて、上方のATO膜21Aの上面上及び下方のATO膜21Aの下面上に一対の貴金属粒子群22Gを形成することができる。一対の貴金属粒子群22Gそれぞれに含まれる複数の貴金属粒子22が複数のAu粒子となる。このように、中間構造体30に対し、ミストCVD装置7を用いたミストCVD法を用いることにより、図2で示した燃料電池セパレータ2を完成することができる。
【0103】
このとき、燃料電池セパレータ2のAu平均面積割合は30%で、Au平均粒子サイズは5.8nmとなった。
【0104】
図8及び図9において、「蒸着後」の欄における「耐久試験前」は、燃料電池セパレータ2を使用する前の状態を示しており、「耐久試験後」は、燃料電池に想定される腐食酸化環境で燃料電池セパレータ2を使用した後の状態を示している。
【0105】
耐久試験として、「硫酸溶液800ml(pH3)にフッ酸を3ppm添加して80℃に保持した溶液中に0.9Vで通電しながら、燃料電池セパレータ2を3日間保持する」腐食酸化試験を行った。
【0106】
図8及び図9に示すように、金属基材20がSUS304基材であった場合、接触抵抗は、金属基材20単体では「76」であり、中間構造体30では「8.9」に向上し、燃料電池セパレータ2では「2.9」に向上している。さらに、耐久試験後においても、燃料電池セパレータ2の接触抵抗は低い抵抗値「3.2」で維持されている。
【0107】
図8及び図9に示すように、金属基材20がTi基材であった場合、接触抵抗は、金属基材20単体では「6.2」であり、中間構造体30では「8.4」となり、燃料電池セパレータ2では「2.1」に向上している。さらに、耐久試験後においても、燃料電池セパレータ2の接触抵抗は比較的低い抵抗値「3.8」で維持されている。
【0108】
図9に示すように、本実施の形態の燃料電池セパレータ2は、燃料電池に想定される厳しい腐食酸化環境下で使用した後において、目標とする基準抵抗値SR(5mΩcm)を下回る低い接触抵抗値を維持できていることがわかる。
【0109】
すなわち、本実施の形態の燃料電池セパレータ2の接触抵抗の低抵抗化を長期に渡って安定的に維持できていることがわかる。
【0110】
図10は比較用燃料電池セパレータの種々の状態における接触対象との接触抵抗を表形式で示す説明図である。図11図10で示した接触抵抗を棒グラフ形式で示す説明図である。なお、図10及び図11それぞれで示す抵抗値の単位は全てmΩcmである。
【0111】
また、図10及び図11で示す実験結果は、図8及び図9で示す実験結果ど同様、上述したミストCVD装置7の動作仕様で行われている。
【0112】
比較用燃料電池セパレータでは、金属基材20上に貴金属粒子群22G(複数の貴金属粒子22)を直接設ける構造である。
【0113】
図10及び図11において、SUS304基材及びTi基材はそれぞれ金属基材20の具体的構造を示している。図10及び図11で示す「蒸着前」は、貴金属粒子群22Gを形成前の構造を示している。「蒸着後」は、貴金属粒子群22Gを形成後の構造を示している。すなわち、「蒸着後」は、比較用燃料電池セパレータの全体構造を示している。
【0114】
図4で示したミストCVD装置7を用い、中間構造体30を金属基材20のみに置き換えて、図3で示したステップS1~S3を実行することにより、金属基材20の粒子形成面上に貴金属粒子群22Gを形成している。
【0115】
「蒸着前」の欄において、「金属基材のみ」は、貴金属粒子群22Gを形成する前の金属基材20のみの構造を示している。
【0116】
「蒸着後」の欄において、「耐久試験前」は、比較用燃料電池セパレータを使用する前の状態を示しており、「耐久試験後」は、燃料電池に想定される腐食酸化環境下で比較用燃料電池セパレータを使用した後の状態を示している。
【0117】
耐久試験として、図8及び図9で示した実験結果と同様、「硫酸溶液800ml(pH3)にフッ酸を3ppm添加して80℃に保持した溶液中に0.9Vで通電しながら、比較用燃料電池セパレータを3日間保持する」腐食試験を行った。
【0118】
図10及び図11に示すように、金属基材20がSUS304基材であった場合、接触抵抗は、金属基材20単体では「73」であり、比較用燃料電池セパレータの完成直後では「1.73」に向上している。しかしながら、耐久試験後において、比較用燃料電池セパレータの接触抵抗は大きく悪化して抵抗値は「21」に上昇している。
【0119】
図10及び図11に示すように、金属基材20がTi基材であった場合、接触抵抗は、金属基材20単体では「6.4」であり、比較用燃料電池セパレータの完成直後では「2.25」に向上している。しかしながら、耐久試験後において、比較用燃料電池セパレータの接触抵抗は大きく悪化し抵抗値は「92.7」に上昇している。
【0120】
図11に示すように、比較用燃料電池セパレータは、想定される厳しい腐食酸化環境下で使用された後において、目標とする基準抵抗値SR(5mΩcm)を大きく上回る高い接触抵抗値となってしまう。
【0121】
このように、図10及び図11で示す実験結果から、金属基材20の両面に貴金属粒子群22Gを設ける比較用燃料電池セパレータでは、完成直後には接触抵抗の低減化が図れても、燃料電池として想定される環境下で使用されると接触抵抗の抵抗値が大きく上昇してしまい、接触抵抗の低抵抗化を維持することができないことが判明した。
【0122】
すなわち、図8及び図9図10及び図11との比較結果から、燃料電池に想定される厳しい環境下で使用された後においても、燃料電池セパレータの接触抵抗の低抵抗化を維持するには、貴金属粒子群22Gの下地層として導電性酸化物膜21(ATO膜21A)を設けることの重要性が判明した。すなわち、セパレータ基本構造2Rとして、耐食性の高い性質を有する導電性酸化物膜21を含めることが必須条件となることは判明した。
【0123】
以上、図8図11で示した実験結果から、セパレータ基本構造2Rを有する本実施の形態の燃料電池セパレータ2は、接触抵抗の低抵抗化を長期に渡って安定的に維持できていることが立証された。
【0124】
(効果)
本実施の形態の燃料電池セパレータ2は、金属基材20、導電性酸化物膜21及び貴金属粒子22の三層構造であるセパレータ基本構造2R(図1参照)を有するため、貴金属粒子群22Gと接触対象との接触抵抗の低抵抗化を安定的に図ることができる。
【0125】
この効果は、図8図11で示した実験結果からも明らかである。なお、上述した接触対象は、燃料電池用の部材であり、具体的には、図12で示した発電部となるMEA5の両側面に存在するガス拡散層対13及び14が考えられる。
【0126】
加えて、本実施の形態の燃料電池セパレータ2は、複数の貴金属粒子22のうち少なくとも一部を離散して設けることにより、金またはプラチナである貴金属の使用量を抑制して比較的安価に実現することができる。
【0127】
さらに、燃料電池セパレータ2における貴金属粒子群22Gの下地層となる導電性酸化物膜21としてATO膜21Aを用いることにより、接触抵抗の抵抗値の安定性を図ることができる。この効果も、図8図11で示した実験結果からも明らかである。
【0128】
加えて、本実施の形態の燃料電池セパレータ2では、複数の貴金属粒子22の平均直径を10nm以下に設定している。このため、接触対象となるガス拡散層対13及び14との接触面積を比較的大きくすることができる。なぜなら、ガス拡散層(GDL)は線維性の多孔質であるからである。
【0129】
したがって、本実施の形態の燃料電池セパレータ2は、複数の貴金属粒子22の平均直径を10nm以下に設定することにより、接触対象との接触抵抗のさらなる低減化を図ることができる。
【0130】
なお、10nmを下回るAu平均粒子サイズを多数設定した条件下で図5に示したような実験を行うことにより、Au平均粒子サイズの下限を“0”を超える有意な値として予め認識することができる。例えば、基準抵抗値SR以下を満足するAu平均粒子サイズの最小値を下限と設定することができる。したがって、予め認識した下限と上限10nmとの間にAu平均粒子サイズを設定することが望ましい。
【0131】
加えて、本実施の形態の燃料電池セパレータ2では、導電性酸化物膜21(ATO膜21A)の粒子形成面内における複数の貴金属粒子22の占有面積割合を30%以下に設定している。
【0132】
このため、本実施の形態の燃料電池セパレータ2は、貴金属粒子22として用いるAuまたはPtの量を必要最小限に抑えつつ、接触対象との接触抵抗の低減化を図ることができる。
【0133】
なお、30%を下回るAu平均面積割合を多数設定した条件下で図5に示したような実験を行うことにより、Au平均面積割合の下限を“0”を超える有意な値として予め認識することができる。例えば、基準抵抗値SR以下となるAu平均面積割合の最小値を下限と設定することができる。したがって、予め認識した下限と上限30%との間にAu平均面積割合を設定することが望ましい。
【0134】
図3で示した本実施の形態の燃料電池セパレータの製造方法は、ステップS3を実行することにより、金属基材20、導電性酸化物膜21及び貴金属粒子22からなるセパレータ基本構造2Rを含む本実施の形態の燃料電池セパレータ2を得ることができる。
【0135】
セパレータ基本構造2Rを含む燃料電池セパレータ2は、貴金属粒子群22Gと接触対象との接触抵抗の低抵抗化を安定的に図ることができる。
【0136】
加えて、ステップS3の実行時間であるミスト接触時間を変更することにより、貴金属粒子群22Gに含まれる複数の貴金属粒子22の平均直径、及び粒子形成面上における複数の貴金属粒子の占有面積割合それぞれを調整することができる。
【0137】
本実施の形態の製造方法では、複数の貴金属粒子22の占有面積割合が30%以下になるようにミスト接触時間を設定しているため、貴金属粒子22として用いる貴金属(Au,Pt)の量を必要最小限に抑え、接触対象との接触抵抗の低減化を図った燃料電池セパレータ2を得ることができる。
【0138】
なお、本開示は、その開示の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0139】
2 燃料電池セパレータ
2R セパレータ基本構造
7 ミストCVD装置
20 金属基材
21 導電性酸化物膜
21A ATO膜
22 貴金属粒子
22G 貴金属粒子群
36 原料溶液
38 超音波振動子
40 加熱室
50 粒子形成室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13