(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088676
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】床制振構造
(51)【国際特許分類】
E04B 5/02 20060101AFI20230620BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
E04B5/02 P
E04B5/43 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203566
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】田中 紳太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 直行
(57)【要約】
【課題】低コスト化を図りながら効果的に上階側及び下階側の床部の振動を抑制する。
【解決手段】上階側及び下階側の床部Fのうちの少なくとも一方側が、一対の第1大梁11と一対の第2大梁12とで囲われてなる構面10a内に、一対の第1大梁11間に架設されて剛接合された第1小梁21と、第1小梁21と一対の第2大梁12の一方側12aとの間に架設されてピン接合された第2小梁22と、を配置してなる床架構10を有すると共に、当該床架構10において、第1小梁21が、平面視で振動伝達部材30に対して重畳する位置に配置されている
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上階側の床部と下階側の床部との間に、鉛直方向に延在する振動伝達部材を介在させて、当該床部の振動を抑制する床制振構造であって、
前記上階側の床部及び前記下階側の床部のうちの少なくとも一方側の床部が、第1水平方向に延在する一対の第1大梁と当該第1水平方向と交差する第2水平方向に延在する一対の第2大梁とで囲われてなる構面内に、前記一対の第1大梁間に架設されて当該一対の第1大梁に対して剛接合された第1小梁と、前記第1小梁と前記一対の第2大梁の一方側との間に架設されて当該第1小梁及び当該第2大梁の一方側に対してピン接合された第2小梁と、を配置してなる床架構を有すると共に、当該床架構において、前記第1小梁が、平面視で前記振動伝達部材に対して重畳する位置に配置されている床制振構造。
【請求項2】
前記上階側の床部上及び前記下階側の床部上の夫々に、前記振動伝達部材としての間仕切壁が設けられており、
前記上階側の床部上に設けられた前記間仕切壁と、前記下階側の床部上に設けられた前記間仕切壁とが、平面視で互いに異なる位置に配置されている請求項1に記載の床制振構造。
【請求項3】
前記上階側の床部上及び前記下階側の床部上の夫々に、前記振動伝達部材としての間柱が設けられており、
前記上階側の床部上に設けられた前記間柱と、前記下階側の床部上に設けられた前記間柱とが、平面視で互いに異なる位置に配置されている請求項1又は2に記載の床制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上階側の床部と下階側の床部との間に、鉛直方向に延在する振動伝達部材を介在させて、当該床部の振動を抑制する床制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上階側及び下階側の夫々の床部(スラブ4)間に、鉛直方向に延在する振動伝達部材(支柱8)を介在させて、当該床部の振動を抑制する床制振構造が開示されている。このような床制振構造では、上階側の床部及び下階側の床部が、一方側の鉛直方向の振動(本願では単に「振動」と呼ぶ場合がある。)が振動伝達部材を通じて他方側に伝達されることにより一体的に振動することになるので、有効質量の増加により当該振動を軽減することができる。
更に、この特許文献1記載の床制振構造は、床部の剛性を増加させることなく効果的に床部の振動を抑制するために、振動伝達部材(支柱8)に粘弾性体からなるダンパー部材を内装させて、床部の振動の一部を当該ダンパー部材に吸収させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の床制振構造では、効果的に床部の振動を抑制するためには、比較的高価なダンパー部材を振動伝達部材に内装させる必要がある。また、床部の剛性を増加させれば、このようなダンパー部材を省略した振動伝達部材を採用することができるが、床部全体の剛性を増加させためのコストが嵩むことになって、結果、コスト面の問題を解決することは困難である。
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、上階側の床部と下階側の床部との間に、鉛直方向に延在する振動伝達部材を介在させて、当該床部の振動を抑制する床制振構造において、低コスト化を図りながら効果的に床部の振動を抑制することができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1特徴構成は、上階側の床部と下階側の床部との間に、鉛直方向に延在する振動伝達部材を介在させて、当該床部の振動を抑制する床制振構造であって、
前記上階側の床部及び前記下階側の床部のうちの少なくとも一方側の床部が、第1水平方向に延在する一対の第1大梁と当該第1水平方向と交差する第2水平方向に延在する一対の第2大梁とで囲われてなる構面内に、前記一対の第1大梁間に架設されて当該一対の第1大梁に対して剛接合された第1小梁と、前記第1小梁と前記一対の第2大梁の一方側との間に架設されて当該第1小梁及び当該第2大梁の一方側に対してピン接合された第2小梁と、を配置してなる床架構を有すると共に、当該床架構において、前記第1小梁が、平面視で前記振動伝達部材に対して重畳する位置に配置されている点にある。
【0006】
本構成によれば、上階側の床部と下階側の床部とが、それらの間に介在された振動伝達部材を介して一方側の鉛直方向の振動(本願では単に「振動」と呼ぶ場合がある。)が他方側に伝達されることにより、その振動伝達部材の上下夫々の部分において一体的に振動することになる。よって、振動における有効質量の増加により、上階側の床部及び下階側の床部の振動を軽減することができる。
そして、上階側の床部及び下階側の床部の少なくとも一方側の床部が有する床架構では、一対の第1大梁とそれに略直角で交差する一対の第2大梁とで囲われてなる構面内において、一対の第1大梁間に架設された第1小梁が、当該一対の第1大梁に対して剛接合された上で、第1小梁と一対の第2大梁の一方側との間に架設されて双方にピン接合された比較的短尺な第2小梁により支持されることになる。よって、梁断面の増加を伴うことなく第1小梁の剛性を高めて、当該第1小梁が設けられた床架構を有する床部の振動を抑制することができる。
更に、上記床架構に配置された剛性が高い上記第1小梁を、上記振動伝達部材の直下又は直上において平面視で上記振動伝達部材に対して重畳する位置に配置するというように、コストが嵩まない構成を採用することにより、その床架構を有する床部が振動伝達部材の介在により上階側又は下階側の床部と共に一体的に振動するにあたり、その振動に対して第1小梁の剛性を直接的に作用させて、当該振動を一層抑制することができる。
従って、本発明により、上階側の床部と下階側の床部との間に、鉛直方向に延在する振動伝達部材を介在させて、当該床部の振動を抑制する床制振構造において、低コスト化を図りながら床部の振動を効果的に抑制することができる技術を提供することができる。
【0007】
本発明の第2特徴構成は、前記上階側の床部上及び前記下階側の床部上の夫々に、前記振動伝達部材としての間仕切壁が設けられており、
前記上階側の床部上に設けられた前記間仕切壁と、前記下階側の床部上に設けられた前記間仕切壁とが、平面視で互いに異なる位置に配置されている点にある。
【0008】
本構成によれば、上階側の床部と下階側の床部との間で振動を伝達するための上記振動伝達部材として、上階側の床部と下階側の床部との間の室内空間を間仕切るために設けられた間仕切壁を利用することができる。そして、このように間仕切壁を上記振動伝達部材として利用する場合には、上階側の床部上に設けられた間仕切壁と、下階側の床部上に設けられた間仕切壁とを、平面視で互いに異なる位置に配置することで、上階側の床部と下階側の床部とを互いに異なる固有の振動モードで振動させて、これら固有の振動モードの干渉効果によって上階側の床部及び下階側の床部の振動を一層効果的に抑制することができる。
【0009】
本発明の第3特徴構成は、前記上階側の床部上及び前記下階側の床部上の夫々に、前記振動伝達部材としての間柱が設けられており、
前記上階側の床部上に設けられた前記間柱と、前記下階側の床部上に設けられた前記間柱とが、平面視で互いに異なる位置に配置されている点にある。
【0010】
本構成によれば、上階側の床部と下階側の床部との間で振動を伝達するための上記振動伝達部材として、上階側の床部と下階側の床部との間に例えば間仕切壁を支持するために設けられた間柱を利用することができる。そして、このように間柱を上記振動伝達部材として利用する場合には、上階側の床部上に設けられた間柱と、下階側の床部上に設けられた間柱とを、平面視で互いに異なる位置に配置することで、上階側の床部と下階側の床部とを互いに異なる固有の振動モードで振動させて、これら固有の振動モードの干渉効果によって上階側の床部及び下階側の床部の振動を一層効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の床制振構造における床架構の平面図
【
図2】本実施形態の床制振構造における第2水平方向視の立面図
【
図3】本実施形態の床制振構造における第1水平方向視の立面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る床制振構造の実施形態について図面に基づいて説明する。
本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、1階部分A1、2階部分A2、3階部分A3を有する3階層以上の建物において、本実施形態の床制振構造(以下「本床制振構造」と呼ぶ。)が採用されている。
そして、本床制振構造は、上階側の床部Fと下階側の床部Fとの間に、鉛直方向に延在する振動伝達部材30を介在させて、当該床部Fの振動を抑制するものとして構成されている。
【0013】
なお、上記振動伝達部材30としては、上階側の床部F2,F3と下階側の床部F1,F2との間の室内空間Sを例えば居室S1と廊下S2とに間仕切るために設けられた間仕切壁31(
図2及び
図3参照)や、その間仕切壁31に設けられた扉33を挟んで両側に配置される間柱32(
図3参照)のように、上階側の床部F2,F3及び下階側の床部F1,F2上に配置されて、これら床部F1,F2,F3に亘って鉛直方向に延在する部材が利用される。
【0014】
1階部分A1を基準とした本床制振構造では、上階側である2階部分A2の2階床部F2と、下階側である1階部分A1の1階床部F1との間に、それらに対して鉛直方向の振動が伝達可能な状態で、間仕切壁31や間柱32などの振動伝達部材30が介在されている。このことで、2階床部F2及び1階床部F1が、一方側の鉛直方向の振動が振動伝達部材30を通じて他方側に伝達されることにより、その振動伝達部材30の上下夫々の部分において一体的に振動することになるので、有効質量の増加により当該床部F2,F1の振動が抑制される。
また、2階部分A2を基準とした本床制振構造では、上階側である3階部分A3の3階床部F3と、下階側である2階部分A2の2階床部F2との間に、それらに対して鉛直方向の振動が伝達可能な状態で、間仕切壁31や間柱32などの振動伝達部材30が介在されている。このことで、3階床部F3及び2階床部F2が、一方側の鉛直方向の振動が振動伝達部材30を通じて他方側に伝達されることにより、その振動伝達部材30の上下夫々の部分において一体的に振動することになるので、有効質量の増加により当該床部F3,F2の振動が抑制される。
【0015】
本床制振構造が採用された建物では、
図1に示すように、各階の床部Fが、第1水平方向Xに延在する一対の鉄骨製の第1大梁11と当該第1水平方向Xと略直角で交差する第2水平方向Yに延在する一対の鉄骨製の第2大梁12とが柱15の仕口部において交差する床架構10を有する。そして、この床架構10上に各階の床スラブ5が構築される。
そして、本床制振構造では、低コスト化を図りながら床部Fの振動を効果的に抑制するための特徴を有しており、その詳細について以下に説明を加える。
【0016】
図1に示すように、本床制振構造では、床架構10の構面10a内に、鉄骨製の第1小梁21と鉄骨製の第2小梁22とが配置されている。
第1小梁21は、一対の第1大梁11間に架設されて当該一対の第1大梁11に対して端部21aにて溶接等により剛接合されている。
一方、第2小梁22は、第1小梁21と一対の第2大梁12の一方側12aとの間に架設されて当該第1小梁21及び当該第2大梁12の一方側12aに対して端部22aにてガセットプレートとボルト等によりピン接合されている。
そして、このように床架構10の構面10a内に第1小梁21及び第2小梁22を配置することで、一対の第1大梁11間に架設された第1小梁21が、当該一対の第1大梁11に対して剛接合された上で、第1小梁21と一対の第2大梁12の一方側12aとの間に架設されて双方にピン接合された比較的短尺な第2小梁22により支持されることになる。よって、梁断面の増加を伴うことなく第1小梁21の剛性が高くなって、その第1小梁21が設けられた床架構10を有する床部Fの振動が抑制される。
なお、本実施形態では、一の構面10a内の第1小梁21と一対の第2大梁12の一方側12aとの間において、2本の第2小梁22を並設しているが、この第2小梁22の並設本数については、適宜変更可能である。
【0017】
更に、上述のように第1小梁21及び第2小梁22が配置された床架構10において、
図1~
図3に示すように、剛性が高くなった第1小梁21が、平面視で振動伝達部材30に対して重畳する位置に配置されている。具体的には、居室S1と廊下S2とを区画する間仕切壁31や、その間仕切壁31に設けられた扉33の間柱32などの振動伝達部材30が、各階の床部Fの床架構10における第1小梁21の直下に配置されている。
すると、その第1小梁21が配置された床架構10を有する床部Fにおける振動伝達部材30の直上の部分が、当該第1小梁21の直下の振動伝達部材30の介在により、下階側の床部Fにおける振動伝達部材30の直下の部分と共に一体的に振動する。そして、その振動に対して第1小梁21の剛性が直接的に作用して、当該床部Fの振動が一層抑制されることになる。
また、
図1に示すように、第1小梁21は、一対の第1大梁11間に架設されていることから、第1大梁11を挟んで隣接する構面10aにおいて夫々の第1小梁21を直線状に配置することができる。よって、第1大梁11を挟んで並ぶ複数の構面10aの範囲に亘って設けられる廊下S2とそれに隣接する居室S1とを区画するための間仕切壁31を、それら複数の構面10aにおいて直線状に配置された第1小梁21の直下に好適に配置することができる。
【0018】
本床制振構造では、床部Fの振動を一層効果的に抑制するために、
図2及び
図3に示すように、1階部分A1を基準とした上階側である2階部分A2の2階床部F2上に設けられた間仕切壁31や間柱32と、その下階側である1階部分A1の1階床部F1上に設けられた間仕切壁31や間柱32とが、平面視で互いに異なる位置に配置されている。
例えば、
図2に示すように、第2大梁12の延在方向に平行な第2水平方向Y視においては、3階床部F3の床架構10における第1小梁21と、2階床部F2の床架構10における第1小梁21とが、第1水平方向X(
図2の左右方向)において互いに異なる位置に配置されており、3階床部F3の床架構10における第1小梁21に対して、その直下に配置された2階床部F2上の間仕切壁31が接続され、2階床部F3の床架構10における第1小梁21に対して、その直下に配置された1階床部F1上の間仕切壁31が接続されている。
また、
図3に示すように、第1大梁11の延在方向に平行な第1水平方向X視においても、3階床部F3の床架構10における第1小梁21の直下に配置された2階床部F2上の間仕切壁31と、2階床部F2の床架構10における第1小梁21の直下に配置された1階床部F1上の間仕切壁31との夫々に対し、第1水平方向Xにおいて互いに異なる位置に扉33及びその両側に位置する間柱32が配置されている。
このような構成により、上階側及び下階側の夫々の床部Fは互いに異なる固有の振動モードで振動することになって、これら固有の振動モードの干渉効果によって上階側及び下階側の床部Fの振動が一層効果的に抑制されることになる。
【0019】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0020】
(1)上記実施形態では、間仕切壁31や間柱32などの振動伝達部材30を、床架構10における第1小梁21に対して直下に配置して接続したが、同第1小梁21に対して直上に配置して接続するように構成しても構わない。
【0021】
(2)上記実施形態では、間仕切壁31と間柱32との両方を、上階側と下階側において平面視で互いに異なる位置に配置したが、例えば間仕切壁31については上階側と下階側において平面視で同じ位置に配置し、その間仕切壁31に設けられた間柱32のみを上階側と下階側において平面視で互いに異なる位置に配置しても構わない。
【0022】
(3)上記実施形態では、間仕切壁31及び間柱32の両方を振動伝達部材30として利用したが、何れか一方又は別のものを振動伝達部材として利用することもできる。
【0023】
(4)上記実施形態では、階部分A1、2階部分A2、及び3階部分A3に対して本床制振構造を適用したが、本床制振構造の適用箇所については適宜設定することができ、例えば建物全体に適用する、又は、建物の一部に集中的に適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
10 床架構
10a 構面内
11 第1大梁
12 第2大梁
12a 第2大梁の一方側
21 第1小梁
22 第2小梁
30 振動伝達部材
31 間仕切壁(振動伝達部材)
32 間柱(振動伝達部材)
F 床部
F1 床部
F2 床部
F3 床部
X 第1水平方向
Y 第2水平方向