(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008870
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】締着機構
(51)【国際特許分類】
A61G 10/00 20060101AFI20230111BHJP
A61G 13/12 20060101ALI20230111BHJP
A61B 46/00 20160101ALN20230111BHJP
【FI】
A61G10/00 Z
A61G13/12 Z
A61B46/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103146
(22)【出願日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2021107978
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】513199992
【氏名又は名称】本地川 裕之
(71)【出願人】
【識別番号】513200184
【氏名又は名称】日興商事株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本地川 裕之
【テーマコード(参考)】
4C341
【Fターム(参考)】
4C341KK05
4C341MS15
(57)【要約】
【課題】シート材をフレームに着脱可能に覆設し、その状態を保つために覆設したシート材の上から長尺部材を環装し、その周長を短縮することで締着力を付勢する手法が多く用いられている。しかしシート材を境界としてフレームと反対側に位置する長尺部材を締めたり緩めたりする事は困難な場合もある。さらに長尺物の耐伸展性を保ちながら周長を自在に調節することはコストが増し交換部材とする際の課題となる。
【解決手段】本発明は、低廉な固定周長環状部材に遊挿したフレームの一部または全部を自在に拡径および縮径が可能とすることで、拡径時には環装部材の内側面に押圧を加えて締着性を付勢し、縮径時には押圧を減退させて締着性を減勢する締着機構を提供する。
【選択図】
図22
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周長が特定の固定周長とされた環状部材を対象物として締着力を発生可能な締着機構であって、
前記環状部材を遊嵌し、前記環状部材の内側面に外側方向に向かう押圧を加えることにより締着力を発生可能であること、を特徴とする締着機構。
【請求項2】
シート材を介して前記環状部材を遊嵌し、前記環状部材の内側面に外側方向に向かう押圧を加えることにより、挟装したシート材に対して前記環状部材の内側面に外側方向に向かう方向への締着力を付与できること、を特徴とする請求項1に記載の締着機構。
【請求項3】
前記締着機構の外形である楕円若しくは円の一部若しくは全周、または前記締着機構の外形である多角形の1つ以上の頂点を含む移動部材を有し、
前記移動部材が、機構内側方向に移動可能であり、
前記移動部材を機構内側方向に移動させて前記外周長が短縮させることにより、環装した前記環状部材の内側面に対する押圧を減勢し、前記環状部材、及び前記環状部材との間に挟装した挟装部材を嵌脱可能であること、を特徴とする請求項1又は2に記載の締着機構。
【請求項4】
ヒトの上肢を含む部材を収容できる袋状軟性部材の開口部を、シート部材とともに前記環状部材との間に挟装して締着可能なフレームを有し、
前記シート部材において前記フレームに囲まれた部分を開窓することにより、操作対象物に対して手を含む物体を自在に接近させることが可能であること、を特徴とする請求項1又は2に記載の締着機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
固定周長を有する環状部材を遊嵌し、その環状部材の内側面に外側方向に向かう押圧を加えて締着性を得る締着機構に関する
【背景技術】
【0002】
対象物が何らかの影響を受けることを防ぐために周囲環境と空間的に分離したい場合がある。逆に対象物が周囲環境に影響を及ぼさないために空間的に分離したい場合がある。例えば、外科手術における覆布や外科医が装用する手袋は消毒済みの清潔領域を周囲環境と分離する目的で使用されるが、時として手術を受ける患者が感染性疾患に罹患している可能性が否定できない場合には、周囲環境や執刀する外科医が感染リスクに暴露されることを防ぐ目的を含めた両方向の影響軽減を目的とすることもある。
【0003】
例えば呼吸器感染症に罹患し、呼吸の度に感染性飛沫を拡散している可能性がある患者を扱う場合には治療者を保護すると同時に室内環境への拡散を局所化することが望まれる。人体で呼吸の出入り口となる口と鼻は頭部顔面に存在する。採血や心電図検査など頭部以外の人体部位で行える医療行為においては患者自身に適切なマスクを装用させることで感染リスクを低減できる。しかし例えば胃の内視鏡検査をする場合には、患者の口や鼻に対する操作が生じ、患者が咳き込むと感染力を持つ飛沫が環境内に飛散する可能性があるので問題視されており、空間的な遮蔽が期待される。一方で医療行為において目視は重要な情報収集手段であるので、遮蔽材には透過視認性が求められる。遮蔽性と透過視認性を両立させる観点から透明な板材またはシート材による空間遮蔽が数多く考案されている。例えば文献1のようにアクリル板を一部が開放された箱状に加工して患者頭頸部を覆う案や、文献2または文献3のように患者のベッド面に載置したフレームにシート材を被せた遮蔽物で患者の頭頚部を覆う案が考案されている。
【0004】
感染源を含む飛沫がアクリル板やシート材などの遮蔽部材に付着することは避けられないが、交換部材以外の部分に汚染物が付着することは最小限であることが望まれる。前述のアクリル板による遮蔽の場合には都度交換することは非現実的であり清拭処理を経て再利用するので手間とリスクが生じる。同じく前述のベッド面に載置したフレームにシート材を被せた遮蔽では、シート材は容易に交換廃棄が可能だが、同じく飛沫に暴露されるフレームは再利用されるので清拭処理する必要があり手間とリスクが生じる。また患者ベッドの幅が狭い場合にはフレームが脱転することがある。
【0005】
本発明では感染源を含む飛沫に暴露される部材はすべて交換廃棄可能で、かつ交換部材が低廉である機構を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6843412号
【特許文献2】特許第6889347号
【特許文献3】実用新案登録第3231737号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空間遮蔽すなわち空間を分離する手段として、例えば広口瓶の容器開口部を油紙などのシート材で覆い、紐を使って締着する封鎖方法は古来より広く用いられてきた。以下、シート材を交換部材と想定して記載する。封鎖用のシート材を内外から挟み込む部材をそれぞれ内側部材と外側部材と称することにする。上記の例では広口瓶が内側部材であり、紐が外側部材である。内側部材は一定の大きさであり、外側部材は縛るという行為で適切な締着力を付勢する役割を担い、周長は可変である。一方、内側部材は外側部材が加える締着力に抗して形状を維持できる強度と剛性を有している。すなわち圧壊に相当する破壊はもとより、外周形状が3次元的に捻じれる変形も好ましくない。
【0008】
この例で広口瓶に収納する内容物が放射性物質や感染体など危険物質である場合であれば、外側部材は前記の紐のような単純な構造でもよいが、後に廃棄対象となる内側部材は外側部材から加えられる締着力に耐える強度と剛性を有していなくてはならない。そのため素材の選択と肉厚は重要な要素であり、内側部材の大きさによっては捻じれ変形に対する強度と剛性が求められるだけでなく、廃棄物として嵩高となる懸念がある。また一般的に強度と剛性を高めると、通常では素材と製造および廃棄にかかるコストは増大する傾向があるので内部部材を都度、廃棄交換することは不経済である。
【0009】
逆に広口瓶のような容器に収納する内容物が隔離保護されるべき対象であって、広口瓶の周囲環境に放射性物質や感染体など危険物質がある場合には、危険物質に暴露される外側部材は汚染されている可能性があるので、交換部材の廃棄を含めた各種操作に際しては、その部分に直接触れないで操作可能とする工夫が望まれる。また廃棄による交換が頻回になる場合には廃棄部材は単純な構造であると同時に低コストであることが望まれる。
【0010】
外部部材を交換部材にした場合を考えると、外側部材に求められるのは剛性ではなく、張力に抗する強度と低伸展性そして締着力を付勢する機能である。前記した広口瓶に対する紐の場合、結ぶという行為で締着力を実現していたが危険物側に配置された紐を結紮するのは容易ではないし締着力解除の際にも危険物に暴露された外側部材の操作が必要となる。ズボンのベルトの一端にあるバックル機構を装備することで解決できる可能性はあるが、都度廃棄することが許容できるコスト内で自在に解除可能な機構を用意できたとしても、安全側からシート材を介して容易に操作できるのか懸念が残る。
【0011】
本発明では締着力生成機能を外部部材ではなく内部部材に担わせる。まず都度廃棄する外側部材として固定周長を有する環状構造の部材を用いる。例えば梱包に多用されるポリプロピレンベルトを環状に加工したものを利用すると、都度廃棄する単回使用を想定とした場合でも製造コストは低廉であり、廃棄時にも嵩張ることなく、焼却処理で排出されるガスも許容できる範囲である。
本発明は締着力を生成する機能を内側部材に担わせることを特徴とする。操作が容易な内側部材の一部または全周を自在に拡径と縮径が可能とすることで、自在に締着力の付勢または減勢を可能とする締着機構を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ここでは、概ね矩形のフレームを用いて説明する。矩形の頂点の一つをなす部材が可動性を有し、内側方向に自在に摺動可能であり、矩形の頂点に位置する状態でロック可能な機構を有している。この矩形の頂点に固定された状態をロック状態と称する。ロックが解除されて矩形の頂点をなす位置から矩形の内側方向に位置が変化した状態をアンロック状態と称する。
【0013】
前記ロック状態にある場合のフレーム外周長に相当する周長を有する例えばポリプロピレンのような低伸長性軟性材料でできた環状部材を用意し、アンロック状態のフレームに環装する。このときフレームの実質外周長はロック状態に比べて短くなっているので、環状部材は遊装状態である。フレームをロック状態に推移させるとフレームの実質外周長は環状部材の周長と同等になり、遊装状態であった環状部材との間に押圧が生じる。
【0014】
<1>、すなわち、それ自体の外周長に相当する固定周長を有する環状部材を遊嵌し、その環状部材の内側面に外側方向に向かう押圧を加えて、締着力を付勢することを特徴とする締着機構が成立する。
【0015】
アンロック状態のフレームにシート部材を覆設し、環状部材をシート部材を介してフレームに環装する。この状態でフレームをロック状態にすると、環状部材とフレームの間に生じる押圧によってシート部材を挟圧することでシート部材をフレームに締着できる。
【0016】
<2>、すなわち<1>に記載した締着機構であって、締着機構の外周長に相当する固定周長を有する環状部材を、シート材を介して遊嵌し、その環状部材の内側面に外側方向に向かう押圧を加えて、挟装したシート材に対する締着力を付勢することを特徴とする締着機構が成立する。
【0017】
シート部材をフレームから分離するには、環状部材でシート部材を挟持したフレームをアンロック状態に変化させると、環状部材とフレーム間の押圧は消退し、シート部材に対する挟圧も減勢するので、シート材は遊装状態になった環状部材とともにフレームから分離可能となり廃棄可能となる。
【0018】
<1>ではロック状態を生成する部材として摺動自在な部材を用いたが、可動方法は摺動に限らない。例えば
図16と
図17に示すように蝶番を介してフレーム本体に蝶着された頂点がフレーム内側方向に回動自在である機構を用いても本発明の機能を実現できる。
【0019】
可動可能な部材は1つの頂点に制限されない。たとえば前記矩形フレームで2つ以上の頂点が可動性を有していてもよい。
【0020】
フレームの外形は前記した矩形を含む多角形に限らず、概ね円形または楕円形の場合でも全周または一部が内側方向に移動可能であれば機能する。例えばフレームが円形の場合には全周を有限個に分割した円周部分が拡径方向と縮径方向に任意に偏位移動することで環状部材に対する押圧を制御できる。
図18で示す王冠状の部材51に凹凸を有する円周を有する部材52を嵌挿し、部材52を回転させて肉厚の大きな部分57が部材51の内側にあたる状態にすると、部材51の可動片53を外側方向に押動し、部材51は拡径状態となる。逆に部材52を回転させて肉厚の小さな部分58が部材51の内側55にあたる状態にすると部材51の可動片53は自身の弾性で内側方向に戻り部材51は縮径状態となる。シート材を被せた本機構に環状部材を環装し、本機構を拡径状態にすると環状部材への押圧が生じるので挟持したシート材に対する締着力が付勢され、本機構を縮径状態にすると環状部材への押圧は消退するのでシート材に対する締着力は減勢する。
【0021】
<3>、すなわち<1>と<2>に記載した締着機構であって、締着機構の外形である楕円または円の一部または全周または多角形の1つ以上の頂点を含む部材が機構内側方向に移動可能であり、機構内側方向に移動した際に機構の外周長が短縮することによって、環装した固定周長を有する環状部材の内側面に対する押圧を減勢可能とし、その環状部材とともに、その環状部材との間に挟装した挟装部材を嵌脱可能とすることを特徴とする締着機構が成立する。
【0022】
前記した円形のフレームを用い、ヒトの指先から前腕あるいは上腕部までを収容可能な長手袋状構造の軟性袋をシート部材に加えて挟装した状態に環状部材を環装したフレームで、円形フレーム内部のシート部材を開窓すると、汚染環境と分離した空間内に手指先端から腕を挿入して対象を用手的に操作することができる。この用途には手袋構造の基部を非伸展性として締着力を生じる環状部材の機能を兼ねても良い。
【0023】
<4>、すなわちシート部材とともに、ヒトの手や腕を含む部材を収容できる袋状軟性部材の開口部を、<1>と<2>と<3>に記載した締着機構のフレームと環状部材で挟装して締着し、シート部材のフレームに囲まれた部分を開窓することで操作対象物に手を含む物体を自在に接近させることが可能であることを特徴とする締着機構が成立する。
【発明の効果】
【0024】
シート材を用いた空間分離手法は主たる交換部材であるシート材が低廉であることから多方面で利用されるが、感染リスクや放射能汚染の可能性のために厳密な空間分離を求められる場合には交換時の手間とコストの低減および操作の容易さが求められる。本発明では主たる交換部材であるシート材に加えて、汚染物に暴露される環状部材も低廉なコストで製造、廃棄が可能であり、操作に関しても汚染部位に直接触れることなく簡便に済ませることができる。
またシート部材をフレーム部材に装着する際にシワを伸ばしておくと、シート部材を介しての視認性も改善される。
【0025】
さらに前述のようにヒトの指先から前腕あるいは上腕部までを収容可能な長手袋状構造の軟性袋をシート部材に加えて挟装した状態に環状部材を環装したフレームで、フレーム内部のシート部材を開窓すると、汚染環境と分離した空間内に指先から腕を挿入して対象を用手的に操作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図3】広口瓶にシートを覆設し、紐を遊嵌した状態。
【
図4】広口瓶にシートを覆設し、遊嵌した紐を引き締めた状態。
【
図5】径の小さな広口瓶に固定周長の環状部材を遊嵌した状態。
【
図6】
図5の広口瓶を拡径し固定周長の環状部材が締着状態になった様子。
【
図7】シート材を覆設した広口瓶が拡径して
図6の状態と同様に締着状態になった様子。
【
図8】頂点の一つが内側方向に摺動できる概ね矩形のフレームで、摺動可能な部材が矩形の頂点をなす状態にある図。
【
図9】
図8の概ね矩形フレームで摺動可能な部材が内側方向に摺動した状態。
【
図10】
図8で示した概ね矩形のフレームに固定周長の環状部材を環装して締着状態すなわちロック状態にした図。
【
図11】
図10で示した環状部材を環装した概ね矩形のフレームの摺動可能な部材を内側に摺動させてアンロック状態とした図。
【
図12】
図8から
図11で示した概ね矩形のフレームに載設する部材であって、この図では保持する外部部材と連結する機構を有している。
【
図13】
図8から
図11で示した概ね矩形のフレームに
図12で示した部材を載設して一体化した状態を上方から見た様子。
【
図14】
図8から
図11で示した概ね矩形のフレームに
図12で示した部材を載設して一体化した状態を下方から見た様子。
【
図15】
図13と
図14で示した部材にシート材を覆設して環状部材を遊嵌した状態。摺動可能部材32はアンロック状態となっている。
【
図16】
図8から
図11で示した摺動可能な部材に替えて利用可能な回動部材の図。この図ではロック状態となる。
【
図17】
図8から
図11で示した摺動可能な部材に替えて利用可能な回動部材の図。この図ではアンロック状態となる。
【
図18】外輪51と内輪52から構成される円形フレームの例。
【
図19】円形フレームの外輪の部分拡大。全周を有限個の王冠状の可動片で構成し、各可動片は上部に爪を備える。各可動片は内側面に押動を受けるための小突起を有する。
【
図20】円形フレームの内輪の部分拡大。外輪の可動片と同数の凹凸を有し、凸部分が外輪の可動片内側の小突起を押動して遠心方向に移動させると拡径状態になる。内輪が回転して、外輪の可動片内側の小突起が内輪の凹部分にあるとき各可動片は基部の弾性により求心方向に移動して縮径状態になる。
【
図21】
図18から
図20で示した円形フレームを縮径状態にして、シート材を覆設し、さらに長手袋を覆設し、固定周長の環状部材を遊嵌し、円形フレームを拡径状態にしてロック状態とし、円形フレーム内側のシート材を開窓するとシート材を介して作業者の手を入れてシート材で隔離された空間内で作業が可能となる。
【
図22】矩形フレームにシート材を覆設し、そのシートの側面に円形フレームを用いて長手袋を設置し、患者の頭頚部を収容するように保持した様子。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る締着機構について、図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態の締着機構は、例えば
図10に示すようなフレーム31を備えている。本実施形態では、フレーム31の例として、
図10に概ね矩形の外形を有するものを例示する。このフレーム31のひとつの頂点が
図11のように矩形の内側方向に摺動可能な機構(可動部材)を備えている。この矩形状のフレーム31に、
図12で示す保持具連結機構35を備えたフレーム上乗せ部材36を載設して
図13のように一体化する。
図13は一体化した状態を上面から見た図であり、
図14は下面から見た図である。フレーム上乗せ部材36はバンド状の環状部材33が脱転することを防ぐプーリーの役割を兼ねている。
【0028】
図14の状態にシート材を覆設して、環状部材33を遊嵌する。フレーム31の可動部材32をアンロック状態からロック状態に摺動すると環状部材33を締着できる。天地を逆転すると
図15のような天蓋様の空間を作り出せる。フレーム31の保持具連結機構35を利用して適切な位置に保持することで対象を内包可能な空間が形成できる。
図14の可動部材32は摺動してアンロック状態にあるが、実使用時には摺動してロック状態になりシート部材などが脱落しないようにする。
【0029】
この可動部材32は摺動(移動)により状態を変化させるが、摺動以外にも
図16と
図17で示すような回動部材38を回動(移動)させることにより同等の機能を実現可能である。
【0030】
シート材の矩形フレーム31内側部分は締着時に適切に皺や弛みを除いておくことでシート材の平面形成部分37となるので良好な透過視認性が得られる。これを観察窓として分離空間内部の視認性を確保できる。
【0031】
分離空間の内部に外部から何らかの操作を加えたい場合には
図21で示すような円形フレーム62をシート材が形成する天蓋の垂れ幕部分に取り付けることで手から上腕までを収容可能な長手袋を設けることで分離空間内部での手作業が可能になる。このような長手袋を左右の上肢用に取り付けると作業空間が形成できる。
【0032】
本発明によれば、例えば
図22に示すような患者頭頚部を収容し各種医療行為を行える分離空間を実現できる。
図22において符号71で示すフレームは、上述したフレーム31に相当するものである。
図22に示す例においては、フレーム71を用いて上述したものと同様の締着機構によってシート材73を締着している。これにより、
図22に示すような患者頭頚部を収容し各種医療行為を行える分離空間を実現できる。
図22のような構成とした場合には、必要があれば他の作業者用に長手袋を追加して、例えば手術の執刀医に加えて介助者も医療行為に参加することができる。具体的には、
図22に示す例のように、シート材73に対して手袋ユニット72を設けたものとすることができる。あるいは、円形フレーム62を利用して長手袋に替えて一方が盲端の長袋を設けると、例えば超音波検査装置のプローブを挿入して収容した患者の患部に接近させ超音波検査を実施することができる。
【0033】
本発明の締着機構は、上述したものに限定されず、例えば
図18~
図20のような構成のものとすることができる。具体的には、上述したフレーム31に代えて、
図18に示すように、外輪51と内輪52から構成される円形のフレームを用いた構成とすることができる。
図19に示すように、円形とされたフレームの外輪51は、全周を有限個の王冠状の可動片53を備えた構成とし、各可動片53の上部に爪を備えたものとされている。また、各可動片53は、内側面に押動を受けるための小さな突起55を有する。
【0034】
円形とされたフレームの内輪52は、拡大視すると
図20のような構成とされている。内輪52は、外輪51の可動片と同数の凹凸を有し、凸部分が外輪51の可動片53の内側に設けられた突起55を押動して遠心方向に移動させると拡径状態になるものとされている。内輪52が回転して、外輪51の可動片53内側の小突起55が内輪52の凹部分にあるとき、各可動片53は基部の弾性により求心方向に移動して縮径状態になる。
【0035】
図21は、
図18から
図20で示した円形フレームを縮径状態にして、シート材68を覆設し、さらに長手袋61を覆設し、固定周長の環状部材63を遊嵌し、円形フレームを拡径状態にしてロック状態とした状態を示している。
図21の状態において、円形フレーム内側のシート材68を開窓すると、シート材68を介して一方側から他方側に向けて作業者の手を入れてシート材68で隔離された空間内で作業が可能となる。
【0036】
ここで、2020年、世界に拡大したコロナウイルス感染の対策としてマスクなどの衛生部材使用と並行して空間遮蔽が求められる場面が増えてきた。対面接客時や会議の際に直接の飛沫が飛散することを防ぐためにアクリル板やビニールシートで空間を区切る様々な工夫がなされている。病室の躯体を変更することは難しいが感染者のベッドを透明シートで区分して、各種検査の検体を扱う際にも飛散防止の仕切りとして多用されるようになってきた。
【0037】
空間分離のシートは、当然ながら内部へのアクセスに適さない。例えば処方した投薬を渡す際にカーテン様のシートを大きく開口してしまうと一時的ながら空気の交雑が生じてしまう。物体の移動時のアクセスポートは最小サイズであることが望ましいが、患者毎に交換・廃棄をするシート材に機能を具備させようとすると加工コストがかかる上に、症例ごとにニーズも異なるので共通性を見込める機能しか提供できない。個別の状況に柔軟に対応することは難しく、現実には大は小を兼ねるという観点から大きなアクセスポートを設けることになりがちである。
【0038】
また透明素材でできたシートは内部の様子を観察しやすいが、シートの波うちなどで平面性が乏しい場合には透過視認性は損なわれることがあり、透明素材といえども平面性の有無で透過視認性は大きく影響を受ける。
【0039】
本発明では汎用の透明シートで空間遮蔽をした場合でも部分的な平面性を容易に確保し観察窓として視認性を高めるとともに、危険物側に位置する締着用部材を使い捨てとするため低廉な部材で機能する固定機構を提供する。
【0040】
本実施形態の締着機構は、
図21に示すようなものである。
図21に例示する締着機構は、円形のフレーム62を用いて、ヒトの指先から前腕あるいは上腕部までを収容可能な長手袋状構造の軟性袋(長手袋61)をシート材68に加えて挟装した状態に環状部材63を環装したフレーム62で、円形のフレーム62内部のシート部材68を開窓すると、汚染環境と分離した空間内に手指先端から腕を挿入して対象を用手的に操作することができるので、例えば気管挿管を行う場合にも医療者は分離された安全な状態から必要な操作を容易に実施できる。前述の透視視認性を確保したフレーム62の窓を通して観察しながら手技操作を行える。
【0041】
必要な操作が終了した時点で、各フレーム62を縮径するとシート材68と環状部材33そして手袋部材(長手袋61)は容易に脱落し、汚染部位に触れることなく廃棄できる。この時点ですべてのフレーム62は終始、非汚染環境のみで使用されていたので感染リスクを前提とした消毒滅菌処理は不要であり、次の使用のために準備を開始できる。
【0042】
上述したように、本発明の一実施形態に係る締着機構は、以下の(1)~(4)のような特徴的構成を備えている。
【0043】
(1)本実施形態の締着機構は、外周長が特定の固定周長とされた環状部材33,63を対象物として締着力を発生可能なものであって、外周長が特定の固定周長とされた前記環状部材33,63を遊嵌し、前記環状部材33,63の内側面に外側方向に向かう押圧を加えることにより締着力を発生可能であること、を特徴としている。
【0044】
(2)本実施形態の締着機構は、シート材68を介して前記環状部材33,63を遊嵌し、前記環状部材33,63の内側面に外側方向に向かう押圧を加えることにより、挟装したシート材68に対して前記環状部材33,63の内側面に外側方向に向かう方向への締着力を付与できること、を特徴とすることを特徴としている。
【0045】
(3)本実施形態の締着機構は、前記締着機構の外形である楕円若しくは円の一部若しくは全周、または前記締着機構の外形である多角形の1つ以上の頂点を含む移動部材33を有し、前記移動部材33が、機構内側方向に移動可能であり、前記移動部材33を機構内側方向に移動させて前記外周長が短縮させることにより、環装した前記環状部材33,63の内側面に対する押圧を減勢し、前記環状部材33,63、及び前記環状部材33,63との間に挟装した挟装部材(本実施形態ではシート材68)を嵌脱可能であること、を特徴とするものである。
【0046】
(4)本実施形態の締着機構は、ヒトの上肢を含む部材を収容できる袋状軟性部材の開口部を、シート材68とともに前記環状部材33,63との間に挟装して締着可能なフレーム31あるいは円形フレーム62を有し、前記シート材68において前記フレーム31あるいは円形フレーム62に囲まれた部分を開窓することにより、操作対象物に対して手を含む物体を自在に接近させることが可能であること、を特徴とするものである。
【0047】
本発明の利用部位は頭頚部に限らない。例えば外傷治療を手術室ではなく事故発生現場で実施する場合には清潔を確保するために治療対象を周囲の環境から分離することが望まれる場合がある。治療者は不十分な状況下で自身の手洗いはおろか手術服を使うこと自体が無意味な屋外であるなら、手術対象の術野のみを空間分離して清潔度を最大化することが本発明で実現できる。
【0048】
以上が、本発明の実施形態であるが、上述の実施形態は、一実施形態を示したものに過ぎず、本発明は上述したものに限られない。例えば、本発明の締着機構は、上記(2)~(4)に係る構成の一部又は全部を備えていないものとしたり、上記(2)~(4)に係る構成に代えてあるいは加えて、他の構成を備えたものとしたりすることが可能である。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態において例示した構成の一部又は全部について異なる構成のものとすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、外周長が特定の固定周長とされた環状部材を対象物として締着力を発生させるべき用途全般において利用可能である。