(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088711
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】落雷予測システム、落雷予測方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
G01W1/10 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203622
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】谷川 慎次
(72)【発明者】
【氏名】高橋 則雄
(72)【発明者】
【氏名】伊東 亮
(72)【発明者】
【氏名】塩田 和則
(57)【要約】
【課題】高精度に落雷を予測することが可能な落雷予測システムを提供する。
【解決手段】一実施形態に係る落雷予測システムは、少なくとも風況解析対象領域の気象に関する気象データが入力される外部データ入力装置と、風況解析対象領域内で計測された風況実測データおよび電磁波観測データが入力される計測データ入力装置と、外部データ入力装置および計測データ入力装置にそれぞれ接続される中央処理装置と、を備える。この中央処理装置は、風況解析対象領域内に存在する落雷予測の指定領域内において大気不安定状態で風況解析した結果を示す風況解析データを記憶する記憶部と、気象データ、電磁波観測データ、および風況解析データを用いて、指定領域内における落雷の発生を予測する制御部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも風況解析対象領域の気象に関する気象データが入力される外部データ入力装置と、
前記風況解析対象領域内で計測された風況実測データおよび電磁波観測データが入力される計測データ入力装置と、
前記外部データ入力装置および前記計測データ入力装置にそれぞれ接続される中央処理装置と、を備え、
前記中央処理装置は、
前記風況解析対象領域内に存在する落雷予測の指定領域内において大気不安定状態で風況解析した結果を示す風況解析データを記憶する記憶部と、
前記気象データ、前記電磁波観測データ、および前記風況解析データを用いて、前記指定領域内における落雷の発生を予測する制御部と、を有する、落雷予測システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記風況実測データの計測地点における大気安定度および風速を常時監視する第1落雷予測部を有し、前記第1落雷予測部は、前記大気安定度および前記風速の監視結果に基づいて、落雷の可能性が有るか否かを判定する、請求項1に記載の落雷予測システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記電磁波観測データに基づいて落雷地点を評定する第2落雷予測部を有し、前記第2落雷予測部は、前記落雷地点における風速および風向を推定し、推定結果に基づいて前記指定領域内における落雷の発生を予測する、請求項2に記載の落雷予測システム。
【請求項4】
前記中央処理装置は、前記制御部による落雷予測の結果を表示する表示部をさらに有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の落雷予測システム。
【請求項5】
少なくとも風況解析対象領域の気象に関する気象データを取得し、
前記風況解析対象領域内で計測された風況実測データおよび電磁波観測データを取得し、
前記風況解析対象領域内に存在する落雷予測の指定領域内において大気不安定状態で風況解析した結果を示す風況解析データを記憶し、
前記気象データ、前記電磁波観測データ、および前記風況解析データを用いて、前記指定領域内における落雷の発生を予測する、落雷予測方法。
【請求項6】
少なくとも風況解析対象領域の気象に関する気象データを取得し、
前記風況解析対象領域内で計測された風況実測データおよび電磁波観測データを取得し、
前記風況解析対象領域内に存在する落雷予測の指定領域内において大気不安定状態で風況解析した結果を示す風況解析データを記憶し、
前記気象データ、前記電磁波観測データ、および前記風況解析データを用いて、前記指定領域内における落雷の発生を予測する、処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、落雷予測システム、落雷予測方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
落雷は、発電システム、送配電システム、通信システムなどの社会インフラに甚大な被害をもたらす自然災害である。そのため、電力会社のインフラ設備を保有する企業者、広範囲に設備を分散配置し管理する事業者においては、落雷による設備被害をできるだけ早く把握することが求められる。また、季節や地域によって落雷の様相は異なるため、季節や地域差も含めた中域または狭域の落雷予測が求められている。
【0003】
従来、気象レーダを用いて行われる落雷予測が既知である。この落雷予測は、レーダエコーからセル(雲を構成する基本単位)に含まれる水分量やその変化を解析し、解析結果に基づいて落雷の危険性を判定する。また、雷雲を検知する方法として、電界強度計による方法も既知である。この方法では、回転集電器(field mill)と呼ばれる電界強度計を検知対象領域に設置し、地表の大気電界を測る。雷雲等の雲が接近すると電界強度計の計測値が、晴天時に比べて大幅に増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-156158号公報
【特許文献2】特開2009-192311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、現状の気象予報に見られる気象レーダによる落雷予測は、空間的、時間的な粒度が粗いため、予測精度が十分ではない。また、電界強度計による雷雲の検知については、通常時の降雨を引き起こす雲、冬季のあられ、ひょう、雪などであっても、電界強度が大きくなるため、雷雲発生要因と区別することが困難な場合がある。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、高精度に落雷を予測することが可能な落雷予測システム、落雷予測方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る落雷予測システムは、少なくとも風況解析対象領域の気象に関する気象データが入力される外部データ入力装置と、風況解析対象領域内で計測された風況実測データおよび電磁波観測データが入力される計測データ入力装置と、外部データ入力装置および計測データ入力装置にそれぞれ接続される中央処理装置と、を備える。この中央処理装置は、風況解析対象領域内に存在する落雷予測の指定領域内において大気不安定状態で風況解析した結果を示す風況解析データを記憶する記憶部と、気象データ、電磁波観測データ、および風況解析データを用いて、指定領域内における落雷の発生を予測する制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、高精度に落雷を予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る落雷予測システムの概略的な構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係る落雷予測システムの全体動作の手順を示すフローチャートである。
【
図3】第1落雷予測部の動作を示すフローチャートである。
【
図4】落雷予測に関する地点および領域を模式的に示す図である。
【
図5A】風況解析データベースの一例を示す図である。
【
図5B】風況解析データベースの他の一例を示す図である。
【
図6】大気安定度Riおよびべき指数αの時系列データの一例を示す図である。
【
図7】第2落雷予測部の動作を示すフローチャートである。
【
図8】落雷地点の標定方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0011】
図1は、一実施形態に係る落雷予測システムの概略的な構成を示すブロック図である。
図1に示す落雷予測システム1は、外部データ入力装置100、計測データ入力装置200、および中央処理装置300を備える。外部データ入力装置100、計測データ入力装置200、および中央処理装置300は、通信ネットワーク400を介して互いに接続される。
【0012】
外部データ入力装置100には、気象データ101がオンラインデータとして外部から入力される。気象データ101は、気象庁予測データ、気象予報GPV(Grid Point Value)データ、天気予報SCWサイト(Super C Weather)データ、ERA-5などの気象再解析データ、および数値気象モデルなどのWRF(Weather Research and Forecasting)解析結果のデータの少なくとも1つを含む。気象庁予測データは、気象庁が予測したデータである。気象予報GPVデータは、地図上に予め設定された格子点におけるスーパーコンピュータで計算した過去、未来の気象予測データである。ERA-5データは、ヨーロッパ中期予報センタが気象予測に用いるデータである。WRFは、風速および風向といった風況を予測するための予測モデルである。
【0013】
計測データ入力装置200には、電磁波の計測箇所で計測された電磁波観測データ201と、風速および風向の計測箇所で計測された風況実測データ202とが、それぞれ入力される。
【0014】
電磁波観測データ201は、電磁波観測機器から得られたデータである。電磁波観測機器には、例えば、ループアンテナが挙げられる。ここで、ループアンテナを用いて電磁波を観測する方法の一例について説明する。
【0015】
雷の電流による磁界は、地表面においては、大地に平行な成分が大部分を占めるので、大地に垂直な面をもつループアンテナにより、雷放電によって生じる電磁波の磁界成分を検知できる。ループアンテナの出力は、水平磁界の方向に依存するので、直交した1組のループアンテナを使用して、それらの出力の比較から、落雷によって生じる電磁波の到来方向を測定できる。また、このループアンテナは、後述する到達時間差法による検知に必要とされる電磁波も観測できる。
【0016】
風況実測データ202は、気象庁観測データ、および局所風況実測データの少なくとも1つを含む。気象庁観測データは、気象庁が風況、温度、湿度、気圧などの気象情報を実測したデータである。例えば、気象庁の「自動気象データシステム」(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition Syatem)が挙げられる。局所風況実測データは、任意地点の風況を実測したデータである。局所風況実測データは、例えばLiDAR(Light Detection And Ranging)によって計測したデータである。LiDARは、レーザー光を大気中に放射して大気からの散乱光を受信、そのドップラー周波数から風速と風向を観測する計測器である。
【0017】
中央処理装置300は、気象データ101、電磁波観測データ201、および風況実測データ202に基づいて、落雷予測を行う装置であり、通信部310、操作部320、表示部330、制御部340、および記憶部350を有する。
【0018】
通信部310は、通信ネットワーク400を介して外部データ入力装置100および計測データ入力装置200の各々と通信するときに通信インターフェースとして機能する。
【0019】
操作部320は、ユーザの操作入力を受け付ける。操作部320は、例えばキーボードやマウス等の入力デバイスを有する。
【0020】
表示部330は、制御部340の制御に基づいて種々の画像を表示する。表示部330は、例えば液晶ディスプレイ等の表示デバイスを有する。
【0021】
制御部340は、入力データ処理部341と、第1落雷予測部342と、第2落雷予測部343と、落雷確率評価部344と、を有する。制御部340が、例えば、記憶部350に記憶された所定のプログラムを実行するプロセッサである場合、各部の機能は、プログラムの実行によって実現される。
【0022】
入力データ処理部341は、外部データ入力装置100および計測データ入力装置200から通信部310を介して入力された種々のデータを処理する。入力データ処理部341のデータ処理には、例えば、第1落雷予測部342および第2落雷予測部343に対して、通信部310を介して取得した複数種のデータ(気象データ101、電磁波観測データ201、風況実測データ202)の中から、落雷予測に必要なデータをそれぞれ提供する処理が含まれる。
【0023】
第1落雷予測部342は、入力データ処理部341から提供されたデータや記憶部350に格納されたデータを用いて、落雷発生の判定を行う。第2落雷予測部343は入力データ処理部341から提供されたデータ、第1落雷予測部342で計算されたデータを用いて、落雷発生の判定を行う。
【0024】
落雷確率評価部344は、第1落雷予測部342および第2落雷予測部343で予測されたデータに基づいて、落雷発生の確率指標を計算する。落雷確率評価部344は、例えば「0」:可能性なし、「1」:可能性小、「2」:可能性中(注意)、「3」:可能性大(危険)の4段階に落雷の発生確率指標を分けて出力する。
【0025】
記憶部350には、制御部340を動作させるために必要なプログラムや、種々のデータベースが記憶されている。これらのデータベースについては、後述する。
【0026】
以下、上記のように構成された落雷予測システム1の動作について説明する。
図2は、一実施形態に係る落雷予測システムの全体動作の手順を示すフローチャートである。
【0027】
図2に示すフローチャートでは、まず、落雷予測に必要なデータが、外部データ入力装置100および計測データ入力装置200にそれぞれ入力される(ステップS1)。ステップS1では、気象データ101が、気象庁等の外部機関から外部データ入力装置100に入力される。また、風況実測データ202が、計測機器から計測データ入力装置200に入力される。計測データ入力装置200には、電磁波観測データ201も、観測機器から入力される。
【0028】
次に、制御部340の入力データ処理部341が、外部データ入力装置100から通信ネットワーク400を介して取得した気象データ101、計測データ入力装置200から通信ネットワーク400を介して取得した風況実測データ202、および記憶部350に格納されたデータを第1落雷予測部342に入力する。第1落雷予測部342は、これらの入力データに基づいて、落雷発生を予測する(ステップS2)。
【0029】
次に、入力データ処理部341が、計測データ入力装置200から通信ネットワーク400を介して取得した電磁波観測データ201を、第2落雷予測部343に入力する。第2落雷予測部343は、電磁波観測データ201と、第1落雷予測部342で計算されたデータとを入力データとして、落雷発生を予測する(ステップS3)。
【0030】
次に、落雷確率評価部344が、第1落雷予測部342および第2落雷予測部343でそれぞれ計算されたデータに基づいて、落雷発生確率を評価する(ステップS4)。ステップS4では、落雷確率評価部344は、例えば、上述した4段階で落雷の発生確率を評価する。
【0031】
最後に、表示部330が、制御部340の制御に基づいて、落雷確率評価部344の評価に基づいて確率指標を表示する(ステップS5)。例えば、表示部330は、落雷確率評価部344によって落雷の発生確率の可能性有と評価された指定領域を、ハザードマップとして表示する。このとき、表示部330は、ハザードマップとして表示する指定領域を、落雷発生の可能性の段階に応じて異なる色で表示してもよい。
【0032】
ここで、
図3および
図4を参照して、上述したフローチャートの中からステップS2の動作を抜き出して詳しく説明する。
図3は、本実施形態に係る第1落雷予測部342の動作を示すフローチャートである。また、
図4は、落雷予測に関する地点および領域を模式的に示す図である。
【0033】
図3に示すフローチャートでは、まず、第1落雷予測部342は、風況実測データ202を用いて大気安定度を算出して常時監視する(ステップS21)。このとき、第1落雷予測部342は、気象データ101を用いて大気安定度を算出してもよい。この場合、気象データ101の取得地点6は、
図4に示すように、風況実測データ202の計測地点5に最も近い地点であり、かつ風況解析対象領域2内に存在する。風況解析対象領域2は、半径r1が領域中心地点Cから数キロメートル(例えば、5km~20km)の範囲内に予め設定されている。
【0034】
大気安定度は、太陽からの熱射量や夜間における地球からの放熱量と風による気流の乱れを表す指標である。大気安定度の度合いは、「大気不安定」、「大気安定」という呼び名で区別される。
【0035】
「大気不安定」は、鉛直方向に対流が発生する状態を示す。この状態は、太陽からの熱で地面が暖められ、地表付近が高温で上空が低温という気温分布による温度差が生じることによって発生する。
【0036】
一方、「大気安定」は、鉛直方向の対流は発生せず、汚染物質は拡散しにくくなる状態を示す。この状態は、地面からの放射(赤外放射)の度合いが強くなって地表付近が連続的に熱が奪われて冷える放射冷却の際には、地表付近が低温で上空が高温となることによって発生する。
【0037】
本実施形態では、第1落雷予測部342は、大気安定度の定量的な指標として、例えば下記の式(1)で定義されるリチャードソン数Riを算出する。リチャードソン数Riは、ある高さにおける大気の安定度を表す無次元数である。
【数1】
【0038】
上記の式(1)において、「g」は重力加速度であり、「T」は平均温度(K)であり、「θ」は温位(K)であり、「u」は水平風速(ms-1)であり、「z」は高度(m)である。リチャードソン数Ri>0の場合に「大気安定」となり、リチャードソン数Ri=0の場合に中立となり、リチャードソン数Ri<0の場合に「大気不安定」となる。
【0039】
落雷の発生には、例えば積乱雲の発達を検知することが重要である。雷を発生させるような雲である積乱雲(雷雲)の発生には、大気安定度が深く関わっている。積乱雲は、強い上昇気流によって鉛直方向に著しく発達した雲であり、すなわち大気が不安定であればあるほど、積乱雲が発生しやすくなる。そこで、本実施形態では、大気安定度と、積乱雲の発生との関係に着目して、第1落雷予測部342が、ステップS21においてリチャードソン数Riを大気安定度Riとして算出しながら常時監視する。
【0040】
ステップS21で算出した大気安定度Riの監視中に、第1落雷予測部342は、大気安定度Riとしきい値Rthとを比較照合する(ステップS22)。ここで、この比較照合動作について説明する。
【0041】
ステップS22では、記憶部350に記憶されている風況解析データベースが用いられる。この風況解析データベースは、大気が不安定な状態での風況解析の結果をデータベース化したものである。
【0042】
図5Aは、風況解析データベースの一例を示す図である。
図5Aに示す風況解析データベースDB1において、大気安定度Riは、落雷予測の指定領域3(
図4参照)内で、過去に落雷が発生したときの気象データに基づいて予め算出された値である。指定領域3は、風況解析対象領域2内に存在し、半径r2が領域中心地点Cから数百メートル(例えば、500m)の範囲内に予め設定されている。
【0043】
この風況解析データベースDB1には、
図4に示すように、指定領域3を包含する風況解析対象領域2(
図4参照)を複数の計算格子Gに分割して、計算格子Gごとに算出した風速Vが示されている。すなわち、風況解析データベースDB1は、過去に指定領域3内で落雷が発生した大気安定度Riに対応付けて計算格子Gごとに風況解析の結果を示している。なお、この風況解析は、計算格子G間における水平方向の格子幅を数十m以下とする局所的な風速予測が可能な格子レベルの風況解析である。また、
図5Aに示す風況解析データベースDB1には、1つの計算格子Gに対して1つの風速解析データ値しか記載されていない。しかし、風況解析データベースDB1には、1つの計算格子Gに対して、高度別に複数の風速解析データ値が格納されている。
【0044】
図5Bは、風況解析データベースの別の一例を示す図である。上述した風況解析データベースDB1は、落雷発生時の風況解析である。一方、
図5Bに示す風況解析データベースDB2は、予め設定された大気安定度Riに対応付けて計算格子Gごとに風況解析の結果を示している。風況解析データベースDB2では、例えば、大気安定度Ri=-1が、過去に指定領域3内で落雷が発生したときの大気安定度に相当する。なお、
図5Bに示す風況解析データベースDB2にも、1つの計算格子Gに対して、高度別に複数の風速解析データ値が格納されている。
【0045】
ステップS21で算出された大気安定度Riと比較照合されるしきい値Rthは、風況解析データベースDB1または風況解析データベースDB2に基づいて、設定される。ステップS21で算出された大気安定度Riは、風況実測データ202の計測地点5(または気象データ101の取得地点6)における大気安定度である一方で、風況解析データベースDB1または風況解析データベースDB2に示された大気安定度Riは、指定領域3内の地点である。そのため、しきい値Rthは、例えば地点間の距離を考慮して設定される。本実施形態では、第1落雷予測部342は、大気安定度Riがしきい値Rth以下であるか否かを判定する。
【0046】
また、ステップS22では、第1落雷予測部342は、計測地点5で計測された風況実測データ202も常時監視する。第1落雷予測部342は、落雷発生時(大気不安定状態)の風況解析データベースDB1から、この計測地点5に対応する計算格子Gの風況解析データ、具体的には風速データを抽出する。続いて、第1落雷予測部342は、抽出した風速に関する指標、例えばべき指数αを算出する。べき指数αは、縦軸が高度を示し、横軸が風速を示すグラフにおける風速の傾きである。ステップS22では、第1落雷予測部342は、べき指数αが予め判定値範囲以内であるか否かを判定する。
【0047】
図6は、大気安定度Riおよびべき指数αの時系列データの一例を示す図である。
図6に示すように、時刻t1から時刻t2までの時間では、大気安定度Riがしきい値Rth以下となり、かつ、べき指数αが予め設定された判定値範囲以内になっている。この場合、
図3に示すように、第1落雷予測部342は、指定領域3で落雷の可能性があると判定する(ステップS23)。一方、大気安定度Riがしきい値Rthよりも大きいか、またはべき指数αが判定値範囲外である場合には、第1落雷予測部342は、指定領域3で落雷の可能性が無いと判定する(ステップS24)。
【0048】
第1落雷予測部342は、指定領域3で落雷の可能性があると判定した場合、風況解析データベースDB1に格納されている各高度の風況解析データ値を風況実測値または風況予測値に換算する換算係数を算出する(ステップS25)。算出された換算係数は、例えば記憶部350に格納することができる。換算係数は、例えば、ある地点で実測された風況実測データ202の実測値と、その実測値と同じ地点の風況解析データの解析データ値との差分、正規化、差分の二乗和、または内積を計算することによって求めることができる。換算係数によって、風況を実測していない地点についても、実測値を計算することができる。
【0049】
なお、ステップS25では、第1落雷予測部342は、複数の地点で換算係数を計算してもよい。この場合、ある地点の実測値を求める際、その地点に最も近い地点に対応する換算係数を用いることによって、実測値を高精度に計算することができる。または、第1落雷予測部342は、複数の実測地点の換算係数に基づいて、ある地点の実測値を同定してもよい。
【0050】
次に、
図7を参照して、
図2に示すフローチャートの中からステップS3の動作を抜き出して詳しく説明する。
図7は、本実施形態に係る第2落雷予測部343の動作を示すフローチャートである。
【0051】
図7に示すフローチャートでは、まず、第2落雷予測部343は、入力データ処理部341から電磁波観測データ201を取得する(ステップS31)。本実施形態では、
図4に示すように、風況解析対象領域2内における少なくとも3つの検知地点7に電磁波センサが設置されている。各電磁波センサの電磁波パルスが、電磁波観測データ201として計測データ入力装置200に伝送される。この電磁波観測データ201は、通信ネットワーク400を介して中央処理装置300の通信部310に受信される。その後、電磁波観測データ201は、通信部310から入力データ処理部341を経由して第2落雷予測部343に取得される。
【0052】
次に、第2落雷予測部343は、検知地点7からの電磁波パルスの到達時間差に基づいて落雷地点4を標定する(ステップS32)。ここで、
図8を用いて、ステップS32の動作について詳しく説明する。
【0053】
図8は、落雷地点4の標定方法の一例を説明するための図である。
図8に示す平面座標系における点P(x,y)で放射された電磁波が2つ地点F(k,0)と、F’(-k,0)にそれぞれ置かれた電磁波センサーで受信されると、電磁波センサー間で電波の到達時間差が生じる。この時間差が一定となる点の軌跡は、
図8に示すように、双曲線となる。さらに、別の1地点に電磁波センサーを配置すれば、電磁波センサの設置地点の合計は3地点となる。この場合、さらにもう1本の双曲線を書くことができ、その交点が放射源、つまり落雷発生源となる。第2落雷予測部343は、このような電磁波パルスの到達時間差方法の原理を利用して落雷地点4を標定する。
【0054】
次に、第2落雷予測部343は、第1落雷予測部342によって算出された換算係数や記憶部350に格納された過去の落雷情報データベースを用いて、落雷地点4の風速および風向を推定する(ステップS33)。ステップS33では、第2落雷予測部343は、上記換算係数に基づいて落雷地点4の風速を実測値に換算する。このとき、第2落雷予測部343は、第1落雷予測部342によって高度別に算出されている換算係数の中からいずれかの高度を抽出する。換算係数を抽出する高度は、例えば積乱雲の発生する雲低高度以上とする。このような高度の実測換算によって求められた風速および風向は、落雷地点4の積乱雲の移動速度および移動方向として捉えることができる。本実施形態では、抽出する高度は、落雷情報データベースに基づいて決定する。落雷情報データベースには、指定領域3内において過去に落雷が発生したときの積乱雲の雲低高度が、落雷過去情報データの一つとして示されている。
【0055】
次に、第2落雷予測部343は、ステップS33で推定した落雷地点4の風向が、指定領域3の中心に近づく方向か、または離れる方向かを判定する(ステップS34)。ステップS33で推定した落雷地点4の風向は、積乱雲(雷雲)の移動方向に相当する。そのため、第2落雷予測部343は、落雷地点4の風向に基づいて、積乱雲が指定領域3に向かって移動しているか否かを判定することができる。
【0056】
落雷地点4の風向が、指定領域3の中心に近づく方向である場合、第2落雷予測部343は、指定領域3に落雷の可能性があると判定する(ステップS35)。反対に、落雷地点4の風向が、指定領域3の中心に対して離れる方向である場合、第2落雷予測部343は、指定領域3に落雷の可能性がないと判定する(ステップS36)。
【0057】
最後に、第2落雷予測部343は、ステップS33で推定した落雷地点4の風速および風向を用いて、指定領域3に積乱雲が到達すると推定される時間である推定落雷時間を算出する(ステップS37)。なお、第2落雷予測部343は、推定落雷時間を落雷確率評価部344へ出力する。その後、落雷確率評価部344は、推定落雷時間に基づいて、落雷発生確率を評価する。例えば、落雷確率評価部344は、推定落雷時間に応じて、落雷発生の可能性の大小を決定する。
【0058】
以上説明した本実施形態によれば、記憶部350は、落雷予測の指定領域内3において大気不安定状態、すなわち落雷が発生し得る状態で風況解析した結果を示す風況解析データベースを記憶している。風況解析データベースは、複数の計算格子Gによって格子状に区切られた指定領域3内で落雷発生の起因となる大気安定度Riを解析条件とした格子解像度の細かい局所風況解析結果を示す。そのため、第1落雷予測部342が、この風況解析データベースを用いた落雷予測動作を実行することによって、より精度の高い落雷予測が可能となる。また、本実施形態では、雷雲を予測する電界強度計が不要になるため、より安価で効率的な落雷予測が可能となる。
【0059】
さらに、本実施形態では、第2落雷予測部343が、電界強度計を用いて雷雲の到達時間を予測する代わりに、第1落雷予測部342で算出された換算係数を用いて、雷雲が指定領域3に到達する時間を予測している。電界強度計を用いて雷雲の到達時間を予測する方法では、電界強度計の計測結果にノイズ成分が含まれる場合がある。しかし、本実施形態の予測方法では、そのようなノイズ成分が存在しないため、より高精度に雷雲の移動速度と移動方向を予測することが可能となる。さらに、風況解析の高度化(数十kmオーダー解析領域、かつ数m計算格子での不安定状態の風況解析)によって、雷雲移動速度の確度を上げることができ、より空間分解能・時間分解能の細かい局所落雷予測が可能となる。
【0060】
なお、
図2、
図3、および
図7に記載されている各ステップの動作、すなわち中央処理装置300の制御部340の機能は、各ステップを処理するプログラムをコンピュータに実行させることによっても実現することができる。このプログラムは、ソフトウェアとして記録媒体に記録することも可能である。
【0061】
以上、実施形態を説明したが、この実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規なシステムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明したシステムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0062】
1:落雷予測システム
2:風況解析対象領域
3:指定領域
4:落雷地点
5:計測地点
100:外部データ入力装置
101:気象データ
200:計測データ入力装置
201:電磁波観測データ
202:風況実測データ
300:中央処理装置
330:表示部
340:制御部
342:第1落雷予測部
343:第2落雷予測部
350:記憶部