(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088790
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20230620BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20230620BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230620BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230620BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230620BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230620BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20230620BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20230620BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20230620BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01G11/06
H01G11/30
H01G11/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203736
(22)【出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】小林 美和
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA08
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA30
5E078DA14
5H029AJ05
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ02
5H029HJ07
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050HA02
5H050HA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】非水電解質がホスファゼンを含有していても、充放電サイクルに伴う正極活物質からの遷移金属元素の溶出及び容量保持率の低下を抑制することができる、非水電解質蓄電素子を提供する。
【解決手段】非水電解質蓄電素子は、遷移金属元素を含む正極活物質を含有する正極と、負極と、非水電解質とを備えており、上記非水電解質がホスファゼンと、フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩とを含有し、上記遷移金属元素がマンガン元素、鉄元素又はこれらの組み合わせを含み、上記遷移金属元素の総量に対する上記マンガン元素の量と上記鉄元素の量との合計量が、モル比率で0.5以上1.0以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属元素を含む正極活物質を含有する正極と、
負極と、
非水電解質と
を備えており、
上記非水電解質がホスファゼンと、フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩とを含有し、
上記遷移金属元素がマンガン元素、鉄元素又はこれらの組み合わせを含み、
上記遷移金属元素の総量に対する上記マンガン元素の量と上記鉄元素の量との合計量が、モル比率で0.5以上1.0以下である非水電解質蓄電素子。
【請求項2】
上記ホスファゼンがハロゲン基を有するシクロトリホスファゼンであり、
上記シクロトリホスファゼンがアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はこれらの組み合わせからなる置換基をさらに有し、
上記置換基の数が1以上3以下であり、
上記ハロゲン基の数が3以上5以下である請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記正極活物質がスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物である請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
上記正極活物質がポリアニオン化合物である請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項5】
上記ホスファゼンの含有量が非水電解質に対して1体積%以上30体積%以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間で電荷担体イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
一般的に、上記非水電解質蓄電素子の非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解する電解質塩とを含む。この非水電解質においては、性能改善のために、各種化合物が選択されて用いられている。例えば、特許文献1にはホスファゼンを含有した非水電解質を用いることで、比較的低温での非水電解質の気化、分解を抑制し、安全性を向上させた非水電解質蓄電素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ホスファゼンを非水電解質に含有させることにより、比較的低温での非水電解質の気化、分解を抑制し、非水電解質蓄電素子の安全性を高めることが可能であるが、本発明者らは、ホスファゼンを含有する非水電解質を備える非水電解質蓄電素子が充放電サイクルに伴い正極活物質に含有される遷移金属元素の溶出及び容量保持率の低下が生じうるということを見出した。
【0006】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、非水電解質がホスファゼンを含有していても、充放電サイクルに伴う正極活物質からの遷移金属元素の溶出及び容量保持率の低下を抑制できる非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、遷移金属元素を含む正極活物質を含有する正極と、負極と、非水電解質とを備えており、上記非水電解質がホスファゼンと、フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩とを含有し、上記遷移金属元素がマンガン元素、鉄元素又はこれらの組み合わせを含み、上記遷移金属元素の総量に対する上記マンガン元素の量と上記鉄元素の量との合計量が、モル比率で0.5以上1.0以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子によれば、非水電解質がホスファゼンを含有していても、非水電解質蓄電素子の充放電サイクルに伴う正極活物質からの遷移金属元素の溶出及び容量保持率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図2】
図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、遷移金属元素を含む正極活物質を含有する正極と、負極と、非水電解質とを備えており、上記非水電解質がホスファゼンと、フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩とを含有し、上記遷移金属元素がマンガン元素、鉄元素又はこれらの組み合わせを含み、上記遷移金属元素の総量に対する上記マンガン元素の量と上記鉄元素の量との合計量が、モル比率で0.5以上1.0以下である。(以下、マンガン元素や鉄元素等の遷移金属元素を単に「遷移金属」ということがある)。
【0011】
当該非水電解質蓄電素子は、ホスファゼンを含有する非水電解質を備えていても、上記非水電解質がフルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩をさらに含有し、上記正極活物質が上記遷移金属元素としてマンガン元素、鉄元素又はこれらの組み合わせを含み、上記遷移金属元素の総量に対する上記マンガン元素の量と上記鉄元素の量との合計量が、モル比率で0.5以上1.0以下であることで、非水電解質蓄電素子の充放電サイクルに伴う正極活物質からの遷移金属元素の溶出を抑制し、かつ容量保持率の低下を抑制できる。
【0012】
発明者らは、鋭意研究の結果、上記非水電解質がフルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩を含むことで、ホスファゼンを含有することによる正極活物質からの遷移金属元素の溶出を抑えることができることを見出した。この溶出抑制にかかる理由は確かではないが、次のように考えられる。正極活物質に含まれる遷移金属元素はホスファゼンとの間で配位結合等を有する中間体を経て、非水電解質に溶出すると考えられる。一方、フルオロリン酸塩やオキサラト錯塩は、そのアニオンが正極活物質に含有される遷移金属元素との相互作用を生じ、正極活物質の安定性を向上させることができると考えられる。また、正極活物質表面に低抵抗のリチウムイオン伝導性被膜が形成されると推測される。これにより遷移金属元素の非水電解質への溶出を抑制することができる。さらに、当該非水電解質蓄電素子は遷移金属元素の溶出抑制に伴い、充放電サイクル後の容量保持率の低下を抑制できると考えられる。マンガン元素や鉄元素は、そのイオン化傾向が遷移金属元素の中では高く、溶出しやすい傾向にある。溶出したマンガンイオンや鉄イオンはその溶解析出電位によりリチウムイオンよりも容易に負極に析出しうる。このため、マンガン元素や鉄元素の含有量が多い、すなわち遷移金属元素の総量に対するマンガン元素の量と鉄元素の量との合計量が、モル比率で0.5以上1.0以下である正極合活物質を含有する正極を備える当該非水電解質蓄電素子は、本発明の利点を十分に享受することができる。
【0013】
上記ホスファゼンがハロゲン基を有するシクロトリホスファゼンであり、上記シクロトリホスファゼンがアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はこれらの組み合わせからなる置換基をさらに有し、上記置換基の数が1以上3以下であり、上記ハロゲン基の数が3以上5以下であることが好ましい。上記置換基の数が1以上であることで、ホスファゼンと非水電解質の他の成分との親和性を高めることができる。上記置換基の数が3以下であることで、非水電解質蓄電素子の安全性を向上させることができる。また、上記ハロゲン基の数が3以上であることで、ホスファゼンの安定性及び非水電解質蓄電素子の安全性を向上させることができる。なお、上記ハロゲン基の数は、上記置換基の数によって決定され、上記置換基の数が1の場合、上記ハロゲン基の数は3以上5以下であり、上記置換基の数が2の場合、上記ハロゲン基の数は3以上4以下であり、上記置換基の数が3の場合、上記ハロゲン基の数は3である。
【0014】
上記正極活物質がスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であると好ましい。上記正極活物質がスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であることにより、当該非水電解質蓄電素子の出力性能、充放電性能及び熱安定性をより向上できる。
【0015】
上記正極活物質がポリアニオン化合物であると好ましい。上記正極活物質がポリアニオン化合物であることにより、当該非水電解質蓄電素子の出力性能、充放電性能及び熱安定性をより向上できる。
【0016】
当該非水電解質蓄電素子は、上記ホスファゼンの含有量が非水電解質に対して1体積%以上30体積%以下であると好ましい。このような当該非水電解質蓄電素子は、比較的低温での非水電解質の気化、分解を抑制し、安全性をより向上させることができる。
【0017】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の構成、蓄電装置の構成、及び非水電解質蓄電素子の製造方法、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0018】
<非水電解質蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して重ねられた積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して重ねられた状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含まれた状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0019】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0020】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0021】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0022】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0023】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0024】
上記正極活物質は、遷移金属元素を含む。上記正極活物質は、上記遷移金属元素としてマンガン元素、鉄元素又はこれらの組み合わせを含む。上記遷移金属元素の総量に対する上記マンガン元素の量と上記鉄元素の量との合計量としては、出力性能とコストの観点より、モル比率で0.5以上1.0以下であり、0.6以上1.0以下が好ましく、0.7以上1.0以下がより好ましい。また、上記マンガン元素の量と上記鉄元素の量との合計量が多い正極活物質は非水電解質への上記遷移金属元素の溶出量が増大するため、このような非水電解質蓄電素子においては、本発明の利点を十分に享受することができる。
【0025】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。このような正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x-βMnβ]O2(0≦x<0.5、0.5≦β<1.0)、Li[LixNiγMnβCo1-x-γ-β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0.5≦β<1、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。上記正極活物質は、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
上記正極活物質は、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物又はポリアニオン化合物であると好ましい。上記正極活物質がスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であることで、当該非水電解質蓄電素子の出力性能、充放電性能及び熱安定性をより向上できる。上記正極活物質がポリアニオン化合物であることで、当該非水電解質蓄電素子の出力性能、充放電性能及び熱安定性をより向上できる。
【0027】
上記スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えばLixMn2O4として表されるマンガン酸リチウム、LixNiγMn2-γO4(0<γ<1.0)、Li(Li0.1Al0.1Mn1.8)O4等が挙げられる。
【0028】
上記ポリアニオン化合物は、例えばLixMeα(XOy)z(MeはMn及びFeのうち少なくとも1種の元素を含む遷移金属元素を表し、Xは例えばP、Si、B、Vのうち少なくとも1種の元素である。)で表される化合物である。上記ポリアニオン化合物としては、例えばLiFePO4、LiMnPO4、LiMnβFe1-βPO4(0<β<1.0)、Li2MnSiO4等が挙げられる。
【0029】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0030】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の非水溶媒を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0031】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0032】
正極活物質層は、上述した遷移金属元素を含む正極活物質以外のその他の正極活物質(以下、「その他の正極活物質」ということがある。)を含んでいてもよい。その他の正極活物質としては特に限定されず、従来の二次電池に使用される公知の正極活物質を用いることができる。全正極活物質(遷移金属元素を含む正極活物質とその他の正極活物質の合計)に占めるその他の正極活物質の含有割合の上限としては、30質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。その他の正極活物質の含有割合を低くすることで、本発明の効果をより奏することができる。
【0033】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0034】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0035】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0036】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
【0037】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0038】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0039】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0040】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0041】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0042】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0043】
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0044】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0045】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電された状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。入出力性能に優れるという観点で、天然黒鉛が好ましい。
【0047】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電された状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0048】
ここで、黒鉛等の炭素材料の「放電された状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウム等のイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属リチウム(Li)を対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0049】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0050】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0051】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。
【0052】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0053】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0054】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0055】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0056】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0057】
(非水電解質)
非水電解質は、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩と添加剤とを含む。また、上記添加剤は、ホスファゼンと、フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩(以下、単に「アルカリ金属塩」ともいう。)とを含有する。
【0058】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0059】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0060】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0061】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0062】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。電解質塩には、フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩は含まない。
【0063】
リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0064】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0065】
(ホスファゼン)
上記非水電解液は、添加剤としてホスファゼンを含有する。ホスファゼンとは、リン(P)と窒素(N)とが交互に結合した化合物であり、一般に-PXaXb=N-で表される構造単位を有する(Xa、Xbは各々独立に、一価の置換基を表す。)。ホスファゼンは、環状ホスファゼン及び鎖状ホスファゼンに分類され、上記環状ホスファゼンは、例えば(PXaXb=N)n(n=3から15)で表される化合物である。上記鎖状ホスファゼンは、例えば(PXaXb=N)m-PXaXb=O(m=2から20)で表される化合物である。上記ホスファゼンとしてはいずれのホスファゼンも用いることが可能であり、複数のホスファゼンを用いることも可能である。この中でも、環状ホスファゼンが好ましく、シクロトリホスファゼンがより好ましい。
【0066】
上記シクロトリホスファゼンとしては下記式(1)で示される化合物が例示される。
【0067】
【0068】
上記式(1)中、X1~X6は、それぞれ独立にハロゲン基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基及びこれらの基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基を表す。
【0069】
上記式(1)中、X1~X6はイオン伝導性、安定性、安全性といった非水電解質としての基本的性能を満たすものであれば、全て同一の種類の基でもよいが、2種以上の異なる種類の基を組み合わせてもよい。このようなシクロトリホスファゼンの具体例としては下記式(1-1-1)から式(1-1-6)で示される化合物が例示される。
【0070】
【0071】
上記シクロトリホスファゼンは、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はこれらの組み合わせからなる置換基を有することが好ましい。
【0072】
上記アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基又はこれらの組み合わせからなる置換基の数としては、1以上3以下が好ましい。上記置換基の数が1以上であることで、ホスファゼンと他の成分との親和性を高めることができる。また、上記置換基の数が3以下であることで、非水電解質蓄電素子の安全性を向上させることができる。
【0073】
上記シクロトリホスファゼンは、ハロゲン基を有することが好ましい。上記ハロゲン基の数としては、3以上5以下が好ましい。上記ハロゲン基の数が3以上であることで、ホスファゼンの安定性及び非水電解質蓄電素子の安全性を向上させることができる。上記ハロゲン基におけるハロゲン原子は安定性の観点よりフッ素原子、塩素原子又は臭素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0074】
上記置換基におけるアルキル基は、炭素数1から10の直鎖状又は分枝状のアルキル基であるとよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
【0075】
上記置換基におけるアルコキシ基は、炭素数1から10の直鎖状又は分枝状のアルコキシ基であるとよく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクトキシ基等が挙げられる。
【0076】
上記置換基におけるアリールオキシ基は、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基等が挙げられる。
【0077】
上記置換基におけるアルキル基、アルコキシ基又はアリールオキシ基は、水素原子の一部又は全部を、ハロゲン原子や他のアルコキシ基等で置換することが可能である。例えば、アルキル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されたものとしては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0078】
このようなシクロトリホスファゼンの具体例としては下記式(1-2-1)から式(1-2-11)で示される化合物が例示される。
【0079】
【0080】
上記非水電解液における上記ホスファゼンの含有量としては、1体積%以上30体積%以下が好ましい。上記ホスファゼンの含有量が上記範囲であることで、当該非水電解質蓄電素子の安全性を向上させることができる。安全性の観点から、上記ホスファゼンの含有量の下限としては、2体積%がより好ましく、5体積%がさらに好ましい。一方、非水溶媒との親和性の観点より、この含有量の上限としては、25体積%がより好ましく、20体積%がさらに好ましい。ここで、上記非水電解液におけるホスファゼンの含有量とは、ホスファゼンを含有する非水電解液全体の体積に対する上記ホスファゼンの体積の割合を意味する。複数の種類のホスファゼンが含まれる場合、上記ホスファゼンの含有量とは、非水電解液全体に対する複数のホスファゼンの合計の体積の割合を意味する。
【0081】
(アルカリ金属塩)
上記非水電解液は、上記ホスファゼン以外に添加剤としてフルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも一つのアルカリ金属塩をさらに含有する。フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のアルカリ金属塩は、そのアニオンが正極活物質に含有されるマンガン元素や鉄元素等の遷移金属元素との相互作用を生じることで、正極活物質の安定性を向上させることができると考えられる。
【0082】
上記フルオロリン酸塩とは、P-O結合を有するフルオロリン酸塩をいう。上記フルオロリン酸塩における、塩を形成する対カチオンとなるアルカリ金属元素としては、特に制限はなく、例えば、リチウム元素、ナトリウム元素、カリウム元素等が挙げられる。この中でも、溶解性の観点からリチウム元素が好ましい。上記フルオロリン酸塩としては、例えば、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸ナトリウム、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート等が挙げられる。上記フルオロリン酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0083】
上記オキサラト錯塩とは、少なくとも一つのシュウ酸イオン(C2O4
2-)が中心元素と配位結合して形成される錯体の塩をいう。上記中心元素としては、例えば、ホウ素元素、リン元素、ケイ素元素等の非金属元素等が例示される。上記オキサラト錯塩における、錯塩を形成する対カチオンとなるアルカリ金属元素としては、特に制限はなく、例えば、リチウム元素、ナトリウム元素、カリウム元素等が挙げられる。この中でも、溶解性の観点からリチウム元素が好ましい。上記オキサラト錯塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0084】
上記オキサラト錯塩としては、例えば中心元素としてのホウ素(B)元素に少なくとも一つのシュウ酸イオン(C2O4
2-)が配位した四配位の構造部分を有する化合物、例えば、リチウムビス(オキサラト)ボレート(Li[B(C2O4)2];LiBOB)、リチウムジフルオロオキサラトボレート(Li[BF2(C2O4)];LiFOB)、リチウムビス(トリフルオロエトキシ)オキサラトボレート(Li[B(CF3CH2O)2(C2O4)])や、中心元素としてのリン(P)元素に少なくとも一つのシュウ酸イオン(C2O4
2-)が配位した六配位の構造部分を有する化合物、例えば、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート(Li[P(C2O4)3])、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート(Li[PF2(C2O4)2];LiFOP)、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート(Li[BF4(C2O4)])等が挙げられる。上記オキサラト錯塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なお、上述したオキサラト錯塩の中でも、遷移金属元素との相互作用及び形成する被膜の耐久性の観点から、LiBOB、LiFOB及びLiFOPを好ましく用いることができる。
【0085】
上記非水電解液におけるアルカリ金属塩の含有量の下限としては、0.01質量%が好ましく、0.02質量%がより好ましく、0.1質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、5.0質量%が好ましく、3.0質量%がより好ましく、2.0質量%がさらに好ましい。上記アルカリ金属塩の含有量が上記範囲であることで、ホスファゼンを含有することによる正極活物質からの遷移金属元素の溶出及び非水電解質蓄電素子の容量保持率の低下をより抑制することができる。
【0086】
(その他の添加剤)
非水電解液は、ホスファゼン及びアルカリ金属塩以外のその他の添加剤を含んでもよい。上記その他の添加剤としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル等が挙げられる。これらその他の添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。上記その他の添加剤の含有量としては、非水電解液全体の質量に対して5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0087】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0088】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0089】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)を備える蓄電装置として搭載することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解質蓄電素子1の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0090】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解質蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、ホスファゼンと、フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩を含有する非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、遷移金属元素としてマンガン元素、鉄元素又はこれらの組み合わせを含む正極活物質を含有する正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を重ねる又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0091】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0092】
上記製造方法によって得られる非水電解質蓄電素子を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0093】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0094】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【実施例0095】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
[試験例1]
下記の手順により、非水電解質蓄電素子を作製し、ホスファゼン及び添加剤による遷移金属元素の溶出及び容量保持率に対する影響について検討した。
【0097】
[実施例1]
(正極)
LiMn2O4(LMO)を正極活物質として含有する正極を作製した。この正極活物質と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤としてのアセチレンブラックとを含有し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを調製した。正極活物質、バインダ及び導電剤の混合比は、質量比で94:3:3(固形分換算)とした。上記正極合剤ペーストを正極基材である厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗工し、乾燥し、プレスして、正極活物質層を形成することにより正極を得た。
【0098】
(負極)
負極活物質としての黒鉛と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴムと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースを含有し、水を分散媒とする負極合剤ペーストを調製した。負極活物質、バインダ及び増粘剤の混合比は、質量比で97:2:1(固形分換算)とした。上記負極合剤ペーストを負極基材である厚さ10μmの銅箔の両面に塗工し、乾燥し、プレスして、負極活物質層を形成することにより負極を得た。
【0099】
(非水電解質)
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で25:20:45として混合し、非水溶媒を得た。上記式(1-2-2)で表されるホスファゼン(エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、PhoE)を、この非水溶媒に体積比率で10体積%(非水溶媒全体の体積を100としたときのホスファゼンの体積をいう。以下同じ。)混合した。ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.0mol/dm3の濃度でさらに混合した。ジフルオロリン酸リチウム(LiDFP)を0.5質量%の含有量(非水電解質全体の質量を100としたときの質量当たりの含有量をいう。以下同じ。)で混合し、さらに、ビニレンカーボネート(VC)を2.0質量%の含有量で混合することにより非水電解質を調製した。
【0100】
(非水電解質蓄電素子の作製)
次に、ポリエチレン製多孔質樹脂フィルムからなる基材層及び上記基材層上に形成された耐熱層からなるセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層し、電極体を作製した。上記電極体をアルミニウム製の角形電槽缶(ケース)に収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。上記ケース内部に上記非水電解質を注液した後、封口することで得られた未充放電非水電解質蓄電素子を後述する初回充放電を行うことにより、実施例1の非水電解質蓄電素子を得た。
【0101】
(初回充放電)
上記未充放電非水電解質蓄電素子の初回充放電の条件は以下の通りであった。25℃で4.10Vまで充電電流0.1Cで定電流充電したのちに、4.10Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。充電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で2.75Vまで放電電流0.2Cで定電流放電した。
【0102】
[比較例1]
LiDFPを混合せずに非水電解質を調整した以外は、実施例1と同様にして比較例1の非水電解質蓄電素子を得た。
【0103】
[参考例1]
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で25:20:55として混合して非水溶媒を作製した。この非水溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.0mol/dm3の濃度で混合した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を2.0質量%の含有量で混合することにより非水電解質を調製した。非水電解質の調整以外は、実施例1と同様にして参考例1の非水電解質蓄電素子を得た。
【0104】
(初期放電容量確認試験)
実施例1、比較例1及び参考例1の各非水電解質蓄電素子について、以下の条件にて初期放電容量確認試験を行った。25℃で4.10Vまで充電電流0.1Cで定電流充電したのちに、4.10Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。充電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で2.75Vまで放電電流0.2Cで定電流放電した。このときの放電容量を「初期放電容量」とした。
【0105】
(充放電サイクル試験)
各非水電解質蓄電素子を45℃の恒温槽内に5時間保管した後、4.10Vまで充電電流1.0Cで定電流充電したのちに、4.10Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電時間合計が5時間となるまでとした。その後、2.75Vまで1.0Cで定電流放電した。すべてのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分間の休止時間を設定した。これら充電及び放電の工程を1サイクルとして、このサイクルを700回繰り返した。充電、放電及び休止ともに45℃の恒温槽内で行った。
【0106】
(容量保持率)
上述した充放電サイクル試験後、各非水電解質蓄電素子について初期放電容量確認試験と同様の条件で充放電を行い、放電容量確認試験を行った。この試験で得られた放電容量を「充放電サイクル後放電容量」とした。「初期放電容量」に対する「充放電サイクル後放電容量」の割合を百分率で表した値を「充放電サイクル後容量保持率」とした。実施例1、比較例1及び参考例1の各非水電解質蓄電素子における「充放電サイクル後放電容量」及び「充放電サイクル後容量保持率」の値を表1に示す。
【0107】
(ICP分析)
上述した充放電サイクル試験後の各非水電解質蓄電素子を解体して取り出した負極について、負極活物質層を採取し、酸により溶解させた後にその溶液をイオン交換水で適当な濃度に希釈した。この希釈溶液の高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP分析)を行うことにより、充放電サイクル後の負極活物質層におけるマンガン元素(Mn)、ニッケル元素(Ni)、コバルト元素(Co)、銅元素(Cu)、リチウム元素(Li)の含有量を求めた。これらの結果を表1に示す。なお、各元素の含有量は負極活物質層全体の質量を100としたときの質量当たりに含まれる各元素の含有量(質量%)をいう。
【0108】
【0109】
ホスファゼンを含有する非水電解質を備える比較例1の非水電解質蓄電素子は、ホスファゼンを含有しない参考例1の非水電解質蓄電素子と比べて充放電サイクル後の容量保持率が低下していた。また、比較例1の非水電解質蓄電素子では充放電サイクル後の負極活物質層のマンガン元素等の遷移金属元素の含有量が増大していた。これは、ホスファゼンを含有する非水電解質を備えることにより、充放電サイクルに伴う正極活物質からのマンガン元素等の遷移金属元素の溶出量が増大し、溶出した遷移金属元素の一部が負極活物質層に析出したものと考えられる。すなわち、正極活物質からの遷移金属元素の溶出により容量保持率が低下したものと推測される。一方、フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうち少なくとも1種のアルカリ金属塩としてLiDFPをさらに含有する非水電解質を備える実施例1の非水電解質蓄電素子は、負極活物質層のマンガン元素等の遷移金属元素の含有量がホスファゼンを含有しない参考例1と同程度であった。また、実施例1の非水電解質蓄電素子は、充放電サイクル後の放電容量及び容量保持率が参考例1と同程度であった。すなわち、実施例1の非水電解質蓄電素子は、ホスファゼンを含有していても、充放電サイクルに伴う正極活物質からの遷移金属元素の溶出及び容量保持率の低下を抑制できることが確認された。
【0110】
[試験例2]
LiFePO4(LFP)を正極活物質として含有する正極を備える既存の非水電解質蓄電素子を用いて、非水電解質のホスファゼン含有の有無による充放電サイクルに伴う正極活物質からの遷移金属元素の溶出に係る影響を検討した。ホスファゼンを含有しない非水電解質を備える非水電解質蓄電素子を電池A、ホスファゼンを含有する非水電解質を備える非水電解質蓄電素子を電池Bとした。
【0111】
(充放電サイクル試験)
電池A及び電池Bを45℃の恒温槽内に5時間保管した後、3.60Vまで充電電流1.0Cで定電流充電したのちに、3.60Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電時間合計が5時間となるまでとした。その後、2.00Vまで1.0Cで定電流放電した。すべてのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分間の休止時間を設定した。これら充電及び放電の工程を1サイクルとして、このサイクルを1000回繰り返した。充電、放電及び休止ともに45℃の恒温槽内で行った。
【0112】
(ICP分析)
上述した充放電サイクル試験後の電池A及び電池Bを解体して取り出した負極について、負極活物質層を採取し、酸により溶解させた後にその溶液をイオン交換水で適当な濃度に希釈した。この希釈溶液についてICP分析を行うことにより、充放電サイクル後の電池A及び電池Bの負極活物質層における鉄(Fe)元素の含有量を求めた。
【0113】
電池Aの充放電サイクル後の負極合剤層における鉄元素の含有量は0.004質量%であり、電池Bの充放電サイクル後の負極合剤層における鉄元素の含有量は0.042質量%であった。この結果から非水電解質がホスファゼンを含有することにより充放電サイクルに伴う正極活物質からの鉄元素の溶出が増大する傾向が確認された。
【0114】
[試験例3]
下記の手順により、非水電解質蓄電素子を作製し、正極活物質と非水電解液の添加剤及びホスファゼン含有の有無との組み合わせによる容量保持率低下に対する抑制効果を検討した。
【0115】
[実施例2、比較例2、参考例2]
LiFePO4(LFP)を正極活物質として含有する正極を作製した。この正極活物質と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤としてのアセチレンブラックとを含有し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを調製した。正極活物質、バインダ及び導電剤の混合比は、質量比で94:3:3(固形分換算)とした。上記正極合剤ペーストを正極基材である厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗工し、乾燥し、プレスして、正極活物質層を形成することにより正極を得た。この正極を用いた以外は実施例1と同様の工程により得られた未充放電非水電解質蓄電素子を後述する初回充放電を行うことにより、実施例2の非水電解質蓄電素子を得た。また、比較例1と同様の非水電解質を用いた以外は、実施例2と同様の工程により、比較例2の非水電解質蓄電素子を得た。さらに、参考例1と同様の非水電解質を用いた以外は、実施例2と同様の工程により、参考例2の非水電解質蓄電素子を得た。実施例2、比較例2及び参考例2の上記未充放電非水電解質蓄電素子の初回充放電の条件は以下の通りとした。25℃で3.60Vまで充電電流0.1Cで定電流充電したのちに、3.60Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。充電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で2.00Vまで放電電流0.2Cで定電流放電した。
【0116】
[実施例3、比較例3、参考例3]
LiMn2O4(LMO)とLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NCM)とを正極活物質として含有する正極を作製した。LMOとNCMとを質量比で7:3として混合した正極活物質と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤としてのアセチレンブラックとを含有し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを調製した。混合した正極活物質、バインダ及び導電剤の混合比は、質量比で94:3:3(固形分換算)とした。上記正極合剤ペーストを正極基材である厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗工し、乾燥し、プレスして、正極活物質層を形成することにより正極を得た。この正極を用いた以外は実施例1と同様の工程により、実施例3の非水電解質蓄電素子を得た。また、比較例1と同様の非水電解質を用いた以外は、実施例3と同様の工程により、比較例3の非水電解質蓄電素子を得た。さらに、参考例1と同様の非水電解質を用いた以外は、実施例3と同様の工程により、参考例3の非水電解質蓄電素子を得た。
【0117】
[実施例4]
LiDFPに替えて、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート(LiFOP)を0.5質量%の含有量で混合することにより非水電解質を調整した以外は、実施例3と同様の工程により、実施例4の非水電解質蓄電素子を得た。
【0118】
[実施例5]
LiDFPに替えて、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)を0.5質量%の含有量で混合することにより非水電解質を調整した以外は、実施例3と同様の工程により実施例5の非水電解質蓄電素子を得た。
【0119】
[比較例4、比較例5及び参考例4]
LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NCM)を正極活物質として含有する正極を作製した。この正極活物質と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤としてのアセチレンブラックとを含有し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを調製した。正極活物質、バインダ及び導電剤の混合比は、質量比で94:3:3(固形分換算)とした。上記正極合剤ペーストを正極基材である厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗工し、乾燥し、プレスして、正極活物質層を形成することにより正極を得た。この正極を用いた以外は実施例1と同様の工程により、比較例4の非水電解質蓄電素子を得た。また、比較例1と同様の非水電解質を用いた以外は、比較例4と同様の工程により、比較例5の非水電解質蓄電素子を得た。さらに、参考例1と同様の非水電解質を用いた以外は、比較例4と同様の工程により、参考例4の非水電解質蓄電素子を得た。
【0120】
(評価)
実施例3から実施例5、比較例3から比較例5、参考例3から参考例4の各非水電解質蓄電素子について、試験例1と同様の条件にて初期放電容量確認試験を行った。次に、実施例3から実施例5、比較例3から比較例5、参考例3から参考例4の非水電解質蓄電素子について、試験例1の充放電サイクル試験と同様の条件で、充放電サイクルを150回繰り返した。また、実施例2、比較例2及び参考例2の各非水電解質蓄電素子については、以下の条件にて初期放電容量確認試験を行った。25℃で3.60Vまで充電電流0.1Cで定電流充電したのちに、3.60Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。充電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で2.00Vまで放電電流0.2Cで定電流放電した。このときの放電容量を「初期放電容量」とした。次に、以下の条件にて充放電サイクル試験を行った。60℃の恒温槽内に5時間保管した後、3.60Vまで充電電流1.0Cで定電流充電したのちに、3.60Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電時間合計が5時間となるまでとした。その後、2.00Vまで1.0Cで定電流放電した。すべてのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分間の休止時間を設定した。これら充電及び放電の工程を1サイクルとして、このサイクルを150回繰り返した。充電、放電及び休止ともに60℃の恒温槽内で行った。
【0121】
充放電サイクル試験後、実施例2から実施例5、比較例2から比較例5、参考例2から参考例4の非水電解質蓄電素子について初期放電容量確認試験と同様の条件で放電容量確認試験を行い、試験例1と同様にして「充放電サイクル後放電容量」及び「充放電サイクル後容量保持率」を求めた。その結果を表2、表3及び表4に示す。
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
表2及び表3に示されるように非水電解質がホスファゼンを含有し、フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩を含有しない非水電解質蓄電素子は、非水電解質がホスファゼンを含有しない場合と比較して、充放電サイクル後の容量保持率が低下した。一方、正極活物質が遷移金属元素としてマンガン元素及び鉄元素のうち少なくとも1種の元素を含み、遷移金属元素の総量に対するマンガン元素の量と鉄元素の量との合計量がモル比率で0.5以上1.0以下である場合、非水電解質がホスファゼンを含有していても、フルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩をさらに含有することで、当該非水電解質蓄電素子は、非水電解質がホスファゼンを含有しない非水電解質蓄電素子と同程度の容量保持率を得ることができた。すなわち、当該非水電解質蓄電素子は、ホスファゼンを含有していても、充放電サイクルに伴う容量保持率の低下を抑制できることが確認された。
【0126】
一方、表4に示されるように正極活物質における遷移金属元素の総量に対するマンガン元素の量と鉄元素の量との合計量がモル比率で0.5未満である場合、非水電解質がフルオロリン酸塩及びオキサラト錯塩のうちの少なくとも1種のアルカリ金属塩を含有していても、ホスファゼンの含有による充放電サイクル後の容量保持率の低下を抑制できなかった。
【0127】
以上のように、当該非水電解質蓄電素子は、非水電解質がホスファゼンを含有していても、非水電解質蓄電素子の充放電サイクルに伴う正極活物質からの遷移金属元素の溶出及び容量保持率の低下を抑制できることが示された。
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質二次電池をはじめとした非水電解質蓄電素子として好適に用いられる。