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特開2023-88939熱中症を予見するための又は眠気を検出するための自律神経活動状態の表示システム、自律神経活動監視システム、乗り物、情報処理装置、記憶媒体、プログラム、及び眠気を検出する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088939
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】熱中症を予見するための又は眠気を検出するための自律神経活動状態の表示システム、自律神経活動監視システム、乗り物、情報処理装置、記憶媒体、プログラム、及び眠気を検出する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/352 20210101AFI20230620BHJP
   A61B 5/256 20210101ALI20230620BHJP
   A61B 5/347 20210101ALI20230620BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20230620BHJP
   B60W 50/12 20120101ALI20230620BHJP
【FI】
A61B5/352 100
A61B5/256 210
A61B5/347
A61B5/16 130
B60W50/12
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039593
(22)【出願日】2023-03-14
(62)【分割の表示】P 2022570723の分割
【原出願日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2021111939
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022039751
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 郷司
(72)【発明者】
【氏名】小松 陽子
(57)【要約】
【課題】自律神経の失調状態を把握し易い表示システムを提供する。
【解決手段】熱中症を予見するための自律神経活動状態の表示システムであって、被験者の拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを定積分してLFおよびHFを算出し、更にLF/HFを算出し、第1の軸に前記HFを取り、前記第1の軸と交差する第2の軸に前記LF/HFを取ったグラフを作成するグラフ作成部を有することを特徴とする自律神経活動状態の表示システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱中症を予見するための自律神経活動状態の表示システムであって、被験者の拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを定積分してLFおよびHFを算出し、更にLF/HFを算出し、第1の軸に前記HFを取り、前記第1の軸と交差する第2の軸に前記LF/HFを取ったグラフを作成するグラフ作成部を有することを特徴とする自律神経活動状態の表示システム。
【請求項2】
眠気を検出するための自律神経活動状態の表示システムであって、被験者の拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを定積分してLFおよびHFを算出し、更にLF/HFを算出し、第1の軸に前記HFを取り、前記第1の軸と交差する第2の軸に前記LF/HFを取ったグラフを作成するグラフ作成部を有することを特徴とする自律神経活動状態の表示システム。
【請求項3】
前記第1の軸は前記HFの対数である請求項1または2に記載の表示システム。
【請求項4】
前記グラフ作成部は、
第1測定期間中に測定した前記被験者の拍動間隔に基づいて算出した前記HFの対数と前記LF/HFとを前記グラフにプロットし、
プロットされた各点から最小二乗法により回帰直線を算出し、
前記各点と前記回帰直線との前記HFの対数の差異に係るばらつきを表す統計量を求め、
前記回帰直線と前記ばらつきを表す統計量から信頼区間を算出する請求項3に記載の表示システム。
【請求項5】
前記ばらつきを表す統計量は、標準偏差σである請求項4に記載の表示システム。
【請求項6】
前記信頼区間は、第1の直線と第2の直線の間の区間であり、
前記第1の直線は、前記回帰直線に前記標準偏差σの3倍の値である3σを加えた直線であり、
前記第2の直線は、前記回帰直線から前記標準偏差σの3倍の値である3σを減じた直線である請求項5に記載の表示システム。
【請求項7】
前記第1測定期間後の第2測定期間中に測定した前記被験者の拍動間隔に基づいて前記グラフ作成部が算出した前記HFの対数と前記LF/HFのプロットが、前記信頼区間の範囲外となったことを検知し、それを記録しおよび/または外部に通知する判別部を有する請求項4に記載の表示システム。
【請求項8】
前記拍動間隔は、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRRIである請求項1または2に記載の表示システム。
【請求項9】
更に、生体情報取得部材を備え、前記生体情報取得部材は、衣服型の生体情報測定装置に設けられた複数の生体情報取得用電極である請求項1または2に記載の表示システム。
【請求項10】
請求項1または2に記載の表示システムを含み、被験者の自律神経活動をモニターし、自律神経活動が正常な状態から逸脱した場合に警告を発することを特徴とする自律神経活動監視システム。
【請求項11】
前記被験者が乗り物の運転者であり、請求項10に記載の自律神経活動監視システムから、前記被験者の自律神経活動が正常な状態から逸脱したことの検知に係る通知信号を受信し、当該通知信号に応じて、前記被験者が運転する前記乗り物を、通常運転モードから、自動運転モード、運転アシストモード、遠隔から操縦されるモードから選択されるいずれかのモードに切り替える機能を有することを特徴とする乗り物。
【請求項12】
前記被験者が乗り物の運転者であり、請求項10に記載の自律神経活動監視システムから、前記被験者の自律神経活動が正常な状態から逸脱したことの検知に係る通知信号を受信し、当該通知信号に応じて、前記被験者が運転する前記乗り物を、運転アシストモードから、自動運転モードまたは遠隔から操縦されるモードに切り替える機能を有することを特徴とする乗り物。
【請求項13】
熱中症を予見するための情報処理装置であって、
生体情報取得部材から被験者の拍動を示す第1データを取得する取得部と、
前記第1データから、周波数スペクトル変換を介してパワースペクトルを算出し、前記パワースペクトルに基づいてLFおよびHFを算出し、前記算出されたLFおよびHFに基づいて、HFとLF/HFとの関係を示す第2データを生成する演算部と、
前記第2データに係る情報を表示器に出力する出力部と
を備える情報処理装置。
【請求項14】
眠気を検出するための情報処理装置であって、
生体情報取得部材から被験者の拍動を示す第1データを取得する取得部と、
前記第1データから、周波数スペクトル変換を介してパワースペクトルを算出し、前記パワースペクトルに基づいてLFおよびHFを算出し、前記算出されたLFおよびHFに基づいて、HFとLF/HFとの関係を示す第2データを生成する演算部と、
前記第2データに係る情報を表示器に出力する出力部と
を備える情報処理装置。
【請求項15】
請求項13または14に記載の情報処理装置が備える各部の処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶する、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【請求項16】
請求項13または14に記載の情報処理装置が備える各部の処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項17】
眠気を検出する方法であって、被験者の拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを定積分してLFおよびHFを算出し、更にLF/HFを算出し、第1の軸に前記HFを取り、前記第1の軸と交差する第2の軸に前記LF/HFを取ったグラフを作成するステップを有することを特徴とする眠気を検出する方法。
【請求項18】
前記第1の軸は前記HFの対数である請求項17に記載の眠気を検出する方法。
【請求項19】
前記グラフを作成するステップにおいて、
第1測定期間中に測定した前記被験者の拍動間隔に基づいて算出した前記HFの対数と前記LF/HFとを前記グラフにプロットし、
プロットされた各点から最小二乗法により回帰直線を算出し、
前記各点と前記回帰直線との前記HFの対数の差異に係るばらつきを表す統計量を求め、
前記回帰直線と前記ばらつきを表す統計量から信頼区間を算出する請求項18に記載の眠気を検出する方法。
【請求項20】
前記ばらつきを表す統計量は、標準偏差σである請求項19に記載の眠気を検出する方法。
【請求項21】
前記信頼区間は、第1の直線と第2の直線の間の区間であり、
前記第1の直線は、前記回帰直線に前記標準偏差σの3倍の値である3σを加えた直線であり、
前記第2の直線は、前記回帰直線から前記標準偏差σの3倍の値である3σを減じた直線である請求項20に記載の眠気を検出する方法。
【請求項22】
前記第1測定期間後の第2測定期間中に測定した前記被験者の拍動間隔に基づいて前記グラフを作成するステップにおいて算出した前記HFの対数と前記LF/HFのプロットが、前記信頼区間の範囲外となったことを検知し、それを記録しおよび/または外部に通知する判別ステップを有する請求項19に記載の眠気を検出する方法。
【請求項23】
前記拍動間隔は、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRRIである請求項17に記載の眠気を検出する方法。
【請求項24】
眠気を検出する方法であって、
生体情報取得部材から被験者の拍動を示す第1データを取得する取得ステップと、
前記第1データから、周波数スペクトル変換を介してパワースペクトルを算出し、前記パワースペクトルに基づいてLFおよびHFを算出し、前記算出されたLFおよびHFに基づいて、HFとLF/HFとの関係を示す第2データを生成する演算ステップと、
前記第2データに係る情報を表示器に出力する出力ステップと
を有する眠気を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律神経活動状態の表示システム、自律神経活動表示マップ、自律神経活動監視システム、乗り物、情報処理装置、記憶媒体、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ選手、アスリート、武道家等の訓練、各種作業訓練、自己啓発等において、メンタル状態を把握して訓練に活かす試みがなされている。例えば、特許文献1には、被験者の拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを定積分してLFおよびHFを算出し、前記拍動間隔と、副交感神経系活動の指標であるLFとHFの少なくともいずれか一方とを、直交座標系の各々の座標軸に取り、生体情報を二次元的に図示することにより被験者の心理・生理学状態を表示する生体情報提示システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6825716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の生体情報表示システムによれば、自律神経系の活動の変化をある程度、把握することができるが、近年では特に自律神経の失調状態を把握し易いシステムが求められている。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、自律神経の失調状態を把握し易い表示システムを提供することにある。また、他の目的は、自律神経の失調状態を把握し易い自律神経活動表示マップを提供することにある。また、更に他の目的は、自律神経の失調状態を把握し易い自律神経活動監視システムを提供することにある。また、更に他の目的は、運転中の安全性に優れた乗り物を提供することにある。更に他の目的は、自律神経の失調状態を把握し易い情報処理装置を提供することにある。更に他の目的は、上記情報処理装置が備える各部の処理を実行させることが可能なプログラムを提供することにある。更に他の目的は、上記情報処理装置が備える各部の処理を実行させることが可能なプログラムを記憶する記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施の形態に係る自律神経活動状態の表示システムは下記[1]の通りである。
[1]被験者の拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを定積分してLFおよびHFを算出し、更にLF/HFを算出し、第1の軸に前記HFを取り、前記第1の軸と交差する第2の軸に前記LF/HFを取ったグラフを作成するグラフ作成部を有することを特徴とする自律神経活動状態の表示システム。
【0006】
上記の通り、第1の軸にHFを取り、第2の軸にLF/HFを取ったグラフを作成することにより、被験者の自律神経の失調状態におけるプロットを把握し易くなる。実施の形態に係る自律神経活動状態の表示システム、自律神経活動表示マップ、自律神経活動監視システム、乗り物、情報処理装置、記憶媒体、及びプログラムは、以下[2]~[15]のいずれかであることが好ましい。
【0007】
[2]前記第1の軸は前記HFの対数である[1]に記載の表示システム。
[3]前記グラフ作成部は、
第1測定期間中に測定した前記被験者の拍動間隔に基づいて算出した前記HFの対数と前記LF/HFとを前記グラフにプロットし、
プロットされた各点から最小二乗法により回帰直線を算出し、
前記各点と前記回帰直線との前記HFの対数の差異に係るばらつきを表す統計量を求め、
前記回帰直線と前記ばらつきを表す統計量から信頼区間を算出する[2]に記載の表示システム。
[4]前記ばらつきを表す統計量は、標準偏差σである[3]に記載の表示システム。
[5]前記信頼区間は、第1の直線と第2の直線の間の区間であり、
前記第1の直線は、前記回帰直線に前記標準偏差σの3倍の値である3σを加えた直線であり、
前記第2の直線は、前記回帰直線から前記標準偏差σの3倍の値である3σを減じた直線である[4]に記載の表示システム。
[6]前記第1測定期間後の第2測定期間中に測定した前記被験者の拍動間隔に基づいて前記グラフ作成部が算出した前記HFの対数とLF/HFのプロットが、前記信頼区間の範囲外となったことを検知し、それを記録しおよび/または外部に通知する判別部を有する[3]~[5]のいずれかに記載の表示システム。
[7]前記拍動間隔は、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRRIである[1]~[6]のいずれかに記載の表示システム。
[8]更に、生体情報取得部材を備え、前記生体情報取得部材は、衣服型の生体情報測定装置に設けられた複数の生体情報取得用電極である[1]~[7]のいずれかに記載の表示システム。
[9][1]~[8]のいずれかに記載のグラフを表示する自律神経活動表示マップ。
[10][1]~[8]のいずれかに記載の表示システム、または[9]に記載の自律神経活動表示マップを含み、被験者の自律神経活動をモニターし、自律神経活動が正常な状態から逸脱した場合に警告を発することを特徴とする自律神経活動監視システム。
[11]前記被験者が乗り物の運転者であり、前記[10]に記載の自律神経活動監視システムから、前記被験者の自律神経活動が正常な状態から逸脱したことの検知に係る通知信号を受信し、当該通知信号に応じて、前記被験者が運転する前記乗り物を、通常運転モードから、自動運転モード、運転アシストモード、遠隔から操縦されるモードから選択されるいずれかのモードに切り替える機能を有することを特徴とする乗り物。
[12]前記被験者が乗り物の運転者であり、[10]に記載の自律神経活動監視システムから、被験者の自律神経活動が正常な状態から逸脱したことの検知に係る通知信号を受信し、当該通知信号に応じて、前記被験者が運転する前記乗り物を、運転アシストモードから、自動運転モードまたは遠隔から操縦されるモードに切り替える機能を有することを特徴とする乗り物。
[13]生体情報取得部材から被験者の拍動を示す第1データを取得する取得部と、
前記第1データから、周波数スペクトル変換を介してパワースペクトルを算出し、前記パワースペクトルに基づいてLFおよびHFを算出し、前記算出されたLFおよびHFに基づいて、HFとLF/HFとの関係を示す第2データを生成する演算部と、
前記第2データに係る情報を表示器に出力する出力部と
を備える情報処理装置。
[14][13]に記載の情報処理装置が備える各部の処理をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶する、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
[15][13]に記載の情報処理装置が備える各部の処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上記構成により、自律神経の失調状態を把握し易い表示システムを得ることができる。また上記構成により、自律神経の失調状態を把握し易い自律神経活動表示マップを得ることができる。また上記構成により、自律神経活動監視システムを得ることができる。また上記構成により、運転中の安全性に優れた乗り物を得ることができる。また上記構成により、自律神経の失調状態を把握し易い情報処理装置を得ることができる。また上記構成により、上記情報処理装置が備える各部の処理を実行させることが可能なプログラムを得ることができる。また上記構成により、上記情報処理装置が備える各部の処理を実行させることが可能なプログラムを記憶する記憶媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係る自律神経活動状態の表示システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、典型的な心電波形の一例である。
図3図3は、心電波形の周波数分析からLF、HFを求める概念の説明図である。
図4図4は、実施の形態に係る自律神経活動状態の表示システムにより作成されたグラフである。
図5図5は、実施の形態に係る自律神経活動状態の表示システムにより作成された他のグラフである。
図6図6は、特許文献1に記載の方法でプロットして作成したグラフである。
図7図7は、特許文献1に記載の方法でプロットして作成した他のグラフである。
図8図8は、実施の形態に係る自律神経活動状態の表示システムにより作成された更に他のグラフである。
図9図9は、特許文献1に記載の方法でプロットして作成した更に他のグラフである。
図10図10は、特許文献1に記載の方法でプロットして作成した更に他のグラフである。
図11図11は、実施の形態に係る自律神経活動状態の表示システムが行う処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0011】
本発明の実施の形態に係る自律神経活動状態の表示システムは、被験者の拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを定積分してLFおよびHFを算出し、更にLF/HFを算出し、第1の軸にHFを取り、第1の軸と交差する第2の軸にLF/HFを取ったグラフを作成するグラフ作成部を有する。
【0012】
上記の通り、第1の軸にHFを取り、第2の軸にLF/HFを取ったグラフを作成することにより、被験者の自律神経の失調状態におけるプロットを把握し易くなる。以下では、自律神経活動状態の表示システムの各構成について具体的に説明する。
【0013】
図1に示す通り、自律神経活動状態の表示システム1は、グラフ作成部12を備える。グラフ作成部12のような各種機能部は、図1に示されるように区別されている必要はない。単一のブロックとして示されている或る機能部が複数の単位に分割されて実現されていてもよいし、異なる複数のブロックとして示されている機能部が或るまとまった単位で実現されてもよい。自律神経活動状態の表示システム1は、更に被験者の拍動間隔を取得する生体情報取得部材2を備えていてもよい。図1では、一例として、生体情報取得部材2が表示システム1とは別個に設けられている場合の例が示されている。生体情報取得部材2は、生体情報取得部11により、被験者の拍動間隔を取得することができるものである。生体情報取得部材2としては、生体情報取得用電極が好ましく、生体接触型電極がより好ましい。生体情報取得部材2は、電子ユニットと直接、または配線を介して接続されていることが好ましい。電子ユニットは、得られた心電情報を例えば携帯端末に送信することが可能なものであってもよく、温度計、GPSによる位置情報、XYZ各軸への加速度センサ等が搭載されているものであってもよい。また、電子ユニットにおいて心電情報を後記するRRI等の拍動間隔の情報に変換してもよいし、グラフ作成部12において、心電情報をRRI等の拍動間隔の情報に変換してもよい。
【0014】
生体情報取得部材2は、衣服型の生体情報測定装置に設けられた複数の生体情報取得用電極であることが好ましい。心電情報は、例えば衣服型の生体情報測定装置を被験者に装着させて、衣服型の生体情報測定装置に設けられた複数の生体接触型電極を介して経時的に電圧測定を行うことにより取得することができる。なお電圧測定部における入力インピーダンスは好ましくは100kΩ以上、より好ましくは300kΩ以上、更に好ましくは1MΩ以上である。上限は特に規定されない。
【0015】
グラフ作成部12は、拍動間隔を周波数スペクトル変換して得たパワースペクトルを定積分してLFおよびHFを算出し、更にLF/HFを算出する。次いで、グラフ作成部12は、第1の軸にHFを取り、第1の軸と交差する第2の軸にLF/HFを取ったグラフを作成する。
【0016】
拍動間隔として、心拍、脈拍の間隔が挙げられる。当該間隔の単位はmsであることが好ましい。心拍間隔は、心電図からR波とR波の間隔を読み取ること、あるいは隣り合う心拍同士の間隔を計測することにより取得することができる。脈拍間隔は、隣り合う脈拍同士の間隔を計測することにより取得することができる。拍動間隔またはその揺動は、精神神経の状態が反映されると言われている。
【0017】
拍動間隔は、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRR間隔(以下、「RRI」と記載する場合がある)であることが好ましい。RRIは信号のピークがはっきり出ることによりピーク位置の誤認識が起こりにくいため、拍動間隔の測定精度を高めることができる。また、周波数スペクトル変換にはある一定期間の波数が必要であるが、拍動間隔の測定精度が高ければ短い時間、少ない波数でスペクトル変換が可能となり、リアルタイムに近い迅速な検出が可能となる。なお図2は、典型的な心電波形の一例である。図2中の規則的に表れる高い急峻なピークがR波であり、R波と次のR波との間隔がRRI(拍動間隔)である。なお拍動間隔として、心電情報の代わりに、血流量の変化に係る脈波情報を用いてもよい。脈波は手首、手指等で取得することができる。また心電情報と、心臓から離れた位置における脈波情報との差分から血圧に関連するパラメータを算出してもよい。
【0018】
LFは、例えば拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分することにより算出することができる。HFは、当該パワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分することにより算出することができる。更にこれらLF、HFに基づいて、LF/HFを算出することができる。本発明者らの検討により、第1の軸にHFを取り、第1の軸と交差する第2の軸にLF/HFを取ったグラフを作成することによって、自律神経の失調状態のプロットを判別し易くできることを見出した。なお、Lf1、Lf2、Hf1、Hf2は、Hf1>Lf1、Hf2>Lf2の関係を満たすものである。
【0019】
より詳細には、LFは、時間信号fである拍動間隔を周波数スペクトル変換したもの(周波数スペクトルF)を二乗することにより得られるパワースペクトルF2(第1のパワースペクトル)を周波数Lf1からLf2まで定積分することにより求めてもよい。HFは、上記パワースペクトルF2(第1のパワースペクトル)を周波数Hf1(>Lf1)からHf2(>Lf2)まで定積分することにより求めてもよい。
【0020】
第1のパワースペクトルF2を用いて計算されるLF、HFの単位としては、ms2が挙げられる。周波数スペクトル変換の方法としては、例えば高速フーリエ変換(FFT)、ウェーブレット解析、最大エントロピー法等を用いることができる。なお、本明細書においては、FFTを用いた場合を例として説明するが、他の方法を用いることも可能である。
【0021】
例えば、拍動間隔をスプライン補間しサンプリング間隔Δtで再サンプリングした拍動間隔RRIkの離散フーリエ変換Gkは、以下の式(I)で表され、パワースペクトルF2(第1のパワースペクトル)(単位:ms2/Hz)は、以下の式(II)で表される。ここで、kは時系列、Nはデータ数を表し、Sは任意のスケールであり、一般にパワースペクトラムではS=1である。
【0022】
【数1】
【0023】
【数2】
【0024】
他方、LFおよびHFの値として、拍動間隔を周波数スペクトル変換した値から得たパワースペクトルF(第2のパワースペクトル)(単位:ms)を所定の区間で定積分したものを用いてもよい。このように、パワースペクトルとして拍動間隔を周波数スペクトル変換した値を用いれば、より簡便にLFおよびHFの値を算出することができる。第2のパワースペクトルFを用いて計算されるLF、HFの単位は無次元量であることが好ましい。パワースペクトルF(第2のパワースペクトル)は、以下の式(III)で表される。
【0025】
【数3】
【0026】
LF、HFの算出方法について、パワースペクトル積分の説明図である図3を参照しながら説明する。図3の縦軸はパワースペクトル密度(単位:ms2/Hz)であり、横軸は周波数(単位:Hz)である。LFは、パワースペクトル(例えば第1のパワースペクトルF2)を例えば0.01Hz(Lf1)から0.15Hz(Lf2)まで定積分した値であり、図3において斜線によりハッチングがされている部分の面積である。ここで、Lf1<Lf2である。一方、HFは、パワースペクトル(例えば第1のパワースペクトルF2)を例えば0.15Hz(Hf1)から0.4Hz(Hf2)まで定積分した値であり、図3において縦線によりハッチングがされている部分の面積である。ここで、Hf1<Hf2である。図3では、Lf2とHf1がいずれも0.15Hzと等しくなるように積分範囲を設定したが、Lf1<Hf1およびLf2<Hf2の関係を満たしていれば、Lf2とHf1は同一の値であっても異なる値でもよい。ここでは、パワースペクトル積分の方法を、第1のパワースペクトルF2を用いて説明したが、第2のパワースペクトルFによる定積分も同様に行うことができる。
【0027】
LFの積分範囲は、少なくとも0.1Hzを含み、Lf1<0.1<Lf2であることが好ましい。また、Lf1は0.01Hz以上であることが好ましく、0.04Hz以上であることがより好ましい。Lf2は0.13Hz以上であることがより好ましく、0.14Hz以上であることが更に好ましく、また、0.16Hz以下であることが好ましく、0.15Hz以下であることがより好ましい。
【0028】
HFの積分範囲は、少なくとも0.3Hzを含み、Hf1<0.3<Hf2であることが好ましい。Hf1は0.14Hz以上であることが好ましく、0.15Hz以上であることがより好ましく、また、0.17Hz以下であってもよく、0.16Hz以下であってもよい。Hf2は0.38Hz以上であることがより好ましく、0.39Hz以上であることが更に好ましく、また、0.41Hz以下であることが好ましく、0.4Hz以下であることがより好ましい。
【0029】
図1に示す通り、自律神経活動状態の表示システム1は、記憶部14を有することが好ましい。記憶部14は、記憶媒体として例えばHDD(Hard Disk Drive)またはSSD Solid State Drive)等の随時書き込みおよび読み出しが可能な不揮発メモリを使用したものであり、プログラム記憶領域とデータ記憶領域とを有していることが好ましい。以下の説明における記憶部14は、特に言及されない場合、データ記憶領域のことを指している。生体情報取得部材2で取得した心電情報は、記憶部14に保存されることが好ましい。詳細には、まずグラフ作成部12で、周波数スペクトル変換を行うためには、ある程度の時間が必要である。心拍は概ね1Hz前後の低周波信号であり、その拍動間隔の揺らぎとして仮に0.017Hzまでを扱う場合には1/0.017=約60秒間のデータが最低限必要となる。したがってリアルタイムで周波数スペクトル変換を行うことは原理的には困難である。一方、所定の時間間隔Aで過去に遡って、記憶部14に保存されたデータから任意の時間幅Bのデータを抽出して移動平均的に周波数スペクトル変換を行っていけば、疑似的なリアルタイムの周波数スペクトル変換が可能となる。所定の時間間隔Aは、好ましくは5秒以上、60秒以下、より好ましくは10秒以上、20秒以下である。上記任意の時間幅Bは、好ましくは1分間以上、10分間以下、より好ましくは1分間以上、5分間以下、更に好ましくは1分間以上、3分間以下である。これにより10秒程度~5分程度の遅れで疑似リアルタイム的に周波数スペクトル変換が可能となる。
【0030】
グラフ作成部12では、上述の通り、第1の軸にHFを取り、第1の軸と交差する第2の軸にLF/HFを取ったグラフを作成する。当該グラフは、例えば、XY二次元座標系において、X軸にLF/HFを取り、Y軸にHFを取ったグラフであることが好ましい。一方、X軸にHFを取り、Y軸にLF/HFを取ったグラフであってもよい。また、当該グラフにおいて、第1の軸と第2の軸は必ずしも直交している必要は無い。また、当該グラフは、HF、LF/HFの他に加速度、RRI等の第3成分の値をZ軸にとったXYZ三次元座標系であってもよい。また、これらHFの代わりにHFの対数(log(HF))を軸に取ることが好ましい。即ち、グラフ作成部12は、HFを算出し、更にそのHFの対数(log(HF))を算出して、HFの対数(log(HF))を軸に取ることが好ましい。
【0031】
例えば、X軸にLF/HFを取り、Y軸にHFを取ったグラフでは、被験者の自律神経が正常に働いている場合、左上領域がリラックス状態であり、右下領域が緊張状態やストレスを感じている状態であると解釈できる。一方、左下領域や右上領域は、自律神経が正常に働いていない状態、すなわち自律神経失調状態であると解釈できる。
【0032】
第1の軸は前記HFの対数であることが好ましい。第1の軸はHFの値を対数スケールで示すことが好ましい。即ち、グラフ作成部12は、HFを算出し、更にそのHFの対数(log(HF))を算出して、HFの対数(log(HF))を第1の軸に取ることが好ましい。健康な人の正常時であってもHFの値の変動は激しいため、第1の軸を対数とすることにより、グラフを確認し易くすることができる。また、統計処理もしやすくなる。なおここに対数の底は特に限定されず、自然対数でも10を底とする対数でも良い。便宜上、以下では10を底とする対数を用いて説明する。
【0033】
予め、普段の生活や慣れた作業、通常の仕事のルーチンをこなしている状態や休憩している状態の被験者の正常時の心電情報を取得して、取得した心電情報および/またはグラフ作成部12で加工した情報を記憶部14に保存しておくことが好ましい。当該情報を母集団として、新たに取得した心電情報に係るプロットが、母集団から有意に外れた領域に位置した場合に自律神経失調状態に至ったと判断することができる。なお、生体情報取得部材2に記憶部を設けて、そこに母集団の心電情報等を保存してもよい。
【0034】
グラフ作成部12は、グラフの作成において、第1測定期間中に測定した被験者の拍動間隔に基づいて算出したHFの対数とLF/HFとをグラフにプロットし、プロットされた各点から最小二乗法により回帰直線を算出し、各点と回帰直線とのHFの対数の差異に係るばらつきを表す統計量を求め、回帰直線とばらつきを表す統計量から信頼区間を算出することが好ましい。HFの対数とLF/HFとのグラフへのプロットとは、例えば、第1軸に前記HFの対数をとり前記第2軸に前記LF/HFをとるようにプロットすることを意味する。これにより、母集団の信頼区間を設定することができる。なお、第1の軸を対数とせずに、HFとLF/HFとをグラフにプロットして母集団の信頼区間を設定してもよい。
【0035】
ばらつきを表す統計量として、平均偏差、分散、標準偏差、変動係数、範囲(Xbar-R管理図における最大値と最小値の差)、四分位範囲、平均絶対偏差、離散エントロピーなどを例示することができる。ばらつきを表す統計量として、標準偏差σを用いることが好ましい。標準偏差σを用いることにより、信頼区間の信頼度が向上する。
【0036】
上記信頼区間は、第1の直線と第2の直線の間の区間であり、第1の直線は、回帰直線に標準偏差σの3倍の値である3σを加えた直線であり、第2の直線は、回帰直線から標準偏差σの3倍の値である3σを減じた直線であることが好ましい。換言すれば、上記信頼区間は、第1の直線と第2の直線の間の区間であり、第1の直線は、回帰直線を標準偏差σの3倍の値である3σだけ第1の軸の正の方向に平行移動させた直線であり、第2の直線は、回帰直線を標準偏差σの3倍の値である3σだけ第1の軸の負の方向に平行移動させた直線であることが好ましい。このように99.7%信頼区間とすることにより、母集団の信頼区間の信頼度が向上する。なお、第1の軸を対数とせずに、HFとLF/HFとをグラフにプロットして母集団の99.7%信頼区間を設定してもよい。また、同様に標準偏差σの2倍の値である2σ等を用いて、95.4%信頼区間等を設定してもよい。
【0037】
99.7%信頼区間は、(LF/HF)、log(HF)座標系において、下記式(1)、式(2)の直線の間の領域を求めることにより設定してもよい。
log(HF)=A×(LF/HF)+B+3×S ・・・(1)
log(HF)=A×(LF/HF)+B-3×S ・・・(2)
[式(1)、(2)中、Aは母集団の(LF/HF),log(HF)座標系における回帰直線の比例係数であり、Bは当該回帰直線の切片であり、Sは、母集団の個々の点と当該回帰直線とのlog(HF)軸上の距離の標準偏差である。]
【0038】
母集団(HF1,LF1),(HF2,LF2)・・・,(HFn,LFn)は、被験者の正常時に取得した心電情報から導かれた所定の時間幅のHFとLFの集合であることが好ましい。所定の時間幅は、好ましくは180秒以下、より好ましくは30秒以下、更に好ましくは10秒以下である。
【0039】
母集団の心電情報を取得した後に、自律神経活動をチェックするために新たに取得する心電情報に係るLF、HFの値は、それぞれ、所定の時間幅で得られた心拍変動RRIから移動平均的に算出された値であることが好ましい。所定の時間幅は、好ましくは300秒間以下、より好ましくは180秒以下、更に好ましくは60秒以下である。
【0040】
母集団のデータの後に、新たに取得するデータの集合を標本集団(hf1,lf1),(hf2,lf2)・・・・,(hfm,lfm)とすると、下記式(3)を満足する領域を自律神経活動が正常に活動しているとみなすことができる。
A×(lft/hft)+B-3×S≦log(hft)≦A×(lft/hft)+B+3×S ・・・(3)
【0041】
一方、被験者のlog(hf)と(lf/hf)が、下記式(4)または式(5)を満たした時点、または下記式(4)または式(5)を満たす状態に連続して所定時間以上留まった場合に自律神経活動が正常ではないと判断することができる。
A×(lft/hft)+B-3×S>log(hft) ・・・(4)
log(hft)>A×(lft/hft)+B+3×S ・・・(5)
【0042】
自律神経活動状態の表示システム1は、第1測定期間後の第2測定期間中に測定した被験者の拍動間隔に基づいてグラフ作成部が算出したHFの対数とLF/HFのプロットが、信頼区間の範囲外となったことを検知し、それを記録しおよび/または外部に通知する判別部15を有することが好ましい。換言すれば、グラフ作成部12が更に、グラフの作成において、第1測定期間後の第2測定期間中に測定された被験者の拍動間隔に基づいてHFの対数とLF/HFとを算出し、当該HFの対数と当該LF/HFをグラフにプロットし、表示システム1は、第2測定期間中に測定された被験者の拍動間隔に基づいて算出されたHFの対数とLF/HFとのグラフにおけるプロットが、信頼区間の範囲外であることを検知し、当該検知の結果を記録しおよび/または外部に通知する判別部15を有することが好ましい。第1測定期間は上述した母集団に係る心電情報を測定する期間であり、第2測定期間は、第1測定期間より後の期間であって、被験者が自律神経失調状態に至り易い作業や訓練等を行っている時の心電情報を測定する期間である。更に、自律神経活動状態の表示システム1は、表示器4を備えることが好ましい。例えば、判別部15から発せられた通知信号によって表示器4の表示部16が自律神経失調に至ったことを表示することにより、被験者が自律神経失調状態に至ったことを被験者、指導者、医師等が知ることができる。これにより、被験者が極度の自律神経失調状態に至ったことに気付かずに作業や訓練等を継続して悪化する危険を回避することができる。また、上記プロットが信頼区間の範囲外となったことを検知した際に、外部に通知することなく記録しておくだけでも構わない。すなわち、一旦判別部15に記録しておき、後からその記録を確認することもできる。なおHFの対数の代わりにHFを用いてもよい。
【0043】
信頼区間については、例えば予め被験者の正常時における第1測定期間の心電情報に基づいて、グラフ作成部12により、母集団の第1の直線と第2の直線の間の信頼区間を算出し、当該信頼区間に係る情報を記憶部14に保存しておけばよい。更に、その後の第2測定期間に取得した被験者の心電情報に基づいてグラフ作成部12の算出部13によりHFの対数と、LF/HFとを算出して、HFの対数が当該信頼区間の範囲外であるか否かを判別部15で判別して、判別部15が範囲外であると判断した後に通知信号を発生することが好ましい。当該通知信号は、例えば、判別部15により表示器4に送信される。更に、当該通知信号に基づいて、表示器4の表示部16に被験者等が知覚可能な表示を表示させることが好ましい。なお、In Situで心電測定を行う場合にはノイズが混入し易いため、ある一定時間の間連続して当該信頼区間から逸脱したときに判別部15が通知信号を発生するように構成されていることがより好ましい。具体的には、好ましくは1以上のプロット、より好ましくは2以上のプロット、更に好ましくは3以上のプロット、更により好ましくは4以上のプロットが信頼区間の範囲外であるときに判別部15が通知信号を発生するように構成されていてもよい。
【0044】
なお、HFまたはHFの対数を縦軸にとり、LF/HFを横軸にとって、且つ回帰直線からの差異を縦軸方向で計算した場合の信頼区間は、縦軸と横軸を入れ替えて算出した信頼区間と同様の範囲となる。
【0045】
表示部16は、視覚化してグラフを表示することが好ましい。また表示部16は、視覚化して自律神経失調状態である旨の警告に係る表示を行うことが好ましい。なお、自律神経活動状態の表示システム1において、グラフはコンピュータ等の機械装置内で数式的な仮想平面、仮想空間上で作成してもよく、必ずしも視覚化して表示する必要は無い。またグラフは人工知能(AI)等により作成されてもよい。また自律神経活動状態の表示システム1は、グラフを表示せずに上記警告に係る表示のみ行ってもよい。また警告に係る表示の形態は、視覚に限らず音声、振動、発熱等の人が知覚可能な形態で表示すればよい。さらに、後述するような、通知信号を用いて運転モードの切り替えを行うシステムの場合にも、表示部16におけるグラフの表示は必須ではない。
【0046】
自律神経活動状態の表示システム1としては、例えばスマートフォン、タブレット端末、スマートウォッチ、ヘッドマウントディスプレイ、計測機器等、コンピュータ等の電子機器等の解析機が挙げられる。自律神経活動状態の表示システム1は、グラフ作成部12の他に、算出部13、記憶部14、判別部15を含むことが好ましい。更に、自律神経活動状態の表示システム1は、生体情報取得部11、表示部16を含んでいてもよい。自律神経活動状態の表示システム1は、解析機の他に、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の補助記憶装置、CD-ROM、DVDディスク、USBメモリ等の可搬型の記録媒体を有していてもよい。
【0047】
表示器4としては、例えばスマートフォン、タブレット端末、スマートウォッチ、ヘッドマウントディスプレイ、スマートグラス、スマートコンタクトレンズ、計測機器等、コンピュータ等の電子機器等が挙げられる。
【0048】
上記では、自律神経活動状態の表示システム1が生体情報取得部材2と表示器4との各々を含み得ることを説明した。表示システム1が例えば生体情報取得部材2および表示器4の各々と物理的に別個である場合、表示システム1は、本明細書において単に情報処理装置とも称され得る。当該情報処理装置は、生体情報取得部材2から例えば入力インタフェースを介して被験者の拍動を示すデータを取得する処理を行う取得部を含んでもよい。当該情報処理装置は演算部を含む。当該演算部は、グラフ作成部12であってもよく、上記で説明したような、HFとLF/HFとの関係を示すデータを生成する処理を行う。このように各機能部により取得されるデータおよび生成されるデータは、当該各機能部による制御の下に記憶部14に記憶されてもよく、当該情報処理装置が備える他の機能部による処理の際に記憶部14から適宜読み出され得る。当該情報処理装置は、HFとLF/HFとの関係を示すデータを例えば出力インタフェースを介して表示器4に出力する処理を行う出力部を含んでもよい。当該出力部は、HFとLF/HFとの関係を示すデータを表示器4に出力するのに加えて、あるいは、HFとLF/HFとの関係を示すデータを表示器4に出力する代わりに、上記で説明した判別部15による通知信号を表示器4に出力する処理を行ってもよい。
【0049】
図11は、実施の形態に係る自律神経活動状態の表示システム1が行う処理手順の一例を示すフローチャートである。図11の例では、生体情報取得部11が第1測定期間の被験者の拍動間隔を取得する(ステップ1)。次に、グラフ作成部12がHFの対数とLF/HFを算出する(ステップ2)。次に、グラフ作成部12が、第1の軸にHFの対数を取り、第1の軸と交差する第2の軸にLF/HFを取ったグラフを作成する(ステップ3)。次に、グラフ作成部12は、HFの対数とLF/HFとをグラフにプロットし、プロットされた各点から最小二乗法により回帰直線を算出し、各点と回帰直線とのHFの対数の差異に係るばらつきを表す統計量を求め、回帰直線とばらつきを表す統計量から信頼区間を算出する(ステップ4)。記憶部14は当該グラフと信頼区間の情報を記録する。次いで、生体情報取得部11が第2測定期間の被験者の拍動間隔を取得する(ステップ5)。次に、グラフ作成部12がHFの対数とLF/HFを算出する(ステップ6)。次に、判別部15は、HFの対数とLF/HFのプロットが、信頼区間の範囲外か否かを判別する(ステップ7)。次に、HFの対数とLF/HFのプロットが信頼区間の範囲外である場合には、判別部15は、通知信号を発生する(ステップ8)。次に、通知信号に基づいて表示部16は、被験者が自律神経失調状態に至ったことを表示する(ステップ9)。一方、HFの対数とLF/HFのプロットが信頼区間の範囲外ではない場合には、自律神経活動状態の表示システム1は、上述したステップS5からの処理を繰り返す。
【0050】
グラフ作成部12、算出部13、記憶部14、及び判別部15の各機能部のうち少なくとも一つの機能部が、システム1とは別個の機器により構成されていてもよい。本明細書で説明する各機能部は、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ(MPU)等のプロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の記憶媒体、FPGA(Field Programmable Gate Array)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の論理回路これらの一部または全部等から構成されていてもよい。各機能部による処理機能は各々、例えば、プログラム記憶領域に格納されたプログラムをCPUに実行させることにより実現される。
【0051】
図1に示す通り、自律神経活動状態の表示システム1は、生体情報取得部材2、及び表示器4を備えていることが好ましい。これらはそれぞれ分離している必要は無く、これらのうち2つまたは3つが一体化した機器であってもよい。
【0052】
生体情報取得部11に係る衣服型の生体情報測定装置としては、センシングウェア、ウェアラブル・スマート・デバイス等が挙げられる。当該衣服は20%伸張応力が20N以下である生地により形成されることが好ましい。また衣服圧は0.1kPa以上1.5kPa以下となるように被験者に着用されることが好ましい。衣服圧は日本人の標準体形の持ち主を前提としているが、被験者の体形と衣服のサイズにあわせて調整してもよい。また、衣服圧が0.3kPa以上となる部分に皮膚接触型電極を配置することが好ましい。これにより、皮膚接触型電極の違和感を低減することができる。
【0053】
自律神経活動状態の表示システム1を用いれば、上述の通り、自律神経失調状態を把握し易くすることができる。例えば、自律神経活動状態の表示システム1を用いて、被験者の自律神経活動状態を監視し、自律神経失調状態がある一定時間以上継続する場合に警告を出す等の危険予防システムとして用いてもよい。
【0054】
自律神経は文字通り、本人の意思とは無関係に生命活動を維持するために働いている神経活動であり、自律神経が正常に働いているか否か本人が直接的に感じることはできない。多くの場合、自律神経が異常な状態すなわち自律神経失調状態に陥ると、呼吸や心拍が乱れ、そのため当人が動悸息切れ等の形で間接的に自律神経の異常を感じる場合が多い。そのため本人が気づいたときには、すでに自律神経失調状態が長引いていて、身体に深刻なダメージをうけてしまっていることもある。例えば酷暑環境での作業を行っている場合、極度の緊張状態、何らかのショックによる脱力状態に陥った場合、高齢者である場合等は、特に本人が自分の状態を冷静に把握し難い。自律神経活動状態の表示システム1を危険予防システムとして用いることにより、このような場合の自律神経失調状態の悪化を回避することができる。更に、予期しない失策、事故、怪我等を防止することができる。
【0055】
自律神経活動状態の表示システム1を用いて、例えば球技、体操、水泳、射撃、弓道、アーチェリー、投擲競技、格闘技等の各種スポーツ訓練において、無理なトレーニング状態に陥っていないかどうかの確認を男性、女性を問わず行ってもよい。また、自律神経活動状態の表示システム1を用いて、自動車、船舶、飛行機、土木用重機等の運転時の運転者の自律神経活動状態の監視や、木工作業、鉄工作業、彫金、縫製作業、歯科技工、医療手術、料理等の技能訓練や、管楽器、弦楽器、打楽器、声楽等の演奏訓練、書道、カリグラフ、彫刻、刺繍、絵画等の芸術訓練等を行ってもよい。
【0056】
上述の通り、生体情報取得部材2として、皮膚接触型電極を用いることができる。皮膚接触型電極としては、導電性ファブリックを用いた電極を用いることができる。導電性ファブリックとして、少なくとも導電糸を含む繊維からなる織布、不織布、編物、刺繍糸、縫糸等が挙げられる。
【0057】
導電糸として、繊維長1cmあたりの抵抗値が100Ω以下の糸が好ましい。導電糸は、導電性繊維、導電性繊維の繊維束、導電性繊維を含む繊維から得られる撚糸、組み糸、紡績糸、混紡糸、金属線を極細に延伸した極細金属線、フィルムを極細の繊維状に切断した極細フィルム等が挙げられる。
【0058】
導電性繊維としては、例えば、金属で被覆された化学繊維または天然繊維、導電性金属酸化物で被覆された化学繊維または天然繊維、グラファイト、カーボン、カーボンナノチューブ、グラフェン等のカーボン系導電性材料で被覆された化学繊維または天然繊維、導電性高分子で被覆された化学繊維または天然繊維等が挙げられる。また、導電性繊維として、例えば、金属、導電性金属酸化物、カーボン系導電性材料、および導電性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の導電性材料を含む高分子材料を紡糸して得られた繊維を用いることができる。導電性繊維の繊維束としては、例えば、導電性繊維のマイクロファイバーやナノファイバー等からなる繊維束に、導電性フィラーや導電性高分子等を担持、含浸させて得られたものを用いることができる。
【0059】
導電糸として、導電性繊維を含む繊維を用いて得られた撚糸、組み糸、紡績糸、混紡糸等用いてもよい。導電糸には、金属線を極細に延伸した極細金属線も包含される。導電性繊維、導電性繊維の繊維束、導電性繊維を含む繊維から得られる撚糸、組み糸、紡績糸、混紡糸、極細金属線の平均直径は、それぞれ250μm以下が好ましく、より好ましくは120μm以下、更に好ましくは80μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
【0060】
導電糸は、フィルムを極細の繊維状に切断した極細フィルムであってもよい。極細フィルムとして、金属、導電性金属酸化物、カーボン系導電性材料、および導電性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の導電性材料を被覆した高分子フィルムを幅800μm以下に切断して得られた繊維状フィルムが挙げられる。導電糸のなかでも、金属で被覆された化学繊維、導電性高分子を担持、含浸させた導電性繊維の繊維束、および平均直径が50μm以下の極細金属線よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0061】
導電性ファブリックとしては、具体的には、非導電性の布帛に導電糸を刺繍した繊維構造体、非導電性の布帛に導電性高分子含有溶液を含浸、乾燥させた繊維構造体、導電性フィラーとバインダ樹脂とを含む溶液を含浸、乾燥させた繊維構造体等が挙げられる。これらのなかでも、非導電性の布帛に導電性高分子含有溶液を含浸、乾燥させた繊維構造体を用いることが好ましい。導電性ファブリックは、導電糸を含む繊維で構成された織物または編物であることが好ましい。この場合、目付けは50g/m2未満が好ましく、導電性高分子の脱落を防止できる。また、目付けは300g/m2を超えることが好ましく、これにより導電性を確保し易くできる。
【0062】
導電性高分子としては、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸とを含む混合物を好ましく用いることができる。導電糸を含む繊維としては、合成繊維マルチフィラメントが好ましく、該合成繊維マルチフィラメントの少なくとも一部が、繊度が30dtex未満の極細フィラメントであるか、あるいは繊度が400dtexを超え、且つ単糸繊度が0.2dtex以下の合成繊維マルチフィラメントであることが好ましい。
【0063】
皮膚接触電極としては、伸縮性導体組成物を用いた電極を用いることができる。伸縮性導体層として、伸縮性を有し、且つ比抵抗が1×10Ωcm以下の層が挙げられる。伸縮性とは、導電性を保った状態で、繰り返し10%以上の伸縮が可能であることを意味する。伸縮性導体層は、層単独で40%以上の破断伸度を有することが好ましく、より好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上である。破断伸度は、導電性ペーストを離型シート上に所定の膜厚に塗布し、乾燥後に剥離し、引張試験を行って測定できる。伸縮性導体層は、引張弾性率が10~500MPaであることが好ましい。伸縮性導体層の平均厚さは、例えば20μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは250μm以下、特に好ましくは90μm以下である。
【0064】
伸縮性導体層は、例えば導電性ペーストを用いて形成できる。導電性ペーストは、(i)導電性粒子、(ii)柔軟性樹脂、および(iii)溶剤を含むことが好ましい。
【0065】
(i)導電性粒子
導電性粒子としては、比抵抗が1×10-1Ωcm以下の粒子が好ましい。比抵抗が1×10-1Ωcm以下の粒子としては、例えば、金属粒子、合金粒子、カーボン粒子、カーボンナノチューブ粒子、ドーピングされた半導体粒子、導電性高分子粒子、ハイブリッド粒子等が挙げられる。金属粒子としては、例えば、銀粒子、金粒子、白金粒子、パラジウム粒子、銅粒子、ニッケル粒子、アルミニウム粒子、亜鉛粒子、鉛粒子、錫粒子等が挙げられる。合金粒子としては、例えば、黄銅粒子、青銅粒子、白銅粒子、半田粒子等が挙げられる。ドーピングされた半導体粒子としては、例えば、錫の酸化物、インジウムと錫の複合酸化物等が挙げられる。導電性高分子粒子としては、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸とを含む混合物からなる粒子や、金属被覆した高分子粒子が挙げられる。ハイブリッド粒子としては、例えば、金属被覆した金属粒子、金属被覆したガラス粒子、金属被覆したセラミック粒子等が挙げられる。金属被覆した金属粒子としては、例えば、銀被覆銅粒子が挙げられる。
【0066】
導電性粒子の平均粒子径は、例えば、100μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは12μm以下である。平均粒子径の下限は特に限定されないが、例えば0.08μm以上である。
【0067】
粒子は、例えば、フレーク状粉であってもよいし、不定形凝集粉であってもよい。例えば、銀粒子としては、フレーク状銀粒子や不定形凝集銀粉を用いることができる。フレーク状粉の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した平均粒子径(50%D)が、例えば、0.5~20μmであるものが好ましい。平均粒子径が0.5μm以上であることより、粒子同士が接触し易くなって、導電性が向上する。平均粒子径は、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。一方、平均粒子径が20μm以下であると、微細な配線の形成が容易になって、また、スクリーン印刷を行う際の目詰まりを低減することができる。平均粒子径は、より好ましくは15μm以下、更に好ましくは12μm以下である。不定形凝集粉の平均粒子径は、光錯乱法により測定した平均粒子径(50%D)が、例えば、1~20μmであるものが好ましい。平均粒子径が1μm以上であることにより、凝集粉としての効果を発揮しつつ、導電性を維持することができる。平均粒子径は、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。一方、平均粒子径が20μm以下であることにより、溶剤への分散性が向上し、ペースト化し易くなる。平均粒子径は、より好ましくは15μm以下、更に好ましくは12μm以下である。
【0068】
(ii)柔軟性樹脂
柔軟性樹脂としては、弾性率が1~1000MPaの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム等を用いることができる。膜の伸縮性を発現させるために、ゴムを用いることが好ましい。弾性率は、好ましくは3MPa以上、より好ましくは10MPa以上、更に好ましくは30MPa以上である。弾性率は、好ましくは600MPa以下、より好ましく500MPa以下、更に好ましくは300MPa以下である。
【0069】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステル等を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。
【0070】
ゴムとしては、例えば、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴムや水素化ニトリルゴム等のニトリル基含有ゴム、イソプレンゴム、硫化ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ化ビニリデンコポリマー等が挙げられる。これらの中でも、ニトリル基含有ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムが好ましく、ニトリル基含有ゴムが特に好ましい。ニトリル基含有ゴムは、ニトリル基を含有するゴムやエラストマーであれば特に限定されず、例えば、ニトリルゴムと水素化ニトリルゴムが好ましい。ニトリルゴムはブタジエンとアクリロニトリルの共重合体であり、結合アクリロニトリル量が多いと金属との親和性が増加するが、伸縮性に寄与するゴム弾性は逆に減少する。従って、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム中の結合アクリロニトリル量は18~50質量%が好ましく、より好ましくは40~50質量%である。
【0071】
柔軟性樹脂の配合量は、導電性粒子と柔軟性樹脂の合計に対して、7~35質量%であることが好ましく、より好ましくは9質量%以上、更に好ましくは12質量%以上であって、より好ましくは28質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0072】
(iii)溶剤
溶剤は特に限定されず、公知の有機溶媒または水系溶媒を用いることができる。
【0073】
電極の表面、即ち、衣服型の生体情報測定装置の被験者の肌に接触する側には、下記の電極表面層を有することが好ましい。一方、電極と布帛部との境界には、絶縁性を高めるために絶縁下地層を有することが好ましい。
【0074】
(電極表面層)
電極表面層としては、例えば、貴金属メッキ層、不動態形成により酸化しにくい金属層、耐食性合金層、カーボン層、伸縮性導電層等が挙げられ、単独で、あるいは2種以上を積層して設けてもよい。貴金属メッキ層としては、例えば、金、銀、白金、ロジウム、およびルテニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の層が挙げられる。不動態形成により酸化しにくい金属層としては、例えば、クロム、モリブデン、タングステン、およびニッケルよりなる群から選ばれる1種の層が挙げられる。耐食性合金層としては、例えば、モネル合金等の層が挙げられる。カーボン層は、電極の表面に、例えば、カーボンペースト等を印刷して層を形成することが好ましい。伸縮性導電層としては、例えば、導電性フィラーと柔軟性樹脂等を含む伸縮性導電組成物を用いて形成された層が好ましい。
【0075】
なお、皮膚接触型電極には導電性ゲルを用いることができる、導電性ゲルとして、医療機器において用いる皮膚接触型電極の表面に用いられるゲル電極材料が挙げられる。
【0076】
本発明の実施の形態に係る自律神経活動表示マップは、上記のいずれかのグラフを表示する。実施の形態に係る自律神経活動表示マップは、上記のいずれかのグラフを表示するものであれば、特に限定されないが、例えばシート状物、又は表示器により視覚的に表示される画像等が挙げられる。シート状物として、紙類、フィルム類等の単層シート、又はこれらの積層体が挙げられる。表示器として、例えばスマートフォン、タブレット端末、スマートウォッチ、ヘッドマウントディスプレイ、計測機器等、スマートグラス、スマートコンタクトレンズ、コンピュータ等の電子機器等が挙げられる。画像は静止画であってもよく、動画であってもよい。表示されるグラフは、上述の通り、XY二次元座標系において、X軸にLF/HFを取り、Y軸にHFを取ったグラフであることが好ましい。また、X軸にHFを取り、Y軸にLF/HFを取ったグラフであってもよい。また、当該グラフにおいて、第1の軸と第2の軸は必ずしも直交している必要は無い。また、当該グラフは、HF、LF/HFの他に加速度、RRI等の第3成分の値をZ軸にとったXYZ三次元座標系であってもよい。また、これらHFの代わりにHFの対数を軸に取ることが好ましい。また当該グラフには、母集団の情報についてはプロットが表示されずに第1の直線と第2の直線の間の信頼区間のみが表示されていることが好ましい。また、自律神経活動表示マップには、プロットが信頼区間の範囲外となったことを知らせる警告表示が表示されてもよい。
【0077】
本発明の実施の形態に係る自律神経活動監視システムは、上記のいずれかの表示システム、または上記の自律神経活動表示マップを含み、被験者の自律神経活動をモニターし、自律神経活動が正常な状態から逸脱した場合に警告を発する。自律神経活動監視システムは、生体情報取得部材、及び自律神経活動状態の表示システムを有することが好ましい。その場合、生体情報取得部材および自律神経活動状態の表示システムを用いて被験者の自律神経活動をモニターし、自律神経活動が正常な状態から逸脱した場合に自律神経活動状態の表示システムから通知信号を発生させて、通知信号に基づいて表示器等から警告を発生させればよい。自律神経活動が正常な状態から逸脱した場合として、上述した判別部15が通知信号を発生する条件を満たした場合が挙げられる。また、自律神経活動監視システムにおいては、自律神経活動表示マップの情報に基づいて、第3者が表示器等を用いて通知信号を発生させてもよい。警告は被験者や第三者に警告を発することに限定されず、エアコンディショナーの差動や、機械装置の動作制御や強制停止により作業を中断させる、など被験者を取り巻く環境や作業状況に作用して自律神経活動を正常状態に導くための動作によるものであってもよい。
【0078】
本発明の実施の形態に係る表示システムは、居眠り防止に用いることもできる。例えば、表示システムの判別部は、プロットが上記回帰直線以上の領域に位置し、且つ隣り合う心拍の時間間隔(RRI)が1拍分前の心拍間隔よりも広くなる状態が連続したときに通知信号を発生することが好ましい。プロットは上述したHFとLF/HFのプロット、またはHFの対数とLF/HFのプロットであることが好ましい。回帰直線以上の領域とは、回帰直線により区画される領域のうち、HFまたはHFの対数の値が大きい方の領域である。判別部は、通知信号を発生すると、当該通知信号を表示器に送信する。表示器は、当該通知信号を受信し、当該通知信号に応じて、眠気が生じたことを表示部に表示して警告する。これにより被験者の眠気を低減することができる。また表示システムの判別部は、LF/HFが1.0超の領域に位置し、且つ隣り合う心拍の時間間隔(RRI)が1拍分前の心拍間隔よりも広くなる状態が連続したときに通知信号を発生させることも好ましい。また表示システムの判別部は、プロットが回帰直線以上の領域に位置し、LF/HFが1.0超の領域に位置し、且つ隣り合う心拍の時間間隔(RRI)が1拍分前の心拍間隔よりも広くなる状態が連続したときに通知信号を発生させることがより好ましい。RRIが広くなる状態が連続する回数は、3回以上であることが好ましく、4回以上であることがより好ましく、10回以下であることが好ましく、6回以下であることがより好ましい。これらの信号の発生については特許第6063775号公報の記載を参照することができる。
【0079】
本発明の実施の形態に係る乗り物は、被験者が乗り物の運転者であり、上記[10]に記載の自律神経活動監視システムにより被験者の自律神経活動が正常な状態から逸脱したことを検知した場合に、被験者が運転する乗り物を、自動運転モード、運転アシストモード、遠隔から操縦されるモードから選択されるいずれかのモードに自動的に切り替える機能を有することが好ましい。自律神経活動が正常な状態から逸脱した場合として、上述した判別部15が通知信号を発生する条件を満たした場合が挙げられる。具体的には、自律神経活動状態の表示システムが、運転中の自律神経活動指標が連続的に普段の運転時の自律神経活動領域外になったと判別した場合に、通知信号を発させて、当該通知信号に基づいて運転を上記いずれかのモードに切り替える機能を乗り物が有することが好ましい。自律神経活動領域、乗り物等の詳細については、下記の運転切り替えシステムの記載を参照すればよい。
【0080】
本発明の実施の形態に係る乗り物の運転切り替えシステムは、上記いずれかに記載の表示システムを備えることが好ましい。具体的には、運転切り替えシステムは、乗り物と、上記[1]~[7]のいずれかに記載の表示システムを備えることがより好ましい。乗り物は、自動運転機能、運転アシスト機能、または遠隔にて操縦が可能となる機能を有していることが好ましい。
【0081】
表示システムにより、運転者の普段の運転時の自律神経活動領域を特定することが好ましい。自律神経活動領域とは、運転者の拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを定積分して得たLFおよびHFを用いて、上記[3]から[7]のいずれかに記載の表示システムで求めた信頼区間に相当する。この普段の運転時の自律神経活動領域を求める時間が、上記[3]に記載の第1測定期間に相当する。表示システムは、運転中に特に事故や急病などの異常が無かった場合には運転の度にデータを更新し、例えば過去の所定時間を第1測定期間として常に最新の状況を反映するように維持することが好ましい。当該所定時間は好ましくは2時間以上、20時間以下、より好ましくは3時間以上、10時間以下である。
【0082】
普段の運転時の自律神経活動領域のデータは、乗り物に搭載された記憶部、運転者の心臓の拍動間隔等を測定する拍動検出装置の記憶部、拍動検出装置から無線通信などで接続されたネットワーク上にある記憶部、運転者が携帯する携帯端末にある記憶部等に記憶されてもよい。なお拍動検出装置は生体情報取得部材を含むことが好ましい。
【0083】
乗り物を運転中の運転者の心臓の拍動間隔は、拍動検出装置により測定されることが好ましい。この測定期間が上記[6]における第2測定期間に相当する。上記[6]または[7]に記載の表示システムは、普段の運転時の自律神経活動領域と比較し、運転中の自律神経活動指標が連続的に普段の運転時の自律神経活動領域外になったと判別した場合に、通知信号を発することが好ましい。この通知信号を受信した乗り物は、当該通知信号に応じて、通常運転モードから、運転アシストモードまたは自動運転モード、あるいは遠隔から操縦されるモードに切り替わることが好ましい。ここで、通常運転モードとは、例えば、運転者が自ら運転操作を行うモードであり、運転アシストモードのようなアシスト等がないモードである。上記では、通常運転モードから、運転アシストモード、自動運転モード、または、遠隔から操作されるモード、への切り替わりを例に挙げて説明したが、上記通知信号に応じて、運転者の負担が軽くなるようにモードが切り替わるものであればよい。例えば、運転アシストモードから自動運転モードへの切り替わりが行われてもよい。
【0084】
上記判別および通知信号の発生は、拍動検出装置の判別部、拍動検出装置と通信で結ばれた携帯端末の判別部、乗り物に搭載されている判別部、またはそれらからネットワーク接続されている外部の判別部などで行われることが好ましい。自律神経活動指標が連続的に普段の運転時の自律神経活動領域外にある状態が所定時間以上となった場合に、判別部は上記通知信号を発生することが好ましい。当該所定時間は、好ましくは15秒以上、より好ましくは30秒以上、更に好ましくは60秒以上であって、好ましくは300秒以下、より好ましくは200秒以下、更に好ましくは100秒以下である。
【0085】
拍動検出装置としては、衣服型の心電測定装置、手首、足首、頸部、耳たぶ等の血流から脈拍を検出する脈拍検出装置、ステアリングに装着した身体電位測定センサーまたは脈拍センサー、着座シート、シートベルト等に設けられた運転者の血流の変動、微細な体圧の変動、微細な体型変化等を検出する検出装置等が挙げられる。
【0086】
乗り物としては、乗用車、貨物自動車等の地上運行用の車両、水上交通、水中交通等に利用される船舶、ヘリコプター、ドローン等の空中を運行する航空機が挙げられる。
【0087】
本願は、2021年7月6日に出願された日本国特許出願第2021-111939号、及び2022年3月14日に出願された日本国特許出願第2022-039751号に基づく優先権の利益を主張するものである。2021年7月6日に出願された日本国特許出願第2021-111939号、及び2022年3月14日に出願された日本国特許出願第2022-039751号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例0088】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0089】
以下の通り、皮膚接触型電極を備える衣服型の生体情報測定装置と、自律神経活動状態の表示システムとを準備し、各グラフの作成を行った。
【0090】
[伸縮性導体ペースト]
バインダとして、三洋化成工業株式会社製コートロンKYU-1(ガラス転移温度-35℃)、銀粒子として三井金属鉱業株式会社製微小径銀粉SPH02J(平均粒子径1.2μm)、カーボン粒子としてライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製ケッチェンブラックEC600JD、溶剤としてブチルカルビトールアセテートを用い、バインダ10質量部、銀粒子70質量部、カーボン粒子1質量部、溶剤19質量部の配合において伸縮性導体ペーストを調整した。詳細には、所定の溶剤量の半分量の溶剤にバインダ樹脂を溶解し、得られた溶液に金属系粒子、炭素系粒子を添加して予備混合の後、三本ロールミルにて分散することによりペースト化した。次いで、得られたペーストを厚さが25μmとなるようにスクリーン印刷し、100℃にて20分間乾燥し、伸縮性導体層を得た。得られた伸縮性導体層は、初期の比抵抗が250μΩ・cmであり、20%伸張を100回繰り返した後も導電性を維持するストレッチャビリティを有していた。
【0091】
[伸縮性カーボンペースト]
電極保護層用のカーボンペーストを調整した。詳細には、ガラス転移温度が-19℃のニトリルブタジエンゴム樹脂を40質量部、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製ケッチェンブラックEC300Jを20質量部、溶剤としてエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート50質量部を予備攪拌の後三本ロールミルにて分散化し、伸縮性カーボンペーストを得た。
【0092】
[電極、配線]
表面をシリコーン系離型剤により処理されたPET製離型シートに、電極部分とコネクタ部が切り抜かれた所定形状のウレタンシート(絶縁カバー層)を仮接着し、電極部分に伸縮性カーボンペーストをスクリーン印刷し、さらに伸縮性導体ペーストを電極部分からコネクタ位置まで所定パターンで印刷し、更にウレタンシートを覆うように両面ホットメルトシート(絶縁下地層)をラミネートして離型シート上に電極と配線を形成した。
【0093】
[第1の衣服型の生体情報測定装置]
20%伸張応力が5Nの生地を用いて形成されたスポーツブラジャーのアンダーバスト部分の生地に対して、上記離型シート上に形成された電極と配線を、両面ホットメルトシート側が触れるように重ね、ホットプレスにより加熱、加圧することによって、電極と配線を絶縁下地層、絶縁カバー層とともに転写した。次いで、コネクタを取り付け、電子ユニットを取り付けて、心電情報を測定することができる第1の衣服型の生体情報測定装置を作製した。なお、上記電子ユニットとして、携帯端末に得られた心電情報を送信することが可能なものであり、温度計、GPSによる位置情報、XYZ各軸への加速度センサも搭載されているものを用いた。また、上記離型シート上に形成された電極と配線の20%伸張応力は0.5Nであった。得られた第1の衣服型の生体情報測定装置を被験者に着用させ、軽い運動を行って衣服圧を測定したところ、アンダーバスト部の最大衣服圧は0.8kPa、最小衣服圧は0.25kPaであった。被験者から第1の衣服型の生体情報測定装置の着用時の違和感等は報告されなかった。
【0094】
[第2の衣服型の生体情報測定装置]
綿/ポリエステル=50%/50%の混紡糸からなるニット生地を用いて、前身頃から後身頃にかけて面ファスナーを用いて胴囲を調整できる男性用Tシャツを作製した。男性用Tシャツの胸部の肌側面に、第1の衣服型の生体情報測定装置と同様の方法で電極と配線を転写し、コネクタとしてのスナップファスナーを取り付け、更に第1の衣服型の生体情報測定装置と同じ電子ユニットを取り付けて、心電情報を測定することができる第2の衣服型の生体情報測定装置を作製した。
【0095】
<実施例1(一般女性)>
母集団となる元データを取得した。詳細には、まず健康な一般女性を被験者Aとして、被験者Aに上記第1の衣服型の生体情報測定装置を着用させて、3日間の入浴時を除く午前8時~午後10時までの心電情報を取得した。被験者Aは出願人の企業の研究助手であり、上記3日間は特に非定常作業等はなく通常の勤務であり、また通勤時間帯、出社前、退社後についても特筆すべき出来事は生じなかった。即ち当該3日間は被験者Aの自律神経が正常に活動している状態であったと考えられる。また、被験者Aから取得した心電情報では、図2と同様にR波を的確に検知することができた。なおサンプリングレートは1kHzとした。取り扱った信号の周波数スペクトルは、ほぼ1Hz程度以下の領域であるためこの程度のサンプリングレートでも問題は無かった。
【0096】
得られた心電情報は、第1の衣服型の生体情報測定装置の電子ユニットからコンピュータ(解析機)に送信され、解析機の算出部において得られた拍動間隔データを周波数スペクトル変換し、得られたパワースペクトルを定積分してLFおよびHFを算出した。詳細には、0.01Hzから0.15Hzまでの積分値をLF、0.15Hzから0.40Hzまでの積分値をHFとして扱った。また周波数スペクトル変換は、過去1分間に得られた拍動間隔を用いて10秒毎に行った。即ち、10秒毎に過去1分間のLFとHFを移動平均的に求めた。同時に拍動間隔についても10秒毎に過去1分間の移動平均値を求めた。このようにして得られた10秒毎の平均拍動間隔と10秒毎に過去1分間の拍動データから得られた自律神経活動指標(LFとHF)の数値の羅列を母集団となる元データとした。
【0097】
更に解析機の算出部において、母集団のデータを用いて、HFの対数とLF/HFとを算出し、縦軸にHFの対数を取り、横軸にLF/HFを取り、最小二乗法により回帰直線を求めた。回帰直線は下記式の通りであった。なおlogは10を底とする対数である。
log(HF)=-0.1233×(LF/HF)+2.25
【0098】
次に、各プロットの回帰直線との縦軸方向の差を計算し、その差の標準偏差σを求め、回帰直線に標準偏差σの3倍の値である3σを加えた第1の直線を求め、更に、回帰直線から標準偏差σの3倍の値である3σを減じた第2の直線を求めた。更に、これらの情報を解析機の記憶部に記憶させた。図4にこれらの直線を表示したグラフを示す。図4中、回帰直線は符号101、第1の直線は符号102、第3の直線は符号103で示す。図4に示す第1の直線102と第2の直線103の間の領域は99.7%信頼区間110である。
【0099】
次いで、被験者Aが、社内の発表会においてプレゼンテーションを行った日の心電情報を同じ第1の衣服型の生体情報測定装置を用いて測定して、HFの対数とLF/HF等の各値の算出を行った。なお被験者Aがこのような発表会でプレゼンテーションするのは初めてであり、測定は被験者Aが発表会の会場に入室して客席側に着席した時点から、プレゼンテーションを経て、退勤し、帰宅して休息までの期間で実施した。
【0100】
プレゼンテーション中に得られた心電情報から求めたHFの対数、LH/HFの情報を、上記図4の母集団の99.7%信頼区間110等が設定されているグラフに重ねてプロットした。なお当該プロットは、3分間毎の平均値であり、図示簡略化のためにプレゼンテーションの直前の約30分、プレゼンテーション中の約20分、直後の約25分、発表会場から次職場に戻った約30分、退勤から帰宅して家事を行って休息するまでの約90分間の期間に係る情報をプロットした。図4中、プレゼンテーション中のプロットは点線で結び、その他の期間のプロットは実線または破線で結んだ。図4の破線楕円150に示すように、プレゼンテーションの少なくとも12分間において、第1の直線102と第2の直線103の間の99.7%信頼区間110外となった。これより、被験者Aが、初めてのプレゼンテーションの機会に極度に緊張し、自律神経失調状態に陥っていたことが分かった。なお破線四角形151内のプロットは退勤後に自宅で仰臥安静にしていた期間に係るプロットであり、ほぼ終日緊張していた状態から、ようやく解放されてリラックスしている状態であると理解できる。
【0101】
図5は、被験者Aのプレゼンテーションの直前の約30分、プレゼンテーション中の約20分、直後の約25分について、10秒毎に、過去1分間の移動平均的に求められたHFの対数とLH/HFを用いてプロットしたものである。プレゼンテーション開始前と開始後共に、回帰直線101よりHF値が低い側にプロットが集中しており、終始緊張状態であったと考えられる。図5の破線楕円150に示すように、第1の直線102と第2の直線103の間の99.7%信頼区間110外となった状態が12分以上あり、この期間はプレゼンテーションを行っていた時間帯である。これより、被験者Aが極度に緊張し、自律神経失調状態に陥っていたことが分かった。なお図5中、破線四角形120内のプロットは発表会が終了し、被験者Aが会場を出た時点のプロットであり、発表会場を後にしてようやく「ほっ」としたことを伺うことができる。
【0102】
<比較例1>
実施例1において得られた被験者Aのプレゼンテーションを行った日の心電情報および得られたHF、LFの値を用いて、特許文献1に記載の方法でプロットを行った。縦軸にHF、横軸にRRIをプロットしたのが図6であり、縦軸にLH/HF、横軸にRRIをプロットしたのが図7である。更に、実施例1と同様に99.7%信頼区間を設定するために回帰直線101、第1の直線102、第2の直線103を求め、これらについても図6図7に図示した。図6図7の順に各回帰直線の式は以下の通りであった。
HF=0.4587×(RRI)-153.135
LF/HF=-0.005488×(RRI)+7.1678
【0103】
図6図7中、被験者Aのプレゼンテーション中のプロットは図中の破線楕円150で囲まれた部分である。破線楕円150部分は、プレゼンテーション前後のプロットに対し、偏在しているようにも見える。しかし、単に緊張して拍動間隔(RRI)が狭くなっていることによってプレゼンテーション中のプロットが偏在しているように見えているに過ぎず、自律神経失調状態であるか否かまでは正確に判断はできないと考えられる。更に、図6図7では、破線楕円150内のプロットは、プレゼンテーション中のプロットであるにもかかわらず、第1の直線102と第2の直線103の間の99.7%信頼区間110の範囲内に位置している。このことからも特許文献1の方法では自律神経失調状態を判別し難いと考えられる。
【0104】
<実施例2(プロスポーツ選手の女性)>
プロのレーシングドライバーである女性を被験者Bとして、上記第1の衣服型の生体情報測定装置を用いて、実施例1と同様に母集団となる元データを取得し、同様に回帰直線201、第1の直線202、第2の直線203を求めた。なお、被験者Bから第1の衣服型の生体情報測定装置の着用時の違和感等は報告されなかった。回帰直線201は下記式の通りであった。なおlogは10を底とする対数である。
log(HF)=-0.1919(LF/HF)+2.83
【0105】
母集団の回帰直線201、第1の直線202、第2の直線203に加えて、実施例1と同様に求めた被験者Bの下記の各期間における3分間平均値に基づくHFの対数とLF/HFをプロットしたグラフを図8に示す。なお破線楕円250で囲んだ群が全力疾走のランニング期間におけるプロットである。
・仰臥安静期間
・着座して単純計算問題を解いていた着座期間
・ドライブシミュレータを用いて訓練していた訓練期間
・実際の自動車レースを行っていたレース期間
・ランニングマシンで20分間、全力疾走を続けたランニング期間
【0106】
図8の第1の直線202と第2の直線203の間の99.7%信頼区間210外となった破線楕円250内のプロット群は、全力疾走のランニング期間であり、少なくとも18分間連続して99.7%信頼区間210から逸脱していた。ランニング期間の心拍数は170~180bpmと極めて高く、全力疾走による極度の肉体的負荷により自律神経も失調状態にあったと考えられる。なお被験者Bのレース期間中は、時速200kmを超えるスピードと最大5Gの加速度が身体に加わったため心拍数は約170~180bpmと高くなったが当該期間のプロット群は99.7%信頼区間210内であった。この結果はプロのレーシングドライバーであるためレース期間中は落ち着いており自律神経活動的には正常であったことによると考えられる。
【0107】
<比較例2>
実施例2において得られた被験者Bの上記各期間における心電情報および得られたHF、LFの値を用いて、特許文献1に記載の方法でプロットを行った。縦軸にHF、横軸にRRIをプロットしたものが図9であり、縦軸にLH/HF、横軸にRRIをプロットしたのが図10である。更に、実施例2と同様に回帰直線201、第1の直線202、第2の直線203を求め、これらについても図9図10に図示した。図9図10の順に、各回帰直線201の式は以下の通りであった。なお、図9図10中、破線楕円250で囲んだ群が全力疾走のランニング期間におけるプロットである。
HF=1.0773×(RRI)-386.6
LF/HF=-0.00741×(RRI)+8.171024
【0108】
図9図10共に、RRI軸では、全力疾走のランニング期間と、他の期間とのプロットで重なる部分があった。なおRRI軸の値が低い領域は、自動車のレース期間におけるプロットである。更に、図9図10共に、破線楕円250内のプロットは、極度の肉体的負荷がかかる全力疾走のランニング期間のプロットであるにもかかわらず、99.7%信頼区間210の範囲内にあった。このことからも、特許文献1の方法では自律神経失調状態を判別し難いと考えられる。
【0109】
<実施例3>
成年男性4人を被験者C~Fとし、各被験者に上記第2の衣服型の生体情報測定装置を着用させ、入浴時を除き、就寝中を含む24時間の心電情報を取得した。更に実施例1と同様に母集団となる元データを取得し、同様に回帰直線、第1の直線、第2の直線を求めた。なお各被験者の性別、年齢、モータースポーツの経験年数は下記表1に記載の通りであった。なお各被験者は、母集団の心電情報の取得前に面ファスナーによる胴囲の締め付け具合を、電子ユニットから送信される心電情報を携帯端末で心電波形の形で観察しながら調整する練習を行った。
【0110】
更に、夏季の2日間にわたってモータースポーツを行ったときにおける各被験者の心電情報を第2の衣服型の生体情報測定装置を用いて測定した。詳細には、各被験者は1日目の午後に30~54分程度の練習走行を行い、2日目に5時間耐久レースを行った。5時間耐久レースは、学生チームであるUチームと、アマチュアの社会人チームであるSチームのチームとに分かれて、チーム毎に5時間走行するレースであり、Uチームは被験者Cと被験者D、Sチームは被験者Eと被験者Fにより構成されるチームとした。なお競技規則上、連続2時間を超えるドライビングは禁じられているため、2人の内の1人が他の1人のドライビングを挟んで2回ドライビングした。
【0111】
上記2日間のうち1日目の午前10時頃~2日目の18時頃まで心電情報の測定、及び記録を行った。更に、各被験者のデータから、競技用自動車に乗車していた時間のデータを切り出し、乗車中の各被験者のHFの対数とLF/HFを求め、上記の通り予め求めていた母集団のグラフに重ねてプロットした。更に走行中において99.7%信頼区間からはみ出していた逸脱時間と、走行時間に対する逸脱時間の割合を求めた。その結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
表1に示す通り、いずれの被験者の走行中のプロットにおいても、母集団の99.7%信頼区間からはみ出している部分が生じていた。99.7%信頼区間からのはみ出しは、いずれもHFの対数とLF/HFが小さくなる側(例えば図4の左下側)であった。なお、五時間耐久レースにおける乗車時間の合計が5時間を超えているのは、終了を告げるチェッカーフラッグが振られた時刻から後のゴールラインまでの走行時間が含まれるからである。
【0114】
表1に示す通り、被験者Cの逸脱時間率が、練習走行、耐久レース両方で突出していた。被験者Cは現役学生の初心者であり初めてのレーシングサーキット走行経験であったため、緊張度合いが高く自律神経が乱れていたと考えられる。一方、被験者Dは、ベテランの卒業生であり、アマチュアながら普段からモータースポーツに親しんでいるセミプロ級の人物であったためほぼ信頼区間内、すなわち平常時と同じエリアで自律神経が活動していた。しかし、五時間耐久レースの二回目のレースの最終盤の時期に逸脱している区間が現れた。これは被験者Dが長時間の運転で疲労して自律神経が乱れていたからであると考えられる。
【0115】
表1に示す通り、被験者E、被験者Fは、練習走行では逸脱時間が無く平常状態であったが、5時間耐久レース中ではわずかに逸脱する場面が見られた。被験者E、被験者Fは、共にベテランではあったが自動車レースへの参加は年に一度だけであるため、若干の逸脱が見られたと考えられる。また被験者Eの一回目の逸脱期間は、5時間耐久レースの交代直前の時間帯であったが、この時間帯では被験者Eは体調不調を訴えていた。この時間対における電子ユニットに内蔵されている温度計により測定された衣服内温度は38度を超えていたため、被験者Eには熱中症の初期症状があらわれていたと考えられる。なお被験者Eは2回目の乗車前には被験者Eは水浴により十分に身体深部まで体温を冷やしてから再乗車した。
【0116】
以上の結果より、自動車レースの場においてモータースポーツ経験年数の差が、自律神経活動状態に大きな影響を与えていることが分かった。そのため、第2の衣服型の生体情報測定装置を、競技の熟練度合いの判定に用いることができると考えられる。更に、第2の衣服型の生体情報測定装置に温度測定機能を付与することにより、熱中症の初期症状を捉えることができると考えられる。実施例3はモータースポーツの例であったが、長距離競技、酷暑環境下、危険環境下等における作業者の見守りにも応用できると考えられる。
【0117】
<実施例4>
実施例4では、長距離トラックの運転手25名(男性20名、女性5名)を被験者とし、女性ドライバーには第1の衣服型の生体情報測定装置を、男性には第2の衣服型の生体情報測定装置を装着させた。次いで実施例3と同様に、各被験者において入浴時を除き、就寝中を含む24時間の心電情報を取得し、母集団となる元データを取得し、同様に回帰直線、第1の直線、第2の直線を求めた。更に、それぞれの生体情報測定装置を用いて、各被験者一人当たり総計4~178時間の長距離運転中における心電データを測定して、HFの対数とLF/HF等の各値の算出を行って、母集団のグラフに重ねてプロットした。
【0118】
更に実施例4では、上記プロットと、特許第6063775号公報に記載の眠気の検出方法で用いられるRRIとの関係について調べた。なお特許第6063775号公報では、人の心拍の計測結果において、隣り合う心拍の時間間隔(RRI)が、1拍分前の心拍間隔よりも広くなる状態が連続する場合に、眠気が発生したと判断し、警報を発する居眠り予防方法について記載されている。特許第6063775号公報には、連続してRRIが広くなる回数としては4回以上が良いとされており、4回を基準に眠気検出を試みたところ検出率が71%であったことが実施例に開示されている。
【0119】
実施例4の測定に当たっては、第1の衣服型の生体情報測定装置と第2の衣服型の生体情報測定装置の電子ユニットが被験者の運転中の心電データをリアルタイムで携帯端末に無線送信するように設定した。携帯端末は、隣り合う心拍の時間間隔(RRI)が1拍分前の心拍間隔よりも広くなる状態が4回連続した場合に、眠気を覚えたと判定して携帯端末が警告信号を発するように設定した。同時に運転中に被験者が眠気を催したときに、被験者に時刻記録用のロガーのボタンを押してもらい、眠気が発生した時刻を記録し、警告を発した時刻との相関を検証できるようにした。なおRRIデータは全て記録されており事後の解析に供した。
【0120】
被験者のロガーのボタンによる眠気の自己申告は、長距離走行中に31回あり、このうち23回は携帯端末による警告と一致した。即ち、実際の眠気と携帯端末による警告との一致率は74.2%であり、この結果は特許第6063775号公報の実施例の71%と近い数値であった。一方、眠気の自己申告が無いにも関わらず携帯端末が警告を発した回数は136回であり、おおむね1時間20分ごとに誤報が発せられていた。この結果は特許第6063775号公報の実施例では誤報は平均73分に一回とされているため、この値も特許第6063775号公報の実施例と近い数値になった。
【0121】
更に、眠気の自己申告があった時刻、誤報を含めた警告が発せられた時刻に対応する上記プロットを解析した。その結果、眠気の自己申告が無いにも関わらず、警告が発せられた誤報のうち92%は、母集団の回帰直線より下側にある場合に警告が発せられていたことが分かった。このことより、回帰直線以上の領域に位置するプロットを用いれば眠気の警告の誤報を大幅に低減できると考えられる。
【0122】
一方、眠気の自己申告があったにもかかわらず、警告が発せられなかった時刻に対応する上記プロットは、いずれも母集団の回帰直線より上であり、且つ交感神経活動指標であるLF/HFが1.0以下の領域であった。この結果によれば、リラックス指標と呼ばれる副交感神経が優位になっている状態において警告を出し損ねたと解釈することができる。このことより、LF/HFが1.0超の領域に位置するプロットを用いることにより、眠気の警告漏れを低減できると考えられる。
【0123】
なお母集団の回帰直線以上でありLF/HFが1.0以下の領域に限定して、眠気の自己申告があった時刻近傍のRRIを再検討した結果、連続してRRIが広がる間隔を3回として警告を発するように設定した場合、連続してRRIが広がる間隔を3回として警告を発することにより、警告を出し損ねた8回の内の6回までは眠気検知が行えること、誤報の増加は28件であることが確認された。
【0124】
これらの結果より、第1の衣服型の生体情報測定装置、第2の衣服型の生体情報測定装置を用いることにより、眠気の警告の誤報を低減したり、眠気の警告漏れを低減したりすることができると言える。
【0125】
また、長距離トラックが自動運転機能、自動運転アシスト機能、あるいは遠隔操縦することができる機能を有している場合には、眠気検知の警報を出すと同時に、予備的に自動運転モードをスタンバイするなどの態様も好ましく適用することができる。
【0126】
以上より、第1の衣服型の生体情報測定装置、第2の衣服型の生体情報測定装置によれば、プロット等により自律神経活動指標を直感的に解りやすく表示することができ、体温、衣服内温度、RRI時間変動のプロファイル等の他のバイタル指標と組み合わせて、熱中症や、眠気の検出精度等を向上させることが可能となる。本技術において、FFT:高速フーリエ変換を用いる場合には、解析に一定の時間間隔(時間窓)を要するが、光学式脈波計などの検出方法に比較して高精度な心電データから直接得られるRRIデータを用いることにより、1分間程度の短い時間窓であっても十分に自律神経活動状態を把握することが可能となる。またRRIデータをリアルタイムで送信することは今日では一般化された技術であるから、実時間から1分遅れ程度にて心身状態の遠隔モニターが可能となる。更に、本技術はローレンツプロットなどの既知のバイタル表示手法と組み合わせることにより、さらなる心身状態の把握精度向上が期待される。
【符号の説明】
【0127】
1 自律神経活動状態の表示システム
2 生体情報取得部材
4 表示器
11 生体情報取得部
12 グラフ作成部
13 算出部
14 記憶部
15 判別部
16 表示部
101、201 回帰直線
102、202 第1の直線
103、203 第2の直線
110、210 99.7%信頼区間
150 破線楕円
250 破線楕円
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11