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特開2023-88954複数ドナー幹細胞組成物およびそれを作製する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023088954
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】複数ドナー幹細胞組成物およびそれを作製する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20230620BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230620BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230620BHJP
   C12N 1/04 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
C12N1/00 B
C12N5/071
C12Q1/02
C12N1/04
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023041664
(22)【出願日】2023-03-16
(62)【分割の表示】P 2019554752の分割
【原出願日】2018-04-13
(31)【優先権主張番号】62/485,562
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/517,414
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500469235
【氏名又は名称】チルドレンズ ホスピタル メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】武部 貴則
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】ザン、ラン-ラン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複数ドナー幹細胞組成物およびそれを作製する方法を提供する。
【解決手段】プール前駆細胞集団を同期する方法であって、a)プール前駆細胞集団を、同期したプール前駆細胞集団を産生するのに十分な期間にわたって同期条件に曝露するステップと、b)前記同期したプール前駆細胞集団を、同期分化細胞集団に分化させるのに十分な期間および条件下で培養するステップと、c)前記同期分化細胞集団を凍結同期分化細胞集団に凍結するステップと、およびd)前記凍結同期分化細胞集団を融解同期分化細胞集団に融解するステップを含み、前記プール前駆細胞集団は、2以上のドナーに由来する多能性幹細胞を含み、前記同期条件が、MEK/ERK経路阻害剤、およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK3)経路阻害剤を含む化合物カクテル、および低酸素培養条件を含む、方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分化細胞集団を含む組成物であって、前記分化細胞集団が、2体以上の個体由来の細胞を含む、組成物。
【請求項2】
前記分化細胞集団が、胚体内胚葉、中胚葉、外胚葉、後方前腸、内皮、肝細胞、またはオルガノイドから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記2体以上の個体が、対象とする疾患を有する個体集団を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記分化細胞集団が、肝臓オルガノイド、胃オルガノイド、腸オルガノイド、脳オルガノイド、肺オルガノイド、骨オルガノイド、軟骨オルガノイド、膀胱オルガノイド、血管オルガノイド、内分泌オルガノイド、感覚オルガノイドから選択されるオルガノイドを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
分化細胞集団を含む組成物を作製する方法であって、前記分化細胞集団が、2体以上の個体、例えば、約10体の個体~約1,000体のドナーに由来する細胞集団を含み、プール前駆細胞集団、好ましくは、胚性幹細胞(ESC)、胚性癌腫細胞(EC)、胚盤葉上層幹細胞(EpiSC)、分化後方前腸細胞、またはそれらの組み合わせから選択される細胞型を、同期したプール前駆細胞集団を産生するのに十分な期間にわたって、同期条件に曝露するステップを含み、
前記同期条件が、MEK/ERK経路阻害剤、好ましくはマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ阻害剤、より好ましくはPD0325901、およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK3)経路阻害剤、好ましくはCHIR99021を含む化合物カクテルを含む、方法。
【請求項6】
前記カクテルが、
エストロゲン関連受容体ガンマ(ERRγ)アゴニスト、好ましくはGSK5182、RHO/ROCK経路阻害剤、好ましくはRho結合キナーゼ阻害剤、好ましくはY-27632、および1型トランスフォーミング成長因子-b(TGFB)受容体経路阻害剤、好ましくはA-83-01をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記同期条件が、低酸素培養条件を含み、好ましくは、前記低酸素培養条件が、約2%O~約5%Oである、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記同期したプール前駆細胞集団を、前記前駆細胞を胚体内胚葉に分化させるのに十分な期間および条件下で培養するステップをさらに含む、請求項5~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記胚体内胚葉が、オルガノイド組成物にさらに分化し、前記オルガノイド組成物が2体以上のドナー由来の細胞を含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
2体以上のドナー、好ましくは約10体のドナー~約1,000体のドナー由来の分化細胞集団を含む組成物を作製する方法であって、
a.前駆細胞集団を、同期したプール内胚葉集団を産生するのに十分な期間にわたって、クローン条件に曝露するステップと、
b.前記プール内胚葉細胞集団を化合物カクテルと接触させるステップであって、前記化合物カクテルが、例えば、TGFB受容体経路阻害剤、好ましくはA-83-01、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK3)経路阻害剤、好ましくはCHIR99021、FGF経路刺激剤、好ましくはFGF2、EGF経路刺激剤、好ましくはEGF、およびVEGF経路刺激剤、好ましくはVEGFを含む、接触させるステップと、を含み、
好ましくは、前記ステップaおよび/または前記ステップbが、約2%O~約5%Oの低酸素培養条件下で実行される、方法。
【請求項11】
前記内胚葉が、後方前腸細胞を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
化合物を対象とする特徴について試験する方法であって、対象とする試験組成物を請求項1~4のいずれかに記載の組成物と接触させるステップを含む、方法。
【請求項13】
前記対象とする特徴が、細胞死、細胞成長、細胞生存、胆汁うっ滞、ミトコンドリア過負荷、ミトコンドリア機能不全を示すROS産生、線維症、細胞硬化、線維症、病状に対する有効性、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記試験組成物が、薬物様分子、治療剤、栄養補給剤、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、肝臓オルガノイドであり、前記対象とする特徴が、NAFLD/胆汁うっ滞/黄疸に対する有効性であり、病状が、前記肝臓オルガノイドで誘発される、請求項12~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
集団におけるドナー個体を特定する方法であって、代表的なプール細胞組成物を作製することと、前記ドナー個体由来の細胞を必要とするレシピエントと免疫学的に適合する細胞を特定することと、を含む、方法。
【請求項17】
表現型の遺伝的基盤を特定する方法であって、
a.2体以上のドナーに由来するプール細胞集団に由来する細胞を含むオルガノイドまたは分化細胞プールを接触させるステップと、
b.前記オルガノイドまたは分化細胞プールを、対象とする物質、好ましくは薬物または薬物様物質と接触させるステップと、
c.前記オルガノイドまたは分化細胞プールにおける対象とする表現型をアッセイするステップと、
d.前記表現型を前記プール細胞集団由来の遺伝子型と相関させるステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年4月14日出願の米国仮出願第62/485,562号、および2017年6月9日出願の米国仮出願第62/517,414号に対する優先権およびそれらの利益を主張する。各々の内容は、全ての目的のためにそれらの全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
大集団の研究に効率的な方法は、当該技術分野における満たされていない要求である。例えば、ある集団における潜在的な新たな薬物または治療の安全性および有効性の研究は、薬物承認のための臨床試験の必要条件である。薬物誘発性肝臓損傷(DILI)用のリスク化合物の前臨床検出は、依然として薬物開発における重要な課題であり、人間が作り出す予測システムの必要性を浮き彫りにしている。すなわち、臨床試験には費用も時間もかかり、多くの薬物は、多くの場合、臨床試験に多大な投資がなされた後に、毒性および/または有効性の欠如の点で不合格になる。ある集団を代表するインビトロ研究ツールを使用した毒性(具体的には、薬物誘発性肝毒性)または有効性の初期決定により、開発までの時間が短縮され、かつ/または臨床試験参加者が避けられるはずの損傷が回避され、かつ/または薬物の発売に関連する費用が削減され得る。したがって、薬物安全性および有効性研究の集団コホートをスクリーニングするための実行可能なインビトロプラットフォームが非常に望ましいであろう。肝機能障害を有する個体等の脆弱集団における初期検出に有用なスクリーニングがさらに望ましい。
【0003】
加えて、遺伝的原因が不明の多くの病状が存在し、それ故に、ある集団に現れる病状の遺伝的基盤を特定するための改善された方法が必要とされている。ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)および他の前駆細胞は、薬物開発のために様々な疾患のヒト特異的モデルを確立する有望な機会を提供する。集団規模のiPSC再プログラミングイニシアチブにより、疾患表現型、薬物安全性、および有効性についての任意の考えられる集団コホートの研究が可能になり得る。しかしながら、各個体の幹細胞の一対一比較は、時間および費用の両方を考慮すると、非効率的であり、全く非現実的である。したがって、様々なドナー由来の前駆細胞のプール試料中の集団表現型をスクリーニングするための実行可能なプラットフォームが非常に望ましいであろう。前駆細胞由来の分化細胞集団およびオルガノイド組成物を作製する方法が当該技術分野で説明されているが、2体以上のドナーに由来する細胞集団および/またはオルガノイドの定方向分化は、異なるドナー由来の細胞の成長および分化を同期させる必要があるため、達成されていない。本開示は、当該技術分野における前述の要求のうちの1つ以上の対処に努める。
【発明の概要】
【0004】
2つ以上のドナー細胞に由来する組成物、具体的には、オルガノイド組成物が開示され、それ故に、1体以上のドナー、またはいくつかの例ではドナー集団の細胞表現が可能になる。所望のドナー集団を代表し得る2つ以上のドナー細胞に由来する分化細胞集団を含む組成物、例えば、オルガノイド組成物を作製する方法がさらに開示される。開示されるオルガノイド組成物を得るのに有用なドナー細胞には、例えば、胚性幹細胞または他の前駆細胞等の前駆細胞が含まれる。開示される方法は、同期したプール前駆細胞集団を産生し、その後、それを定方向分化によりオルガノイド組成物に分化させることができる同期条件を使用する。これらの組成物を使用する方法も開示される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本出願書類は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(複数可)を有する本特許または特許出願刊行物のコピーは、要請に応じて、かつ必要手数料の支払い時に、特許局から提供される。
【0006】
当業者であれば、以下に記載される図面が例証のみを目的とすることを理解する。図面は、決して本教示の範囲を限定するようには意図されていない。
【0007】
図1】ドナー依存的変動を試験するための細胞増殖および代謝の分析を示す。上:iPSCの増殖特性の差を示す細胞増殖アッセイ。iPSCを5×10 4細胞でプレーティングし、細胞数を計数した。下:iPSCの代謝の差を示すメタボロミクス分析。PCAスコアを、30個の代謝物を割り当てたバケツを使用してプロットした。
図2】低酸素培養条件による同期成長動態変動を示す。細胞成長動態を調節することによって、低酸素培養が細胞同期を促進した。上:低酸素培養条件下での細胞の形態。左下:各酸素条件下での細胞増殖。ドナー依存的変動の細胞増殖を2%低酸素条件下で中止した。右下:細胞増殖同期分析。各細胞の成長率の差をプロットした。同期指数(SYNDEX)は、ドナー差標準偏差の逆数である。
図3】化合物カクテル処理による同期成長動態変動を示す。低酸素培養と組み合わせることによって、化合物カクテル処理が細胞同期を支援した。上:阻害剤処理時の細胞増殖。下:細胞増殖同期分析。
図4】複数のドナーに由来するiPSCのプール培養実験を示す。蛍光標識を有する複数のiPSCを混合し、低酸素状態で培養した。蛍光顕微鏡観察およびFACS集団分析の結果として、低酸素条件により、同じディッシュ上の各細胞集団の同期および維持が可能になった。
図5】iPSCプール由来の様々な細胞型の並行分化誘導を示す。プールiPSCの多能性を確認するために、本出願人は、胚体内胚葉、中胚葉、後方前腸、内皮細胞、肝細胞、および肝臓オルガノイドを含む複数の系列の誘導を試みた。遺伝子発現、FACS分析、および特異的機能分析の結果として、プールiPSCが多系列分化の可能性を有することを実証した。
図6】iPSCプールが内皮細胞への分化傾向を打開することを示す。iPSCプールの効果を確認するために、本出願人は、低内皮誘導効率でのiPSC系統を使用した内皮細胞誘導の誘導を試みた。上:各細胞系統およびプール細胞系統における内皮細胞誘導の形態。下:各細胞系統およびプール細胞系統における内皮特異的マーカー発現のFACS分析。内皮分化効率は、プールiPSC培養で著しく改善した。
図7】複数のドナー由来の線維芽細胞から確立されたiPSCの神経分化誘導効率の確認を示す。複数のドナー由来のiPSCのニューロン分化の誘導の23日目に神経突起伸長が観察された。
図8】複数のドナー由来の線維芽細胞から確立されたiPSCの神経分化誘導効率の確認を示す。分化誘導の23日目にニューロン特異的遺伝子の発現量が著しく増加した。
図9】複数のドナー由来の線維芽細胞から確立されたiPSCの神経分化誘導効率の確認を示す。分化の23日目にニューロン特異的マーカーTUJ1、PAX6、およびTHが発現した。
図10】複数のドナー由来の線維芽細胞から確立されたiPSCの神経分化誘導効率の確認を示す。分化の23日目にニューロン特異的マーカーTUJ1、PAX6、およびTHが発現した。
図11】iPSC由来の前腸細胞の凍結方法の確立を示す。iPSC由来の前腸細胞の凍結方法を確立するために、我々は、いくつかの凍結保存条件を試した。凍結および融解の結果として、単一細胞単離細胞の生存率は、クラスター状態の細胞よりも著しく高かった。
図12】iPSC由来の前腸細胞の凍結方法の確立を示す。iPSC由来の前腸細胞の凍結方法を確立するために、本出願人は、凍結細胞を使用した肝臓オルガノイドの生成を試みた。オルガノイド形成の結果として、単一細胞単離細胞のオルガノイド形成効率は、クラスター状態の細胞よりも著しく高かった。
図13】凍結前腸プールからのクローン肝臓オルガノイド形成を示す。本出願人は、凍結前腸プールから肝臓オルガノイドを形成する方法を開発した。それぞれ、10μLのマトリゲル液滴中に5000個の細胞~40000個の細胞をプレーティングすることによって、オルガノイド形成を行った。プール細胞は、蛍光標識前腸細胞(緑色、赤色、青色)および非標識前腸細胞を使用した。
図14】iPSCプールからのクローン肝臓オルガノイド形成を示す。20000個の細胞および40000個の細胞の条件下でオルガノイドの形成に成功した。加えて、形成されたオルガノイドが単色性であり、単一ドナーに由来することを確認した。
図15】プール由来の肝細胞およびオルガノイドにおける鉄蓄積のライブ撮像に基づく検出を示す。プール細胞は、蛍光標識前腸細胞(緑色、青色)および非標識前腸細胞を使用した。鉄蓄積の検出のために、鉄イオンと特異的に反応する赤色蛍光試薬FeRhoNox-1を使用した。
図16】プール由来の肝細胞およびオルガノイドにおける鉄蓄積のライブ撮像に基づく検出を示す。2種類の蛍光標識細胞およびヘモクロマトーシス由来の罹患細胞を、鉄蓄積についての陽性対照として使用して、プール肝細胞を調製した。鉄蓄積の定量的結果は、鉄蓄積がヘモクロマトーシス由来の細胞において著しく高かったことを示す。
図17】プール由来の肝細胞およびオルガノイドにおける鉄蓄積のライブ撮像に基づく検出を示す。二次元肝細胞実験と同様に、2種類の蛍光標識細胞およびヘモクロマトーシス由来の細胞を使用して、プール肝臓オルガノイドを調製した。鉄蓄積の定量的結果は、ヘモクロマトーシス由来の細胞において著しく高かった。
図18】環境DNAおよびドナー特異的SNP PCRを使用したドナー特定の概念的画像によるプール幹細胞培養における非侵襲的ドナー解読方法の開発を示す。
図19】環境DNAおよびドナー特異的SNP PCRを使用したドナー特定の概念的画像によるプール幹細胞培養における非侵襲的ドナー解読方法の開発を示す。
図20】iPSCプールにおける培養培地からのドナー比推定を示す。本出願人は、培養上清中に含まれる環境DNA(「eDNA」)を使用したiPSCプールのドナー比の推定を試みた。結果として、培養培地中のeDNAのPCRにより、細胞比の特定に成功した。培養培地中のeDNA比は、付着細胞とも相関した。
図21】iPSCプールにおける培養培地からのドナー比推定を示す。本出願人は、eDNAによるプール肝細胞および肝臓オルガノイドのドナー比の推定も試みた。結果として、培地中のeDNAのPCRにより、細胞比の特定に成功した。
図22】培養培地中のgDNAによって監視されたドナー比変化。eDNAドナー特定を確認するために、本出願人は、薬物選択によって細胞比変化を監視した。2種類の蛍光標識細胞およびピューロマイシン耐性細胞を陽性対照として使用した。薬物選択の結果として、非耐性iPSCは、処理の2日目に消失した。eDNAドナー特定PCRの結果は、非耐性細胞の比率が2日目から低下し、耐性細胞のみが4日目に検出されたことを示した。
図23】オレイン酸およびトログリタゾンで処理した誘導肝細胞を使用したドロップアウトアッセイ。iPSCプールから調製された肝細胞を使用して、脂肪蓄積および薬物処理についての薬物スクリーニングアッセイを行った。異なるドナーの11個のiPSCをiPSC由来の肝細胞プールに使用した。eDNAに基づくドロップアウトアッセイにより、脂肪蓄積の危険性の高いドナーの細胞が健常ドナー由来の細胞よりも薬物誘発性肝毒性に著しく高い感受性を示したことが確認された。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
別途述べられない限り、用語は、慣例的用法に従って当業者に理解されるものとする。矛盾が生じた場合、定義を含む本明細書を優先する。好ましい方法および材料が以下に記載されるが、本明細書に記載の方法および材料と同様または同等の方法および材料が、本発明の実施または試験に使用され得る。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によりそれらの全体が組み込まれる。本明細書に開示される材料、方法、および実施例は、例証にすぎず、限定するようには意図されていない。
【0009】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「a」、「and」、および「the」は、別途内容が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「方法」への言及は、複数のかかる方法を含み、「用量」への言及は、当業者に既知の1つ以上の用量およびその等価物への言及を含むといった具合である。
【0010】
「約」または「およそ」という用語は、測定システムの限界等の、値がどのように測定または決定されるかに部分的に依存する、当業者によって決定される特定の値に対する許容可能な誤差範囲内にあることを意味する。例えば、「約」は、当該技術分野での実施毎に、1または2以上の標準偏差内であることを意味し得る。あるいは、「約」は、所与の値の最大20%、または最大10%、または最大5%、または最大1%の範囲であることを意味し得る。あるいは、特に生物系または生物学的プロセスに関して、この用語は、ある値の10倍以内、例えば、5倍以内、または2倍以内であることを意味し得る。特定の値が本出願および特許請求の範囲に記載されている場合、別途明記されない限り、特定の値に対する許容可能な誤差範囲内を意味する「約」という用語が想定されるべきである。
【0011】
「個体」、「宿主」、「対象」、および「患者」という用語は、同義に使用され、治療、観察、および/または実験の対象である動物を指す。概して、この用語は、ヒト患者を指すが、方法および組成物は、他の哺乳動物等の非ヒト対象に同等に適用可能であり得る。いくつかの実施形態では、これらの用語は、ヒトを指す。さらなる実施形態では、これらの用語は、小児を指す。
【0012】
本明細書で使用されるとき、「多能性幹細胞(PSC)」という用語は、体のほぼ全ての細胞型、すなわち、内胚葉(胃内膜、胃腸管、肺)、中胚葉(筋肉、骨、血液、泌尿生殖器)、および外胚葉(表皮組織および神経系)を含む3つの胚葉(胚上皮)のうちのいずれかに由来する細胞に分化することができるいずれの細胞も包含する。PSCは、着床前胚盤胞の内細胞塊細胞の子孫であり得るか、またはある特定の遺伝子の発現の強制による成体の体細胞等の非多能性細胞の誘導によって得られ得る。多能性幹細胞は、任意の好適な源に由来し得る。多能性幹細胞源の例としては、ヒト、齧歯類、ブタ、およびウシを含む哺乳類源が挙げられる。
【0013】
本明細書で使用されるとき、一般にiPS細胞とも略される「誘導多能性幹細胞(iPSC)」という用語は、ある特定の遺伝子の「強制」発現を誘導することによって、成体の体細胞等の正常な非多能性細胞から人工的に得られた多能性幹細胞型を指す。hiPSCは、ヒトiPSCを指す。いくつかの実施形態では、iPSCは、ある特定の幹細胞関連遺伝子の成体の線維芽細胞等の非多能性細胞へのトランスフェクションによって得られ得る。トランスフェクションは、レトロウイルス等のウイルスベクターによって達成され得る。トランスフェクトされた遺伝子は、マスター転写調節因子Oct-3/4(Pouf51)およびSox2を含み得るが、他の遺伝子も誘導の効率を向上させる。3~4週間後、少数のトランスフェクトされた細胞が多能性幹細胞と形態学的および生化学的に同様のものとなり始め、典型的には、形態学的選択、倍加時間、またはレポーター遺伝子および抗生物質選択によって単離される。本明細書で使用されるとき、iPSCは、第一世代iPSC、マウスにおける第二世代iPSC、およびヒト誘導多能性幹細胞を含む。いくつかの実施形態では、レトロウイルス系が、4つの重要な遺伝子、Oct3/4、Sox2、Klf4、およびc-Mycを使用してヒト線維芽細胞を多能性幹細胞に形質転換するために使用される。代替実施形態では、レンチウイルス系が、体細胞をOCT4、SOX2、NANOG、およびLIN28で形質転換するために使用される。発現がiPSCにおいて誘導される遺伝子には、Oct-3/4(例えば、Pou5fl)、Sox遺伝子ファミリーのある特定のメンバー(例えば、Sox1、Sox2、Sox3、およびSox15)、Klfファミリーのある特定のメンバー(例えば、Klf1、Klf2、Klf4、およびKlf5)、Mycファミリーのある特定のメンバー(例えば、C-myc、L-myc、およびN-myc)、Nanog、およびLIN28が含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
本明細書で使用されるとき、一般にES細胞とも略される「胚性幹細胞(ESC)」という用語は、多能性であり、かつ初期の胚である胚盤胞の内細胞塊に由来する細胞を指す。本発明の目的のために、「ESC」という用語は、胚性生殖細胞も包含するために広範に使用されることもある。
【0015】
本明細書で使用されるとき、「前駆細胞」という用語は、1つ以上の前駆細胞が自己再生するか、または1つ以上の特殊化細胞型に分化する能力を獲得する本明細書に記載の方法で使用され得るいずれの細胞も包含する。いくつかの実施形態では、前駆細胞は、多能性であるか、または多能性になる能力を有する。いくつかの実施形態では、前駆細胞は、多能性を獲得するために外部因子(例えば、成長因子)の処理に供される。いくつかの実施形態では、前駆細胞は、全能性(または全能)幹細胞、多能性幹細胞(誘導または非誘導)、複能性幹細胞、少能性幹細胞、および単能性幹細胞であり得る。いくつかの実施形態では、前駆細胞は、胚、幼児、小児、または成人由来であり得る。いくつかの実施形態では、前駆細胞は、多能性が遺伝子操作またはタンパク質/ペプチド処理によって付与されるように処理に供された体細胞であり得る。前駆細胞には、胚性幹細胞(ESC)、胚性癌腫細胞(EC)、および胚盤葉上層幹細胞(EpiSC)が含まれる。
【0016】
本出願人は、複数のiPSC間の成長動態変動の同期、ならびに幹細胞プールの特定の細胞型への増殖および分化のためのシステムを開発しており、この特定の細胞型は、所望のタイプのオルガノイドにさらに発達し得るが、2体以上のドナー由来の細胞を含み得る。発生生物学において、細胞分化は、あまり特殊化されていない細胞がより特殊化された細胞型になるプロセスである。本明細書で使用されるとき、外部因子が分化を誘導または制御するために適用される状況下での「定方向分化」、またはより一般的に「分化」という用語は、あまり特殊化されていない細胞が特定の特殊化された標的細胞型になるプロセスを説明し得る。特殊化された標的細胞型の特殊性は、始原細胞の宿命を定義または変更するために使用され得る任意の適用可能な方法によって決定され得る。例示的な方法には、遺伝子操作、化学的処理、タンパク質処理、および核酸処理が含まれるが、これらに限定されない。
【0017】
一態様では、2つ以上の前駆細胞に由来する分化細胞集団を含む組成物が開示され、前記分化細胞集団は、発達中に同期し、すなわち、これらの細胞は、例えば、細胞周期が遅い幹細胞を有糸分裂的に促進し、かつ/または細胞周期が速い幹細胞を阻害することによって、実質的に同じ時点で所望の細胞段階に分化する。同期した分化細胞集団は、2体以上の個体由来の細胞を含み得る。一態様では、同期した分化細胞集団は、胚体内胚葉、中胚葉、外胚葉、後方前腸、内皮、肝細胞、またはオルガノイドから選択され得る。2体以上の個体は、ある特定の態様では、対象とする疾患を有する個体集団または有しない個体集団を含み得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、多能性であるか、または誘導されて多能性になり得る幹細胞。いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は、胚性幹細胞に由来し、これは、次いで、初期哺乳類胚の全能性細胞に由来し、インビトロで無制限の未分化増殖が可能である。胚性幹細胞は、初期の胚である胚盤胞の内細胞塊に由来する多能性幹細胞である。胚芽細胞から胚性幹細胞を得るための方法は、当該技術分野で周知である。ヒト胚性幹細胞H9(H9-hESC)が本明細書に記載の例示的な実施形態で使用されるが、当業者であれば、本明細書に記載の方法およびシステムがいずれの幹細胞にも適用可能であることを理解するであろう。
【0019】
本発明に従って実施形態で使用され得るさらなる幹細胞には、the National Stem Cell Bank(NSCB)、Human Embryonic Stem Cell Research Center at the University of California,San Francisco(UCSF)、WISC cell Bank at the Wi Cell Research Institute、the University of Wisconsin Stem Cell and Regenerative Medicine Center(UW-SCRMC)、Novocell,Inc.(San Diego,Calif.)、Cellartis AB(Goteborg,Sweden)、ES Cell International Pte Ltd(Singapore)、Technion at the Israel Institute of Technology(Haifa,Israel)によってホストされたデータベース、ならびにPrinceton Universityおよびthe University of Pennsylvaniaによってホストされた幹細胞データベースによって提供されるか、またはそれに記載のものが含まれるが、これらに限定されない。本発明に従って実施形態で使用され得る例示的な胚性幹細胞には、SA01(SA001)、SA02(SA002)、ES01(HES-1)、ES02(HES-2)、ES03(HES-3)、ES04(HES-4)、ES05(HES-5)、ES06(HES-6)、BG01(BGN-01)、BG02(BGN-02)、BG03(BGN-03)、TE03(13)、TE04(14)、TE06(16)、UC01(HSF1)、UC06(HSF6)、WA01(H1)、WA07(H7)、WA09(H9)、WA13(H13)、WA14(H14)が含まれるが、これらに限定されない。胚性幹細胞のさらなる詳細は、例えば、Thomson et al.,1998,"Embryonic Stem Cell Lines Derived from Human Blastocysts,"Science 282(5391):1145-1147、Andrews et al.,2005,"Embryonic stem(ES)cells and embryonal carcinoma(EC)cells:opposite sides of the same coin,"Biochem Soc Trans 33:1526-1530、Martin 1980,"Teratocarcinomas and mammalian embryogenesis,"Science 209(4458):768-776、Evans and Kaufman,1981,"Establishment in culture of pluripotent cells from mouse embryos,"Nature 292(5819):154-156、Klimanskaya et al.,2005,"Human embryonic stem cells derived without feeder cells,"Lancet 365(9471):1636-1641で見つけることができ、これらは各々、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0020】
一態様では、分化細胞集団は、オルガノイドを含み得、このオルガノイドは、2体以上のドナー、または2体以上~約1000体のドナー、または約100体のドナー~約500体のドナー由来の前駆細胞に由来する。オルガノイドは、当業者に既知の任意のオルガノイドであり得、例えば、肝臓オルガノイド、胃オルガノイド、腸オルガノイド、脳オルガノイド、肺オルガノイド、骨オルガノイド、軟骨オルガノイド、膀胱オルガノイド、血管オルガノイド、内分泌オルガノイド(例えば、甲状腺、下垂体、副腎等)、感覚オルガノイド(耳、眼、味、舌等)を含み得る。
【0021】
オルガノイド組織を開発する方法が当該技術分野で開示されている。開示される方法は、2体以上の個体由来のiPSC等の前駆細胞、または胚性幹細胞(ES細胞)に由来するオルガノイドの開発を可能にする。結果として得られる「プールオルガノイド」は、2体以上のドナー由来の細胞を組み合わせ、結果として得られるオルガノイドに特有の特性を提供し、その新規の用法を可能にする。様々なオルガノイドを作製する方法が当該技術分野で既知であり、例えば、以下の参考文献:Dekkers,J.F.,Wiegerinck,C.L.,de Jonge,H.R.,Bronsveld,I.,Janssens,H.M.,de Winter-de Groot,K.M.,Brandsma,A.M.,de Jong,N.W.,Bijvelds,M.J.,Scholte,B.J.,et al.(2013).A functional CFTR assay using primary cystic fibrosis intestinal organoids.Nat Med 19,939-945、Lancaster,M.A.,and Knoblich,J.A.(2014).Organogenesis in a dish:modeling development and disease using organoid technologies.Science 345,1247125、Nakamura,T.,and Sato,T.(2018).Advancing Intestinal Organoid Technology Toward Regenerative Medicine.Cell Mol Gastroenterol Hepatol 5,51-60、Sachs,N.,de Ligt,J.,Kopper,O.,Gogola,E.,Bounova,G.,Weeber,F.,Balgobind,A.V.,Wind,K.,Gracanin,A.,Begthel,H.,et al.(2018).A Living Biobank of Breast Cancer Organoids Captures Disease Heterogeneity.Cell 172,373-386e310、Sasai,Y.(2013).Cytosystems dynamics in self-organization of tissue architecture.Nature 493,318-326、Takebe,T.,Sekine,K.,Enomura,M.,Koike,H.,Kimura,M.,Ogaeri,T.,Zhang,R.R.,Ueno,Y.,Zheng,Y.W.,Koike,N.,et al.(2013).Vascularized and functional human liver from an iPSC-derived organ bud transplant.Nature 499,481-484、Takebe,T.,Sekine,K.,Kimura,M.,Yoshizawa,E.,Ayano,S.,Koido,M.,Funayama,S.,Nakanishi,N.,Hisai,T.,Kobayashi,T.,et al.(2017).Massive and Reproducible Production of Liver Buds Entirely from Human Pluripotent Stem Cells.Cell Rep 21,2661-2670、Workman,M.J.,Mahe,M.M.,Trisno,S.,Poling,H.M.,Watson,C.L.,Sundaram,N.,Chang,C.F.,Schiesser,J.,Aubert,P.,Stanley,E.G.,et al.(2017).Engineered human pluripotent-stem-cell-derived intestinal tissues with a functional enteric nervous system.Nat Med 23,49-59に記載されている。
【0022】
一態様では、複数のドナーに由来する分化細胞集団を含む組成物を作製する方法が開示される。分化細胞集団は、2体以上のドナー、例えば、約10体のドナー~約1,000体以上のドナー、または約100~約500体のドナーに由来する細胞集団を含み得る。この方法は、プールiPSC集団を、同期したプールiPSC集団を産生するのに十分な期間にわたって、同期条件に曝露するステップと、同期したプールiPSC集団を、同期したプールiPSC集団を分化細胞集団に分化させるのに十分な「化合物カクテル」と接触させるステップとを含み得る。一態様では、化合物カクテルは、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ阻害剤(MEK/ERK経路阻害剤)、例えば、PD0325901、およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤、例えば、CHIR99021を含み得る。他の態様では、化合物カクテルは、エストロゲン関連受容体ガンマアゴニスト、例えば、GSK5182、Rho結合キナーゼ阻害剤(Rho/ROCK経路阻害剤)、例えば、Y-27632、および1型トランスフォーミング成長因子-b受容体阻害剤、例えば、A-83-01をさらに含み得る。例示的な濃度には、GSK5182の場合は5nM~50μM、PD0325901の場合は1nM~10μM、CHIR99021の場合は3nM~30μM、A83-01の場合は0.5nM~5μM、Y27632の場合は10nM~100μMが含まれる。
【0023】
他の態様では、以下の薬剤が、前述の薬剤の代わりに、またはそれらに加えて使用され得る。
【0024】
RHO/ROCK経路阻害剤:Y-27632二塩酸塩(R&D番号1254)
GSK3経路阻害剤:CHIR99021(R&D番号4423)、ベリリウム、銅、リチウム、水銀、タングステン、6-BIO、ジブロモカンタレリン、ヒメニアルジシン(Enzo Life Sciences)、インジルビン、メリジアニン、CT98014(Axon Medchem)、CT98023(BOC Sciences)、CT99021、TWS119、SB-216763、SB-41528、AR-A014418、AZD-1080、アルステルパウロン(Sigma)、カズパウロン(MedKoo)、ケンパウロン(Sigma)、マンザミンA(Enzo Life Sciences)、パリヌリン、トリカンチン、TDZD-8、NP00111、NP031115、タイドグルーシブ、HMK-32、L803-mts(Sigma)、ケタミン(Sigma)、またはそれらの組み合わせ。かかる薬剤は、約10nM~約100μM、または約100nM~約50μMの量で存在し得る。
【0025】
TGFB経路阻害剤:Stemolecule A83-01(Stemgent番号47132)、SD208、LY2109761、SB525334、ピルフェニドン、GW788388、RepSox、LY2157299、LDN193189塩酸塩、SB431542、ドルソモルフィン、A77-01、GW788388、ドルソモルフィン二塩酸塩、K02288、SB505124、LDN212854三塩酸塩、SB525334、ITD1、SIS3、またはそれらの組み合わせ。かかる薬剤は、約0.5nM~約5μM、または約1nM~約2.5μMの量で存在し得る。
【0026】
MEK/ERK経路阻害剤、PD0325901(R&D番号4192/10)(R&D番号4192/10)、セルメチニブ(AZD6244)、PD0325901、トラメチニブ(GSK1120212)、U0126-EtOH、PD184352(CI-1040)、PD98059、BIX02189、ピマセルチブ(AS-703026)、BIX02188、TAK-733、AZD8330、ビニメチニブ(MEK162、ARRY-162、ARRY-438162)、PD318088、ホノキオール、SL-327、レファメチニブ(RDEA119、Bay86-9766)、ミリセチン、BI-847325、コビメチニブ(GDC-0973、RG7420)、APS-2-79HCl、GDC-0623、またはそれらの組み合わせ。かかる薬剤は、約1nM~約10μM、または約10nM~約5μMの量で存在し得る。
【0027】
エストロゲン関連受容体γ(ERRγ)アゴニスト:GSK5182(Aobious番号AOB1629)、AC186、ダイゼイン、DPN、(R)-DPN、DY131、(S)-エクオール、ERB041、α-エストラジオール、β-エストラジオール、エストロピペート、FERb033、GSK4716、27-ヒドロキシコレステロール、リキリチゲニン、PPT、WAY200070、XCT790、またはそれらの組み合わせ。かかる薬剤は、約5nM~約50μM、または約10nM~約25μMの量で存在し得る。
【0028】
供給源情報:以下のものは、例えば、Selleck Chemical companyから入手することができる:インジルビン、6-BIO、CT99021、TWS119、SB-216763、SB-41528、AR-A014418、AZD-1080、TDZD-8、タイドグルーシブ、SD208、LY2109761、SB525334、ピルフェニドン、GW788388、RepSox、LY2157299、LDN193189塩酸塩、SB431542、ドルソモルフィン、A77-01、GW788388、ドルソモルフィン二塩酸塩、K02288、SB505124、LDN212854三塩酸塩、SB525334、ITD1、SIS3、セルメチニブ(AZD6244)、トラメチニブ(GSK1120212)、U0126-EtOH、PD184352(CI-1040)、PD98059、BIX02189、ピマセルチブ(AS-703026)、BIX02188、TAK-733、AZD8330、ビニメチニブ(MEK162、ARRY-162、ARRY-438162)、PD318088、Honokiol、SL-327、レファメチニブ(RDEA119、Bay86-9766)、ミリセチン、BI-847325、コビメチニブ(GDC-0973、RG7420)、APS-2-79HCl GDC-0623、AC186、ダイゼイン、DPN、(R)-DPN、DY131、(S)-エクオール、ERB041、α-エストラジオール、β-エストラジオール、エストロピペート、FERb033、GSK4716、27-ヒドロキシコレステロール、リキリチゲニン、PPT、WAY200070、XCT790。
【0029】
一態様では、細胞は、少なくとも4日間にわたって培養されて、混合されたドナー細胞集団の同期を可能にする。他の態様では、同期に要する時間は、約1~約6日間、または約2~約5日間、または約4日間であり得る。増殖動態について、非標識幹細胞プールのeDNAに基づく監視または異なって標識された幹細胞プールの画像に基づく分析が使用され得る。一態様では、方法は、多能性の以下のマーカー:NANOG、OCT4、SOX2、SSEA4、およびTRA160が発現するのに十分な期間にわたって実行され得る。一態様では、同期条件は、低酸素培養条件を含み得、例えば、前記低酸素培養条件は、約2%O~約10%O、または約2%~約5%、または約2%、または約3%、または約4%、または約5%、または最大6%、または最大7%、または最大約8%Oである。
【0030】
一態様では、2体以上のドナー由来の分化細胞集団を含む組成物を作製する方法が開示される。分化細胞集団は、2体以上の個体、例えば、約10体の個体~約1,000体のドナー、または約100~約500体のドナーに由来し得る。この方法は、プール内胚葉集団を、同期したプール内胚葉集団を産生するのに十分な期間にわたって、クローン条件に曝露するステップと、前記同期したプール内胚葉集団を、前記同期したプール内胚葉集団を分化細胞集団に分化させるのに十分な化合物カクテルと接触させるステップとを含み得、前記化合物カクテルは、例えば、TGFB受容体経路阻害剤、例えばA-83-01、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK3)経路阻害剤、例えばCHIR99021、FGF経路刺激剤、例えばFGF2、EGF経路刺激剤、例えばEGF、およびVEGF経路刺激剤、例えばVEGFを含む。一態様では、内胚葉は、後方前腸細胞を含み得る。
【0031】
内胚葉集団は、1つ以上の内胚葉細胞を包含するよう意図されている。同様に、後方前腸細胞およびその集団は、1つ以上の後方前腸細胞を包含するよう意図されている。内胚葉細胞および後方前腸細胞はいずれも、当該技術分野で既知の方法、例えば、Cheng,Xin et al."Self-Renewing Endodermal Progenitor Lines Generated from Human Pluripotent Stem Cells."Cell Stem Cell,Volume 10,Issue 4,371-384、Hannan,Nicholas R.F.et al.,"Generation of Multipotent Foregut Stem Cells from Human Pluripotent Stem Cells"Stem Cell Reports,Volume 1,Issue 4,293-306、およびZhang,Ran-Ran et al."Human iPSC-Derived Posterior Gut Progenitors Are Expandable and Capable of Forming Gut and Liver Organoids"Stem Cell Reports,Volume 10,Issue 3,780-793に記載の方法を使用して得られ得る。
【0032】
クローン条件とは、個々のクローンが選択され得る方法で細胞の培養物が産生され得る条件を意味する。例えば、多系列分化能および自己再生能力を有する幹細胞は、Suzuki A,Zheng Y,Kaneko S,et al.Clonal identification and characterization of self-renewing pluripotent stem cells in the developing liver.The Journal of Cell Biology.2002;156(1):173-184.doi:10.1083/jcb.200108066に記載されるように、クローン培養(クローン条件)でクローン的に増殖して、原始幹細胞を維持しながら、子孫として肝細胞および胆管細胞を継続的に産生することができる。他の態様では、クローン培養(クローン条件)は、当該技術分野で典型的な密度と比較して培養物中に低下した密度で播種された細胞の特徴を含み得る。例えば、10μLのマトリゲル中に包埋された1000~40000個の細胞は、100~4000個を超えるクローン由来のオルガノイドを生成するであろう。この密度を使用して、単一ドナー由来の細胞が単離され、単一ドナー由来のオルガノイドを可能にし得る。クローン細胞培養条件は、当業者に容易に理解され、プロトコルの変化も容易に理解されるであろう。
【0033】
一態様では、様々なドナー由来のiPSCのプール試料中の集団表現型のスクリーニングするための実行可能なプラットフォームが開示される。ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)および他の前駆細胞は、薬物開発のために様々な疾患のヒト特異的モデルを確立する有望な機会を提供する。集団規模のiPSC再プログラミングイニシアチブにより、疾患表現型、薬物安全性、および有効性についての任意の考えられる集団コホートの研究が可能になり得る。しかしながら、各個体の幹細胞の一対一比較は、時間および費用の両方を考慮すると、非効率的であり、全く非現実的である。開示される組成物および方法は、単一細胞レベルでの希少個体表現型の前向き特定をさらに可能にする。開示される組成物および方法を使用して、表現型は、単一ディッシュ内で、集団規模でスクリーニングされ、プール試料から個体表現型を捕捉する新たな戦略(「前向きセロミクスアプローチ」と称されるアプローチ)を可能にし得る。かかる集団規模のhiPSCは、薬物安全性および有効性研究のインビトロ集団コホートを提供し、それ故に、当該技術分野における前述の課題に対処することができる。
【0034】
薬物誘発性肝臓損傷(DILI)用のリスク化合物の前臨床検出は、依然として薬物開発における重要な課題であり、人間が作り出す予測システムの必要性を浮き彫りにしている。本出願人は、オルガノイド解像度で人間学的DILI病理を分析するためにプールiPSC由来の肝臓オルガノイドを開発した。ヒトiPSC由来の分化肝臓オルガノイドは、分極肝細胞および分化細胞で覆われた内腔を含み、インビボ胆汁小管様構造を再現する。本出願人は、「LoT」(肝臓オルガノイドに基づく毒性スクリーニング)と称される多重化ライブ撮像を用いたDILIのモデル化のためにこの構造的特徴を活用した。LoTを10個の市販されている薬物で機能的に検証し、胆汁うっ滞およびミトコンドリア毒性に基づくそれぞれの作用機構を区別した(データ示さず)。オルガノイドを脆弱(脂肪症)条件下で導入して、臨床で示された毒性誇張を実証し、続いて、大規模なオルガノイド死から化学的に救助した。このようにして、本出願人は、費用効率の高いプラットフォームで薬物安全性の第1のヒトオルガノイドに基づくモデルを示し、抗DILI療法スクリーニング適用として化合物最適化、機構研究、および精密医療を促進した。さらに、現在の第1相試験または他の試験段階は、脆弱条件のリスク評価プロセスを完全に欠いており、開示されるLoT方法は、毒性誇張を実証し、かつ現在の試験における予測不可能な肝毒性による休薬に起因する多額の財務損失に対処するために、脆弱(例えば、脂肪症)条件の使用を可能にする。
【0035】
一態様では、開示される方法および組成物は、集団規模のhiPSC再プログラミングを可能にし、これは、次いで、薬物安全性および有効性試験のインビトロ集団コホートを可能にする。例えば、「健常」または「疾患」iPSCバンクは、本明細書に開示される方法を使用して開発され得る。例えば、単一の「iPSCバンク」は、複数のドナーに由来する個々のiPSCを含み得る。いくつかの例では、iPSCドナー系統の数は、約100個のiPSCドナー系統~最大1000個を超えるiPSCドナー系統、または2個以上~約500個のドナー系統であり得る。本開示は、iPSCドナー細胞の同期に成功し、iPSCドナー細胞がプールされて2体以上の個体に由来するiPSC細胞の「プールiPSC」組成物または「バンク」を作製する方法を提供する。その後、プールiPSCは、オルガノイドの産生のための分化方法に供され得る。オルガノイドは、例えば、iPSC細胞を同期させる能力により所望の集団を代表する細胞を含むiPSCバンク由来の肝臓オルガノイド(「ミニ肝臓」)であり得る。
【0036】
一態様では、iPSCバンクに由来する肝臓オルガノイドは、薬物スクリーニングおよび移植適用、第I相試験、例えば、正常細胞および易感染性細胞の両方(例えば、脂肪肝細胞/オルガノイド)の肝毒性スクリーニング、NAFLD/胆汁うっ滞創薬スクリーニング、栄養スクリーニング(例えば、TPN、栄養補助剤等)、または第II相試験、栄養およびDILI精密スクリーニング、ミニ臓器移植、弾性血漿産物生成、またはFXRアゴニストとして(胆汁酸を有する口腔内オルガノイドの送達)を含む様々な目的のために使用され得る。具体的には、胆汁酸またはその類似体は、FXR(ファルネソイドX受容体)アゴニストとして知られており、NASHおよび他の肝疾患の治療に現在使用されている。開示されるオルガノイドは、胆汁酸の産生に使用され得、これは、NASHおよび他のかかる肝疾患の治療に使用され得る。他の態様では、同様の化合物が経口投与されるときに、オルガノイド自体がFXRアゴニストとしてインビボで使用され得る。
【0037】
一態様では、化合物を対象とする特徴について試験する方法が開示される。この方法は、対象とする試験組成物を、上述の組成物であるプールオルガノイド組成物と接触させるステップを含み得る。対象とする特徴は、細胞死、細胞成長、細胞生存、胆汁うっ滞、ミトコンドリア過負荷、ミトコンドリア機能不全を示すROS産生、線維症、細胞硬化、線維症、病状に対する有効性、およびそれらの組み合わせから選択され得る。試験化合物は、薬物様分子、治療剤、栄養補給剤、またはそれらの組み合わせから選択され得る。一態様では、組成物は、NAFLD、胆汁うっ滞、および/または黄疸と同様または同一の誘発性病状または固有の病状を有する肝臓オルガノイドであり、前記対象とする特徴は、1つまたは複数のかかる病状に対する有効性である。
【0038】
一態様では、集団におけるドナー個体を特定する方法が開示される。この方法は、代表的なプール細胞組成物を作製するステップと、前記ドナー個体由来の細胞を必要とするレシピエントと免疫学的に適合する細胞を特定するステップとを含み得る。
【0039】
一態様では、表現型の遺伝的基盤を特定する方法が開示される。この方法は、2体以上のドナーに由来するプール細胞集団に由来する細胞を含むオルガノイドまたは分化細胞プールを接触させるステップと、前記オルガノイドまたは分化細胞プールを、対象とする物質、例えば、薬物または薬物様物質(または細胞応答の決定が所望される任意の物質)と接触させるステップと、前記オルガノイドまたは分化細胞プールにおける対象とする表現型をアッセイするステップと、前記表現型を前記プール細胞集団由来の遺伝子型と相関させるステップとを含み得る。
【0040】
一態様では、「ドロップアウトアッセイ」が開示される。この態様では、無細胞DNA(cfDNA)の一形態である環境におけるゲノムDNA(環境DNA、または「eDNA」)は、海および土壌等の生物多様性を決定するための環境に存在する。循環腫瘍由来のcfDNAの検出は、癌精密医療の進化しつつある要素である。本出願人は、細胞が細胞培養上清中でeDNAを測定可能な量で産生することを見出した。注目すべきことに、プール幹細胞培養に適用された場合、それぞれのドナーの定量的検出は、培養物中の細胞比と相関する。したがって、本出願人は、eDNAに基づく非侵襲的ドナー特定方法が培養上清中のeDNAによるプール幹細胞培養に有効な解読戦略であると結論付けた。培養上清中のeDNAのPCRは、ドナー特異的SNPプライマーを使用して実行され得る。各SNPプライマーが標準化され得、iPSCプールのドナー比は、培養上清中に含まれるeDNAを使用して推定され得る(図19を参照のこと)。結果として、培地中のeDNAのPCRにより、細胞比の決定に成功し得る(図20を参照のこと)。加えて、これらの方法論は、iPSCプールに由来する肝細胞および肝臓オルガノイド等の分化子孫に適用され得る(図21を参照のこと)。eDNAドナー特定の感度を確認するために、本出願人は、薬物選択による細胞比変化を監視した。3体のドナー(2体の蛍光標識ドナーおよび1体のピューロマイシン耐性ドナー)を混合し、ピューロマイシン含有培地で培養した。eDNAに基づくドナー検出の結果として、ピューロマイシン耐性細胞が経時的に優勢になった一方で、2体の他のドナーは、ピューロマイシン毒性により死滅した。これらの結果を並列蛍光撮像によってさらに確認し、特定のドナードロップアウトが、以下で「ドロップアウトアッセイ」と称されるeDNA方法によって測定され得ることを示唆した(図22を参照のこと)。最後に、薬物スクリーニングアッセイの原理証明として、11個のiPSCプールから調製された脂肪処理肝細胞を使用して、肝毒性薬物処理を行った(図23を参照のこと)。eDNAに基づくドロップアウトアッセイにより、脂肪蓄積の危険性の高いドナー由来の細胞が健常ドナー由来の細胞よりも薬物誘発性肝毒性に著しく高い感受性を示したことが確認された(図23)。
【0041】
一態様では、「適応的免疫適合」が開示される。この態様では、「パネル」を作成するためのiPSCの代表的な集団プールが作製され得る。これらのプールのうちの少なくともいくつかは、潜在的な患者(レシピエント)と免疫学的に適合し得る。このアプローチを使用して、幹細胞のレシピエントとの事前適合を免除することができ、それ故に、幹細胞ライブラリの収集に要する多大な労働力を削減し、バンキングに関連する費用も削減することができる。
【0042】
一態様では、表現型の遺伝的基盤を特定する方法が開示される。この方法は、プール患者からオルガノイドを開発するステップと、薬物等の対象とする物質を曝露するステップと、プールにおける個体応答(表現型)を分析するステップと、元のゲノムデータを再分析して、表現型を適合させてゲノム寄与を理解するステップとを含み得る。
【実施例0043】
以下の非限定的な実施例は、本明細書に開示される本発明の実施形態をさらに例証するために提供される。当業者であれば、以下の実施例に開示される技法が、本発明の実施において良好に機能することが見出されたアプローチを代表するものであり、それ故に、その実施のための様式の例を構成すると見なされ得ることを理解するはずである。しかしながら、当業者であれば、本開示を考慮して、多くの変更が開示される特定の実施形態に加えられ得ることを理解すべきであり、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、依然として同様または類似の結果を得るはずである。
【0044】
複数のiPSC間の成長動態変動の同期
本出願人は、低酸素条件を使用して成長動態変動を同期させることができることを示した。低酸素培養方法により、成長同期に成功した。本出願人は、酸素および阻害剤処理を含む同期要因の特定に成功した。例えば、エストロゲン関連受容体ガンマアゴニスト(GSK5182)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ阻害剤(PD0325901)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤(CHIR99021)、Rho結合キナーゼ阻害剤(Y-27632)、および1型トランスフォーミング成長因子-b受容体阻害剤(A-83-01)の存在および不在下での、周囲および低酸素条件下での細胞成長を使用して、複数のドナー由来の細胞を同期させることができる。一態様では、2%O2条件の低酸素培養方法を使用して、各細胞集団における成長同期および維持を成功させることができる。
【0045】
幹細胞プールの特定の細胞型への増殖および分化
本出願人は、iPSCプールからの様々な細胞型の共分化誘導をさらに実証した。プール細胞が多系列分化に適格であり、iPSCプールが内皮細胞への分化傾向を打開することを示す、DE、中胚葉、後方前腸、内皮誘導(および管形成)、肝細胞誘導、肝臓オルガノイド誘導。
【0046】
後に単一細胞レベルで個体を解読するために使用することができる大集団を有するiPSCプール。例えば、10~15個の細胞系統プールを肝臓オルガノイドに分化させることができ、ゲノムDNAおよびcDNAの両方を配列決定することができる。単一細胞をDrop-seq(大規模単一細胞配列決定法)で分析して、ドナー差効果および希少集団効果を検出することができる。かかる幹細胞同期アプローチにより、ディッシュ内で集団表現型を評価するための前例のない有力なアプローチが提供され、ディッシュ内での臨床試験の実施、ならびに薬物開発プロセスおよび精密医療の促進を可能にし得る。
【0047】
ディッシュ内での「ヒトオルガノイド試験」(HoT)
iPSCパネルにプールした集団、例えば、アジア集団、米国集団、およびアフリカ集団を、iPSC-オルガノイドパネルにプールすることができる。多重化ハイコンテント撮像を使用して、様々な細胞パラメータを測定することができる。かかるパラメータには、例えば、細胞死、胆汁うっ滞、ミトコンドリア過負荷、およびROS産生が含まれる。かかるパラメータを、対象とする1つ以上の化合物に応じて評価することができる。このシステムを、有効性、安全性、移植療法、および適応的免疫適合を含む薬物開発のために使用することができる。
【0048】
ドナー依存的変動の分析。
各細胞のドナー依存性を試験するための細胞増殖および代謝を分析することができる。NMRに基づくメタボロミクスデータおよび細胞増殖データによって決定される各iPSCの細胞増殖および代謝は、非常に異なる場合がある。
【0049】
細胞同期条件のスクリーニング。1)第一に、細胞成長動態を調節することによって、成長動態変動物を低酸素培養条件(約2%~約5%O2)下で同期させることができる。2)化合物カクテルを使用して、iPSC同期を促進することができる。低酸素培養と組み合わせることによって、化合物カクテル処理が細胞同期を支援することができる。SYNDEX(同期指数)を使用して、ドナー差標準偏差の逆数を示すことができる。
【0050】
複数ドナーiPSCのプール。低酸素条件により、同じディッシュ上での各細胞集団の同期および維持が可能になり得る。
【0051】
iPSCプールにおける希少表現型の検出。一態様では、希少表現型を、iPSCプール組成物において検出することができる。例えば、ヘモクロマトーシスの検出のために、当該技術分野で既知の方法に従って、個体1および個体2および個体3由来のiPSCをプールし、共分化に供して、肝臓オルガノイドを形成することができる。結果として得られる肝臓オルガノイド中の鉄蓄積をライブ撮像によって検出することができる。その後、ヘモクロマトーシス表現型を、鉄累積状態のプールオルガノイドから区別することができる。ヘモクロマトーシス集団を、プールオルガノイドから区別することができる。したがって、この方法は、プール試料における希少疾患効果の影響の検出に有用であり得る。
【0052】
PSCの維持
本研究で使用したTkDA3ヒトiPSCクローンは、K.EtoおよびH.Nakauchiから好意的に提供されたものであった。本研究で使用したTkDA3ヒトiPSCクローンは、K.EtoおよびH.Nakauchiから好意的に提供されたものであった。1231A3、317D6、1383D6、およびFF01は、Kyoto University(Japan)から寄贈されたものであった。CW027、CW077、CW150、およびWD90、91、92をCoriell(NJ,USA)から購入した。ヒトiPSC系統を以前に説明されているように維持した(Takebe et al.,2015、Takebe et al.,2014)。未分化hiPSCを、1/30希釈、37℃、5%COでマトリゲル(Corning Inc.,NY,USA)をコーティングしたプレート上のmTeSR1培地(StemCell technologies,Vancouver,Canada)中の無フィーダー条件下で維持した。マルチガスインキュベーターMCO-19MUV(Panasonic,Japan)を使用して、培養酸素条件を、2%、5%、および周囲(20%)で行った。
【0053】
PSCの同期のための阻害剤処理
6マルチウェルプレートで培養した後、成長同期のために細胞を阻害剤で処理した。以下の抗体:GSK5182(エストロゲン関連受容体γアゴニスト)、PD0325901(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ阻害剤)、CHIR99021(グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3阻害剤)、Y-27632(Rho結合キナーゼ阻害剤)、およびA-83-01(1型トランスフォーミング成長因子-b受容体阻害剤)を使用した。
【0054】
PSCの胚体内胚葉への分化
以前に説明されている方法にわずかに変更を加えて(Spence et al.,2011)、hiPSCの胚体内胚葉への分化を誘導した。簡潔には、hiPSCのコロニーAccutase(Thermo Fisher Scientific Inc.,Waltham,MA,USA)中で単離した。150000細胞/mLをマトリゲルコーティング培養プレート(VWR Scientific Products,West Chester,PA)上にプレーティングした。培地を、1日目に100ng/mLアクチビンA(R&D Systems,Minneapolis,MN)および50ng/mL骨形態形成タンパク質4(BMP4、R&D Systems)、2日目に100ng/mLアクチビンAおよび0.2%ウシ胎仔血清(FCS、Thermo Fisher Scientific Inc.)に、3日目に100ng/mLアクチビンAおよび2%FCSを含有するRPMI1640培地(Life Technologies,Carlsbad,CA)に変えた。4~6日目に、細胞を、500ng/mL線維芽細胞成長因子(FGF4、R&D Systems)および3μM CHIR99021(Stemgent,Cambridge,MA,USA)を含有する、B27(Life Technologies)およびN2(Gibco,Rockville,MD)を有するAdvanced DMEM/F12(Thermo Fisher Scientific Inc.)で培養した。細胞分化のための培養物を、5%CO2/95%大気の雰囲気下で、37℃で維持し、培地を毎日交換した。分化胚体内胚葉は、7日目にプレート上で出芽を示した。
【0055】
後方前腸(pFG)細胞の凍結
培地を細胞培養フラスコから慎重に吸引する(PBSでのすすぎは不要である)。細胞を覆うのに十分な量(典型的には、6ウェルプレートの場合、1mL/ウェル)でAccutaseをフラスコに即座に添加する。フラスコを37℃のインキュベーター内に5~6分間配置する。フラスコを調べて、細胞が丸みを帯びているかを確認する。フラスコを手のひらで叩いて、いかなる「固着物」も取り除く。細胞を穏やかに分散させる。洗浄培地を添加し、試料を取り出して、細胞を計数する。200~300×gで3分間遠心分離する。上清を吸引する。mTESR1+Rock阻害剤(10uM)を添加する。細胞をプレーティングする(維持のために2~5×10)。pFG細胞を継代する。凍結バイアルを、細胞系統、細胞数、データ、凍結培地、成長培地、およびプレートコーティング(ラミニンまたはマトリゲル)でラベル付けする。上清を吸引する。500uLのCell Banker1を0.5~2×10細胞に添加する。バイアルをNalgene凍結容器に24時間にわたって添加する。-80℃で保管するか、または長期保管のために液体窒素に移す。
【0056】
脂質および鉄の生細胞撮像
超低接着6マルチウェルプレートで培養した後、5~10個のHLOを採取し、Microslide 8 Well Glass Bottomプレート(Ibidi,WI,USA)中に播種し、生細胞染色に供した。以下の抗体:脂質の場合はBODIPY(登録商標)493/503(Thermo Fisher Scientific Inc.)および鉄蓄積の場合はFeRhoNox-1 546(Goryokagaku Inc.)を使用した。核染色をNucBlue Live ReadyProbes Reagent(Thermo Fisher Scientific Inc.)で標識した。HLOを可視化し、KEYENCE BZ-X710 Fluorescence Microscope(Japan)上で走査した。最終脂質滴体積をIMARIS8で計算し、各オルガノイドサイズで正規化した。
【0057】
全てのパーセンテージおよび比率は、別途示されない限り、重量で計算される。
【0058】
全てのパーセンテージおよび比率は、別途示されない限り、全組成物に基づいて計算される。
【0059】
本明細書全体を通して記載されるあらゆる最大数値限定には、より小さいあらゆる数値限定が、かかるより小さい数値限定が本明細書に明確に記載されているかのように含まれることを理解すべきである。本明細書全体を通して記載されるあらゆる最小数値限定には、より大きいあらゆる数値限定が、かかるより大きい数値限定が本明細書に明確に記載されているかのように含まれる。本明細書全体を通して記載されるあらゆる数値範囲には、かかるより広い数値範囲内に入るあらゆるより狭い数値範囲が、かかるより狭い数値範囲が全て本明細書に明確に記載されているかのように含まれる。
【0060】
本明細書に開示される寸法および値は、列挙された正確な数値に厳密に限定されるものと理解されるべきではない。むしろ、別途指定されない限り、かかる各寸法は、列挙される値およびその値の周囲の機能的に同等の範囲の両方を意味するよう意図されている。例えば、「20mm」と開示される寸法は、「約20mm」を意味するよう意図されている。
【0061】
いずれの相互参照される特許もしくは出願または関連特許もしくは出願を含む、本明細書で引用される全ての文書は、明確に除外されるか、または別様に限定されない限り、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。いずれの文献の引用も、それが本明細書に開示または特許請求されるいずれの発明に対する先行技術であると認めるものではなく、あるいは、それが、単独で、または任意の他の参考文献(複数可)と組み合わせて、かかる発明すべてを教示、示唆、または開示すると認めるものではない。さらに、本明細書における用語の任意の意味または定義が、参照により組み込まれた文書における同じ用語の意味または定義と矛盾する場合、本明細書におけるその用語に割り当てられた意味または定義が優先されるものとする。
【0062】
本発明の特定の実施形態が例証および説明されているが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な他の変更および修正が加えられ得ることは当業者には明らかであろう。したがって、添付の特許請求の範囲において、本発明の範囲内の全てのかかる変更および修正を網羅するよう意図されている。
図1
図2
図3
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【手続補正書】
【提出日】2023-04-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プール前駆細胞集団を同期する方法であって
a)プール前駆細胞集団を、同期したプール前駆細胞集団を産生するのに十分な期間にわたって、同期条件に曝露するステップと、
b)前記同期したプール前駆細胞集団を、前記同期したプール前駆細胞集団を同期分化細胞集団に分化させるのに十分な期間および条件下で培養するステップと、
c)前記同期分化細胞集団を凍結同期分化細胞集団に凍結するステップと、および、
d)前記凍結同期分化細胞集団を融解同期分化細胞集団に融解するステップを含み、
前記プール前駆細胞集団は、2以上のドナーに由来する多能性幹細胞を含み、
前記同期条件が、MEK/ERK経路阻害剤、およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK3)経路阻害剤を含む化合物カクテル、および、低酸素培養条件を含む、方法。
【請求項2】
前記プール前駆細胞集団は、10ドナー~1000ドナーに由来する多能性幹細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多能性幹細胞は、誘導多能性幹細胞、胚性幹細胞、胚性癌腫細胞、または、胚盤葉上層幹細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記MEK/ERK経路阻害剤は、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ阻害剤である、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記MEK/ERK経路阻害剤は、PD0325901である、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記GSK3経路阻害剤は、CHIR99021である、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記同期したプール前駆細胞集団を産生するのに十分な期間は、1~6日間である、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記カクテルが、
エストロゲン関連受容体ガンマ(ERRγ)アゴニスト、RHO/ROCK経路阻害剤、および1型トランスフォーミング成長因子-b(TGFB)受容体経路阻害剤、をさらに含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記ERRγアゴニストはGSK5182である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記RHO/ROCK経路阻害剤はRho結合キナーゼ阻害剤である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記RHO/ROCK経路阻害剤はY-27632である、請求項8~10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記TGFB受容体経路阻害剤はA-83-01である、請求項8~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
、前記低酸素培養条件が、2%O ~10%Oである、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記同期分化細胞集団は、胚体内胚葉、中胚葉、後方前腸、内皮細胞、肝細胞、およびオルガノイドを含む、請求項1~13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
前記融解同期分化細胞集団は、後方前腸細胞を含む、請求項1~14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
前記融解同期分化細胞集団をオルガノイド組成物にさらに分化させるステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
凍結同期分化細胞集団を含む組成物。
【請求項18】
融解同期分化細胞集団を含む組成物。
【請求項19】
複数のオルガノイドを含むオルガノイド組成物であって、前記複数のオルガノイドは、融解同期分化細胞集団から形成されたものである、オルガノイド組成物。
【請求項20】
化合物を対象とする特徴について試験する方法であって、対象とする試験組成物を請求項18に記載の組成物または請求項19に記載のオルガノイド組成物と接触させるステップを含む、方法。
【請求項21】
前記対象とする特徴が、細胞死、細胞成長、細胞生存、胆汁うっ滞、ミトコンドリア過負荷、ミトコンドリア機能不全を示すROS産生、線維症、細胞硬化、線維症、病状に対する有効性、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記試験組成物が、薬物様分子、治療剤、栄養補給剤、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記オルガノイド組成物が、肝臓オルガノイドであり、前記対象とする特徴が、NAFLD/胆汁うっ滞/黄疸に対する有効性であり、病状が、前記肝臓オルガノイドで誘発される、請求項20~22のいずれか1つに記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
大集団の研究に効率的な方法は、当該技術分野における満たされていない要求である。例えば、ある集団における潜在的な新たな薬物または治療の安全性および有効性の研究は、薬物承認のための臨床試験の必要条件である。薬物誘発性肝臓損傷(DILI)用のリスク化合物の前臨床検出は、依然として薬物開発における重要な課題であり、人間が作り出す予測システムの必要性を浮き彫りにしている。すなわち、臨床試験には費用も時間もかかり、多くの薬物は、多くの場合、臨床試験に多大な投資がなされた後に、毒性および/または有効性の欠如の点で不合格になる。ある集団を代表するインビトロ研究ツールを使用した毒性(具体的には、薬物誘発性肝毒性)または有効性の初期決定により、開発までの時間が短縮され、かつ/または臨床試験参加者が避けられるはずの損傷が回避され、かつ/または薬物の発売に関連する費用が削減され得る。したがって、薬物安全性および有効性研究の集団コホートをスクリーニングするための実行可能なインビトロプラットフォームが非常に望ましいであろう。肝機能障害を有する個体等の脆弱集団における初期検出に有用なスクリーニングがさらに望ましい。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 米国特許出願公開第2010/0075295号明細書
(特許文献2) 国際公開第2015/075175号
(特許文献3) 米国特許出願公開第2013/0095567号明細書
(特許文献4) 米国特許出願公開第2014/0243227号明細書
(非特許文献)
(非特許文献1) RIEDINGER et al."Reversib|e shutdown of replicon initiation by transient hypoxia in Ehrlich ascites cells: Dependence of initiation on short-lived protein," Eur J Biochem,01 December 1992 (01.12.1992).Vol.210,No.2,Pgs.389-398
【外国語明細書】