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特開2023-89119CNSの疾患および損傷を処置するための全身における制御性T細胞のレベルまたは活性の低下
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089119
(43)【公開日】2023-06-27
(54)【発明の名称】CNSの疾患および損傷を処置するための全身における制御性T細胞のレベルまたは活性の低下
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230620BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230620BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230620BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230620BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61P25/28 ZNA
A61P25/02
A61P21/00
A61P37/02
A61K39/395 N
C07K16/28
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023064537
(22)【出願日】2023-04-12
(62)【分割の表示】P 2021065556の分割
【原出願日】2016-07-13
(31)【優先権主張番号】14/797,894
(32)【優先日】2015-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】516040109
【氏名又は名称】イェダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YEDA RESEARCH AND DEVELOPMENT CO.LTD.
【住所又は居所原語表記】at the Weizmann Institute of Science, P.O.Box 95, 7610002 Rehovot, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アイゼンバッハ-シュワルツ、ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】バルーク、クティ
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンツワイク、ネタ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】中枢神経系(CNS)の疾患、障害、状態または損傷を処置するための薬学的組成物を提供すること。
【解決手段】自己免疫性神経炎症性疾患の再発寛解型多発性硬化症(RRMS)を含まないCNSの疾患、障害、状態または損傷の処置において使用するための、1つ以上の免疫チェックポイントによって免疫系に課された制限の解除によって個体における全身免疫抑制のレベルの低下を引き起こす活性な作用物質を含む薬学的組成物が提供され、前記1つ以上の免疫チェックポイントは、ICOS-B7RP1、T細胞活性化のVドメインIg抑制因子(VISTA)、B7-CD28様分子、CD40L-CD40、CD28-CD80、CD28-CD86、B7H3、B7H4、B7H7、BTLA-HVEM、CD137-CD137L等からなる群より選択される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病及び筋委縮性側索硬化症から選ばれる中枢神経系(CNS)の疾患の
処置において使用するための、1つ以上の免疫チェックポイントによって免疫系に課され
た制限の解除によって全身免疫抑制のレベルの低下を引き起こす活性な作用物質を含む、
薬学的組成物であって、
ここで、前記活性な作用物質は、OX40-OX40L免疫チェックポイントに対する
抗体であり、
前記薬学的組成物は、少なくとも2コースの治療を含む投与レジメンによって投与され
、治療の各コースは、処置セッションに続く、前記薬学的組成物を個体に投与しない非処
置のセッションを順に含み、
前記処置セッション中の投与が反復投与である場合、前記非処置セッションの期間が前
記処置セッション中の反復投与間の期間よりも長く;
前記薬学的組成物の投与が、IFNγ産生白血球の全身における存在又は活性の増加を
伴う全身免疫抑制のレベルを一過性に低下させる、薬学的組成物。
【請求項2】
前記全身免疫抑制のレベルの低下を引き起こし、それによって、エフェクターT細胞の
全身における存在または活性の増加を引き起こす、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記1つ以上の免疫チェックポイントの遮断によって免疫抑制の解除を引き起こす、請
求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記活性な作用物質が、抗OX40L抗体である、請求項1~3のいずれか1項に記載
の薬学的組成物。
【請求項5】
前記処置セッションが、前記個体への前記薬学的組成物の投与を含み、前記処置セッシ
ョンは、少なくともIFNγ産生白血球の全身における存在またはレベルが基準より高く
なるまで維持され、前記投与は、前記非処置セッション中は休止され、前記非処置セッシ
ョンは、前記レベルが前記基準より高い限り維持され、
前記基準は、
(a)前記投与前の前記個体から得られた最新の血液サンプルにおいて測定されたIF
Nγ産生白血球の全身における存在または活性のレベル;または
(b)CNSの疾患、障害、状態または損傷に苦しんでいる個体の集団に特徴的なIF
Nγ産生白血球の全身における存在または活性のレベル
から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記処置セッション中の投与が、単回投与である、請求項1~5のいずれか1項に記載
の薬学的組成物。
【請求項7】
前記処置セッション中の投与が、反復投与である、請求項1~5のいずれか1項に記載
の薬学的組成物。
【請求項8】
前記反復投与が、1、2、3、4、5、6日、1週間、2週間、3週間、又は4週間ご
とに1回行われる、請求項7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記反復投与が、1週間に1回行われる、請求項7に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記反復投与が、4週間ごとに1回行われる、請求項7に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記処置セッションが、3日~4週間である、請求項1~10のいずれか1項に記載の
薬学的組成物。
【請求項12】
前記非処置期間が、1週間~6ヶ月である、請求項1~11のいずれか1項に記載の薬
学的組成物。
【請求項13】
前記処置が、CNSの認知機能を改善する、請求項1~12のいずれか1項に記載の薬
学的組成物。
【請求項14】
前記認知機能が、学習、記憶、心象の創造、思考、自覚、推理、空間能力、発話および
言語技能、言語習得および判断注意の能力からなる群より選ばれる1種以上である、請求
項13に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して、循環中の全身免疫抑制のレベルを一過性に低下させることによって
、中枢神経系(CNS)の疾患、障害、状態または損傷を処置するための方法および組成
物に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
ほとんどの中枢神経系(CNS)の病態は、疾患の進行の一部である、共通の神経炎症
性の構成要素を共有する。これらの病態には、進行性の記憶喪失および認知機能喪失を特
徴とする加齢性の神経変性疾患であるアルツハイマー病(AD)があり、アルツハイマー
病では、アミロイド-ベータ(Aβ)ペプチド凝集物の蓄積が、CNSにおける炎症カス
ケードにおいて重要な役割を果たし、最終的には神経損傷および組織破壊に至ると示唆さ
れた(Akiyama et al,2000;Hardy & Selkoe,200
2;Vom Berg et al,2012)。神経変性疾患における慢性神経炎症反
応にもかかわらず、神経変性疾患における免疫抑制ベースの治療を研究した過去10年間
にわたる臨床研究および前臨床研究は、なぜ抗炎症薬が不十分であるかについての問題を
提起した(Breitner et al,2009;Group et al,200
7;Wyss-Coray & Rogers,2012)。本発明者らは、ADおよび
類似の疾患ならびにCNS損傷の既存の治療の欠点を克服する新規の解決策を提供する;
この方法は、CNSの維持および修復における全身および中枢の免疫系の種々の構成要素
の役割の本発明者らのユニークな理解に基づく。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Akiyama et al,2000
【非特許文献2】Hardy & Selkoe,2002
【非特許文献3】Vom Berg et al,2012
【非特許文献4】Breitner et al,2009
【非特許文献5】Group et al,2007
【非特許文献6】Wyss-Coray & Rogers,2012
【発明の概要】
【0004】
(発明の要旨)
1つの態様において、本発明は、自己免疫性神経炎症性疾患の再発寛解型多発性硬化症
(RRMS)を含まないCNSの疾患、障害、状態または損傷の処置において使用するた
めの、1つ以上の免疫チェックポイントによって免疫系に課された制限の解除によって個
体における全身免疫抑制のレベルの低下を引き起こす活性な作用物質を含む薬学的組成物
を提供し、ここで、前記薬学的組成物は、少なくとも2コースの治療を含む投与レジメン
による投与のための薬学的組成物であり、治療の各コースは、処置セッションに続く非処
置のインターバルセッションを順に含み;前記1つ以上の免疫チェックポイントは、IC
OS-B7RP1、T細胞活性化のVドメインIg抑制因子(V-domain Ig
suppressor of T cell activation)(VISTA)、
B7-CD28様分子、CD40L-CD40、CD28-CD80、CD28-CD8
6、B7H3、B7H4、B7H7、BTLA-HVEM、CD137-CD137L、
OX40L、CD27-CD70、インターフェロン遺伝子刺激因子(STimulat
or of INterferon Genes)(STING)、T細胞免疫グロブリ
ンおよび免疫受容抑制性チロシンモチーフ(immunoreceptor tyros
ine-based inhibitory motif)ドメイン(TIGIT)およ
びA2aR-アデノシンおよびインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)
-L-トリプトファンからなる群より選択される。
【0005】
別の態様において、本発明は、自己免疫性神経炎症性疾患の再発寛解型多発性硬化症(
RRMS)を含まない中枢神経系(CNS)の疾患、障害、状態または損傷を処置するた
めの方法を提供し、前記方法は、それを必要とする個体に、本発明にかかる1つ以上の免
疫チェックポイントによって免疫系に課された制限の解除によって全身免疫抑制のレベル
の低下を引き起こす活性な作用物質を含む薬学的組成物を投与する工程を含み、ここで、
前記薬学的組成物は、少なくとも2コースの治療を含む投与レジメンによって投与され、
治療の各コースは、処置セッションに続く非処置期間のインターバルセッションを順に含
み、前記1つ以上の免疫チェックポイントは、ICOS-B7RP1、T細胞活性化のV
ドメインIg抑制因子(VISTA)、B7-CD28様分子、CD40L-CD40、
CD28-CD80、CD28-CD86、B7H3、B7H4、B7H7、BTLA-
HVEM、CD137-CD137L、OX40L、CD27-CD70、インターフェ
ロン遺伝子刺激因子(STING)、T細胞免疫グロブリンおよび免疫受容抑制性チロシ
ンモチーフドメイン(TIGIT)およびA2aR-アデノシンおよびインドールアミン
-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)-L-トリプトファンからなる群より選択される
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A-B】図1A~Bは、ADの5XFADトランスジェニックマウスモデル(AD-Tg)における疾患進行に沿った脈絡叢(CP)活性を示している。(A)同齢のWTコントロールに対する変化倍率(fold-change)として示されている、1、2、4および8月齢のAD-Tgマウスから単離されたCPにおける、RT-qPCRによって測定された遺伝子icam1、vcam1、cxcl10およびccl2のmRNA発現レベル(1群あたりn=6~8;各時点についてスチューデントt検定)。(B)上皮タイトジャンクション分子クローディン-1、Hoechst核染色およびインテグリンリガンドICAM-1を免疫染色した、8月齢のAD-Tgマウスおよび同齢のWTコントロールのCPの代表的な顕微鏡像(スケールバー、50μm)。すべてのパネルにおいて、エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
図2A-C】図2A~Cは、(A)若年および高齢の非CNS罹患患者およびAD患者のヒト死後CPにおけるICAM-1免疫反応性の定量(1群あたりn=5;1元配置分散分析の後のNewman-Keuls post-hoc解析);(B)8月齢のAD-Tgマウスおよび同齢のWTコントロールのCPにおけるIFN-γを発現している免疫細胞(細胞内染色され、CD45で予めゲーティングされた)のフローサイトメトリー解析を示している。影付きヒストグラムは、アイソタイプコントロールを表している(1群あたりn=4~6;スチューデントt検定);および(C)同齢のWTコントロールと比較された、4および8月齢のAD-Tgマウスから単離されたCP組織における、RT-qPCRによって測定されたifn-γのmRNA発現レベル(1群あたりn=5~8;各時点についてスチューデントt検定)。すべてのパネルにおいて、エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
図3A-B】図3A~Bは、(A)8月齢のAD-TgおよびWTコントロールマウスにおけるCD4Foxp3脾細胞の出現率(TCRβで予めゲーティングされた)の代表的なフローサイトメトリープロット;および(B)1、2、4および8月齢のAD-TgおよびWTコントロールマウス由来の脾細胞の定量的解析(1群あたりn=6~8;各時点についてスチューデントt検定)を示している。すべてのパネルにおいて、エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
図4図4は、最後のDTx注射の1日後のAD-Tg/Foxp3-DTR+/ マウス由来の脾細胞のゲーティングストラテジーおよび代表的なフローサイトメトリープロットを示している。DTxを4日連続i.p.注射したところ、Foxp3細胞の約99%枯渇が達成された。
図5A-G】図5A~Gは、AD-TgマウスにおけるTregの一過性の枯渇の効果を示している。(A)AD-Tg/Foxp3-DTR(DTR導入遺伝子を発現する)およびDTRを発現しないAD-Tg同腹仔(AD-Tg/Foxp3-DTR)コントロール群を4日連続DTxで処置した。最後のDTx注射の1日後のDTxで処置された6月齢のAD-Tgマウスにおける、RT-qPCRによって測定された遺伝子icam1、cxcl10およびccl2のCPにおけるmRNA発現レベル(1群あたりn=6~8;スチューデントt検定)。(B~D)最後のDTx注射の3週間後の、DTxで処置された6月齢のAD-Tgマウスおよびコントロールの脳実質(別個に切除された脈絡叢を除く)のフローサイトメトリー解析。DTxで処置されたAD-Tg/Foxp3-DTRマウスおよびAD-Tg/Foxp3-DTRコントロールのCD11bhigh/CD45highmo-MΦおよびCD4T細胞の数の増加を示す定量的フローサイトメトリー解析(B)、および代表的なフローサイトメトリープロット(C)、およびCD4Foxp3Treg出現率の定量的解析(D)(1群あたりn=3~7;スチューデントt検定)。(E)最後のDTx注射の3週間後の、DTxで処置された6月齢のAD-Tg AD-Tg/Foxp3-DTRおよびAD-Tg/Foxp3-DTR-コントロール)の脳実質におけるfoxp3およびil10のmRNA発現レベル(1群あたりn=6~8;スチューデントt検定)。(F)最後のDTx注射の3週間後の、DTxで処置された6月齢のAD-Tg/Foxp3-DTRおよびAD-Tg/Foxp3-DTRコントロールマウス由来の海馬切片において低減したアストログリオーシス(astrogliosis)を示しているGFAP免疫染色の定量的解析(スケールバー、50μm;1群あたりn=3~5;スチューデントt検定)。(G)最後のDTx注射の3週間後の、脳実質におけるil-12p40およびtnf-aのmRNA発現レベル(1群あたりn=6~8;スチューデントt検定)。すべてのパネルにおいて、エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
図6A-E】図6A~Eは、Aβプラークの学習/記憶能力に対するTregの一過性の枯渇の効果を示している。最後のDTx注射の3週間後の、DTxで処置された5月齢のAD-Tg/Foxp3-DTRおよびAD-Tg/Foxp3-DTRコントロールマウスの脳の、AβプラークおよびHoechst核染色を免疫染色した(A)代表的な顕微鏡像および(B)定量的解析(スケールバー、250μm)。海馬歯状回(DG)および大脳皮質5層におけるAβプラークの平均面積および数を定量した(6μm脳切片において;1群あたりn=5~6;スチューデントt検定)。図6C~E)は、最後のDTx注射の3週間後の、DTxで処置された6月齢のAD-Tg/Foxp3-DTRおよびコントロールマウスのモーリス水迷路(MWM)試験の成績を示している。一過性のTreg枯渇の後、AD-Tgマウスは、AD-Tgコントロールと比べて、MWMの(C)習得期、(D)探索期および(E)逆転期において、より良好な空間学習/空間記憶の能力を示した(1群あたりn=7~9;個別の対比較のための2元配置反復測定分散分析に続くボンフェローニの事後解析;,習得、探索および逆転の全体についてP<0.05)。すべてのパネルにおいて、エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
図7図7は、同齢のWTコントロールと比べたときの、6および12月齢のAPP/PS1 AD-Tgマウス(アルツハイマー病のマウスモデル(材料および方法を参照のこと))から単離されたCPにおける、RT-qPCRによって測定されたifn-γのmRNA発現レベルを示している(1群あたりn=5~8;スチューデントt検定)。エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;,P<0.05。
図8A-I】図8A~Iは、AD-Tgマウスにおける毎週の酢酸グラチラマー(GA)の投与の治療効果を示している。(A)毎週のGA処置レジメンの模式図。マウス(5月齢)に、GA(100μg)を第1週において2回(1および4日目に)およびその後4週間の全期間にわたって1週間ごとに1回、s.c.注射した。それらのマウスを、最後の注射の1週間後(MWM)、1ヶ月後(RAWM)および2ヶ月後(RAWM、異なる実験空間設定を用いて)に認知能力について、ならびに海馬の炎症について調べた。図8B~Dは、処置されていないAD-Tgマウスおよび毎週GAで処置された6月齢のAD-Tgマウスの海馬における遺伝子のmRNA発現レベルを示しており、毎週GAで処置されたマウスにおける、(B)炎症促進性サイトカイン(例えば、TNF-α、IL-1βおよびIL-12p40)の低発現、(C)抗炎症性サイトカインIL-10およびTGF-βの増加、および(D)神経向性因子(neurotropic factors)IGF-1およびBDNFの増加を示している(1群あたりn=6~8;スチューデントt検定)。図8E~Gでは、AD-Tgマウス(5月齢)を毎週GAまたはビヒクル(PBS)で処置し、MWMタスクにおいて6月齢の同齢のWT同腹仔と比較した。処置されたマウスは、コントロールと比べて、MWMの習得期(E)、探索期(F)および逆転期(G)において、より良好な空間学習/空間記憶の成績を示した(1群あたりn=6~9;個別の対比較のための2元配置反復測定分散分析に続くボンフェローニのpost-hoc解析;WTマウス、黒丸;AD-Tgコントロール、白丸;処置されたAD-Tg、灰色丸)。図8H~Iは、最後のGA注射の1ヶ月後(H)または2ヶ月後(I)のRAWMタスクにおける同じマウスの認知能力を示している(1群あたりn=6~9;個別の対比較のための2元配置反復測定分散分析に続くボンフェローニのpost-hoc解析)。データは、少なくとも3回の独立した実験の代表である。すべてのパネルにおいて、エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
図9A-H】図9A~Hは、AD-Tgマウスにおける毎週GAの投与のさらなる治療効果を示している。A~Bは、毎週GAまたはビヒクル(PBS)で処置され、投与レジメンの第1週の終わり(合計2回のGA注射の後)に調べられた、5XFAD AD-Tgマウスを示している。同齢のWTコントロールと比べたときの、処置された6月齢のAD-Tgマウスにおける、CD4Foxp3脾細胞の出現率(A)およびCPにおけるIFN-γを発現している免疫細胞(B;細胞内染色され、CD45で予めゲーティングされた)のフローサイトメトリー解析(1群あたりn=4~6;1元配置分散分析の後のNewman-Keuls post hoc解析)。(C)毎週GAまたはビヒクルで処置され、毎週GAレジメンの第1週または第4週の終わりに調べられた、4月齢のAD-TgマウスのCPにおける、RT-qPCRによって測定された遺伝子icam1、cxcl10およびccl2のmRNA発現レベル(1群あたりn=6~8;1元配置分散分析の後のNewman-Keuls post hoc解析)。図9D~Eは、毎週GA後の、6月齢のAD-Tg/CXCR1GFP/+BMキメラ由来の脳切片の代表的な像を示している。CXCR1GFP細胞は、毎週GAで処置されたAD-Tgマウスの第3脳室のCP(3V;i)、隣接する脳室腔(ii)、および側脳室のCP(LV;iii)に局在した(D;スケールバー、25μm)。共焦点のz軸スタックの代表的な正射影は、毎週GAで処置された7月齢のAD-Tg/CXCR1GFP/+マウスのCPにおいて、GFP細胞と骨髄マーカーCD68との共局在化を示しているが、コントロールのPBSで処置されたAD-Tg/CXCR1GFP/+マウスでは共局在を示さない(E;スケールバー、25μm)。(F)CXCR1GFP細胞は、GAで処置されたAD-Tg/CXCR1GFP/+マウスの脳においてAβプラークの近くに骨髄マーカーIBA-1と共局在し、骨髄マーカーIBA-1を共発現する(スケールバー、25μm)。図9G~Hは、毎週GAレジメンの第2週における、4月齢のWTマウス、処置されていないAD-TgマウスおよびAD-Tgマウスの海馬から単離された細胞の代表的なフローサイトメトリープロットを示している。CD11bhigh/CD45high mo-MΦをゲーティングし(G)、定量した(H;1群あたりn=4~5;一元配置分散分析の後のNewman-Keuls post hoc解析)。すべてのパネルにおいて、エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
図10A-H】図10A~Hは、AD-Tgマウスにおけるp300阻害剤(C646)の投与の治療効果を示している。図10A~Bでは、高齢のマウス(18ヶ月)を1週間にわたってp300iまたはビヒクル(DMSO)で処置し、処置休止の1日後に調べた。p300i処置後の、脾臓におけるIFN-γを発現するCD4T細胞の出現率の上昇(A)およびCPにおけるIFN-γを発現する免疫細胞数の増加(B)を示す代表的なフローサイトメトリープロット。図10C~Eは、1週間にわたってp300iまたはビヒクル(DMSO)を投与され、その後、さらに3週間後に調べられた、10月齢のAD-Tgマウスの脳の代表的な顕微鏡像(C)およびその脳におけるAβプラーク量の定量的解析を示している。脳のAβプラークを免疫染色し、脳をHoechst核染色によって免疫染色した(1群あたりn=5;スケールバー、250μm)。海馬DG(D)および大脳皮質5層(E)における、Aβプラークの平均面積および平均プラーク数を定量した(6μm脳切片において;1群あたりn=5~6;スチューデントt検定)。(F)1または2セッションにおける、7月齢の種々の群のAD-Tgマウスへのp300i処置(またはビヒクルとしてのDMSO)投与レジメンの模式図。図10G~Hは、処置されていないAD-Tg群と比べたときの、大脳皮質(5層)のAβプラークのカバー率(percentage coverage)の平均変化(G)、ならびに大脳の可溶性Aβ1-40およびAβ1-42タンパク質の平均レベルの変化(H)を示している(非処置群のAβ1-40およびAβ1-42の平均レベル、それぞれ90.5±11.2および63.8±6.8pg/mg全部分(total portion);1群あたりn=5~6;一元配置分散分析の後のNewman-Keuls post hoc解析)。すべてのパネルにおいて、エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
図11A-D】図11A~Dは、PD-1遮断が、AD-TgマウスにおいてIFN-γ依存性の脈絡叢活性を高めることを示している。10月齢のAD-Tgマウスに、1日目および4日目に250ugの抗PD-1またはコントロールIgGをi.p.注射し、全身免疫応答およびCP活性に対する効果について7~10日目に調べた。(A~B)αPD-1またはIgGで処置されたAD-Tgマウスおよび処置されていないAD-TgおよびWTコントロールにおける、CD4IFN-γ脾細胞の出現率(細胞内染色され、CD45およびTCR-βで予めゲーティングされた)の代表的なフローサイトメトリープロット(A)および定量的解析(B)(1群あたりn=4~6;一元配置分散分析の後のNewman-Keuls post hoc解析;**,示されている処置群間においてP<0.01;エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している)。(C)IgGで処置されたおよび処置されていないAD-Tgコントロールと比べたときの、抗PD-1で処置されたAD-TgマウスのCPにおける、RT-qPCRによって測定されたifn-gのmRNA発現レベル、(D)同じマウスのCPにおけるRNA-Seqにおいて濃縮されたGOアノテーションターム(1群あたりn=3~5;1元配置分散分析の後のNewman-Keuls post hoc解析;,P<0.05)(灰色のスケールは、P値の底10の対数に負号をつけたものに相当する)。
図12A-B】図12A~Bは、PD-1遮断が、AD-Tgマウスにおける認知機能低下を緩和することを示している。10月齢のAD-Tgマウスに、1日目および4日目に、250ugの抗PD-1またはコントロールIgGをi.p.注射し、1または2ヶ月後に、病態に対する効果についてそれらのマウスを調べた。(A~B)実験計画のスキーム。単一矢印は、処置の時点を示し、二重矢印は、認知試験の時点を示す。同齢のWTマウスおよび処置されていないAD-Tgマウスと比べたときの、RAWM学習および記憶タスクにおける1日あたりの平均エラー数によって評価される、抗PD-1およびIgGで処置されたマウスの認知能力(1群あたりn=6~8;個別の対比較のための二元配置反復測定分散分析に続くボンフェローニのpost hoc解析)。(A)抗PD-1またはIgGコントロールによる1処置セッション後の、RAWMにおけるAD-Tgマウスの能力。(B)単一の抗PD-1処置セッションまたは1ヶ月のインターバルを含む2セッションの、成績に対する効果。
図13A-D】図13A~Dは、PD-1遮断がADの病態を緩和すること示している代表的な顕微鏡像(A)、ならびに10月齢において抗PD-1(図12a~bに示されているような1または2セッション)またはIgGコントロールで処置され、その後、12月齢において調べられたAD-Tgマウスの脳におけるAβプラーク量およびアストログリオーシスの定量的解析(B、C、D)を示している。脳におけるAβプラーク(赤色)、GFAP(アストログリオーシス、緑色)を免疫染色し、Hoechst核染色によって染色した(1群あたりn=4~5;スケールバー、50μm)。Aβプラークの平均面積および平均プラーク数を、海馬歯状回(DG)および大脳皮質5層において定量し、GFAP免疫反応性を海馬において測定した(6μm脳切片において;1群あたりn=5~6;スチューデントt検定)。すべてのパネルにおいて、エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;,P<0.05;**,P<0.01;***,P<0.001。
図14図14は、AD-Tgマウスにおける認知機能低下に対する抗PD-1抗体の異なる投与および投与頻度の効果を示している。雌5XFAD ADトランスジェニックマウス(6ヶ月の平均コホート齢)を、抗PD-1特異的抗体(IgG2a抗マウスPD-1)またはIgGコントロール(ラットIgG2a)で処置した。抗PD-1で処置されたマウスには、実験の1日目に500ugの抗体の注射を1回行うか、または250ugの注射を2回、注射の間に3日間のインターバルを空けて行った。同齢の野生型(WT)マウスをさらなるコントロール群として用いた。本発明者らは、放射状アーム水迷路(RAWM)タスクを用いて空間学習および空間記憶の能力に対する効果を評価した。実験計画が示されている。黒矢印は、処置の時点を示し、イラストは、認知試験の時点を示している。抗PD-1で処置された5XFADマウス-1回の注射(n=7)または2回の注射(n=11)、IgG2aで処置された5XFADマウス(n=10)およびWT(n=14)コントロールのRAWMの成績;2元配置反復測定分散分析およびDunnetのpost hoc解析)。エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、抗PD-1で処置されたマウス(1回の注射)対IgGで処置されたコントロール。
図15A-C】図15A~Cは、AD-Tgマウスにおける認知機能低下に対する抗PD-1抗体の反復投与の効果を示している。雄5XFAD ADトランスジェニックマウスを、反復処置セッションにおいて1ヶ月に1回、抗PD-1特異的抗体(IgG2a抗マウスPD-1)またはIgGコントロール(ラットIgG2a)で処置した。1回目の注射は、3月齢において、2回目の注射は、4月齢において、および3回目の注射は、5月齢において行った。投与量は、実験計画のスキーム(A)に示されている。同齢の野生型(WT)マウスをさらなるコントロール群として用いた。本発明者らは、2つの異なる時点、すなわち5月齢(B)および6月齢(C)において、放射状アーム水迷路(RAWM)タスクを用いて空間学習および空間記憶の能力に対する効果を評価した。実験計画が示されている。黒矢印は、処置の時点を示し、イラストは、認知試験の時点を示している。抗PD-1で処置された5XFADマウス(n=7;白丸)、IgG2aで処置された5XFADマウス(n=9;白四角)およびWT(n=8)コントロール(黒丸)のRAWMの成績;2元配置反復測定分散分析およびDunnetのpost hoc検定)。エラーバーは、平均値±s.e.m.を表している;P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、抗PD-1で処置されたマウス対IgGで処置されたコントロール。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(詳細な説明)
免疫チェックポイント機構は、活性化T細胞の応答性の細胞固有のダウンレギュレーシ
ョンおよび抑制性レセプターによるエフェクター機能を含み、全身の免疫ホメオスタシス
および自己免疫寛容を維持している(Joller et al,2012;Pardo
ll,2012)。近年、プログラム死-1(PD-1)経路(Francisco e
t al,2010)などのこれらの免疫チェックポイントの遮断が、注目すべき抗腫瘍
の有効性を示したことから、様々な悪性疾患と闘う際、免疫系の力の抑制を解くことの可
能性に脚光が当てられた。最近、アルツハイマー病の動物モデルに抗PD-1抗体を投与
することにより、Aβのクリアランス、認知機能低下の回復がもたらされ、その投与は、
神経炎症反応の消散に関連することが示された(WO2015/136541;Baru
ch et al.,2016)。
【0008】
したがって、全身免疫抑制は、ADの病態を退ける能力を干渉するので、全身免疫系に
対する制限(restrains)を解除することによって、ADの病態は、緩和され得
る。
【0009】
本発明は、自己免疫性神経炎症性疾患の再発寛解型多発性硬化症(RRMS)を含まな
い中枢神経系(CNS)の疾患、障害、状態または損傷を処置するための方法を提供し、
前記方法は、それを必要とする個体に、1つ以上の免疫チェックポイントによって免疫系
に課された制限の解除によって全身免疫抑制のレベルの低下を引き起こす活性な作用物質
を投与する工程を含み、ここで、前記活性な作用物質は、少なくとも2コースの治療を含
む投与レジメンによって投与され、治療の各コースは、処置セッションに続く非処置のイ
ンターバルセッションを順に含み、前記1つ以上の免疫チェックポイントは、ICOS-
B7RP1、T細胞活性化のVドメインIg抑制因子(VISTA)、B7-CD28様
分子、CD40L-CD40、CD28-CD80、CD28-CD86、B7H3、B
7H4、B7H7、BTLA-HVEM、CD137-CD137L、OX40L、CD
27-CD70、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)、T細胞免疫グロブリ
ンおよび免疫受容抑制性チロシンモチーフドメイン(TIGIT)およびA2aR-アデ
ノシンおよびインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)-L-トリプトフ
ァンからなる群より選択される。
【0010】
別の態様において、本発明は、1つ以上の免疫チェックポイントによって免疫系に課さ
れた制限の解除によって個体において全身免疫抑制のレベルの低下を引き起こす活性な作
用物質、または自己免疫性神経炎症性疾患の再発寛解型多発性硬化症(RRMS)を含ま
ないCNSの疾患、障害、状態または損傷の処置において使用するためのその活性な作用
物質を含む薬学的組成物に関し、ここで、前記薬学的組成物は、少なくとも2コースの治
療を含む投与レジメンによる投与のための薬学的組成物であり、治療の各コースは、処置
セッションに続く非処置のインターバルセッションを順に含み;前記1つ以上の免疫チェ
ックポイントは、ICOS-B7RP1、VISTA、B7-CD28様分子、CD40
L-CD40、CD28-CD80、CD28-CD86、B7H3、B7H4、B7H
7、BTLA-HVEM、CD137-CD137L、OX40L、CD27-CD70
、STING、TIGITおよびA2aR-アデノシンおよびインドールアミン-2,3
-ジオキシゲナーゼ(IDO)-L-トリプトファンからなる群より選択される。
【0011】
ある特定の実施形態において、投与レジメンは、全身免疫抑制のレベルが一過性に低下
するように調整される。
【0012】
用語「処置する」は、本明細書中で使用されるとき、所望の生理学的効果を得る手段の
ことを指す。その効果は、ある疾患および/またはその疾患に帰する症状を部分的または
完全に治癒することに関して治療的な効果であり得る。この用語は、疾患の阻害、すなわ
ち、その発症の停止もしくは遅延;または疾患の回復、すなわち、疾患の後退のことを指
す。
【0013】
用語「非処置セッション」は、用語「非処置の期間」と本明細書中で交換可能に使用さ
れ、処置されている個体に活性な作用物質を投与しないセッションのことを指す。
【0014】
制御性T細胞またはエフェクターT細胞の「全身における存在」という用語は、本明細
書中で使用されるとき、制御性T細胞またはエフェクターT細胞が循環免疫系、すなわち
、血液、脾臓およびリンパ節に存在すること(それらのレベルまたは活性によって測定さ
れる)を指す。脾臓内の細胞集団のプロファイルが、血液中の細胞集団のプロファイルに
反映されることは、免疫学の分野において周知の事実である(Zhao et al,2
007)。
【0015】
本処置は、全身免疫抑制の上昇を示す患者とそのような上昇を示さない患者の両方に適
用できる。時折、本発明にかかる処置を必要とする個体は、ある特定の末梢免疫抑制レベ
ルを有し、その末梢免疫抑制は、循環中のTregの出現率または数の増加ならびに/あ
るいはそれらの機能活性の増大ならびに/またはIFNγ産生白血球の減少および/もし
くは刺激に応答した白血球の増殖の減少によって反映される。Tregの出現率または数
の増加は、全CD4細胞の総数または全CD4細胞のパーセンテージの増加であり得る。
例えば、アルツハイマー病の動物モデルでは、CD4細胞のうちFoxp3の出現率が野
生型マウスと比べて高いことが本発明に基づいて見出された。しかしながら、前記個体に
おいて、全身のTreg細胞のレベルが上昇していなかったか、それらの機能活性が高ま
っていなかったか、IFNγ産生白血球のレベルが低下していなかったか、または刺激に
応答した白血球の増殖が減少していなかったとしても、全身免疫抑制のレベルまたは活性
を低下させる本発明の方法は、自己免疫性神経炎症性疾患RRMSを含まないCNSの疾
患、障害、状態または損傷の処置において有効である。重要なことには、前記全身免疫抑
制は、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)などのTreg以外のさらなる免疫細胞型
も関係し得る(Gabrilovich & Nagaraj,2009)。
【0016】
全身免疫抑制のレベルは、当業者に周知の様々な方法によって検出され得る。例えば、
Tregのレベルは、Tregの細胞表面マーカーまたは細胞内の核マーカー(Chen
& Oppenheim,2011)、リンパ球のCD45、TCR-βまたはCD4
マーカーで免疫染色された、末梢血単核球またはTリンパ球のフローサイトメトリー解析
、およびそれらの細胞に特異的に結合した抗体の量を測定することによって測定され得る
。Tregの機能活性は、様々なアッセイによって測定され得る;例えば、チミジン取り
込みアッセイが通常使用され、このアッセイでは、抗CD3mAbによって刺激されるC
D4CD25T細胞(従来のT細胞)の増殖の抑制を、[H]チミジンの取り込み
またはCFSE(5-(および6)-カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイ
ミジルエステル(これは細胞に入り込むことができ;CFSEの蛍光強度の経時的な半減
として細胞分裂を測定する))の使用によって測定する。IFNγ産生白血球の数または
それらの活性もしくは増殖能は、当該分野で公知の方法を用いて当業者によって容易に評
価され得る;例えば、IFNγ産生白血球のレベルは、短時間のエキソビボ刺激およびゴ
ルジ停止後の末梢血単核球のフローサイトメトリー解析、ならびにIFNγ細胞内染色(
例えば、BD Biosciences Cytofix/cytopermTM固定/
透過処理キットを使用して)による免疫染色、これらの細胞の馴化培地(conditi
on media)を回収し、分泌されたサイトカインのレベルを、ELISAを用いて
定量すること、またはその馴化培地中の種々のサイトカインの比、例えば、IL2/IL
10、IL2/IL4、INFγ/TGFβなどを比較することによって、測定され得る
。ヒト末梢血中のMDSCのレベルは、当業者によって、例えば、報告されているように
(Kotsakis et al,2012)、DR/LIN/CD11b+、DR
/LIN/CD15+、DR/LIN/CD33+およびDR(-/low)/
CD14+細胞の出現率のフローサイトメトリー解析を用いることによって、容易に評価
され得る。
【0017】
ヒトにおいて、循環中のTregの総数が、健康なコントロール集団よりも10、20
、30、40、50、60、70、80、90もしくは100%またはそれ以上高いか、
全CD4+細胞のうちのTreg細胞のパーセンテージが、健康なコントロール集団より
も10、20、30、40、50、60、70、80、90もしくは100%またはそれ
以上上昇しているか、またはTregの機能活性が、健康なコントロール集団よりも10
、20、30、40、50、60、70、80、90もしくは100%またはそれ以上上
昇しているとき、末梢/全身免疫抑制は、増加していると見なされ得る。あるいは、IF
Nγ産生白血球またはそれらの活性のレベルが、健康なコントロール集団より10、20
、30、40、50、60、70、80、90または100%低下しているか;または刺
激に応答した白血球の増殖が、健康なコントロール集団より10、20、30、40、5
0、60、70、80、90または100%低下しているとき、末梢/全身免疫抑制は、
増加していると見なされ得る。
【0018】
ある作用物質をある個体に投与した際、この個体の循環中のTregの総数が、その作
用物質の投与前のレベルと比べて10、20、30、40、50、60、70、80、9
0または100%減少したとき、または全CD4+細胞のうちのTreg細胞のパーセン
テージが、健康なコントロール集団と比べて10、20、30、40、50、60、70
、80、90または100%低下したとき、またはTregの機能活性が、その作用物質
の投与前のレベルと比べて10、20、30、40、50、60、70、80、90また
は100%減少したとき、その作用物質は、全身免疫抑制のレベルの低下を引き起こす作
用物質であると見なされ得る。あるいは、ある作用物質をある個体に投与した際、IFN
γ産生白血球の総数またはそれらの活性が、10、20、30、40、50、60、70
、80、90もしくは100%またはそれ以上増加したとき;または刺激に応答した白血
球の増殖が、健康なコントロール集団よりも10、20、30、40、50、60、70
、80、90もしくは100%またはそれ以上増加したとき、その作用物質は、全身免疫
抑制のレベルの低下を引き起こす作用物質であると見なされ得る。
【0019】
ある特定の実施形態において、上記活性な作用物質は、1つ以上の免疫チェックポイン
トによって免疫系に課された制限の解除によって、例えば、1つ以上の免疫チェックポイ
ントの遮断によって、全身免疫抑制のレベルの低下を引き起こす。
【0020】
ある特定の実施形態において、全身免疫抑制のレベルの低下は、IFNγ産生白血球の
全身における存在または活性の増加を伴う。
【0021】
ある特定の実施形態において、活性な作用物質は、全身免疫抑制のレベルの低下を引き
起こし、それによって、エフェクターT細胞の全身における存在または活性の増加を引き
起こす。
【0022】
全身免疫抑制を解除するように操作され得るチェックポイントは、本明細書中で、免疫
チェックポイントレセプターとその天然のリガンドとの対またはそれらの2つのパートナ
ーのうちのいずれか1つとして言及される。例えば、PD1は、2つの公知のリガンドを
有し、本明細書中で「PD1-PDL1」または「PD1-PDL2」と称され、B7H
3は、そのリガンドが特定されておらず、単に「B7H3」と称される。
【0023】
ある特定の実施形態において、本発明に従って使用され得る活性な作用物質は、(i)
抗体、例えば、ヒト化抗体;ヒト抗体;抗体の機能的フラグメント;単一ドメイン抗体、
例えば、ナノボディ(Nanobody);組換え抗体;および一本鎖可変フラグメント
(ScFv)(ii)抗体模倣物、例えば、アフィボディ(affibody)分子;ア
フィリン(affilin);アフィマー(affimer);アフィチン(affit
in);アルファボディ;アンチカリン(anticalin);アビマー(avime
r);DARPin;フィノマー(fynomer);Kunitzドメインペプチド;
およびモノボディ(monobody);(iii)アプタマー;および(iv)小分子
阻害剤からなる群より選択され得る。
【0024】
抗体模倣物の非限定的な例を表1に示す:
【表1】
[1]Nygren PA(June 2008);[2]Ebersbach et
al.(2007);[3]Johnson et al.(2012);[4]Kre
henbrink et al.(2008);[5]Desmet et al.(2
014);[6]Skerra A(2008);[7]Silverman et a
l.(2005);[8]Stumpp et al.(2008)’[9]Grabu
lovski et al.(2007);[10]Nixon et al.(200
6);[11]Koide et al.(2007).
【0025】
アプタマーは、特定の標的分子に結合するオリゴヌクレオチド分子またはペプチド分子
である。
【0026】
ある特定の実施形態において、本発明に従って使用され得る活性な作用物質は、
(i)(a)抗ICOS;(b)抗B7RP1;(c)抗VISTA;(d)抗CD40
;(e)抗CD40L;(f)抗CD80;(g)抗CD86;(h)抗B7-H3;(
i)抗B7-H4;(j)B7-H7;(k)抗BTLA;(l)抗HVEM;(m)抗
CD137;(n)抗CD137L;(o)抗OX40L;(p)抗CD-27;(q)
抗CD70;(r)抗STING;(s)抗TIGIT;および(t)(a)~(s)の
任意の組み合わせからなる群より選択される抗体;
(ii)アジュバントと併用される(a)~(s)の任意の組み合わせ;
(iii)(a)アデノシンA1レセプターアンタゴニスト;(b)アデノシンA2aレ
セプター;および(c)A3レセプターアンタゴニストからなる群より選択される小分子

(iv)(iii)(a~c)と(i)(a~s)との任意の組み合わせ;および
(v)(i)~(iv)の任意の組み合わせからなる群より選択され得る。
【0027】
ある特定の実施形態において、上に記載された抗体は、例えば、約0.1mg/kg~
20mg/kg、0.1mg/kg~15mg/kg、0.1mg/kg~10mg/k
g、0.1mg/kg~5mg/kg、0.2mg/kg~20mg/kg、0.2mg
/kg~15mg/kg、0.2mg/kg~10mg/kg、0.2mg/kg~6m
g/kg、0.2mg/kg~5mg/kg、0.3mg/kg~20mg/kg、0.
3mg/kg~15mg/kg、0.3mg/kg~10mg/kg、0.3mg/kg
~5mg/kg、1mg/kg~20mg/kg、1mg/kg~15mg/kg、1m
g/kg~10mg/kg、1mg/kg~5mg/kg、1.5mg/kg~20mg
/kg、1.5mg/kg~15mg/kg、1.5mg/kg~10mg/kg、1.
5mg/kg~6mg/kgまたは1.5mg/kg~5mg/kgの投与量でヒトに投
与され得る。
【0028】
ある特定の実施形態において、アデノシンA1レセプターアンタゴニストは、PSB3
6(1-ブチル-8-(ヘキサヒドロ-2,5-メタノペンタレン-3a(1H)-イル
)-3,7-ジヒドロ-3-(3-ヒドロキシプロピル)-1H-プリン-2,6-ジオ
ン)であり得る;アデノシンA2aレセプターアンタゴニストは、SCH58261(5
-アミノ-7-(2-フェニルエチル)-2-(2-フリル)-ピラゾロ(4,3-e)
-1,2,4-トリアゾロ(1,5-c)ピリミジン)、SYN115(4-ヒドロキシ
-N-[4-メトキシ-7-(4-モルホリニル)-2-ベンゾチアゾリル]-4-メチ
ル-1-ピペリジンカルボキサミド)、FSPTP(SCH58261(5-アミノ-7
-[2-(4-フルオロスルホニル)フェニルエチル]-2-(2-フリル)-ピラゾロ
[4,3-ε]1,2,4-トリアゾロ[1,5-c]ピリミジンとも呼ばれる)、SC
H442416(2-(2-フラニル)-7-[3-(4-メトキシフェニル)プロピル
]-7H-ピラゾロ[4,3-e][1,2,4]トリアゾロ[1,5-c]ピリミジン
-5-アミン)またはZM241385(トザデナント(tozadenant)(4-
ヒドロキシ-N-(4-メトキシ-7-モルホリノベンゾ[d]チアゾール-2-イル)
-4-メチルピペリジン-1-カルボキサミドとも呼ばれる)であり得る;A3レセプタ
ーアンタゴニストは、MRS3777(2-フェノキシ-6-(シクロヘキシルアミノ)
プリンヘミオキサレート)であり得る。
【0029】
上で述べたように、上記活性な作用物質は、少なくとも2コースの治療を含む投与レジ
メンによって投与され、治療の各コースは、処置セッションに続く非処置のインターバル
セッションを順に含む。その投与レジメンは、いくつかの方法で決定され得る。例えば、
免疫抑制のレベルは、IFNγ産生白血球のレベルもしくは活性または刺激に応答した白
血球の増殖速度を個別にモニターし、モニタリングの結果から決定される、処置セッショ
ン、投与頻度およびインターバルセッションを経験的かつ個人的に調節することによって
、処置されている各患者に対して所望のレベルに調整され得る(個別化医療)。
【0030】
したがって、処置セッションは、個体への活性な作用物質または薬学的組成物の投与を
含み得、処置セッションは、少なくともIFNγ産生白血球の全身における存在もしくは
レベルまたは刺激に応答した白血球の増殖速度が基準より高くなるまで維持され、その投
与は、インターバルセッション中は休止され、インターバルセッションは、そのレベルが
基準より高い限り維持され、その基準は、(a)前記投与前の前記個体から得られた最新
の血液サンプルにおいて測定された、IFNγ産生白血球の全身における存在もしくは活
性のレベルまたは刺激に応答した白血球の増殖速度;あるいは(b)CNSの疾患、障害
、状態または損傷に苦しんでいる個体の集団に特徴的な、IFNγ産生白血球の全身にお
ける存在もしくは活性のレベルまたは刺激に応答した白血球の増殖速度から選択される。
【0031】
処置セッションおよびインターバルセッションの長さは、ある特定の患者集団を対象に
した臨床試験において医師によって決定され得、個人ベースで免疫抑制レベルをモニタリ
ングする必要なく、この患者集団に一貫して適用され得る。
【0032】
ある特定の実施形態において、処置セッションは、個体への活性な作用物質の投与を含
み、処置セッションは、少なくとも、活性な作用物質の全身における存在が治療レベルに
達するまで維持され、投与は、インターバルセッション中は休止され、インターバルセッ
ションは、そのレベルが前記治療レベルの約95%、90%、80%、70%、60%ま
たは50%より高い限り維持される。用語「治療レベル」は、本明細書中で使用されると
き、癌治療などの公知の治療において免疫チェックポイントを遮断するために使用される
薬物の一般に認められている全身レベルのことを指す(上記を参照のこと)。
【0033】
ある特定の実施形態において、処置セッションは、単回投与であり得るか、または1日
~4週間、例えば、1日、2日もしくは3日、または1~4週間のコースにおいて行われ
る複数回投与を含み得る。例えば、処置セッションは、2回の投与を含み得、その両方が
、1週間以内に行われ、例えば、2回目の投与は、1回目の投与の1、2、3、4、5ま
たは6日後に行われる。別の例として、処置セッションは、3回の投与を含み得、そのす
べてが、1週間以内に行われ、例えば、直前の投与の1、2または3日後に行われる。別
の例として、処置セッションは、3回の投与を含み得、そのすべてが、2週間以内に行わ
れ、例えば、直前の投与の1、2、3、4または5日後に行われる。別の例として、処置
セッションは、4回の投与を含み得、そのすべてが、2週間以内に行われ、例えば、直前
の投与の1、2、3または4日後に行われる。別の例として、処置セッションは、4回の
投与を含み得、そのすべてが、3週間以内に行われ、例えば、直前の投与の1、2、3、
4、5または6日後に行われる。別の例として、処置セッションは、5回の投与を含み得
、そのすべてが、3週間以内に行われ、例えば、直前の投与の1、2、3、4または5日
後に行われる。
【0034】
ある特定の実施形態において、非処置のインターバルセッションは、1週間~6ヶ月、
例えば、2~4週間、3~4週間、2週間~6ヶ月の長さ、3週間~6ヶ月の長さ、特に
、2、3または4週間の長さであり得る。ある特定の実施形態において、非処置のインタ
ーバルセッションは、1~2ヶ月の長さ、1~3ヶ月の長さまたは2~3ヶ月の長さであ
り得る。
【0035】
処置セッションにおいて、活性な作用物質または薬学的組成物の投与は、単回投与また
は反復投与であり得、例えば、活性な作用物質または薬学的組成物は、1回だけ投与され
、次いで、そのすぐ後にインターバルが続き得るか、または活性な作用物質もしくは薬学
的組成物は、毎日、または2、3、4、5もしくは6日ごとに1回、または1週間に1回
、2週間ごとに1回、3週間ごとに1回、または4週間ごとに1回投与され得る。これら
の頻度は、いずれの活性な作用物質にも当てはめることができ、当該分野において通常使
用される慣習に基づき得、最終的には、臨床試験における医師によって決定され得る。あ
るいは、処置セッションにおける反復投与の頻度は、活性な作用物質の性質に応じて適合
され得、ここで、例えば、ある小分子は、毎日投与され得、ある抗体は、3日ごとに1回
投与され得る。ある作用物質が、処置セッション中に比較的低頻度で、例えば、1ヶ月の
処置セッション中に1週間に1回または6ヶ月の処置セッション中に1ヶ月に1回、投与
されるとき、この処置セッションの後に、処置セッション中の反復投与間の期間より長い
(すなわち、この例ではそれぞれ1週間または1ヶ月より長い)長さの非処置インターバ
ルセッションが続くことが理解されるべきである。この例における処置セッション中の投
与間の1週間または1ヶ月という休止は、インターバルセッションと見なされない。
【0036】
処置セッションおよびインターバルセッションの長さは、例えば、活性な作用物質を3
日ごとに1回投与するという頻度が、6または9日間の処置セッションおよびそれに応じ
て開始されるインターバルセッションをもたらし得るような投与の頻度に調整され得る。
【0037】
処置セッションが、単回投与からなる場合、投与レジメンは、インターバルの長さによ
って決定され、その単回投与の後、次の単回投与の処置セッション前に、7、8、9、1
0、14、18、21、24または28日またはそれより長いインターバルが続く。特に
、投与レジメンは、2、3または4週間の非処置のインターバルが間に挿入された単回投
与からなる。さらに、投与レジメンは、2~4週間、2~3週間または3~4週間の非処
置のインターバルが間に挿入された単回投与からなり得る。
【0038】
処置セッションが、複数回投与からなる場合、投与レジメンは、インターバルの長さに
よって決定され、1週間以内に行われる複数回投与の後、次の複数回投与の処置セッショ
ンの前に、7、10、14、18、21、24または28日またはそれより長いインター
バルが続く。特に、投与レジメンは、2または3または4週間の非処置のインターバルが
間に挿入された、1週間以内に行われる複数回投与からなり得る。さらに、投与レジメン
は、2~4週間、2~3週間または3~4週間の非処置のインターバルが間に挿入された
、1週間以内に行われる複数回投与からなり得る。
【0039】
別の例として、投与レジメンは、2週間以内に行われる複数回投与に続いて、次の複数
回投与の処置セッションの前に、2週間、3週間または1、2、3もしくは4ヶ月あるい
はそれより長いインターバルを含み得る。特に、投与レジメンは、1、2、3または4ヶ
月の非処置のインターバルが間に挿入された、2週間以内に行われる複数回投与からなり
得る。さらに、投与レジメンは、1~2ヶ月、1~3ヶ月、1~4ヶ月、2~3ヶ月、2
~4ヶ月または3~4ヶ月の非処置のインターバルが間に挿入された、2週間以内に行わ
れる複数回投与からなり得る。
【0040】
別の例として、投与レジメンは、3週間以内に行われる複数回投与に続いて、次の複数
回投与の処置セッションの前に1、2、3、4、5もしくは6ヶ月またはそれより長い時
間を含み得る。特に、投与レジメンは、1、2、3、4、5または6ヶ月の非処置のイン
ターバルが間に挿入された、3週間以内に行われる複数回投与からなり得る。さらに、投
与レジメンは、1~2ヶ月、1~3ヶ月、1~4ヶ月、1~5ヶ月、1~6ヶ月、2~3
ヶ月、2~4ヶ月、2~5ヶ月、2~6ヶ月、3~4ヶ月、3~5ヶ月、3~6ヶ月、4
~5ヶ月、4~6ヶ月または5~6ヶ月の非処置のインターバルが間に挿入された、3週
間以内に行われる複数回投与からなり得る。
【0041】
当然のことながら、ある特定のレジメンから開始され、別のもので置き換えられる、自
在な投与レジメンが想定される。例えば、各1つの処置セッションが3日空けた2回の単
回投与を含み、処置セッション間に例えば1週間のインターバルを含む処置セッションは
、適切であると考えられるとき、例えば、2、3または4週間のインターバルによって分
断された単回投与の処置セッションを含む投与レジメンによって置き換えられ得る。別の
例として、各1つの処置セッションが7日空けた2回の単回投与を含み、処置セッション
間に例えば2週間のインターバルを含む処置セッションは、適切であると考えられるとき
、例えば、2、3、4、5または6週間のインターバルによって分断された単回投与の処
置セッションを含む投与レジメンによって置き換えられ得る。別の例として、各1つの処
置セッションが3日空けた3回の単回投与を含み、処置セッション間に例えば2週間のイ
ンターバルを含む処置セッションは、適切であると考えられるとき、例えば、2、3、4
、5または6週間のインターバルによって分断された単回投与の処置セッションを含む投
与レジメンによって置き換えられ得る。
【0042】
いずれの場合も、投与レジメン、すなわち、処置セッションおよびインターバルセッシ
ョンの長さは、免疫抑制レベルの低下が、例えば、その個体における制御性T細胞の全身
における存在もしくは活性のレベルの低下またはIFNγ産生白血球の全身における存在
もしくは活性のレベルの上昇によって測定されるとき、一過性であるように調整される。
【0043】
本発明にかかる方法、活性な作用物質または薬学的組成物は、アルツハイマー病、筋萎
縮性側索硬化症、パーキンソン病 ハンチントン病、一次性進行型多発性硬化症;二次性
進行型多発性硬化症、大脳皮質基底核変性症、レット症候群、加齢性黄斑変性症および網
膜色素変性症からなる群より選択される網膜変性障害;前部虚血性視神経症;緑内障;ブ
ドウ膜炎;うつ病;外傷関連ストレスまたは外傷後ストレス障害、前頭側頭型認知症;レ
ヴィー小体型認知症、軽度認識障害、後部皮質萎縮、原発性進行性失語または進行性核上
性麻痺から選択される神経変性疾患、障害または状態であるCNSの疾患、障害または状
態を処置するためのものであり得る。ある特定の実施形態において、CNSの状態は、加
齢性認知症である。
【0044】
ある特定の実施形態において、CNSの状態は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化
症、パーキンソン病 ハンチントン病である。
【0045】
ある特定の実施形態において、ICOS-B7RP1、T細胞活性化のVドメインIg
抑制因子(VISTA)、B7-CD28様分子、CD40L-CD40、CD28-C
D80、CD28-CD86、B7H3、B7H4、B7H7、BTLA-HVEM、C
D137-CD137L、OX40L、CD27-CD70、STING、TIGITお
よびA2aR-アデノシンおよびインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO
)-L-トリプトファンから選択される免疫チェックポイントの1つを遮断する上に記載
された活性な作用物質(例えば、免疫チェックポイントの2つのパートナーのうちの1つ
に対する抗体)の各1つは、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病
ハンチントン病、一次性進行型多発性硬化症;二次性進行型多発性硬化症、大脳皮質基底
核変性症、レット症候群、加齢性黄斑変性症および網膜色素変性症からなる群より選択さ
れる網膜変性障害;前部虚血性視神経症;緑内障;ブドウ膜炎;うつ病;外傷関連ストレ
スまたは外傷後ストレス障害、前頭側頭型認知症;レヴィー小体型認知症、軽度認識障害
、後部皮質萎縮、原発性進行性失語または進行性核上性麻痺から選択される神経変性疾患
、障害または状態のいずれか1つの処置において使用するためのものである。これらの活
性な作用物質のいずれか1つの使用を含むこれらの疾患のいずれか1つの処置は、上に記
載されたレジメント(regiment)に従って行われ得る。
【0046】
本発明にかかる方法、活性な作用物質および薬学的組成物はさらに、脊髄損傷、閉鎖性
頭部損傷、鈍的外傷、鋭的外傷、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、脳虚血、視神経損傷、心
筋梗塞、有機リン中毒、および腫瘍切除術が原因の損傷から選択されるCNSの損傷を処
置するためのものであり得る。
【0047】
ある特定の実施形態において、ICOS-B7RP1、T細胞活性化のVドメインIg
抑制因子(VISTA)、B7-CD28様分子、CD40L-CD40、CD28-C
D80、CD28-CD86、B7H3、B7H4、B7H7、BTLA-HVEM、C
D137-CD137L、OX40L、CD27-CD70、STING、TIGITお
よびA2aR-アデノシンおよびインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO
)-L-トリプトファンから選択される免疫チェックポイントの1つを遮断する上に記載
された活性な作用物質(例えば、免疫チェックポイントの2つのパートナーのうちの1つ
に対する抗体)の各1つは、脊髄損傷、閉鎖性頭部損傷、鈍的外傷、鋭的外傷、出血性脳
卒中、虚血性脳卒中、脳虚血、視神経損傷、心筋梗塞、有機リン中毒、および腫瘍切除術
が原因の損傷から選択されるCNSの損傷の処置において使用するためのものである。こ
れらの活性な作用物質のいずれか1つの使用を含むこれらの損傷のいずれか1つの処置は
、上に記載されたレジメンに従って行われ得る。
【0048】
上で述べたように、本発明者らは、本発明が、アルツハイマー病を模倣するマウスにお
いて認知機能を改善することを見出した。したがって、上記方法、活性な作用物質および
薬学的組成物は、CNSの運動機能および/または認知機能の改善において使用するため
、例えば、診断された疾患を有しない個体ならびに神経変性疾患に罹患している人々にお
いて生じ得る、加齢関連の認知機能喪失の軽減において使用するためのものであり得る。
さらに、上記方法、活性な作用物質および薬学的組成物は、急性ストレスまたは外傷エピ
ソードに起因する認知機能喪失の軽減において使用するためのものであり得る。本明細書
中の上記で述べられた認知機能は、学習、記憶またはその両方を含み得る。
【0049】
アルツハイマー病を模倣するマウス(5XFAD AD-Tgマウス)における認知機
能の改善が観察され、その改善が、疾患発現の様々な段階において本発明者らによって特
徴付けられたこと;疾患の病態の初期と後期の両方の進行段階が、処置によって緩和され
得ることは、強調されるべきである。5XFAD AD-Tgマウスは、2.5月齢にお
いて大脳プラークの病態を示し始め、5月齢において失認を示し始める(Oakley
et al,2006)。注目すべきは、下記の実施例2において、本発明者らは、6月
齢の5XFADマウスにおいて治療効果を報告し、実施例5では、このモデルにおいてア
ミロイドベータプラークの沈着および失認が極めて進行した段階である11および12月
齢の5XFADマウスにおいて治療効果を特徴付ける。ゆえに、提案される発明は、様々
な疾患進行の段階(例えば、ステージ1-軽度/初期(2~4年続く);ステージ2-中
等度/中期(2~10年続く);およびステージ3-重度/後期(1~3+年続く))の
患者にとって妥当であり得ると予想される。
【0050】
用語「CNS機能」は、本明細書中で使用されるとき、とりわけ、知覚情報の受け取り
および処理、思考、学習、記銘、言語の認知、生成および理解、運動機能および聴覚的お
よび視覚的応答の制御、バランスおよび平衡の維持、運動協調、知覚情報の伝導、ならび
に呼吸、心拍および消化のような自律神経機能の制御のことを指す。
【0051】
用語「認知」、「認知機能」および「認知能力」は、本明細書中で交換可能に使用され
、学習、記憶、心象の創造、思考、自覚、推理、空間能力、発話および言語技能、言語習
得、ならびに判断注意の能力を含むがこれらに限定されない任意の心理過程または心理状
態に関する。認知は、脳の複数の領域(例えば、海馬、皮質および他の脳構造)において
形成される。しかしながら、長期記憶は皮質の少なくとも一部に保存されると仮定され、
知覚情報は、島皮質の中に存在する特定の皮質構造である味覚野によって獲得され、整理
統合され、読みだされることが知られている。
【0052】
ヒトでは、認知機能は、任意の公知の方法によって測定され得、その方法は、例えば、
臨床全般印象変化尺度(CIBIC-plusスケール);ミニメンタルステート検査(
MMSE);神経精神症状評価(NPI);臨床的認知症尺度(CDR);ケンブリッジ
神経心理学的検査バッテリー(CANTAB)またはサンド老年者臨床評価(SCAG)
であるが、これらに限定されない。認知機能は、イメージング技術(例えば、ポジトロン
放出断層撮影法(PET)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、単一光子放射型コンピ
ュータ断層撮影法(SPECT)または脳機能を測定することが可能な他の任意のイメー
ジング技術)を用いても間接的に測定され得る。
【0053】
患者における認知に影響する1つ以上のプロセスの改善は、前記患者における認知機能
の改善を意味するので、ある特定の実施形態において、認知の改善は、学習、可塑性およ
び/または長期記憶の改善を含む。用語「改善する」および「高める」は、交換可能に使
用され得る。
【0054】
用語「学習」は、新しい知識、行動、技能、価値もしくは好みの獲得もしくは増加、ま
たは既存の知識、行動、技能、価値もしくは好みの改変および強化に関する。
【0055】
用語「可塑性」は、脳が学習によって変化する能力およびすでに獲得している記憶を変
更する能力に関連する、シナプス可塑性、脳可塑性または神経可塑性に関する。可塑性を
反映する1つの測定可能なパラメータは、記憶の消去である。
【0056】
用語「記憶」は、情報がコード化され、保存され、検索されるプロセスに関する。記憶
は、3つの識別可能なカテゴリー:感覚記憶、短期記憶および長期記憶を有する。
【0057】
用語「長期記憶」は、長時間または無期限にわたって情報を維持する能力である。長期
記憶は、2つの主要な部分:明確な記憶(陳述記憶)および暗黙の記憶(非陳述記憶)を
含む。長期記憶は、記憶を最初に獲得した後に記憶痕跡を安定させるプロセスの1カテゴ
リーである記憶固定によって達成される。固定は、2つの特定のプロセス、すなわち、学
習後の最初の数時間以内に行われるシナプス固定(synaptic consolid
ation)、および海馬依存性の記憶が数週間から数年間にわたって海馬から独立する
ようになるシステム固定(system consolidation)に分類される。
【0058】
本発明の薬学的組成物の種々の特徴を説明する上記の実施形態は、本発明の方法にも関
連する。なぜなら、本方法は、同じ薬学的組成物を使用するからである。
【0059】
さらに別の態様において、本発明は、アルツハイマー病と診断された患者においてAβ
プラーク量を減少させるための方法を提供し、その方法は、1つ以上の免疫チェックポイ
ントによって免疫系に課された制限の解除によって全身免疫抑制のレベルの低下を引き起
こす上記の本明細書中で定義されたような活性な作用物質または薬学的組成物を前記患者
に投与する工程を含む。
【0060】
なおも別の態様において、本発明は、アルツハイマー病と診断された患者において海馬
グリオーシスを低減するための方法を提供し、その方法は、1つ以上の免疫チェックポイ
ントによって免疫系に課された制限の解除によって全身免疫抑制のレベルの低下を引き起
こす上記の本明細書中で定義されたような活性な作用物質または薬学的組成物を前記患者
に投与する工程を含む。
【0061】
本発明に従って使用するための薬学的組成物は、1つ以上の生理的に許容され得る担体
または賦形剤を使用して、従来の様式で製剤化され得る。それらの担体は、その組成物の
他の成分と適合しかつそのレシピエントにとって有害でないという意味において、「許容
され得る」ものでなければならない。
【0062】
以下の担体、投与様式、剤形などの例証は、使用される可能性のある公知のものとして
列挙され、それらから本発明とともに使用するための担体、投与様式、剤形などが選択さ
れ得る。しかしながら、当業者は、まず、任意の所与の製剤および選択された投与様式が
、所望の結果を達成するかを判定するために試験されるべきであることを理解するだろう
【0063】
投与方法としては、非経口的、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、粘膜(例えば
、経口、鼻腔内、頬側、膣、直腸、眼内)、鞘内(intrathecal)、局所的お
よび皮内経路が挙げられるが、これらに限定されない。投与は、全身投与または局所投与
であり得る。
【0064】
用語「担体」とは、活性な作用物質とともに投与される、希釈剤、アジュバント、賦形
剤またはビヒクルのことを指す。薬学的組成物中の担体は、結合剤(例えば、微結晶性セ
ルロース、ポリビニルピロリドン(ポリビドンまたはポビドン)、トラガカントゴム、ゼ
ラチン、デンプン、ラクトースまたはラクトース一水和物);崩壊剤(例えば、アルギン
酸、トウモロコシデンプンなど);潤滑剤または界面活性物質(例えば、ステアリン酸マ
グネシウムまたはラウリル硫酸ナトリウム);および流動促進剤(例えば、コロイド状二
酸化ケイ素)を含み得る。
【0065】
経口投与の場合、薬学的調製物は、液体の形態、例えば、液剤、シロップ剤もしくは懸
濁剤として存在し得るか、または使用前に水もしくは他の好適なビヒクルで再構成するた
めの薬物製品として提供され得る。そのような液体調製物は、薬学的に許容され得る添加
物(例えば、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または可食の
硬化脂肪);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性ビヒクル(例えば、ア
ーモンドオイル、油性エステルまたは分画された植物油);および保存剤(例えば、メチ
ルもしくはプロピル-p-ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸))を用いて、従来
の手段によって調製され得る。薬学的組成物は、薬学的に許容され得る賦形剤(例えば、
結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロ
キシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロースま
たはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまた
はシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウ
ム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム))とともに従来の手段によって
調製される、例えば、錠剤またはカプセル剤の形態をとり得る。錠剤は、当該分野で周知
の方法によってコーティングされてもよい。
【0066】
経口投与用の調製物は、活性な化合物の制御放出をもたらすように適切に製剤化され得
る。
【0067】
頬側投与の場合、組成物は、従来の様式で製剤化される錠剤または舐剤の形態をとり得
る。
【0068】
組成物は、注射、例えば、ボーラス注射または持続注入による非経口投与用に製剤化さ
れ得る。注射用の製剤は、単位剤形で、例えばアンプル内に、または保存剤が加えられた
複数回用量の容器内に、提供され得る。組成物は、油性または水性ビヒクルにおける懸濁
液、溶液またはエマルジョンのような形態をとることがあり、懸濁化剤、安定化剤および
/または分散剤などの製剤化剤(formulatory agents)を含むことが
ある。あるいは、活性成分は、使用する前に、好適なビヒクル、例えば、滅菌されたパイ
ロジェンフリー水で構成するための粉末の形態であり得る。
【0069】
組成物は、例えば、従来の坐剤用基剤(例えば、カカオバターまたは他のグリセリド)
を含む、直腸組成物(例えば、坐剤または停留浣腸)にも製剤化され得る。
【0070】
吸入による投与の場合、本発明に従って使用するための組成物は、好適な噴射剤、例え
ば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエ
タン、二酸化炭素または他の好適なガスを使用して、加圧パックまたは噴霧器からエアロ
ゾルスプレーを提供する形態で好都合に送達される。加圧エアロゾルの場合、投与量の単
位は、一定量を送達するバルブを提供することによって決定され得る。化合物と好適な粉
末基剤(例えば、ラクトースまたはデンプン)との粉末混合物を含む、吸入器または注入
器において使用するための、例えばゼラチンでできた、カプセルおよびカートリッジが製
剤化され得る。
【0071】
ヒトにおいて使用するために使用される活性成分の用量の決定は、当該分野で通常用い
られる慣習に基づき、臨床試験では最終的に医師が決定する。ヒトに投与する場合の近似
の等価用量の予測値は、公知の式を用いて(例えば、Reagan-Show et a
l.(2007)Dose translation from animal to
human studies revisited.The FASEB Journa
l 22:659-661)、下記の本明細書中に開示されるインビボの実験的証拠に基
づいて計算され得る。このパラダイムによると、成人の等価用量(mg/kg体重)は、
マウスに投与される用量(mg/kg体重)に0.081を掛けた値に等しい。
【0072】
本発明は、以下の非限定的な例によって例証される。
【実施例0073】
(材料および方法)
(動物)家族性AD変異型のヒトAPP(Swedish変異、K670N/M671L
;Florida変異、I716V;およびLondon変異、V717I)およびPS
1(M146L/L286V)導入遺伝子をニューロン特異的マウスThy-1プロモー
ター(Oakley et al,2006)の転写制御下で共過剰発現する5XFAD
トランスジェニックマウス(Tg6799)、ならびにADダブルトランスジェニックB
6.Cg-Tg(APPswe、PSEN1dE9)85Dbo/Jマウス(Borch
elt et al,1997)をThe Jackson Laboratoryから
購入した。先に記載されたように(Oakley et al,2006)、テイルDN
AのPCR解析によって、ジェノタイピングを行った。ヘテロ接合性変異cxcr1
FP/+マウス(Jung et al,2000)(CXCR1ケモカインレセプタ
ーの対立遺伝子の1つがGFPをコードする遺伝子で置換されたB6.129P-cx3
cr1tm1Litt/J)をBMキメラのドナーとして使用した。Foxp3Tre
gの条件的枯渇を可能にするために、Foxp3.LuciDTRマウス(Suffne
r et
al,2010)を5XFADマウスと交配させた。Animal Breeding
Center of the Weizmann Institute of Sci
enceが動物を飼育し、維持した。本明細書中で詳述されるすべての実験が、Weiz
mann Institute of ScienceのInstitutional
Animal Care and Use Committee(IACUC)によって
策定された規則に従った。
【0074】
(RNA精製、cDNA合成および定量的リアルタイムPCR解析)海馬の歯状回(D
G)の全RNAを、TRI試薬(Molecular Research Center
)を用いて抽出し、RNeasy Kit(Qiagen)を用いて溶解産物から精製し
た。脈絡叢の全RNAを、RNA MicroPrep Kit(Zymo Resea
rch)を用いて抽出した。High Capacity cDNA Reverse
Transcription Kit(Applied Biosystems)を用い
て、mRNA(1μg)をcDNAに変換した。特定のmRNAの発現を、蛍光ベースの
定量的リアルタイムPCR(RT-qPCR)を用いてアッセイした。RT-qPCR反
応は、Fast-SYBR PCR Master Mix(Applied Bios
ystems)を用いて行った。定量反応は、検量線法を用いて各サンプルに対して3つ
組で行った。ペプチジルプロリルイソメラーゼA(ppia)を参照(ハウスキーピング
)遺伝子として選択した。増幅サイクルは、95℃5秒、60℃20秒および72℃15
秒であった。アッセイの終わりに、融解曲線を構築することにより、その反応の特異性を
評価した。ifn-γおよびppia遺伝子の解析のために、cDNAを、製造者のプロ
トコル(PreAmp Master Mix Kit;Applied Biosys
tems)に従って、非ランダムPCRプライマーを用いて14PCRサイクルで事前に
増幅することによって、その後のリアルタイムPCR解析の感度を高めた。mRNA発現
を、製造者の指示書(Applied Biosystems)に従って、TaqMan
RT-qPCRを用いて測定した。すべてのRT-qPCR反応を、StepOneソ
フトウェアV2.2.2(Applied Biosystems)を用いて行い、解析
した。以下のTaqMan Assays-on-DemandTMプローブを使用した
:Mm02342430_g1(ppia)およびMm01168134_m1(ifn
-γ)。他のすべての遺伝子について調べるため、以下のプライマーを使用した:ppi
aforward 5’-AGCATACAGGTCCTGGCATCTTGT-3’(
配列番号33)およびreverse 5’-CAAAGACCACATGCTTGCC
ATCCA-3’(配列番号34);icam1forward 5’-AGATCAC
ATTCACGGTGCTGGCTA-3’(配列番号35)およびreverse 5
’-AGCTTTGGGATGGTAGCTGGAAGA-3’(配列番号36);vc
am1forward 5’-TGTGAAGGGATTAACGAGGCTGGA-3
’(配列番号37)およびreverse 5’-CCATGTTTCGGGCACAT
TTCCACA-3’(配列番号38);cxcl10forward 5’-AACT
GCATCCATATCGATGAC-3’(配列番号39)およびreverse 5
’-GTGGCAATGATCTCAACAC-3’(配列番号40);ccl2for
ward 5’-CATCCACGTGTTGGCTCA-3’(配列番号41)および
reverse 5’-GATCATCTTGCTGGTGAATGAGT-3’(配列
番号42);tnf-γforward 5’-GCCTCTTCTCATTCCTGC
TT-3’(配列番号43)reverse CTCCTCCACTTGGTGGTTT
G-3’(配列番号44);il-1βforward 5’-CCAAAAGATGA
AGGGCTGCTT-3’(配列番号45)およびreverse 5’-TGCTG
CTGCGAGATTTGAAG-3’(配列番号46);il-12p40forwa
rd 5’-GAAGTTCAACATCAAGAGCA-3’(配列番号47)および
reverse 5’-CATAGTCCCTTTGGTCCAG-3’(配列番号48
);il-10forward 5’-TGAATTCCCTGGGTGAGAAGCT
GA-3’(配列番号49)およびreverse 5’-TGGCCTTGTAGAC
ACCTTGGTCTT-3’(配列番号50);tgfβ2forward 5’-A
ATTGCTGCCTTCGCCCTCTTTAC-3’(配列番号51)およびrev
erse 5’-TGTACAGGCTGAGGACTTTGGTGT-3’(配列番号
52);igf-1forward 5’-CCGGACCAGAGACCCTTTG(
配列番号53)およびreverse 5’-CCTGTGGGCTTGTTGAAGT
AAAA-3’(配列番号54);bdnfforward 5’-GATGCTCAG
CAGTCAAGTGCCTTT-3’(配列番号55)およびreverse 5’-
GACATGTTTGCGGCATCCAGGTAA-3’(配列番号56);
【0075】
(免疫組織化学)パラフィン包埋切片にしたマウス(6μm厚)およびヒト(10μm
厚)脳において、組織の処理および免疫組織化学を行った。ヒトICAM-1染色の場合
、1次マウス抗ICAM(1:20 Abcam;ab2213)抗体を使用した。スラ
イドを、3%H2O2とともに10分間インキュベートし、2次ビオチンコンジュゲート
抗マウス抗体を使用した後、Vectastain ABCキット(Vector La
boratories)を用いてビオチン/アビジン増幅を行った。続いて、3,3’-
ジアミノベンジジン
(DAB基質)(Zytomedキット)を適用し;スライドを脱水し、キシレンベース
のマウント液を用いてマウントした。組織染色の場合、マウスをPBSで経心的に灌流し
た後、組織切除および固定を行った。解剖顕微鏡(Stemi DV4;Zeiss)下
で、脳の側脳室、第3脳室および第4脳室からCP組織を単離した。ホールマウントCP
染色の場合、組織を2.5%パラホルムアルデヒド(PFA)で4℃にて1時間固定し、
続いて、0.05%アジ化ナトリウムを含むPBSに移した。染色の前に、解剖した組織
をPBSで洗浄し、室温で1時間ブロッキングした(20%ウマ血清、0.3%Trit
on X-100およびPBS)。1次抗体(2%ウマ血清および0.3%Triton
X-100を含むPBS中)または二次抗体によるホールマウント染色を室温で1時間
行った。各工程の後、PBSで3回洗浄した。組織をスライドに載せ、Immu-mou
nt(9990402、Thermo Scientific製)を用いてマウントし、
カバーガラスで覆った。切片にした脳の染色の場合、先に記載されたような(Baruc
h et al,2013;Kunis et al,2013)2つの異なる組織調製
プロトコル(パラフィン包埋切片またはミクロトームで切片にした浮遊切片)を適用した
。以下の1次抗体を使用した:マウス抗Aβ(1:300,Covance,#SIG-
39320);ウサギ抗GFP(1:100,MBL,#598);ラット抗CD68(
1:300,eBioscience,#14-0681);ラット抗ICAM-1(1
:200,Abcam,#AB2213);ヤギ抗GFP(1:100,Abcam,#
ab6658);ウサギ抗IBA-1(1:300,Wako,#019-19741)
;ヤギ抗IL-10(1:20,R&D systems,#AF519);ラット抗F
oxp3(1:20,eBioscience,#13-5773-80);ウサギ抗C
D3(1:500,Dako,#IS503);;マウス抗ZO-1、マウス抗E-カヘ
ドリン(Cahedrin)およびウサギ抗クローディン-1(すべて1:100,In
vitrogen,#33-9100,#33-4000,#51-9000);ウサギ
抗GFAP(1:200,Dako,#Z0334)。二次抗体には、Cy2/Cy3/
Cy5コンジュゲートロバ抗マウス/ヤギ/ウサギ/ラット抗体(1:200;すべてJ
ackson Immunoresearch製)が含まれた。スライドをHoechs
t核染色(1:4000;Invitrogen Probes)に1分間曝露した。免
疫染色手順では、2つのネガティブコントロールを日常的に使用し、アイソタイプコント
ロール抗体で染色した後、二次抗体で染色するか、または二次抗体のみで染色した。Fo
xp3細胞内染色の場合、パラフィン包埋スライドからの抗原回復を、Retreiva
gen Kit(#550524,#550527;BD PharmingenTM
を用いて行った。顕微鏡解析は、蛍光顕微鏡(E800;Nikon)またはレーザー走
査型共焦点顕微鏡(Carl Zeiss,Inc.)を用いて行った。蛍光顕微鏡には
、デジタルカメラ(DXM 1200F;Nikon)、および20×NA0.50また
は40×NA0.75対物レンズ(Plan Fluor;Nikon)が備え付けられ
ていた。共焦点顕微鏡には、LSM510レーザー走査能(3つのレーザー:Ar488
、HeNe543およびHeNe633)が備わっていた。後固定した組織に対して、取
得ソフトウェア(NIS-Elements,F3[Nikon]またはLSM[Car
l Zeiss,Inc.])を用いて、記録を行った。染色強度の定量の場合、細胞お
よびバックグラウンドの全染色を、ImageJソフトウェア(NIH)を用いて測定し
、特定の染色の強度を、先に記載されたように(Burgess et al,2010
)計算した。Photoshop CS6 13.0(Adobe)を用いて像を切り取
り、マージし、最適化し、Illustrator CS5 15.1(Adobe)を
用いて並べた。
【0076】
(ヒトCPのパラフィン包埋切片)若年および高齢の死後の非CNS疾患個体ならびに
AD患者のヒト脳切片を、適切な同意および倫理委員会の承認(TW220)を得て、O
xford Brain Bank(かつてはThomas Willis Oxfor
d Brain Collection(TWOBC)として知られた)から入手した。
これらの切片が関わる実験は、Weizmann Institute of Scie
nce Bioethics Committeeによって承認された。
【0077】
(フローサイトメトリー、サンプル調製および解析)マウスをPBSで経心的に灌流し
、組織を先に記載されたように(Baruch et al,2013)処理した。脳を
解剖し、解剖顕微鏡(Stemi DV4;Zeiss)下にてPBS中で種々の脳領域
を取り出し、gentleMACSTM分離機(dissociator)(Milte
nyi Biotec)を用いて組織を分離させた。脈絡叢組織を、脳の側脳室、第3脳
室および第4脳室から単離し、400U/mlコラゲナーゼIV型(Worthingt
on Biochemical Corporation)を含むPBS(Ca2+/M
2+を含む)中、37℃で45分間インキュベートし、次いで、手作業でピペッティン
グすることによってホモゲナイズした。脾臓をシリンジのプランジャーですりつぶし、A
CK(塩化アンモニウムカリウム)溶解緩衝液で処理して、赤血球を除去した。すべての
場合において、製造者のプロトコルに従ってサンプルを染色した。すべてのサンプルを7
0μmナイロンメッシュで濾過し、抗Fc CD16/32(1:100;BD Bio
sciences)でブロッキングした。IFN-γの細胞内染色の場合、細胞をパラ-
メトキシアンフェタミン(10ng/ml;Sigma-Aldrich)およびイオノ
マイシン(250ng/ml;Sigma-Aldrich)とともに6時間インキュベ
ートし、最後の4時間にわたって、ブレフェルジン-A(10μg/ml;Sigma-
Aldrich)を加えた。サイトカインの細胞内標識を、BD Cytofix/Cy
topermTMPlus固定/透過処理キット(cat.no.555028)を用い
て行った。Treg染色の場合、eBioscience FoxP3染色緩衝液セット
(cat.no.00-5523-00)を使用した。以下の蛍光色素で標識されたモノ
クローナル抗体を、BD Pharmingen、BioLegend、R&D Sys
temsまたはeBiosciencesから購入し、製造者のプロトコルに従って使用
した:PEまたはAlexa Fluor 450コンジュゲート抗CD4;PEコンジ
ュゲート抗CD25;PerCP-Cy5.5コンジュゲート抗CD45;FITCコン
ジュゲート抗TCRβ;APCコンジュゲート抗IFN-γ;APCコンジュゲート抗F
oxP3;Brilliant-violetコンジュゲート抗CD45。細胞を、Fl
owJoソフトウェアを用いてLSRII血球計算器(BD Biosciences)
において解析した。各実験において、各組織に対する妥当なネガティブコントロール群、
ポジティブコントロールおよび単一染色サンプルを用いて、目的の集団を特定し、他の集
団を排除した。
【0078】
(BMキメラの調製)BMキメラを、先に記載されたように(Shechter et
al,2009;Shechter et al,2013)調製した。手短に言えば
、同性のレシピエントマウスを、頭部を遮蔽しながら致死性の全身照射(950rad)
にさらした(Shechter et al,2009)。次いで、それらのマウスの静
脈内に、CXCR1GFP/+ドナー由来の5×10個のBM細胞を注射した。BM
移植後、マウスを8~10週間放置することにより、造血系の再構成を可能にした後、実
験で使用した。血液サンプルのFACS解析によって、キメラ化のパーセンテージを、循
環単球(CD11b)のうちのGFP発現細胞のパーセンテージに従って測定した。こ
の頭部遮蔽モデルでは、60%のキメラ化の平均値が達成され、CNSに浸潤するGFP
骨髄性細胞が、単球由来のマクロファージであってミクログリアではないCD45hi
gh/CD11bhigh(Shechter et al,2013)であると立証さ
れた。
【0079】
(モーリス水迷路)プール(直径1.1m)内の水面の1.5cm下に配置された隠れ
たプラットフォームを探す方法を習得させるために、マウスに、4日連続して、1日あた
り3回の試行を行わせた。水の温度は、21~22℃で維持した。水を粉乳で不透明にし
た。試験室内において、水没したプラットフォームの位置の特定を助けるためにマウスに
とって利用可能な手がかりは遠位の視覚的形状および物体だけであった。逃避潜時、すな
わち、プラットフォームを探してその上に上がるのに要した時間を最大60秒間、記録し
た。各マウスをプラットフォーム上に15秒間とどまらせ、次いで、迷路から取り出して
ホームケージに戻した。マウスが、60秒以内にプラットフォームを探せなかった場合、
そのマウスを手作業でプラットフォーム上に置き、15秒後にホームケージに戻した。各
マウスに対する試行の間のインターバルは、10分間であった。5日目に、プラットフォ
ームを除去し、マウスに、利用可能な逃避場所なしで60秒間続く1回の試行を行わせた
。6および7日目に、プラットフォームを、元の訓練の四半分と反対の四半分に置き、1
日あたり3セッションでマウスを再訓練した。Etho Vision V7.1自動追
跡システム(Noldus Information Technology)を用いて
、データを記録した。統計解析を、分散分析(ANOVA)およびボンフェローニのpo
st-hocテストを用いて行った。すべてのMWM試験を、消灯期の間の午前10時~
午後5時に行った。
【0080】
(放射状アーム水迷路)先に詳細に記載された(Alamed et al,2006
)放射状アーム水迷路(RAWM)を用いることにより、空間学習および空間記憶を試験
した。簡潔には、6本のステンレス鋼挿入物をタンク内に置き、中央の開けた領域から放
射状に伸びる6本の水泳アームを形成させた。逃避プラットフォームを、1本のアーム(
ゴールアーム)の末端の、直径1.1mのプール内の水面の1.5cm下に配置した。水
の温度を21~22℃で維持した。水を粉乳で不透明にした。試験室内において、水没し
たプラットフォームの位置の特定を助けるためにマウスにとって利用可能な手がかりは遠
位の視覚的形状および物体だけであった。ゴールアームの位置は、所与のマウスにおいて
一定のままであった。1日目に、マウスを15回の試行(3時間超、間隔をあける)で訓
練し、試行は、見えるプラットフォームと隠れたプラットフォームとを交互に用い、最後
の4回の試行は、隠れたプラットフォームだけを用いた。2日目に、隠れたプラットフォ
ームを用いる15回の試行でマウスを訓練した。間違ったアームに進入したとき、または
15秒以内にアームの選択をしなかったときは、エラーとしてスコア付けした。各試行に
おけるマウスのアーム進入エラーの回数または逃避潜時をカウントすることによって、空
間学習および空間記憶を測定した。3回連続した試行の訓練ブロックについて、訓練デー
タをエラーまたは逃避潜時の平均値として解析した。
【0081】
(GAの投与)各マウスの皮下に(s.c.)、200μlのPBSに溶解された10
0μgの総用量のGA(バッチno.P53640;Teva Pharmaceuti
cal Industries,Petah Tiqva,Israel)を注射した。
毎週のGAレジメン(Butovsky et al,2006)または毎日のGA投与
図8および図16)に従って、マウスに注射した。各実験に対して示されているように
、最後のGA注射の1週間後または処置の1ヶ月後に、マウスを安楽死させた。
【0082】
(Tregの条件的除去)ジフテリア毒素(DTx;8ng/g体重;Sigma)を
、4日連続して、Foxp3.LuciDTRマウスの腹腔内に(i.p.)毎日注射し
た(Suffner et al,2010)。DTxの効率を血液および脾臓における
免疫細胞のフローサイトメトリー解析によって確認したところ、GFPを発現しているF
oxP3CD4Treg細胞のほぼ完全な(>99%)枯渇が達成された(図4)。
【0083】
(P300の阻害)マウスにおけるp300の阻害を、先の記載(Liu et al
,2013)と同様に行った。p300i(C646;Tocris Bioscien
ce)をDMSOに溶解し、1週間にわたって毎日i.p.注射した(8.9mgkg
-1、i.p.)。ビヒクルで処置されるマウスにはDMSOを同様に注射した。
【0084】
(ATRA処置)マウスへのオールトランスレチノイン酸(ATRA)投与を、先の記
載(Walsh et al,2014)と同様に行った。ATRA(Sigma)をD
MSOに溶解し、1週間にわたって1日おきにi.p.注射した(8mgkg-1-1
)。ビヒクルで処置されるマウスにはDMSOを同様に注射した。
【0085】
(可溶性Aβ(sAβ)タンパク質の単離および定量)組織の均質化およびsAβタン
パク質の抽出を、先に記載されたように(Schmidt
et al,2005)行った。簡潔には、大脳実質を解剖し、急凍し、ホモゲナイズ
するまで-80℃で維持した。タンパク質をサンプルから連続的に抽出することにより、
異なる溶解度のタンパク質を含む別個の画分を得た。サンプルを、250mMのスクロー
ス、20mMのTris塩基、1mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)および1m
Mのエチレングリコール四酢酸(pH7.4)を含む10体積の氷冷組織均質化緩衝液中
で、Dounceホモジナイザーにおいてすりガラス乳棒を用いてホモゲナイズした。6
ストロークの後、ホモジネートを100mM NaCl溶液中の0.4%ジエチルアミン
(DEA)と1:1混合した後、さらに6ストローク行い、次いで、4℃にて135,0
00gで45分間遠心した。上清(細胞外およびサイトゾルのタンパク質を含むDEA可
溶性画分)を回収し、10%の0.5M Tris-HCl(pH6.8)で中和した。
Aβ1-40およびAβ1-42を、商業的に入手可能なキット(それぞれBioleg
end;#SIG-38954および#SIG-38956)を製造者の指示書に従って
使用して、可溶性画分から酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって個別に測定し
た。
【0086】
(Aβプラークの定量)各脳から、目的の領域(歯状回または大脳皮質)全体にわたる
4つの異なる所定の深さから、6μmの冠状切片を回収し、マウス1匹あたり8枚の切片
を免疫染色した。陽染されたピクセルのヒストグラムベースの区分けを、Image-P
ro Plusソフトウェア(Media Cybernetics,Bethesda
,MD,USA)を用いて行った。歯状回の領域または皮質V層において、区分けのアル
ゴリズムを各像に手作業で適用し、全Aβ免疫染色によって占有された領域のパーセンテ
ージを測定した。プラークの数を同じ6μm脳冠状切片から定量し、脳領域1つあたりの
プラークの平均数として提示する。定量の前に、切片をコード化して実験群の同一性を隠
し、群の同一性について盲検の観察者がプラーク量を定量した。
【0087】
(統計解析)各実験セットを解析するために用いられた具体的な試験を図の説明文に示
す。2群間を比較するために両側スチューデントt検定を用いてデータを解析し、いくつ
かの群を比較するために1元配置分散分析を使用し、続いて帰無仮説が棄却された後(P
<0.05)、群の対ごとの比較のためにNewman-Keulsのpost-hoc
テストを用いた。行動試験のデータは、2元配置反復測定分散分析を用いて解析し、追跡
の対ごとの比較のために、ボンフェローニのpost-hocテストを用いた。サンプル
サイズは、文献および過去の経験に基づいて適切な統計的検出力によって選択し、マウス
を齢、性別および遺伝子型に従って実験群に割り当てた。研究者は、実験中および結果の
評価中、群の同一性について盲検であった。すべての選択規準および除外規準は、IAC
UCガイドラインに従って予め決められていた。結果は、平均値±s.e.m.として示
される。グラフにおいて、y軸のエラーバーは、s.e.m.を表す。統計的計算は、G
raphPad
Prismソフトウェア(GraphPad Software,San Diego
,CA)を用いて行った。
実施例1.ADのマウスモデルにおける疾患進行に沿った脈絡叢(CP)ゲートウェイ
活性(gateway activity)
【0088】
本発明者らは、最初に、ADの5XFADトランスジェニックマウスモデル(AD-T
g)において疾患進行に沿ったCP活性を調べた;これらのマウスは、家族性ADに関連
する5つの変異を共発現し、2月齢という早さで大脳のAβ病態およびグリオーシスを発
症する(Oakley et al,2006)。本発明者らは、疾患の病態の進行段階
に沿って、AD-TgマウスのCPが、同齢の野生型(WT)コントロールと比べて、有
意に低いレベルの白血球ホーミングならびにicam1、vcam1、cxcl10およ
びccl2を含む輸送決定因子(trafficking determinants)
を示すこと(図1A)を見出した(これらの輸送決定因子は、急性CNS損傷に応答して
CPによってアップレギュレートされると示され、白血球の経上皮遊走に必要である(K
unis et al,2013;Shechter et al,2013))。イン
テグリンリガンドであるICAM-1の免疫組織化学的染色によって、AD-Tgマウス
のCP上皮によるその発現の低下が確認された(図1b)。さらに、ヒト死後脳における
ICAM-1の染色は、CP上皮においてその加齢関連の減少を示し、これは、本発明者
らの以前の知見(Baruch et al,2014)と一致し、この作用の定量的評
価によって、CNS疾患を有しない高齢個体と比べてAD患者においてさらに減少するこ
とが明らかになった(図2A)。CPによる白血球の輸送決定因子の誘導は、上皮のイン
ターフェロン(IFN)γシグナル伝達に依存するので(Kunis et al,20
13)、本発明者らは、次に、観察された作用が、CPにおけるIFN-γの利用可能性
の喪失を反映し得るかを試験した。細胞内染色のフローサイトメトリーを用いて5XFA
D AD-TgマウスのCPを調べることにより、このコンパートメントにおける有意に
少ない数のIFNγ産生細胞が明らかになり(図2B)、定量的リアルタイムPCR(R
T-qPCR)解析から、AD-TgマウスのCPにおいて、同齢のWTコントロールと
比べてより低いifn-γのmRNA発現レベルが確かめられた(図2C)。
実施例2.Treg媒介性全身免疫抑制とCPゲートウェイ活性とADの病態との間の
機能的関係性
【0089】
制御性T細胞(Treg)は、全身のエフェクター免疫応答の抑制において中心的役割
を果たす(Sakaguchi et al,2008)。本発明者らは、Treg媒介
性の全身免疫抑制が、CPにおけるIFN-γの利用可能性に影響すると想定したので、
ADの病態へのTregの関与に注目した。AD患者ではTregレベルおよび抑制活性
が高いという以前の報告と一致して(Rosenkranz et al,2007;S
aresella et al,2010;Torres et al,2013)、5
XFAD AD-Tgマウスの脾細胞におけるFoxp3Tregの出現率を同齢のW
T同腹仔と比べて評価することにより、疾患進行に沿ってそれらの高いレベルが明らかに
なった(図3A、B)。Treg媒介性の全身免疫抑制とCPゲートウェイ活性とADの
病態との間の機能的関係性を研究するために、本発明者らは、5XFAD AD-Tgマ
ウスをFoxp3-ジフテリア毒素レセプター(DTR)マウスと交雑して、AD-T
g/DTRマウスにおいてジフテリア毒素(DTx)の投与によってFoxp3Tr
egの一過性の条件的インビボ枯渇を可能にした(図4A)。Tregの一過性の枯渇は
、DTxで処置されたAD-Tg/DTR同腹仔と比べて、AD-Tg/DTRマウ
スのCPによる白血球輸送分子のmRNA発現を増加させた(図5A)。脳実質に対する
一過性のTreg枯渇の長期効果の解析(3週間後)から、浸潤性mo-MΦに相当する
(Shechter et al,2013)CD45high/CD11bhigh
髄性細胞およびCD4T細胞の数の増加を含む免疫細胞の脳内蓄積が明らかになった(
図5B)。さらに、Tregの短期および一過性の枯渇は、フローサイトメトリーによっ
て評価されたとき、脳内に蓄積したCD4T細胞の中でもFoxp3Tregの顕著
な富化をもたらした(図5C、D)。海馬のRT-qPCR解析は、foxp3およびi
l10 mRNAの高発現を示した(図5E)。
【0090】
本発明者らは、次に、脳の病態の部位に免疫調節性細胞が蓄積する前のTregの短期
枯渇が、脳機能に対する長期効果をもたらすかを調べた。本発明者らは、海馬グリオーシ
スの低減(図5F)、および炎症促進性サイトカイン(例えば、il-12p40および
tnf-α)の低いmRNA発現レベル(図5G)を観察した。さらに、5XFAD A
D-Tgマウスにおいて頑強なAβプラーク病態を示す2つの脳領域である海馬歯状回お
よび大脳皮質(5層)(Oakley et al,2006)における大脳のAβプラ
ーク量は減少した(図6A、B)。モーリス水迷路(MWM)試験を用いて認知機能に対
する効果を評価することにより、DTxで処置されたAD-Tg/DTR同齢マウスと
比べて、Treg枯渇後のAD-Tg/DTRマウスにおいて空間学習および空間記憶
の有意な改善が明らかになり、WTマウスと同様の成績に達した(図6C~E)。まとめ
ると、これらのデータは、AD-TgマウスにおいてTreg媒介性の全身免疫抑制を一
過性に中断することにより、炎症を消散させる細胞(mo-MΦおよびTregを含む)
の脳内蓄積がもたらされ、その中断の後、神経炎症反応の消散、Aβのクリアランスおよ
び認知機能低下の回復が続くことを実証した。
実施例3.コポリマ-1の毎週投与は、Treg媒介性の全身免疫抑制を減少させ、C
Pゲートウェイ活性を改善し、ADの病態を緩和する。
【0091】
全身免疫抑制とCP機能とADの病態との間の逆相関の原因となる性質をさらに裏付け
るために、本発明者らは次に、免疫調節性化合物であるグラチラマー酢酸塩(GA;コポ
リマ-1またはCopaxone(登録商標)としても知られる)を利用した。酢酸グラ
チラマーは、毎週投与レジメンでADのAPP/PS1マウスモデルにおいて治療効果を
有すると見出された(Butovsky et al,2006);この効果は、疾患病
態の大脳部位へのmo-MΦの動員と機能的に関連した(Butovsky et al
,2007)。ここでは、まず本発明者らは、5XFAD AD-Tgマウスにおける本
発明者らの知見と同様に、APP/PS1 AD-TgマウスにおけるCPもIFN-γ
発現レベルに関して不足しているかを調べた。本発明者らは、APP/PS1 AD-T
gマウスにおいて、CPにおけるIFN-γレベルが、同齢のWTコントロールと比べて
低下していることを見出した(図7A)。これらの結果は、APP/PS1マウスにおけ
る毎週GAの治療効果(Butovsky et al,2006)が、5XFAD A
D-Tgマウスにおいて再現され得るかを試験するように促し、ならびにもしそうであれ
ば、それが全身のTregおよびmo-MΦ輸送に対するCPの活性化に影響し得るかを
試験するように促した。ゆえに、本発明者らは、4週間にわたって、5XFAD AD-
TgマウスをGAの毎週投与レジメンで処置した(以後、「毎週GA」;図8Aに模式的
に示される)。本発明者らは、毎週GAで処置された5XFAD AD-Tgマウスが、
神経炎症の低減(図8B~D)および認知能力の改善を示し、それは処置後最大2ヶ月続
く(図8E~I)ことを見出した。全身免疫およびCPに対する毎週GAの効果をフロー
サイトメトリーによって調べたとき、本発明者らは、脾細胞のFoxp3Tregレベ
ルの低下(図9A)、および処置された5XFAD AD-TgマウスのCPにおいて、
WTコントロールで観察されたレベルと同様のレベルに達するIFN-γ産生細胞の増加
図9B)を見出した。毎週GAで処置されたマウスのCPにおける高レベルのIFN-
γ発現細胞は、白血球輸送分子の上皮発現のアップレギュレートを伴った(図9C)。
【0092】
CNSへの浸潤性mo-MΦの進入を検出するために、本発明者らは、循環中の(緑色
蛍光タンパク質(GFP)で標識された)骨髄性細胞の可視化を可能にする5XFAD
AD-Tg/CXCR1GFP/+骨髄(BM)キメラマウス(頭部保護を用いて作
製された)を使用した(Shechter et al,2009;Shechter
et al,2013)。本発明者らは、毎週GA処置の後に、ビヒクルで処置されたA
D-Tg/CXCR1GFP/+コントロールと比べて、CPおよび隣接する脳室腔へ
のGFPmo-MΦのホーミングが増加することを見出した(図9D~E)。脳実質の
免疫組織化学から、大脳のプラーク形成部位におけるGFPmo-MΦ蓄積の存在が明
らかになり(図9F)、AD-Tg非キメラマウスにおける海馬のフローサイトメトリー
解析による浸潤性の骨髄性細胞の定量から、CD11bhighCD45high発現細
胞の数の増加が示された(図9G、H)。まとめると、これらの結果は、ADの病態の部
位へのmo-MΦの動員と全身のTregレベルの低下とCPのIFN-γ依存的活性化
との間の機能的関連を裏付けた。
実施例4.小分子ヒストンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤を用いたTreg活性の
干渉
【0093】
Treg媒介性の全身免疫抑制が、ADの病態と闘う能力を干渉することを示唆した上
記の知見は、癌免疫療法(免疫系が効果的な抗腫瘍応答を開始する能力をTregが妨害
する)におけるこれらの細胞に起因する機能を連想させる(Bos & Rudensk
y,2012;Nishikawa & Sakaguchi,2010)。ゆえに、本
発明者らは、Foxp3Treg細胞の活性を直接干渉する処置が、ADにおいて有益
であるだろうと考えた。本発明者らは、Tregの機能を制御するヒストンアセチルトラ
ンスフェラーゼであるp300の非ペプチド阻害剤である(Liu et al,201
3)p300i(C646(Bowers et al,2010))を試験した;この
阻害剤は、保護的なTエフェクター細胞応答をインタクトなまま放置しつつ、Treg抑
制活性に影響すると示された(Liu et al,2013)。本発明者らは、p30
0iで処置されたマウスが、ビヒクル(DMSO)で処置されたコントロールと比べて、
高レベルの全身性IFN-γ発現細胞を脾臓(図10A)ならびにCP(図10B)にお
いて示すことを見出した。本発明者らは、次に、AD-Tgマウスを1週間にわたってp
300iまたはビヒクルで処置し、3週間後に大脳のAβプラーク量についてそれらのマ
ウスを調べた。免疫組織化学的解析から、p300iで処置されたAD-Tgマウスにお
いて、大脳のAβプラーク量の有意な減少が明らかになった(図10C~E)。本発明者
らは、1コースの処置後のプラークの病態に対する効果が、3週間を超えて継続し得るか
を試験し、およびもしそうであれば、さらなるコースの処置が長期間の効果に寄与し得る
かも試験した。ゆえに、本発明者らは、単一コースのp300i処置を受けたAD-Tg
マウスを、間に1ヶ月のインターバルを含む2コースの処置をこの期間中に受けた同齢群
と比較し、2ヶ月後に調べた(図10Fに模式的に示される)。本発明者らは、大脳のプ
ラーク量の減少が、単一コースの処置の2ヶ月後でさえ明らかであったが、間に1ヶ月の
インターバルを含む2コースの処置を受けたマウスにおいてより強力であったことを見出
した(図10G)。ADにおけるシナプス可塑性および記憶の障害は、可溶性Aβ1-4
/Aβ1-42(sAβ)レベルの大脳レベルの上昇に関連するので(Shankar
et al,2008)、本発明者らは、単一または反復サイクルのp300i処置後
のsAβレベルも測定した。また、本発明者らは、1コースと2コース(間に1ヶ月のイ
ンターバルを含む)の両方が、大脳のsAβの減少において効果的であるが、sAP1-
42に対する効果に関して、この効果が反復コースの後により強いことを見出した(図1
0H)。これらの結果は、短期の単一コースの処置が効果的であるが、本発明者らの毎週
GA処置後の知見と同様に、反復コースの処置が長期間の治療効果を維持するために有益
であり得ることを示唆した。
実施例5.アルツハイマー病におけるPD-1免疫チェックポイント遮断の治療的可能
【0094】
本発明者らは、まず、PD-1阻害経路を標的化することによって、家族性ADに関連
する5つの変異を共発現する5XFAD ADトランスジェニック(AD-Tg)マウス
(Oakley et al,2006)におけるIFN-γ関連の全身免疫が影響され
得るかを試験した。大脳の病態が進行した時点である10月齢のAD-Tgマウスに、P
D-1に対する遮断抗体(抗PD-1)またはIgGコントロール抗体の腹腔内(i.p
.)注射を2回、1および4日目に投与し、次いで、7日目に調べた。フローサイトメト
リー解析から、PD-1経路の遮断によって、IFN-γ産生CD4T脾細胞の高い出
現率がもたらされることが明らかになった(図11A、B)。

【表2】
【0095】
本発明者らは、次に、この全身免疫応答がCP活性に影響するかを調べた。CPのゲノ
ムワイドRNA配列決定(示さず;完全解析は、実施例5の表題を有する本発明者らによ
る報告に開示され、要請があれば本発明者らから入手することができる)は、IFN-γ
に対する応答に関連する発現プロファイルを示し(図11Dおよび表2)、リアルタイム
定量的PCR(RT-qPCR)は、IgGで処置されたまたは処置されていないAD-
Tgコントロールと比べたとき、CPにおけるIFN-γのmRNAレベルの上昇を立証
した(図11C)。これらの知見から、PD-1遮断後の全身性のおよびCP組織特異的
なIFN-γ免疫応答が確かめられ、次に疾患病態に対する効果を試験するように促され
た。
【0096】
ADの病態に対するPD-1遮断の機能的影響を調べるために、本発明者らは、10月
齢のAD-Tgマウスを抗PD-1抗体またはIgGコントロール抗体で処置し、放射状
アーム水迷路(RAWM)タスクを用いて空間学習および空間記憶の能力に対する効果を
評価した。
【0097】
抗PD1で処置されたAD-Tgマウスは、処置(3日間のインターバルを含む2回の
i.p.注射)の1ヶ月後に、IgGで処置されたまたは処置されていない同齢のコント
ロールと比べて認知機能の有意な改善を示し、同齢のWTマウスと同様の認知レベルに達
した(図12A)。本発明者らは、次に、AD-Tgマウスの認知能力に対するPD-1
遮断の恩恵が1ヶ月を超えて継続するか、およびさらなる治療セッションが有益であるか
を試験した。本発明者らは、AD-Tgマウスを10月齢において(「1セッション」)
または10月齢と11月齢の両方において(「2セッション」)抗PD-1で処置し、1
2月齢において認知能力に対する結果を調べた(図12Bに模式的に示す)。コントロー
ル群には、WTマウス、処置されていないAD-Tgマウス、および2セッションのIg
G処置を受けたAD-Tgマウスが含まれた。本発明者らは、単一セッションの抗PD-
1投与が、処置の1ヶ月後に空間学習および空間記憶に対して有益な効果を及ぼすが(図
12A)、単一セッションの処置を受け、2ヶ月後に試験されたマウスでは有意な効果を
検出できなかった(図12B)ことを見出した。対照的に、2セッションの抗PD-1を
1ヶ月のインターバルで受けたAD-Tgマウスは、2ヶ月の時間枠の終わりに、WTマ
ウスと同様の認知能力を示した(図12B)。
【0098】
本発明者らは、PD-1遮断が、大脳のAβプラーク量およびグリオーシスによって現
れるADの病態に影響するかを調べた。抗PD-1またはIgGを1または2セッション
で受けたAD-Tgマウスの脳を、Aβおよびグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)
に対する免疫組織化学によって調べた。本発明者らは、大脳のAβプラーク量が、海馬歯
状回(図13A、B)、および大脳皮質(5層)(図13A、C)において減少すること
を見出した(これらの2つの脳領域は、5XFADマウスにおいて確固としたAβプラー
クの病態を示す(Oakley et al,2006))。Aβクリアランスに対する
効果は、単一セッションの抗PD-1投与後に明らかであり、2セッション後にさらに強
かった。GFAP免疫染色の定量的解析は、IgGで処置されたコントロールと比べて、
1セッションのPD-1遮断で処置されたAD-Tgマウスと2セッションのPD-1遮
断で処置されたAD-Tgマウスの両方において、海馬アストログリオーシスの低減を示
した(図13A、D)。
【0099】
投与量および投与頻度の影響を調べるために、雌5XFAD ADトランスジェニック
マウス(6ヶ月の平均コホート齢)を、抗PD-1特異的抗体(IgG2a抗マウスPD
-1)またはIgGコントロール(ラットIgG2a)で処置した。抗PD-1で処置さ
れたマウスには、実験の1日目に500ugの抗体の注射を1回行うか、または250u
gの注射を2回、注射の間に3日間のインターバルを空けて行った。同齢の野生型(WT
)マウスをさらなるコントロール群として用いた。本発明者らは、放射状アーム水迷路(
RAWM)タスクを用いて、空間学習および空間記憶の能力に対する効果を評価した。
【0100】
処置(3日間のインターバルを含む2回のi.p.注射)の1ヶ月後に、抗PD1で処
置されたAD-Tgマウスは、IgGで処置されたまたは処置されていない同齢のコント
ロールと比べて、認知機能の有意な改善を示し、同齢のWTマウスと同様の認知レベルに
達した(図14)。
【0101】
最後に、雄5XFAD ADトランスジェニックマウスを、反復処置セッションにおい
て1ヶ月に1回、抗PD-1特異的抗体(IgG2a抗マウスPD-1)またはIgGコ
ントロール(ラットIgG2a)で処置した。1回目の注射は、3月齢において、2回目
の注射は、4月齢において、および3回目の注射は、5月齢において行った。投与量は、
実験計画のスキーム(図15A)に示されている。同齢の野生型(WT)マウスをさらな
るコントロール群として用いた。本発明者らは、2つの異なる時点、すなわち5月齢(図
15B)および6月齢(図15C)において、放射状アーム水迷路(RAWM)タスクを
用いて空間学習および空間記憶の能力に対する効果を評価した。実験計画が示されている
。黒矢印は、処置の時点を示し、イラストは、認知試験の時点を示す。抗PD-1で処置
された5XFADマウス(n=7)、IgG2aで処置された5XFADマウス(n=9
)およびWT(n=8)コントロールのRAWMの成績;2元配置反復測定分散分析およ
びDunnetのpost-test)。エラーバーは、平均値±s.e.m.を表して
いる;P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、抗PD-1で処置さ
れたマウス対IgGで処置されたコントロール。これらの知見は、PD-1遮断による反
復セッションの処置が、疾患の進行段階の5XFADマウスに対して行われたときに疾患
進行を逆転させることだけでなく、認知機能低下前の若齢において処置を開始したときに
疾患の発症を遅延させることもできたことを実証する(図15B~C)。
実施例6.アルツハイマー病における免疫チェックポイント遮断の治療的可能性
【0102】
免疫チェックポイントの遮断が、ADの病態を弱め得るかを試験するために、AD-T
gマウスを6~10月齢において以下の抗チェックポイント抗体のうちの1つで処置する
:抗ICOS、抗B7RP1、抗VISTA、抗CD40、抗CD40L、抗CD80、
抗CD86、抗B7-H3、抗B7-H4、B7-H7、抗BTLA、抗HVEM、抗C
D137、抗CD137L、抗OX40L、抗CD-27、抗CD70、抗STINGま
たは抗TIGIT抗体。いくつかのマウスを、ポジティブコントロールとして抗PD-1
抗体で、ネガティブコントロールとしてIgGコントロールで、または抗PD1と上で述
べた他の抗チェックポイント抗体のうちの1つとの併用で処置する。放射状アーム水迷路
(RAWM)タスクを用いて空間学習および空間記憶の能力に対する処置の効果、Aβの
免疫組織化学によるAβプラーク量およびグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の免
疫組織化学による海馬アストログリオーシスを、処置の1ヶ月後に測定する。
【0103】
抗体で処置されたマウスは、IgGで処置されたおよび処置されていないAD-Tgマ
ウスと比較して有意な認知機能改善、ならびに大脳のプラーク量の有意な減少を示すと予
想される。
実施例7.PTSD病態における免疫チェックポイント遮断アプローチの治療的可能性
【0104】
ひどくストレスの多い状態または慢性ストレスは、心的外傷後ストレス障害(PTSD
)およびうつ病をもたらし得る。本発明者らは、マウスが、過剰に用心深い(hyper
vigilant)行動、注意障害、リスク評価の増加および睡眠不足を示す生理学的P
TSD様動物モデル(Lebow et al,2012)を採用した。PTSD誘導の
この実験モデルでは、マウスを、逆転した昼/夜サイクルに10日間慣らし、「PTSD
誘導」と称される2エピソードの電気ショック(外傷およびトリガー)を与え、外傷後の
種々の時点において評価する。外傷性事象の後、マウスに、免疫チェックポイントを遮断
する前記化合物を注射する。以下のレジメンのうちの1つに従って、マウスを処置する:
【0105】
マウスを、以下の抗チェックポイント抗体のうちの1つで処置する:抗ICOS、抗B
7RP1、抗VISTA、抗CD40、抗CD40L、抗CD80、抗CD86、抗B7
-H3、抗B7-H4、B7-H7、抗BTLA、抗HVEM、抗CD137、抗CD1
37L、抗OX40L、抗CD-27、抗CD70、抗STINGもしくは抗TIGIT
抗体のみまたは抗CTLA-4抗体との併用。いくつかのマウスを、ポジティブコントロ
ールとして抗PD-1抗体で、ネガティブコントロールとしてIgGコントロールで、ま
たは抗PD1と上で述べた他の抗チェックポイント抗体のうちの1つとの併用で処置する
【0106】
いくつかのマウスに、適切なインターバルセッションを含むさらなる処置セッションを
行う。
【0107】
(Lebow et al,2012)に記載されている暗い/明るい迷路または他の
行動タスクにおいて探索およびリスク評価に費やした時間によって評価されるとき、処置
を受けたマウスは、この実験モデルにおいてPTSDに関連する不安行動を示さないと予
想される。
実施例8.パーキンソン病の病態における免疫チェックポイント遮断アプローチの治療
的可能性
【0108】
パーキンソン病(PD)トランスジェニック(Tg)マウスまたはPDのMPTP誘発
マウスモデルをこれらの実験において使用する。それらのマウスを、以下のレジメンのう
ちの1つに従って、疾患の進行段階において処置する:
【0109】
PD-Tgマウスを以下の抗チェックポイント抗体のうちの1つで処置する:抗ICO
S、抗B7RP1、抗VISTA、抗CD40、抗CD40L、抗CD80、抗CD86
、抗B7-H3、抗B7-H4、B7-H7、抗BTLA、抗HVEM、抗CD137、
抗CD137L、抗OX40L、抗CD-27、抗CD70、抗STINGもしくは抗T
IGIT抗体のみまたは抗CTLA-4抗体との併用。いくつかのマウスを、ポジティブ
コントロールとして抗PD-1抗体で、ネガティブコントロールとしてIgGコントロー
ルで、または抗PD1と上で述べた他の抗チェックポイント抗体のうちの1つとの併用で
処置する。
【0110】
運動神経機能を、例えば、回転するロッド上にマウスが留まる能力を評価するロータロ
ッド能力試験を用いて、評価する。
【0111】
1処置セッションで処置されたPD-Tgマウスは、IgGで処置されたもしくはビヒ
クルで処置されたコントロール群または処置されていない群と比べて、有意に改善された
運動能力を示すと予想される。2コースの治療を受け、適切なインターバルセッション後
に調べられたPD-Tgマウスは、長期間の治療効果を示すと予想される。この治療効果
を維持するために、マウスを、各処置セッション間に適切な非処置のインターバルセッシ
ョンを含む有効な処置セッションに供する。
実施例9.ハンチントン病の病態における免疫チェックポイント遮断の治療的可能性
【0112】
これらの実験において用いられるモデルは、ハンチントン病(HD)R6/2トランス
ジェニックマウス(Tg)試験システムであり得る。R6/2トランスジェニックマウス
は、疾患の進行段階において、複数のCAGリピートマウスの挿入を含む変異したヒトハ
ンチンチン遺伝子を過剰発現する。これらのマウスは、5~6週齢という早さで進行性の
行動運動障害を示し始め、10~13週において成熟前に死亡する。これらの症状には、
低体重、抱き締め行動(clasping)、振戦および痙攣が含まれる。
【0113】
45日齢になったとき、以下のレジメンのうちの1つに従って、マウスを処置する:
【0114】
マウスを以下の抗チェックポイント抗体のうちの1つで処置する:抗ICOS、抗B7
RP1、抗VISTA、抗CD40、抗CD40L、抗CD80、抗CD86、抗B7-
H3、抗B7-H4、B7-H7、抗BTLA、抗HVEM、抗CD137、抗CD13
7L、抗OX40L、抗CD-27、抗CD70、抗STINGもしくは抗TIGIT抗
体のみまたは抗CTLA-4抗体との併用。いくつかのマウスを、ポジティブコントロー
ルとして抗PD-1抗体で、ネガティブコントロールとしてIgGコントロールで、また
は抗PD1と上で述べた他の抗チェックポイント抗体のうちの1つとの併用で処置する。
【0115】
運動神経機能を、例えば、回転するロッド上にマウスが留まる能力を評価するロータロ
ッド能力試験を用いて、評価する。
【0116】
1処置セッションで処置されたHD-Tgマウスは、IgGで処置されたもしくはビヒ
クルで処置されたコントロール群または処置されていない群と比べて、有意に改善された
運動能力を示すと予想される。2コースの治療を受け受け、適切なインターバルセッショ
ン後に調べられたHD-Tgマウスは、長期間の治療効果を示すと予想される。この治療
効果を維持するために、マウスを、各処置セッション間に適切な非処置のインターバルセ
ッションを含む有効な処置セッションに供する。
実施例10.萎縮性側索硬化症の病態における免疫チェックポイント遮断アプローチの
治療的可能性
【0117】
この実験において用いられるモデルは、Gly93→Ala(G93A)遺伝子を含む
欠損ヒト変異体SOD1対立遺伝子を過剰発現するトランスジェニックマウス(B6SJ
L-TgN(SOD1-G93A)1Gur(本明細書中の「ALSマウス」)であり得
る。このモデルは、運動ニューロン疾患を発症するので、ALSを試験するために認めら
れた動物モデルである。
【0118】
75日齢になったとき、以下のレジメンのうちの1つに従って、それらのマウスを処置
する:
【0119】
マウスを以下の抗チェックポイント抗体のうちの1つで処置する:抗ICOS、抗B7
RP1、抗VISTA、抗CD40、抗CD40L、抗CD80、抗CD86、抗B7-
H3、抗B7-H4、B7-H7、抗BTLA、抗HVEM、抗CD137、抗CD13
7L、抗OX40L、抗CD-27、抗CD70、抗STINGもしくは抗TIGIT抗
体のみまたは抗CTLA-4抗体との併用。いくつかのマウスを、ポジティブコントロー
ルとして抗PD-1抗体で、ネガティブコントロールとしてIgGコントロールで、また
は抗PD1と上で述べた他の抗チェックポイント抗体のうちの1つとの併用で処置する。
【0120】
運動神経機能を、例えば、回転するロッド上にマウスが留まる能力を評価するロータロ
ッド能力試験を用いて、評価するか、またはマウスに、下端に小さいループを有する鉛直
方向のワイヤ(直径2mm)を掴ませて、しがみつかせる。鉛直方向のワイヤは、マウス
がワイヤに掴まるために前肢と後肢の両方を使用させる。そのワイヤを24rpmの鉛直
方向の円運動(円の半径は10cm)で維持する。マウスがワイヤを放さずにいることが
できる時間をタイマーで記録する。
【0121】
1処置セッションで処置されたALSマウスは、IgGで処置されたもしくはビヒクル
で処置されたコントロール群または処置されていない群と比べて、運動能力の有意な改善
を示すと予想される。2コースの治療を受け受け、適切なインターバルセッション後に調
べられたALSマウスは、長期間の治療効果を示すと予想される。この治療効果を維持す
るために、マウスを、各処置セッション間に適切な非処置のインターバルセッションを含
む有効な処置セッションに供する。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図8I
図9A-B】
図9C
図9D
図9E
図9F
図9G
図9H
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G-H】
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A-B】
図13A
図13B
図13C
図13D
図14
図15A
図15B
図15C
【配列表】
2023089119000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-05-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病(AD)の処置において使用するための、1つ以上の免疫チェックポイントによって免疫系に課された制限の解除によって全身免疫抑制のレベルの低下を引き起こす活性な作用物質を含む、薬学的組成物であって、
ここで、前記活性な作用物質は、抗VドメインIg抑制因子(VISTA)抗体、抗CD137抗体及び/又は抗CD27抗体であり、
前記薬学的組成物は、少なくとも2コースの治療を含む投与レジメンによって投与され、治療の各コースは、処置セッションに続く、前記薬学的組成物を個体に投与しない非処置のセッションを順に含み、
前記処置セッション中の前記薬学的組成物の投与が単回投与であり;
前記薬学的組成物の投与が、IFNγ産生白血球の全身における存在又は活性の増加を伴う全身免疫抑制のレベルを一過性に低下させる、薬学的組成物。