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特開2023-89307成形材料用の化学修飾人工タンパク質及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089307
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】成形材料用の化学修飾人工タンパク質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/435 20060101AFI20230621BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230621BHJP
【FI】
C07K14/435 ZNA
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020045745
(22)【出願日】2020-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】坂田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】北原 奈緒
(72)【発明者】
【氏名】白川 誠司
(72)【発明者】
【氏名】シャファート オリバ- セイエッド
(72)【発明者】
【氏名】武藤 れおな
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045FA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】種々の機能を付与し得る化学修飾人工タンパク質を提供すること。
【解決手段】マレイミド基を含むペンダント基を有する、成形材料用の化学修飾人工タンパク質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイミド基を含むペンダント基を有する、成形材料用の化学修飾人工タンパク質。
【請求項2】
マレイミド基を含むペンダント基を有する化学修飾人工構造タンパク質である、請求項1に記載の人工タンパク質。
【請求項3】
マレイミド基を含むペンダント基を有する化学修飾人工フィブロインである、請求項2に記載の人工タンパク質。
【請求項4】
マレイミド基を含むペンダント基を有する化学修飾人工クモ糸フィブロインである、請求項3に記載の人工タンパク質。
【請求項5】
人工タンパク質と、式(I)で表される化合物との反応により、式(II)で表される化学修飾人工タンパク質を得る工程を含む、化学修飾人工タンパク質の製造方法。
【化1】

[式中、Xは脱離基を示し、Lはリンカー部分を示す。]
【化2】

[式中、Lはリンカー部分を示し、Protは人工タンパク質を示し、Yは、人工タンパク質のアミノ酸残基中のヘテロ原子を示し、nは1~10の整数を示す。]
【請求項6】
式(I)で表される化合物の使用量が、人工フィブロイン1当量に対して1当量超である、請求項5に記載の化学修飾人工タンパク質の製造方法。
【請求項7】
式(II)で表される化学修飾人工タンパク質を含む成形材料。
【化3】

[式中、Lはリンカー部分を示し、Protは人工タンパク質を示し、Yは人工タンパク質のアミノ酸残基中のヘテロ原子を示し、nは1~10の整数を示す。]
【請求項8】
人工タンパク質が人工構造タンパク質である、請求項7に記載の成形材料。
【請求項9】
人工構造タンパク質が人工フィブロインである、請求項8に記載の成形材料。
【請求項10】
人工フィブロインが人工クモ糸フィブロインである、請求項9に記載の成形材料。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか一項に記載の成形材料を成形して得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料用の化学修飾人工タンパク質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全意識の高まりから、石油由来の材料の代替物質の検討が進められており、強度等の点でタンパク質が注目されている。例えば、特許文献1には、ウールやカシミヤ繊維、水鳥の羽根等を圧縮成形した成形物が応力-ひずみ特性等の機械的特性が高いことが開示されている。また、工業的に生産が可能な人工タンパク質の材料化が検討され、中でも、強度や伸度に優れるクモ糸の特徴を備えた人工フィブロインの成形材料としての応用研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-110132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の人工タンパク質では、その成形体として利用するにあたり、付与できる性質の種類にも限りがあり、より広汎な種類の機能を付与することは困難である。そこで、本発明は、種々の機能を付与し得る化学修飾人工タンパク質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の[1]~[14]を提供する。
[1] マレイミド基を含むペンダント基を有する、成形材料用の化学修飾人工タンパク質。
[2] マレイミド基を含むペンダント基を有する化学修飾人工構造タンパク質である、[1]に記載の人工タンパク質。
[3] マレイミド基を含むペンダント基を有する化学修飾人工フィブロインである、[2]に記載の人工タンパク質。
[4] マレイミド基を含むペンダント基を有する化学修飾人工クモ糸フィブロインである、[3]に記載の人工タンパク質。
[5] 人工タンパク質と、式(I)で表される化合物との反応により、式(II)で表される化学修飾人工タンパク質を得る工程を含む、化学修飾人工タンパク質の製造方法。
【化1】

[式中、Xは脱離基を示し、Lはリンカー部分を示す。]
【化2】

[式中、Lはリンカー部分を示し、Protは人工タンパク質を示し、Yは人工タンパク質のアミノ酸残基中のヘテロ原子を示し、nは1~10の整数を示す。]
[6] 式(I)で表される化合物の使用量が、人工フィブロイン1当量に対して1当量超である、[5]に記載の化学修飾人工タンパク質の製造方法。
[7] 人工タンパク質が人工構造タンパク質である、[5]又は[6]に記載の、人工タンパク質の製造方法。
[8] 人工構造タンパク質が人工フィブロインである、[7]に記載の人工タンパク質の製造方法。
[9] 人工フィブロインが改変クモ糸フィブロインである、[8]に記載の人工タンパク質の製造方法。
[10] 式(II)で表される化学修飾人工タンパク質を含む成形材料。
【化3】

[式中、Lはリンカー部分を示し、Protは人工タンパク質を示し、Yは人工タンパク質のアミノ酸残基中のヘテロ原子を示し、nは1~10の整数を示す。]
[11] 人工タンパク質が人工構造タンパク質である、[10]に記載の成形材料。
[12] 人工構造タンパク質が人工フィブロインである、[11]に記載の成形材料。
[13] 人工フィブロインが改変クモ糸フィブロインである、[12]に記載の成形材料。
[14] [10]~[13]のいずれかに記載の成形材料を成形して得られる成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の化学修飾人工タンパク質によれば、種々の機能性物質と簡便な操作で結合することができ、機能性物質に応じた種々の機能を付与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】人工フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図2】天然由来のフィブロインのz/w(%)の値の分布を示す図である。
図3】天然由来のフィブロインのx/y(%)の値の分布を示す図である。
図4】人工フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図5】人工フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
図6】実施例1及び比較例1のフィブロインの吸光度測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明についてより詳細に述べる。
【0009】
本発明の第一実施形態は、マレイミド基を含むペンダント基を有する、成形材料用の化学修飾人工タンパク質であり、式(II)で表される化合物である。本実施形態に係る化学修飾人工タンパク質は、人工タンパク質に化学修飾を行うことにより、マレイミド基を含むペンダント基を導入することにより製造され得る。
【化4】

[式中、Lはリンカー部分を示し、Protは人工タンパク質を示し、Yは人工タンパク質のアミノ酸残基中のヘテロ原子を示し、nは1~10の整数を示す。]
【0010】
人工タンパク質としては、工業規模での製造が可能な任意のタンパク質を挙げることができ、例えば、工業用に利用できるタンパク質、医療用に利用できるタンパク質、構造タンパク質等を挙げることができる。工業用又は医療用に利用できるタンパク質の具体例としては、酵素、制御タンパク質、受容体、ペプチドホルモン、サイトカイン、膜又は輸送タンパク質、予防接種に使用する抗原、ワクチン、抗原結合タンパク質、免疫刺激タンパク質、アレルゲン、完全長抗体又は抗体フラグメント若しくは誘導体を挙げることができる。
【0011】
なお、人工タンパク質は、組換え(リコンビナント)タンパク質と合成タンパク質とを含む。つまり、本明細書において「人工タンパク質」とは、人為的に製造されたタンパク質を意味する。人工タンパク質は、そのドメイン配列が、天然由来のタンパク質のアミノ酸配列とは異なるタンパク質であってもよく、天然由来のタンパク質のアミノ酸配列と同一であるタンパク質であってもよい。また、「人工タンパク質」は、天然由来のタンパク質のアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のタンパク質のアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のタンパク質の遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のタンパク質に依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。なお、化学修飾人工タンパク質は、化学修飾によりアミノ酸に由来しない部分構造を導入することは含まない。
【0012】
本実施形態に係る人工タンパク質は、アミノ酸残基数が50以上であればよい。当該アミノ酸残基数は、例えば、100以上又は150以上であってよく、200以上又は250以上であってよく、好ましくは300以上、350以上、400以上、450以上又は500以上である。
【0013】
本発明の第一実施形態の好ましい態様は、マレイミド基を含むペンダント基を有する、成形材料用の化学修飾人工フィブロインであり、式(II’)で表される化合物である。式中、Lはリンカー部分を示し、Fibは人工フィブロインを示し、Yは人工フィブロインのアミノ酸残基中のヘテロ原子を示し、nは1~10の整数を示す。
【化5】
【0014】
(人工構造タンパク質)
本実施形態に係る人工タンパク質は、例えば、構造タンパク質であってよい。構造タンパク質とは、生体の構造に関わるタンパク質、若しくは生体が作り出す構造体を構成するタンパク質、又はそれらに由来するタンパク質を意味する。構造タンパク質は、また、一定の条件下において自己凝集し繊維やフィルム、樹脂、ゲル、ミセル、ナノパーティクル等の構造体を形成するタンパク質のことを言い、天然においては例えば、フィブロイン、ケラチン、コラ-ゲン、エラスチン及びレシリンが挙げられる。
【0015】
構造タンパク質は、人工構造タンパク質であってもよい。本明細書において「人工構造タンパク質」とは、人為的に製造された構造タンパク質を意味する。人工構造タンパク質は、マレイミド基を含むペンダント基を、化学修飾により導入できる人工構造タンパクであればよい。遺伝子組換えにより微生物生産した構造タンパク質であってよく、成形性や生産性の観点からアミノ酸の配列を改良したものも含み、天然由来構造タンパク質の配列に限定されない。
【0016】
人工構造タンパク質を人工的に成形する際、側鎖の小さいアミノ酸ほど水素結合しやすく、強度の高い成形体を得やすい。また、アラニン残基及びグリシン残基は、側鎖が非極性のアミノ酸であるため、ポリペプチド生成における折りたたみの過程で内側に向くように配置され、αヘリックス構造又はβシート構造を取りやすい。よって、グリシン残基、アラニン残基、セリン残基等のアミノ酸の割合が高いことが望ましい。例えば、アラニン残基含有量が10~40%であればよく、12~40%であればよく、15~40%であってよく、18~40%であってよく、20~40%であってよく、22~40%であってよい。例えば、グリシン残基含有量が10~55%であればよく、11%~55%であってよく、13%~55%であってよく、15%~55%であってよく、18%~55%であってよく、20%~55%であってよく、22%~55%であってよく、25%~55%であってよい。
【0017】
なお、本明細書において、「アラニン残基含有量」とは、下記式で表される値である。
アラニン残基含有量=(ポリペプチドに含まれるアラニン残基の数/ポリペプチドの全アミノ酸残基の数)×100(%)
また、グリシン残基含有量、セリン残基含有量、スレオニン残基含有量、プロリン残基含有量及びチロシン残基含有量は、上記式において、アラニン残基をそれぞれグリシン残基、セリン残基、スレオニン残基、プロリン残基及びチロシン残基と読み替えたものと同義である。
【0018】
加工性を向上させる観点では、加工時点においては分子間の強固な水素結合を阻害することが重要であり、この観点から側鎖の大きいアミノ酸又は屈曲性を有するアミノ酸が一定程度、配列全体に均質に含まれていることが望ましく、具体的にはチロシン残基、スレオニン残基、プロリン残基が含まれるモチーフを繰り返して周期で入っていてもよい。例えば、任意の連続した20アミノ酸残基の中、プロリン残基、スレオニン残基及びチロシン残基の合計含有量が、5%以上、10%以上、又は15%以上であってよく、50%以下、40%以下、30%以下、又は20%以下であってよい。
【0019】
一実施形態に係る人工構造タンパク質は、セリン残基含有量、スレオニン残基含有量及びチロシン残基含有量の合計が、4%以上であってよく、4.5%以上であってよく、5%以上であってよく、5.5%以上であってよく、6%以上であってよく、6.5%以上であってよく、7%以上であってよい。セリン残基含有量、スレオニン残基含有量及びチロシン残基含有量の合計は、例えば、35%以下であってよく、33%以下であってよく、30%以下であってよく、25%以下であってよく、20%以下であってよい。
【0020】
一実施形態に係る人工構造タンパク質は、反復配列を有するものであってよい。すなわち、本実施形態に係るポリペプチドは、ポリペプチド内に配列同一性が高いアミノ酸配列(反復配列単位)が複数存在するものであってよい。反復配列単位のアミノ酸残基数は6~200であることが好ましい。また、反復配列単位間の配列同一性は、例えば、85%以上であってよく、90%以上であってよく、95%以上であってよく、96%以上であってよく、97%以上であってよく、98%以上であってよく、99%以上であってよい。
【0021】
一実施形態に係る人工構造タンパク質は、(A)nモチーフを含むものであってよい。本明細書において、(A)nモチーフとは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を意味する。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は2~27であってよく、2~20、2~16、又は2~12の整数であってよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。
【0022】
人工構造タンパク質には、グリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していることが好ましく、グリシン残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していることがより好ましい。この場合、システイン残基の側鎖の可動範囲が広いため、システイン残基の側鎖に存在するメルカプト基(-SH)が、分子内又は分子間でジスルフィド結合を形成しやすくなり、物性をより一層向上させることができる。システイン残基は、グリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基と、グリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基との間に位置していてよく、セリン残基と、グリシン残基との間に位置していてよい。
【0023】
人工構造タンパク質には、疎水性アミノ酸残基と隣り合う位置に、システイン残基が挿入されたことに相当するアミノ酸配列を有していることが好ましい。この場合、分子間で疎水性アミノ酸残基同士が疎水的相互作用により固定されることで、システイン残基におけるメルカプト基(-SH)がジスルフィド結合を形成しやすくなり、物性をより一層向上させることができる。システイン残基は、疎水性アミノ酸残基の隣に位置していてよく、疎水性アミノ酸残基と、疎水性アミノ酸残基以外のアミノ酸残基との間に、位置していてもよく、疎水性アミノ酸残基と、グリシン残基、セリン残基、又はアラニン残基との間に位置していてよく、疎水性アミノ酸残基と、グリシン残基との間に位置していてよい。疎水性アミノ酸残基は、イソロイシン残基、バリン残基、ロイシン残基、フェニルアラニン残基、メチオニン残基、及びアラニン残基からなる群より選択される1種であってよい。
【0024】
(人工フィブロイン)
人工構造タンパク質としては、人工フィブロインが好ましい。フィブロインとしては、例えば、天然由来のフィブロインが挙げられる。天然由来のフィブロインとしては、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0025】
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、スズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0026】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、AAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0027】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
【0028】
クモ類が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major angu11ate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major anpullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0029】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0030】
本明細書において「人工フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。人工フィブロインは、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。
【0031】
人工フィブロインは、天然由来フィブロインに準ずる構造を有する繊維状タンパク質であってよく、天然由来フィブロインが有する反復配列と同様の配列を有するフィブロインであってもよい。「フィブロインが有する反復配列と同様の配列」とは、実際に天然由来フィブロインが有する配列であってもよく、それと類似する配列であってもよい。
【0032】
「人工フィブロイン」は、本開示で特定されるアミノ酸配列を有するものであれば、天然由来のフィブロインに依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的にアミノ酸配列を設計したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。なお、人工フィブロインのアミノ酸配列を改変したものも、そのアミノ酸配列が天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるものであれば、人工フィブロインに含まれる。人工フィブロインとしては、例えば、人工絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)、及び人工クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)などが挙げられる。人工フィブロインは、比較的にフィブリル化が容易で繊維形成能が高いことから、成形材料として好ましくは人工クモ糸フィブロインを含み、より好ましくは人工クモ糸フィブロインからなる。
【0033】
本実施形態に係る人工フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってよい。人工フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。なお、化学修飾人工フィブロインは化学修飾によりアミノ酸に由来しない部分構造を導入することは含まない。
【0034】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)モチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)モチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)モチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0035】
人工フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する人工フィブロイン(第1の人工フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する人工フィブロイン(第2の人工フィブロイン)、(A)モチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する人工フィブロイン(第3の人工フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)モチーフの含有量が低減された人工フィブロイン(第4の人工フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する人工フィブロイン(第5の人工フィブロイン)、並びにグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する人工フィブロイン(第6の人工フィブロイン)が挙げられる。
【0036】
第1の人工フィブロインとしては、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の人工フィブロインにおいて、(A)モチーフのアミノ酸残基数は、3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の人工フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の人工フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0037】
第1の人工フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
【0038】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0039】
第1の人工フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号4(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、人工フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0040】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0041】
(1-i)の人工フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0042】
第2の人工フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の人工フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0043】
第2の人工フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0044】
第2の人工フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0045】
第2の人工フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0046】
第2の人工フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の人工フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0047】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むフィブロイン(人工フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)モチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0048】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果を図2に示す。図2の横軸はz/w(%)を示し、縦軸は頻度を示す。図2から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。
【0049】
第2の人工フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0050】
第2の人工フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0051】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、フェニルアラニン(F)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0052】
第2の人工フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号6(Met-PRT380)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、人工フィブロインを挙げることができる。
【0053】
(2-i)の人工フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)モチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端に所定のヒンジ配列とHisタグ配列が付加されたものである。
【0054】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
【0055】
(2-i)の人工フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0056】
(2-ii)の人工フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の人工フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0057】
(2-ii)の人工フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0058】
第2の人工フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、人工フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0059】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による人工フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0060】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0061】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に人工フィブロインを精製することができる。
【0062】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した人工フィブロインを回収することもできる。
【0063】
タグ配列を含む人工フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号12(PRT380)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号12、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、人工フィブロインを挙げることができる。
【0064】
配列番号16(PRT313)、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0065】
(2-iii)の人工フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0066】
(2-iv)の人工フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の人工フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0067】
(2-iv)の人工フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0068】
第2の人工フィブロインは、人工タンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0069】
第3の人工フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の人工フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0070】
第3の人工フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)モチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0071】
第3の人工フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)モチーフ毎に1つの(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0072】
第3の人工フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)モチーフの欠失、及び1つの(A)モチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0073】
第3の人工フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0074】
第3の人工フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0075】
x/yの算出方法を図1を参照しながら更に詳細に説明する。図1には、人工フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)モチーフ-第1のREP(50アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第2のREP(100アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第3のREP(10アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第4のREP(20アミノ酸残基)-(A)モチーフ-第5のREP(30アミノ酸残基)-(A)モチーフという配列を有する。
【0076】
隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)モチーフ-REP]ユニットが存在してもよい。図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0077】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0078】
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる[(A)モチーフ-REP]ユニットの組を実線で示した。本明細書中、この比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)モチーフ-REP]ユニットの組は破線で示した。
【0079】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)モチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0080】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0081】
第3の人工フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0082】
第3の人工フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される人工フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0083】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。ギザ比率が1:1.9~4.1の場合の結果を図3に示す。
【0084】
図3の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。図3から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
【0085】
第3の人工フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)モチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)モチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0086】
第3の人工フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号17(Met-PRT399)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号17、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、人工フィブロインを挙げることができる。
【0087】
(3-i)の人工フィブロインについて説明する。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列は、第2の人工フィブロインで説明したとおりである。
【0088】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号17で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号10、配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0089】
(3-i)の人工フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0090】
(3-ii)の人工フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の人工フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0091】
(3-ii)の人工フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0092】
第3の人工フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0093】
タグ配列を含む人工フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号18(PRT399)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-iv)配列番号18、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、人工フィブロインを挙げることができる。
【0094】
配列番号18、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0095】
(3-iii)の人工フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0096】
(3-iv)の人工フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の人工フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0097】
(3-iv)の人工フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0098】
第3の人工フィブロインは、人工タンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0099】
第4の人工フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の人工フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の人工フィブロインは、上述した第2の人工フィブロインと、第3の人工フィブロインの特徴を併せ持つ人工フィブロインである。具体的な態様等は、第2の人工フィブロイン、及び第3の人工フィブロインで説明したとおりである。
【0100】
第4の人工フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)、配列番号9(Met-PRT799)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4-ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、人工フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む人工フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0101】
第5の人工フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0102】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0103】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0104】
第5の人工フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0105】
第5の人工フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0106】
第5の人工フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0107】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【0108】
【表1】
【0109】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0110】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、図4に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、図4に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)モチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。図4の場合28/170=16.47%となる。
【0111】
第5の人工フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0112】
第5の人工フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0113】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0114】
第5の人工フィブロインのより具体的な例として、(5-i)配列番号19(Met-PRT720)、配列番号20(Met-PRT665)若しくは配列番号21(Met-PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、人工フィブロインを挙げることができる。
【0115】
(5-i)の人工フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号7(Met-PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末のドメイン配列を除いて、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号8(Met-PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0116】
(5-i)の人工フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0117】
(5-ii)の人工フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の人工フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0118】
(5-ii)の人工フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0119】
第5の人工フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0120】
タグ配列を含む人工フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号22(PRT720)、配列番号23(PRT665)若しくは配列番号24(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、人工フィブロインを挙げることができる。
【0121】
配列番号22、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0122】
(5-iii)の人工フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0123】
(5-iv)の人工フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の人工フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0124】
(5-iv)の人工フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0125】
第5の人工フィブロインは、人工タンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0126】
第6の人工フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0127】
第6の人工フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0128】
第6の人工フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0129】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
【0130】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(人工フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0131】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0132】
図5は、人工フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図5を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図5に示した人工フィブロインのドメイン配列(「[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図5中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、図5の人工フィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0133】
第6の人工フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0134】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
【0135】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(人工フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0136】
第6の人工フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0137】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
【0138】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0139】
第6の人工フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0140】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
【0141】
式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(人工フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図5の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0142】
第6の人工フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0143】
第6の人工フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0144】
第6の人工フィブロインのより具体的な例として、(6-i)配列番号25(Met-PRT888)、配列番号26(Met-PRT965)、配列番号27(Met-PRT889)、配列番号28(Met-PRT916)、配列番号29(Met-PRT918)、配列番号30(Met-PRT699)、配列番号31(Met-PRT698)、配列番号32(Met-PRT966)、配列番号41(Met-PRT917)若しくは配列番号42(Met-PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む人工フィブロイン、又は(6-ii)配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41若しくは配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む人工フィブロインを挙げることができる。
【0145】
(6-i)の人工フィブロインについて説明する。配列番号25で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。配列番号27で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0146】
配列番号30で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met-PRT525)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0147】
配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中に存在する20個のドメイン配列の領域を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0148】
配列番号41で示されるアミノ酸配列(Met-PRT917)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てLIに置換し、かつ残りのQをVに置換したものである。配列番号42で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1028)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てIFに置換し、かつ残りのQをTに置換したものである。
【0149】
配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
【0150】
【表2】
【0151】
(6-i)の人工フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0152】
(6-ii)の人工フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の人工フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0153】
(6-ii)の人工フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の人工フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0154】
第6の人工フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、人工フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0155】
タグ配列を含む人工フィブロインのより具体的な例として、(6-iii)配列番号33(PRT888)、配列番号34(PRT965)、配列番号35(PRT889)、配列番号36(PRT916)、配列番号37(PRT918)、配列番号38(PRT699)、配列番号39(PRT698)、配列番号40(PRT966)、配列番号43(PRT917)若しくは配列番号44(PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む人工フィブロイン、又は(6-iv)配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む人工フィブロインを挙げることができる。
【0156】
配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
【0157】
【表3】
【0158】
(6-iii)の人工フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0159】
(6-iv)の人工フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の人工フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0160】
(6-iv)の人工フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の人工フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0161】
第6の人工フィブロインは、人工タンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0162】
人工フィブロインは、第1の人工フィブロイン、第2の人工フィブロイン、第3の人工フィブロイン、第4の人工フィブロイン、第5の人工フィブロイン、及び第6の人工フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ人工フィブロインであってもよい。
【0163】
本発明において使用される人工タンパク質は、システイン、リジン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン及びチロシンの総残基数が多い人工タンパク質が好ましく、更にシステイン、リジン、アルギニン、アスパラギン及びグルタミンの総残基数が多い人工タンパク質が好ましく、更にシステイン、リジン及びアルギニンの総残基数が多い人工タンパク質が好ましく、更にシステイン及びリジンの総残基数が多い人工タンパク質が好ましく、システイン残基の数が多い人工タンパク質が最も好ましい。
【0164】
マレイミド基を含むペンダント基は、上述の人工タンパク質に含まれるヘテロ原子(式(II)において、Yで表される。)がリンカー化合物(例えば、式(I)で表される化合物、式中、Xは脱離基を示し、Lはリンカー部分を示す。)と反応(化学修飾)することにより、人工フィブロインに導入され得る。ヘテロ原子は、スルフヒドリル基(-SH)、グアニジン基(-NHC(=NH)NH)、アミド基(-CONH-、-CONH)、ヒドロキシ基(-OH)等の置換基に存在する。例えば、人工タンパク質のアミノ酸配列のうち、上述の置換基を側鎖に有するアミノ酸残基(すなわち、システイン、リジン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン等)を足がかりにして、ペンダント基を導入することができる。
【化6】
【0165】
リンカー化合物は、式(I)で表される化合物であればよく、式(Ia)、(Ib)又は(Ic)で表される化合物が好ましく、式(Ic)で表される化合物がより好ましい。リンカー化合物は、機能性物質との反応に利用される少なくとも1つのマレイミド基を有する。
【化7】

式中、L、L及びLは、それぞれ独立に、C1-20アルキレン基、C6-20アリーレン基、C6-20アリーレン基-C1-20アルキレン基、C6-20アリーレン基-C1-20アルキレン基-C6-20アリーレン基、又はC1-20アルキレン基-C6-20アリーレン基-C1-20アルキレン基、ポリエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基、ポリエチレン/プロピレングリコール基、テトラメチレングリコール基を示し、X及びXは、それぞれ独立に、脱離基を示す。
【0166】
1-20アルキレン基は、炭素原子数1~20のアルキレン基であり、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基が挙げられる。
【0167】
6-20アリーレン基は、炭素原子数6~20のアリーレン基であり、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、ターフェニレン基、ピレニレン基、ビフェニレン基が挙げられる。
【0168】
6-20アリーレン基-C1-20アルキレン基は、炭素原子数1~20のアルキレンと炭素原子数6~20のアリーレン基が共有結合した2価の基である。C6-20アリーレン基-C1-20アルキレン基-C6-20アリーレン基、及び、C1-20アルキレン基-C6-20アリーレン基-C1-20アルキレン基は、それぞれ、炭素原子数1~20のアルキレンと炭素原子数6~20のアリーレン基が共有結合した2価の基である。具体的には、メチレンジフェニレン基、フェニレンビス(メチレン)基が挙げられる。
【0169】
脱離基としては、電気陰性度が高く、人工タンパク質中のヘテロ原子(硫黄原子、窒素原子、酸素原子)による求核置換反応に対して反応性を有する基であればよく、具体的には、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルニルオキシ基、p-トルエンスルホニルオキシ基が挙げられる。
【0170】
化学修飾の方法は、当業者に周知の方法で行うことができる。例えば、システインのスルフヒドリル基がマレイミドの炭素-炭素二重結合に対して1,4-付加反応することにより、アミノ酸配列を化学修飾する方法が知られている。また、グアニジン基、アミド基、ヒドロキシ基をアルキル化する方法、ヒドロキシ基をアシル化する方法により、化学修飾を行うこともできる。反応条件が比較的温和であることから、システイン残基とマレイミドとの反応により、ペンダント基を導入することが好ましい。この場合、リンカー化合物は、2つのマレイミド基を有し、そのうちの1つがペンダント基の導入に利用され、もう1つが機能性物質との反応に利用される。
【0171】
リンカー化合物が上述の式(Ia)、(Ib)又は(Ic)で表される化合物である場合、本実施形態に係る化学修飾人工フィブロインは、それぞれ式(IIa)、(IIb)又は(IIc)で表される化合物となり得る。
【化8】

式中、L、L及びLは、式(Ia)、(Ib)又は(Ic)における定義と同じである。Protは、人工タンパク質を示し、式(IIa)及び(IIb)中のYは、アミノ酸残基中のヘテロ原子(硫黄原子、窒素原子、酸素原子)を示し、式(IIc)中のSはアミノ酸残基中の硫黄原子である。nは、人工タンパク質に結合したペンダント基の数を示す。nは、少なくとも1以上の整数であり、人工タンパク質のアミノ酸配列に含まれるシステイン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンの合計残基数以下である。nの値が大きいほど、より多くの機能性物質を人工タンパク質に結合させることができる。nは、例えば、1~10の整数である。
【0172】
本実施形態に係る化学修飾人工タンパク質は、成形材料としても利用できる。化学修飾人工タンパク質の形状は、粉末状であり得る。また、化学修飾人工タンパク質は、特に限定されないが、例えば、押出成形、射出成形等を始めとした各種のモールド成形や、フィルムキャスティング、紡糸、加熱加圧成形等の当業界で周知の方法で成形することができる。化学修飾人工タンパク質の成形体の形状は特に限定されないが、例えば、板状、粒子状、塊状、フィルム状、ゲル状、スポンジ状、又は繊維状であり得る。化学修飾人工タンパク質を加熱加圧成形すると、硬化した樹脂のような見かけ上均一相になり得る。このような成形体は、透光性を有し得る。
【0173】
(化学修飾人工タンパク質の製造方法)
本発明の第二実施形態は、人工タンパク質と、式(I)で表される化合物との反応により、式(II)で表される化学修飾人工タンパク質を得る工程を含む、化学修飾人工タンパク質の製造方法である。
【0174】
人工タンパク質と、式(I)で表される化合物との反応により、式(II)で表される化学修飾人工タンパク質を得る工程は、タンパク質を化学修飾する方法として、当業者に周知の方法を利用することができる。
【0175】
例えば、溶媒中で、人工タンパク質と式(I)で表される化合物を混合してもよい。また、反応が進行しにくい場合には、塩基の添加、加温を行ってもよい。反応温度は、通常、0~60℃であり、好ましくは30~55℃又は35~50℃である。使用される溶媒は、人工タンパク質を溶解することができ、所望の反応の進行を阻害しないものであればよい。このような溶媒としては、例えば、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)、ジメチルスルホキシド、ギ酸、ジメチルホルムアミド、酢酸、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンが挙げられる。
【0176】
反応を終了させるためには、例えば、酢酸エチルを添加し、生成物(化学修飾人工タンパク質)を凝集させてもよい。その後、凝集した生成物を酢酸エチル、メタノール等で洗浄することにより、生成物を精製することができる。
【0177】
得られた化学修飾人工タンパク質は、機能性物質との反応により所望の機能を付与し得るだけでなく、自身又は他のタンパク質と架橋させることができ、それによって分子量の増大(高分子化)を実現できる。
【0178】
タンパク質の修飾方法としては、国際公開第2016/192528号に記載されるように、タンパク質中のシステイン残基(すなわち、スルフヒドリル基)に、マレイミド基を有するリンカー化合物を反応させる方法が知られている。このような技術は、例えば、特定の抗体タンパクに薬物が結合した抗体薬物複合体(ADC)の製造に応用されている。このようなADCでは、生体内でリンカー部分が切断されることを想定しています。これに対し、本発明では、末端にマレイミド基を有するリンカー化合物を、人工タンパク質に導入することにより、従来とは逆の置換様式(ドナーとアクセプター)の反転を達成したものです。
【0179】
(機能性物質)
本実施形態に係る化学修飾人工タンパク質に結合させ得る機能性物質は、ペンダント基の末端に位置するマレイミド構造に結合し得る物質であればよい。結合される機能性物質の種類によって、分子量の増大、柔軟性の向上、着色などの機能を付与することができる。
【0180】
機能性物質が結合した化学修飾人工タンパク質は、成形材料として利用できる。機能性物質が結合した化学修飾人工タンパク質の形状は、粉末状であり得る。また、機能性物質が結合した化学修飾人工タンパク質は、特に限定されないが、例えば、押出成形、射出成形等を始めとした各種のモールド成形や、フィルムキャスティング、紡糸、加熱加圧成形等の当業界で周知の方法で成形することができる。機能性物質が結合した化学修飾人工タンパク質の成形体の形状は特に限定されないが、例えば、板状、粒子状、塊状、フィルム状、ゲル状、スポンジ状、又は繊維状であり得る。機能性物質が結合した化学修飾人工タンパク質を加熱加圧成形すると、硬化した樹脂のような見かけ上均一相になり得る。このような成形体は、透光性を有し得る。
【実施例0181】
〔人工フィブロインの製造〕
(1)発現ベクターの作製
配列番号40で示されるアミノ酸配列を有する人工フィブロイン(PRT966)と配列番号45で示されるアミノ酸配列(システインを導入)を有する人工フィブロイン(PRT1001)を設計した。設計した人工フィブロインをコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。この核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0182】
(2)タンパク質の発現
得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0183】
【表4】
【0184】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0185】
【表5】
【0186】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、人工フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする人工フィブロインサイズのバンドの出現により、目的とする人工フィブロインの発現を確認した。
【0187】
(3)タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、2種類の人工フィブロイン(PRT1001及びPRT966)を得た。
【0188】
<機能性物質の合成>
ガラス容器内で、N-(1-ピレニル)マレイミド(東京化成工業(株)製):50mgをHFIP(セントラル硝子(株)製):1mLに溶解させた。次に、別のガラス容器内で、1,3-プロパンジチオール(東京化成工業(株)製):84.2μLをHFIP(セントラル硝子(株)製):1mLに溶解させた後、得られた溶液に上記のN-(1-ピレニル)マレイミドの溶液を加えた。その後、得られた混合物にトリエチルアミン(ナカライテスク(株)製):23.4μLを加え、常温で20時間撹拌した。
その後、減圧下乾燥し、カラムクロマトグラフィーにて精製し、所望の画分を乾燥することにより、機能性物質を得た。
【0189】
<実施例1>
(工程1)
ガラス容器内で、人工フィブロイン(PRT1001):200mgと、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン(東京化成工業(株)製):15mg(人工フィブロインに対して4当量超となる量)をHFIP(セントラル硝子(株)製):5mLに溶解させた後、得られた溶液を40℃で20時間撹拌した。
その後、酢酸エチル(関東化学(株)製)の添加による凝集操作を行い、桐山ロートを用いて濾過した。得られた固体を、酢酸エチルとメタノール(ナカライテスク(株)製):各2mLでそれぞれ洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返すことにより、未反応の4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタンを除去した。更に、減圧乾燥を行うことにより、マレイミド結合フィブロインを得た。
【0190】
(工程2)
ガラス容器内で、マレイミド結合フィブロイン:20mg及び機能性物質:1.2mgをDMSO(キシダ化学株式会社製):1mLに溶解させた後、得られた混合物を80℃で20時間撹拌した。
その後、酢酸エチル(関東化学(株)製)の添加による凝集操作を行い、桐山ロートを用いて濾過した。得られた固体を、酢酸エチルとジクロロメタン:各2mLでそれぞれ洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返すことにより、未反応の機能性物質を除去した。更に、減圧乾燥を行うことにより、実施例1を得た。
【0191】
<比較例1>
人工フィブロイン(PRT966):20mg及び機能性物質:1.2mgをガラス容器内でDMSO(キシダ化学(株)製):1mLに溶解させた後、得られた混合物を80℃で20時間撹拌した。
その後、酢酸エチル(関東化学(株)製)の添加による凝集操作を行い、桐山ロートを用いて濾過した。得られた固体を、酢酸エチルとジクロロメタン(各2mL)でそれぞれ洗浄し、この洗浄操作を3回繰り返した。更に、減圧乾燥を行うことにより、比較例1を得た。
【0192】
以下の条件により、実施例1及び比較例1の吸光度を測定した。
<吸光度の測定条件>
装置名:紫外可視分光光度計UV-2600((株)島津製作所製)
波長:270~700nm
スキャンスピード:中速モード
サンプルピッチ:1.0nm
スリット幅:5nm
【0193】
結果を図6に示す。実施例1のデータでは、波長330~350nmの範囲で高い吸光ピークが観測された。この結果から、マレイミド結合フィブロインのマレイミド基と機能性物質のチオール基とが結合することで、ピレニル基がタンパク質に結合していると考えられる。一方、比較例1のデータでは、波長330~350nmの範囲における吸光ピークは、実施例1のものよりも小さかった。これらの結果は、蛍光基がマレイミド基を介して人工フィブロインに結合すること、及びマレイミドが結合していない人工フィブロインでは蛍光基との結合が生じないことを如実に示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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