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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089337
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20230621BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230621BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230621BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230621BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/525
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203782
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】伊東 裕介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 出
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ16
5H029HJ02
5H029HJ19
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA18
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】固体電池の耐久後の抵抗増加を抑制することができる固体電池の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】正極層、負極層及びこれら両層の間に配置される固体電解質層を有する固体電池の製造方法であって、固体電池に対して、充電状態値(SOC)が70%以上100%未満となるまで初期充電を行う工程を有し、前記正極層は、正極活物質として、リチウム(Li)を除く金属元素の総モル数に対して50モル%以上のニッケル(Ni)を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む固体電池の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、負極層及びこれら両層の間に配置される固体電解質層を有する固体電池の製造方法であって、
固体電池に対して、充電状態値(SOC)が70%以上100%未満となるまで初期充電を行う工程を有し、
前記正極層は、正極活物質として、リチウム(Li)を除く金属元素の総モル数に対して50モル%以上のニッケル(Ni)を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電池は、正極と負極の間に介在する電解質として、有機溶媒を含む電解液に替えて固体電解質を用いるという点で注目されている。
【0003】
特許文献1には、固体電池であって、充放電時の体積変化率が1%以下、かつ、粉末の平均粒径が5μm以下の正極活物質を用いる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-123968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体電池の充放電容量維持率の向上が求められる。Niの含有比率が高い正極活物質(ハイニッケル)を用いる場合、通常使用時ではなく、初期充電(活性化)工程において、正極活物質の収縮が生じ、正極活物質と固体電解質との密着性、及び、正極層と固体電解質層との密着性等が低下する。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、固体電池の耐久後の抵抗増加を抑制することができる固体電池の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の固体電池の製造方法は、正極層、負極層及びこれら両層の間に配置される固体電解質層を有する固体電池の製造方法であって、
固体電池に対して、充電状態値(SOC)が70%以上100%未満となるまで初期充電を行う工程を有し、
前記正極層は、正極活物質として、リチウム(Li)を除く金属元素の総モル数に対して50モル%以上のニッケル(Ni)を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、固体電池の耐久後の抵抗増加を抑制することができる固体電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、SOC100%(上限電位4.2Vvs.Li、210mAh/g)における、リチウム化合物(LixM;x=0.78)からのLi引き抜き量(x)とリチウム化合物の体積収縮率との関係を示す図である。
図2図2は、固体電池の耐久後における使用SOC域と実効エネルギー密度との関係の一例を示す図である。
図3図3は、SOC70%(上限電位4.0Vvs.Li、体積収縮率=1.5%)、SOC80%(上限電位4.1Vvs.Li、体積収縮率=2.7%)、SOC100%(上限電位4.2Vvs.Li、体積収縮率=4.5%)の3条件で固体電池の活性化後、上限電位4.0Vvs.Liでサイクル試験を実施したときのSOC25%時に測定した初期抵抗に対する抵抗上昇率(%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の固体電池の製造方法は、正極層、負極層及びこれら両層の間に配置される固体電解質層を有する固体電池の製造方法であって、
固体電池に対して、充電状態値(SOC)が70%以上100%未満となるまで初期充電を行う工程を有し、
前記正極層は、正極活物質として、リチウム(Li)を除く金属元素の総モル数に対して50モル%以上のニッケル(Ni)を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む。
【0011】
本開示によれば、初期充放電で固体電池を活性化させる段階で、上限電位又はSOCを限定した充電を行い、充電過程における正極活物質の結晶格子定数から計算される体積収縮率(ΔV/V0)×100を1.0~2.7%に制限する。なお、V0は、正極活物質の収縮前体積であり、ΔVは、正極活物質の収縮前体積V0-正極活物質の収縮後体積V1である。上記充電方法により、正極活物質の収縮挙動に伴い活物質と固体電解質との間で発生するミクロレベルの界面接合不良(機械劣化)が抑制されるため、固体電池の充放電サイクル後の抵抗上昇を低減することができる。
【0012】
本開示において、充電状態値(SOC:State of Charge)は、固体電池の満充電容量に対する充電容量の割合を示すものであり、満充電容量はSOC100%である。
SOCは、例えば、固体電池の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)から推定してもよい。具体的には、予め測定された、固体電池の温度T、固体電池の電流密度I及び固体電池の開放電圧OCVとSOCとの間の特性関係を格納したデータ群を準備する。そして、固体電池の端子間電圧であるバッテリ電圧を測定し、当該バッテリ電圧を開放電圧OCVとみなす。そして、固体電池の温度T、固体電池の電流密度I及び固体電池の開放電圧OCVと、データ群とを照合することにより、固体電池のSOCを推定してもよい。
固体電池の温度T、電流密度I及び電圧Vの測定方法は特に限定されず、従来公知の方法で測定することができる。
【0013】
本開示の固体電池の製造方法は、固体電池に対して、充電状態値(SOC)が70%以上100%未満となるまで初期充電を行う工程を有する。
初期充電は、充電状態値(SOC)が80%以上90%以下となるまで行ってもよい。初期充電は、充電電位が4.0Vvs.Li以上4.1Vvs.Li以下の上限電位に達するまで行ってもよい。
充電状態値(SOC)が70%以上100%未満となるまで初期充電を行うことにより、正極活物質の結晶格子定数から計算される体積収縮率を1.0%以上2.7%以下に制限することができる。これにより、機械劣化が抑制されるため、固体電池の充放電サイクル後の抵抗上昇を低減することができる。
【0014】
図1は、SOC100%(上限電位4.2Vvs.Li、210mAh/g)における、リチウム化合物(LixM;x=0.78)からのLi引き抜き量(x)とリチウム化合物の体積収縮率との関係を示す図である。なお、図1において体積収縮率は便宜的にΔV/V0で示す。
図1に示すリチウム化合物は、LCO、NCA、NCM-111、NCM-523、NCM-622、NCM-811である。
図1に示すように、SOCが高い状態(100%)において、正極活物質の収縮量が大きくなる領域でLi引き抜き量(x)が大きくなる。正極活物質の結晶格子定数から計算される体積変化率は、SOC70%を超えた辺りから大きな収縮挙動が始まり、SOC100%に至るまでに、最大3%の収縮が起こると試算される(参考文献R. Koerver et al., Energy Environ. Sci., 2018, 11, 2142.)。
図1のように、SOCが高い状態において、正極活物質の収縮量が大きくなる正極活物質としては、リチウム(Li)を除く金属元素の総モル数に対して50モル%以上のニッケル(Ni)を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を用いる。
【0015】
図2は、固体電池の耐久後における使用SOC域と実効エネルギー密度との関係の一例を示す図である。なお図2において体積収縮率は便宜的にΔVで示す。
本開示の充電工程においては、正極活物質の結晶格子定数から計算される体積収縮率を1.0%~2.7%に限定する。
図2に示すように、正極活物質の結晶格子定数から計算される体積収縮率が1.0%未満の場合、正極活物質の使用SOC域は70%以下で、実効エネルギー密度150Wh/L以上の確保は厳しくエネルギー密度が不十分である。一方、正極活物質の結晶格子定数から計算される体積収縮率が2.7%超過の場合、機械劣化に伴う容量劣化が大きくなってしまうため、固体電池の耐久後において十分なエネルギー密度を確保し続けることは困難である。
【0016】
図3は、SOC70%(上限電位4.0Vvs.Li、体積収縮率=1.5%)、SOC80%(上限電位4.1Vvs.Li、体積収縮率=2.7%)、SOC100%(上限電位4.2Vvs.Li、体積収縮率=4.5%)の3条件で固体電池の活性化後、上限電位4.0Vvs.Liでサイクル試験を実施したときのSOC25%時に測定した初期抵抗に対する抵抗上昇(増加)率(%)を示す図である。なお図3において体積収縮率は便宜的にΔVで示す。SOC70%、又は、SOC80%までの初期充電であれば、正極活物質の結晶格子定数から計算される体積収縮率は1.0%以上2.7%以下に制限することができ、実効エネルギー密度150Wh/Lを担保することができる。
【0017】
[固体電池]
本開示の固体電池は、正極層、負極層及びこれら両層の間に配置される固体電解質層を有する。固体電池は、正極、固体電解質層、負極を備えていてもよい。
なお、本開示において固体電池とは、固体電解質を含む電池を意味する。固体電池としては、液系材料を含まない固体電池である全固体電池であってもよい。
【0018】
[正極]
正極は、正極層、及び正極集電体を含む。
【0019】
[正極層]
正極層は、正極活物質を含み、任意成分として、固体電解質、導電材、及びバインダー等が含まれていてもよい。
【0020】
正極活物質は、リチウム(Li)を除く金属元素の総モル数に対して50モル%以上のニッケル(Ni)を含有するリチウム遷移金属複合酸化物を用いる。
リチウム遷移金属複合酸化物として、リチウムニッケルコバルトアルミネート(LiNi1-x-yCoAl、x=0.05~0.2、y=0.05~0.2、NCA)、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNiCoMn1-x-y、x=0.5~0.8、y=0.1~0.2、NCM)等が挙げられ、NCMとしては、NCM-523、NCM-622、NCM-811等が挙げられる。
正極活物質の形状は特に限定されるものではないが、粒子状であってもよい。正極活物質が粒子状である場合、正極活物質は一次粒子であってもよく、二次粒子であってもよい。
正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていても良い。正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。
Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO、LiTi12、及び、LiPO等が挙げられる。コート層の厚さは、例えば、0.1nm以上であり、1nm以上であっても良い。一方、コート層の厚さは、例えば、100nm以下であり、20nm以下であっても良い。コート層は、例えば、正極活物質の表面の70%以上を被覆していてもよく、90%以上を被覆していてもよい。
【0021】
固体電解質としては、固体電解質層において例示するものと同様のものを例示することができる。
正極層における固体電解質の含有量は、特に限定されないが、正極層の総質量を100質量%としたとき、例えば1質量%~80質量%の範囲内であってもよい。
【0022】
導電材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。中でも、電子伝導性の観点から、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。金属粒子としては、Ni、Cu、Fe、及びSUS等の粒子が挙げられる。
正極層における導電材の含有量は特に限定されるものではない。
【0023】
結着剤(バインダー)としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を例示することができる。正極層におけるバインダーの含有量は特に限定されるものではない。
【0024】
正極層の厚みについては特に限定されるものではないが、例えば、10~100μmであってもよく、10~20μmであってもよい。
【0025】
正極層は、従来公知の方法で形成することができる。
例えば、正極活物質、及び、必要に応じ他の成分を溶媒中に投入し、撹拌することにより、正極層用スラリーを作製し、当該正極層用スラリーを支持体の一面上に塗布して乾燥させることにより、正極層が得られる。
溶媒は、例えば酢酸ブチル、酪酸ブチル、メシチレン、テトラリン、ヘプタン、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
支持体の一面上に正極層用スラリーを塗布する方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、メタルマスク印刷法、静電塗布法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、及びスクリーン印刷法等が挙げられる。
支持体としては、自己支持性を有するものを適宜選択して用いることができ、特に限定はされず、例えばCu及びAlなどの金属箔等を用いることができる。
【0026】
また、正極層の形成方法の別の方法として、正極活物質及び必要に応じ他の成分を含む正極合剤の粉末を加圧成形することにより正極層を形成してもよい。正極合剤の粉末を加圧成形する場合には、通常、1MPa以上2000MPa以下程度のプレス圧を負荷する。
加圧方法としては、特に制限されないが、例えば、平板プレス、及びロールプレス等を用いて圧力を付加する方法等が挙げられる。
【0027】
[正極集電体]
正極集電体としては、固体電池の集電体として使用可能な公知の金属を用いることができる。そのような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、及びInからなる群から選択される一又は二以上の元素を含む金属材料を例示することができる。正極集電体としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等が挙げられる。
正極集電体の形態は特に限定されるものではなく、箔状、及びメッシュ状等、種々の形態とすることができる。正極集電体の厚さは、形状によって異なるものであるが、例えば1μm~50μmの範囲内であってもよく、5μm~20μmの範囲内であってもよい。
【0028】
[負極]
負極は、負極層、及び、負極集電体を含む。
【0029】
[負極層]
負極層は、少なくとも負極活物質を含有し、必要に応じ、固体電解質、導電材、及び、結着剤等を含有する。
負極活物質としては、グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン、リチウム単体、リチウム合金、Si単体、Si合金、及びLiTi12等が挙げられる。
リチウム合金としては、Li-Au、Li-Mg、Li-Sn、Li-Si、Li-Al、Li-B、Li-C、Li-Ca、Li-Ga、Li-Ge、Li-As、Li-Se、Li-Ru、Li-Rh、Li-Pd、Li-Ag、Li-Cd、Li-In、Li-Sb、Li-Ir、Li-Pt、Li-Hg、Li-Pb、Li-Bi、Li-Zn、Li-Tl、Li-Te、及びLi-At等が挙げられる。Si合金としては、Li等の金属との合金等が挙げられ、その他、Sn、Ge、及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属との合金であってもよい。
負極活物質の形状は特に限定されず、粒子状、及び板状等が挙げられる。負極活物質が粒子状である場合、負極活物質は一次粒子であってもよく、二次粒子であってもよい。
負極層に用いられる導電材、及び、結着剤は、正極層において例示したものと同様のものを用いることができる。負極層に用いられる固体電解質は、固体電解質層において例示するものと同様のものを例示することができる。
負極層の厚さは、特に限定されないが、例えば、10~100μmであってもよく、10~20μmであってもよい。
負極層における負極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、20質量%~90質量%であってもよい。
【0030】
[負極集電体]
負極集電体の材料は、Liと合金化しない材料であってもよく、例えばSUS及び、銅及び、ニッケル等を挙げることができる。負極集電体の形態としては、例えば、箔状及び、板状等を挙げることができる。負極集電体の平面視形状は、特に限定されるものではないが、例えば、円状、楕円状、矩形状及び、任意の多角形状等を挙げることができる。また、負極集電体の厚さは、形状によって異なるものであるが、例えば1μm~50μmの範囲内であってもよく、5μm~20μmの範囲内であってもよい。
【0031】
[固体電解質層]
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含む。
固体電解質層に含有させる固体電解質としては、固体電池に使用可能な公知の固体電解質を適宜用いることができ、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質、及び、窒化物系固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。硫化物系固体電解質は、アニオン元素の主成分として、硫黄(S)を含有してもよい。酸化物系固体電解質は、アニオン元素の主成分として、酸素(O)を含有してもよい。水素化物系固体電解質は、アニオン元素の主成分として、水素(H)を含有してもよい。ハロゲン化物系固体電解質は、アニオン元素の主成分として、ハロゲン(X)を含有してもよい。窒化物系固体電解質は、アニオン元素の主成分として、窒素(N)を含有してもよい。
【0032】
硫化物系固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラス(ガラスセラミックス)であってもよく、原料組成物に対する固相反応処理により得られる結晶質材料であってもよい。
硫化物系固体電解質の結晶状態は、例えば、硫化物系固体電解質に対してCuKα線を使用した粉末X線回折測定を行うことにより確認することができる。
【0033】
硫化物ガラスは、原料組成物(例えばLiSおよびPの混合物)を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられる。
【0034】
ガラスセラミックスは、例えば、硫化物ガラスを熱処理することにより得ることができる。
熱処理温度は、硫化物ガラスの熱分析測定により観測される結晶化温度(Tc)よりも高い温度であればよく、通常、195℃以上である。一方、熱処理温度の上限は特に限定されない。
硫化物ガラスの結晶化温度(Tc)は、示差熱分析(DTA)により測定することができる。
熱処理時間は、ガラスセラミックスの所望の結晶化度が得られる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば1分間~24時間の範囲内であり、中でも、1分間~10時間の範囲内が挙げられる。
熱処理の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。
【0035】
酸化物系固体電解質としては、例えば、Li元素、Y元素(Yは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo、W、Sの少なくとも一種である)、および、O元素を含有する固体電解質が挙げられる。酸化物系固体電解質の具体例としては、LiLaZr12、Li7-xLa(Zr2-xNb)O12(0≦x≦2)、LiLaNb12等のガーネット型固体電解質;(Li,La)TiO、(Li,La)NbO、(Li,Sr)(Ta,Zr)O等のペロブスカイト型固体電解質;Li(Al,Ti)(PO、Li(Al,Ga)(POのナシコン型固体電解質;LiPO、LIPON(LiPOのOの一部をNで置換した化合物)等のLi-P-O系固体電解質;LiBO、LiBOのOの一部をCで置換した化合物等のLi-B-O系固体電解質が挙げられる。
【0036】
水素化物系固体電解質は、例えば、Liと、水素を含有する錯アニオンと、を有する。錯アニオンとしては、例えば、(BH、(NH、(AlH、および(AlH3-等が挙げられる。
ハロゲン化物系固体電解質としては、例えば、Li6-3z(XはClおよびBrの少なくとも一種であり、zは0<z<2を満たす)等が挙げられる。
窒化物系固体電解質としては、例えばLiN等が挙げられる。
【0037】
固体電解質の形状は、取扱い性が良いという観点から粒子状であってもよい。
固体電解質の粒子の平均粒径は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、固体電解質の粒子の平均粒径は、例えば25μm以下であり、10μm以下であってもよい。
【0038】
本開示において、粒子の平均粒径は、特記しない限り、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定により測定される体積基準のメディアン径(D50)の値である。また、本開示においてメディアン径(D50)とは、粒径の小さい粒子から順に並べた場合に、粒子の累積体積が全体の体積の半分(50%)となる径(体積平均径)である。
【0039】
固体電解質は、1種単独で、又は2種以上のものを用いることができる。また、2種以上の固体電解質を用いる場合、2種以上の固体電解質を混合してもよく、又は2層以上の固体電解質それぞれの層を形成して多層構造としてもよい。
固体電解質層中の固体電解質の割合は、特に限定されるものではないが、例えば50質量%以上であり、60質量%以上100質量%以下の範囲内であってもよく、70質量%以上100質量%以下の範囲内であってもよく、100質量%であってもよい。
【0040】
固体電解質層には、可塑性を発現させる等の観点から、結着剤を含有させることもできる。そのような結着剤としては、正極層に用いられる結着剤として例示した材料等を例示することができる。ただし、高出力化を図り易くするために、固体電解質の過度の凝集を防止し且つ均一に分散された固体電解質を有する固体電解質層を形成可能にする等の観点から、固体電解質層に含有させる結着剤は5質量%以下としてもよい。
【0041】
固体電解質層の厚みは特に限定されるものではなく、通常0.1μm以上1mm以下である。
固体電解質層を形成する方法としては、固体電解質を含む固体電解質層用スラリーを支持体上に塗布して乾燥する方法、及び、固体電解質を含む固体電解質材料の粉末を加圧成形する方法等が挙げられる。支持体は、正極層において例示したものと同様のものを挙げることができる。固体電解質材料の粉末を加圧成形する場合には、通常、1MPa以上2000MPa以下程度のプレス圧を負荷する。
加圧方法としては、特に制限されないが、正極層の形成において例示した加圧方法が挙げられる。
【0042】
固体電池は、必要に応じ、正極集電体、正極層、固体電解質層、負極層および負極集電体をこの順に備えた積層体を収容する外装体及び拘束部材等を備える。
外装体の材質は、電解質に安定なものであれば特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び、アクリル樹脂等の樹脂等が挙げられる。
拘束部材は、積層体に、積層方向の拘束圧力を与えることができればよく、固体電池の拘束部材として使用可能な公知の拘束部材を用いることができる。例えば、積層体の両表面を挟む板状部と、2つの板状部を連結する棒状部と、棒状部に連結され、ねじ構造等により拘束圧力を調整する調整部を有する拘束部材が挙げられる。調整部によって、積層体に所望の拘束圧力を与えることができる。
拘束圧力は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1MPa以上であってもよく、1MPa以上であってもよく、5MPa以上であってもよい。拘束圧力を大きくすることで、各層の接触を良好にしやすいという利点があるためである。一方、拘束圧力は、例えば、100MPa以下であってもよく、50MPa以下であってもよく、20MPa以下であってもよい。拘束圧力が大きすぎると、拘束部材に高い剛性が求められ、拘束部材が大型化する可能性があるためである。
【0043】
固体電池は、上記積層体を1つのみ有するものであってもよいし、積層体を複数個積層してなるものであってもよい。
固体電池は、固体リチウム二次電池、固体リチウムイオン二次電池等であってもよい。
固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられてもよい。また、本開示における固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【実施例0044】
[正極層用ペーストの作製]
正極活物質にLiNi0.8Co0.15Al0.05(密度4.65g/cc、平均粒径5μm)を使用した。正極活物質には転動流動造粒コーティング装置でLiNbOの表面処理を施した。この正極活物質を4.0g、導電材としてのVGCFを0.094g、固体電解質を1.024g、ブタジエンゴム系バインダーを0.017g、テトラリン2.77gを秤量し、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて混合したものを正極層用ペーストとした。
[負極層用ペーストの作製]
負極活物質としてLiTi12粒子(密度3.5g/cc)を3.0g、導電材カーボン(密度2g/cc)を0.033g、ブタジエンゴム系バインダー(密度0.9g/cc)を0.039g、テトラリン3.71gを秤量し、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を使用して30分間混合した。その後、混合して得られたスラリーに硫化物系固体電解質としてLiI-LiBr-LiS-P系ガラスセラミック(10LiI・15LiBr・75(0.75LiS・0.25P))、密度2g/cc)1.0gを添加し、再度、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて30分混合したものを負極層用ペーストとした。負極活物質、固体電解質の粒径(平均粒径D50)は、レーザー回折散乱法による粒度分布測定装置を用いて測定した。
[固体電解質層用ペーストの作製]
ポリプロピレン製容器に、ヘプタンと、ブタジエンゴム系バインダーを5質量%含んだヘプタン溶液と、固体電解質として平均粒径2.5μmのLiI-LiBr-LiS-P系ガラスセラミックとを加え、超音波ホモジナイザー(SMT社製UH-50)を用いて、30秒間混合した。次に、容器を振とう器で3分間振とうさせて、固体電解質層用ペーストを得た。
[正極及び負極の作製]
アプリケーターを使用してブレード法にて正極集電体(Al箔、厚さ15μm)上に正極層用ペーストを塗工した。塗工後、100℃のホットプレス上で30分間乾燥させて、アルミニウム箔の表面に正極層を有する正極を得た。同様にして負極集電体(Ni箔、厚さ22μm)上に負極層用ペーストを塗工し、乾燥させて、Ni箔の表面に負極層を有する負極を得た。実施例及び比較例すべてにおいて、正極の充電比容量を185mAh/gとした時に対する負極の充電比容量が1.15倍となるように負極層の目付を調整した。
[固体電解質層の作製]
[固体電解質層用ペーストの塗工(正極側)]
上記の正極を事前プレスした。事前プレス後の正極について、正極層の表面に、ダイコーターにより固体電解質層用ペーストを塗工し、100℃のホットプレート上で、30分間乾燥させた。
その後、2ton/cmでロールプレスを行って、正極の表面に固体電解質層を備える正極側積層体を得た。
[固体電解質層用ペーストの塗工(負極側)]
上記の負極を事前プレスした。事前プレス後の負極について、負極層の表面に、ダイコーターにより固体電解質層用ペーストを塗工し、100℃のホットプレート上で、30分間乾燥させた。
その後、2ton/cmでロールプレスを行って、負極の表面に固体電解質層を備える負極側積層体を得た。
[固体リチウムイオン二次電池の作製]
正極側積層体と負極側積層体とをそれぞれ打ち抜き加工し、固体電解質層同士を貼り合わせるようにして重ね合わせた。ここで、正極側積層体の固体電解質層と、負極側積層体の固体電解質層との間に、未プレスの固体電解質層(固体電解質層用ペースト)を転写した状態で重ね合わせた。その後、160℃にて、2ton/cmでプレスし、正極と固体電解質層と負極とをこの順に有する発電要素を得た。得られた発電要素をラミネート封入し、0.5MPaで拘束することで、評価用の固体リチウムイオン二次電池(電池積層体)とした。
【0045】
(実施例1~2、比較例1)
[固体リチウムイオン二次電池の初期活性化]
初期充電工程を以下のように実施した。
セル活性化の段階で、高SOC域における正極活物質の収縮影響を抑えた状態になるように、上限電位(上限SOC)を限定して充電することが、サイクル性能に影響を及ぼすかを調査した。拘束済み電池積層体に、0.33Cで、実施例1では、上限電圧2.5V(SOC80%),実施例2では、2.6V(SOC90%),比較例1では、2.7V(SOC100%)までの定電流充電、その後、各到達電圧で終止電流0.01Cまでの定電圧充電を行った。さらに、0.33C、1.5Vまでの定電流放電、その後、1.5Vで終止電流0.01Cまでの定電圧放電を行った。
上記充電と放電は、各セルに対して2回ずつ繰り返した。
【0046】
[体積収縮率測定]
初期充電後の正極活物質の結晶格子定数から計算される体積収縮率は、以下のように算出した。
体積収縮率(%)=(ΔV:収縮前体積V0-収縮後体積V1)/収縮前体積V0×100
【0047】
[初期抵抗測定]
上記電池積層体に、0.33C、2.0Vまでの定電流放電、その後、2.0V、終止電流0.01Cまでの定電圧放電を行うことで、放電状態を調整した。放電状態を調整した電池積層体について、8.0mAh/cmの電流を10秒間流し、その前後の電圧変化を電流値で割ることで得た値を初期抵抗値とした。
【0048】
[固体リチウムイオン二次電池の耐久試験]
上記電池積層体に、耐久用充電として5C、2.5V(SOC80%)までの定電流充電を、耐久用放電として1C、1.5Vまでの定電流放電を、60℃環境にて150回繰り返した。
【0049】
[耐久後抵抗測定]
上記電池積層体に、0.33C、2.0Vまでの定電流放電、その後、2.0V、終止電流0.01Cまでの定電圧放電を行うことで、放電状態を調整した。放電状態を調整した電池積層体について、8.0mAh/cmの電流を10秒間流し、その前後の電圧変化を電流値で割ることで得た値を耐久後抵抗値とした。
【0050】
[抵抗増加率の算出]
上記のようにして測定した初期抵抗値及び耐久後抵抗値に基づいて、下記のようにして抵抗増加率を算出した。
抵抗増加率(%)=耐久後抵抗値(Ω)/初期抵抗値(Ω)×100
このようにして求めた実施例1~2及び比較例1の抵抗増加率を表1に記載した。この相対抵抗増加率が小さいことは、耐久による電池積層体の劣化が抑制されていることを示している。
【0051】
【表1】
【0052】
[活性化時の上限SOCと耐久後抵抗増加率の関係]
表1より、活性化時における充電上限SOCを80%(実施例1)、90%(実施例2)、100%(比較例1)に設定することで、耐久後における抵抗増加率に差が生じると確認された。正極活物質の結晶格子定数から計算される体積収縮率を2.7%以下に制限することは、活性化充電における正極活物質と固体電解質との間で発生する界面剥離の抑制に効果的で、結果として、耐久後における抵抗上昇を低減することが可能となった。
図1
図2
図3