(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089446
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】太陽光電池パネルの構成材料を回収する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20230621BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
B09B3/00 303Z
B09B5/00 Z ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203943
(22)【出願日】2021-12-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年1月22日 一般社団法人資源・素材学会主催「一般社団法人資源・素材学会 2021年度春季大会」の要旨を公開(ウェブサイトのアドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/mmij2021a/subject/2K0301-08-01/advanced) 令和3年3月9日オンラインで開催された一般社団法人資源・素材学会主催「一般社団法人資源・素材学会 2021年度春季大会」にて公開(ウェブサイトのアドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/mmij2021a/subject/2K0301-08-01/advanced) 令和3年4月9日環境省HP 低炭素型3R技術・システム実証事業の成果等について<令和2年度実証事業報告書で「令和2年度脱炭素型金属リサイクルシステムの早期社会実装化に向けた実証事業(太陽光パネルの高度選別技術開発とリサイクル・システム構築による早期事業化)」を公開(ウェブサイトのアドレス:https://www.env.go.jp/recycle/R2kinzokuzissyou_shinryo.pdf) 令和3年7月26日 一般社団法人資源・素材学会関東支部主催「2021年第18回「資源・素材・環境」技術と研究の交流会」の要旨を公開(ウェブサイトのアドレス:https://www.mmij.or.jp/branch-kantou/poster_session/#p_10) 令和3年8月2日オンラインで開催された一般社団法人資源・素材学会関東支部主催「2021年第18回「資源・素材・環境」技術と研究の交流会」にて公開(ウェブサイトのアドレス:https://www.mmij.or.jp/branch-kantou/poster_session/#p_10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)環境省 令和2年度脱炭素型金属リサイクルシステムの早期社会実装化に向けた実証事業(太陽光パネルの高度選別技術開発とリサイクル・システム構築による早期事業化)に係る委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】594146179
【氏名又は名称】株式会社新菱
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】村山 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】守谷 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大和田 秀二
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA18
4D004AA23
4D004BA05
4D004BA10
4D004CA02
4D004CA08
4D004CA28
4D004CB03
4D004CB31
4D004CC02
(57)【要約】
【課題】ガラスが割れた太陽光電池パネルから、低コストで高品位の有価物を回収する方法を提供する。
【解決手段】太陽光電池パネルを、熱処理することで、樹脂部材を除去した熱処理品とする熱処理分解工程と、前記熱処理品を篩分けする篩分け工程と、前記篩分け工程で篩分けした篩下を風力選別で、軽産物と重産物とに選別する風力選別工程と、前記重産物をエアテーブルで、ガラス素材と、金属含有素材とに選別するエアテーブル選別工程と、を有する太陽光電池パネルの構成素材を回収する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光電池パネルを、熱処理することで、樹脂部材を除去した熱処理品とする熱処理分解工程と、
前記熱処理品を篩分けする篩分け工程と、
前記篩分け工程で篩分けした篩下を風力選別で、軽産物と重産物とに選別する風力選別工程と、
前記重産物をエアテーブルで、ガラス素材と、金属含有素材とに選別するエアテーブル選別工程と、を有する太陽光電池パネルの構成素材を回収する方法。
【請求項2】
前記太陽光電池パネルが、ガラス部材が割れた部分を含むものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理分解工程が、400℃以上で焼成するものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記篩分け工程が、目開き1~100mmの篩で篩分けするものである、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記風力選別工程が、縦型風力選別機で選別するものである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記エアテーブル選別工程が、一軸式エアテーブルを用いて選別するものである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
太陽光電池パネルを、熱処理することで、樹脂部材を除去した熱処理品とする熱処理分解手段と、
前記熱処理品を篩分けする篩分け手段と、
前記篩分け手段で篩分けした篩下を風力選別で、軽産物と重産物とに選別する風力選別手段と、
前記重産物をエアテーブルで、ガラス部材と、金属含有部材とに選別するエアテーブル選別手段と、を有する太陽光電池パネルの構成素材を回収するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光電池パネルの構成材料を回収する方法に関する。また、太陽光電池パネルの構成材料を回収するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーとして、太陽光発電や、風力発電などが行われている。太陽光発電には、太陽光電池パネルを用いた太陽電池モジュールが用いられている。この太陽電池モジュールの耐用年数は約20年程度のものが多く、耐用年数を過ぎた太陽電池モジュールのリサイクルなどが今後さらに重要になる。太陽電池モジュールのリサイクル等については、以下のような文献が開示されている。
【0003】
特許文献1は、太陽電池モジュールに含まれる太陽電池素子の構成材料を回収する方法であって、少なくともセル部及びガラス基板と、これらに結合したエチレンビニルアセテート(EVA)封止材を含む太陽電池素子を、炉内の酸素濃度を1.0体積%以上3.0体積%以下に保持した連続式熱処理炉に搬送し、300~400℃に設定された予備加熱分解部にてEVA分解ガスの一種である酢酸ガスを放出除去し、続いて400~550℃に設定された熱処理部にて酢酸以外のEVA分解ガスを脱離させて前記太陽電池素子からEVA封止材を除去して、セル部とガラス基板を分離する工程を含むことを特徴とする太陽電池素子構成材料の回収方法を開示している。
【0004】
特許文献2は、カバーガラスと、電池層と、これらを密着する封止材と、を備える太陽電池モジュールのリサイクル方法において、前記カバーガラスと前記封止材との界面を所定の温度範囲に加熱し、前記界面が前記所定の温度範囲を維持した状態で前記太陽電池モジュールの側面から前記封止材に力を加えて、前記界面から前記封止材及び前記電池層を引き剥がす、太陽電池モジュールのリサイクル方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、ガラス基板とバックシートとの間に太陽電池セル及びこれらの配線材を含む電気部材を封止材を用いて介装してなる太陽電池モジュールの当該電気部材を回収する太陽電池モジュールの電気部材回収装置であって、上記太陽電池モジュールから予めガラス基板の略全部が除去されバックシートに電気部材が付着した状態のシート状部材から当該電気部材を可能な限り回収する太陽電池モジュールの電気部材回収装置に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-108375号公報
【特許文献2】WO2019/203026
【特許文献3】特開2020-131165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、アルミ枠を取り外した後、熱分解処理して封止材(EVA)を除去することにより、ガラス基板やセル材料等の構成部材を分離・回収する方法が開示されている。特許文献2と特許文献3には、ガラス面を破砕ローラーで破砕して、ガラスを回収した後、残部の封止材の中に含まれる有価物を薬液で溶解して回収したり、ブラシローラーで掻き落として回収する方法が開示されている。
【0008】
特許文献1の方法では、ガラスが割れた状態のものを熱分解処理すると、ガラス基板とセル部や電極等が混ざった状態となり、ガラスやセル、銅線を分別回収が難しい場合があるという問題があった。
【0009】
特許文献2や、特許文献3の方法では、回収したガラスに樹脂成分が多く付着しており、回収したガラスの品位が低く、板ガラスやガラスウールの原料として使えないという問題があった。また、特許文献2の方法では、封止材に含まれる有価物を回収するために薬液処理を行う必要があり、処理コストが高くなるという問題があった。また、特許文献3の方法では、封止材の中から回収した有価物に樹脂成分が多く付着しており、品位が低く、精錬コストが高くなるという問題があった。
【0010】
係る状況下、本発明は、ガラスが割れた太陽光電池パネルから、高品位の有価物となりうる構成素材を回収する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0012】
<1> 太陽光電池パネルを、熱処理することで、樹脂部材を除去した熱処理品とする熱処理分解工程と、前記熱処理品を篩分けする篩分け工程と、前記篩分け工程で篩分けした篩下を風力選別で、軽産物と重産物とに選別する風力選別工程と、前記重産物をエアテーブルで、ガラス素材と、金属含有素材とに選別するエアテーブル選別工程と、を有する太陽光電池パネルの構成素材を回収する方法。
<2> 前記太陽光電池パネルが、ガラス部材が割れた部分を含むものである、前記<1>記載の方法。
<3> 前記熱処理分解工程が、400℃以上で焼成するものである、前記<1>または<2>に記載の方法。
<4> 前記篩分け工程が、目開き1~100mmの篩で篩分けするものである、前記<1>~<3>のいずれかに記載の方法。
<5> 前記風力選別工程が、縦型風力選別機で選別するものである、前記<1>~<4>のいずれかに記載の方法。
<6> 前記エアテーブル選別工程が、一軸式エアテーブルを用いて選別するものである、前記<1>~<5>のいずれかに記載の方法。
<7> 太陽光電池パネルを、熱処理することで、樹脂部材を除去した熱処理品とする熱処理分解手段と、前記熱処理品を篩分けする篩分け手段と、前記篩分け手段で篩分けした篩下を風力選別で、軽産物と重産物とに選別する風力選別手段と、前記重産物をエアテーブルで、ガラス部材と、金属含有部材とに選別するエアテーブル選別手段と、を有する太陽光電池パネルの構成素材を回収するシステム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、太陽光電池パネルから、高品位の有価物となりうる構成素材を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】太陽光電池パネルの構成の概要を示す図である。
【
図3】篩分けと風力選別間に粉砕を行う場合のフローの一部を示すフロー図である。
【
図6】本発明のシステムの他の概要例を示す図である。
【
図7】太陽光電池パネルの焼成テストに係る焼成前の状態を示す像である。
【
図8】太陽光電池パネルの焼成テストに係る焼成後の状態を示す像である。
【
図10】エアテーブル選別機の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0016】
[本発明の方法]
本発明の太陽光電池パネルの構成素材を回収する方法は、太陽光電池パネルを、熱処理することで、樹脂部材を除去した熱処理品とする熱処理分解工程と、前記熱処理品を篩分けする篩分け工程と、前記篩分け工程で篩分けした篩下を風力選別で、軽産物と重産物とに選別する風力選別工程と、前記重産物をエアテーブルで、ガラス素材と、金属含有素材とに選別するエアテーブル選別工程と、を有する。本願において、本発明の太陽光電池パネルの構成素材を回収する方法を、単に「本発明の方法」と記載する場合がある。
【0017】
[本発明のシステム]
本発明の太陽光電池パネルの構成素材を回収するシステムは、太陽光電池パネルを、熱処理することで、樹脂部材を除去した熱処理品とする熱処理分解と、前記熱処理品を篩分けする篩分け手段と、前記篩分け手段で篩分けした篩下を風力選別で、軽産物と重産物とに選別する風力選別手段と、前記重産物をエアテーブルで、ガラス部材と、金属含有部材とに選別するエアテーブル選別手段と、を有する。本願において、本発明の太陽光電池パネルの構成素材を回収するシステムを、単に「本発明のシステム」と記載する場合がある。
【0018】
本発明者らは、近年や今後、大量に使用期限を迎えて処分が求められる太陽光電池パネルの利用等について検討した。そして、太陽光電池パネルを構成する構成素材の再利用について検討した。太陽光電池パネルは、ガラスやアルミ、プラスチック、結晶シリコン、金属部材等を含んでいる。これらの中でも、ガラスは重量が大きい。このガラスなどの再利用のためには、高純度のガラスを分離して回収する必要がある。
【0019】
一方、太陽光電池パネルは屋外で利用され、天候や自然現象、環境要因等の様々な影響で、様々な状態で回収される。特に、ガラスが割れた状態で回収される場合もある。このような多様な状態の太陽光電池パネルを再利用できるようにするために分離する手法を検討した。ガラスが割れていると、より各種材料の分離が難しくなる。この分離回収にあたって、風力選別や、エアテーブル選別を組み合わせることで様々な状態の太陽光電池パネルでも高純度のガラス等を分離できることを見出した。本発明はかかる知見に基づく。
【0020】
[太陽光電池パネル]
図1は、太陽光電池パネルの構成の概要を示す図である。
図1は、太陽光電池パネルの構成の概要を示す図である。太陽光電池パネルは、太陽光電池セルを配線材で接続し、その周囲に充填剤が充填され、ガラス製のフロントカバー、バックカバー、また出力端子保護カバーと、これらを支持するフレームを有している。
【0021】
太陽光電池パネルの構成比率は、太陽光電池パネルの種類によっても多少異なる。本発明の典型的な対象となる太陽光パネルとしては、結晶系太陽光電池パネルやシリコン系太陽光パネルとよばれるものがあげられる。これらは、例えば、単結晶シリコンや、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、HITなどの種類が主なものとしてあげられる。このような結晶系太陽光電池パネルの構成例として、例えば、フロントカバー(ガラス)が約62.5質量%、フレーム(アルミ)が約15.7質量%、プラスチック(EVA等)が17.7質量%、セル(結晶シリコン)が3.4質量%、電極材料(銅線・はんだ)が0.8質量%程度である。
【0022】
[太陽光電池パネルから構成素材を回収するフロー]
図2は、本発明の方法に係るフロー図である。太陽光電池パネルに対して、まずステップS11は、アルミ枠の解体を行う。これによりまずアルミ枠を外して、内側の構造をこの後のステップで処理する。
【0023】
ステップS21は、加熱処理を行う。加熱処理を行うことで、充填剤やバックシート等のプラスチック等が除去される。残留物は、ステップS31で、ガラス・セル・銅線の混合物の処理を行う。ステップS31は、ふるい分けを行う。ふるい分けにより、銅線を分離して、篩下をこの後のステップで処理する。
【0024】
ステップS41は、風力選別で選別する。風力選別で、軽産物を除去し、重産物をこの後のステップで処理する。ステップS51は、風力選別による重産物をエアテーブル選別するものである。このエアテーブル選別により、高純度のガラスの重産物や、ガラス等を含む片刃産物等、銅線由来物などの滞留軽産物、銅線由来物やセル由来物の排出軽産物などに分離して、それぞれを回収することができる。
【0025】
図3は、
図2に示すフロー図の一部変形例を説明するものである。このフロー図は、篩分けと風力選別間に粉砕を行う場合のフローの一部を示すフロー図である。ステップS31のふるい分け後の篩下は、よりその後の選別を行いやすいように、ステップS32に示す粉砕を行ってから、その粉砕後の篩下を、ステップS41の風力選別に用いるものとしてもよい。
【0026】
図4は、本発明の方法に係る他のフロー図である。このフローは、
図2に示すフローの一部変形例である。まずステップS12は、加熱処理を行う。加熱処理を行うことで、充填剤やバックシート等のプラスチック等が除去される。次に、ステップS22は、アルミ枠の解体を行う。これによりアルミ枠を外す。その後、ステップS31以降の篩分け等を行う。
【0027】
[太陽光電池パネルから構成素材を回収するシステム]
図5は、本発明のシステムの概要例を示す図である。回収システム100は、解体手段(前処理手段)11と、加熱処理手段31と、篩分け手段41と、篩分け回収部42と、風力選別手段51と、軽産物回収部52と、エアテーブル選別手段61と、排出物回収部621、滞留物回収部622、ガラス回収部623を有する。回収システム100は、
図2に示すフローの回収方法にも対応するものとして使用できる。また、各手段に応じて、適宜、その構成を変更したシステムとしてもよい。
【0028】
図6は、本発明のシステムの他の概要例を示す図である。回収システム101は、
図5に示す回収システム100の一部変形例である。回収システム100は、加熱処理手段12と、解体手段32を有する。すなわち、加熱処理手段と、解体手段とを並び替えたものである。この回収システム101は、
図4に示すフローの回収方法にも対応するものとして使用できる。また、各手段に応じて、適宜、その構成を変更したシステムとしてもよい。
【0029】
[解体処理]
太陽光電池パネルの処理にあたっては、熱処理分解を行う前もしくは後に解体処理を適宜行うことができる。解体処理としては、アルミ枠の解体やバックシートの除去などがあげられる。なお、先のフロー図や、システムでは、熱処理分解の前に、解体処理する例を示したが、熱処理後に、これらの解体処理にあたる、アルミ枠の解体等を行ってもよい。
【0030】
[熱処理分解]
構成素材の回収にあたって、太陽光電池パネルを、熱処理することで、樹脂部材を除去した熱処理品とする熱処理分解を行う。この熱処理分解は、特開2014-108375号公報(特許文献1)を参照して実施することができる。この熱処理分解により、太陽光パネルの太陽電池セルや配線材の周囲に配置されている充填剤やバックシートなどのプラスチック等を除去する。このプラスチックは、主にEVA樹脂(エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂)などが用いられている。
【0031】
図7は、太陽光電池パネルの焼成テストに係る焼成前の状態を示す像である。カバーガラスの割れの有無を比較した場合、焼成前の段階では、いずれも全体観察として成長に見え、大きな差がなく処理ができるかのように見える場合がある。
図8は、太陽光電池パネルの焼成テストに係る焼成後の状態を示す像である。
図8において左側は、
図7と同様にカバーガラスの割れが無しのものである。一方、右側は、
図7と同様に、カバーガラスの割れが有りのものである。焼成前の段階では、差が見出されにくい。しかし、1次焼成や2次焼成を行うと、カバーガラスに割れが無かったものは、カバーガラスが一体のままであり、比較的そのままでも回収しやすい状態である。しかし、カバーガラスに割れがあったものは、ガラスが細かに砕けた部分が散見される、いわゆる粉々の状態になる。このような状態となると、他のセルや配線と混ざり合ったものとなってしまい、分離が難しくなる場合がある。このため、本発明は、特に、ガラス部材が割れた部分を含むものであることが好ましい。
【0032】
熱処理分解工程は、400℃以上で焼成するものであることが好ましい。熱処理温度は、420℃以上がより好ましい。熱処理温度の上限は、600℃以下や、580℃以下などとしてもよい。また、焼成条件は、複数段階で行ってもよい。例えば、1次焼成を、窒素雰囲気などの不活性ガス化で行う。これらの不活性ガスとは、酸素を含まないガスとしてよく、酸素濃度が、2vol%以下や、1vol%以下とできのものとしてもよい。そして、その後、2次焼成を空気雰囲気などの酸素を含むガスと接する状態で行う。酸素を含むガスは、空気(酸素:約20.9vol%)で良いが、酸素ガスなどを用いて調整したものを用いてもよい。
【0033】
それぞれの焼成時間は、400℃以上の設定温度で、3分以上や、5分以上、7分以上、9分以上などとすることができる。焼成温度の上限は、2時間以下や、1時間以下、30分以下などとしてもよい。熱処理分解を行った後は、プラスチック等が気化等して除去された後の残部が熱処理品として、適宜、放冷等して、そのあとの処理等に用いることができる。
【0034】
[篩分け]
加熱処理による熱処理分解を行った熱処理品は、篩分けを行って分離する。この篩分けされる熱処理品は、ガラス、セル、銅線などの混合物である。篩分けすることで、銅線などの長いものや、セルなどの大きいもの、またこれらと絡み合ったものを、細かい篩下となるものと分離する。
【0035】
篩分けは、目開き1~100mmの篩で篩分けすることが好ましい。篩分けは、2段階や3段階の多段階でおこなってもよい。このとき、段階的に、篩の目開きが大きいものから小さいものに変更しながら篩分けする。例えば、5mm以上や、8mm以上、10mm以上、15mm以上などの大きな目開きの篩で篩分けする第一の篩分け工程と、第一の篩分け工程よりも目開きが小さく15mm以下や、10mm以下、8mm以下、5mm以下、3mm以下などの篩で篩分けする第二の篩分け工程とを有するものとすることができる。
【0036】
第一の篩分け工程と、第二の篩分け工程との篩の目開きは、第二の篩分け工程のほうが目開きが小さく、その差は、1mm以上や3mm以上、5mm以上などとしてもよい。篩の目開きの上限は、80mm以下や、60mm以下としてもよい。篩分けに用いる篩の開口部の形状は、円状や多角形のものなどを用いることができる。例えば、後述する実施例の
図11に示すような篩選別機などを用いることができる。
【0037】
例えば、第一の篩分け工程を目開き10~50mm(例えば20mm)程度として銅線などを篩上として回収し、第二の篩分け工程を目開き1~5mm(例えば2mm)程度としてはんだボールなどを篩下とするものとしてもよい。
【0038】
なお、太陽光パネルのガラスには一般的には強化ガラスが用いられている。このため、外部要因や熱処理履歴などでガラスが割れるときに、均一に細かく割れる傾向がみられる。このため、そのまま各工程の選別等を行ってもよい。また、適宜、篩分け工程の前後などに、処理対象物を粉砕する粉砕工程を行ってもよい。例えば、風力選別以後の処理には篩下を用いるため、比較的小さいものが選択的に分離されている。篩は、比較的大きい目開きのものを用いて、線状部材やそれらと絡み合ったものの除去を目的としている。このため、篩下にも、風力選別やエアテーブル選別で分離しにくい大きさのものが残存している可能性がある。このため、篩分け後の篩下を処理対象として、さらに、粉砕を行った篩下として、これを風力選別に用いてもよい。
【0039】
[風力選別]
篩分け工程で篩分けした篩下は、適宜、粉砕等もされた後、風力選別で、軽産物と重産物とに選別する。風力選別は比重選別技術のひとつである。比重選別とは、目的の物質が他の物質と比重が異なる場合にその差を利用して分離する選別技術である。風力選別装置としては、縦型風力選別機やジグザグ選別機、水平流型選別機、慣性力式直線型選別機、慣性力式曲線型選別機などを用いることができる。
【0040】
例えば、
図9は、縦型風力選別機の概要の一例を示す図である。投入用振動フィーダーとの連結部の縦型の流路に鉛直方向の下側から空気を流し、終末速度が相対的に低い軽産物(軽質物)は流路の上に送り出され、流路を回り
図9における右側の排出口から回収される。一方、終末速度が相対的に高い重産物(重質物)は、流路を上がりきれずに、左側の排出口から回収される。この風力選別機は、空気が循環するシロッコファンを用いる構成である。
【0041】
このように縦型風力選別機は、縦長のカラムに上昇流を下から送風することで、沈降速度の小さい低比重の粒子を上方に移動させて軽産物として回収し、沈降速度の大きい高比重の粒子を下方に移動させて重産物として回収する装置である。
【0042】
風力選別における軽産物は、太陽光電池パネルのセルの濃縮物などである。風力選別における重産物は、太陽光電池パネルの粗粒ガラスの濃縮物などである。カバーガラスなどに由来する等方性粒子のガラスは、小粒子が軽産物に分配されやすい。他方、セルは扁平粒子であり、空気流を広い面積で受けやすいと考えられ、大きい粒子ほど軽産物に分配されやすい。このため、いずれも大きい粒子のほうが、目的とする軽産物と重産物とによる分類が行いやすいため、風力選別前の粉砕は過剰に行う必要性は低い。
【0043】
風力選別工程は、例えば、風速4~15m/s、風量20~70L/minで選別するものとすることができる。このような風力選別に適した装置として、例えば、原田産業製風力選別機 L750SRM型などを用いることができる。
【0044】
[エアテーブル選別]
風力選別した重産物は、エアテーブルで、ガラス素材と、金属含有素材とに選別するエアテーブル選別する。
図10は、エアテーブル選別機の概要を示す図である。この
図10のエアテーブル選別機は、一軸式のエアテーブル選別機である。
【0045】
このエアテーブル選別機は、水平方向から少し角度のついたデッキに振動を与え、さらにデッキに下方からデッキと垂直方向に送風するものである。これにより、高比重の粒子は風の影響をあまり受けずに粉体層内で下方に移動しデッキ面の山付近に集中し、山で下方への移動が抑制されながらデッキの振動によってデッキの上方に移動して重産物として回収される。一方で、低比重の粒子は風の影響を受けて粉体層内の上方に移動しデッキの傾きに沿って下方に移動し軽産物として回収される。
【0046】
エアテーブル選別では、エアテーブルの排出口から排出されるものと、エアテーブル上に滞留するもの等、複数のものに分類することができる。
図10のエアテーブルを例にすると、デッキの下方から、銅線やセルを主とする軽産物が排出される。また、デッキの上方からガラスを主とする重産物が排出される。また、エアテーブル稼働中にいずれにも移動しにくいものなどは、エアテーブルのデッキ上に滞留した滞留物として回収される場合もある。この滞留物は、粉体層の上側に銅線などの軽産物が分離されている。
【0047】
このようなエアテーブルとしては、例えば、原田産業製エアテーブル SRM 296P-72N型などを用いることができる。
【0048】
また、このエアテーブル後の軽産物や重産物等をより高精度に分離するために、さらに風力選別やエアテーブル選別、篩分けなどで選別してもよい。
【0049】
[回収]
このように、本発明は、太陽光電池パネルの構成素材を回収に係るものである。構成素材としての回収対象は、各工程で分離されたいずれかのものとすることができる。また、各回収後の利用方法を鑑み異なる工程や手段で分離されたものを混合して、利用するものとしてもよい。要すると、篩分けにより銅線などを回収できる。風力選別の軽産物はセルなどを回収できる。エアテーブル選別の軽産物はセルなどを回収できる。エアテーブル選別の重産物はガラスを回収することができる。
【0050】
回収率の目安としては、熱処理後の資料の重量を基準として、篩選別で3~5質量%程度のものが篩上として回収分離され、風力選別で5~10質量%程度の軽産物が回収され、エアテーブル選別で1~5質量%程度の軽産物が回収され、エアテーブル選別で80~90質量%程度の重産物が回収される。
【0051】
回収対象は、それぞれの成分に応じた処理がされる。回収されたものには、有価物も含まれるため再利用することができる。また再利用が難しいものは減量した状態で処分してもよい。
【0052】
本発明の回収方法や回収システムは、乾燥式で水などを用いずに分離して回収できる。このため、分離後の乾燥などを行うことなく処理できるため処理のためのエネルギー効率などにも優れている。また、太陽光電池パネルの質量比で大きな割合を占めるガラスを、高純度で再利用できる品位で回収できる。このため持続循環が求められる社会でも自然由来エネルギーを活用する太陽光電池パネルの処分でも環境負荷を抑制した処理に寄与できる。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
太陽光電池パネルの処理にあたって、以下の試験を行った。処理対象のパネルの種類としては、多結晶Si、単結晶Siのものを用いた。熱処理等を行う前に、予め、フレームを解体し、バックカバーを取り外した。
【0055】
[熱処理工程]
太陽光電池パネルの加熱処理は、「平成29年度低炭素製品普及に向けた3R体制構築支援事業 炭素繊維及び太陽電池リサイクルの設備共用による早期事業化報告書」に記載の炉(合わせて特開2014-108375号公報参照)を用いて、EVA等の有機物の分解を行った。
【0056】
1次焼成は、窒素雰囲気下(酸素濃度1%以下)で、焼成速度8m/hr(炉内滞留時間10分)、焼成温度500℃の処理を行った。
2次焼成は、空気下(酸素濃度20.9%)で、焼成速度12m/hr(炉内滞留時間5分)、焼成温度500℃の処理を行った。
これらの1次焼成と2次焼成により、EVA等の有機物が分解され、ガラス、銅線、セルの残渣が得られた。この残渣を、以後の処理対象として用いた。特に、カバーガラスに割れが有るものは、焼成後にカバーガラス等が粉砕された状態となっており、残さの各成分が混在したものとなっている。
【0057】
[篩分け]
熱処理後の残渣を、篩分け選別機で篩分けした。篩分けには、φ50mmの円状の孔が配置された篩選別機を用いた。
図11は、この篩分けにかかる像である。
図11左上の像は、選別機の篩部分等の外観を示す像である。
図11右上の像は、篩分け選別前の混合物、すなわち焼成後の残渣である。
図11左下の像は、篩分け選別機で篩分けした後の篩上の回収物である。
図11の右下の像は、篩分け選別後の篩下の回収物である。
【0058】
図12は、風力選別に係る像である。風力選別は、原田産業製風力選別機L750SRMを用いて行った。この風力選別機の運転の検討にあたって、周波数ごとの風速や風量等は以下のものであった。
【0059】
【0060】
この風速や風量から、周波数40Hzのときが、軽産物としてのセルの回収効率が高いため、本実施例は40Hz付近を主な中心条件として、採用した。
図12の左上の像は、風力選別機の外観である。
図12の右上の像は、風力選別の対象とした混合物である。
図12の左下の像は、軽産物として回収されたものである。
図12の右下の像は、重産物として回収されたものである。
【0061】
例えば、周波数40Hzで風力選別したとき、セル品位82.5質量%、セル回収率99.5質量%、セルの他成分に対する分離効率82.0質量の軽産物が得られた。
【0062】
図13は、エアテーブル選別に係る像である。エアテーブルは、原田産業製エアテーブル SRM 296P-72N型を用いた。
図13の左上の像は、エアテーブルの外観である。
図13の右上の像は、エアテーブル選別に用いた混合物である。
図13の左下の像は、軽産物として回収されたものである。この軽産物は、デッキ上に滞留したものと、デッキ下方から排出されたものである。
図13の右上の像は、重産物として回収されたものである。
【0063】
エアテーブル選別機は、デッキの振動数と、風量をそれぞれ個別に設定する。デッキの振動数は、例えば57Hzのとき425rpmである。また、風量の装置条件は、例えば50Hzのとき40m3/min程度である。また、デッキの盤面の網は、網目15mm、山高11.5mm、山ピッチ15mm、デッキ角度1°、排出口高さ10mmとして用いた。
【0064】
この実施例では、約6670kgの熱処理後の混合物を分離した。試験した結果、篩分けで、篩上を126kg(2%)、篩下を6546kg(98%)に分類した。篩上は、ガラスが33%、銅線が64%、セルが3%であった。ここからは、銅55%と、銀8539mg/kgを得た。篩下は、風力選別の対象とした。
【0065】
次に、風力選別の軽産物を469kg(7%)、重産物を6049kg(91%)に分類した。軽産物は、銅線が2%、セルが98%であった。ここからは、銅2%と、銀5683、g/kgを得た。重産物は、エアテーブル選別の対象とした。
【0066】
次に、エアテーブル選別は、軽産物を102kg(2%)、重産物を5947kg(89%)に分類した。軽産物はガラス60%、銅線17%、セル23%であった。ここからは同15%と、銀3291mg/kgを得た。また、重産物としては、ガラス99.999%、銅線0.001%、セル0.0002%のものを得た。この重産物は、特にガラスの純度が高くガラスの再利用に用いることができた。