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特開2023-895糖鎖結合剤、糖鎖検出キット及び医薬品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000895
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】糖鎖結合剤、糖鎖検出キット及び医薬品
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/01 20060101AFI20221222BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20221222BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20221222BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221222BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221222BHJP
   C12N 15/34 20060101ALN20221222BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20221222BHJP
   C12N 15/10 20060101ALN20221222BHJP
【FI】
C07K14/01
C07K19/00 ZNA
A61K38/16
A61P43/00 111
G01N33/53 S
C12N15/34
C12N15/62 Z
C12N15/10 200Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101961
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】520219036
【氏名又は名称】長▲崎▼ 慶三
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 慶三
(72)【発明者】
【氏名】和田 啓
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA20
4C084BA23
4C084NA14
4C084ZC411
4C084ZC412
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA21
4H045BA41
4H045CA01
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】糖鎖に特異的に結合可能な糖鎖結合剤を提供する。
【解決手段】特異的糖鎖結合部を含み、前記特異的糖鎖結合部が、ある特定のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含み、前記アミノ酸配列において、中性アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、及び、塩基性アミノ酸残基の少なくとも一つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、糖鎖結合の特異性を変更可能であることを特徴とする、糖鎖結合剤。前記ある特定のアミノ酸配列は、HaVのVP492タンパク質のC末端側に存在する連続反復配列由来であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的糖鎖結合部を含み、
前記特異的糖鎖結合部が、下記(A)及び(B)からなる群の少なくとも一つのポリペプチドを含み、
前記アミノ酸配列において、中性アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、及び、塩基性アミノ酸残基の少なくとも一つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、糖鎖結合の特異性を変更可能であることを特徴とする、
糖鎖結合剤。

(A)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド:HaV01株およびHaV53株
TLSVCDTIIAPNACFTTITLDTLDLTDITAVNACLTDVTVSDNLNVSDTLTSYIVSTDALLSTNACFTNATVVD

(B)配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加した配列からなり、かつ糖鎖結合能を有するポリペプチド
【請求項2】
前記置換は、配列番号1の少なくとも一方において、N末端から数えて、4、6、7、9、10、11、13、15、16、17、20、21、22、23、26、27、30、31、32、34,36、37、38、40、41、42、43、44、45、46、48、49、51、55、56、57、58、59、61、62、63、65、68、69、70、72、73及び74位のアミノ酸残基の少なくとも一つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することである、
請求項1記載の糖鎖結合剤。
【請求項3】
前記特異的糖鎖結合部に含まれる前記ペプチドは、アミノ酸配列が異なる2個以上のポリペプチドがペプチド結合で連結したポリペプチドである、
請求項1又は2記載の糖鎖結合剤。
【請求項4】
前記配列番号1のアミノ酸配列は、HaVがコードする分子量約492kDaのタンパク質のC末端側に存在する連続反復配列由来である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の糖鎖結合剤。
【請求項5】
糖鎖結合剤、及び、前記結合剤を検出する検出剤を含み、
前記糖結合剤は、請求項1から4のいずれか一項に記載の糖鎖結合剤である、
糖鎖検出キット。
【請求項6】
生体内の糖鎖を標的とした医薬品であって、
請求項1から4のいずれか一項に記載の糖鎖結合剤を含む、医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖結合剤、糖鎖検出キット及び医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内のタンパク質の多くは糖鎖で修飾されており、両者が一体化することで機能を発揮する場合もある。近年、一部の疾病では糖鎖構造の質的変化が観察されており、その定量によって病気の進行度を推定することが可能となっている。よって、特異的な糖鎖識別・定量技術の開発は、癌や感染症等の画期的診断法の確立につながると考えられており、世界中で開発競争が行われている状況にある。例えば、特許文献1には、糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマトデバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-60255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
創薬分野において、標的となる分子構造を認識する分子プローブの設計・作出は、重要な工程といえる。たとえば標的がタンパク質の場合、それを実験動物に接種し抗体産生を促すことで、目的とする分子プローブ(抗体)を入手することが可能である。しかし、標的が糖鎖である場合、糖鎖自体の免疫原性がきわめて低いため、抗体産生を促すことがしばしば困難である。
【0005】
抗体以外の糖結合性タンパク質の例としてはレクチンが知られる。レクチンは2つ以上の結合部位を持ち、多糖構造を表面に持つ動物・植物細胞を凝集することができる。レクチンは植物・動物・微生物等から検出されており、すでに多様なレクチンが上市されている状況にある。ただし、レクチンの多様性は探索する生物の範囲によって限定されるため、オーダーに応じた認識特異性を付与することは難しい。
【0006】
標的となる糖鎖分子に特異的に吸着可能なタンパク質分子を(オーダーメイドで)設計する技術は未だ開発されていない。
【0007】
そこで、本発明は、糖鎖に特異的に結合することが可能な糖鎖結合剤、それを用いた糖鎖検出キット及び医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の糖鎖結合剤は、特異的糖鎖結合部を含み、
前記特異的糖鎖結合部が、下記(A)及び(B)からなる群の少なくとも一つのポリペプチドを含み、
前記アミノ酸配列において、中性アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、及び、塩基性アミノ酸残基の少なくとも一つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、糖鎖結合の特異性を変更可能であることを特徴とする。

(A)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド:HaV01株およびHaV53株
TLSVCDTIIAPNACFTTITLDTLDLTDITAVNACLTDVTVSDNLNVSDTLTSYIVSTDALLSTNACFTNATVVD

(B)配列番号1のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加した配列からなり、かつ糖鎖結合能を有するポリペプチド
【0009】
本発明の糖鎖検出キットは、糖鎖結合剤、及び、前記結合剤を検出する検出剤を含み、
前記糖結合剤は、本発明の糖鎖結合剤である。
【0010】
本発明の医薬品は、生体内の糖鎖を標的とした医薬品であって、本発明の糖鎖結合剤を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造が異なる種々の糖鎖に対し、特異的に結合可能な糖鎖結合剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、糖鎖を認識するタンパク質の由来を説明する図である。
図2図2は、HaVは、株ごとに宿主特異性が異なることを説明する図である。
図3図3は、HaV01株及びHaV53株のVP492タンパク質のC末端側に存在する連続反復配列(74アミノ酸)を比較した図である。
図4図4は、図5のアミノ酸配列の比較をアミノ酸残基の性質に応じて分けて示した図である。
図5図5は、VP492タンパク質の立体モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の糖鎖結合剤において、前記置換は、配列番号1において、N末端から数えて、4、6、7、9、10、11、13、15、16、17、20、21、22、23、26、27、30、31、32、34,36、37、38、40、41、42、43、44、45、46、48、49、51、55、56、57、58、59、61、62、63、65、68、69、70、72、及び73位のアミノ酸残基の少なくとも一つのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することである、という態様であってもよい。
【0014】
本発明の糖鎖結合剤において、前記特異的糖鎖結合部に含まれる前記ペプチドは、アミノ酸配列が異なる2個以上のポリペプチドがペプチド結合で連結したポリペプチドである、という態様であってもよい。
【0015】
本発明の糖鎖結合剤において、前記配列番号1のアミノ酸配列は、HaVがコードする分子量約492kDaのタンパク質(VP492やVP492タンパク質ともいう)のC末端側に存在する連続反復配列由来である、という態様であってもよい。
【0016】
前記(B)において、「数個」は、特に制限されず、例えば、2~18、5~18、10~18等である。
【0017】
以下、本発明について、例を用いて具体的に説明する。
【0018】
本発明は、ラフィド藻類ヘテロシグマ・アカシオに感染する2本鎖DNAウイルスHaVがコードする巨大分子VP492中に存在する74個以上のアミノ酸からなる特殊な繰り返し領域の糖鎖親和性を利用することにより、標的となる糖鎖の構造に応じて特異的に吸着可能なタンパク質分子を設計する技術を開発し、創薬分野等に提供することを目的とする。
【0019】
図1に、糖鎖を認識するタンパク質の由来を示す。本発明の前記ポリペプチドは、赤潮の原因となる赤潮藻「ヘテロシグマ・アカシオ」に感染するウイルスHaVのVP492タンパク質のC末端側に存在する連続反復配列に由来する。同図において、左側に正常なヘテロシグマ・アカシオを示し、中央にHaVに感染したヘテロシグマ・アカシオを示し、右側に、HaVを示す。
【0020】
図2に、HaVは、株ごとに宿主特異性が異なることを示す。同図に示すように、HaV01株とHaV53株は、ヘテロシグマ・アカシオH93616株に共通して感染する。しかし、HaV01は、ヘテロシグマ・アカシオStrain1株には感染するが、同Strain2株には感染せず、一方、HaV53は、同Strain1株に感染しないが、同Strain2株に感染する。この宿主特異性が異なるのは、VP492タンパク質のC末端側の連続反復配列の変異による宿主(ヘテロシグマ・アカシオ)の表面にある糖鎖への結合特異性の違いによる。
【0021】
図3及び図4に、HaV01株及びHaV53株のVP492タンパク質のC末端側に存在する連続反復配列の74アミノ酸の比較図を示す。両図に示すように、HaV01株及びHaV53株の配列において、疎水性アミノ酸残基においては保存性が高く、一方、親水性アミノ酸残基部分に変異が集中していることが分かる。また、各位置において最も割合の多いアミノ酸残基は両株の間で一致する。
【0022】
図5に、VP492タンパク質の立体モデルを示す。同図において、74aa#1~#5は、前記連続反復配列部分を示し、この部分がヘテロシグマ・アカシオの表面糖鎖を認識する。前記連続反復配列部分は、サビキ釣りのサビキ仕掛けのように、それぞれの反復配列が、異なる糖鎖に結合するようになっており、この構造が、HaVの株の相違により、宿主特異性を決定している。本発明者は、この知見を初めて見出し、糖鎖の特異的結合に利用するという着想を得て、本件発明に想到した。
【0023】
本発明が適用できる製品例
例1 腫瘍細胞が産生する糖鎖を特異的に識別・定量する診断薬
例2 筋ジストロフィー症例にみられるジストログリカン特異的糖鎖を特異的に識別・定量する診断薬
【0024】
本発明の具体的応用例のうち、腫瘍マーカー糖鎖の検出・定量の概要を説明する。
(1)HaVが持つ超巨大分子VP492のC末端側に存在する74または86アミノ酸の連続反復領域をモデル配列とし、多様な多糖との反応性を調べることで、その糖鎖結合特異性を決定する。
(2)同領域をコードする遺伝子領域をクローニングする。主に疎水性アミノ酸配列を除く親水性領域について遺伝子組換え技術を用いてアミノ酸残基の置換を行う。これにより多様な糖鎖結合特異性を持つポリペプチドのライブラリを作製する。なお、同じアミノ酸配列を直列にサビキ状に繋ぐことにより、さらに検出感度を高めた分子も設計可能である。
(3)得られたライブラリから、腫瘍マーカー糖鎖に特異的に結合する配列をスクリーニングする。陽性反応を示したものを腫瘍マーカー糖鎖特異的分子として診断薬等に適用する。
【0025】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、糖鎖に特定的に結合する糖鎖結合剤を提供することができ、本発明の糖鎖結合剤は、研究、検査、診断及び医薬等の各分野で利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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