(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089505
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】炉心性能計算装置
(51)【国際特許分類】
G21C 17/00 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
G21C17/00 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204033
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 一弥
【テーマコード(参考)】
2G075
【Fターム(参考)】
2G075BA03
2G075CA08
2G075FB18
2G075GA14
(57)【要約】
【課題】炉心内の出力分布を高い精度で求めることができる、炉心性能計算装置を提供する。
【解決手段】燃料集合体解析によりあらかじめ評価された核定数を記憶する核定数記憶装置と、燃料集合体の出力を含む、炉心特性を求める3次元炉心核熱水力特性解析装置と、を有する炉心性能計算装置であって、核定数記憶装置には、核定数として、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、が記憶され、3次元炉心核熱水力特性解析装置において、核定数記憶装置に記憶された応答関係を用いて中性子実効増倍率が求められ、中性子実効増倍率を用いて燃料集合体出力が求められる炉心性能計算装置を構成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料集合体解析によりあらかじめ評価された核定数を記憶する核定数記憶装置と、燃料集合体の出力を含む、炉心特性を求める3次元炉心核熱水力特性解析装置と、を有する炉心性能計算装置であって、
前記核定数記憶装置には、前記核定数として、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、が記憶され、
前記3次元炉心核熱水力特性解析装置において、前記核定数記憶装置に記憶された応答関係を用いて中性子実効増倍率が求められ、前記中性子実効増倍率を用いて燃料集合体出力が求められる
ことを特徴とする炉心性能計算装置。
【請求項2】
前記3次元炉心核熱水力特性解析装置において、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、流入中性子流と、燃料棒中性子生成率、中性子実効増倍率とを用いて、流出中性子流を計算し、燃料棒中性子生成率を更新するステップと、各ノードの流入中性子流を隣接するノードの流出中性子流に設定するステップと、流出中性子流の計算及び燃料棒中性子生成率の更新を、流入中性子流、流出中性子流、及び、燃料棒中性子生成率が収束するまで繰り返すステップと、が実行されることを特徴とする請求項1に記載の炉心性能計算装置。
【請求項3】
前記燃料集合体核特性との応答関係は、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料棒から発生する中性子の応答関係、燃料棒から発生する中性子とその中性子に誘導された核分裂反応により他の燃料棒から発生する中性子の応答関係、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係、であることを特徴とする請求項1に記載の炉心性能計算装置。
【請求項4】
前記3次元炉心核熱水力特性解析装置において、燃料集合体セルへ流入する中性子と中性子束の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と巨視的断面積の応答関係、燃料棒から発生する中性子と中性子束の応答関係、燃料棒から発生する中性子と巨視的断面積の応答関係を用いて、前記中性子実効増倍率が求められることを特徴とする請求項1に記載の炉心性能計算装置。
【請求項5】
前記燃料集合体核特性との応答関係は、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料棒から発生する中性子の応答関係、燃料棒から発生する中性子とその中性子に誘導された核分裂反応により他の燃料棒から発生する中性子の応答関係、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と中性子束の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と巨視的断面積の応答関係、燃料棒から発生する中性子と中性子束の応答関係、燃料棒から発生する中性子と巨視的断面積の応答関係、であることを特徴とする請求項1に記載の炉心性能計算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の運転状態を監視する炉心性能計算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炉心性能計算の目的は、プラントにおいて測定されるデータを用いて、原子炉の炉心内の3次元出力分布を計算し、各燃料集合体、あるいは各燃料棒毎の出力を評価し、それらがあらかじめ設定されている熱的制限値以内に収まっている状態で、原子炉が運転されていることを確認することにある(例えば、特許文献1等を参照。)。
【0003】
炉心性能計算は、例えば、1時間~6時間のうちの所定時間の間隔で周期的に実施されたり、ユーザーの要求により適宜実施されたりすることにより、その時点での原子炉の運転状況を確認することができる。
【0004】
従来の炉心性能計算方法について、以下に説明する。
まず、炉心の流量、炉心の熱出力、制御棒の位置等の原子炉の炉心の状態データ、および中性子検出器の測定値等のプラントデータと、あらかじめ燃料集合体毎に計算された、中性子無限増倍率、巨視的断面積等の核定数と、その他必要なデータを読込む。ここで、入力する核定数は、燃焼度、減速材密度等のパラメータでテーブル化してある。
次に、各燃料集合体への流量の配分を計算し、ボイド分布を計算する。
さらに、ボイド分布から減速材密度の分布を計算し、その減速材密度や燃焼度等から、既に読込んである核定数を用いて、炉心内を燃料集合体毎および高さ方向に分割したノード毎の核定数を計算する。
次に、その計算した核定数を用いて、拡散方程式により、炉心内の3次元中性子束分布を求め、その中性子束分布から出力分布を計算する。
このようにして、炉心内の出力分布を計算することができる。
【0005】
上述した出力分布を計算する過程の中で、高さ方向(軸方向)の出力分布については、中性子検出器の測定値に合うように補正される。
しかし、水平方向(径方向)については補正されない。
従って、水平方向(径方向)については、補正前の出力分布を精度良く評価することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、最近では、濃縮度の大きく異なる燃料集合体が混在して装荷されている炉心や、ウラン燃料集合体と混合酸化物燃料集合体(MOX燃料集合体)が混在して装荷されている炉心が、実用化されてきた。このような炉心では、隣接する燃料集合体の核特性が大きく異なる。
【0008】
一方、従来の炉心性能計算で用いる巨視的断面積等の核定数は、隣接する燃料集合体が全て自身と同一という前提の下で評価され、燃料集合体間のギャップの半分の領域を含む燃料集合体セル内で空間的に均質化される。さらに、3次元中性子束分布を、核定数を用いた拡散方程式により計算するため、拡散近似により誤差が生じる。
従って、隣接する燃料集合体の核特性が大きく異なるような炉心に対しては、核定数評価の前提が実際と大きく異なってくるため、核定数の均質化および拡散近似により精度が低下する。
【0009】
上述した問題の解決のために、本発明においては、炉心内の出力分布を高い精度で求めることができる、炉心性能計算装置を提供するものである。
【0010】
また、本発明の上記の目的及びその他の目的と本発明の新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の炉心性能計算装置は、燃料集合体解析によりあらかじめ評価された核定数を記憶する核定数記憶装置と、燃料集合体の出力を含む、炉心特性を求める3次元炉心核熱水力特性解析装置と、を有する。
そして、本発明の炉心性能計算装置は、核定数記憶装置には、核定数として、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、が記憶され、3次元炉心核熱水力特性解析装置において、核定数記憶装置に記憶された応答関係を用いて中性子実効増倍率が求められ、中性子実効増倍率を用いて燃料集合体出力が求められる。
【発明の効果】
【0012】
上述の本発明の炉心性能計算装置によれば、炉心内出力分布を高精度で求めることができる。
特に、隣接する燃料集合体の核特性が大きく異なるような炉心であっても、炉心内出力分布を高精度で求めることができる。
【0013】
なお、上述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1の炉心性能計算装置の概略構成図である。
【
図2】本発明の実施例1の炉心性能計算装置の3次元炉心核熱水力特性解析装置における出力分布計算の流れの概略のフローチャートである。
【
図3】本発明の実施例2の炉心性能計算装置の3次元炉心核熱水力特性解析装置における出力分布計算の流れの概略のフローチャートである。
【
図4】直接応答行列法による出力分布計算の流れの概略のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施の形態及び実施例について、文章もしくは図面を用いて説明する。ただし、本発明に示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態や実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
本発明の炉心性能計算装置は、燃料集合体解析によりあらかじめ評価された核定数を記憶する核定数記憶装置と、燃料集合体の出力を含む、炉心特性を求める3次元炉心核熱水力特性解析装置と、を有する。
そして、本発明の炉心性能計算装置は、核定数記憶装置には、核定数として、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、が記憶され、3次元炉心核熱水力特性解析装置において、核定数記憶装置に記憶された応答関係を用いて中性子実効増倍率が求められ、中性子実効増倍率を用いて燃料集合体出力が求められる。
【0017】
本発明の炉心性能計算装置によれば、核定数として、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体核特性との応答関係とが記憶され、これらの記憶された応答関係を用いて中性子実効増倍率が求められ、中性子実効増倍率を用いて燃料集合体出力が求められる。
これにより、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体核特性との応答関係とは、燃料集合体セル内で均質化されないので、隣接する燃料集合体の核特性が大きく異なるような炉心であっても、核定数評価の前提を対応させることができ、問題なく適用することができる。
また、出力分布の計算に拡散近似が用いられないので、拡散近似による誤差を生じることがなく、炉心内出力分布を高精度で求めることができる。
特に、隣接する燃料集合体の核特性が大きく異なるような炉心であっても、炉心内出力分布を高精度で求めることができる。
【0018】
上記の炉心性能計算装置の構成において、さらに、3次元炉心核熱水力特性解析装置において、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、流入中性子流と、燃料棒中性子生成率、中性子実効増倍率とを用いて、流出中性子流を計算し、燃料棒中性子生成率を更新するステップと、各ノードの流入中性子流を隣接するノードの流出中性子流に設定するステップと、流出中性子流の計算及び燃料棒中性子生成率の更新を、流入中性子流、流出中性子流、及び、燃料棒中性子生成率が収束するまで繰り返すステップと、が実行される構成とすることができる。
即ち、この構成の場合には、後述する直接応答行列法で求める必要がある応答行列を求めなくても、中性子流及び燃料棒中性子生成率を求めることができる。従って、直接応答行列法を採用して応答行列を求めた場合と比較して、計算量を大幅に低減し、計算時間を大幅に低減することが可能になる。
【0019】
上記の炉心性能計算装置の構成において、さらに、燃料集合体核特性との応答関係は、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料棒から発生する中性子の応答関係、燃料棒から発生する中性子とその中性子に誘導された核分裂反応により他の燃料棒から発生する中性子の応答関係、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係、である構成とすることができる。
即ち、この構成の場合には、後述する直接応答行列法で求める必要がある応答行列を求めなくても、4種類の応答関係を使用して、中性子流及び燃料棒中性子生成率を求めることができる。従って、直接応答行列法を採用して応答行列を求めた場合と比較して、計算量を大幅に低減し、計算時間を大幅に低減することが可能になる。
【0020】
上記の炉心性能計算装置の構成において、さらに、3次元炉心核熱水力特性解析装置において、燃料集合体セルへ流入する中性子と中性子束の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と巨視的断面積の応答関係、燃料棒から発生する中性子と中性子束の応答関係、燃料棒から発生する中性子と巨視的断面積の応答関係を用いて、中性子実効増倍率が求められる構成とすることができる。
即ち、この構成の場合には、中性子束や巨視的断面積との応答関係を用いて、中性子実効増倍率を直接評価することができるので、中性子流の増減から調整する方法と比較して、中性子実効増倍率の収束性を向上し、計算時間を大幅に低減することが可能になる。
【0021】
上記の炉心性能計算装置の構成において、燃料集合体核特性との応答関係は、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料棒から発生する中性子の応答関係、燃料棒から発生する中性子とその中性子に誘導された核分裂反応により他の燃料棒から発生する中性子の応答関係、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と中性子束の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と巨視的断面積の応答関係、燃料棒から発生する中性子と中性子束の応答関係、燃料棒から発生する中性子と巨視的断面積の応答関係、である構成とすることができる。
即ち、この構成の場合には、後述する直接応答行列法で求める必要がある応答行列を求めなくても、中性子と中性子の応答関係を使用して中性子流及び燃料棒中性子生成率を求めることができる。従って、直接応答行列法を採用して応答行列を求めた場合と比較して、計算量を大幅に低減し、計算時間を大幅に低減することが可能になる。また、中性子束や巨視的断面積との応答関係を用いて、中性子実効増倍率を直接評価することができるので、中性子流の増減から調整する方法と比較して、中性子実効増倍率の収束性を向上し、計算時間を大幅に低減することが可能になる。
【0022】
炉心内出力分布を精度良く評価する方法として、例えば、直接応答行列法と呼ばれる方法がある。
この方法では、核定数として、巨視的断面積の代りに、燃料集合体セルを対象とした解析においてあらかじめ求めておいた、4種類の応答関係を用いて、炉心内出力分布を計算する。
上記の4種類の応答関係とは、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係(T)、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料棒から発生する中性子の応答関係(S)、燃料棒から発生する中性子とその中性子に誘導された核分裂反応により他の燃料棒から発生する中性子の応答関係(A)、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係(L)、である。
これら4種類の応答関係T,S,A,Lは、行列で表され、燃料集合体セル内で均質化されない。
【0023】
そして、この直接応答行列法を、本発明の炉心性能計算装置に適用して、出力分布計算を行うことも可能である。直接応答行列法を、本発明の炉心性能計算装置に適用した場合には、核定数記憶装置に記憶される、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体核特性との応答関係と、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体核特性との応答関係とについて、上述した直接応答行列法の4種類の応答関係T,S,A,Lを採用する。
【0024】
ここで、直接応答行列法による出力分布計算の流れの概略のフローチャートを、
図4に示す。
まず、ステップS21において、4種類の応答関係T,S,A,Lから、下記の式(11)のようにして、各ノードの応答行列Rを計算する。
R=T+SL/k+SAL/k
2+SA
2L/k
3+SA
3L/k
4+・・・(11)
ここで、kは中性子実効増倍率である。
【0025】
次に、ステップS22において、各ノード毎に、応答行列Rに流入中性子流Jinを乗算して、流出中性子流Joutを求める。即ち、下記の式(12)のようにして、流出中性子流Joutを求める。
Jout=R*Jin (12)
【0026】
さらに、ステップS23において、各ノードの流入中性子流を、隣接するノードの流出中性子流に設定して、流入中性子流Jinを計算する。
即ち、Jin=隣接ノードのJoutと設定する。
【0027】
この中性子流の計算を、収束するまで繰り返す。
即ち、ステップS24において、流入中性子流Jin及び流出中性子流Joutが収束しているかを判断し、収束していればステップS25に進み、収束していなければステップS22に戻る。
【0028】
中性子流が収束した後、ステップS25において、全炉心での流出中性子流と流入中性子流の比をかけることで、中性子実効増倍率kを更新する。即ち、下記の式(13)のようにして、中性子実効増倍率kを更新する。
ki+1=ki*全炉心でのJout/全炉心でのJin (13)
ここで、kiはi回目の反復での中性子実効増倍率、ki+1はi+1回目の反復での中性子実効増倍率である。
【0029】
次に、更新した中性子実効増倍率kを用いて、応答行列Rを計算し、中性子実効増倍率kが収束するまで、中性子流の計算を繰り返す。
即ち、ステップS26において、中性子実効増倍率kが収束しているかを判断する。そして、中性子実効増倍率kが収束していない場合は、ステップS21に戻り、応答行列Rを計算する。一方、中性子実効増倍率kが収束している場合は、ステップS27に進む。
【0030】
中性子実効増倍率kが収束した後、求まった流入中性子流と応答関係を用いて、炉心内出力分布を計算する。
即ち、ステップS27において、燃料棒の中性子生成率を計算する。そして、計算した燃料棒の中性子生成率を、燃料集合体で積算して、出力分布に換算する。
【0031】
以上述べた直接応答行列法による出力分布計算によれば、核定数を均質化せず、また、出力分布計算の際に拡散近似を用いないため、出力分布を精度良く計算することができる。そして、隣接する燃料集合体の核特性が大きく異なるような炉心であっても、炉心内出力分布を高精度で求めることができる。
【0032】
しかしながら、
図4のフローチャートに示した直接応答行列法による出力分布計算は、直接応答行列法を炉心性能計算に適用させる観点から、下記の二つの課題がある。
【0033】
第1の課題は、応答行列Rの計算の多大な計算量である。
図4のステップS21に示した、応答行列Rを求める式における加算は永遠に続くが、高次項ほど寄与が小さくなるため、現実的な項数で打ち切ることができる。しかしながら、行列の積算や加算が多数回必要であるため、多大な計算量となり、多大な計算時間を要する。
【0034】
第2の課題は、中性子実効増倍率kを求める反復計算の収束性の悪さである。
中性子実効増倍率kは、その収束値からのずれが、応答行列Rを通して中性子流を増減させる割合で調整される。
しかし、中性子実効増倍率kで調整するのは応答行列Rの一部であり、中性子実効増倍率kの収束値からのずれの一部しか調整できない。さらに、中性子実効増倍率kが収束値に近くなると、調整量が小さくなっていき、収束が遅くなっていく。
【0035】
そこで、本発明の炉心性能計算装置において、さらに、上述した第1の課題を解決する構成や、上述した第2の課題を解決する構成を採用することができる。
【0036】
前述した第1の課題を解決する構成としては、燃料棒中性子生成率を未知数として、4種類の応答関係を用いて、流入出中性子流と燃料棒中性子生成率を求める構成が挙げられる。
これにより、応答行列Rを計算する必要が無くなり、計算量を大幅に低減し、計算時間を大幅に低減できる。
【0037】
前述した第2の課題を解決する構成としては、燃料集合体セルを対象とした解析において、あらかじめ新たな応答関係を求めておき、その応答関係を用いて、中性子実効増倍率を直接評価する構成が挙げられる。
上記の新たな応答関係は、燃料集合体セルへ流入する中性子と中性子束の応答関係(Fs)、燃料集合体セルへ流入する中性子と巨視的断面積の応答関係(Cs)、燃料棒から発生する中性子と中性子束の応答関係(Ff)、燃料棒から発生する中性子と巨視的断面積の応答関係(Cf)、である。なお、巨視的断面積には、中性子吸収断面積や中性子生成断面積など複数の種類があるため、巨視的断面積との応答関係は、それぞれの種類の巨視的断面積毎に求める。
流入中性子流と燃料棒中性子生成率が求まった後、これらの応答関係Fs,Cs,Ff,Cfを用いて、各ノードの中性子束と巨視的断面積を求める。これらの中性子束と巨視的断面積を用いて、全炉心での中性子生成率と中性子吸収率の比として、中性子実効増倍率を直接求める。これにより、直接応答行列法の中性子流の増減から調整する方法よりも、収束性を向上し、計算時間を大幅に低減できる。
【0038】
続いて、本発明の具体的な実施例を以下に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、直接応答行列法を本発明の炉心性能計算装置に適用した場合と同様に、出力分布を精度良く計算することができる効果が得られると共に、直接応答行列法を本発明の炉心性能計算装置に適用した場合の2つの課題の一方又は両方を解決できる構成である。
【0039】
(実施例1)
本発明の実施例1の炉心性能計算装置を、
図1~
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の実施例1の炉心性能計算装置の概略構成図を示している。
【0040】
本実施例の炉心性能計算装置1は、プラントデータ入力装置4と、核定数記憶装置5と、3次元炉心核熱水力特性解析装置6と、要求入力装置7と、表示装置8とからなる。
プラントデータ入力装置4は、原子炉2や炉心3から炉心状態データおよび中性子検出器の測定値が入力される。
核定数記憶装置5は、あらかじめ燃料集合体毎に計算された核定数を記憶しておく。
3次元炉心核熱水力特性解析装置6は、プラントデータ入力装置4と核定数記憶装置5からデータを読込み、出力分布等の解析を実施する。
要求入力装置7は、原子炉の運転員からの要求等が入力される。
表示装置8は、3次元炉心核熱水力特性解析装置6での解析結果を表示する。
【0041】
なお、この
図1に示す装置構成は、従来の炉心性能計算装置と同じである。
従来の炉心性能計算装置と異なるのは、核定数記憶装置5内に記憶する核定数の内容と、3次元炉心核熱水力特性解析装置6での計算方法である。
【0042】
本実施例の核定数記憶装置5には、従来の炉心性能計算装置で核定数記憶装置に記憶させていた、燃料集合体セルで均質化された巨視的断面積等の代わりに、8種類の応答関係を記憶させておく。
8種類の応答関係とは、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係(T)、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料棒から発生する中性子の応答関係(S)、燃料棒から発生する中性子とその中性子に誘導された核分裂反応により他の燃料棒から発生する中性子の応答関係(A)、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係(L)、燃料集合体セルへ流入する中性子と中性子束の応答関係(Fs)、燃料集合体セルへ流入する中性子と巨視的断面積の応答関係(Cs)、燃料棒から発生する中性子と中性子束の応答関係(Ff)、燃料棒から発生する中性子と巨視的断面積の応答関係(Cf)、である。
【0043】
ここで、本発明の実施例1の炉心性能計算装置の3次元炉心核熱水力特性解析装置6における出力分布計算の流れの概略のフローチャートを、
図2に示す。
【0044】
まず、ステップS1において、4種類の応答関係T,S,A,L、流入中性子流Jin、燃料棒の中性子生成率P、中性子実効増倍率kを用いて、流出中性子流Joutを計算し、また、燃料棒の中性子生成率Pを更新する。
即ち、下記の式(1)によって流出中性子流Joutを計算し、式(2)によって燃料棒の中性子生成率Pを更新する。
Jout=T*Jin+L*P/k (1)
P=S*Jin+A*P/k (2)
【0045】
次に、ステップS2において、各ノードの流入中性子流を、隣接するノードの流出中性子流に設定して、流入中性子流Jinを計算する。
即ち、Jin=隣接ノードのJoutと設定する。
【0046】
この中性子流と燃料棒の中性子生成率分布の計算を、収束するまで繰り返す。
即ち、ステップS3において、流入中性子流Jin、流出中性子流Jout、燃料棒の中性子生成率Pが収束しているかを判断し、収束していればステップS4に進み、収束していなければステップS1に戻る。
【0047】
ステップS4においては、計算した流入中性子流Jin及び更新した燃料棒の中性子生成率Pと、2種類の応答関係Fs,Ffを用いて、流入中性子に由来する中性子束φsと燃料棒から発生した中性子に由来する中性子束φfを計算する。
即ち、下記の式(3)のようにして、流入中性子に由来する中性子束φsを計算し、式(4)のようにして、燃料棒から発生した中性子に由来する中性子束φfを計算する。
φs=Fs*Jin (3)
φf=Ff*P/k (4)
【0048】
次に、ステップS5において、ステップS4で計算された中性子束φs,φfを重みとして、2種類の応答関係CsとCfを平均化することで、巨視的断面積Σを求める。即ち、下記の式(5)のようにして、巨視的断面積Σを求める。
Σ=(Cs*φs+Cf*φf)/(φs+φf) (5)
【0049】
次に、ステップS6において、ステップS4で計算された中性子束φs,φfと、ステップS5で求めた巨視的断面積Σを用い、全炉心での中性子生成率と中性子吸収率の比として、中性子実効増倍率kを直接求める。即ち、下記の式(6)のようにして、中性子実効増倍率kを求める。
k=νΣf(φs+φf)/Σa(φs+φf) (6)
ここで、νΣfは中性子生成断面積、Σaは中性子吸収断面積である。
【0050】
これらを、中性子実効増倍率kが収束するまで繰り返す。
即ち、ステップS7において、中性子実効増倍率kが収束しているかを判断する。そして、中性子実効増倍率kが収束していない場合は、ステップS1に戻る。一方、中性子実効増倍率kが収束している場合は、ステップS8に進む。
【0051】
中性子実効増倍率kが収束した後、ステップS8において、求まった中性子束と核分裂断面積を用いて、炉心内出力分布を計算する。
【0052】
本実施例によれば、核定数として、均質化断面積を用いずに、応答関係T,S,A,L,Fs,Cs,Ff,Cfを用いて、中性子実効増倍率kと燃料集合体の出力分布が求められる。
これにより、応答関係T,S,A,L,Fs,Cs,Ff,Cfは、燃料集合体セル内で均質化されないので、隣接する燃料集合体の核特性が大きく異なるような炉心であっても、核定数評価の前提を対応させることができ、問題なく適用することができる。
また、出力分布の計算に拡散近似が用いられないので、拡散近似による誤差を生じることがなく、炉心内出力分布を従来の炉心性能計算装置よりも高精度で求めることができる。
特に、隣接する燃料集合体の核特性が大きく異なるような炉心であっても、炉心内出力分布を高精度で求めることができる。
【0053】
また、本実施例によれば、直接応答行列法で求めていた応答行列を求めず、燃料棒中性子生成率Pを未知数として、4種類の応答関係T,S,A,Lを用いて、流入出中性子流Jin,Joutと燃料棒中性子生成率Pを求めている。
これにより、応答行列を計算する必要が無くなり、計算量を大幅に低減し、計算時間を大幅に低減できる。即ち、前述した、直接応答行列法を適用した場合の第1の課題を解決することができる。
【0054】
また、本実施例によれば、中性子束や巨視的断面積との応答関係Fs,Cs,Ff,Cfを用いて、中性子実効増倍率kを直接評価する。
これにより、直接応答行列法の中性子流の増減から調整する方法よりも、収束性を向上し、計算時間を大幅に低減できる。即ち、前述した、直接応答行列法を適用した場合の第2の課題を解決することができる。
【0055】
(実施例2)
本発明の実施例2の炉心性能計算装置を、以下に説明する。
本実施例の炉心性能計算装置の装置構成は、実施例1の炉心性能計算装置1と同じである。
【0056】
本実施例で核定数記憶装置5に記憶しておく核定数は、直接応答行列法と同じ4種類の応答関係、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係(T)、燃料集合体セルへ流入する中性子と燃料棒から発生する中性子の応答関係(S)、燃料棒から発生する中性子とその中性子に誘導された核分裂反応により他の燃料棒から発生する中性子の応答関係(A)、燃料棒から発生する中性子と燃料集合体セルから流出する中性子の応答関係(L)、である。
【0057】
本実施例では、核定数記憶装置5に、中性子束あるいは巨視的断面積との応答関係Fs,Cs,Ff,Cfを記憶していない点が、実施例1と異なる。
本実施例では、中性子束あるいは巨視的断面積との応答関係Fs,Cs,Ff,Cfを記憶していないため、中性子実効増倍率kを求める反復計算の収束性を向上することはできない。
しかし、本実施例では、実施例1と同様に、応答行列を求めることなく中性子流及び燃料棒中性子生成率を求めることができる。
【0058】
ここで、本発明の実施例2の炉心性能計算装置の3次元炉心核熱水力特性解析装置6における出力分布計算の流れの概略のフローチャートを、
図3に示す。
【0059】
まず、ステップS11において、4種類の応答関係T,S,A,L、流入中性子流Jin、燃料棒の中性子生成率P、中性子実効増倍率kを用いて、流出中性子流Joutを計算し、また、燃料棒の中性子生成率Pを更新する。
即ち、
図2のステップS1と同様に、下記の式(1)によって流出中性子流Joutを計算し、式(2)によって燃料棒の中性子生成率Pを更新する。
Jout=T*Jin+L*P/k (1)
P=S*Jin+A*P/k (2)
【0060】
次に、ステップS12において、各ノードの流入中性子流を、隣接するノードの流出中性子流に設定して、流入中性子流Jinを計算する。
即ち、Jin=隣接ノードのJoutと設定する。
【0061】
さらに、この中性子流と燃料棒の中性子生成率分布の計算を、収束するまで繰り返す。
即ち、ステップS13において、流入中性子流Jin、流出中性子流Jout、燃料棒の中性子生成率Pが収束しているかを判断し、収束していればステップS14に進み、収束していなければステップS11に戻る。
【0062】
ステップS14においては、全炉心での流出中性子流と流入中性子流の比をかけることで、中性子実効増倍率kを更新する。即ち、
図4のステップS25と同様に、下記の式(13)のようにして、中性子実効増倍率kを更新する。
k
i+1=k
i*全炉心でのJout/全炉心でのJin (13)
ここで、k
iはi回目の反復での中性子実効増倍率、k
i+1はi+1回目の反復での中性子実効増倍率である。
【0063】
次に、更新した中性子実効増倍率kを用いて、流出中性子流Joutを計算し、燃料棒の中性子生成率Pを更新する。中性子実効増倍率kが収束するまで、流出中性子流Joutの計算と燃料棒の中性子生成率Pの更新を繰り返す。
即ち、ステップS15において、中性子実効増倍率kが収束しているかを判断する。そして、中性子実効増倍率kが収束していない場合は、ステップS11に戻り、流出中性子流Joutを計算し、燃料棒の中性子生成率Pを更新する。一方、中性子実効増倍率kが収束している場合は、ステップS16に進む。
【0064】
中性子実効増倍率kが収束した後、求まった流入中性子流と応答関係を用いて、炉心内出力分布を計算する。
即ち、ステップS16において、
図4のステップS27と同様に、燃料棒の中性子生成率を計算する。そして、計算した燃料棒の中性子生成率を、燃料集合体で積算して、出力分布に換算する。
【0065】
本実施例によれば、核定数として、均質化断面積を用いずに、応答関係T,S,A,Lを用いて、中性子実効増倍率kと燃料集合体の出力分布が求められる。
これにより、応答関係T,S,A,Lは、燃料集合体セル内で均質化されないので、隣接する燃料集合体の核特性が大きく異なるような炉心であっても、核定数評価の前提を対応させることができ、問題なく適用することができる。
また、出力分布の計算に拡散近似が用いられないので、拡散近似による誤差を生じることがなく、炉心内出力分布を従来の炉心性能計算装置よりも高精度で求めることができる。
特に、隣接する燃料集合体の核特性が大きく異なるような炉心であっても、炉心内出力分布を高精度で求めることができる。
【0066】
また、本実施例によれば、実施例1と同様に、直接応答行列法で求めていた応答行列を求めず、燃料棒中性子生成率Pを未知数として、4種類の応答関係T,S,A,Lを用いて、流入出中性子流Jin,Joutと燃料棒中性子生成率Pを求めている。
これにより、応答行列を計算する必要が無くなり、計算量を大幅に低減し、計算時間を大幅に低減できる。即ち、前述した、直接応答行列法を適用した場合の第1の課題を解決することができる。
【0067】
(変形例)
上記の実施例2は、直接応答行列法を適用した場合の2つの課題のうちの第1の課題のみを解決する構成であったが、直接応答行列法を適用した場合の第2の課題のみを解決する構成とすることも可能である。例えば、
図4のS22の流出中性子計算と共に燃料中性子生成率Pの計算と更新を行い、Jin,Jout,Pが収束した後は、
図2のS4~S8と同様にすれば、第2の課題を解決することができる。
【0068】
なお、本発明は、上述した実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した各実施の形態及び実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0069】
1…炉心性能計算装置、2…原子炉、3…炉心、4…プラントデータ入力装置、5…核定数記憶装置、6…3次元炉心核熱水力特性解析装置、7…要求入力装置、8…表示装置