(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089511
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】シアル酸含有糖鎖解析方法及びシアル酸含有糖鎖解析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20230621BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230621BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 D
G01N33/50 U
H01J49/00 310
H01J49/00 360
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204044
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 雅樹
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041EA04
2G041FA06
2G041GA06
2G041GA09
2G045DA30
2G045FB06
2G045FB07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シアル酸含有糖鎖の解析の効率改善及び精度向上を図る。
【解決手段】シアル酸結合様式に特異的な修飾を受けたシアル酸含有糖鎖又は該糖鎖により修飾された分子を含む試料のマススペクトルデータに基いて、シアル酸含有糖鎖を解析する解析方法であって、探索条件設定工程(S1)と、ピーク検出工程(S2)と、検出された各代表ピークについて、糖糖鎖組成を推定し糖鎖組成候補を求める組成推定工程(S3)と、シアル酸の個数及びシアル酸以外の糖鎖組成が同一であると推定される複数のピークを含むピーククラスター検出工程(S4)と、含まれるシアル酸の個数及びシアル酸の結合様式の個数、シアル酸の種類、並びに、糖鎖組成フィルタリング工程(S5)と、選別後の糖鎖組成候補を視覚的に識別可能な態様で、糖鎖組成候補の一覧を作成して表示する表示工程(S6-S7)と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアル酸結合様式に特異的な修飾を受けたシアル酸含有糖鎖又は該糖鎖により修飾された分子を含む試料を質量分析することで得られたマススペクトルデータに基いて、前記シアル酸含有糖鎖を解析する解析方法であって、
糖鎖探索条件を設定する探索条件設定工程と、
前記マススペクトルデータから同位体ピーククラスター毎に代表ピークを検出するピーク検出工程と、
前記ピーク検出工程で検出された各代表ピークについて、前記糖鎖探索条件に従って糖鎖組成を推定し糖鎖組成候補を求める組成推定工程と、
前記ピーク検出工程で検出された代表ピークから、シアル酸の個数及びシアル酸以外の糖鎖組成が同一であると推定される複数のピークを含む異性体ピーククラスターを検出するピーククラスター検出工程と、
前記異性体ピーククラスターに含まれる各ピークに対し、含まれるシアル酸の個数及びシアル酸の結合様式の個数、シアル酸の種類、並びに、シアル酸以外の糖鎖組成の同一性に関する所定の制約条件を適用することによって、前記糖鎖組成候補を選別する糖鎖組成フィルタリング工程と、
前記糖鎖組成フィルタリング工程による選別後の糖鎖組成候補とそれ以外の糖鎖組成候補とを視覚的に識別可能な態様で、前記糖鎖組成候補の一覧を作成して表示する表示工程と、
を有するシアル酸含有糖鎖解析方法。
【請求項2】
前記ピーククラスター検出工程では、事前に指定されていない種類のシアル酸についても異性体ピーククラスターの検出を試み、その結果として得られた異性体ピーククラスター情報に基いて、前記事前に指定されていない種類のシアル酸を前記糖鎖探索条件における探索対象に加えたうえで異性体ピーククラスターの検出処理を再度実行し得る、請求項1に記載のシアル酸含有糖鎖解析方法。
【請求項3】
シアル酸結合様式に特異的な修飾を受けたシアル酸含有糖鎖又は該糖鎖により修飾された分子を含む試料を質量分析することで得られたマススペクトルデータに基いて、前記シアル酸含有糖鎖を解析する解析装置であって、
ユーザーによる糖鎖探索条件の指定を受け付けて糖鎖探索条件を設定する探索条件設定部と、
前記マススペクトルデータから同位体ピーククラスター毎に代表ピークを検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部により検出された各代表ピークについて、前記糖鎖探索条件に従って糖鎖組成を推定し糖鎖組成候補を求める組成推定部と、
前記ピーク検出部により検出された代表ピークから、シアル酸の個数及びシアル酸以外の糖鎖組成が同一であると推定される複数のピークを含む異性体ピーククラスターを検出するピーククラスター検出部と、
前記異性体ピーククラスターに含まれる各ピークに対し、含まれるシアル酸の個数及びシアル酸の結合様式の個数、シアル酸の種類、並びに、シアル酸以外の糖鎖組成の同一性に関する所定の制約条件を適用することによって、前記糖鎖組成候補を選別する糖鎖組成フィルタリング部と、
前記糖鎖組成フィルタリング部による選別後の糖鎖組成候補とそれ以外の糖鎖組成候補とを視覚的に識別可能な態様で、前記糖鎖組成候補の一覧を作成して表示する表示処理部と、
を備えるシアル酸含有糖鎖解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析を利用して糖鎖を解析する方法及び装置に関し、さらに詳しくは、シアル酸の結合様式を含めたシアル酸含有糖鎖の構造解析が可能である解析方法及び解析装置に関する。なお、ここでいう「糖鎖」は単独で存在する糖鎖のみならず、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸などの生体分子を修飾している状態の糖鎖、つまりは糖鎖の修飾体を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
生命科学や創薬・医療等の分野において糖鎖の解析は一つの大きなテーマであり、その中でも、シアル酸を含む糖鎖においてそのシアル酸の結合様式を把握することは、糖鎖構造解析における一つの重要な作業である。こうした背景の下で、結合様式の相違を含めたシアル酸含有糖鎖の構造解析を質量分析を利用して効率良く行うために、シアル酸の結合様式に特異的な化学修飾の手法が従来開発されている。例えば特許文献1、非特許文献1には、SALSA(Sialic Acid Linkage-Specific Alkylamidation)法と名付けられたシアル酸結合様式特異的修飾法が開示されている。
【0003】
SALSA法は、α2,3-シアル酸及びα2,6-シアル酸を構成するカルボン酸がアミンと反応してアミドを形成する際の反応の相違を利用して、各々のシアル酸をイソプロピルアミド化及びメチルアミド化する方法である。この誘導体化によって、α2,3-シアル酸とα2,6-シアル酸とでは28Daの質量差が生じるため、質量分析の結果に基いて、α2,3-シアル酸とα2,6-シアル酸とを識別することができる。
【0004】
特許文献1には、SALSA法を前処理法とした質量分析により得られたマススペクトルデータに基いて糖鎖を解析する方法が開示されている。該文献に記載の解析方法では、マススペクトルにおいて28Da間隔で以て検出されたシアル酸含有糖鎖由来の三本のシアル酸結合様式異性体イオンピークに対し、単糖の種類と個数とを探索条件とした組成の探索を総当たり的に行うことで糖鎖組成を推定する。そして、その推定により得られた糖鎖組成候補の中から、2個以上のシアル酸を含有し且つ最も大きな質量を示すピークに対し2個以上のα2,6-結合を含む組成を妥当性が高い組成候補として抽出し、その妥当性が高い組成候補と、それ以外の、シアル酸含有糖鎖異性体としては妥当性が疑わしい組成候補とを、視覚的に区別して一覧表形式で表示することが可能である(例えば特許文献1の
図6、
図8等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】西風隆司、ほか5名、「デファレンティエイション・オブ・シアリル・リンケージ・アイソマーズ・バイ・ワン-ポット・サイアリック・アシッド・デリバタイゼイション・フォー・マス・スペクトロメトリー-ベースド・グリカン・プロファイリング(Differentiation of Sialyl Linkage Isomers by One-Pot Sialic Acid Derivatization for Mass Spectrometry-Based Glycan Profiling)」、アナリティカル・ケミストリー(Analytical Chemistry)、2017年、Vol.89、pp.2353-2360
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の解析方法は、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)などの特定の一種類のシアル酸を含有する糖鎖を対象とした構造解析手法であるが、シアル酸には複数の分子種が知られている。主要なシアル酸としては、N-アセチルノイラミン酸のほかに、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)やデアミノノイラミン酸(Kdn)がよく知られており、各分子種の分布は、生物種や組織に特異的であることが知られている。Neu5Ac以外の種類のシアル酸を含むシアル酸含有糖鎖も、原理的には、Neu5Acを含むシアル酸含有糖鎖と同様に解析が可能である。しかしながら、通常、最も多く存在する分子種に比べて他の分子種の存在量はかなり少ない場合が多い。そのために、シアル酸結合様式特異的修飾を実施しても、想定される結合様式の組合せに対応する一部のピークがマススペクトル上で検出されないことがしばしばあり、そうしたシアル酸含有糖鎖の組成候補を絞り込むのが困難な場合があった。
【0008】
本発明はこうした課題を解決するために成されたものであり、その主たる目的は、様々な種類のシアル酸を含むシアル酸含有糖鎖を解析する作業の効率を改善するとともに、解析の精度を向上させることができるシアル酸含有糖鎖解析方法及びシアル酸含有糖鎖解析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るシアル酸含有糖鎖解析方法の一態様は、シアル酸結合様式に特異的な修飾を受けたシアル酸含有糖鎖又は該糖鎖により修飾された分子を含む試料を質量分析することで得られたマススペクトルデータに基いて、前記シアル酸含有糖鎖を解析する解析方法であって、
糖鎖探索条件を設定する探索条件設定工程と、
前記マススペクトルデータから同位体ピーククラスター毎に代表ピークを検出するピーク検出工程と、
前記ピーク検出工程で検出された各代表ピークについて、前記糖鎖探索条件に従って糖鎖組成を推定し糖鎖組成候補を求める組成推定工程と、
前記ピーク検出工程で検出された代表ピークから、シアル酸の個数及びシアル酸以外の糖鎖組成が同一であると推定される複数のピークを含む異性体ピーククラスターを検出するピーククラスター検出工程と、
前記異性体ピーククラスターに含まれる各ピークに対し、含まれるシアル酸の個数及びシアル酸の結合様式の個数、シアル酸の種類、並びに、シアル酸以外の糖鎖組成の同一性に関する所定の制約条件を適用することによって、前記糖鎖組成候補を選別する糖鎖組成フィルタリング工程と、
前記糖鎖組成フィルタリング工程による選別後の糖鎖組成候補とそれ以外の糖鎖組成候補とを視覚的に識別可能な態様で、前記糖鎖組成候補の一覧を作成して表示する表示工程と、
を有する。
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係るシアル酸含有糖鎖解析装置の一態様は、シアル酸結合様式に特異的な修飾を受けたシアル酸含有糖鎖又は該糖鎖により修飾された分子を含む試料を質量分析することで得られたマススペクトルデータに基いて、前記シアル酸含有糖鎖を解析する解析装置であって、
ユーザーによる糖鎖探索条件の指定を受け付けて糖鎖探索条件を設定する探索条件設定部と、
前記マススペクトルデータから同位体ピーククラスター毎に代表ピークを検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部により検出された各代表ピークについて、前記糖鎖探索条件に従って糖鎖組成を推定し糖鎖組成候補を求める組成推定部と、
前記ピーク検出部により検出された代表ピークから、シアル酸の個数及びシアル酸以外の糖鎖組成が同一であると推定される複数のピークを含む異性体ピーククラスターを検出するピーククラスター検出部と、
前記異性体ピーククラスターに含まれる各ピークに対し、含まれるシアル酸の個数及びシアル酸の結合様式の個数、シアル酸の種類、並びに、シアル酸以外の糖鎖組成の同一性に関する所定の制約条件を適用することによって、前記糖鎖組成候補を選別する糖鎖組成フィルタリング部と、
前記糖鎖組成フィルタリング部による選別後の糖鎖組成候補とそれ以外の糖鎖組成候補とを視覚的に識別可能な態様で、前記糖鎖組成候補の一覧を作成して表示する表示処理部と、
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る上記態様によれば、シアル酸以外の糖鎖組成とシアル酸の含有数が同じでありシアル酸の結合様式とシアル酸の種類とが相違するシアル酸含有糖鎖の中で、一部の特定の種類のシアル酸について、想定される結合様式の組合せの一部に対応するイオンピークが検出されなかった場合であっても、その特定の種類のシアル酸を含むシアル酸含有糖鎖の組成候補を的確に絞り込んでユーザーに提示することができる。これにより、推定されるシアル酸含有糖鎖の組成候補が妥当であるか否かを検証するためのMS/MS分析等の実測作業やそれにより収集されたデータの解析作業の効率が向上し、シアル酸含有糖鎖の構造解析をより迅速に且つ精度良く遂行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るシアル酸含有糖鎖解析装置を含む糖鎖解析システムの一実施形態のブロック構成図。
【
図2】本実施形態の糖鎖解析システムにおける解析処理の手順を示すフローチャート。
【
図3】マススペクトルの一例、及びマススペクトルにおいて検出されるピークに基く糖鎖組成の解析の説明図。
【
図4】
図3に示したマススペクトルに対して検出されたピーククラスターと各クラスターにおけるピークの分類結果を示す図。
【
図5】
図4に示した6個のピークに対して得られた糖鎖組成候補の一覧表の一例を示す図。
【
図6】
図4に示した6個のピークに対して得られた糖鎖組成候補の一覧表の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の上記態様において、シアル酸含有糖鎖により修飾された分子とは例えば、シアル酸含有糖鎖により修飾されたタンパク質、ペプチド、脂質、核酸などの生体分子である。
【0014】
また、本発明の上記態様において前提となる、シアル酸結合様式に特異的な修飾とは、典型的には、上述した特許文献1、非特許文献1に開示されているSALSA法であるが、それに限らず、例えばα2,3-結合型、α2,6-結合型、さらにはα2,8-結合型などの少なくとも2以上の異なるシアル酸の結合様式を質量差によって識別するためのシアル酸結合様式特異的な化学修飾(誘導体化)を行うものであればよい。
【0015】
また、本発明の上記態様において、シアル酸含有糖鎖等を含む試料に対して質量分析を行う質量分析装置の方式は、特に限定されないが、例えば、イオントラップ型質量分析装置、リニアイオントラップ型質量分析装置、TOF/TOF型質量分析装置、四重極-飛行時間型(Q-TOF型)質量分析装置、四重極-イオントラップ型質量分析装置、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置などが利用可能である。質量値に基いて糖鎖組成を推定するには、質量精度が高いことが望ましい。
【0016】
以下、本発明に係るシアル酸含有糖鎖解析方法を実施するための解析装置を含む糖鎖解析システムの一実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、この糖鎖解析システムの概略ブロック構成図である。
【0017】
図1に示すように、本システムは、試料に対して質量分析を実行する質量分析部1と、質量分析部1を制御する分析制御部2と、質量分析により得られたデータに対し解析処理を実行するデータ解析部3と、ユーザーインターフェイスである入力部4及び表示部5と、を備える。
【0018】
データ解析部3は、機能ブロックとして、データ格納部30と、ピーク検出部31と、糖鎖探索条件設定部32と、異性体ピーククラスター検出部33と、糖鎖組成推定部34と、糖鎖組成フィルタリング部35と、糖鎖組成候補一覧表作成部36と、表示処理部37と、プリカーサーイオン選択受付部38と、を含む。糖鎖探索条件設定部32は下位の機能ブロックとして、糖鎖探索条件保存部320を含む。
【0019】
質量分析部1は特にその方式を問わないが、後述するようにMS/MS分析を実施する場合には、イオントラップやコリジョンセルなど、衝突誘起解離(CID)等によりイオンを解離させる機能を有する質量分析装置が用いられる。また、後述するように質量電荷比値から組成を推定するには、m/z値の精度及び分解能が高いことが好ましい。従って、質量分離器としては、飛行時間型質量分離器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分離器などが好適である。
【0020】
また、質量分析部1は質量分析装置単独ではなく、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)を用いてもよいし、或いは、液体クロマトグラフで成分分離された溶出液を分取・分画して複数の試料を調製し、その複数の試料をそれぞれ質量分析装置で質量分析する構成でもよい。
【0021】
本システムにおいて、データ解析部3の実体はパーソナルコンピューター又はより性能の高いワークステーションであり、そうしたコンピューターにインストールされた専用のデータ処理プログラムを該コンピューターにおいて動作させることで、
図1に示したような各機能ブロックの機能が実現されるようにすることができる。この場合、入力部4はコンピューターに付設されたキーボードやポインティングデバイス(マウスなど)であり、表示部5は同じくコンピューターに付設されたモニターである。
【0022】
以下、この糖鎖解析システムにおけるシアル酸含有糖鎖の解析の手順を、実験例を交えながら
図2~
図6により説明する。
図2は、データ解析部3を中心として実施される糖鎖解析処理の手順を示すフローチャートである。
【0023】
この糖鎖解析システムにおいてシアル酸含有糖鎖の解析を行う際には、まず、シアル酸含有糖鎖を含む又はシアル酸含有糖鎖で修飾された分子(糖ペプチド、糖脂質など)を含む試料に対し、シアル酸結合様式特異的化学修飾による前処理を実施する。シアル酸結合様式特異的修飾法としては、例えば非特許文献1等に記載されているSALSA法を用いることができるが、これに限るわけではない。上述したようにSALSA法では、糖鎖に含まれるシアル酸がα2,3-結合型である場合とα2,6-結合型である場合とで、それ以外の糖鎖組成は全く同じであっても、修飾体の質量は互いに28Daだけ相違したものとなる。
【0024】
次いで、シアル酸結合様式特異的化学修飾による前処理がなされた試料に対し、質量分析部1により質量分析を実行する。質量分析によって取得された所定のm/z範囲に亘るマススペクトルデータは、質量分析部1からデータ解析部3に送られ、データ格納部30に格納される。
【0025】
ユーザーが入力部4より解析対象のデータを指定したうえで解析の実行を指示すると、データ解析部3では、
図2に示す手順に沿って解析処理が開始される。
糖鎖探索条件設定部32は、所定の糖鎖探索条件設定画面を表示部5の画面上に表示し、ユーザーによる糖鎖探索条件の入力を受け付ける(ステップS1)。但し、ユーザーの入力に依らず、デフォルトで定まっている糖鎖探索条件が自動的に設定されるようにしてもよい。また、糖鎖探索条件のほかに、マススペクトルデータからピークを検出するためのピーク検出条件についても、ユーザーによる入力を受け付けるようにすることができる。入力された又はデフォルトで定まっている糖鎖探索条件やピーク検出条件は、糖鎖探索条件保存部320に保存される。
【0026】
具体的に、糖鎖探索条件は例えば、使用するシアル酸結合様式特異的修飾法、糖鎖組成推定の際の質量許容精度、想定するイオン種、探索対象とする糖残基(シアル酸も含む)の種類及び個数などを含むものとすることができる。
一方、ピーク検出条件は例えば、ピークとして認識する際の閾値である信号強度又はSN比などを含むものとすることができる。
【0027】
実質的な解析が開始されると、ピーク検出部31は、データ格納部30に保存されている解析対象であるマススペクトルデータを読み出し、上記ピーク検出条件に従ってモノアイソトピックイオンピークを、同位体ピーククラスター毎の代表ピークとして検出する。一般的に糖鎖のような生体由来の分子では、例えば1Da間隔で現れる複数の同位体イオンピークの中でm/z値が最小であるピークをモノアイソトピックイオンピークとして検出することができる。そして、ピーク検出部31は、検出した各イオンピークのm/z値を求めてピークリストを作成する(ステップS2)。なお、モノアイソトピックイオンピークのm/z値の代わりに、複数の同位体イオンピークの平均(重心)のm/z値を求めてもよい。即ち、同じ糖鎖由来の同位体イオンピーク群毎に、その群を代表するm/z値を求めればよい。
【0028】
次いで、糖鎖組成推定部34は、ステップS2において作成されたピークリストに挙げられている各ピークについて、糖鎖探索条件保存部320に保存されている糖鎖探索条件に従って糖鎖組成を推定し、糖鎖組成候補を求める(ステップS3)。具体的には、糖鎖探索条件として指定されている糖残基の種類及び個数の制約の下で、所定の質量精度範囲内でイオンピークのm/z値に合致する糖鎖組成を総当たり的に探索する。そして、ヒットした糖鎖組成をそのイオンピークに対応する糖鎖組成候補とする。糖鎖組成候補が得られた場合、一つのイオンピークに対して候補が1個に絞り込まれるとは限らず、複数個の候補が得られることもある。
【0029】
続いて、異性体ピーククラスター検出部33は、ステップS2において作成されたピークリスト中のピークから、シアル酸の個数、及び、シアル酸以外の糖鎖組成がそれぞれ同一であると推定される複数のピークを含む異性体ピーククラスターを検出する(ステップS4)。
【0030】
ここでは、シアル酸結合様式特異的修飾にSALSA法が使用されているため、SALSA法に対応して、α2,6-シアル酸とα2,3-シアル酸とのm/z差28Da間隔で隣接するイオンピークをピークリストから検出し、これが、シアル酸の個数、シアル酸の種類、及びシアル酸以外の糖鎖組成が同一であるシアル酸含有糖鎖の結合異性体で構成される、同一種シアル酸結合異性体ピーククラスターであると判断する。その検出に用いるピーク間隔の許容誤差は例えばm/z 0.1とすることができる。一つの異性体ピーククラスターであると判断する隣接ピーク間隔は、使用するシアル酸結合様式特異的修飾法によって相違する。当然のことながら、一つの異性体ピーククラスターに含まれるイオンピークの本数は、そのシアル酸含有糖鎖に含まれるシアル酸の個数、そのシアル酸の結合様式等に応じて異なる。
【0031】
また、異性体ピーククラスター検出部33は、検出された異なる複数の同一種シアル酸結合異性体ピーククラスターに含まれるイオンピークについて、糖鎖探索条件として指定された異なる種類のシアル酸同士の糖残基質量差に相当するm/z値間隔で並んでいるか否か、を判定する。そのm/z値間隔に該当するイオンピークがそれぞれ含まれる複数の異性体ピーククラスターを、含まれるシアル酸の個数とシアル酸以外の糖鎖組成が同一であって、シアル酸の種類のみが相違する、異種シアル酸結合異性体ピーククラスターであると認定する。そして、シアル酸の個数とシアル酸以外の糖鎖組成が同一である全ての異種シアル酸結合異性体ピーククラスタ―に含まれるイオンピークを、異性体ピーククラスターとして認定する。
【0032】
ここで、実験による具体例を示す。本発明者が行った実験例では、ウシ胎児の血中糖タンパク質であるフェチュイン(fetuin)を修飾するN型糖鎖を、タンパク質分解酵素の一つであるPNGaseを用いて切断した上で濃縮した糖鎖混合物を試料とした。この試料に含まれるシアル酸をSALSA法によりシアル酸結合様式特異的に修飾し、さら糖鎖の還元末端をアントラニル酸(Anthranilic acid)でラベル修飾(AAラベル化)することにより、分析対象のサンプルを調製した。なお、ラベル修飾は負イオンモードでのイオン化を促進するための前処理である。こうして得られたサンプルを、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イオントラップ飛行時間型質量分析装置(MALDI-IT-TOFMS)を用い負イオンモードにより質量分析し、マススペクトルデータを取得した。
【0033】
また、上記実験例では糖鎖探索条件を次のように定めた。
シアル酸結合様式特異的修飾法:SALSA法
ラベル化法:AAラベル化
糖鎖組成推定用質量許容精度:m/z 0.2
異性体ピーククラスター検出用質量間隔許容誤差:m/z 0.1
イオン種:プロトン脱離イオン
探索対象とする糖残基の種類及び個数: Hexoseが3~15個、HexNAcが2~14個、フコース(dHex)が0~2個、Neu5Ac(シアル酸)が0~5個、Neu5Gc(シアル酸)が0~5個
【0034】
上記実験例により取得されたマススペクトルの一部を
図3に示す。
図3に示すm/z範囲では、マススペクトルに対するステップS2の処理により、m/z 3038.1、m/z 3066.2、m/z 3082.2、m/z 3094.2、m/z 3110.2、及びm/z 3122.2がモノアイソトピックイオンピークとして検出された。また、それらピークが含まれるピークリストに基いて、ステップS4の処理、即ち、α2,6-シアル酸とα2,3-シアル酸とのm/z差28Da間隔で並ぶピーク群を検出することにより、m/z 3038.1、m/z 3066.2、m/z 2094.2、及びm/z 3122.2の4本の1価のイオンピークと、m/z 3082.2及びm/z 3110.2の2本の1価のイオンピークとをそれぞれ含む、2組の同一種シアル酸結合異性体ピーククラスターが検出された。
【0035】
上記2組の同一種シアル酸結合異性体ピーククラスターに各々含まれる一部のピークは、糖鎖探索条件として指定された二種類のシアル酸であるN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)とN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)との糖残基質量差に相当するm/z 16間隔で並ぶことが確認された。そのため、上記2組の同一種シアル酸結合異性体ピーククラスターは、異種シアル酸結合異性体ピーククラスターとして検出され、これら異種シアル酸結合異性体ピーククラスタ―に含まれる全てのピークは、シアル酸の個数とシアル酸以外の糖鎖組成が同一である異性体ピーククラスターとして検出された。
【0036】
さらに、異性体ピーククラスター検出部33は、上述したように、異種のシアル酸の糖残基質量差で並ぶ複数のピークを、同一のピークインデックス#nを持つピークとして分類する。上記実験例では、
図4に示すように、2組の異種シアル酸結合異性体ピーククラスター(cluster 1、cluster 2)に含まれる全てのピークのうち、最も質量値が小さいピークである m/z 3038.1がピークインデックス#1のピークで且つ同一種シアル酸結合異性体ピーククラスター1(cluster 1)に分類された。このピークよりも質量値が28Da大きく、ピーククラスターの中で2番目に質量値が小さい m/z 3066.2のピークは、ピークインデックス#2に分類された。このm/z 3066.2のピークに対して16Daの質量差で検出されたm/z 3082.18のピークは、同一のピークインデックス#2であって同一種シアル酸結合異性体ピーククラスター2(cluster 2)に分類された。同様にm/z 3094.2及びm/z 3110.2のピークをピークインデックス#3に、m/z 3122.2のピークをピークインデックス#4に分類した。
【0037】
なお、この例では、2組の同一種シアル酸結合異性体ピーククラスターに含まれる複数のピークから異種シアル酸結合異性体ピーククラスターを見つけたが、1組の同一種シアル酸結合異性体ピーククラスターに含まれるピークの一部に対し、異種シアル酸の残基質量差を有する1個の異種シアル酸含有糖鎖ピークを検出することで、異種シアル酸結合異性体ピーククラスターを形成するようにしてもよい。
【0038】
図2のフローチャートに戻って説明を続ける。
次いで、糖鎖組成フィルタリング部35は、異性体ピーククラスターに含まれる各ピークに対しステップS3で取得されている糖鎖組成候補について、以下に例示するような、シアル酸の個数及びシアル酸の結合様式の個数、シアル酸の種類、並びにシアル酸以外の糖鎖組成の同一性、に関する制約条件を課すことでそれぞれ糖鎖組成候補を選別する(ステップS5)。
【0039】
<制約条件>
(1)本例では、異性体ピーククラスター検出部33により、ピークインデックスが4個得られている。従って、いずれのピークも3個以上の同一個数のシアル酸を含有し、シアル酸以外の組成が同一である糖鎖組成候補がシアル酸含有糖鎖として妥当である。一般に、N個のピークインデックスが得られた場合、元のピークに対応する糖鎖はN-1個以上のシアル酸を含有する。
(2)さらに、各ピークの質量の大小関係から、ピークインデックス#1に分類されたピークは、α2,3結合シアル酸を3個以上含有し、ピークインデックス#2に分類されたピークは、α2,3結合シアル酸を2個以上且つα2,6結合シアル酸を1個以上含有し、ピークインデックス#3に分類されたピークはα2,3結合シアル酸を1個以上且つα2,6結合シアル酸を2個以上含有し、ピークインデックス#4に分類されたピークはα2,6結合シアル酸を3個以上含有する筈である。また、同一種シアル酸結合異性体ピーククラスター2に分類されたピークは、同一種シアル酸結合異性体ピーククラスター1における同一ピークインデックスの糖鎖組成のうち、1種類のシアル酸がNeu5AcからNeu5Gcに置換された糖鎖組成を持つ筈である。
なお、
図3中の各ピークには、上記制約条件も併せて記載してある。
【0040】
糖鎖組成フィルタリング部35による選別によって、通常、糖鎖組成候補の数はかなり減少する。糖鎖組成候補一覧表作成部36は、ステップS4において検出された異性体ピーククラスターに含まれる各ピークに対応してステップS3において推定された糖鎖組成候補を収集し、異性体ピーククラスター中の各ピークに対応付けた糖鎖組成候補一覧表を作成する。また、糖鎖組成候補一覧表作成部36はその糖鎖組成候補一覧表において、ステップS5で選別された(フィルタリングに残った)糖鎖組成候補を選別されなかった糖鎖組成候補と視覚的に識別可能な態様で示す(ステップS6)。
そして、表示処理部37は、その作成された糖鎖組成候補一覧表を、表示部5の画面上に表示する(ステップS7)。
【0041】
図5及び
図6は、上記実験例における6個のピークに対して得られた糖鎖組成候補の一覧表の一例である。この例では、糖鎖組成フィルタリング部35により妥当であるとして選別された糖鎖組成候補(Composition)を太字で、それ以外の糖鎖組成候補を細字で且つ薄い色で示している。その識別の態様はこれに限らず、例えば両方の糖鎖組成候補を互いに異なる色の文字で示す、背景色を変える等、視覚的に間違いにくい態様で示せばよい。また、ユーザーによる指定に応じて、妥当な糖鎖組成候補のみ、又は妥当でない糖鎖組成候補のみを選択的に表示するようにしてもよい。
【0042】
図5及び
図6中の右側の「従来法」の欄には、特許文献1に記載の手法により妥当であるとされた糖鎖組成候補(plausible)と妥当でないとされた糖鎖組成候補(implausible)との区別を記載してある。但し、この従来法の欄はあくまでも本実施形態による手法と従来技術による手法との比較のために記載したものであり、本実施形態の装置において表示される糖鎖組成候補一覧表には含まれない。
【0043】
図5及び
図6において、Composition欄の太字/細字の区別と従来法の欄のplausible/implausibleの区別とを比較することで、従来法では妥当であるとして選別されていた糖鎖組成候補の幾つかが、本実施形態の手法では妥当でないとされていることが判る。
具体的には、cluster2に属するピークm/z 3082.18及びm/z 3110.21の糖鎖組成候補の妥当性推定結果では、従来技術と本実施形態の手法とで相違があり、
図5及び
図6において従来法欄中に点線囲みで示した、従来技術で妥当とされた糖鎖組成候補は、本実施形態の手法では妥当ではないとして選別されていないことが確認できる。
【0044】
従来法によっても、cluster1に属する糖鎖においては、推定された糖鎖組成候補に対して適切な絞り込みがなされており、その点では十分な利用価がある。一方、本実施形態の手法では、それぞれ異種のシアル酸を含むシアル酸含有糖鎖クラスター間で、統一的な制約条件を用いているため、いずれかの種類のシアル酸を含有する糖鎖の結合異性体ピークが一部しか検出されなかった場合であっても、妥当な糖鎖組成を絞り込むことが可能である。そのため、従来法に比べて、より広い範囲の糖鎖についてその候補の適切な絞り込みが行えるという利点がある。
【0045】
複数の糖鎖組成候補が挙げられているピークについて、実験的に糖鎖組成又は糖鎖構造を確定したい場合には、当該ピークに対応するイオンをターゲットとするMS/MS分析を実施する必要がある。その場合、ユーザーは、例えば表示されているマススペクトル或いは糖鎖組成候補一覧表において任意のピークをプリカーサーイオンとして指示する操作を行う。すると、プリカーサーイオン選択受付部38は、この操作を受けて指示されたイオンピークをMS/MS分析のプリカーサーイオンとして選択する。
【0046】
この選択の情報は分析制御部2に送られ、分析制御部2は、選択されたプリカーサーイオンをターゲットとするMS/MS分析、具体的には、CID等のイオン解離手法を用いたプロダクトイオンスキャン測定を実施するように質量分析部1を制御する。これにより、質量分析部1は、シアル酸結合様式特異的修飾を受けた糖鎖が含まれる試料に対するMS/MS分析を実行し、MS/MSスペクトルデータを取得する。MS/MSスペクトルには、目的とするシアル酸含有糖鎖由来の複数のプロダクトイオンピークが観測されるから、そのピークのm/z値に基いて、ユーザーは複数の糖鎖組成候補のうちのいずれが妥当であるのか、或いは一つの糖鎖組成候補が妥当であるのかを検証することができる。
【0047】
以上のようにして、本実施形態の糖鎖解析システムによれば、シアル酸含有糖鎖の、シアル酸結合様式を含めた構造解析を効率良く行うことができる。
【0048】
なお、
図2に示したフローチャートにおけるステップの順序は、各ステップにおける実質的な処理内容に影響がない限り、適宜に入れ替えが可能である。例えばステップS3とステップS4の処理の順序は入れ替え可能であるし、例えばステップS1における糖鎖探索条件の設定はステップS3における糖鎖組成推定の前であればいつ実施しても構わない。
【0049】
また、異性体ピーククラスター検出部33は、糖鎖探索条件設定部32において探索対象となる糖残基として複数種類のシアル酸が指定されているか否かに拘わらず、選択可能であるシアル酸の全ての種類の組合せに関して異種シアル酸結合様式異性体ピーククラスターを検出し、検出されたクラスターに含まれるピークの質量差に該当するシアル酸の種類の組合せを糖鎖探索条件設定部32において探索対象の糖残基に加えたあとに、糖鎖組成推定を実施してもよい。
【0050】
また、上記実施形態はあくまでも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0051】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0052】
(第1項)本発明に係るシアル酸含有糖鎖解析方法の一態様は、シアル酸結合様式に特異的な修飾を受けたシアル酸含有糖鎖又は該糖鎖により修飾された分子を含む試料を質量分析することで得られたマススペクトルデータに基いて、前記シアル酸含有糖鎖を解析する解析方法であって、
糖鎖探索条件を設定する探索条件設定工程と、
前記マススペクトルデータから同位体ピーククラスター毎に代表ピークを検出するピーク検出工程と、
前記ピーク検出工程で検出された各代表ピークについて、前記糖鎖探索条件に従って糖鎖組成を推定し糖鎖組成候補を求める組成推定工程と、
前記ピーク検出工程で検出された代表ピークから、シアル酸の個数及びシアル酸以外の糖鎖組成が同一であると推定される複数のピークを含む異性体ピーククラスターを検出するピーククラスター検出工程と、
前記異性体ピーククラスターに含まれる各ピークに対し、含まれるシアル酸の個数及びシアル酸の結合様式の個数、シアル酸の種類、並びに、シアル酸以外の糖鎖組成の同一性に関する所定の制約条件を適用することによって、前記糖鎖組成候補を選別する糖鎖組成フィルタリング工程と、
前記糖鎖組成フィルタリング工程による選別後の糖鎖組成候補とそれ以外の糖鎖組成候補とを視覚的に識別可能な態様で、前記糖鎖組成候補の一覧を作成して表示する表示工程と、
を有する。
【0053】
(第3項)また、本発明に係るシアル酸含有糖鎖解析装置の一態様は、シアル酸結合様式に特異的な修飾を受けたシアル酸含有糖鎖又は該糖鎖により修飾された分子を含む試料を質量分析することで得られたマススペクトルデータに基いて、前記シアル酸含有糖鎖を解析する解析装置であって、
ユーザーによる糖鎖探索条件の指定を受け付けて糖鎖探索条件を設定する探索条件設定部と、
前記マススペクトルデータから同位体ピーククラスター毎に代表ピークを検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部により検出された各代表ピークについて、前記糖鎖探索条件に従って糖鎖組成を推定し糖鎖組成候補を求める組成推定部と、
前記ピーク検出部により検出された代表ピークから、シアル酸の個数及びシアル酸以外の糖鎖組成が同一であると推定される複数のピークを含む異性体ピーククラスターを検出するピーククラスター検出部と、
前記異性体ピーククラスターに含まれる各ピークに対し、含まれるシアル酸の個数及びシアル酸の結合様式の個数、シアル酸の種類、並びに、シアル酸以外の糖鎖組成の同一性に関する所定の制約条件を適用することによって、前記糖鎖組成候補を選別する糖鎖組成フィルタリング部と、
前記糖鎖組成フィルタリング部による選別後の糖鎖組成候補とそれ以外の糖鎖組成候補とを視覚的に識別可能な態様で、前記糖鎖組成候補の一覧を作成して表示する表示処理部と、
を備える。
【0054】
第1項に記載のシアル酸含有糖鎖解析方法において、各工程は上記記載の順序で実施されるとは限らず、適宜にその実行順序を入れ替えることができる。例えば、異性体ピーククラスター検出工程は組成推定工程よりも先に実施することができる。その場合には、ピーク検出部で検出されたピークのうち、ピーククラスターに含まれるピークについてのみ組成を推定すればよく、それ以降の処理には何ら支障をきたさない。
【0055】
第1項に記載のシアル酸含有糖鎖解析方法及び第3項に記載のシアル酸含有糖鎖解析装置によれば、シアル酸以外の糖鎖組成とシアル酸の含有数が同じでありシアル酸の結合様式とシアル酸の種類とが相違するシアル酸含有糖鎖の中で、一部の特定の種類のシアル酸について、想定される結合様式の組合せの一部に対応するイオンピークが検出されなかった場合であっても、その特定の種類のシアル酸を含むシアル酸含有糖鎖の組成候補を的確に絞り込んでユーザーに提示することができる。これにより、推定されるシアル酸含有糖鎖の組成候補が妥当であるか否かを検証するためのMS/MS分析等の実測作業やそれにより収集されたデータの解析作業の効率が向上し、シアル酸含有糖鎖の構造解析をより迅速に且つ精度良く遂行することができる。
【0056】
(第2項)第1項に記載のシアル酸含有糖鎖解析方法において、前記ピーククラスター検出工程では、事前に指定されていない種類のシアル酸についても異性体ピーククラスターの検出を試み、その結果として得られた異性体ピーククラスター情報に基いて、前記事前に指定されていない種類のシアル酸を前記糖鎖探索条件における探索対象に加えたうえで異性体ピーククラスターの検出処理を再度実行し得るものとすることができる。
【0057】
第2項に記載のシアル酸含有糖鎖解析方法によれば、事前にユーザーが想定していない種類のシアル酸を含むシアル酸含有糖鎖が試料に含まれていた場合であっても、該シアル酸含有糖鎖の構造解析を行うことができる。
【符号の説明】
【0058】
1…質量分析部
2…分析制御部
3…データ解析部
30…データ格納部
31…ピーク検出部
32…糖鎖探索条件設定部
320…糖鎖探索条件保存部
33…異性体ピーククラスター検出部
34…糖鎖組成推定部
35…糖鎖組成フィルタリング部
36…糖鎖組成候補一覧表作成部
37…表示処理部
38…プリカーサーイオン選択受付部
4…入力部
5…表示部