IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石エネルギー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089514
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】潤滑油剤組成物及び潤滑油剤用添加剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20230621BHJP
   C10M 145/02 20060101ALI20230621BHJP
   C10M 143/12 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 40/32 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20230621BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20230621BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M145/02
C10M143/12
C10N30:06
C10N40:00 A
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:20
C10N40:25
C10N40:30
C10N40:32
C10N50:10
C10N40:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204048
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】設楽 裕治
(72)【発明者】
【氏名】秋山 陽一
(72)【発明者】
【氏名】知野 圭介
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB34A
4H104BB36A
4H104CA04A
4H104CA12C
4H104CB01C
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104LA03
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA04
4H104PA05
4H104PA09
4H104PA20
4H104PA21
4H104PA37
4H104PA41
4H104PA45
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】摺動部の摩擦を低減させることができる新規な潤滑油剤用添加剤及び潤滑油剤組成物を提供すること。
【解決手段】オレフィン化合物を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体を含有する、潤滑油剤用添加剤。基油と、オレフィン化合物を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体と、を含有する潤滑油剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
オレフィン化合物を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体と、
を含有する潤滑油剤組成物。
【請求項2】
前記オレフィン化合物が共役ジエン化合物を含む、請求項1に記載の潤滑油剤組成物。
【請求項3】
前記重合体又はその水素添加物が、前記共役ジエン化合物を単量体単位として含むブロックと、芳香族ビニル化合物を単量体単位として含むブロックとを含むブロック共重合体又はその水素添加物である、請求項2に記載の潤滑油剤組成物。
【請求項4】
前記重合体又はその水素添加物が、前記共役ジエン化合物の一種のみを単量体単位として含む単独重合体又はその水素添加物である、請求項2に記載の潤滑油剤組成物。
【請求項5】
前記変性重合体の含有量が、潤滑油剤組成物全量を基準として、0.001質量%以上50質量%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油剤組成物。
【請求項6】
活性水素を有する架橋剤を更に含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油剤組成物。
【請求項7】
オレフィン化合物を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体を含有する、潤滑油剤用添加剤。
【請求項8】
前記オレフィン化合物が共役ジエン化合物を含む、請求項7に記載の潤滑油剤用添加剤。
【請求項9】
前記重合体又はその水素添加物が、前記共役ジエン化合物を単量体単位として含むブロックと、芳香族ビニル化合物を単量体単位として含むブロックとを含むブロック共重合体又はその水素添加物である、請求項8に記載の潤滑油剤用添加剤。
【請求項10】
前記重合体又はその水素添加物が、前記共役ジエン化合物を単量体単位として含む単独重合体又はその水素添加物である、請求項8に記載の潤滑油剤用添加剤。
【請求項11】
活性水素を有する架橋剤を更に含有する、請求項7~10のいずれか一項に記載の潤滑油剤用添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑油剤組成物及び潤滑油剤用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
機械システムの摺動部には、摺動部を潤滑するための潤滑油剤組成物が用いられる。潤滑油剤組成物は、一般的に、所望の特性に応じて選択される基油及び添加剤を含有する。機械システムの省エネルギー、省電力には、摺動部の摩擦低減が必要不可欠である。摺動部の摩擦を低減するために、例えば、添加剤として摩擦低減剤が用いられる。摩擦低減剤としては、例えば、特許文献1には特定の化学構造を有するアルカノールアミンが開示されており、特許文献2にはグリセロールモノオレートが開示されている。このような摩擦低減剤には、幅広い潤滑条件(速度域、荷重、温度、摺動材)に対応できることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-199665号公報
【特許文献2】特許5442784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面は、摺動部の摩擦を低減させることができる新規な潤滑用添加剤及び潤滑油剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、オレフィン化合物を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体が、摺動部の摩擦を低減させる添加剤として機能し得ることを見出した。
【0006】
本発明の一側面は、基油と、オレフィン化合物を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体と、を含有する潤滑油剤組成物である。
【0007】
オレフィン化合物は、共役ジエン化合物を含んでいてよい。重合体又はその水素添加物は、共役ジエン化合物を単量体単位として含むブロックと、芳香族ビニル化合物を単量体単位として含むブロックとを含むブロック共重合体又はその水素添加物であってよい。重合体又はその水素添加物は、共役ジエン化合物の一種のみを単量体単位として含む単独重合体又はその水素添加物であってよい。変性重合体の含有量は、潤滑油剤組成物全量を基準として、0.001質量%以上50質量%以下であってよい。潤滑油剤組成物は、活性水素を有する架橋剤を更に含有してよい。
【0008】
本発明の他の一側面は、オレフィン化合物を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体を含有する、潤滑油剤用添加剤である。
【0009】
オレフィン化合物は、共役ジエン化合物を含んでいてよい。重合体又はその水素添加物は、共役ジエン化合物を単量体単位として含むブロックと、芳香族ビニル化合物を単量体単位として含むブロックとを含むブロック共重合体又はその水素添加物であってよい。重合体又はその水素添加物は、共役ジエン化合物の一種のみを単量体単位として含む単独重合体又はその水素添加物であってよい。潤滑油剤用添加剤は、活性水素を有する架橋剤を更に含有してよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、摺動部の摩擦を低減させることができる新規な潤滑用添加剤及び潤滑油剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の一実施形態は、基油と、オレフィン化合物を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体と、を含有する潤滑油剤組成物である。
【0012】
基油としては、例えば、炭化水素油、含酸素油等が挙げられる。炭化水素油としては、例えば、鉱油系炭化水素油、合成系炭化水素油等が挙げられる。含酸素油としては、例えば、エステル、エーテル、カーボネート、ケトン、シリコーン等が挙げられる。基油は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
鉱油系炭化水素油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び/又は減圧蒸留して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を単独又は2つ以上適宜組み合わせて精製することによって得られるパラフィン系鉱油(ノルマルパラフィン、イソパラフィン等)、ナフテン系鉱油、芳香族系鉱油等が挙げられる。
【0014】
合成系炭化水素油としては、例えば、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリα-オレフィン(PAO)、ポリブテン、エチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0015】
エステルとしては、例えば、ポリオールエステル、コンプレックスエステル等が挙げられる。エーテルとしては、例えば、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0016】
基油の40℃における動粘度は、例えば、1mm/s以上、5mm/s以上、又は10mm/s以上であってよく、1000mm/s以下、500mm/s以下、200mm/s以下、100mm/s以下、又は50mm/s以下であってよい。なお、本明細書において、動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠して測定される動粘度を意味する。
【0017】
基油の含有量は、潤滑油剤組成物全量を基準として、例えば、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は97質量%以上であってよい。
【0018】
重合体又はその水素添加物は、オレフィン化合物の1種又は2種以上を単量体単位として含む。重合体又はその水素添加物は、単量体単位として、オレフィン化合物の1種又は2種以上のみを含んでいてよく、オレフィン化合物の1種又は2種以上と、オレフィン化合物と共重合可能なその他の化合物とを含んでいてもよい。その他の化合物は、例えば、ビニル基を有するビニル化合物であってよい。重合体は、単独重合体であっても共重合体であってもよい。
【0019】
オレフィン化合物は、少なくとも一つの炭素-炭素二重結合を有する炭化水素化合物である。オレフィン化合物の炭素数は、例えば、1以上であってよく、6以下であってよい。オレフィン化合物は、例えば、一つの炭素-炭素二重結合を有するアルケン化合物であってよく、具体的には、エチレン、プロピレン、ブチレン等であってよい。
【0020】
オレフィン化合物は、例えば、二つの炭素-炭素二重結合を有するジエン化合物であってよく、一対の共役二重結合(炭素-炭素二重結合)を有する共役ジエン化合物であってもよい。共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン及び1,3-ヘキサジエンが挙げられる。共役ジエン化合物は、好ましくは、1,3-ブタジエン及びイソプレンからなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0021】
重合体は、オレフィン化合物としてアルケン化合物のみを単量体単位として含んでいてよい。そのような重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-アクリル共重合体、エチレン-ブテン共重合体、及びクロロスルホン化ポリエチレンが挙げられる。
【0022】
重合体は、オレフィン化合物として共役ジエン化合物のみを単量体単位として含んでいてもよい。そのような重合体は、共役ジエン化合物の一種のみを単量体単位として含む単独重合体であってよく、例えば、ポリブタジエン(ポリ1,3-ブタジエン)、ポリイソプレン等であってよく、好ましくはポリイソプレンであってよい。そのような重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む共重合体であってもよく、例えば、スチレン-ジエン共重合体、アクリロニトリル-ジエン共重合体等であってよい。
【0023】
重合体は、例えば、オレフィン化合物として、アルケン化合物及び共役ジエン化合物を単量体単位として含んでいてもよい。そのような重合体は、例えばエチレン-プロピレン-ジエン共重合体であってよい。
【0024】
重合体は、一実施形態において、ブロック共重合体であってもよく、好ましくは、共役ジエン化合物を単量体単位として含むブロックA、芳香族ビニル化合物を単量体単位として含むブロックBとを含むブロック共重合体であってよい。芳香族ビニル化合物は、芳香環及びビニル基を有している。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、及びビニルアントラセンが挙げられる。芳香族ビニル化合物は、好ましくはスチレンである。
【0025】
ブロックAは、ブロックAに含まれる単量体単位全量を基準として、50質量%超え、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上の共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体ブロックである。ブロックAは、共役ジエン化合物のみを単量体単位として含む単独重合体ブロックであってよく、共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物を単量体単位として含む共重合体ブロックであってもよい。
【0026】
ブロックBは、ブロックBに含まれる単量体単位全量を基準として、50質量%超え、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上の芳香族ビニル化合物を単量体単位として含む重合体ブロックである。ブロックBは、芳香族ビニル化合物のみを単量体単位として含む単独重合体ブロックであってよく、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を単量体単位として含む共重合体ブロックであってもよい。
【0027】
ブロック共重合体は、例えば、下記式(1)~(3)のいずれかで表される構造を有していてよい。
B-(A-B) …(1)
B-(A-B)-A …(2)
A-(B-A) …(3)
式中、AはブロックAを表し、BはブロックBを表し、mは1~5の整数を表し、nは0~5の整数を表す。mは1であってもよい。
【0028】
ブロック共重合体は、好ましくは、式(1)で表される構造を有するブロック共重合体である。この場合、ブロックAは、好ましくは1,3-ブタジエン又はイソプレンを単量体単位として含むブロックであり、より好ましくは1,3-ブタジエン又はイソプレンのみを単量体単位として含む単独重合体ブロックであり、ブロックBは、好ましくはスチレンを単量体単位として含むブロックであり、より好ましくはスチレンのみを単量体単位として含む単独重合体ブロックである。
【0029】
変性重合体は、オレフィン化合物の一種以上を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体であってよく、好ましくは、オレフィン化合物が共役ジエン化合物である重合体又はその水素添加物の変性重合体であり、より好ましくは、共役ジエン化合物を単量体単位として含むブロックと、芳香族ビニル化合物を単量体単位として含むブロックとを含むブロック共重合体又はその水素添加物の変性重合体である。変性重合体は、好ましくは、イソプレンのみを単量体単位として含む単独重合体(ポリイソプレン)を無水マレイン酸で変性させた変性重合体であり、より好ましくは、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、その水素添加物であるスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、又はその水素添加物であるスチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体である。
【0030】
変性重合体の数平均分子量Mnは、1,000以上、5,000以上、10,000以上、30,000以上、又は50,000以上であってよく、500,000以下、200,000以下、100,000以下、又は80,000以下であってよい。変性重合体の重量平均分子量Mwは、2,000以上、10,000以上、20,000以上、50,000以上、又は70,000以上であってよく、750,000以下、300,000以下、200,000以下、又は150,000以下であってよい。変性重合体のz平均分子量Mzは、50,000以上、70,000以上、又は100,000以上であってよく、400,000以下、350,000以下、又は320,000以下であってよい。変性重合体のMw/Mnは、1以上、1.1以上、又は1.2以上であってよく、2.5以下、2.2以下、又は2以下であってよい。これらの平均分子量は、従来公知のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)解析の方法(ポリスチレン換算値)により測定される。
【0031】
変性重合体のマレイン化率は、0.1質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、又は1質量%以上であってよく、5質量%以下、4質量%以下、又は3質量%以下であってよい。マレイン化率は、従来公知の手法である酸価測定の手法により測定される。
【0032】
以上のような変性重合体は、公知の方法によって、上記の重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させることにより得られる。あるいは、変性重合体は、市販品を購入することもできる。
【0033】
変性重合体の含有量は、潤滑油剤組成物全量を基準として、0.001質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.03質量%以上、0.04質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、又は0.4質量%以上であってよく、50質量%以下、20質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0034】
潤滑油剤組成物は、摺動部の摩擦を更に低減できる観点から、上記の変性重合体同士を架橋可能な架橋剤を更に含有してもよい。架橋剤は、変性重合体同士を架橋した状態で潤滑油剤組成物中に存在していてもよく、変性重合体同士を架橋していない単体の状態で潤滑油剤組成物中に存在していてもよい。
【0035】
このような架橋剤としては、活性水素を有する架橋剤が挙げられる。架橋剤は、活性水素を有する官能基として、例えば、水酸基、アミノ基又はチオール基を有していてよい。架橋剤は、好ましくは、活性水素を有する官能基に加えて、含窒素複素環を更に有していてよい。含窒素複素環としては、例えば、トリアゾール環、ピリジン環、チアジアゾール環、イミダゾール環、イソシアヌレート環、トリアジン環及びヒダントイン環が挙げられる。架橋剤は、好ましくは、水酸基又はアミノ基と、トリアゾール環、イソシアヌレート環又はトリアジン環とを有し、より好ましくは、水酸基又はアミノ基と、トリアゾール環又はイソシアヌレート環とを有している。このような架橋剤としては、例えば、4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、2-アミノピリジン、アミノイミダゾール、2-アミノ-1,3,5-トリアジン、アミノイソシアヌレート、ヒドロキシピリジン、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0036】
架橋剤の含有量は、変性重合体中の変性官能基の量に対して、0.001当量以上、0.01当量以上、0.1当量以上、又は0.5当量以上であってよく、5当量以下、3当量以下、又は2当量以下であってよい。
【0037】
潤滑油剤組成物は、基油及び変性重合体に加えて、所望の特性や潤滑油剤組成物の用途に応じて、その他の添加剤を更に含有していてよい。その他の添加剤としては、摩耗防止剤、酸化防止剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、酸捕捉剤、防錆剤、増ちょう剤(特に潤滑油剤組成物がグリース用途で用いられる場合)等が挙げられる。その他の添加剤の含有量は、潤滑油剤組成物全量を基準として、例えば、0.1質量%以上であってよく、20質量%以下であってよい。
【0038】
以上説明した潤滑油剤組成物は、基油に加えて、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物をマレイン酸又は無水マレイン酸で変性させた変性重合体を含有することにより、当該変性重合体を含有しない潤滑油剤組成物や、(マレイン酸又は無水マレイン酸で変性させていない)共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体又はその水素添加物を含有する潤滑油剤組成物に比べて、摺動部の摩擦を低減させ得る。また、一実施形態において、上記の変性重合体を含有する潤滑油剤組成物は、当該変性重合体を含有しない潤滑油剤組成物に比べて、摺動部の耐摩耗性を向上させ得る。
【0039】
言い換えれば、上記の変性重合体は、潤滑油剤用添加剤として好適である。本発明の他の一実施形態は、上記の変性重合体を含有する潤滑油剤用添加剤である。この潤滑油剤用添加剤は、(潤滑油剤用)摩擦低減剤、(潤滑油剤用)摩耗防止剤、(潤滑油剤用)潤滑性向上剤などということもできる。潤滑油剤用添加剤は、上述した架橋剤を更に含有してもよい。また、本発明の他の一実施形態は、上記の変性重合体を用いた摺動部を潤滑する方法(摺動部の摩擦を低減する方法、摺動部の耐摩耗性を向上させる方法、摺動部の潤滑性を向上させる方法)ということもできる。
【0040】
潤滑油剤の用途としては、例えば、潤滑油及び薄膜被覆油が挙げられる。潤滑油としては、例えば、エンジン油、2サイクルエンジン油、オートマチックトランスミッション油、ディファレンシャルギヤ油、トライダルCVT油、ショックアブソーバー油、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、摺動面油、工作機械油、軸受油、焼結含油軸受油、金属加工油、チェーン油、チェーンソー油、精密機械油、ロボット関節摺動油、ドローン用軸受油、冷凍機油、自動車用グリース、EPS用グリース、高速軸受用グリース、工業用グリース、工業用ギヤ油、集中給油機用グリース、プロペラシャフト用グリース、ハブベアリング用グリース、CVJ用グリース、ホイールベアリング用グリース等が挙げられる。薄膜被覆油としては、例えば、家庭用速乾潤滑油、産業用組み立て油、産業用防錆塗布油等が挙げられる。
【実施例0041】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1-1)
供試油1として市販の油圧作動油(商品名:スーパーハイランドSE32(ENEOS株式会社製))と、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)を無水マレイン酸で変性させた変性重合体(以下「無水マレイン酸変性SEBS」ともいう。商品名:FG1924(クレイトン社製)、Mn:68,500、Mw:12,300、Mz:215,700、Mw/Mn:1.859、マレイン化率:1質量%)とを、表1に示す組成(潤滑油剤組成物全量を基準とする質量%)の潤滑油剤組成物を調製した。具体的には、ナス型フラスコに99.9gの供試油1と0.1gの無水マレイン酸変性SEBSとを入れ、気相部分を窒素置換した。その後、オイルバス中にて、130℃でナス型フラスコ内を3時間撹拌し、無水マレイン酸変性SEBSを完全に溶解させることにより、潤滑油剤組成物を得た。
【0043】
(実施例1-2)
実施例1-1において、無水マレイン酸変性SEBSを溶解させた後、無水マレイン酸変性SEBS中のマレイン酸変性官能基の量に対して1当量の架橋剤(4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(ATA))を更に添加し、オイルバス中にて、180℃でナス型フラスコ内を30分間撹拌した以外は、実施例1-1と同様にして潤滑油剤組成物を調製した。
【0044】
(実施例1-3)
架橋剤として、ATAに代えてトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(TIC)を用いた以外は、実施例1-2と同様にして潤滑油剤組成物を調製した。
【0045】
(実施例1-4)
無水マレイン酸変性SEBSに代えて、ポリイソプレンを無水マレイン酸で変性させた変性重合体(以下「無水マレイン酸変性イソプレン」ともいう。商品名:LIR-403、分子量:34,000、変性重合体1分子中に無水マレイン酸が3分子付加された変性重合体)を用いた以外は、実施例1-2と同様にして潤滑油剤組成物を調製した。
【0046】
(比較例1-1)
供試油1をそのまま潤滑油剤組成物として用いた。
【0047】
(比較例1-2)
無水マレイン酸変性SEBSに代えて、無水マレイン酸で変性されていないSEBSを用いた以外は、実施例1-1と同様にして潤滑油剤組成物を調製した。
【0048】
(摩擦係数の測定)
上記の実施例及び比較例の各潤滑油剤組成物について、MTM(Mini Traction Machine)試験機(PCS Instruments社製)を用いて、以下の条件で摩擦係数(μ)を測定した。
ボール:3/4インチ鋼球
ディスク:鋼
荷重:20N
すべり率(SRR):50%
平均速度:0~3000mm/s
油温:40℃
平均速度5mm/s及び10mm/sのそれぞれにおける摩擦係数を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
(実施例2-1~2-4及び比較例2-1~2-2)
供試油1に代えて、鉱油(40℃における動粘度:20mm/s)99質量部とトリクレジルフォスフェート1質量部との混合物である供試油2を用いた以外は、実施例1-1又は実施例1-2と同様にして、表2に示す組成(潤滑油剤組成物全量を基準とする質量%)の潤滑油剤組成物を調製した。なお、比較例2-2は、摩擦低減剤として知られているグリセロールモノオレートを添加した。得られた各潤滑油剤組成物について、実施例1-1等と同様に摩擦係数を測定した。平均速度5mm/s及び10mm/sのそれぞれにおける摩擦係数を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
(実施例3-1~3-2及び比較例3-1)
潤滑油剤組成物の組成(潤滑油剤組成物全量を基準とする質量%)を表3に示すとおりに変更した以外は、実施例2-1等と同様にして潤滑油剤組成物を調製した。
【0053】
(摩擦係数及び摩耗痕幅の測定)
得られた各潤滑油剤組成物について、ボールオンディスク往復摺動潤滑試験機を用いて、以下の条件で摩擦係数及び摩耗痕幅を測定した。
ボール:1/4インチ鋼球(SUJ-2)
ディスク:鋼板(SUJ-2)又は銅板(純銅:99.9%)
油量:0.5mL
荷重:2000g(ディスクが鋼板の場合)
250g(ディスクが銅板の場合)
摺動振幅:±20mm
摺動速度:10mm/s
摺動:150往復、10分間(ディスクが鋼板の場合)
15往復、1分間(ディスクが銅板の場合)
温度:室温
摩擦試験終了前の5往復における平均摩擦係数、試験後のディスク摩耗痕幅を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
(実施例4-1及び比較例4-1)
潤滑油剤組成物の組成(潤滑油剤組成物全量を基準とする質量%)を表4に示すとおりに変更した以外は、実施例2-1等と同様にして潤滑油剤組成物を調製した。
【0056】
(摩擦係数の測定)
得られた各潤滑油剤組成物について、ディスクとしてフッ素ゴム板を用い、荷重を10Nに変更した以外は、実施例1-1等と同様に摩擦係数を測定した。平均速度100mm/s及び1000mm/sのそれぞれにおける摩擦係数を表4に示す。
また、得られた各潤滑油剤組成物について、ディスクとしてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)板を用い、荷重を10Nに変更した以外は、実施例1-1等と同様にMTM試験機による試験を実施し摩擦係数を測定した。平均速度10mm/s及び100mm/sのそれぞれにおける摩擦係数を表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
(実施例5-1及び比較例5-1)
供試油1に代えて、ペンタエリスリトールと2-ヘキサン酸/3,5,5―トリメチルヘキサン酸(=1/1(モル比))の混合酸とのポリオールエステルである供試油3を用いた以外は、実施例1-2と同様にして、表5に示す組成(潤滑油剤組成物全量を基準とする質量%)の潤滑油剤組成物を調製した。得られた各潤滑油剤組成物について、実施例1-1等と同様に摩擦係数を測定した。平均速度2mm/s及び5mm/sのそれぞれにおける摩擦係数を表5に示す。
【0059】
【表5】
【0060】
(実施例6-1~6-2及び比較例6-1)
供試油1に代えて、パラフィン系鉱油(40℃における動粘度:2mm/s)99質量部とトリクレジルフォスフェート1質量部との混合物である供試油4を用いた以外は、実施例1-1又は実施例1-2と同様にして、表6に示す組成(潤滑油剤組成物全量を基準とする質量%)の潤滑油剤組成物を調製した。得られた各潤滑油剤組成物について、荷重を10Nに変更した以外は実施例1-1等と同様に摩擦係数を測定した。平均速度10mm/s及び100mm/sのそれぞれにおける摩擦係数を表6に示す。
【0061】
【表6】