(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089528
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20230621BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20230621BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C30B15/10
C03B20/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204068
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】522503458
【氏名又は名称】モメンティブ・テクノロジーズ・山形株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】八木 祥貴
【テーマコード(参考)】
4G014
4G077
【Fターム(参考)】
4G014AH00
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG01
4G077EG02
4G077HA12
4G077PD01
4G077PD05
(57)【要約】
【課題】チョクラルスキー法によって単結晶を引上げるためのシリコン単結晶引上げ用の石英ガラスルツボにおいて、単結晶引上げ前のスタビライズ工程の間に、シリコン融液のルツボ内層に対するエッチングによりルツボ外層が露出することを防止し、且つルツボ開口部の変形による倒れ込み発生を抑制することのできる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン融液を保持し、単結晶を引上げるための石英ガラスルツボ1において、内層4と、前記内層よりも外側に配置された少なくとも1層の外層3とを有し、ルツボ側部の前記内層において、単結晶引上げ前のシリコン融液の融液面に接する内表面上の位置に、周方向に沿って環状に形成された内層肉厚部4aを有し、前記内層肉厚部の厚さと、前記ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さとの比が1:0.14以上1未満に形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液を保持し、単結晶を引上げるための石英ガラスルツボにおいて、
内層と、前記内層よりも外側に配置された少なくとも1層の外層とを有し、
ルツボ側部の前記内層において、単結晶引上げ前のシリコン融液の融液面に接する内表面上の位置に、周方向に沿って環状に形成された内層肉厚部を有し、
前記内層肉厚部の厚さと、前記ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さとの比が1:0.14以上1未満に形成されていることを特徴とする石英ガラスルツボ。
【請求項2】
前記内層肉厚部は、厚さが0.7mm以上5.0mm以下に形成されていることを特徴とする請求項1に記載された石英ガラスルツボ。
【請求項3】
前記内層肉厚部は、ルツボ軸方向の位置が、単結晶引上げ前のシリコン融液の融液面に接するルツボ内表面上の位置を中心に、ルツボ軸方向に少なくとも±50mmの幅寸法に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された石英ガラスルツボ。
【請求項4】
前記内層肉厚部は、断面矩形状、断面台形状、断面半円形状のいずれか1つに形成され、
前記内層肉厚部の形状に対応して、前記外層の側部内面に周方向に沿って環状の凹部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された石英ガラスルツボ。
【請求項5】
前記請求項1乃至請求項6のいずれかに記載された石英ガラスルツボの製造方法であって、
成形型に天然石英粉を含む原料粉を供給して、少なくとも1層の外層を形成する工程と、
前記外層の側部内面において、単結晶引上げ前のシリコン融液の融液面に対応する位置に周方向に沿って環状の凹部を形成する工程と、
前記外層の内側に、合成石英粉を含む原料粉を供給し、前記凹部を前記原料粉により充填するとともに、その上に内層を形成し、ルツボ成形体を得る工程と、
前記ルツボ成形体の内層、及び外層を溶融して、石英ガラスルツボを形成する工程と、
を備えることを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によって単結晶を引上げるためのシリコン単結晶引上げ用の石英ガラスルツボ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の育成は、チャンバ内に設置した石英ガラスルツボに原料であるポリシリコンを充填し、前記石英ガラスルツボの周囲に設けられたヒータによってポリシリコンを加熱して溶融し、シリコン融液とする。その後、シードチャックに取り付けた種結晶(シード)を当該シリコン融液に浸漬し、シードチャックおよび石英ガラスルツボを同方向または逆方向に回転させながらシードチャックを引上げることにより行う。
【0003】
シリコン単結晶の引き上げに用いられる石英ガラスルツボは、シリコン融液を収容する石英部材であり、融液が接触するルツボ内表面(ルツボ内層)は、高純度な透明層とする必要がある。一方、ルツボ外表面側は、通常、コストの低減、及び高温機械特性向上の目的のため、一般にSi以外の金属元素を多く含む不透明外層(ルツボ外層)が形成されている。
具体的には、ルツボ内層には、透明層を形成するために合成石英粉を原料として配置し、ルツボ外層には、不透明層を形成するために天然石英粉を原料として2層以上に配置し、形成した成型体をアーク溶融により溶融することによって石英ガラスルツボを製造している。
【0004】
ところで、前記シリコン単結晶の引上げ工程の初期段階(引上げ前の段階)においては、原料ポリシリコンを加熱してシリコン融液を形成した後、石英ガラスルツボを回転させてシリコン融液の流動を安定化させるスタビライズ工程が行われている。
このスタビライズ工程にあっては、ルツボ内表面の同一箇所に長時間、シリコン融液の縁部が接触することになる。ところが、シリコン融液の縁部とルツボ内表面との接触部は、雰囲気に触れて三相界面となるため、シリコン融液と石英ガラスルツボとの化学反応によってルツボ内層に対するシリコン融液によるエッチングが進行する。
【0005】
前記シリコン単結晶引き上げ初期におけるスタビライズ工程にあっては、スタビライズ時間が長いほどエッチング量が多くなる。そのため、
図7に模式的に示すようにルツボ内層51(合成石英粉を原料とした層)の厚さが薄い場合にはシリコン融液Mによってルツボ内層表面がエッチングされると、ルツボ外層52(天然層石英粉を原料とした層)に達してルツボ外層が露出する虞があった。
この問題を解決するためにはシリコン融液Mによるエッチング量よりも厚いルツボ内層51を有する必要があるが、ルツボ内層51の原料となる合成石英粉は高価であり、ルツボ内層51全体を厚く形成させることはコスト面において現実的ではないという課題があった。
また、ルツボ内層51全体を厚く形成すると、合成ガラス層であるため高温で軟化しやすく、下方に垂れてルツボ開口部が倒れ込むなどの変形が生じ、引上げ作業に支障が生じる虞があった。
【0006】
特許文献1には、このような課題を解決できる石英ガラスルツボが開示されている。特許文献1に開示された石英ガラスルツボは、
図8に示すように透明内層51と不透明外層52とを有し、少なくとも直胴部のルツボ内層の内側表層部分に、結晶質シリカ粉が溶融した相と非晶質シリカ粉が溶融した相とが粒状に混在する混合シリカ層53が周方向に沿って環状に配置されている。
前記混合シリカ層53は、前記石英ガラスルツボの内表面のうち、該石英ガラスルツボがシリコン融液Mを保持した際の初期の融液面M1に接する内表面上の位置(初期メルトラインと呼ぶ)を含むように形成されており、その肉厚方向における厚さが2mm以上に厚く形成されている。
【0007】
この構成によれば、スタビライズ工程において、エッチングにより前記混合シリカ層53が薄くなっても、シリコン融液Mがルツボ外層52に達することを防止することができる。
また、前記混合シリカ層53は、ルツボ内層51側において、直胴部の全体ではなくルツボ軸方向においては部分的に形成されているため、ルツボ内層51を合成ガラス層により薄く形成することができ、ルツボ内層51の垂れ下がりによる開口部の倒れ込みを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に開示された石英ガラスルツボにあっては、単結晶引き上げ時におけるシリコン融液面M1の振動を抑制するために前記混合シリカ層53を設けている。
前記混合シリカ層53は、非晶質シリカ粉と結晶質シリカ粉とが溶融されて形成されたものであり、それぞれの溶融した相のエッチング効果が異なる。前記エッチング効果の違いにより、混合シリカ層53の表面には、微小な凹凸が形成される。この微小な凹凸の存在によりシリコン融液Mの液面振動を抑制するというものである。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された石英ガラスルツボの構成にあっては、前記混合シリカ層53を形成するために、結晶質シリカ粉と非晶質シリカ粉とからなる混合原料粉を用意し、これをルツボ内層側に形成した凹部に成型配置して溶融する必要があり、コストが高くなる上に、製造工程が煩雑になる。
スタビライズ工程におけるシリコン融液のルツボ内層へのエッチングによりルツボ融液がルツボ外層に到達することを抑制するという目的のみを鑑みると、引き上げ時における液面振動を抑制するために前記結晶質シリカ粉と非晶質シリカ粉とからなる混合原料粉を用いる必要はない。即ち、該目的を達成することのできる石英ガラスルツボを、よりコストを低減し、且つ容易に製造する方法が求められていた。
【0011】
本発明は、前記事情の下になされたものであり、チョクラルスキー法によって単結晶を引上げるためのシリコン単結晶引上げ用の石英ガラスルツボにおいて、単結晶引上げ前のスタビライズ工程の間に、シリコン融液のルツボ内層に対するエッチングによりルツボ外層が露出することを防止し、且つルツボ開口部の変形による倒れ込み発生を抑制することができるとともに、製造に係るコスト上昇を抑え、容易に製造することのできる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボは、シリコン融液を保持し、単結晶を引上げるための石英ガラスルツボにおいて、内層と、前記内層よりも外側に配置された少なくとも1層の外層とを有し、ルツボ側部の前記内層において、単結晶引上げ前のシリコン融液の融液面に接する内表面上の位置に、周方向に沿って環状に形成された内層肉厚部を有し、前記内層肉厚部の厚さと、前記ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さとの比が1:0.14以上1未満に形成されていることに特徴を有する。
【0013】
尚、前記内層肉厚部は、厚さが0.7mm以上5.0mm以下に形成されていることが望ましい。
また、前記内層肉厚部は、ルツボ軸方向の位置が、単結晶引上げ前のシリコン融液の融液面に接するルツボ内表面上の位置を中心に、ルツボ軸方向に少なくとも±50mmの幅寸法に形成されていることが望ましい。
また、前記内層肉厚部は、断面矩形状、断面台形状、断面半円形状のいずれか1つに形成され、前記内層肉厚部の形状に対応して、前記外層の側部内面に周方向に沿って環状の凹部が形成されていることが望ましい。
【0014】
このような構成によれば、シリコン融液によるエッチングがスタビライズ工程において進行しても、シリコン融液が外層に到達することを防止することができる。
また、ルツボ側部の内層において、内層肉厚部が厚く形成されていても、その他の部位は薄く形成することができる。更に外層の内面には、内層肉厚部の形状に合わせて凹部が形成される。この凹部が設けられることによって、軟化した内層が凹部の下面(段部)に引っ掛かり、内層の垂れ下がりを抑制し、ルツボ開口部の倒れ込み変形を防止することができる。
【0015】
また、前記課題を解決するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法は、前記した石英ガラスルツボの製造方法であって、成形型に天然石英粉を含む原料粉を供給して、少なくとも1層の外層を形成する工程と、前記外層の側部内面において、単結晶引上げ前のシリコン融液の融液面に対応する位置に周方向に沿って環状の凹部を形成する工程と、前記外層の内側に、合成石英粉を含む原料粉を供給し、前記凹部を前記原料粉により充填するとともに、その上に内層を形成し、ルツボ成形体を得る工程と、前記ルツボ成形体の内層、及び外層を溶融して、石英ガラスルツボを形成する工程と、を備えることに特徴を有する。
【0016】
このような方法によれば、ルツボ成形体の形成において、内層肉厚部はルツボ内層の一部であるため、内層肉厚部の成形体は、ルツボ外層の内側に合成石英粉を供給してルツボ内層を形成することによって同時に形成することができる。そのため、製造コストの上昇を極力抑え、容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、チョクラルスキー法によって単結晶を引上げるためのシリコン単結晶引上げ用の石英ガラスルツボにおいて、単結晶引上げ前のスタビライズ工程の間に、シリコン融液のルツボ内層に対するエッチングによりルツボ外層が露出することを防止し、且つルツボ開口部の変形による倒れ込み発生を抑制することができるとともに、製造に係るコスト上昇を抑え、容易に製造することのできる石英ガラスルツボ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係る石英ガラスルツボの断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の石英ガラスルツボの一部拡大断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の石英ガラスルツボの一部拡大断面図であり、エッチングの状態を示す図である。
【
図4】
図4は、
図1の石英ガラスルツボの一部拡大断面図であり、透明内層の垂れ下がり抑制効果を説明するための図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、内層肉厚部の変形例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図1の石英ガラスルツボを製造するための装置の概略図である。
【
図7】
図7は、従来の石英ガラスルツボの一部拡大断面図であり、エッチングの状態を示す図である。
【
図8】
図8は、従来の他の石英ガラスルツボの一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る石英ガラスルツボ及びその製造方法の実施の形態について図面に基づき説明する。
図1は本発明に係る石英ガラスルツボ1の断面図である。
図2は、
図1の石英ガラスルツボの一部拡大断面図である。
この石英ガラスルツボ1は、例えば単結晶引上装置(図示せず)において用いられ、装置内でカーボンサセプタ(図示せず)によって抱持された状態で使用される。即ち、単結晶引上装置では、石英ガラスルツボ1内に原料シリコンが溶融され、溶融液からシリコン単結晶が引上げられる。
【0020】
石英ガラスルツボ1は、例えば直径(口径)32インチ、高さ500mmに形成され、所定の曲率(第一の曲率)を有する底部9と、前記底部9の周りに形成され、所定の曲率(第二の曲率)を有する底部コーナー8と、前記底部コーナー8から上方に延びる側部7とを有する。
図1に示すように、側部7において外側には、天然原料石英ガラスからなる外層3が形成されている。また、この外層3より内側には、シリコン単結晶引上げ時にシリコン融液と接する高純度の合成原料石英ガラスからなる内層4が形成されている。
【0021】
また、
図1に示すように側部7において、内層4の上部には、ルツボ周方向に沿って環状に形成され、厚さ寸法が他部位より厚くなされた内層肉厚部4aが形成されている。この内層肉厚部4aのルツボ軸方向の位置は、
図2に示すようにルツボ内にシリコン融液Mを保持した際の初期の融液面M1に接する内表面上の位置(初期メルトラインと呼ぶ)を含むように設定されている。
【0022】
ここで不透明とは、石英ガラス中に多数の気泡(気孔)が内在し、見かけ上、白濁した状態を意味する。また、天然石英層とは水晶等の天然質原料を溶融して製造されるシリカガラス層を意味し、合成石英層とは、例えばシリコンアルコキシドの加水分解により合成された合成原料を溶融して製造されるシリカガラス層を意味する。
【0023】
また、図示するようにルツボ底部コーナー8及びルツボ底部9においても、側部7の外層3から連続して形成された天然原料石英ガラスからなる外層3と、合成原料石英ガラス(または天然原料石英ガラス)からなる内層4とで形成された2層構造となされている。
【0024】
図2に示すように、天然原料石英ガラスからなる外層3は、ルツボ側部7における厚さ寸法mt1が6mm以上となされる。但し、ルツボ側部7の内層4に設けられた内層肉厚部4aに対応する位置においては、厚さ寸法mt2は1mm以上となされる。また、外層3から連続して形成されたルツボ底部コーナー8の外層3における厚さ寸法mt3は6mm以上に形成され、ルツボ底部9の外層3における厚さ寸法mt4は6mm以上に形成される。
これは、ルツボ側部7における外層3の厚さmt1、ルツボ底部コーナー8における外層3の厚さ寸法mt3、及びルツボ底部9における外層3の厚さ寸法mt4が6mmより小さいと、充分な耐久性が得られ難いためである。
【0025】
また、内層4は、合成原料石英ガラスを溶融して形成した実質的に気泡の存在しない透明層である。内層4において、ルツボ側部7における厚さ寸法it1は、内層肉厚部4aを除いて例えば0.6mm以上2.0mm以下に形成されている。このようにルツボ側部7における厚さ寸法it1を0.6mm以上2.0mm以下とすることにより、ルツボ開口部の変形(倒れこみなど)やルツボ外層露出を防止することができる。
内層肉厚部4aの厚さit2は、前記it1との比(it2:it1)が1:0.14以上1未満に形成されている。具体的には、本実施形態におけるルツボ大きさの場合、0.7mm以上5.0mm以下に形成されている。このように内層肉厚部4aの厚さit2を0.7mm以上5.0mm以下とすることにより、
図3に示すようにシリコン融液によるエッチングがスタビライズ工程において進行しても、シリコン融液が外層3に到達することを防止することができる。
【0026】
前記したように内層肉厚部4aの厚さit2は、前記it1との比(it2:it1)が1:0.14以上1未満に形成されている。即ち、ルツボ側部7の内層4において、内層肉厚部4aは厚く、その他は薄く形成されている。これは、ルツボ側部7の全体を厚く形成すると、内層4は合成ガラス層であるため高温で軟化しやすく、下方に垂れて開口部が倒れ込むなどの変形が生じ、引上げ作業に支障が生じる虞があるためである。
【0027】
内層肉厚部4aの配置されるルツボ軸方向の高さ位置は、
図2に示すようにルツボ内にシリコン融液Mを保持した際の初期の融液面に接するルツボ内表面上の位置(初期メルトラインと呼ぶ)に設定されている。具体的には、前記初期メルトラインを中心に±50mm、より望ましくは±30mmの軸方向の幅寸法hに形成されている。
このように内層肉厚部4aの幅寸法hを規定するのは、石英ルツボの内容量にはバラツキがあり、融液面がルツボ内容量によって変化するためである。
また、内層4において、ルツボ底部コーナー8における厚さ寸法it3と、ルツボ底部9における厚さ寸法it4とは共に、例えば0.6mm以上の厚さに形成されている。
【0028】
また、図示するように内層肉厚部4aは、例えば断面矩形状に形成されている。この形状は、高温処理下における内層4の沈み込み抑制に寄与する。即ち、内層4は外層3よりも粘性が小さい。そのため、高温下では、
図4に矢印で示すようにルツボ側部7において内層4の垂れ下がりが生じやすい。しかしながら、外層3の内面には、内層肉厚部4aの形状に合わせて凹部3aが形成されている。この凹部3aにおいては、外層3と内層4とは軸方向(上下方向)の面接触だけでなく、径方向にも面接触することになる。凹部3aは、天然層である外層3側に形成されているため、軟化した内層4が下方に垂れ下がろうとしても、凹部3aにおける径方向の面接触領域が外層3(天然層)の粘性により内層4の下方へ向かう力を抑制する。
【0029】
尚、内層肉厚部4aは、断面矩形状としたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。
例えば、
図5(a)に示すように、内層肉厚部4aは、断面台形状に形成してもよく、
図5(b)に示すように断面半円状に形成してもよい。これらの場合も、外層3における段部3a1(凹部3a)によって、内層4の沈み込みを抑制することができる。
また、
図5(a)、(b)に示した変形例にあっては、外層3における段部3a1が径方向下側に向かって傾斜しているため、内層4の引っ掛かりが弱くなる。そのため、
図5(c)に示すように、外層3における段部3a1は水平に近い状態に形成するか、
図5(d)に示すように外層3における段部3a1は径方向上側に傾斜するように形成することが望ましい。
【0030】
次に、前記構造を有する石英ガラスルツボ1の製造方法について説明する。
本実施の形態に係る石英ガラスルツボ1は、例えば、
図6に示すような石英ガラスルツボ製造装置10を用いて製造する。
石英ガラスルツボ製造装置10のルツボ成形用型11は、例えば複数の貫通孔が穿設された金型、もしくは高純化処理した多孔質カーボン型などのガス透過性部材で構成された内側部材12と、その外周に通気部13を設けて、前記内側部材12を保持する保持体14とから構成されている。
【0031】
また、保持体14の下部には、図示しない回転手段と連結されている回転軸15が固着されていて、ルツボ成形用型11を回転可能に支持している。通気部13は、保持体14の下部に設けられた開口部16を介して、回転軸15の中央に設けられた排気路17と連結されており、この排気路17は、減圧機構18と連結されている。
内側部材12に対向する上部にはアーク放電用のアーク電極19と、天然石英粉供給ノズル20と、合成石英粉供給ノズル22が設けられている。
【0032】
石英ガラスルツボ製造装置10により石英ガラスルツボの製造を行う場合、図示しない回転駆動源を稼働させて回転軸18を矢印の方向に回転させ、これによりルツボ成形用型11を高速で回転させる。
次いで、ルツボ成形用型11内に天然石英粉供給ノズル20から天然石英粉(原料粉)を供給する。供給された天然石英粉は、遠心力によって内側部材12の内面側に押圧され、側部、底部コーナー、及び底部における厚さ6mm以上の外層30として形成される。
次に、側部の外層30の内側部において、
図1、
図2に示した内層4の内層肉厚部4aに対応する位置に、治具等を用いて、例えば深さ2mm、幅6mmの断面矩形状の凹部30aを周方向に沿って環状に加工形成する。
【0033】
続いて、外層30の内面側に例えば3mmの厚さを有する内層40が形成されるように、合成石英粉(原料粉)を合成石英粉供給ノズル23から供給する。ここで、前記外層30の内側部に形成された凹部30aには合成石英粉が充填され、さらにその上に3mmの厚さの内層40が形成されるように合成石英粉が供給される。
供給された合成石英粉は、遠心力によって外層30の内面側に押圧されて、内層40(成形体)として成形される。また、これにより内層肉厚部4a相当部位においては、厚さ5mm、幅6mmの内層肉厚部40a(成形体)が得られる。
【0034】
このようにして外層3、および内層4の2層からなるルツボ成形体が得られる。
さらに、減圧機構18の作動により内側部材12内を減圧し、アーク電極19に通電してルツボ成形体の内側から加熱し、ルツボ成形体の内層40及び外層30を溶融して、内層4及び外層3からなる石英ガラスルツボ1を製造する。
【0035】
以上のように本実施の形態によれば、ルツボの内層4において、シリコン融液の初期の融液面に接する内表面上の位置(初期メルトライン)に、ルツボ軸方向の位置が初期メルトラインを中心に±50mmの幅寸法で、厚さが0.7mm以上5.0mm以下の内層肉厚部4aが周方向に沿って環状に形成されている。
これにより、シリコン融液によるエッチングがスタビライズ工程において進行しても、シリコン融液が外層3に到達することを防止することができる。
また、ルツボ側部7の内層4において、内層肉厚部4aが厚く形成されていても、その他の部位は薄く形成することができる。更に外層3の内面には、内層肉厚部4aの形状に合わせて凹部3aが形成され、その下面に段部3a1が形成されている。この段部3a1を有する凹部3aが設けられることによって、軟化した内層4が段部3a1に引っ掛かり、内層4の垂れ下がりを抑制し、ルツボ開口部の倒れ込み変形を防止することができる。
また、ルツボ成形体の形成において、内層肉厚部4aはルツボ内層4の一部であるため、内層肉厚部4aの成形体40aは、ルツボ外層の内側に合成石英粉を供給してルツボ内層を形成する際に同時に形成することができる。そのため、製造コストの上昇を極力抑え、容易に製造することができる。
【0036】
尚、前記実施の形態においては、石英ガラスルツボ1を外層3、5と、内層4との2層構造としたが、本発明にあっては、この構成に限定されるものではなく、外層を2層以上に形成してもよい。
【実施例0037】
続いて、本発明に係る石英ガラスルツボ及びその製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
本実施例では、前記実施の形態に示した構成の石英ガラスルツボを製造し、スタビライズ工程を実施して本発明の効果を検証した。
【0038】
(実施例1)
図6に示した石英ガラスルツボ製造装置を用い、32インチ、高さ500mmの石英ガラスルツボを製造した。この石英ガラスルツボは、合成原料石英ガラスからなる内層と、天然原料石英ガラスからなる外層の2層構造とした。また、この石英ガラスルツボにおける初期メルトラインの位置は、ルツボ開口部から100mm下方の位置とし、内層肉厚部のルツボ軸方向の幅寸法は、初期メルトラインを中心に±50mmとした。
実施例1において、
図2に示した内層肉厚部の厚さ寸法it2は、0.7mm、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さ寸法it1は、0.6mmとした。また、前記内層肉厚部に対応する位置におねる外層の厚さ寸法mt2は18.8mm、ルツボ側部における外層のその他の部位の厚さ寸法mt1は16.9mmとした。
スタビライズ工程は、炉内温度1,420℃、ルツボ回転数15rpm、継続時間10~20時間とした。
スタビライズ工程終了後、ルツボ内層におけるエッチングの状態と、ルツボ開口部の変形を観察した。
【0039】
(実施例2)
実施例2では、
図2に示した内層肉厚部の厚さ寸法it2は、1.7mm、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さ寸法it1は、1.5mmとした。また、前記内層肉厚部に対応する位置におねる外層の厚さ寸法mt2は16.4mm、ルツボ側部における外層のその他の部位の厚さ寸法mt1は16.6mmとした。その他の実施条件は、実施例1と同様である。
(実施例3)
実施例3では、
図2に示した内層肉厚部の厚さ寸法it2は、2.1mm、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さ寸法it1は、1.7mmとした。また、前記内層肉厚部に対応する位置におねる外層の厚さ寸法mt2は16.1mm、ルツボ側部における外層のその他の部位の厚さ寸法mt1は16.5mmとした。その他の実施条件は、実施例1と同様である。
【0040】
(実施例4)
実施例4では、
図2に示した内層肉厚部の厚さ寸法it2は、3.5mm、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さ寸法it1は、2.0mmとした。また、前記内層肉厚部に対応する位置におねる外層の厚さ寸法mt2は14.9mm、ルツボ側部における外層のその他の部位の厚さ寸法mt1は16.4mmとした。その他の実施条件は、実施例1と同様である。
(実施例5)
実施例5では、
図2に示した内層肉厚部の厚さ寸法it2は、4.3mm、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さ寸法it1は、1.8mmとした。また、前記内層肉厚部に対応する位置におねる外層の厚さ寸法mt2は13.2mm、ルツボ側部における外層のその他の部位の厚さ寸法mt1は15.7mmとした。その他の実施条件は、実施例1と同様である。
【0041】
(実施例6)
実施例6では、
図2に示した内層肉厚部の厚さ寸法it2は、5.0mm、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さ寸法it1は、1.7mmとした。また、前記内層肉厚部に対応する位置におねる外層の厚さ寸法mt2は12.6mm、ルツボ側部における外層のその他の部位の厚さ寸法mt1は15.9mmとした。その他の実施条件は、実施例1と同様である。
(実施例7)
実施例7では、
図2に示した内層肉厚部の厚さ寸法it2は、5.0mm、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さ寸法it1は、0.7mmとした。また、前記内層肉厚部に対応する位置におねる外層の厚さ寸法mt2は12.6mm、ルツボ側部における外層のその他の部位の厚さ寸法mt1は16.9mmとした。その他の実施条件は、実施例1と同様である。
【0042】
(比較例1)
比較例1では、
図2に示した内層肉厚部の厚さ寸法it2は、0.6mm、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さ寸法it1は、0.6mmとした。また、前記内層肉厚部に対応する位置におねる外層の厚さ寸法mt2は17.7mm、ルツボ側部における外層のその他の部位の厚さ寸法mt1は17.7mmとした。その他の実施条件は、実施例1と同様である。
(比較例2)
比較例2では、
図2に示した内層肉厚部の厚さ寸法it2は、5.2mm、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さ寸法it1は、0.7mmとした。また、前記内層肉厚部に対応する位置におねる外層の厚さ寸法mt2は13.2mm、ルツボ側部における外層のその他の部位の厚さ寸法mt1は17.7mmとした。その他の実施条件は、実施例1と同様である。
【0043】
実施例1~7、及び比較例1、2の結果を表1に示す。
【表1】
【0044】
表1に示すように、内層肉厚部の厚さが0.6mmの場合(比較例1)、ルツボ外層の露出が発生した。
また、内層肉厚部の厚さが0.7mm以上5.0mm以下で、内層肉厚部の厚さit2と、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さit1との比が1:0.14以上1未満に形成されている場合(実施例1~7)、ルツボ外層の露出がなく、操業に支障のでるような変形は発生しなかった。
また、内層肉厚部の厚さが5.2mmの場合(比較例2)、ルツボ外層の露出はないが、ルツボの倒れ込み変形が生じた。
以上の実施例の結果、内層肉厚部の厚さit2と、ルツボ側部の内層のその他の部位の厚さit1との比を1:0.14以上1未満に形成することにより、シリコン融液のルツボ内層に対するエッチングによってルツボ外層が露出することを防止し、ルツボの倒れ込み変形の発生を抑えることができることを確認した。