(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089534
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】リークディテクター、及び気密部材のリークの検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230621BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230621BHJP
C25B 9/65 20210101ALI20230621BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230621BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20230621BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20230621BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20230621BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20230621BHJP
【FI】
G01N27/416 311H
C25B1/04
C25B9/65
C25B9/00 A
C25B9/60
C25B15/02
C25B11/054
C25B11/081
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204089
(22)【出願日】2021-12-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (A)令和3年1月12日に、「Memoirs of Osaka Institute of Technology,Vol.65,No.2(2020),pp.83-102」にて発表 (B)令和3年2月11日に、https://www.journal.csj.jp/doi/full/10.1246/cl.200582、https://www.journal.csj.jp/doi/pdf/10.1246/cl.200582のウェブサイトで公開された「Chem.Lett.,2021,50,342-345(2021)」にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金藤 敬一
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA20
4K011AA31
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA05
4K021CA13
4K021CA15
4K021DB18
4K021DB36
(57)【要約】
【課題】本発明は、気密部材のリークをより一層効率的に検出することができるリークディテクターと方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るリークディテクターは、酸化反応電極、イオン交換膜、還元反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含み、前記イオン交換膜は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極に挟まれており、前記電圧印加装置は、前記酸化反応電極に正の電圧を印加し、且つ前記還元反応電極に負の電圧を印加するものであり、前記還元反応電極の少なくとも一部が前記電解水溶液と接しており、前記酸化反応電極における検出すべき水素の電気化学的酸化反応により、前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間を移動する電荷を電流として計測することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化反応電極、イオン交換膜、還元反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含み、
前記イオン交換膜は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極に挟まれており、
前記電圧印加装置は、前記酸化反応電極に正の電圧を印加し、且つ前記還元反応電極に負の電圧を印加するものであり、
前記還元反応電極の少なくとも一部が前記電解水溶液と接しており、
前記酸化反応電極における検出すべき水素の電気化学的酸化反応により、前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間を移動する電荷を電流として計測することを特徴とするリークディテクター。
【請求項2】
更に減圧装置を含む請求項1に記載のリークディテクター。
【請求項3】
前記減圧装置が電解酸素ポンプである請求項2に記載のリークディテクター。
【請求項4】
更に加圧装置を含む請求項1~3のいずれかに記載のリークディテクター。
【請求項5】
前記イオン交換膜がアニオン交換膜であり、且つ前記電解水溶液がアルカリ性電解水溶液である請求項1~4のいずれかに記載のリークディテクター。
【請求項6】
前記酸化反応電極が白金触媒を含む請求項1~5のいずれかに記載のリークディテクター。
【請求項7】
更に、前記還元反応電極から生じた水素と不活性ガスを混合するための混合装置を含む請求項1~6のいずれかに記載のリークディテクター。
【請求項8】
気密部材のリークを検出する方法であって、
電解水素ポンプの酸化反応電極に正の電圧を印加し、且つ還元反応電極に負の電圧を印加しつつ、前記気密部材の内部の気体を前記電解水素ポンプの前記酸化反応電極へ供給する工程、
前記電解水素ポンプの前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間の電圧または電流を測定する工程、及び、
前記電解水素ポンプの前記還元反応電極で生じる水素を含むガスを、前記気密部材の外表面に吹き付ける工程を含み、
前記電解水素ポンプは、前記酸化反応電極、イオン交換膜、前記還元反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含み、
前記イオン交換膜は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極に挟まれており、
前記電圧印加装置は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間に電圧を印加するものであり、
前記還元反応電極の少なくとも一部が前記電解水溶液と接していることを特徴とする方法。
【請求項9】
気密部材のリークを検出する方法であって、
電解水素ポンプの酸化反応電極に正の電圧を印加し、且つ還元反応電極に負の電圧を印加しつつ、前記気密部材の外表面付近の気体を前記電解水素ポンプの前記酸化反応電極供給する工程、
前記電解水素ポンプの前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間の電圧または電流を測定する工程、及び、
前記電解水素ポンプの前記還元反応電極で生じる水素を含むガスにより、前記気密部材の内部を加圧する工程を含み、
前記電解水素ポンプは、前記酸化反応電極、イオン交換膜、前記還元反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含み、
前記イオン交換膜は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極に挟まれており、
前記電圧印加装置は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間に電圧を印加するものであり、
前記還元反応電極の少なくとも一部が前記電解水溶液と接していることを特徴とする方法。
【請求項10】
前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間の電圧を1.229V超にする請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記気密部材の内部の気体を引き抜くために電解酸素ポンプを用いる請求項8~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記イオン交換膜としてアニオン交換膜を用い、且つ前記電解水溶液としてアルカリ性電解水溶液を用いる請求項8~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記酸化反応電極が白金触媒を含む請求項8~12のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密部材のリークを効率的に検出することができるリークディテクターと方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、エアコンや冷蔵庫のコンプレッサーやその配管、車や航空機の燃料供給パイプ、半導体製造装置の高真空機器、化学プラントのプロセスガス配管、宇宙船などの気密保持は、製品の信頼性のみならず、人命や事故防止のためにも重要である。気密部材の製造工程では、パーツの繋ぎ工程や組み立て工程、更には製品に至るまで、気密漏れ(リーク)チェックが行われる。気密部材やこれを含む製品が完成してからリークが明らかになれば、廃棄や補修が必要になる。また、製品の完成後も、使用時における腐食、劣化、振動、疲労などによってリークが発生し得る。
【0003】
リークの検出方法としては、気密部材を水没させた状態で内圧を高めたり、気密部材の外表面に石鹸水を塗布して内圧を高めるといった簡単な方法もあるが、微小なリークの検出にはヘリウムを使う方法が用いられる。
【0004】
ヘリウムを使うリークの検出方法では、ヘリウムガスを外表面へ局所的に吹き付けつつ、気密部材の内部を減圧し、その排気ガスを質量分析器で分析する。ヘリウムは大気中にほとんど存在しないことから、気密部材にリークがあればヘリウムが質量分析器で検出される。ヘリウムは不活性であり、単原子であるため非常に小さく且つ極性も無く、微小な穴も通り抜けることができるため、ヘリウムリークディテクターの感度は最も高いといえる。一方、ヘリウムは高価であるし、質量分析器を備えるため装置が全体的に大がかりになるという問題がある。
【0005】
そこで、リーク検出のために、大気中濃度が5.2ppmであるヘリウムに比して0.5ppmと大気中濃度が更に低く、小分子であり、ヘリウムよりも安価な水素を用いることが考えられる。例えば特許文献1には、水素と窒素との混合ガスを配管内に供給し、配管の周辺の水素ガスの濃度の変化により漏水箇所を特定する漏水探索装置が開示されている。
【0006】
また、非特許文献1には、パラジウムやパラジウム-銀合金からなる水素透過金属膜を含み、可燃性ガスや水蒸気を含む雰囲気や、酸性またはアルカリ性の液体中など、従来方法では水素濃度測定が困難な過酷環境中でも水素濃度を測定可能な濃淡電池式水素センサが開示されている。特許文献2には、例えばC60(OSO3H)m(OH)nからなるプロトン伝導体の両面に白金担持カーボン電極形成されており、両電極間の電位差により誘起される電流量により両電極間の水素ガス濃度を測定する水素ガスセンサーが開示されている。特許文献3には、水素透過性の隔膜と、白金を含み水素を電気化学的に酸化する作用極と、対極を有する電気化学式センサが開示されている。特許文献4には、水素ガスに対する化学ポテンシャルが異なる電極と、これら電極に接触する電解質を含み、これら電極間に発生する起電力値に基づいて水素ガスを検出する水素ガスセンサーが開示されている。特許文献5には、プロトンと酸化物イオンを伝導するイオン伝導体を含む固体電解質と、水素の酸化反応に対して触媒作用を有する材料からなる電極を含む水素センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/132517号パンフレット
【特許文献2】特開2003-270200号公報
【特許文献3】特開平9-138215号公報
【特許文献4】国際公開第2005/80957号パンフレット
【特許文献5】特開2003-166972号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】木村浩隆ら,Materia Japan,第59巻第2号(2020),99-101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、水素を使ったリークディテクターや、水素を電気化学的に検出する水素センサが知られている。よって、水素を使ったリークディテクターにおいて、水素を電気化学的に検出することが考えられる。
しかし、かかる水素リークディテクターでも、水素を別途準備しなければならない。
そこで本発明は、気密部材のリークをより一層効率的に検出することができるリークディテクターと方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、酸化反応電極で水素を酸化し、還元反応電極でプロトンまたは水から水素を発生する電解水素ポンプを用いれば、水素を供給しつつ水素を極めて効率的に検出でき、リーク試験に用い得ることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0011】
[1] 酸化反応電極、イオン交換膜、還元反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含み、
前記イオン交換膜は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極に挟まれており、
前記電圧印加装置は、前記酸化反応電極に正の電圧を印加し、且つ前記還元反応電極に負の電圧を印加するものであり、
前記還元反応電極の少なくとも一部が前記電解水溶液と接しており、
前記酸化反応電極における検出すべき水素の電気化学的酸化反応により、前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間を移動する電荷を電流として計測することを特徴とするリークディテクター。
[2] 更に減圧装置を含む前記[1]に記載のリークディテクター。減圧装置により、被検機密部材の内部を減圧して内部気体を酸化反応電極へ効率的に供給したり、被検機密部材の外部表面付近の気体を酸化反応電極へ効率的に供給することが可能になる。
[3] 前記減圧装置が電解酸素ポンプである前記[2]に記載のリークディテクター。減圧装置として電解酸素ポンプを用いることによって、より効率的なリーク試験が可能になる。
[4] 更に加圧装置を含む前記[1]~[3]のいずれかに記載のリークディテクター。加圧装置により、還元反応電極側の電解水溶液から発生した水素を被検気密部材の外部表面へより効率的に供給したり、被検気密部材の内部をより効率的に加圧することが可能になる。
[5] 前記イオン交換膜がアニオン交換膜であり、且つ前記電解水溶液がアルカリ性電解水溶液である前記[1]~[4]のいずれかに記載のリークディテクター。アルカリ性電解水溶液を用いることにより、酸性電解水溶液を用いる場合に比して、セルの耐久性が向上する可能性がある。
[6] 前記酸化反応電極が白金触媒を含む前記[1]~[5]のいずれかに記載のリークディテクター。白金触媒は、水素を酸化するための電極触媒として非常に優れている。
[7] 更に、前記還元反応電極から生じた水素と不活性ガスを混合するための混合装置を含む前記[1]~[6]のいずれかに記載のリークディテクター。還元反応電極側の電解水溶液から発生した水素のみをリーク試験に用いると危険が伴うが、不活性ガスと混合することにより、より安全なリーク試験が可能になる。
【0012】
[8] 気密部材のリークを検出する方法であって、
電解水素ポンプの酸化反応電極に正の電圧を印加し、且つ還元反応電極に負の電圧を印加しつつ、前記気密部材の内部の気体を前記電解水素ポンプの前記酸化反応電極へ供給する工程、
前記電解水素ポンプの前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間の電圧または電流を測定する工程、及び、
前記電解水素ポンプの前記還元反応電極で生じる水素を含むガスを、前記気密部材の外表面に吹き付ける工程を含み、
前記電解水素ポンプは、前記酸化反応電極、イオン交換膜、前記還元反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含み、
前記イオン交換膜は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極に挟まれており、
前記電圧印加装置は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間に電圧を印加するものであり、
前記還元反応電極の少なくとも一部が前記電解水溶液と接していることを特徴とする方法。
[9] 気密部材のリークを検出する方法であって、
電解水素ポンプの酸化反応電極に正の電圧を印加し、且つ還元反応電極に負の電圧を印加しつつ、前記気密部材の外表面付近の気体を前記電解水素ポンプの前記酸化反応電極供給する工程、
前記電解水素ポンプの前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間の電圧または電流を測定する工程、及び、
前記電解水素ポンプの前記還元反応電極で生じる水素を含むガスにより、前記気密部材の内部を加圧する工程を含み、
前記電解水素ポンプは、前記酸化反応電極、イオン交換膜、前記還元反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含み、
前記イオン交換膜は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極に挟まれており、
前記電圧印加装置は、前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間に電圧を印加するものであり、
前記還元反応電極の少なくとも一部が前記電解水溶液と接していることを特徴とする方法。
[10] 前記酸化反応電極と前記還元反応電極との間の電圧を1.229V超にする前記[8]または[9]に記載の方法。酸化反応電極と還元反応電極との間の電圧を1.229V超にすることにより、電解水溶液の電気分解が可能になる。
[11] 前記気密部材の内部の気体を引き抜くために電解酸素ポンプを用いる前記[8]~[10]のいずれかに記載の方法。減圧装置として電解酸素ポンプを用いることによって、より効率的なリーク試験が可能になる。
[12] 前記イオン交換膜としてアニオン交換膜を用い、且つ前記電解水溶液としてアルカリ性電解水溶液を用いる前記[8]~[11]のいずれかに記載の方法。アルカリ性電解水溶液を用いることにより、酸性電解水溶液を用いる場合に比して、セルの耐久性が向上する可能性がある。
[13] 前記酸化反応電極が白金触媒を含む前記[8]~[12]のいずれかに記載の方法。白金触媒は、水素を酸化するための電極触媒として非常に優れている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ヘリウムよりも安価な水素を使って気密部材のリークを検出することができる。しかも、水素の検出と共に水素を製造できるため、水素を別途製造したり準備する必要は必ずしもない。また、本発明で必要な電力は非常に低く、低コストでの実施が可能である。よって本発明は、効率的なリーク検出手段として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、イオン交換膜としてカチオン交換膜を含む電解水素ポンプの模式図である。
【
図2】
図2は、減圧装置を含む本発明に係るリークディテクターの模式図である。
【
図3】
図3は、イオン交換膜としてアニオン交換膜を含む電解酸素ポンプの模式図である。
【
図4】
図4は、電解酸素ポンプと電解水素ポンプを直列に繋いだ模式図である。
【
図5】
図5は、被検気密部材の内部を加圧しつつ本発明に係るリークディテクターを使ってリークの有無を検出する態様を示す模式図である。
【
図6】
図6は、後記の実施例で作製したセルの模式図である。
【
図7】
図7は、後記の実施例で作製した電解水素ポンプシステムの模式図である。
【
図8】
図8は、後記の実施例で作製した電解水素ポンプシステムにおける測定された電流、水素検知計(燃料電池)の起電力(V
app)、及び循環ガス中の酸素濃度である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
先ず、本発明に係るリークディテクターにつき説明する。本発明に係るリークディテクターは、少なくとも、酸化反応電極、イオン交換膜、還元反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含む。
【0016】
イオン交換膜は、イオンを選択的に透過させる膜であり、大きく分けてアニオン交換膜とカチオン交換膜がある。アニオン交換膜の材質は、プラス電荷を有する官能基を有する高分子であり、カチオンはプラス電荷の反発を受けて透過できない一方で、アニオンのみ透過することができる。カチオン交換膜の材質は、マイナス電荷を有する官能基を有する高分子であり、アニオンはマイナス電荷の反発を受けて透過できない一方で、カチオンのみ透過することができる。アニオン交換膜の材質としては、例えば、トリメチルアンモニウム基を有するポリ[9,9-ビス(ヘキシル-9H-フルオレン)-alt-(1,4-ベンゼン)]が挙げられ、ベンゼン環はフルオロ基で置換されていてもよい。カチオン交換膜の材質としては、例えば、スルホ化されたポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0017】
イオン交換膜の厚さは適宜調整すればよいが、一般的には、5μm以上、1mm以下程度であり、10μm以上、500μm以下が好ましい。
【0018】
イオン交換膜は酸化反応電極と還元反応電極に挟まれており、酸化反応電極または還元反応電極における反応で生じたイオンを、還元反応電極または酸化反応電極へ送達する役割を有する。
【0019】
酸化反応電極では、水素が存在し、且つイオン交換膜がアニオン交換膜である場合には下記式(1)の反応が起こり、イオン交換膜がカチオン交換膜である場合には下記式(2)の反応が起こる。
(1) H2 + 2OH- → 2H2O + 2e-
(2) H2 → 2H+ + 2e-
また、酸化反応電極に水素が供給されない場合には、下記式(3)または下記式(4)の反応が起こることが考えられる。
(3) 2H2O → 4H+ + O2 +4e-
(4) 4OH- → 2H2O + O2 + 4e-
【0020】
なお、酸化反応電極に水素が供給されず、且つイオン交換膜がカチオン交換膜であるか、又は還元反応電極側の電解水溶液が酸性である場合には、酸化反応電極における上記式(3)の反応のために水が必要となる。イオン交換膜がアニオン交換膜であり、且つ還元反応電極側がアルカリ電解水溶液で満たされている場合には、上記式(1)および/または上記式(4)の反応が進行し、水が生成する。しかし、酸化反応電極に水素が十分に供給されず、且つ上記式(1)および上記式(4)の反応が進行しなかったり或いは十分に進行しない場合には、還元反応電極側の電解水溶液が酸化反応電極側に拡散し、上記式(3)の反応が進行すると考えられる。
【0021】
酸化反応電極としては、例えば、カーボンペーパー等の導電性カーボン材料などの導電性材料を用いることができる。
【0022】
酸化反応電極は、反応が円滑に進行するよう触媒を含むことが好ましい。酸化反応触媒としては、例えば、白金、白金と他の金属との合金、及びこれらの酸化物が挙げられる。白金と合金または酸化物を形成する白金以外の金属としては、特に制限されないが、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、銀、金、銅、ルテニウム、イリジウム、モリブデン、ロジウム、クロム、タングステン、及びマンガンから選択される1種類以上の金属が挙げられる。酸化反応触媒は、担体に担持されていてもよい。担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボン織布などの炭素材料;ジルコニア粒子などの金属酸化物粒子;PEDOT/PSS、ポリアニリン、ポリビロール等の導電性高分子が挙げられる。
【0023】
還元反応電極では水の電気分解が起こり、水素が発生する。酸性電解水溶液を用いる場合には主に下記式(5)の反応が起こると考えられ、アルカリ性電解水溶液を用いる場合には主に下記式(6)の反応が起こると考えられる。
(5) 4H+ + 4e- → 2H2
(6) 4H2O + 4e- → 2H2 + 4OH-
【0024】
還元反応電極では水の電気分解が起こるので、特に触媒を用いる必要はなく、還元反応電極の材料としては導電性のものを用いればよい。還元反応電極材料としては、例えば、炭素棒、カーボン織布、カーボンシート等の炭素材料;ステンレス、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料;ニッケル-クロム合金やニッケル-スズ合金などの合金材料が挙げられる。また、還元反応電極は、比表面積を大きくして反応を促進するために多孔質にしてもよく、更に酸化反応電極での反応に必要なイオンをイオン交換膜に受け渡すべく、連通孔を有するものであってもよい。ここで連通孔とは、還元反応電極の表面から裏面まで孔が連続的に連なっていることをいうものとする。
【0025】
本発明においては、還元反応電極側で水を電気分解して水素を発生させるため、酸化反応電極と還元反応電極との間に電圧を印加する。水の電気分解は、理論的には1.229V超、実際には1.5V以上で起こるため、印加電圧としては1.5V以上が好ましい。印加電圧の上限は特に制限されず、印加電圧が大きいほど水の電気分解効率は高くなるが、装置が大がかりになることを抑制するために、100V以下が好ましい。当該印加電圧としては、50V以下がより好ましく、20V以下がより更に好ましい。
電圧印加装置は特に制限されず、定電圧を印加できるものである限り、印加電圧に応じて適宜選択すればよい。
【0026】
本発明においては、還元反応電極側で水を電気分解して水素を発生させるため、還元反応電極の少なくとも一部が電解水溶液と接している。電解水溶液は、水の電気分解反応が十分に進行する程度に還元反応電極と接触していればよいが、例えば、電解水溶液を送液ポンプによりセルの還元反応電極側へ送り、セルの還元反応電極側を電解水溶液で満たしておくことが好ましい。電解水溶液とは、導電性のためのイオンを含む水溶液をいい、酸性電解水溶液またはアルカリ性電解水溶液のいずれであってもよい。酸性電解水溶液に用いられる酸としては、例えば、塩化水素、硫酸、硝酸、過塩素酸などの無機酸;及び、酢酸、クエン酸などの有機酸が挙げられ、アルカリ性電解水溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物が挙げられる。また、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム等の塩類を添加してもよい。但し、酸性電解水溶液に比べて、アルカリ性電解水溶液を用いる方がセルの寿命が長くなる可能性がある。
【0027】
図1に示されるように、セルの還元反応電極側が電解水溶液に満たされていてもよい。しかし、
図6に示されるように、陽圧の電解水溶液および/またはガスを、電極に接触した管を介して送達し、拡散層を有する電極や多孔質の電極内に拡散させることにより、反応をより効率的に進行せしめてもよい。
図1のように、各電極側に電解水溶液貯留槽やガス貯留槽を設ける場合でも、陽圧で電解水溶液および/またはガスを送達することにより、拡散層を有する電極や多孔質の電極内へ電解水溶液および/またはガスを同様に、反応をより効率的に進行せしめることができる。
【0028】
電解水溶液における酸やアルカリの濃度は、水の電気分解が良好に進行し、且つ装置の耐久性が十分な範囲で適宜調整すればよいが、例えば、0.001mol/L以上、10mol/L以下に調整することができる。
【0029】
なお、本発明では、前記イオン交換膜、酸化反応電極、還元反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含む装置は、酸化反応電極で水素を消費し且つ還元反応電極で水素を発生させることから、「電解水素ポンプ」という場合がある。イオン交換膜としてカチオン交換膜を用いた電解水素ポンプの模式図を
図1に示す。
図1に示す通り、酸化反応電極に水素ガスが供給されると、酸化されてプロトンが生じる。生じたプロトンはカチオン交換膜を透過し、還元反応電極で還元されて水素ガスになる。また、イオン交換膜、酸化反応電極、及び還元反応電極の積層体の各電極の外側には、集電極を設けてもよい。集電極の材質としては、例えば、導電性に優れ且つ腐食や劣化し難いステンレスを用いることができる。
【0030】
本発明のリークディテクターは、電解水素ポンプの還元反応電極から生じた水素と不活性ガスを混合するための混合装置を含むことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウムやアルゴン等の希ガスや、窒素を用いることができる。水素と不活性ガスとの混合ガスにおける水素の濃度は、爆発などの危険が無い範囲で適宜調整すればよいが、例えば、1v/v%以上、10v/v%以下程度とすることができ、5±1v/v%程度が好ましい。かかる気体は、ポンプを使って、又は加圧して試験すべき気密部材の外表面へ局所的に吹き付けるか、或いは加圧して気密部材内部へ吹き込む。なお、前記濃度は、混合ガス中における水素ガスの分圧の割合ではなく、混合前における水素と不活性ガスの合計体積に対する水素の体積の割合をいうものとする。例えば、5v/v%水素ガスは、水素ガスと不活性ガスを5:95(v:v)の割合で混合したガスをいうものとする。
【0031】
本発明に係るリークディテクターは、還元反応電極で生じた水素を含む気体を加圧するための加圧装置を含むことが好ましい。かかる気体としては、前述した水素と不活性ガスを含む混合気体が好ましい。
【0032】
加圧された前記気体は、試験すべき気密部材の外表面へ局所的に吹き付けるか、或いは気密部材の内部へ供給して気密部材内部を加圧する。気体を気密部材の外表面に吹き付ける場合の気体の圧力としては、1kPa以上、1MPa以下程度でよい。或いは、気体を気密部材の外表面に吹き付けられれば十分であるので、この場合には加圧装置として単にポンプを用いてもよい。
【0033】
前記気体で試験すべき気密部材の内部を加圧する場合には、気体の圧力を100kPa以上、10MPa以下程度に加圧することが好ましい。当該圧力が100kPa以上であれば、気密部材にクラック等が存在すると内部気体が外部に流出し易くなり、延いてはリークがより確実に検出され易くなる。一方、かかる効果は飽和する可能性があるので、当該圧力としては10MPa以下が好ましく、5MPa以下がより好ましい。
【0034】
前記気体の加圧装置は、所望の圧力などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、ダイヤフラム加圧ポンプが挙げられる。
【0035】
本発明に係るリークディテクターは、減圧装置を含むことが好ましい。かかる減圧装置は、気密部材の内部を減圧し、気密部材内部の気体を酸化反応電極へ供給する。また、気密部材外部表面付近の気体を吸引し、酸化反応電極へ供給することにも使用できる。減圧装置を含む本発明に係るリークディテクターの一例の模式図を
図2に示す。
図2に示す通り、気密部材の内部を減圧した上で、水素を含む気体を外表面へ局所的に吹き付ければ、気密部材にクラック等が存在すると、水素が気密部材の内部に侵入する。よって、気密部材内部の気体を電解水素ポンプの酸化反応電極へ供給すれば、気体に水素が含まれていると水素が反応して電子が発生し、電極間の電圧や電流に変化が生じるため、リークを検出することができる。
【0036】
気密部材内を減圧する場合の内部圧力としては、10kPa以上、100kPa以下程度が好ましい。当該圧力が100kPa以下であれば、気密部材のリークをより確実に検出できるといえ、当該圧力が10kPa以上であれば、比較的低コストで本発明を実施することができる。気密部材の外部表面の気体を酸化反応電極へ供給する場合には、送気可能な程度の減圧性能でよい。
【0037】
減圧装置は、気密部材におけるリークの有無を有効に検査できる程度に気密部材の内部を減圧できればよい。減圧装置としては、所望の減圧度などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、ダイアフラムポンプ、スクロールポンプ、アスピレーター、ロータリーポンプ(油回転ポンプ)、メカニカルブースター、ドライポンプ、スクロールポンプが挙げられる。
【0038】
その他、減圧装置として、電解酸素ポンプを用いてもよい。電解酸素ポンプであれば、水の電気分解が起こる程度の電圧を電極間に印加するのみで、気密部材の内部の空気の酸素を消費することにより、おおよそ酸素分圧分を減圧することができ、気密部材内部の圧力を約0.8気圧に減圧できる。
【0039】
電解酸素ポンプは、還元反応電極、イオン交換膜、酸化反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含み、前記イオン交換膜は、前記還元反応電極と前記酸化反応電極に挟まれており、前記電圧印加装置は、前記還元反応電極に負の電圧を印加し、且つ前記酸化反応電極に正の電圧を印加するものであり、前記酸化反応電極の少なくとも一部が前記電解水溶液と接しているものである。イオン交換膜としてアニオン交換膜を含む電解酸素ポンプの模式図を
図3に示す。
図3に示す通り、還元反応電極に酸素を含むガスが供給されると、酸素が還元されて水酸化物イオンが生じる。生じた水酸化物イオンはアニオン交換膜を透過し、酸化反応電極で酸化されて酸素になる。
【0040】
即ち、イオン交換膜としてアニオン交換膜を含む電解酸素ポンプの還元反応電極では下記式(7)の反応が起こり、酸化反応電極では下記式(8)の反応が起こる。
(7) 2H2O + O2 + 4e- → 4OH-
(8) 4OH- → 2H2O + O2 + 4e-
【0041】
また、イオン交換膜としてカチオン交換膜を含む電解酸素ポンプの還元反応電極では下記式(9)の反応が起こり、酸化反応電極では下記式(10)の反応が起こる。
(9) 4H+ + O2 + 4e- → 2H2O
(10) 2H2O → 4H+ + O2 + 4e-
【0042】
また、
図4に示すように、電解酸素ポンプと電解水素ポンプを直列に繋ぎ、気密部材の内部気体を電解酸素ポンプの還元反応電極へ供給して酸素分圧分を減圧した後、得られた脱酸素ガスを電解水素ポンプの酸化反応電極へ供給し、水素の有無を試験した後、循環ガスとして気密部材へ循環することができる。
【0043】
被験気密部材の内部と電解水素ポンプの酸化反応電極側を管などで接続し、減圧装置により内部を減圧して密閉した後、被験気密部材の外表面へ水素を含む気体を局所的に吹き付けると、被験気密部材にクラック等が存在する場合には、クラック等から被験気密部材内部に侵入した水素が電解水素ポンプで検出される。しかしこの場合、クラック等が大きいと、水素を含む気体がクラック等へ吹き付けられる前に大気が内部へ侵入し、内部を改めて減圧する必要が生じることがある。よって、被験気密部材の内部と電解水素ポンプの酸化反応電極側を繋ぐ経路上に減圧装置を設置し、被験気密部材の内部を減圧しつつ、減圧装置の排気ガスを電解水素ポンプの酸化反応電極側へ供給して水素の侵入の有無、延いてはクラック等の有無を試験することが好ましい。
【0044】
また、気密部材に電解水素ポンプと電解酸素ポンプを並列に繋ぐことも考えられる。水素の平均自由行程は酸素に比べて非常に速く、システム内の酸素濃度に比べて水素濃度の勾配は小さいと考えられるので、気密部材に電解水素ポンプと電解酸素ポンプを並列に繋いでも、気密部材の内部を電解酸素ポンプにより減圧しつつ、クラック等により外部から内部に侵入する水素を電解水素ポンプにより検出できる可能性がある。
【0045】
本発明に係るリークディテクターは、
図5に示す通り、被検気密部材の内部を水素含有ガスで加圧しつつ、被検気密部材の外部表面付近の気体を酸化反応電極へ供給することにより、リークの有無を検出することもできる。かかる態様における好適な被検気密部材の内部圧力や加圧装置などは、前述した通りである。
【0046】
次に、本発明に係る気密部材のリークの検出方法につき説明する。
1.電解水素ポンプによる水素の製造工程
本工程では、前記電解水素ポンプを使って、水素を製造する。
前述した通り、電解水素ポンプは、酸化反応電極、イオン交換膜、還元反応電極、電圧印加装置、及び電解水溶液を含み、イオン交換膜は酸化反応電極と前記還元反応電極に挟まれており、電圧印加装置は酸化反応電極と還元反応電極との間に電圧を印加するものであり、還元反応電極の少なくとも一部が電解水溶液と接している。この電極間に、理論的に1.229V超、実際には1.5V以上の電圧を印加すれば、還元反応電極において水が電気分解され、水素が発生する。この水素を利用すれば、より低コストで本発明方法を実施することができる。当該電圧としては、100V以下が好ましく、50V以下がより好ましく、20V以下がより更に好ましい。
【0047】
2.気密部材の内部気体の供給工程
本工程では、電解水素ポンプの酸化反応電極と還元反応電極との間に電圧を印加しつつ、気密部材の内部の気体を電解水素ポンプの酸化反応電極へ供給する。本工程は、気密部材の内部を減圧してリークの有無を試験する場合に実施する。気密部材の内部を加圧してリークの有無を試験する場合には本工程は実施せず、代わりに後記の工程3を実施する。
【0048】
酸化反応電極と還元反応電極との間に印加すべき電圧は、前記工程1と同様に、1.229V超に調整することができ、1.5V以上が好ましい。かかる電圧の上限は特に制限されないが、前記工程1と同様に、100V以下が好ましく、50V以下がより好ましく、20V以下がより更に好ましい。
【0049】
気密部材の内部の気体の酸化反応電極への供給方法として、気密部材と電解水素ポンプの酸化反応電極側を管などで連結した上で、減圧してもよい。その結果、気密部材の内部と酸化反応電極側とで気体が共有されることになる。或いは、気密部材の内部を減圧装置で減圧しつつ、その排気ガスを酸化反応電極側へ供給してもよい。また、減圧装置として前記の電解酸素ポンプを用い、電解酸素ポンプの還元反応電極で気密部材の内部気体中の酸素を消費して消費酸素分を減圧し、その還元反応電極側排気ガスを電解水素ポンプの酸化反応電極へ供給してもよい。
【0050】
3.気密部材の外部気体の供給工程
本工程では、電解水素ポンプの酸化反応電極と還元反応電極との間に電圧を印加し、且つ水素を含む気体で気密部材の内部を加圧しつつ、気密部材の外表面付近の気体を電解水素ポンプの酸化反応電極へ供給する。気密部材の内部へ供給する水素としては、電解水素ポンプの還元反応電極側で生成した水素を用いることができる。本工程は、気密部材の内部を加圧してリークの有無を試験する場合に実施する。気密部材の内部を減圧してリークの有無を試験する場合には本工程は実施せず、代わりに前記工程2を実施する。
【0051】
酸化反応電極と還元反応電極との間に印加すべき電圧は、前記工程1と同様に、1.5V以上が好ましい。かかる電圧の上限は特に制限されないが、前記工程1と同様に、100V以下が好ましく、50V以下がより好ましく、20V以下がより更に好ましい。
【0052】
気密部材の外表面付近の気体の酸化反応電極への供給方法としては、例えば、減圧装置を使って気密部材の外表面付近の気体を吸入し、その排気ガスを酸化反応電極側へ供給すればよい。前述したように、かかる減圧装置として電解酸素ポンプを用い、その還元反応電極側排気ガスを電解酸素ポンプの酸化反応電極へ供給してもよい。気密部材の外表面付近の気体の吸入は、リークを検出するために行うため、気密部材の外表面から局所的に満遍無く行う。
【0053】
4.電圧/電流の測定工程
本工程では、電解水素ポンプの酸化反応電極と還元反応電極との間の電圧または電流を測定する。また、電圧および電流の両方を測定してもよい。
気密部材へ水素を供給していない状態では、大気中の水素濃度は通常0.5ppmと非常に低く且つ一定であるため、電解水素ポンプの酸化反応電極と還元反応電極との間の電圧としては、印加電圧がそのまま測定されると考えられ、測定電流値は一定になると考えられる。
【0054】
一方、後記の通り、気密部材へ水素を供給し且つ気密部材にクラック等が存在する場合には、電解水素ポンプの酸化反応電極に水素が供給されることになり、電圧と電流に変化が観察される。詳しくは後述する。
【0055】
5.気密部材への水素の吹き付け工程
本工程では、電解水素ポンプの還元反応電極で生じる水素を含むガスを、気密部材の外表面に吹き付ける。本工程は、気密部材の内部を減圧してリークの有無を試験する場合に実施する。気密部材の内部を加圧してリークの有無を試験する場合には本工程は実施せず、代わりに後記の工程6を実施する。
【0056】
電解水素ポンプから生じる水素の量が十分であれば、当該水素を加圧したり或いはポンプを使ったりして、気密部材の外表面に満遍無く局所的に吹き付ける。但し、水素のみを用いると爆発のおそれがあり得るため、不活性ガスと混合して用いることが好ましい。かかる混合ガスにおける水素の割合としては、例えば、前述した通り1v/v%以上、10v/v%以下程度とすることができ、5±1v/v%程度が好ましい。また、電解水素ポンプから生じる水素の量が十分でない場合には、水素を別途追加してもよい。この場合であっても、電解水素ポンプから生じる水素を利用できるため、実施コストを低減することが可能である。なお、電解水素ポンプによる水素の生成量は、電極間の印加電圧により調整することができる。
【0057】
気密部材の外表面に吹き付ける水素の量としては、リークが検出できる範囲で適宜調整すればよいが、例えば、1mL/min以上、1000mL/min以下とすることができる。当該流量が1mL/min以上であれば、被検気密部材のリークをより確実に検出することが可能になり得る。一方、目視で発見できないような微細なクラック等の検出には、前記流量としては1000mL/min以下で十分である。前記流量としては、10mL/min以上、100mL/min以下が好ましい。
【0058】
水素含有ガスは、被検気密部材の気密部材の外表面に満遍無く局所的に吹き付けるようにする。被検気密部材にクラック等が存在すれば、そこから水素含有ガスに含まれる水素が内部に吸引され、延いては電解水素ポンプの酸化反応電極に供給されて反応する。
【0059】
前記工程2により気密部材の内部の気体を電解水素ポンプの酸化反応電極へ供給し且つ、本工程により水素含有ガスを気密部材の外表面に吹き付けつつ、前記工程4により電解水素ポンプの酸化反応電極と還元反応電極との間の電圧または電流を測定する。被検気密部材にクラック等が存在すれば、そこから被検気密部材の内部に水素が侵入し、電解水素ポンプの酸化反応電極に供給されて反応する。その結果、酸化反応電極から水素の反応分の電子が発生し、酸化反応電極-還元反応電極間の電圧および電流に変化が生じる。即ち、当該電圧および/または電流の変化により、被検気密部材のリークを検出することが可能になる。
【0060】
6.気密部材内部の水素による加圧工程
本工程では、電解水素ポンプの還元反応電極で生じる水素を含むガスにより、気密部材の内部を加圧する。なお、気密部材の内部を減圧してリークの有無を試験する場合には本工程は実施せず、代わりに前記工程5を実施する。
【0061】
被検気密部材の内部を加圧するための気体は、水素のみであってもよい。当該気体に対する水素濃度が高いほど、より高感度でのリーク検出が可能になり得る。しかし、高濃度水素の使用は危険である場合があり得るため、前述した通り、使用する水素含有ガスの水素濃度としては1v/v%以上、10v/v%以下程度とすることができ、5±1v/v%程度が好ましい。また、電解水素ポンプから生じる水素の量が十分でない場合には、水素を別途追加してもよい。
【0062】
気密部材の内部の圧力としては、リークが検出できる範囲で適宜調整すればよいが、例えば、0.1MPa以上、1MPa以下程度とすることができる。当該圧力が0.1MPa以上であれば、被検気密部材のリークをより確実に検出することが可能になり得る。一方、目視で発見できないような微細なクラック等の検出には、前記圧力としては1MPa以下で十分である。前記圧力としては、0.11MPa以上、0.5MPa以下が好ましい。
【0063】
本工程により水素含有ガスにより被検気密部材の内部を加圧し、且つ前記工程3により気密部材の外表面付近の気体を電解水素ポンプの酸化反応電極へ供給しつつ、前記工程4により電解水素ポンプの酸化反応電極と還元反応電極との間の電圧または電流を測定する。被検気密部材にクラック等が存在すれば、内部から漏れ出した水素が吸入されて電解水素ポンプの酸化反応電極へ供給され、酸化反応電極から水素の反応分の電子が発生し、酸化反応電極-還元反応電極間の電圧および電流に変化が生じる。即ち、当該電圧および/または電流の変化により、被検気密部材のリークを検出することが可能になる。
【実施例0064】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0065】
実施例1
(1)電解水素ポンプシステムの組み立て
図6に示すように、アニオン交換膜(「ASE-5142」ASTM社製)の両面を、還元反応電極として多孔質ニッケル板(「セルメット
(R)」住友電工社製)と酸化反応電極として拡散層付き白金黒担持カーボンペーパー(「TGP-H-60」ケミックス社,白金黒担持量:1mg/cm
2)で挟み、気密を保つためガスケットを用いてセルの両面を樹脂製板により密閉した。このセルの電極面積は1cm
2であった。
前記セルを用いて、
図7に示す電解水素ポンプシステムを組み立てた。ポンプとしては、ダイアフラムポンプ(「ハンディーポンプ DSC-2F-12W」電装産業社製)を用い、セル電圧とセル電流は、データロガー(「GK240」GRAPHTECH社製)を用いて測定および記録した。
【0066】
(2)予備実験
図7の50mL容量容器に約40mLの水素を入れ、酸化反応電極-還元反応電極間に3.0Vの電圧V
curを印加し、電解水素ポンプを稼働した。測定された電流、水素検知計(燃料電池)の起電力(V
app)、及び循環ガス中の酸素濃度を
図8に示す。
図8に示される結果の通り、水素濃度は徐々に減少し、30分後に急激に減少した。電流は水素濃度よりも早く減少し、30分後にはほぼ定常電流値となった。酸素濃度は、逆に徐々に上昇した後、30分を経過した後に急激に上昇した。
よって、被検気密部材中に水素が存在すれば、本発明に係る電解水素ポンプシステムを用いて、電流値の変化として検出できることが示された。また、
図8の通り、被検気密部材中、水素が無くなれば、電流値の変化は抑制された。
なお、本実験では容器から電解水素ポンプシステムの酸化反応電極側の気体のみにおける水素濃度などの変化を測定したが、実際には還元反応電極側で発生した水素を被検気密部材のリークの検出に用いることができる。
また、循環ガス中、水素の急激な減少に伴って酸素濃度が上昇したのは、気密部材内の水素が消費され、酸化反応電極において水素の酸化反応の代わりに水酸化物イオン及び/又は水から酸素が発生する反応が起こったことによると考えられる。但し、水素の酸化反応に比べて酸素の発生反応は起こり難いので、3.0Vの定電圧下では、水素の存在時に比べて、水素の非存在時では反応の指標となる電流は低く抑えられている。