(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089576
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】撹拌装置、撹拌翼
(51)【国際特許分類】
B01F 27/90 20220101AFI20230621BHJP
【FI】
B01F7/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204174
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】502369746
【氏名又は名称】住友重機械プロセス機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】中野 皓介
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 寛
【テーマコード(参考)】
4G078
【Fターム(参考)】
4G078AA03
4G078AA13
4G078AA30
4G078AB20
4G078BA05
4G078DA01
4G078EA10
(57)【要約】
【課題】流体の撹拌と排出をバランス良く行える撹拌装置等を提供する。
【解決手段】撹拌装置1は、流体を収容し、その底部22に設けられる排出口221から当該流体を排出可能な撹拌槽2と、回転によって撹拌槽2内の流体を撹拌する撹拌翼3であって、その下部32と撹拌槽2の底部22の距離が排出口221から撹拌槽2の側壁側に向かうにつれて大きくなる撹拌翼3と、を備える。撹拌翼3の下部32の最大径d
3は、撹拌槽2の径Dの0.3倍以上0.7倍以下とするのが好ましく、撹拌槽2の径Dの0.35倍以上0.5倍以下とするのが更に好ましい。撹拌翼3は、下部32の最大径d
3より小さい径d
2の小径部332を下部32の上方に備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を収容し、その底部に設けられる排出口から当該流体を排出可能な撹拌槽と、
回転によって前記撹拌槽内の流体を撹拌する撹拌翼であって、その下部と前記撹拌槽の底部の距離が前記排出口から前記撹拌槽の側壁側に向かうにつれて大きくなる撹拌翼と、
を備える撹拌装置。
【請求項2】
前記撹拌翼の下部の径は、前記排出口から上方に向かうにつれて大きくなる、請求項1に記載の撹拌装置。
【請求項3】
前記撹拌翼の下部の最大径は、前記撹拌槽の径の0.3倍以上0.7倍以下である、請求項1または2に記載の撹拌装置。
【請求項4】
前記撹拌翼の下部の最大径は、前記撹拌槽の径の0.35倍以上0.5倍以下である、請求項3に記載の撹拌装置。
【請求項5】
前記撹拌翼は、前記下部の最大径より小さい径の小径部を当該下部の上方に備える、請求項1から4のいずれかに記載の撹拌装置。
【請求項6】
前記撹拌翼の径は、前記下部の上端から前記小径部に向かうにつれて小さくなる、請求項5に記載の撹拌装置。
【請求項7】
前記小径部の径は、前記撹拌槽の径の0.1倍以上0.3倍以下である、請求項5または6に記載の撹拌装置。
【請求項8】
前記小径部は、前記撹拌翼の下部の上方に複数設けられる、請求項5から7のいずれかに記載の撹拌装置。
【請求項9】
上下に隣接する前記小径部の対に関して、前記撹拌翼の径は、下方の前記小径部から上方の前記小径部に向かうにつれて大きくなった後に小さくなる、請求項8に記載の撹拌装置。
【請求項10】
前記撹拌翼は、前記小径部から上方に向かうにつれて径が大きくなる上方テーパ部を備える、請求項5から9のいずれかに記載の撹拌装置。
【請求項11】
前記上方テーパ部の回転面を側面とし前記小径部の回転面を頂面とする円錐台の頂角は、40度以上65度以下である、請求項10に記載の撹拌装置。
【請求項12】
底部に排出口が設けられる撹拌槽内の流体を回転によって撹拌する撹拌翼であって、その下部と前記撹拌槽の底部の距離が前記排出口から前記撹拌槽の側壁側に向かうにつれて大きくなる撹拌翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撹拌装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、撹拌対象の流体を収容する撹拌槽を備え、その底部に設けられる排出口から撹拌された流体を排出可能な撹拌装置が開示されている。撹拌装置には、回転によって撹拌槽内の流体を撹拌する撹拌翼が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の撹拌装置では、撹拌槽の底部が排出口を最下部とする漏斗状または逆円錐状に形成されており、それに沿って撹拌翼の下部が配置される。このような撹拌翼を回転させると、撹拌槽の排出口から側壁側に向かう外側への流体の流れが発生しうる。この流れによって固体が排出されずに液体のみが排出されると、流体の密度が高くなる可能性がある。また、流体の排出を促進するために底部の円錐形状の頂角を小さくすることも考えられるが、流体が撹拌翼によって十分に撹拌されない状態で排出されてしまう可能性がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、流体の撹拌と排出をバランス良く行える撹拌装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の撹拌装置は、流体を収容し、その底部に設けられる排出口から当該流体を排出可能な撹拌槽と、回転によって撹拌槽内の流体を撹拌する撹拌翼であって、その下部と撹拌槽の底部の距離が排出口から撹拌槽の側壁側に向かうにつれて大きくなる撹拌翼と、を備える。
【0007】
この態様では、撹拌翼が回転すると、排出口から撹拌槽の側壁側に向かって、撹拌槽の底部に沿う下方の流れと、当該底部から徐々に離間する撹拌翼の下部に沿う上方の流れが生じる。これらの流れが撹拌槽の側壁付近で衝突することで外側への速度が失われるため、撹拌された流体は内側の排出口に向かって徐々に移動して適切に排出される。
【0008】
本発明の別の態様は、撹拌翼である。この撹拌翼は、底部に排出口が設けられる撹拌槽内の流体を回転によって撹拌する撹拌翼であって、その下部と撹拌槽の底部の距離が排出口から撹拌槽の側壁側に向かうにつれて大きくなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流体の撹拌と排出をバランス良く行える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】下部の最大径を変えた複数の撹拌翼によって排出フェーズにおける流体の撹拌と排出を行った際の、液面が各上下位置に達した時に排出されるスラリー状の流体の濃度を測定した結果を示す。
【
図3】下部の最大径を変えた複数の撹拌翼によって排出フェーズにおける流体の撹拌と排出を行った際の、液面が各上下位置に達した時に排出されるスラリー状の流体の濃度を測定した結果を示す。
【
図4】下部の最大径を変えた複数の撹拌翼によって排出フェーズにおける流体の撹拌と排出を行った際の、液面が各上下位置に達した時に排出されるスラリー状の流体の濃度を測定した結果を示す。
【
図5】一般的な撹拌翼によって排出フェーズにおける流体の撹拌と排出を行った際の、液面が各上下位置に達した時に排出されるスラリー状の流体の濃度を測定した結果を示す。
【
図6】一般的な撹拌翼によって排出フェーズにおける流体の撹拌と排出を行った際の、液面が各上下位置に達した時に排出されるスラリー状の流体の濃度を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記述される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る撹拌装置1の縦断面図である。本実施形態では、撹拌装置1が
図1の上下方向または縦方向である鉛直方向に設置されるものとし、上下方向、縦方向、鉛直方向を同義的に使用すると共に、左右方向、横方向、水平方向を同義的に使用する。なお、本発明は鉛直方向に設置されない撹拌装置1にも適用可能であり、そのような場合には上下方向、縦方向と鉛直方向が異なり左右方向、横方向と水平方向が異なる。また、後述するように、上下方向、縦方向、鉛直方向には撹拌翼3の回転軸31が設けられるため、上下方向、縦方向、鉛直方向を軸方向ともいう。更に、左右方向、横方向、水平方向は撹拌槽2や撹拌翼3の径を定めるため、左右方向、横方向、水平方向を径方向ともいう。
【0013】
撹拌装置1は、撹拌対象の流体を収容する撹拌槽2と、撹拌槽2内の流体を撹拌する撹拌翼3を備える。撹拌槽2は、上方に設けられて軸方向に延在する円管状の直胴部21と、直胴部21と連続するように下方に設けられる底部22を備える。直胴部21の内周壁は上面視で円状の断面を有し、その直径Dを以下では撹拌槽2の径Dともいう。直胴部21の上方の少なくとも一部は撹拌対象の流体を投入できるように開口されており、撹拌翼3による流体の撹拌中や排出中には不図示の蓋等によって閉塞可能になっている。
【0014】
撹拌槽2の底部22は、直胴部21の下端から下方に膨出する湾曲形状に形成されている。底部22の中央には、湾曲形状の膨出端によって撹拌槽2の最下部が形成され、撹拌槽2内の流体を撹拌装置1外に排出可能な排出口221が設けられる。排出口221は、不図示のバルブ等の排出口開閉部によって開閉可能に構成される。撹拌槽2に撹拌対象の流体を投入して保持させる際や排出前の流体を撹拌翼3によって撹拌して濃度を均一化する際は閉状態に制御されたバルブ等が排出口221を閉じ、濃度が均一化された後の排出対象の流体を撹拌翼3によって撹拌しながら排出する際は開状態に制御されたバルブ等が排出口221を開ける。
【0015】
円管状の直胴部21と曲面状の底部22の水平方向の境界線であるタンジェントラインTLと、排出口221による排出を始める前の撹拌槽2内の流体の表面または液面LLの間の鉛直方向の距離Tを以下では基準高さTともいう。
【0016】
図1の紙面に垂直な方向を法線方向とする平板状の撹拌翼3は、撹拌槽2の鉛直方向の中心軸と略一致する鉛直方向の回転軸31の周りに回転可能に設けられる。回転軸31の不図示の上方には、回転動力を発生させるモータ等の回転駆動部や、当該回転動力を所望の回転数(または回転速度)やトルクに変換する変速機等の回転動力変換部が設けられる。なお、必要に応じて複数枚の撹拌翼3を回転軸31に設けてもよい。撹拌翼3は、主に二つのフェーズで有意に異なる単位体積当たりの撹拌動力Pv[kW/m
3]を生成するように、回転軸31に連結されたモータおよび/または変速機によって異なる態様で回転駆動される。
【0017】
第1のフェーズは排出口221が閉じられた状態における撹拌フェーズであり、例えば0.08[kW/m3]と0.10[kW/m3]の間の比較的大きいPvを生成するように撹拌翼3が比較的高速で回転駆動される。この撹拌フェーズでは、比較的大きい撹拌動力によって効果的に撹拌、粉砕、微細化、混合された撹拌槽2内の流体の濃度が後続の排出フェーズの前に均一化される。第2のフェーズは排出口221が開けられた状態における排出フェーズであり、例えば0.005[kW/m3]と0.03[kW/m3]の間の比較的小さいPvを生成するように撹拌翼3が比較的低速で回転駆動される。この排出フェーズでは、比較的小さい撹拌動力によって先の撹拌フェーズで均一化された濃度を効果的に維持しながら、排出口221を通じて所望濃度の流体を排出させる。
【0018】
以上のような撹拌装置1によれば、撹拌フェーズと排出フェーズの二つの連続するフェーズを通じて、撹拌槽2内での撹拌と撹拌槽2外への排出を任意の流体(液体)を対象として行える。但し、以下で具体的に説明する形状の撹拌翼3は、密度が高いスラリー状の流体(例えば、粒子状の固体を含む粒子状スラリーやフィルム状の固体を含むフィルム状スラリー)に適用するのが好ましく、特に、繊維長が0.5mmと20mmの間(好ましくは10mm程度)、繊維径が5μmと1000μmの間(好ましくは200μm程度)の繊維状の固体を含む繊維状スラリーに適用するのが好ましい。
【0019】
撹拌翼3には、下方から上方に向かって、下部32、くびれ部33、上端部34が順に形成されている。後述するように、撹拌翼3の下部32があれば、撹拌翼3によって撹拌された流体が所望の濃度を維持したまま排出口221から排出される。この作用はくびれ部33によって増進されるが、本発明の最低限の作用を奏する上ではくびれ部33を撹拌翼3に設けることは必須ではない。下部32は、上方から下方に向かって、先細形状またはテーパ状に形成される。下部32の上端部321は、タンジェントラインTLと略一致するように配置され、撹拌翼3全体の下端部でもある下部32の下端部322は、排出口221と距離bを間に挟んで対向する。以下で説明する撹拌翼3の撹拌および排出の作用を促進する上では距離bを小さくするのが好ましいが、距離bを小さくし過ぎると例えば粘度の高い流体が排出されずに詰まってしまう可能性もある。そこで、撹拌および排出の対象の流体の特性や、排出口221および/または下端部322の大きさや形状に応じた最適な距離bが設定される。図示されるように、撹拌翼3の下端部322および撹拌槽2の底部22の排出口221は、撹拌翼3の回転軸31の延長線上に整列配置される。
【0020】
撹拌翼3の下部32と撹拌槽2の底部22の軸方向の距離は、中央の排出口221から撹拌槽2の側壁を構成する直胴部21側に向かうにつれて大きくなる。具体的には、撹拌翼3の下部32と撹拌槽2の底部22の軸方向の距離は、排出口221が設けられる中央で最小値bとなり、排出口221からの径方向の距離に略比例して略直線状または略線型に増加する。なお、撹拌翼3の下部32の上端部321および下端部322が直線状のテーパ部323によって連結される一方で、撹拌槽2の底部22の形状は下に凸な緩やかな曲線を描くため、両者の軸方向の距離は厳密には線型に増加しないが少なくとも単調には増加する。なお、撹拌翼3の下部32のテーパ部323は直線状に限らず、上に凸または下に凸な曲線状や折れ線状でもよく、撹拌槽2の底部22も
図1とは異なる曲線状または水平方向等の直線状でもよい。
【0021】
また、撹拌翼3の下部32の径(横方向の寸法)は、排出口221に対向する下端部322から上端部321に向かうにつれて直線状または線型に大きくなる。このため、撹拌翼3の下部32の径は上端部321において最大となる。この撹拌翼3の下部32の最大径d3は、後述するように、撹拌槽2の径Dの0.3倍以上0.7倍以下(0.3D≦d3≦0.7D)とするのが好ましく、撹拌槽2の径Dの0.35倍以上0.5倍以下(0.35D≦d3≦0.5D)とするのが更に好ましい。
【0022】
撹拌翼3の下部32の上方に設けられるくびれ部33は、下部32の上端部321から上方に向かって径が徐々に小さくなる下方テーパ部331と、当該下方テーパ部331より上方に向かって径が徐々に大きくなる上方テーパ部333と、下方テーパ部331および上方テーパ部333を接続する小径部332を備える。小径部332の軸方向の中心のタンジェントラインTLからの高さtは、0以上基準高さTの0.5倍以下とするのが好ましい(0≦t≦0.5T)。また、くびれ部33の径は小径部332において最小となる。この小径部332の径(くびれ部33の最小径)d2は、撹拌槽2の径Dの0.1倍以上0.3倍以下(0.1D≦d2≦0.3D)とするのが好ましく、撹拌槽2の径Dの0.2倍以上0.3倍以下(0.2D≦d2≦0.3D)とするのが更に好ましい。また、小径部332の径(くびれ部33の最小径)d2は、下部32の最大径d3より小さい(d2<d3)。なお、図示の例では、下方テーパ部331および上方テーパ部333が共に直線状であるが、一方および両方は上に凸または下に凸な曲線状や折れ線状でもよい。
【0023】
排出口221による流体の排出を始める前の撹拌フェーズ等における液面LLは、小径部332と上端部34の間、具体的には上方テーパ部333にある。液面LLにおける撹拌翼3(上方テーパ部333)の径d1は、撹拌槽2の径Dの0.4倍以上0.6倍以下(0.4D≦d1≦0.6D)とするのが好ましく、撹拌槽2の径Dの0.45倍以上0.5倍以下(0.45D≦d1≦0.5D)とするのが更に好ましい。また、液面LLにおける撹拌翼3の径d1は、小径部332の径d2より大きい(d1>d2)。また、液面LLにおける撹拌翼3の径d1は、下部32の最大径d3より大きくてもよい(d1>d3)。液面LLより上方に延びる上方テーパ部333の上端部34は、撹拌翼3の水平な上端を構成してもよい。
【0024】
撹拌翼3の上端部34の径は、液面LLにおける撹拌翼3の径d1、小径部332の径d2、撹拌翼3の下部32の最大径d3のいずれよりも大きい。撹拌翼3の径は、小径部332から上方テーパ部333を介して上端部34に向かうにつれて大きくなる。上方テーパ部333の回転面を側面とし、または、上端部34の回転面を底面とし、小径部332の回転面を頂面とする逆円錐台の頂角r1または二つの上方テーパ部333がなす角は、40度以上65度以下(45°≦r1≦65°)とするのが好ましく、50度以上55度以下(50°≦r1≦55°)とするのが更に好ましい。また、頂角r1は、下部32の上端部321の回転面を底面とし小径部332の回転面を頂面とする円錐台の頂角r2または二つの下方テーパ部331がなす角より小さくするのが好ましい(r1<r2)。
【0025】
以上のような構成または形状の撹拌翼3の下部32が排出フェーズにおいて比較的低速で回転すると、排出口221から撹拌槽2の側壁側(直胴部21側)に向かって、撹拌槽2の底部22に沿う下方の流れF1Lと、当該底部22から徐々に離間する撹拌翼3の下部32に沿う上方の流れF1Hが生じる。これらの流れF1L、F1Hが撹拌槽2の側壁付近で衝突することで外側への速度が失われるため、撹拌された流体は所望の濃度を維持したまま内側の排出口221に向かって徐々に移動して適切に排出される。
【0026】
このような作用は撹拌翼3の下部32(テーパ部323)と撹拌槽2の底部22の形状が異なっているからこそ生じるものであり、換言すれば本実施形態では特許文献1のように撹拌翼の下部と撹拌槽の底部の形状を同じにする必要がない。従って、本実施形態によれば、撹拌槽2の底部22の形状に合わせて撹拌翼3の下部32の形状を調整する必要がなくなるため、底部22の形状が異なる様々な撹拌槽2に適用できる汎用的な撹拌翼3を提供できる。
【0027】
撹拌翼3の下部32と同様に、くびれ部33が排出フェーズにおける液面LLが比較的高い状態、例えば液面LLが上方テーパ部333に位置する状態において比較的低速で回転すると、小径部332から撹拌槽2の側壁側(直胴部21側)に向かって、下方テーパ部331に沿う下方の流れF2Lと、当該下方テーパ部331から徐々に離間する上方テーパ部333に沿う上方の流れF2Hが生じる。これらの流れF2L、F2Hが撹拌槽2の側壁付近で衝突することで外側への速度が失われるため、撹拌された流体は所望の濃度を維持したまま下方に徐々に移動して排出口221から適切に排出される。
【0028】
本発明者の検討の結果、以上のような構成または形状の撹拌翼3の各種のパラメータのうち、撹拌翼3の下部32の最大径d
3が、排出フェーズにおける液面LLが比較的低い状態、例えば液面LLがテーパ部323に位置する状態における流体の撹拌(あるいは均一濃度の維持)と排出をバランス良く行う上で最も重要であることが見出された(その他のパラメータは上記の範囲内である限り作用に有意な変化は見られなかった)。
図2~
図4は、下部32の最大径d
3を変えた複数の撹拌翼3によって排出フェーズ(撹拌動力Pv=0.01[kW/m
3])における流体の撹拌と排出を行った際の、液面LLが各上下位置(No.1-10)に達した時に排出されるスラリー状の流体の濃度(スラリー濃度)を測定した結果を示す。
図2では下部32の最大径d
3が0.42Dであり、
図3では下部32の最大径d
3が0.25Dであり、
図4では下部32の最大径d
3が0.74Dである。撹拌槽2の上下位置は「No.1」で液面LLが最も高く、「No.10」が底部22の排出口221に最も近い。また、上下位置「No.6」がタンジェントラインTLに一致する。
【0029】
図2(d
3=0.42D)では、液面LLが「No.1」から「No.10」の各位置に達した時のスラリー濃度が略一定になっており、撹拌翼3による流体の撹拌(あるいは均一濃度の維持)と排出が極めて良いバランスで行われていることが分かる。
図3(d
3=0.25D)では、スラリー濃度がタンジェントラインTL下で上昇した後に徐々に低下するという大きな変動が確認された。これは、液面LLが下部32の上端部321より低くなると、下部32による流体の撹拌が十分ではなくなり、流体中の固体が優先的に排出されたことによって、以降のスラリー濃度が低下しているためと考えられる。
図4(d
3=0.74D)では、スラリー濃度がタンジェントラインTL下で極端に増加し、撹拌槽2の底部22に繊維状スラリーの堆積が確認された。これは、液面LLが下部32の上端部321より低くなると、下部32による流体の撹拌が強過ぎるために流体中の固体が排出されず、液体が優先的に排出されたことによって、以降のスラリー濃度が上昇しているためと考えられる。以上のような検討の結果、撹拌翼3の下部32の最大径d
3は、撹拌槽2の径Dの0.3倍以上0.7倍以下(0.3D≦d
3≦0.7D)とするのが好ましく、撹拌槽2の径Dの0.35倍以上0.5倍以下(0.35D≦d
3≦0.5D)とするのが更に好ましいとの結論が得られた。
【0030】
図5および
図6は、一般的な撹拌翼である二段パドル翼およびBB(ブルブレンド)翼によって、それぞれ排出フェーズ(撹拌動力Pv=0.08, 0.10[kW/m
3])における流体の撹拌と排出を行った際の、液面LLが各上下位置(No.1-10)に達した時に排出されるスラリー状の流体の濃度(スラリー濃度)を測定した結果を比較例として示す。
図5(二段パドル翼)では、液面LLが排出口221に最も近い「No.10」の位置に達した時に排出されるスラリー濃度が極度に低下しており、流体の濃度が均一に維持されない、または、流体が排出口221から適切に排出されないことが分かる。
図6(BB翼)では、液面LLが排出口221に最も近い「No.10」の位置に達した時に排出されるスラリー濃度が極度に上昇しており、高濃度の流体が排出口221から排出されずに堆積していることが分かる。
【0031】
図7は、
図1の撹拌装置1の変形例の縦断面図である。
図1と同様の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。本変形例に係る撹拌翼3は、基準高さTが大きい場合、例えば、基準高さTが0.4Dを超える場合に好適であり、複数のくびれ部33、33′を上下に備える。第1くびれ部33の上端部334(および第2くびれ部33′の下端部)は、
図1の液面LLに対応して上記の径d
1を有する。下方の第1くびれ部33の上方に設けられる第2くびれ部33′は、第1くびれ部33と同様の構成および形状を備える。
【0032】
具体的には、第2くびれ部33′は、第1くびれ部33の上端部334から上方に向かって径が徐々に小さくなる第2下方テーパ部331′と、第2下方テーパ部331′と連続するように上方に伸びる第2小径部332′と、第2小径部332′から上方に向かって径が徐々に大きくなる第2上方テーパ部333′を備える。第2小径部332′の径(第2くびれ部33′の最小径)d2′は、第1小径部332の径(第1くびれ部33の最小径)d2と等しい。このように、上下に隣接する小径部332、332′の対に関して、撹拌翼3の径は、下方の第1小径部332から上方の第2小径部332′に向かうにつれて、第1上方テーパ部333を通じて大きくなった後に第2下方テーパ部331′を通じて小さくなる。
【0033】
排出口221による流体の排出を始める前の撹拌フェーズ等における液面LLは、第2小径部332′と上端部34の間、具体的には第2上方テーパ部333′にある。液面LLにおける撹拌翼3(第2上方テーパ部333′)の径d1′は、第1くびれ部33の上端部334の径d1と等しくてもよい。第2上方テーパ部333′の回転面を側面とし第2小径部332′の回転面を頂面とする逆円錐台の頂角r1′または二つの第2上方テーパ部333′がなす角は、第1くびれ部33の上端部334の回転面を底面とし第1小径部332の回転面を頂面とする逆円錐台の頂角r1または二つの第1上方テーパ部333がなす角と等しくてもよい。
【0034】
以上のような構成または形状の撹拌翼3が排出フェーズにおいて比較的低速で回転すると、下部32および第1くびれ部33において
図1で示したような上下の流れF1L、F1H、F2L、F2Hが生じると同時に、第2くびれ部33′においても第1くびれ部33と同様の上下の流れが生じる。これらの上下の流れが撹拌槽2の側壁付近で衝突することで外側への速度が失われるため、撹拌された流体は所望の濃度を維持したまま下方に徐々に移動して排出口221から適切に排出される。
図7ではくびれ部33が二つ設けられたが、基準高さTが更に大きい場合はくびれ部33を三つ以上設けてもよい。
【0035】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0036】
1 撹拌装置、2 撹拌槽、3 撹拌翼、21 直胴部、22 底部、31 回転軸、32 下部、33 くびれ部、221 排出口、323 テーパ部、331 下方テーパ部、332 小径部、333 上方テーパ部。