(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008958
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】慢性創傷改善促進剤
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20230112BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20230112BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230112BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20230112BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20230112BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20230112BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230112BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230112BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230112BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230112BHJP
【FI】
C12N1/20 E ZNA
C12Q1/06
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6851 Z
A61K35/74 A
A61K35/74 D
A61K35/744
A61P17/02
A61P43/00 121
G01N33/15 Z
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106065
(22)【出願日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2021111143
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日 2021年7月3日から2021年7月5日(Web開催) 2021年7月6日から2021年7月30日(オンデマンド配信) 集会名、開催場所 第30回日本創傷・オストミー・失禁管理学会学術集会(Web開催及びオンデマンド配信)
(71)【出願人】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 頼子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】尾田 友香
(72)【発明者】
【氏名】平田 善彦
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
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4B065AA01X
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4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087BC70
4C087CA09
4C087CA10
4C087MA02
4C087MA63
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZC75
(57)【要約】
【課題】慢性創傷改善促進を提供する。
【解決手段】アネロコッカス属菌、及びペプトニフィラス属菌、及びフィネゴルディア・マグナよりなる群から選択される少なくとも1種の菌又はその培養物を含有する、慢性創傷改善促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、及びフィネゴルディア・マグナよりなる群から選択される少なくとも1種の菌又はその培養物を含有する、慢性創傷改善促進剤。
【請求項2】
さらにエンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の菌又はその培養物を含有する、請求項1に記載する慢性創傷改善促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載する慢性創傷改善促進剤を含有する、皮膚外用組成物。
【請求項4】
下記の工程を有する、被験物質から慢性創傷改善促進剤の有効成分をスクリーニングする方法:
(1)被験物質を、慢性創傷部の滲出液、採取組織又はそれらを含む組成物に添加して培養する工程、
(2)培養後、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の有益菌の増殖が認められた場合の被験物質を、慢性創傷改善促進剤の有効成分の候補物質として決定する工程。
【請求項5】
前記(1)工程の前または(1)工程の時に、慢性創傷部の滲出液、採取組織又はそれらを含む組成物に、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の有益菌を添加する工程を有する、請求項4に記載する方法。
【請求項6】
前記(2)の工程後または並行して、下記の工程を有する、請求項4または5に記載する方法:
(3)培養後、スタフィロコッカス・アウレウス菌の増殖が認められなかった場合の被験物質を、慢性創傷改善促進剤の有効成分の候補物質として決定する工程。
【請求項7】
下記の工程を有する、慢性創傷部の予後の決定方法:
(1)慢性創傷部細菌叢におけるアネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の有益菌の存在量を測定する工程、
(2)前記有益菌を含む菌叢と、慢性創傷の改善或いは悪化・停滞との対応関係に基づき、予後を予測する工程。
【請求項8】
さらに下記の工程を有する、請求項7に記載する決定方法:
(3)慢性創傷部細菌叢におけるスタフィロコッカス・アウレウスの存在量を測定する工程、及び
(4)前記菌を含む菌叢と、慢性創傷の改善或いは悪化/停滞との対応関係に基づき、予後を予測する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は慢性創傷改善促進剤に関する。また慢性創傷の改善を促進する作用を有する物質を簡便に取得するために有効なスクリーニング方法に関する。さらに慢性創傷部の予後を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚には、腸に次いで多くの細菌が生息しており、凡そ1000種類相当、1兆個の常在菌が皮膚常在細菌叢を形成している。近年、この皮膚常在細菌叢の個人差が、皮膚の恒常的維持や疾患に関与していることが報告されている。健康な人間の皮膚は、弱酸性であり、このpH調整は、皮膚のあらゆる部位にいる表皮ブドウ球菌スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)などが抗菌作用のある脂肪酸を作り、弱アルカリ性を好む黄色ブドウ球菌スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)の増殖を抑制することによって成り立っている。このように、皮膚常在細菌叢内には、皮膚機能に対して良好な作用をもたらす有用菌と悪影響をもたらす有害菌とが共存している。例えば、アトピー性皮膚炎患者の皮膚病態部には、黄色ブドウ球菌が優位に存在し、増悪期は皮膚細菌叢の多様性が低下し、黄色ブドウ球菌の割合が増加することが知られている。このため、皮膚において、適切な環境を整え、有益な菌を増やし、多様性を向上することは、有害菌の菌数を抑えることにも繋がり、皮膚細菌叢を改善し、健康な皮膚を維持していくことに繋がる。
【0003】
治療開始後、数週間以上も治らない創傷を慢性創傷、潰瘍を慢性皮膚潰瘍と称するが、慢性創傷のうち60~100%はバイオフィルム内に細菌が定着していることや慢性皮膚潰瘍には膨大な細菌負荷がかかっていることが報告されている。近年、マイクロバイオーム解析の技術が飛躍的に進歩し、慢性皮膚潰瘍の細菌叢が治癒の進行や遅延に関連することが報告されている。例えば、非特許文献1には、糖尿病患者の慢性創傷部位、非創傷部位、並びに健常者の皮膚の細菌叢解析の結果、細菌層の多様性は、健常者皮膚>糖尿病患者非創傷部位皮膚>糖尿病患者創傷部位皮膚の順に減少していることが報告されている。また非特許文献2には、糖尿病足病性潰瘍患者の菌叢分析から菌叢コミュニティの不安定性が、治癒の速さと転帰の改善に関わることが報告されている。
【0004】
しかしながら、皮膚創部細菌叢は複雑であるため、治癒遅延メカニズムの解明に繋げることは難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gardiner M et al., A longitudinal study of the diabetic skin and wound microbiome. PeerJ 2017; 5: e3543.
【非特許文献2】Loesche M et al., Temporal stability in chronic wound microbiota is associated with poor healing. Journal of Investigative Dermatology 2017; Jan; 137(1): 237-244.
【非特許文献3】東佳那子 他, 進化する次世代シーケンサーによる腸内細菌叢の解析. 腸内細菌学雑誌2015; 29: 135-144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、慢性創傷の治癒を促進するために有効に利用できる慢性創傷改善促進剤を提供することを課題とする。とりわけ難治性皮膚潰瘍である褥瘡の治癒を促進するために有効な慢性創傷改善促進剤を提供することを課題とする。また、慢性創傷の改善を促進する作用を有する物質を簡便に取得するために有効なスクリーニング方法を提供することを課題とする。さらに慢性創傷部の予後を決定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、慢性創傷の一つである、難治性皮膚潰瘍(褥瘡)の滲出液細菌叢を次世代シーケンサーで解析した結果と、褥瘡の予後(治癒経過:悪化・停滞又は改善)との関連を機械学習により検討した結果、治癒改善がみられる褥瘡滲出液細菌叢には、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、又は/及びスタフィロコッカス・エピデルミディスが有意に存在すること、一方、治癒悪化・停滞がみられる褥瘡滲出液細菌叢には、スタフィロコッカス・アウレウスが有意に存在することを見出し、創傷細菌叢におけるこれらの菌の存在が慢性創傷の治癒経過(予後)に深く関係していることを確認した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて、さらに検討を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
(I)慢性創傷改善促進剤、及びそれを含有する外用組成物
(I―1)アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、及びフィネゴルディア・マグナよりなる群から選択される少なくとも1種の菌又はその培養物を含有する、慢性創傷改善促進剤。
なお、本慢性創傷改善促進剤は、前記菌又はその培養物に代えて、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、及びフィネゴルディア・マグナよりなる群から選択される少なくとも1種の菌の増殖を促進するもの(プレバイオティクス)、菌体を含まない菌の培養上清や培養濾過液(代謝産物などを含む、ポストバイオティクス)を含有するものであってもよい。
(I-2)さらにエンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の菌又はその培養物を含有する、(I-1)に記載する慢性創傷改善促進剤。
また、前記菌又はその培養物に代えて、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の菌の増殖を促進するもの(プレバイオティクス)、菌体を含まない菌の培養上清や培養濾過液(代謝産物などを含む、ポストバイオティクス)を含有するものであってもよい。
(I-3)(I-1)又は(I-2)に記載する慢性創傷改善促進剤を含有する、皮膚外用組成物。
(I-4)前記皮膚外用組成物が、皮膚洗浄料、好ましくは創部若しくは創周囲の皮膚洗浄料、又は皮膚に適用する医薬品、医薬部外品、若しくは化粧品である、(I-3)に記載する皮膚外用組成物。
【0009】
(II)慢性創傷改善促進剤の有効成分のスクリーニング方法
(II-1)下記の工程を有する、被験物質から慢性創傷改善促進剤の有効成分をスクリーニングする方法:
(1)被験物質を、慢性創傷部の滲出液、採取組織又はそれらの少なくとも1種を含む組成物に添加して培養する工程、
(2)培養後、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の有益菌の増殖が認められた場合の被験物質を、慢性創傷改善促進剤の有効成分の候補物質として決定する工程。
(II-2)前記(1)工程の前または(1)工程の時に、慢性創傷部の滲出液、採取組織又はそれらの少なくとも1種を含む組成物に、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の有益菌を添加する工程を有する、(II-1)に記載する方法。
(II-3)前記(2)の工程後または並行して、下記の工程を有する、(II-1)または(II-2)に記載する方法:
(3)培養後、スタフィロコッカス・アウレウス菌の増殖が認められなかった場合の被験物質を、慢性創傷改善促進剤の有効成分の候補物質として決定する工程。
【0010】
(III)慢性創傷部の予後の決定方法
(III-1)下記の工程を有する、慢性創傷部の予後の決定方法:
(1)慢性創傷部細菌叢におけるアネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の有益菌の存在量を測定する工程、
(2)前記有益菌を含む菌叢と、慢性創傷の改善或いは悪化・停滞との対応関係に基づき、予後を予測する工程。
(III-2)さらに下記の工程を有する、(III-1)に記載する決定方法:
(3)慢性創傷部細菌叢におけるスタフィロコッカス・アウレウスの存在量を測定する工程、
(4)前記菌を含む菌叢と、慢性創傷の改善或いは悪化・停滞との対応関係に基づき、予後を予測する工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、慢性創傷の改善を促進するために有用な慢性創傷改善促進剤、及びそれを含有する皮膚外用組成物を提供することができる。特に本発明によれば、慢性皮膚潰瘍に該当する褥瘡の改善の促進に有効な慢性創傷改善促進剤、及びそれを含有する皮膚外用組成物を提供することができる。
また本発明によれば、慢性創傷の改善を促進する作用を有する物質を簡便に取得するために有効なスクリーニング方法を提供することができる。
さらに本発明によれば、慢性創傷部の予後を決定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実験例で行った解析サンプル(対象者5名)の情報(DESIGN-R値、1週間の創面積減少率、治癒経過)を示す図である。
【
図2】実験例で行った解析手順の概略を示す図である。
【
図3】実験例で行ったANCOM解析の結果を示す図である。(B)は(A)で得られた結果を纏めたものである。
【
図4】実験例で行ったOPLS-DA判別分析の結果を示す図である。(B)は(A)で得られた結果を纏めたものである。
【
図6】OPLS-DA判別分析モデル構築とテストデータによる予測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(I)慢性創傷改善促進剤、及びそれを含有する外用組成物
本発明の慢性創傷改善促進剤は、アネロコッカス属菌(Anaerococcus属菌)、ペプトニフィラス属菌(Peptoniphilus属菌)、及びフィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)よりなる群から選択される少なくとも1種の菌又はその培養物を含有することを特徴とする。
【0014】
当該アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、及びフィネゴルディア・マグナは、これらの生息環境として報告されている種々の環境より採取された試料から分離して用いることもできるし、市販菌株や寄託菌株を用いることもできる。寄託菌株としては、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手することができる。
【0015】
アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、及びフィネゴルディア・マグナは、常法により培養することができる。例えば、アネロコッカス属菌は、Modified chopped meat medium(ATCC 1490)やGAM寒天培地を用いて温度30~37℃、pH4~9、嫌気条件で培養することが可能である。またペプトニフィラス属菌は、Modified chopped meat medium(ATCC 1490)やGAM寒天培地、トリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培地を用いて温度30~37℃、pH4~9、嫌気条件で培養することが可能である。さらにフィネゴルディア・マグナは、トリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培地を用いて温度30~37℃、pH4~9、嫌気条件で培養することが可能である。
【0016】
本発明においてこれらの菌は生菌であることが好ましいが、死菌であってもよい。また生菌と死菌とを含むものであってもよい。さらに、本発明の慢性創傷改善促進剤は、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、及びフィネゴルディア・マグナよりなる群から選択される少なくとも1種の菌の培養物を含有するものであってもよい。
ここで、培養物とは前述した方法等により培養して得られたアネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、及びフィネゴルディア・マグナよりなる群から選択される少なくとも1種の菌の代謝産物を含む組成物である。すなわち、培養物として、前記菌の代謝産物、培地成分及び菌体を含む組成物をそのまま用いることもできるし、該組成物から前記菌の代謝産物を含む画分を、濾過、遠心分離、抽出などの方法により、分離、精製したものを用いることもできる。また、培養物は濃縮、乾燥工程を経たものであってもよい。
【0017】
本発明の慢性創傷改善促進剤は、少なくとも慢性創傷の改善を促進する作用を有する。ここで「改善」の用語には、創傷状態の悪化の抑制、及び/又は創傷の治癒が含まれる。また、対象とする慢性創傷が褥瘡の場合、「改善」には、被験試料採取時点の翌週のDESING-R値の変化≦0かつ1週間後の創面積減少率が10%以上であることが含まれる。
【0018】
「慢性創傷」とは、6週間以上続く、あるいは繰り返す皮膚損傷である。創傷治癒を遅らせるファクターは数多くあり、慢性疾患、血管不全、糖尿病、神経損傷、栄養障害、老化、また局所因子として圧迫、感染、浮腫などが関与することが知られている。
当該慢性創傷には、慢性皮膚潰瘍が含まれる。慢性皮膚潰瘍とは、正常ならば皮膚にできた創(きず)が治るものが、感染、血管障害、知覚障害などの創が治るのを阻害する因子があるために、治り難い潰瘍状態になったものである。その原因には、外傷、糖尿病、放射線照射、動脈硬化症や静脈うっ滞といった末梢血管病変、膠原病(リウマチなど)等があるが、原因に制限されるものではない。慢性皮膚潰瘍のうち、好ましくは褥瘡である。褥瘡は、体の一定の場所に、一定時間以上、一定以上の圧力が加わって皮膚が虚血性壊死に陥った状態である。
【0019】
本発明の慢性創傷改善促進剤には、前述するアネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、及びフィネゴルディア・マグナよりなる群から選択される少なくとも1種の菌又はその培養物に加えて、さらにエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、及びスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)よりなる群から選択される少なくとも1種の菌又はその培養物を配合することができる。
【0020】
当該エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスは、これらの生息環境として報告されている種々の環境より採取された試料から分離して用いることもできるし、市販菌株や寄託菌株を用いることもできる。寄託菌株としては、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手することができる。
【0021】
エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスは、常法により培養することができる。例えば、エンテロコッカス・フェカリスは、ブレインハートインフュージョン培地を用いて温度30~37℃、pH4~9、好気条件で培養することが可能である。また、スタフィロコッカス・エピデルミディスは、ブイヨン培地を用いて温度30~37℃、pH4~9、好気条件で培養することが可能である。また、これらの菌は、アネロコッカス属菌等と同様に、Modified chopped meat medium(ATCC 1490)やGAM寒天培地を用いて温度30~37℃、pH4~9、嫌気条件で培養することも可能である。
【0022】
本発明においてこれらの菌は生菌であることが好ましいが、死菌であってもよい。また、生菌と死菌とを含むものであってもよい。さらに本発明の慢性創傷改善促進剤は、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の菌の培養物を含有するものであってもよい。ここで、培養物とは前述した方法等により培養して得られたエンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の菌の代謝産物を含む組成物である。すなわち、培養物として、前記菌の代謝産物、培地成分及び菌体を含む組成物をそのまま用いることもできるし、該組成物から前記菌の代謝産物を含む画分を、濾過、遠心分離、抽出などの方法により、分離、精製したものを用いることもできる。また、培養物は濃縮、乾燥工程を経たものであってもよい。
【0023】
本発明の慢性創傷改善促進剤は、皮膚外用組成物の形態に調製することができる。皮膚外用組成物としては、例えば、皮膚洗浄料、特に皮膚創傷部や創傷周囲を洗浄するために使用される洗浄料、並びに化粧料、皮膚外用医薬部外品、皮膚外用医薬品等を挙げることができる。皮膚外用組成物は、創傷が慢性化することを防止するために使用されるものであってもよい(創傷の慢性化予防用組成物)。また、普段から菌叢を整えておくために健常皮膚に適用されるものであってもよい。本発明の慢性創傷改善促進剤を皮膚外用組成物の形態として提供する場合、前述する菌以外の成分やその組成は特に限定されず、本発明の効果を損ねない限度において、用途や形態に応じて通常使用される任意成分を含有することができる。
【0024】
こうした皮膚外用組成物は、ヒトを含む哺乳動物に適用することができる。制限されないものの、好ましくは皮膚に創傷部を有する哺乳動物であり、より好ましくは当該創傷部が慢性化している哺乳動物である。洗浄料、化粧料、皮膚外用医薬部外品、及び皮膚外用医薬品の別や適用形態(噴霧、塗布、貼付など)としては、被験者の皮膚の症状や状態等に応じて、適時選択することができる。
【0025】
本発明の皮膚外用組成物におけるアネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、又は/及びフィネゴルディア・マグナの菌体の配合量は、皮膚外用組成物の剤形によって異なるが、1回あたりの塗布により、好ましくは各々が1×108個以上、より好ましくは1×109個以上の肌への適用量となるよう設計することができる。
【0026】
また本発明の皮膚外用組成物が、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、又は/及びフィネゴルディア・マグナに加えて、エンテロコッカス・フェカリス、又は/及びスタフィロコッカス・エピデルミディスを含む場合、エンテロコッカス・フェカリス、又は/及びスタフィロコッカス・エピデルミディスの菌体の配合量は、皮膚外用組成物の剤形によって異なるが、1回あたりの塗布により、好ましくは各々が1×108個以上、より好ましくは1×109個以上の肌への適用量となるよう設計することができる。
【0027】
本発明の皮膚外用組成物のヒトを含む哺乳動物への適用は、毎日若しくは数日間に1回行うことができ、継続して適用することが好ましい。本発明の皮膚外用組成物を継続して適用する場合の適用期間は、好ましくは2週間以上、より好ましくは3週間以上、さらに好ましくは4週間以上である。
【0028】
(II)慢性創傷改善促進剤の有効成分のスクリーニング方法
本発明は、被験物質から慢性創傷改善促進剤の有効成分をスクリーニングする方法であり、当該方法は下記に工程を有することを特徴とする:
(1)被験物質を、慢性創傷部の滲出液、採取組織又はそれらの少なくとも1種を含む組成物に添加して培養する工程、
(2)培養後、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の有益菌の増殖の有無を測定し、増殖が認められた場合の被験物質を、慢性創傷改善促進剤の有効成分の候補物質として決定する工程。
上記方法は、(1)工程の前または(1)工程の時に、前記慢性創傷部の滲出液、採取組織又はそれらの少なくとも1種を含む組成物に、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の有益菌を添加して、実施する方法であってもよい。
【0029】
(1)の工程の培養方法は、創傷部の状態を再現する条件下で行うことが好ましい。例えば、好気条件だけでなく、創傷被覆材で覆われていることを想定して微好気条件や嫌気条件で、pH4~9、温度20~40℃の条件を例示することができる。
被験物質の存在下で慢性創傷部の滲出液、採取組織又はそれらの少なくとも1種を含む組成物を培養する前と培養した後に、アネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の有益菌の菌体数を測定し、培養後の菌体数が培養前の菌体数よりも多くなった場合、つまり、有益菌の増殖が認められた場合に、その被験物質は、これらの有益菌を慢性創傷部で増殖させる作用が有するプレバイオティクであると判断される。
これらの菌体数はコロニーカウンター法で測定することができる。
【0030】
さらに本発明のスクリーニング方法は、前記(2)の工程後または並行して、下記の工程を有する方法であってもよい。
(3)培養後、スタフィロコッカス・アウレウス菌の増殖の有無を測定し、増殖が認められなかった場合の被験物質を、慢性創傷改善促進剤の有効成分の候補物質として決定する工程。
被験物質の存在下で慢性創傷部の滲出液、採取組織又はそれらを含む組成物を培養する前と培養した後に、スタフィロコッカス・アウレウスの菌体数を測定し、培養後の菌体数が培養前の菌体数と同等またはそれよりも少なくなった場合、その被験物質は、慢性創傷の治癒に有害なスタフィロコッカス・アウレウスの慢性創傷部での増殖を抑制する作用が有するプレバイオティクであると判断される。
この菌体数もコロニーカウンター法で測定することができる。
【0031】
(III)慢性創傷部の予後の決定方法
本発明は、下記の工程を有する、慢性創傷部の予後の決定方法に関する。
(1)慢性創傷部細菌叢におけるアネロコッカス属菌、ペプトニフィラス属菌、フィネゴルディア・マグナ、エンテロコッカス・フェカリス、及びスタフィロコッカス・エピデルミディスよりなる群から選択される少なくとも1種の有益菌の存在量を測定する工程、
(2)前記有益菌を含む菌叢と、慢性創傷の改善或いは悪化・停滞との対応関係を測定し、得られた対応関係に基づき、予後を予測する工程。
具体的には、ある時点での褥瘡滲出液から採取した細菌DNAを用いてメタ16S解析したデータを説明変数とし、目的変数である慢性創傷の改善或いは悪化・停滞との対応をOPLS-DA判別分析モデルとして構築する。この時、目的変数の中でも、前記有益菌のVIP値が>1.5の重要因子として得られる。構築したモデルのQ2Yが0.4以上の値であることを確認した上で、予後を予測したい慢性創傷の菌叢データをこのモデルに当てはめることで、その慢性創傷の「改善」或いは「悪化・停滞」の予測結果が出力される。
【0032】
上記方法は、さらに下記の工程を有するものであってもよい。
(3)慢性創傷部細菌叢におけるスタフィロコッカス・アウレウスの存在量を測定する工程、
(4)前記菌を含む菌叢と、慢性創傷の改善或いは悪化・停滞との対応関係を測定し、得られた対応関係に基づき、予後を予測する工程。
この工程も、前記と同様に、ある時点での褥瘡滲出液から採取したスタフィロコッカス・アウレウスのDNAを用いてメタ16S解析したデータを説明変数とし、目的変数である慢性創傷の改善或いは悪化・停滞との対応をOPLS-DA判別分析モデルとして構築する。この時、目的変数の中でも、前記有害菌のVIP値が>1.5の重要因子として得られる。構築したモデルのQ2Yが0.4以上の値であることを確認した上で、予後を予測したい慢性創傷の菌叢データをこのモデルに当てはめることで、その慢性創傷の「改善」或いは「悪化・停滞」の予測結果が出力される。
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0033】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
以下の実験は、東京大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を得て実施した。
【0034】
実験例1
下記の褥瘡患者を対象として、治癒経過から、下記の基準に基づいて2つに分類した。
[対象者] 長期療養型病院に入院しII度以上の褥瘡を保有する高齢患者のうち、2週間に亘って褥瘡回診の対象となった者5名(ID7、ID20、ID17、ID21、ID22-1)。
[治癒経過の分類]
-悪化/停滞(bad):
・翌週(2週目)のDESIGN-Rスコアが増加した褥瘡
・翌週(2週目)のDESIGN-Rスコアが0以下で、1週間の創面積減少率が10%未満の褥瘡
-改善(imp):
・上記以外の褥瘡。
【0035】
【0036】
また解析手順を
図2に示す。
[DNA抽出]
褥瘡滲出液(100μL~1mL程度)からQIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN)を用いてDNAを回収した。
【0037】
[PCR]
上記DNA(-80℃保管可能)から、目的遺伝子領域のPCR(1st PCR)、サンプル毎のタグ付け(2nd PCR)を行った。細菌特有の16S rRNA遺伝子には保存領域(多くの生物種で配列保存度の高い領域)と可変領域(特定の生物種やその近縁種で固有の配列領域、V1~V9)があるが、今回は論文(非特許文献3:東佳那子 他, 進化する次世代シーケンサーによる腸内細菌叢の解析. 腸内細菌学雑誌2015; 29: 135-144)を基に、可変領域のV3-V4領域をPCR法により増幅した。
【0038】
PCRプライマー(5’→3’)
・1st PCR_V3V4for
(ACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCTCCTACGGGRS
※1
GCAGCAG):配列番号1
※1 R(AorG)、S(CorG)
・1st PCR_V3V4rev
(GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTATTCCGATCTGGACTACHV
※2
GGGTATCTAAT):配列番号2
※2 H(AorCorT)、V(AorCorG)
for position 341-357/rev position 787-806がV3V4外側で指定した。
・2nd PCR Forwardプライマー(Fasmac指定のものを使用)
・2nd PCR Reverseプライマー(Fasmac指定のものを使用)
【0039】
使用した試料および試薬
・Qubit4.0(Thermo Fisher Scientific)
・dsDNA BR Assay Kit(100回分、Q32850)
・PCR用酵素:KOD-Plus-Neo(Toyobo)、10×PCR Buffer for KOD -Plus-(Toyobo)、2 mM dNTPs(Toyobo)1mL、25 mM MgSO4(Toyobo)1mL
・PCR grade water(Roche)
・Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)
・Agencourt AMPure XP(BECKMAN COULTER)
・マグネットスタンドMABI-Mag200
・サーマルサイクラー:Applied Biosystems Veriti 96-Well Thermal Cycler
・ヌクレアーゼフリー滅菌済みチューブ(WATSON)
【0040】
[シーケンサーでの配列読み取り]
・作製した16S rRNA遺伝子アンプリコンを、次世代シーケンサーMiSeq(イルミナ)にて読み取った。(Fasmac社にて実施)
【0041】
[データ処理]
・MiSeqから得られたfastqファイルを使用し、QIIME2 DOCS(QIIME2の公式ユーザードキュメントhttps://docs.qiime2.org/2020.8/)を参考にデータ行列を作成した。パイプラインのバージョンはQIIME2-2020.8、参照配列はsilva 138を使用した。
・得られたデータから、Rを用いて以下の統計解析を実施した。推定にはRのveganパッケージに含まれるrarefy関数を用いた。
【0042】
[Taxonomy analysis]
サンプル個々の細菌種の組成解析を行った。具体的には、細菌(属+種)の出現頻度表の作成と積み上げ棒グラフの作図を行った。
そのうえで、各サンプルの細菌種の組成解析を行った。上位20菌種についてblast検索を実施した。その結果、褥瘡滲出液ではスタフィロコッカス属菌が多く存在し、そのうち、S. aureusとS. epidermidisが主要な菌種であることが確認された。
【0043】
[翌週の結果に寄与する因子の探索]
菌叢解析した16サンプルのうち、翌週の治癒経過のラベルが付与された11サンプルを用いて、判別に寄与する因子があるかを探索した。
【0044】
(1)Differential analysis
グループ間で細菌の存在量を比較し、差がある特徴量をANCOM解析にて探索した。ANCOM解析は、各試料中で、ある菌種の計測数を残りの各菌種の計測数に対してそれぞれ相加対数比を求め、相加対数比の値を使ってグループ間で有意差があるかを検定する方法である。一つの菌種について有意差があった相手の菌数の数をW値として、W値が大きいほどその菌種がグループに有意に多いと判定することができる。これを全ての菌種について行い、各菌種のW値を求めた。
ANCOM解析を用いて、「改善」と「悪化/停滞」の間で、細菌の存在量を比較し、菌の多少に差がある特徴量を探索した。
【0045】
結果を
図3に示す。
図3(A)の結果を表に纏めたものを
図3(B)に示す。W値が高いほど特徴的な細菌であり、またCLR値が大きいほど(プラス側)翌週「改善」するサンプルに多い細菌であり、CLR値が小さいほど(マイナス側)翌週「悪化/停滞」するサンプルに多い細菌であることを示す。ANCOM解析で処理した全菌種が今回165で、基準をW値/165で割合換算すると、上から85%、61%、58%、50%となる。基準を50%優位であるとした。その結果、Enterococcus faecalis、Anaerococcus sp.、Sptaphylococcus epidermids、Peptoniphilus sp.の4種類の菌が、翌週「改善」するサンプルに多く、褥瘡改善に特徴的に因子として取得された。一方、Sptaphylococcus aureusが翌週「悪化/停滞」するサンプルに多く、褥瘡の悪化/停滞に特徴的に因子として取得された。
【0046】
(2)Discriminant analysis
機械学習によってimp・badを予測/反映するかの判別分析が可能か、可能の場合に寄与する細菌が何かを探索した。直交部分最小二乗法(OPLS-DA判別分析)で検討した。OPLS-DA判別分析は、多変量データで2群の差を検出するのに広く利用されており、主成分分析が教師なし機械学習に分類されるのに対して、教師あり機械学習に分類される方法である。この解析により作成されるモデルが良いモデルであれば、モデルへの寄与度の高い重要因子(重要菌種)を抽出することができる。
【0047】
結果を
図4に示す。
図4(A)に示すR2Y値及びQ2Y値から、作成された判別モデルは精度のよいモデルで、過剰適合も問題なかった。また菌叢を構成する菌は、「改善」因子と「悪化/停滞」因子とに完全に分離された。重量度はVIP値として与えられ、
図4(B)に示すように、上からVIP値が高い順で並べられた細菌種が、モデルへの寄与因子として得られた。これらの細菌種は、y1軸の値からどちらのグループに寄与するのかが分かる。y1軸の値がプラスの細菌は、「改善」因子であり、y1軸の値がマイナスの細菌は、「悪化/停滞」因子である。これらが、褥瘡の治癒経過の判別に寄与する細菌として取得された。
【0048】
図3(B)と
図4(B)を並べた図を、
図5に示す。
図5から、ANCOM解析結果とOPLS-DA判別分析結果を比較して、下記のことが判明した。
(1)OPLS-DAで「改善」因子とされ、ANCOMで「改善」サンプルに多く存在するのが、Enterococcus faecalis、Staphylococcus epidermidis、Finegoldia magna、Anaerococcus属菌、Peptoniphilus属菌であった。
(2)OPLS-DAで「悪化/停滞」因子とされ、ANCOMで「悪化/停滞」サンプルに多く存在するのが、Staphylococcus aureusであった。
このことから、Enterococcus faecalis、Staphylococcus epidermidis、Finegoldia magna、Anaerococcus属菌、Peptoniphilus属菌が、慢性創傷、特に慢性皮膚潰瘍の一つである褥瘡の改善に寄与していることが確認された。また慢性創傷部にこれらの菌が存在することが慢性創傷の治癒の指標になることも確認された。
【0049】
実験例2
各種の外用組成物(化粧料)(ローション1~7、ジェル1)1mLに、表1に記載する各種細菌(事前にGAM培地で培養した細菌)を表1に記載する割合(播種菌数)で添加混合し、嫌気条件下37℃で3日間培養した(培養物)。次いで、これを塗抹培養して、前記培養物中の残存菌数を、コロニーカウンター法により確認した。また、対照実験として、前記外用組成物に代えて70容量%のエタノール水溶液、又はGAM培地を用いて、同様に実験を行った。
【0050】
(1)各種外用組成物の主成分
・ローション1:水、グリセリン、1,3-ブチレングリコール(BG)、ホホバ種子油、スクワレン、ソホロ脂質、水添レシチン、カルボマー、フェノキシエタノール(0.5%)、水酸化カリウム
・ローション2:水、グリセリン、BG、ソホロ脂質、フェノキシエタノール(0.1%)
・ローション3:水、グリセリン、BG、ラクトフェリン、フェノキシエタノール(0.1%)
・ローション4:水、フェノキシエタノール(0.95%)
・ローション5:水、フェノキシエタノール(0.1%)
・ローション6:水、プロパンジオール、グリセリン、α-グルカンオリゴサッカリド、ペンタンジオール、スフィンゴモナス培養エキス、水添レシチン、フィトステロールズ、マルトデキストリン、乳酸桿菌、カルボマー、水酸化カリウム、ジメチロールプロピオン酸ヘキシル、
・ローション7:水、α-グルカンオリゴサッカリド、フェノキシエタノール(0.95%)
・ジェル1:水、グリセリン、BG、ラクトフェリン、ソホロ脂質、グリチルリチン酸ジカリウム、ホホバ種子油、1,2-ヘキサンジオール、キサンタンガム、フェノキシエタノール(0.49%)、水酸化カリウム、ジメチコン
【0051】
(2)培養後の残存菌数、及び評価
各種細菌を、各種外用組成物の存在下で培養した後の残存菌数を、培養前の菌数(播種菌数)と合わせて、表1に示す。
【0052】
【0053】
表1に示すように、ローション1~3及びジェル1は、慢性創傷改善寄与菌に悪さをしないことが確認された。特にローション1は、慢性創傷の悪化に寄与する菌を減少させる作用があること、またジェル1には、慢性創傷改善寄与菌を増殖する作用があることが確認された。一方、ローション4~7には、70%エタノール水溶液と同様に、すべての細菌を殺滅することが確認された。なお、GAM培地では慢性創傷改善寄与菌及び慢性創傷悪化寄与菌のいずれも増殖することが確認された。
【0054】
これらの結果から、ローション1~3及びジェル1に共通する含有成分であって、ローション4~7に含まれていない成分又はそれらの組み合わせ物に、慢性創傷の悪化に寄与する菌を減少させる作用、及び/又は、慢性創傷改善寄与菌を増殖する作用があることが推測される。
配列番号1及び2は、実験例1で細菌の16S rRNA遺伝子の可変領域(V3-V4領域)をPCR法により増幅するために使用したPCRプライマー(5’→3’)「1st PCR_V3V4for」及び「1st PCR_V3V4rev」の塩基配列を、それぞれ示す。