(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089630
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】二軸ヒンジ及びこの二軸ヒンジを用いた建具装置
(51)【国際特許分類】
E05D 3/10 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
E05D3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204239
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000239714
【氏名又は名称】文化シヤッター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 松三郎
(57)【要約】
【課題】 建具装置に用いられた場合に、建具が厚さ方向へぐらつくのを抑制する。
【解決手段】 二軸ヒンジであって、一端側に第1の回転中心c1を構成するとともに他端側に間隔を置いた第2の回転中心c2を構成するリンク部材51と、第1の回転中心c1を支点にして回転するようにリンク部材51に接続される第1の回動部材52bと、第2の回転中心c2を支点にして回転するようにリンク部材51に接続される第2の回動部材53bとを備え、第2の回転中心c2が、第1の回転中心c1に対し傾斜している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に第1の回転中心を構成するとともに他端側に間隔を置いた第2の回転中心を構成するリンク部材と、前記第1の回転中心を支点にして回転するように前記リンク部材に接続される第1の回動部材と、前記第2の回転中心を支点にして回転するように前記リンク部材に接続される第2の回動部材とを備え、前記第2の回転中心が、前記第1の回転中心に対し傾斜していることを特徴とする二軸ヒンジ。
【請求項2】
前記第2の回転中心は、前記第1の回転中心を含む仮想平面上に位置することを特徴とする請求項1記載の二軸ヒンジ。
【請求項3】
前記リンク部材が、前記第1の回動部材又は前記第2の回動部材に対し着脱可能であることを特徴とする請求項1又は2記載の二軸ヒンジ。
【請求項4】
前記リンク部材は、一端側に装着される第1の一軸ヒンジの軸心部を前記第1の回転中心とし、他端側に傾斜状に装着される第2の一軸ヒンジの軸心部を前記第2の回転中心としていることを特徴とする請求項1~3何れか1項記載の二軸ヒンジ。
【請求項5】
前記第1の回動部材が固定される枠部材と、前記第2の回動部材に固定される建具とを具備して、前記建具を開閉回動可能かつ建具厚方向へ移動可能にしたことを特徴とする請求項1~4何れか1項記載の二軸ヒンジを用いた建具装置。
【請求項6】
前記第1の回転中心が略垂直になるように前記第1の回動部材を前記枠部材に固定し、前記第2の回転中心が前記第1の回転中心に対し傾斜するように前記第2の回動部材を前記建具に固定したことを特徴とする請求項5記載の建具装置。
【請求項7】
前記第2の回転中心を上方へ向かって前記枠部材に近づくように傾斜させたことを特徴とする請求項5又は6記載の建具装置。
【請求項8】
前記第2の回転中心を上方へ向かって前記枠部材から離れるように傾斜させたことを特徴とする請求項5又は6記載の建具装置。
【請求項9】
前記二軸ヒンジを前記枠部材の延設方向に沿って複数具備したことを特徴とする請求項5~8何れか1項記載の建具装置。
【請求項10】
前記建具が閉鎖方向へ回動した後に見込み方向へ移動して前記枠部材に略密接するようにしたことを特徴とする請求項5~9何れか1項記載の建具装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉や、窓、障子等を回動して開閉動作させる二軸ヒンジ、及びこの二軸ヒンジを用いた建具装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発明には、例えば特許文献1に記載されるように、扉と扉枠とに横架される連結杆と、前記扉枠側における前記連結杆を上下に貫通する第1軸と、前記扉側における前記連結杆を上下に貫通するとともに第1軸に平行する第2軸と、前記第1軸と前記第2軸のそれぞれの上下を、前記扉枠と前記扉のそれぞれに回転自在に支持するブロック状の二対の軸受体と、扉面に垂直方向から前記軸受体を貫通して前記扉と前記扉枠の閉扉時において隣り合う各取付け面に前記軸受体を螺着する締結部材とを具備した二軸蝶番がある。
この二軸蝶番によれば、扉を第1軸回りの回動により略全閉した後に、この扉を、第1軸と第2軸の二つの軸の回り回動により扉厚さ方向へ平行移動させ、扉枠内側へ押込んでパッキンに強く押し付けことができる。このため、閉鎖状態における防音性能や止水性能等の遮蔽性能を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-25274号公報
【特許文献2】特開2018-59369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術では、平行な二つの軸(第1軸及び第2軸)によって、扉を回動可能かつ厚さ方向移動可能にしている。このため、扉の回動途中や、扉の閉鎖状態において、この扉が、二つの軸による回動によって厚さ方向へぐらつくおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題に鑑みて、本発明は、以下の構成を具備するものである。
一端側に第1の回転中心を構成するとともに他端側に間隔を置いた第2の回転中心を構成するリンク部材と、前記第1の回転中心を支点にして回転するように前記リンク部材に接続される第1の回動部材と、前記第2の回転中心を支点にして回転するように前記リンク部材に接続される第2の回動部材とを備え、前記第2の回転中心が、前記第1の回転中心に対し傾斜していることを特徴とする二軸ヒンジ。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以上説明したように構成されているので、建具装置に用いられた場合に、建具が厚さ方向へぐらつくのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係る建具装置の一例を屋外側から視た正面図である。
【
図2】
図1の(II)-(II)線に沿う断面図である。
【
図3】同建具装置の二軸ヒンジの部分を示す分解斜視図である。
【
図4】同建具装置に用い二軸ヒンジの正面図であり、分離した状態を示す。
【
図5】同建具装置の二軸ヒンジの部分を簡略化した横断面図であり、(a)は建具が閉鎖途中の状態、(b)は建具が全閉した状態、(c)は建具が押し込まれた状態をそれぞれ示す。
【
図6】本発明に係る建具装置の他例を屋外側から視た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施の形態では、以下の特徴を開示している。
第1の特徴は、一端側に第1の回転中心を構成するとともに他端側に間隔を置いた第2の回転中心を構成するリンク部材と、前記第1の回転中心を支点にして回転するように前記リンク部材に接続される第1の回動部材と、前記第2の回転中心を支点にして回転するように前記リンク部材に接続される第2の回動部材とを備え、前記第2の回転中心が、前記第1の回転中心に対し傾斜している(
図1~
図6参照)。
【0009】
第2の特徴として、前記第2の回転中心は、前記第1の回転中心を含む仮想平面上に位置する(
図2参照)。
【0010】
第3の特徴として、前記リンク部材が、前記第1の回動部材又は前記第2の回動部材に対し着脱可能である(
図3及び
図4参照)。
【0011】
第4の特徴として、前記リンク部材は、一端側に装着される第1の一軸ヒンジの軸心部を前記第1の回転中心とし、他端側に傾斜状に装着される第2の一軸ヒンジの軸心部を前記第2の回転中心としている(
図2~
図5参照)。
【0012】
第5の特徴は、建具装置であって、前記第1の回動部材が固定される枠部材と、前記第2の回動部材に固定される建具とを具備して、前記建具を開閉回動可能かつ建具厚方向へ移動可能にした(
図5参照)。
【0013】
第6の特徴として、前記第1の回転中心が略垂直になるように前記第1の回動部材を前記枠部材に固定し、前記第2の回転中心が前記第1の回転中心に対し傾斜するように前記第2の回動部材を前記建具に固定した(
図2~
図5参照)。
【0014】
第7の特徴として、前記第2の回転中心を上方へ向かって前記枠部材に近づくように傾斜させた(
図1参照)。
【0015】
第8の特徴として、前記第2の回転中心を上方へ向かって前記枠部材から離れるように傾斜させた(
図6参照)。
【0016】
第9の特徴として、前記二軸ヒンジを前記枠部材の延設方向に沿って複数具備した(
図1及び
図6参照)。
【0017】
第10の特徴として、前記建具が閉鎖方向へ回動した後に見込み方向へ移動して前記枠部材に略密接するようにした(
図5(c)参照)。
【0018】
<具体的実施態様>
次に、上記特徴を有する具体的な実施態様について、図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明において、戸先方向又は戸先側とは、開閉回動する建具20の遠心方向側を意味し、戸尻方向又は戸尻側とは、前記戸先方向に対する反対方向側を意味する。
また、建具厚さ方向とは、建具20の厚みの方向を意味する。
【0019】
また、以下の説明において、屋外側とは、全閉状態の建具20における建具厚さ方向の一方側である。図示例によれば、屋外側の空間は、全閉状態の建具20の開放方向側に位置する空間である。
これに対し、屋内側とは、全閉状態の建具20における建具厚さ方向の他方側である。図示例によれば、屋内側の空間は、前記屋外側に対し反対側に位置する空間である。
なお、図示例とは逆に、建具20における建具厚さ方向の前記一方側を屋内側、前記他方側を屋外側とすることも可能である。
【0020】
また、以下の説明において、建具幅方向内側とは、建具20の横幅方向の内側を意味する。例えば、建具20の戸先部を基準にした場合、建具幅方向内側は、戸尻方向側であり、建具20の戸尻部を基準にした場合、建具幅方向内側は、戸先方向側である。
また、建具幅方向外側とは、前記建具幅方向内側に対する逆方向側を意味する。
【0021】
また、以下の説明において、建具厚方向内側とは、建具20の厚さ方向の内側を意味する。例えば、建具20の開放方向側の面を基準にした場合、建具厚方向内側は、建具20の閉鎖方向側であり、建具20の閉鎖方向側の面を基準にした場合、建具厚方向内側は、建具20の開放方向側である。
また、建具厚方向外側とは、建具厚さ方向内側に対する逆方向側を意味する
【0022】
また、以下の説明において、見込み方向とは、枠部材の厚みの方向(奥行方向)を意味する。また、見付け方向とは、前記見込み方向に略直交する方向であって、枠部材の横幅方向(左右方向)を意味する。
【0023】
図1に示す建具装置1は、複数の枠部材から矩形枠状に構成された枠体10と、この枠体内の開口部を開閉する建具20と、建具20を開閉回動可能かつ建具厚方向へ移動可能に支持する二軸ヒンジAとを備え、建具20を略全閉した後に屋内側へ押し込んで止水性能を発揮する止水扉装置を構成している。
【0024】
枠体10は、閉鎖状態の建具20の戸尻部に対向して近接する戸尻側枠部材11と、同建具20の戸先部に対向して近接する戸先側枠部材12と、同建具20の上下端部にそれぞれ対向して近接する上側枠部材13及び下側枠部材14とを具備して、中央部を開口した一体の矩形枠状に構成される。この枠体10は、建物等の躯体開口部に不動に固定される。各枠部材11,12,13,14は、それぞれ、金属材料によって形成される。
【0025】
戸尻側枠部材11は、上下方向へ長尺状に連続する部材である。この戸尻側枠部材11における枠内側であって建具20よりも屋内側に位置する部分には、上下方向へわたり連続するとともに開口を屋外側へ向けた溝部11aが設けられる。
この溝部11aには、全閉状態の建具20の屋内側面に圧接されるように弾性部材40が装着される(
図2参照)。
【0026】
戸先側枠部材12は、戸尻側枠部材11と左右対称に形成される。この戸先側枠部材12にも、図示を省略するが、全閉状態の建具20の屋内側面に圧接されるように、弾性部材40が装着される。
【0027】
上側枠部材13と下側枠部材14は、それぞれ、左右方向へ連続する部材である。これら上側枠部材13及び下側枠部材14にも、図示を省略するが、全閉状態の建具20の屋内側面に圧接されるように、弾性部材40が装着される。
【0028】
弾性部材40は、建具20の閉鎖方向側の面に対向するようにして枠体10に装着される。
この弾性部材40は、ゴムやエラストマー樹脂、弾性発泡樹脂等からなる単数又は複数の長尺状部材であり、枠体10内の開口部を囲む矩形枠状に構成される。
閉鎖状態の建具20は、弾性部材40に接することで、屋内側空間と屋外側空間とを略密閉状に仕切る。
【0029】
なお、本実施態様によれば、戸尻側枠部材11、戸先側枠部材12、上側枠部材13、又は下側枠部材14に対し、弾性部材40を単数列設けるようにしたが、他例としては、弾性部材40を複数列設けるようにしてもよい。
より具体的に説明すれば、戸尻側枠部材11に、弾性部材40よりも建具幅方向内側又は建具幅方向外側で、全閉状態の建具20に当接する他の弾性部材を設けるようにしてもよい。この構成には、例えば、特許文献1の
図2に開示された構造を適用することが可能である。
【0030】
建具20は、正面視矩形板状の扉体である。この建具20の内部は、中空状または芯材を有する構成となっている。
この建具20は、厚み方向に間隔を置いた表板21及び裏板22(
図2参照)と、これらを内側から支持し補強する複数の骨材(図示せず)と、閉鎖位置にある当該建具20を閉鎖方向(図示例によれば屋内側)へ押し込むための押込み装置30,30(
図1参照)とを具備している。
【0031】
表板21と裏板22は、金属製板材を適宜加工することで、左右端部及び上下端部が建具厚方向内側へ曲げられた正面視矩形状に形成される。これら表板21及び裏板22は、内在する複数の骨材(図示せず)によって撓みが抑制されている。
これら表板21及び裏板22は、単数の板材から構成したり、3枚以上の板材から構成したりすることが可能である。
【0032】
押込み装置30は、建具20の左寄り部分と右寄り部分に対応して複数(図示例によれば二つ)設けられる。
各押込み装置30は、レバー31の回転操作により係合部材(図示せず)を枠体10側へ突出させ、この係合部材を、枠体10側に設けられた被係合部(図示せず)に挿入するとともにこの被係合部のカム斜面(図示せず)に摺接させることで、建具20を屋内側へ略平行に移動して弾性部材40に押し付ける。
なお、押込み装置30には、例えば、特許文献2に開示される構造を適用することが可能である。
【0033】
なお、
図1において、符号61は、建具20の開閉操作を行うための開閉用ノブであり、この開閉用ノブ61の回転操作により、建具20の戸先面にてラッチ(図示せず)が出没するようになっている。戸先側枠部材12には、前記ラッチに嵌り合うラッチ受け(図示せず)が設けられる。
また、
図1において、符号62は施錠機構である。この施錠機構は、建具20側のサムターン又はキーの操作によりデッドボルト(図示せず)を出没させ、このデッドボルトを戸先側枠部材12の凹状の受座(図示せず)に嵌脱する。
【0034】
二軸ヒンジAは、戸尻側枠部材11の延設方向に沿って複数具備され、図示例によれば、戸尻側枠部材11の上半部側に二つ、下半部側に一つ設けられる。
【0035】
各二軸ヒンジAは、一端側に直線状の第1の回転中心c1を構成するとともに他端側に間隔を置いて直線状の第2の回転中心c2を構成するリンク部材51と、第1の回転中心c1を支点にして回転するようにリンク部材51に接続される第1の回動部材52bと、第2の回転中心c2を支点にして回転するようにリンク部材51に接続される第2の回動部材53bとを備える。
そして、二軸ヒンジAは、第2の回転中心c2を、第1の回転中心c1を含む仮想平面上に位置するとともに第1の回転中心c1に対し傾斜させている。言い換えれば、第1の回転中心c1と第2の回転中心c2とが、同一の仮想平面上に位置し、かつ第1の回転中心c1に対し第2の回転中心c2が傾いている。
この二軸ヒンジAを構成する各部材は、金属(例えばステンレス)等の硬質材料からなる。
【0036】
リンク部材51は、図示例によれば、矩形平板状の部材である。
このリンク部材51は、一端側に装着される第1の一軸ヒンジ52の軸心部を、第1の回転中心c1にし、他端側に傾斜状に装着される第2の一軸ヒンジ53の軸心部を第2の回転中心c2にしている。
【0037】
このリンク部材51には、その表面の略全部を覆うように、矩形平板状のカバープレート54が、止着具35によって止着固定される。
このカバープレート54は、第1の一軸ヒンジ52や第2の一軸ヒンジ53等を止着するための孔等を覆い隠すものであり、省くことも可能である。
【0038】
第1の一軸ヒンジ52は、第1の支持部材52aに対し第1の回動部材52bを回転自在かつ着脱可能に枢支したものである。この第1の一軸ヒンジ52は、一般的な旗蝶番の基本構造を適用することが可能である。
【0039】
第1の支持部材52aは、略矩形平板状に形成され、その横幅方向の一端側に筒状の軸受部52a1を有する。
この第1の支持部材52aは、軸受部52a1を戸尻寄りで上下方向へ向けるようにして、平板状の部分が、リンク部材51の裏面(建具20側の面)に固定される。この固定手段は、図示例によれば、止着具35(例えば、ねじやボルト、リベット等)を用いた止着としているが、溶接等の他の固定手段とすることも可能である。
軸受部52a1の中心は、建具20の開閉動作に伴ってリンク部材51が回転する際の第1の回転中心c1として機能する(
図5参照)。
【0040】
第1の回動部材52bは、第1の回転中心c1上において、第1の支持部材52aに対し上下方向(図示例によれば、下側)に並設される部材であり、略矩形平板状に形成される。この第1の回動部材52bの横幅方向の一端側には、第1の支持部材52a側へ突出するように、略円柱状の軸部52b1が設けられる(
図4及び
図5参照)。
【0041】
軸部52b1は、第1の支持部材52aの軸受部52a1に嵌り合うことで、第1の支持部材52aを回動自在に支持する。この軸部52b1は、軸受部52a1に対し軸方向へ抜き差し可能である。
【0042】
上記構成の第1の回動部材52bは、軸部52b1を手前側に配置するとともに、軸部52b1の軸心(第1の回転中心c1)が略垂直になるようにして、戸尻側枠部材11へ固定される(
図3参照)。この固定手段は、図示例によれば止着具35によるが、溶接やその他の固定手段とすることが可能である。
【0043】
第2の一軸ヒンジ53は、第2の支持部材53aに対し第2の回動部材53bを、第2の回転中心c2上に並ぶようにして、回転自在かつ着脱可能に枢支したものである。この第2の一軸ヒンジ53には、第1の一軸ヒンジ52と共通の部品を用いることが可能である。
この第2の一軸ヒンジ53は、その軸方向(第2の回転中心c2)を鉛直方向に対し傾斜させて、リンク部材51に装着される。
【0044】
第2の支持部材53aは、第1の一軸ヒンジ52の第1の回動部材52bと同構成の部材であり、横幅方向の一端側に、上下方向の一方へ突出する略円柱状の軸部53a1を有する(
図3参照)。軸部53a1の中心は、建具20の押し込み動作(
図5(a)参照)に伴って基板57がリンク部材51に相対し回転する際の第2の回転中心c2として機能する。
この第2の支持部材53aは、軸部53a1及び第2の回転中心c2を上方へ向かって戸尻側枠部材11に近づくように傾斜させた状態で、スペーサ55を介してリンク部材51の裏側に固定される。
第2の支持部材53aをリンク部材51に固定する手段は、図示例によれば、止着具35を用いた止着としているが、溶接等の他の固定手段とすることも可能である。
【0045】
第2の回動部材53bは、第1の一軸ヒンジ52の第1の支持部材52aと同構成の部材であり、横幅方向の一端側に筒状の軸受部53b1を有する。
この第2の回動部材53bは、軸受部53b1の軸心(第2の回転中心c2)を上方へ向かって戸尻側枠部材11に近づくように傾斜させた状態で、第2の回動部材53bの平板状の部分が、スペーサ56を介して、基板57に固定される(
図3参照)。この固定手段は、図示例によれば、止着具35(例えば、ねじやボルト、リベット等)を用いた止着としているが、溶接等の他の固定手段とすることも可能である。
【0046】
スペーサ56は、第2の回動部材53bと基板57の間に挟まれる矩形平板状の部材である。図示例以外の他例としては、このスペーサ56を、第2の回動部材53b又は基板57に一体に形成された部位とすることが可能である。
【0047】
基板57は、適宜な剛性及び厚みを有する矩形平板状の部材であり、建具20の表板21に対し、止着具35によって固定される。
【0048】
図示例において、基板57に挿通される止着具35は、表板21を貫通して、表板21の裏側の補強板58に螺合して締め付けられる。
なお、図示例以外の他例としては、補強板58を省いて、基板57を表板21に直接螺合した態様や、基板57を表板21に溶接した態様等とすることも可能である。
【0049】
上記構成の二軸ヒンジAでは、第2の支持部材53a及び第2の回動部材53bの軸心となる第2の回転中心c2が、第1の支持部材52a及び第1の回動部材52bの軸心となる第1の回転中心c1に対し、角度α傾斜している。
角度αは、建具20の大きさ等に応じて適宜に設定され、例えば、0.3~15°の範囲内に設定される。
【0050】
そして、リンク部材51は、略鉛直な第1の回転中心c1を支点にして戸尻側枠部材11に回転可能に支持されるとともに、傾斜した第2の回転中心c2を支点にして基板57及び建具20を回転可能に支持する。
【0051】
次に、建具20を枠体10に吊り込む作業について説明する。
この作業においては、建具20が吊り込まれる前に、戸尻側枠部材11に対し、二軸ヒンジAを構成する第1の回動部材52bが固定される。
そして、建具20に対しては、二軸ヒンジAを構成する第2の回動部材53bが、スペーサ56及び基板57等を介して固定される。
【0052】
また、二軸ヒンジAのリンク部材51に対しては、第1の支持部材52aと、第2の支持部材53aとが、それぞれ固定される(
図4参照)。
リンク部材51、第1の支持部材52a、第2の支持部材53a、スペーサ55、及びカバープレート54等は、予め一体的に組付けて、一部品として扱うことが可能である。
【0053】
次に、リンク部材51と一体的な第1の支持部材52aが、戸尻側枠部材11側の第1の回動部材52bに組付けられる(
図3及び
図4参照)。
さらに、リンク部材51と一体的な第2の支持部材53aに対して、建具20と一体的な第2の回動部材53bが組付けられる。
【0054】
これらの吊り込み作業よって、
図2及び
図5等に示すように、建具20が戸尻側枠部材11に対し開閉回動可能かつ建具厚方向へ移動可能に接続される。
この接続状態において、リンク部材51は、分離可能な第1の一軸ヒンジ52及び第2の一軸ヒンジ53により、戸尻側枠部材11と建具20の双方に対し着脱可能である。
【0055】
次に、上記構成の建具装置1について、建具20を閉鎖して枠体10内に押し込む際の作用効果を詳細に説明する。
先ず、開放状態の建具20を閉鎖動作した場合、建具20は、二軸ヒンジAの部分において第1の回転中心c1を中心に閉鎖方向へ回動する(
図5(a)参照)。
そして、全閉状態となった建具20は、その周縁側を、弾性部材40に緩圧接する(
図5(b)参照)。
【0056】
通常の使用状態においては、前述した全閉状態と開放状態との間で建具20が開閉回動する。この開閉回動中(
図5(a)(b))は、第1の一軸ヒンジ52と第2の一軸ヒンジ53の取付け角度の不揃い(すなわち、前記取付け角度の違いにより第1の回転中心c1と第2の回転中心c2が平行でないこと)により、第1の回転中心c1を支点にした回動の抵抗よりも、傾斜した第2の回転中心c2を支点にした回動の抵抗の方が大きくなる。
言い換えれば、上下に隣接する二つの二軸ヒンジA,Aにおいて、その上側の二軸ヒンジAの第2の回転中心c2と、下側の二軸ヒンジAの第2の回転中心c2とが同軸上に位置しないことから、上側の二軸ヒンジAの第2の一軸ヒンジ53と、下側の二軸ヒンジAの第2の一軸ヒンジ53とが、相互に回動を規制し合う。
このため、建具20の開閉回動中においては、二軸ヒンジAの第1の回転中心c1を支点にした回動のみが行われ、建具20が第2の回転中心c2を支点にした回動により戸厚方向へぐらつくようなことを抑制することができる。
【0057】
洪水等のために止水を要する場合には、前記全閉状態において、押込み装置30が操作され、建具20が見込み方向に沿って屋内側へ移動し、建具20の周縁側が、枠体10と一体的な弾性部材40に強く圧接される(
図5(c)参照)。このため、建具20と枠体10の間の隙間が、略塞がれて、止水作用を発揮する。
【0058】
このような止水動作においては、各リンク部材51が、第1の回転中心c1を支点にして屋内側へ回動するとともに、建具20が傾斜した第2の回転中心c2を支点にして屋外側へ回動する。そして、これら二種類の回動により、建具20が屋内側へ略平行に移動する。
【0059】
よって、上記構成の建具装置1によれば、通常時は、建具20の厚み方向のぐらつきを抑制して、建具20を第1の回転中心c1を支点にしてスムーズに開閉回動することができる。
また、水害時等には、閉鎖状態の建具20を見込み方向へ平行に移動させて弾性部材40に強く圧接し、良好な止水性能を発揮することができる。
また、第1の一軸ヒンジ52又は第2の一軸ヒンジ53を分離することで、建具20を枠体10に対し容易に着脱することができ、施工性やメンテナンス性に優れている。
【0060】
なお、建具20の見込み方向への移動中は、傾斜した第2の回転中心c2を支点にした回動により、建具20の各辺部(詳細には、戸先部や、戸尻部、上端部、下端部等)と、対向する枠部材(具体的には、戸尻側枠部材11や、戸先側枠部材12、上側枠部材13、下側枠部材14等)との隙間が、各枠部材の長手方向において一定でない状態が生じる。
このため、建具20の各辺部と、対向する枠部材との隙間は、傾斜した第2の回転中心c2による回動により、前記隙間が大きくなりすぎたり、前記隙間が小さくなりすぎて擦れが生じたりしないように、適宜に設定されている。
【0061】
<変形例>
上記実施態様によれば、特に好ましい一例として、第2の回転中心c2が第1の回転中心c1を含む仮想平面上に位置するとともに第1の回転中心c1に対し傾斜するようにしたが、他例としては、第2の回転中心c2が第1の回転中心c1を含む仮想平面上に位置せずに第1の回転中心c1に対し傾斜する構成とすることも可能である。
【0062】
また、上記実施態様によれば、二軸ヒンジAを戸尻側枠部材11に沿って三つ設けたが、他例としては、二軸ヒンジAを戸尻側枠部材11に沿って四以上設けた態様や、二軸ヒンジAを戸尻側枠部材11の上部側と下部側に位置するように二つ設けた態様や、単数の二軸ヒンジAによって建具20を回動するようにした態様等とすることも可能である。
【0063】
また、
図1~
図5に示す一例によれば、各二軸ヒンジAの第2の回転中心c2のみを上方へ向かって戸尻側枠部材11に近づくように傾斜させたが、他例としては、第1の回転中心c1を戸尻側枠部材11の延設方向(鉛直方向)に対し一方向へ傾斜させ、この傾斜角度よりも大きく、第2の回転中心c2を同方向へ傾斜させた構成とすることも可能である。
【0064】
さらに他例としては、
図6に示す建具装置2のように、第2の回転中心c2’を上方へ向かって戸尻側枠部材11から離れるように傾斜させることも可能である。
詳細に説明すれば、建具装置2は、上記建具装置1において複数の二軸ヒンジAを、それぞれ二軸ヒンジA’に置換したものである。
二軸ヒンジA’は、第2の回転中心c2’の傾斜方向が、上記二軸ヒンジAにおける第2の回転中心c2と逆になるように、第2の一軸ヒンジ53を装着したものである。
この建具装置2においても、上記建具装置1と略同様に、第2の回転中心c2’を支点にした建具20の回動抵抗を、第1の回転中心c1を支点にした場合の抵抗よりも大きくして、建具20が開閉動作中に厚さ方向へぐらつくのを防ぐことができる。
【0065】
さらに、他例としては、建具装置1における複数の二軸ヒンジAのうち、その一部を、二軸ヒンジA’に置換することも可能である。
この他例では、二軸ヒンジAの第2の回転中心c2と、二軸ヒンジA’の第2の回転中心c2’とが、逆方向に傾いているため、これら二種類の第2の回転中心c2,c2’の相対的な傾きの角度を大きく確保することができる。したがって、二軸ヒンジAの第2の一軸ヒンジ53と二軸ヒンジA’の第2の一軸ヒンジ53とが、効果的に回動を規制し合うようになる。
なお、この他例では、二種類の第2の回転中心c2,c2’を支点にした回動抵抗が大きくなりすぎないように、第2の回転中心c2,c2’の傾斜角度αや、第2の一軸ヒンジ53における軸部53a1と軸受部53b1のクリアランス等が適宜に設定される。
【0066】
さらに、他例としては、建具20と戸尻側枠部材11間で上下方向に間隔を置いて設けられる複数の二軸ヒンジのうち、その一部の二軸ヒンジ(例えば、上端側と下端側の二つの二軸ヒンジ)を、二つの回転中心が略平行する一般的構造の二軸ヒンジとし、他の一部の二軸ヒンジ(例えば、中央側の二軸ヒンジ)のみを、第2の回転中心c2(又はc2’)を傾斜させた二軸ヒンジA(又はA’)にすることも可能である。
この構成によれば、前記他の一部の二軸ヒンジA(又はA’)において、第2の回転中心c2(又はc2’)を支点にした回転抵抗を比較的大きくすることができる。
すなわち,一般的な二軸ヒンジに対し、二軸ヒンジA(又はA’)の第2の回転中心c2(又はc2’)の傾き角度が相対的に大きくなるので、第2の回転中心側における回動規制作用を安定的に発揮することができ、ひいては、建具20が開閉動作中に厚さ方向へぐらつくのを効果的に防ぐことができる。
なお、この構成においては、第2の回転中心c2(又はc2’)を支点にした回転抵抗が大きくなりすぎて開閉動作に支承が生じないように、第2の回転中心c2(又はc2’)の傾斜角度等が適宜に設定される。
【0067】
また、上記実施態様では、好ましい一例として、止水位置(
図7(c)参照)になる前の全閉位置(
図7(b)参照)の建具20が、枠体10の表面と略面一になるようにしたが、他例としては、全閉位置で枠体10の表面よりも屋外側へ若干突出している建具20が、止水位置になると枠体10の表面と略面一になる構成にすることも可能である。
【0068】
また、上記実施態様では、単数の建具(扉体)を開閉回動する片開式の開閉扉を構成したが、他例としては、幅方向の両側の建具をそれぞれ開閉回動するようにした両開き式(いわゆる観音開き式)の開閉扉を構成することも可能であり、この場合、左右両側の建具について、それぞれ、建具の戸尻側と枠部材との間に上述した二軸ヒンジAを設ければよい。
【0069】
また、上記実施態様では、特に好ましい一例として、建具装置1を止水扉装置として構成したが、この建具装置1の基本構造は、例えば防音扉装置等、止水扉装置以外の気密扉装置に適用することが可能である。
さらに、建具装置1の基本構造は、例えば建具を回動して開閉する窓装置や障子等、扉装置以外の建具装置に適用することが可能である。
【0070】
本発明は上述した実施態様に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0071】
1,2:建具装置
10:枠体
11:戸尻側枠部材
20:建具
51:リンク部材
52:第1の一軸ヒンジ
52a:第1の支持部材
52b:第1の回動部材
53:第2の一軸ヒンジ
53a:第2の支持部材
53b:第2の回動部材
A,A’:二軸ヒンジ
c1:第1の回転中心
c2,c2’:第2の回転中心