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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089663
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】サイドガイド部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/06 20160101AFI20230621BHJP
   B21B 39/14 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
C23C4/06
B21B39/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204300
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】三木 真哉
(72)【発明者】
【氏名】黒▲崎▼ 優介
(72)【発明者】
【氏名】山本 將貴
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA08
4K031AB02
4K031AB08
4K031CB30
4K031CB45
4K031DA04
4K031FA02
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性、耐焼付性、密着性、および、耐衝撃性に優れる溶射層を基材表面に備えたサイドガイド部材を提供する。
【解決手段】基材表面上に、WCを20~40重量%、Coを3~5重量%、Crを0~5重量%含有し、残部がNi基自溶合金及び不可避不純物からなるNi基自溶合金溶射皮膜を備えるサイドガイド部材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面上に、WCを20~40重量%、Coを3~5重量%、Crを0~5重量%含有し、残部がNi基自溶合金及び不可避不純物からなるNi基自溶合金溶射皮膜を備えるサイドガイド部材。
【請求項2】
前記Ni基自溶合金は、Siを2~5重量%、Bを2~4重量%含有し、残部がNiからなることを特徴とする請求項1に記載のサイドガイド部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延設備用のサイドガイド部材に関する。
【背景技術】
【0002】
サイドガイドライナまたはサイドガイド堅ロール等の熱間圧延設備用のサイドガイド部材は、圧延ロール等により500℃~900℃の高温で搬送される鋼板を搬送ライン幅方向内にストリップするように制御することで、鋼板が搬送ライン外に飛び出すことを抑制する部材である。サイドガイド部材は、鋼板との接触による摺動や昇温を受ける非常に厳しい環境下で使用されるため、耐摩耗性、耐焼付性、密着性、および、耐割れ性に優れることが必要とされている。
【0003】
従来、サイドガイド部材には、上記課題を解決するため、種々の技術が用いられてきた。例えば、特許文献1~4には、サイドガイド部材に対して、CrC-Co基合金肉盛溶接、CrC-Ni基合金肉盛溶接、NbC-Co基合金肉盛溶接、および、ハイスNbC系肉盛溶接等を施す発明が開示されている。肉盛溶接以外では、例えば、特許文献5~7には、サイドガイド部材に対して、Ni-Cr合金溶射、WC溶射、WC-Co溶射、NbC-NiCr溶射を施す発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-260619号公報
【特許文献2】特公平03-059768号公報
【特許文献3】特公平08-009115号公報
【特許文献4】特開2018-176195号公報
【特許文献5】特開昭63-309304号公報
【特許文献6】特開平05-169114号公報
【特許文献7】特開2000-282216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サイドガイド部材は、上述の通り、非常に厳しい環境下にて使用されており、皮膜の摩耗や劣化もその分激しくなるため、高い頻度で皮膜の再施工を行っている。近年、環境負荷やコストの低減を目的に、再施工の頻度を抑制可能な皮膜が求められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1~4に記載のように、サイドガイド部材に対して、CrC-Co基合金肉盛溶接、CrC-Ni基合金肉盛溶接、NbC-Co基合金肉盛溶接等を施した場合には、基材に対して熱歪みが発生することがあった。
【0007】
また、特許文献5~7に記載の発明のように、サイドガイド部材に対して、Ni-Cr合金溶射、WC溶射、WC-Co溶射、NbC-NiCr溶射により皮膜を形成した場合には、耐摩耗性、密着性および耐割れ性が不十分となり、皮膜が剥離してしまう虞があるため、高い頻度で肉盛りの再施工を施す必要があった。
【0008】
このような状況の下、本発明は、耐摩耗性、耐焼付性、密着性、および、耐衝撃性に優れる溶射層を基材表面に備えたサイドガイド部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一実施形態にかかるサイドガイド部材は、基材表面上に、WCを20~40重量%、Coを3~5重量%、Crを0~5重量%含有し、残部がNi基自溶合金及び不可避不純物からなるNi基自溶合金溶射皮膜を備える。
【0010】
(2)上記Ni基自溶合金は、Siを2~5重量%、Bを2~4重量%含有し、残部がNiからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、耐摩耗性、耐焼付性、密着性、および、耐衝撃性に優れるNi基自溶合金溶射皮膜を基材表面に備えることにより、皮膜の再施工頻度を抑制可能なサイドガイド部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、サイドガイドライナ及びサイドガイド堅ロール等の熱間圧延設備に用いられるサイドガイド部材に適用される。
【0013】
本実施形態にかかるサイドガイド部材は、基材表面に、WCを20~40重量%、Coを3~5重量%、Crを0~5重量%含有し、残部がNi基自溶合金及び不可避不純物からなるNi基自溶合金溶射皮膜を備える。
【0014】
WCは、耐摩耗性を向上させる元素であるが、添加量が40重量%を超えた場合、靭性や熱衝撃性が低下してしまう。一方、添加量が20重量%未満の場合、耐摩耗性の効果を十分に得ることができない。したがって、WCの添加量は、20~40重量%とした。
【0015】
Coは、WC粒子を結合するバインダーの役割を担う元素であるが、添加量が5重量%を超える場合、WCの粒子間結合が十分でなくなり、溶射皮膜の脆化が起こる。一方、添加量が3重量%未満の場合、溶射皮膜の皮膜表面のビッカース硬さが低下し、耐摩耗性が低下する。したがって、Coの添加量は、3~5重量%とした。
【0016】
Crは、耐酸化性を向上させる元素であるが、添加量が5重量%を超える場合、ヒュージング処理をした際に、基材と溶射皮膜との境界に、硬くて脆いCr炭化物層やCr硼化物層が形成されて溶射皮膜の密着性が低下してしまう。したがって、Crの添加量は、0~5重量%とした。
【0017】
このように、本実施形態にかかるサイドガイド部材は、基材表面に、WCを20~40重量%、Coを3~5重量%、Crを0~5重量%含有し、残部がNi基自溶合金及び不可避不純物からなるNi基自溶合金溶射皮膜を備えることにより、耐摩耗性、耐焼付性、密着性、および、耐衝撃性に優れたものとなる。
【0018】
本実施形態のNi基自溶合金溶射皮膜に含まれるNi基自溶合金は、Siを2~5重量%、Bを2~4重量%含有し、残部がNiからなることが好ましい。
【0019】
Siは、ヒュージング処理の際に、脱酸材として溶射皮膜中の酸化物や気孔を低減させて、耐衝撃性を向上させるとともに、合金粉末の自溶性を付与する効果を持つ元素である。ただし、添加量が5重量%を超える場合、硬くなりすぎて脆くなり、クラックが発生しやすくなる。一方、添加量が2重量%未満の場合、ヒュージングの効果が十分に得られにくくなる。したがって、Siの添加量は2~5重量%であることが好ましい。
【0020】
Bは、上述のSiと同様に、耐衝撃性を向上させるとともに、合金粉末に自溶性を付与する元素であるが、添加量が4重量%を超える場合、硬くなりすぎて脆くなり、クラックが発生しやすくなる。一方、添加量が2重量%未満の場合、ヒュージングの効果が十分に得られにくくなる。したがって、Bの添加量は2~4重量%であることが好ましい。
【0021】
このように、本実施形態のNi基自溶合金溶射皮膜に含まれるNi基自溶合金は、Siを2~5重量%、Bを2~4重量%含有し、残部がNiからなることにより、合金粉末の自溶性を付与するとともに、耐摩耗性および耐衝撃性を向上することが可能となる。
【0022】
次に本実施形態にかかるサイドガイド部材の製造方法について説明する。
【0023】
まず、サイドガイド部材の基材表面に、WCを20~40重量%、Coを3~5重量%、Crを0~5重量%含有し、残部がNi基自溶合金及び不可避不純物からなる粉末を溶射する。Ni基自溶合金は、Siを2~5重量%、Bを2~4重量%含有し、残部がNiからなる。
【0024】
本実施形態で適用可能な溶射法としては、プラズマ溶射法やフレーム溶射法等が挙げられる。中でも、大気圧プラズマ溶射法が好ましい。
【0025】
次に、Ni基自溶合金溶射皮膜に対して、ヒュージング処理(再溶融処理)を施す。ヒュージング処理を施すことにより、溶射皮膜内の気孔を低減し、緻密化を図るとともに、基材と溶射皮膜との間に拡散層を形成させて密着力の高い溶射皮膜とする。ヒュージング処理は、大気中または非酸化性雰囲気中において、1000~1100℃の温度で、30~240分の再溶融を伴う熱処理を施すことが好ましい。
【実施例0026】
以下では、実施例を示して、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
WCを33重量%、Coを4重量%、Crを0重量%含有し、残部がNi基自溶合金及び不可避不純物からなる自溶合金粉末を準備した。Ni基自溶合金は、Siを3重量%、Bを2重量%含有し、残部がNiからなる。その後、50mm×50mm×10mmtのS45C製の基材に対して、下記の条件にて大気圧プラズマ溶射を行い、溶射皮膜を形成した。
電流値:400A
アルゴンガス流量:36NLPM
その後、段落0025に記載の条件にてヒュージング処理を施すことで、実施例1の試験片を作製した。
【0028】
(比較例1)
Siを4重量%、Bを3重量%含み、残部がNiからなる自溶合金粉末を準備した。その後、50mm×50mm×10mmtのS45C製の基材に対して、下記の条件にてフレーム溶射を行い、溶射皮膜を形成した。その後、段落0025に記載の条件にてヒュージング処理を施すことで、比較例1の試験片を作製した。
アセチレン流量:14.5NLPM
酸素流量:26NLPM
【0029】
(比較例2)
Coを10重量%、Crを4重量%含み、残部がWCからなる溶射粉末を準備した。その後、50mm×50mm×10mmtのS45C製の基材に対して、下記の条件にて高速フレーム溶射を行い、溶射皮膜を形成し、比較例2の試験片を作製した。
酸素流量:1900SCFH
灯油流量:6GPH
【0030】
(比較例3)
Niを50重量%、Crを50重量%含む溶射粉末を準備した。その後、50mm×50mm×10mmtのS45C製の基材に対して、比較例1と同様の条件にてフレーム溶射を行い、溶射皮膜を形成し、比較例3の試験片を作製した。
【0031】
以下では、実施例、比較例の評価に使用した各種試験および試験条件について説明する。
【0032】
(耐摩耗試験)
耐摩耗試験においては、スガ式摩耗試験にて摩耗減量を測定した。試験条件は下記のとおりである。
荷重:3.25kg・f
往復回数:2000回
試験紙:SiC#320
【0033】
(皮膜硬さ試験)
皮膜硬さ試験においては、マイクロビッカース硬度計を用いて測定した。試験条件は下記のとおりである。
荷重:300gf
【0034】
(密着性試験)
密着性試験においては、せん断試験にて密着力を測定した。試験条件は下記のとおりである。
試験機:AG-Xplus(島津製作所製)
試験速度:1mm/min
試験温度:室温(25℃)
【0035】
(耐割れ性試験)
耐割れ性試験においては、鋼球押し込み試験を実施した。試験条件は下記のとおりである。
荷重:10kN
鋼球:SUJ2 φ20mm
【0036】
(耐焼付性試験)
耐焼付性試験においては、ピンオンディスク試験を実施した。試験条件は下記のとおりである。
相手材:SS400
荷重:5N
回転半径:6mm
摩擦速度:16.67cm/s
摩擦距離:400m
【0037】
実施例1および比較例1~3における各種試験の結果を下記の表1に示す。
なお、表1中の◎、〇、△、×の基準は以下のとおりである。
(耐摩耗性)
◎:摩耗減量が20mg未満
〇:摩耗減量が20mg以上、70mg未満
△:摩耗減量が70mg以上、120mg未満
×:摩耗減量が120mg以上
(密着性)
◎:密着力が350MPa以上
〇:密着力が300MPa以上、350MPa未満
△:密着力が250MPa以上、300MPa未満
×:密着力が250MPa未満
(耐割れ性)
◎:鋼球を押し込んだ際の圧痕の直径が1.8mm未満
〇:鋼球を押し込んだ際の圧痕の直径が1.8mm以上、2.1mm未満
△:鋼球を押し込んだ際の圧痕の直径が2.1mm以上、2.4mm未満
×:鋼球を押し込んだ際の圧痕の直径が2.4mm以上
(耐焼付性)
◎:相手材の摩擦痕の面積が、0.2mm未満
〇:相手材の摩擦痕の面積が、0.2mm以上、1.0mm未満
△:相手材の摩擦痕の面積が、1.0mm以上、5.0mm未満
×:相手材の摩擦痕の面積が、5.0mm以上
【0038】
【表1】
【0039】
表1の結果から、本発明に適合する条件下で成膜したNi基自溶合金溶射皮膜(実施例1)は、耐摩耗性、耐焼付性、密着性、および、耐衝撃性において、良好な特性を示すことが確かめられた。