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特開2023-89665化合物、抗ウィルス組成物、コーティング材料、フィルタ、抗ウィルス部材、及び化合物の製造方法
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  • 特開-化合物、抗ウィルス組成物、コーティング材料、フィルタ、抗ウィルス部材、及び化合物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089665
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】化合物、抗ウィルス組成物、コーティング材料、フィルタ、抗ウィルス部材、及び化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
C01G23/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204303
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】林 文隆
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA01
4G047CB05
4G047CC03
4G047CD03
4G047CD07
(57)【要約】
【課題】抗ウィルス性と光触媒特性とを併せ持つ化合物、抗ウィルス組成物、コーティング材料、フィルタ、抗ウィルス部材、及び化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る化合物は、三チタン酸ナトリウムのナトリウムイオンの一部が銀イオンで置換された化合物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三チタン酸ナトリウムのナトリウムイオンの一部が銀イオンで置換された化合物。
【請求項2】
全ナトリウムイオンの0原子百分率超50原子百分率以下が銀イオンで置換された、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
全ナトリウムイオンの5原子百分率35原子百分率が銀イオンで置換された、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物を含む、抗ウィルス組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物及びバインダーを含む、コーティング材料。
【請求項6】
前記化合物を粒子の形態で含み、前記粒子のメジアン径が0.1μm以上100μm以下である、請求項5に記載のコーティング材料。
【請求項7】
前記コーティング材料における前記化合物の含有量と前記バインダーの固形分の含有量との質量比は、0.01以上1以下である、請求項5又は6に記載のコーティング材料。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物を含む、フィルタ。
【請求項9】
基材と、
前記基材の表面上に形成された、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物を含むコーティング層と、
を備える抗ウィルス部材。
【請求項10】
基材と、
前記基材の内部に分散した請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物の粒子と、
を備える抗ウィルス部材。
【請求項11】
三チタン酸ナトリウムのナトリウムイオンの一部が銀イオンで置換された化合物の製造方法であって、
三チタン酸ナトリウムと銀イオンを含む溶液とを混合することを含む、方法。
【請求項12】
前記溶液は、硝酸銀、亜硝酸銀、硫酸銀、及び酢酸銀からなる群より選択された1以上の銀塩の水溶液である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記三チタン酸ナトリウムは、粒子の形態で前記溶液と混合され、前記三チタン酸ナトリウムの粒子は、0.1μm以上500μm以下のメジアン径を有する、請求項11又は12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、化合物、抗ウィルス組成物、コーティング材料、フィルタ、抗ウィルス部材、及び化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは光触媒材料として知られている。光触媒材料は、紫外光又は可視光に応答して、材料表面で強い酸化作用を生じるため、一定の抗菌性及び抗ウィルス性を示し得る(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-101155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、ウィルス性感染症に対する危機意識が一段と高まる中で、さらに抗ウィルス性に優れた材料が求められている。
【0005】
本発明は、抗ウィルス性と光触媒特性とを併せ持つ化合物、抗ウィルス組成物、コーティング材料、フィルタ、抗ウィルス部材、及び化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、抗ウィルス性を有する銀イオンを、光触媒特性を有するチタン酸化物に導入することによって、チタン酸化物に抗ウィルス性を付与できるのではないか、と着想した。鋭意検討の結果、本発明者は、層状の結晶構造を有する三チタン酸ナトリウムの層間に位置するナトリウムイオンを銀イオンで置換することによって、抗ウィルス性と光触媒特性とを併せ持つ化合物が得られることを見出した。
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]三チタン酸ナトリウムのナトリウムイオンの一部が銀イオンで置換された化合物。
[2]全ナトリウムイオンの0原子百分率超50原子百分率以下が銀イオンで置換された、[1]に記載の化合物。
[3]全ナトリウムイオンの15原子百分率以上35原子百分率以下が銀イオンで置換された、[2]に記載の化合物。
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載の化合物を含む、抗ウィルス組成物。
[5][1]~[3]のいずれか1つに記載の化合物及びバインダーを含む、コーティング材料。
[6]前記化合物を粒子の形態で含み、前記粒子のメジアン径が0.1μm以上100μm以下である、[5]に記載のコーティング材料。
[7]前記コーティング材料における前記化合物の含有量と前記バインダーの固形分の含有量との質量比は、0.01以上1以下である、[5]又は[6]に記載のコーティング材料。
[8][1]~[3]のいずれか1つに記載の化合物を含む、フィルタ。
[9]基材と、前記基材の表面上に形成された、[1]~[3]のいずれか1つに記載の化合物を含むコーティング層と、を備える抗ウィルス部材。
[10]基材と、前記基材の内部に分散した[1]~[3]のいずれか1つに記載の化合物の粒子と、を備える抗ウィルス部材。
[11]三チタン酸ナトリウムのナトリウムイオンの一部が銀イオンで置換された化合物の製造方法であって、
三チタン酸ナトリウムと銀イオンを含む溶液とを混合することを含む、方法。
[12]前記溶液は、硝酸銀、亜硝酸銀、硫酸銀、及び酢酸銀からなる群より選択された1以上の銀塩の水溶液である、[11]に記載の方法。
[13]前記三チタン酸ナトリウムは、粒子の形態で前記溶液と混合され、前記三チタン酸ナトリウムの粒子は、0.1μm以上500μm以下のメジアン径を有する、[11]又は[12]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、抗ウィルス性と光触媒特性とを併せ持つ化合物、抗ウィルス組成物、コーティング材料、フィルタ、抗ウィルス部材、及び化合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る抗ウィルス部材の断面図を示す。
図2】第2実施形態に係る抗ウィルス部材の断面図を示す。
図3】実施例1-1において測定されたX線回折(XRD)パターンを示す。
図4】実施例1-1において撮影された三チタン酸ナトリウム微粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
図5】実施例1-1において測定された三チタン酸ナトリウム微粉末の粒度分布を示す。
図6】実施例1-1において撮影された銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末のSEM写真を示す。
図7】実施例1-1において測定された銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末の粒度分布を示す。
図8】光触媒特性の評価実験における試料に吸着したメチレンブルーの吸光度の時間変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に係る化合物、抗ウィルス組成物、コーティング材料、フィルタ、抗ウィルス部材、及び化合物の製造方法について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、本発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0011】
<化合物>
本発明の一実施形態によれば、三チタン酸ナトリウムのナトリウムイオンの一部が銀イオンで置換された化合物が提供される。以下、この化合物を「銀置換三チタン酸ナトリウム」と称する。
【0012】
(銀置換三チタン酸ナトリウム)
銀置換三チタン酸ナトリウムは、層状の結晶構造を有する三チタン酸ナトリウムにおいて、層間に位置するナトリウムイオンの一部が銀イオンで置換された結晶構造を有する。すなわち、銀置換三チタン酸ナトリウムは、層間に位置するナトリウムイオンの一部が抜けて、代わりに銀イオンが層間に入った結晶構造を有する。
【0013】
銀置換三チタン酸ナトリウムは、例えば、全ナトリウムイオンの0原子百分率超90原子百分率以下が銀イオンで置換されている。好ましくは、全ナトリウムイオンの1原子百分率以上50原子百分率以下、5原子百分率以上45原子百分率以下、10原子百分率以上40原子百分率以下、15原子百分率以上35原子百分率以下、又は20原子百分率以上30原子百分率以下が銀イオンで置換されている。例えば、全ナトリウムイオンの5原子百分率以上35原子百分率以下が銀イオンで置換されている。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0014】
銀置換三チタン酸ナトリウムは、化学式(Na1-xAgTi(0<x<1)で表される化合物である。例えば、0<x≦0.9であり、好ましくは0.01≦x≦0.5であり、より好ましくは0.05≦x≦0.45であり、より好ましくは0.1≦x≦0.4であり、より好ましくは0.15≦x≦0.35であり、より好ましくは0.2≦x≦0.3である。例えば、0.05≦x≦0.35である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0015】
(抗ウィルス性)
本発明者は、銀置換三チタン酸ナトリウムが抗ウィルス性を有することを見出した。本明細書において、「抗ウィルス性」とは、ウィルスの増殖を抑制する性質(光触媒効果によるものを除く)を意味する。銀置換三チタン酸ナトリウムは、ウィルスを不活化させることにより、ウィルスの増殖を抑制する。
【0016】
(抗ウィルス性の評価方法)
抗ウィルス性は、ISO 18184 付属書Gに準拠した抗ウィルス活性値Mvを基準として評価できる。抗ウィルス活性値Mvは、プラーク測定法により測定されたウィルス感染価から算出される。ISO 18184 付属書Gによれば、2.0≦Mv<3.0である場合には、測定試料は抗ウィルス効果を有すると評価され、3.0≦Mvである場合には、測定試料は十分な抗ウィルス効果を有すると評価される。一方、Mv<2.0である場合には、有意な抗ウィルス効果が認められないと評価される。
【0017】
20質量%の銀置換三チタン酸ナトリウムを含むコーティング材料の、ISO 18184 付属書Gに準拠した抗ウィルス活性値Mvは、2.0以上であり、好ましくは3.0以上である。
【0018】
(光触媒特性)
本発明者は、さらにチタン酸化物の光触媒特性に着目した。後述するように、本発明者は、三チタン酸ナトリウムが銀置換後も光触媒特性を有することを確認した。本明細書において、「光触媒特性」とは、紫外光又は可視光が照射された場合に、材料表面に酸化作用が生じる性質を意味する。したがって、銀置換三チタン酸ナトリウムは、銀イオンによる抗ウィルス性に加えて、光触媒特性による抗菌・抗ウィルス性を有する。これにより、銀置換三チタン酸ナトリウムは、ウィルスの増殖を強く抑制することができる。
【0019】
銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子のメジアン径は、0.1μm以上500μm以下である。本明細書において、「メジアン径」とは、粒子の体積ベースで測定された粒度分布の中央値を意味する。粒子の粒度分布は、例えば、レーザ回折式粒子径分布測定装置によって測定される。粒子のメジアン径が0.1μmより小さい場合には、銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子をバインダーなどと混合して組成物とした場合に、粒子がバインダーに埋没してしまう可能性がある。この場合、粒子がウィルスに十分に接触できず、十分な抗ウィルス効果が得られない可能性がある。一方、粒子のメジアン径が500μmより大きい場合には、メジアン径が小さい場合に比べて比表面積が減少する。この場合、粒子の量に対して十分な抗ウィルス効果が得られない可能性がある。
【0020】
銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子のメジアン径は、例えば、1.0μm以上、5.0μm以上、7.0μm以上、又は9.0μm以上である。銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子のメジアン径は、例えば、100μm以下、50μm以下、30μm以下、20μm以下、又は10μm以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0021】
銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子のメジアン径は、銀置換を行う前の三チタン酸ナトリウムの粒子のメジアン径よりも大きい。これは、理論に拘束されるものではないが、銀置換後の粒子同士が凝集したことが一因と考えられる。
【0022】
<化合物の製造方法>
本発明の一実施形態によれば、三チタン酸ナトリウムのナトリウムイオンの一部が銀イオンで置換された化合物の製造方法であって、三チタン酸ナトリウムの粉末と銀イオンを含む溶液とを混合すること(混合ステップ)を含む方法が提供される。
【0023】
上記製造方法は、混合ステップの前又は後に、三チタン酸ナトリウムの粉末を粉砕する粉砕ステップを含んでもよい。上記製造方法は、混合ステップの前に、銀イオンの置換量の目標値を実現するための各種パラメータを決定するパラメータ決定ステップを含んでもよい。また、上記製造方法は、混合ステップの後に、反応生成物を反応液から単離する単離ステップを含んでもよい。
【0024】
(三チタン酸ナトリウム)
上記製造方法において使用される三チタン酸ナトリウムNaTiは、TiOを構成単位とする層状の結晶構造であって、層間にナトリウムイオンが位置する結晶構造を有する。
【0025】
原料として使用される三チタン酸ナトリウムは、粒子の形態で上記溶液と混合される。三チタン酸ナトリウムの粒子は、0.1μm以上500μm以下のメジアン径を有する。粒子のメジアン径が0.1μmより小さい場合には、粒子の微細化に手間がかかる可能性がある。一方、粒子のメジアン径が500μmより大きい場合には、銀イオンの置換が粒子内部まで行き届かず、十分な置換が行われない可能性がある。
【0026】
三チタン酸ナトリウムの粒子のメジアン径は、例えば、1.0μm以上、3.0μm以上、5.0μm以上、又は7.0μm以上である。三チタン酸ナトリウムの粒子のメジアン径は、例えば、100μm以下、50μm以下、20μm以下、10μm以下、又は8μm以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0027】
(銀イオンを含む溶液)
銀イオンを含む溶液は、任意の銀塩の溶液である。銀イオンは、例えばI価の銀イオンAgである。銀塩は、使用する溶媒に溶解するものであれば特に限定されない。溶媒が水である場合には、銀塩は、水溶性を有するものであればよい。例えば、銀塩は、硝酸銀、亜硝酸銀、硫酸銀、及び酢酸銀からなる群より選択された1以上であってよい。
【0028】
(粉砕ステップ)
粉砕ステップでは、三チタン酸ナトリウムの粉末を、イオン交換反応に適した大きさになるまで(例えば、メジアン径が上記範囲になるまで)粉砕する。粉砕方法は特に限定されず、ボールミル、ビーズミル、遊星ミル、乳鉢粉砕、気流粉砕など、既知の任意の方法を使用可能である。粉砕ステップの温度、時間などの条件は特に限定されない。粉砕ステップは、粉砕工程の後に、粉砕された三チタン酸ナトリウムの粉末を洗浄する洗浄工程や当該粉末を乾燥させる乾燥工程を含んでもよい。
【0029】
(パラメータ決定ステップ)
パラメータ決定ステップでは、目的とする銀イオンの置換量を決定し、決定した置換量を実現するのに適した実験パラメータを決定する。実験パラメータとしては、例えば、三チタン酸ナトリウムの粉末と銀イオンを含む溶液との配合量、溶液の銀イオン濃度、使用する三チタン酸ナトリウムの粒径、使用する銀塩の種類、混合ステップの温度、混合ステップの時間などが挙げられる。他の添加剤を使用する場合には、それらの添加剤の添加量も実験パラメータに含まれる。特に、三チタン酸ナトリウムの粉末と銀イオンを含む溶液との配合量(すなわち固液比)及び溶液の銀イオン濃度を適宜調整することは、銀イオンの置換量を簡便にコントロールできる点で好ましい。
【0030】
(混合ステップ)
混合ステップでは、三チタン酸ナトリウムの粉末と銀イオンを含む溶液とを混合する。三チタン酸ナトリウムの粉末に銀イオンを含む溶液を添加してもよく、銀イオンを含む溶液に三チタン酸ナトリウムの粉末を添加してもよい。これにより、イオン交換が起こり、三チタン酸ナトリウムに含まれるナトリウムイオンの一部が銀イオンによって置換される。その結果、銀置換三チタン酸ナトリウムが得られる。
【0031】
混合ステップの温度は、イオン交換が起こる温度であれば、特に限定されない。例えば、混合ステップは、室温で行われてもよい。混合ステップの温度は、例えば、10℃以上又は20℃以上であり、100℃以下、90℃以下、50℃以下、40℃以下、又は30℃以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0032】
混合ステップの時間は、イオン交換が起こる長さであれば、特に限定されない。例えば、混合ステップは、1分以上24時間以下の時間だけ行われてもよい。混合ステップの時間は、例えば、5分以上12時間以下、10分以上6時間以下、30分以上3時間以下、又は1時間以上2時間以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0033】
(単離ステップ)
単離ステップでは、生成した銀置換三チタン酸ナトリウムを反応液から単離する。単離方法は特に限定されず、濾過、クロマトグラフィーなど、既知の任意の方法を使用可能である。単離ステップは、上記の分離工程の後に、単離された銀置換三チタン酸ナトリウムの粉末を洗浄する洗浄工程や当該粉末を乾燥させる乾燥工程を含んでもよい。
【0034】
(銀イオンの吸着量)
銀置換三チタン酸ナトリウムにおける銀イオンの吸着量を、銀イオンを含む溶液からの銀イオンの減少量から算出することができる。ここで、銀イオンの「吸着量」とは、三チタン酸ナトリウムにおけるイオン交換操作の前後で銀イオン源(例えば、硝酸銀水溶液などの銀イオンを含む溶液)から減少した銀イオンのモル数を、系に投入した三チタン酸ナトリウムの質量で割った値である。銀イオン源から減少した銀イオンのモル数は、例えば、混合ステップ前後の銀イオンを含む溶液の銀イオン濃度を任意の手法で定量して、その差分を取ることにより算出できる。
【0035】
銀置換三チタン酸ナトリウムにおける銀イオンの吸着量は、例えば、0mmol/g超6mmol/g以下であり、好ましくは、0.066mmol/g以上3.3mmol/g以下、0.33mmol/g以上3mmol/g以下、0.66mmol/g以上2.7mmol/g以下、1mmol/g以上2.3mmol/g以下、1.3mmol/g以上2mmol/g以下、又は1.5mmol/g以上1.7mmol/g以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0036】
銀イオンの吸着量は、単位質量あたりの三チタン酸ナトリウムに吸着された(例えば、結晶構造中のナトリウムイオンと交換された)銀イオンの物質量と推測される。したがって、上記の銀置換三チタン酸ナトリウムにおける銀イオン置換量の原子百分率の値(x)は、銀置換三チタン酸ナトリウムにおける銀イオンの吸着量から算出することができる。銀イオンの吸着量Aは、単位質量の三チタン酸ナトリウム(原料)あたりの銀イオンのモル数であるから、原料に含まれるナトリウムイオンのモル数(単位質量の三チタン酸ナトリウムに約6.631mmol含まれる)あたりの値に換算すると、銀イオン置換量の原子百分率の値(x)が得られる。すなわち、x=A/(6.631mmol/g)である。
【0037】
<化合物の使用方法>
本発明の一実施形態によれば、三チタン酸ナトリウムのナトリウムイオンの一部が銀イオンで置換された化合物の使用方法が提供される。例えば、上記方法は、ウィルスを減少させるために上記化合物を使用する方法である。例えば、上記方法は、上記化合物をウィルスに接触させることを含む。例えば、上記化合物を含む抗ウィルス組成物は、抗ウィルス部材を製造するための材料として使用できる。例えば、上記化合物を含む抗ウィルス部材は、ウィルスを減少させるための衛生用品として使用できる。
【0038】
<抗ウィルス組成物>
本発明の一実施形態によれば、銀置換三チタン酸ナトリウムを含む抗ウィルス組成物が提供される。抗ウィルス組成物は、エンベロープウィルスやノンエンベロープウィルスなど、1種類以上のウィルスに対して抗ウィルス性を有する。抗ウィルス組成物は、ウィルスを減少させるための組成物として使用され得る。例えば、抗ウィルス組成物は、抗ウィルス性及び光触媒特性を併せ持つ。
【0039】
抗ウィルス組成物は、銀置換三チタン酸ナトリウムの他に、バインダー、溶媒、分散媒、分散剤、接着剤、添加剤など、任意の成分を含んでよい。
【0040】
<コーティング材料>
本発明の一実施形態によれば、銀置換三チタン酸ナトリウム及びバインダーを含むコーティング材料が提供される。例えば、コーティング材料は、抗ウィルス性及び光触媒特性を併せ持つ抗ウィルス組成物である。
【0041】
コーティング材料は、銀置換三チタン酸ナトリウムを粒子の形態で含み、粒子のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下である。本明細書において、粒子のメジアン径が0.1μmより小さい場合には、粒子がバインダーに埋没してコーティング層の表面から露出しない可能性がある。この場合、十分な抗ウィルス効果が得られない可能性がある。一方、粒子のメジアン径が100μmより大きい場合には、コーティング層の表面に粒子に由来する顕著な凹凸が生じる可能性がある。
【0042】
(バインダー)
バインダーは、銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子を担持することができる。例えば、バインダーとしては、樹脂などの高分子材料が使用可能である。バインダーの例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、エステルアミド樹脂などが挙げられる。
【0043】
コーティング材料における銀置換三チタン酸ナトリウムの含有量は、コーティング材料の全体を100質量部として、1質量部以上50質量部以下である。銀置換三チタン酸ナトリウムの含有量が1質量部より小さい場合には、使用するコーティング材料の量に対して十分な抗ウィルス効果が得られない可能性がある。銀置換三チタン酸ナトリウムの含有量が50質量部より大きい場合には、コーティング材料中の固体成分が過多となる可能性がある。これにより、コーティングが困難になる可能性がある。
【0044】
例えば、銀置換三チタン酸ナトリウムの含有量は、コーティング材料の固形分全体を100質量部として、5質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、又は20質量部以上であり、45質量部以下、40質量部以下、35質量部以下、又は30質量部以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0045】
コーティング材料における銀置換三チタン酸ナトリウムの含有量とバインダーの固形分の含有量との質量比は、0.01以上1以下である。上記質量比が0.01より小さい場合、銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子がバインダーから十分に露出しない可能性がある。この場合、十分な抗ウィルス効果が得られない可能性がある。上記質量比が1より大きい場合、コーティング材料中の粉末成分がバインダーによって十分に結着されない可能性がある。
【0046】
例えば、銀置換三チタン酸ナトリウムとバインダーの固形分との質量比は、0.05以上、0.11以上、0.18以上、又は0.25以上であり、0.82以下、0.67以下、0.54以下、又は0.43以下である。これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0047】
<抗ウィルス部材>
本発明の一実施形態によれば、銀置換三チタン酸ナトリウムを含む抗ウィルス部材が提供される。例えば、抗ウィルス部材は、抗ウィルス性及び光触媒特性を示す部材である。抗ウィルス部材の例として、フィルタ、フィルム、繊維、衣服などが挙げられる。
【0048】
図1は、第1実施形態に係る抗ウィルス部材10の断面図を示す。図1に示すように、抗ウィルス部材10は、基材100と、基材100の表面上に形成されたコーティング層110とを有する。コーティング層110は、銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子120及び粒子120が分散したバインダー130を含む。抗ウィルス部材10は、例えば、銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子120をバインダー130に分散させたコーティング材料を、基材100の表面上にコーティング層110として塗布することによって製造され得る。また、例えば、基材100が繊維質部材やメッシュ状部材のように内部空間を含む部材である場合には、抗ウィルス部材10は、銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子120の分散液に基材100を浸漬したり、上記分散液を基材100に含浸させることによって製造され得る。
【0049】
基材100は、特に限定されないが、例えば、不織布、織物、紙、樹脂硬化体、金属板、金属メッシュ、ガラス板などであってよい。例えば、基材100は、板状又はシート状の部材であってよい。例えば、基材100は、複数の小孔を有する多孔性の部材であってよい。基材100は、硬質の部材であってもよく、可撓性を有する部材であってもよい。
【0050】
コーティング層110は、例えば、基材100の表面上にシート状に形成される。基材100が孔を有する場合には、コーティング層110は、孔の内面まで覆うように3次元的に形成されてもよく、内面を覆わずに孔の開口を覆うように平面状に形成されてもよい。なお、基材100とコーティング層110との間に、バインダーを含む接着層などの追加の層が設けられてもよい。また、コーティング層110の表面上に保護層などの追加の層が設けられてもよい。
【0051】
図2は、第2実施形態に係る抗ウィルス部材20の断面図を示す。図2に示すように、抗ウィルス部材20は、基材200と、基材200の内部に分散した銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子220と、を備える。抗ウィルス部材20は、例えば、基材200の原料としての樹脂材料と銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子220とを混合してシート状に成形する(例えば、不織布として押出成形する)ことによって製造される。基材200は特に限定されず、基材100と同様の材料が使用可能である。例えば、基材200が織布や不織布などの繊維質部材である場合には、銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子220が繊維上に担持され得る。
【0052】
上記抗ウィルス部材の一例として、銀置換三チタン酸ナトリウムを含むフィルタが提供される。例えば、フィルタは、1以上の孔が形成されたフィルタ基材(例えば、多孔質又は繊維質のフィルタ基材)と、フィルタ基材に担持された銀置換三チタン酸ナトリウムの粒子とを含む。フィルタの例として、マスク、エアフィルタ(例えば、吸気フィルタや排気フィルタ)、メッシュフィルタ、濾紙などが挙げられる。フィルタに抗ウィルス性を付与することにより、流体がフィルタを通過する際に、その流体に含まれるウィルスを不活化することができる。特に、第1実施形態の基材100として既存のフィルタを用意し、この基材100上にコーティング層110を形成することにより、既存のフィルタに抗ウィルス性を簡便に付与することができる。特に、マスクに抗ウィルス性を付与すると、健康維持や病気の予防に有利である。
【実施例0053】
[実施例1-1]
1.1kgの三チタン酸ナトリウムNaTiの粉末(T-62、フタムラ化学社製)に超純水1.4Lを添加し、室温で10時間ボールミルにより粉砕処理を行った。得られた粉砕物を洗浄して100℃で乾燥し、微粉末を得た。得られた微粉末のX線回折(XRD)パターンを測定することにより、微粉末が三チタン酸ナトリウムであることを確認した。粉砕前後のサンプルのXRDパターンを、図3にそれぞれ(a)及び(b)として示す。粉砕前後でサンプルの結晶構造が変わっていないことが確認された。
【0054】
得られた三チタン酸ナトリウム微粉末の粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図4は、三チタン酸ナトリウム微粉末のSEM写真である。また、得られた三チタン酸ナトリウム微粉末の粒度分布を粒度分布計SALD-7100(島津製作所製)により測定した。測定された粒度分布を図5に示す。粒度分布のメジアン径は7.199μm、モード径は8.131μm、平均値は5.788μm、標準偏差は0.430μmであった。
【0055】
次いで、得られた三チタン酸ナトリウム微粉末20gに、50mmol/Lの硝酸銀AgNO水溶液2Lを添加し、室温で2時間撹拌して三チタン酸ナトリウム微粉末のイオン交換を行った。その後、反応液を濾過及び洗浄して乾燥させることにより、イオン交換された銀置換三チタン酸ナトリウム(Na1-xAgTi(0<x<1)微粉末を得た。
【0056】
得られた微粉末のXRDパターンを図3(c)に、SEM写真を図6に、粒度分布を図7にそれぞれ示す。イオン交換前後でサンプルの結晶構造が変わっていないことが確認された。粒度分布のメジアン径は9.596μm、モード径は9.992μm、平均値は6.111μm、標準偏差は0.648μmであった。イオン交換後の硝酸銀水溶液中の銀イオンの残量から算出した、銀置換三チタン酸ナトリウムの銀イオンの吸着量は、1.692mmol/gであった。
【0057】
[実施例1-2]
硝酸銀水溶液の濃度を100mmol/Lに変更した点を除き、実施例1-1と同様にして、イオン交換された銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末を得た。銀置換三チタン酸ナトリウムの銀イオンの吸着量は、1.644mmol/gであった。
【0058】
[実施例1-3]
硝酸銀水溶液の濃度を200mmol/Lに変更した点を除き、実施例1-1と同様にして、イオン交換された銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末を得た。銀置換三チタン酸ナトリウムの銀イオンの吸着量は、1.708mmol/gであった。
【0059】
[実施例1-4]
三チタン酸ナトリウム微粉末と硝酸銀水溶液とを混合して撹拌する時間を3分間に変更した点を除き、実施例1-1と同様にして、イオン交換された銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末を得た。銀置換三チタン酸ナトリウムの銀イオンの吸着量は、1.7mmol/gとなった。
【0060】
[比較例1-1]
三チタン酸ナトリウムに代えて二酸化チタンTiO(和光純薬工業社製)を原料として使用した点を除き、実施例1-1と同様にして、イオン交換反応を試みた。TiOの銀イオンの吸着量は、0.053mmol/gであった。
【0061】
[比較例1-2]
硝酸銀水溶液の濃度を100mmol/Lに変更した点を除き、比較例1-1と同様にして、イオン交換反応を試みた。TiOの銀イオンの吸着量は、0.136mmol/gであった。
【0062】
[比較例1-3]
硝酸銀水溶液の濃度を200mmol/Lに変更した点を除き、比較例1-1と同様にして、イオン交換反応を試みた。TiOの銀イオンの吸着量は、0.086mmol/gであった。
【0063】
[比較例1-4]
三チタン酸ナトリウムに代えて二酸化チタンTiO(Sigma-Aldrich社製)を原料として使用した点を除き、実施例1-1と同様にして、イオン交換反応を試みた。二酸化チタンTiO(Sigma-Aldrich社製)の銀イオンの吸着量は、0.089mmol/gであった。
【0064】
[比較例1-5]
硝酸銀水溶液の濃度を100mmol/Lに変更した点を除き、比較例1-4と同様にして、イオン交換反応を試みた。二酸化チタンTiO(Sigma-Aldrich社製)の銀イオンの吸着量は、0.226mmol/gであった。
【0065】
[比較例1-6]
硝酸銀水溶液の濃度を200mmol/Lに変更した点を除き、比較例1-4と同様にして、イオン交換反応を試みた。二酸化チタンTiO(Sigma-Aldrich社製)の銀イオンの吸着量は、0.188mmol/gであった。
【0066】
[比較例1-7]
三チタン酸ナトリウムに代えてメタチタン酸(酸化チタン(IV)一水和物HTiO(三津和化学薬品社製)を原料として使用した点を除き、実施例1-1と同様にして、イオン交換反応を試みた。メタチタン酸の銀イオンの吸着量は、0.178mmol/gであった。
【0067】
[比較例1-8]
硝酸銀水溶液の濃度を100mmol/Lに変更した点を除き、比較例1-7と同様にして、イオン交換反応を試みた。メタチタン酸の銀イオンの吸着量は、0.352mmol/gであった。
【0068】
[比較例1-9]
硝酸銀水溶液の濃度を200mmol/Lに変更した点を除き、比較例1-7と同様にして、イオン交換反応を試みた。メタチタン酸の銀イオンの吸着量は、0.073mmol/gであった。
【0069】
このように、原料として二酸化チタン又はメタチタン酸を使用した比較例1-1~比較例1-9では、原料として三チタン酸ナトリウムを使用した実施例1-1~実施例1-4と比較して銀イオンの吸着量はごく僅かであった。すなわち、三チタン酸ナトリウムのように層状の結晶構造を有するチタン酸化物であれば、層間に銀イオンが容易に進入する。一方、それ以外のチタン酸化物では、銀イオンの進入や吸着が起こりにくいことが示唆された。
【0070】
[実施例2-1]
実施例1-1と同様にして、粉砕した三チタン酸ナトリウム微粉末を得た。得られた三チタン酸ナトリウム微粉末10.0gに,2mmol/Lの硝酸銀AgNO水溶液1Lを添加し,室温で2時間撹拌して三チタン酸ナトリウム微粉末のイオン交換を行った。その後、反応液を濾過及び洗浄して乾燥させ、イオン交換された銀置換三チタン酸ナトリウム(Na1-xAgTi(0<x<1)微粉末を得た。銀置換三チタン酸ナトリウムの銀イオンの吸着量は、約0.2mmol/gであった。得られた0.2mmol/gの銀イオンが吸着した銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末20質量部と、80質量部(溶媒以外の固形分の値)のバインダーとを混合し、コーティング材料を得た。ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にバインダーを塗布し、当該バインダー層(すなわち接着層)の上に上記コーティング材料を塗布して、コーティングフィルムを得た。このコーティングフィルムを使用し、ISO 18184付属書Gに従って、エンベロープウィルスに対する抗ウィルス活性値Mvを測定する実験を行った。
【0071】
[実施例2-2]
コーティングフィルムの製造時に、PETフィルム上に直接コーティング材料を塗布した(すなわち、実施例2-1の接着層を設けなかった)点を除き、実施例2-1と同様にして、抗ウィルス活性値Mvを測定した。
【0072】
[実施例2-3]
硝酸銀水溶液の濃度を5mmol/Lとした点を除き、実施例2-1と同様にして、抗ウィルス活性値Mvを測定した。銀置換三チタン酸ナトリウムの銀イオンの吸着量は、約0.5mmol/gであった。
【0073】
[実施例2-4]
コーティングフィルムの製造時に、PETフィルム上に直接コーティング材料を塗布した点を除き、実施例2-3と同様にして、抗ウィルス活性値Mvを測定した。
【0074】
[比較例2-1]
バインダーのみを塗布し、コーティング材料を塗布していないPETフィルムに対して、実施例2-1と同様にして、抗ウィルス活性値Mvを測定した。
【0075】
[比較例2-2]
バインダー及びコーティング材料を塗布していないPETフィルムに対して、実施例2-1と同様にして、抗ウィルス活性値Mvを測定した。
【0076】
[抗ウィルス性の評価]
実施例2-1~実施例2-4、比較例2-1、及び比較例2-2で測定した抗ウィルス活性値の測定結果を表1にまとめた。ここで、Mv欄の記載は、「A」がMv≧3.0、「B」が3.0>Mv≧2.0、「C」が2.0>Mvを表す。ここで、ISO 18184付属書Gによれば、2.0≦Mv<3.0である場合には、測定試料は抗ウィルス効果を有すると評価され、3.0≦Mvである場合には、測定試料は十分な抗ウィルス効果を有すると評価される。一方、Mv<2.0である場合には、有意な抗ウィルス効果が認められないと評価される。
【0077】
【表1】
【0078】
[光触媒特性の評価]
銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末の光触媒特性を評価するために、メチレンブルー分解反応の促進効果の評価を行った。
【0079】
まず、銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末及び対照試料としての三チタン酸ナトリウム微粉末(非銀置換)に対し、メチレンブルーを吸着させた。具体的には、メチレンブルー(Waldeck GmbH & Co. KG社製)を使用して、0.02mmol/Lのメチレンブルー溶液1Lを調製した。実施例2-3の条件で調製した銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末(銀イオンの吸着量:約0.5mmol/g)、及び、イオン交換を行っていない三チタン酸ナトリウム微粉末(銀イオンなし)を0.5gずつ用意し、それぞれ250mLのメチレンブルー溶液に室温で30分浸漬した。吸引濾過装置を用いて、孔径100nmのフィルターで濾過及び分離を行った。その後、100℃で1時間乾燥させ、回収した。
【0080】
次いで、メチレンブルーを吸着させた銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末(銀イオンの吸着量:約0.5mmol/g)及び三チタン酸ナトリウム微粉末をそれぞれブラックボックスの中に入れ、ブラックライト(λ=365nm)を0分、10分、20分、30分、60分、又は120分照射した。その後、試料を0.1gだけ拡散反射測定用ホルダに充填し、各試料について波長673nmにおける吸光度を測定した。バックグラウンドは除去した。
【0081】
光触媒特性の評価結果として、試料に吸着したメチレンブルーの吸光度(波長673nm)の時間変化を図8に示す。銀置換を行っていない三チタン酸ナトリウム微粉末では、照射開始から20分、60分、及び120分で、測定された吸光度は、照射開始時点の値を基準としてそれぞれ72.7%、57.5%、及び46.5%であった。すなわち、メチレンブルーの分解率は、それぞれ27.3%、42.5%、及び53.5%であった。一方、銀イオンを吸着した銀置換三チタン酸ナトリウム微粉末では、照射開始から20分、60分、及び120分で、測定された吸光度は、照射開始時点の値を基準としてそれぞれ41.0%、27.3%、及び24.0%であった。すなわち、メチレンブルーの分解率は、それぞれ59.0%、72.7%、及び76.0%となった。したがって、銀置換を行うことにより、三チタン酸ナトリウム微粉末が有するメチレンブルーの分解促進効果(すなわち、光触媒特性)が向上することは明らかである。
【符号の説明】
【0082】
10、20…抗ウィルス部材、100、200…基材、110…コーティング層、120、220…粒子、130…バインダー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8