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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089684
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/16 20060101AFI20230621BHJP
   H01J 35/18 20060101ALI20230621BHJP
   H01J 35/06 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
H01J35/16
H01J35/18
H01J35/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204336
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友伸
(57)【要約】
【課題】 長期にわたって安定動作するX線管を提供する。
【解決手段】 X線管1は、陰極30と、陽極40と、陰極フード50と、第1X線透過窓(60)と、外囲器10と、を備える。陽極40は、X線を放出する焦点が形成される陽極ターゲット45を有する。陰極フード50には、X線を通す第1開口(50w)が形成されている。上記第1X線透過窓は、上記第1開口の少なくとも一部を塞いでいる。外囲器10は、陰極30、陽極ターゲット45、陰極フード50、及び上記第1X線透過窓を収容している。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出する電子放出源を有する陰極と、
X線管軸に沿った方向において前記陰極と対向し前記電子放出源から放出される電子が衝突することによりX線を放出する焦点が形成される陽極ターゲットを有する陽極と、
前記電子放出源から前記焦点に向かう電子の軌道と、前記陽極ターゲットと、を囲み、X線を通す第1開口が形成された陰極フードと、
前記第1開口の少なくとも一部を塞ぎ、前記陰極フードのX線透過率より高いX線透過率を持つ第1X線透過窓と、
前記陰極、前記陽極ターゲット、前記陰極フード、及び前記第1X線透過窓を収容した外囲器と、を備える、
X線管。
【請求項2】
前記陰極フードと前記第1X線透過窓との間に位置し、前記第1X線透過窓を前記陰極フードに固定したロウ材、をさらに備える、
請求項1に記載のX線管。
【請求項3】
前記第1X線透過窓は、前記第1開口と対向した第1領域と、前記第1領域の外側に位置した第2領域と、を有し、
前記陰極フードは、前記電子の軌道及び前記陽極ターゲットを囲んだ内周面と、前記内周面と反対側の外周面と、前記外周面に開口し前記内周面側に凹み前記第1X線透過窓を収容した第1穴と、前記第1穴における第1底面と、を有し、
前記第1開口は、前記内周面と、前記第1底面と、にそれぞれ開口し、
前記第1底面は、前記第1X線透過窓の前記第2領域と対向した重ね代を有し、
前記ロウ材は、前記重ね代と前記第1X線透過窓の前記第2領域との間に位置し、前記第1X線透過窓の前記第2領域を前記重ね代に固定している、
請求項2に記載のX線管。
【請求項4】
前記陰極フードは、前記第1開口と前記重ね代との間に位置し前記第1底面に開口し前記内周面側に凹んだ溝を有する、
請求項3に記載のX線管。
【請求項5】
第1抑え部材をさらに備え、
前記第1X線透過窓は、前記第1開口と対向した第1領域と、前記第1領域を囲んだ枠状の第2領域と、前記第2領域の外縁に重なった第1側面と、を有し、
前記陰極フードは、前記電子の軌道及び前記陽極ターゲットを囲んだ内周面と、前記内周面と反対側の外周面と、前記外周面に開口し前記内周面側に凹み前記第1X線透過窓を収容した第1穴と、前記第1穴における第1底面と、前記第1穴における内壁面と、を有し、
前記第1開口は、前記内周面と、前記第1底面と、にそれぞれ開口し、
前記第1底面は、前記第1X線透過窓の前記第2領域と対向した枠状の重ね代を有し、
前記第1X線透過窓の前記第1側面は、前記内壁面と対向し、
前記第1抑え部材は、前記第1X線透過窓の前記第2領域と対向し、前記重ね代とともに前記第1X線透過窓の前記第2領域を挟み、枠状の形状と、前記内壁面と対向した第2側面と、を有し、前記陰極フードを形成する材料より柔らかい金属で形成され、
前記第2側面は、前記内壁面に圧接された接触面を有し、
前記第1X線透過窓は、前記第1抑え部材により、前記重ね代に抑え付けられた状態に維持されている、
請求項1に記載のX線管。
【請求項6】
第1抑え部材及び第2抑え部材をさらに備え、
前記第1X線透過窓は、前記第1開口と対向した第1領域と、前記第1領域を囲んだ枠状の第2領域と、前記第2領域の外縁に重なった第1側面と、を有し、
前記陰極フードは、前記電子の軌道及び前記陽極ターゲットを囲んだ内周面と、前記内周面と反対側の外周面と、前記外周面に開口し前記内周面側に凹み前記第1X線透過窓を収容した第1穴と、前記第1穴における第1底面と、前記第1穴における内壁面と、前記内壁面に開口した凹面と、を有し、
前記第1開口は、前記内周面と、前記第1底面と、にそれぞれ開口し、
前記第1底面は、前記第1X線透過窓の前記第2領域と対向した枠状の重ね代を有し、
前記第1X線透過窓の前記第1側面は、前記内壁面と対向し、
前記第1抑え部材は、前記第1X線透過窓の前記第2領域と対向し、前記重ね代とともに前記第1X線透過窓の前記第2領域を挟み、枠状の形状と、前記内壁面と対向した第2側面と、を有し、
前記第2抑え部材は、前記凹面及び前記第2側面で囲まれた空間に位置し、前記陰極フードを形成する材料より柔らかい金属で形成され、前記第2側面に圧接された接触面を有し、
前記第1X線透過窓は、前記第1抑え部材及び前記第2抑え部材により、前記重ね代に抑え付けられた状態に維持されている、
請求項1に記載のX線管。
【請求項7】
第1抑え部材をさらに備え、
前記第1X線透過窓は、前記第1開口と対向した第1領域と、前記第1領域を囲んだ枠状の第2領域と、前記第2領域の外縁に重なった第1側面と、を有し、
前記陰極フードは、前記電子の軌道及び前記陽極ターゲットを囲んだ内周面と、前記内周面と反対側の外周面と、前記外周面に開口し前記内周面側に凹み前記第1X線透過窓を収容した第1穴と、前記第1穴における第1底面と、前記第1穴における内壁面と、前記第1穴から連続し前記外周面に開口し前記内周面側に凹んだ第2穴と、前記第2穴における第2底面と、を有し、
前記第1開口は、前記内周面と、前記第1底面と、にそれぞれ開口し、
前記第1底面は、前記第1X線透過窓の前記第2領域と対向した枠状の重ね代を有し、
前記第1X線透過窓の前記第1側面は、前記内壁面と対向し、
前記第1抑え部材は、前記第1X線透過窓の前記第2領域と対向し、前記重ね代とともに前記第1X線透過窓の前記第2領域を挟み、枠状の形状と、前記内壁面と対向した第2側面と、を有し、
前記第1抑え部材と前記第2底面とは、溶接され、
前記第1X線透過窓は、前記陰極フードに固定された前記第1抑え部材により、前記重ね代に抑え付けられた状態に維持されている、
請求項1に記載のX線管。
【請求項8】
前記第1抑え部材と前記第2底面との溶接痕は、前記外周面の仮想の延長面より前記内周面側に位置している、
請求項7に記載のX線管。
【請求項9】
前記第1X線透過窓は、ベリリウムで形成されている、
請求項1に記載のX線管。
【請求項10】
前記外囲器は、ガラスで形成されている、
請求項1に記載のX線管。
【請求項11】
X線透過アセンブリをさらに備え、
前記外囲器は、前記第1X線透過窓と対向した第2開口を有し、
前記X線透過アセンブリは、
前記外囲器に気密に取り付けられ、前記第2開口を囲んだ窓枠と、
前記窓枠に収められ、前記窓枠とともに前記第2開口を気密に閉塞し、前記窓枠のX線透過率より高いX線透過率を持つ第2X線透過窓と、を有する、
請求項1に記載のX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
非破壊検査装置などに搭載されて長時間連続的にX線を発生させるX線発生源として、固定陽極型のX線管が知られている。この固定陽極型X線管は、電子の衝突によりX線を発生する陽極ターゲットと、陽極ターゲットに向けて電子を放出する電子放出源を有する陰極と、少なくとも陽極ターゲット及び電子放出源の周囲を所定の真空度に維持する外囲器と、を備えている。
【0003】
外囲器は、X線管の高電圧絶縁を保つためにガラス容器を備えている。ガラス容器には開口が形成され、上記開口はX線透過アセンブリにより気密に閉塞されている。X線透過アセンブリは、上記開口に対向し外囲器に気密に取り付けられた窓枠と、上記窓枠に収められベリリウム等のX線透過性金属で形成されX線を透過させるX線透過窓と、を有している。
【0004】
電子放出源から放出された電子は、陽極ターゲットと陰極との間に印加された電圧(X線管電圧)によって加速され、陽極ターゲットのターゲット面の焦点に衝突する。陽極ターゲットに衝突した電子は、陽極ターゲット上で熱とX線に変換され、発生したX線の一部がX線透過窓を透過して出力される。
【0005】
陽極ターゲットに衝突した電子の中には、熱やX線に変換されずに反跳電子となって散乱するものがある。例えば、反跳電子は外囲器に衝突し、外囲器に帯電が発生し、X線管の内部にて不所望な放電が発生する等、X線管に不具合が生じる恐れがある。そこで、外囲器に向かう反跳電子を捕捉するため、陰極フードを備えるX線管が知られている。陰極フードは開口を有し、陽極ターゲットで発生したX線は、陰極フードの開口を通り、
X線透過アセンブリのX線透過窓を透過し、X線管の外部に放出される。
【0006】
なお、反跳電子の捕捉に注目した場合、X線管は、陽極ターゲットのターゲット面に近い位置で反跳電子を捕捉できる構造を有している方が望ましい。そのため、X線管は、陰極フードの替わりに陽極ターゲット側に設けられたフード構造を有している場合がある。しかしながら、上記フード構造は、陽極ターゲットからの熱的な悪影響を受け易く、損傷し易い。熱的な影響に注目した場合、X線管は、陽極ターゲットより熱的な負荷の小さい陰極側に設けられた陰極フードを備えている方が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-33862号公報
【特許文献2】実開平4-98254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本実施形態は、長期にわたって安定動作するX線管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態に係るX線管は、
電子を放出する電子放出源を有する陰極と、
X線管軸に沿った方向において前記陰極と対向し前記電子放出源から放出される電子が衝突することによりX線を放出する焦点が形成される陽極ターゲットを有する陽極と、
前記電子放出源から前記焦点に向かう電子の軌道と、前記陽極ターゲットと、を囲み、X線を通す第1開口が形成された陰極フードと、
前記第1開口の少なくとも一部を塞ぎ、前記陰極フードのX線透過率より高いX線透過率を持つ第1X線透過窓と、
前記陰極、前記陽極ターゲット、前記陰極フード、及び前記第1X線透過窓を収容した外囲器と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係るX線管を示す断面図である。
図2図2は、上記実施形態に係るX線管の陰極フードアセンブリを示す正面図である。
図3図3は、図2の陰極フードアセンブリを線III-IIIに沿って示す断面図である。
図4図4は、上記実施形態に係る陰極フードアセンブリを示す分解斜視図である。
図5図5は、上記実施形態の変形例1に係るX線管の陰極フードアセンブリを示す断面図である。
図6図6は、上記変形例1に係る陰極フードアセンブリを示す分解斜視図である。
図7図7は、上記実施形態の変形例2に係るX線管の陰極フードアセンブリを示す分解斜視図である。
図8図8は、図7の陰極フードアセンブリを線VIII-VIIIに沿って示す断面図である。
図9図9は、上記変形例2に係る陰極フードアセンブリの一部を拡大して示す斜視図である。
図10図10は、上記実施形態の変形例3に係るX線管の陰極フードアセンブリの一部を拡大して示す斜視図である。
図11図11は、上記実施形態の変形例4に係るX線管の陰極フードアセンブリを示す斜視図である。
図12図12は、上記変形例4に係る陰極フードアセンブリの一部を拡大して示す正面図である。
図13図13は、上記実施形態の変形例5に係るX線管の陰極フードアセンブリを示す斜視図である。
図14図14は、図13の陰極フードアセンブリを線XIV-XIVに沿って示す断面図である。
図15図15は、上記実施形態の変形例6に係るX線管の陰極フードアセンブリを示す斜視図である。
図16図16は、図15の陰極フードアセンブリを線XVI-XVIに沿って示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(一実施形態)
以下に、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0012】
図1は、本実施形態に係るX線管1を示す断面図である。図1に示すように、X線管1は、固定陽極型のX線管である。X線管1は、外囲器10と、X線透過アセンブリ20と、陰極30と、陽極40と、陰極フードアセンブリ5と、を備えている。
【0013】
外囲器10は、ガラス及び金属で形成されている。本実施形態において、外囲器10は、第1金属容器11、第2金属容器12、及びガラス容器13で形成されている。ガラス容器13は、例えば硼珪酸ガラスを利用して形成されている。ガラス容器13は、例えば複数のガラス部材を溶接により気密に接合し形成することができる。ガラス容器13は、一端部が閉塞された円筒状に形成されている。ガラス容器13は、円筒部13aを有している。円筒部13aは、陰極フードアセンブリ5等を囲んでいる。円筒部13a(ガラス容器13)は、第2開口としての開口13wを有している。この実施形態において、開口13wは円形である。開口13wは、後述するターゲット面43付近に位置している。開口13wを形成することにより、ガラス容器13によるX線の減衰を防止することができる。
【0014】
第1金属容器11は、ガラス容器13の外側に位置し、開口13wを取囲むように設けられている。第1金属容器11は、例えば、コバール(KOV)を利用して環状に形成されている。第1金属容器11は、ガラス容器13に融着により気密に接続されている。第1金属容器11には、X線透過アセンブリ20と結合するための鍔部が形成されている。この実施形態において、第1金属容器11(鍔部)は円形枠状に形成されている。
【0015】
第2金属容器12は、ガラス容器13の他端部と陽極40とに気密に接続されている。第2金属容器12は、例えば、KOVを利用して環状に形成されている。第2金属容器12は、ガラス容器13に融着により気密に接続されている。
外囲器10は、陰極30、陽極40、陰極フードアセンブリ5等を収容し、陽極40の一部が露出するように形成されている。
【0016】
X線透過アセンブリ20は、第1金属容器11(外囲器10)に取り付けられ開口13wを気密に閉塞している。これにより、外囲器10は、密閉されている。外囲器10の内部の真空状態は維持されている。
【0017】
X線透過アセンブリ20は、窓枠21と、窓枠鍔部21aと、第2X線透過窓としてのX線透過窓22と、鍔部23と、を有している。
窓枠21は、開口13wを囲んでいる。窓枠21には、第1金属容器11と結合するための窓枠鍔部21aが気密に取り付けられている。この実施形態において、窓枠21は円錐形枠状に形成されている。窓枠21は、第1金属容器11(外囲器10)に気密に取り付けられている。窓枠21は、金属として例えば銅で形成されている。窓枠21は、陰極30及び陽極40の少なくとも一方と電気的に絶縁されている。本実施形態において、窓枠21は、陰極30及び陽極40の両方と電気的に絶縁されている。窓枠21は、陰極30及び陽極40間の高電圧に対して十分な耐電圧特性を持つように設計されている。
【0018】
窓枠鍔部21aは金属として例えば鉄で形成されている。この実施形態において、窓枠21と窓枠鍔部21aはロウ付けにより固定されている。この実施形態において、窓枠鍔部21aと第1金属容器11の鍔部とが溶接されることにより、窓枠21は外囲器10に気密に取り付けられている。
【0019】
窓枠21は、貫通孔21hと、取付け面21sと、を有している。この実施形態において、貫通孔21hは円形状であり、取付け面21sは円形枠状である。取付け面21sは平坦である。貫通孔21hを形成することにより、窓枠21によるX線の減衰や遮蔽を防止することができる。取付け面21sは、貫通孔21hの外側に形成され、外囲器10の一部を形成している。
【0020】
X線透過窓22は、X線を透過させ、外囲器の一部を構成するものである。X線透過窓22は、X線透過性を示し、かつ機械的強度の高い材料を利用して形成することができる。X線透過窓22は、窓枠21のX線透過率より高いX線透過率を持っている。この実施形態において、X線透過窓22はBe板(ベリリウム薄板:ベリリウムを利用した薄板)で形成されている。
【0021】
X線透過窓22は平板状に形成されている。この実施形態において、X線透過窓22は円板状に形成されている。X線透過窓22は、取付け面21sに対向し窓枠21に取付けられる取付け領域と、貫通孔21hに対向したX線透過領域と、を有している。
【0022】
X線透過窓22の取付け領域は、取付け面21sに気密に取り付けられている。例えば、X線透過窓22は、図示しないロウ材を利用して取付け面21sにロウ付けされることにより、窓枠21に取付けられている。これにより、X線透過窓22は、窓枠21に収められ、窓枠21とともに外囲器10の開口13wを気密に閉塞することができる。窓枠21は、開口13wと鍔部23との間に位置している。
【0023】
鍔部23は、窓枠21に対して第1金属容器11の反対側に位置し、窓枠21に取り付けられている。この実施形態において、鍔部23は円形枠状に形成されている。鍔部23は、金属として例えばステンレス鋼で形成されている。鍔部23と窓枠21とがロウ接されることにより、鍔部23は窓枠21に取り付けられている。
【0024】
鍔部23は、貫通孔23hを有している。この実施形態において、貫通孔23hは円形状である。貫通孔23hを形成することにより、鍔部23によるX線の減衰や遮蔽を防止することができる。上記のことから、X線透過窓22を透過するX線の出射路上に、第1金属容器11、ガラス容器13、窓枠21、及び鍔部23は、存在していない。
【0025】
また、鍔部23は、ねじ穴23a及び環状の収容溝23bを有している。例えば、X線管1を図示しないハウジングの内部に収容し、X線管1を上記ハウジングに固定する際、ねじ穴23aを利用してX線管1を上記ハウジングにねじ止めすることができる。収容溝23bに図示しないOリングを収容することで、上記Oリングは鍔部23と上記ハウジングとの隙間を封止することができる。例えば、上記ハウジングとX線管1との間の空間に冷却液が存在する場合、上記Oリングは、上記冷却液の漏洩を抑制することができる。その他に、上記冷却液が漏洩する恐れのある個所は、適宜、封止されていればよい。例えば、窓枠21はさらに第1金属容器11に液密に取り付けられ、鍔部23はさらに窓枠21に液密に取り付けられている。
【0026】
陰極30は、外囲器10に収容されている。陰極30は、X線管軸Aに沿った方向に、陽極40に間隔を置いて配置されている。陰極30は、電子放出源としてのフィラメント31、フィラメント端子32a,32b、カソードピン33a,33b,33c、絶縁部材35a,35b、支持部材36、及び集束電極37を有している。
【0027】
フィラメント31は、陽極40に照射する電子を放出する。本実施形態において、フィラメント31は、フィラメントコイルを有している。フィラメント端子32aは、フィラメント31の一方の延出部を支持し、フィラメント31に電気的に接続されている。フィラメント端子32bは、フィラメント31の他方の延出部を支持し、フィラメント31に電気的に接続されている。
【0028】
カソードピン33a,33b,33cは、導電性を有している。本実施形態において、カソードピン33a,33b,33cは、金属を利用し、棒状に形成されている。カソードピン33a,33b,33cは、ガラス容器13に取り付けられている。カソードピン33a,33b,33cは、融着によりガラス容器13に気密に接続されている。カソードピン33a,33b,33cは、それぞれ外囲器10の外側に位置する一端部を有している。カソードピン33aはフィラメント端子32aに電気的に接続され、カソードピン33bはフィラメント端子32bに電気的に接続され、カソードピン33cは集束電極37に電気的に接続されている。
【0029】
集束電極37は、円柱状に形成されている。集束電極37は、集束溝37aと、収容溝37bと、を有している。集束溝37aは、陽極40側に開口し、電子を集束させる機能を有している。収容溝37bは、集束溝37aの底面に形成され、陽極40側に開口し、フィラメント31を収容している。
また、集束電極37は、フィラメント端子32aを通すための貫通孔37cと、フィラメント31の他方の延出部及びフィラメント端子32bを通すための貫通孔37dと、を有している。
【0030】
絶縁部材35aは、貫通孔37cに設けられ、集束電極37に固定されている。絶縁部材35aは、筒状に形成され、内部にフィラメント端子32aが挿入されている。フィラメント端子32aは、絶縁部材35aに固定された接続部品(スリーブ)9aに接触されている。
絶縁部材35bは、貫通孔37dに設けられ、集束電極37に固定されている。絶縁部材35bは、筒状に形成され、内部にフィラメント端子32bが挿入されている。フィラメント端子32bは、絶縁部材35bに固定された接続部品(スリーブ)9bに接触されている。
上記のことから、フィラメント31は、集束電極37に対して電気的に絶縁されている。
【0031】
支持部材36は、外囲器10に固定され、集束電極37を支持している。このため、集束電極37は、外囲器10に固定されている。支持部材36は、ガラス封着金属で形成されている。支持部材36は、ガラス融着によりガラス容器13に固定されている。本実施形態において、支持部材36はKOVで形成されている。
【0032】
集束電極37は、フィラメント31から陽極40に向かう電子の軌道を囲んでいる。集束電極37は、電子を集束させる機能を有している。本実施形態において、集束電極37は、X線管軸Aに平行な方向に延在している。
【0033】
陽極40は、外囲器10に収容されている。陽極40は、陽極ターゲット45と、陽極ターゲット45に接続された陽極延出部46と、を備えている。陽極ターゲット45は、X線管軸Aに沿った方向において陰極30と対向している。陽極ターゲット45は、陽極ターゲット本体41と、陽極ターゲット本体41のうち陰極30側の端面の位置に設けられたターゲット層42と、を有している。陽極ターゲット本体41は、円柱状に形成されている。陽極ターゲット本体41は、銅、銅合金等の高熱伝導性の金属で形成されている。
【0034】
ターゲット層42は、円板状に形成されている。ターゲット層42は、タングステン(W)、タングステン合金等の高融点金属で形成されている。ターゲット層42は、陰極30と対向する側にターゲット面43を有している。ターゲット面43には、フィラメント31から放出される電子が衝突することによりX線を放出する焦点Fが形成される。
【0035】
陽極延出部46は、陽極ターゲット本体41と同様に、銅、銅合金等の高熱伝導性の金属で円柱状に形成されている。陽極延出部46は、陽極ターゲット本体41を固定し、陽極ターゲット45で発生した熱を周囲へ伝達する。
なお、上記第2金属容器12は、陽極ターゲット本体41及び陽極延出部46の少なくとも一方に気密に固定されている。ここでは、第2金属容器12は、陽極延出部46にロウ付けにより気密に接続されている。
【0036】
図1に示すように、陰極フードアセンブリ5は、陰極フード50と、第1X線透過窓としてのX線透過窓60と、を備えている。
陰極フード50は、円筒状に形成されている。陰極フード50は、陽極ターゲット45を取り囲んでいる。陰極フード50は、陽極ターゲット本体41の外周面との間に、全周に亘って隙間を置いている。また、陰極フード50は、ガラス容器13との間に全周にわたって隙間を置いている。陰極フード50は、金属で形成されている。陰極フード50は、陰極30と同電位に設定される。この実施形態において、陰極フード50の一端部は集束電極37に固定され、陰極フード50は集束電極37と同電位に設定される。
【0037】
陰極フード50は、フィラメント31から焦点Fに向かう電子の軌道と、陽極ターゲット45と、を囲んでいる。陰極フード50には、X線を通す第1開口としての開口50wが形成されている。開口50wは、ターゲット面43とX線透過窓22との間に位置している。本実施形態では、開口50wは、X線管軸Aに垂直な垂直方向dにてターゲット面43とX線透過窓22との間に位置している。開口50wを設けることにより、陰極フード50による利用X線の吸収率を0%にすることができる。陰極フード50は、ステンレス鋼、ニッケル等の金属で形成されている。陰極フード50は、鉄の本体にニッケルメッキを施して形成されてもよい。
【0038】
X線管1は、X線透過窓60を備えている。X線透過窓60は、陰極フード50のX線透過率より高いX線透過率を持っている。本実施形態において、X線透過窓60は、ベリリウムで形成されている。X線透過窓60は、Be板である。なお、外囲器10の開口13wは、X線透過窓60と対向している。
【0039】
図2は、本実施形態に係るX線管1の陰極フードアセンブリ5を示す正面図である。図3は、図2の陰極フードアセンブリ5を線III-IIIに沿って示す断面図である。図4は、本実施形態に係る陰極フードアセンブリ5を示す分解斜視図である。
図1乃至図4に示すように、X線透過窓60は、陰極フード50の開口50wの少なくとも一部を塞いでいる。本実施形態において、X線透過窓60は、陰極フード50の開口50wの全体を塞いでいる。X線透過窓60は、陰極フード50の開口50wと対向した第1領域60aと、上記第1領域を囲んだ枠状の第2領域60bと、上記第2領域の外縁に重なった側面60sと、を有している。側面60sは第1側面として機能している。
【0040】
陰極フード50は、内周面50iと、上記内周面と反対側の外周面50oと、穴50aと、穴50aにおける底面50s1と、穴50aにおける内壁面50s2と、を有している。内周面50iは、電子の軌道及び陽極ターゲット45を囲んでいる。穴50aは第1穴として機能している。底面50s1は第1底面として機能している。
【0041】
穴50aは、外周面50oに開口し、内周面50i側に凹み、X線透過窓60を収容している。穴50a及び開口50wを正面からみた場合、穴50a及び開口50wは、それぞれ円形の形状を有している。上記開口50wは、内周面50iと、底面50s1と、にそれぞれ開口している。底面50s1は、X線透過窓60の第2領域60bと対向した枠状の重ね代50tを有している。X線透過窓60の側面60sは、内壁面50s2と対向している。
【0042】
陰極フード50は、X線管軸Aに沿った方向に並んだ第1部分51、第2部分52、第3部分53、及び第4部分54を有している。第1部分51は、厚みT1を有し、筒状に形成されている。第3部分53は、厚みT3を有し、筒状に形成されている。第2部分52は、厚みT1及び厚みT3のそれぞれより大きい厚みT2を有し、筒状に形成されている。
【0043】
ここで、陰極フード50の厚みTとは、陰極フード50の内周面50iから外周面50oまでの最短距離に相当している。本実施形態において、陰極フード50の厚みTは、垂直方向dにおける陰極フード50の内周面50iから外周面50oまでの直線距離に相当している。
第4部分54は、曲面で形成された外面を有している。第4部分54の外面は、第3部分53の内周面50iから連続している。第4部分54は、特定個所に電界が集中しないように形成されている。
陰極フード50のうち、開口50w、穴50a、底面50s1、重ね代50t、及び内壁面50s2は、第2部分52に形成されている。
【0044】
陰極フードアセンブリ5は、第1抑え部材としての抑え部材70をさらに備えている。抑え部材70は、枠状の形状を有している。抑え部材70は、X線透過窓60の第2領域60bと対向し、重ね代50tとともにX線透過窓60の第2領域60bを挟んでいる。抑え部材70は、内壁面50s2と対向した側面70sを有している。側面70sは第2側面として機能している。
【0045】
抑え部材70と、陰極フード50の第2部分52とは、溶接されている。本実施形態において、抑え部材70と陰極フード50の第2部分52とは4個所で溶接され、陰極フードアセンブリ5に4つの溶接痕WEが形成されている。X線透過窓60は、陰極フード50に固定された抑え部材70により、重ね代50tに抑え付けられた状態に維持されている。上記溶接に、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接、レーザー溶接を利用することができる。
X線管1は、上記のように構成されている。
【0046】
上記X線管1の動作では、陰極30と陽極ターゲット45との間に数十kVから数百kVの高電圧(X線管電圧)が印加され、陰極30と陽極ターゲット45との間に強い電界が発生する。本実施形態において、X線管1は陰極接地方式のX線管であり、陰極30は接地され、陽極ターゲット45に正の高電圧が印加される。
【0047】
但し、X線管1は、陽極ターゲット45が接地され、陰極30に負の高電圧が印加される、陽極接地方式のX線管であってもよい。又は、X線管1は、陽極ターゲット45に正の高電圧が印加され、陰極30に負の高電圧が印加される、中性点接地方式のX線管であってもよい。
【0048】
フィラメント31から放出された電子は、X線管電圧によって加速され、電子ビームを形成する。この際、電子ビームは集束電極37によって集束される。電子ビームは、ターゲット層42のターゲット面43に衝突し、焦点Fを形成し、熱エネルギとX線に変換される。焦点Fから発生したX線のうちの利用X線は、陰極フード50の開口50wを通り、X線透過窓60を透過し、外囲器10の開口13wを通り、X線透過窓22を透過し、X線管1の外部に放射される。
【0049】
上記のように構成された一実施形態に係るX線管1によれば、X線管1は、外囲器10と、陰極30と、陽極40と、陰極フード50と、を備えている。陽極ターゲットに衝突した電子の中に熱やX線に変換されずに散乱する反跳電子が発生しても、陰極フード50は、反跳電子を捕捉することができる。
【0050】
ところで、反跳電子は、あらゆる方向に飛び出し、電界によって電位の低い方向に飛んでいく。その飛んで行った反跳電子の一部が、陰極フード50の開口50wを通って外囲器10に衝突し得る。外囲器10を二次電子放出係数によって正或いは負に帯電させることで放電が発生し易くなる問題、電子衝撃により外囲器10を損傷させることで外囲器10の内部の真空気密状態を保てなくなる問題等が生じることが考えられる。上記放電とは、外囲器10(ガラス容器13)と陰極フード50との間の放電である。その他、上記放電としては、X線透過窓22と陰極フード50との間の放電も含まれ得る。
【0051】
そこで、X線管1は、X線透過窓60をさらに備えている。X線透過窓60は、陰極フード50の開口50wの少なくとも一部を塞ぐことができる。反跳電子が開口50wを通過しても、X線透過窓60は、開口50wを通過した反跳電子を捕捉することができる。
開口50wを通過した反跳電子は、X線透過窓60により、外囲器10(ガラス容器13)及びX線透過窓22に衝突し難くなる。又は、X線透過窓60により、開口50wを通過した反跳電子が、外囲器10(ガラス容器13)及びX線透過窓22に衝突する事態を回避することができる。
【0052】
X線透過窓60を備えるX線管1は、X線透過窓60を備えていないX線管1と比較し、耐電圧性能の向上を図ることができる。そのため、長期にわたって安定動作するX線管1を得ることができる。
【0053】
(変形例1)
次に、上記実施形態の変形例1について説明する。図5は、本変形例1に係るX線管1の陰極フードアセンブリ5を示す断面図である。図6は、本変形例1に係る陰極フードアセンブリ5を示す分解斜視図である。なお、図6において、ロウ材80の図示を省略している。また、本変形例1のX線管1は、本変形例1で説明する構成以外、上記実施形態のX線管1と同様に構成されている。
【0054】
図5及び図6に示すように、溶接ではなくロウ付け(真空ロウ付けや水素ロウ付け)を利用し、X線透過窓60を陰極フード50に固定してもよい。陰極フードアセンブリ5は、抑え部材70の替わりにロウ材80を備えている。ロウ材80は、陰極フード50とX線透過窓60との間に位置し、X線透過窓60を陰極フード50に固定している。穴50a及び開口50wを正面からみた場合、穴50aは円形の形状を有し、開口50wは長方形(角丸長方形)の形状を有している。開口50wの長軸方向は、X線管軸Aに平行な方向に垂直であり、かつ、X線管軸Aに垂直であり穴50aの中心に向かう垂直方向dに垂直である。
【0055】
X線透過窓60は、開口50wと対向した第1領域60aと、上記第1領域の外側に位置した第2領域60bと、を有している。本変形例1において、第2領域60bは、第1領域60aの両側の2つの領域に分かれている。
陰極フード50のうち穴50aにおける底面50s1は、X線透過窓60の第2領域60bと対向した重ね代50tを有している。本変形例1において、重ね代50tは、開口50wの両側に2つに分かれて設けられている。
【0056】
ロウ材80は、重ね代50tと、X線透過窓60の第2領域60bと、の間に位置している。ロウ材80は、X線透過窓60の第2領域60bを重ね代50tに固定している。本変形例1において、ロウ材80は、重ね代50tと第2領域60bとの間の空間の各々に設けられている。
【0057】
さらに、陰極フード50は溝Gを有している。本変形例1において、陰極フード50は、開口50wの両側に位置した2つの溝Gを有している。各々の溝Gは、開口50wと重ね代50tとの間に位置し、底面50s1に開口し、内周面50i側に凹んでいる。陰極フード50に溝Gを形成することにより、陰極フードアセンブリ5の製造工程において、余剰のロウ材80を収容することができる。ロウ材80は、開口50wに漏洩し難い。
【0058】
本変形例1において、溝Gは開口50wの長軸方向に延出し、溝Gの両端は内壁面50s2につながっている。陰極フードアセンブリ5の製造工程において、余剰のロウ材80は、重ね代50tの上方から開口50wに向かう途中、必ず溝Gを通る。そのため、ロウ材80が開口50wに漏洩する事態を回避することができる。
【0059】
本変形例1においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
反跳電子の衝突によりX線透過窓60にて反跳電子が熱エネルギに変換される。X線透過窓60が陰極フード50に接触する面積が小さい場合、X線透過窓60と陰極フード50との間の熱伝達パスは不十分であり、X線透過窓60から陰極フード50への熱伝導が不十分となる。例えば、X線透過窓60の温度が局所的に上昇し、X線透過窓60の破損を招く恐れがある。X線管1の動作時にX線透過窓60が破損すると、X線管1が放出するX線の量が不均一となる。すると、X線管1を含むX線装置で撮影したX線画像に異常が発生してしまう。また、X線装置が停止する事態を招く等の不具合が生じ得る。
【0060】
そこで、本変形例1において、X線透過窓60は陰極フード50にロウ接されている。ロウ材80により、X線透過窓60から陰極フード50への熱伝達パスを十分に確保することができる。X線透過窓60に反跳電子が衝突した際のX線透過窓60の温度上昇を抑制することができる。本変形例1のX線管1は、上記実施形態のX線管1と比較し、X線透過窓60の破損を抑制することができる。又は、本変形例1のX線管1は、X線透過窓60の破損を防止することができる。
【0061】
X線管1は、陰極フード50に溶接される抑え部材70無しに形成されている。陰極フード50外周面50oに上記溶接痕(WE)が存在することは無い。電界集中が起こり放電発生の原因となる突起は、陰極フード50外周面50oに形成されていない。本変形例1のX線管1は、上記実施形態のX線管1と比較し、耐電圧性能の向上を図ることができる。
【0062】
陰極フード50は溝Gを有している。ロウ材80が開口50wに漏洩する事態を回避することができるため、X線装置で撮影したX線画像に異常が発生する事態を回避することができる。
【0063】
陰極フード50の開口50wの形状は、長方形に限らず、円形であってもよい。例えば、開口50wの形状が円形である場合、重ね代50t及び溝Gはそれぞれ円環の形状を有し、溝Gは連続的に延出している。
【0064】
(変形例2)
次に、上記実施形態の変形例2について説明する。図7は、本変形例2に係るX線管1の陰極フードアセンブリ5を示す分解斜視図である。図8は、図7の陰極フードアセンブリ5を線VIII-VIIIに沿って示す断面図である。図9は、本変形例2に係る陰極フードアセンブリ5の一部を拡大して示す斜視図である。また、本変形例2のX線管1は、本変形例2で説明する構成以外、上記実施形態のX線管1と同様に構成されている。
【0065】
図7乃至図9に示すように、X線透過窓60は陰極フード50にロウ接されていない。陰極フードアセンブリ5は、抑え部材90をさらに備えている。本変形例2において、陰極フードアセンブリ5は、複数の抑え部材90として4つの抑え部材90を備えている。各々の抑え部材90は、第2抑え部材として機能している。X線透過窓60は、開口50wと対向した第1領域60aと、第1領域60aを囲んだ枠状の第2領域60bと、上記第2領域の外縁に重なった側面60sと、を有している。
【0066】
陰極フード50は、内周面50iと、外周面50oと、穴50aと、底面50s1と、内壁面50s2と、上記内壁面に開口した凹面50cと、を有している。本変形例2において、陰極フード50は、複数の凹面50cとして4つの凹面50cを有している。また、各々の凹面50cは、内壁面50s2にだけではなく、外周面50oにも開口している。
【0067】
陰極フード50の底面50s1は、X線透過窓60の第2領域60bと対向した枠状の重ね代50tを有している。X線透過窓60の側面60sは、内壁面50s2と対向している。抑え部材70は、枠状の形状を有している。抑え部材70は、X線透過窓60の第2領域60bと対向し、重ね代50tとともにX線透過窓60の第2領域60bを挟んでいる。抑え部材70は、内壁面50s2と対向した側面70sを有している。
【0068】
抑え部材90は、陰極フード50の凹面50c及び抑え部材70の側面70sで囲まれた空間に位置している。抑え部材90は、陰極フード50を形成する材料より柔らかい金属で形成されている。本変形例2において、抑え部材90は、銅で形成されている。抑え部材90は、抑え部材70の側面70sに圧接された接触面90cを有している。
【0069】
本変形例2において、凹面50cは、丸型の凹面であり、曲面である。抑え部材90は、ロウ材100により陰極フード50に固定されている。抑え部材90は、陰極フード50の内周面50iから外周面50oに向かう方向に延出し側面70s側に開口した丸型の凹部90aを有している。陰極フードアセンブリ5の製造工程において、X線透過窓60の装填後、凹部90aを広げることで、抑え部材90の接触面90cを抑え部材70の側面70sに固く密着させることができる。
【0070】
上記のことから、抑え部材90は、かしめにより、抑え部材70を物理的に固定している。X線透過窓60は、抑え部材70及び抑え部材90により、重ね代50tに抑え付けられた状態に維持されている。
なお、陰極フードアセンブリ5は、ロウ材100無しに形成されてもよい。例えば、抑え部材90は、陰極フード50の凹面50cにかしめ固定されてもよい。
【0071】
本変形例2においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
陰極フード50に対するX線透過窓60の相対的な位置を固定する場合、陰極フード50ではなく、陰極フード50を形成する材料より柔らかい金属で形成された抑え部材90を塑性変形させている。すなわち、抑え部材90の凹部90aを広げている。陰極フードアセンブリ5の製造工程において、陰極フード50に加わる応力を抑制することができ、陰極フード50の塑性変形を抑制又は防止することができる。
【0072】
上記のことから、陰極フード50が塑性変形した場合に起こり得る問題の発生を抑制又は防止することができる。例えば、放電が発生する問題、焦点形状に異常が発生する問題、焦点寸法に異常が発生する問題等の発生を抑制又は防止することができる。そのため、製造歩留まりの高いX線管1を得ることができる。
また、銅製の抑え部材90は、熱伝導性に優れているため、X線透過窓60で発生する熱を陰極フード50に良好に伝達することができる。
【0073】
(変形例3)
次に、上記実施形態の変形例3について説明する。図10は、本変形例3に係るX線管1の陰極フードアセンブリ5の一部を拡大して示す斜視図である。
図10に示すように、上記変形例2と異なり、陰極フード50の凹面50cは、角型の凹面であってもよい。抑え部材90は、楕円型の凹部90aを有している。本変形例3においても、上記変形例2と同様の効果を得ることができる。
【0074】
(変形例4)
次に、上記実施形態の変形例4について説明する。図11は、本変形例4に係るX線管1の陰極フードアセンブリ5を示す斜視図である。図12は、本変形例4に係る陰極フードアセンブリ5の一部を拡大して示す正面図である。本変形例4のX線管1は、本変形例4で説明する構成以外、上記実施形態のX線管1と同様に構成されている。
【0075】
図11及び図12に示すように、抑え部材70と陰極フード50とは溶接されていない。抑え部材70は、陰極フード50を形成する材料より柔らかい金属で形成されている。本変形例4において、抑え部材70は銅で形成されている。抑え部材70の側面70sは、陰極フード50の内壁面50s2に圧接された接触面70cを有している。
【0076】
抑え部材70は、陰極フード50の内周面50iから外周面50oに向かう方向に延出した丸型の貫通孔70hを有している。本変形例4において、抑え部材70は、複数の貫通孔として4つの貫通孔70hを有している。陰極フードアセンブリ5の製造工程において、X線透過窓60の装填し、ロウ材110にて抑え部材70を陰極フード50にロウ付けした後、貫通孔70hを広げている。抑え部材70の接触面70cを陰極フード50の内壁面50s2に固く密着させることができる。
【0077】
上記のことから、抑え部材70は、かしめにより、陰極フード50に物理的に固定されている。X線透過窓60は、抑え部材70により、重ね代50tに抑え付けられた状態に維持されている。本変形例4においても、陰極フード50の塑性変形を抑制又は防止することができ、上記変形例2及び3と同様の効果を得ることができる。
【0078】
(変形例5)
次に、上記実施形態の変形例5について説明する。図13は、本変形例5に係るX線管の陰極フードアセンブリ5を示す斜視図である。図14は、図13の陰極フードアセンブリ5を線XIV-XIVに沿って示す断面図である。本変形例5のX線管1は、本変形例5で説明する構成以外、上記実施形態のX線管1と同様に構成されている。
【0079】
図13及び図14に示すように、陰極フード50は、穴50bと、穴50bにおける底面50s3と、をさらに有している。穴50bは第2穴として機能し、底面50s3は第2底面として機能している。本変形例5において、陰極フード50は、複数の穴として4つの穴50bを有している。各々の穴50bは、穴50aから連続し、外周面50oに開口し、内周面50i側に凹んでいる。
【0080】
抑え部材70と各々の陰極フード50の底面50s3とは、溶接されている。X線透過窓60は、陰極フード50に固定された抑え部材70により、重ね代50tに抑え付けられた状態に維持されている。抑え部材70と各々の陰極フード50の底面50s3との溶接痕WEは、外周面50oの仮想の延長面Eより内周面50i側に位置している。
【0081】
外周面50oより一段凹んだ位置に溶接痕WEが形成されるため、溶接痕WEへの電界集中を緩和させることができる。なお、垂直方向dにおいて、X線管軸Aから延長面Eまでの距離L1は、X線管軸Aから外周面50oまでの距離L2と同一である。また、本変形例5と異なり、外周面50oより複数段凹んだ位置に溶接痕WEが形成されてもよい。
【0082】
本変形例5においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本変形例5のX線管1は、上記実施形態のX線管1と比較し、耐電圧性能の向上を図ることができる。
【0083】
(変形例6)
次に、上記実施形態の変形例6について説明する。図15は、本変形例6に係るX線管1の陰極フードアセンブリ5を示す斜視図である。図16は、図15の陰極フードアセンブリ5を線XVI-XVIに沿って示す断面図である。
【0084】
図15及び図16に示すように、陰極フード50の穴50bは、X線管軸Aに沿った方向に延出してもよい。本変形例6において、陰極フード50は2つの穴50bを有している。各々の穴50bは、外周面50o及び内壁面50s2に開口している。さらに、各々の穴50bは、第2部分52のうち第1部分51側の端面52aに開口し、又は第2部分52のうち第3部分53側の端面52bに開口している。
【0085】
本変形例6においても、抑え部材70と各々の陰極フード50の底面50s3との溶接痕WEは、外周面50o及び仮想の延長面Eより内周面50i側に位置している。本変形例6においても、上記変形例5と同様の効果を得ることができる。
【0086】
本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記の新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、本発明の実施形態及び複数の変形例は、各種の固定陽極型のX線管に適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1…X線管、5…陰極フードアセンブリ、10…外囲器、13…ガラス容器、
20…X線透過アセンブリ、21…窓枠、21h…貫通孔、22…X線透過窓、
30…陰極、31…フィラメント、40…陽極、41…陽極ターゲット本体、
42…ターゲット層、43…ターゲット面、45…陽極ターゲット、50…陰極フード、
50a,50b…穴、50c…凹面、50i…内周面、50o…外周面、
50s1,50s3…底面、50s2…内壁面、50t…重ね代、51…第1部分、
52…第2部分、52a,52b…端面、53…第3部分、54…第4部分、
60…X線透過窓、60a…第1領域、60b…第2領域、60s…側面、
70,90…抑え部材、70c,90c…接触面、70h…貫通孔、70s…側面、
90a…凹部、80…ロウ材、13w,50w…開口、100,110…ロウ材、
A…X線管軸、E…延長面、F…焦点、G…溝、WE…溶接痕、d…垂直方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16