(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089754
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】大豆ミート用組成物
(51)【国際特許分類】
A23J 3/16 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
A23J3/16 501
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204457
(22)【出願日】2021-12-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】591043086
【氏名又は名称】株式会社みすずコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】上辻 徹
(72)【発明者】
【氏名】岩間 明文
(72)【発明者】
【氏名】古川 昌明
(72)【発明者】
【氏名】松澤 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】村松 賢一
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大豆製品を高温高圧下で組織化することによって大豆ミートを製造するのに好適な組成物を提供する。さらに、大豆自体や有機溶剤に由来する風味及び苦味を低減又は除去した大豆ミートを製造可能な組成物を提供する。
【解決手段】本発明の大豆ミート用組成物は、豆腐及び凍り豆腐から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(A)を含み、組成物の水分が55質量%未満であり、そして、前記大豆タンパク質原料(A)の含有量が、脂質換算で、組成物の総脂質の3質量%以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆腐及び凍り豆腐から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(A)を含む大豆ミート用組成物であって、
組成物の水分が55質量%未満であり、そして、
前記大豆タンパク質原料(A)の含有量が、脂質換算で、組成物の総脂質の3質量%以上であることを特徴とする、大豆ミート用組成物。
【請求項2】
さらに、おから及び大豆粉から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(A’)を含む、請求項1に記載の大豆ミート用組成物。
【請求項3】
前記大豆タンパク質原料(A)及び(A’)の合計の配合量は、脂質換算で、組成物の総脂質の50質量%以上である、請求項2に記載の大豆ミート用組成物。
【請求項4】
さらに、脱脂大豆及び大豆たん白から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(B)を含む、請求項1~3のいずれかに記載の大豆ミート用組成物。
【請求項5】
前記大豆タンパク質原料(B)の配合量は、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質の95質量%以下である、請求項4に記載の大豆ミート用組成物。
【請求項6】
さらに、澱粉質原料(C)を含む、請求項1~3のいずれかに記載の大豆ミート用組成物。
【請求項7】
前記澱粉質原料(C)の配合量は、組成物の10質量%以下である、請求項6に記載の大豆ミート用組成物。
【請求項8】
前記大豆タンパク質原料(A)が、豆腐及び凍り豆腐を必須に含む、請求項1~7のいずれかに記載の大豆ミート用組成物。
【請求項9】
前記大豆タンパク質原料(A)において、前記豆腐に前記凍り豆腐が不均一の分布することを特徴とする、請求項8に記載の大豆ミート用組成物。
【請求項10】
前記凍り豆腐が、粒状、フレーク状、ブロック状又は塊状であることを特徴とする、請求項9に記載の大豆ミート用組成物。
【請求項11】
前記組成物の成分割合は、
タンパク質が、15質量%以上60質量%以下、
脂質が、2質量%以上25質量%以下、
炭水化物が、2質量%以上30質量%以下、及び
水分が、10質量%以上55質量%未満
である、請求項1~10のいずれかに記載の大豆ミート用組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の大豆ミート用組成物を、高温及び高圧下で組織化することにより製造された大豆ミート。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の大豆ミート用組成物を、高温及び高圧下で組織化する工程を含む、大豆ミートの製造方法。
【請求項14】
前記組織化をエクストルーダーで行うことを特徴とする、請求項13に記載の大豆ミートの製造方法。
【請求項15】
請求項1~11のいずれかに記載の大豆ミート用組成物を、高温及び高圧下で組織化する工程を含む、大豆ミートの大豆臭、不快味及び/又は苦味を低減する方法。
【請求項16】
前記大豆タンパク質原料(B)の配合量は、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質の50質量%以下である、請求項17に記載の大豆ミートの大豆臭、不快味及び/又は苦味を低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆ミート用組成物に関し、より詳細にはタンパク質源の一部として豆腐及び/又は凍り豆腐を含む大豆ミート用組成物、及びそれを用いて得られる大豆ミートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向や環境志向を背景として、植物性タンパクの需要が高まっている。例えば、植物由来のタンパク質原料を高温加圧下で混錬した後、膨化させて、タンパク質を三次元に組織化した代替肉が知られている。植物性タンパク質の中でも、大豆又は大豆加工品等の大豆由来のタンパク質を主原料とし、適宜、大豆タンパク質以外の植物性タンパク質、動物性タンパク質や調味料を配合して得た代替肉や肉様食品は、大豆ミート(食品)と呼ばれている。
【0003】
大豆ミートのような代替肉に要求される性質は、肉様の繊維感、硬さ、弾力性、ジューシー感、味、臭い等である。大豆ミートの物性を改善又は向上させる技術が数多く提案されている。例えば特許文献1には、脱脂大豆40~85質量%、分離大豆蛋白8~45質量%、及び澱粉5~17質量%を含有する原料を二軸エクストルーダーに供給する工程と、原料100質量%部に対し15~50質量%部の水を原料に添加する工程と、二軸エクストルーダーにより原料と水とを加圧・加熱しながら混合・混練する工程とを有する組織状大豆蛋白の製造方法が開示されている。この発明によれば、挽肉に近い硬さを有する上に、繊維感も有し、しかも、肉や野菜等の他の食品原材料と馴染むことのできる組織状大豆蛋白が製造される。しかし、脱脂大豆や大豆たん白を主要原料とすると、後述する比較例1-1~1-2に示すように、脂質を補給するために外部から油脂を補充すると、組織化が困難である。
【0004】
特許文献2には、70~99質量%の脱脂大豆と、乾燥質量%で1~30質量%のおからとを含有する原料を、二軸エクストルーダーに供給する工程と、原料100質量%部に対し15~50質量%部の水を原料に添加する工程と、二軸エクストルーダーにより原料と水とを加圧・加熱しながら混合・混練して高温高圧処理物を得る工程とを有し、ダイで高温高圧処理物を冷却する工程を有しない組織状大豆蛋白の製造方法が開示されている。この発明によれば、吸水率が高くて膨化した組織状大豆蛋白が製造される。脱脂大豆を主原料とする大豆ミートは、後述する比較例9-1に示すように、大豆由来のいわゆる大豆臭や青臭さが発生しやすい。脱脂大豆や分離大豆たん白の製造に有機溶剤を使っており、それを大豆ミート用原料に用いると異風味が発生しやすい。
【0005】
特許文献3には、豆腐類を脱水して水分50~80%としたもの、あるいはこれに調味料,香辛料,着色料,香料等の添加物を加えたものをエクストルーダーで加熱,加圧し、ダイより押し出すことを特徴とする肉様組織を有する食品の製造法が開示されている。この発明によれば、大豆の有する優れた栄養特性を損なうことなく、畜肉、特に鶏肉様な食感と組織、外観を備えた肉様組織を有する食品を得ることができる。
【0006】
特許文献4には、大豆たん白と小麦グルテンの重量配合比が8:2から2:8の配合物を含み、たん白含有量が固型物に換算して40%以上のたん白含有物質を水と混練して加熱可塑状態で剪断応力を加えて配向せしめ繊維状とするに当り、原料投入口、駆動装置に取り付けられたスクリューおよび加熱装置により原料を加圧加熱する装置、および押出口に取り付けられたノズルを具備した押出機を用い、圧力7kg/cm2ないし36kg/cm2にて、温度100℃ないし200℃に加圧加熱し、ノズル吐出端近辺の温度を押出機中央部より20ないし60℃低温となるように調節して処理することを特徴とする食品素材の製造法が開示されている。この発明によれば、獣肉、鳥肉、魚介類に類似した安価な繊維状たん白食品素材を製造することができ、原料組成、水分、添加物、加工条件を適宜選択することによって獣肉、鳥肉、魚介類に類似する種々な繊維状たん白食品素材を得ることができる。しかし、この発明が大豆タンパク質以外の植物性タンパク質、特に小麦グルテンを必要とすることは、良質な栄養源である大豆タンパク質の摂取が低くなり、特に小麦アレルギーを有する消費者に避けられる点で不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-143969
【特許文献2】特開2015-144593
【特許文献3】特開昭62-11057
【特許文献4】特開昭57-16655
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術は、いずれも大豆製品を原料に用いて大豆ミートを製造するものである。本発明の課題は、従来技術と同様に、大豆製品を高温高圧下で組織化することによって大豆ミートを製造するのに好適な組成物を提供することと目的とする。
【0009】
既存の大豆ミートの多くは、主原料に脱脂大豆を用いている。これらの大豆ミートは、大豆由来の臭い、有機溶剤臭や不快味・苦味が強い。本発明のさらなる目的は、大豆自体や有機溶剤に由来する風味及び苦味を低減し又は無くした大豆ミートを製造可能な組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
肉類は、表1に示すように、タンパク質、脂質、炭水化物及び水分のバランスが重要である。
【表1】
【0011】
各栄養成分のバランスの重要性は、大豆ミートにおいても同様である。本発明者らは、大豆タンパク質原料の栄養成分と大豆ミートの組織化との関係を鋭意検討したところ、大豆ミート用組成物に含まれる脂質の由来とその量を適正に管理することが重要であり、さらに、大豆由来のタンパク質原料を、
(A)高タンパク質かつ高脂質
(A’)高タンパク質、高脂質かつ高炭水化物
(B)高タンパク質かつ低脂質
に群分けした。そして、本発明の組成物に大豆タンパク質原料(A)を脂質換算で一定量の範囲で必須に含み、適宜、その他のタンパク質源として大豆タンパク質原料(A’)や(B)を補充すると、大豆ミートを安定的に製造できることを見出した。
【0012】
本発明者らはさらに、大豆ミート用組成物の水分と組織化との関係を鋭意検討した。特許文献3の発明では、原料に使用する豆腐類の水分よりも低くすることを要求する。本発明では、豆腐類ではなく、組成物の水分を一定の範囲に抑えることが重要であることを見い出した。
【0013】
すなわち、本発明は、豆腐及び凍り豆腐から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(A)を含む大豆ミート用組成物であって、組成物の水分が55質量%未満であり、そして、前記大豆タンパク質原料(A)の含有量が、脂質換算で、組成物の総脂質の3質量%以上であることを特徴とする、大豆ミート用組成物(以下、本発明の組成物という)を提供する。上記特許文献を含む先行技術は、本発明の組成物のように、水分を一定範囲に制御し、かつ、豆腐及び凍り豆腐から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料の配合割合を、脂質換算で一定の範囲に制御することを記載も示唆もしていない。
【0014】
本発明の組成物は、さらに、おから及び大豆粉から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(A’)を含むことが好ましい。
【0015】
前記大豆タンパク質原料(A)及び(A’)の合計の配合量は、脂質換算で、組成物の総脂質の50質量%以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の組成物は、さらに、脱脂大豆及び大豆たん白から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(B)を含んでよい。
【0017】
前記大豆タンパク質原料(B)の配合量は、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質の95質量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の組成物は、さらに、澱粉質原料(C)を含んでもよい。
【0019】
前記澱粉質原料(C)の配合量は、組成物の10質量%以下であることが好ましい。
【0020】
前記大豆タンパク質原料(A)は、豆腐及び凍り豆腐を必須に含むことが好ましい。前記豆腐に前記凍り豆腐が不均一の分布させることができる。前記凍り豆腐は、例えば粒状、フレーク状、ブロック状又は塊状であり得る。
【0021】
大豆タンパク質原料(A’)は、おからを必須に含むことが好ましい。
【0022】
前記澱粉質原料(C)は米粉を必須に含むことが好ましい。
【0023】
前記組成物の成分割合は、例えば
タンパク質が、15質量%以上60質量%以下、
脂質が、2質量%以上25質量%以下、
炭水化物が、2質量%以上30質量%以下、及び
水分が、10質量%以上55質量%未満
である。
【0024】
本発明はまた、上記大豆ミート用組成物を、高温及び高圧下で組織化することにより製造された大豆ミートを提供する。
【0025】
本発明はまた、上記大豆ミート用組成物を、高温及び高圧下で組織化する工程を含む、大豆ミートの製造方法を提供する。
【0026】
前記組織化は、例えばエクストルーダーで行うことができる。
【0027】
本発明はまた、上記大豆ミート用組成物を、高温及び高圧下で組織化する工程を含む、大豆ミートの大豆臭、不快味及び/又は苦味を低減する方法を提供する。
【0028】
大豆ミートの大豆臭、不快味及び/又は苦味を低減する方法においては、前記大豆タンパク質原料(B)の配合量は、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質の50質量%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明は、特に、豆腐及び凍り豆腐から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(A)と、
おから及び大豆粉から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(A’)及び/又は脱脂大豆及び大豆たん白から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(B)とを含む大豆ミート用組成物であって、
組成物の水分が55質量%未満であり、
前記大豆タンパク質原料(A)の配合量は、脂質換算で、組成物の総脂質の3質量%以上であり、かつ
前記大豆タンパク質原料(A)及び(A’)の合計の配合量は、脂質換算で、組成物の総脂質の50質量%以上である、前記大豆ミート用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0030】
脱脂大豆や粉末状大豆たん白のように高タンパク質であるが低脂質の大豆タンパク質原料(B)を単独に用いて大豆ミートを製造しようとすると、脂質の補給が必要となる。後述の比較例1-1及び1-2に示すように、外部から油脂を補充すると、製造時に大豆ミートの組織から油脂が漏出して、成形が不安定となりやすい。また、比較例1-3に示すように、油脂を原料(A’)の大豆粉から供給しても、成形が不安定となる。一方、本発明の組成物は、高タンパク質かつ高脂質の大豆タンパク質原料(A)を脂質換算で組成物の総脂質の3質量%以上、特に大豆タンパク質原料(A)及び(A’)を脂質換算で組成物の総脂質の50質量%以上を配合することで、後述の実施例に示すように、組成物が組織化して大豆ミートを容易に製造可能となる。すなわち、本発明は、大豆タンパク質原料(A)又は(A+A’)の配合量を、タンパク質換算ではなく、脂質換算の値で管理することが重要であり、これによって、組織化した大豆ミートを安定に製造可能となる。
【0031】
後述の比較例5-1や5-2に示すように、組成物の水分が本発明で規定する範囲を超えると、成形が不安定となる。実施例5-1~5-3に示すように、組成物の水分を本発明で規定する範囲内であるで、成形が可能となる。組成物の水分を管理できれば、実施例6-1~6-3に示すように、高水分の豆腐を用いることも可能である。本発明の組成物は、豆腐類の汎用性が高い点で、特許文献3の発明もより優れる。
【0032】
大豆タンパク質原料(A)を必須に含む本発明の組成物に、さらに大豆タンパク質原料(A’)、(B)やその他のタンパク質原料を適宜配合することで、さまざまな鳥獣肉や部位の代替肉となり得る大豆ミートを製造可能である。
【0033】
本発明の組成物は、植物由来のタンパク質、特に大豆由来のタンパク質のみからなる代替肉の提供を可能とする。これは、動物性タンパク質や小麦グルテンのようなアレルギー物質を忌避したい消費者にとって非常に有意義である。
【0034】
本発明の組成物の大豆タンパク質原料(A)において、凍り豆腐の形状と分布を制御することで、例えば脂肪分が交雑した高級肉のような代替肉を得ることができる。
【0035】
本発明の組成物のタンパク質原料を大豆タンパク質原料(A)及び(A’)主体として、大豆タンパク質原料(B)の配合量を減じた組成物、好ましくは大豆タンパク質原料(A)及び(A’)からなる組成物は、大豆タンパク質(B)に由来する大豆臭や溶剤臭を低下させるか無くすることができる。
【0036】
本発明によれば、豆腐や凍り豆腐製造時の廃棄物やおから等の未利用のタンパク質原料を有効利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の組成物の数値は、特記しない限り、含水基準である。本発明の大豆ミート用組成物を組織化して、さまざまな肉類の食感を持った大豆ミートを製造するためには、タンパク質、脂質、炭水化物(特に澱粉質)及び水分のバランスを適正に管理することが重要である。以下に、本発明の組成物における各成分の役割及び配合量を説明する。
【0038】
タンパク質は、大豆ミートの主成分である。本発明の組成物から大豆ミートを調製するために、本発明の組成物のタンパク質の含有量は、通常、15~60質量%でよく、好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは25~55質量%以下である。
【0039】
脂質は、大豆ミート製造時の膨化を抑制し、そして大豆ミートのジューシー感や食感の向上に寄与する。本発明の組成物の脂質の含有量は、通常、2~25質量%でよく、好ましくは4~20質量%、さらに好ましくは5~17質量%である。脂質が少な過ぎると、大豆ミートの組織が硬くなりやすい。逆に、脂質が過剰であると、組織化しにくい、組織内に取り込まれない脂質が組織から滲み出て製造が不安定になる等の問題を生じる。
【0040】
肉類には炭水化物がほとんど含まれないが、本発明の組成物は、大豆を主原料とするために一定量の炭水化物が混入する。さらに、後述の澱粉質原料(C)を積極的に用いることで、澱粉質の保水作用や結着作用などを利用可能となる。本発明の組成物の炭水化物の含有量は、通常、2~30質量%でよく、好ましくは2~20質量%である。炭水化物が少ないことの問題は特にない。逆に、炭水化物が多過ぎると、大豆ミートの肉様感が薄れる、柔らかくなりすぎる、等の問題を生じることがある。
【0041】
水分は、大豆ミート用組成物の組織化の成否を決め、また大豆ミートの食感、特に硬さを左右する点で重要である。本発明の組成物の水分の上限は、55質量%未満であり、好ましくは 50質量%以下である。水分が多過ぎると、組織化時の昇温操作が遅れて組織化に必要な条件に達しない、水蒸気の噴出が過度になる等の理由によって、組織化が困難となるか不安定になりやすい。逆に、水分の下限は、通常、10質量%以上であり、好ましくは15質量%以上である。水分が少な過ぎると、高温高圧下の大豆タンパク質の溶融が足りず組織化できない、大豆ミート製造時に焦げ付く、大豆ミートの膨化が足りず硬くなる等の不具合が生じることがある。本発明の水分には、原料に含まれていた水、原料の混合時に添加した水、及びエクストルーダーで供給した水が含まれる。
【0042】
本発明の組成物が必須に含む、豆腐及び凍り豆腐から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(A)は、高タンパク質かつ高脂質であるという特徴を有する。脂質の量は、大豆ミート用組成物の組織化の可否を左右する点で重要である。すなわち、大豆タンパク質原料(A)の脂質は、乳化されており、組成物の組織化時に大豆ミートから漏出せず、また、大豆ミートの風味を良くする。
【0043】
豆腐には、木綿豆腐、ソフト豆腐、絹ごし豆腐、充てん豆腐等が含まれる。また、豆腐は組成物の水分の供給源でもある。
【0044】
凍り豆腐は、大豆→豆乳→豆腐→凍結熟成→解凍→脱水→乾燥の工程で製造される。本発明に使用する凍り豆腐は、上記工程の凍結熟成後、解凍後、脱水後等の中間工程で得られる産物であってもよい。例えば、脱水工程後に得られる中間産物を、以降、脱水凍り豆腐という。
【0045】
凍り豆腐は、豆腐よりも高脂質であり、大豆ミートの旨味や風味の増強効果が大である。したがって、前記大豆タンパク質原料(A)は、豆腐及び凍り豆腐を必須に含むことが好ましい。
【0046】
豆腐及び凍り豆腐は、市販品であってもよい。豆腐や凍り豆腐製造時に廃棄される端切れ等は、資源の有効利用の点で好ましい。
【0047】
前記豆腐に前記凍り豆腐を不均一に分布させると、脂肪分が交雑した高級肉のような代替肉となり得る。凍り豆腐の形態を、粉末状、粒状、フレーク状、ブロック状又は塊状にすることで、大豆ミート内に脂質を不均一に分布させることが容易となる。
【0048】
また、前記大豆タンパク質原料(A)の配合量は、脂質換算で、組成物の総脂質の3質量%~100質量%であり、好ましくは30~100質量%である。
【0049】
前記大豆タンパク質原料(A)の配合量はまた、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質の1質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、特に好ましくは50質量%以上である。大豆タンパク質原料(A)の割合を増すことで、大豆ミートの大豆臭や苦味を減じ、旨味や風味を増強することができる。
【0050】
本発明の組成物は、大豆タンパク質原料(A)とともに、おから及び大豆粉から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(A’)を配合することが好ましい。この原料(A’)は、原料(A)と同様に高タンパク質かつ高脂質であり、脂質及びタンパク質の補給源となる。
【0051】
大豆粉は、大豆の穀粉であり、生又は焙煎した全粒大豆又は脱皮大豆を粉末状に挽くことにより得られる。大豆粉は、市販品であってもよい。
【0052】
おからは、豆腐製造において呉から豆乳を絞る際の副産物として得られる。おからは廃棄されることが多く、市販されていても安価である。おからは、組成物の原料単価を下げ、資源の有効利用の点で好都合である。
【0053】
おからは、水分を通常、70~80%含む。おからを乾燥すると、水分が通常、5%程度に減少する。乾燥おからを本発明の組成物に添加することで、組成物の水分を調整することができる。したがって、本発明の組成物には、おからとその乾燥物のいずれも使用できるが、好ましくは乾燥おからある。
【0054】
前記大豆タンパク質原料(A+A’)の配合量は、脂質換算で、組成物の総脂質の50~100質量%であり、好ましくは70~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%である。
【0055】
前記大豆タンパク質原料(A+A’)の配合量はまた、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質に対して、5~100質量%であり、好ましくは10~100質量%である。
【0056】
大豆タンパク質原料(A’)から供給される脂質は、油脂と違って、組織化時に大豆ミートから漏出し難い。おからは、大豆タンパク質原料(A)と同様に、組織化時に大豆ミートからほとんど漏出しないので、大豆タンパク質原料(A’)として、おからが特に好ましい。
【0057】
大豆粉は、過剰に配合すると、大豆ミートから脂質が漏出する、あるいは脂質が酸化して風味が低下する等の問題が生じることがある。大豆粉を配合する場合は、上限を設けることが好ましく、具体的には、大豆粉の配合量は、組成物に対して60質量%以下が好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下が特に好ましい。
【0058】
本発明の組成物には、大豆タンパク質原料(A)とともに、脱脂大豆及び大豆たん白から選ばれる少なくとも一種の大豆タンパク質原料(B)を配合してもよい。大豆タンパク質原料(B)は、高タンパク質かつ低脂質であるという特徴を有する。
【0059】
脱脂大豆は、圧搾法、抽出法又は圧抽法によって大豆の脂質を通常、1~2%まで下げたものである。抽出には、n-ヘキサン等有機溶剤が用いられる。脱脂大豆は、タンパク質、ホエー及びおからを含み、タンパク質分はおよそ50%である。脱脂大豆は、乾燥後、粉末状又は粒状に加工される。脱脂大豆は、市販品であってもよい。
【0060】
大豆たん白の例には、抽出大豆たん白、濃縮大豆たん白、及び分離大豆たん白が挙げられる。抽出大豆たん白は、脱脂大豆からタンパク質及びホエーを抽出した粉末であり、タンパク質分はおよそ60%である。濃縮大豆たん白は、脱脂大豆からタンパク質及びおからを濃縮して乾燥した粉末であり、タンパク質分はおよそ65%である。分離大豆たん白は、脱脂大豆からタンパク質を分離して乾燥した粉末であり、タンパク質分が通常90質量%と高い。これらの大豆たん白は、市販品であってもよい。大豆たん白は、通常粉末状であり、本明細書では、粉末状大豆たん白ということがある。
【0061】
大豆タンパク質原料(B)は、本発明の組成物から得られる大豆ミートの主要成分を大豆由来にする点で好ましい。一方で、大豆タンパク質原料(B)には、大豆臭、溶剤臭、不快味又は苦味を呈しやすい。大豆タンパク質原料(B)の組成物への添加量は、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質の通常95質量%以下、好ましくは85質量%以下であるが、大豆ミートの大豆臭や溶剤臭を減らすために、好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは0である。
【0062】
本発明の組成物は、大豆タンパク質原料(A)、(A’)及び(B)のみによって、高タンパク質で風味の良い大豆ミートを安価に製造可能であるが、本発明は、その他のタンパク質原料を本発明の効果を阻害しない範囲で添加してもよい。ここで、「本発明の効果の阻害しない」とは、大豆ミートへの組織化に支障が出ない、大豆ミートの風味や食感の悪化を招かない、原料コストの増大とならない等を意味する。
【0063】
その他の植物性タンパク質源としては、エンドウ豆、米、大麦、小麦、菜種、綿実、落花生、ゴマ、サフラワー、向日葵、紅花、ココナッツ等の大豆以外の穀粉、あるいはそれらの抽出又は分離タンパク質が挙げられる。動物性タンパク源としては、卵白、カゼイン、ゼラチン、コラーゲン、フィッシュミール等が挙げられる。これらのタンパク源は、抽出又は分離タンパク質に熱処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理等を施した加工物であってもよい。その他のタンパク質原料を用いる場合、本発明の組成物から得られる大豆ミートを植物由来にする点で、植物性タンパク質源が好ましい。
【0064】
本発明の組成物は、さらに(C)澱粉質原料を含んでもよい。本発明の組成物に澱粉質原料を配合することで、大豆ミートの保水性を高めてジューシーにする、組織化や繊維感を高める、弾力性のような食感を向上させる等ことができる。
【0065】
澱粉質原料の例には、バレイショ、コーン、米、小麦、大麦、オーツ、ライ麦、燕麦、蕎麦、タピオカ、キャッサバ、甘蔗、及びこれらの加工澱粉が挙げられる。加工澱粉には、エーテル化、エーテル架橋、リン酸エステル化、リン酸架橋、α化、ばい焼、加水分解、及び油脂加工を含む。前記澱粉質原料(C)は、好ましくは米粉である。
【0066】
前記澱粉質原料(C)の組成物への配合量は、組成物の通常、20質量%以下、好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。澱粉質原料の下限は特にないが、澱粉質原料が多過ぎると、大豆ミートが柔らかくなる等の問題が生じることがある。
【0067】
本発明の組成物は、大豆ミートの副原料として汎用される副原料を、本発明の効果を阻害しない範囲で添加可能である。そのような副原料の例には、カラギーナン、アラビアガム、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、寒天等の増粘剤、油脂、発酵物、塩化ナトリウム等の調味料、L-アスコルビン酸等の酸化防止剤、pH調整剤、還元剤、乳化剤、可塑剤(グリセリン)、香料、着色料等が挙げられる。
【0068】
前記発酵物は、大豆ミートの旨味を増強する。発酵物の原料の例には、豆腐、大豆、おから、米、米粉、麦等が挙げられ、豆腐が好ましい。発酵に必要な種菌の例には、麹、テンペ、酵母、乳酸菌、納豆菌等が挙げられる。
【0069】
本発明の大豆ミート用組成物では、組成物の安定な組織化にとって、大豆ミートに必要な脂質を大豆タンパク質(A)及び(A’)から供給することが重要である、したがって、本発明では、油脂を添加する必要はなくなる。
【0070】
本発明はまた、大豆ミート用組成物を、高温及び高圧下で組織化する工程を含む、大豆ミートの製造方法を提供する。
【0071】
前記組織化の手段は、特に制限されない。一般に、大豆ミートへの組織化手段として、食品粉体原料の膨化や成形するために加熱、加圧及び混錬する機能を有したエクストルーダーが汎用される。本発明もまた、高温かつ高圧下で大豆タンパク質を組織化するためにエクストルーダーが利用可能である。
【0072】
エクストルーダーは、大別してフィーダー、バレル、スクリュー及びダイの4つからなる。スクリューには一軸型及び二軸型がある。成分を不均一に分布させた大豆ミートを得る目的では、せん断力の弱い一軸型を用いて混錬を緩和にし、そして、均質な大豆ミートを得る目的では、せん断力の強い二軸型を用いて混錬を厳しくすればよい。ダイのオリフィス形状を、例えば円形、楕円形、角形、多角形、帯状等を適宜選択することにより、押出品の形状に任意に加工できる。
【0073】
本発明の組成物をエクストルーダーで処理するには、フィーダーをエクストルーダーの原料供給口に接続し、このフィーダーにより組成物をエクストルーダー内に送り、エクストルーダーのバレル内において加熱、加圧及び混練を行なわせると、大豆タンパク質が溶融して組織化する。組織化した大豆タンパク質をスクリューで押し出し、ダイのオリフィスを通して大気圧下に開放させることで、大豆タンパク質を膨化させて大豆ミートに仕上げる。
【0074】
バレルは、通常、数段に分かれており、原料の投入側からダイに向かって、順次、40~200℃の間で昇温させていく。
【0075】
混錬時のスクリュー回転数は、通常、30~300rpmで、成形状態により調整すればよい。豆腐類に粒状、フレーク状、ブロック状又は塊状の凍り豆腐を不均一に分布させて脂肪分の交雑した大豆ミートを製造する場合は、回転数を下げて攪拌を緩和にすればよい。
【0076】
加圧時の圧力は、ダイの圧力で、通常、0.01~数MPa程度であればよい。
【0077】
ダイ温度は、通常、120~200℃となるように設定し、成形状態により調整すればよい。
【0078】
供給量(原料、水分込み)は、装置の規模によるが、試験用途では、20kg/hr程度のものが使用されることが多い。バレル内滞在時間は、装置の規模、原料供給量、スクリュー回転数等によるが、通常、1~3分間である。
【0079】
上記製造方法によって、エクストルーダーから押し出された大豆ミートの形状は、シート状、棒状、円筒状、フレーク状、粒状等であり得る。これらは、適宜、切断、洗浄、乾燥及び粉砕される。
【0080】
エクストルーダーを運転したまま、組成物の配合やエクストルーダー操作条件を適宜変更することで、食感、風味等の性質の異なる大豆ミートを連続的に製造することも可能である。
【0081】
本発明はまた、本発明の大豆ミート用組成物を高温及び高圧下で組織化することにより製造される大豆ミートを提供する。大豆ミート及びその乾燥品は、基本的に組成物の乾物換算の成分割合を維持する。
【0082】
本発明の大豆ミートは、そのまま冷蔵又は冷凍保存してもよいが、通常、水分が10%以下の乾燥品として保存されることが多い。
【0083】
乾燥状態の本発明の大豆ミートは、常法に基づいて水を吸水させた後、あらゆる食肉の代替肉として利用される。代替肉の候補としては、ステーキ肉、ひき肉、そぼろ、焼肉、コンビーフ、ハム、ソーセージ、パテ用の肉素材;ハンバーグ、ミートボール、ミートソース、シューマイ、餃子、肉まん、フライ、ナゲット、から揚げ、カツレツ、メンチカツ等の惣菜;カルパスやサラミのようなドライソーセージ、ジャーキー等のスナック食品が挙げられる。
【0084】
本発明はまた、大豆ミート用組成物を、高温及び高圧下で組織化する工程を含む、大豆ミートの大豆臭、不快味及び/又は苦味を低減する方法を提供する。大豆ミートの大豆臭、不快味及び/又は苦味を低減するために、前記大豆タンパク質原料(B)の配合量は、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質の50質量%以下が好ましく、さらに好ましくは30質量%以下であり、特に好ましくは0である。
【実施例0085】
以下に、本発明の実施例を示すことにより、本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
〔調製例〕
大豆ミート用組成物の原料として、表2に示すものを用意した。豆腐1~4は、原料の豆腐の水分を調整したものである。脱水凍り豆腐は、凍り豆腐製品を製造する過程の中間製造物である。
【表2】
【0087】
【0088】
〔実施例1〕(大豆ミート用組成物の必須成分の確認試験)
大豆ミート用組成物において、大豆ミートを安定に組織化するために必須な成分を調べるために、表4に示す組成の原料を用意した。これらの原料の成形試験を以下の手順で行った。
【0089】
各組成の原料を二軸エクストルーダー(製品名:KEI-45-25、株式会社幸和工業製)に投入して、組織化を行った。二軸エクストルーダーの仕様及び使用条件は、以下のとりである。
スクリュー直径:45mm
L/D:25
オリフィス形状:内径5mmの円形
組織化の条件は、以下のとおりである。
バレル温度:60~160℃
ダイ温度:120~160℃
圧力:0.05~1MPa
回転数:150~250rpm
供給量(原料、水分込み):10~20kg/hr
【0090】
各原料組成の大豆ミート成形性を、以下の基準:
×:組織化しない
△:組織化が弱く、不安定である
〇:ミンチ状には組織化する
◎:繋がった状態で安定して組織化する
で評価した。結果を表4に示す。
【0091】
【0092】
表4に示す組成物は、タンパク質が26.0~43.5質量%、そして脂質が2.9~17.4質量%と、大豆ミート用組成物に必要な栄養成分を含んでいた。比較例1-1及び1-2では、大豆タンパク質源として原料(B)を採用し、足りない油脂を外部から補充して成形作業を行ったところ、油脂がミートの外へ滲みだして組織化できなかった。比較例1-3では、上記油脂に代わって脂質を多く含む大豆タンパク質原料(A’)である大豆粉を添加したところ、組織化したものの、大豆粉中の油脂がミートの外へ滲みだして安定に成形できなかった。一方、実施例1-1~1-7に示す本発明に従う組成物は、ミンチ状又は繋がった状態で安定して組織化できた。以上の結果から、本発明に従って、大豆タンパク質原料(A)を必須とし、適宜、大豆タンパク質原料(A’)及び(B)を添加することが重要であることが判明した。
【0093】
〔実施例2〕(大豆タンパク質原料(A)の配合量の変更試験)
本発明に従って大豆タンパク質原料(A)と他のタンパク質原料とを併用する際、原料(A)の配合できる範囲を調べた。具体的には、表5に示す組成の原料を用いた。表5に示す組成物は、タンパク質が29.0~52.9質量%、そして脂質が4.9~13.1質量%であり、大豆ミート用組成物に必要な栄養成分を含んでいた。実施例2-1から2-4に進むに従い、原料(A)の比率を下げ、組成物に必要なタンパク質及び脂質を補充するための原料(A’)及び原料(B)に比率が増大した。その結果、実施例2-1から2-4に進むに従って、原料(A)に由来するタンパク質割合及び脂質割合が順次減少している。実施例1の同様の成形試験を行った結果を表5に示す。
【0094】
【0095】
表5に示すとおり、大豆タンパク質原料(A)由来の脂質割合が3.7~99.3質量%の原料組成で、安定に組織化できた。この結果から、本発明に従う大豆ミート用組成物は、大豆タンパク質原料(A)の含有量は、脂質換算で、組成物の総脂質の3質量%以上であるといえる。実施例2-1~2-4の結果を見ると、総脂質に占める大豆タンパク質原料(A)の割合が高いほど、組織化が良好であった。したがって、大豆タンパク質原料(A)の含有量は、脂質換算で、組成物の総脂質の30質量%以上が好ましい。
【0096】
大豆タンパク質原料(A)の配合量はまた、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質の1質量%以上であり、好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上であり、特に好ましくは50質量%以上である。
【0097】
大豆ミート用組成物において、大豆タンパク質原料(A)から供給される脂質で足りない場合、実施例2-1~2-4のように、大豆タンパク質原料(A’)から補充することが好ましく、おからから補充することが特に好ましい。その際、大豆タンパク質原料(A+A’)の含有量は、脂質換算で、通常、組成物の総脂質の50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。大豆タンパク質原料(A+A’)の含有量の上限は、大豆タンパク質原料(A)を必須に用いる以外は特になく、脂質換算で、組成物の総脂質の100質量%以下である。
【0098】
前記大豆タンパク質原料(A+A’)の配合量はまた、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質に対して、5~100質量%であり、好ましくは10~100質量%である。
【0099】
〔実施例3〕(大豆タンパク質原料(A)中の比率の変更試験)
本発明の大豆ミート用組成物において、原料(A)中の豆腐と凍り大豆との比率を変更する試験を行った。具体的には、表6に示す組成の原料を用いた。これらの実施例では、豆腐に対する凍り豆腐の比率を高めたときの組織化能を調べた。成形試験の結果を表6に示す。
【0100】
【0101】
表6に示すとおり、原料(A)の豆腐と凍り豆腐との比率に関わらず、安定的に組織化可能であった。
【0102】
〔実施例4〕(大豆ミート用組成物の総脂質量の変更試験)
本発明に従って大豆タンパク質原料(A)と他のタンパク質原料とを併用する際、組成部の総脂質量%の範囲を調べた。具体的には、表7に示す組成の原料を用いた。実施例4-1及び4-2では、大豆タンパク質原料(A)と脂質の少ない大豆タンパク質原料(B)とを併用することにより、低脂質量%の組成物を調製した。実施例4-3~4-5では、原料(B)を高脂質の原料(A)又は(A’)に変更することで、高脂質量%の組成物を調製した。実施例1の同様の成形試験を行った。結果を表7に示す。
【0103】
【0104】
表7に示すとおり、本発明に従う大豆ミート用組成物は、組成物の総脂質量%が3.1~18.2質量%において、安定な組織化が可能であった。これらの脂質量%は、表1に示す日本食品標準成分表の各種肉類が含有する脂質量%を十分に満足する。したがって、本発明に従う大豆ミート用組成物によれば、肉類が有する脂質を自在に再現可能であるといえる。
【0105】
〔実施例5〕(大豆ミート用組成物の水分変更試験)
大豆ミート用組成物において、大豆ミートを安定に組織化するために必要な水分を調べた。表7に示す組成の原料を用意した以外は、実施例1と同様の手順で成形試験を行った。結果を表8に示す。
【0106】
【0107】
比較例5-1及び5-2では、大豆タンパク質原料(A)を用いて成形したものの、水分が多くなったことが一つの要因となって、組織化しなかった。一方、本発明に従う実施例5-1~5-3では、ミンチ状又は繋がった状態で安定して組織化できた。以上の結果から、大豆ミート用組成物の水分は、本発明に従って、55質量%未満の必要があることが判明した。
【0108】
〔実施例6〕(大豆ミート用組成物の原料(A)の水分変更試験I)
大豆ミート用組成物において、原料(A)の豆腐の水分を変更しても大豆ミートを安定に組織化するかを調べた。表9に示す組成の原料を用意した以外は、実施例1と同様の手順で成形試験を行った。結果を表9に示す。
【0109】
【0110】
表9に示すとおり、大豆ミート用組成物において、原料(A)の豆腐の水分を変更しても、組成物の水分を本発明に従って管理すれば、大豆ミートを安定に組織化できることを確認した。
【0111】
〔実施例7〕(大豆ミート用組成物の原料(A)の水分変更試験II)
大豆ミート用組成物において、原料(A)の凍り豆腐の水分を変更しても大豆ミートを安定に組織化するかを調べた。表10に示す組成の原料を用意した以外は、実施例1と同様の手順で成形試験を行った。結果を表10に示す。
【0112】
【0113】
表10に示すとおり、大豆ミート用組成物において、原料(A)の凍り豆腐の水分を変更しても、組成物の水分を本発明に従って管理すれば、大豆ミートを安定に組織化できることを確認した。
【0114】
〔実施例8〕(澱粉質添加試験)
本発明の組成物に澱粉質を添加する試験を行った。具体的には、表11に示す組成の原料を用いた以外は、実施例1と同様の手順で成形試験を行った。結果を表11に示す。
【0115】
【0116】
表11に示すとおり、組成物に澱粉質原料として米粉を5~9.3質量%添加しても、安定的に組織化可能であった。そして、大豆ミート用組成物に澱粉質を加えることで、柔らかな食感の大豆ミートができた。
【0117】
〔実施例9〕(大豆ミートの官能試験及び臭気測定試験)
1.官能試験
実施例2-4、1-4及び8-2で調製された大豆ミートの官能試験を行った。比較のため、大豆ミート市販品(N社製品、脱脂大豆100%)を用意した。官能試験は、官能評価者11~12名が各試験品を試食して、2点試験法で行った。すなわち、実施例8-2の大豆ミートを対照とし、大豆ミート市販品、実施例2-4又は実施例1-4の大豆ミートと対照とを食べ比べ、対照と比べた大豆臭と苦味を次のように採点した。
1 : 対照よりも強く感じた
0 : 対照と同等と感じた
-1 : 対照より弱く感じた
全評価者の点数から、平均値を求めた。結果を表12に示す。
【0118】
2.臭気分析
大豆臭(青臭さ)の成分として、ヘキサナールと1-ヘキサノールが知られている。そこで、上記官能試験に供した大豆ミートの臭気分析を以下の手順で行った。各試験品2gに水道水2gを入れた20mlバイアルビンを密封し、80℃で20分間加熱後のヘッドスペースガス1mLをガスクロマトグラフ質量分析装置に導入し、次の条件で分析を行った。
装置:HP6890GC+HP5973MSD(横河アナリティカルシステムズ製)
カラム:DB-WAX. I.D.0.25mm×L60m
カラム温度:40℃ 5min → 5℃/min up → 240℃ 4min
注入口温度:250℃
注入方法:ヘッドスペースガス1mL注入
イオン化法:EI
検索データベース:NIST08
分析結果を表12に示す。
【0119】
【0120】
表12の官能試験結果では、大豆臭及び苦味ともに、比較例9-1>実施例9-1>実施例9-2>実施例9-3の順で緩和した。この順序は、大豆ミート中の脱脂大豆や粉末状大豆たん白を、豆腐/凍豆腐で置換するほど、大豆臭や苦味が減じられることを意味する。
【0121】
表12に示す臭気分析結果では、ヘキサナール及び1-ヘキサノールともに、比較例9-1>実施例9-1>実施例9-2>実施例9-3の順で減少した。すなわち、臭気分析結果と官能試験結果が整合した。
【0122】
以上の結果から、本発明に従う実施例9-1~9-3のように、大豆タンパク質原料の一部に大豆タンパク質原料(A)の豆腐/凍豆腐を採用することで、従来の大豆ミートの課題である大豆臭や苦味を減らすことができることが判明した。
【0123】
さらに、実施例9-1及び9-2と実施例9-3との対比から、大豆タンパク質原料(A)と共に添加する大豆タンパク質原料には、大豆タンパク質原料(B)を減らして、大豆タンパク質原料(A’)を増やすことが好ましい。具体的には、大豆タンパク質原料(B)の配合量は、タンパク質換算で、組成物の総タンパク質の50質量%以下が好ましく、さらに好ましくは30質量%以下であり、特に好ましくは0である。
後述の比較例5-1や5-2に示すように、組成物の水分が本発明で規定する範囲を超えると、成形が不安定となる。実施例5-1~5-3に示すように、組成物の水分を本発明で規定する範囲内であるので、成形が可能となる。組成物の水分を管理できれば、実施例6-1~6-3に示すように、高水分の豆腐を用いることも可能である。本発明の組成物は、豆腐類の汎用性が高い点で、特許文献3の発明もより優れる。
タンパク質は、大豆ミートの主成分である。本発明の組成物から大豆ミートを調製するために、本発明の組成物のタンパク質の含有量は、通常、15~60質量%でよく、好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは25~55質量%である。
おからは、水分を通常、70~80%含む。おからを乾燥すると、水分が通常、5%程度に減少する。乾燥おからを本発明の組成物に添加することで、組成物の水分を調整することができる。したがって、本発明の組成物には、おからとその乾燥物のいずれも使用できるが、好ましくは乾燥おからである。