(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089874
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ペレット、成形体、電磁波吸収体、および、樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230621BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20230621BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20230621BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230621BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20230621BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L69/00
C08L25/04
C08K3/04
C08J3/22
H05K9/00 M
H05K9/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204660
(22)【出願日】2021-12-16
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】井関 秀太
(72)【発明者】
【氏名】庄司 英和
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
5E321
【Fターム(参考)】
4F070AA18
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5E321AA23
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5E321GG11
(57)【要約】
【課題】 メインの樹脂成分として、非晶性熱可塑性樹脂を用いた電磁波の吸収率が高い樹脂組成物、ペレット、成形体、電磁波吸収体、および、樹脂組成物の製造方法の提供。
【解決手段】 第一の非晶性熱可塑性樹脂と、第二の非晶性熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されたカーボンナノチューブとを含む樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の非晶性熱可塑性樹脂と、第二の非晶性熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されたカーボンナノチューブとを含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記第一の非晶性熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記第二の非晶性熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂および/またはスチレン系樹脂を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記第一の非晶性熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂を含み、
前記第二の非晶性熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記マスターバッチにおけるカーボンナノチューブの濃度は、1~50質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物中のカーボンナノチューブの含有量が0.01~10質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂組成物を2mm厚に成形したときの、周波数76.5GHzにおける式(A)に従って求められる吸収率が43.0~100%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
式(A)
【数1】
(上記式(A)中、Rはフリースペース法によって測定される反射減衰量を表し、Tはフリースペース法によって測定させる透過減衰量を表す。)
【請求項8】
前記樹脂組成物を2mm厚に成形したときの、周波数76.5GHzにおける式(B)に従って求められる反射率が40.0%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
式(B)
【数2】
(上記式(B)中、Rは、フリースペース法によって測定される反射減衰量を表す。)
【請求項9】
前記樹脂組成物を2mm厚に成形したときの、周波数76.5GHzにおける式(C)に従って求められる透過率が43.0%未満である、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
式(C)
【数3】
(上記式(C)中、Tはフリースペース法によって測定させる透過減衰量を表す。)
【請求項10】
電磁波吸収体用である、請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成されたペレット。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形体。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された電磁波吸収体。
【請求項14】
第一の非晶性熱可塑性樹脂と、第二の非晶性熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されたカーボンナノチューブとを溶融混練することを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、ペレット、成形体、電磁波吸収体、および、樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波レーダーは、30~300GHz、特に、60~90GHzの周波数の、1~10mmの波長を持つミリ波帯の電波を発信し、対象物に衝突して戻ってくる反射波を受信することによって障害物の存在や、対象物との距離や相対速度を検知するものである。ミリ波レーダーとしては、自動車の衝突防止用センサー、自動運転システム、道路情報提供システム、セキュリティシステム、医療・介護デバイス等幅広い分野の利用が検討されている。
かかるミリ波レーダー用の樹脂組成物として、特許文献1に記載のものが知られている。また、特許文献2には、電磁干渉遮蔽用または無線周波数干渉遮蔽用として用いられうる多機能性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-197048号公報
【特許文献2】特開2010-155993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ミリ波レーダーにおいては、透過する電磁波が最も大きな誤作動の原因となる。そのため、電磁波の吸収率が高い樹脂組成物が求められている。特に、メインの樹脂成分として、非晶性熱可塑性樹脂を用いた電磁波の吸収率が高い樹脂組成物についても需要がある。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、メインの樹脂成分として、非晶性熱可塑性樹脂を用いた電磁波の吸収率が高い樹脂組成物、ペレット、成形体、電磁波吸収体、および、樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、メインの樹脂成分として、非晶性熱可塑性樹脂を用いる場合には、非晶性熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されたカーボンナノチューブを用いることにより、樹脂組成物の電磁波吸収率を向上できることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>第一の非晶性熱可塑性樹脂と、第二の非晶性熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されたカーボンナノチューブとを含む樹脂組成物。
<2>前記第一の非晶性熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記第二の非晶性熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂および/またはスチレン系樹脂を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記第一の非晶性熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂を含み、
前記第二の非晶性熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<5>前記マスターバッチにおけるカーボンナノチューブの濃度は、1~50質量%である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記樹脂組成物中のカーボンナノチューブの含有量が0.01~10質量%である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記樹脂組成物を2mm厚に成形したときの、周波数76.5GHzにおける式(A)に従って求められる吸収率が43.0~100%である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
式(A)
【数1】
(上記式(A)中、Rはフリースペース法によって測定される反射減衰量を表し、Tはフリースペース法によって測定させる透過減衰量を表す。)
<8>前記樹脂組成物を2mm厚に成形したときの、周波数76.5GHzにおける式(B)に従って求められる反射率が40.0%以下である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
式(B)
【数2】
(上記式(B)中、Rは、フリースペース法によって測定される反射減衰量を表す。)
<9>前記樹脂組成物を2mm厚に成形したときの、周波数76.5GHzにおける式(C)に従って求められる透過率が43.0%未満である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
式(C)
【数3】
(上記式(C)中、Tはフリースペース法によって測定させる透過減衰量を表す。)
<10>電磁波吸収体用である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成されたペレット。
<12><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形体。
<13><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された電磁波吸収体。
<14>第一の非晶性熱可塑性樹脂と、第二の非晶性熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されたカーボンナノチューブとを溶融混練することを含む、<1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、メインの樹脂成分として、非晶性熱可塑性樹脂を用いた電磁波の吸収率が高い樹脂組成物、ペレット、成形体、電磁波吸収体、および、樹脂組成物の製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定したポリスチレン換算値である。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、反射減衰量および透過減衰量の単位は「dB」(デシベル)である。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0008】
本実施形態の樹脂組成物は、第一の非晶性熱可塑性樹脂と、第二の非晶性熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されたカーボンナノチューブとを含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、非晶性熱可塑性樹脂をメインの樹脂成分として用いる樹脂組成物においても、電磁波吸収率が高い樹脂組成物が得られる。
非晶性熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブを配合して電磁波吸収性に優れた樹脂組成物を製造するにあたり、カーボンナンチューブを十分に非晶性熱可塑性樹脂中で分散させることが求められる。ここで、カーボンナノチューブは、メインの熱可塑性樹脂と十分に溶融混練するために、マスターバッチ化してメインの樹脂成分に配合することが考えられる。本実施形態においては、このマスターバッチ化する熱可塑性樹脂にも非晶性熱可塑性樹脂を用いることにより、非晶性熱可塑性樹脂中で、カーボンナノチューブを十分に分散できたと推測される。
【0009】
本実施形態の樹脂組成物は、第一の非晶性熱可塑性樹脂と、カーボンナノチューブをマスターバッチ化する第二の非晶性熱可塑性樹脂とを含む。ここで、非晶性熱可塑性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、測定した場合に明確な融点を示さないことを意味する。
第一の非晶性熱可塑性樹脂と第二の非晶性熱可塑性樹脂は、同じ樹脂であってもよいが、異なる樹脂であることが好ましい。異なる樹脂とは、例えば、樹脂の原料モノマーの30質量%以上が異なる樹脂であることが挙げられ、50質量%以上が異なっていることが好ましく、70質量%以上が異なっていることがより好ましい。
【0010】
本実施形態においては、第二の非晶性熱可塑性樹脂に含まれる極性基が第一の非晶性熱可塑性樹脂に含まれる極性基よりも少ないことが好ましい。このような構成とすることにより、溶融混練の際にカーボンナノチューブが第二の非晶性熱可塑性樹脂から第一の非晶性熱可塑性樹脂へ拡散しやすくなり、得られる樹脂組成物ないし成形体の電磁波吸収率がより向上する傾向にある。
本実施形態においては、また、第一の非晶性熱可塑性樹脂の方が、第二の非晶性熱可塑性樹脂よりも、カーボンナノチューブをより分散させやすいことが好ましい。このような構成とすることにより、溶融混練の際にカーボンナノチューブが第二の非晶性熱可塑性樹脂から第一の非晶性熱可塑性樹脂へ拡散しやすくなり、得られる樹脂組成物ないし成形体の電磁波吸収率がより向上する傾向にある。
本実施形態においては、また、第二の非晶性熱可塑性樹脂の90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上)が極性基を持たない樹脂であることが好ましい。このような構成とすることにより、溶融混練の際にカーボンナノチューブが第二の非晶性熱可塑性樹脂から第一の非晶性熱可塑性樹脂へ拡散しやすくなり、得られる樹脂組成物ないし成形体の電磁波吸収率がより向上する傾向にある。
【0011】
本実施形態で用いる非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂(HIPS、AS樹脂、ABS樹脂など)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が例示され、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、スチレン系樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂がより好ましい。
【0012】
本実施形態で用いる非晶性熱可塑性樹脂の実施形態の一例は、第二の非晶性熱可塑性樹脂がカーボネート樹脂および/またはスチレン系樹脂(例えば、ハイインパクトポリスチレン、HIPS)を含む形態である。この場合において、第一の非晶性熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。この場合において、第一の非晶性熱可塑性樹脂の90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上)がポリカーボネート樹脂であり、第二の非晶性熱可塑性樹脂の90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上)がポリカーボネート樹脂および/またはスチレン系樹脂であることが好ましい。
【0013】
本実施形態で用いる非晶性熱可塑性樹脂の実施形態のより好ましい例は、第一の非晶性熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂を含み、第二の非晶性熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂(例えば、ハイインパクトポリスチレン、HIPS)を含む形態である。
この場合において、第一の非晶性熱可塑性樹脂の90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上)がポリカーボネート樹脂であり、第二の非晶性熱可塑性樹脂の90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上)がスチレン系樹脂であることが好ましい。スチレン系樹脂は、カーボンナノチューブとの相互作用が弱く、溶融混練した際に、カーボンナノチューブがスチレン系樹脂からポリカーボネート樹脂へ移動しやすい。そして、ポリカーボネート樹脂の方が、スチレン系樹脂よりもカーボンナノチューブの拡散性に優れているので、より分散性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0014】
<ポリカーボネート樹脂>
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲンまたは炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい単独重合体または共重合体である。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。
【0015】
原料のジヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましく、ビスフェノールがより好ましく、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニル等がさらに好ましく、ビスフェノールAが一層好ましい。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0016】
ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂)、または、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマーまたはオリゴマーとの共重合体等の、芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。さらには、上述したポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、例えば、m-およびp-メチルフェノール、m-およびp-プロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0018】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、13,000以上であることがさらに好ましい。粘度平均分子量が5,000以上のものを用いることにより、得られる樹脂組成物の機械的強度がより向上する傾向にある。また、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、60,000以下であることが好ましく、40,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることがさらに好ましい。60,000以下のものを用いることにより、樹脂組成物の流動性が向上し、成形性が向上する傾向にある。
ポリカーボネート樹脂を2種以上含む場合、混合物が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0019】
なお、本実施形態において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて、20℃にて、ポリカーボネート樹脂のメチレンクロライド溶液の粘度を測定し固有粘度([η])を求め、次のSchnellの粘度式から算出される値を示す。
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0020】
ポリカーボネート樹脂のJIS K7210(温度300℃、荷重1.2kgf)に準拠して測定されるメルトフローレイト(MFR)は、1g/10分以上であることが好ましく、8g/10分以上であることがより好ましく、10g/10分以上であることがさらに好ましく、18g/10分以上であることが一層好ましく、20g/10分以上であることがより一層好ましく、30g/10分以上であることがさらに一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる樹脂組成物ないし成形体の電磁波吸収率がより向上する傾向にある。また、前記MFRの上限は、例えば、100g/10分以下であり、さらには、80g/10分以下であってもよい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)および溶融法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂に、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネート樹脂も好ましい。
【0022】
<ポリスチレン系樹脂>
ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の単独重合体、スチレン系単量体とスチレン系単量体と共重合可能な単量体との共重合体等が挙げられる。スチレン系単量体とは、例えばスチレン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、メチルスチレン、tert-ブチルスチレンが挙げられる。本実施形態におけるスチレン系樹脂は、単量体単位のうち、50モル%以上がスチレン系単量体である。
ポリスチレン系樹脂としては、より具体的には、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)、スチレン-IPN型ゴム共重合体等の樹脂等が挙げられる。
本実施形態では、スチレン系樹脂が、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)、スチレン-IPN型ゴム共重合体であることが好ましく、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)であることがより好ましい。
【0023】
ポリスチレン系樹脂がゴム成分を含む場合、ポリスチレン系樹脂中のゴム成分の含有量は3~70質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、7~30質量%がさらに好ましい。ゴム成分の含有量を3質量%以上とすることにより、耐衝撃性が向上する傾向にあり、50質量%以下とすることにより、難燃性が向上する傾向となり好ましい。また、ゴム成分の平均粒子径は、0.05~10μmであることが好ましく、0.1~6μmであることがより好ましく、0.2~3μmであることがさらに好ましい。平均粒子径が0.05μm以上であると耐衝撃性が向上しやすい傾向にあり、10μm以下であると外観が向上する傾向にあり好ましい。
【0024】
ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量は、通常、50,000以上であり、好ましくは100,000以上であり、より好ましくは150,000以上であり、また、通常、500,000以下であり、好ましくは400,000以下であり、より好ましくは300,000以下である。また、数平均分子量は、通常、10,000以上であり、好ましくは30,000以上であり、より好ましくは50,000以上であり、また、好ましくは500,000以下であり、より好ましくは300,000以下である。
【0025】
ポリスチレン系樹脂の、JIS K7210(温度200℃、荷重5kgf)に準拠して測定されるメルトフローレイト(MFR)は、0.1~30g/10分であることが好ましく、0.5~25g/10分であることがより好ましい。MFRが0.1g/10分以上であると流動性が向上する傾向にあり、30g/10分以下であると耐衝撃性が向上する傾向にある。
【0026】
このようなポリスチレン系樹脂の製造方法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法あるいは塊状重合法等の公知の方法が挙げられる。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物における第一の非晶性熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物中、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であることが一層好ましく、50質量%以上であることがより一層好ましい。樹脂組成物が強化材を含まない場合は、第一の非晶性熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物中、60質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以上であることが一層好ましく、80質量%以上であることがより一層好ましく、90質量%以上であることがさらに一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、射出成形時の流動性がより向上する傾向にある。また、前記第一の非晶性熱可塑性樹脂の含有量は、99質量%以下であることが好ましい。樹脂組成物が強化材を含む場合は、第一の非晶性熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物中、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましく、75質量%以下であることが一層好ましい。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物における非晶性熱可塑性樹脂の合計含有量は、樹脂組成物中、31質量%以上であることが好ましく、36質量%以上であることがより好ましく、41質量%以上であることがさらに好ましく、46質量%以上であることが一層好ましく、51質量%以上であることがより一層好ましい。樹脂組成物が強化材を含まない場合は、非晶性熱可塑性樹脂の合計含有量は、樹脂組成物中、61質量%以上であることがさらに好ましく、71質量%以上であることが一層好ましく、81質量%以上であることがより一層好ましく、91質量%以上であることがさらに一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、射出成形時の流動性がより向上する傾向にある。また、前記非晶性熱可塑性樹脂の合計含有量は、99質量%以下であることが好ましい。樹脂組成物が強化材を含む場合は、非晶性熱可塑性樹脂の合計含有量は、樹脂組成物中、91質量%以下であることがより好ましく、81質量%以下であることがさらに好ましく、76質量%以下であることが一層好ましい。
【0029】
本実施形態の樹脂組成物は、第一の非晶性熱可塑性樹脂および第二の非晶性熱可塑性樹脂をそれぞれ1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本実施形態の樹脂組成物は、結晶性熱可塑性樹脂を実質的に含まないことが好ましい。より具体的には、本実施形態の樹脂組成物における結晶性熱可塑性樹脂の含有量が、非晶性熱可塑性樹脂の総量の10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが一層好ましく、0.1質量%以下であることがより一層好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0031】
<カーボンナノチューブ>
本実施形態の樹脂組成物は、カーボンナノチューブを含む。カーボンナノチューブを含むことにより、電磁波吸収率の高い樹脂組成物ないし成形体が得られる。
本実施形態に用いるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブであり、少なくとも多層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有している炭素材料も使用できる。また、カーボンナノチューブは、円筒形状に限らず、1μm以下のピッチでらせんが一周するコイル状形状を有していてもよい。
カーボンナノチューブは、市販品として入手可能であり、例えば、バイエルマテリアルサイエンス社製、ナノシル社製、昭和電工株式会社製、ハイペリオン・キャタリシス・インターナショナル社から入手可能なカーボンナノチューブが挙げられる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリル、カーボンフィブリルなどと称されることもある。
カーボンナノチューブの直径(数平均繊維径)としては、0.5~100nmが好ましく、1~30nmがより好ましい。カーボンナノチューブのアスペクト比としては、良好な電磁波吸収性を付与する観点から、5以上が好ましく、50以上がより好ましい。上限は特に定めるものではないが、例えば、500以下である。
【0032】
本実施形態においては、上述の通りカーボンナノチューブが、第二の非晶性熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されている。このような構成とすることにより、得られる樹脂組成物ないし成形体の電磁波吸収性がより向上する傾向にある。
マスターバッチにおけるカーボンナノチューブの濃度は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることが好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが一層好ましい。上記上限値以下および下限値以上の範囲とすることにより、カーボンナノチューブの第一の非晶性熱可塑性樹脂への分散性がより向上する傾向にある。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物中のカーボンナノチューブの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.2質量%以上であってもよく、さらには0.4質量%以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、電磁波吸収性が効果的に発揮される。また、本実施形態の樹脂組成物中のカーボンナノチューブの含有量は、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましく、4質量%以下であることが一層好ましく、3質量%以下であることがより一層好ましく、2質量%以下であってもよく、さらには1質量%以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、樹脂の流動性がより向上する傾向にある。
【0034】
本実施形態の樹脂組成物は、また、カーボンナノチューブを、第一の非晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上含むことが好ましい。前記下限値以上とすることにより、電磁波吸収性が効果的に発揮される。また、本実施形態の樹脂組成物は、カーボンナノチューブを、第一の非晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して、10.0質量部以下含むことが好ましく、8.0質量部以下であることがより好ましく、6.0質量部以下であることがさらに好ましく、4.0質量部以下であることが一層好ましく、3.0質量部以下であることがより一層好ましく、さらには、2.5質量部以下、特には、1.5質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、樹脂の流動性がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、カーボンナノチューブを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0035】
<他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記したもの以外に他の成分を含有していてもよい。他成分の例を挙げると、強化材、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
【0036】
各種樹脂添加剤としては、安定剤、離型剤、難燃剤、反応性化合物、顔料、染料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。本実施形態の樹脂組成物は、安定剤および離型剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、第一の非晶性熱可塑性樹脂、第二の非晶性熱可塑性樹脂、および、カーボンナノチューブ、ならびに、選択的に配合される他の成分の合計が100質量%となるように調整される。本実施形態の樹脂組成物の一例は、第一の非晶性熱可塑性樹脂、第二の非晶性熱可塑性樹脂、および、強化材(好ましくはガラス繊維)の合計が樹脂組成物の95質量%以上を占めることである。また、本実施形態の樹脂組成物の他の一例は、第一の非晶性熱可塑性樹脂、第二の非晶性熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ、安定剤、および、離型剤の合計が樹脂組成物の99質量%以上を占めることである。さらに、本実施形態の樹脂組成物の他の一例は、第一の非晶性熱可塑性樹脂、第二の非晶性熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ、強化材(好ましくはガラス繊維)、安定剤、および、離型剤の合計が樹脂組成物の99質量%以上を占めることである。
【0037】
<<安定剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を含んでいてもよい。安定剤は、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、硫黄系安定剤等が例示される。これらの中でも、ヒンダードフェノール系化合物が好ましい。また、ヒンダードフェノール系化合物とリン系化合物を併用することも好ましい。
安定剤としては、具体的には、特開2018-070722号公報の段落0046~0057の記載、特開2019-056035号公報の段落0030~0037の記載、国際公開第2017/038949号の段落0066~0078の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を第一の非晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.05質量部以上含むことがより好ましく、0.08質量部以上含むことがさらに好ましい。また、前記安定剤の含有量の上限値は、第一の非晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、3質量部以下であることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0039】
<<離型剤>>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。
離型剤は、公知の離型剤を広く用いることができ、脂肪族カルボン酸のエステル化物、パラフィンワックス、ポリスチレンワックス、ポリオレフィンワックスが好ましく、ポリエチレンワックスがより好ましい。
離型剤としては、具体的には、特開2013-007058号公報の段落0115~0120の記載、特開2018-070722号公報の段落0063~0077の記載、特開2019-123809号公報の段落0090~0098の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を第一の非晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.08質量部以上含むことがより好ましく、0.2質量部以上含むことがさらに好ましい。また、前記離型剤の含有量の上限値は、第一の非晶性熱可塑性樹脂100質量部に対し、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましく、0.8質量部以下であることが一層好ましい。
樹脂組成物は、離型剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0041】
<<強化材>>
本実施形態の樹脂組成物は、強化材を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。強化材を含むことにより、得られる成形体の機械的強度を向上させることができる。
本実施形態で用いることができる強化材は、その種類等、特に定めるものではなく、繊維、フィラー、ビーズ等のいずれであってもよいが、繊維が好ましい。
【0042】
強化材が繊維である場合、短繊維であってもよいし、長繊維であってもよい。
強化材が短繊維やフィラー、ビーズ等の場合、本実施形態の樹脂組成物は、ペレット、前記ペレットを粉末化したもの、および前記ペレットから成形されるフィルム等が例示される。
強化材が長繊維の場合、強化材は、いわゆる、UD材(Uni-Directional)用の長繊維、織物および編み物等のシート状の長繊維などが例示される。これらの長繊維を用いる場合、本実施形態の樹脂組成物の強化材以外の成分を、前記シート状の長繊維である強化材に含浸させて、シート状の樹脂組成物(例えば、プリプレグ)とすることができる。
【0043】
強化材の原料は、ガラス、炭素(炭素繊維等)、アルミナ、ボロン、セラミック、金属(スチール等)等の無機物、および、植物(ケナフ(Kenaf)、竹等を含む)、アラミド、ポリオキシメチレン、芳香族ポリアミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、超高分子量ポリエチレン等の有機物などが挙げられ、ガラスが好ましい。
【0044】
本実施形態の樹脂組成物は、強化材として、ガラス繊維を含むことが好ましい。
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス、Rガラス、Dガラス、Mガラス、Sガラスなどのガラス組成から選択され、特に、Eガラス(無アルカリガラス)が好ましい。
ガラス繊維は、長さ方向に直角に切断した断面形状が真円状または多角形状の繊維状の材料をいう。ガラス繊維は、単繊維の数平均繊維径が通常1~25μm、好ましくは5~17μmである。数平均繊維径を1μm以上とすることにより、樹脂組成物の成形加工性がより向上する傾向にある。数平均繊維径を25μm以下とすることにより、得られる成形体の外観が向上し、補強効果も向上する傾向にある。ガラス繊維は、単繊維または単繊維を複数本撚り合わせたものであってもよい。
ガラス繊維の形態は、単繊維や複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取ったガラスロービング、長さ1~10mmに切りそろえたチョップドストランド(すなわち、数平均繊維長1~10mmのガラス繊維)、長さ10~500μm程度に粉砕したミルドファイバー(すなわち、数平均繊維長10~500μmのガラス繊維)などのいずれであってもよいが、長さ1~10mmに切りそろえたチョップドストランドが好ましい。ガラス繊維は、形態が異なるものを併用することもできる。
また、ガラス繊維としては、異形断面形状を有するものも好ましい。この異形断面形状とは、繊維の長さ方向に直角な断面の長径/短径比で示される扁平率が、例えば、1.5~10であり、中でも2.5~10、さらには2.5~8、特に2.5~5であることが好ましい。
【0045】
ガラス繊維は、本実施形態の樹脂組成物の特性を大きく損なわない限り、樹脂成分との親和性を向上させるために、例えば、シラン系化合物、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物などで表面処理したもの、酸化処理したものであってもよい。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物は、強化材(好ましくはガラス繊維)を含む場合、その含有量は、第一の非晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましく、40質量部以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形体の機械的強度がより上昇する傾向にある。また、前記強化材(好ましくはガラス繊維)の含有量は、第一の非晶性熱可塑性樹脂100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、85質量部以下であることがさらに好ましく、80質量部以下であることが一層好ましく、75質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、成形体外観が向上し、かつ、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物における強化材(好ましくはガラス繊維)の含有量は、樹脂組成物中、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、25質量%以上であることが一層好ましい。また、前記強化材(好ましくはガラス繊維)の含有量は、樹脂組成物中、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以下であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、機械的強度がより上昇する傾向にある。また、前記上限値以下とすることにより、成形体の外観が向上し、かつ、樹脂組成物の溶融時の流動性がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、強化材(好ましくはガラス繊維)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0048】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、電磁波の吸収率が高いことが好ましい。
具体的には、本実施形態の樹脂組成物は、2mm厚(好ましくは、100mm×100mm×2mm厚さ)に成形したときの、周波数76.5GHzにおける式(A)に従って求められる吸収率が43.0~100%であることが好ましい。
式(A)
【数4】
(上記式(A)中、Rはフリースペース法によって測定される反射減衰量を表し、Tはフリースペース法によって測定させる透過減衰量を表す。)
【0049】
前記吸収率は、45.0%以上であることが好ましく、47.0%以上であることがより好ましく、48.0%以上であることがさらに好ましく、50.0%以上であることが一層好ましく、51.0%以上であることがより一層好ましい。上限は、100%が理想であるが、90.0%以下であっても十分に要求性能を満たすものである。
【0050】
本実施形態の樹脂組成物は、電磁波の反射率が低いことが好ましい。
具体的には、本実施形態の樹脂組成物は、2mm厚(好ましくは、100mm×100mm×2mm厚さ)に成形したときの、周波数76.5GHzにおける式(B)に従って求められる反射率が40.0%以下であることが好ましい。
式(B)
【数5】
(上記式(B)中、Rは、フリースペース法によって測定される反射減衰量を表す。)
【0051】
前記反射率は、35.0%以下であることが好ましく、30.0%以下であることがより好ましく、26.0%以下であることがさらに好ましく、22.0%以下であることが一層好ましい。下限は、0%が理想であるが、1.0%以上、さらには5.0%以上であっても十分に要求性能を満たすものである。
【0052】
本実施形態の樹脂組成物は、透過率が低いことが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、2mm厚(好ましくは、100mm×100mm×2mm厚さ)に成形したときの、周波数76.5GHzにおける式(C)に従って求められる透過率が43.0%未満であることが好ましい。
式(C)
【数6】
(上記式(C)中、Tはフリースペース法によって測定させる透過減衰量を表す。)
【0053】
前記透過率は、42.0%以下であることが好ましく、40.0%以下であることがより好ましい。下限は、0%が理想であるが、5.0%以上であっても十分に要求性能を満たすものである。
【0054】
本実施形態の樹脂組成物は、上記式(A)に従って求められる吸収率、上記式(B)に従って求められる反射率、および、上記式(C)に従って求められる透過率のいずれをも満たすことが好ましい。
【0055】
本実施形態の樹脂組成物は、また、2mm厚(好ましくは、100mm×100mm×2mm厚さ)に成形したときのIEC60093に準拠した表面抵抗が1.0×108Ω以上であることが好ましく、1.0×109Ω以上であることがより好ましく、1.0×1010Ω以上であることがさらに好ましく、1.0×1011Ω以上であることが一層好ましく、1.0×1012Ω以上であることがより一層好ましく、1.0×1013Ω以上であることがさらに一層好ましく、1.0×1014Ω以上であることが特に一層好ましく、また、1.0×1016Ω以下であることが好ましく、1.0×1015Ω以下であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、得られる成形体の電磁波吸収率がより高くなる傾向にある。
表面抵抗は、樹脂組成物から形成された100mm×100mm×2mm厚の試験片を用いて、IEC60093に準拠して表面抵抗(単位:Ω)を測定した値とする。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物は、周波数76.5GHzにおける比誘電率が4.00以上であり、4.20以上であることが好ましく、4.45以上であることがより好ましく、4.60以上であることがさらに好ましく、4.70以上であることが一層好ましく、5.10以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形体の電磁波吸収率がより高くなる傾向にある。また、前記比誘電率の上限値は、8.00以下であることが好ましく、6.00以下であることがより好ましく、5.50以下であることがさらに好ましく、5.40以下であることが一層好ましく、5.30以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形体の電磁波反射率をより低くすることができる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、周波数76.5GHzにおける誘電正接が0.05以上であることが好ましく、0.08以上であることが好ましく、0.09以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形体の電磁波吸収率がより高くなる傾向にある。また、前記誘電正接の下限値は、特に定めるものでは無いが、例えば、0.50以下であり、さらには、0.40以下であってもよい。
【0057】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の常法の製法によって製造できる。例えば、第一の非晶性熱可塑性樹脂と、第二の非晶性熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されたカーボンナノチューブとを溶融混練することによって得られる。より具体的には、第一の非晶性熱可塑性樹脂と、第二の非晶性熱可塑性樹脂でマスターバッチ化されたカーボンナノチューブと、必要に応じ配合される他の成分(ガラス繊維等)を押出機に投入し、溶融混練することによって製造される。このような樹脂組成物から形成された一形態がペレットである。
押出機には、各成分をあらかじめ混合して一度に供給してもよいし、各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給してもよい。押出機は、一軸押出機であっても、二軸押出機であってもよい。
また、ガラス繊維等の強化材を配合する場合、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することが好ましい。
溶融混練に際しての加熱温度は、通常、150~350℃の範囲から適宜選ぶことができる。
【0058】
<成形体の製造方法>
成形体、特に、電磁波吸収体は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。
本実施形態における成形体の製造方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられ、中でも射出成形が好ましい。
【0059】
<用途>
本実施形態の電磁波吸収体は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。すなわち、本実施形態の樹脂組成物は、電磁波吸収体用(電磁波吸収部材用ともいう)であることが好ましく、少なくとも周波数60~90GHzの電磁波吸収体用であることがより好ましく、少なくとも周波数70~80GHzの電磁波吸収体用であることがさらに好ましい。このような電磁波吸収体は、好ましくは、レーダー用途に用いられる。具体的には、ミリ波レーダー用の筐体、カバー等に用いられる。
本実施形態の電磁波吸収体は、ブレーキ自動制御装置、車間距離制御装置、歩行者事故低減ステアリング装置、誤発信抑制制御装置、ペダル踏み間違い時加速抑制装置、接近車両注意喚起装置、車線維持支援装置、被追突防止警報装置、駐車支援装置、車両周辺障害物注意喚起装置などに用いられる車載用ミリ波レーダー;ホーム監視/踏切障害物検知装置、電車内コンテンツ伝送装置、路面電車/鉄道衝突防止装置、滑走路内異物検知装置などに用いられる鉄道・航空用ミリ波レーダー;交差点監視装置、エレベータ監視装置などの交通インフラ向けミリ波レーダー;各種セキュリティ装置向けミリ波レーダー;子供、高齢者見守りシステムなどの医療・介護用ミリ波レーダー;各種情報コンテンツ伝送用ミリ波レーダー;等に好適に利用することができる。
【実施例0060】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0061】
原料
以下の原料を用いた。下記表1において、PCはポリカーボネート樹脂を、HIPSはハイインパクトポリスチレンを、PAはポリアミド樹脂を、CNTはカーボンナノチューブを、それぞれ意味している(表2についても同じ。)。PCとHIPSは非晶性熱可塑性樹脂であり、PAは結晶性熱可塑性樹脂である。
【0062】
【表1】
上記表1において、MFRはJIS K7210(温度300℃、荷重1.2kgf)に準拠して測定されるメルトフローレイト(MFR)である。
【0063】
実施例1~6、比較例1
<樹脂組成物(ペレット)の製造>
表2に示すように、表1に記載の各成分をカーボンナノチューブの配合量が0.5質量%となるように、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間撹拌混合した。得られた混合物を、噛み合い型同方向二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX-30α」、スクリュー径32mm、L/D=42)にメインフィード口から供給した。第一混練部のバレル温度を270℃に設定し、吐出量30kg/h、スクリュー回転数200rpmの条件で溶融混練し、ノズル数5穴(円形(φ4mm)、長さ1.5cm)の条件でストランドとして押出した。押出したストランドを水槽に導入して冷却し、ペレタイザーに挿入してカットすることで樹脂組成物(ペレット)を得た。
【0064】
<76.5GHz電磁波吸収率、反射率、透過率>
上記で得られたペレットを用い、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80」)にて、シリンダー設定温度270℃、金型温度80℃で射出成形し、100mm×100mm×2mm厚の試験片を得た。得られた試験片を用いて、周波数76.5GHzにおける、式(A)に従って求められる吸収率、式(B)に従って求められる反射率、および、式(C)に従って求められる透過率を以下の通り測定した。
測定に際し、キーサイト社製のネットワークアナライザ「N5252A」を用いた。
なお、射出成形体のTD(トランスバースディレクション)方向が、電場方向と平行になる向きに試験片を設置して測定した。
式(A)
【数7】
(上記式(A)中、Rはフリースペース法によって測定される反射減衰量を表し、Tはフリースペース法によって測定させる透過減衰量を表す。)
【0065】
式(B)
【数8】
(上記式(B)中、Rは、フリースペース法によって測定される反射減衰量を表す。)
【0066】
式(C)
【数9】
(上記式(C)中、Tはフリースペース法によって測定させる透過減衰量を表す。)
【0067】
<比誘電率および誘電正接>
上記で得られたペレットを用い、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80」)にて、シリンダー設定温度270℃、金型温度80℃で射出成形し、100mm×100mm×2mm厚の試験片を得た。
得られた試験片を用いて、周波数76.5GHzにおける、比誘電率および誘電正接を求めた。なお、射出成形体のTD(トランスバースディレクション)方向が、電場方向と平行になる向きに試験片を設置して測定した。
測定に際してはキーサイト社製のネットワークアナライザ「N5252A」を用いて測定し、比誘電率と誘電正接の値の推定は、キーサイト社製「N1500A材料測定スイート」を使用し、計算モデル「NISTプレシジョン」によって各値を算出した。
【0068】
【0069】
上記表2の結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、電磁波吸収率が高かった。さらに、電磁波透過率および反射率が低かった。