(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089952
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】外殻鋼管コンクリート杭
(51)【国際特許分類】
E02D 5/30 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
E02D5/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196454
(22)【出願日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2021204424
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000228660
【氏名又は名称】日本コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】平尾 一樹
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA02
2D041CA01
2D041CB01
2D041DB05
(57)【要約】
【課題】変形性能を向上できるとともに製造性が良好な外殻鋼管コンクリート杭を提供する。
【解決手段】外殻鋼管コンクリート杭1は、円筒状の鋼管部2と、鋼管部2の内側にコンクリートで成形された杭本体部3と、鋼管部2の内周面2aに固定されて軸方向に延びて配置され、互いに鋼管部2の周方向に離れて位置する複数の軸方向補強体5と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の鋼管部と、
この鋼管部の内側にコンクリートで成形された杭本体部と、
前記鋼管部の内周面に固定されて軸方向に延びて配置され、互いに前記鋼管部の周方向に離れて位置する複数の軸方向補強体と、
を備えることを特徴とする外殻鋼管コンクリート杭。
【請求項2】
軸方向補強体は、全断面積に対する総断面積の比率が最小で0.3%以上、かつ、6本以上設定されている
ことを特徴とする請求項1記載の外殻鋼管コンクリート杭。
【請求項3】
軸方向補強体は、最小で6本以上設定され、
全断面積に対する鋼管部の断面積と前記軸方向補強体の総断面積との合計の比率が4.4%以上である
ことを特徴とする請求項1記載の外殻鋼管コンクリート杭。
【請求項4】
全断面積に対する軸方向補強体の総断面積の比率が2%以上、かつ、全断面積に対する鋼管部の断面積と前記軸方向補強体の総断面積との合計の比率が17%以上である
ことを特徴とする請求項1記載の外殻鋼管コンクリート杭。
【請求項5】
全断面積に対する軸方向補強体の総断面積の比率が7%以上、かつ、全断面積に対する鋼管部の断面積と前記軸方向補強体の総断面積との合計の比率が17%以上である
ことを特徴とする請求項4記載の外殻鋼管コンクリート杭。
【請求項6】
全断面積に対する鋼管部の断面積と軸方向補強体の総断面積との合計の比率が20%以上である
ことを特徴とする請求項5記載の外殻鋼管コンクリート杭。
【請求項7】
全断面積に対する軸方向補強体の総断面積の比率が2%以上、かつ、全断面積に対する鋼管部の断面積と前記軸方向補強体の総断面積との合計の比率が19.3%以上である
ことを特徴とする請求項4記載の外殻鋼管コンクリート杭。
【請求項8】
軸方向補強体は、鋼管部の内周面に対して複数箇所または全長に亘り固定されている
ことを特徴とする請求項1ないし7いずれか一記載の外殻鋼管コンクリート杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管部の内側にコンクリートで成形された杭本体部を備える外殻鋼管コンクリート杭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートで成形された円筒状の杭本体部の外側が円筒状の鋼管部で覆われた構成を有する外殻鋼管コンクリート杭(SC杭)がある。このような外殻鋼管コンクリート杭は、一般に、鋼管部のみが鋼材であり、高耐力化するためには鋼管部を厚くしたり、鋼管強度を大きくしたりする。
【0003】
しかしながら、このような外殻鋼管コンクリート杭の破壊形態は、圧縮された側の杭本体部(コンクリート)の剥落による断面欠損であることが多く、このような場合、鋼管部に局部座屈が生じ、設計通りの変形性能および耐力が得られないことがある。
【0004】
この点、鋼管部の中空部に鉄筋を配するSC杭とすることで、曲げ耐力が向上することが知られており、杭本体部に軸方向に沿って緊張鋼材(PC鋼材)が配置された外殻鋼管コンクリート杭が知られている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0005】
これらの構成の場合、水平耐力は改善できるものの、緊張鋼材が細く、その横剛性が小さいため、杭本体部を構成するコンクリートの剥落を防止することが容易でない。
【0006】
また、鋼管部の中空部に軸方向鉄筋を環状に二重に配置された外殻鋼管コンクリート杭が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
この構成の場合、鋼管部の座屈によりコンクリートの鋼管部からの剥離が発生したとしてもコンクリートの圧壊により生じたコンクリート片の杭周固定液や掘削土砂で満たされた杭中空部内への移動(杭の中心方向へ向かっての移動)を防ぎ、それによって杭の急激な耐力低下による杭の急激な折れ曲がりを起こさない。しかしながら、二重に配筋された鉄筋を鋼管部内に配置するのは容易ではない。また、高靭性化するには鉄筋量を増やす必要があるものの、その場合は鉄筋の配筋間隔が狭まり、杭本体部のコンクリートを打設する際に充填し難くなり、総じて製造し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公昭53-29363号公報
【特許文献2】実開昭58-10938号公報
【特許文献3】特開2016-223278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、変形性能を向上でき、かつ、製造しやすい外殻鋼管コンクリート杭が求められている。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、変形性能を向上できるとともに製造性が良好な外殻鋼管コンクリート杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の外殻鋼管コンクリート杭は、円筒状の鋼管部と、この鋼管部の内側にコンクリートで成形された杭本体部と、前記鋼管部の内周面に固定されて軸方向に延びて配置され、互いに前記鋼管部の周方向に離れて位置する複数の軸方向補強体と、を備えるものである。
【0012】
請求項2記載の外殻鋼管コンクリート杭は、請求項1記載の外殻鋼管コンクリート杭において、軸方向補強体は、全断面積に対する総断面積の比率が最小で0.3%以上、かつ、6本以上設定されているものである。
【0013】
請求項3記載の外殻鋼管コンクリート杭は、請求項1記載の外殻鋼管コンクリート杭において、軸方向補強体は、最小で6本以上設定され、全断面積に対する鋼管部の断面積と前記軸方向補強体の総断面積との合計の比率が4.4%以上であるものである。
【0014】
請求項4記載の外殻鋼管コンクリート杭は、請求項1記載の外殻鋼管コンクリート杭において、全断面積に対する軸方向補強体の総断面積の比率が2%以上、かつ、全断面積に対する鋼管部の断面積と前記軸方向補強体の総断面積との合計の比率が17%以上であるものである。
【0015】
請求項5記載の外殻鋼管コンクリート杭は、請求項4記載の外殻鋼管コンクリート杭において、全断面積に対する軸方向補強体の総断面積の比率が7%以上、かつ、全断面積に対する鋼管部の断面積と前記軸方向補強体の総断面積との合計の比率が17%以上であるものである。
【0016】
請求項6記載の外殻鋼管コンクリート杭は、請求項5記載の外殻鋼管コンクリート杭において、全断面積に対する鋼管部の断面積と軸方向補強体の総断面積との合計の比率が20%以上であるものである。
【0017】
請求項7記載の外殻鋼管コンクリート杭は、請求項4記載の外殻鋼管コンクリート杭において、全断面積に対する軸方向補強体の総断面積の比率が2%以上、かつ、全断面積に対する鋼管部の断面積と前記軸方向補強体の総断面積との合計の比率が19.3%以上であるものである。
【0018】
請求項8記載の外殻鋼管コンクリート杭は、請求項1ないし7いずれか一記載の外殻鋼管コンクリート杭において、軸方向補強体は、鋼管部の内周面に対して複数箇所または全長に亘り固定されているものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、変形性能を向上できるとともに製造性が良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)および(b)は、本発明の第1の実施の形態の外殻鋼管コンクリート杭の横断面図の例である。
【
図2】(a)ないし(c)は、同上外殻鋼管コンクリート杭の縦断側面図の例である。
【
図3】外殻鋼管コンクリート杭の全断面積に対する鋼管部の断面積と軸方向補強体の総断面積との合計の比率と外殻鋼管コンクリート杭の曲げ耐力との関係を示すグラフである。
【
図4】外殻鋼管コンクリート杭の全断面積に対する鋼管部の断面積と軸方向補強体の総断面積との合計の比率と外殻鋼管コンクリート杭の変形性能(靭性)との関係を示すグラフである。
【
図5】同上外殻鋼管コンクリート杭の変形量に対する曲げ荷重の関係を示すグラフである。
【
図6】(a)は本発明の第2の実施の形態の外殻鋼管コンクリート杭の横断面図の一例を示し、(b)は(a)の一部を示す側面図であり、(c)は同上外殻鋼管コンクリート杭の横断面図の他の例を示し、(d)は(c)の一部を示す側面図である。
【
図7】本実施例の実施例1ないし9の試験体と比較例1ないし4の試験体との仕様の例を示す表である。
【
図8】実施例1ないし3および比較例1についての曲げモーメントと変形角との関係を示す包絡線である。
【
図9】実施例4ないし6および比較例2についての曲げモーメントと変形角との関係を示す包絡線である。
【
図10】曲げモーメントと変形角との関係を示すグラフであり、(a)は比較例3、(b)は実施例7、(c)は実施例8を示す。
【
図11】曲げモーメントと変形角との関係を示すグラフであり、(a)は比較例4、(b)は実施例9を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
図1(a)、
図1(b)において、1は外殻鋼管コンクリート杭(SC杭)を示す。外殻鋼管コンクリート杭1は、円筒状の鋼管部2を備える。鋼管部2は、外殻鋼管コンクリート杭1の外殻を構成する。鋼管部2は、所定の厚みを有する鋼板により円筒状に形成されている。鋼管部2の内側には、杭本体部3が形成されている。杭本体部3は、コンクリートで遠心成形などによって円筒状に成形されている。すなわち、杭本体部3の中央部は中空部である。また、鋼管部2および杭本体部3の軸方向の両端部には、図示されない環状の端面鋼板が設けられている。端面鋼板は、内側面が鋼管部2および杭本体部3の軸方向の端部に接触するように設けられている。そして、鋼管部2の内周面2aに接して、複数の軸方向補強体5が配置されている。すなわち、外殻鋼管コンクリート杭1は、鋼管部2および端面鋼板の内側に一体にコンクリート層である杭本体部3が設けられており、その杭本体部3の内部に埋め込まれるように複数の軸方向補強体5が設けられている。
【0023】
軸方向補強体5は、鋼管部2の局部座屈に抵抗するとともに軸力負担するための補強体である。軸方向補強体5は、鉄筋すなわち棒状の鋼材である。好ましくは、軸方向補強体5は、異形棒鋼である。より好ましくは、軸方向補強体5は、既製コンクリート杭に用いることができるものを用いる。例えば、軸方向補強体5としては、異形棒鋼(SD295A、SD295B、SD345、SD390、SD490)のうち、呼び径D10、D13、D16、D19、D22、D25、D29、D32、D35、D38、D41、D51のいずれか、あるいはそれらのいずれかの組み合わせを用いる。好ましくは、各軸方向補強体5は互いに同一の断面積を有するように選択される。
【0024】
軸方向補強体5は、鋼管部2の軸方向に直線状に延びて配置されている。本実施の形態では、軸方向補強体5は、鋼管部2の軸方向の全長に亘り連なって配置されているが、これに限らず、鋼管部2の途中までの配置でもよい。軸方向補強体5は、鋼管部2の内周面2aに対して、軸方向の所定の位置で固定されている。軸方向補強体5は、鋼管部2の内周面2aに対して、複数箇所で固定されている。本実施の形態では、軸方向補強体5は、鋼管部2の内周面2aに対して、少なくとも両端部が固定されている。軸方向補強体5の軸方向の両端部の中間部分については、少なくとも一箇所で鋼管部2の内周面2aに対して固定されている。本実施の形態において、軸方向補強体5は、鋼管部2の内周面2aに対して溶接により固定されている。
【0025】
鋼管部2と軸方向補強体5との固定については、例えば
図2(a)に示される例のように、鋼管部2の軸方向の両端部および中央部にて内周面2aに対する固定部6を形成してもよいし、
図2(b)に示される例のように、鋼管部2の軸方向の両端部、および、その中間部分に部分的にて内周面2aに対する固定部6を形成してもよいし、
図2(c)に示される例のように、鋼管部2の軸方向の全体にて内周面2aに対する固定部6を形成してもよい。形成される固定部6が少ないほど、鋼管部2と軸方向補強体5との固定の作業性が良好になり、固定部6が多いほど鋼管部2と軸方向補強体5とが一体化しやすくなる。
【0026】
図1(a)および
図1(b)に示されるように、複数の軸方向補強体5は、互いに鋼管部2の周方向に離れて位置する。本実施の形態では、軸方向補強体5は、鋼管部2の周方向に等配または略等配されている。したがって、軸方向補強体5は、外殻鋼管コンクリート杭1の軸方向に見て、環状に配置されている。
【0027】
軸方向補強体5は、鋼管部2の軸力負担に対して抵抗するのに有効な配置量が設定されている。このとき、
図3に示されるように、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積(鋼管部2の断面積と杭本体部3の断面積との和)に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積との合計の比率(全鋼材比)が最小配置量pmin1から最大配置量pmaxへと増加するにしたがい、曲げ耐力が向上し、
図4に示されるように、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積との合計の比率(全鋼材比)が最小配置量pmin2から最大配置量pmaxへと増加するにしたがい、変形性能(靭性)が向上する。なお、各図中において、p0は、標準的な外殻鋼管コンクリート杭の鋼材量を示す。
【0028】
本実施の形態において、
図1(a)および
図1(b)に示される曲げ耐力を向上させるための軸方向補強体5の最小配置量は、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する軸方向補強体5の総断面積の比率(鉄筋比)が0.3%以上、かつ、本数が6本以上とする。あるいは、軸方向補強体5の総断面積と鋼管部2の断面積との合計の比率(全鋼材比)が4.4%以上、かつ、本数が6本以上とする。そして、変形性能(靭性)を大きく向上させる、つまり終局時の変形角が1/67radを超える性能を持つには、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する軸方向補強体5の総断面積の比率が2%以上、かつ、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積の比率が17%以上(
図4中の最小配置量pmin2以上)とする。
【0029】
変形性能を向上させるにあたっては、軸方向補強体5の本数を増加させ、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する軸方向補強体5の総断面積の比率を高くする場合には、鋼管部2の厚みをより薄くして、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積の比率を低くしてもよく、逆に、軸方向補強体5の本数を抑制し、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する軸方向補強体5の総断面積の比率を低くする代わりに、鋼管部2の厚みをより厚くして、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積の比率を高くしてもよい。
【0030】
一例として、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する軸方向補強体5の総断面積の比率が7%以上の場合には、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積の比率を17%以上とする。
【0031】
あるいは、他の例として、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する軸方向補強体5の総断面積の比率が2%以上の場合には、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積の比率を19.3%以上とする。
【0032】
さらに、変形性能(靭性)を一層大きく向上させる、つまり終局時の変形角が1/50radを超える性能を持つには、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する軸方向補強体5の総断面積の比率が7%以上、かつ、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積の比率が20%以上(
図4中の配置量pmin3以上)とする。これらの軸方向補強体5により、曲げ耐力および変形性能(靭性)を向上させることができる。ここで、軸方向補強体5の最小配置量は、外殻鋼管コンクリート杭1の断面が円筒形であるため、曲げ耐力に寄与する軸方向補強体5の方向性への影響を考慮して6本を最小本数としている。すなわち、軸方向補強体5の本数が6本より少ない場合には、軸方向補強体5の間隔が拡がり有効断面積が小さくなるとともに、力が加わる向きによっては軸方向補強体5が有効に働かない場合があるのに対し、6本以上配置する場合には、いずれの方向から力が加わった場合でも2本以上の軸方向補強体5を有効に作用させることができる。また、軸方向補強体5の最大配置量は、杭本体部3の内側のかぶり厚および軸方向補強体5の間隔から定まる設計上の最大配置量とする。これら最小配置量と最大配置量の範囲となるように、軸方向補強体5の配置量を設定する。
【0033】
図示される例では、軸方向補強体5は、25mm間隔で配置されている。また、軸方向補強体5は、杭本体部3のかぶり厚が15mm以上に設定されている。
【0034】
ここで、軸方向補強体5については、同じ配置量であれば、径がより大きいものを少数配置するほうが変形性能および製造性の両面から好ましい。例えば、
図1(a)に示される例と、
図1(b)に示される例とは、互いに全断面積および軸方向補強体5の配置量がそれぞれ等しいものの、
図1(b)に示される例のほうがより好ましい。
【0035】
軸方向補強体5には、補強部材7が固定されていてもよい。補強部材7は、組立筋あるいは螺旋筋などとも呼ばれる。補強部材7は、軸方向補強体5よりも細い線状の鋼材である。補強部材7は、杭本体部3内における複数の軸方向補強体5の内側、つまり鋼管部2とは反対側の位置に螺旋状に配筋されている。好ましくは、補強部材7は、軸方向補強体5に対して溶接などにより固定されている。本実施の形態では、補強部材7により、複数の軸方向補強体5が一体化されている。なお、補強部材7は、必須の構成ではない。
【0036】
そして、外殻鋼管コンクリート杭1を製造する際には、まず、予め成形された鋼管部2の内側に軸方向補強体5を複数挿入し、これら軸方向補強体5を固定部6によって鋼管部2の内周面2aに固定する。補強部材7を有する場合には、補強部材7により一体化された複数の軸方向補強体5を鋼管部2の内側に挿入し、軸方向補強体5を固定部6によって鋼管部2の内周面2aに固定する。次いで、鋼管部2の軸方向の両端部に端面鋼板を固定して鋼管部2と端面鋼板とを一体化する。さらに、鋼管部2を型枠にセットし、コンクリートを打設し、遠心力締め固めなどによって杭本体部3を成形し蒸気養生した後、型枠を脱型する。
【0037】
上述したように、第1の実施の形態によれば、鋼管部2の内側にコンクリートで成形された杭本体部3を有する外殻鋼管コンクリート杭1において、鋼管部2の内周面2aに接して軸方向補強体5を配置することで、曲げ耐力を向上でき、変形性能を向上できるとともに、構成が複雑でないため、製造性も良好である。
【0038】
軸方向補強体5の配置量を一定以上とすることで、鋼管部2が急激に座屈せず、軸方向補強体5の配置量の軸耐力に応じて軸力比を低減させ、外殻鋼管コンクリート杭1の曲げ性能が改善して高靭性化を図ることができ、変形性能を高めることができる。また、最大耐力以降の耐力低下を低減させることができ、高軸力下の地震時挙動などにおいても、仮に変形が進展しても荷重低下を抑制して安定した変形性能(荷重-変形関係)を示す外殻鋼管コンクリート杭1が得られる。例えば、
図5に示されるように、従来例(標準的な外殻鋼管コンクリート杭)に対応する比較例では、変形量が増加して最大耐力(最大荷重)Fに達すると、以後の変形の進展に対し耐力が急激に低下するのに対し、本実施の形態に対応する実施例では、変形性能が向上し、最大耐力Fに達した後も、変形の進展に対する耐力の低下が抑制される。
【0039】
例えば、軸方向補強体5を、6本以上配置し、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する総断面積の比率が7%以上となるように設定することで、良好な変形性能を得ることができる。
【0040】
あるいは、軸方向補強体5を6本以上配置し、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積との合計の比率が17%以上となるように設定することで、外殻鋼管コンクリート杭1の変形性能を示す終局時の変形角が1/67radを超える性能を得ることができる。
【0041】
他方、軸方向補強体5の本数をより抑制し、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する総断面積の比率が2%以上となるように設定する場合には、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積との合計の比率が19.3%以上となるように設定することで、外殻鋼管コンクリート杭1の変形性能を示す終局時の変形角が1/67radを超える性能を得ることができる。
【0042】
このように、全断面積に対する軸方向補強体5の総断面積の比率が2%以上、かつ、全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積との合計の比率が17%以上とすることで、外殻鋼管コンクリート杭1の変形性能を示す終局時の変形角が1/67radを超える性能を得ることができる。
【0043】
さらに、軸方向補強体5を6本以上配置し、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する総断面積の比率が7%以上となるように設定するとともに、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積との合計の比率が20%以上となるように設定することで、外殻鋼管コンクリート杭1の変形性能を示す終局時の変形角が1/50radを超える性能を得ることができる。
【0044】
このように、外殻鋼管コンクリート杭1に所定の軸方向補強体5を有すると、鋼管部2が急激に座屈せず、曲げ性能が改善し、高靭性化を図れることを見出した。その際、上記のような一定の条件を満たすことにより、曲げ性能が特に改善し、鋼管部2が急激に座屈しない良好な変形性能を有する外殻鋼管コンクリート杭1を得ることができる。
【0045】
なお、第1の実施の形態において、軸方向補強体5は、鋼管部2の内周面2aに対して、溶接により直接固定されるものに限られない。例えば、
図6に示される第2の実施の形態のように、軸方向補強体5を通すための治具8を鋼管部2に取り付け、その治具8内に軸方向補強体5を通してもよい。この場合、
図6(a)および
図6(b)に示される一例のように、固定部6によって治具8を溶接部9によって溶接して鋼管部2の内周面2aに固定してもよいし、
図6(c)および
図6(d)に示される他の例のように、リング状の鉄筋あるいは薄板などの固定部材10に治具8を固定して鋼管部2の内部に溶接してセットしてもよい。治具8としては、例えば鋼管パイプやリング状の鉄筋などが用いられる。あるいは、その他の機械式固定治具によって、軸方向補強体5を鋼管部2の内周面2aに固定してもよい。これらの場合であっても、第1の実施の形態と同様に、変形性能および製造性が良好な外殻鋼管コンクリート杭1を得ることができる。
【実施例0046】
本実施例および比較例について説明する。
【0047】
本実施の形態の外殻鋼管コンクリート杭1に対応する実施例1ないし実施例8と、軸方向補強体5を備えない従来の外殻鋼管コンクリート杭に対応する比較例1ないし比較例3と、に対し、それぞれ正負交番曲げ載荷試験を実施した。なお、正負交番曲げ載荷試験により求められた各実施例の最大耐力に対する所定の割合、例えば80%になるときを終局時とした。
【0048】
実施例1ないし実施例9と比較例1ないし比較例4とについて、それぞれの仕様を
図7に示す。
【0049】
図8に示されるように、比較例1と比較して、実施例1ないし実施例3では、終局時の変形角および曲げモーメントがそれぞれ大きく、軸方向補強体5の配置、軸方向補強体5の配置量の増加、および、鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積の増加によって、最大曲げ耐力が改善し、靭性が向上していることが示された。
【0050】
同様に、
図9に示されるように、比較例2と比較して、実施例4ないし実施例6では、終局時の変形角および曲げモーメントがそれぞれ大きく、軸方向補強体5の配置、軸方向補強体5の配置量の増加、および、鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積の増加によって、最大曲げ耐力が改善し、靭性が向上していることが示された。
【0051】
また、
図10(a)に示される比較例3と比較して、
図10(b)および
図10(c)に示される実施例7および実施例8では、軸方向補強体5の配置によって、最大曲げ耐力が改善し、靭性が向上していることが示された。また、軸方向補強体5の最小量について、実施例7と実施例8とを比較して、軸方向補強体5が5本よりも6本のほうが、軸方向補強体5の間隔が狭まり、有効に作用する面積が大きくなることにより曲げ耐力が大きくなることが示された。特に、実施例1~6では、終局時の変形角が1/67radを超え、実施例1~3および実施例5,6ではさらに1/50radを超えて1/20radまで変形性能が改善された。
【0052】
さらに、
図11(a)に示される比較例4と比較して、
図11(b)に示される実施例9では、軸方向補強体5の本数を抑制し、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する総断面積の比率が2.0%となるように設定した場合でも、鋼管部2の厚みを増加させて、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積との合計の比率が19.3%以上となるように設定すると、最大曲げ耐力が改善し、靭性が向上していることが示された。実施例9でも、終局時の変形角が1/67radを超えた。
【0053】
これらの実施例から、標準的な外殻鋼管コンクリート杭に対する軸力比が0.3以下において、外殻鋼管コンクリート杭1の全断面積に対する軸方向補強体5の総断面積の比率、すなわち軸方向補強体5の配置量、または、鋼管部2の断面積と軸方向補強体5の総断面積の比率、すなわち鋼管部2と軸方向補強体5の配置量との合計が0.3%以上最大配置量以下の範囲で、最大曲げ耐力が向上し、変形性能が向上することが示された。