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特開2023-89954窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムの調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023089954
(43)【公開日】2023-06-28
(54)【発明の名称】窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022196884
(22)【出願日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】202111543241.7
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】515126422
【氏名又は名称】浙江工▲業▼大学
(71)【出願人】
【識別番号】522480609
【氏名又は名称】浙江工▲業▼大学平湖新材料研究院
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】叶会▲見▼
(72)【発明者】
【氏名】胡▲書▼杰
(72)【発明者】
【氏名】徐立新
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA26
4F071AA33
4F071AB22
4F071AB27
4F071AF14
4F071AF40
4F071AH12
4F071BA02
4F071BA03
4F071BB02
4F071BC01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムの調製方法を提供する。
【解決手段】(1)HBPE-g-POSSコポリマーを合成するステップと、(2)HBPE-g-POSSコポリマーを利用して六方晶窒化ホウ素を超音波剥離して窒化ホウ素ナノシートを得るステップと、(3)P(VDF-TrFE-CFE)と窒化ホウ素ナノシートをそれぞれ溶媒で均一に分散させてP(VDF-TrFE-CFE)分散液と窒化ホウ素ナノシート分散液を得た後、窒化ホウ素ナノシート分散液をP(VDF-TrFE-CFE)分散液に加えて均一に混合し、製膜溶液を取得し、混合溶液を平らなガラスプレート上に流し込み、乾燥させて被膜形成し、溶媒が蒸発した後、さらに焼鈍しを行って、窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムを得るステップと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムの調製方法であって、
(1)ハイパーブランチコポリマーを合成するステップであって;
エチレン雰囲気下で、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン及びPd-ジイミン触媒を無水有機溶媒中に加え、混合後、無水及び無酸素の条件下で十分に重合反応させ、反応終了後、後処理を経て無色透明のHBPE-g-POSSコポリマーを得て、ここで、前記ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサンの末端基の1つはアクリル酸エステル基CH=CHCOOR-(式中、Rはアルキリデン基である。)であり、他の7つの末端基はアルキル基であるステップと、
(2)窒化ホウ素ナノシートを調製するステップであって;
HBPE-g-POSSコポリマー、有機溶媒、及び六方晶窒化ホウ素粉末をガラス瓶に入れ、その質量比をHBPE-g-POSS:h-BN:溶媒=1~5mg:1~5mg:1mLとし、混合し、瓶口を封じて混合溶液を超音波プールに入れ、室温で12~72時間、超音波出力150~300Wを選択して超音波処理し、超音波の完了後、混合液を遠心管に装入して、回転速度を1000~6000rpmに設定して遠心を行い、剥離していない塊状の六方晶窒化ホウ素を除去し、分散液を取って、回転速度を7000~10000rpmに制御して更に遠心を行い、過剰なHBPE-g-POSSコポリマーを除去し、上澄み液を抽出し、底部生成物を集めて再び有機溶媒中に分散させて、窒化ホウ素ナノシートの分散液を得るステップと、
(3)PVDF系ナノ複合フィルムを調製するステップであって;
P(VDF-TrFE-CFE)を溶媒で溶解させて、均一で澄んだP(VDF-TrFE-CFE)溶液を得て、次いで、前記窒化ホウ素ナノシートの分散液を、P(VDF-TrFE-CFE)溶液に加えて均一に混合して製膜溶液を得て、混合溶液を平らなガラスプレート上に流し込み、乾燥させて被膜形成し、溶媒を蒸発させ、アニール処理をすることにより、窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムを得て、ここで、前記窒化ホウ素ナノシートの質量分率が、前記P(VDF-TrFE-CFE)の質量の0.1~0.8wt%であるステップと、
を含む、調製方法。
【請求項2】
前記ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン中のアルキリデン基及びアルキル基の炭素原子数がそれぞれ3~5個である、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
ステップ(1)において、前記無水有機溶媒が、無水ジクロロメタン、無水トリクロロメタン、または無水クロロベンゼンから選択される1つである、請求項1に記載の調製方法。
【請求項4】
前記α-ジイミンパラジウム触媒が、アセトニトリル基α-ジイミンパラジウム触媒1及びホルミル基含有六員環状α-ジイミンパラジウム触媒2のいずれかから選択され、両者の構造式が以下の通りである、請求項1に記載の調製方法。
【化1】


式中、
【化2】


である。
【請求項5】
ステップ(1)におけるポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)の投入濃度が0.1~0.4g/mL、前記α-ジイミンパラジウム触媒の用量が5~10mg/mLである、請求項1に記載の調製方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)において、重合反応温度が25~35℃、重合過程のエチレン圧力が0.01~0.1MPa、重合反応時間が2~24時間である、請求項1に記載の調製方法。
【請求項7】
ステップ(2)において、前記有機溶媒が、DMF、アセトン、クロロホルムのうちの1種または数種である、請求項1に記載の調製方法。
【請求項8】
ステップ(3)において、P(VDF-TrFE-CFE)を溶解させる溶媒が、DMF、NMP、DMAcのうちの1種または数種である、請求項1に記載の調製方法。
【請求項9】
ステップ(3)において、前記製膜液P(VDF-TrFE-CFE)溶液の濃度は10~20mg/mLであり、各ガラスプレート上の溶液担持量が3~5mL/20cmである、請求項1に記載の調製方法。
【請求項10】
ステップ(3)において、前記P(VDF-TrFE-CFE)フィルムを乾燥して被膜形成する際に、温度を60~80℃に制御し、乾燥時間を6~10時間、アニール処理温度を100~140℃、アニール処理時間を6~12時間とする、請求項1に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は高分子ナノ複合フィルムの誘電エネルギー貯蔵分野に属し、特に窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの絶え間ない開発に伴い、各種のエネルギー貯蔵設備の需要も拡大し続けており、誘電体コンデンサは、その誘電率の高さ、誘電損失の低さ、プロセス性能の良さから、オプトエレクトロニクス、パルスパワーシステムなどの分野において広く注目を集めている。電極材料は誘電体コンデンサの性能に影響する主な要素である。そのため、高性能電極材料の調製にとっては、誘電体コンデンサの性能を向上させることが主要な手段となる。
【0003】
非線形誘電体は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系ポリマーであり、複数の制御しやすい結晶形態を有しており、その中でも、全トランス結晶構成、即ちβ相構造は、比較的高い強誘電性能を有し、電荷をより適切に貯蔵輸送できると同時に、比較的高い誘電率を有することにより比較的高い蓄エネルギー密度を持つため、フレキシブル誘電体分野において幅広く応用されている。
【0004】
高誘電体無機フィラーを添加することは、ポリマーの誘電率を高める比較的有効な方法であり、無機ナノ粒子ZnO、強誘電体セラミック粒子BaTiO、酸化グラフェン、カーボンナノチューブなどのナノフィラーの投入により、ポリマー複合材料の誘電率を最大限に高め、複合材料の性能をさらに向上させることができる。
【0005】
有機基体内部の無機フィラーには、凝集しやすい、相容性が悪いといった問題が存在し、かつ両者間の比較的大きい誘電率の差により、電界を再分配する際にかなり大きい電歪が生じやすいので、複合材料の耐電界性に影響を与える。また、フィラーの凝集は、複合材料の力学的性能を低下させ、その実際の応用に影響を与えることもある。そのため、相容性が比較的よく、かつ比較的高い誘電率を有し、破壊場が強い複合誘電体フィルムを開発することが、新型高性能コンデンサを開発する上での主な研究方向となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムの調製方法を提供することにあり、その調製により得られる複合誘電体フィルムは、誘電率が高く、誘電損失が低い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明で採用する技術は以下の通りである。
【0008】
窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムの調製方法であって、以下のステップを含む。
(1)ハイパーブランチコポリマーを合成するステップ:エチレン雰囲気下で、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)とPd-ジイミン触媒を無水レベルの有機溶媒中に加え、混合後、無水無酸素の条件下で十分に重合反応させ、反応の終了後、後処理を経て無色透明のHBPE-g-POSSコポリマーを得る。そのうち、ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサンの末端基の1つはアクリル酸エステル基(即ちCH=CHCOOR-であり、その中のRはアルキリデン基であり、好適には、その炭素原子数は3~5個)であり、他の7つの末端基はアルキル基(好適には炭素原子数が3~5個)である。
(2)窒化ホウ素ナノシートを調製するステップ:HBPE@POSSコポリマー、有機溶媒及び六方晶窒化ホウ素粉末をガラス瓶に入れる。その質量比は、HBPE@POSS:h-BN:溶媒=1~5mg:1~5mg:1mL(好適には4mg:4mg:1mL)であり、混合後は瓶の口を封じ、超音波プールに入れて室温で12~72時間(好適には48時間)超音波処理を行い、超音波の出力は150~300W(好適には240W)を選択し、超音波の完了後、混合液を遠心管に装入して遠心し、回転速度を1000~6000rpm(好適には4000rpmで30分遠心)に設定し、剥離していない塊状の六方晶窒化ホウ素を除去する。分散液を取ってさらに遠心を行い、回転速度を7000~10000rpm(好適には7000rpmで30分遠心)に制御し、過剰なHBPE@POSSコポリマーを除去し、上澄み液を抽出し、底部生成物を集めて再び有機溶媒中に分散させたものが、窒化ホウ素ナノシート分散液である。
(3)PVDF系ナノ複合フィルムを調製するステップ:P(VDF-TrFE-CFE)を溶媒で溶かして均一で澄んだP(VDF-TrFE-CFE)溶液を取得し、その後、窒化ホウ素ナノシート分散液をP(VDF-TrFE-CFE)溶液に加えて均一に混合することにより製膜溶液を取得し、混合溶液を平らなガラスプレート上に流し込み、乾燥させて被膜形成し、溶媒が蒸発した後、さらに焼鈍しを行って、窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムを得る。そのうち、窒化ホウ素ナノシートの質量用量はP(VDF-TrFE-CFE)質量用量の0.1~0.8wt%である。
【0009】
周知の通り、POSSの末端基は、アリール基、アルキル基、アルケニル基、エポキシ基、アルキレン基などであってよい。本発明において特に好適なPOSSの1つの末端基は重合に用いられるアクリル酸エステル基であり、他の7つの末端基はアルキル基であり、研究により、該末端基のPOSSモノマーでしか、本発明に必要な高誘電率、低誘電損失を持つ窒化ホウ素を官能化して改質したPVDF系ナノ複合誘電体フィルムを得ることはできないことがわかった。
【0010】
好適には、ステップ(1)において、上記の無水レベルの有機溶媒は、無水ジクロロメタン、トリクロロメタンまたはクロロベンゼンから選択される1つであり、好適には無水ジクロロメタンである。
【0011】
好適には、ステップ(1)において、上記エチレンには、工業レベルのエチレンまたは純度99.95%以上の重合レベルのエチレンを採用することができ、好適には重合レベルのエチレンである。
【0012】
好適には、ステップ(1)におけるポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(POSS)の投入濃度は0.1~0.4g/mLであり、その純度は通常の化学的純粋または分析的純粋であってよく、好適には分析的純粋である。
【0013】
好適には、ステップ(1)において、上記のα-ジイミンパラジウム触媒の用量は5~10mg/mLである。
【0014】
好適には、ステップ(1)において、重合反応温度は25~35℃であり、重合過程におけるエチレン圧力は、好適には0.01~0.1MPaであり、重合反応時間は2~24時間で、より好適には6~24時間であり、25℃、0.1MPaの圧力下での24時間の反応が最適である。
【0015】
好適には、ステップ(1)において、上記の後処理は、反応の終了後、得られた生成物を酸性メタノール(上記の酸は好適には塩酸)の中に入れ、撹拌して重合を終了させ、さらに純化してHBPE-g-POSSのコポリマーを得るというステップで行われる。上記の純化は、以下のステップにより遂行される。
【0016】
(a)溶媒を除去し、得られた重合生成物をトルエンに溶解させ、メタノールを加えてポリマーを沈殿させ、このプロセスを2~4回繰り返す。(b)得られた重合生成物をTHFに溶解させ、かつ少量の過酸化水素水と塩酸を加え、室温で十分に撹拌してパラジウム粒子を溶解させた後、大量のメタノールを加えて重合生成物を沈殿析出させる。該ステップを2~4回繰り返す。(c)得られた生成物を40~80℃で24~72時間真空乾燥させ、最終重合生成物を得る。
【0017】
好適には、ステップ(2)において、上記の有機溶媒はDMF、アセトン、クロロホルム中の1種または数種であってよい。
【0018】
本発明のステップ(2)では、上記の六方晶窒化ホウ素は、超音波環境において、HBPE-g-POSSの補助機能に助けられて、有機溶媒中で単層のナノシートとして剥離され、該方法では、HBPE-g-POSSとBNNS(窒化ホウ素ナノシート)の表面非共有結合の相互作用を利用して、ハイパーブランチポリマーをナノシート表面に付着させることで、BNNSの溶媒中での分散性を向上させている。
【0019】
本発明のステップ(3)では、上記のP(VDF-TrFE-CFE)ポリマーには市販品を使用してもよいし、文献で報告されている方法によって自身で合成してもよい。
【0020】
本発明のステップ(3)では、P(VDF-TrFE-CFE)を溶かす溶媒はDMF、NMP、DMAcの中の1種または数種である。上記P(VDF-TrFE-CFE)溶液の溶媒及び窒化ホウ素ナノシート分散液の溶媒は、好適には同じである。
【0021】
本発明のステップ(3)では、上記製膜液P(VDF-TrFE-CFE)溶液の濃度は10~20mg/mLであり、各ガラスプレート上の溶液担持量は3~5mL/20cmである。
【0022】
本発明のステップ(3)では、上記のP(VDF-TrFE-CFE)フィルムを乾燥させて被膜形成する際の温度を60~80℃に制御することができ、乾燥時間は6~10時間、焼鈍し温度は100~140℃、焼鈍し時間は6~12時間である。
【0023】
本発明のα-ジイミンパラジウム触媒は、好適には、アセトニトリル基α-ジイミンパラジウム触媒1、ホルミル基を含む六員環状α-ジイミンパラジウム触媒2のいずれかであり、両者の構造式は以下の通りである。
【化1】

式中、
【化2】

である。
【0024】
以上の2種類のα-ジイミンパラジウム触媒は、実験室で以下の文献を参照して合成することができる。
[1] Johnson L.K.,Killian C.M.,Brookhart M.J.Am.Chem.Soc.,1995,117,6414;
[2] Johnson L.K.,Mecking S.,Brookhart M.J.Am.Chem.Soc.,1996,118,267.[0028]。
【0025】
従来技術と比較すると、本発明の有益な効果は以下の通りである。
(1)本発明は、特定のハイパーブランチポリエチレングラフト化ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(HBPE@POSS)補助助剤により有機溶媒中で液相剥離を行って窒化ホウ素ナノシートを得るというものであり、それと同時に、ハイパーブランチコポリマーとナノシートの表面の非共有結合の相互作用により、標的ポリマーをナノシート表面に担持させ、表面修飾作用を起こさせることで、ナノシートの表面を官能化し、無機フィラーにポリマー基体内で良好な分散性を持たせることを実現している。
(2)本発明では、HBPE@POSSのハイパーブランチ骨格と官能性末端によって、窒化ホウ素ナノシートに対する官能化改質を実現し、無機フィラーと有機基体の間にコポリマーから成る特殊界面層を構築しており、該界面層の存在により、無機フィラー-窒化ホウ素ナノシートの絶縁性能を十分に発揮させ、高圧下での電気ツリーの成長を有効に抑制して、ポリマーナノ複合フィルムの誘電性能を向上させている。実験結果から、HBPEで官能化されたBNNS/P(VDF-TrFE-CFE)誘電体フィルムに比べて、本発明のHBPE@POSSで官能化されたBNNS/P(VDF-TrFE-CFE)誘電体フィルムは、誘電率を保持すると同時に、誘電損失を引き下げることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、ハイパーブランチコポリマーの合成プロセスにおける実施形態の1つである。
図2図2は、ポリマーナノ複合フィルムの典型的な調製フローチャートである。
図3図3は、窒化ホウ素ナノシート含有量の異なるポリマーナノ複合フィルムの赤外線スペクトル図である。
図4図4は、窒化ホウ素ナノシート含有量の異なるポリマーナノ複合フィルムのXRD曲線図である。
図5図5は、窒化ホウ素ナノシート含有量の異なるポリマーナノ複合フィルムの誘電率である。
図6図6は、窒化ホウ素ナノシート含有量の異なるポリマーナノ複合フィルムの誘電損失である。
図7図7は、異なるポリマーにより官能化された窒化ホウ素を含むポリマーナノ複合フィルムの誘電性能である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、具体的な実施例を挙げて本発明の技術手法についてさらなる説明を行うが、以下の実施例は本発明の保護範囲に対する制限と理解することはできず、当業者が上記の発明の内容に基づいて本発明に対して行う本質的ではない改良及び調整については、引き続き本発明の保護範囲に属するということを説明しておかなければならない。
【0028】
実施例で使用するPOSSモノマーはアメリカのハイブリッドプラスティクス社製のアクリロイソブチルPOSSモノマーであり、その構造は以下の通りである。
【化3】

式中、Rはイソブチル基である。
【0029】
実施例で使用するP(VDF-TrFE-CFE)は、ソルベイ社製の市販品である。
【0030】
実施例1
本発明で述べているHBPE-g-POSS、即ちハイパーブランチポリエチレングラフト化ポリヘドラルオリゴメリックシルセスキオキサン(Hyperbranched polyethylene grafted polyhedral oligomeric silsesquioxane、略称HBPE-g-POSS)は、実験室で合成することができ、合成ステップは以下の通りである。
【0031】
ステップ1:エチレン雰囲気下で、6gのアクリロイソブチルPOSSモノマー(アメリカ ハイブリッドプラスティクス社製)と30mLの無水ジクロロメタンを2層のシュレンクフラスコ内に投入し、10分間撹拌して均一に溶解させる。
【0032】
ステップ2:低温循環器を利用して温度を25℃に制御し、さらに200mgのアセトニトリル基α-ジイミンパラジウム触媒1を、まず10mLの無水ジクロロメタンに溶かし、その後、反応容器に入れる。25℃、1atmのエチレン圧力下で撹拌し、24時間重合を続ける。
【0033】
ステップ3:重合の終了後、反応液を20mLの酸性メタノールに入れ(0.05mol/Lの塩酸を含む)、反応を終了させる。
【0034】
ステップ4:溶媒を除去し、得られた重合生成物を10mLのトルエンに溶かし、メタノール20mLを加えてポリマーを沈殿させ、このプロセスを3回繰り返す。次に、ポリマーを10mLのTHFに溶かし、かつ少量の過酸化水素水と塩酸を加え、30分間撹拌してパラジウム粒子を溶解させ、さらに20mLのメタノールを加えてポリマーを沈殿させ、該ステップを3回繰り返す。60℃で24時間真空乾燥させると、無色透明の粘性のある液状の生成物、即ちHBPE-g-POSSが得られる。
【0035】
本発明の上記窒化ホウ素ナノシートは、実験室での液相剥離によって調製される。調製プロセスは以下の通りである。
【0036】
ステップ1:0.32gのHBPE-g-POSSを計量してガラス瓶に入れ、10mLのクロロホルムを加え、撹拌してコポリマーHBPE-g-POSSが十分に溶解するのを補助した後、さらに0.32gの六方晶窒化ホウ素(h-BN)粉末をガラス瓶に加え、最後に70mLのクロロホルム(h-BNの溶媒中の質量は4mg/mL)を追加し、同時に瓶に蓋をして密閉する。
【0037】
ステップ2:ステップ1で処理した混合液を室温の水浴超音波プールに入れて48時間超音波処理を行う。超音波の出力は240Wを選択する。
【0038】
ステップ3:ステップ2で48時間超音波処理した後の混合液を取り出して遠心管に装入し、4000rpmで30分遠心を行い、主に剥離していない塊状h-BNを除去する。その後、上澄み液、即ち窒化ホウ素ナノシート(BNNS)の分散液を取って保存する。
【0039】
本発明の上記ポリマーナノ複合フィルムBNNS/P(VDF-TrFE-CFE)の調製プロセスは以下の通りである。
【0040】
ステップ1:BNNSの分散液40mLを取り、遠心機の中で7000rpmで30分遠心を行って過剰なHBPE@POSSポリマーを除去し、上澄み液を取り出し、底部生成物を集めて真空乾燥器で恒量になるまで乾燥させたものがBNNSであり、その後DMF(溶媒中のBNNSの質量は1mg/mL)を加え、再び超音波で2時間分散させて使用に備える。
【0041】
ステップ2:200mgのP(VDF-TrFE-CFE)粉末を10mLのDMFに溶かし、十分に溶解するまで磁気撹拌して、澄んで透明な製膜液を形成する。
【0042】
ステップ3:製膜液中に1mg/mLのBNNS分散液1mL(即ち0.5wt%)を加え、十分に撹拌して均一に分散させた後、4mLの製膜液を取って清潔なガラスプレート(4×5cm)上に流し込み、80℃において、溶媒を蒸発させて被膜形成し、8時間乾燥させ、かつ120℃で8時間焼鈍して平らなBNNS/P(VDF-TrFE-CFE)複合フィルムを得る。厚さは20μmである。
【0043】
実施例2~5
実施例1の複合フィルムを調製する際のステップ3で投入するBNNSの量をそれぞれ0wt%(実施例2)、0.1wt%(実施例3)、0.3wt%(実施例4)、0.8wt%(実施例5)に変更し、他の条件は変えずに、窒化ホウ素ナノシート含有量の異なる複合フィルム材料を調製する。
【0044】
比較例1
実施例1との違いは、ハイパーブランチポリマーの合成プロセスにおいて、POSSモノマーを加えずに、ハイパーブランチポリエチレン(HBPE)を合成している点にあり、窒化ホウ素の液相剥離プロセスのステップ2で添加されるポリマーはハイパーブランチポリエチレン(HBPE)である。
【0045】
比較例2
実施例1との違いは、ハイパーブランチポリマーの合成プロセスにおいて、投入するPOSSモノマーをアクリル酸メチル(MA)モノマーに変えて、ハイパーブランチポリエチレングラフト化アクリル酸メチル(HBPE-g-PMA)を合成している点にあり、窒化ホウ素の液相剥離プロセスのステップ2で添加されるポリマーはハイパーブランチポリエチレングラフト化アクリル酸メチル(HBPE-g-PMA)である。
【0046】
ハイパーブランチコポリマーの合成プロセスの概略図は図1の通りである。図2はポリマーナノ複合フィルムの調製フローチャートであり、図3は実施例1~5で調製される窒化ホウ素ナノシート含有量の異なるポリマーナノ複合フィルムの赤外線スペクトル図である。実施例1~5で調製された窒化ホウ素ナノシート含有量が異なるポリマーナノ複合フィルムのXRD曲線図は図4の通りであり、図5及び図6はそれぞれ実施例1~5で調製された窒化ホウ素ナノシート含有量の異なるポリマーナノ複合フィルムの誘電率及び誘電損失である。比較例1~2及び実施例1で調製された、異なるポリマーで官能化された窒化ホウ素を含むポリマーナノ複合フィルムの誘電性能は、図7に示す通りである。
【0047】
特性及び試験
実施例と比較例で得られた複合フィルム材料の表面に1層の厚さ1~3μmの導電性銀層を塗布して電極とする。面積は約1cmで、精密インピーダンスアナライザ(4294A LCR、アジレント社製、USA)を用いてその周波数に関連する電気容量及び損失角をテストする。周波数範囲10~10Hzにおいて、各複合フィルム材料の誘電率と誘電損失を計算する。
【0048】
試験結果の比較と分析
図3から、実施例で調製されたポリマーナノ複合フィルム中のP(VDF-TrFE-CFE)の極性β相の吸収ピークは顕著であり、複合フィルム中に0.5wt%の無機フィラーを加えると、P(VDF-TrFE-CFE)の結晶型のα相からβ相への転移が誘導され、誘電率の向上に有利であることがわかる。また、ポリマーナノ複合フィルム中に、界面層HBPE-g-POSSからのSi-O吸収ピークが現れている。
【0049】
図4からは、実施例で調製したポリマーナノ複合フィルムには明らかな極性β相結晶ピークが存在することがわかり、さらに複合フィルム中に極性の電気的活性化相を有することが証明され、複合フィルムの赤外線の試験結果が裏付けられた。
【0050】
図5からは、同じ周波数では、無機フィラーBNNSの含有量の増加に伴って、ポリマーナノ複合フィルムの誘電率も増加していることがわかる。但し、誘電率の増加には1つのピークが存在しており、無機フィラーの添加量が0.5%wtを超えると、複合フィルムの誘電率に明らかな低下が見られた。これは、無機フィラーBNNSの絶縁性によりキャリヤの移動を有効に阻止し、電荷の集中により誘電体の高磁場での破壊が速く起きすぎるという現象を防止することはできるが、過剰な無機フィラーの添加量が複合フィルムの性能全体に不利となり得ることを表している。
【0051】
図6の誘電損失からは、低周波において、ポリマーナノ複合フィルムの誘電損失角はすべて0.05前後であることがわかり、これは、無機ナノフィラーを加えることにより、高い誘電率を保ちながら、低い誘電損失を維持できることを表している。高周波105~106Hzの間では、ナノフィラーの投入に伴って、複合フィルムの誘電緩和が徐々に弱まり、高周波下での損失が比較的よく抑制されている。
【0052】
図7からは、異なるポリマーを官能化助剤として窒化ホウ素を官能化してからP(VDF-TrFE-CFE)を投入して調製したポリマーナノ複合フィルムは、HBPEを官能化助剤として窒化ホウ素を官能化して得たポリマーナノ複合フィルムやHBPE-g-PMAを官能化助剤として窒化ホウ素を官能化して得たポリマーナノ複合フィルムに比べて相対的により高い誘電率を有していることは観察できるが、誘電損失もそれと同時に増加しており、この種の変化傾向は当業者であれば予測できる。予想外であったのは、HBPE-g-POSSを官能化助剤として窒化ホウ素を官能化して得られたポリマーナノ複合フィルムの誘電率は、HBPEを官能化助剤として窒化ホウ素を官能化して得られたポリマーナノ複合フィルムと非常に近いものの、前者の誘電損失は後者に比べて低く、他の2種類のポリマーよりも優位性があるという点である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【外国語明細書】