(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008999
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】医療用センサ及び校正方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/07 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
A61B5/07 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022107266
(22)【出願日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】21183300
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】510285610
【氏名又は名称】オヴェスコ エンドスコピー アーゲー
【住所又は居所原語表記】FRIEDRICH-MIESCHER-STRASSE 9, 72076 TUEBINGEN, GERMANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン ショステク
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038CC03
4C038CC06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】センサの偽陽性読取のリスクを低減させること。
【解決手段】発光素子(8)と光検出素子(9)とを備えるセンサ装置(6)を備えた医療用カプセル(1)であって、センサ装置(6)は、血液及びビリベルジンの光吸収特性に基づいて血液及び/又はビリベルジンの存在又は非存在を検出するように構成されている医療用カプセル(1)。医療用カプセル(1)は、自身の外面に間隙(5)を形成するケーシング(2)を備える。発光素子(8)は、約380~450nmの波長の紫色光、約530~580nmの波長の緑色光、約620~750nmの波長の赤色光を選択的に発し、光検出素子(9)は、発光素子(8)からの光の少なくともそれぞれの波長範囲の測定光強度Iviolet、Igreen、Iredに関連付けられた別々のセンサ信号を生成する。商Ired/Igreenを評価する。本開示はまた、前記医療用カプセル(1)の校正方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの発光素子と少なくとも1つの光検出素子とを備えるセンサ装置を備える医療用カプセルであって、前記センサ装置は、血液及びビリベルジンの光吸収特性に基づいて血液及び/又はビリベルジンを含む胆汁の存在又は非存在を検出するように構成され、前記医療用カプセルは、自身の外面に、前記少なくとも1つの発光素子と前記少なくとも1つの光検出素子との間に、凹部又は間隙を備える、医療用カプセルにおいて、
前記少なくとも1つの発光素子は、異なる波長範囲の、紫色光、緑色光、及び赤色光を発し、
前記少なくとも1つの光検出素子は、前記少なくとも1つの発光素子からの前記光の前記波長範囲の少なくともそれぞれの測定光強度Iviolet、Igreen、及びIredに関連付けられた別々のセンサ信号を生成し、
前記少なくとも1つのセンサ装置は、前記少なくとも1つの光検出素子へ伝達された前記赤色光の測定強度Iredを前記緑色光の測定強度Igreenで割った商Ired/Igreenを評価することにより、ビリベルジンを含む胆汁の存在から血液の存在を区別する
ことを特徴とする、医療用カプセル。
【請求項2】
前記少なくとも1つの発光素子の前記光は、前記少なくとも1つの対向する発光素子と前記少なくとも1つの光検出素子との間の間隙内の内容物に応じて異なる程度に前記光が吸収、反射、及び/又は透過される、前記間隙を通過する
ことを特徴とする、請求項1に記載の医療用カプセル。
【請求項3】
請求項1に記載の医療用カプセルの校正方法であって、
【数1】
、ここで、Cは補正係数である
と定義される、血液の存在の尤度の測定値HIを特徴とする
校正方法。
【請求項4】
前記補正係数Cは、
前記商Ired/Igreenが所定の閾値Tを上回る場合はC=1であり、
前記商Ired/Igreenが前記所定の閾値Tを下回る場合はC<1である
と定義される
ことを特徴とする、請求項3に記載の校正方法。
【請求項5】
前記補正係数Cは、
前記商Ired/Igreenが所定の閾値Tを上回る場合はC=1であり、
前記商Ired/Igreenが前記所定の閾値Tを下回る場合はC=Ired/Igreen・1/Tである
と定義される
ことを特徴とする、請求項3に記載の校正方法。
【請求項6】
請求項1に記載の医療用カプセルの校正方法であって、
【数2】
、ここでJ
Biliverdinは抑制パラメータである
と定義される、血液の存在の尤度の測定値HIを特徴とする
校正方法。
【請求項7】
前記抑制パラメータJBiliverdinは、
前記商Ired/Igreenが所定の閾値Tを上回る場合はJBiliverdin=0であり、
前記商Ired/Igreenが前記所定の閾値Tを下回る場合はJBiliverdin>0である
と定義される
ことを特徴とする、請求項6に記載の校正方法。
【請求項8】
前記抑制パラメータJBiliverdinは、
前記商Ired/Igreenが経験的評価血液閾値TBloodを上回る場合はJBiliverdin=0であり、
前記商Ired/Igreenが前記閾値TBlood以下である場合はJBiliverdin=mBiliverdin・(TBlood-Ired/Igreen)であり、ここで、mBiliverdinは線形ビリベルジン抑制係数である
と定義される
ことを特徴とする、請求項6に記載の校正方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの発光素子は、平行又は交互に前記紫色光、前記緑色光、及び前記赤色光を発する
ことを特徴とする、請求項1に記載の医療用カプセル。
【請求項10】
前記少なくとも1つの発光素子は、380~450nmの波長の前記紫色光及び/又は530~580nmの波長の前記緑色光及び/又は620~750nmの波長の前記赤色光を発する
ことを特徴とする、請求項1に記載の医療用カプセル。
【請求項11】
前記少なくとも1つの発光素子は、前記それぞれの波長を有する前記光を発する複数のLEDとして、又は前記それぞれの光の前記波長にそれぞれ関連付けられた複数のフィルタを有する単一のLEDとして提供される
ことを特徴とする、請求項1に記載の医療用カプセル。
【請求項12】
丸みを帯びた端部とエッジとを有する円筒形外形を有するケーシングと、複数の電子部品を有する、前記ケーシングの内部に位置付けられた回路基板と、前記センサ装置とを備える、請求項1に記載の医療用カプセル。
【請求項13】
前記凹部又は間隙は前記医療用カプセルの長手軸に対して直角に向けられており、前記凹部又は間隙の幅は前記医療用カプセルの前記長手軸の方向に延びている
ことを特徴とする、請求項12に記載の医療用カプセル。
【請求項14】
前記少なくとも1つの発光素子及び前記少なくとも1つの光検出素子は、前記回路基板の上に配置されている
ことを特徴とする、請求項12に記載の医療用カプセル。
【請求項15】
前記少なくとも1つの発光素子は、前記紫色、緑色、及び赤色光の前記測定光強度に関連付けられた前記別々のセンサ信号として電圧レベルを生成する
ことを特徴とする、請求項1に記載の医療用カプセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血液、特に消化管出血、とビリベルジンを含む胆汁とを検出するとともに両者を互いに区別するように構成されたセンサ装置を備える医療用カプセルに関する。本開示はまた、前記医療用カプセルの校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍又は食道胃静脈瘤からの急性上部消化管出血(GI出血)は、直ちに内視鏡治療を必要とする生命を脅かす医学的状態である。内視鏡的止血に成功しても、再出血のリスクが高く、しばしば、集中治療室などでこれらの患者を注意深く監視する必要がある。出血に気づくのが遅れると、失血が多くなりかねず、死亡のリスクが高くなる。血液と同様の光吸収特性を有するビリベルジンが、特定の肝臓関連状態を有する患者の十二指腸に存在すると、誤った血液検出の読取に繋がることがあり得る。したがって、血液の存在を確実に検出する方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】EP2057934A1
【特許文献2】EP1875858A1
【特許文献3】EP3269298A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者のEP2057934A1及びEP1875858A1は、血液の特徴的な光学的性質を測定することによって胃内の活発な出血を検出するために、光源と検出素子との間に測定間隙を有する嚥下可能なセンサを開示している。EP3269298A1は、中空臓器内に固定される別の血液検出装置を開示している。具体的には、波長380nm~450nm(好ましくは415nm)の紫色光の範囲における高い吸収と波長620nm~750nm(好ましくは700nm)の赤色光の低い吸収とが組み合わさって、血液の特徴的な光学的性質が構成される。紫色光の透過は、血液試料の光学濃度にもよるが、赤色光の透過よりも最大で3桁低い。赤色光の測定された強度(以下、「測定強度」という)を紫色光の測定強度で割った商を計算することにより、センサの測定間隙における血液の存在を予測するための指標値が提供される。換言すると、紫色光の測定強度が低くなり商が大きくなると、血液の濃度が高くなる。体外受信機との遠隔測定通信により、出血状態についての情報が送信され、表示され得る。
【0005】
光センサは、血液と胆汁との区別が可能となるように設計され得る。胆汁は、血液と同様の光学特性を有するが、非常に目立たない着色剤として、ビリルビンを含む。臨床使用では、胆汁はしばしば十二指腸に高濃度で存在するため、光センサが消化管を通過する途中で十二指腸を当然通過するため、センサが胆汁にさらされる可能性は非常に高い。
【0006】
ビリルビンは、血液の必須部分であるヘム分子の生成物であり、血液の検出のためにこの光センサによって利用される光学特性を担っている。血液と胆汁との区別は、例えば、赤色光の透過と紫色光の透過の商が比較される閾値によって、達成され得る。
【0007】
特定の肝臓関連状態(例えば肝硬変)を有する患者では、胆汁を生成するのに欠かせない化学反応が妨げられる可能性がある。特に、ヘムからビリルビンへの変換プロセスが妨害され、結果として、この反応連鎖の中間生成物としてビリベルジンが存在する場合がある。ビリベルジンは、ビリルビンと同様に胆汁中の着色剤として分類される。そのような場合、胆汁液内の着色剤の組成、したがって、その光吸収特性が、変化する。特に、ビリベルジンは、ビリルビンよりも、415nm付近の波長を有する紫色光の高い吸収を示し(ただし、ヘムよりはずっと少ない)、紫色光の透過強度が低くなる。したがって、ビリベルジンが存在すると、赤色光の測定強度を紫色光の測定強度で割った商が、血液が(低濃度で)存在する場合の商に匹敵する値まで増加し、これは、GI出血の疑いのある患者に光センサを適用する際に、ユーザーによって偽陽性として解釈される可能性がある。実験では、患者におけるビリベルジンの濃度は、ある状況下で、稀に、測定されたセンサ値が血液の存在(偽陽性読取)を誤って示唆し得る、異常に高い濃度レベルに到達し得ることが、観察されている。
【0008】
したがって、開示されたセンサの目的は、その検出能力を改善し、特に、赤色光の測定強度を紫色光の測定強度で割った商が血液の存在の指標に近いか又は該指標の範囲内にある場合に、血液の存在とビリベルジンを含む胆汁の存在とを区別できるようにして、結果として、センサの偽陽性読取のリスクを低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した開示されたセンサの目的は、請求項1に記載の医療用カプセルと、請求項4及び7に記載の該医療用カプセルの校正方法とで達成される。本開示の更なる有利な展開及び実施形態は、従属請求項の主題である。
【0010】
本開示に係る医療用カプセルは、少なくとも1つの発光素子と少なくとも1つの感光/受光/光検出素子とを含むセンサ装置を備え、センサ装置は、血液及びビリベルジンの光吸収特性に基づいて血液及び/又はビリベルジンの存在又は非存在を検出するよう構成されている。医療用カプセルは、自身の外面に、凹部/間隙を形成するケーシング/シェルを備える。あるいは、医療用カプセルの外面は、2つの凹部/間隙を備える。少なくとも1つの発光素子、好ましくは少なくとも1つのLEDは、選択的に/交互に又は平行に、(好ましくは単色の)(それぞれ)、好ましくは約380~450nmの波長の紫色光、好ましくは約530~580nmの波長の緑色光、及び好ましくは約620~750nmの波長の赤色光を発する。一方で、少なくとも1つの光検出素子は、発光素子からの光の波長範囲の少なくともそれぞれの測定光強度Iviolet、Igreen、及びIredに関連付けられた別々のセンサ信号を生成する。
【0011】
換言すれば、本開示に係る医療用カプセルのセンサ装置の少なくとも1つの発光素子は、約530~580nm(好ましくは570nm)の第3の波長の(好ましくは単色の)緑色光を発することができる。発光素子に対向する、凹部の他方側に配置された、センサ装置の少なくとも1つの光検出素子は、好ましくは、少なくとも1つの発光素子によって選択的に発せられる光の全ての範囲に感応するように設計され、医療用カプセル表面に位置する測定間隙を光が通過した後、それぞれ、紫色光、緑色光、及び赤色光の測定光強度に関連付けられた別々のセンサ信号を生成する。
【0012】
本開示に係る医療用カプセルの少なくとも1つの発光素子の光は、少なくとも1つの発光素子と少なくとも1つの光検出素子との間の間隙内の内容物/物質に応じて異なる程度に該光が吸収、反射、及び/又は透過される、センサ間隙を通過する。好ましくは、少なくとも1つの発光素子は、紫色光、緑色光、及び赤色光の測定光強度に関連付けられた別々のセンサ信号として電圧レベルを生成する。
【0013】
好ましくは単色の光は、それぞれのLED又はフィルタの使用に一般的に関連付けられたスペクトル半値幅を有する、本質的に単色の光である。単色光は、(例えば、カラーLEDを使用する場合)発光素子によって、又は発光素子と光検出器/光検出素子との間にフィルタを適用することによって、生成することができる。そのようなフィルタは、凹部のいずれかの側に位置付けることができる。換言すれば、医療用カプセルの少なくとも1つの発光素子は、それぞれの波長を有する光を発する複数のLEDとして提供される。あるいは、少なくとも1つの発光素子は、それぞれの光の波長にそれぞれ関連付けられた複数のフィルタを有する単一のLEDとして提供される。
【0014】
血液の吸収特性とビリベルジンを含む胆汁の吸収特性は、可視スペクトルの紫色及び赤色の範囲の光については類似している(ただし、差異は認められる)が、530~590nmの範囲の緑色光については異なり、この緑色光の範囲では、ビリベルジンを含む胆汁は90%の範囲の透過率を示し、一方で、血液は高度の吸収を示す。具体的には、高濃度のビリベルジンを含む未希釈の胆汁では、非常に低濃度の血液と同じか非常に類似した、赤色光の測定強度を紫色光の測定強度で割った、商Ired/Ivioletになり得る。したがって、医療用カプセルの少なくとも1つの発光素子から発せられる第3の出力として、530~590nmの範囲の波長を有する緑色光を導入して、高濃度のビリベルジンを含む未希釈の胆汁が存在する場合の赤色光の測定強度を紫色光の測定強度で割った商と、高希釈の血液が存在する場合の赤色光の測定強度を紫色光の測定強度で割った商とを見分けることができるように(ビリベルジンの存在を低濃度の血液の存在と間違えないように)する。
【0015】
本発明の一態様によれば、医療用カプセルのセンサ装置は、少なくとも1つの光検出素子へ伝達された赤色光の測定強度Iredを緑色光の測定強度Igreenで割った商Ired/Igreenを評価することにより、ビリベルジンを含む胆汁の存在から血液の存在を区別する。
【0016】
換言すれば、医療用カプセルの少なくとも1つの光検出素子によって測定された赤色光の強度を緑色光の強度で割った、新たに導入された商Ired/Igreenを使用して、Ired/Igreenの値が経験的評価閾値を上回る場合は、赤色光の測定強度を紫色光の測定強度で割った商Ired/Ivioletに対する感度を下げる。血液の濃度が増加するにつれ、赤色光の測定強度を緑色光の測定強度で割った商Ired/Igreenは、商Ired/Ivioletと同様に著しく上昇するが、ビリベルジンを含む胆汁が存在する場合にはほとんど変化しない。この理由は、ビリベルジンを含む胆汁は緑色光の吸収が低く、したがって、光検出素子によって測定される緑色光Igreenが高強度となるからである。
【0017】
第1の実施形態に係る医療用カプセルの測定プロセスを校正するために、血液の存在の尤度の測定値HIは、
【数1】
、ここでCは補正係数である、と定義される。
【0018】
商に対数関数を適用するのは、対数軸ではなく線形軸でグラフに表示できる指標値を生成するためである。これにより、ユーザーは容易に解釈でき、したがって、システムの有用性が高められる。係数0.5は任意の値である。
【0019】
医療用カプセルのこの第1の実施形態によれば、ビリベルジンを含む胆汁の存在の可能性を考慮するために、赤色光の測定強度を紫色光の測定強度で割ったものから計算される現在の臨床使用における測定値
【数2】
に、補正係数Cが乗算される。一般に、値HIは、商I
red/I
violetが増加するにつれて増加する。つまり、HI値が高いほど、医療用カプセルの測定間隙に血液が存在する可能性が高くなる。
【0020】
本発明の第1の実施形態による測定値HIの補正係数Cは、商Ired/Igreenが所定の閾値Tを上回る場合はC=1と定義され、商Ired/Igreenが閾値Tを下回る場合はC<1と定義される。C=1という補正係数により、医療用カプセルの測定間隙において血液が検出された際、商Ired/Igreenが特定の閾値Tを上回るときは、HIの値は変わらない。C=1という値は、第1の実施形態のこのシナリオのために選択されたが、補正係数Cはまた、異なる値に設定されてもよいことに、留意されたい。商Ired/Igreenが閾値Tを下回る場合、より低い補正係数Cが好ましく(商Ired/Igreenが特定の閾値Tを上回る場合よりも低い)、したがって、測定値HIは小さくなる。これにより、医療用カプセルの測定間隙にビリベルジンを含む胆汁が存在する場合、血液の存在を誤って示すことが防止される。
【0021】
本発明の第1の実施形態の好ましい変形例における補正係数Cは、商Ired/Igreenが所定の閾値Tを上回る場合はC=1と定義され、商Ired/Igreenが所定の閾値Tを下回る場合はC=Ired/Igreen・1/Tと定義される。
【0022】
これは、第1の実施形態のこの好ましい変形例では、補正係数Cは商Ired/Igreenと閾値Tとの関数であることを意味する。これにより、商Ired/Igreenの値が所定の閾値の前後を行き来している場合に、補正係数Cが2つの一定値の間で連続的に変化している場合、HI値がジャンプすること防止することができる。そうではなく、補正係数Cは、商Ired/Igreenと閾値Tとの差/距離に応じて低減される。商Ired/Igreenが閾値Tと本質的に同じである場合は、補正係数Cは本質的に1であり、一方で、商Ired/Igreenが閾値Tを下回れば下回るほど、補正係数Cは低くなる。別の注意点として、第1の実施形態のこの変形例では、一定の係数との乗算、又は商Ired/Igreenが特定の閾値を下回る又は上回ることに応じて補正係数を低減する効果を排除しない他の任意の数学的操作が可能であり、閾値Tは一定であるか、又は明示的に言及していない他の要素に依存することができる。
【0023】
第2の実施形態に係る医療用カプセルの測定プロセスを校正するために、血液の存在の尤度の測定値HIは、
【数3】
、ここで、J
Biliverdinは抑制パラメータである、と定義される。
【0024】
第1の実施形態と比較してこの第2の実施形態の特に有利な点は、校正を含む商を、対数関数を使用せずに組み込みシステム内で計算できるため、処理能力の限られた組み込みシステム(例えば、8ビットマイクロコントローラ)における実装がより容易であることである。
【0025】
医療用カプセルのこの第2の実施形態によれば、ビリベルジンを含む胆汁の存在の可能性を考慮するために、現在の臨床使用における測定値
【数4】
が、商の分母に抑制加算値J
Biliverdinを含めることにより調整されている。本発明の第1の実施形態における校正方法と同様に、より高いHI値は、医療用カプセルの測定間隙に血液が存在する可能性がより高いことを意味する。
【0026】
第2の実施形態に係る測定値HIにおける加算抑制パラメータJBiliverdinは、商Ired/Igreenが閾値Tを上回る場合はJBiliverdin=0と定義され、商Ired/Igreenが閾値Tを下回る場合はJBiliverdin>0と定義される。商Ired/Igreenが特定の閾値Tを上回る場合は抑制パラメータJBiliverdinを0と定義することにより、医療用カプセルの測定間隙内に血液が検出された際に、HI値が変わらない。また、この場合は加算抑制パラメータJBiliverdinが0と定義されたとしても、加算抑制パラメータは異なる値であってもよい。同時に、商Ired/Igreenが閾値Tを下回る場合は測定値HIは減少する。なぜなら、この場合、抑制パラメータJBiliverdinは0より大きいからである。
【0027】
この加算抑制パラメータをHI値計算における商の分母に埋め込むことにより、商Ired/Igreenが閾値Tを下回る場合に、医療用カプセルの測定間隙に血液が存在するという偽陽性読取を防止することができ、結果として、血液の検出をより確実なものにすることができる。
【0028】
本発明の第2の実施形態の好ましい変形例における加算抑制パラメータJ
Biliverdinは、商I
red/I
greenが経験的評価血液閾値T
Bloodを上回る場合はJ
Biliverdin=0と定義され、商I
red/I
greenが経験的評価血液閾値T
Blood以下である場合は、
【数5】
であり、ここで、m
Biliverdinは線形ビリベルジン抑制係数である、と定義される。
【0029】
第2の実施形態のこの好ましい変形例によれば、TBloodは、商Ired/Igreenによってビリベルジンから血液を、及びその逆を、区別するために用いられる経験的に評価された/任意の血液閾値であり、mBiliverdinは、ビリベルジンを含む胆汁が存在する場合、抑制パラメータに関連する線形減衰係数として任意に選択できる線形ビリベルジン抑制係数である。
【0030】
抑制パラメータJBiliverdinが商Ired/Ivioletの分母における加算パラメータであるこの第2の実施形態の明確な利点は、主に、調整された商Ired/Ivioletを用いることにより測定値HIとの互換性があることと、医療用カプセルの測定間隙に血液が存在する場合に、変更しないHI値を用いることである。これは、血液閾値TBloodに基づく商Ired/Igreenの場合分けを利用することによって達成され、商Ired/Igreenがこの閾値を上回る場合に生じる。第2の実施形態の好ましい変形例の一利点は、ビリベルジンを含む胆汁が存在する場合、つまり商Ired/Igreenが血液閾値TBlood以下である場合に、線形ビリベルジン抑制係数mBiliverdinを導入することにより、測定値HIの抑制に対する商Ired/Igreenの影響を線形抑制係数mBiliverdinによって調整できることである。値が大きいほど抑制効果が大きく、したがって、ビリベルジンを含む胆汁が存在する場合に商Ired/Igreenの値が閾値TBloodに近い場合に、より高い抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
以下において、本開示を、添付の図面によってより詳細に説明する。図は、概略的にのみ示しており、本開示を理解するためだけのものである。
【
図1】
図1は、本開示に係る血液及び/又はビリベルジンを含む胆汁の検出のための医療用カプセルの模式図である。
【
図2】
図2は、水に対する血液の様々な比率における、異なる波長の光に対する透過分光を示す図である。
【
図3】
図3は、水に対するビリベルジンを含む胆汁の様々な比率における、異なる波長の光に対する透過分光法を示す図である。
【
図4】
図4は、異なる濃度の血液と、ビリベルジンを含む異なる濃度の胆汁とにおける商I
red/I
greenを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、本開示による医療用カプセル1の正面図を示す。医療用カプセル1は、嚥下プロセスをより容易にするために、丸みを帯びた端部とエッジとを有するほぼ円筒形外形を有する、好ましくは樹脂材料からなる、光透過性(light transmitting/permeable)ケーシング2を備える。複数の電子部品(明示的に示されていない)、例えば、データメモリ及び/又はデータ送信部材、CPU、並びに、バッテリのようなエネルギー源など、を有する回路基板4が、医療用カプセル1のケーシング2の内部に位置付けられている。ケーシング2は、自身の外面において医療用カプセル1の長手軸に対してほぼ直角に向けられている長尺の凹部又は間隙5を有し、一方で、間隙5の幅は医療用カプセル1の長手方向に延びている。
図1を参照して、回路基板4の上には、少なくとも1つの発光素子8と少なくとも1つの光検出素子9とを備えるセンサ装置6が位置付けられている。発光素子8と光検出素子9は、各素子8,9がそれぞれケーシング2内の間隙5の一方側に位置するとともに互いに対向するように、配置されている。発光素子8は、医療用カプセル1の長手方向に沿って間隙5を通して、(それぞれ)視紫(約415nm)、緑色(約570nm)、赤色(約700nm)の範囲の(好ましくは単色の)光を発し、この光は、発光素子8とは反対側の間隙5の幅方向に見たとき、間隙5の他方側に位置付けられた光検出素子9によって検出される。
【0033】
図2は、様々な、水に対する血液の比率(blood to water ratio、以下、「水対血液比率」という)について、光検出素子9によって受光される異なる波長の光に対する透過分光の図を示す。浄水での透過のパーセンテージ値を100%として、浄水を介した透過の値と比較した、血液溶液を介した透過の値のパーセンテージ値が縦軸によって示され、横軸は350nm~800nmの範囲の光の異なる波長を示している。図中の追加の縦線は、好ましくは発光素子8が発する視紫(415nm)、緑色(570nm)、赤色(700nm)の光の特徴的波長を強調している。
図2の図は、3つの具体的な水対血液比率、すなわち、0.1%(一点短鎖線)、1%(破線)、5%(実線)、の血液溶液の3つのグラフを示す。血液を含む溶液は、380nm~450nmの範囲の波長を有する紫色光をより多く吸収するため、該光の透過の値が低くなり、したがって、光検出素子9によって検出される測定強度I
violetが低くなる。0.1%という低い水対血液比率を有する血液溶液であっても、顕著な紫色光の吸収がわかる。
図2の一点短鎖線の最小値は、光の最大吸収が紫色光の特徴的波長415nmで生じることを示しており、これは透過率が27%程度となることを表している。波長を長くすると、透過率は95%程度の値まで上昇し、緑色光の波長範囲(530nm~580nm)に到達すると、85%程度まで2度低下する。更に波長を長くすると、透過率はほぼ100%に跳ね上がり、波長600nm以上ではこのレベルに留まる。つまり、620nm~750nmの範囲の波長を有する赤色光は、0.1%の水対血液比率を有する血液溶液によって、ほとんど吸収されていない。
【0034】
同様の光の透過/吸収特性が、1%及び5%の水対血液比率を有する血液溶液を表す曲線に認められる。両曲線とも、上述の一点短鎖線の行程と比較すると、水対血液比率を増加させることによって、負のy方向にシフトしている。1%(破線)の水対血液比率を有する溶液は、それぞれ415nmと570nmの特徴的波長範囲において、紫色光ではほぼ0%の透過率を、緑色光では35%程度の透過率を示しており、一方で、約95%の赤色光が該血液溶液を透過している。5%(実線)の水対血液比率を有する溶液は、それぞれ415nmと570nmの波長範囲において、紫色光ではほぼ0%の透過率を、緑色光では0%~5%の透過率を示しており、一方で、約80%の赤色光が透過している。換言すれば、5%の水対血液比率を有する血液溶液によって、赤色光は20%しか吸収されないが、緑色光は95%程度吸収されている。
【0035】
図3は、ビリベルジンが存在する、様々な、水に対する胆汁の比率(bile to water ratio、以下、「水対胆汁比率」という)について、光検出素子9によって受光される異なる波長の光に対する透過分光の類似の図を示す。
図2の血液溶液の透過分光に対応して、浄水での透過のパーセンテージ値を100%として、浄水を介した透過の値と比較した、胆汁溶液を介した透過の値のパーセンテージ値が縦軸によって示され、横軸は350nm~800nmの範囲の光の異なる波長を示している。
図3の図は、3つの具体的な水対胆汁比率、すなわち、6.25%(一点短鎖線)、25%(破線)、100%(実線)、を有する、ビリベルジンを含む胆汁溶液のグラフを示す。ビリベルジン含有胆汁溶液の3つのグラフは全て、380nm~450nmの範囲の波長を有する紫色光について、透過率の顕著な低下を示している。100%、25%、6.25%の水対胆汁比率を有する上記胆汁溶液では、光の透過率の最小値は、それぞれ、10%程度、57%程度、87%程度である。水対胆汁比率が高いほど、より多く光が吸収されている。波長が長くなると、すなわち、紫色光の波長範囲を離れると、光透過率は高くなり、3つの胆汁溶液全てにおいて、それぞれのグラフは、525nm程度の波長で平坦になり始める。
図3のグラフから、血液を含む溶液とは逆に、赤色光だけでなく緑色光の大部分も、ビリベルジンを含む胆汁を有する溶液によって吸収されないことがわかる。実線で表される、ビリベルジンを有する純粋な胆汁は、緑色光の約90%、赤色光の約95%透過し、一方で、ビリベルジンを含む希釈胆汁を有する溶液は、緑色光及び赤色光をほぼ全く吸収しない。
【0036】
図4は、赤色光の測定強度を緑色光の測定強度で割った値I
red/I
greenを、血液の濃度とビリベルジンを含む胆汁の濃度とについて描いた対数図である。医療用カプセル1の測定間隙5において吸収が生じない場合、赤色光と緑色光の測定強度信号は本質的に等しいと想定され、したがって、医療用カプセル1の測定間隙5が空の場合、商I
red/I
greenは本質的に1である。ビリベルジンを含む胆汁による緑色光の吸収が低いため、ビリベルジンを含む胆汁の全ての濃度において、商I
red/I
greenは常に低い(1程度、最大で約2)(
図4の黒四角で示す線を参照)。他方、血液の濃度が高くなると、商I
red/I
greenは、血液の存在とともに著しく上昇する(白丸で示す線を参照)。
【0037】
可視緑色光の範囲の光の透過及び/又は吸収値は、ビリベルジンを含む胆汁と血液とで大きく異なるので、赤色光の測定強度を緑色光の測定強度で割った上述の値Ired/Igreenは、ビリベルジンと血液とを区別する特徴としてこれらの特性を利用して、ビリベルジンを含む胆汁の存在から血液の存在を区別し、それによって血液を偽陽性検出するリスクを回避するための、確実な手段である。
【外国語明細書】