(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000009
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】工作機械のための振動切削条件設定装置
(51)【国際特許分類】
B23B 1/00 20060101AFI20221222BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20221222BHJP
G05B 19/409 20060101ALI20221222BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20221222BHJP
G05B 19/4063 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
B23B1/00 A
B23Q17/00 D
G05B19/409 C
G05B19/4093 M
G05B19/4063 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100567
(22)【出願日】2021-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(74)【代理人】
【識別番号】100126077
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 亮平
(72)【発明者】
【氏名】梅原 望
(72)【発明者】
【氏名】加茂 正太郎
【テーマコード(参考)】
3C029
3C045
3C269
【Fターム(参考)】
3C029FF06
3C045AA01
3C045AA10
3C269AB02
3C269AB31
3C269BB07
3C269CC02
3C269CC17
3C269GG02
3C269KK08
3C269QC01
3C269QC03
3C269QD02
3C269QE15
3C269QE17
3C269QE22
3C269QE26
(57)【要約】
【課題】振動切削のための工具の選定やパラメーターの設定を容易にさせる振動切削条件設定装置を提供する。
【解決手段】工作機械1のための振動切削条件設定装置3は、表示部U3及び制御部U4を備える。制御部U4は、振動を伴うように駆動対象の送り移動を制御するための設定として、駆動対象の非振動時の送り速度(F)、振動の周期に関する第一パラメーター(A)、及び、振動の振幅に関する第二パラメーター(E)を受け付ける。当該制御部U4は、駆動対象の非振動時の送り速度(F)、第一パラメーター(A)、及び、第二パラメーター(E)に基づいて、駆動対象の最大送り速度(Fmax)を求め、求めた最大送り速度(Fmax)を表す値を表示部U3に表示する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを把持する主軸を回転させる回転駆動部と、前記ワークを切削する工具と前記主軸の少なくとも一方の駆動対象を移動させる送り駆動部と、を備え、前記ワークの切削時に切削方向に沿って前記工具が前記ワークに向かう前進動作と該前進動作とは反対方向の後退動作とを含む振動を伴うように前記駆動対象の送り移動を制御する工作機械のための振動切削条件設定装置であって、
表示部と、
前記振動を伴うように前記駆動対象の送り移動を制御するための設定として、前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)、前記振動の周期に関する第一パラメーター(A)、及び、前記振動の振幅に関する第二パラメーター(E)を受け付ける制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)、前記第一パラメーター(A)、及び、前記第二パラメーター(E)に基づいて、前記駆動対象の最大送り速度(Fmax)を求め、
求めた前記最大送り速度(Fmax)を表す値を前記表示部に表示する、工作機械のための振動切削条件設定装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記表示部に表示されている前記最大送り速度(Fmax)を変更する操作を受け付け、
変更された前記最大送り速度(Fmax)、前記第一パラメーター(A)、及び、前記第二パラメーター(E)に基づいて、前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)を変更し、
変更した前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)を表す値を前記表示部に表示する、請求項1に記載の工作機械のための振動切削条件設定装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記表示部に表示されている前記最大送り速度(Fmax)を変更する操作を受け付け、
変更された前記最大送り速度(Fmax)、前記第一パラメーター(A)、及び、前記第二パラメーター(E)に基づいて、変更された前記最大送り速度(Fmax)において前記振動を伴う前記駆動対象の送り移動にかかる切削時間(CT)を求め、
求めた前記切削時間(CT)を表す値を前記表示部に表示する、請求項1又は請求項2に記載の工作機械のための振動切削条件設定装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記振動を伴う前記駆動対象の送り移動にかかる切削時間(CT)を変更する操作を受け付け、
変更された前記切削時間(CT)に基づいて、前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)と、前記最大送り速度(Fmax)と、の少なくとも一方の送り速度パラメーターを変更し、
変更した前記送り速度パラメーターを表す値を前記表示部に表示する、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の工作機械のための振動切削条件設定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸に把持されているワークを工具で切削する工作機械のための振動切削条件設定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械として、ワークを把持する主軸を備えるNC(数値制御)自動旋盤が知られている。主軸とともに回転するワークから生じる切屑が長くなると、切屑が切削工具に巻き付く等によりワークの連続加工に影響する可能性がある。そこで、工具をワークに向けて前進させる前進動作とワークから遠ざける後退動作とを交互に繰り返しながら工具を送ることにより切屑を分断する振動切削が行われている。切屑は、切粉とも呼ばれる。切屑の分断状況は、主軸の位相、振動の振幅、前進動作時の送り速度、及び、後退動作時の送り速度によって変化する。オペレーターは、これらのパラメーターをNC自動旋盤に設定することによりNC自動旋盤に振動切削を実行させている。
【0003】
特許文献1に開示された加工システムは、一定時間間隔の送り軸の時系列の位置情報から該位置情報の時間による変化を表す第一波形データを生成し、該第一波形データを主軸の一回転あたりの時間ごとに部分波形データに分割し、各々の部分波形データを第一波形データの開始点に合わせるように時間軸方向に順次シフトすることにより複数の第二波形データを生成して表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
切削工具には、欠けや溶着等を防ぐため、推奨される切削条件として送り速度等の上限が設定されている。ここで、振動切削時の送り制御として、工具の非振動時の送り速度、振動の周期に関する周期パラメーター、及び、振動の振幅に関する振幅パラメーターに基づいて振動を伴うように工具の送り移動を制御することが考えられる。この場合、オペレーターは、前進動作時の最大送り速度が分からないため、工具を適切に選定することができず、振動切削のためのパラメーターを適切に設定することができない。
尚、上述のような課題は、旋盤に限らず、マシニングセンター等、種々の工作機械に存在する。
【0006】
本発明は、振動切削のための工具の選定やパラメーターの設定を容易にさせる振動切削条件設定装置を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の工作機械のための振動切削条件設定装置は、ワークを把持する主軸を回転させる回転駆動部と、前記ワークを切削する工具と前記主軸の少なくとも一方の駆動対象を移動させる送り駆動部と、を備え、前記ワークの切削時に切削方向に沿って前記工具が前記ワークに向かう前進動作と該前進動作とは反対方向の後退動作とを含む振動を伴うように前記駆動対象の送り移動を制御する工作機械のための振動切削条件設定装置であって、
表示部と、
前記振動を伴うように前記駆動対象の送り移動を制御するための設定として、前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)、前記振動の周期に関する第一パラメーター(A)、及び、前記振動の振幅に関する第二パラメーター(E)を受け付ける制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)、前記第一パラメーター(A)、及び、前記第二パラメーター(E)に基づいて、前記駆動対象の最大送り速度(Fmax)を求め、
求めた前記最大送り速度(Fmax)を表す値を前記表示部に表示する、態様を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、振動切削のための工具の選定やパラメーターの設定を容易にさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】工作機械の電気回路の構成例を模式的に示すブロック図である。
【
図3】切屑長係数A1が2である場合において主軸回転角度に対する工具位置の例を模式的に示す図である。
【
図4】切屑長係数A1が2である場合において主軸位相に対する工具位置の例を模式的に示す図である。
【
図5】切屑長係数A1が3である場合において主軸回転角度に対する工具位置の例を模式的に示す図である。
【
図6】振動送りコマンドに基づいて工具の送り移動時の位置を制御する例を模式的に示す図である。
【
図7】切屑長係数A1が2/3である場合において主軸回転角度に対する工具位置の例を模式的に示す図である。
【
図8】切屑長係数A1が2/3である場合において主軸位相に対する工具位置の例を模式的に示す図である。
【
図9】振動送りコマンドCM1の設定画面の例を模式的に示す図である。
【
図10】情報テーブルの構造の例を模式的に示す図である。
【
図11】最大送り速度Fmaxの変更を受け付ける例を模式的に示す図である。
【
図12】振動送りコマンドCM2の設定画面の例を模式的に示す図である。
【
図13】主軸回転角度に対する工具位置の別の例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0011】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、
図1~13に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
【0012】
[態様1]
図1,2に例示するように、本技術の一態様に係る工作機械1は、ワークW1を把持する主軸11を回転させる回転駆動部U1、及び、前記ワークW1を切削する工具TO1と前記主軸11の少なくとも一方の駆動対象(例えば工具TO1)を移動させる送り駆動部U2を備える。当該工作機械1は、前記ワークW1の切削時に切削方向(例えば送り軸F1)に沿って前記工具TO1が前記ワークW1に向かう前進動作M1と該前進動作M1とは反対方向の後退動作M2とを含む振動を伴うように前記駆動対象の送り移動を制御する。
上記工作機械1のための振動切削条件設定装置3は、表示部U3及び制御部U4を備える。前記制御部U4は、前記振動を伴うように前記駆動対象の送り移動を制御するための設定として、前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)、前記振動の周期に関する第一パラメーター(A)、及び、前記振動の振幅に関する第二パラメーター(E)を受け付ける。当該制御部U4は、前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)、前記第一パラメーター(A)、及び、前記第二パラメーター(E)に基づいて、前記駆動対象の最大送り速度(Fmax)を求め、求めた前記最大送り速度(Fmax)を表す値を前記表示部U3に表示する。
【0013】
以上より、受け付けられる設定では分からない最大送り速度(Fmax)を表す値が表示されるので、オペレーターは、最大送り速度(Fmax)を表す値を見ることにより、振動切削のための工具TO1を容易に選定することができ、振動切削のためのパラメーターを容易に設定することができる。従って、上記態様1は、振動切削のための工具の選定やパラメーターの設定を容易にさせる振動切削条件設定装置を提供することができる。
【0014】
ここで、工作機械には、旋盤、マシニングセンター、等が含まれる。
送り駆動部は、ワークを移動させずに工具を切削方向に沿って移動させてもよいし、工具を移動させずにワークを切削方向に沿って移動させてもよいし、工具とワークの両方を切削方向に沿って移動させてもよい。
振動の周期に関する第一パラメーター(A)は、周期に関係したパラメーターであればよく、周期そのものに限定されない。第一パラメーター(A)には、切屑長係数A1、周期A2、等が含まれる。
振動の振幅に関する第二パラメーター(E)は、振幅に関係したパラメーターであればよく、振幅そのものに限定されない。第二パラメーター(E)には、後退量E1、振幅E2、等が含まれる。
最大送り速度を表す値は、mm/rev単位の値に限定されず、通常切削送り速度に対する最大送り速度の比、通常切削送り速度と最大送り速度との差、等の換算値でもよい。
上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0015】
[態様2]
図11に例示するように、前記制御部U4は、前記表示部U3に表示されている前記最大送り速度(Fmax)を変更する操作を受け付けてもよい。当該制御部U4は、変更された前記最大送り速度(Fmax)、前記第一パラメーター(A)、及び、前記第二パラメーター(E)に基づいて、前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)を変更してもよく、変更した前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)を表す値を前記表示部U3に表示してもよい。本態様は、切削工具等に合わせて最大送り速度(Fmax)を変更することができるうえ、駆動対象の非振動時の変更された送り速度(F)を確認することができるので、駆動対象の非振動時の送り速度(F)の設定が容易となる。
ここで、駆動対象の非振動時の送り速度を表す値は、mm/rev単位の値に限定されず、変更前の駆動対象の非振動時の送り速度に対する変更後の駆動対象の非振動時の送り速度の比、変更前の駆動対象の非振動時の送り速度と変更後の駆動対象の非振動時の送り速度との差、等の換算値でもよい。この付言は、以下の態様においても適用される。
【0016】
[態様3]
図11に例示するように、前記制御部U4は、変更された前記最大送り速度(Fmax)、前記第一パラメーター(A)、及び、前記第二パラメーター(E)に基づいて、変更された前記最大送り速度(Fmax)において前記振動を伴う前記駆動対象の送り移動にかかる切削時間(CT)を求めてもよく、求めた前記切削時間(CT)を表す値を前記表示部U3に表示してもよい。本態様は、切削工具等に合わせて最大送り速度(Fmax)を変更することができるうえ、変更された最大送り速度(Fmax)における切削時間(CT)を確認することができる。
ここで、切削時間を表す値は、min単位の値に限定されず、変更前の切削時間に対する変更後の切削時間の比、変更前の切削時間と変更後の切削時間との差、等の換算値でもよい。この付言は、以下の態様においても適用される。
【0017】
[態様4]
前記制御部U4は、前記振動を伴う前記駆動対象の送り移動にかかる切削時間(CT)を変更する操作を受け付けてもよい。当該制御部U4は、変更された前記切削時間(CT)に基づいて、前記駆動対象の非振動時の送り速度(F)と、前記最大送り速度(Fmax)と、の少なくとも一方の送り速度パラメーターを変更してもよく、変更した前記送り速度パラメーターを表す値を前記表示部U3に表示してもよい。本態様は、切削時間(CT)の変更により変化する送り速度パラメーターを確認することができるので、振動切削のためのパラメーターの設定が容易となる。
【0018】
(2)工作機械の構成の具体例:
図1は、工作機械1の例として旋盤の構成を外部のコンピューター100の構成とともに模式的に例示している。
図1に示す工作機械1は、ワークW1の加工の数値制御を行うNC(数値制御)装置70を備えるNC自動旋盤である。工作機械1においてコンピューター100は必須の要素ではないため、工作機械1にコンピューター100が接続されないことがある。本具体例において、工作機械1は振動切削条件設定装置3を含んでいる。
【0019】
工作機械1は、把持部12を有する主軸11が組み込まれている主軸台10、主軸台駆動部14、刃物台20、該刃物台20の送り駆動部U2、NC装置70、等を工作機械1に備えるNC工作機械である。ここで、主軸台10は、正面主軸台10Aと、対向主軸台とも呼ばれる背面主軸台10Bとを総称している。正面主軸台10Aには、コレット等といった把持部12Aを有する正面主軸11Aが組み込まれている。背面主軸台10Bには、コレット等といった把持部12Bを有する背面主軸11Bが組み込まれている。主軸11は、正面主軸11Aと、対向主軸とも呼ばれる背面主軸11Bとを総称している。把持部12は、把持部12Aと把持部12Bを総称している。主軸台駆動部14は、正面主軸台10Aを移動させる正面主軸台駆動部14Aと、背面主軸台10Bを移動させる背面主軸台駆動部14Bとを総称している。主軸11の回転駆動部U1は、主軸中心線AX1を中心として正面主軸11Aを回転させるモーター13A、及び、主軸中心線AX1を中心として背面主軸11Bを回転させるモーター13Bを含んでいる。モーター13A,13Bには、主軸に内蔵されたビルトインモーターを使用することができる。むろん、モーター13A,13Bは、主軸11の外に配置されてもよい。
【0020】
図1に示す工作機械1の制御軸は、「X」で示されるX軸、「Y」で示されるY軸、及び、「Z」で示されるZ軸を含んでいる。Z軸方向は、ワークW1の回転中心となる主軸中心線AX1に沿った水平方向である。X軸方向は、Z軸と直交する水平方向である。Y軸方向は、Z軸と直交する鉛直方向である。尚、Z軸とX軸とは交差していれば直交していなくてもよく、Z軸とY軸とは交差していれば直交していなくてもよく、X軸とY軸とは交差していれば直交していなくてもよい。また、本明細書において参照される図面は、本技術を説明するための例を示しているに過ぎず、本技術を限定するものではない。また、各部の位置関係の説明は、例示に過ぎない。従って、左右を逆にしたり、回転方向を逆にしたり等することも、本技術に含まれる。また、方向や位置等の同一は、厳密な一致に限定されず、誤差により厳密な一致からずれることを含む。
【0021】
図1に示す工作機械1は主軸移動型旋盤であり、正面主軸台駆動部14Aが正面主軸台10AをZ軸方向へ移動させ、背面主軸台駆動部14Bが背面主軸台10BをZ軸方向へ移動させる。むろん、工作機械1は正面主軸台10Aが移動しない主軸固定型旋盤でもよいし、背面主軸台10Bが移動せずに正面主軸台10AがZ軸方向へ移動してもよい。
【0022】
正面主軸11Aは、把持部12AによりワークW1を解放可能に把持し、ワークW1とともに主軸中心線AX1を中心として回転可能である。加工前のワークW1が例えば円柱状(棒状)の長尺な材料である場合、正面主軸11Aの後端(
図1において左端)から把持部12AにワークW1が供給されてもよい。この場合、正面主軸11Aの前側(
図1において右側)には、ワークW1をZ軸方向へ摺動可能に支持するガイドブッシュが配置されてもよい。加工前のワークW1が短い材料である場合、正面主軸11Aの前端から把持部12AにワークW1が供給されてもよい。モーター13Aは、主軸中心線AX1を中心としてワークW1とともに正面主軸11Aを回転させる。正面加工後のワークW1は、正面主軸11Aから背面主軸11Bに引き渡される。背面主軸11Bは、把持部12Bにより正面加工後のワークW1を解放可能に把持し、ワークW1とともに主軸中心線AX1を中心として回転可能である。モーター13Bは、主軸中心線AX1を中心としてワークW1とともに背面主軸11Bを回転させる。正面加工後のワークW1は、背面加工により製品となる。
【0023】
刃物台20は、ワークW1を加工するための複数の工具TO1が取り付けられ、X軸方向及びY軸方向へ移動可能である。X軸方向とY軸方向は、送り軸F1の例である。むろん、刃物台20は、Z軸方向へ移動してもよい。刃物台20は、タレット刃物台でもよいし、くし形刃物台等でもよい。複数の工具TO1には、突っ切りバイトを含むバイト、回転ドリルやエンドミルといった回転工具、等が含まれる。送り駆動部U2は、複数の工具TO1が取り付けられた刃物台20を送り軸F1に沿って移動させる。本具体例において、送り駆動部U2の駆動対象は工具TO1であり、送り駆動部U2は工具TO1を送り軸F1に沿って移動させる。
尚、送り軸F1は、X軸とY軸の2軸を補間する仮想軸でもよい。工具TO1が取り付けられた刃物台20がZ軸方向へも移動可能である場合、送り軸F1は、Z軸でもよいし、X軸とY軸とZ軸の3軸を補間する仮想軸でもよい。刃物台20がZ軸方向へ移動しない場合でも、主軸11が組み込まれている主軸台10がZ軸方向へ移動することにより、工具TO1と主軸11の両方を駆動対象として3軸を補間する送り軸F1を設定可能である。いずれの場合も、送り軸F1に沿った方向が切削方向となる。
【0024】
NC装置70に接続された外部のコンピューター100は、プロセッサーであるCPU(Central Processing Unit)101、半導体メモリーであるROM(Read Only Memory)102、半導体メモリーであるRAM(Random Access Memory)103、記憶装置104、入力装置105、表示装置106、音声出力装置107、I/F(インターフェイス)108、時計回路109、等を備えている。コンピューター100の制御プログラムは、記憶装置104に記憶され、CPU101によりRAM103に読み出され、CPU101により実行される。記憶装置104には、フラッシュメモリーといった半導体メモリー、ハードディスクといった磁気記録媒体、等を用いることができる。入力装置105には、ポインティングデバイス、キーボード、表示装置106の表面に貼り付けられたタッチパネル、等を用いることができる。I/F108は、NC装置70に有線又は無線で接続され、NC装置70からデータを受信したりNC装置70にデータを送信したりする。コンピューター100と工作機械1との接続は、インターネットやイントラネット等のネットワーク接続でもよい。コンピューター100には、タブレット型端末を含むパーソナルコンピューター、スマートフォンといった携帯電話、等が含まれる。
【0025】
図2は、工作機械1の電気回路の構成を模式的に例示している。
図2に示す工作機械1において、NC装置70には、操作部80、主軸11の回転駆動部U1、主軸台駆動部14、刃物台20の送り駆動部U2、等が接続されている。回転駆動部U1は、正面主軸11Aを回転させるためにモーター13Aと不図示のサーボアンプを備え、背面主軸11Bを回転させるためにモーター13Bと不図示のサーボアンプを備えている。主軸台駆動部14は、正面主軸台駆動部14Aと背面主軸台駆動部14Bを含んでいる。送り駆動部U2は、サーボアンプ31,32とサーボモーター33,34を備えている。NC装置70は、プロセッサーであるCPU71、半導体メモリーであるROM72、半導体メモリーであるRAM73、時計回路74、I/F75、等を備えている。従って、NC装置70は、コンピューターの一種である。
図2では、操作部80、回転駆動部U1、主軸台駆動部14、送り駆動部U2、外部のコンピューター100、等のI/FをまとめてI/F75と示している。ROM72には、加工プログラムPR2を解釈して実行するための制御プログラムPR1、加工プログラムPR2の作成を支援する支援プログラムPR3、等が書き込まれている。ROM72は、データを書き換え可能な半導体メモリーでもよい。RAM73には、オペレーターにより作成された加工プログラムPR2が書き換え可能に記憶される。加工プログラムは、NCプログラムとも呼ばれる。CPU71は、RAM73をワークエリアとして使用し、ROM72に記録されている制御プログラムPR1を実行することにより、NC装置70の機能を実現させる。むろん、制御プログラムPR1により実現される機能の一部又は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)といった他の手段により実現させてもよい。
【0026】
操作部80は、入力部81及び表示部82を備え、NC装置70のユーザーインターフェイスとして機能する。本具体例において、表示部82は表示部U3の例であり、NC装置70と入力部81は制御部U4の例である。入力部81は、例えば、オペレーターから操作入力を受け付けるためのボタンやタッチパネルから構成される。表示部82は、例えば、オペレーターから操作入力を受け付けた各種設定の内容や工作機械1に関する各種情報を表示するディスプレイで構成される。オペレーターは、操作部80やコンピューター100を用いて加工プログラムPR2をRAM73に記憶させることが可能である。
【0027】
送り駆動部U2は、X軸に沿って刃物台20を移動させるために、NC装置70に接続されたサーボアンプ31、及び、該サーボアンプ31に接続されたサーボモーター33を備えている。また、送り駆動部U2は、Y軸に沿って刃物台20を移動させるために、NC装置70に接続されたサーボアンプ32、及び、該サーボアンプ32に接続されたサーボモーター34を備えている。
【0028】
サーボアンプ31は、NC装置70からの指令に従って、X軸方向において刃物台20の位置及び移動速度を制御する。サーボアンプ32は、NC装置70からの指令に従って、Y軸方向において刃物台20の位置及び移動速度を制御する。サーボモーター33は、エンコーダー35を備え、サーボアンプ31からの指令に従って回転し、X軸方向において不図示の送り機構及びガイドを介して刃物台20を移動させる。サーボモーター34は、エンコーダー36を備え、サーボアンプ32からの指令に従って回転し、Y軸方向において不図示の送り機構及びガイドを介して刃物台20を移動させる。送り機構には、ボールねじによる機構等を用いることができる。ガイドには、アリとアリ溝との組合せといった滑り案内等を用いることができる。
【0029】
NC装置70は、工具TO1が取り付けられた刃物台20の送り移動時の位置指令をサーボアンプ31,32に出す。サーボアンプ31は、NC装置70からX軸の位置指令を入力し、サーボモーター33のエンコーダー35からの出力に基づいて位置フィードバックを入力し、位置指令を位置フィードバックに基づいて補正してサーボモーター33にトルク指令を出力する。これにより、NC装置70は、X軸に沿った刃物台20の送り移動時の位置を制御する。NC装置70は、X軸に沿った工具TO1の送り移動時の位置を制御するともいえる。また、サーボアンプ32は、NC装置70からY軸の位置指令を入力し、サーボモーター34のエンコーダー36からの出力に基づいて位置フィードバックを入力し、位置指令を位置フィードバックに基づいて補正してサーボモーター34にトルク指令を出力する。これにより、NC装置70は、Y軸に沿った刃物台20の送り移動時の位置を制御する。NC装置70は、Y軸に沿った工具TO1の送り移動時の位置を制御するともいえる。
【0030】
図示していないが、主軸台駆動部14も、サーボアンプとサーボモーターを備えている。正面主軸台駆動部14AはZ軸方向において不図示の送り機構及びガイドを介して正面主軸台10Aを移動させ、背面主軸台駆動部14BはZ軸方向において不図示の送り機構及びガイドを介して背面主軸台10Bを移動させる。
【0031】
刃物台20に取り付けられた工具TO1がワークW1を切削すると、切粉とも呼ばれる切屑が生じる。主軸中心線AX1を中心として回転するワークW1に対して送り駆動部U2が工具TO1を送り軸F1に沿って振動させずに切り込ませると、連続した長尺な切屑が生じる。連続した長尺な切屑は、工具TO1に巻き付く等によりワークW1の加工に影響を与える可能性がある。そこで、
図3に例示するように、ワークW1の切削時に工具TO1を送り軸F1に沿って前進と後退を繰り返しながら送る振動切削により切屑を分断することにしている。切屑の分断状況は、主軸11の位相、振動の振幅、前進動作時の送り速度、及び、後退動作時の送り速度によって変化する。
【0032】
図3は、振動の周期に関する第一パラメーターの例である切屑長係数A1が2である場合において主軸回転角度に対する工具位置を模式的に例示している。切屑長係数A1は、振動の1周期に要する主軸11(正面主軸11A又は背面主軸11B)の回転数を意味し、1回の工具空振りに要する主軸回転回数ともいえる。工具空振りは、工具TO1の振動によりワークW1の切削が行われないことを意味する。以下、工具空振りを単に空振りと記載する。主軸回転角度は、工具TO1が現在位置P1にある時の回転角度を0°とした主軸11の回転角度である。工具位置は、切削方向(送り軸F1)において現在位置P1にある時の位置を0とした工具TO1の制御位置である。現在位置P1から終点P2に向かう二点鎖線の直線は、振動切削でない通常切削時の工具位置201を示している。現在位置P1から終点P2に向かう実線の折れ線は、振動切削時の工具位置202を示している。
図3の下部には、主軸回転角度に対する工具位置の振動1周期分の拡大図が示されている。
図3に示す工具位置はNC装置70による制御位置であるため、実際の工具位置はサーボ系の応答の遅れ等により図示の位置からずれが生じる。
図4~8に示す工具位置も、同様である。尚、
図3等に示す具体的な数値は、あくまでも例である。
【0033】
図3に示す振動は、切削方向に沿って工具TO1がワークW1に向かう前進動作M1と、該前進動作M1とは反対方向の後退動作M2と、が交互に繰り返されることを意味する。NC装置70は、ワークW1の切削時に前進動作M1と後退動作M2とを含む振動を伴うように工具TO1の送り移動を制御する。主軸回転角度に対する工具位置の折れ線は、前進動作M1から後退動作M2に変化する第一変化点C1、及び、後退動作M2から前進動作M1に変化する第二変化点C2を含んでいる。
図3に示す例では、主軸回転角度に対する工具位置の波形として通常切削送りに三角波状の振動を重ねた波形が示されている。
【0034】
図3において、通常切削送り速度Fは、振動切削でない通常切削を行う時の工具TO1の送り速度であり、工具TO1の非振動時の送り速度である。通常切削送り速度Fの単位は、例えば、主軸1回転当たりのミリメートルを示すmm/revである。切屑長係数A1は、工具TO1の振動の1周期に要する主軸11の回転数であり、主軸11の回転数で表した振動周期といえる。切屑長係数A1の単位は、例えば、revである。切屑長係数A1は、少なくとも1revを除く正の数値である。前進量Dは、振動の1周期当たりに工具TO1の位置が変化する距離であり、各前進動作M1の相対的な終点位置(第一変化点C1の位置)を示している。前進量Dの単位は、例えば、mmである。後退量E1は、工具TO1の振動の1周期における後退動作M2の距離であり、各後退動作M2の相対的な終点位置(第二変化点C2の位置)を示している。後退量E1の単位は、例えば、mmである。工具TO1の振動の1周期において前進動作時に工具TO1が移動する距離は、D+E1である。本具体例では、A1>1である場合、振動の1周期において、工具TO1には、最初に距離(D+E1)/2の前進動作M1の制御が行われ、次に後退量E1の後退動作M2の制御が行われ、最後に距離(D+E1)/2の前進動作M1の制御が行われる。
【0035】
振動切削時に工具TO1の位置を制御するためには、工具TO1の前進動作時の速度(前進動作の送り速度Fdとする。)、及び、工具TO1の後退動作時の速度(後退動作の送り速度Bとする。)が必要である。そこで、加工プログラムPR2のコマンドとして速度Fd,Bを指定する振動送りコマンド、例えば、
図12に例示する振動送りコマンドCM2が考えられる。ここで、この振動送りコマンドがフォーマット「G*** X(U)_Y(V)_Z(W)_D**_F**_E**_B**_J**」を有すると仮定する。Gの後の「***」は振動送りコマンドの番号を示し、「X(U)_Y(V)_Z(W)」は終点P2の位置を示し、Dの後の「**」は前進量Dの数値を示し、Fの後の「**」は前進動作の送り速度Fdの数値を示し、Eの後の「**」は後退量E1の数値を示し、Bの後の「**」は後退動作の送り速度Bの数値を示し、Jの後の「**」は後退位置での待機時間(
図12ではドウェル)を示している。
以上の振動送りコマンドでは、少なくとも、前進量D、前進動作の送り速度Fd、後退量E1、及び、後退動作の送り速度Bという多数のパラメーターを試行錯誤的に調整することにより振動条件を設定する必要がある。
【0036】
本具体例では、「通常切削送り速度F」、「切屑長係数A1」、及び、「後退量E1」の設定により、前進動作の送り速度Fdや後退動作の送り速度Bといったパラメーターの試行錯誤的な調整を不要にしている。以下、本具体例の振動切削の制御を詳細に説明する。
【0037】
図3は、A1>1、具体的にはA1=2である場合に振動の1周期において第一変化点C1と第二変化点C2を設定する例を示している。
図4は、A1=2である場合において主軸位相に対する工具位置を模式的に例示している。分かり易く示すため、
図4では偶数周期目の工具位置が破線で示されている。
送り機構やガイド等の機構に加わる負荷を小さくするためには、速度Fd,Bや前進量Dや後退量E1をできるだけ小さくすることが好ましい。空振りが最も効率的に行われるのは、主軸11の位相において工具TO1の移動経路の山(第一変化点C1)と谷(第二変化点C2)が一致する場合である。山と谷を一致させるためには、例えば、振動の1周期における中間(A1/2)の主軸回転角度から、-180°の主軸回転角度に山を設定し、+180°の主軸回転角度に谷を設定すればよい。A1=2である場合、(2/2)×360-180=180°の主軸回転角度に山を設定し、(2/2)×360+180=540°の主軸回転角度に谷を設定すれば、
図4に示すように山と谷の主軸位相が一致する。山と谷の主軸回転角度の差が360°であり、後退量E1が0よりも大きいので、奇数周期目の山(第一変化点C1)よりもその次の偶数周期目の谷(第二変化点C2)の方が若干後退した位置となる。これにより、切屑が分断される。また、前進動作時の工具位置の変化が一定であるので、効率的に切屑が分断される。
【0038】
図5は、A1=3である場合において主軸回転角度に対する工具位置を模式的に例示している。A1=3である場合、(3/2)×360-180=360°の主軸回転角度に山(第一変化点C1)を設定し、(3/2)×360+180=720°の主軸回転角度に谷(第二変化点C2)を設定すれば、山と谷の主軸位相が一致する。これにより、効率的に切屑が分断される。
「切屑長係数A1」は、1よりも大きい場合、整数に限定されない。A1>3である場合や、2<A1<3である場合や、1<A1<2である場合も、同様に山と谷を設定することができる。ただし、1<A1<2である場合は前進動作の送り速度Fdが過大となることがあるので、A1は2以上であることが好ましい。
【0039】
図示していないが、振動の1周期における中間(A1/2)の主軸回転角度から、-180°の主軸回転角度に谷(第二変化点C2)を設定し、+180°の主軸回転角度に山(第一変化点C1)を設定することも可能である。
以上より、NC装置70は、A1>1である場合、振動の1周期において前進動作M1から後退動作M2に変化する第一変化点C1と、振動の1周期において後退動作M2から前進動作M1に変化する第二変化点C2と、の主軸回転角度の差を360°に制御する。
【0040】
尚、A1>2であれば、振動の1周期における中間(A1/2)の主軸回転角度から、-360°の主軸回転角度に谷又は山を設定し、+360°の主軸回転角度に山又は谷を設定することも可能である。A1>3であれば、振動の1周期における中間(A1/2)の主軸回転角度から、-540°の主軸回転角度に谷又は山を設定し、+540°の主軸回転角度に山又は谷を設定することも可能である。切粉分断に要する主軸回転回数を少なくし、切粉をより細かく分断するためには、振動の1周期における中間(A1/2)の主軸回転角度から、-180°の主軸回転角度に山又は谷を設定し、+180°の主軸回転角度に谷又は山を設定することが、最も効率的である。
【0041】
NC装置70が切削方向(送り軸F1)において通常切削の指令速度から送り移動の速度を変えずに工具TO1を移動させるためには、全体として主軸1回転当たりの工具TO1の移動量を通常切削時の移動量である通常切削送り速度Fと同じになるように制御すればよい。切屑長係数A1は工具TO1の振動の1周期に要する主軸11の回転数であるので、振動の1周期当たりの切削方向に沿った工具TO1の移動量は、A1×Fとなる。
図3,5に示すように、工具TO1には、振動の1周期において、順に、距離(D+E1)/2の前進動作M1、後退量E1の後退動作M2、及び、距離(D+E1)/2の前進動作M1の制御が行われる。従って、
A1×F={(D+E1)/2}×2-E1
が成り立つ。上記式から、前進量Dは、以下の式で表される。
D=A1×F …(1)
【0042】
工具TO1の前進動作の送り速度Fdは、以下の式で表される。
Fd={(D+E1)/2}/{(A1-1)/2}
=(D+E1)/(A1-1)
=(A1×F+E1)/(A1-1) …(2)
尚、前進動作の送り速度Fdは、工具TO1の最大送り速度(Fmaxとする。)である。
工具TO1の後退動作の送り速度Bは、以下の式で表される。
B=E1/1
=E1 …(3)
【0043】
以上より、NC装置70は、A1>1である場合に切削方向(送り軸F1)について「通常切削送り速度F」、「切屑長係数A1」、及び、「後退量E1」の入力を受け付けると、上記式(1),(2),(3)に従って前進量D及び速度Fd,Bを決定することができる。前進量D及び速度Fd,Bが決まると、NC装置70は、切削方向について前進量D及び速度Fd,Bに基づいて工具TO1の送り移動時の位置を制御することができる。そこで、加工プログラムPR2のコマンドとして「通常切削送り速度F」、「切屑長係数A1」、及び、「後退量E1」を指定する振動送りコマンド、例えば、
図9に例示する振動送りコマンドCM1が考えられる。ここで、この振動送りコマンドがフォーマット「G*** X(U)_Y(V)_Z(W)_A**_F**_E**」を有すると仮定する。Gの後の「***」は振動送りコマンドの番号を示し、「X(U)_Y(V)_Z(W)」は終点P2の位置を示し、Aの後の「**」は切屑長係数A1の数値を示し、Fの後の「**」は通常切削送り速度F(
図9では終点までの送り速度)の数値を示し、Eの後の「**」は後退量E1の数値を示している。
【0044】
図6は、振動送りコマンドCM1から求められた前進量D及び速度Fd,Bに基づいてNC装置70が工具TO1の送り移動時の位置を制御する様子を模式的に例示している。
NC装置70は、切削方向(送り軸F1)において現在位置P1から前進動作M1及び後退動作M2を繰り返して終点P2に到るまでの複数の位置P3を前進量D及び速度Fd,Bに基づいて設定し、順次、工具TO1を位置P3に移動させる位置指令をサーボアンプ31又はサーボアンプ32に出す。
図6には、各位置P3が白丸で示されている。設定される位置P3は、変化点(第一変化点C1と第二変化点C2)や終点P2に限定されず、前進動作M1や後退動作M2の途中の位置が含まれてもよい。前述の位置指令が繰り返されることにより、工具TO1の送り移動時の位置が前進量D及び速度Fd,Bに基づいた位置に制御される。
【0045】
以上より、オペレーターは、加工プログラムPR2において「通常切削送り速度F」、「切屑長係数A1」、及び、「後退量E1」だけを指定することにより、通常切削と同じ加工時間で振動切削を実施させることができる。ここで、「切屑長係数A1」が大きくなると、切屑が長くなる一方で振幅が小さくなる。「切屑長係数A1」と「後退量E1」の好適な値は、工具TO1を移動させるサーボ系の追従性に依存し、単位時間当たりの主軸回転数と工具TO1の送り速度によって決まる。そこで、
図10に例示するように、「切屑長係数A1」と「後退量E1」の組合せについて「単位時間当たりの主軸回転数S」と「通常切削送り速度F」に応じた目安の値を情報テーブルTA1として用意しておくことにより、オペレーターは容易に「切屑長係数A1」と「後退量E1」を指定することができる。
図10に示すように、情報テーブルTA1には、S,Fの各組合せに対してA1,E1の複数の組合せが対応付けられている。A1,E1の組合せを識別する識別番号をjとすると、
図10は、例えば、S=S1とF=F1の組合せに対してA1=a1jとE1=e1jで表される複数の組合せが対応付けられていることを示している。
図10に示す情報テーブルTA1は、「単位時間当たりの主軸回転数S」と「通常切削送り速度F」の入力に対する「切屑長係数A1」と「後退量E1」の推奨される複数の組合せを出力するための情報テーブルともいえる。むろん、A1,E1の組合せの数は、有限である。
【0046】
従って、「単位時間当たりの主軸回転数S」と「通常切削送り速度F」が決まると、情報テーブルTA1から「切屑長係数A1」と「後退量E1」の組合せを選ぶことが可能となる。詳しくは
図9を参照して後述するが、情報テーブルTA1をNC装置70のRAM73に予め格納しておくことにより、NC装置70は、「単位時間当たりの主軸回転数S」及び「通常切削送り速度F」から「切屑長係数A1」及び「後退量E1」の推奨値を提示することができる。
【0047】
図7は、切屑長係数A1、すなわち、切屑長係数A1が2/3である場合において主軸回転角度に対する工具位置を模式的に例示している。本具体例では、0<A1<1である場合、振動の1周期において、工具TO1には、前半に距離(D+E1)の前進動作M1の制御が行われ、後半に後退量E1の後退動作M2の制御が行われる。
図8は、A1=2/3である場合において主軸位相に対する工具位置を模式的に例示している。
0<A1<1である場合、空振りを効率的に実現させるため、A1=2/3、2/5、2/7、…と、分母が3以上の奇数であって分子が2となるように「切屑長係数A1」を制限することにしている。主軸11の位相において山(第一変化点C1)と谷(第二変化点C2)を一致させるためには、例えば、振動の1周期における中間(A1/2)の主軸回転角度に山を設定し、振動の1周期における最後(A1)の主軸回転角度に谷を設定すればよい。A1=2/3である場合、(2/3)/2×360=120°の主軸回転角度に山を設定し、(2/3)×360=240°の主軸回転角度に谷を設定すれば、
図8に示すように山と谷の主軸位相が一致する。山と谷が一致する主軸位相は、120°、240°、及び、360°となる。
【0048】
A1=2/5である場合には、(2/5)/2×360=72°の主軸回転角度に山を設定し、(2/5)×360=144°の主軸回転角度に谷を設定すれば、山と谷の主軸位相が一致する。山と谷が一致する主軸位相は、72°、144°、216°、288°、及び、360°となる。
「切屑長係数A1」は、2/7以下でもよい。ただし、A1<2/3である場合は制御に対するサーボ系の追従性の点から工具TO1の送り速度や単位時間当たりの主軸11の回転数をかなり低くしなければならないことがあるので、A1は2/3が好ましい。
【0049】
図示していないが、振動の1周期における中間(A1/2)の主軸回転角度に谷を設定し、振動の1周期における最後(A1)の主軸回転角度に山を設定することも可能である。
以上より、NC装置70は、「切屑長係数A1」の分母が3以上の奇数であって「切屑長係数A1」の分子が2である場合、振動の1周期において前進動作M1から後退動作M2に変化する第一変化点C1と、振動の1周期において後退動作M2から前進動作M1に変化する第二変化点C2と、の主軸回転角度の差を{(A1/2)×360}°に制御する。
【0050】
NC装置70が切削方向(送り軸F1)において通常切削の指令速度から送り移動の速度を変えずに工具TO1を移動させるためには、全体として主軸1回転当たりの工具TO1の移動量を通常切削時の移動量である通常切削送り速度Fと同じになるように制御すればよい。上述したように、振動の1周期当たりの切削方向に沿った工具TO1の移動量は、A1×Fとなる。
図7,8に示すように、工具TO1には、振動の1周期において、順に、距離(D+E1)の前進動作M1、及び、後退量E1の後退動作M2の制御が行われる。従って、
A1×F=(D+E1)-E1
が成り立つ。上記式から、前進量Dは、以下の式で表される。
D=A1×F …(4)
【0051】
工具TO1の前進動作の送り速度Fdは、以下の式で表される。
Fd=(D+E1)/(A1/2)
=2(D+E1)/A1
=2(A1×F+E1)/A1 …(5)
ここでも、前進動作の送り速度Fdは、工具TO1の最大送り速度Fmaxである。
工具TO1の後退動作の送り速度Bは、以下の式で表される。
B=E1/(A1/2)
=2E1/A1 …(6)
【0052】
以上より、NC装置70は、A1<1である場合に切削方向(送り軸F1)について「通常切削送り速度F」、「切屑長係数A1」、及び、「後退量E1」の入力を受け付けると、上記式(4),(5),(6)に従って前進量D及び速度Fd,Bを決定することができる。前進量D及び速度Fd,Bが決まると、NC装置70は、切削方向について前進量D及び速度Fd,Bに基づいて工具TO1の送り移動時の位置を制御することができる。
図6で示したように、NC装置70は、切削方向において現在位置P1から前進動作M1及び後退動作M2を繰り返して終点P2に到るまでの複数の位置P3を前進量D及び速度Fd,Bに基づいて設定し、順次、工具TO1を位置P3に移動させる位置指令をサーボアンプ31又はサーボアンプ32に出す。前述の位置指令が繰り返されることにより、工具TO1の送り移動時の位置が前進量D及び速度Fd,Bに基づいた位置に制御される。
【0053】
ところで、工具TO1の送り速度は、工具TO1の欠けや溶着等を防ぐ点から、工具TO1を選定する際の重要な切削条件の一つである。送り速度は、工具メーカーが適切な値の目安を提示しており、ワークの材質、工具の材質、種類、等によって異なる。上述した振動送りコマンドCM1を実行するNC装置70は振動切削時の加工時間を通常切削時の加工時間と同じにしてF,A1,E1のパラメーターから前進量D及び速度Fd,Bを自動計算するため、計算された前進動作の送り速度Fdは通常切削送り速度Fよりも大きくなる。オペレーターは、最大送り速度Fmaxである前進動作の送り速度Fdが分からないため、工具TO1を適切に選定することができず、振動切削のためのパラメーターを適切に設定することができない。
そこで、本具体例では、振動送りコマンドCM1の作成を支援するため、F,A1,E1のパラメーターに応じた最大送り速度Fmaxを表す値を表示部82(
図2参照)に表示することにより、工具選定を容易にさせ、F,A1,E1のパラメーターの設定を容易にさせることにしている。
【0054】
図9は、振動送りコマンドCM1の設定画面を模式的に例示している。NC装置70は、不図示のメニュー画面から振動送りコマンドCM1の作成を支援する画面501を表示させる指示を入力部81において受け付けると、
図9に示す画面501を表示部82に表示させる処理を行う。
図9に示す画面501は、主軸回転数入力欄511、移動距離入力欄512、終点までの送り速度入力欄513、切屑長係数入力欄514、後退量入力欄515、コマンド入力欄516、フォーマット切替ボタン521、Fmax値予測ボタン522、分断チェックボタン523、コマンドコピーボタン524、推奨値設定ボタン525、振動波形表示欄530、等を有している。
【0055】
主軸回転数入力欄511には、「単位時間当たりの主軸回転数S」を入力可能である。「単位時間当たりの主軸回転数S」の単位は、例えば、rev/minである。移動距離入力欄512には、振動送りコマンドCM1の実行中に工具TO1を切削方向(送り軸F1)に沿って移動開始位置から移動終点位置まで移動させる総距離である「移動距離W」を入力可能である。「移動距離W」の単位は、例えば、mmである。尚、「移動距離W」は、振動送りコマンドCM1に含まれる終点「X(U)_Y(V)_Z(W)」のWとは異なる。終点までの送り速度入力欄513は、「通常切削送り速度F」を入力可能である。「通常切削送り速度F」の単位は、例えば、mm/revである。切屑長係数入力欄514は、「切屑長係数A1」を入力可能である。「切屑長係数A1」の単位は、例えば、revである。尚、
図9には、「切屑長係数A」と示されている。
図11も同様である。後退量入力欄515は、「後退量E1」を入力可能である。「後退量E1」の単位は、例えば、mmである。尚、
図9には、「後退量E」と示されている。
図11,12も同様である。
オペレーターは、推奨値設定ボタン525を操作することにより、切屑長係数入力欄514に「切屑長係数A1」の推奨値を表示させ、後退量入力欄515に「後退量E1」の推奨値を表示させることが可能である。これらの推奨値を表示させるため、
図10に示す情報テーブルTA1がRAM73に格納され、NC装置70は以下に示す処理を行う。
【0056】
NC装置70は、推奨値設定ボタン525の操作を入力部81において受け付けると、主軸回転数入力欄511に入力された「単位時間当たりの主軸回転数S」と送り速度入力欄513に入力された「通常切削送り速度F」との組合せに情報テーブルTA1において対応付けられている「切屑長係数A1」と「後退量E1」の組合せの一つを切屑長係数入力欄514と後退量入力欄515に表示させる。S,Fの組合せに対応付けられているA1,E1の組合せが情報テーブルTA1に複数有る場合、NC装置70は、推奨値設定ボタン525の操作を受け付ける度にA1,E1の組合せを切り替えて切屑長係数入力欄514と後退量入力欄515に表示させてもよい。むろん、NC装置70は、「切屑長係数A1」の推奨値が切屑長係数入力欄514に表示されている状態で「切屑長係数A1」の変更を受け付けることが可能であり、「後退量E1」の推奨値が後退量入力欄515に表示されている状態で「後退量E1」の変更を受け付けることが可能である。
【0057】
上述した入力欄(511~515)に値が入力されている状態で、オペレーターは、Fmax値予測ボタン522を操作することにより、F,A1,E1のパラメーターに応じた最大送り速度Fmax及び切削時間(CTとする。)を表す値を表示させることが可能である。最大送り速度Fmaxの単位は、例えば、mm/revである。切削時間CTは、振動送りコマンドCM1に従って現在位置P1から終点P2(
図3参照)までの振動を伴う工具TO1の送り移動にかかる時間である。単位時間当たりの主軸回転数Sの単位がrev/minである場合、切削時間CTの単位はminである。
【0058】
NC装置70は、Fmax値予測ボタン522の操作を入力部81において受け付けると、まず、切削方向(送り軸F1)について「通常切削送り速度F」、「切屑長係数A1」、及び、「後退量E1」に基づいて工具TO1の「最大送り速度Fmax」を求める。
A1>1である場合、F,A1,E1のパラメーターから前進動作の送り速度Fdを求める上記式(2)から、最大送り速度Fmaxは以下の式で表される。
Fmax=(A1×F+E1)/(A1-1) …(7)
A1<1である場合、F,A1,E1のパラメーターから前進動作の送り速度Fdを求める上記式(5)から、最大送り速度Fmaxは以下の式で表される。
Fmax=2(A1×F+E1)/A1 …(8)
【0059】
また、NC装置70は、切削方向について「単位時間当たりの主軸回転数S」、「移動距離W」、及び、「通常切削送り速度F」に基づいて振動送りコマンドCM1の「切削時間CT」を求める。「切削時間CT」は、以下の式で表される。
CT=W/(F×S) …(9)
【0060】
NC装置70は、上記式(7)又は上記式(8)に従って最大送り速度Fmaxを算出し、上記式(9)に従って切削時間CTを算出すると、
図9に示す画面501に予測結果として表示させる。NC装置70は、例えば、最大送り速度Fmaxを表す数値をmm/rev単位で表示させ、切削時間CTを表す数値を分と秒で表示させる。
以上より、入力欄(511~515)の値では分からない最大送り速度Fmax及び切削時間CTを表す値が表示部82に表示される。オペレーターは、切削時間CTを表す値を見ることにより、振動送りコマンドCM1が所望の切削時間CTであるか否かを容易に把握することができる。また、オペレーターは、最大送り速度Fmaxを表す値を見ることにより、振動切削のための工具TO1を容易に選定することができ、振動切削のためのパラメーターを容易に設定することができる。
【0061】
また、NC装置70は、F,A1,E1のパラメーターに基づいて、主軸位相に対する工具位置の振動波形を振動波形表示欄530に表示させる。互いに異なる主軸回転角度において振動波形が重なっている箇所は、切屑の分断領域である。
【0062】
オペレーターは、コマンドコピーボタン524を操作することにより、コマンド入力欄516に振動送りコマンドCM1を入力することができる。NC装置70は、コマンドコピーボタン524の操作を入力部81において受け付けると、F,A1,E1のパラメーターに基づいて振動送りコマンドCM1を作成し、コマンド入力欄516に表示させる。さらに、NC装置70は、コマンド入力欄516に入力された振動送りコマンドCM1を加工プログラムPR2に組み込む処理を行う。
【0063】
オペレーターは、表示された最大送り速度Fmaxを見た結果、工具TO1の切削条件に合わせて最大送り速度Fmaxを変更したいと考える場合がある。例えば、最大送り速度Fmaxが手持ちの工具TO1の送り速度の上限を超えている場合、工具TO1の送り速度の上限に合わせて最大送り速度Fmaxを遅くすることが考えられる。また、工具TO1の刃持ちを良くしたい場合や、ワークW1の面粗度(表面粗さ)を良くしたい場合も、最大送り速度Fmaxを遅くすることが考えられる。最大送り速度Fmaxが遅くなると、切削時間CTが延びる。逆に、最大送り速度Fmaxが工具TO1の送り速度の上限よりも遅い場合、工具TO1の送り速度の上限を超えない範囲で最大送り速度Fmaxを速くすることにより切削時間CTを短くすることも考えられる。
また、オペレーターは、最大送り速度Fmaxが変わることにより切削時間CTがどの程度変わるかを知りたいと考える場合がある。
【0064】
そこで、本具体例では、表示された最大送り速度Fmaxを表す値を変更する画面502(
図11参照)を表示部82に表示することにより、最大送り速度Fmaxの変更を容易にさせることにしている。
【0065】
図11は、最大送り速度Fmaxの変更を受け付ける画面502を模式的に例示している。例えば、NC装置70は、
図9に示す画面501に「最大送り速度Fmaxを変更しますか?」と問い合わせる不図示のダイアログボックスを予測結果の表示とともに表示させ、画面を切り替える操作を入力部81において受け付けた場合に、
図11に示す画面502を表示部82に表示させてもよい。また、NC装置70は、
図9に示す画面501に設けられた不図示の画面切替ボタンの操作を入力部81において受け付けた場合に、
図11に示す画面502を表示部82に表示させてもよい。
図11に示す画面502は、
図9に示す終点までの送り速度入力欄513の代わりに最大送り速度入力欄517を有し、Fmax値予測ボタン522の代わりにF値予測ボタン526を有している。NC装置70は、主軸回転数入力欄511、移動距離入力欄512、切屑長係数入力欄514、及び、後退量入力欄515において、
図9に示す画面501において入力された値を表示させる。切屑長係数入力欄514と後退量入力欄515に推奨値を表示させる処理は行われないので、画面502に推奨値設定ボタン525は無い。NC装置70は、最大送り速度入力欄517において、
図9に示す最大送り速度Fmaxの値を表示させ、最大送り速度Fmaxを変更する操作を入力部81において受け付ける。従って、オペレーターは、工具TO1等に合わせて最大送り速度Fmaxを変更することができる。
【0066】
上述した入力欄(511,512,517,514,515)に値が入力されている状態で、オペレーターは、F値予測ボタン526を操作することにより、Fmax,A1,E1のパラメーターに応じた通常切削送り速度F及び切削時間CTを表す値を表示させることが可能である。
【0067】
NC装置70は、F値予測ボタン526の操作を入力部81において受け付けると、まず、切削方向(送り軸F1)について「最大送り速度Fmax」、「切屑長係数A1」、及び、「後退量E1」に基づいて工具TO1の「通常切削送り速度F」を求める。
A1>1である場合、上記式(7)から、通常切削送り速度Fは以下の式で表される。
F={Fmax×(A1-1)-E1}/A1 …(10)
A1<1である場合、上記式(8)から、通常切削送り速度Fは以下の式で表される。
F=(Fmax/2)-(E1/A1) …(11)
【0068】
また、NC装置70は、切削方向について「単位時間当たりの主軸回転数S」、「移動距離W」、及び、変更された「通常切削送り速度F」に基づいて振動送りコマンドCM1の「切削時間CT」を求める。「切削時間CT」は、以下の式で表される。
CT=W/(F×S) …(12)
変更された「通常切削送り速度F」は、変更された「最大送り速度Fmax」、「切屑長係数A1」、及び、「後退量E1」に基づいて算出される。従って、変更された切削時間CTは、変更された「最大送り速度Fmax」、「切屑長係数A1」、及び、「後退量E1」に基づいて算出されることになる。
【0069】
NC装置70は、上記式(10)又は上記式(11)に従って通常切削送り速度Fを算出し、上記式(12)に従って切削時間CTを算出すると、
図11に示す画面502に予測結果として表示させる。NC装置70は、例えば、変更された通常切削送り速度Fを「終点までの送り速度F」として当該通常切削送り速度Fを表す数値をmm/rev単位で表示させ、変更された切削時間CTを表す数値を分と秒で表示させる。
図9,11に示す例では、最大送り速度Fmaxが0.07mm/revから0.05mm/revに変更された結果、通常切削送り速度Fが0.03mm/revから0.02mm/revに変更されたことが示されている。
以上より、入力欄(511,512,517,514,515)の値では分からない通常切削送り速度F及び切削時間CTを表す値が表示部82に表示される。オペレーターは、工具TO1等に合わせて最大送り速度Fmaxを変更することができるうえ、通常切削送り速度Fを確認することができる。また、オペレーターは、変更された切削時間CTを表す値を見ることにより、変更された最大送り速度Fmaxにおいて振動を伴う工具TO1の送り移動にかかる切削時間CTを確認することができる。
【0070】
オペレーターは、コマンドコピーボタン524を操作することにより、コマンド入力欄516に振動送りコマンドCM1を入力することができる。NC装置70は、コマンドコピーボタン524の操作を入力部81において受け付けると、変更された「通常切削送り速度F」、切屑長係数入力欄514に入力された「切屑長係数A1」、及び、後退量入力欄515に入力された「後退量E1」に基づいて振動送りコマンドCM1を作成し、コマンド入力欄516に表示させる。また、NC装置70は、コマンド入力欄516に入力された振動送りコマンドCM1を加工プログラムPR2に組み込む処理を行う。
【0071】
尚、NC装置70は、
図11に示す画面502に「通常切削送り速度Fを変更しますか?」と問い合わせる不図示のダイアログボックスを予測結果の表示とともに表示させ、画面を切り替える操作を入力部81において受け付けた場合に、
図9に示す画面501を表示部82に表示させてもよい。また、NC装置70は、
図11に示す画面502に設けられた不図示の画面切替ボタンの操作を入力部81において受け付けた場合に、
図9に示す画面501を表示部82に表示させてもよい。
【0072】
図9,11に示す画面501,502において、オペレーターは、フォーマット切替ボタン521を操作することにより、
図12に例示する振動送りコマンドCM2を作成することが可能である。
図12は、振動送りコマンドCM2の設定画面を模式的に例示している。NC装置70は、
図9,11に示すフォーマット切替ボタン521の操作を入力部81において受け付けると、
図12に示す画面503を表示部82に表示させる処理を行う。
図12に示す画面503は、主軸回転数入力欄511、移動距離入力欄512、前進量入力欄541、前進動作の送り速度入力欄542、後退量入力欄515、後退動作の送り速度入力欄543、後退位置での待機時間入力欄544、コマンド入力欄516、フォーマット切替ボタン521、切削時間予測ボタン527、分断チェックボタン523、コマンドコピーボタン524、振動波形表示欄530、等を有している。
【0073】
前進量入力欄541には、「前進量D」を入力可能である。「前進量D」の単位は、例えば、mmである。前進動作の送り速度入力欄542には、最大送り速度Fmaxである「前進動作の送り速度Fd」を入力可能である。「前進動作の送り速度Fd」の単位は、例えば、mm/revである。尚、
図12に示す「F」は、
図9,11に示す「終点までの送り速度F」ではなく、最大送り速度Fmaxである「前進動作の送り速度Fd」を示している。後退動作の送り速度入力欄543には、「後退動作の送り速度B」を入力可能である。「後退動作の送り速度B」の単位は、例えば、mm/revである。後退位置での待機時間入力欄544には、「後退位置での待機時間J」(
図12では後退位置でのドウェルJ)を入力可能である。「後退位置での待機時間J」の単位は、例えば、minである。
【0074】
後述した入力欄(511,512,515,541~544)に値が入力されている状態で、オペレーターは、切削時間予測ボタン527を操作することにより、振動送りコマンドCM2に従って現在位置から終点までの振動を伴う工具TO1の送り移動にかかる切削時間CTを表す値を表示させることが可能である。
【0075】
NC装置70は、切削時間予測ボタン527の操作を入力部81において受け付けると、切削方向(送り軸F1)について「単位時間当たりの主軸回転数S」、「移動距離W」、「前進量D」、「前進動作の送り速度Fd」、「後退量E1」、「後退動作の送り速度B」、「後退位置での待機時間J」に基づいて振動送りコマンドCM2の「切削時間CT」を求める。「切削時間CT」は、以下の式で表される。
【数1】
NC装置70は、上記式(13)に従って切削時間CTを算出すると、
図12に示す画面503に予測結果として切削時間CTを表す数値を表示させる。
【0076】
以上より、入力欄(511,512,515,541~544)の値では分からない切削時間CTを表す値が表示部82に表示される。オペレーターは、切削時間CTを表す値を見ることにより、振動送りコマンドCM2が所望の切削時間CTであるか否かを容易に把握することができる。
【0077】
振動送りコマンドCM2は、D,Fd,E1,B,Jのパラメーターをオペレーターが設定する必要があるため、D,Fd,E1,B,Jのパラメーターが切屑を分断させる条件を満たすか否かが分からない。そこで、オペレーターは、分断チェックボタン523を操作することにより、D,Fd,E1,B,Jのパラメーターが切屑を分断させる条件を満たすか否かを確認することが可能である。
例えば、NC装置70は、分断チェックボタン523の操作を入力部81において受け付けると、D,Fd,E1,B,Jのパラメーターに基づいて主軸位相に対する工具位置の振動波形を振動波形表示欄530に表示させてもよい。NC装置70は、互いに異なる主軸回転角度において振動波形が重なっている箇所がある場合に切屑の分断領域を振動波形表示欄530に表示させてもよい。オペレーターは、切屑の分断領域を見ることにより、D,Fd,E1,B,Jのパラメーターが切屑を分断させる条件を満たすことを確認することができる。切屑の分断領域が表示されない場合、オペレーターは、D,Fd,E1,B,Jのパラメーターが切屑を分断させる条件を満たさないことを確認することができる。
【0078】
尚、NC装置70は、
図12に示すフォーマット切替ボタン521の操作を入力部81において受け付けると、
図9に示す画面501を表示部82に表示させる処理を行う。
【0079】
以上説明したように、F,A1,E1のパラメーターを有する振動送りコマンドCM1には無い最大送り速度(Fmax)を表す値が画面501(
図9参照)に表示されるので、オペレーターは、振動切削のための工具TO1を容易に選定することができ、振動切削のためのパラメーターを容易に設定することができる。また、オペレーターは、最大送り速度Fmaxを変更したい場合に最大送り速度Fmaxを変更することができ(
図11参照)、変更された通常切削送り速度F及び切削時間CTを確認することができる。さらに、D,Fd,E1,B,Jのパラメーターを有する振動送りコマンドCM2からは分かり難い切削時間CTを表す値が画面503(
図12参照)に表示されるので、オペレーターは、振動送りコマンドCM2においても切削時間CTを確認することができる。
【0080】
(3)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、切削方向に沿って移動する駆動対象は、工具TO1に限定されず、ワークW1を把持する主軸11でもよいし、工具TO1と主軸11の両方でもよい。駆動対象が主軸11である場合、NC装置70は、ワークW1の切削時に切削方向に沿って振動を伴うように主軸11の送り移動を制御すればよい。駆動対象が工具TO1と主軸11の両方である場合、NC装置70は、ワークW1の切削時に切削方向に沿って振動を伴うように工具TO1と主軸11の両方の送り移動を制御すればよい。
【0081】
振動切削条件設定装置は、工作機械ではなく、コンピューター100(
図1参照)に設けられてもよい。この場合、表示装置106が表示部U3の例となり、CPU101、ROM102、RAM103、記憶装置104、及び、入力装置105が制御部U4の例となる。振動切削条件設定装置3を含むコンピューター100は、工作機械1に接続されていてもよいが、工作機械1に接続されていない状態でもよい。
【0082】
図9に示す画面501に表示する変更後の「最大送り速度Fmax」を表す値は、「通常切削送り速度F」に対する「最大送り速度FmaxF」の比(百分率を含む。)や、「通常切削送り速度F」と「最大送り速度FmaxF」との差でもよい。この場合、オペレーターは、「最大送り速度Fmax」を相対的に把握することができる。
図11に示す画面502に表示する変更後の「通常切削送り速度F」を表す値は、変更前の「通常切削送り速度F」に対する変更後の「通常切削送り速度F」の比(百分率を含む。)や、変更前の「通常切削送り速度F」と変更後の「通常切削送り速度F」との差でもよい。この場合、オペレーターは、「最大送り速度Fmax」の変更による「通常切削送り速度F」の変化を相対的に把握することができる。
図11に示す画面502に表示する変更後の「切削時間CT」を表す値は、変更前の「切削時間CT」に対する変更後の「切削時間CT」の比(百分率を含む。)や、変更前の「切削時間CT」と変更後の「切削時間CT」との差でもよい。この場合、オペレーターは、「最大送り速度Fmax」の変更による「切削時間CT」の変化を相対的に把握することができる。
【0083】
図9,11に示す画面501,502において、NC装置70は、切削時間CTを変更する操作を受け付けてもよい。この場合、NC装置70は、変更前後の切削時間CTに基づいて通常切削送り速度F及び最大送り速度Fmaxを求め、求めた通常切削送り速度F及び最大送り速度Fmaxを画面501,502に表示させてもよい。例えば、NC装置70は、画面501,502に設けられた不図示の切削時間変更ボタンの操作を入力部81において受け付けた場合に、変更後の切削時間(CTaとする。)の入力を入力部81において受け付けてもよい。
【0084】
ここで、変更前の切削時間をCTbとし、変更後の通常切削送り速度をFaとし、変更前の通常切削送り速度をFbとする。変更後の通常切削送り速度Faは、以下の式に従って算出することができる。
Fa=(CTb/CTa)×Fb …(14)
NC装置70は、求めた変更後の通常切削送り速度Faを画面501の終点までの送り速度入力欄513や画面502の予測結果に表示させてもよい。
【0085】
変更後の最大送り速度(Famaxとする。)は、上述した式(7),(8)から、以下の式に従って算出することができる。
A1>1である場合、
Famax=(A1×Fa+E1)/(A1-1) …(15)
A1<1である場合、
Famax=2(A1×Fa+E1)/A1 …(16)
NC装置70は、求めた変更後の最大送り速度Famaxを画面501の予測結果や画面502の最大送り速度入力欄517に表示させてもよい。
【0086】
オペレーターは、切削時間CTを変更することにより変化する通常切削送り速度Fや最大送り速度Fmaxを確認することができるので、振動切削のための工具TO1を容易に選定することができ、振動切削のためのパラメーターを容易に設定することができる。
尚、NC装置70は、変更後の最大送り速度Famaxを画面501,502に表示させずに変更後の通常切削送り速度Faを画面501,502に表示させてもよいし、変更後の通常切削送り速度Faを画面501,502に表示させずに変更後の最大送り速度Famaxを画面501,502に表示させてもよい。
【0087】
図13に例示するように、本技術は、主軸回転角度に対する工具位置の波形として通常切削送りに正弦波状の振動を重ねた波形にも適用可能である。
図13は、主軸回転角度に対する工具位置の別の例を模式的に示している。
図13において、通常切削送り速度Fの成分が破線で示され、最大送り速度Fmaxが細かいドット状の点線で示されている。
図13に示す波形から通常切削送り速度Fの成分を除いた正弦波は、周期がA2であり、振幅がE2である。従って、周期A2は振動の周期に関する第一パラメーターの例であり、振幅E2は振動の振幅に関する第二パラメーターの例である。
図13に示す正弦波における谷C4から山C3に向かう中間点C5の傾きは、最大送り速度Fmaxを示している。そこで、主軸回転角度から工具位置を算出する式を微分した送り速度式に中間点C5の主軸回転角度を代入することにより、最大送り速度Fmaxが求まる。
【0088】
NC装置70(又はコンピューター100)は、
図9に示す画面501に類似する画面を表示部U3に表示させ、通常切削送り速度F、周期A2、及び、振幅E2を受け付ける処理を行えばよい。NC装置70は、通常切削送り速度F、周期A2、及び、振幅E2に基づいて、上述した計算方法により最大送り速度Fmaxを算出し、算出した最大送り速度Fmaxを表す値を表示部U3に表示する処理を行えばよい。
以上より、受け付けられる設定では分からない最大送り速度Fmaxを表す値が表示されるので、オペレーターは、最大送り速度Fmaxを表す値を見ることにより、振動切削のための工具TO1を容易に選定することができ、振動切削のためのパラメーターを容易に設定することができる。
【0089】
また、NC装置70は、
図11に示す画面502に類似する画面を表示部U3に表示させ、変更された最大送り速度Fmax、周期A2、及び、振幅E2に基づいて、上述した計算の逆算を行うことにより通常切削送り速度Fを変更してもよい。NC装置70は、上述した式(12)に従って切削時間CTを求め、変更された通常切削送り速度F及び切削時間CTを表示部U3に表示させてもよい。
以上より、変更された通常切削送り速度F及び切削時間CTを確認することができるので、通常切削送り速度F等のパラメーターの設定が容易となる。
【0090】
(4)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、振動切削のための工具の選定やパラメーターの設定を容易にさせる技術等を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1…工作機械、3…振動切削条件設定装置、
10…主軸台、11…主軸、12…把持部、13A,13B…モーター、
14…主軸台駆動部、
20…刃物台、
31,32…サーボアンプ、33,34…サーボモーター、35,36…エンコーダー、
70…NC装置、
80…操作部、81…入力部、82…表示部、
100…コンピューター、
201…通常切削時の工具位置、202…振動切削時の工具位置、
AX1…主軸中心線、
C1…第一変化点、C2…第二変化点、
CM1,CM2…振動送りコマンド、
F1…送り軸、
M1…前進動作、M2…後退動作、
P1…現在位置、P2…終点、P3…位置、
PR1…制御プログラム、PR2…加工プログラム、PR3…支援プログラム、
TO1…工具、
U1…回転駆動部、U2…送り駆動部、U3…表示部、U4…制御部、
W1…ワーク。