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特開2023-900膝関節炎症検出装置及び膝関節炎症検出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000900
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】膝関節炎症検出装置及び膝関節炎症検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20221222BHJP
   G01N 29/07 20060101ALI20221222BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
G01N29/14
G01N29/07
G01N29/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101966
(22)【出願日】2021-06-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブ上で公開 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 科学研究費助成事業データベース 公開日(令和2年6月23日)
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(71)【出願人】
【識別番号】591136296
【氏名又は名称】株式会社大神
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】カーン タウヒドゥルイスラム
(72)【発明者】
【氏名】井手 衆哉
(72)【発明者】
【氏名】エムディ.メヘディ ハッサン
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA12
2G047AC13
2G047BA05
2G047BC02
2G047BC03
2G047BC13
2G047BC18
2G047EA10
2G047GA14
2G047GG28
2G047GG30
2G047GG33
2G047GG46
(57)【要約】
【課題】膝関節の炎症の3次元位置を膝の前方と後方とに装着された複数のセンサから正確に特定することが可能となる膝関節炎症検出装置等を提供する。
【解決手段】膝関節部位の動作時に当該膝関節部位から生じる弾性波を超音波の検出信号として検出するAEセンサ12と、検出信号に基づいて、対象者11の膝関節に生じている炎症の有無と当該炎症の位置を特定する炎症位置算出部33とを備え、検査時には、対象者11の膝正面から見て大腿骨と脛骨との接合箇所を囲むように複数配置される前方センサと、対象者11の膝外側後方及び/又は膝内側後方に複数配置される後方センサとが対象者11に装着される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膝関節部位の動作時に当該膝関節部位から生じる弾性波を超音波の検出信号として検出するセンサと、
前記検出信号に基づいて、検査対象者の膝関節に生じている炎症の有無と当該炎症の位置を特定する炎症位置特定手段とを備え、
検査時には、前記検査対象者の膝正面から見て大腿骨と脛骨との接合箇所を囲むように複数配置される前方センサと、前記検査対象者の膝外側後方及び/又は膝内側後方に複数配置される後方センサとが前記検査対象者に装着されることを特徴とする膝関節炎症検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の膝関節炎症検出装置において、
前記前方センサが大腿骨と脛骨との接合箇所を囲むように矩形状に4つ配置されると共に、前記後方センサが前記膝外側後方又は前記膝内側後方に上下に並べて2つ配置される膝関節炎症検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の膝関節炎症検出装置において、
膝の屈伸動作における前記膝関節の角度ごとに前記炎症の有無及び位置を出力する出力制御手段を備える膝関節炎症検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の膝関節炎症検出装置において、
装着された複数の前記センサのうち、所定の個数以上のセンサについて検出信号が得られた場合には当該検出信号に対応する炎症の位置を出力し、所定の個数未満のセンサについての検出信号を検出数として出力する膝関節炎症検出装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の膝関節炎症検出装置において、
前記炎症の位置を出力する場合に、膝の内側にある炎症と膝の外側にある炎症とを異なる態様で出力する膝関節炎症検出装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の膝関節炎症検出装置において、
前記センサが検出した検出信号の周波数に応じて、当該検出信号に対応する炎症が軟骨、半月板、骨のいずれの炎症であるかを特定する特定手段を備える膝関節炎症検出装置。
【請求項7】
膝関節部位の動作時に当該膝関節部位から生じる弾性波を超音波の検出信号として検出し、検査時には、前記検査対象者の膝正面から見て膝蓋骨を囲むように複数配置される前方センサと、前記検査対象者の膝外側後方及び/又は膝内側後方に複数配置される後方センサとが前記検査対象者に装着される各センサからの検出信号に基づいて、検査対象者の膝関節に生じている炎症の有無と当該炎症の位置を特定する炎症位置特定手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする膝関節炎症検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膝関節における炎症を検出する膝関節炎症検出装置に関し、特に炎症の3次元位置を正確に検出する膝関節炎症検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
膝関節に生じた炎症を診断する場合に、一般的にX線、磁気共鳴診断装置(MRI)、コンピュータトポグラフィー(CT)等が利用されている。MRIは高エネルギー磁場を利用するため、体内に金属等の物質が含まれている場合には注意が必要であり、人によっては使用不可となり診断ができないこともある。CTはX線を使用するため、妊娠中などは特に注意が必要となり、また静的なモードでしか撮像することができないという問題も有している。
【0003】
このような問題に対して、発明者らが特許文献1に示す技術を開示している。特許文献1に示す技術は、関節炎症検出装置が、検査対象者の関節部位に複数配設され関節部位の動作時に関節部位における骨から生じる弾性波を超音波の検出信号として検出する複数のAEセンサと、検出信号を増幅する増幅器と、増幅された検出信号に基づいて、検査対象者の骨に生じている炎症の有無を判定する異常診断部とを備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6449753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す技術は、膝関節部位に生じている炎症を骨から生じる弾性波を検出することで、炎症の有無及びその位置や大きさをある程度特定することが可能であるものの、検査対象者の膝正面から見て4つのAEセンサだけで炎症を検出しているため、炎症の3次元位置を正確に求めるのが困難であるという課題を有する。
【0006】
すなわち、理論上は4つのセンサから3次元位置を求めることができるものの、発明者らが実験を重ねる中で4つのセンサのみで3次元位置を特定するのは非常に困難であることがわかった。その理由は、炎症の状態によって4つ全てのセンサで弾性波を検出できるものと、そうではない炎症があり、3つ以下のセンサでしか検出できないような弾性波はその位置を特定することができない。
【0007】
また、4つ全てのセンサでは検出できない弾性波を発生する深刻な炎症もあれば、同じように4つ全てのセンサで検出できない微小な炎症やノイズ等もあり、それらを区別して診断できることが望ましいという課題がある。
【0008】
本発明は、膝関節の炎症の3次元位置を膝の前方と後方とに装着された複数のセンサから正確に特定することが可能となる膝関節炎症検出装置及び膝関節炎症検出プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る膝関節炎症検出装置は、膝関節部位の動作時に当該膝関節部位から生じる弾性波を超音波の検出信号として検出するセンサと、前記検出信号に基づいて、検査対象者の膝関節に生じている炎症の有無と当該炎症の位置を特定する炎症位置特定手段とを備え、検査時には、前記検査対象者の膝正面から見て大腿骨と脛骨との接合箇所を囲むように複数配置される前方センサと、前記検査対象者の膝外側後方及び/又は膝内側後方に複数配置される後方センサとが前記検査対象者に装着されるものである。
【0010】
このように、本実施形態に係る膝関節炎症検出装置においては、膝関節部位の動作時に当該膝関節部位から生じる弾性波を超音波の検出信号として検出するセンサと、前記検出信号に基づいて、検査対象者の膝関節に生じている炎症の有無と当該炎症の位置を特定する炎症位置特定手段とを備え、検査時には、前記検査対象者の膝正面から見て大腿骨と脛骨との接合箇所を囲むように複数配置される前方センサと、前記検査対象者の膝外側後方及び/又は膝内側後方に複数配置される後方センサとが前記検査対象者に装着されるため、センサで検出した信号に基づいて膝関節における炎症の3次元位置を正確に特定することができるという効果を奏する。
【0011】
特に、膝関節の後方(膝正面から見て奥行方向)における大腿骨と脛骨との接触点における炎症をその位置を含めて正確に特定することが可能である。
【0012】
本発明に係る膝関節炎症検出装置は、前記前方センサが大腿骨と脛骨との接合箇所を囲むように矩形状に4つ配置されると共に、前記後方センサが前記膝外側後方又は前記膝内側後方に上下に並べて2つ配置されるものである。
【0013】
このように、本実施形態に係る膝関節炎症検出装置においては、前方センサが大腿骨と脛骨との接合箇所を囲むように矩形状に4つ配置されると共に、前記後方センサが前記膝外側後方又は前記膝内側後方に上下に並べて2つ配置されるため、膝関節における炎症の3次元位置を正確、且つ確実に特定することができるという効果を奏する。
【0014】
本発明に係る膝関節炎症検出装置は、膝の屈伸動作における前記膝関節の角度ごとに前記炎症の有無及び位置を出力する出力制御手段を備えるものである。
【0015】
このように、本実施形態に係る膝関節炎症検出装置においては、膝の屈伸動作における前記膝関節の角度ごとに前記炎症の有無及び位置を出力する出力制御手段を備えるため、膝の動作時における炎症の影響を診断することができると共に、医師のような専門家であれば角度に応じた炎症の状態をある程度推察することも可能になるという効果を奏する。
【0016】
本発明に係る膝関節炎症検出装置は、装着された複数の前記センサのうち、所定の個数以上のセンサについて検出信号が得られた場合には当該検出信号に対応する炎症の位置を出力し、所定の個数未満のセンサについての検出信号を検出数として出力するものである。
【0017】
このように、本実施形態に係る膝関節炎症検出装置においては、装着された複数の前記センサのうち、所定の個数以上のセンサについて検出信号が得られた場合には当該検出信号に対応する炎症の位置を出力し、所定の個数未満のセンサについての検出信号を検出数として出力するため、反応するセンサの個数に応じて主要となる炎症と、その他の細かい炎症とに区別した出力が可能となり、医師による炎症の診断を補助することができるという効果を奏する。
【0018】
本発明に係る膝関節炎症検出装置は、前記炎症の位置を出力する場合に、膝の内側にある炎症と膝の外側にある炎症とを異なる態様で出力するものである。
【0019】
このように、本実施形態に係る膝関節炎症検出装置においては、前記炎症の位置を出力する場合に、膝の内側にある炎症と膝の外側にある炎症とを異なる態様で出力するため、例えば診察中などにおいて炎症の大まかな位置を知りたい場合などに、簡単な処理で瞬時に見極めることができるという効果を奏する。
【0020】
本発明に係る膝関節炎症検出装置は、前記センサが検出した検出信号の周波数に応じて、当該検出信号に対応する炎症が軟骨、半月板、骨のいずれの炎症であるかを特定する特定手段を備えるものである。
【0021】
このように、本実施形態に係る膝関節炎症検出装置においては、前記センサが検出した検出信号の周波数に応じて、当該検出信号に対応する炎症が軟骨、半月板、骨のいずれの炎症であるかを特定するため、炎症の状態に応じて診断方針などを決めやすくなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施形態に係る膝関節炎症検出装置の構成を示す機能ブロック図である。
図2】6つのAEセンサを対象者の膝関節に装着した場合の位置関係を示す図である。
図3】AEセンサの3次元配置と炎症位置を示す概略図である。
図4】第1の実施形態に係る膝関節炎症検出装置の演算装置の構成を示す機能ブロック図である。
図5】AE信号の源位置を座標上にマッピングした結果を示す図である。
図6】膝の角度に対するAE信号の検出数を示す図である。
図7】膝の角度に対する源位置が特定されたAE信号の信号検出時間を示す図である。
図8】膝の屈伸角度に対する各センサのAE信号の検出数とAE信号の源位置を測定時間に応じて示した図である。
図9】膝関節の臨床検査結果を示す第1の図である。
図10】膝関節の臨床検査結果を示す第2の図である。
図11】第1の実施形態に係る膝関節炎症検出装置における演算装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0024】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る膝関節炎症検出装置について、図1ないし図11を用いて説明する。本実施形態に係る膝関節炎症装置は、5つ以上(好ましくは6つ以上)のAEセンサ(アコースティック・エミッションセンサ)を用いて膝関節の炎症の3次元位置を特定すると共に、炎症の広がり具合や種別を判断するための指標となる情報を出力するものである。なお、以下の実施形態においては6つのAEセンサを用いた場合について説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る膝関節炎症検出装置の構成を示す機能ブロック図である。本実施形態に係る膝関節炎症検出装置1は、対象者11の膝関節に装着される複数のAEセンサ12(12a~12f)と、膝関節を挟んで大腿骨に対応する位置及び脛骨に対応する位置に配設されて膝関節の角度を検出するゴニオメータ13と、各AEセンサ12に接続されるプリアンプ14と、角度センサ13に接続するゴニオアンプ15と、各センサからの情報に基づいて膝関節の炎症の位置等を演算する演算装置16とを備える。
【0026】
AEセンサ12は、一般的に構造物に発生する亀裂や変形等の位置、大きさを弾性波で計測し、構造物の劣化度合いを診断するのに利用されている。本実施形態においては、骨についても構造物と同様の経年劣化があることから、このAEセンサ12を膝関節の炎症の検出に適用する。
【0027】
図2は、6つのAEセンサ12a~12fを対象者11の膝関節に装着した場合の位置関係を示す図である。図2(A)が膝関節の解剖学的位置を示す図、図2(B)が取り付け座標を示す図である。図中のS1~S6はAEセンサ12a~12fに相当するものである。6つのAEセンサ12a~12fを装着する場合は、図2(A)に示すように、対象者11の膝正面から見て大腿骨21と脛骨22との接合箇所23を矩形状(水平方向及び垂直方向をそれぞれ向かい合う2辺とする矩形状)に囲むように4つのAEセンサ12a,12b,12c,12dが装着されると共に、対象者11の膝内側後方に大腿骨21と脛骨22との接合箇所23を挟んで垂直方向に直線状に2つのAEセンサ12e,12fが装着される。各AEセンサ12間の距離を測定し、図2(B)に示すような座標を形成する。形成された座標に基づいて炎症の3次元位置を特定する処理については、詳細を後述する。
【0028】
なお、対象者11の膝正面から見て矩形状に装着される4つのAEセンサ12a,12b,12c,12dを前方センサとして、膝内側後方に装着される2つのAEセンサ12e,12fを後方センサとし、この後方センサは膝外側後方に装着されるようにしてもよい。
【0029】
6つのAEセンサ12はプリアンプ14に接続され、各センサに所定の大きさのゲインを提供する。本実施形態においては、例えば40dBのゲインが得られるようにする。また、ゴニオメータ13はゴニオアンプ15に接続されて検出された信号が増幅される。AEセンサ12及びゴニオアンプ15で検出され、それぞれのアンプで増幅された信号は演算装置16に入力され、炎症位置などが演算される。
【0030】
ここで、6つのAEセンサ12を用いた場合の炎症の源位置を求める方法について説明する。図3は、AEセンサの3次元配置と炎症位置を示す概略図である。6つのAEセンサ12の座標がS(x,y,z),S(x,y,z),S(x,y,z),S(x,y,z),S(x,y,z),S(x,y,z)で示され、P(x,y,z)が任意のAE源位置として想定されている。
【0031】
図3から、3次元のAE源位置の決定に関する6つのセンサより支配方程式は次のように表すことができる。
【0032】
【数1】
【0033】
ここで、tは源位置からAE信号が最初に到達する最も近いセンサまでのAE波の到達時間である。センサ12aとセンサ12b,12c,12d,12e,12fの間の信号到達時間差(TDOA)は、それぞれt12,t13,t14,t15,t16として示される。また、AE波の伝播速度はvで表される。空間幾何学によれば、式(1)~(6)は球を表し、それぞれがそれぞれのセンサ位置を幾何学的中心と見なす。したがって、これらの方程式の解は、AE信号の源位置ポイント(全ての球の同時発生ポイント)として決定することができる。この交点の座標が源位置の3次元座標として表される。
【0034】
図4は、本実施形態に係る膝関節炎症検出装置の演算装置の構成を示す機能ブロック図である。演算装置16は、AEセンサ12及びゴニオメータ13からの増幅された信号を入力する入力部31と、入力された信号情報を記憶する信号情報記憶部32と、取得した信号情報に基づいて炎症の3次元位置を特定する炎症位置算出部33と、信号情報記憶部32に記憶された情報、及び特定された炎症の3次元位置情報に基づいて検出された炎症に関する情報を出力する出力制御部34とを備える。
【0035】
演算装置16に入力された各センサからの信号は信号情報記憶部32に記憶され、その情報に基づいて3次元位置特定の演算や出力の編集等が行われる。炎症位置算出部33の処理は、上述した通り式(1)~(6)の解で求めることができる。炎症位置算出部33及び出力制御部34の処理を実際に行った場合の具体例を以下に示す。
【0036】
6つのAEセンサ12を対象者11に装着した結果、各AEセンサ12の配置が以下のような座標となった。
【0037】
【表1】
【0038】
AEセンサ12とゴニオメータ13を装着した状態で対象者11に膝の屈伸(例えば、1セット3回の屈伸運動を5セット、すなわち合計15回の屈伸運動)を行ってもらった結果、得られたAE信号から炎症位置算出部33の処理により、以下のようなAE信号の源位置座標が得られた。
【0039】
【表2】
【0040】
表2のAE信号の源位置を座標上にマッピングした結果を図5に示す。図5に示すように、炎症位置算出部33はAE信号の3次元上の源位置を算出することができる。出力制御部34は、算出されたAE信号の源位置の情報、及び各AEセンサ12から取得した信号情報から図6ないし図8のような検出結果を出力する。
【0041】
図6は、膝の角度に対するAE信号の検出数(Hits)を示すグラフである。このグラフが示す検出数は、各AEセンサ12が検出した全ての信号の合計検出数であり、閾値以上に検出している箇所(角度)では膝関節領域における軟骨や骨の接触箇所に何かしらの異常が生じていることが推定できる。図6においては50度~80度にかけて多くの信号を検出していることから、この範囲の角度で接触している箇所において広く炎症が生じていると判断することができる。
【0042】
図7は、膝の角度に対する源位置が特定されたAE信号の信号検出時間を示すグラフである。縦軸は屈伸運動の開始時間0sから終了時間140sを示しており、グラフ中の〇や△はAE信号の源位置を示すものである。AE信号の源位置を上述した手法で特定するためには、6つ(少なくとも5つ以上)の各AEセンサ12が信号を検出することが必要であるため、グラフ中の〇や△は6つ(又は5つ)のAEセンサ12が信号を検出したことでその源位置が特定されたものである。すなわち、図6の結果にはAE信号の源位置が特定されない場合の検出信号が検出数に含まれて出力されており、図7の結果にはAE信号の源位置が特定された場合の検出信号のみがその検出された時間(測定開始からの経過時間)に応じて出力されている。また、特定された3次元座標から源位置が膝の内側である場合と外側である場合とを〇と△で区別して出力している。
【0043】
図7においては0度~10度にかけて屈伸運動の初期から終盤までAE信号の源位置が検出されていることから、0度~10度の範囲で接触する軟骨や骨の接触箇所に炎症があり、それは膝の外側領域にあると推定することができる。また、30度付近、及び70度~90度にかけてAE信号の源位置が検出されていることから、それらの角度において接触する軟骨や骨の接触箇所に高確率に炎症があり、それは膝の内側領域にあると推定することができる。ここで推定される炎症は、全てのAEセンサ12で検出できるほどの炎症であるため、損傷がある程度大きい可能性が高く注意が必要である。医者はこのような検出結果を見てからCT検査を行うかどうか等の判断が可能となる。
【0044】
図8は、図6及び図7の結果を合わせたものであり、膝の屈伸角度に対する各センサのAE信号の検出数(棒グラフで示すHits)とAE信号の源位置を測定時間に応じて示したものである。また、源位置は膝の内側(〇)と外側(△)を区別して示している。
【0045】
図8においては、図6及び図7の結果を総合的に見て判断を行うことが可能となっており、0度~10度の範囲では信号の検出数が少なく源位置が特定される炎症が多いことから、損傷が大きい炎症が膝の外側にあると判断することができる。30度付近も同様に、信号の検出数は少ないが源位置が特定された炎症があることから、損傷が大きい炎症が膝の内側にあると判断することができる。ただし、0度~10度の範囲に比べると特定された炎症の数が少なく測定の後半に生じていることから、治療の緊急性が高い損傷ではないと判断することが可能である。70度~90度の範囲では信号の検出数が多く、且つ源位置が特定された炎症が測定前半に複数検出されている。源位置が特定された炎症が測定前半に複数検出されていることから、損傷が大きい炎症が膝の内側にある可能性が非常に高いと判断できる。また、信号の検出数が広範囲に多くなっていることから、広く浅い炎症や広範囲に亘る骨や軟骨の劣化、変形等があると判断できる。これらのことから、70度~90度の範囲では膝の内側に広範囲の炎症、劣化、変形等があり、その影響により大きく損傷した炎症が生じている可能性が高いと判断することが可能となる。
【0046】
図9及び図10は、上記図6図8の結果が得られた膝関節の臨床検査結果を示す図である。図9(A)は膝関節の正面と側面のレントゲン画像、図9(B)は膝関節の正面と側面のMRI画像、図10(A)が脛骨の外側領域の関節鏡画像、図10(B)が大腿骨と半月板の内側領域の関節鏡画像である。図9に示すように、レントゲン画像及びMRI画像を医師が診断した結果、図6図8で得られた結果に合致する箇所で損傷が見られた。
【0047】
また、図10(A)では脛骨の表面が線維化してけば立ったような表面になっている。これは、図8における△の炎症に合致している。また、図10(B)では大腿骨や半月板の内側を撮像したものであるが、軟骨が広く損傷しており表面に損傷が見られる。これは、図8における〇及び検出数の結果に合致している。つまり、図6図8で得られた結果について臨床的な検証を行ったところ、損傷具合や損傷箇所の結果が合致していることが明らかとなり、上記図6図8の結果を膝関節炎症を診断する際の重要な情報として活用することが可能である。
【0048】
図11は、本実施形態に係る膝関節炎症検出装置における演算装置の動作を示すフローチャートである。AEセンサ12やゴニオメータ13が対象者11に装着されて検査が開始されると、演算装置16の入力部31がAEセンサ12が検出した信号及びゴニオメータ13が検出した信号を入力し、信号情報記憶部32に格納する(S1)。炎症位置算出部33が、信号情報記憶部32に記憶されたAEセンサ12の信号情報に基づいて炎症の3次元位置を特定する(S2)。出力制御部32が、信号情報記憶部32に記憶されたAEセンサ12の信号情報、ゴニオメータ13の信号情報、及び特定された炎症の3次元位置の情報を用いて、上述した図6ないし図8に示すような情報を出力して(S3)、処理を終了する。
【0049】
なお、出力制御部32による出力情報は、図6ないし図8の全てを出力してもよいし、いずれか1つのみを出力してもよい。
【0050】
また、AEセンサ12が検出した信号の周波数に応じて炎症の原因が軟骨、半月板、骨のいずれであるかを特定できるようにしてもよい。すなわち、軟骨、半月板、骨はいずれも構成成分が異なり、その硬度なども異なるものであるため、亀裂や変形等により生じる弾性波にもそれぞれに対応した特徴が周波数で現れる。その周波数の特徴を区分けすることで炎症の原因が軟骨、半月板、骨のいずれであるかを特定することができる。
【0051】
このように、本実施形態に係る膝関節炎症検出装置においては、検査時に対象者11の膝正面から見て大腿骨と脛骨との接合箇所を囲むように複数配置される前方センサと、対象者11の膝外側後方及び/又は膝内側後方に複数配置される後方センサとが対象者11に装着されるため、AEセンサ12で検出した信号に基づいて膝関節における炎症の3次元位置を正確に特定することができる。
【0052】
また、前方センサが大腿骨と脛骨との接合箇所を囲むように矩形状に4つ配置されると共に、前記後方センサが前記膝外側後方又は前記膝内側後方に上下に並べて2つ配置されるため、膝関節における炎症の3次元位置を正確、且つ確実に特定することができる。
【0053】
さらに、膝の屈伸動作における膝関節の角度ごとに炎症の有無及び位置を出力するため、膝の動作時における炎症の影響を診断することができると共に、医師のような専門家であれば角度に応じた炎症の状態をある程度推察することも可能になる。
【0054】
さらにまた、装着された複数のAEセンサ12のうち、所定の個数以上のセンサについて検出信号が得られた場合には当該検出信号に対応する炎症の源位置を出力し、所定の個数未満のセンサについての検出信号を検出数として出力するため、反応するセンサの個数に応じて主要となる炎症と、その他の細かい炎症とに区別した出力が可能となり、医師による炎症の診断を補助することができる。
【0055】
さらにまた、炎症の位置を出力する場合に、膝の内側にある炎症と膝の外側にある炎症とを異なる態様で出力するため、例えば診察中などにおいて炎症の大まかな位置を知りたい場合などに、簡単な処理で瞬時に見極めることができる。
【0056】
さらにまた、AEセンサ12が検出した検出信号の周波数に応じて、当該検出信号に対応する炎症が軟骨、半月板、骨のいずれの炎症であるかを特定するため、炎症の状態に応じて診断方針などを決めやすくなる。
【符号の説明】
【0057】
1 膝関節炎症検出装置
11 対象者
12(12a~12f) AEセンサ
13 ゴニオメータ
14 プリアンプ
15 ゴニオアンプ
16 演算装置
31 入力部
32 信号情報記憶部
33 炎症位置算出部
34 出力制御部

図1
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