(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090032
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】レンズユニット及びカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 5/00 20060101AFI20230622BHJP
G02B 7/02 20210101ALI20230622BHJP
G03B 9/02 20210101ALI20230622BHJP
【FI】
G02B5/00 B
G02B7/02 H
G03B9/02 A
G02B7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204759
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 直樹
【テーマコード(参考)】
2H042
2H044
2H080
【Fターム(参考)】
2H042AA09
2H042AA22
2H044AG01
2H044AJ06
2H080AA10
2H080AA14
2H080AA30
(57)【要約】
【課題】カメラモジュール1のレンズユニット2に入射する不要光の除去に有効な、リング状の遮光部材が組み込まれたレンズユニット2と、該ユニット2を備えたカメラモジュール1と、を提供する。
【解決手段】カメラモジュール1は、レンズユニット2と、レンズユニット2を通して被写体を撮像する撮像素子9と、を有する。レンズユニット2は、光軸方向Xに積み重ねられたレンズ41,43,45,47,49からなるレンズ群を有する。レンズ41及び43、レンズ43及び45、並びに、レンズ47及び49の間には、スペーサー61,63,65が介在してある。スペーサー61,63,65の本体である基材61a,63a,65aの少なくとも1つの、少なくとも端面側には、反射防止膜7が設けてある。反射防止膜7は、特定組成の液剤組成物から形成されたスプレー塗装による、厚さが2μm以上40μm以下の膜からなる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸方向に積み重ねられた複数のレンズからなるレンズ群をホルダー内に備えたレンズユニットにおいて、少なくとも一対のレンズ間には、リング状の遮光部材が介在してあり、
遮光部材は、少なくとも端面に反射防止膜を有し、
反射防止膜は、液剤組成物から形成されたスプレー塗装による、厚さが2μm以上40μm以下の膜からなり、
液剤組成物は、(A)、(B)、及び(C)を少なくとも含み、
(B)は、組成物の全固形分の総量100質量%中に、20質量%以上60質量%以下で含有され、
(B)は、(B1)及び(B2)を90質量%以上含み、(B1):1に対する(B2)の質量比が1.8以上3.3以下である、レンズユニット。
(A)樹脂成分
(B)凹凸形成粒子
(B1)粒子径(d1)が0.05μm以上0.4μm以下の無機系小粒子
(B2)粒子径(d2)が2μm以上6μm以下の無機系大粒子
(C)希釈溶媒
【請求項2】
(B2)はシリカを含む、請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
シリカは、着色剤によって黒色化した複合シリカを含む、請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
(B1)はカーボンブラックを含む、請求項1~3のいずれかに記載のレンズユニット。
【請求項5】
膜が形成された面の最表面の、
入射角度60°の入射光に対する光沢度が1%未満、
入射角度85°の入射光に対する光沢度が5%未満、
波長550nmの光に対する反射率が4%以下、
SCE方式によるCIELAB表色系でのL値が22以下で、かつ
光学濃度が1.0以上、
である請求項1~4のいずれかに記載のレンズユニット。
【請求項6】
膜が形成された面の最表面の、
JIS B0601:2001における最大高さRzが7μm以上、
輪郭曲線要素の長さの平均Rsmは80μm以上、
輪郭曲線のスキューネスRskが0.3以下で、かつ
輪郭曲線のクルトシスRkuが3以上、
である請求項5に記載のレンズユニット。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のレンズユニットと、前記レンズユニットを通して被写体を撮像する撮像素子と、を有するカメラモジュール。
【請求項8】
レンズユニットの構成部材に形成される反射防止膜であって、
液剤組成物から形成されたスプレー塗装による、厚さが2μm以上40μm以下の膜からなり、
液剤組成物は、(A)、(B)、及び(C)を少なくとも含み、
(B)は、組成物の全固形分の総量100質量%中に、20質量%以上60質量%以下で含有され、
(B)は、(B1)及び(B2)を90質量%以上含み、(B1):1に対する(B2)の質量比が1.8以上3.3以下である、反射防止膜。
(A)樹脂成分
(B)凹凸形成粒子
(B1)粒子径(d1)が0.05μm以上0.4μm以下の無機系小粒子
(B2)粒子径(d2)が2μm以上6μm以下の無機系大粒子
(C)希釈溶媒
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズユニットと、これを用いたカメラモジュールとに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット端末、デジタルカメラ等の電子機器には、被写体を撮影して画像信号に変換するためのカメラモジュールが内蔵されている。このカメラモジュールは、被写体を撮像する撮像素子と、この撮像素子上に被写体画像を結像させるためのレンズユニットとを備えている。レンズユニットは、通常、複数の光学レンズの組み合わせから構成される。
【0003】
カメラモジュールには、被写体画像の結像に不要な入射光や反射光(以下単に「不要光」ともいう。)を除去し、ハレーション、レンズフレア、ゴースト等の発生を防ぎ、撮像画像の画質を向上させることが求められる。そのための一手段として、カメラモジュールに用いられるレンズユニットには、構成する複数の光学レンズに対し、一対の光学レンズ間に、不要光を除去するためのリング状の遮光部材を介在させることが行われる。
【0004】
この種の遮光部材として、フィルム基材の両面に、カーボンブラック、滑剤、微粒子、及びバインダー樹脂を含有する遮光層を形成した遮光フィルムを用い、これをリング状に加工して形成したもの(例えば特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の遮光部材を一対の光学レンズ間に介在させた場合、不要光の除去が十分ではなく、レンズユニットに入射した不要光がフィルム基材の露出部分(遮光層が形成されていないフィルム基材の端面)で反射され、その結果、フレア現象を生じさせることがあった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものである。本発明は、カメラモジュールのレンズユニットに入射する不要光の除去に有効な、リング状の遮光部材が組み込まれたレンズユニットと、該ユニットを備えたカメラモジュールと、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、レンズユニットの一対のレンズ間に介在させるリング状の遮光部材が、以下の要件を満たすことによって、カメラモジュールのレンズユニットに入射する不要光の除去に有効であることを見出した。
・所定の粒子径範囲を有する大小の無機系粒子を所定の質量比範囲で含む凹凸形成粒子を所定割合で含む、特定組成の液剤組成物を用いる。
・上記特定組成の液剤組成物を用い、スプレー塗装で所定厚みの膜を形成する。
本発明者は、こうした新たな知見に基づき、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0009】
以下では、(A)樹脂成分、(B)凹凸形成粒子、(B1)粒子径(d1)が0.05μm以上0.4μm以下の無機系小粒子、(B2)粒子径(d2)が2μm以上6μm以下の無機系大粒子、(C)希釈溶媒、とする。
【0010】
本発明によれば、
光軸方向に積み重ねられた複数のレンズからなるレンズ群をホルダー内に備えたレンズユニットにおいて、少なくとも一対のレンズ間には、リング状の遮光部材が介在してあり、
遮光部材は、少なくとも端面に反射防止膜を有し、
反射防止膜は、液剤組成物から形成されたスプレー塗装による、厚さが2μm以上40μm以下の膜からなり、
液剤組成物は、(A)、(B)、及び(C)を少なくとも含み、
(B)は、組成物の全固形分の総量100質量%中に、20質量%以上60質量%以下で含有され、
(B)は、(B1)及び(B2)を90質量%以上含み、(B1):1に対する(B2)の質量比が1.8以上3.3以下である、レンズユニット
が提供される。
【0011】
本発明によれば、
上記レンズユニットと、
上記レンズユニットを通して被写体を撮像する撮像素子と、を有するカメラモジュール
が提供される。
【0012】
本発明によれば、
レンズユニットの構成部材に形成される反射防止膜であって、
液剤組成物から形成されたスプレー塗装による、厚さが2μm以上40μm以下の膜からなり、
液剤組成物は、(A)、(B)、及び(C)を少なくとも含み、
(B)は、組成物の全固形分の総量100質量%中に、20質量%以上60質量%以下で含有され、
(B)は、(B1)及び(B2)を90質量%以上含み、(B1):1に対する(B2)の質量比が1.8以上3.3以下である、反射防止膜
が提供される。
【0013】
反射防止膜が形成されるレンズユニットの構成部材としては、レンズユニットの、複数のレンズからなるレンズ群を保持するホルダーや、該ホルダー内に保持されるレンズ群における一対のレンズ間に介在させるリング状の遮光部材、等が挙げられる。
各構成部材における反射防止膜の形成場所としては、レンズ群保持ホルダーの場合その内壁、リング状遮光部材の場合、その端面(内端面、若しくは外端面、又は内外両端面)、である。
【0014】
上記の液剤組成物は、以下の態様を含みうる。
・(B2)は、シリカを含むことが好ましい。
・シリカは、着色剤によって黒色化した複合シリカを含むことが好ましい。
・(B1)は、カーボンブラックを含むことが好ましい。
・25℃における粘度が1mPa・s以上30mPa・s以下であることが好ましい。
【0015】
上記の反射防止膜は、以下の態様を含みうる。
・膜が形成された面の最表面の、入射角度60°の入射光に対する光沢度(以下単に「60°光沢度」ともいう。)が1%未満、入射角度85°の入射光に対する光沢度(以下単に「85°光沢度」ともいう。)が5%未満、波長550nmの光に対する反射率(以下単に「反射率」ともいう。)が4%以下、SCE方式によるCIELAB表色系でのL値が22以下で、かつ光学濃度が1.0以上、であることが好ましい。
・膜が形成された面の最表面の、JIS B0601:2001における最大高さRz(以下単に「Rz」ともいう。)が7μm以上、輪郭曲線要素の長さの平均Rsm(以下単に「Rsm」ともいう。)は80μm以上、輪郭曲線のスキューネスRsk(以下単に「Rsk」ともいう。)が0.3以下で、かつ輪郭曲線のクルトシスRku(以下単に「Rku」ともいう。)が3以上、であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カメラモジュールのレンズユニットに入射する不要光の除去に有効なリング状の遮光部材が組み込まれたレンズユニット、及び該ユニットを備えたカメラモジュール、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一形態に係るレンズユニット及びカメラモジュールを模式的に示す分解斜視図である。
【
図2】(a)
図1に示したレンズユニットの構成部材の一つであるリング状遮光部材の一例としてのレンズスペーサーの平面図、(b)
図2(a)のIIb-IIb線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し、適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲のものである。
【0019】
本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値、又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率、又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率、又は含有量を意味する。
【0020】
図1に示すように、本発明の一形態に係るカメラモジュール1は、レンズユニット2を有する。レンズユニット2は、光軸方向Xに積み重ねられた5枚のレンズ41,43,45,47,49からなるレンズ群を有する。レンズ群を構成するレンズ枚数は、5枚に限定されない。本例では、レンズ群を構成する5枚のレンズ41,43,45,47,49のうち、三対のレンズ(レンズ41及び43、レンズ43及び45、並びに、レンズ47及び49)間には、リング状遮光部材としてのスペーサー61,63,65が介在してあり、スペーサー群を形成している。レンズ群とスペーサー群はともに、樹脂や金属等で構成される、多段円筒状のホルダー(鏡筒)8内に載置される。本例のホルダー8は、内周部に、3つの段差部81,83,85が設けられており、これらの段差部81,83,85を利用して、レンズ群とスペーサー群が、同一光軸上に配置して積み重ねられた状態で、ホルダー8内の所定位置に収納配置されている。レンズ41,43,45,47,49は、種々のレンズ(凸レンズや凹レンズ等)であってよい。その曲面は、球面、非球面を問わず、またその材質も、樹脂(例えば、環状オレフィン系樹脂(COCやCOP)、ポリカーボネート系樹脂、液晶ポリマー、等)、ガラスを問わない。
カメラモジュール1は、レンズユニット2とともに、撮像素子9を有する。撮像素子9は、レンズユニット2の光軸上に配置され、レンズユニット2を通して被写体を撮像する。撮像素子9は、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等で構成される。
【0021】
スペーサー61,63,65は、平面視した場合、円環状(リング状)の外形を有し、かつ断面視した場合、中央部分に円柱状の中空部を備えた形状を有している。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、スペーサー61,63,65はいずれも、それぞれと略同一形状のスペーサー基材(以下単に「基材」ともいう。)61a,63a,65aを有する。
【0022】
基材61a,63a,65aは、樹脂フィルム等で構成される。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスチレンフィルム等の他、ポリカーボネート系、アクリル系、ナイロン系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、セルロース系、ポリスルホン系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリエーテルスルホン系、ポリエーテルエーテルケトン系のフィルム等が挙げられる。
【0023】
基材61a,63a,65aは、顔料を含有してもよい。含有させてもよい顔料は、特に限定されず、後述する(B1)及び(B2)と同様、樹脂系粒子、及び無機系粒子のいずれを用いることもできる。樹脂系粒子としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルマリン縮合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。無機系粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、マグネタイト系ブラック、銅・鉄・マンガン系ブラック、チタンブラック、カーボンブラック、アニリンブラック等が挙げられる。これらの顔料は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
顔料を基材61a,63a,65a中に含有させる場合の含有割合は、要求される性能等に応じて適宜設定でき、特に限定されない。基材61a,63a,65aに対して、例えば0.3質量%以上、好ましくは0.4質量%以上、例えば15質量%以下、好ましくは12質量%以下、程度とされる。
【0025】
基材61a,63a,65aの厚みは、特に限定されないが、軽量化、及び薄膜化の観点からは、例えば3μm以上、好ましくは4μm以上、例えば150μm以下、好ましくは140μm以下、程度とされる。特に薄膜化が要求される用途の場合、基材61a,63a,65aの厚みは、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、好ましくは50μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは15μm以下、とされる。
【0026】
(反射防止膜)
基材61a,63a,65aの少なくとも1つの、少なくとも端面側には、反射防止膜7が設けてある。「基材61a,63a,65aの少なくとも1つ」であるから、基材61a,63a,65aのいずれか1つ、若しくは、いずれか2つ、若しくは、そのすべて、に反射防止膜7が形成されることもある。「端面」は、内端面、外端面を含む。「端面側」であるから、反射防止膜7は、基材61a,63a,65aの少なくとも1つの端面(内端面、若しくは外端面、又は内外両端面)に直接形成される態様の他、基材と反射防止膜7との間に任意の層(例えばプライマー層等)が介在させた上で形成される態様を含む。
反射防止膜7は、基材61a,63a,65aの少なくとも1つの、端面側とともに、少なくとも一方の主面(表面、裏面、若しくは表裏両面)側、に設けてあってよい。
図2(a)及び
図2(b)では、基材61a,63a,65aの、内外両端面、及び両主面(表裏面)に直接、反射防止膜7が形成される場合を例示している。
【0027】
反射防止膜7の役割は次のとおりである。レンズユニット2の被写体側から入射してきた光のうち、スペーサー61,63,65の端面に当たらない光(有効光線。仮に「入射光a」)は、レンズユニット2を通過し撮像素子9に入射する。一方、レンズユニット2に入射してきた光のうちスペーサー61,63,65の端面に届いた光(不要光。仮に「入射光b」)は、基材61a,63a,65aに形成された反射防止膜7に当たる。基材61a,63a,65aに反射防止膜が形成されていなかった場合、基材61a,63a,65aの端面に届いた光は面反射して画像に直接は関係のない内面反射光として撮像素子9に入射してしまう。この内面反射光は、画像を悪くする要素であるフレアやゴースト等の原因になる。これに対し、一形態のごとく、基材61a,63a,65aに反射防止膜7が形成されていることにより、レンズユニット2へ斜めから入ってくる、不要光としての入射光bに対する内面反射を減らすことができ、その結果、画像に悪影響を与える内面反射光が減少するので、フレアやゴーストの発生を防止することができる。
【0028】
本例の反射防止膜7は、液剤組成物から形成された膜で構成される。
【0029】
<液剤組成物>
一形態に係る液剤組成物(以下単に「組成物」ともいう。)は、基材61a,63a,65aの少なくとも1つ(以下単に「被塗物」ともいう。)の、少なくとも端面側に、さらには、少なくとも一方の主面側へ膜を形成するために使用され、(A)樹脂成分、(B)凹凸形成粒子、及び(C)希釈溶媒、を含む。組成物の形成に用いる(B)は、(B1)粒子径(d1)が0.05μm以上0.4μm以下の小粒子、及び(B2)粒子径(d2)が2μm以上6μm以下の大粒子、を含み、かつ(B1)及び(B2)以外の成分を含むことはありうる。すなわち、一形態に係る組成物は、(A)、(B1)、(B2)、及び(C)を含んで構成される。一形態に係る組成物は、被塗物表面に塗布するに際し、スプレー塗装を好適に使用することができる。
【0030】
-(A)-
組成物の形成に用いる(A)は、(B)のバインダーとなる。(A)の材料は特に限定されず、熱可塑性樹脂、及び熱硬化性樹脂のいずれを用いることもできる。熱硬化性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリアクリルエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ブチラール樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂等が挙げられる。形成される凹凸膜の、耐熱性、耐湿性、耐溶剤性、及び表面硬度の観点からは、(A)として熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、形成される膜の柔軟性、及び強靭さを考慮すると、アクリル樹脂が特に好ましい。(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(A)の含有量(総量)は特に限定されないが、他の成分との配合バランスを考慮すると、組成物の全固形分の総量(100質量%)に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、である。
【0031】
-(B)-
組成物の形成に用いる(B)は、大きさの異なる凹凸形成粒子を複数、組み合わせてなることが必須であり、(B)として特に、(B1)小粒子と、(B2)大粒子と、を組み合わせて使用する。例えば、(B)を、大きさの異なる凹凸形成粒子の2種類のみ(すなわち(B1)及び(B2))で構成する場合、(B2)の粒子径(d2)は、(B1)の粒子径(d1)の、好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上、好ましくは40倍以下、より好ましくは35倍以下、である。(B)として、大きさの異なる凹凸形成粒子を3種類以上用いる場合、粒子径が最大値を示す凹凸形成粒子の粒子径(dmax)と、粒子径が最小値を示す凹凸形成粒子の粒子径(dmin)とが、上記関係(すなわち(dmax)が(dmin)の、好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上、好ましくは40倍以下、より好ましくは35倍以下)となるよう調整すればよい。
【0032】
一形態において、(d1)は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、好ましくは0.4μm以下、より好ましくは0.3μm以下、である。(d2)は、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは4μm以下、である。
(B1)の粒子径(d1)及び(B2)の粒子径(d2)は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定される、体積基準のメジアン径である。
【0033】
一形態において、(B)中での(B2)の質量比は、(B1):1に対して、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.8以上、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.3以下、である。この質量比範囲で、上述した特定粒子径範囲を持つ(B1)と(B2)を組み合わせて使用することにより、形成される膜中で、隣接する2つの(B2)間に1つの(B1)が埋め込まれやすくなり、その結果、膜表面の、低光沢性、及び低反射性を実現できるとともに、黒色度が高められる(L値が低くなる)。
【0034】
(B)中の、(B1)と(B2)の合計含有量(総量)は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、である。その上限は、特に制限されず、100質量%である。すなわち一形態において、(B1)及び(B2)は、100質量%の(B)中に、好ましくは90質量%以上、含有されていればよい。
【0035】
(B)の含有量(総量)は、組成物の全固形分の総量(100質量%)に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、特に好ましくは40質量%以下、である。(B)の総量が20質量%未満であると、光沢上昇、光学濃度不足の不都合を生じ、60質量%を超えると、形成された塗膜中の(A)が相対的に少なくなり、その結果、被塗物からの塗膜脱落の不都合を生じる場合がある。
【0036】
(B2)としては、樹脂系粒子、及び無機系粒子のいずれを用いることもできる。樹脂系粒子としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルマリン縮合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。一方、無機系粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、炭素等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
より優れた特性を得るためには、(B2)は、無機系粒子を用いることが好ましい。(B2)として無機系粒子を用いることにより、より低光沢で高遮光の膜を形成しやすい。(B2)として用いる無機系粒子としては、シリカが好ましい。(B2)の形状は特に限定されないが、形成される膜表面の、一層の、低光沢、低反射、低L値を実現するためには、粒度分布が狭い(CV(Coefficient of Variation)値が例えば15以下)粒子(シャープ品)を用いることが好ましい。CV値は、粒子径の平均値(算術平均粒子径)に対する粒子径分布の拡がり(粒子径のばらつき)度合いを数値化したものである。このような粒子を用いることにより、形成される膜中で(B2)と(B1)の接触機会が増え、膜表面の、一層の、低光沢、低反射、低L値を実現しやすい。
また、形成される膜表面の光沢度をより低減するためには、(B2)として、不定形の粒子を用いることが好ましい。これらの中でも、(B2)として、特に多孔質の不定形シリカ粒子を用いることが好ましい。(B2)としてこのような粒子を用いることにより、膜となったとき、(B2)の表面、及び内部で光が屈折を繰り返すことにより、膜表面の光沢度をさらに低減することができる。
【0038】
一形態において、形成される膜表面の、光の反射を抑制するために、有機系又は無機系着色剤により(B2)を黒色に着色することもできる。このような材料として複合化シリカ、導電性シリカ、黒色シリカ等が挙げられる。
複合化シリカとしては、例えば、カーボンブラック(以下単に「CB」ともいう。)とシリカをナノレベルで合成し複合化したものが挙げられる。導電性シリカとしては、例えば、シリカ粒子にCB等の導電性粒子をコーティングしたものが挙げられる。黒色シリカとしては、例えば、珪石の中に黒鉛を含有している天然鉱石が挙げられる。
【0039】
一方、(B2)と同様に、(B1)の材質も特に限定されず、樹脂系粒子、及び無機系粒子のいずれを用いることもできる。樹脂系粒子としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルマリン縮合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。一方、無機系粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、CB等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(B1)としては、例えば、着色・導電剤として添加されるCB等を用いることもできる。(B1)として、CBを用いることにより、形成される膜が着色するため、さらに反射防止効果が向上し、かつ良好な帯電防止効果が得られる。
【0041】
-(C)-
組成物の形成に用いる(C)は、(A)を溶解し、また、該組成物全体の粘度を調整する目的で、配合される。(C)を使用することにより、(A)、さらには、必要に応じて添加されるその他の成分が混合しやすくなり、組成物の均一性を向上させる。また、組成物の粘度を適度に調整することができ、被塗物の表面に膜を形成するときの、組成物の操作性、及び塗布厚の均一性を高くすることが可能となる。
【0042】
(C)としては、(A)を溶解できる溶媒であれば特に限定されず、有機溶剤、又は水が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等を用いることができる。(C)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
組成物中の、(C)の含有量(総量)は、上記したような(C)の配合による効果を得るためには、(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、好ましくは20質量部以下、である。
【0044】
-(D)任意成分-
組成物には、上記成分((A)、(B)、(C))以外に、本発明の効果を損なわない程度に、(D)が含まれていてもよい。(D)としては、例えば、レベリング剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、分散剤、消泡剤、硬化剤、反応触媒等が挙げられる。
【0045】
特に(A)として熱硬化性樹脂を用いる場合、硬化剤を配合することにより、(A)の架橋を促進させることができる。硬化剤としては、官能基をもつ尿素化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物等が挙げられる。硬化剤としては、この中でも、イソシアネート化合物が好ましい。硬化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
組成物中に硬化剤を配合する場合の割合は、(A)100質量部に対して、好ましくは10質量部以上50質量部以下、である。この範囲で硬化剤を添加することにより、形成される膜硬度が高められ、その結果、該膜が他部材と摺動する環境に置かれても、長期に渡り膜表面の性状が維持され、低光沢、高遮光、低反射、及び高い黒色度が保持されやすい。
組成物中に硬化剤を配合する場合、(A)と硬化剤の反応を促進するために、反応触媒を併用することもできる。反応触媒としては、例えば、アンモニアや塩化アンモニウム等が挙げられる。組成物中に反応触媒を配合する場合の割合は、硬化剤100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下、である。
【0046】
一形態に係る組成物は、被塗物の表面に該組成物を平滑性を保持しながら、スプレーを用いて塗工(スプレー塗装)するという理由から、25℃における粘度が、好ましくは 1mPa・s以上、好ましくは30mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下、である。組成物の粘度が低すぎると、不要光除去を十分に発現可能な厚みの膜を形成することができない場合がありうる。組成物の粘度が高すぎると、被塗物の表面に組成物を均一に噴霧することが難しく、その結果、厚みが一定で性能バラツキの少ない膜を形成することができない場合がありうる。
上記粘度は、組成物に含まれる成分、即ち、用いた(A)、(B)の種類や分子量等によって異なり、また、上記(A)、(B)の他に、(D)を配合した場合、(D)の種類や分子量等によっても異なるが、組成物中の(C)の量を上述の範囲で調整することにより、容易に調整することができる。
【0047】
本発明の一形態に係る組成物は、(C)中に、(A)、(B)、必要に応じて(D)を添加して、混合攪拌することにより調製(製造)することができる。各成分を混合する順序は、特に制限されるものではなく、これらの成分が均一に混合されればよい。
【0048】
本発明の一形態に係る組成物は、1液型であってもよいし、2液型であってもよい。組成物中に(D)として硬化剤を配合する場合、一形態に係る組成物は、例えば、硬化剤以外の成分を含む第1液と、硬化剤を含む第2液と、の2液型であってもよい。
【0049】
膜の形成方法は特に限定されない。スプレー塗装(例えば、エアスプレー、エアレススプレー、静電気スプレー等)、ペイントブラシ、カーテンフローコーティング、ローラーブラシコーティング、バーコーティング、キスロール、メタリングバー、グラビアロール、リバースロール、ディップコート、ダイコート等の任意の方法、又は装置により、被塗物に対して膜を設けることができる。
【0050】
特に、一形態に係る組成物は、小さいスプレー穴からの液滴の噴霧が必要な、スプレー塗装により膜を形成することが好ましい。換言すると、一形態に係る、液剤組成物から形成された膜は、スプレー塗装膜である。
一形態に係る組成物を用いたスプレー塗装によると、組成物からなる液滴が被塗物表面に次々と付着し、それと同時に、被塗物に付着した液滴中の(C)の揮発が進む。その結果、液滴から(C)が除去された固形分(粒)が被塗物表面に次々と積み重なり、固形粒積層物を形成する。一形態によると、この固形粒積層物が膜を構成する。
【0051】
(A)として熱硬化性樹脂を用い、さらに(D)として硬化剤を配合した組成物を用いる場合、被塗物表面に固形粒積層物を付着させた後、その積層物を加熱して硬化させることが好ましい。この際、加熱前積層物中に微量の(C)が残存していても、この加熱によって(C)は完全に揮発する。
加熱条件は、加熱前積層物の厚みや被塗物の耐熱性などにより適宜調整すればよい。加熱条件は、一例として、70℃以上150℃以下で1分間以上10分間以下、好ましくは 100℃以上130℃以下で2分間以上5分間以下、である。
【0052】
反射防止膜7は、基材61a,63a,65aとの密着強度が良好となるとともに、膜が形成された面における内面反射を抑制して、内面反射光の寄与によるフレアやゴーストを抑制可能である限り、その膜厚は特に限定されない。好適な膜厚の一例として、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、好ましくは40μm以下、より好ましくは25μm以下、が挙げられる。
なお、反射防止膜7の膜厚は、被塗物表面から膜の(B2)、及び(B1)により突出している部分を含む高さのことである。膜厚は、JIS K7130に準拠した方法で測定することができる。
【0053】
<膜の特性>
一形態に係る組成物から形成される膜の特性は、以下のとおりである。
【0054】
(光沢度、反射率、L値、光学濃度、密着性)
一形態に係る組成物から形成される膜は、膜表面の、60°光沢度が1%未満、85°光沢度が5%未満、反射率が4%以下、L値が22以下、光学濃度が1.0以上、であることが好ましい。
【0055】
ここで、一形態に係る組成物から形成される膜が最表面に露出している構成であれば、文字どおり、膜表面の、60°光沢度、85°光沢度、光学濃度、反射率、及びL値が上記範囲であることが好ましい。一形態に係る組成物から形成される膜上に他の膜が被覆されている場合には、その他の膜の表面、すなわち遮光部材の最表面の60°光沢度、85°光沢度、光学濃度、反射率、及びL値が上記範囲であることが好ましい。以下これらの表面を合わせて「膜最表面」という。
【0056】
一形態に係る組成物から形成される膜は、膜最表面の、60°光沢度が1%未満、85°光沢度が5%未満、反射率が4%以下、L値が22以下、光学濃度が1.0以上、であることが好ましい。膜最表面の、60°光沢度、85°光沢度、光学濃度、反射率、及びL値が上記範囲であることにより、膜最表面の、低光沢性、高遮光性、低反射率(優れた反射防止性。以下同じ)、及び高い黒色度を実現することができる。
【0057】
60°光沢度の上限値は、より好ましくは0.8%未満、さらに好ましくは0.5%未満、である。60°光沢度を上記範囲に調整することにより、光の乱反射によるフレア・ゴースト現象を効果的に防止することができる。60°光沢度の下限値は、特に限定されず、低ければ低いほどよい。
85°光沢度の上限値は、より好ましくは3.5%未満、さらに好ましくは2.5%未満、である。85°光沢度を上記範囲に調整することにより、よりフレア・ゴースト現象防止、角度依存性が無いといったメリットが得られやすい。85°光沢度の下限値は、特に限定されず、低ければ低いほどよい。
【0058】
反射率の上限値は、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2.5%以下、である。反射率の下限値は、特に限定されず、低ければ低いほどよい。反射率を上記範囲に調整することにより、光の乱反射(内面反射)によるフレア・ゴースト現象をさらに効果的に防止することができる。
【0059】
L値(黒色度)の上限値は、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下、である。L値の下限値は、特に限定されないが、外観のより黒々しさを求める観点から、低ければ低いほどよい。L値を上記範囲に調整することにより、黒色性が高く黒さを際立たせることが可能となる。
上記L値は、膜最表面の、SCE方式による、CIE 1976 L*a*b*(CIELAB) 表色系での明度L*値のことである。SCE方式とは、正反射光除去方式のことであり、正反射光を除去して色を測定する方法を意味する。SCE方式の定義は、JIS Z 8722(2009)に規定されている。SCE方式では、正反射光を除去して測定するため、実際の人の目で見た色に近い色となる。
CIEは、Commission Internationale de l’Eclairageの略称であり、国際照明委員会を意味する。CIELAB表示色は、知覚と装置の違いによる色差を測定するために、1976年に勧告され、JIS Z 8781(2013)に規定されている均等色空間である。CIELABの3つの座標は、L*値、a*値、b*値で示される。L*値は明度を示し、0~100で示される。L*値が0の場合は黒色を意味し、L*値が100の場合は白の拡散色を意味する。a*値は赤と緑の間の色を示す。a*値がマイナスであれば、緑寄りの色を意味し、プラスであれば赤寄りの色を意味する。b*値は黄色と青色の間の色を示す。b*値がマイナスであれば青寄りの色を意味し、プラスであれば、黄色寄りの色を意味する。
【0060】
光学濃度の下限値は、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、である。光学濃度を上記範囲に調整することにより、遮光性をさらに向上させることができる。光学濃度の上限値は、特に限定されず、高ければ高いほどよい。
【0061】
上記光沢度、反射率、L値、光学濃度は、後述の方法で測定することができる。
【0062】
上記特性(光沢度、反射率、L値、光学濃度)に加え、組成物から形成される膜は、さらに、該膜の被塗物表面への密着性が良好であることが好ましい。組成物から形成される膜の、被塗物表面への密着性は、後述の実施例における密着性評価で示すように、塗膜残存が75%以上、が好ましい。
【0063】
(Rz、Rsm、Rsk、Rku、Ra)
一形態に係る組成物から形成される膜は、膜最表面の、最大高さRzが7μm以上、輪郭曲線要素の長さの平均Rsmが80μm以上、輪郭曲線のスキューネスRskが0.3以下、輪郭曲線のクルトシスRkuが3以上、であることが好ましい。膜最表面の、Rz、Rsm、Rsk、及びRkuが上記範囲であることにより、膜最表面の、光沢度、光学濃度、反射率、L値、及び光学濃度を上記範囲(60°光沢度1%未満、85°光沢度5%未満、反射率4%以下、L値22以下、光学濃度1.0以上)にでき、その結果、膜最表面の、低光沢性、低反射率、高い黒色度、及び必要により高遮光性を実現することができる。
【0064】
Rzの下限値は、より好ましくは10μm以上、である。Rzの下限値を上記値とすることにより、さらに低光沢性、低反射率、及び高遮光性に調整しやすくなる。
Rzの上限値は特に限定されないが、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、である。Rzの上限値を上記値にすることにより、膜最表面のさらなる低光沢性、高遮光性、低反射率、及び高い黒色性を実現させやすい。
【0065】
Rsmは、基準長さに輪郭曲線要素の長さの平均を表したものである。Rsmの下限値は、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは120μm以上、である。Rsmの下限値を上記値とすることにより、さらに低光沢のメリットが得られやすい。Rsmの上限値は特に限定されないが、好ましくは160μm以下、である。上記範囲では、被塗物とその上に形成される膜との間でより優れた密着性が得られる。
【0066】
Rskは、二乗平均平方根高さ(Zq)の三乗によって無次元化した基準長さにおける高さZ(x)の三乗平均を表し、膜最表面凹凸形状の平均線に対する偏り、すなわちひずみ度を表わす指標である。Rskの値がプラス(Rsk>0)であれば、凹凸形状が凹側に偏って突形状が鋭くなり、マイナス(Rsk<0)であれば、凹凸形状が凸側に偏って突形状が鈍くなる傾向である。輪郭曲線の突形状が鈍い方が、鋭いものよりもヘイズは低くなる。
Rskの上限値は、より好ましくは0.2以下、である。Rskの上限値を上記値にすることにより、さらに低光沢のメリットが得られやすい。Rskの下限値は特に限定されないが、好ましくは0以上、である。Rskの下限値を上記値にすることにより、低光沢のメリットが得られやすい。
【0067】
Rkuは、二乗平均平方根高さ(Zq)の四乗によって無次元化した基準長さにおける高さZ(x)の四乗平均を表し、膜最表面凹凸先端の尖りの程度を示す指標である。Rkuが大きいほど、凹凸部の先端が尖っているものが多くなるので、凹凸の先端部近傍の傾斜角は大きくなるが、他の部分の傾斜角は小さくなり、背景の映り込みが生じやすくなる傾向がある。また、Rkuが小さいほど、凹凸部の先端が平坦となるものが多くなるので、凹凸の先端部の傾斜角は小さくなり、背景の映り込みが生じやすくなる傾向がある。
Rkuの下限値は、より好ましくは3.3以上、である。Rkuの下限値を上記値にすることにより、さらに低光沢のメリットが得られやすい。Rkuの上限値は特に限定されないが、好ましくは5以下、である。Rkuの上限値を上記値にすることにより、低光沢のメリットが得られやすい。
【0068】
一形態に係る組成物から形成される膜は、膜最表面の、算術平均粗さ(Ra)が、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上、である。
【0069】
なお、上述した膜最表面の、Rz、Rsm、Rsk、Rku、及びRaは、JIS B0601:2001に基づいて測定・算出することができる。
【0070】
(その他の実施形態)
上記の一形態における反射防止膜7は、基材61a,63a,65aの少なくとも1つの、少なくとも端面側に下処理なしに直接、又は下処理層を介して形成されることができるが、この態様に限定されない。例えば、極薄のプラスチックフィルム(PETフィルム等)上にスプレー塗装によって反射防止膜7を形成した反射防止膜用シートを準備し、そのシートを基材61a,63a,65aの少なくとも1つの、端面形状に合うようカットしてシート片を得た後、そのシート片を粘着層を介して基材61a,63a,65aの少なくとも1つの端面側に貼り付け、最終的に、反射防止膜7を形成する態様であってもよい。
【0071】
上記の一形態における反射防止膜7は、リング状遮光部材(上記の一形態では、スペーサー61,63,65の少なくとも1つ)に形成される場合に限らず、レンズユニット2の他の構成部材、例えばホルダー8の、例えば内壁(段差部81,83,85が設けられる側)に形成されていてもよい。
【実施例0072】
以下、本発明を実験例(実施例、及び比較例を含む)に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されない。以下の記載において、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示すものとする。
【0073】
[組成物の構成成分]
A(樹脂成分)として、以下のものを準備した。
・A1: 熱硬化性アクリル樹脂
(アクリディックA801、DIC社、固形分50%)
【0074】
B(凹凸形成粒子)に属するB1(小粒子)として、以下のものを準備した。
・B1a: カーボンブラック(CB)(粒子径150nm)
(MHIブラック_#273、御国色素社、CB含有量9.5%)
・B1b: 透明シリカ(粒子径58nm)
(ACEMATT R972、EVONIK社)
【0075】
Bに属するB2(大粒子)として、以下のものを準備した。
・B2a: 複合シリカ(粒子径3μm)
(ベクシアID、富士シリシア化学社)
・B2b: 黒色アクリルビーズ(粒子径3μm)
(ラブコロール224SMDブラック、大日精化工業社)
・B2c: 透明シリカ(粒子径4.1μm)
(サイリシア430、富士シリシア化学社)
・B2d: 透明シリカ(粒子径8μm)
(サイリシア450、富士シリシア化学社)
・B2e: 透明アクリルビーズ(粒子径3μm)
(ユニパウダーNMB-0320C、JX日鉱日石エネルギー社)
【0076】
なお、B2a(複合シリカ)に用いたベクシアIDは、CB/シリカ=約25/75(質量比)の、CBとシリカの複合粒子である。B1a(CB)に用いたMHIブラック_#273は、CB分散液であり、該分散液の固形分総量18%のうち9.5%がCB、残り8.5%がその他の化合物である。その他の化合物8.5%のうち3%が銅化合物、5.5%がアクリル樹脂である。
【0077】
D(任意成分)として、以下のものを準備した。
・D1: イソシアネート化合物
(タケネートD110N、三井化学社、固形分75%)
【0078】
[被塗物]
被塗物として、評価用サンプルの基板を準備した。評価用サンプルの基板として、黒色ポリカーボネート製のシート材を用い、厚さ(X)方向の板面を両面とも艶消し面に仕上げて作製した矩形のポリカーボネート製平板(縦100mm、横50mm、厚さ1.5mm)を用いた。
【0079】
[実験例1~17]
1.組成物の作製
表1に示す固形分比となるよう実験例ごとの各成分を、総固形分約25質量%となるよう、(C)希釈溶媒としての必要量の混合溶媒(メチルエチルケトン:酢酸ブチル=50:50)中に入れ、攪拌混合することにより液剤組成物(以下単に「液剤」ともいう。)を調製した。
【0080】
2.評価用サンプルの作製
各実験例で得られた液剤を、下記(3-1)塗装性と同様の手法によるスプレー塗装によって、被塗物の片面に向けて噴霧した後、120℃で3分間加熱乾燥することにより、被塗物の表面に、平均膜厚が20μmの、スプレー塗装による固形粒積層の加熱後塗膜(以下単に「塗膜」ともいう。)が形成された評価用サンプルを得た。
【0081】
3.評価
各実験例で得られた液剤について、下記に示す方法で各種特性(塗装性)を評価した(液剤評価)。また、各実験例で得られた評価用サンプルに形成された塗膜について、下記に示す方法で各種特性(特性、表面性状)を評価した(サンプル評価)。結果を表1に示す。
【0082】
[液剤評価]
(3-1)塗装性
液剤の塗装性は、スプレー塗装による塗装後の塗りムラを観察することにより評価した。
エアー缶(スプレーワークエアーカン420D:タミヤ社)にエアーブラシ(スプレーワークHGシングルエアーブラシ:タミヤ社)を取り付けたエアスプレーを準備し、これに各液剤を注入した。そして、エアーブラシ先端から10cmの距離から、10秒間、被塗物の外表面に向けて噴霧し、形成された固形粒積層物について、目視により塗りムラを評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0083】
〇:塗りムラ(厚みムラ)は確認されなかった
△:塗りムラが一部、確認された
×:塗りムラが多くの範囲に確認された
【0084】
[サンプル評価]
(3-2)特性
-光沢度-
各評価用サンプルに形成された塗膜表面の、入射角60°の測定光に対する光沢度(60°鏡面光沢度)と入射角85°の測定光に対する光沢度(85°鏡面光沢度)は、ともに、グロスメータ(VG 7000:日本電色工業社)を用い、JIS Z8741に準拠した方法で光沢度9点測定し、その平均値を光沢度とした。評価基準は、以下のとおりである。
【0085】
(60°鏡面光沢度)
◎:0.8%未満(非常に優れている)
〇:0.8%以上1%未満(優れている)
×:1%以上
【0086】
(85°鏡面光沢度)
◎:3.5%未満(非常に優れている)
〇:3.5%以上5%未満(優れている)
×:5%以上
【0087】
(光沢度の総合評価)
◎:60°鏡面光沢度と85°鏡面光沢度の各評価が全て◎(低光沢性が極めて良好)
〇:60°鏡面光沢度と85°鏡面光沢度の各評価の少なくとも1つが〇で、いずれも×でない(低光沢性が良好)
×:60°鏡面光沢度と85°鏡面光沢度の各評価の少なくとも1つが×(低光沢性が不十分)
【0088】
-反射率-
各評価用サンプルに形成された塗膜表面の、波長400nmから700nmまでの光に対する反射率を、分光測色計(CM-5:コニカミノルタ社)を用い、JIS Z8722に準拠した方法で、1nm間隔で9点測定し、その測定結果の平均値を反射率とした。評価基準は、以下のとおりである。
【0089】
◎:反射率が3%以下(低反射性が極めて良好)
〇:反射率が3%を超え4%以下(低反射性が良好)
×:反射率が4%超え(低反射性が不十分)
【0090】
-黒色度-
各評価用サンプルに形成された塗膜表面の黒色度は、該塗膜表面の、SCE方式による、CIE 1976 L*a*b*(CIELAB)表色系での明度L*値を測定することにより評価した。その明度L*値は、分光測色計(CM-5:コニカミノルタ社)を用い、JIS Z8781-4:2013に準拠した方法で測定した。評価基準は、以下のとおりである。
測定においては、光源としてCIE標準光源D65を用い、視野角度10°として、SCE方式によりCIELAB表示色でL*値を求めた。CIE標準光源D65は、JIS Z 8720(2000)「測色用イルミナイト(標準の光)及び標準光源」に規定されており、ISO 10526(2007)にも同じ規定がある。CIE標準光源D65は、昼光で照明される物体色を表示する場合に使用される。視野角度10°については、JIS Z 8723(2009)「表面色の視覚比較方法」に規定されており、ISO/DIS 3668にも同じ規定がある。
【0091】
◎:L値が20以下(黒色度が極めて高い)
〇:L値が20を超え22以下(黒色度が高い)
×:L値が22超え(黒色度が不十分)
【0092】
-遮光性-
各評価用サンプルに形成された塗膜の遮光性は、該塗膜の光学濃度を算出することにより評価した。各評価用サンプルに形成された塗膜の光学濃度は、光学濃度計(X-rite 361T(オルソフィルタ):日本平板機械社)を用い、サンプルの塗膜側に垂直透過光束を照射して、塗膜がない状態との比をlog(対数)で表して算出した。光学濃度6.0以上は測定の検出上限値である。評価基準は、以下のとおりである。
【0093】
◎:光学濃度が1.5以上(遮光性が極めて良好)
〇:光学濃度が1.0以上1.5未満(遮光性が良好)
×:光学濃度が1.0未満(遮光性が不十分)
【0094】
-密着性-
各評価用サンプルに形成された塗膜の被塗物表面への密着性は、該塗膜に市販のカッターナイフにて切り込みを碁盤目状に入れ、そこにセロハンテープ(セロテープ、ニチバン社)を貼り付けた後引き剥がし、塗膜の残存状態を目視にて確認することにより評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0095】
◎:塗膜残存が100%(密着性が極めて高い)
〇:塗膜残存が75%以上100%未満(密着性が高い)
×:塗膜残存が75%未満(密着性が不十分)
【0096】
-総合評価-
上記光沢度、反射率、黒色度、遮光性、及び密着性を総合評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0097】
◎:光沢度、反射率、黒色度、遮光性、及び密着性の各評価が全て◎
〇:光沢度、反射率、黒色度、遮光性、及び密着性の各評価のうち少なくとも1つが〇で、いずれも×でない
×:光沢度、反射率、黒色度、遮光性、及び密着性の各評価のうち少なくとも1つが×
【0098】
(3-3)表面性状
-Rz値、Rsm値、Rsk値、Rku値、Ra値-
各評価用サンプルに形成された塗膜表面の性状(Rz値、Rsm値、Rsk値、Rku値、Ra値)は、表面粗さ測定機(SURFCOM 480B:東京精密社)を用い、JIS B0601:2001に準拠した方法で測定した。評価基準は、以下のとおりである。
【0099】
(Rz)
◎:Rzが10μm以上(極めて良好)
〇:Rzが7μm以上10μm未満(良好)
×:Rzが7μm未満(不良)
【0100】
(Rsm)
◎:Rsmが120μm以上(極めて良好)
〇:Rsmが80μm以上120μm未満(良好)
×:Rsmが80μm未満(不良)
【0101】
(Rsk)
◎:Rskが0.2以下(極めて良好)
〇:Rskが0.2を超え0.3以下(良好)
×:Rskが0.3超え(不良)
【0102】
(Rku)
◎:Rkuが3.3以上(極めて良好)
〇:Rkuが3以上3.3未満(良好)
×:Rkuが3未満(不良)
【0103】
(Ra)
◎:Raが1.5μm以上(極めて良好)
〇:Raが0.5μm以上1.5μm未満(良好)
×:Raが0.5μm未満(不良)
【0104】
【0105】
4.考察
表1で示すように、膜形成用の液剤中に(B)として(B1)と(B2)の1つ以上を含めなかった場合(実験例6、7、9、11、12)、膜特性の、光沢度、反射率、L値、遮光性、密着性の1つ以上、を満足させることができなかった。一方、(B)として(B1)と(B2)の双方を液剤中に含めたとしても(実験例1~5、8、10)、(B1):1に対する(B2)の質量比が、1.8未満(実験例1)か、3.3超(実験例5)であると、膜特性の、L値、密着性の1つ以上、を満足させることができなかった。(B1)と(B2)の双方を含め、かつ(B1):1に対する(B2)の質量比範囲が適切(1.8以上3.3以下)であっても(実験例2~4、13~17)、全固形分100質量%中の(B)含有量(総量)が20質量%未満(実験例13)か、60質量%超(実験例17)であると、膜特性の、光沢度、反射率、L値、遮光性、密着性、の1つ以上を満足させることができなかった。
これに対し、(B1):1に対する(B2)の質量比範囲が1.8以上3.3以下であり、かつ組成物の全固形分総量100質量%に対する(B)の含有総量が20質量%以上60質量%以下であると(実験例2~4、8、10、14~16)、液剤の塗装性、並びに、膜特性、及び膜性状、のすべてを満足させることができた。