(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090054
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】電池システムおよび電池状態予測方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20230622BHJP
G01R 31/378 20190101ALI20230622BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20230622BHJP
G01R 31/396 20190101ALI20230622BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230622BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/378
G01R31/389
G01R31/396
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204791
(22)【出願日】2021-12-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム) 「人と知能機械との協奏メカニズム解明と協奏価値に基づく新しい社会システムを構築するための基盤技術の創出に関する学校法人早稲田大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願」
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】戸ヶ崎 徳大
(72)【発明者】
【氏名】横島 時彦
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA23
2G216BA29
2G216BA56
2G216BB07
2G216BB09
2G216CB05
2G216CB12
2G216CB13
2G216CB15
2G216CB34
2G216CD05
5G503AA01
5G503BA03
5G503BB02
5G503EA09
5H030AA10
5H030AS08
5H030AS11
5H030AS12
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】二次電池の充放電容量の異常減少の発生を予測する電池システム1を提供する。
【解決手段】
電池システム1は、第1の電池10の充放電回数をカウントするカウンタ35と、所定の充放電回数における前記第1の電池10の充放電容量および正極の電荷移動抵抗R
CT-Cを測定する測定回路33と、前記第1の電池10と同じ仕様の第2の電池の充放電容量の変化および正極の電荷移動抵抗R
CT-Cの変化を記憶するメモリ31と、前記第1の電池10の前記充放電容量が、前記第2の電池の前記充放電容量と略同じであり、かつ、前記第1の電池10の前記負極の電気二重層容量が、前記第2の電池の正極の電荷移動抵抗R
CT-Cの50%以上の場合に、警告信号を発生する信号発生回路36と、を具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電池の充放電回数をカウントするカウント手段と、
所定の充放電回数における前記第1の電池の充放電容量および正極の電荷移動抵抗を測定する測定手段と、
前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池の充放電サイクル試験における充放電容量の変化および正極の電荷移動抵抗の変化を記憶する記憶手段と、
前記第1の電池の前記充放電容量が、前記第2の電池の前記充放電容量と略同じであり、かつ、前記第1の電池の正極の電荷移動抵抗が、前記第2の電池の正極の電荷移動抵抗の50%以上の場合に、警告信号を発生する信号発生手段と、を具備することを特徴とする電池システム。
【請求項2】
前記第1の電池が、リチウム電池であることを特徴とする請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記第1の電池が、複数の電池セルが直列接続された組電池であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電池システム。
【請求項4】
充放電容量と充放電回数の平方根とが略直線関係にある第2の電池の充放電サイクル試験における充放電容量の変化および正極の電荷移動抵抗の変化を記憶する工程と、
前記第2の電池と同じ仕様の第1の電池の充放電サイクル試験における前記充放電容量の変化および正極の電荷移動抵抗を取得する工程と、
前記第1の電池の前記充放電容量が、前記第2の電池の前記充放電容量と略同じであり、かつ、前記第1の電池の正極の電荷移動抵抗が、前記第2の電池の正極の電荷移動抵抗の50%以上の場合に、警告信号を発生する工程と、を具備することを特徴とする電池状態予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二次電池の劣化を予測する電池システム、および、二次電池の劣化を予測する電池状態予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、電動工具および電気自動車等に二次電池が用いられている。二次電池の中でリチウムイオン電池は、リチウムのイオン化傾向が大きいことから、高電圧、高出力、高エネルギー密度である。リチウムイオン電池は、定置用電源および非常用電源などの大型電源への応用も期待されている。
【0003】
二次電池の特性を測定する方法として、交流インピーダンス測定法が知られている。特開2009-97878号公報には、交流インピーダンス法によって取得した電池のコールコールプロットを、等価回路モデルを用いて解析する測定方法が開示されている。
【0004】
特開2021-77516号公報には、負極のキャパシタンスの異常減少から、電池の劣化を予測する電池システムが開示されている。
【0005】
電池は、負荷の仕様の電圧となるように、複数の電池(電池セル)が直列接続された組電池として使用される。電池の充放電容量は充放電の繰り返しによって徐々に減少する。組電池に含まれている複数の電池は同じ仕様にもとづき製造され同じ条件で使用される。
【0006】
しかし、組電池には、他の複数の電池よりも充放電容量の減少速度が速い電池が含まれることがある。充放電容量が異なる電池が含まれていると、組電池の性能は加速度的に劣化する。もちろん、単電池であっても、充放電容量が異常減少すると、所望の動作を実行できなくなる。このため、組電池だけでなく、単電池(単セル電池)においても、充放電容量の異常減少を予測することが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-77516号公報
【特許文献2】特開2021-77516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、二次電池の充放電容量の異常減少の発生を予測する電池システム、および、二次電池の充放電容量の異常減少の発生を予測する電池状態予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態の電池システムは、第1の電池の充放電回数をカウントするカウント手段と、所定の充放電回数における前記第1の電池の充放電容量および正極の電荷移動抵抗を測定する測定手段と、前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池の充放電サイクル試験における充放電容量の変化および正極の電荷移動抵抗の変化を記憶する記憶手段と、前記第1の電池の前記充放電容量が、前記第2の電池の前記充放電容量と略同じであり、かつ、前記第1の電池の正極の電荷移動抵抗が、前記第2の電池の正極の電荷移動抵抗の50%以上の場合に、警告信号を発生する信号発生手段と、を具備する。
【0010】
別の実施形態の電池状態予測方法は、充放電容量と充放電回数の平方根とが略直線関係にある第2の電池の充放電サイクル試験における充放電容量の変化および正極の電荷移動抵抗の変化を記憶する工程と、前記第2の電池と同じ仕様の第1の電池の充放電サイクル試験における前記充放電容量の変化および正極の電荷移動抵抗を取得する工程と、前記第1の電池の前記充放電容量が、前記第2の電池の前記充放電容量と略同じであり、かつ、前記第1の電池の正極の電荷移動抵抗が、前記第2の電池の正極の電荷移動抵抗の50%以上の場合に、警告信号を発生する工程と、を具備する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、二次電池の充放電容量の異常減少の発生を予測する電池システム、および、二次電池の充放電容量の異常減少の発生を予測する電池状態予測方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】二次電池のコールコールプロットの一例である。
【
図4】二次電池の充放電回数に対する充放電容量の変化を示すグラフである。
【
図5】二次電池の充放電回数に対する正極の電荷移動抵抗の変化を示すグラフである。
【
図6】実施形態の予測方法を説明するためのフローチャートである。
【
図7】実施形態の変形例の電池システムの構成図である。
【
図8】二次電池の充放電回数に対する負極の電気二重層容量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<電池システムの構成>
図1に示すように、実施形態の電池システム1は、第1の電池10と、CPU30と、電源40と、を具備する。第1の電池10および電源40は図示しない負荷(モーター等)と接続されている。
【0014】
第1の電池10は、例えば、リチウムイオンを吸蔵/放出する正極と、電解質と、セパレータと、リチウムイオンを吸蔵/放出する負極と、からなる単位セルを有するリチウムイオン二次電池である。正極はニッケル酸化物、コバルト酸化物等の遷移金属酸化物を含有している。負極は例えば炭素材料を含有している。セパレータは例えばポリオレフィンからなる。電解質は例えばLiPF6を環状および鎖状カーボネートに溶解した電解質である。第1の電池10は、多孔質等からなるセパレータの内部に電解質が充填された構造であってもよい。
【0015】
電源40は、第1の電池10に測定信号を印加する。CPU30は、記憶手段であるメモリ31と、コントローラ32と、測定手段である測定回路33と、演算手段である演算回路34と、カウント手段であるカウンタ35と、信号発生手段である信号発生回路36と、を含む。メモリ31は、電池システム1の制御データを記憶している。カウンタ35は充放電回数をカウントし記憶する。制御データは、後述する第2の電池(不図示)のデータを含んでいる。
【0016】
第2の電池は、第1の電池10と同じ仕様であり、充放電サイクル試験において充放電容量が異常減少しない電池である。
【0017】
制御手段であるコントローラ32は、電池システム1の全体を制御する。測定回路33は所定の充放電回数毎に、充放電容量および第1の電池10の複素インピーダンスを測定する。演算回路34は複素インピーダンスをもとに、等価回路モデルを用いて正極の電荷移動抵抗を算出する。コントローラ32はメモリ31に記憶されている第2の電池のデータと、演算回路34の算出結果と、をもとに、警告信号を発生する。
【0018】
なお、メモリ31と、コントローラ32と、測定回路33と、演算回路34と、カウンタ35と、信号発生回路36と、は独立した回路でもよいし、これらは、プログラムにもとづきCPU30が行う機能でもよい。電池システム1が別体の他のシステムの一部として使用されている場合等において、他のシステムのCPUを、CPU30として用いてもよい。他のシステムは、複数の電池システム1が共通に用いるクラウドシステムでもよい。
【0019】
後述するように、電池システム1のメモリ31に記憶されている第2の電池のデータは、所定の充放電回数における充放電容量と正極の電荷移動抵抗と、を含む。第2の電池のデータは、複数の電池システム1の共通データであり、それぞれの電池システム1を製造する前に取得される。第2の電池のデータを用いて、複数の電池システム1のそれぞれの第1の電池10の充放電容量の異常減少の発生が予測される。
【0020】
それぞれの電池システム1は、第2の電池のデータを取得する機能を有している必要は無い。
【0021】
電池システム1では、測定回路33が測定した複素インピーダンスと、メモリ31が記憶している第2の電池のデータとから、第1の電池10の充放電容量の異常減少の発生をCPU30が予測する。
【0022】
後述するように、電池システム1は、第2の電池のデータを用いることによって、第1の電池10の充放電容量の異常減少の発生を予測できる。
【0023】
<電池システムの動作>
最初に、電池の交流インピーダンス法について説明する。交流インピーダンス法では、電池に対し直流電圧に微小な交流電圧を重畳させた電圧を印加し、応答特性から複素インピーダンスを測定する。交流インピーダンス測定法は、印加する交流電圧が小さいので、測定対象の二次電池の状態を変化させることなく複素インピーダンスを測定できる。
【0024】
直流電圧成分は、測定する電池の電圧程度に設定される。また、重畳する交流電圧成分は、電池の特性に影響を与えない程度の電圧に設定される。なお重畳する交流電圧成分は、電池の特性に影響を与えない程度の電圧に設定される交流電流を用いても良い。
【0025】
交流インピーダンス測定法では、交流電圧の周波数を高い周波数から低い周波数へ掃引し、所定の周波数間隔で、各周波数における電池の複素インピーダンスを測定する。
【0026】
なお、以下、コールコールプロットを作成するための交流インピーダンス測定は以下の条件にて行った。
【0027】
周波数測定範囲:10kHz~10mHz
電圧振幅:10mV
温度:25℃
【0028】
測定された複素インピーダンスの周波数特性は、実数軸を抵抗成分、虚数軸をリアクタンス成分(容量成分)とする複素平面図に表すことができる。
図2に示すように、測定周波数を高周波から低周波に変化させていくと、時計回りに半円含むインピーダンスの軌跡であるコールコールプロットが得られる。
【0029】
コールコールプロットをもとに電池の特性を解析するためには、等価回路モデルをもとにしたフィッティング処理が行われる。
【0030】
等価回路モデルでは、電池内部の対向する電極(正極、負極)での電気化学反応の進行が考慮される。そして、反応場とインピーダンス測定システムとの間のインダクタンス成分等が考慮される。
【0031】
図3に等価回路モデルを示す。
L:測定配線等のインダクタンス
R
I:測定配線等の抵抗
R
S:溶液抵抗
R
F:負極上の皮膜抵抗
CPE
F:負極上の皮膜のキャパシタンス
R
CT-A:負極の電荷移動抵抗
CPE
A:負極のキャパシタンス
R
CT-C:正極の電荷移動抵抗
C
CT-C:正極のキャパシタンス
CPE
D:拡散インピーダンス
【0032】
そして、シミュレータに等価回路モデルと各パラメータの初期値を入力し、計算により求められたコールコールプロットが測定データに一致するように各パラメータを調整しながら繰り返し計算するフィッティング処理が行われる。
【0033】
図4に、組電池に含まれる複数の第1の電池10のうちの電池Aと電池Bとの、充放電回数に対する充放電容量の変化を示す。電池Aでは、充放電回数の増加にともない充放電容量が徐々に減少している。
【0034】
これに対して、電池Bでは、充放電回数850回までは電池Aと略同じように充放電容量が徐々に減少しているが、充放電回数850回超では充放電容量が急激に減少している。この減少は、充放電回数850回未満の充放電容量と充放電回数の関係式よりも小さくなっている異常減少である。
【0035】
これに対して、
図5は、充放電回数に対する電池Aと電池Bとの正極の電荷移動抵抗R
CT-Cの変化を示す。電池Aの正極の電荷移動抵抗R
CT-Cに対して、電池Bの正極の電荷移動抵抗R
CT-Cトは大きい。
【0036】
すなわち、正極の電荷移動抵抗RCT-Cは、充放電容量が異常減少する充放電回数よりも少ない充放電回数において大きく増加している。正極の電荷移動抵抗RCT-Cは、200回以下の充放電回数において既に大きく増加している。
【0037】
このため、電池システム1では、正極の電荷移動抵抗RCT-Cを取得することによって、充放電容量が実際に減少する前に、充放電容量の異常減少の発生が予測できる。
【0038】
後述するように、第1の電池10の充放電容量が、第2の電池の充放電容量と略同じであり、かつ、第1の電池10の正極の電荷移動抵抗RCT-Cが、第2の電池の正極の電荷移動抵抗RCT-Cの50%以上の場合、第1の電池10の充放電容量の異常減少が発生することを予測できる。なお、第1の電池10の充放電容量が、第2の電池の充放電容量と略同じとは、第1の電池10の充放電容量が、第2の電池の充放電容量の75%以上125%以下であることを意味する。
【0039】
<電池システムの動作>
図6のフローチャートにそって、電池システムの電池状態予測方法について説明する。
【0040】
<ステップS10>第2の電池の測定
ステップS10では、第1の電池10と同じ仕様の第2の電池(不図示)の充放電サイクル試験が行われて、充放電容量および複素インピーダンスが、メモリ31に記憶されている所定回数の充放電毎に測定される。
【0041】
例えば、複素インピーダンス測定のための交流正弦波信号が充電中または放電中の電池に電源から印加される。測定回路33によって充電容量および放電容量の両方が測定され、2つの容量を平均化することによって充放電容量が取得される。なお、充電容量と放電容量とは略同じであるため、充電容量または放電容量のいずれかを測定して、その容量を充放電容量として用いてもよい。
【0042】
測定頻度は、特に限定されるものではなく、例えば、10回以上100回以下の充放電毎に測定が行われる。
【0043】
<ステップS20>第2の電池の特性算出
ステップS20では、複素インピーダンスを用いて、等価回路モデルをもとにしたフィッティング処理が行われ、正極の電荷移動抵抗RCT-Cが算出される。測定温度は、電池が劣化しない温度範囲、例えば、-20℃以上60℃以下の任意の温度である。本実施形態では第1の電池10の測定温度と略同じ25℃である。
【0044】
なお、この段階では、どの電池が、充放電容量が異常減少するかを予測することはできない。このため、複数の電池を測定し、充放電容量が異常減少しなかった電池を第2の電池とする。
【0045】
<ステップS30>第2の電池の特性記憶
測定条件、測定頻度、充放電回数毎の充放電容量、および、充放電回数毎の正極の電荷移動抵抗RCT-Cを含む第2の電池のデータが、電池システム1のメモリ31に記憶される。
【0046】
複数の第2の電池のデータが平均化されて、平均化されたデータが電池システム1に用いられても良い。
【0047】
<ステップS40>第1の電池の充放電
コントローラ32の制御によって、第1の電池10の充放電が行われる。すなわち、第1の電池10が放電することによって負荷に電力が供給される。第1の電池10に充電された電気量が所定以下(例えば、所定電圧以下)になると、第1の電池10に電力が供給され充電が行われる。そして、充放電回数が、カウンタ35に記憶される。
【0048】
<ステップS50>充放電回数?
カウンタ35に記憶された充放電回数がメモリ31に記憶されている所定の充放電回数になった場合(YES)には、ステップS60に移行する。充放電回数が所定の充放電回数未満の場合には、ステップS40から充放電が行われる。
【0049】
<ステップS60>第1の電池の測定
コントローラ32の制御によって、電源40がメモリ31に記憶されている条件の測定信号を第1の電池10に印加し、第1の電池10の複素インピーダンスが測定回路33によって測定される。さらに、測定回路33は、電流の時間積分値である充放電容量を測定し、メモリ31に記憶する。
【0050】
<ステップS70>第1の電池の特性算出
測定された複素インピーダンスから演算回路34によって、等価回路モデルをもとにしたフィッティング処理が行われ、第1の電池10の正極の電荷移動抵抗RCT-Cが算出される。
【0051】
<ステップS80>異常値?
コントローラ32は、第1の電池10の正極の電荷移動抵抗RCT-Cが、メモリ31に記憶されている同じ充放電回数の第2の電池の正極の電荷移動抵抗RCT-Cの50%未満だった場合(NO)には第1の電池10は正常であると判断し、ステップS40に移行し、充放電が続けられる。
【0052】
これに対して、第1の電池10が第2の電池と充放電容量が略同じであるが、第1の電池10の正極の電荷移動抵抗RCT-Cが、メモリ31に記憶されている第2の電池の正極の電荷移動抵抗RCT-Cの50%以上だった場合(YES)、コントローラ32は、第1の電池10は充放電容量が急激に減少する前兆現象であると推定し、処理はステップS90に移行する。
【0053】
<ステップS90>警告信号発生
信号発生回路36が、警告信号を発生する。警告信号によって告知手段であるランプ(不図示)等が点灯する。このため、警告信号によって、第1の電池10の充放電容量が近い将来、急激に減少することが使用者等に伝達される。このため、実際に第1の電池10の充放電容量が減少する前に、別の電池に交換することができる。
【0054】
なお、ステップS90に移行する判断基準となる第1の電池10の正極の電荷移動抵抗RCT-Cの第2の電池の正極の電荷移動抵抗RCT-Cに対する比率は、電池システム1によって増減するが、間違った予測が行われにくいように、20%以上がより好ましく、30%以上が特に好ましい。
【0055】
すでに説明したように、ステップS10~ステップS30は、電池システム1の製造工程で行われる複数の電池システム1の共通工程である。さらに、ステップS60~S90が第1の電池10の工場等で行われる定期検査工程の場合には、CPU30および電源40等も、複数の第1の電池10の共通構成であり、検査後に良品と予測された第1の電池10が再使用される。
【0056】
以上の説明のように、本実施形態の電池状態予測方法によれば、二次電池の充放電容量の異常減少の発生を予測できる。
【0057】
なお、第1の電池10は、リチウムイオン電池に限られるものではなく、例えばリチウムポリマー電池、または、リチウム硫黄電池でもよい。また、第1の電池10は、電解質が固体電解質である全固体電池でもよい。また、第1の電池10は、隣り合う電池(セル)が、正極と負極とが共通の集電体を有するバイポーラ電池でもよい。また、第1の電池10は、電解質が固体電解質であるバイポーラ全固体電池でもよい。
【0058】
なぜ正極の電荷移動抵抗RCT-Cが、充放電容量の異常減少の予測に用いることができるのかは残念ながら不明である。しかし、少なくとも、正極の電荷移動抵抗RCT-Cが大きいと、その後、充放電容量が異常減少することは確認されている。
【0059】
<第1実施形態の変形例>
第1実施形態の変形例の電池システム1Aおよび電池状態予測方法は、第1実施形態電池システム1および電池状態予測方法と類似し同じ効果を有しているので、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0060】
図6に示すように、電池システム1Aは、複数の電池10Aが直列接続された組電池20を具備する。
【0061】
電池システム1Aでは、複数の電池10Aのそれぞれが、電池システム1の第1の電池10に相当する。すなわち、
図6に示したフローチャートのステップS60~S80が、複数の電池10に対して行われる。
【0062】
なお、組電池20を電池システム1の第1の電池10に相当すると見なしてもよい。すなわち、組電池によっては、複数の電池10Aに評価のための電線を接続できない構造である。隣り合う電池(セル)が、正極と負極とが共通の集電体を有するバイポーラ電池の場合もある。
【0063】
組電池20に印可される測定信号の振幅は、組電池20に含まれる第1の電池10Aの数に応じて設定される。例えば、第1の電池10が20個の第1の電池10Aを含む場合には、第1の電池10の測定信号の振幅は、第2の電池の測定信号の20倍とする。
【0064】
ここで、組電池20の正極の電荷移動抵抗RCT-Cは、直列接続されているk個(kは整数)の第1の電池10Aの正極の電荷移動抵抗RCT-Cの合成抵抗となる。このため、組電池20では検出される正極の電荷移動抵抗RCT-Cの増加量が、単電池の増加量よりも小さくなる。しかし、充放電容量が異常減少する電池の正極の電荷移動抵抗RCT-Cが、正常電池(第2の電池)の正極の電荷移動抵抗RCT-Cの50%以上であれば、いずれかの電池の充放電容量が異常減少することを予測することができる。
【0065】
<付記事項>
図8は、二次電池の充放電回数に対する負極の電気二重層容量(キャパシタンス)CPE
Aの変化を示すグラフである。発明者らは、すでに、負極の電気二重層容量CPE
Aが異常減少した場合に、充放電容量が異常減少することを予測することができることを報告している。
【0066】
しかし、今回の電池Bでは、負極の電気二重層容量CPEAの異常減少は確認されない。これは、電池Bの初期特性が異なるためである。電池Bの初期特性、例えば、充電容量が大幅に設計値よりも小さい場合(例えば、75%未満)には、負極の表面に、正極に含まれている遷移金属の析出が発生する。このため、負極の電気二重層容量CPEAが大きく減少する。
【0067】
しかし、今回の電池Bでは、電池Bの初期特性、例えば、充電容量が設計値よりも少し小さい程度(例えば、80%以上)であったため、負極の電気二重層容量CPEAの異常減少は発生しなかった。しかし、かかる電池であっても、正極の電荷移動抵抗RCT-Cによって充放電容量が異常減少することを予測することができる。
【0068】
本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変、例えば、実施形態の構成要素の組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0069】
1、1A…電池システム
10、10A…第1の電池
20…組電池
31…メモリ
32…コントローラ
33…測定回路
34…演算回路
35…カウンタ
36…信号発生回路
40…電源