(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090061
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20230622BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230622BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20230622BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20230622BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20230622BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230622BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20230622BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20230622BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230622BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C11/00 B
B60C1/00 A
B60C9/00 B
B60C9/08 Z
B60C9/22 C
B60C9/22 D
C08L21/00
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/04
C08K3/36
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204804
(22)【出願日】2021-12-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 誠人
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 紗葵子
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA04
3D131AA33
3D131AA44
3D131BA01
3D131BA02
3D131BA07
3D131BA08
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC13
3D131BC31
3D131BC36
3D131BC44
3D131DA07
3D131DA54
3D131DA56
3D131EA02U
4J002AC001
4J002AC011
4J002AC032
4J002AC061
4J002DA036
4J002DJ017
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD140
4J002FD150
4J002GN01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】PET繊維コードをベルトカバー層に用いてロードノイズを低減するにあたって、高速操縦安定性、低転がり抵抗性、および高速耐久性すべてを高度に満たした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部1がキャップトレッド層11とアンダートレッド層12とで構成され、ベルト補強層8を、100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び率が2.0~4.0%であるポリエチレンテレフタレート繊維コードで構成し、アンダートレッド層を、ゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が70m
2/g未満のカーボンブラック35~60質量部と、CTAB吸着比表面積が180m
2/g未満のシリカ3~30質量部とが配合され、20℃における硬度が60~65、100℃における100%伸長時の引張応力が2.0~4.0MPa、100℃における引張強さと破断伸びとの積が2000以上であるゴム組成物で構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架された1層のカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルト補強層とを有し、前記トレッド部が、前記ベルト補強層の外周側に配置されたアンダートレッド層と、前記アンダートレッド層の外周側に配置されて前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッド層との2層で構成された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト補強層を構成するカバーコードが、100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び率が2.0%~4.0%であるポリエチレンテレフタレート繊維コードからなり、
前記アンダートレッド層を構成するアンダートレッドゴム組成物は、20℃における硬度が60~65、100℃における100%伸長時の引張応力(M100)が2.0MPa~4.0MPa、100℃における引張強さTB〔単位:MPa〕と100℃における破断伸びEB〔単位:%〕との積(TB×EB)が2000以上であり、
前記アンダートレッドゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が70m2/g未満のカーボンブラック35質量部~60質量部と、CTAB吸着比表面積が180m2/g未満のシリカ3質量部~30質量部とが配合されたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ゴム成分がイソプレン系ゴム60質量%以上とブタジエンゴム10質量%~40質量%とを含み、前記ブタジエンゴムは、シス-1,4結合含有量が97%以上、100℃でのムーニー粘度(ML1+4)が42以上、且つ、該ムーニー粘度に対する25℃での5質量%トルエン溶液粘度(T-cp)〔単位:cps〕の比である(T-cp)/(ML1+4)が2.0~3.0であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記カバーコードのタイヤ内におけるコード張力が0.9cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記カーカス層を構成するカーカスコードは、前記ベルト層の内周側における1.5cN/dtex負荷時の伸び率が5.5%~8.5%、破断伸びが20%~30%である有機繊維コードからなり、且つ、前記カーカスコード1本あたりの正量繊度D〔単位:dtex/本〕と、前記カーカスコードの延長方向と直交する方向50mm当たりの前記カーカスコードの打ち込み本数Ec〔単位:本/50mm〕との積A=D×Ecが1.8×105dtex/50mm~3.0×105dtex/50mmの関係を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維コードをベルトカバー層に用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車用または小型トラック用の空気入りタイヤは、一般的に、一対のビード部間にカーカス層が装架され、トレッド部におけるカーカス層の外周側に複数層のベルト層が配置され、ベルト層の外周側にタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回された複数本の有機繊維コードを含むベルトカバー層が配置された構造を有する。この構造において、ベルトカバー層は高速耐久性の改善に寄与すると共に、中周波ロードノイズの低減にも寄与する。
【0003】
従来、ベルトカバー層に使用される有機繊維コードはナイロン繊維コードが主流であるが、ナイロン繊維コードに比べて高弾性であり、かつ安価なポリエチレンテレフタレート繊維コード(以下、PET繊維コードと言う)を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、PET繊維コードは、従来のナイロン繊維コードと比べると高弾性で伸びにくい性質があるので、トレッド部の剛性が高くなり、トレッド部とサイドウォール部の剛性のバランスが悪くなり、高速走行時の操縦安定性が低下する傾向があるという問題があった。また、PET繊維コードは、従来のナイロン繊維コードと比べると発熱しやすい傾向があり、転がり抵抗の低減や高速耐久性の向上が難しいという問題があった。そのため、PET繊維コードを用いてロードノイズの低減を図るにあたって、高速操縦安定性、低転がり抵抗性、高速耐久性を向上する対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、PET繊維コードをベルトカバー層に用いてロードノイズを低減するにあたって、高速操縦安定性、低転がり抵抗性、および高速耐久性を向上し、これら性能を高度に両立することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架された1層のカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルト補強層とを有し、前記トレッド部が、前記ベルト補強層の外周側に配置されたアンダートレッド層と、前記アンダートレッド層の外周側に配置されて前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッド層との2層で構成された空気入りタイヤにおいて、前記ベルト補強層を構成するカバーコードが、100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び率が2.0%~4.0%であるポリエチレンテレフタレート繊維コードからなり、前記アンダートレッド層を構成するアンダートレッドゴム組成物は、20℃における硬度が60~65、100℃における100%伸長時の引張応力(M100)が2.0MPa~4.0MPa、100℃における引張強さTB〔単位:MPa〕と100℃における破断伸びEB〔単位:%〕との積(TB×EB)が2000以上であり、前記アンダートレッドゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が70m2/g未満のカーボンブラック35質量部~60質量部と、CTAB吸着比表面積が180m2/g未満のシリカ3質量部~30質量部とが配合されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明者は、PET繊維コードからなるカバーコ―ドで構成されたベルト補強層を備えた空気入りタイヤについて鋭意研究した結果、PET繊維コードのディップ処理を適正化し、100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び率を所定の範囲に設定することにより、ベルトカバー層として好適なコードの耐疲労性とタガ効果が得られることを知見し、本発明に至った。即ち、本発明では、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードとして、100℃での2.0cN/dtex負荷時の伸び率が2.0%~4.0%の範囲にあるPET繊維コードを使用することにより、空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。更に、このようなベルトカバー層を用いるにあたって、アンダートレッド層を上述の物性および配合からなるアンダートレッドゴム組成物で構成しているので、良好な高速操縦安定性、低転がり抵抗性、および高速耐久性を確保することができる。特に、アンダートレッドの硬度や引張応力(M100)を上述の範囲に設定しているので、高速耐久性および高速操縦安定性を向上することができる。また、引張強さTBと破断伸びEBとの積(TB×EB)を上述のように設定することでも、高速耐久性の改善を見込むことができる。このような物性は、上述のカーボンブラックやシリカによって確実かつ効率的に確保することができる。これらの協働により、ロードノイズの低減と、高速操縦安定性、低転がり抵抗性、および高速耐久性の改善とをバランスよく高度に両立することができる。
【0008】
尚、カバーコードの「100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び率」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施して測定される試料コード(カバーコ―ド)の2.0cN/dtex負荷時に測定される伸び率(%)である。
【0009】
アンダートレッドゴム組成物について、「硬度」は、JIS K6253に準拠して、デュロメータのタイプAにより温度20℃で測定したゴム組成物の硬度である。「100℃における100%伸長時の引張応力(M100)」は、JIS K6251に準拠して3号型ダンベル試験片を用い、引張速度500mm/分、温度100℃の条件で測定した値である。「100℃における引張強さTB」は、JIS K6251に準拠して、温度100℃の条件で測定した値〔単位:MPa〕である。「100℃における破断伸びEB」は、JIS K6251に準拠して、温度100℃の条件で測定した値〔単位:%〕である。
【0010】
本発明においては、ゴム成分がイソプレン系ゴム60質量%以上とブタジエンゴム10質量%~40質量%とを含み、ブタジエンゴムは、シス-1,4結合含有量が97%以上、100℃でのムーニー粘度(ML1+4)が42以上、且つ、該ムーニー粘度に対する25℃での5質量%トルエン溶液粘度(T-cp)〔単位:cps〕の比である(T-cp)/(ML1+4)が2.0~3.0であることが好ましい。これにより、アンダートレッドゴム組成物の物性が良好になるので、高速操縦安定性、低転がり抵抗性、および高速耐久性を改善するには有利になる。
【0011】
本発明においては、カバーコードのタイヤ内におけるコード張力が0.9cN/dtex以上であることが好ましい。これにより、発熱を抑制してタイヤの耐久性を向上するには有利になる。尚、「タイヤ内におけるコード張力」は、タイヤからベルト補強層を露出させ、ベルト補強層の所定の長さ範囲からカバーコードを引き剥がし、その採取後の長さを測定し、採取前の長さに対する収縮量(最外周側のベルト層のセンター部に位置する5本の繊維コードの平均値)を求め、その収縮量(%)に対応する荷重をS-S曲線から求め、1dtex当たりの値に換算することにより求めた値である。
【0012】
本発明においては、カーカス層を構成するカーカスコードは、ベルト層の内周側における1.5cN/dtex負荷時の伸び率が5.5%~8.5%、破断伸びが20%~30%である有機繊維コードからなり、且つ、カーカスコード1本あたりの正量繊度D〔単位:dtex/本〕と、カーカスコードの延長方向と直交する方向50mm当たりのカーカスコードの打ち込み本数Ec〔単位:本/50mm〕との積A=D×Ecが1.8×105dtex/50mm~3.0×105dtex/50mmの関係を満たすことが好ましい。これにより、高速耐久性と高速操縦安定性を向上するには有利になる。
【0013】
尚、カーカスコードについて、「破断伸び」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施して測定される試料コード(カーカスコード)の破断時の伸び率(%)である。「ベルト層の内周側における1.5cN/dtex負荷時の伸び率」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施して測定される試料コード(ベルト層の内周側から取り出したカーカスコード)の1.5cN/dtex負荷時に測定される伸び率(%)である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0017】
左右一対のビード部3間にはタイヤ径方向に延びる複数本の補強コード(以下、カーカスコードという)を含む少なくとも1層のカーカス層4が装架されている。各ビード部には、ビードコア5が埋設されており、そのビードコア5の外周上に断面略三角形状のビードフィラー6が配置されている。カーカス層4は、ビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。これにより、ビードコア5およびビードフィラー6はカーカス層4の本体部(トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る部分)と折り返し部(各ビード部3においてビードコア5の廻りに折り返されて各サイドウォール部2側に向かって延在する部分)とにより包み込まれている。
【0018】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コード(以下、ベルトコードという)を含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。
【0019】
更に、ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上とロードノイズの低減を目的として、ベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する補強コード(以下、カバーコードという)を含む。カバーコードとしては、ポリエチレンテレフタレート繊維コード(PET繊維コード)が使用される。ベルト補強層8において、カバーコードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。ベルト補強層8としては、ベルト層7の幅方向の全域を覆うフルカバー層8aや、ベルト層7のタイヤ幅方向の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層8bをそれぞれ単独で、またはこれらを組み合わせて設けることができる(図示の例では、フルカバー層8aおよびエッジカバー層8bの両方が設けられている)。ベルト補強層8は、少なくとも1本のカバーコードを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成するとよく、特にジョイントレス構造とすることが望ましい。
【0020】
トレッド部1において、上述のタイヤ構成部材(カーカス層4、ベルト層7、ベルト補強層8)の外周側にはトレッドゴム層11が配置される。特に、本発明では、トレッドゴム層10は、物性の異なる2種類のゴム(踏面に露出するキャップトレッド層11と、その内周側に配置されるアンダートレッド層12)がタイヤ径方向に積層した構造を有する。サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層20が配置され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層30が配置されている。
【0021】
本発明は、主として、上述のカーカス層4およびベルト補強層8や、各層を構成するコード(カーカスコード、カバーコード)、トレッドゴム層11(特にアンダートレッド層12)に関するものであるので、その他のタイヤの基本的な構造は上述のものに限定されない。
【0022】
本発明において、カーカス層4を構成するカーカスコードは、有機繊維のフィラメント束を撚り合わせた有機繊維コードで構成される。本発明で使用されるカーカスコードは、ベルト層7の内周側における1.5cN/dtex負荷時の伸び率と、破断伸びとがそれぞれ特定の範囲に設定されることが好ましい。また、カーカス層4を構成するにあたって、カーカスコード1本あたりの正量繊度D〔単位:dtex/本〕とカーカスコードの延長方向と直交する方向50mm当たりのカーカスコードの打ち込み本数Ec〔単位:本/50mm〕との積A=D×Ecが後述の特定の範囲に設定されることが好ましい。具体的には、本発明のカーカスコードのベルト層7の内周側における1.5cN/dtex負荷時の伸び率は好ましくは5.5%~8.5%、より好ましくは6.0%~7.0%であるとよい。また、本発明のカーカスコードの破断伸びは好ましくは20%~30%、より好ましくは22%~28%であるとよい。更に、前述の積A=D×Ecは好ましくは1.8×105dtex/50mm~3.0×105dtex/50mm、より好ましくは2.2×105dtex/50mm~2.7×105dtex/50mmに設定されているとよい。このような物性を有するカーカスコード(カーカス層4)を用いると、以下に述べるように、高速耐久性、高速操縦安定性をバランスよく高度に両立することができる。
【0023】
カーカスコードのベルト層7の内周側における1.5cN/dtex負荷時の伸び率が上述の範囲に設定されることで、ベルト層7と重複する領域におけるカーカス層4の剛性が適度に低くなり、走行時に接地面積を十分に確保することが可能になるので、操縦安定性を良好にすることができる。カーカスコードのベルト層7の内周側における1.5cN/dtex負荷時の伸び率が5.5%未満であると、カーカスコードの疲労性が悪化し、高速耐久性が低下する。カーカスコードのベルト層7の内周側における1.5cN/dtex負荷時の伸び率が8.5%を超えると、高速走行時のせり上がりが増大し、高速耐久性が低下する。
【0024】
カーカスコードの破断伸びが上述の範囲に設定されることで、カーカスコードの剛性を適度に確保することができ、良好な操縦安定性を発揮することができる。カーカスコードの破断伸びが20%未満であると、操縦安定性を向上する効果を十分に得ることができない。カーカスコードの破断伸びが30%を超えると、中間伸度も大きくなる傾向があるため、剛性が低下して操縦安定性が低下する虞がある。
【0025】
上述の積A=D×Ecは、カーカス層4における単位幅当たりのカーカスコードの繊度に相当するので、これが上述の範囲を満たすことで、高速耐久性と高速操縦安定性とをバランスよく確保することができる。積Aが1.8×105dtex/50mm未満であると、カーカス層4においてカーカスコードの糸量を十分に確保できず、高速操縦安定性が低下する。積Aが3.0×105dtex/50mmを超えると、カーカス層4の発熱が増大して高速耐久性が低下する。また、カーカス層4におけるカーカスコードの間隔が狭まるため、この点からも耐久性を維持することが難しくなる。尚、上述の正量繊度Dおよび打ち込み本数Ecの個々の範囲は、積Aが上述の範囲を満たしていれば特に限定されない。
【0026】
カーカスコードは、熱収縮率が好ましくは0.5%~2.5%、より好ましくは1.0%~2.0であるとよい。尚、「熱収縮率」とは、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、試料長さ500mm、加熱条件150℃×30分の条件にて加熱したときに測定される試料コードの乾熱収縮率(%)である。このような熱収縮率のカーカスコードを用いることで、加硫時にカーカスコード(有機繊維コード)にキンク(捩じれ、折れ、よれ、形くずれ等)が発生して耐久性が低下することや、ユニフォミティの低下を抑制することができる。このとき、カーカスコードの熱収縮率が0.5%未満であると、加硫時にキンクが発生しやすくなり、耐久性を良好に維持することが難しくなる。カーカスコードの熱収縮率が2.5%を超えると、ユニフォミティが悪化する虞がある。
【0027】
更に、カーカスコードは、下記式(1)で表される撚り係数Kが好ましくは2000~2500、より好ましくは2100~2400であるとよい。尚、この撚り係数Kは、ディップ処理後のカーカスコードの数値である。このような撚り係数Kを有するコードを用いることで、コード疲労性を良好にして優れた耐久性を確保することができる。このとき、カーカスコードの撚り係数Kが2000未満であると、コード疲労性が低下し、耐久性を確保することが難しくなる。カーカスコードの撚り係数Kが2500を超えると、カーカスコードの生産性が悪化する。
K=T×D1/2 ・・・(1)
(式中、Tはカーカスコードの上撚り数〔単位:回/10cm〕であり、Dはカーカスコードの総繊度〔単位:dtex〕である。)
【0028】
カーカスコード(有機繊維コード)を構成する有機繊維の種類は特に限定されないが、例えばポリエステル繊維、ナイロン繊維、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、レーヨンなどを用いることができ、なかでもポリエステル繊維を好適に用いることができる。また、ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN繊維)、ポリブチレンテレフタレート繊維(PBT)、ポリブチレンナフタレート繊維(PBN)を例示することができ、PET繊維を好適に用いることができる。いずれの繊維を用いた場合も、各繊維の物性によって、高速耐久性と操縦安定性とをバランスよく高度に両立するには有利になる。特に、PET繊維の場合は、PET繊維が安価であることから、空気入りタイヤの低コスト化を図ることができる。また、コードを製造する際の作業性を高めることもできる。
【0029】
ベルト補強層8を構成するカバーコードは、前述のようにポリエチレンテレフタレート繊維コード(PET繊維コード)が使用されるが、その100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸びは2.0%~4.0%、好ましくは2.5%~3.5%であるとよい。このような物性のカバーコ―ドを使用することで、高速走行時のベルト層7のせり上がりを効果的に抑制することができ、高速耐久性を向上するには有利になる。また、中周波ロードノイズを効果的に低減することができる。カバーコ―ドの100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%未満であると、コードの耐疲労性が低下してタイヤの耐久性が低下する虞がある。カバーコ―ドの100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸びが4.0%を超えると、高速走行時のベルト層7のせり上がりを十分に抑制できず、高速耐久性を十分に確保することができない。また、前述の中周波ロードノイズを低減する効果も十分に得られなくなる。
【0030】
更に、ベルト補強層8を構成するカバーコードは、タイヤ内におけるコード張力が好ましくは0.9cN/dtex以上、より好ましくは1.5cN/dtex~2.0cN/dtexであるとよい。このようにタイヤ内におけるコード張力を設定することで、発熱を抑制し、タイヤ耐久性を向上することができる。カバーコ―ドのタイヤ内におけるコード張力が0.9cN/dtex未満であると、tanδのピークが上昇してしまい、タイヤの耐久性を向上する効果が充分に得られない。
【0031】
カバーコードは、100℃における熱収縮応力が好ましくは0.6cN/tex以上であるとよい。このように100℃における熱収縮応力を設定することで、空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。カバーコードの100℃における熱収縮応力が0.6cN/texよりも小さいと走行時のタガ効果を充分に向上することができず、高速耐久性を十分に維持することが難しくなる。カバーコードの100℃における熱収縮応力の上限値は特に限定されないが、例えば2.0cN/texにするとよい。尚、本発明において、100℃での熱収縮応力(cN/tex)は、JIS‐L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、試料長さ500mm、加熱条件100℃×5分の条件にて加熱したときに測定される試料コード(カバーコード)の熱収縮応力である。
【0032】
上述のような物性を有するカバーコ―ド(PET繊維コード)を得るためには、例えばディップ処理を適正化すると良い。つまり、PET繊維コードの製造時には、カレンダー工程に先駆けて、接着剤のディップ処理が行われるが、2浴処理後のノルマライズ工程において、雰囲気温度を210℃~250℃の範囲内に設定し、コード張力を2.2×10-2N/tex~6.7×10-2N/texの範囲に設定することが好ましい。これにより、PET繊維コードに上述のような所望の物性を付与することができる。ノルマライズ工程におけるコード張力が2.2×10-2N/texよりも小さいとコード弾性率が低くなり、中周波ロードノイズを十分に低減することができず、逆に6.7×10-2N/texよりも大きいとコード弾性率が高くなり、コードの耐疲労性が低下する。
【0033】
アンダートレッド層12を構成するアンダートレッドゴム組成物としては、20℃における硬度、100℃における100%伸長時の引張応力(M100)、100℃における引張強さTB〔単位:MPa〕と100℃における破断伸びEB〔単位:%〕との積(TB×EB)がそれぞれ特定の範囲に設定されたゴムが使用される。具体的には、20℃における硬度は60~65、好ましくは61~64である。100℃における100%伸長時の引張応力(M100)は2.0MPa~4.0MPa、好ましくは2.2MPa~3.8MPaである。100℃における引張強さTB〔単位:MPa〕と100℃における破断伸びEB〔単位:%〕との積(TB×EB)は2000以上、好ましくは2200~5500である。このような物性を有するアンダートレッドゴム組成物を用いているので、以下に述べるように、高速耐久性および高速操縦安定性をバランスよく高度に両立することができる。
【0034】
アンダートレッドゴム組成物の硬度が上述の範囲に設定されることで、操縦安定性と高速耐久性を両立するには有利になる。アンダートレッドゴム組成物の硬度が60未満であると、タイヤにした時の操縦安定性が悪化する。アンダートレッドゴム組成物の硬度が65を超えると、高速耐久性を確保することができない。。
【0035】
アンダートレッドゴム組成物の引張応力(M100)が上述の範囲に設定されることで、操縦安定性と高速耐久性を両立するには有利になる。アンダートレッドゴム組成物の引張応力(M100)が2.0MPa未満であると、タイヤにした時の操縦安定性が悪化する。アンダートレッドゴム組成物の引張応力(M100)が4.0MPaを超えると、高速耐久性を確保することができない。
【0036】
アンダートレッドゴム組成物の引張強さTBと破断伸びEBとの積(TB×EB)を上述のように設定することでも、高速耐久性を改善することができる。積(TB×EB)が2000未満であると、高速耐久性を十分に確保することはできない。尚、アンダートレッドゴム組成物の引張強さTBと破断伸びEBの個々の値は特に限定されないが、アンダートレッドゴム組成物の引張強さTBは、例えば8.0MPa~13.0MPaに設定することができ、アンダートレッドゴムの破断伸びEBは200%~400%に設定することができる。尚、本段落におけるアンダートレッドゴム組成物の引張強さTBおよび破断伸びEBは、上述の説明と同様に100℃における引張強さTB〔単位:MPa〕および100℃における破断伸びEB〔単位:%〕を指す。
【0037】
アンダートレッドゴム組成物は、上述の物性に加えて、更に60℃における損失正接(tanδ(60℃))が、好ましくは0.07以下、より好ましくは0.02~0.06であるとよい。このようにtanδ(60℃)を設定することで、転がり抵抗を低減しながら、タイヤにした時の操縦安定性や耐久性を向上するには有利になる。tanδ(60℃)が0.07を超えると、転がり抵抗を十分に低減することが難しくなる。
【0038】
上述の物性を有するアンダートレッドゴム組成物は、その配合を例えば以下のように設定することで得ることができる。尚、上述の物性は、以下の配合のみで決定されるものではなく、例えば混練条件や混練方法によっても調整可能である。
【0039】
上述のアンダートレッドゴム組成物(以下、本発明のゴム組成物という場合がある)において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、イソプレン系ゴムとブタジエンゴムを含むとよい。イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム(合成ポリイソプレンゴム)を挙げることができる。イソプレン系ゴムとしては、天然ゴムを単独で用いるか、天然ゴムおよびイソプレンゴムを併用することが好ましい。本発明のゴム組成物は、任意で、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴム以外の他のジエン系ゴムを含有してもよい。他のジエン系ゴムとしては、例えば、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム等が挙げられる。これらジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。
【0040】
イソプレン系ゴムを配合することで、タイヤ用ゴム組成物として充分なゴム強度を得ることができる。ゴム成分全体を100質量%としたとき、イソプレン系ゴムの配合量は好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%~85質量%である。尚、イソプレン系ゴムの配合量は、天然ゴムを単独で用いる場合は天然ゴムの配合量、天然ゴムとイソプレンゴムを併用する場合はこれらの合計を意味する。イソプレン系ゴムの配合量が60質量%未満であるとゴム強度を十分に確保することができない。
【0041】
ゴム成分全体を100質量%としたとき、ブタジエンゴムの配合量は好ましくは10質量%~40質量%、より好ましくは15質量%~35質量%である。ブタジエンゴムの配合量が10質量%未満であると粘度が上昇し、押出加工性が低下する。ブタジエンゴムの配合量が60質量%を超えると押出物のタックが低下し、成型性が悪化する
【0042】
ブタジエンゴムは、シス-1,4結合含有量、100℃でのムーニー粘度(ML1+4)、および、該ムーニー粘度に対する25℃での5質量%トルエン溶液粘度(T-cp)〔単位:cps〕の比である(T-cp)/(ML1+4)がそれぞれ後述の特定の範囲を満たすブタジエンゴム(以下、特定BRという)を用いるとよい。このような特定BRを用いることで、上述の物性を確保するには有利になる。
【0043】
特定BRのシス-1,4結合含有量は好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上であるとよい。これによりこれにより発熱を低減することができる。シス-1,4結合含有量が97%未満であると発熱が上昇する。シス-1,4結合含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することができる。
【0044】
特定BRの100℃でのムーニー粘度(ML1+4)は好ましくは42以上、より好ましくは50以上70以下であるとよい。これにより硬度と低燃費性の両立が可能となる。100℃でのムーニー粘度(ML1+4)が42未満であると破断強度が低下する。ムーニー粘度は、JIS 6300‐1に準拠して、L型ローターを用いて測定することができる。
【0045】
特定BRの前記(T-cp)/(ML1+4)は好ましくは2.0~3.0、より好ましくは2.2~2.5、さらに好ましくは2.3~2.5であるとよい。前記(T-cp)/(ML1+4)は、BRのポリマー鎖の分岐度の指標になるものであり、この値が大きいほど分岐度が小さい、即ち、リニアリティが高いことを意味する。この値が2.0未満では、低発熱性、硬度、耐摩滅性および耐セット性をいずれも改善することができない。この値が3.0を超えると押出時の加工性が悪化する。トルエン溶液粘度(T-cp)は、試料ゴムをトルエンに5質量%溶液として溶解し、その溶液の25℃での粘度をキャノンフェンスケ型動粘度計により測定して得ることができる。
【0046】
上述のアンダートレッドゴム組成物には、充填剤としてカーボンブラックが配合される。カーボンブラックを配合することでゴム組成物の強度を高めることができる。特に、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が70m2/g未満、好ましくは30m2/g~50m2/gであるとよい。このように粒径が大きいカーボンブラックを用いることで、発熱性を低く維持しながら、ゴム硬度を効果的に高めることができる。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が70m2/g以上であると発熱性が悪化する。尚、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積は、ISO 5794に準拠して測定するものとする。
【0047】
カーボンブラックの配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは35質量部~60質量部、より好ましくは35質量部~55質量部、更に好ましくは35質量部~50質量部であるとよい。カーボンブラックの配合量が35質量部未満であると硬度が低下する。カーボンブラックの配合量が60質量部を超えると、発熱性が悪化する。
【0048】
上述のアンダートレッドゴム組成物には、充填剤としてシリカが配合される。カーボンブラックの他にシリカを配合することで、発熱性を低く抑えながらゴム組成物の強度を高めることができる。特に、シリカのCTAB吸着比表面積が180m2/g未満、好ましくは90m2/g~180m2/g、より好ましくは160m2/g~180m2/gである。このように粒径が大きいシリカを用いることで、発熱性を低く維持しながら、ゴム硬度を効果的に高めることができる。シリカのCTAB吸着比表面積が180m2/g以上であると発熱性が悪化する。尚、シリカのCTAB吸着比表面積は、ISO 5794に準拠して測定するものとする。
【0049】
シリカの配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、3質量部~30質量部、好ましくは4質量部~28質量部、より好ましくは4質量部~25質量部である。シリカの配合量が3質量部未満であると、シリカが微量すぎるためシリカに起因する効果が十分に見込めなくなる。シリカの配合量が30質量部を超えると、発熱性が悪化する。
【0050】
上記のようにカーボンブラックとシリカを併用するにあたって、充填材の総配合量(カーボンブラックとシリカの合計量)は好ましくは75質量部以下、より好ましくは40質量部~60質量部にするとよい。このように充填材の総配合量を低く抑えることで、発熱性を向上するには有利になる。充填材の総配合量が75質量部を超えると発熱性が悪化する虞がある。更に、カーボンブラックに対するシリカの質量比率を好ましくは0.03~0.7、より好ましくは0.08~0.6に設定するとよい。このように質量比率を設定することで、カーボンブラックとシリカのバランスが良好になり、発熱性を低く維持しながら、ゴム硬度を向上するには有利になる。この質量比率が上記範囲から外れると、発熱性を低く維持しながらゴム硬度を高める効果が得られない。特に、シリカの質量比率が過多であると発熱性が悪化する虞がある。
【0051】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックおよびシリカ以外の他の無機充填剤を含んでいてもよい。他の無機充填剤としては、例えば、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられる材料を例示することができる。
【0052】
上述のシリカを配合するにあたって、シランカップリング剤を併用してもよい。シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を向上することができる。シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカの重量に対し、好ましくは15質量%以下、より好ましくは3質量%~12質量%にするとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の15質量%を超えるとシランカップリング剤同士が縮合し、ゴム組成物における所望の硬度や強度を得ることができない。
【0053】
アンダートレッドゴム組成物には、更に老化防止剤、特にアミン系老化防止剤を配合することが好ましい。老化防止剤の配合量(質量)は、ゴム成分100質量部に対して好ましくは1.0質量部~3.5質量部、より好ましくは1.5質量部~3.0質量部であるとよい。これにより、上述の性能に加えて、耐グルーブクラック性やベルト層に対する耐水接着性を改善する効果を見込むことができる。老化防止剤の配合量が1.0質量部未満であると、耐クラック性や加工性を向上する効果が見込めなくなり、特に耐クラック性が低下する。老化防止剤の配合量が3.5質量部を超えると経時変化後のベルトの接着性が悪化する。
【0054】
アミン系老化防止剤としては、N-フェニルN’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、アルキル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N-フェニル-N’-(3-メタクロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体等を例示することができ、特に、N-フェニルN’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンを好適に用いることができる。
【0055】
アンダートレッドゴム組成物には、更に硫黄を配合することが好ましい。硫黄の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは3.0質量部~6.0質量部、より好ましくは3.5質量部~5.5質量部配合されているとよい。尚、硫黄の配合量はオイル分を除いた純硫黄量である。このように硫黄を配合することで、加硫後のゴム物性を良好にすることができる。硫黄の配合量が3.0質量部よりも少ないと所望の硬さが得られない虞がある。硫黄の配合量が6.0質量部よりも多いと耐疲労性が悪化する虞がある。
【0056】
アンダートレッドゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、アミン系およびアミン-ケトン系以外の老化防止剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など、一般的に空気入りタイヤに使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。また混練機としは、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
【0057】
本発明の空気入りタイヤは、PET繊維コードをベルトカバー層に用いてロードノイズを低減するに際して、上述の各部材の物性の協働によって、高速操縦安定性、低転がり抵抗性、および高速耐久性を向上し、これら性能を高度に両立することができる。尚、本発明の効果を得るうえで、少なくとも満足すべき事項は、カバーコードの物性(100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び率)と、アンダートレッドゴム組成物の物性(20℃における硬度、100℃における100%伸長時の引張応力(M100)、100℃における引張強さTB〔単位:MPa〕と100℃における破断伸びEB〔単位:%〕との積(TB×EB))と、アンダートレッドゴム組成物の配合(カーボンブラックの配合量およびCTAB吸着比表面積、シリカの配合量およびCTAB吸着比表面積)であるので、それ以外の各種物性や配合については、適宜組み合わせて採用することができる。
【0058】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0059】
タイヤサイズが245/40R18であり、
図1に示す基本構造を有し、アンダートレッド層(アンダートレッドゴム組成物の配合および物性)とベルト補強層(カバーコ―ドの材質、繊度、100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び率(表中の「中間伸度」)、タイヤ内におけるコード張力)とが表1~3のように設定された標準例1、比較例1~8、実施例1~9のタイヤを製造した。
【0060】
尚、各例では、表1~3に示すように、アンダートレッドゴム組成物の物性として、硬度、100℃における100%伸長時の引張応力(以下、「M100」)、100℃における引張強さTB(以下、「TB」)、100℃における破断伸びEB(以下、「EB」)、積TB×EBを設定した。「硬度」は、JIS K6253に準拠して、デュロメータのタイプAにより温度20℃で測定した。「M100」は、JIS K6251に準拠して3号型ダンベル試験片を用い、引張速度500mm/分、温度100℃の条件で測定した〔単位:MPa〕。「TB」は、JIS K6251に準拠して、温度100℃の条件で測定した〔単位:MPa〕。「EB」は、JIS K6251に準拠して、温度100℃の条件で測定した〔単位:%〕。
【0061】
表1~3において、カバーコードを構成する有機繊維コードがポリエチレンテレフタレートからなる場合を「PET」、ナイロン66からなる場合を「N66」と示した。いずれの例においても、ベルト補強層は、1本のカバーコード(ナイロン繊維コードまたはPET繊維コード)をコートゴムで被覆してなるストリップをタイヤ周方向に螺旋状に巻回したジョイントレス構造を有している。ストリップにおけるコード打ち込み密度は50本/50mmである。
【0062】
各例において、カバーコ―ド(有機繊維コード)の「100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び率」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて測定した〔単位:%〕。「タイヤ内におけるコード張力」は、タイヤからベルト補強層を露出させ、ベルト補強層の所定の長さ範囲からカバーコードを引き剥がし、その採取後の長さを測定し、採取前の長さに対する収縮量(最外周側のベルト層のセンター部に位置する5本の繊維コードの平均値)を求め、その収縮量(%)に対応する荷重をS-S曲線から求め、1dtex当たりの値に換算することにより求めた。
【0063】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、高速操縦安定性、ロードノイズ、低転がり抵抗性、高速耐久性、ベルトエッジセパ耐久性を評価し、その結果を表1~2に併せて示した。
【0064】
操縦安定性
各試験タイヤを、リムサイズ18×7Jのホイールに組み付け、空気圧を230kPaとし、排気量2.5Lの試験車両(前輪駆動車)に装着し、2名が乗車した状態で乾燥路面からなるテストコースにて、テストドライバーによる操縦安定性の官能評価を行った。評価結果は、標準例1を「3(基準)」とする5点法にて評価し、この点数が大きいほど操縦安定性に優れることを意味する。
【0065】
ロードノイズ
各試験タイヤを、リムサイズ18×7Jのホイールに組み付け、空気圧を230kPaとし、排気量2.5Lの試験車両(前輪駆動車)に装着し、車室内の運転席側の窓に集音マイクを設置し、訓練されたドライバーにより速度50km/hの条件でロードノイズ測定用路面を走行した。集音されたロードノイズを周波数分析し、中周波ロードノイズの代表値として315Hzの騒音レベル〔単位:db〕を評価した。評価結果は、標準例1の測定値に対する変化量〔単位:db〕で示した。尚、騒音レベルが減少した場合は負の値で示した。
【0066】
低転がり抵抗性
各試験タイヤを18×7Jのホイールに組み付けて、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)を用いて、ISO28580に準拠し、空気圧210kPa、荷重4.82kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定した。評価結果は、標準例1の測定値を100とする指数で示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が低く、低転がり抵抗性に優れることを意味する。
【0067】
高速耐久性
各試験タイヤをリムサイズリムサイズ18×7Jのホイールに組み付け、試験内圧を230kPaとし、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)に取り付けて、JIS D4230に規定される高速耐久性試験を実施した後、引き続き1時間毎に8km/hずつ速度を増加させ、タイヤに故障が生じるまでの走行距離を測定した。評価結果は、標準例1を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、故障が生じるまでの走行距離が大きく、高速耐久性が優れていることを意味する。
【0068】
ベルトエッジセパ耐久性
各試験タイヤをリムサイズリムサイズ18×7Jのホイールに組み付け、内圧350kPaで酸素を封入した状態で温度80℃の条件下で5日間保管した。このように前処理が行われた各試験タイヤを、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)に取り付けて、周辺温度を38±3℃、荷重をJATMA最大荷重の88%とし、走行速度を120km/hから24時間毎に10km/hずつ加速し、タイヤに故障(ベルトエッジセパレーション)が生じるまでの走行速度を計測した。評価結果は、走行距離の測定値を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど故障が生じるまでの走行距離が大きく、ベルトエッジセパ耐久性が優れていることを意味する。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
表1~3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20
・BR1:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol BR1220(シス-1,4結合含有率:98%、100℃におけるムーニー粘度ML1+4:43、25℃における5質量%トルエン溶液粘度Tcp:60.2cps、比Tcp/ML1+4:1.4)
・BR2:末端変性ブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol BR1250H(シス-1,4結合含有率:35%、100℃におけるムーニー粘度ML1+4:59)
・BR3:ブタジエンゴム、宇部興産社製 UBEPOL BR230(シス-1,4結合含有率:98%、100℃におけるムーニー粘度ML1+4:38、25℃における5質量%トルエン溶液粘度Tcp:117.8cps、比Tcp/ML1+4:3.1)
・BR4:ブタジエンゴム、宇部興産社製 UBEPOL BR150L(シス-1,4結合含有率:98%、100℃におけるムーニー粘度ML1+4:43、25℃における5質量%トルエン溶液粘度Tcp:120.4cps、比Tcp/ML1+4:2.8)
・BR5:ブタジエンゴム、宇部興産社製 UBEPOL BR360L(シス-1,4結合含有率:98%、100℃におけるムーニー粘度ML1+4:47、25℃における5質量%トルエン溶液粘度Tcp:131.6cps、比Tcp/ML1+4:2.8)
・IR:イソプレンゴム、日本ゼオン社製 Nipol IR2200
・CB1:カーボンブラック、東海カーボン社製 シースト3(CTAB吸着比表面積:82m2 /g)
・CB2:カーボンブラック、東海カーボン社製 シーストF(CTAB吸着比表面積:47m2 /g)
・シリカ1:Evonick Japan社製 Ultrasil VN3(CTAB吸着比表面積:175m2/g)
・シリカ2:Solvay Japan社製 Zeosil premium 200MP(CTAB吸着比表面積:200m2/g)
・シランカップリング剤:Evonick Japan社製 Si69
・タッキファイヤー:日立化成社製 ヒタノール1502Z
・酸化亜鉛:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・老化防止剤:アミン系老化防止剤、フレキシス社製 サントフレックス6PPD
・ステアリン酸:親日理化社製 ステアリン酸50S
・硫黄:不溶性硫黄、四国化成工業社製 ミュークロンOT‐20(硫黄含有量:80質量%)
・加硫促進剤:三新化学工業社製 NS‐G
【0073】
表1~3から判るように、実施例1~9のタイヤは、標準例1との対比において、ロードノイズを低減しながら、高速操縦安定性、低転がり抵抗性、高速耐久性、ベルトエッジセパ耐久性を向上し、これら性能を高度に両立した。一方、比較例1は、アンダートレッドゴム組成物の100℃における100%伸長時の引張応力(M100)が小さく、ベルト補強層を構成するカバーコードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び率が小さいため、高速操縦安定性を向上することができず、また低転がり抵抗性、高速耐久性、およびベルトエッジセパ耐久性が悪化した。比較例2は、アンダートレッドゴム組成物の100℃における100%伸長時の引張応力(M100)が小さく、ベルト補強層を構成するカバーコードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の伸び率が大きいため、高速操縦安定性を向上することができず、また低転がり抵抗性、高速耐久性、およびベルトエッジセパ耐久性が悪化した。比較例3は、アンダートレッドゴム組成物の100℃における100%伸長時の引張応力(M100)が小さいため、高速操縦安定性を向上することができず、また低転がり抵抗性およびベルトエッジセパ耐久性が悪化した。比較例4は、アンダートレッドゴム組成物に含まれるシリカのCTAB吸着比表面積が大きいため、転がり抵抗を低減することができなかった。比較例5は、アンダートレッドゴム組成物に含まれるカーボンブラックの配合量が少なく、アンダートレッドゴム組成物の硬度が小さいため、高速操縦安定性が低下した。比較例6は、アンダートレッドゴム組成物に含まれるカーボンブラックの配合量が多く、アンダートレッドゴム組成物の硬度および100℃における100%伸長時の引張応力(M100)が大きいため、転がり抵抗を低減することができず、また高速耐久性およびベルトエッジセパ耐久性が低下した。比較例7は、アンダートレッドゴム組成物に含まれるカーボンブラックの配合量が多く、アンダートレッドゴム組成物の硬度および100℃における100%伸長時の引張応力(M100)が大きく、積TB×EBが小さいため、転がり抵抗を低減することができず、また高速耐久性およびベルトエッジセパ耐久性が低下した。比較例8は、アンダートレッドゴム組成物に含まれるカーボンブラックのCTAB吸着比表面積が大きいため転がり抵抗が悪化し、また高速耐久性およびベルトエッジセパ耐久性を改善する効果が得られなかった。